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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C07C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C07C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C07C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C07C
管理番号 1337052
異議申立番号 異議2017-700035  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-01-13 
確定日 2018-01-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5952951号発明「酢酸の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5952951号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?21]について訂正することを認める。 特許第5952951号の請求項1?7,9,11?21に係る特許を維持する。 特許第5952951号の請求項8,10に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5952951号の請求項1ないし21に係る特許についての出願は、平成27年11月11日(パリ条約による優先権主張 2015年7月1日 米国(US),2015年10月2日 米国(US), 優先権主張 平成27年8月21日 日本国)に出願されたものであって、平成28年6月17日に特許権の設定登録がされ、平成28年7月13日にその特許公報が発行され、その後、平成29年1月13日に、特許異議申立人 株式会社ダイセル(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成29年3月1日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年6月2日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件第1訂正請求」という。)があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人から平成29年7月14日付けで意見書が提出され、平成29年8月14日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である同年11月17日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件第2訂正請求」という。)があったものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件第2訂正請求による訂正の内容は以下の訂正事項1?4のとおりである(本件第1訂正請求は、本件第2訂正請求がされたため、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされた。)。

(1)訂正事項1
請求項1の「軽質液相」との記載を「40重量%から80重量%の水を含み5重量%未満のヨウ化メチルを含む軽質液相」に訂正する。
(2)訂正事項2
請求項1の末尾の「酢酸の製造方法」を、「酢酸の製造方法であって、該第1の塔が、0.05?0.4である、該軽質液相の還流比で稼働される、前記方法」に訂正する。
(3)訂正事項3
請求項8を削除する。
(4)訂正事項4
請求項10を削除する。

2 目的の適否
上記訂正事項1は、酢酸の製造方法において、第1の塔からの低沸点オーバーヘッド蒸気流の凝縮流を二相に分離し形成した軽質液相の水とヨウ化メチルの含有量を限定したものといえるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、上記訂正事項2は、酢酸の製造方法において、第1の塔が稼働される際の、第1の塔からの低沸点オーバーヘッド蒸気流の凝縮流を二相に分離し、形成した軽質液相の還流比を限定したものといえるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記訂正事項3,4は、請求項の削除であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

3 新規事項についての判断
(1)訂正事項1について
上記訂正事項1の「40重量%から80重量%の水を含み」に関しては、訂正前の請求項10に記載され、【0076】の表1の軽質分留オーバーヘッドからの軽質液相の例に水の濃度(重量%)として「40-80」との記載があるので、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載されているものと認められる。
また、「5重量%未満のヨウ化メチルを含む」に関しては、【0076】の表1の軽質分留オーバーヘッドからの軽質液相の例に、ヨウ化メチルの濃度(重量%)として「<5」との記載があるので、願書に添付した明細書に記載されているものと認められる。
その実際の記載箇所は、水とヨウ化メチルを含む軽質液相の例として示されたもので、「水、ヨウ化メチル」が「40-80、<10」「50-75、<5」の組み合わせとして示されているが、その他、軽質液相の水の濃度とヨウ化メチルの濃度が互いに特定の数値範囲しかとれないことを記載した箇所がないこと、水の濃度範囲は請求項に訂正前に記載されていたことを考慮すると、必ずしも数値の組み合わせとして記載されているものだけでなく、それらを上下限の数値として用いた範囲についても記載されていたと判断しても、新たな技術的事項の導入とはならないといえる。

(2)訂正事項2について
上記訂正事項2の「第1の塔が、0.05?0.4である、該軽質液相の還流比で稼働される」ことに関しては、訂正前の請求項8に、「第1の塔が0.05から0.4の還流比で稼働される」ことが記載され、特許明細書の【0080】には、「軽質液相・・・の第1の塔への還流比・・・は、0.05?0.4・・・であることが好ましい。」と記載されていることから、訂正後の「第1の塔が、0.05?0.4である、該軽質液相の還流比で稼働される」との発明特定事項は願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「願書に添付した明細書等」という。)に記載されているものと認められる。

(3)訂正事項3、4について
訂正事項3、4は、請求項8、10を削除したものであるから、新規事項の追加に該当しない。

4 実質上特許請求の範囲の拡張又は変更の有無
上記3で検討したとおり、訂正事項1,2は、願書に添付した明細書等に記載された事項の範囲内において、軽質留分の成分組成の限定や第1の塔の稼働時の軽質液相の還流比の限定に関して、特許請求の範囲の減縮を行っただけであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項3、4についても、特許請求の範囲の請求項の削除を行っただけであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

5 一群の請求項について
訂正事項1?4に係る訂正前の請求項1?21について、請求項2?21はそれぞれ請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1および2によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1?21に対応する訂正後の請求項1?21に係る本件第2訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してされたものである。

6 小括
以上のとおりであるから、本件第2訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項[1?21]について訂正を認める。

第3 本件発明
本件第2訂正請求により訂正された訂正後の請求項1?7、9、11?21に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明7」、「本件発明9」、「本件発明11」?「本件発明21」といい、まとめて「本件発明」ということもある。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?21に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

【請求項1】
反応器内で形成した反応媒体をフラッシュ容器内で分離し、酢酸、金属触媒、及び腐食性金属を含む液体リサイクルと、酢酸、ヨウ化メチル、酢酸メチル、水、ヨウ化水素、及び過マンガン酸還元性化合物を含む蒸気生成物流とを形成すること、ここで、当該反応媒体は、0.1重量%から4.1重量%の水と、酢酸、酢酸メチル、金属触媒、ヨウ化物塩、及びヨウ化メチルとを含み、
該蒸気生成物流の一部を第1の塔で蒸溜し、酢酸を含む側流と、酢酸メチル、ヨウ化メチル、過マンガン酸還元性化合物、及び5重量%又はそれを超える量の水を含む低沸点オーバーヘッド蒸気流と、95重量%又はそれを超える量の酢酸及び5重量%又はそれを下回る量の水を含む残渣流とを得ること、
該低沸点オーバーヘッド蒸気流を凝縮し、得られた凝縮流を二相に分離し、重質液相、及び40重量%から80重量%の水を含み5重量%未満のヨウ化メチルを含む軽質液相を形成すること、
該反応器への軽質液相の一部分のリサイクル率を制御することにより、該側流の総重量に対して、該側流中の水濃度を1重量%から3重量%に維持し、該側流中のヨウ化水素濃度を50重量ppm又はそれを下回る量に維持すること、及び
該側流を第2の塔で蒸溜し、精製酢酸生成物を得ることを含む、酢酸の製造方法であって、
該第1の塔が、0.05から0.4である、該軽質液相の還流比で稼働される、前記方法。
【請求項2】
該反応媒体が、0.5重量%から30重量%の酢酸メチル、200重量ppmから3000重量ppmの金属触媒、1重量%から25重量%のヨウ化物塩、及び1重量%から25重量%のヨウ化メチルを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該重質液相の一部分を処理し、アセトアルデヒド、アセトン、メチルエチルケトン、ブチルアルデヒド、クロトンアルデヒド、2-エチルクロトンアルデヒド、2-エチルブチルアルデヒド、及びこれらのアルドール縮合生成物からなる群より選択される少なくとも1種の過マンガン酸還元性化合物を除去する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
該側流中の水濃度が1.1重量%から2.5重量%に維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
該側流中のヨウ化水素濃度が0.1重量ppmから50重量ppmに維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
該側流がさらに、1種以上のヨウ化C_(1)?C_(14)アルキルを0.1重量%から6重量%の濃度で含み、さらに酢酸メチルを0.1重量%から6重量%の濃度で含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
該側流が、該1種以上のヨウ化C_(1)?C_(14)アルキル及び該酢酸メチルのそれぞれを該側流中の水濃度の±0.9重量%の量含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
該重質液相、該軽質液相、またはこれらの混合物を該第1の塔に還流させることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
(削除)
【請求項11】
該重質液相が、1重量%又はそれを下回る量の水を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
該精製酢酸生成物が、該第2の塔の底部またはその近傍から取り出される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
水性オーバーヘッドが該第2の塔から取り出される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
該水性オーバーヘッドが、該第2の塔に供給される側流中の水の90%又はそれを超える水を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
該水性オーバーヘッド又はその凝縮された一部を該反応器にリサイクルすることをさらに含み、該反応器への水性オーバーヘッドの質量流量に対する該反応器へリサイクルされる軽質液相の質量流量のリサイクル比が2であるか又はそれを下回る、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
該精製酢酸生成物の総ヨウ化物濃度が5重量ppm又はそれを下回る場合に該精製酢酸生成物をガード床に接触させることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
該軽質液相のリサイクル率が、該低沸点オーバーヘッド蒸気流を凝縮して得た総軽質液相の0%から20%である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
該軽質液相のリサイクル率が、該低沸点オーバーヘッド蒸気流を凝縮して得た総軽質液相の0.1%から20%である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
該反応媒体中のヨウ化エチル濃度を750重量ppm又はそれを下回る量に制御することをさらに含み、該精製酢酸生成物からプロピオン酸を直接除去せずに該精製酢酸生成物が250重量ppm未満のプロピオン酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
該反応媒体中のヨウ化エチル及び該精製酢酸生成物中のプロピオン酸が3:1から1:2の重量比で存在する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
アセトアルデヒド及びヨウ化エチルが該反応媒体中に2:1から20:1の重量比で存在する、請求項19に記載の方法。

第4 取消理由通知
1 特許異議申立人が申し立てた取消理由
特許異議申立人が申し立てた取消理由の概要は以下のとおりである。
(1)訂正前の請求項1?6,8?13,17,18に係る発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記甲第1号証に記載された発明であり、特許法第第29条第1項第3号に該当し、訂正前の請求項1?6,8?13,17,18に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)訂正前の請求項1?21に係る発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記甲第1号証に記載された発明、及び下記甲第2?3号証に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、訂正前の請求項1?21に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)訂正前の請求項1?21に係る発明について、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、訂正前の請求項1?21に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

甲第1号証:国際公開第2013/137236号
甲第2号証:特開平8-20555号公報
甲第3号証:特開平10-231267号公報

2 当審が通知した取消理由(予告)の概要
本件第1訂正請求による訂正後の請求項1?7,9,11?21に係る特許に対して平成29年8月14日付けで当審が特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。

理由1:本件第1訂正請求による訂正後の請求項1?7,9,11?21に係る発明は、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、請求項1?7,9,11?21に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

発明の詳細な説明においては、軽質液相のリサイクル率と側流中の水の関係、軽質液相のリサイクル率と側流中のヨウ化水素の関係が一般的に記載されるだけで、軽質液相の一部分のリサイクル率というパラメータに着目して側流中の水濃度及びヨウ化水素濃度を維持することは裏付けをもって記載されていないから、請求項1?7,9,11?21に係る発明は発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。

理由2:本件第1訂正請求による訂正後の請求項1?7,9,11?21に係る発明は、その発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、請求項1?7,9,11?21に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

発明の詳細な説明には、反応器への軽質液相の一部分のリサイクル率を制御して側流中の水濃度及びヨウ化水素濃度を維持することに関して具体的に記載されておらず、本願出願時の技術常識を参酌しても、当業者が容易に反応器への軽質液相の一部分のリサイクル率を制御することで、側流中の水濃度及びヨウ化水素濃度を維持することができるとはいえないから、発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?7,9,11?21に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

