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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C01B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C01B |
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管理番号 | 1337031 |
異議申立番号 | 異議2017-700332 |
総通号数 | 219 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-03-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-04-04 |
確定日 | 2018-01-05 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6033396号発明「メソ孔の多い粒状活性炭およびその製造方法、並びに粒状やし殻活性炭およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6033396号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕、〔3、4〕について訂正することを認める。 特許第6033396号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1.手続の経緯 特許第6033396号は、平成26年2月14日(優先権主張 平成25年2月20日 日本)を国際出願日とする特願2015-501433号について、平成28年11月4日に設定登録がされ、その後、その請求項1?4に係る特許に対し、特許異議申立人 谷口 真魚により特許異議の申立てがなされ、平成29年8月17日付けで本件特許の請求項1,2,4に係る特許に対する取消理由が通知され、平成29年10月20日付けで特許権者より意見書の提出及び訂正の請求がなされ、平成29年11月30日付けで特許異議申立人より意見書の提出がなされたものである。 第2.訂正の請求 1.訂正の内容 平成29年10月20日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、次の訂正事項1?5よりなる。 (ア)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「下記(1)?(3)の要件を備えた、粒状活性炭;(1)強熱残分が2質量分率%以下、(2)硬さが60質量分率%以上、および(3)メソ孔容積が0.5mL/g以上である。」とあるのを「下記(1)?(3)の要件を備えた、粒状やし殻活性炭;(1)強熱残分が2質量分率%以下、(2)硬さが60質量分率%以上、および(3)直径2?30nmのメソ孔容積が0.5mL/g以上である。」に訂正する。 (イ)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に「下記(A)?(C)の工程を含む、請求項1に記載の粒状活性炭の製造方法;(A)賦活処理された活性炭とカルシウム成分とを接触させる工程、(B)工程(A)で得られた活性炭に、賦活処理を行う工程、および(C)工程(B)で得られた活性炭を鉱酸で洗浄する工程。」とあるのを「下記(A)?(C)の工程 (A)賦活処理された活性炭とカルシウム成分とを接触させる工程、(B)工程(A)で得られた活性炭に、賦活処理を行う工程、および(C)工程(B)で得られた活性炭を鉱酸で洗浄する工程、を含み、活性炭原料がやし殻であり、前記カルシウム成分が塩化カルシウム及び水酸化カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、前記接触により得られた活性炭に占めるカルシウム成分の含有量がカルシウム換算で0.5?2wt%である、請求項1に記載の粒状やし殻活性炭の製造方法。」に訂正する。 (ウ)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に「下記(A)?(D)の工程を含む、請求項1に記載の粒状活性炭の製造方法;(A)活性炭原料に、炭化処理を施した後、粉砕する工程、(B)工程(A)で得られた活性炭と、カルシウム成分とを混合し、成型する工程、(C)工程(B)で得られた活性炭に、炭化処理および賦活処理を行う工程、(D)工程(C)で得られた活性炭を鉱酸で洗浄する工程。」とあるのを「下記(A)?(D)の工程 (A)活性炭原料に、炭化処理を施した後、粉砕する工程、(B)工程(A)で得られた活性炭と、カルシウム成分とを混合し、成型する工程、(C)工程(B)で得られた活性炭に、炭化処理および賦活処理を行う工程、(D)工程(C)で得られた活性炭を鉱酸で洗浄する工程を含む粒状活性炭の製造方法であり、前記粒状活性炭が下記(1)?(3)の要件(1)強熱残分が2質量分率%以下、(2)硬さが60質量分率%以上、および(3)メソ孔容積が0.5mL/g以上である、を備える、粒状活性炭の製造方法。」に訂正する。 (エ)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4に「請求項2又は3に記載の」とあるのを、「請求項3に記載の」に訂正する。 (オ)訂正事項5 訂正前の明細書の【発明の名称】に記載された「メソ孔の多い粒状活性炭およびその製造方法」との記載を、「メソ孔の多い粒状活性炭およびその製造方法、並びに粒状やし殻活性炭およびその製造方法」に訂正する。 2.訂正の適否 (ア)訂正事項1について 訂正事項1は、請求項1において、「粒状活性炭」が「やし殻」を原料由来とするものであることを特定し限定するものであるとともに、請求項1において、「メソ孔容積」における「メソ孔」が「直径2?30nm」であることを特定し、限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、当該訂正事項1において限定した事項は、願書に添付した明細書の段落【0027】、【0038】等の記載に基づくものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、当該訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (イ)訂正事項2について 訂正事項2は、請求項2において訂正前に特定されていない「活性炭原料」、「カルシウム成分の種類」及び「接触により得られた活性炭に占めるカルシウム成分の含有量」について、「粒状活性炭」が「やし殻」であり、「カルシウム成分」が「塩化カルシウム及び水酸化カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種」であり、「接触により得られた活性炭に占めるカルシウム成分の含有量」が「カルシウム換算で0.5?2wt%」であることを特定し、限定するものである。 そして、訂正後の請求項2は、訂正後の請求項1の記載を引用することにより、訂正後の請求項2に係る発明をより具体的に特定し、さらに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、当該訂正事項2において限定した事項は、願書に添付した明細書の段落【0038】、【0046】?【0048】等の記載に基づくものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、当該訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (ウ)訂正事項3について 訂正事項3は、訂正前の請求項3の記載が訂正前の請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるための訂正であって、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。 また、当該訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (エ)訂正事項4について 訂正事項4は、訂正前の請求項4が請求項2又は3を引用する形式であったところ、請求項2を引用しないものとするための訂正であるから、訂正事項4は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、当該訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (オ)訂正事項5について 訂正事項5は、訂正後の特許請求の範囲の記載に整合させるべく、発明の名称を訂正したものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに相当する。 また、当該訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 3.