ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 D04B 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 D04B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 D04B |
---|---|
管理番号 | 1337044 |
異議申立番号 | 異議2016-700634 |
総通号数 | 219 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-03-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-07-20 |
確定日 | 2017-12-25 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5933952号発明「布帛および繊維製品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5933952号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲及び図面のとおり、訂正後の請求項〔1-22〕について訂正することを認める。 特許第5933952号の請求項1?4、6?11、13?15、18、22に係る特許を取り消す。 特許第5933952号の請求項12、16、17、19?21に係る特許を維持する。 特許第5933952号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第5933952号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?22に係る特許についての出願は、平成23年10月6日に特許出願され、平成28年5月13日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人岩崎勇(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成29年1月30日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年2月27日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。訂正自体を「本件訂正」という。)があり、本件訂正請求に対して、申立人から平成29年3月29日に意見書が提出された。その後、当審において平成29年6月26日付けで取消理由(決定の予告)を通知したが、その指定された期間内に、特許権者からは応答がなかった。 2.訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は以下のア.?ウ.のとおりである。 ア.訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「前記合成繊維Aまたは合成繊維Bが30T/m以下のトルクを有する仮撚捲縮加工糸」 と記載されているのを、 「前記合成繊維Bが30T/m以下のトルクを有する単糸数20本以上の仮撚捲縮加工糸」 に訂正する。 イ.訂正事項2 特許請求の範囲の請求項5を削除する。 ウ.訂正事項3 特許請求の範囲の請求項22に 「布帛を用いてなる、スポーツウエア、アウトドアウエア、レインコート、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、防護服、人工皮革、履物、鞄、カーテン、テント、寝袋、防水シート、およびカーシートの群より選ばれるいずれかの繊維製品。」 と記載されているのを、 「布帛を、前記合成繊維Bが配された表面(裏面)が人体側に位置するよう用いてなる、スポーツウエア、アウトドアウエア、レインコート、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、防護服の群より選ばれるいずれかの繊維製品。」 に訂正する。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 ア.訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項1の、「前記合成繊維Aまたは合成繊維Bが30T/m以下のトルクを有する仮撚捲縮加工糸」を「前記合成繊維Bが30T/m以下のトルクを有する単糸数20本以上の仮撚捲縮加工糸」と限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そして、訂正事項1は、本件特許明細書の段落【0020】の「前記合成繊維Bが、マルチフィラメントに仮撚捲縮加工が施された仮撚捲縮加工糸、空気加工糸、2種以上の構成糸条を空気混繊加工や複合仮撚加工させた複合糸、さらには前記のような30T/m以下のトルクを有する複合糸であってもよい。特に、前記合成繊維Bが仮撚捲縮加工糸(好ましくは、単糸数20本以上の仮撚捲縮加工糸)であると、優れた吸水性が得られ好ましい。・・・」の記載に基づくもので、訂正事項1は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。 イ.訂正事項2について 訂正事項2は、請求項5を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そして、訂正事項2は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。 ウ.訂正事項3について 訂正事項3は、訂正前の請求項22の「布帛を用いてなる、スポーツウエア、アウトドアウエア、レインコート、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、防護服、人工皮革、履物、鞄、カーテン、テント、寝袋、防水シート、およびカーシートの群より選ばれるいずれかの繊維製品。」を「布帛を、前記合成繊維Bが配された表面(裏面)が人体側に位置するよう用いてなる、スポーツウエア、アウトドアウエア、レインコート、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、防護服、人工皮革の群より選ばれるいずれかの繊維製品。」と限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そして、訂正事項3は、本件特許明細書の段落【0034】の「次に、本発明の繊維製品は、記載の布帛を用いてなる、スポーツウエア、アウトドアウエア、レインコート、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、防護服、人工皮革、履物、鞄、カーテン、テント、寝袋、防水シート、およびカーシートの群より選ばれるいずれかの繊維製品である。ここで、前記合成繊維Bが露出した表面(前記合成繊維Bが布帛の両面に露出している場合は、より多く前記合成繊維Bが露出する表面)を人体側に用いることが好ましい。・・・」の記載に基づくもので、訂正事項3は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。 (3)一群の請求項について 訂正前の請求項2?22は、訂正前の請求項1を直接又は間接に引用する請求項であるから、本件訂正は、請求項1?22の一群の請求項に対して請求されたものである。 (4)むすび 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項[1?22]について訂正することを認める。 3.本件発明 上記のとおり本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1?22に係る発明(以下、「本件発明1?22」といい、これらをまとめて「本件発明」ということもある。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?22に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 撥水加工されていないポリエステル繊維からなる合成繊維Aと、撥水加工されたポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、およびポリ塩化ビニル繊維からなる群より選択される少なくとも1種である合成繊維Bとを含み、かつ目付けが50?170g/m^(2)の範囲内であり、かつ前記合成繊維Bが30T/m以下のトルクを有する単糸数20本以上の仮撚捲縮加工糸であることを特徴する布帛。 【請求項2】 前記の撥水加工されたポリエステル繊維が、フッ素系撥水剤を用いて撥水加工されたものである、請求項1に記載の布帛。 