第5 当審の判断
当審は、本件発明1?7,9,11?21に係る特許は、当審の通知した取消理由によっては、取り消すことはできないと判断する。
理由は以下のとおりである。
さらに、訂正前の請求項8,10に係る特許に関して、請求項8,10は削除されているので、訂正前の請求項8,10に係る申立てを却下する。

また、本件発明1?7,9,11?21に係る特許は、特許異議申立人が申し立てた取消理由によっても、取り消すことはできないと判断する。

1 理由1(特許法第36条第6項第1号)について
(1)サポート要件の判断の前提
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)特許請求の範囲の記載
請求項1には、「反応器内で形成した」「0.1重量%から4.1重量%の水と、酢酸、酢酸メチル、金属触媒、ヨウ化物塩、及びヨウ化メチルとを含」む「反応媒体をフラッシュ容器内で分離し、酢酸、金属触媒、及び腐食性金属を含む液体リサイクルと、酢酸、ヨウ化メチル、酢酸メチル、水、ヨウ化水素、及び過マンガン酸還元性化合物を含む蒸気生成物流とを形成すること」、
「該蒸気生成物流の一部を第1の塔で蒸溜し、酢酸を含む側流と、酢酸メチル、ヨウ化メチル、過マンガン酸還元性化合物、及び5重量%又はそれを超える量の水を含む低沸点オーバーヘッド蒸気流と、95重量%又はそれを超える量の酢酸及び5重量%又はそれを下回る量の水を含む残渣流とを得ること」、
「該低沸点オーバーヘッド蒸気流を凝縮し、得られた凝縮流を二相に分離し、重質液相、及び40重量%から80重量%の水を含み5重量%未満のヨウ化メチルを含む軽質液相を形成すること」、
「該反応器への軽質液相の一部分のリサイクル率を制御することにより、該側流の総重量に対して、該側流中の水濃度を1重量%から3重量%に維持し、該側流中のヨウ化水素濃度を50重量ppm又はそれを下回る量に維持すること」、
「該側流を第2の塔で蒸溜し、精製酢酸生成物を得ること」
「該第1の塔が、0.05から0.4である、該軽質液相の還流比で稼働される」こと、
を含む、酢酸の製造方法が記載されている。
そして、請求項2には、請求項1記載の酢酸の製造方法において、反応媒体が、酢酸メチル、金属触媒、ヨウ化物塩、ヨウ化メチルを含むことと組成範囲がさらに特定されたものが、請求項3には、請求項1記載の酢酸の製造方法において、重質液相の一部分を処理してアセトアルデヒド等の過マンガン酸還元性化合物を除去することが特定されたものが、それぞれ記載されている。
そして、請求項4,5には、請求項1記載の酢酸の製造方法において、それぞれ、側流中の維持する水の濃度、ヨウ化水素の濃度をさらに特定したものが、請求項6には、請求項1記載の酢酸の製造方法において、側流に含有される1種以上のヨウ化C_(1)?C_(14)アルキル、酢酸メチルの濃度を特定したものが記載され、請求項7には、側流のヨウ化C1-C14アルキル、酢酸メチルの濃度を側流中の水濃度の±0.9重量%の含むことを特定したものが記載されている。
さらに、請求項9には、請求項1記載の酢酸の製造方法において、重質液相、軽質液相、またはこれらの混合物を第1の塔に還流させることを特定したものが記載され、請求項11には、請求項1記載の酢酸の製造方法において、重質液相の水の濃度を特定したものが記載されている。
また、請求項12,13には、請求項1記載の酢酸の製造方法において、それぞれ、精製酢酸生成物が、該第2の塔の底部またはその近傍から取り出されること、水性オーバーヘッドが第2の塔から取り出されることを特定したものが、請求項14には、請求項13記載の酢酸の製造方法において、該水性オーバーヘッドが第2の塔に供給される側流中の水の90%又はそれを超える水を含むことを特定したものが記載されている。
さらに、請求項15には、請求項13又は14に記載の酢酸の製造方法において、水性オーバーヘッド又はその凝縮された一部を該反応器にリサイクルすることをさらに含み、該反応器への水性オーバーヘッドの質量流量に対する該反応器へリサイクルされる軽質液相の質量流量のリサイクル比が2であるか又はそれを下回ることを特定したものが記載されている。
そして、請求項16には、請求項1記載の酢酸の製造方法において、精製酢酸生成物の総ヨウ化物濃度が5重量ppm以下の場合には、該精製酢酸生成物をガード床に接触させることをさらに特定したものが記載されている。
また、請求項17には、請求項1記載の酢酸の製造方法において、軽質液相のリサイクル率が、低沸点オーバーヘッド蒸気流を凝縮して得た総軽質液相の0%から20%であることを特定したものが、請求項18には、請求項17に記載の酢酸の製造方法において、リサイクル率の下限を0.1%としたものが記載されている。
そして、請求項19には、請求項1に記載の酢酸の製造方法において、反応媒体中のヨウ化エチル濃度を750重量ppm又はそれを下回る量に制御して、精製酢酸生成物からプロピオン酸を直接除去せずに250重量ppm未満のプロピオン酸を含む精製酢酸生成物とすることを特定したものが、請求項20には、請求項19に記載の酢酸の製造方法において、反応媒体中のヨウ化エチルと精製酢酸生成物中のプロピオン酸の重量比を特定したものが、請求項21には、請求項19に記載の酢酸の製造方法において、反応媒体中のアセトアルデヒドとヨウ化エチルの重量比を特定したものが、それぞれ記載されている。

(3)発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明には、本件発明1?7,9,11?21の発明特定事項となっている酢酸を製造する方法において、低沸点オーバーヘッド蒸気流を凝縮し、得られた凝縮流を二相に分離し、重質液相、及び40重量%から80重量%の水を含み5重量%未満のヨウ化メチルを含む軽質液相を形成し、該反応器への軽質液相の一部分のリサイクル率を制御することにより、該側流の総重量に対して、該側流中の水濃度を1重量%から3重量%に維持し、該側流中のヨウ化水素濃度を50重量ppm又はそれを下回る量に維持する過マンガン酸還元性化合物除去系を含み、第1の塔が、0.05から0.4である、該軽質液相の還流比で稼働される方法に関して、特許請求の範囲の記載の繰り返し記載を除くと、以下の記載がある。

ア「【背景技術】
・・・
【0007】
・・・米国特許第7,884,241号には、ヨウ化水素と水を含み、蒸留系での水の含有量が5重量%以下(特に3重量%以下)である混合物が開示されており、この混合物を蒸留して蒸留系内でのヨウ化水素の凝縮を防止する。この混合物は、ヨウ化水素、水、メタノール、ヨウ化メチル、酢酸、酢酸メチルを含んでいてもよい。混合物が重量換算で1?3000ppmの濃度のヨウ化水素を含んでいても、ヨウ化水素を含む留分を蒸留塔の塔頂から取り出し、酢酸をサイドカット流又は塔の底部からの流れとして取り出すことによりヨウ化水素濃度が50ppm以下の酢酸生成物を得ることができる。このような方法(蒸留方法)は、蒸留系でのヨウ化水素の凝縮及び蒸留系内の腐食を有効に防止する。水濃度を低く保つため、この方法は2.35という大きな還流比を必要とし、消費エネルギーが大きい。
・・・
【0011】
・・・このような観点から、酢酸の回収を制御するための酢酸製造の改良方法が求められている。」(【0007】?【0011】)(下線は、当審にて追加した。以下同様。)

イ「【0029】
リサイクル率の制御
・・・本発明は、酢酸の回収工程において2基の塔の間の側流中の水濃度を制御する方法を提供する。側流は主にカルボニル化により生成した酢酸を含む。水濃度の制御する際に、ヨウ化水素濃度もまた調整し、後に続く酢酸の回収に向けて軽質分留塔(すなわち第1の塔)から乾燥塔(すなわち第2の塔)に送られるヨウ化水素の量を低下させてもよい。こうすることで第1の塔から反応器に回収される軽質液相のリサイクル率により水濃度を制御できるという利点が齎される。一態様では、低沸点オーバーヘッド蒸気流を凝縮して得られた総軽質液相の0?20%をリサイクルし、残部を還流として軽質分留塔で用いてもよく、あるいはアセトアルデヒド除去系に供給してもよい。軽質液相もまた第1の塔に還流されるため、還流比が変化するとリサイクル率に影響を及ぼす場合がある。第2の塔に供給されるヨウ化水素を低下させると、第2の塔中のみならず、最終的には精製酢酸生成物中の総ヨウ化物濃度の低減が促進される。精製酢酸生成物中の総ヨウ化物濃度が例えば、5重量ppm又はそれを下回る量又は1重量ppm又はそれを下回る量と低い場合はガード床を用いてヨウ化物を除去することができる。これにより精製酢酸生成物の品質が大きく向上する。
・・・一態様では、反応器内で形成した反応媒体をフラッシュ容器内で分離し液体リサイクル及び蒸気生成物流を形成すること、上記蒸気生成物流を第1の塔で蒸溜し側流及び5重量%又はそれを超える量の水を含む低沸点オーバーヘッド蒸気流を得ること、上記低沸点オーバーヘッド蒸気流を凝縮し、得られた凝縮流を二相に分離し重質液相及び軽質液相を形成すること、上記反応器への軽質液相のリサイクル率を制御することによって側流中の水濃度を1?3重量%、例えば、好ましくは1.1?2.5重量%に維持し、上記側流中のヨウ化水素濃度を50重量ppm又はそれを下回る量、例えば、好ましくは0.1?50重量ppmに維持すること、及び上記側流を第2の塔で蒸溜し精製酢酸生成物を得ることを含む、酢酸の製造方法が提供される。
・・・
反応器内の水が少ない条件、例えば、水濃度が0.1?4.1重量%である場合、反応器内に少量の水を保ちながら蒸留塔を安定に稼働させることが困難な場合がある。水濃度が低下すると、蒸溜塔に十分な水がない場合蒸留塔の安定した稼働が妨げられる場合がある。蒸溜塔に水を添加することによりこの問題を克服できる場合があるが、1)これにより排出する水が増加し、分離においてよりエネルギーが必要になる、かつ/又は2)反応器へリサイクルされる水が増加し反応器条件が妨げられる場合があるため、望ましくない。従って、一態様では、反応器内で形成した0.1?4.1重量%の水を含む反応媒体をフラッシュ容器内で分離し液体リサイクル及び蒸気生成物流を形成すること、上記蒸気生成物流の一部を第1の塔で蒸溜し側流、5重量%又はそれを超える量の水を含む低沸点オーバーヘッド蒸気流、並びに95重量%又はそれを超える量の酢酸及び5重量%又はそれを下回る量の水を含む残渣流を得ること、上記低沸点オーバーヘッド蒸気流を凝縮し、得られた凝縮流を二相に分離し重質液相及び軽質液相を形成すること、上記反応器への軽質液相の一部分のリサイクル率を制御することによって上記側流の総重量に対して、上記側流中の水濃度を1?3重量%に維持し、上記側流中のヨウ化水素濃度を50重量ppm又はそれを下回る量、例えば、好ましくは0.1?50重量ppmに維持すること、及び上記側流を第2の塔で蒸溜し精製酢酸生成物を得ることを含む、酢酸の製造方法が提供される。
・・・本発明においては、側流中のヨウ化水素濃度を測定し軽質液相のリサイクル率を制御してもよい。他の態様では、反応器内で形成した反応媒体をフラッシュ容器内で分離し液体リサイクル及び蒸気生成物流を形成すること、上記蒸気生成物流を第1の塔で蒸溜し側流及び低沸点オーバーヘッド蒸気流を得ること、上記低沸点オーバーヘッド蒸気流を蒸溜して得られた凝縮流を二相に分離し重質液相及び軽質液相を形成すること、上記側流中のヨウ化水素濃度を測定すること、測定されたヨウ化水素濃度に応じて反応器への軽質液相のリサイクル率を制御し、側流中のヨウ化水素濃度を50重量ppm又はそれを下回る量に維持すること、及び上記側流を第2の塔で蒸溜し精製酢酸生成物を得ることを含む、酢酸の製造方法が提供される。
・・・
上述の通り、軽質液体相のリサイクル率を制御し側流中の水濃度を維持することにより、第1の塔内のオーバーヘッド及び底部流中の水濃度が所定の値に維持される。
・・・
反応媒体中の水が少ない条件、例えば、水の量が0.1?4.1重量%である場合、第1の塔の底部流中の水を低い濃度に維持することが望ましい。
・・・
ヨウ化水素は、3?8重量%の水を含む酢酸-水混合物に可溶であり、水濃度が低下するとヨウ化水素の溶解性も低下する。これによりヨウ化水素の揮発性が高まる。従って、いくつかの態様では、ヨウ化水素を塔のオーバーヘッド中で回収してもよい。ヨウ化水素が腐食性を有することが示されているが、ある量のヨウ化水素はいくつかの条件下で触媒として有用に作用し得る。
・・・軽質液体相のリサイクルの制御は、例えば米国特許第9,006,483号に記載の方法等、第1の塔に供給される蒸気生成物の濃度を維持する他の方法に対する改良となっている。本発明は、第1の塔に追加の成分を導入する、或いは蒸気生成物供給原料のそれぞれの濃度を維持する必要がなく、いかなる種類の供給原料の制御も改良できるという利点がある。従って、いくつかの態様では、本発明は水又は酢酸メチルを第1の塔に供給しない、あるいは供給源である蒸気流を第1の塔に供給しない。また、米国特許第9,006,483号においては、反応器にリサイクルされる軽質液相の制御に失敗しており、側流中の水濃度及びヨウ化水素濃度を個別に制御することはできない。
・・・軽質液相の一部分のリサイクル率を制御することにより、主成分である酢酸を側流中に濃縮することができる。
・・・
側流中のヨウ化水素濃度を検出することにより、軽質液相のリサイクル率を制御してもよい。例えば、ヨウ化水素濃度が所定の閾値である50重量ppmを越える場合は、軽質液相のリサイクル率を増加させてもよい。一旦ヨウ化水素濃度が所定の閾値である50重量ppmを下回ると、軽質液相のリサイクル率を維持する、かつ/又は望ましい方向に低下させることにより、水濃度を1?3重量%に維持してもよい。本明細書に記載するように、軽質液相のリサイクル率は、還流する軽質液相の量に対する、リサイクルされる軽質液相の量である。軽質液相は、カルボニル化反応器へ直接リサイクルしてもよく、あるいは反応器へリサイクルする前にまずカルボニル化合物等の不純物を除去することにより間接的にカルボニル化反応器にリサイクルしてもよい。」(【0029】?【0043】)