一群の請求項について 訂正前の請求項1?4について、請求項2?3はそれぞれ請求項1を引用し、請求項4は請求項2又は3を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。 したがって、訂正前の請求項1?4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 ただし、訂正後の請求項3,4は、引用関係の解消を目的とする訂正であって、請求項1,2とは別途訂正することを求めるものである。 そして、訂正事項5に係る明細書の訂正は、これら一群の請求項の全てについて請求するものである。 4.むすび 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とし、同条第4項及び第9項の規定によって準用する第126条第4項乃至第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1、2〕、〔3、4〕について訂正を認める。 第3.本件発明 上記「第2.」のとおり、本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1?4に係る発明(以下、請求項の項番にしたがって、「本件発明1」などといい、全体をまとめて「本件発明」という。)は、平成29年10月20日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される、以下のものであると認められる。 「【請求項1】 下記(1)?(3)の要件を備えた、粒状やし殻活性炭; (1)強熱残分が2質量分率%以下、 (2)硬さが60質量分率%以上、および (3)直径2?30nmのメソ孔容積が0.5mL/g以上である。 【請求項2】 下記(A)?(C)の工程、 (A)賦活処理された活性炭とカルシウム成分とを接触させる工程、 (B)工程(A)で得られた活性炭に、賦活処理を行う工程、および (C)工程(B)で得られた活性炭を鉱酸で洗浄する工程、 を含み、 活性炭原料がやし殻であり、 前記カルシウム成分が塩化カルシウム及び水酸化カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、 前記接触により得られた活性炭に占めるカルシウム成分の含有量がカルシウム換算で0.5?2wt%である、請求項1に記載の粒状やし殻活性炭の製造方法。 【請求項3】 下記(A)?(D)の工程、 (A)活性炭原料に、炭化処理を施した後、粉砕する工程、 (B)工程(A)で得られた活性炭と、カルシウム成分とを混合し、成型する工程、 (C)工程(B)で得られた活性炭に、炭化処理および賦活処理を行う工程、 (D)工程(C)で得られた活性炭を鉱酸で洗浄する工程 を含む粒状活性炭の製造方法であり、 前記粒状活性炭が下記(1)?(3)の要件 (1)強熱残分が2質量分率%以下、 (2)硬さが60質量分率%以上、および (3)メソ孔容積が0.5mL/g以上である、 を備える、粒状活性炭の製造方法。 【請求項4】 活性炭原料がやし殻である、請求項3に記載の製造方法。」 第4.取消理由についての当審の判断 1.取消理由の概要 特許異議申立人は、証拠として下記甲第1?5号証(以下、「甲1」、「甲2」等という。)を提出し、本件訂正前の請求項1?4に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである旨、主張している。 これに対し、当審にて本件訂正前の請求項1?4に係る特許に対して平成29年8月17日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。 1)本件訂正前の請求項1,2,4に係る発明は、本件特許の出願前に発行された下記甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 2)本件訂正前の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に発行された下記甲3に記載された発明及び甲3?5の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 甲1:特表2012-520230号公報 甲2:特開平9-187648号公報 甲3:特表2010-520806号公報 甲4:ASTM International, Designation:D2866-11,”Standard Test Method for Total Ash Content of Activated Carbon” 甲5:株式会社クレハ BAC 球状活性炭バック パンフレット 2.甲1,3の記載事項及び甲1,3発明 (1)甲1の記載事項 甲1には、以下の記載事項がある。 (ア)「【0004】多孔性炭素材の孔径の分布もまたその吸着特性に影響を与える。当業者に使用される命名法では吸着材の孔の大きさが直径で2nm(<2x10^(-9)m)未満の場合、その孔はミクロ孔と呼ばれ、2?50nmの場合、「メソ孔」と呼ばれている。」 (イ)「【0020】ガスの流速および温度は、粒状炭素に所望のメソ孔性を付与するために選択される。炭素が賦活される時間もまた得られる炭素の特性おおびその吸着性に影響を与える。炭素が受ける賦活の時間の影響を下記実施例2に例示する。好ましい実施態様では賦活は、1?10時間、より好ましくは3?7時間行われる。賦活の時間が長くなるほど、より多くのメソ孔が形成される。しかしながら10時間を超える賦活は、得られる粒状炭素の構造的一体性が失われ、粉になってしまう。これは明らかに望ましくなく、従って本発明の実施態様では賦活工程は、10時間を超えず、好ましくは9時間を超えない範囲で行われる。」 (ウ)「【0045】実施例2 10gの粒状ヤシ炭素を真空中383Kで2時間予備処理した。それから1gの予備処理された炭素に2MのCa(NO_(3))_(2)の溶液10mlを含浸させた。この混合物を12時間振動させ、その後ろ過し、乾燥させた。 【0046】 得られた炭素のサンプル500mgをアルゴンおよび水蒸気下、1123Kで100ml/分のアルゴン流で賦活した。サンプルを1、3、5、7および10時間賦活した。賦活されたサンプルを1M塩酸溶液50mlに2時間、浸した。最後にサンプルを脱イオン水で洗浄し、ろ過および乾燥させた。 【図面の簡単な説明】 【0047】 得られた炭素の図1に示した窒素吸着等温線は、賦活が行われた時間の長さと共に得られた炭素のメソ孔が増えていることを示している。予備処理された炭素を10時間賦活した後の炭素は、簡単に粉末状になり、これは炭素が不安定であることを示唆している。 【0048】 賦活時間の長さを変えた後の炭素のミクロ孔とメソ孔の変化を図2に示す。グラフに示した孔容積は、αs-プロットによって測定した。この分析は、非孔性の化学的に類似の参照材を必要とし、不規則なカーボンブラック(404B)を使用した。 【0049】 活性炭の構造的特徴を表2に示す。 【0050】 ![]() 」 (2)甲3の記載事項 甲3には、以下の記載事項がある。 (エ)「【0004】製造された活性炭の構造-微細に又は粗い多孔状の、堅い、もろい、等-は、開始材料に依存する。」 (オ)「【0064】ASTM D2866-94/04で測定された本願発明の高性能吸着剤の灰含有量は、約1%であり、特に約0.8%であり、特に約0.6%であり、より好ましくは約0.5%である。」 (カ)「【0081】表1に示される本願発明の高性能吸着剤「活性炭I」と「活性炭II」は、それぞれ下記のように製造される。約4%のジビニルベンゼン含有量を有するジビニルベンゼン架橋ポリスチレンコポリマーに基づく商品として販売されている乾燥イオン交換前駆体を、硫酸/発煙硫酸混合物を使用して100℃?150℃の温度で通常の方法においてスルホン化する。」 (キ)「 ![]() 」 (ク)「 ![]() 」 (3)甲1発明の認定 記載事項(ア)及び(ウ)の実施例2における活性化時間が5時間及び7時間の例によれば、甲1には、直径2?50nmのメソ孔容積が0.5cm^(3)/g以上である賦活された粒状ヤシ炭素が記載されている。 したがって、甲1には、 「直径2?50nmのメソ孔容積が0.5cm^(3)/g以上である賦活された粒状ヤシ炭素」(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 (4)甲3発明の認定 記載事項(カ)、(キ)によれば、甲3には、「ジビニルベンゼン含有量を有するジビニルベンゼン架橋ポリスチレンコポリマーに基づく商品として販売されている乾燥イオン交換前駆体」を原料とする球状活性炭IIが記載されている。 記載事項(オ)、(ク)によれば、球状活性炭IIは、ASTM D2866-94/04で測定された灰含有量は、約1%であり、磨耗栄光(当審注:抵抗の誤記と認められる)が90.04%であることが記載されている。 