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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G03G
管理番号 1337038
異議申立番号 異議2016-700478  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-05-24 
確定日 2017-12-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5822415号発明「キャリア芯材並びにこれを用いた電子写真現像用キャリア及び電子写真用現像剤」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第5822415号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第5822415号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5822415号の請求項1-請求項4に係る特許(以下,「本件特許」という。)についての特許出願は,特願2015-46574号として平成27年3月10日に特許出願され,平成27年10月16日に特許権の設定の登録がされたものである。
本件特許について,平成27年11月24日に特許掲載公報が発行されたところ,発行の日から6月以内である平成28年5月24日に,特許異議申立人 長利憲から特許異議の申立がされた(異議2016-700478号)。
その後の手続の経緯の概要は,以下のとおりである。
平成28年 8月24日付け:取消理由通知書
平成28年10月31日差出:訂正請求書
(この訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」という。)
平成28年10月31日差出:意見書(特許権者)
平成29年 1月13日差出:意見書(特許異議申立人)
平成29年 3月31日付け:取消理由通知書(決定の予告)
平成29年 6月 6日差出:意見書(特許権者)
(この意見書を「特許権者意見書」という。)
平成29年 6月29日付け:審尋(特許異議申立人に対し)
平成29年 8月31日差出:回答書(特許異議申立人)

第2 本件訂正について
1 請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は,特許第5822415号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1-4について訂正することを求める,というものである。

2 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は,次のとおりである。なお,下線は当合議体が付したものであり,訂正箇所を示す。
特許請求の範囲の請求項1に,
「 組成式M_(X)Fe_(3-X)O_(4)(但し,Mは,Mn及び/又はMgであり,XはMnとMgの総計であって,MnとMgとによるFeとの置換数である。0<X≦1)で表されるキャリア芯材であって,
球形粒子が2個?5個結合した結合粒子が5個数%?20個数%含まれ,
粉砕前後での,粉末X線回折パターンにおける面指数(311)のピーク位置から算出される格子定数の差が絶対値で0.005以下である
ことを特徴とするキャリア芯材。」と記載されているのを,
「 組成式M_(X)Fe_(3-X)O_(4)(但し,Mは,Mn及び/又はMgであり,XはMnとMgの総計であって,MnとMgとによるFeとの置換数である。0<X≦1)で表されるキャリア芯材であって,
球形粒子が2個?5個結合した結合粒子の下記方法で測定される含有率が5個数%?20個数%であり,
粉砕前後での,粉末X線回折パターンにおける面指数(311)のピーク位置から算出される格子定数の差が絶対値で0.005以下である
ことを特徴とするキャリア芯材。
(結合粒子の含有率測定)
走査電子顕微鏡を用いて倍率250倍で撮影した画像より任意の400粒子を選択し,その中で結合粒子の数をカウントし,上記400粒子中に含まれる結合粒子の個数割合を結合粒子の含有率とする。」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用して記載された請求項2-請求項4についても,同様に訂正する。)

3 訂正の適否
以下,本件訂正前の請求項1を「訂正前請求項1」という。また,訂正後についても,同様とする。
(1) 一群の請求項について
本件訂正請求は,特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である,請求項1-請求項4ごとにされたものである。

(2) 訂正の目的について
本件訂正は,訂正前請求項1には記載されていなかった,結合粒子の含有率の測定方法の記載を追加して訂正後請求項1とする補正である。ここで,結合粒子の含有率については,その測定方法によって異なる結果が得られることは技術常識である。
そうしてみると,本件訂正は,特許法120条の5第2項第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とした訂正である。
請求項1の記載を引用して記載された請求項2-請求項4についても同様である。

(3) 新規事項の有無について
本件訂正は,本件特許の願書に添付した明細書の【0069】の記載に基づくものであるから,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
請求項1の記載を引用して記載された請求項2-請求項4についても同様である。

(4) 拡張又は変更について
前記(1)で述べたとおりであるから,本件訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
請求項1の記載を引用して記載された請求項2-請求項4についても同様である。

4 本件訂正請求についてのまとめ
本件訂正は,特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる事項を目的とするものであり,また,同法同条9項で準用する同法126条5項及び6項の規定にも適合する。また,本件訂正請求は,同法120条の5第4項の規定に適合する。
よって,結論のとおり訂正を認める。

第3 本件特許発明及び取消の理由の概要
1 本件特許発明について
前記「第2」のとおり,本件訂正は認められることとなったので,特許請求の範囲の請求項1-請求項4に係る発明(以下「本件特許発明」と総称する。)は,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1-請求項4に記載された事項によって特定されるとおりの,以下のものである。
「【請求項1】
組成式M_(X)Fe_(3-X)O_(4)(但し,Mは,Mn及び/又はMgであり,XはMnとMgの総計であって,MnとMgとによるFeとの置換数である。0<X≦1)で表されるキャリア芯材であって,
球形粒子が2個?5個結合した結合粒子の下記方法で測定される含有率が5個数%?20個数%であり,
粉砕前後での,粉末X線回折パターンにおける面指数(311)のピーク位置から算出される格子定数の差が絶対値で0.005以下である
ことを特徴とするキャリア芯材。
(結合粒子の含有率測定)
走査電子顕微鏡を用いて倍率250倍で撮影した画像より任意の400粒子を選択し,その中で結合粒子の数をカウントし,上記400粒子中に含まれる結合粒子の個数割合を結合粒子の含有率とする。