ウ「【0059】
・・・また、反応媒体は、副生物の生成を回避するために制御しなければならない不純物を含んでいる場合がある。反応媒体中の不純物の1つはヨウ化エチルである場合がある。ヨウ化エチルはカルボニル化されてプロピオン酸になる。本発明者はさらに、ヨウ化エチルの生成は、反応媒体中のアセトアルデヒド、酢酸エチル、酢酸メチル、及びヨウ化メチルの濃度を含む多くの変動要素により影響され得ることを発見した。また、メタノール源中のエタノール含有量、一酸化炭素源中の水素分圧及び水素含有量が、反応媒体中のヨウ化エチル濃度、ひいては最終酢酸生成物中のプロピオン酸濃度に影響を及ぼすことがわかった。
・・・いくつかの態様では、酢酸生成物からプロピオン酸を除去することなく、反応媒体中のヨウ化エチル濃度を750重量ppm又はそれを下回る量に維持することにより、酢酸生成物中のプロピオン酸濃度をさらに250重量ppm未満に維持し得る。
・・・
水素分圧、反応媒体中の酢酸メチル濃度、ヨウ化メチル濃度、及び/又はアセトアルデヒド濃度のうち、少なくとも1つを制御することにより反応媒体中のヨウ化エチル濃度を維持してもよい。
・・・
酢酸製造システムは、本工程内で酢酸を回収し、金属触媒、ヨウ化メチル、酢酸メチル、及びその他の系の成分をリサイクルするために用いる分離系108を含むことが好ましい。反応器に導入する前にリサイクル流の1つ以上を合流させてもよい。また、分離系は、カルボニル化反応器内及び系全体の水並びに酢酸の含有量を制御し、過マンガン酸還元性化合物(「PRC」)の除去を容易にすることが好ましい。PRCとしては、アセトアルデヒド、アセトン、メチルエチルケトン、ブチルアルデヒド、クロトンアルデヒド、2-エチルクロトンアルデヒド、2-エチルブチルアルデヒド、及びこれらのアルドール縮合生成物が含まれ得る。一態様では、好適な過マンガン酸カリウム試験としてJIS K1351(2007)が挙げられる。
・・・ フラッシュ容器
カルボニル化反応器内において・・・上述の通り、水が反応器にリサイクルされる。液体リサイクルを反応器に戻す前に、米国特許第5,731,252号・・・に記載されているように、スリップ流をイオン交換床等の腐食性金属除去床を通過させて流れに含まれる腐食性金属(ニッケル、鉄、クロム、及びモリブデン等)があればそれらを除去してもよい。また、米国特許第8,697,908号(その全内容が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているように、腐食性金属除去床を用いてアミン等の窒素化合物を除去してもよい。」(【0059】?【0068】)

エ「【0072】
酢酸の回収
・・・図1に示すように、蒸気生成物流112を第1の塔120(軽質分留塔とも言う)に導入する。一態様では、蒸気生成物流112は、酢酸、酢酸メチル、水,ヨウ化メチル、及びアセトアルデヒドに加えて他の不純物(ヨウ化水素及びクロトンアルデヒド等)、及び副生物(プロピオン酸等)を含んでいてもよい。蒸留により低沸点オーバーヘッド蒸気流122、好ましくは側流123を経由して取り出される精製酢酸生成物、及び高沸点残渣流121が得られる。酢酸の大部分は側流123中にて取り出されるが、高沸点残渣流121から回収される酢酸はわずかであるか、もしくは全くないことが好ましい。高沸点残渣流121中の酢酸濃度は比較的高いこともあるが、側流123に比べて高沸点残渣流121の質量流量は非常に低い。いくつかの態様では、高沸点残渣流121の質量流
量は側流123の0.75%又はそれを下回る量、例えば、0.55%又はそれを下回る量又は0.45%又はそれを下回る量である。
・・・
一態様では、低沸点オーバーヘッド蒸気流122は、水を5重量%又はそれを超える量、例えば10重量%又はそれを超える量又は25重量%又はそれを超える量含む。水の量は、80重量%以下であってもよい。範囲に関しては、オーバーヘッド中の水濃度は、5重量%から80重量%、例えば、10重量%から70重量%、又は25重量%から60重量%であってもよい。水濃度が5重量%未満に低下すると、反応系に戻される酢酸リサイクルが増加し、精製系全体のリサイクルが増加するため、有益ではない。水の他に、低沸点オーバーヘッド蒸気流122はまた、酢酸メチル,ヨウ化メチル、及びカルボニル不純物を含む場合があるが、これらをオーバーヘッド中に濃縮して側流123中の酢酸から除去することが好ましい。本明細書ではこれらのカルボニル不純物はPRCとも言う場合がある。
・・・
軽質液相133の具体的な組成は大きく変動し得るが、いくつかの例示的な組成を以下の表1に示す。
【0076】
【表1】

・・・
重質液相134の具体的な組成は大きく変動し得るが、いくつかの例示的な組成を以下の表2に示す。
【0078】
【表2】

・・・
」(【0072】?【0078】)

オ「【0080】
・・・表1及び表2に示すように、軽質液相133中の水濃度は、重質液相134中よりも高い。従って、本発明では、軽質液相のリサイクルにより側流中の水濃度を制御することができる。ライン136経由で軽質液相133を反応器105にリサイクルする際のリサイクル率により、水及びヨウ化水素の濃度を側流123中で制御する。ライン135経由で軽質液相133の第1の塔への還流比(本明細書では、重質液相134(すべてリサイクルしてもよい)と軽質液相133の両方を含む、塔120の頂部から送り出される総質量流量で除した還流の質量流量を意味する)は、0.05?0.4、例えば、0.1?0.35又は0.15?0.3であることが好ましい。一態様では、還流比を低下させるため、側流と第1の塔の塔頂との間の理論段数は5以上、例えば、好ましくは10以上であってもよい。他の態様では、ライン136中の軽質液相を反応器105に戻すリサイクル率は、塔オーバーヘッド(還流及びリサイクル)から凝縮された総軽質液相133の20%以下、例えば、10%以下である。範囲に関しては、ライン136中の軽質液相のリサイクル率は、低沸点オーバーヘッド蒸気流(還流及びリサイクル)から凝縮された総軽質液相133の0?20%、例えば、0.1?20%、0.5?20%、1?15%、又は1?10%である。残った部分を還流として軽質分留塔で用いてもよく、あるいはアセトアルデヒド除去系に供給してもよい。図1に示すように、ライン136中のリサイクルは液体リサイクル111と合流させ、反応器105に間接的に戻してもよい。一態様では、ライン136中のリサイクルを、リサイクルされている他の流れと合わせ反応器105に間接的にリサイクルしてもよく、あるいは反応器105に直接リサイクルしてもよい。乾燥塔125からの凝縮オーバーヘッド流138を相分離し水相と有機相を形成させる場合、ライン136中のリサイクルを好ましくは水相と混合してもよい。あるいは、ライン136中のリサイクルを少なくとも部分的に重質液相134及び/又はオーバーヘッド流138からの有機相と合流させてもよい。
・・・
本発明の態様においては、反応器内で形成した反応媒体をフラッシュ容器内で分離し液体リサイクル及び蒸気生成物流を形成すること、上記蒸気生成物流を第1の塔で蒸溜し側流及び5重量%又はそれを超える量の水を含む低沸点オーバーヘッド蒸気流を得ること、上記低沸点オーバーヘッド蒸気流を凝縮し、得られた凝縮流を二相に分離し重質液相及び軽質液相を形成すること、上記反応器へリサイクルされる軽質液相を上記塔オーバーヘッドを凝縮して得た総軽質相133に対し0.5%?20%に維持し、側流中の水濃度を1?3重量%に維持し、ヨウ化水素濃度を50重量ppm又はそれを下回る量に維持すること、及び上記側流を第2の塔で蒸溜し精製酢酸生成物を得ることを含む、酢酸の製造方法が提供される。
【0082】
・・・本発明においては、流量バルブ(図示されていない)及び/又は流量モニター(図示されていない)を用いてライン135中の還流及びライン136中のリサイクルを制御してもよい。一態様では、試料流141をオンライン分析計142に供給することにより、側流123中のヨウ化水素濃度を求めてもよい。一態様では、ライン135中の還流及びライン136中のリサイクルを、オンライン分析計142と通信しながら制御してもよく、オンライン分析計がフィードバック情報を送り反応器への還流比及びリサイクル率をそれぞれ制御してもよい。還流比を変化させると、反応器にリサイクルされる水の量に影響を及ぼす場合がある。いくつかの態様では、軽質液相133が反応器へ全くリサイクルされないように水の量を変化させてもよい。還流を減少させ(かつ反応器へのリサイクルを増加させる)と、側流中の水の含有量も減少する。還流を増加させると、側流中の水濃度も増加し、反応器にリサイクルされる水は減少する。還流比が0.4を越えると、側流中の水濃度も増加して3重量%を越え、第2の塔で酢酸から水、酢酸メチル、及びヨウ化メチルを除去するための分離が困難になる。従って、このような酢酸を乾燥塔の底部又は底部近傍の側部から回収したとしても、含まれるヨウ化物の総濃度が高くなり過ぎてガード床で効果的に取り扱えなくなる場合がある。」(【0080】?【0082】)