【請求項3】 前記の撥水剤が、パーフルオロオクタン酸およびパーフルオロオクタンスルホン酸の濃度が0?5ng/gのフッ素系撥水剤である、請求項2に記載の布帛。 【請求項4】 前記合成繊維Bの単糸繊度が前記合成繊維Aの単糸繊度よりも大である、請求項1?3のいずれかに記載の布帛。 【請求項5】 (削除) 【請求項6】 前記合成繊維Aの単糸繊度が1.5dtex以下である、請求項1?5のいずれかに記載の布帛。 【請求項7】 前記合成繊維Aが、単糸数30本以上のマルチフィラメントである、請求項1?6のいずれかに記載の布帛。 【請求項8】 前記合成繊維Aが仮撚捲縮加工糸である、請求項1?7のいずれかに記載の布帛。 【請求項9】 前記合成繊維Aまたは合成繊維Bが異型断面繊維である、請求項1?8のいずれかに記載の布帛。 【請求項10】 布帛が編地である、請求項1?9のいずれかに記載の布帛。 【請求項11】 布帛の一方表面において前記合成繊維Aが露出しており、布帛の他方表面に前記合成繊維Bが露出している、請求項1?10のいずれかに記載の布帛。 【請求項12】 布帛が編地であり、かつ合成繊維Aが露出した表面において、合成繊維Aからなるループ数が表面全体のループ数に対し20%以上であり、かつ合成繊維Bが露出した表面において、合成繊維Bからなるループ数が表面全体のループ数に対し20%以上である、請求項1?11のいずれかに記載の布帛。 【請求項13】 前記の編地が多層構造編地または単層リバーシブル編地である、請求項10?12のいずれかに記載の布帛。 【請求項14】 吸水加工が施されている、請求項1?13のいずれかに記載の布帛。 【請求項15】 布帛の厚さが1.0mm以下である、請求項1?14のいずれかに記載の布帛。 【請求項16】 前記合成繊維Bが露出した布帛表面において、JIS L1096 6.26吸水速度A法(滴下法)が30秒以下である、請求項11?15のいずれかに記載の布帛。 【請求項17】 布帛両表面の、JIS L1096 6.26吸水速度B法(バイレック法)の比が2以上である、請求項11?16のいずれかに記載の布帛。 【請求項18】 布帛両表面の、拡散面積比率が2以上である、請求項11?17のいずれかに記載の布帛。 【請求項19】 前記合成繊維Bが露出した布帛表面において、水分残り率が25%以下である、請求項11?18のいずれかに記載の布帛。 【請求項20】 前記合成繊維Bが露出した布帛表面において、湿潤摩擦力が70g以下である、請求項11?19のいずれかに記載の布帛。 【請求項21】 前記合成繊維Bが露出した布帛表面において、発汗時の冷え感が0.05以下である、請求項11?20のいずれかに記載の布帛。 【請求項22】 請求項1?21のいずれかに記載の布帛を、前記合成繊維Bが配された表面(裏面)が人体側に位置するよう用いてなる、スポーツウエア、アウトドアウエア、レインコート、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、防護服の群より選ばれるいずれかの繊維製品。」 4.取消理由の概要 平成29年1月30日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。なお、申立人による特許異議申立書に記載された特許異議申立理由は、すべて通知した。 1)本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 2)本件特許は、明細書の記載、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号及び第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 甲第1号証:特開2005-105441号公報 甲第2号証:特開2005-68602号公報 甲第3号証:国際公開第2008/001920号 甲第4号証:特開2007-247096号公報 (1)[理由1](29条) ア.本件発明1について 本件発明1は、甲第1号証記載の発明及び甲第3号証記載の事項、又は甲第2号証記載の発明及び甲第3号証記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 イ.本件発明2?22について 本件発明2?22は、甲第1号証?甲第4号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2)[理由2](36条) 本件特許の発明の詳細な説明には、本件発明1の「前記合成繊維Aまたは合成繊維Bが30T/m以下のトルクを有する仮撚捲縮加工糸であること」により、吸水性が一層向上することについて、何ら記載されていない。 また、本件は、手続補正により、明細書の「実施例」は、全て「参考例」となったため、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1について、課題を解決できることや作用効果について、実施例等に基づく実証的な説明が何らされていないものとなっている。 本件発明2?22についても同様である。 よって、本件発明1?22は、発明の詳細な説明に記載されたものではないし、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1?22を実施することができる程度に、明確かつ十分に記載されたものでもない。 5.当審の判断 事案に鑑み、まず理由2について検討する。 (1)理由2(36条)について ア.サポート要件 本件発明の課題は、「吸水性に優れ、かつべとつき感の少ない布帛、および該布帛を用いてなる繊維製品を提供すること」(本件特許明細書【0005】)である。 ここで、本件発明1の発明特定事項について、本件特許明細書の記載を確認すると、 「【0017】 前記合成繊維A(ポリエステル繊維)は撥水加工されていないことが肝要である。前記合成繊維A(ポリエステル繊維)が撥水加工されていると、布帛において優れた吸水性が得られず好ましくない。 【0018】 一方、合成繊維Bの繊維種類は、撥水加工されたポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、およびポリ塩化ビニル繊維からなる群より選択される少なくとも1種である。これらの繊維はいずれも優れた撥水性を有するので、かかる合成繊維Bと前記合成繊維Aとを用いて布帛を製編または製織することにより吸水性に優れ、かつべとつき感の少ない布帛が得られる。 【0019】 ・・・特に、合成繊維Bのフィラメント数、総繊度としては、フィラメント数20本以上(より好ましくは20?200本)、総繊度30?200dtex(より好ましくは30?150dtex)であると、優れた吸水性が得られ好ましい。・・・ 【0020】 ・・・前記合成繊維Bが、マルチフィラメントに仮撚捲縮加工が施された仮撚捲縮加工糸、空気加工糸、2種以上の構成糸条を空気混繊加工や複合仮撚加工させた複合糸、さらには前記のような30T/m以下のトルクを有する複合糸であってもよい。特に、前記合成繊維Bが仮撚捲縮加工糸(好ましくは、単糸数20本以上の仮撚捲縮加工糸)であると、優れた吸水性が得られ好ましい。・・・」と記載され、さらに段落【0016】には、「・・・S方向のトルクを有する仮撚捲縮加工糸とZ方向のトルクを有する仮撚捲縮加工糸とを合糸して空気交絡処理を行うことにより得られた30T/m以下のトルクを有する複合糸(複合仮撚捲縮加工糸)であると、布帛に抗スナッギング性を付加することができ好ましい。」と記載されている。 その上、本件特許明細書の【0036】?【0044】の、参考例1、2、4?6においては、「合成繊維Bが30T/m以下のトルクを有する」点を除き、本件発明1の発明特定事項を満たすものであり、【表1】から、参考例1、2、4?6は、上記本件特許明細書段落【0005】記載の「吸水性に優れ、かつべとつき感の少ない布帛、および該布帛を用いてなる繊維製品を提供すること」との課題を解決し得ることが確認できる。 そうすると、本件発明1は、発明の詳細な説明において、本件発明1の課題を解決できることが当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではない。 したがって、本件発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明である。 また、本件発明2?4、6?22も、同様である。 イ.実施可能要件 本件発明1に関して、合成繊維Aについて、本件特許明細書の【0016】?【0017】、合成繊維Bについて、本件特許明細書の【0018】?【0020】に好ましい樹脂が挙げられており、特に【0020】に、「前記合成繊維Bが、マルチフィラメントに仮撚捲縮加工が施された仮撚捲縮加工糸、空気加工糸、2種以上の構成糸条を空気混繊加工や複合仮撚加工させた複合糸、さらには前記のような30T/m以下のトルクを有する複合糸であってもよい。