したがって、甲3には、 「ASTM D2866-94/04で測定された灰含有量は、約1%であり、磨耗抵抗が90.04%であるジビニルベンゼン含有量を有するジビニルベンゼン架橋ポリスチレンコポリマーに基づいた乾燥イオン交換前駆体を原料とする球状活性炭。」(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。 3.本件発明1と甲1発明との対比・判断 (1)対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「賦活された粒状ヤシ炭素」は、本件発明1の「粒状やし殻活性炭」に相当する。 したがって、本件発明1と甲1発明とは、「粒状やし殻活性炭」である点で一致し、下記(相違点1)、(相違点2)、(相違点3)で相違する。 (相違点1) 本件発明1では、「粒状やし殻活性炭」が「強熱残分が2質量分率%以下」であるのに対し、甲1発明では、「賦活された粒状ヤシ炭素」の強熱残分が明らかでない点。 (相違点2) 本件発明1では、「粒状やし殻活性炭」が「硬さが60質量分率%以上」であるのに対し、甲1発明では、「賦活された粒状ヤシ炭素」の硬さが明らかでない点。 (相違点3) 本件発明1では、「粒状やし殻活性炭」が「直径2?30nmのメソ孔容積が0.5mL/g以上である」であるのに対し、甲1発明では、「賦活された粒状ヤシ炭素」の直径2?50nmのメソ孔容積が0.5cm^(3)/g以上であるものの、直径2?30nmのメソ孔容積が明らかでない点。 (2)判断 事案に鑑みて、(相違点3)について検討する。 申立人が意見書において述べているように、甲1発明の活性化時間が5時間及び7時間の粒状ヤシ炭素の直径2?30nmのメソ孔容積は、0.5cm^(3)/gを下回るものである。 したがって、(相違点3)は実質的なものといえるから、(相違点1)及び(相違点2)について判断するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。 (3)申立人の主張について 申立人は、意見書において、賦活時間を9時間としたものを甲1発明とする場合は、粒状ヤシ炭素の直径2?30nmのメソ孔容積が0.5mL/g以上であり、硬さが60質量分率%以上である粒状ヤシ炭素が得られることから、本件発明1は甲1に記載された発明である旨主張している。 上記主張についても検討する。 甲1の記載事項(イ)によれば、「10時間を超える賦活は、得られる粒状炭素の構造的一体性が失われ、粉になってしまう。これは明らかに望ましくなく、従って本発明の実施態様では賦活工程は、10時間を超えず、好ましくは9時間を超えない範囲で行われる。」ことが記載されており、長時間の賦活によって、粒状炭素の構造的一体性が失われ、粉になること、すなわち、長時間の賦活によって、粒状炭素の硬さが失われることが示唆されているといえる。 したがって、申立人が主張するように、賦活時間を9時間とした場合、粒状ヤシ炭素の直径2?30nmのメソ孔容積が0.5mL/g以上であったとしても、硬さが60質量分率%以上にならないと認められる。 よって、上記主張は採用することができない。 4.本件発明2について 本件発明2は、本件発明1を引用し、本件発明1をさらに限定する発明であるから、本件発明2は、甲1に記載された発明であるとはいえない。 5.本件発明1と甲3発明との対比・判断 (1)対比 本件発明1と甲3発明とを対比する。 甲3発明の「球状」は、本件発明1の「粒状」に相当する。 したがって、本件発明1と甲3発明とは、「粒状活性炭」である点で一致し、下記(相違点1)、(相違点2)、(相違点3)、(相違点4)で相違する。 (相違点1) 本件発明1では、粒状活性炭が「やし殻」を原料とするものであるのに対し、甲3発明では、球状活性炭が「ジビニルベンゼン含有量を有するジビニルベンゼン架橋ポリスチレンコポリマーに基づ」いた「乾燥イオン交換前駆体」を原料とするものである点。 (相違点2) 本件発明1では、粒状活性炭が「強熱残分が2質量分率%以下」であるのに対し、甲3発明では、球状活性炭の「ASTM D2866-94/04で測定された灰含有量」が「約1%」である点。 (相違点3) 本件発明1では、粒状活性炭が「硬さが60質量分率%以上」であるのに対し、甲3発明では、球状活性炭の「磨耗抵抗」が「90.04%である」点。 (相違点4) 本件発明1では、粒状活性炭が「直径2?30nmのメソ孔容積が0.5mL/g以上である」であるのに対し、甲3発明では、球状活性炭の直径2?30nmのメソ孔容積が明らかでない点。 (2)判断 事案に鑑み、(相違点1)について検討する。 甲3発明の球状活性炭は、「ジビニルベンゼン含有量を有するジビニルベンゼン架橋ポリスチレンコポリマーに基づ」いた「乾燥イオン交換前駆体」を原料とするものであって、甲3発明の球状活性炭の原料をやし殻とすることには動機付けがない。 また、甲3の記載事項(エ)によれば、「製造された活性炭の構造-微細に又は粗い多孔状の、堅い、もろい、等-は、開始材料に依存する。」ことから、甲3発明の原料をやし殻に変更した場合にまで、甲3発明と同様の物性を有する活性炭が得られるものとは認められない。 さらに、甲4,5にも、甲3発明の原料をやし殻に変更することや、甲3発明と同様の物性を有する活性炭が得られることについて、記載や示唆はない。 したがって、申立人が主張するように、甲3発明の球状活性炭が、本件発明1で特定する強熱残分、硬さ及び直径2?30nmのメソ孔容積を満たしていたとしても、本件発明1は、甲3に記載された発明及び甲3?5の記載事項に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。 よって、(相違点2)、(相違点3)、(相違点4)について判断するまでもなく、本件発明1は、甲3に記載された発明及び甲3?5の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 第5.取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について 特許異議申立人は、「第4」で検討した取消理由1)、2)に加え、下記申立理由2(1)により、本件特許の請求項3,4に係る特許は、特許法第113条第2号の規定により、取り消すべきものである旨、主張しているので、以下検討する。 申立理由2(1)本件特許の請求項1-4に係る発明は、本件特許の出願前に発行された甲1に記載された発明および甲2の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 1.甲1発明Aの認定 記載事項(ウ)によれば、甲1には、真空中383Kで2時間予備処理された粒状ヤシ炭素に2MのCa(NO_(3))_(2)の溶液10mlを含浸させ、この混合物を12時間振動させ、その後ろ過し、乾燥させ、得られた炭素のサンプル500mgをアルゴンおよび水蒸気下、1123Kで100ml/分のアルゴン流で5時間または7時間賦活し、賦活されたサンプルを1M塩酸溶液50mlに2時間浸したことが記載されている。 また、記載事項(ウ)によれば、5時間または7時間賦活した粒状ヤシ炭素のメソ孔容積は、0.5cm^(3)/g以上であることが記載されている。 したがって、甲1には、 「真空中383Kで予備処理された粒状ヤシ炭素に、Ca(NO_(3))_(2)の溶液を含浸させ、混合物を振動させ、その後ろ過し、乾燥させ、得られた炭素のサンプルをアルゴンおよび水蒸気下、1123Kでアルゴン流で5時間または7時間賦活し、賦活されたサンプルを塩酸溶液に浸した賦活されたメソ孔容積が0.5cm^(3)/g以上である粒状ヤシ炭素の製造方法」(以下「甲1発明A」という。)が記載されていると認められる。 2.本件発明3と甲1発明Aとの対比・判断 (1)対比 本件発明3と甲1発明Aとを対比する。 甲1発明Aの「賦活された粒状ヤシ炭素」、「Ca(NO_(3))_(2)の溶液を含浸させ」、「アルゴンおよび水蒸気下、1123Kでアルゴン流で5時間または7時間賦活し」、「賦活されたサンプルを塩酸溶液に浸した」、「cm^(3)/g」は、本件発明3の「粒状活性炭」、「カルシウム成分とを混合し」、「炭化処理および賦活処理を行う」、「得られた活性炭を鉱酸で洗浄する」、「mL/g」に相当する。 したがって、本件発明3と甲1発明Aとは、「活性炭と、カルシウム成分とを混合し、 得られた活性炭に、炭化処理および賦活処理を行い、得られた活性炭を鉱酸で洗浄する粒状活性炭の製造方法であり、粒状活性炭がメソ孔容積が0.5mL/g以上である粒状活性炭の製造方法。」である点で一致し、下記(相違点1)、(相違点2)、(相違点3)で相違する。 (相違点1) 本件発明3では、「活性炭原料に、炭化処理を施した後、粉砕する工程」を有するのに対し、甲1発明Aでは、上記工程を有するかどうかが明らかでない点。 (相違点2) 本件発明3では、「活性炭と、カルシウム成分とを混合し、成型する工程」を有するのに対し、甲1発明Aでは、粒状ヤシ炭素に、Ca(NO_(3))_(2)の溶液を含浸させた後、成型していない点。 (相違点3) 本件発明3では、「粒状やし殻活性炭」が「強熱残分が2質量分率%以下、硬さが60質量分率%以上」であるのに対し、甲1発明Aでは、強熱残分及び硬さが明らかでない点。 (2)判断 事案に鑑みて、(相違点2)について検討する。 甲1発明Aは、粒状の炭素を得るものを課題とするものであるから、甲1発明Aにおいて、粒状ヤシ炭素にCa(NO_(3))_(2)の溶液を含浸させた後、成型を行うことには動機付けがない。 さらに、甲2にも、粒状ヤシ炭素にCa(NO_(3))_(2)の溶液を含浸させた後、成型を行うことに関する記載や示唆はない。 よって、(相違点1)、(相違点3)について判断するまでもなく、本件発明3は、甲1に記載された発明及び甲2の記載事項から、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 3.本件発明4について 本件発明4は、本件発明3を引用し、本件発明3をさらに限定する発明であるから、甲1に記載された発明及び甲2の記載事項から、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 第6.むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 メソ孔の多い粒状活性炭およびその製造方法、並びに粒状やし殻活性炭およびその製造方法 【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、新規粒状活性炭およびその製造方法に関する。 【背景技術】 【0002】 活性炭は、水又は水溶液の処理において、吸着剤として、不純物の除去あるいは溶解成分の濃度調整などに使用されている。 【0003】 これら活性炭の中でも、特にメソ孔の多い塩化亜鉛賦活活性炭は、水溶液などの液相の着色を除去するために利用されている。 【0004】 ところが、塩化亜鉛賦活活性炭は、着色成分をよく除去できるものの、原料が木粉であり、通常、粉末活性炭として提供されることから、カラム処理および使用済み活性炭の熱再生には適していない。また、篩別によって、顆粒状の製品を得ることはできるが、硬さが低いことから、輸送および充てん時に扱い難く、さらには、使用中に粉化および細粒化が起きてしまうという問題があった。 【0005】 また、薬品賦活活性炭は、製造時の焼成温度が低いため、活性炭表面に表面酸化物が多く存在し、溶液中の微量有機物や、よう素といった低分子量の分子の吸着が低くなることが課題であった。 【0006】 上記塩化亜鉛賦活活性炭の課題を解決するため、特許文献1には、薬品賦活しうる活性炭原料と、水分含量が25重量%以下で賦活成分含量が60重量%以上である塩化亜鉛等の賦活薬品との混合物を、常法により加熱して得られる反応生成物を成型し、次いで焼成、洗浄、乾燥して成型活性炭を得る薬品賦活成型活性炭の製造方法が開示されている。 【0007】 また、メソ孔の多い活性炭の製造方法として、炭素質原料100重量部に、カルシウム化合物の少なくとも1つを0.2?1.5重量部(カルシウム換算値)の割合で混合して、炭化および賦活処理してなる、浄水の高度処理用活性炭およびその製造方法が開示されている(特許文献2)。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0008】 【特許文献1】特開平7-138010号公報 【特許文献2】特開平3-16908号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0009】 しかしながら、特許文献1における上記製造工程は複雑であり、より簡便な製造方法による、脱色性能の高い粒状活性炭の開発が要望されていた。また、特許文献2において得られた活性炭は、粒状活性炭として必要な硬さを有しておらず、低硬度のものに過ぎなかった。 【0010】 本発明の課題は、着色成分の除去に適した、高い吸着性能を有する粒状活性炭およびその製造方法を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0011】 本発明者は、上記の課題に鑑み、メソ孔が多く存在し、不純物の少ない粒状活性炭を製造するために研究を重ねて来た。その結果、あらかじめ賦活された活性炭と、カルシウム成分とを接触させ、その後、さらに賦活および洗浄することで、各種液体の脱色および精製に適した粒状活性炭が得られることを見出した。本発明は、このような知見に基づき、完成されたものである。 【0012】 すなわち、本発明は、下記項1?5に示す活性炭およびその製造方法に係る。 【0013】 項1.下記(1)?(3)の要件を備えた、粒状活性炭; (1)強熱残分が2質量分率%以下、 (2)硬さが60質量分率%以上、および (3)メソ孔容積が0.5mL/g以上である。 【0014】 項2.下記(A)?(C)の工程を含む、粒状活性炭の製造方法; (A)活性炭とカルシウム成分とを接触させる工程、 (B)工程(A)で得られた活性炭に、賦活処理を行う工程、および (C)工程(B)で得られた活性炭を洗浄する工程。 【0015】 項3.下記(A)?(D)の工程を含む、粒状活性炭の製造方法; (A)活性炭原料に、炭化処理を施した後、粉砕する工程、 (B)工程(A)で得られた活性炭と、カルシウム成分とを混合し、成型する工程、 (C)工程(B)で得られた活性炭に、炭化処理および賦活処理を行う工程、 (D)工程(C)で得られた活性炭を洗浄する工程。 【0016】 項4.活性炭原料がやし殻である、項2又は3に記載の製造方法。 【0017】 項5.項2?4のいずれかに記載の製造方法により得られる粒状活性炭。 【0018】 以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明は、粒状活性炭の発明、当該粒状活性炭の製造方法の発明、並びに当該粒状活性炭の液処理用(より具体的には、液体の精製用、脱色用等の液体の吸着処理用)としての使用の発明、のいずれも包含する。 【0019】 本発明活性炭 本発明の活性炭は、下記(1)?(3)の要件を備えた、粒状活性炭である。 (1)強熱残分が2質量分率%以下、 (2)硬さが60質量分率%以上、および (3)メソ孔容積が0.5mL/g以上。 【0020】 以下、要件(1)、(2)および(3)の順に説明する。 【0021】 (要件(1)) 本発明の活性炭において、強熱残分は、2質量分率%以下であり、好ましくは1.5質量分率%以下である。強熱残分は、通常、JIS K1474で測定される(JIS:日本工業規格)。具体的には、本発明の活性炭(試料)を電気炉中で強熱灰化し、その残分を求める。当該強熱残分が2質量分率%以下であると、不純物が少ないことから、液相処理用の活性炭として、処理液を汚染することなく好適に使用することができる。 【0022】 ここで、JIS K1474で規定されている、強熱残分を測定するための具体的な操作(i)?(iv)について説明する。 (i)試料1?5gをあらかじめ恒量にした磁器るつぼに1mgのけたまではかりとる。試料はあらかじめ115±5℃の恒温乾燥器中で3時間乾燥し、デシケーター(乾燥剤としてシリカゲルを使用)中で室温まで放冷する。 (ii)(i)の後、試料を電気炉に入れ、初めは弱く加熱し、徐々に温度を上げて完全に灰化させた後、800?900℃で1時間強熱する。 (iii)(ii)の後、試料を強熱後、デシケーター(乾燥剤としてシリカゲルを使用)中で放冷し、質量を1mgの桁まではかり残分を求める。 (iv)強熱残分は、次の式(2): A=(R/S)×100 (2) で算出する。ここで、Aは強熱残分(質量分率%)であり、Rは残分(g)であり、Sは試料の質量(g)であり、/は÷を意味する。なお、 [1]磁器るつぼは、JIS R1301に規定するA形、B形又はC形30mLのものであり、 [2]恒温乾燥器は115±5℃の温度範囲に調節できるものであり、 [3]電気炉は800?900℃の温度範囲に調節できるものである。 【0023】 本発明の活性炭における強熱残分を2質量分率%以下に調整するための方法としては、例えば、後述する本発明の活性炭の製造方法1の(C)工程又は製造方法2の(D)工程において、洗浄時間、洗浄回数、酸濃度等を適宜設定することが挙げられる。 【0024】 (要件(2)) 本発明の活性炭において、硬さは、60質量分率%以上であり、好ましくは70質量分率%以上である。硬さは、通常、JIS K1474で測定される。具体的には、本発明の活性炭(試料)を鋼球とともに入れた硬さ試験用皿を振とうした後ふるい分け、ふるい上に残った試料の質量を求め、元の試料の質量との比から硬さを求める。当該硬さが60質量分率%以上であると、粒状炭として使用する場合に、微粉の発生を抑えることができる。硬さの上限値については特に限定されないが、通常100質量分率%である。 【0025】 ここで、JIS K1474で規定されている、硬さを測定するための具体的な操作(i)?(vii)について説明する。 (i)試料を、後述する粒度を測定するための具体的な操作(i)?