【請求項2】
体積平均粒径が25μm以上50μm未満である請求項1記載のキャリア芯材。

【請求項3】
請求項1又は2に記載のキャリア芯材の表面を樹脂で被覆したことを特徴とする電子写真現像用キャリア。

【請求項4】
請求項3記載の電子写真現像用キャリアとトナーとを含む電子写真用現像剤。」

2 取消の理由について
平成29年3月31日付け取消理由通知書で通知した取消の理由のうち,取消理由3(1)の内容は,概略,本件特許発明の結合粒子の判別基準はあいまいであり,同一のキャリア芯材を対象としても,本件訂正後の請求項1に記載された「結合粒子の含有率測定」による「含有率」が「5個数%?20個数%」の範囲に入ったり入らなかったりすることが想定されるから,本件特許発明は,明確であるということができない,というものである。

第4 当合議体の判断
1 結合粒子の含有率について
(1) 結合粒子の含有率の測定方法に関して,特許請求の範囲の請求項1には,「走査電子顕微鏡を用いて倍率250倍で撮影した画像より任意の400粒子を選択し,その中で結合粒子の数をカウントし,上記400粒子中に含まれる結合粒子の個数割合を結合粒子の含有率とする。」と記載されている。ここで,結合粒子の数をカウントするためには,画像より選択された400粒子の各々について,結合粒子であるか否かを判別することが必要である。
しかしながら,請求項1には,結合粒子であるか否かを判別する,判別方法及び判別基準が十分に特定されているとはいえない。また,本件特許の発明の詳細な説明を参照しても,結合粒子であるか否かを判別する方法に関しては,請求項1に記載された事項が記載されているにとどまる。

(2) 本件特許発明の結合粒子は,「球形粒子が2個?5個結合した」ものであるところ,その球形粒子の粒径に下限は設けられていない。したがって,結合粒子であるか否かの判別が,画像の観察者の主観によって左右されることは明らかである。
そうしてみると,観察者が「走査電子顕微鏡を用いて倍率250倍で撮影した画像より任意の400粒子を選択し,その中で結合粒子の数をカウント」する際のカウント数にバラツキが生じるといえる。その結果,同一のキャリア芯材を対象としても,「結合粒子の含有率測定」による「含有率」が「5個数%?20個数%」の範囲に入ったり入らなかったりする。したがって,本件特許の特許請求の範囲の記載は,ある具体的な物が本件特許発明の範囲に入るか否かを,当業者が理解できるように記載されているとはいえない。

(3) 以上のとおり,本件特許発明は明確であるということができないから,本件特許は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2 特許権者の主張について
特許権者は,特許権者意見書において,SEM画像撮影用試料の作製手順及び焼成に伴うネック部の形成について説明するとともに,試料ステージを傾斜及び回転させることにより結合粒子の数をカウントすることができると主張する(3頁下から5行-8頁10行)。
確かに,比較的大きな粒径の球形粒子が結合した結合粒子に関しては,特許権者が主張するとおりの方法によって,結合粒子であるか否かを判別することが,一応,可能であると考えられる。しかしながら,比較的小さな粒径の球形粒子が結合した結合粒子に関しては,特許権者が主張するようなネック部が形成されているかの判断は極めて困難と解され,単に付着しているだけなのか,そもそも球形粒子といえるのかといった判断について,観察者によってばらつきが生じることは明らかである。また,統計学的に考えても,「結合粒子の含有率測定」による「含有率」が「5個数%?20個数%」の範囲に入ったり入らなかったりすると考えられる。
したがって,特許権者の主張は採用できない。

第5 まとめ
本件特許は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,同法113条4号に該当すると認められる。
したがって,本件特許は,取り消されるべきものである。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式M_(X)Fe_(3-X)O_(4)(但し、Mは、Mn及び/又はMgであり、XはMnとMgの総計であって、MnとMgとによるFeとの置換数である。0<X≦1)で表されるキャリア芯材であって、
球形粒子が2個?5個結合した結合粒子の下記方法で測定される含有率が5個数%?20個数%であり、
粉砕前後での、粉末X線回折パターンにおける面指数(311)のピーク位置から算出される格子定数の差が絶対値で0.005以下である
ことを特徴とするキャリア芯材。
(結合粒子の含有率測定)
走査電子顕微鏡を用いて倍率250倍で撮影した画像より任意の400粒子を選択し、その中で結合粒子の数をカウントし、上記400粒子中に含まれる結合粒子の個数割合を結合粒子の含有率とする。
【請求項2】
体積平均粒径が25μm以上50μm未満である請求項1記載のキャリア芯材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のキャリア芯材の表面を樹脂で被覆したことを特徴とする電子写真現像用キャリア。
【請求項4】
請求項3記載の電子写真現像用キャリアとトナーとを含む電子写真用現像剤。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-11-06 
出願番号 特願2015-46574(P2015-46574)
審決分類 P 1 651・ 537- ZAA (G03G)
最終処分 取消  
前審関与審査官 中村 直子  
特許庁審判長 鉄 豊郎
特許庁審判官 中田 誠
樋口 信宏
登録日 2015-10-16 
登録番号 特許第5822415号(P5822415)
権利者 DOWAエレクトロニクス株式会社 DOWA IPクリエイション株式会社
発明の名称 キャリア芯材並びにこれを用いた電子写真現像用キャリア及び電子写真用現像剤  
代理人 山田 茂樹  
代理人 山田 茂樹  
代理人 山田 茂樹  

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