特に、前記合成繊維Bが仮撚捲縮加工糸(好ましくは、単糸数20本以上の仮撚捲縮加工糸)であると、優れた吸水性が得られ好ましい。前記合成繊維Bの単繊維横断面形状は特に限定されず、丸だけでなく、三角、扁平、国際公開第2008/001920号パンフレットに記載されたようなくびれ付き扁平、中空など異型断面形状などでもよい。」と、合成繊維Bが仮撚捲縮加工糸(好ましくは、単糸数20本以上の仮撚捲縮加工糸)である場合は、国際公開第2008/001920号を参照する旨が記載されている。 さらに、本件特許明細書の【0036】?【0044】の、参考例1、2、4?6においては、「合成繊維Bが30T/m以下のトルクを有する」点を除き、本件訂正発明1の発明特定事項を満たすものが具体的に挙げられている。 上記本件特許明細書の記載によれば、本件訂正発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、当業者が容易に実施できる程度に記載されているといえる。 また、本件訂正発明2?4、6?22も、同様である。 (2)理由1について (2-1)刊行物の記載 ア.甲第1号証(以下、「甲1」という。)(特開2005-105441号公報) 甲1には、以下の事項が記載されている。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 裏面層が撥水加工された合成繊維マルチフィラメントを30?90重量%含む糸条から構成され、表面層は吸水加工された糸条から構成されると共に、表面層の裏面層に対する吸水保水率比が6倍以上、かつ吸水拡散面積比が4倍以上であることを特徴とする多層構造編地。 【請求項2】 裏面層が撥水加工された合成繊維マルチフィラメントを30?90重量%含む糸条から構成され、表面層は吸湿性繊維を少なくとも30重量%含む糸条から構成されると共に、表面層の裏面層に対する吸水保水率比が6倍以上、かつ吸水拡散面積比が4倍以上であることを特徴とする多層構造編地。 【請求項3】 表面層と裏面層とが接結糸条で接結されており、かつ表面層が単糸繊度0.5?3.0デシテックスの範囲である合成繊維マルチフィラメントの糸条で構成されるとともに、裏面層は前記表面層を構成する糸条の単糸繊度の1.5倍以上5.5倍未満の単糸繊度の糸条で構成されることを特徴とする請求項1または2に記載の多層構造編地。 【請求項4】 表面層が、繊維表面に繊維長手方向に沿って延びる複数の凹溝をもつ合成繊維マルチフィラメントを少なくとも30重量%含む糸条から構成され、裏面層が繊維表面に繊維長手方向に沿って延びる凹溝を持たないフィラメントの糸条から構成されることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の多層構造編地。 【請求項5】 前記合成繊維マルチフィラメントの糸条が、ポリエステル系合成繊維、ポリアミド系合成繊維の少なくとも一方を構成要素として含むことを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の多層構造編地。」 「【0001】 本発明は、多層構造編地に関する、さらに詳しくは、汗、あるいは尿の水処理性に優れるともに、速乾性、機械強度、発色性を維持し、衣料用および資材用に好適に使用できる多層構造編地に関する。」 「【0008】 本発明の課題は、上述した従来の課題を解消し、合成繊維マルチフィラメントを含みながら多発汗時、または、多量な尿でもベトツキ感が軽減され、肌側の裏面層で吸収した汗、あるいは尿を表面層側へ移動させる吸水・透水性、表面層での蒸散・速乾性、かつウオッシュアンドウエア性のいずれにも優れた性能を発揮できる多層構造編地を提供することにある。」 「【0011】 本発明の多層構造編地によれば、スポーツウエアやオムツカバーなどに用いた際に、多くの汗とか尿を素早く吸水・透水・拡散・拡散させることによりベトツキ感がなく、良好な着用快適性を得ることができ、また合成繊維であるため優れたウオッシュアンドウエア性などの取り扱い性を得ることができる。」 「【0017】 また、該編地の表面層が吸水加工された糸条から構成されることが必要であり、一方編地の裏面層(肌面)が撥水加工された合成繊維マルチフィラメントを30?90重量%含む糸条から構成され、これら表裏層組合せの構成にすることが必要であり、この構成と上記の吸水保水率比と吸水拡散面積比を規定することにより、吸水・透水・拡散・乾燥を効率よく行うことができ、結果として連続して汗、あるいは尿を吸い続けることが可能となる。なお、表裏層の吸水保水率比および吸水拡散面積比の設計については、特に裏面層(肌面)を構成する撥水加工された合成繊維マルチフィラメントの割合を適宜選択すること等によって行うことができる。」 「【0019】 ここで用いる撥水加工剤は、シリコーン系撥水剤、フッ素系撥水剤など、通常に合成繊維に使用される撥水剤を用いることができるが、耐久性の面からフッ素系撥水剤が好ましく、中でもぺルフルオロアルキル基含有アクリル共重合体を含むフッ素系撥水剤が好ましい。また、耐久性の面から、撥水剤に、アミノプラスト樹脂、多官能ブロックイソシアネート基含有ウレタン樹脂、エチレンカーボネートなどを併用添加してもよい。」 「【0045】 本発明の多層構造編地は、次のように幅広く展開可能である。例えば、衣料用である運動着類、肌着類、ホームウエア類、ユニフォームウエア類、アウターウエア類。資材用である裏地類、靴材類、サポーター類、靴下類、手袋類、帽子裏材類、オムツカバー類、シーツ類である。 【0046】 運動着類ならば、ランニングシャツ・パンツ、競技シャツ・パンツ、ゴルフシャツ、テニスシャツ、サイクルシャツ、アウトドアシャツ、ポロシャツ、Tシャツ、野球用アンダーシャツ、トレーニングウエア、スエットシャツ・パンツ等。肌着類ならば、一般婦人用肌着であるスリップ、キャミソール、ペチコート、ショーツ、アンダーパンツ、タイツ、Tシャツ、丸首シャツ、U首シャツ、ボディスーツ、ガードル等や、一般紳士用肌着であるTシャツ、丸首シャツ、U首シャツ、ランニングシャツ、アンダーパンツ、タイツ、ブリーフ、トランクス等、さらに、また、これらの肌着の転用を含めたアスレチック、アウトドア、スキー等のスポーツ用肌着、さらには、屋外作業、屋内作業等の作業用肌着等。ホームウエア類ならば、室内着、パジャマ、ネグリジェ、ガウン等。アウターウエア類ならば、婦人服、紳士服、子供服、作業服等。裏地類ならば、スポーツウエア用、婦人服用、紳士服用、子供服用、礼服用、学生服用、作業服用裏地等に好ましく使用することができる。」 「【0051】 実施例1 24ゲージ両面丸編機を用い、図1に示す一完全組織F1?F12の12口給糸からなる裏面ハニカム調リバーシブル編組織において、それぞれの表面編組織用の給糸口であるF2、F4、F6、F8、F10、F12の全6給糸の糸条ロ1?ロ6にポリエステル83デシテックス72フィラメント丸型断面の通常の仮撚加工糸を、また裏面(肌面)編組織用の給糸口であるF1、F3、F5、F7、F9、F11の全6給糸の糸条イ1?イ6の内、F1とF7の2給糸口の糸条イ1とイ4にポリエステル83デシテックス36フィラメント丸型断面の仮撚加工糸に撥水加工を施した糸条を、他の裏面(肌面)編組織用の給糸口であるF3、F5、F9、F11の4給糸口の糸条イ2、イ3、イ5、イ6に同じポリエステル83デシテックス36フィラメント丸型断面の撥水加工を施していない通常の仮撚加工糸を配して編成した。 【0052】 ポリエステル83デシテックス36フィラメント丸型断面の仮撚加工糸への撥水加工は、該糸をチーズ形状に巻き返し、フッ素系撥水加工剤へ浸漬後ドライ・キュアにより架橋反応させる方法で得た糸条を使用した。 【0053】 その後、通常のポリエステル編地の染色加工条件に準じて、精練、染色、吸水加工、仕上げセットを行い、目付180g/m^(2)である編地を得た。この編地裏面(肌面)における撥水加工された糸条の混率は33%であり、かつ表裏層の吸水保水率比は6.3倍、吸水拡散面積比は4.7倍であった。 【0054】 この編地を用いてテニスシャツを作製し、真夏の炎天下、テニスを30分間プレーしたところ、表1に示す評価結果の通り、肌面のベトツキ感がなく、優れた着用快適性を有していた。 【0055】 実施例2 実施例1と同一の丸編機を用い、実施例1と同一の図1の編組織において、それぞれの表面編組織用の給糸口であるF2、F4、F6、F8、F10、F12の全6給糸の糸条ロ1?ロ6にポリエステル83デシテックス36フィラメントX型断面の通常の仮撚加工糸を、また裏面(肌面)編組織用の給糸口であるF1、F3、F5、F7、F9、F11の全6給糸の糸条イ1?イ6の内、F1とF5とF9の3給糸口の糸条イ1とイ3とイ5に実施例1と同一撥水加工法によるポリエステル83デシテックス36フィラメント丸型断面の仮撚加工糸に撥水加工を施した糸条を、他の裏面(肌面)編組織用の給糸口であるF3、F7、F11の3給糸口の糸条イ2、イ4、イ6に同じポリエステル83デシテックス36フィラメント丸型断面の撥水加工を施していない通常の仮撚加工糸を配して編成した。 