(v)によって、粒度表示範囲の上限、下限に対応する目開きのふるい二つを用いて10分間ふるい分ける。 (ii)ふるい分けた試料をメスシリンダー200mLの100mLの標線まで軽くたたいて充填する。この試料の質量を0.1gの桁まではかりとる。 (iii)直径12.7mm及び直径9.5mmの鋼球それぞれ15個とともに硬さ試験用皿に入れる。 (iv)試料を含む硬さ試験用皿をふるい振とう機に取り付け、30分間振とうする。 (v)粒度表示範囲の下限に対応するふるいの目開きの2段下のふるい及び受け皿を用い、鋼球を除いた試料を全部入れ、ふるい振とう機に取り付ける。 (vi)3分間振とうした後、ふるい上及び受け皿に残った試料の質量をそれぞれ0.1gの桁まではかりとる。試料の質量の合計が、初めにはかりとった質量に対し2%以上の増減がある場合は再試験を行う。 (vii)硬さは、次の式(3): H=(W/S)×100 (3) で算出する。ここで、Hは硬さ(質量分率%)であり、Wは上記(vi)のふるい上に残った試料の質量(g)であり、Sはふるい上及び受け皿に残った試料の質量の合計(g)であり、/は÷を意味する。なお、 [1]ふるいは、JIS Z8801-1に規定する網ふるいであって、ふるいの枠の寸法がふるい面から上の内径200mmのものであり、 [2]硬さ試験用皿は、材質がJIS H3100に規定するC2680P又はC2720P(黄銅板)であり、一例が図1で示されるものであり、 [3]ふるい振とう機は、タイラー形ふるい振とう機又はこれに準じるもので、打数毎分130?165回、回転数毎分240?295回できるものであり、 [4]鋼球は、直径12.7±0.1mm、直径9.5±0.1mmのもの各15個であ り、 [5]メスシリンダーは、JIS R3505に規定するメスシリンダー200mLのものである。 【0026】 本発明の活性炭における硬さを60質量分率%以上に調整するための方法としては、例えば、後述する本発明の活性炭の製造方法1又は製造方法2の(A)工程における活性炭の原料の種類、上記製造方法2の(B)工程における粘結成分の量や種類等を適宜設定することが挙げられる。 【0027】 (要件(3)) 本発明の活性炭において、メソ孔容積は、0.5mL/g以上であり、好ましくは0.55mL/g以上、より好ましくは0.7mL/g以上である。ここでメソ孔容積とは、窒素吸着法で測定し、クランストン-インクレー法で計算した直径2?30nmの細孔容積のことをいい、着色物質の吸着性能に関与する細孔である。メソ孔が多すぎると、活性炭の硬さが低下するので、メソ孔容積の上限は1.5mL/g程度である。 【0028】 本発明の活性炭におけるメソ孔容積を0.5mL/g以上に調整するための方法としては、例えば、後述する本発明の活性炭の製造方法1の(B)工程及び製造方法2の(C)工程における賦活処理の条件(例:賦活温度、水蒸気分圧等)などを適宜設定することが挙げられる。 【0029】 また、粒状活性炭とは、JIS K1474に規定される粒径0.150mm以上のものをいう。ここで、JIS K1474に規定される粒径が0.150mm以上とは、後述するJIS K1474の規定によって測定される粒度が0.150mm以上であることと同義である。なお、上記JIS K1474に規定される粒径が0.150mm未満の活性炭は粉末活性炭であり、当該粉末活性炭は本発明に包含されない。 【0030】 本発明の活性炭は、当該JIS K1474に規定された測定による粒度が、0.150?8.00mmであることが好ましく、0.300?4.70mm程度のものがより好ましく、0.500?2.36mm程度のものが特に好ましい。 【0031】 ここで、JIS K1474で規定されている、粒度を測定するための具体的な操作(i)?(v)について説明する。 (i)本発明の活性炭(試料)を115±5℃の恒温乾燥器中で3時間乾燥し、デシケーター(乾燥剤としてシリカゲルを使用)中で室温まで放冷した後、約100gを0.1gの桁まではかりとる。 (ii)その試料の示す粒度範囲の下限の目開きに対応する目開きよりも一段階小さい目開きのふるいから、上限の目開きに対応する目開きよりも一段階大きい目開きのふるいまで、段階的に6?7個のふるいを用いて、受け皿に目開きの小さいふるいから順に積み重ねる。この際、試料の粒度表示範囲が狭い場合には、適宜ふるいの数を減らし、粒度表示範囲が広い場合には、適宜ふるいの数を増やす。 (iii)試料を最上部のふるい上に入れ、ふたをしてふるい振とう機に取り付け、10分間ふるい分ける。 (iv)各ふるい上及び受け皿に残った試料の質量を0.1gの桁まではかる。それぞれのふるい上及び受け皿に残った試料の質量の合計が、初めの試料の質量に対して2%以上の増減がある場合は、再試験を行う。 (v)粒度は、次の式(4): G_(i)=(W_(i)/S)×100 (4) で算出する。ここで、G_(i)は粒度(質量分率%)であり、W_(i)は各ふるい上及び受け皿に残った試料の質量(g)であり、Sは各ふるい上及び受け皿に残った試料の質量の合計(g)であり、/は÷を意味する。粒度G_(i)とは、各ふるい(i番目)とその一段上のふるい(i+1番目)の目開きの範囲の粒度を示し、その試料の全質量に対する特定の粒径範囲の質量分率%を示す。例えば、本明細書では、JIS K1474の規定によって測定される粒度が0.150mm以上とは、粒度範囲0.150mm以上である試料が95質量分率%以上であることを示す。なお、[1]恒温乾燥器は、115±5℃の温度範囲に調節できるものであり、 [2]ふるい及びふるい振とう機は、それぞれ上記硬さを測定する際に用いられるふるい及びふるい振とう機と同様である。 【0032】 本発明の活性炭の比表面積は、特に限定されない。例えば、通常、700?2500m^(2)/g、好ましくは1000?2200m^(2)/gである。 【0033】 製造方法1 本発明の活性炭の製造方法(製造方法1)は、下記(A)?(C)の工程を含む製造方法である。 (A)活性炭とカルシウム成分とを接触させる工程、 (B)工程(A)で得られた活性炭に、賦活処理を行う工程、および (C)工程(B)で得られた活性炭を洗浄する工程。 当該(A)?(C)の工程を含む本発明の活性炭の製造方法によれば、下記(1)?(3)の要件; (1)強熱残分が2質量分率%以下、 (2)硬さが60質量分率%以上、および (3)メソ孔容積が0.5mL/g以上である。 を備えた粒状活性炭を好適に製造することができる。特に、上記製造方法は、通常の炭化および賦活処理が施された原料活性炭と、カルシウム成分とを接触させ、さらに賦活処理および洗浄を施す。 【0034】 以下、製造方法1における要件(A)、(B)および(C)を順に説明する。 【0035】 <工程(A):活性炭とカルシウム成分との接触> (活性炭) 本発明において、工程(A)で用いられる活性炭は、あらかじめ賦活された粒状活性炭である。当該活性炭の粒径は、特に限定されない。例えば、0.150?11.2mmの範囲であり、好ましくは0.500?5.60mm、より好ましくは1.00?2.80mmの範囲である。粒径が細かすぎると、後の賦活の際に、気流により反応装置から散逸する恐れがある。 【0036】 また、当該活性炭の比表面積は、800?2000m^(2)/g、好ましくは1000?1800m^(2)/g、より好ましくは1200?1700m^(2)/gの範囲である。比表面積がこの範囲にあることで、カルシウム化合物を、活性炭表面および細孔中に十分に分散させ、付着させることができる。また、当該活性炭の比表面積を選択することで、得られるメソ孔の多い活性炭において、ミクロ孔容積を調整することができる。 【0037】 工程(A)で用いられる粒状活性炭の製造方法については、特に限定されない。活性炭原料に炭化および賦活処理を施して得られた破砕状活性炭であってもよく、活性炭原料を炭化後、粉砕および成型し、さらに炭化および賦活処理を施して得られた造粒活性炭であってもよい。 【0038】 当該粒状活性炭の原料は、一般的に用いられる活性炭の原料であって、不純物が少ない原料であれば、特に限定されない。例えば、やし殻(具体例:パームヤシ殻、ココナッツヤシ殻など)、天然繊維(具体例;麻、綿など)、合成繊維(具体例;レーヨン、ポリエステルなど)、合成樹脂(具体例;ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール)などが挙げられる。これらの中でも、やし殻が好ましい。 【0039】 当該粒状活性炭の原料の炭化処理は、例えば、600℃?800℃で行われる、炭化時間は、用いる原料、炭化を行う設備によって適宜設定し得るが、通常、0.5?10時間程度、好ましくは0.5?5時間、より好ましくは0.5?2時間程度である。当該炭化処理は、例えば、ロータリーキルンなどの公知の製造設備を用いて行われる。 【0040】 得られた炭化物の賦活処理には、例えば、「活性炭工業」重化学工業通信社出版(1974)p.23?37に記載されている賦活方法、例えば、水蒸気、酸素、炭酸ガスなどの活性ガスによる賦活方法が適宜用いられる。