カ「【0083】
PRC除去系
・・・図には示されていないが、軽質液相133及び/又は重質液相134の一部を分離し、アセトアルデヒド又はPRC除去系に導入し、アセトアルデヒド除去工程中でヨウ化メチルと酢酸メチルを回収してもよい。表1及び表2に示すように、軽質液相133及び/又は重質液相134はそれぞれPRCを含んでおり、本発明の方法は、酢酸生成物の品質を損なうアセトアルデヒド等のカルボニル不純物を除去することを含み得る。・・・
【0084】
・・・本明細書で記載したように、アセトアルデヒド又はPRC除去系に供給されない軽質液相133の一部分を第1の塔に還流してもよく、あるいは反応器にリサイクルしてもよい。アセトアルデヒド又はPRC除去系に供給されない重質液相134の一部分を反応器にリサイクルしてもよい。重質液相134の一部分を第1の塔に還流してもよいが、ヨウ化メチルが濃縮された重質液相134は反応器に戻す方がより望ましい。」(【0083】【0084】)

キ「【0086】
・・・一態様では、反応器内で形成した反応媒体をフラッシュ容器で分離し液体リサイクル及び蒸気生成物流を形成すること、上記蒸気生成物流を第1の塔で蒸留し側流及び5重量%又はそれを超える量の水を含む低沸点オーバーヘッド蒸気流を得ること、低沸点オーバーヘッド蒸気流を凝縮し、得られた凝縮流を二相に分離し重質液相及び軽質液相を形成すること、上記重質液相の一部を分離しアセトアルデヒド又はその他のPRCを除去すること、上記反応器への軽質液相のリサイクル率を制御することにより側流中の水濃度を1?3重量%、例えば、好ましくは1.1?2.5重量%に維持し、側流中のヨウ化水素濃度を50重量ppm又はそれを下回る量、例えば、好ましくは0.1?50重量ppmに維持すること、及び側流を第2の塔で蒸留し精製酢酸生成物を得ることを含む、酢酸の製造方法が提供される。
・・・
【0088】
第2の塔
・・・側流123経由で回収する酢酸を第2の塔125(乾燥塔とも言う)等でさらに精製することが好ましい。また、第2の塔において側流123を分離し主に水を含む水性オーバーヘッド流126、及び主に酢酸を含む生成物流127を形成する。側流由来の水は水性オーバーヘッド流において濃縮される。この水性オーバーヘッドは第2の塔に供給された側流中の水の90%又はそれを超える水、例えば、95%又はそれを超える水、97%又はそれを超える水、又は99%又はそれを超える水を含む。水性オーバーヘッド流126は水を50?75重量%を含んでいてもよい。いくつかの態様では、水性オーバー ヘッド流は水を75重量%又はそれを下回る量、例えば、70重量%又はそれを下回る量又は65重量%又はそれを下回る量含んでいてもよい。また酢酸メチル及びヨウ化メチルは側流から除去され、オーバーヘッド流にて濃縮される。生成物流127は、本質的に酢酸を含む、又は酢酸からなり、第2の塔125の底部又は底部近傍の側流から取り出されることが好ましい。底部近傍の側流として取り出される場合、側流は液体であってもよく、あるいは蒸気流であってもよい。好ましい態様では、生成物流127は90重量%又はそれを超える量、例えば、95重量%又はそれを超える量又は98重量%又はそれを超える量の酢酸を含む。生成物流127はさらに、商業利用のために貯蔵又は輸送される前に、例えばイオン交換樹脂を通過させる等の処理をしてもよい。
【0089】
・・・同様に、第2の塔125から得られる水性オーバーヘッド流126は、ヨウ化メチル、酢酸メチル、及び水等の反応成分を含み、これら反応成分を工程内で保持することが好ましい。水性オーバーヘッド流126は熱交換器により凝縮されて流れ138となり、反応器105にリサイクルされる、かつ/又は第2の塔125に還流される。オフガス成分はライン137経由で凝縮水性オーバーヘッド流126から放出されてもよい。第1の塔120から得られる凝縮低沸点オーバーヘッド蒸気流と同様に、凝縮オーバーヘッド流138もまた水相と有機相に分離し、これらの相を必要に応じリサイクル又は還流し、反応媒体中の濃度を維持してもよい。」(【0086】?【0089】)

ク「【0095】
ガード床(Guard bed)
・・・例えば、酢酸流等のカルボン酸流は、ハロゲン化物及び/又は腐食性金属で汚染されているが、広範囲の運転条件の下でイオン交換樹脂組成物と接触させてもよい。イオン交換樹脂組成物をガード床中に設けることが好まししい。ガード床を用いて汚染カルボン酸を精製することは、・・・当該分野ではよく知られている。一般に、汚染された液体カルボン酸流をイオン交換樹脂組成物と接触させるが、このイオン交換樹脂組成物はガード床中に設けられていることが好ましい。例えば、ヨウ化物汚染物質等のハロゲン化物汚染物質を金属と反応させて金属ヨウ化物を生成させる。態様によっては、ヨウ化物と結合し得る炭化水素部位(例えば、メチル基等)はカルボン酸をエステル化させることがある。例えば、ヨウ化メチルで汚染された酢酸の場合、酢酸メチルがヨウ化物除去の副生物として
生成される。このエステル化物の生成は、通常は処理済みのカルボン酸流に有害な効果を及ぼすことはない。
【0096】
・・・一態様では、イオン交換樹脂は金属交換イオン交換樹脂であり、銀、水銀、パラジウム、及びロジウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属を含んでいてもよい。一態様では、この金属交換樹脂の強酸交換部位の少なくとも1%を銀が占める。他の態様では、この金属交換樹脂の強酸交換部位の少なくとも1%を水銀が占める。本発明の方法は、カチオン性交換樹脂で精製酢酸生成物を処理し銀、水銀、パラジウム、ロジウムのいずれかを回収することをさらに含んでいてもよい。
【0097】
・・・接触工程時の圧力は、樹脂の物理的強度によってのみ制限される。一態様では、0.1MPa?1MPa、例えば、0.1MPa?0.8MPa又は0.1MPa?0.5MPaの範囲の圧力で接触を行う。しかしながら、便宜上、圧力と温度の両方を規定して、汚染カルボン酸流を液体として処理することが好ましい場合がある。従って、例えば、一般に経済的観点から好ましいとされる大気圧での運転では、温度は17℃(酢酸の凝固点)から118℃(酢酸の沸点)の範囲であってもよい。他のカルボン酸化合物を含む生成物流に対して同様の範囲を定めることは当業者の理解の範囲内である。接触工程の温度を比較的低く保ち樹脂の劣化を最小限にすることが好ましい。一態様では、25℃?120℃、例えば、25℃?100℃又は50℃?100℃の範囲の温度で接触を行う。数種の陽イオン性マクロ網状樹脂は、通常150℃の温度で劣化し始める(酸触媒の芳香族脱スルホン化の機構による)。炭素数が5以下、例えば、3以下のカルボン酸はこの範囲の温度で液体の状態を保つ。従って、接触時の温度を、用いられる樹脂の劣化温度未満に維持しなければならない。いくつかの態様では、運転温度を樹脂の限界温度より低く保ち、ハロゲン化物除去のための所望の反応速度及び液相操作との整合性をとる。
【0098】
・・・酢酸精製系内のガード床の構成は大きく異なっていてもよい。例えば、ガード床を乾燥塔の後に設けてもよい。それに加えて、あるいはそれに代えて、ガード床を重質留分除去塔又は仕上げ塔の後に設けてもよい。酢酸生成物流の温度が低い位置、例えば、120℃又はそれを下回る温度又は100℃又はそれを下回る温度の位置にガード床を設けることが好ましい。上述した利点に加え、運転温度が低い場合、運転温度が高い場合に比べて金属の腐食が少ない。また運転温度が低い場合、上述したように樹脂の総合寿命を低下させるおそれがある腐食性金属汚染物質の生成が抑制される。また、運転温度が低い場合、腐食が抑制されるため、容器を高価な耐腐食性金属ではなく、一般的なステンレス鋼で作製してもよいというさらなる利点がある。
【0099】
・・・一態様では、ガード床における流速は0.1床体積/時間(bed volumes per hour)(BV/hr)から50BV/hrの範囲、例えば、1BV/hrから20BV/hr又は6BV/hrから10BV/hrの範囲である。有機媒体の床体積は、樹脂床が占める体積に等しい媒体の体積である。流速が1BV/hrであるとは、樹脂床が占める体積に等しい量の有機液体が1時間で樹脂床を通過することを意味する。
【0100】
・・・一態様では、総ヨウ化物濃度が高い精製酢酸生成物で樹脂が消耗されることを回避するため、精製酢酸生成物の総ヨウ化物濃度が5重量ppm又はそれを下回る量、例えば、好ましくは1重量ppm又はそれを下回る量である場合、底部流127中の精製酢酸生成物をガード床に接触させる。総ヨウ化物濃度には、ヨウ化C_(1)?C_(14)アルキル等の有機物及びヨウ化水素等の無機物の両方に由来するヨウ化物が含まれる。ガード床で処理した結果、精製酢酸組成物が得られる。一態様では、精製酢酸組成物は、100wppb(重量ppb)又はそれを下回る量、例えば、90wppb又はそれを下回る量、50wppb又はそれを下回る量、又は25wppb又はそれを下回る量のヨウ化物を含む。一態様では、精製酢酸組成物は1000wppb又はそれを下回る量、例えば、750wppb又はそれを下回る量、500wppb又はそれを下回る量、又は250wppb又はそれを下回る量の腐食性金属を含む。本発明においては、腐食性金属は、ニッケル、鉄、クロム、モリブテン、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される金属を含む。範囲に関しては、精製酢酸組成物は0?100wppb、例えば、1?50wppbのヨウ化物及び/又は0?1000wppb、例えば、1?500wppbの腐食性金属を含んでいてもよい。他の態様では、ガード床によって、粗酢酸生成物からヨウ化物の少なくとも25重量%、例えば、少なくとも50重量%又は少なくとも75重量%が除去される。一態様では、ガード床によって、粗酢酸生成物から腐食性金属の少なくとも25重量%、例えば、少なくとも50重量%又は少なくとも75重量%が除去される。」