【0056】 その後、通常のポリエステル編地の染色加工条件に準じて、精練、染色、吸水加工、仕上げセットを行い、目付182g/m^(2)である編地を得た。この編地裏面(肌面)における撥水加工された糸条の混率は50%であり、かつ表裏層の吸水保水率比は8.5倍、吸水拡散面積比は7.1倍であった。 【0057】 この編地を用いてテニスシャツを作製し、真夏の炎天下、テニスを30分間プレーしたところ、表1に併せて示す評価結果の通り、肌面のベトツキ感がなく、優れた着用快適性を有していた。」 「【0061】 実施例4 実施例1と同一の丸編機を用い、実施例1と同一の図1の編組織において、それぞれの表面編組織用の給糸口であるF2、F4、F6、F8、F10、F12の全6給糸の糸条ロ1?ロ6にポリエステル83デシテックス72フィラメント丸型断面の通常の仮撚加工糸を、また裏面(肌面)編組織用の給糸口であるF1、F3、F5、F7、F9、F11の全6給糸の糸条イ1?イ6の内、F1、F3、F5、F7、F9の5給糸口の糸条イ1、イ2、イ3、イ4、イ5に実施例1と同一撥水加工法によるポリエステル83デシテックス36フィラメント丸型断面の仮撚加工糸に撥水加工を施した糸条を、他の裏面(肌面)編組織用の給糸口であるF11の1給糸口の糸条イ6に同じポリエステル83デシテックス36フィラメント丸型断面の撥水加工を施していない通常の仮撚加工糸を配して編成した。 【0062】 その後、通常のポリエステル編地の染色加工条件に準じて、精練、染色、吸水加工、仕上げセットを行い、目付185g/m^(2)である編地を得た。この編地裏面(肌面)における撥水加工された糸条の混率は83%であり、かつ表裏層の吸水保水率比は13.1倍、吸水拡散面積比は12.8倍であった。 【0063】 この編地を用いてテニスシャツを作製し、真夏の炎天下、テニスを30分間プレーしたところ、表1に併せて示す評価結果の通り、肌面のベトツキ感がなく、優れた着用快適性を有していた。」 「【0073】 【表1】 」 甲1の上記【特許請求の範囲】、【0001】及び【0017】の記載から、多層構造編地は、表面層が糸条から構成され、裏面層が撥水加工された合成繊維マルチフィラメントを30?90重量%含む糸条から構成されているといえる。 甲1の【0051】?【0063】及び【表1】の実施例1、2、4に関する記載から、多層構造編地は、裏面層が、ポリエステルの36フィラメント仮撚加工糸に撥水加工を施した、合成繊維マルチフィラメントを含み、残りが撥水加工を施していない通常のポリエステルの仮撚加工糸である糸条から構成され、表面層が撥水加工を施していない通常のポリエステルの72フィラメントの糸条から構成され、目付が、180g/m^(2)、182g/m^(2)、185g/m^(2)であるといえる。 以上の記載によれば、甲1には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「裏面層が、ポリエステルの36フィラメント仮撚加工糸に撥水加工を施した、合成繊維マルチフィラメントを30?90重量%含み、残りが撥水加工を施していない通常のポリエステルの仮撚加工糸である糸条から構成され、表面層が撥水加工を施していない通常のポリエステルの72フィラメントの糸条から構成され、目付が、180g/m^(2)、182g/m^(2)、185g/m^(2)である、多層構造編地。」 イ.甲第2号証(以下、「甲2」という。)甲2(特開2005-68602号公報) 甲2には、以下の事項が記載されている。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 表面組織層と裏面組織層からなる二重編生地であって、前記の表面組織層は原糸に繊細なスリットがランダムに刻設されていると共に、異形断面形状の吸汗速乾性のポリエステル原糸で構成され、前記の裏面組織層はポリオレフィン仮撚糸で構成されていることを特徴とする吸汗速乾性丸編地。 【請求項2】 吸汗速乾性のポリエステル原糸が中空糸である請求項1に記載の吸汗速乾性丸編地。 【請求項3】 ポリオレフィン仮撚糸がポリプロピレン仮撚糸またはポリエチレン仮撚糸である請求項1に記載の吸汗速乾性丸編地。」 「【0001】 本発明は、衣類に使用した時に、汗をよく吸収するだけでなく、吸収した汗を速く乾燥させる性質(以下、吸汗速乾性と称する。)を持ち、着用感が快適なスポーツ用、インナー用衣類などに適する吸汗速乾性丸編地に関するものである。」 「【0009】 本発明の吸汗速乾性丸編地は、発汗の多い運動をしても、汗をよく吸収すると共に吸収した汗を速く乾燥させることができ、べとつき感やまとわりつき感がなく、さらさらとした表面になり、冷え感もなくなることから、スポーツウエアー、インナーなど各種衣類に用いると快適な着用感が得られる。また、本発明の吸汗速乾性丸編地は、丸編地の構造および原糸特性に基づいて吸汗速乾性が発現されるのでその効果が半永久的である。」 「【0010】 以下に、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明すれば、吸汗速乾性丸編地1は図1に示すように、表面組織層2と裏面組織層3からなる二重編に編成されている。表面組織層2は異形断面形状の吸汗速乾性ポリエステル原糸2aで構成され、裏面組織層3はポリオレフィン仮撚糸3aで構成されている。 【0011】 上記の吸汗速乾性ポリエステル原糸2aは、溶融状態のポリエステル紡糸液を異形紡糸に紡糸して製造できる。また、上記の吸汗速乾性ポリエステル原糸2aの側面には微細なスリット4が多数ランダムに刻設されている。このスリット4によって、毛細管現象が起き皮膚から発散された汗を吸汗速乾性丸編地1に迅速に吸収するようになる。吸汗速乾性ポリエステル原糸2aは、図4Bに示すように中空部5の有する中空糸形態のものでもよい。」 「【0012】 一方、裏面組織層3は疎水性のポリオレフィン仮撚糸3aで構成されている。ポリオレフィン仮撚糸3aとしては、ポリエチレン仮撚糸またはポリプロピレン仮撚糸を使用することができる。これらの水分吸収率は0.05(標準状態水分率)で疎水性である。これに対して、表面組織層2に使用されるポリエステル原糸2aは水分吸収率が0.4(標準状態水分率)でポリオレフィン仮撚糸3aに比べ相対的に親水性を持つている。 【0013】 その結果、本発明の吸汗速乾性丸編地1は皮膚から汗が発散されると、皮膚と接触している裏面組織層3の疎水性ポリオレフィン仮撚糸3aが汗を外に押し出し、表面組織層2のポリエステル原糸2aが汗を吸い込み、迅速に吸収する。さらに、表面組織層2のポリエステル原糸2aの側面に刻設されたスリット4により毛細管現象を起こし、より早く汗を吸収する。このように裏面組織層3と表面組織層2との有機的な相互作用で吸汗速乾丸編地1はより迅速に汗を吸収するようになる。」 「【0016】 本発明において、吸汗速乾性丸編地1の吸汗性および乾燥性は次のような方法で評価した。 ・吸汗速度(mm/10分) バイレック法(吸い上げ法) 具体的には横および縦が各2.5cmの一定の長さの丸編地試料の先端を水中に10分間浸した後、水が丸編地試料に沿って上がってきた高さを測定する。 ・乾燥速度(分) 標準状態で丸編地試料に試料の重さと同じ(100重量%)量の水を浸した後、丸編地試料が完全に乾燥するのにかかる時間を測定する。 【実施例1】 【0017】 以下、実施例および比較例を通して本発明を詳しく説明する。 18ゲージ、ダイアル4レースの両面丸編機に表面組織層2の原糸2aが異形断面形状で、側面にスリット4が刻設されている吸汗速乾性ポリエステル原糸2aを給糸し、裏面組織層3の原糸3aでポリプロピレン仮撚糸3aを給糸し、二重編の吸汗速乾性丸編地1を編成した。編成された吸汗速乾性丸編地1の吸湿特性を評価した結果は表1の通りである。 【実施例2】 【0018】 中空部5を持つ吸汗速乾性ポリエステル原糸2aを表面組織層2の原糸として使用したものを除いては実施例1と同じ条件および工程で二重編の吸汗速乾性丸編地1を編成した。編成された吸汗速乾性丸編地1の吸湿特性を評価した結果は表1の通りである。 (比較例1) 【0019】 18ゲージ、ダイアル4レースの両面丸編機に表面組織層の原糸で正規ポリエステル原糸を給糸し、裏面組織層の原糸で綿糸を給糸し二重編の丸編地を編成した。編成された丸編地の吸湿特性を評価した結果は表1の通りである。 (比較例2) 【0020】 18ゲージ、ダイアル4レースの両面丸編機に表面組織層の原糸で異形断面形状で側面にスリットが形成されている吸汗速乾性ポリエステル原糸を給糸し、裏面組織層原糸で綿糸を給糸し、二重編の丸編地を編成する。編成された丸編地の吸湿特性を評価した結果は表1の通りである。 (比較例3) 【0021】 18ゲージ、ダイアル4レースの両面丸編機に表面組織層の原糸でポリオレフィン仮撚糸を給糸し、裏面組織層の原糸で綿糸を給糸し、二重編の丸編地を編成した。