中でも、使用に適した硬さの活性炭を得るという観点から、水蒸気賦活が好ましい。当該賦活処理は、ロータリーキルン、流動炉などの公知の製造設備を用いて、750?1050℃程度の温度範囲で行われる。 【0041】 賦活時間は、用いる原料、賦活温度、製造設備などにより異なり、一概には言えないが、一般に、0.5?48時間程度であり、1?24時間が好ましい。 【0042】 その後、賦活処理した活性炭を篩い分けて整粒し、粒状活性炭を得る。粒度は上記「本発明活性炭(要件(3))」に記載のとおりである。 【0043】 また、賦活処理した活性炭を、洗浄してもよいが、洗浄せずにカルシウム成分との接触に付すことが好ましい。 【0044】 (カルシウム成分との接触) 上記のあらかじめ賦活された粒状活性炭と、カルシウム成分とを接触させる。当該接触により、カルシウム成分が、賦活された粒状活性炭表面及び細孔中に付着する。 【0045】 カルシウム成分としては、特に限定されず、例えば、(1)水溶性カルシウム化合物、(2)非水溶性カルシウム化合物、などを用いることができる。カルシウム成分は、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。 【0046】 水溶性カルシウム化合物としては、例えば、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウムなどが挙げられる。これらの中でも、加熱時に分解ガスの発生がない点で、塩化カルシウムが好適に用いられる。 【0047】 非水溶性カルシウム化合物としては、例えば、炭酸カルシウム、水酸化カルシウムなどが挙げられる。これらの中でも、取り扱いの安全性の点で、炭酸カルシウムが好適に用いられる。 【0048】 接触により、上記賦活粒状活性炭表面及び細孔中に付着するカルシウム成分の、活性炭に占める含有量は、カルシウムとして(カルシウム換算で)0.5?2wt%、好ましくは0.8?2wt%、より好ましくは1?1.8wt%の割合である。上記カルシウム含有量は、JIS K1474に記載されている鉄の測定方法に準じて、カルシウム付着後の賦活粒状活性炭中のカルシウムの質量分率%として算出する。また、分散性を向上させるために、水溶液として添加することが好ましい。 【0049】 上記賦活粒状活性炭とカルシウム成分とを接触させる方法としては、活性炭にカルシウム成分が含有される方法であれば、何れの方法でもよい。例えば、活性炭を混合しながらカルシウム成分の水溶液を噴霧する方法、活性炭をカルシウム成分の水溶液に含浸する方法、活性炭と粉末状のカルシウム成分とを単に混合する方法、などが挙げられる。 【0050】 上記カルシウム成分との接触方法としてカルシウム成分の水溶液を使用する場合、カルシウム成分接触後の活性炭は、常法により乾燥して賦活工程に供されるが、水切り後、そのまま賦活してもよい。 【0051】 <工程(B):賦活処理> 上記カルシウム成分と接触後の活性炭に、次いで、賦活処理を施す。 【0052】 賦活処理としては、例えば、「活性炭工業」重化学工業通信社出版(1974)p.23?37に記載されている賦活方法、例えば、水蒸気、酸素、炭酸ガスなどの活性ガスによる賦活方法が適宜用いられる。中でも、使用に適した硬さの活性炭を得るという観点から、水蒸気賦活が好ましい。当該賦活処理は、ロータリーキルン、流動炉などの公知の製造設備を用いて行われる。 【0053】 賦活温度は、用いる原料、賦活温度、製造設備などにより異なり、一概には言えないが、一般に、800?1000℃であり、850?950℃が好ましい。水蒸気分圧は10?100%の範囲であってよく、30?100%の範囲であることが好ましい。 【0054】 また、賦活収率を20?50%の範囲にすることで、目的とする性能の製品を得ることができる。賦活収率が低くなりすぎると硬さが低くなり、不純物が濃縮されるため、洗浄工程において不純物を除去し難くなる。なお、上記賦活収率の基準は、工程(A)で用いられる、あらかじめ賦活された粒状活性炭である。 【0055】 賦活時間は、用いる原料、賦活温度、製造設備などにより異なり、一概には言えないが、上記賦活収率を満たす範囲で適宜設定することができる。 【0056】 その後、賦活処理した活性炭を篩い分けて整粒する。粒度は、「本発明活性炭(要件(3))」に記載上記のとおりである。 【0057】 <工程(C):賦活後の活性炭の洗浄処理> 得られた活性炭は、公知の方法で塩酸、硝酸などの鉱酸を用いて洗浄される。鉱酸洗浄は、例えば、活性炭を塩酸と接触させることにより行われる。該接触は、活性炭を適当な濃度および量の塩酸に浸漬、あるいは該塩酸を活性炭に流通するなどして、行うことができる。 【0058】 塩酸などの鉱酸の濃度は、活性炭中に含まれるアルカリ分を中和でき、不純物として含まれる金属塩(灰分)を溶解できる濃度であればよく、例えば、塩化水素として0.1?15質量分率%、好ましくは0.5?5質量分率%が挙げられる。 【0059】 鉱酸洗浄に供される活性炭は、賦活処理後の活性炭そのままの状態であってもよいし、あらかじめ賦活処理後の活性炭を水洗して、水溶性無機成分を除去しておいてもよい。 【0060】 鉱酸洗浄は、活性炭のpHが中性になる程度まで行われる。洗浄方法は、回分式であっても連続式であってもよく、洗浄時間としては、特に限定されないが、0.5?10時間程度とすることが好ましい。洗浄温度は、通常5?80℃、好ましくは10?80℃の範囲である。高温で洗浄すると、洗浄時間を短縮できる。 【0061】 上記鉱酸による洗浄後、さらに水で洗浄してもよい。当該水洗工程によって、鉱酸洗浄により活性炭から溶出した成分を、十分除去することができる。水洗方法は、回分式であっても連続式であってもよく、洗浄時間としては、特に限定されないが、1?20時間程度とすることが好ましい。洗浄温度は通常5?80℃、好ましくは10?80℃の範囲である。高温で洗浄すると、洗浄時間を短縮できる。 【0062】 不純物の溶出による悪影響を防ぐため、鉱酸洗浄、又は鉱酸洗浄後さらに水洗した活性炭の強熱残分は2質量分率%以下、好ましくは1.5質量分率%以下である。 【0063】 洗浄後、得られた活性炭を乾燥する。乾燥手段は特に限定されず、公知の乾燥手段を用いることができる。例えば、定温乾燥機、流動乾燥機、振動流動乾燥機、ロータリーキルンなどの装置を用いて、50?200℃程度、好ましくは80?150℃程度で活性炭を加熱する。乾燥後の活性炭の乾燥減量は、5質量分率%以下とすることが好ましく、より好ましくは、3質量分率%以下である。 【0064】 また、乾燥後の活性炭を、さらに破砕して使用することもできる。破砕後の粒度は特に限定されない。例えば、0.500?2.36mm、0.500?1.70mm、0.300?0.850mm、0.250?0.500mm、0.180?0.355mmなど、通常の粒状活性炭として用いられる粒度で使用できる。好ましくは0.150?8.00mm程度、より好ましくは0.300?4.70mm程度、特に好ましくは0.500?2.36mm程度である。 【0065】 製造方法2 本発明の活性炭の製造方法(製造方法2)は、下記(A)?(D)の工程を含む製造方法である。 (A)活性炭原料に、炭化処理を施した後、粉砕する工程、 (B)工程(A)で得られた活性炭と、カルシウム成分とを混合し、成型する工程、 (C)工程(B)で得られた活性炭に、炭化処理および賦活処理を行う工程、及び (D)工程(C)で得られた活性炭を洗浄する工程。 当該(A)?(D)の工程を含む本発明の活性炭の製造方法によれば、下記(1)?(3)の要件; (1)強熱残分が2質量分率%以下、 (2)硬さが60質量分率%以上、および (3)メソ孔容積が0.5mL/g以上である。 を備えた粒状活性炭を好適に製造することができる。特に、上記製造方法は、活性炭とカルシウム成分とを混合し成型した後に、炭化および賦活処理を行い、当該賦活処理後に洗浄を施す。 【0066】 以下、製造方法2における要件(A)、(B)、(C)及び(D)を順に説明する。 【0067】 <工程(A):活性炭原料の炭化処理および粉砕> (活性炭) 本発明の活性炭の原料は、一般的に用いられる活性炭の原料であって、不純物が少ない原料であれば、特に限定されず、例えば、上述の製造方法1の工程(A)における粒状活性炭の原料で具体的に例示された原料と同様のものが挙げられる。活性炭の原料としては、やし殻が好ましい。 【0068】 活性炭原料の炭化条件は、特に限定されないが、通常、酸素を含まない条件で300?900℃、より好ましくは300?600℃まで加熱して、炭化することができる。 【0069】 炭化時間は、用いる原料、炭化を行う設備によって適宜設定し得るが、30分?20時間程度、好ましくは1時間?10時間程度である。当該炭化処理は、例えば、ロータリーキルンなどの公知の製造設備を用いて行われる。 【0070】 炭化品の揮発分は、5?40質量分率%、好ましくは10?30質量分率%、より好ましくは10?20質量分率%である。 