ケ「【実施例】
【0105】
・・・ 比較例1 軽質液相をリサイクルしない場合
・・・典型的な例として、0.2gの側流試料を0.01Mの酢酸リチウムのアセトン(50ml)溶液で滴定することにより側流中のHI濃度を求めた。pH電極をMetrohm 716 DMS Titrinoと共に用いて、動的当量点滴定モードで終点を求めた。酢酸リチウム滴定試薬の消費量に基づき、次式からHI濃度を重量%で算出した。
・・・
【0107】
このHI滴定法を用いて、約1.9重量%の水、約2.8重量%のヨウ化メチル、及び約2.5重量%の酢酸メチルを含む側流組成物試料を試験した。HI濃度は50重量ppmから300重量ppmまで変化した。オーバーヘッド軽質留分由来の軽質液相は全く反応器にリサイクルされなかった。軽質液相をリサイクルしない場合はHI濃度が高くなる傾向にある。
【0108】
実施例1 軽質液相をリサイクルする場合
・・・オーバーヘッド軽質留分由来の軽質液相の一部を反応器に直接リサイクルし側流中の水の含有量を低下させた。この側流は、約1.5重量%の水、約3.6重量%の酢酸メチル、約2.1重量%のヨウ化メチル、及び25重量ppm又はそれを下回る量のHIを含み、残部は酢酸、酢酸メチル、及びヨウ化メチルを含んでいた。HI濃度は低すぎて、直接滴定で測定することができなかった。HI濃度を直接測定することを困難にする他の陽イオンが存在したためである。無機ヨウ化物の総量、すなわち可能な限り最大限のHI総量を直接測定した。これら他の無機ヨウ化物は、ヨウ化リチウムに加えて腐食性金属のヨウ化物を含んでいることがある。」(【0105】?【0108】)

(4)対比判断
ア 課題
発明の詳細な説明の【技術分野】【0002】の「本発明は、酢酸の製造方法、特に乾燥塔に供給する水及びヨウ化水素の濃度を制御する、改良された方法に関する。」との記載、【0011】の 「酢酸の回収を制御するための酢酸製造の改良方法が求められている。」との記載、【0039】の「軽質液体相のリサイクルの制御は、例えば米国特許第9,006,483号に記載の方法等、第1の塔に供給される蒸気生成物の濃度を維持する他の方法に対する改良となっている。本発明は、第1の塔に追加の成分を導入する、或いは蒸気生成物供給原料のそれぞれの濃度を維持する必要がなく、いかなる種類の供給原料の制御も改良できるという利点がある。従って、いくつかの態様では、本発明は水又は酢酸メチルを第1の塔に供給しない、あるいは供給源である蒸気流を第1の塔に供給しない。また、米国特許第9,006,483号においては、反応器にリサイクルされる軽質液相の制御に失敗しており、側流中の水濃度及びヨウ化水素濃度を個別に制御することはできない。」との記載及び本願明細書全体の記載を参酌して、本件発明の課題は、乾燥塔に供給する水及びヨウ化水素の濃度を制御する改良された酢酸の製造方法の提供にあるものと認める。

イ 対比判断
(ア)請求項1に係る発明について
a 前記(1)に記載されるように、請求項1には、「反応器内で形成した」「0.1重量%から4.1重量%の水と、酢酸、酢酸メチル、金属触媒、ヨウ化物塩、及びヨウ化メチルとを含」む「反応媒体をフラッシュ容器内で分離し、酢酸、金属触媒、及び腐食性金属を含む液体リサイクルと、酢酸、ヨウ化メチル、酢酸メチル、水、ヨウ化水素、及び過マンガン酸還元性化合物を含む蒸気生成物流とを形成すること」、
「該蒸気生成物流の一部を第1の塔で蒸溜し、酢酸を含む側流と、酢酸メチル、ヨウ化メチル、過マンガン酸還元性化合物、及び5重量%又はそれを超える量の水を含む低沸点オーバーヘッド蒸気流と、95重量%又はそれを超える量の酢酸及び5重量%又はそれを下回る量の水を含む残渣流とを得ること」、
「該低沸点オーバーヘッド蒸気流を凝縮し、得られた凝縮流を二相に分離し、重質液相、及び40重量%から80重量%の水を含み5重量%未満のヨウ化メチルを含む軽質液相を形成すること」、
「該反応器への軽質液相の一部分のリサイクル率を制御することにより、該側流の総重量に対して、該側流中の水濃度を1重量%から3重量%に維持し、該側流中のヨウ化水素濃度を50重量ppm又はそれを下回る量に維持すること」、
「該側流を第2の塔で蒸溜し、精製酢酸生成物を得ること」
「該第1の塔が、0.05から0.4である、該軽質液相の還流比で稼働される」ことを特定事項として含む、酢酸の製造方法の発明が記載されている。

b したがって、請求項1に係る発明は、「40重量%から80重量%の水を含み5重量%未満のヨウ化メチルを含む軽質液相を形成すること」、「該第1の塔が、0.05?0.4である該軽質相の還流比で稼働される」ことを特定した上で、「該軽質液相の該反応系へのリサイクル率を制御して該側流中の水濃度を1?3重量%に維持し、該側流中のヨウ化水素濃度を50wppm以下に維持すること」を制御内容とした「酢酸を製造する方法」であるといえる。

c 一方、発明の詳細な説明には、【0082】において、「本発明においては、流量バルブ(図示されていない)及び/又は流量モニター(図示されていない)を用いてライン135中の還流及びライン136中のリサイクルを制御してもよい。一態様では、試料流141をオンライン分析計142に供給することにより、側流123中のヨウ化水素濃度を求めてもよい。一態様では、ライン135中の還流及びライン136中のリサイクルを、オンライン分析計142と通信しながら制御してもよく、オンライン分析計がフィードバック情報を送り反応器への還流比及びリサイクル率をそれぞれ制御してもよい。還流比を変化させると、反応器にリサイクルされる水の量に影響を及ぼす場合がある。いくつかの態様では、軽質液相133が反応器へ全くリサイクルされないように水の量を変化させてもよい。還流を減少させ(かつ反応器へのリサイクルを増加させる)と、側流中の水の含有量も減少する。還流を増加させると、側流中の水濃度も増加し、反応器にリサイクルされる水は減少する。還流比が0.4を越えると、側流中の水濃度も増加して3重量%を越え、第2の塔で酢酸から水、酢酸メチル、及びヨウ化メチルを除去するための分離が困難になる。従って、このような酢酸を乾燥塔の底部又は底部近傍の側部から回収したとしても、含まれるヨウ化物の総濃度が高くなり過ぎてガード床で効果的に取り扱えなくなる場合がある。」との明細書中での還流比と側流の水濃度との数値を伴った技術的意義に関する説明が存在する。
したがって、第1の塔への還流比を0.4以下の一定の値にしておけば、側流中の水濃度が3重量%以下に抑えることが可能であることが読み取れるといえる。
また、実施例、比較例には、還流比の値は明確ではないものの、
「比較例1-軽質液相をリサイクルしない場合
・・・このHI滴定法を用いて、約1.9重量%の水、約2.8重量%のヨウ化メチル、及び約2.5重量%の酢酸メチルを含む側流組成物試料を試験した。HI濃度は50重量ppmから300重量ppmまで変化した。オーバーヘッド軽質留分由来の軽質液相は全く反応器にリサイクルされなかった。軽質液相をリサイクルしない場合はHI濃度が高くなる傾向にある。
・・・
実施例1 軽質液相をリサイクルする場合
・・・オーバーヘッド軽質留分由来の軽質液相の一部を反応器に直接リサイクルし側流中の水の含有量を低下させた。この側流は、約1.5重量%の水、約3.6重量%の酢酸メチル、約2.1重量%のヨウ化メチル、及び25重量ppm又はそれを下回る量のHIを含み、残部は酢酸、酢酸メチル、及びヨウ化メチルを含んでいた。HI濃度は低すぎて、直接滴定で測定することができなかった。HI濃度を直接測定することを困難にする他の陽イオンが存在したためである。無機ヨウ化物の総量、すなわち可能な限り最大限のHI総量を直接測定した。これら他の無機ヨウ化物は、ヨウ化リチウムに加えて腐食性金属のヨウ化物を含んでいることがある。」との記載から、軽質液相をリサイクルすることによって、しない場合に比較すると、ヨウ化水素の濃度を低下させることが可能であることは理解できるといえる。
そして、上記発明の詳細な説明の記載を併せて検討すれば、本件発明1の課題が解決できたことが具体的に理解できるといえる。

すなわち、明細書中での還流比と側流の水濃度との数値を伴った技術的意義に関する説明が存在すること及び、系の中で側流の直前の空間であって、近接した位置にある、第1の塔の水分やヨウ化水素の組成が、反応器での組成以上に側流中の組成に影響を与えると理解することが技術常識であることを考慮すると、側流中のヨウ化水素の濃度と側流中の水の濃度が関係していることや両者の濃度を制御するためには、反応器、フラッシュ容器、第1の塔内の水及びヨウ化水素を含めた成分組成が関連していることは当業者であれば理解できるのであるから、上記知見を理解した上であれば、第1の塔が0.05から0.4の軽質液相の還流比の範囲で稼働するとの前提で、「反応器への軽質液相の一部分のリサイクル率を制御することにより」最終的に「該側流中の水濃度を1重量%から3重量%に維持し、該側流中のヨウ化水素濃度を50重量ppm又はそれを下回る量に維持すること」は、可能であるといえ、前記課題が解決できると認識できる範囲であるといえる。
よって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。

(イ)請求項2?7,9,11?13に係る発明について
請求項2?7,9,11?13に係る発明は、請求項1に係る発明において、反応媒体の含有成分および該含有成分の組成、重質液相の一部分を処理し過マンガン酸還元性化合物を除去する点、側流中の水濃度、ヨウ化水素濃度、ヨウ化アルキルおよび酢酸メチル濃度、側流中のヨウ化アルキルおよび酢酸メチル濃度と水濃度の関係、重質液相、軽質液相、これらの混合物を第1の塔に還流させる点、重質液相の水濃度、第2の塔からの精製酢酸生成物、水性オーバーヘッドの取り出しの点をさらに限定したものであるが、それらの点が、【0034】に反応媒体の含有成分、含有成分の組成が、【0032】【0034】に側流中の水濃度、ヨウ化水素濃度が、【0034】に側流中のヨウ化アルキルおよび酢酸メチル濃度と水濃度の関係が、【0084】には、重質液相、軽質液相、これらの混合物を第1の塔に還流させる点が、【0078】には、重質液相の水濃度が、【0088】には、第2の塔からの精製酢酸生成物、水性オーバーヘッドの取り出しに関する説明がそれぞれ存在し、これらの一般的説明も考慮すれば、請求項2?7,9,11?13に係る発明も、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。