編成された丸編地の吸湿特性を評価した結果は表1の通りである。」 「【0022】 丸編地吸湿特性評価結果 【表1】 」 以上の記載(特に、【特許請求の範囲】、【0012】)によれば、甲2には以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。 「表面組織層と裏面組織層からなる二重編生地であって、前記の表面組織層は原糸に繊細なスリットがランダムに刻設されていると共に、異形断面形状の吸汗速乾性の親水性のポリエステル原糸で構成され、前記の裏面組織層はポリオレフィン仮撚糸で構成され、前記ポリオレフィン仮撚糸が疎水性のポリプロピレン仮撚糸またはポリエチレン仮撚糸である吸汗速乾性丸編地。」 ウ.甲第3号証(以下、「甲3」という。)(国際公開第2008/001920号) 甲3には、以下の事項が記載されている。 「かくして得られた複合糸のトルクとしては、30T/m以下 (好ましくは10T/m以下、 特に好ましくはノントルク (0T/m ) であることが肝要である。かかる低トルクの複合糸を用いて編地を構成することにより、ソフトな風合いや ストレッチ性を損なうことなく優れた抗スナッギング性が得られる。」(4頁6行?9行) エ.甲第4号証(以下、「甲4」という。)(特開2007-247096号公報)には、以下の事項が記載されている。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 フッ素系撥水化合物(A)とフッ素系撥水化合物(B)の混合物であり、高速液体クロマトグラフ-質量分析計(LC-MS)で測定したときのパーフルオロオクタン酸および/またはパーフルオロオクタンスルホン酸の濃度が、(A)が5ng/g未満で、(B)が5ng/gを越えるものからなり、(A)と(B)の混合物が5ng/g未満であることを特徴とするフッ素系撥水剤。」 「【0001】 本発明は、環境問題に配慮したフッ素系撥水剤の耐久性を改善した繊維構造物に関するものである。」 「【0004】 本発明は、かかる現状に鑑み、環境問題に配慮したフッ素系撥水剤を使用し、その耐久性に優れた繊維構造物を提供せんとするものである。」 (2-2)甲2発明に基づく進歩性について ア.本件発明1について 本件発明1と、甲2発明とを対比すると、少なくとも以下の相違点Aで相違する。 〈相違点A〉本件発明1では、合成繊維Bは、撥水加工されたポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、およびポリ塩化ビニル繊維からなる群より選択される少なくとも1種であるのに対して、甲2発明では、裏面組織層の糸はポリオレフィン仮撚糸で構成され、前記ポリオレフィン仮撚糸が疎水性のポリプロピレン仮撚糸またはポリエチレン仮撚糸であるが、撥水加工されているかどうか不明である点。 相違点Aについて検討する。 裏面組織層の糸はポリオレフィン仮撚糸であり、「疎水性」であるが、それについては、甲2の段落【0012】に「一方、裏面組織層3は疎水性のポリオレフィン仮撚糸3aで構成されている。ポリオレフィン仮撚糸3aとしては、ポリエチレン仮撚糸またはポリプロピレン仮撚糸を使用することができる。これらの水分吸収率は0.05(標準状態水分率)で疎水性である。・・・」であるとしか記載されておらず、甲2には、裏面組織層の糸を撥水加工する点は、記載されていない。そして、疎水性の裏面組織層の糸を、あえて、これを撥水加工されたもの変更する動機付けがない。 よって、上記相違点Aは実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲2発明及び甲3記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ.本件発明2?4、6?22について 本件発明2?4、6?22は、本件発明1の発明特定事項をすべてを含むものであるから、本件発明1と同様の理由により、本件発明2?4、6?22は、甲2発明及び甲1?甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2-3)甲1発明に基づく進歩性について ア.本件発明1について (ア)甲1発明 甲1発明は、上記「5.(2)(2-1)ア.」に示したとおりである。 (イ)対比、一致点、相違点 本件発明1と、甲1発明とを対比する。 甲1発明の「仮撚加工糸」は、甲1の【0042】の「・・・捲縮加工糸としては、特に仮撚加工糸が好ましい。」との記載から、本件発明1の「仮撚捲縮加工糸」に相当する。 甲1発明の裏面層の糸条のうち「ポリエステルの36フィラメント仮撚加工糸に撥水加工を施した、合成繊維マルチフィラメント」は、本件発明1の「撥水加工されたポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、およびポリ塩化ビニル繊維からなる群より選択される少なくとも1種である合成繊維B」に相当する。 甲1発明の「36フィラメント仮撚加工糸」は、本件発明1の「単糸数20本以上の仮撚捲縮加工糸」に相当する。 甲1発明の表面層の「撥水加工を施していない通常のポリエステルの72フィラメントの糸条」は、本件発明1の「撥水加工されていないポリエステル繊維からなる合成繊維A」に相当する。 よって、本件発明1と甲1発明とは、 「撥水加工されていないポリエステル繊維からなる合成繊維Aと、撥水加工されたポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、およびポリ塩化ビニル繊維からなる群より選択される少なくとも1種である合成繊維Bとを含む布帛。」 である点(以下、〈一致点〉という。)で一致し、以下の〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉で相違する。 〈相違点1-1〉 本件発明1では、目付けが50?170g/m^(2)の範囲内であるのに対して、甲1発明では、目付けがその範囲ではない点。 〈相違点1-2〉 合成繊維Bが、本件発明1では、合成繊維Bが30T/m以下のトルクを有する仮撚捲縮加工糸であるのに対して、甲1発明では、そのような構成を有しない点。 (ウ)相違点の判断 (相違点1-1について) 目付けについては、使用用途に応じて、当業者が適宜決定し得る事項であり、目付け50?170g/m^(2)の範囲について、本件特許明細書の段落【0025】に「かくして得られた布帛において、布帛の目付けとしては200g/m^(2)以下(より好ましくは50?200g/m^(2))であることが好ましい。該目付けが200g/m^(2)よりも大きいと布帛の重量が大きくなり、布帛の着用快適性が損なわれるおそれがある。・・・」と記載されているだけで、甲1発明の目付け、180g/m^(2)、182g/m^(2)、185g/m^(2)と大差なく、目付けが50?170g/m^(2)の範囲内であるようにしたことにより、格別の効果を生じるものではない。 したがって、布帛の目付けが50?170g/m^(2)の範囲内であるようにすることは、当業者が容易に想到し得る事項にすぎない。 (相違点1-2について) 甲1発明は、編地で構成されており、編地に抗スナッギング性を付加することが望ましいことは、本件出願前に、繊維の分野でよく知られた技術常識である(甲1の段落【0034】にも「抗スナッギング性」について記載がある。)。そして、甲3には、「かくして得られた複合糸のトルクとしては、30T/m以下(好ましくは10T/m以下、特に好ましくはノントルク(0T/m ) )であることが肝要である。かかる低トルクの複合糸を用いて編地を構成することにより、ソフトな風合いやストレッチ性を損なうことなく優れた抗スナツギング性が得られる。」(甲3の4頁6?9行)と記載されている。そうすると、編地で構成されており、抗スナッギング性を付加することが当業者に明らかといえる甲1発明に甲3記載事項を適用して、編地を構成する合成繊維を30T/m以下のトルクを有する仮撚捲縮加工糸とすることは、当業者が容易に想到し得る事項にすぎない。 また、相違点1-2による、本件発明1の効果は、甲1発明及び甲3記載事項から当業者が予測し得たものであり、格別の効果ではない。 よって、本件発明1は、甲1発明及び甲3記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 イ.本件発明2について (ア)甲1発明 甲1発明は、上記「5.(2)(2-1)ア.」に示したとおりである。 (イ)対比、一致点、相違点 a.本件発明2と甲1発明とは、上記「5.(2)(2-3)ア.(イ)」に示した〈一致点〉で一致し、〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉に加え、以下の点で相違する。 〈相違点2-1〉 本件発明2は、前記の撥水加工されたポリエステル繊維が、フッ素系撥水剤を用いて撥水加工されたものであるのに対し、甲1発明では、そのようなものかどうか不明である点。 (ウ)相違点の判断 〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉については、上記「5.(2)(2-3)ア.(ウ)」で述べたように、上記〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉に係る事項は、甲1発明及び甲1?甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 また、〈相違点2-1〉については、「撥水加工されたポリエステル繊維が、フッ素系撥水剤を用いて撥水加工されたものである」は、甲1に記載されており(甲1【0019】参照)、〈相違点2-1〉に係る事項は、甲1発明及び甲1記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本件発明2は、甲1発明及び甲1?甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 ウ.本件発明3について (ア)甲1発明 甲1発明は、上記「5.(2)(2-1)ア.」に示したとおりである。 (イ)対比、一致点、相違点 a.本件発明3と甲1発明とは、上記「5.(2)(2-3)ア.(イ)」に示した〈一致点〉で一致し、〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉に加え、以下の点で相違する。 〈相違点3-1〉本件発明3では、撥水剤が、パーフルオロオクタン酸およびパーフルオロオクタンスルホン酸の濃度が0?5ng/gのフッ素系撥水剤であるのに対して、甲1発明では、そのようなものでない点 (ウ)相違点の判断 〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉については、上記「5.(2)(2-3)ア.(ウ)」で述べたように、上記〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉に係る事項は、甲1発明及び甲1?甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 また、〈相違点3-1〉については、撥水剤が、パーフルオロオクタン酸およびパーフルオロオクタンスルホン酸の濃度が0?5ng/gのフッ素系撥水剤である点は、甲4に記載されており(甲4【請求項1】、【0001】、【0004】参照)、甲1発明と甲4記載事項とは、繊維の撥水加工の分野で共通するから、甲4記載事項を甲1発明に適用して〈相違点3-1〉に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得る事項にすぎない。 したがって、本件発明3は、甲1発明及び甲1?甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 エ.本件発明4について (ア)甲1発明 甲1発明は、上記「5.(2)(2-1)ア.」に示したとおりである。 (イ)対比、一致点、相違点 a.本件発明4と甲1発明とは、上記「5.(2)(2-3)ア.(イ)」に示した〈一致点〉で一致し、〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉に加え、以下の点で相違する。 〈相違点4-1〉 本件発明4は、前記合成繊維Bの単糸繊度が前記合成繊維Aの単糸繊度よりも大であるのに対し、甲1発明では、そのようなものかどうか不明である点。 (ウ)相違点の判断 〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉については、上記「5.(2)(2-3)ア.(ウ)」で述べたように、上記〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉に係る事項は、甲1発明及び甲1?甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 また、〈相違点4-1〉については、「前記合成繊維Bの単糸繊度が前記合成繊維Aの単糸繊度よりも大である」は、甲1に記載されており(甲1【0032】参照)、〈相違点4-1〉に係る事項は、甲1発明及び甲1記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本件発明4は、甲1発明及び甲1?甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 オ.本件発明6について (ア)甲1発明 甲1発明は、上記「5.(2)(2-1)ア.」に示したとおりである。 (イ)対比、一致点、相違点 a.本件発明6と甲1発明とは、上記「5.(2)(2-3)ア.(イ)」に示した〈一致点〉で一致し、〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉に加え、以下の点で相違する。 〈相違点6-1〉 本件発明6は、前記合成繊維Aの単糸繊度が1.5dtex以下であるのに対し、甲1発明では、そのようなものかどうか不明である点。 (ウ)相違点の判断 〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉については、上記「5.(2)(2-3)ア.(ウ)」で述べたように、上記〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉に係る事項は、甲1発明及び甲1?甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 また、〈相違点6-1〉については、「前記合成繊維Aの単糸繊度が1.5dtex以下である」は、甲1に記載されており(甲1【0034】参照)、〈相違点6-1〉に係る事項は、甲1発明及び甲1記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本件発明6は、甲1発明及び甲1?甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 カ.本件発明7について (ア)甲1発明 甲1発明は、上記「5.(2)(2-1)ア.」に示したとおりである。 (イ)対比、一致点、相違点 a.請求項7で特定している「前記合成繊維Aが、単糸数30本以上のマルチフィラメントである」点は、甲1発明も要件を満たしており、本件発明7と甲1発明とは、上記「5.(2)(2-3)ア.(イ)」に示した〈一致点〉及び上記請求項7で特定している点で一致し、〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉で相違する。 (ウ)相違点の判断 〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉については、上記「5.(2)(2-3)ア.(ウ)」で述べたように、上記〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉に係る事項は、甲1発明及び甲1?甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本件発明7は、甲1発明及び甲1?甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 キ.本件発明8について (ア)甲1発明 甲1発明は、上記「5.(2)(2-1)ア.」に示したとおりである。 (イ)対比、一致点、相違点 a.請求項8で特定している「前記合成繊維Aが仮撚捲縮加工糸である」点は、甲1発明も要件を満たしており、本件発明8と甲1発明とは、上記「5.(2)(2-3)ア.(イ)」に示した〈一致点〉及び上記請求項8で特定している点で一致し、〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉で相違する。 (ウ)相違点の判断 〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉については、上記「5.(2)(2-3)ア.(ウ)」で述べたように、上記〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉に係る事項は、甲1発明及び甲1?甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本件発明8は、甲1発明及び甲1?甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 ク.本件発明9について (ア)甲1発明 甲1発明は、上記「5.(2)(2-1)ア.」に示したとおりである。 (イ)対比、一致点、相違点 a.