【0071】 次いで、上記活性炭原料の炭化処理により得られた炭化品を粉砕する。粉砕条件は、特に限定されず、通常用いられる粉砕装置によって粉砕することができる。粉砕品の平均粒径(メジアン径)は、通常2?100μmであり、好ましくは10?70μmである。 【0072】 <工程(B):カルシウム成分との混合および成型> 上記粉砕処理により得られた粉砕品を、カルシウム成分と混合した後、成型する。 【0073】 カルシウム成分としては、特に限定されず、上述の製造方法1の工程(B)におけるカルシウム成分で具体的に例示された成分と同様のものが挙げられる。水溶性カルシウム化合物を使用する場合は塩化カルシウムが好ましく、非水溶性カルシウム化合物としては、炭酸カルシウムが好ましい。 【0074】 カルシウム成分の配合量は、特に限定されないが、上記炭化後の粉砕品(上記工程(A)で得られた活性炭)100重量部に対して、カルシウムとして(カルシウム換算で)0.5?1.5重量部、好ましくは0.6?1.2重量部の割合で配合する。また、分散性を向上させるために、上記炭化後の粉砕品にカルシウム成分含有水溶液を添加することが好ましいが、粉末状のカルシウム成分と上記炭化後の粉砕品とを単に混合するだけでもよい。 【0075】 上記炭化後の粉砕品とカルシウム成分との接触に際しては、その後の成型性を向上させるために、さらに粘結成分等を配合することが好ましい。粘結成分としては、特に限定されず、通常活性炭の製造に使用される粘結成分を利用することができる。例えば、パルプ廃液、フェノール樹脂、メラミン樹脂、石油ピッチ(ハードピッチなど)、コールタールなどが挙げられる。これらの粘結成分は、1種を単独で又は2種以上を混合して使用することができる。好ましくは、石油ピッチなどが挙げられる。より好ましくは、ハードピッチである。 【0076】 上記粘結成分の配合割合は、成型品の成型具合により、適宜設定される。例えば、上記炭化後の粉砕品100重量部に対し、粘結成分40?45重量部程度である。 【0077】 また、上記炭化後の粉砕品とカルシウム成分との混合性を高めるために、粘結成分と共に、粘結補助成分、一次バインダーなどを配合してもよい。 【0078】 粘結補助成分としては、特に限定されず、粘結成分を軟化または溶解させて混合性を高める効果を発揮するものであればよい。例えば、重油、クレオソート油、高沸点液状有機化合物(ヒマシ油、潤滑油など)などが挙げられる。これらの粘結補助成分は、1種を単独で又は2種以上を混合して使用することができる。好ましくは、クレオソート油などが挙げられる。 【0079】 上記粘結補助成分の配合割合は、粘結成分の種類および量により、適宜設定される。例えば、粘結成分25重量部に対し、粘結補助成分5?10重量部程度である。 【0080】 一次バインダーとしては、特に限定されず、粘結成分がその効果を発揮する前に粉砕品を一時的に固定できるものであればよい。例えば、リグニン、ヒドロキシメチルセルロース、にかわなどが挙げられる。これらの一次バインダーは、1種を単独で又は2種以上を混合して使用することができる。好ましくは、リグニンなどが挙げられる。 【0081】 上記一次バインダーの配合割合は、粘結成分の種類および量により、適宜設定される。例えば、粘結成分25重量部に対し、粘結補助成分1?2重量部程度である。 【0082】 また、上記炭化後の粉砕品とカルシウム成分との接触に際しては、得られる成型品の硬さを調節するために、水を配合することもできる。水の配合割合は、成型品の成型具合により、適宜設定される。例えば、上記炭化後の粉砕品100重量部に対し、水10?15重量部程度である。 【0083】 また、上記炭化後の粉砕品、カルシウム成分および粘結成分の混合条件は、特に限定されず、公知の方法により混合することができる。例えば、混合機としては、パドル式混合機、バッチ式ニーダー、連続式ニーダーなどの混合機を用いて、混合することができる。 【0084】 混合順序としては、例えば、上記炭化後の粉砕品と粘結成分を練合機に投入し、混合した後、カルシウム成分((1)水溶性カルシウム化合物、(2)非水溶性カルシウム化合物、(3)上記水溶性カルシウム化合物の水溶液等)を投入し、混合する方法が挙げられる。あるいは、粘結成分と上記カルシウム成分とを、あらかじめ混合しておき、上記炭化後の粉砕品に同時に投入することもできる。混合時間は、上記の成分が十分に混合できる長さであればよく、特に限定されないが、通常、10?60分程度である。 【0085】 上記の混合により得られた混合品の成型方法は、特に限定されず、公知の方法により成型することができる。例えば、押出し成型、転動造粒法による球状の成型、打錠機による圧縮成型、ロールによる圧延などの方法を用いることができる。好ましくは、押出し成型である。成型品の粒度は、次いで行われる炭化および賦活処理に適した粒度であればよい。成型品の粒度は、例えば、0.2?11mm、好ましくは0.5?4mm、より好ましくは1?2.8mmの範囲であるとよい。 【0086】 <工程(C):成型品の炭化処理および賦活処理> 上記成型品の炭化条件は、特に限定されないが、例えば、酸素を含まない不活性雰囲気下で、500?900℃、さらに好ましくは500?800℃まで加熱することにより、炭化品を得ることができる。 【0087】 炭化時間は、用いる原料、炭化設備によって適宜設定し得るが、一般に、1?10時間程度、好ましくは2?8時間程度である。当該炭化処理は、例えば、ロータリーキルンなどの公知の製造設備を用いて行われる。 【0088】 上記成型品の炭化処理により得られた炭化品について、賦活処理を施す。賦活処理としては、上述の製造方法1の工程(B)で具体的に例示された賦活方法と同様の方法が挙げられる。中でも、水蒸気賦活が好ましい。当該賦活処理における製造設備、賦活温度、水蒸気分圧等についても、上記製造方法1の工程(B)の記載と同様である。例えば、賦活温度は、一般に、800?1000℃であり、850?950℃が好ましい。また、水蒸気分圧は10?100%の範囲であってよく、30?100%の範囲であることが好ましい。 【0089】 また、賦活収率を、工程(C)における炭化処理の終了品を基準として、10?25%(好ましくは15?20%)の範囲にすることで、目的とする性能の製品を得ることができる。賦活収率が低くなりすぎると硬さが低くなり、不純物が濃縮されるため、洗浄工程において不純物を除去し難くなる。 【0090】 賦活時間は、用いる原料、賦活温度、製造設備などにより異なり、一概には言えないが、上記賦活収率を満たす範囲で適宜設定することができる。 【0091】 工程(C)における賦活処理の回数は、1回又は2回以上を含む。即ち、工程(C)において、2回以上の賦活処理を行ってもよい。賦活処理を2回以上行う場合、(賦活処理後の)最終的な賦活収率が上記10?25%となるように、各回の賦活時間、賦活温度等の条件を適宜設定すればよい。工程(C)では、賦活処理を2回行うことが好ましい。 【0092】 例えば、工程(C)における賦活処理の回数が2回である場合、1回目の賦活処理では賦活収率が40?55%の範囲となるように賦活時間、賦活温度等の条件を適宜設定し、2回目の賦活処理では賦活収率が30?45%の範囲となるように上記各条件を適宜設定することが好ましい。これにより、上記1回目の賦活収率と2回目の賦活収率とを掛け算することに算出されることからも明らかなように、好適に、最終的な賦活収率が上記炭化処理終了品を基準として上記10?25%の範囲にすることができる。 【0093】 その後、賦活処理した活性炭を篩い分けて整粒する。粒度は、上記「活性炭(要件(3))」に記載のとおりである。 【0094】 <工程(D):洗浄> 得られた活性炭は、公知の方法で洗浄される。洗浄方法としては、上述の製造方法1の工程(C)に記載の洗浄方法と同様の方法(例:鉱酸洗浄)が挙げられる。鉱酸洗浄における接触方法、鉱酸の濃度、鉱酸洗浄に供される活性炭の状態、洗浄方法、洗浄時間、洗浄温度、鉱酸洗浄後の水洗方法並びにその時間および温度、鉱酸洗浄後の活性炭の強熱残分、洗浄後の乾燥手段およびその温度、乾燥後の活性炭の乾燥減量等についても、上述の製造方法1の工程(C)の記載と同様である(好ましい態様及びより好ましい態様についても、上述の製造方法1の工程(C)の記載と同様である)。 【0095】 乾燥後の活性炭を、さらに破砕して使用することもできる。破砕後の粒度は特に限定されず、上記製造方法1の工程(C)に記載された具体的な破砕後の粒度と同様である。破砕後の粒度は、好ましくは0.150?8.00mm程度、より好ましくは0.300?4.70mm程度、特に好ましくは0.500?2.36mm程度である。 【発明の効果】 【0096】 本発明の活性炭は、塩化亜鉛賦活炭のようにメソ孔が多く、不純物が少ない活性炭である。また、本発明の活性炭は、塩化亜鉛賦活活性炭とは異なり、硬さの高い粒状活性炭である。したがって、本発明の活性炭は、液処理用途、特に食品工業及び医薬品工業の精製工程において、好適に使用することができる。 【0097】 また、着色成分の除去に優れていることから、各種液体の脱色および精製に適している。 