(ウ)請求項14?21に係る発明について
請求項14に係る発明は、請求項13に係る発明において、水性オーバーヘッドが、該第2の塔に供給される側流中の水の90%又はそれを超える水を含む点を、請求項15に係る発明は、請求項13又は14に係る発明おいて、反応器への水性オーバーヘッドの質量流量に対する該反応器へリサイクルされる軽質液相の質量流量のリサイクル比が2であるか又はそれを下回る点をさらに限定したものであるが、それらの点が、【0088】に説明がそれぞれ存在し、これらの一般的説明も考慮すれば、請求項14,15に係る発明も、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。
また、請求項16は、請求項1に係る発明において、精製酢酸生成物の総ヨウ化物濃度が5重量ppm又はそれを下回る場合に該精製酢酸生成物をガード床に接触させることをさらに含むことが、請求項17は、請求項1に係る発明において、軽質液相のリサイクル率が、該低沸点オーバーヘッド蒸気流を凝縮して得た総軽質液相の0%から20%であることが、それぞれさらに限定されているが、【0095】?【0100】には、精製酢酸生成物をガード床に接触させる場合の態様について、総ヨウ化物濃度に関する記載が、【0080】には、軽質液相のリサイクル率に関する記載が、それぞれ存在し、これらの一般的説明も考慮すれば、請求項16,17に係る発明も、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。
また、請求項18は、請求項17に係る発明において、軽質液相のリサイクル率が、低沸点オーバーヘッド蒸気流を凝縮して得た総軽質液相の0.1%から20%であることがさらに限定されているが、【0080】には、軽質液相のリサイクル率に関する記載が存在しこれらの一般的説明も考慮すれば、請求項18に係る発明も、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。
さらに、請求項19は、請求項1に係る発明において、反応媒体中のヨウ化エチル濃度を750重量ppm又はそれを下回る量に制御することをさらに含み、該精製酢酸生成物からプロピオン酸を直接除去せずに該精製酢酸生成物が250重量ppm未満のプロピオン酸を含むことがさらに限定されているが、【0059】には、反応媒体中のヨウ化エチルがカルボニル化されてプロピオン酸になること、【0063】には、反応媒体中のヨウ化エチル濃度の上限、【0060】には、反応媒体中のヨウ化エチル濃度と酢酸生成物中のプロピオン酸濃度に関する記載が存在し、これらの一般的説明も考慮すれば、請求項19に係る発明も、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。
また、請求項20、21は、請求項19において、それぞれ、反応媒体中のヨウ化エチルと精製酢酸生成物中のプロピオン酸が3:1から1:2の重量比で存在すること、アセトアルデヒドとヨウ化エチルが反応媒体中に2:1から20:1の重量比で存在することをさらに限定されているが、【0059】には、反応媒体中のヨウ化エチルがカルボニル化されてプロピオン酸になること、ヨウ化エチルの生成は、反応媒体中のアセトアルデヒド、ヨウ化エチル等多くの変動要素に影響され得ることが説明され、【0061】【0064】【0065】に一般的態様記載があり、これらの一般的説明も考慮すれば、請求項20,21に係る発明も、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。

(5)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、平成29年7月14日付け意見書において、以下の主張をしている。
サポート要件に関する主張として、特許権者の主張は、図1に基づく軽質液相が反応器へのリサイクルと第1の塔への還流のみに接続されている場合に成り立つ主張で、アセトアルデヒド除去系にも供給する場合には成り立たない(6頁19?28行)。

(6)主張の検討
軽質液相の反応器へのリサイクル率と第1の塔への還流比とが排出された全量に対してどのような関係にあるかは重要であるが、アセトアルデヒド除去系を用いても良い態様を発明の詳細な説明の記載が含めて記載されていることは明らかであり、軽質液相のリサイクル量や側流の測定箇所に近い第1塔への軽質液相の還流比が側流の水分とヨウ化水素に影響を与えていることは理解できるため、課題が解決できると認識できる範囲まで特定事項が限定された発明に関しては、サポート要件を満たすといえる。

2 理由2(特許法第36条第4項第1号)について
(1)前記理由1において、検討したように、請求項1?7,9,11?21に係る発明に関して、発明の詳細な説明の記載から、具体的記載として反応器への軽質液相の一部分のリサイクル率を制御することと第1の塔が特定範囲の軽質相の還流比で稼働されることが特定されており、明細書中での還流比と側流の水濃度との数値を伴った技術的意義に関する説明が存在すること及び、系の中で側流の直前の空間であって、近接した位置にある、第1の塔の水分やヨウ化水素の組成が、反応器での組成以上に側流中の組成に影響を与えると理解することが技術常識であることを考慮すると、上記知見を理解した上であれば、発明の詳細な説明の記載から、当業者であれば実行可能な発明であるといえ、最終的に制御によって、側流中の水濃度を1重量%から3重量%に維持し、該側流中のヨウ化水素濃度を50重量ppm又はそれを下回る量に維持することは、当業者が条件設定することができるものといえる。

(2)よって、請求項1?7,9,11?21に係る発明に関しては、発明の詳細な説明は、当業者が容易に実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。

(3)特許異議申立人の主張についての検討
特許異議申立人は、どのようにして、本件発明の成分組成を特定した低沸点オーバーヘッド流、軽質液相、側流を得るのか、反応媒体中の原料組成、反応条件、フラッシュ条件、蒸留条件、反応器へのリサイクル率によって影響を受けることが通常であるので、出願時の技術常識を参酌しても当業者が理解できない旨主張している。
しかしながら、上述のとおり、系の中で側流の直前の空間であって、近接した位置にある、第1の塔の水分やヨウ化水素の組成が、反応器やフラッシュ容器等の反応系での組成以上に側流中の組成に影響を与えると理解することが技術常識であることを考慮すると、本件発明は、第1の塔への軽質液相の還流比を制御することを前提として、側流中のヨウ化水素濃度を検出しながら、軽質液相の該反応系へのリサイクル率と第1の塔の還流比との両方によって、該側流中のヨウ化水素濃度を50wppm又はそれを下回る量に維持していると理解することができ、最終的に制御によって、側流中の水濃度を1重量%から3重量%に維持し、該側流中のヨウ化水素濃度を50wppm又はそれを下回る量に維持することは、過度な試行錯誤を経ることなく、条件設定することができるといえるのであるから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が容易に実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。

3 特許異議申立人が申し立てた取消理由(特許法第29条第1項第3号、同法第29条第2項)について
上述のとおり、取消理由(予告)の取消理由は解消しているが、特許異議申立人が申し立てた取消理由(1)(特許法第29条第1項第3号)(2)(特許法第29条第2項)について検討すると、本件発明1?7,9,11?21は、特許異議申立人が申し立てた取消理由(1)(2)によっても、取り消すことはできないと判断する。

刊行物1:国際公開第2013/137236号(甲第1号証)
刊行物2:特開平8-20555号公報(甲第2号証)
刊行物3:特開平10-231267号公報(甲第3号証)

(1)刊行物の記載
a 刊行物1
本件優先日前に頒布された刊行物であると認められる刊行物1には以下の記載がある。
(1a)「図1に示すプロセス(又は製造装置)は、触媒又は触媒系及び水の存在下、メタノールと一酸化炭素とを連続的に反応(メタノールのカルボニル化反応)させるための反応器(反応系)1と、反応混合物(反応液)をフラッシュ蒸留して、揮発相成分と低揮発相成分とに分離するためのフラッシャー又は蒸発槽(フラッシュ蒸発槽)2と、前記揮発相成分を蒸留して、塔頂からの第1のオーバーヘッドと塔底からの缶出流とサイドカット流(粗酢酸流)とに分離するための第1の蒸留塔(スプリッターカラム)3と、第1のオーバーヘッドをコンデンサC3で冷却して凝縮し、水相(上相又は軽質相)と有機相(下相又は重質相)とに分液するためのデカンタ4と、第1の蒸留塔3からのサイドカット流(粗酢酸流)を蒸留し、塔頂からの第2のオーバーヘッドと、塔底からの缶出流と、側部からのサイドカット流(精製酢酸流)とに分離するための第2の蒸留塔(脱水塔又は精製塔)5と、前記コンデンサC4の凝縮液(水相及び有機相)から不純物を除去するための不純物除去系(第3の蒸留塔6,水抽出塔(水抽出器)7及び第4の蒸留塔8)とを備えている。」([0032])

(1b)「反応混合物(反応粗液)中には、酢酸、酢酸よりも沸点の低い揮発性成分[低沸成分(助触媒としてのヨウ化メチル、酢酸とメタノールとの反応生成物である酢酸メチル、メタノール、水、ジメチルエーテルなど)又は低沸不純物(ヨウ化水素、アセトアルデヒド、クロトンアルデヒド)など]、及び酢酸よりも沸点の高い低揮発性成分[金属触媒成分(ロジウム触媒、及び助触媒としてのヨウ化リチウム)又は高沸不純物(プロピオン酸、2-エチルクロトンアルデヒドなどのアルデヒド縮合物、ヨウ化ヘキシル、ヨウ化デシルなどのヨウ化C6-12アルキルなどの副反応生成物など)など]が含まれる。
・・・
そこで、反応混合物(反応混合物の一部)を、供給ライン11を通じて反応器1からフラッシャー又は蒸発槽(フラッシュ蒸発槽、フラッシュ蒸留塔)2に連続的に供給してフラッシュ蒸留し、フラッシュ蒸発槽2の塔頂部又は上段部からの揮発相成分(主に、生成した酢酸、メタノール、酢酸メチル、ヨウ化メチル、水、プロピオン酸、アセトアルデヒド、副生したヨウ化水素などを含む低沸点留分)と、低揮発相成分(主にロジウム触媒及びヨウ化リチウムなどの金属触媒成分(高沸成分)を含む高沸点留分)とに分離する。
・・・
低揮発相成分(触媒液又は缶出液)は、リサイクルライン21を通じて反応器1にリサイクルしてもよいが、この例では、蒸発槽2の底部からのリサイクルライン21を通じて低揮発相成分(触媒液又は缶出液)を連続的に抜き出して熱交換器(コンデンサC6)で除熱又は冷却し、冷却された低揮発相成分(触媒液)を反応器1にリサイクルしている。そのため、反応器1の温度コントロールが容易である。なお、前記低揮発相成分(触媒液)は、通常、前記金属触媒成分の他、蒸発せずに残存した酢酸、ヨウ化メチル、水、酢酸メチルなどを含んでいる。」([0035][0036][0037])

(1c)「揮発相成分(又は揮発相)は、供給ライン22により、棚段塔などの第1の蒸留塔(スプリッターカラム)3の高さ方向の中央部よりも下部に供給され、第1の蒸留塔(スプリッターカラム)3は、供給ライン22を通じて供給された揮発相成分(又は揮発相)の一部を蒸留し、塔頂又は塔の上段部から留出する第1のオーバーヘッド(ヨウ化メチル、酢酸メチル、アセトアルデヒド、水などを含む第1の低沸点成分)と、塔底から留出する缶出流(主に、水、酢酸、飛沫同伴などにより混入した触媒(ヨウ化リチウムなど)、プロピオン酸、ヨウ化ヘキシルなどのヨウ化C _(6-12 )アルキル、アルデヒド縮合物などの高沸不純物などの高沸点成分を含む流分)と、側部(供給ライン22による供給部よりも上部)からのサイドカット流(主に、酢酸を含む第1の液状流分(粗酢酸流分))とに分離する。この例では、サイドカット流(粗酢酸流)は供給ライン36を通じて第2の蒸留塔5に供給され、塔底からの缶出流はリサイクルライン31を通じて反応器1に与えられている。なお、塔底からの缶出流の一部又は全部は、ライン(図示せず)を通じて、蒸発槽2にリサイクルしてもよい。」([0039])