本件発明9と甲1発明とは、上記「5.(2)(2-3)ア.(イ)」に示した〈一致点〉で一致し、〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉に加え、以下の点で相違する。 〈相違点9-1〉 本件発明9は、前記合成繊維Aまたは合成繊維Bが異型断面繊維であるのに対し、甲1発明では、そのようなものかどうか不明である点。 (ウ)相違点の判断 〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉については、上記「5.(2)(2-3)ア.(ウ)」で述べたように、上記〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉に係る事項は、甲1発明及び甲1?甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 また、〈相違点9-1〉については、「前記合成繊維Aまたは合成繊維Bが異型断面繊維である」は、甲1に記載されており(甲1【0038】参照)、〈相違点9-1〉に係る事項は、甲1発明及び甲1記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本件発明9は、甲1発明及び甲1?甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 ケ.本件発明10について (ア)甲1発明 甲1発明は、上記「5.(2)(2-1)ア.」に示したとおりである。 (イ)対比、一致点、相違点 a.請求項10で特定している「布帛が編地である」点は、甲1発明も要件を満たしており、本件発明10と甲1発明とは、上記「5.(2)(2-3)ア.(イ)」に示した〈一致点〉及び上記請求項10で特定している点で一致し、〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉で相違する。 (ウ)相違点の判断 〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉については、上記「5.(2)(2-3)ア.(ウ)」で述べたように、上記〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉に係る事項は、甲1発明及び甲1?甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本件発明10は、甲1発明及び甲1?甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 コ.本件発明11について (ア)甲1発明 甲1発明は、上記「5.(2)(2-1)ア.」に示したとおりである。 (イ)対比、一致点、相違点 a.請求項11で特定している「布帛の一方表面において前記合成繊維Aが露出しており、布帛の他方表面に前記合成繊維Bが露出している」点は、甲1発明も要件を満たしており、本件発明11と甲1発明とは、上記「5.(2)(2-3)ア.(イ)」に示した〈一致点〉及び上記請求項11で特定している点で一致し、〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉で相違する。 (ウ)相違点の判断 〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉については、上記「5.(2)(2-3)ア.(ウ)」で述べたように、上記〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉に係る事項は、甲1発明及び甲1?甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本件発明11は、甲1発明及び甲1?甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 サ.本件発明13について (ア)甲1発明 甲1発明は、上記「5.(2)(2-1)ア.」に示したとおりである。 (イ)対比、一致点、相違点 a.請求項13で特定している「前記の編地が多層構造編地または単層リバーシブル編地である」点は、甲1発明も要件を満たしており、本件発明13と甲1発明とは、上記「5.(2)(2-3)ア.(イ)」に示した〈一致点〉及び上記請求項13で特定している点で一致し、〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉で相違する。 (ウ)相違点の判断 〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉については、上記「5.(2)(2-3)ア.(ウ)」で述べたように、上記〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉に係る事項は、甲1発明及び甲1?甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本件発明13は、甲1発明及び甲1?甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 シ.本件発明14について (ア)甲1発明 甲1発明は、上記「5.(2)(2-1)ア.」に示したとおりである。 (イ)対比、一致点、相違点 a.本件発明14と甲1発明とは、上記「5.(2)(2-3)ア.(イ)」に示した〈一致点〉で一致し、〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉に加え、以下の点で相違する。 〈相違点14-1〉 本件発明14は、吸水加工が施されているのに対し、甲1発明では、そのようなものかどうか不明である点。 (ウ)相違点の判断 〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉については、上記「5.(2)(2-3)ア.(ウ)」で述べたように、上記〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉に係る事項は、甲1発明及び甲1?甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 また、〈相違点14-1〉については、「吸水加工が施されている」は、甲1に記載されており(甲1【請求項1】参照)、〈相違点14-1〉に係る事項は、甲1発明及び甲1記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本件発明14は、甲1発明及び甲1?甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 ス.本件発明15について (ア)甲1発明 甲1発明は、上記「5.(2)(2-1)ア.」に示したとおりである。 (イ)対比、一致点、相違点 a.本件発明15と甲1発明とは、上記「5.(2)(2-3)ア.(イ)」に示した〈一致点〉で一致し、〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉に加え、以下の点で相違する。 〈相違点15-1〉 本件発明15は、布帛の厚さが1.0mm以下であるのに対し、甲1発明では、厚さが不明な点 (ウ)相違点の判断 〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉については、上記「5.(2)(2-3)ア.(ウ)」で述べたように、上記〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉に係る事項は、甲1発明及び甲1?甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 また、〈相違点15-1〉については、布帛の厚さについては、当業者が使用目的に応じて適宜決定しうる設計事項にすぎず、布帛の厚さを1.0mm以下としたことにより格別の効果は生じない。 したがって、本件発明15は、甲1発明及び甲1?甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 セ.本件発明18について (ア)甲1発明 甲1発明は、上記「5.(2)(2-1)ア.」に示したとおりである。 (イ)対比、一致点、相違点 a.本件発明18と甲1発明とは、上記「5.(2)(2-3)ア.(イ)」に示した〈一致点〉で一致し、〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉に加え、以下の点で相違する。 〈相違点18-1〉 本件発明18は、布帛両表面の、拡散面積比率が2以上であるのに対し、甲1発明では、そのようなものかどうか不明である点。 (ウ)相違点の判断 〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉については、上記「5.