【図面の簡単な説明】 【0098】 【図1】JIS K1474で規定された硬さ測定に用いられる硬さ試験用皿の一例である。 【発明を実施するための形態】 【0099】 以下に実施例及び参考例をあげて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。 【実施例】 【0100】 実施例1 フィリピン共和国ミンダナオ島産のココナッツやし殻を、到達温度650℃で8時間炭化し、次いで900℃で水蒸気賦活して得られたやし殻活性炭(比表面積1282m^(2)/g)500gに対して、塩化カルシウム量が2wt%となる量で塩化カルシウム水溶液(塩化カルシウム10g及び水350g)を噴霧した後、115±5℃に調整した電気乾燥機中で乾燥した。この活性炭のカルシウム含有率は0.8wt%であった。 【0101】 乾燥したカルシウム接触済活性炭200gについて、表1に示す条件で水蒸気賦活を行った。得られた賦活品を冷却後、濃度3wt%の塩酸水溶液中で10分間煮沸洗浄した後、水で10分間煮沸処理を3回繰り返し、水切り後、115±5℃に調整した電気乾燥機中で乾燥し、ロールミルを用いて粒度0.6?0.212mmに破砕し、整粒して活性炭を得た。 【0102】 実施例2 塩化カルシウム水溶液として、塩化カルシウム15g及び水350gを用いて、活性炭のカルシウム含有率を1.1wt%とし、賦活時間を表1に示したとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして、活性炭を得た。 【0103】 比較例1および2 フィリピン共和国ミンダナオ島産のココナッツやし殻を550℃で8時間炭化した後、平均粒径20?80μmに粉砕した粉砕品1000g、塩化カルシウム(試薬特級:和光純薬製)25gを水57gに溶解したカルシウム水溶液、軟化点110℃のハードピッチ250g、クレオソート80g、リグニン(日本製紙ケミカル製、サンエキスM)15gおよび水73gを、練合機に入れて25分混合した後、孔径4mmの押出し造粒機から押出し、5℃/分の割合で650℃まで昇温し、その後30分保持してやし殻炭化品を得た。この炭化品について、表1に示す条件で水蒸気賦活を行った。得られた賦活品を洗浄せずに、活性炭を得た。 【0104】 実施例3 フィリピン共和国ミンダナオ島産のココナッツやし殻を550℃で8時間炭化した後、平均粒径20?80μmに粉砕した粉砕品1000g、炭酸カルシウム(試薬特級:和光純薬製)27.5g、軟化点110℃のハードピッチ250g、クレオソート80g、リグニン(日本製紙ケミカル製、サンエキスM)15gおよび水130gを、練合機に入れて25分混合した後、孔径4mmの押出し造粒機から押出し、炭化および水蒸気賦活を行った。当該炭化条件は、炭化到達温度:650℃、昇温速度:5℃/分、保持時間:30分とし、当該水蒸気賦活条件は、賦活温度:900℃、賦活時間:135分、賦活収率45.5%とした。これにより、活性炭A(比表面積1208m^(2)/g、細孔容積0.685mL/g、メソ孔割合(メソ孔容積/全細孔容積)=0.42)を得た。次いで、当該活性炭Aに対して、賦活温度900℃で賦活収率が35%になるまで、再度150分水蒸気賦活を行った。得られた賦活品(最終的な賦活収率:上記保持時間30分の炭化処理の終了品を基準として15.9%(=45.5%×35%))を、濃度3wt%の塩酸水溶液中で10分間煮沸洗浄した後、水で10分間煮沸処理を3回繰り返し、水切り後、115±5℃に調整した電気乾燥機中で乾燥し、ロールミルを用いて粒度0.6?0.212mmに破砕し、整粒して、活性炭を得た。 【0105】 【表1】 ![]() 【0106】 活性炭の性能測定 上記で得られた実施例1?3、比較例1および2、さらに下記に示す比較例3の活性炭について、液体窒素の沸点温度で窒素吸着等温線を求め、BET法により比表面積を、CI法により細孔分布を算出した。ここで、直径2nmまでの細孔をミクロ孔、直径2?30nmまでの細孔をメソ孔とした。また、JIS K1474により、強熱残分、よう素吸着性能および硬さを測定した。 【0107】 比較例3 市販の、塩化亜鉛賦活顆粒状活性炭(日本エンバイロケミカルズ株式会社製:粒状白鷺KL)を用いた。 【0108】 性能測定結果を表2に示した。 【0109】 【表2】 ![]() 【0110】 活性炭の脱色性能測定 実施例1?3及び比較例3の活性炭を用意し、各活性炭を粉砕した。なお、上記各活性炭の粉砕は、試料の適量をJIS Z8801-1に規定する網ふるい45μm(ふるいの枠の寸法:ふるい面から上の内径75mm)を90%以上通過するまで粉砕した。次いで、市販の薄口しょうゆ(登録商標:ヒガシマル、ヒガシマル醤油株式会社製)50mLに、粉砕した上記実施例1?3及び比較例3の各活性炭をそれぞれ加え、25℃、3時間振とう後、ろ過し、各ろ液を得た。次に、当該各ろ液の波長460nmにおける吸光度を測定し、元の吸光度(3.8)の1/10まで脱色したときの活性炭の単位質量あたりの吸光度吸着量を計算して求めた。 【0111】 結果を表3に示した。 【0112】 【表3】 ![]() 【0113】 本発明の活性炭は、メソ孔容積が、市販の塩化亜鉛賦活顆粒状活性炭と同等レベルに発達していた。また、その脱色性能は、塩化亜鉛賦活活性炭と同等以上であった(実施例1?3)。 【0114】 一方、比較例1の活性炭では、メソ孔容積が不足していた。なお、収率を低下させることでメソ孔容積は増大したが、硬さが非常に低くなり、粒状活性炭として使用に耐えない水準となった(比較例2)。 【0115】 本発明の活性炭は、塩化亜鉛賦活活性炭と比べ、硬さが高く、よう素吸着性能にはるかに優れていた(実施例1?3、比較例3)。したがって、本発明の活性炭は、硬さが十分であり、取扱い性に優れ、高吸着性能を有する粒状活性炭であるということができる。 【産業上の利用可能性】 【0116】 本発明の活性炭は、液処理用、特に脱色性能が課題となる用途において、従来の木質系塩化亜鉛賦活活性炭とは異なり、粒状活性炭としてカラム通液方式で使用することができる。また、低分子量の化合物にも高い吸着性能を有することから、溶液吸着処理用活性炭(特に、溶液精製用活性炭)として好適に使用できる。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 下記(1)?(3)の要件を備えた、粒状やし殻活性炭; (1)強熱残分が2質量分率%以下、 (2)硬さが60質量分率%以上、および (3)直径2?30nmのメソ孔容積が0.5mL/g以上である。 【請求項2】 下記(A)?(C)の工程 (A)賦活処理された活性炭とカルシウム成分とを接触させる工程、 (B)工程(A)で得られた活性炭に、賦活処理を行う工程、および (C)工程(B)で得られた活性炭を鉱酸で洗浄する工程、 を含み、 活性炭原料がやし殻であり、 前記カルシウム成分が塩化カルシウム及び水酸化カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、 前記接触により得られた活性炭に占めるカルシウム成分の含有量がカルシウム換算で0.5?2wt%である、請求項1に記載の粒状やし殻活性炭の製造方法。 【請求項3】 下記(A)?(D)の工程 (A)活性炭原料に、炭化処理を施した後、粉砕する工程、 (B)工程(A)で得られた活性炭と、カルシウム成分とを混合し、成型する工程、 (C)工程(B)で得られた活性炭に、炭化処理および賦活処理を行う工程、 (D)工程(C)で得られた活性炭を鉱酸で洗浄する工程 を含む粒状活性炭の製造方法であり、 前記粒状活性炭が下記(1)?(3)の要件 (1)強熱残分が2質量分率%以下、 (2)硬さが60質量分率%以上、および (3)メソ孔容積が0.5mL/g以上である、 を備える、粒状活性炭の製造方法。 【請求項4】 活性炭原料がやし殻である、請求項3に記載の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-12-19 |
出願番号 | 特願2015-501433(P2015-501433) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(C01B)
P 1 651・ 113- YAA (C01B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 廣野 知子 |
特許庁審判長 |
大橋 賢一 |
特許庁審判官 |
山崎 直也 新居田 知生 |
登録日 | 2016-11-04 |
登録番号 | 特許第6033396号(P6033396) |
権利者 | 大阪ガスケミカル株式会社 |
発明の名称 | メソ孔の多い粒状活性炭およびその製造方法、並びに粒状やし殻活性炭およびその製造方法 |
代理人 | 特許業務法人三枝国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人三枝国際特許事務所 |