(1d)「より詳細には、揮発成分中の水の濃度が低濃度であるため、第1の蒸留塔3内では、揮発成分の供給部よりも上方で水濃度の高い領域を形成し、この領域で水溶性の高いヨウ化水素が濃縮するものの、酢酸メチルの供給により、酢酸メチルとヨウ化水素との反応を優位に進行させて、下記平衡反応(1)を右方向にシフトさせて有用なヨウ化メチルと酢酸とを生成できる。さらに、水及び/又は酢酸メチルの供給により、下記平衡反応(2)を右方向にシフトさせてメタノールと酢酸とを生成でき、生成したメタノールとヨウ化水素との下記反応(3)により、有用なヨウ化メチルと水が生成できる。すなわち、最終的には、ヨウ化水素の副生(平衡反応(3)において左側へのシフト反応)を抑制しつつ、有機相に親和性が高く、低沸点のヨウ化メチルと、水に対する親和性が高く、高沸点の酢酸と水とが生成する。そのため、ヨウ化メチルと酢酸及び水とを蒸留により有効に分離できるとともに、後述するように、デカンタ4で主にヨウ化メチルを含む有機相と主に水及び酢酸を含む水相とに効率よく分液できる。
・・・
CH_(3)COOCH_(3)+ HI ←→ CH_(3)I + CH_(3)COOH (1)
CH_(3)COOCH_(3)+ H_(2)O ←→ CH_(3)OH + CH_(3)COOH (2)
CH_(3)OH + HI ←→ CH_(3)I + H_(2)O (3)
・・・
コンデンサC3で凝縮した凝縮液の一部は、リサイクルライン41を通じて反応器1にリサイクルし、凝縮液分の一部は、還流ライン42を通じて第1の蒸留塔3にリサイクルして還流している。より詳細には、コンデンサC3で冷却して凝縮した第1のオーバーヘッドの凝縮液は、デカンタ4内で、水、酢酸、酢酸メチル、ヨウ化水素及びアセトアルデヒドなどを含む水相(上相又は軽質相)と、ヨウ化メチル、酢酸メチルなどを含む有機相(下相又は重質相)とに分液し、水相(上相)を還流ライン42により第1の蒸留塔3に供給して還流し、有機相(下相)をリサイクルライン41により反応器1へリサイクルしている。」([0042][0043][0046])

(1e)「第1の蒸留塔3からのサイドカット流(粗酢酸流)は、供給ライン36により第2の蒸留塔(脱水塔又は精製塔)5に供給されて蒸留され、塔頂からライン52を通じて留出する第2のオーバーヘッド(水などの低沸成分を含む第2の低沸点成分)と、塔底からライン51を通じて留出する缶出流(水、プロピオン酸などの高沸点カルボン酸、ヨウ化ヘキシルなどのヨウ化C _(6?12) アルキル、アルデヒド縮合物などを含む高沸成分(高沸不純物))と、側部(塔底と供給ライン36による供給部との間)からライン55を通じて留出するサイドカット流(酢酸を含む第2の液状流分(精製した高純度の酢酸流))とに分離している。」([0048])

(1f)「また、第1の蒸留塔3では、フラッシュ蒸発槽2からの揮発相成分を蒸留し、塔頂から第1のオーバーヘッドを流出させ、塔底から缶出流を流出させ、側部からサイドカット流(粗酢酸流)を生成させている。このサイドカット流は、第1の蒸留塔3に対する供給ライン22の接続位置(供給部)よりも上方に位置する部位から取り出している。前記第1のオーバーヘッドは、導入ライン32によりコンデンサC3に導入し、冷却して凝縮し、凝縮成分(ヨウ化メチル、酢酸メチル、酢酸、アセトアルデヒドなどを含む凝縮液)を導入ライン33を通じてデカンタ4に供給し、非凝縮成分(主に一酸化炭素、水素などを含むガス成分)を排出ライン38により前記スクラバーシステム92に供給している。缶出流の一部はライン37を通じてフラッシュ蒸発槽2に戻し、缶出流の一部はリサイクルライン31を通じて反応器1へリサイクルしている。なお、缶出流の全部を、ライン37を通じてフラッシュ蒸発槽2に戻してもよい。デカンタ4の凝縮液(この例では、水相)は還流ライン42により第1の蒸留塔3に戻して還流し、デカンタ4の凝縮液(この例では、有機相)はリサイクルライン41を通じて反応器1へリサイクルしている。
・・・
さらに、第1の蒸留塔3のサイドカット流を供給ライン36により第2の蒸留塔(脱水塔又は精製塔)5に供給し、第2の蒸留塔5での蒸留により、塔頂からライン52を通じて留出する第2のオーバーヘッドと、塔底からライン51を通じて留出する缶出流と、側部からライン55を通じて留出するサイドカット流(高純度の酢酸流))とに分離している。第2のオーバーヘッド(低沸点留分)は、排出ライン52を通じてコンデンサC4で冷却して凝縮し、凝縮した凝縮液(主に水を含む凝縮液)の一部は、還流ライン53を通じて第2の蒸留塔5に戻されて還流するとともに、凝縮した凝縮液の一部は、リサイクルライン91を通じて反応器1へリサイクルしている。また、非凝縮成分(気体成分)は排出ライン56を通じて前記スクラバーシステム92に供給している。」([0056][0057])

(1g)「周期表第8族金属触媒としては、例えば、ロジウム触媒、イリジウム触媒など(特に、ロジウム触媒)が例示できる。触媒は、ハロゲン化物(ヨウ化物など)、カルボン酸塩(酢酸塩など)、無機酸塩、錯体(特に、反応液中で可溶な形態、例えば、錯体)の形態で使用できる。このようなロジウム触媒としては、ロジウムヨウ素錯体(例えば、RhI_(3) 、RhI_(2) (CO)_(4) ]、[Rh(CO)_(2) I_(2) ]など)、ロジウムカルボニル錯体などが例示できる。このような金属触媒は一種で又は二種以上組み合わせて使用できる。金属触媒の濃度は、例えば、反応器内の液相全体に対して10?5000ppm(重量基準、以下同じ)、特に200?3000ppm(例えば、500?1500ppm)程度である。
・・・
助触媒又は促進剤としては、イオン性ヨウ化物又はヨウ化金属が使用され、低水分下でのロジウム触媒の安定化と副反応抑制のために有用である。イオン性ヨウ化物(又はヨウ化金属)は、反応液中で、ヨウ素イオンを発生可能であればよく、例えば、ヨウ化アルカリ金属(ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウムなど)などが挙げられる。なお、ヨウ化アルカリ金属(ヨウ化リチウムなど)は、カルボニル化触媒(例えば、ロジウム触媒など)の安定剤としても機能する。これらの助触媒は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの助触媒のうちヨウ化リチウムが好ましい。反応器の液相系(反応液)での助触媒(ヨウ化金属など)の濃度は、液相全体に対して、例えば、1?25重量%、好ましくは2?22重量%、さらに好ましくは3?20重量%程度である。
・・・
前記促進剤としては、ヨウ化メチルが利用される。反応器の液相系(反応液)でのヨウ化メチルの濃度は、液相全体に対して、例えば、1?20重量%、好ましくは5?20重量%、さらに好ましくは6?16重量%(例えば、8?14重量%)程度である。
・・・
反応混合液は、通常、酢酸とメタノールとの反応により生成した酢酸メチルを含んでいる。酢酸メチルの含有割合は、反応混合液全体の0.1?30重量%、好ましくは0.3?20重量%、さらに好ましくは0.5?10重量%(例えば、0.5?6重量%)程度の割合であってもよい。
・・・
反応は溶媒の非存在下で行ってもよいが、通常、溶媒の存在下で行われる。反応溶媒としては、通常、生成物である酢酸を用いる場合が多い。
・・・
反応系の水濃度は、低濃度であってもよい。反応系の水濃度は、反応系の液相全体に対して、例えば、15重量%以下(例えば、0.1?12重量%)、好ましくは10重量%以下(例えば、0.1?8重量%)、さらに好ましくは0.1?5重量%(例えば、0.5?3重量%)程度であり、通常1?15重量%(例えば、2?10重量%)程度であってもよい。」([0065]?[0070])

(1h)「第1の蒸留塔からのオーバーヘッドは、ヨウ化メチル、アセトアルデヒドの他、酢酸メチル、水、メタノール、酢酸、アルデヒド類又はカルボニル不純物(クロトンアルデヒド、ブチルアルデヒドなど)、ヨウ化C_(2-12)アルキル、C_(3-12)アルカンカルボン酸などを含んでいる。
・・・
[凝縮及び分液]
第1の蒸留塔からのオーバーヘッドを冷却ユニット(コンデンサ)で冷却して凝縮すると、オーバーヘッドの凝縮液を分液ユニット(デカンタ)で水相(軽質相、上相)と有機相(重質相、下相)とに明瞭に分液でき、水相(軽質相)と有機相(重質相)との分離性を向上できる。」([0100][0101]下線は当審にて追加。以下同様)

(1i)「なお、図示する例では、有機相(重質相)を反応器1へリサイクルし、水相(軽質相)を第1の蒸留塔3にリサイクルして還流しているが、有機相(重質相)及び/又は水相(軽質相)を反応器1へリサイクルしてもよく、第1の蒸留塔3にリサイクルしてもよい。

[第2の蒸留]
第1のサイドカット流(粗酢酸液)には、酢酸に加え、通常、第1の蒸留塔において分離しきれなかった成分(ヨウ化メチル、酢酸メチル、水、ヨウ化水素など)が含まれている。このような第1の蒸留塔からのサイドカット流(粗酢酸液)は、通常、さらに第2の蒸留塔で蒸留(又は脱水)され、塔頂からのオーバーヘッド(低沸分)と、塔底からの缶出流(プロピオン酸などのC3-12アルカンカルボン酸などの高沸分)と、側部からのサイドカット流(精製酢酸)とに分離し、サイドカット流として製品酢酸を得てもよい。
・・・
第2の蒸留塔では、必ずしもアルカリ成分により残存するヨウ化水素を除去する必要はないが、前記のように、第1のサイドカット流(粗酢酸液)には、通常、水及びヨウ化水素が残存しており、このような第1のサイドカット流(粗酢酸液)を蒸留すると、第2の蒸留塔内でヨウ化水素が濃縮される。また、ヨウ化水素は、前記式(3)で示されるように、ヨウ化メチルと水との反応などによっても生成する。そのため、第2の蒸留塔の上部で水とともにヨウ化水素が濃縮されるだけでなく、第2の蒸留塔の上部では、ヨウ化メチルと水との反応によりヨウ化水素が生じやすい。そのため、アルカリ成分の添加より、ヨウ化水素を除去し、さらに高純度の酢酸を得るのが好ましい。すなわち、第2の蒸留塔では、第1のサイドカット流を、アルカリ成分(例えば、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物など)の存在下で蒸留してもよく、第1のサイドカット流及びアルカリ成分を含む被処理液を蒸留してもよい。」([0105][0106][0107])

(1j)「第2の蒸留塔5の塔頂又は上段部からのオーバーヘッドは、通常、コンデンサC4で凝縮され、凝縮液は、反応器1及び/又は第2の蒸留塔5に戻してもよく、凝縮液が所定量の水分を含有し、分液可能であれば、前記と同様に、水と有機相とに分離して反応器1,第1の蒸留塔3及び/又は第2の蒸留塔5にリサイクルしてもよい。水は、第2の蒸留塔5で低沸成分として分離してもよく、分離した水は、反応器1又は水抽出器7に与えてもよい。なお、高沸成分(プロピオン酸など)などの高沸点留分(第2の高沸点成分)は、塔底又は塔下段部から缶出し、必要により反応器1に戻してもよく、系外に排出してもよい。また、第2のサイドカット流(精製酢酸流)には、必要により、さらに蒸留など精製工程に供してもよい。