(2)(2-3)ア.(ウ)」で述べたように、上記〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉に係る事項は、甲1発明及び甲1?甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 また、〈相違点18-1〉については、「布帛両表面の、拡散面積比率が2以上である」は、甲1に記載されており(甲1【0073】の【表1】参照)、〈相違点18-1〉に係る事項は、甲1発明及び甲1記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本件発明18は、甲1発明及び甲1?甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 ソ.本件発明22について (ア)甲1発明 甲1発明は、上記「5.(2)(2-1)ア.」に示したとおりである。 (イ)対比、一致点、相違点 a.本件発明22と甲1発明とは、上記「5.(2)(2-3)ア.(イ)」に示した〈一致点〉で一致し、〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉に加え、以下の点で相違する。 〈相違点22-1〉 本件発明22は、前記合成繊維Bが配された表面(裏面)が人体側に位置するよう用いてなる、スポーツウエア、アウトドアウエア、レインコート、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、防護服の群より選ばれるいずれかの繊維製品であるのに対し、甲1発明では、そのようなものかどうか不明である点。 (ウ)相違点の判断 〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉については、上記「5.(2)(2-3)ア.(ウ)」で述べたように、上記〈相違点1-1〉及び〈相違点1-2〉に係る事項は、甲1発明及び甲1?甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 また、〈相違点22-1〉については、「前記合成繊維Bが配された表面(裏面)が人体側に位置するよう用いてなる、スポーツウエア、アウトドアウエア、レインコート、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、防護服の群より選ばれるいずれかの繊維製品」は、甲1に記載されており(甲1【0012】、【0045】?【0046】参照)、〈相違点22-1〉に係る事項は、甲1発明及び甲1記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本件発明22は、甲1発明及び甲1?甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 タ.本件発明12、16、17、19?21について 請求項12、16、17、19?21で特定している発明特定事項は、甲1?甲4には、記載も示唆もないし、単なる設計事項であるとすることもできない。 よって、本件発明12、16、17、19?21は、甲1発明及び甲1?甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 6.むすび 以上のとおりであるから、上記取消理由により、本件発明1?4、6?11、13?15、18、22に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 また、上記取消理由によっては、本件発明12、16、17、19?21に係る特許を取り消すことはできず、他に取り消すべき理由も発見しない。 また、請求項5に係る特許は、本件訂正により削除されたため、本件特許の請求項5に対して申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。よって、本件特許の請求項5に係る特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであることから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 撥水加工されていないポリエステル繊維からなる合成繊維Aと、撥水加工されたポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、およびポリ塩化ビニル繊維からなる群より選択される少なくとも1種である合成繊維Bとを含み、かつ目付けが50?170g/m^(2)の範囲内であり、かつ前記合成繊維Bが30T/m以下のトルクを有する単糸数20本以上の仮撚捲縮加工糸であることを特徴する布帛。 【請求項2】 前記の撥水加工されたポリエステル繊維が、フッ素系撥水剤を用いて撥水加工されたものである、請求項1に記載の布帛。 【請求項3】 前記の撥水剤が、パーフルオロオクタン酸およびパーフルオロオクタンスルホン酸の濃度が0?5ng/gのフッ素系撥水剤である、請求項2に記載の布帛。 【請求項4】 前記合成繊維Bの単糸繊度が前記合成繊維Aの単糸繊度よりも大である、請求項1?3のいずれかに記載の布帛。 【請求項5】(削除) 【請求項6】 前記合成繊維Aの単糸繊度が1.5dtex以下である、請求項1?5のいずれかに記載の布帛。 【請求項7】 前記合成繊維Aが、単糸数30本以上のマルチフィラメントである、請求項1?6のいずれかに記載の布帛。 【請求項8】 前記合成繊維Aが仮撚捲縮加工糸である、請求項1?7のいずれかに記載の布帛。 【請求項9】 前記合成繊維Aまたは合成繊維Bが異型断面繊維である、請求項1?8のいずれかに記載の布帛。 【請求項10】 布帛が編地である、請求項1?9のいずれかに記載の布帛。 【請求項11】 布帛の一方表面において前記合成繊維Aが露出しており、布帛の他方表面に前記合成繊維Bが露出している、請求項1?10のいずれかに記載の布帛。 【請求項12】 布帛が編地であり、かつ合成繊維Aが露出した表面において、合成繊維Aからなるループ数が表面全体のループ数に対し20%以上であり、かつ合成繊維Bが露出した表面において、合成繊維Bからなるループ数が表面全体のループ数に対し20%以上である、請求項1?11のいずれかに記載の布帛。 【請求項13】 前記の編地が多層構造編地または単層リバーシブル編地である、請求項10?12のいずれかに記載の布帛。 【請求項14】 吸水加工が施されている、請求項1?13のいずれかに記載の布帛。 【請求項15】 布帛の厚さが1.0mm以下である、請求項1?14のいずれかに記載の布帛。 【請求項16】 前記合成繊維Bが露出した布帛表面において、JIS L1096 6.26吸水速度A法(滴下法)が30秒以下である、請求項11?15のいずれかに記載の布帛。 【請求項17】 布帛両表面の、JIS L1096 6.26吸水速度B法(バイレック法)の比が2以上である、請求項11?16のいずれかに記載の布帛。 【請求項18】 布帛両表面の、拡散面積比率が2以上である、請求項11?17のいずれかに記載の布帛。 【請求項19】 前記合成繊維Bが露出した布帛表面において、水分残り率が25%以下である、請求項11?18のいずれかに記載の布帛。 【請求項20】 前記合成繊維Bが露出した布帛表面において、湿潤摩擦力が70g以下である、請求項11?19のいずれかに記載の布帛。 【請求項21】 前記合成繊維Bが露出した布帛表面において、発汗時の冷え感が0.05以下である、請求項11?20のいずれかに記載の布帛。 【請求項22】 請求項1?21のいずれかに記載の布帛を、前記合成繊維Bが配された表面(裏面)が人体側に位置するよう用いてなる、スポーツウエア、アウトドアウエア、レインコート、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、防護服の群より選ばれるいずれかの繊維製品。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-11-15 |
出願番号 | 特願2011-221927(P2011-221927) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
ZDA
(D04B)
P 1 651・ 537- ZDA (D04B) P 1 651・ 121- ZDA (D04B) |
最終処分 | 一部取消 |
前審関与審査官 | 長谷川 大輔 |
特許庁審判長 |
渡邊 豊英 |
特許庁審判官 |
井上 茂夫 蓮井 雅之 |
登録日 | 2016-05-13 |
登録番号 | 特許第5933952号(P5933952) |
権利者 | 帝人フロンティア株式会社 |
発明の名称 | 布帛および繊維製品 |
代理人 | 為山 太郎 |
代理人 | 為山 太郎 |