[不純物の分離除去]
前記図1の例では、不純物を除去するための分離除去系(第3の蒸留塔6,水抽出塔(水抽出器)7及び第4の蒸留塔8)を備えたプロセスが示されているが、これらの分離除去系は必ずしも必要ではない。また、不純物の分離除去では、デカンタ4の凝縮液を分離除去系に供すればよく、凝縮液が二層(二相)に分液する場合には、水相(軽質相)及び/又は有機相(重質相)を分離除去系に供してもよい。さらに、分離除去系は前記プロセスに限らず種々の分離除去プロセスが採用できる。」([0111][0112])

(1k)「 (比較例1) 図2に示す酢酸の連続製造プロセスにおいて、メタノールと一酸化炭素とをカルボニル化反応器で連続的に反応させ、前記反応器からの反応混合物をフラッシャーに連続的に供給し、フラッシュ蒸留により、低揮発相成分(ロジウム触媒、ヨウ化リチウム、酢酸、酢酸メチル、ヨウ化メチル、水、およびヨウ化水素を少なくとも含む缶出成分)と、揮発相成分(液化したガス状成分、液温135℃)とに分離し、この揮発相成分を第1の蒸留塔に供給した。なお、補給ライン34bおよび35bは利用しなかった。また、揮発相成分の組成は、ヨウ化メチル(MeI)38.2重量%、酢酸メチル(MA)0.3重量%、水(H _(2) O)6.5重量%、ヨウ化水素(HI)5000ppm(重量基準)、酢酸54.5重量%を含んでいる(なお、酢酸の含有量は、100重量%から酢酸以外の成分組成の総和を減算することにより算出した。以下同じ)。

揮発相成分100重量部を第1の蒸留塔(実段:20段、仕込段:下から2段)に供給し、ゲージ圧150KPA、塔底温度140℃、塔頂温度115℃、軽質相還流比3で蒸留し、デカンタで分液した水相(軽質相)5重量部及び有機相(重質相)38重量部を反応器にリサイクルした。なお、第1の蒸留塔の塔頂組成(オーバーヘッドの組成)は、ヨウ化メチル(MeI)63.8重量%、酢酸メチル(MA)0.6重量%、水(H _(2) O)23.3重量%、ヨウ化水素(HI)440ppm、酢酸12.3重量%であり、水相(軽質相)の組成は、ヨウ化メチル(MeI)2.6重量%、酢酸メチル(MA)0.3重量%、水(H _(2) O)67.0重量%、ヨウ化水素(HI)900ppm、酢酸30.0重量%であり、有機相(重質相)の組成は、ヨウ化メチル(MeI)96重量%、酢酸メチル(MA)0.7重量%、水(H _(2) O)0.3重量%、ヨウ化水素(HI)200ppm、酢酸3.0重量%であった。

第1の蒸留塔のサイドカット(サイドカット段:下から4段)から酢酸を含むサイドカット流54重量部と、塔底から飛沫同伴で含有した触媒を含む缶出流3重量部との割合で抜取り、缶出流は反応系にリサイクルし、サイドカット流は第2の蒸留塔に供給して脱水精製した。なお、サイドカット流の組成は、MeIが2.9重量%、MAが0.03重量%、H _(2) Oが5.3重量%、HIが970ppm、酢酸が90.8重量%であった。なお、揮発相成分、水相(軽質相)及び有機相(重質相)、サイドカット流及び缶出流などの流体の「重量部」は単位時間(1時間)当たりの流量を示す(以下、同じ)。

このような連続反応プロセスにおいて、第1蒸留塔の仕込段よりも1段上(3段)と仕込段よりも1段下のボトム、及び塔頂部(19段)に、以下のテストピースを入れて、100時間保持して腐食テストを行い、テスト前後のテストピースの重量を測定し、腐食量を求めた。測定した腐食量(減少した重量)及びテストピースの面積に基づいて、一年間あたりのテストピースの腐食速度(厚みの減肉量)を厚みmmに換算し、単位「mm/Y」で示した。

[テストピース] HB2:小田鋼機(株)製、ハステロイB2(ニッケル基合金) HC:小田鋼機(株)製、ハステロイC(ニッケル基合金) SUS316L:ウメトク(株)製、サス316ローカーボン(ステンレス鋼)
(比較例2) 仕込み液(揮発相成分)中の水濃度を4重量%に調整して第1の蒸留塔に供給し、この水濃度に伴って、第1の蒸留塔での還流比、軽質相、重質相の反応系へのリサイクル量を変化させた以外は、比較例1と同様にして、腐食テストを行った。

なお、揮発相成分の組成は、MeIが38.5重量%、MAが0.3重量%、H _(2) Oが4.0重量%、HIが5000ppm、酢酸が56.7重量%であった。また、蒸留は、軽質相還流比5で行い、軽質相3.3重量部、重質相38.5重量部を反応系にリサイクルした。第1の蒸留塔の塔頂組成(オーバーヘッドの組成)は、MeIが64.3重量%、MAが0.6重量%、H _(2) Oが23.3重量%、HIが470ppm、酢酸11.8重量%であり、水相(軽質相)の組成は、MeIが2.6重量%、MAが0.3重量%、H _(2) Oが68.0重量%、HIが1200ppm、酢酸が29.0重量%であり、有機相(重質相)の組成は、MeIが96重量%、MAが0.7重量%、H _(2) Oが0.3重量%、HIが90ppm、酢酸が3.0重量%であった。第1の蒸留塔からは、酢酸を含むサイドカット流55.2重量部及び缶出流3重量部との割合で抜取った。サイドカット流の組成は、MeIが2.6重量%、MAが0.04重量%、H _(2) Oが2.8重量%、HIが820ppm、酢酸が93.6重量%であり、缶出流の組成は、MeIが0重量%、MAが0.03重量%、H _(2) Oが2.6重量%、HIが800ppm、酢酸が97.1重量%であった。なお、第1の蒸留塔での塔頂温度は115℃であり、塔底温度は比較例1と同じであった。

(比較例3)仕込み液(揮発相成分)中の酢酸メチル濃度を10重量%に調整して第1の蒸留塔に供給し、この酢酸メチル濃度に伴って、第1の蒸留塔での還流比、軽質相、重質相の反応系へのリサイクル量を変化させた以外は、比較例1と同様にして、腐食テストを行った。しかし、上記仕込み液(揮発相成分)での運転では、軽質相と重質相との分液性が悪く、両相が混相となったり1相化現象が発生した結果、数時間運転後に不安定となり、長時間の運転が不可能であった。

(実施例1?4)
仕込み液(揮発相成分)中の酢酸メチル及び水濃度を変化させて第1の蒸留塔に供給し、これらの酢酸メチル及び水濃度の変化に伴って、第1の蒸留塔での還流比、軽質相、重質相の反応系へのリサイクル量を変化させた以外は、比較例1と同様にして、腐食テストを行った。

実施例及び比較例での各運転条件を表1に示し、腐食テストの結果を表2に示す。表2中の数値の単位は腐食速度「mm/Y」である。

[表1]


」([0115]?[0124])

(1l)「本発明の他の目的は、ヨウ化水素などの不純物の混入を有効に防止し、高品質の酢酸を製造できる方法、及び酢酸の品質を向上させる方法を提供することにある。」([00016)]

b 刊行物2
本件優先日前に頒布された刊行物であると認められる刊行物2には以下の記載がある。
(2a)「【請求項1】 ロジウム触媒、ヨウ化物塩およびヨウ化メチルの存在下、連続的にメタノール、酢酸メチル、ジメチルエーテルの内少なくとも一成分と一酸化炭素を反応させて酢酸および/または無水酢酸を製造する方法において、反応液中のアセトアルデヒド濃度を400ppm以下に保ち、反応を行い、得られる液体酢酸および/または液体無水酢酸を、活性部位の少なくとも1%が銀および/または水銀形に交換されている強酸性カチオン交換樹脂と接触させることを特徴とする高純度酢酸および/または高純度無水酢酸の製造法。」

(2b)「【0025】従って、本発明においては、カルボニル化反応液中のアセトアルデヒド濃度を400ppm以下に維持することで得られた液体酢酸および/または液体無水酢酸を、活性部位の少なくとも1%が銀および/または水銀形に交換されている強酸性カチオン交換樹脂と接触させる。強酸性カチオン交換樹脂と接触させる液は、酢酸および/または無水酢酸を主成分とする液であればどの様な液であってもかまわないが、樹脂の保護のためには可能な限り、ヨウ化メチル濃度の低いプロセス液を用いるのが好ましい。本発明においては、ライン17から蒸留など従来公知のプロセスを経て得た酢酸および/または無水酢酸を上記特定の強酸性カチオン交換樹脂40と接触させることで、そのまま蒸留など後工程を加えなくても高純度の酢酸および/または無水酢酸が得られる。また、蒸留など従来公知のプロセスを経る前に強酸性カチオン交換樹脂40と接触させてもよい。尚、必要に応じて、ライン17からの酢酸および/または無水酢酸は強酸性カチオン交換樹脂40と接触させた後に、蒸留等の操作を行なっても良い。」

c 刊行物3
本件優先日前に頒布された刊行物であると認められる刊行物3には以下の記載がある。
(3a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、カルボニル化反応原料を一酸化炭素と反応させるカルボニル化反応工程を含む有機カルボン酸の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、有機カルボン酸を製造するために、メタノール等のカルボニル化反応原料を、反応溶媒中において、カルボニル化反応用触媒、ヨウ化アルキル及び水の存在下において一酸化炭素と反応させる方法は知られている。このカルボニル化反応においては、副生物としてアルデヒド及びそのアルデヒド誘導体が副生する。例えば、メタノールのカルボニル化反応では、副生物としてアセトアルデヒド及びその誘導体(クロトンアルデヒド、2-エチルクロトンアルデヒド、プロピオン酸等)が副生する。このような副生物は、製品カルボン酸の純度を低めるとともに、その過マンガン酸タイムを悪化させて製品の品質を低下させる。一方、カルボニル化反応は、水の存在下で行われ、比較的多量の水を用いることによりその反応を促進させることができる。しかしながら、反応系に比較的多量の水を存在させると、その水は反応生成液に同伴することから、蒸留工程での反応生成液からの水の除去が困難になるし、また、ヨウ化水素の副生量を増加させ、反応生成液の腐食性を著しく高める等の不都合が生じる。従来広く実施されている可溶性ロジウム錯体を触媒として用いてカルボン酸を合成するモンサント法は、反応系に約15%という比較的多量の水を存在させることから、得られる反応生成液は、2万?4万ppmという多量のヨウ化水素を含み、金属に対する腐食性の著しく高いものであった。従って、モンサント法における反応器及び蒸留塔としては、高耐食性材料であるハステロイBやジルコニウムを器壁材料とするものが用いられており、その装置コストは非常に高いものであった。また、ヨウ化水素は反応系の有機物と反応して有機系のヨウ素化物を生成するので、前記のような高濃度のヨウ化水素の存在は好ましくない。前記のような高濃度ヨウ化水素の存在は、高濃度の有機ヨウ素化物、例えば、ヨウ化エチル、ヨウ化ブチル、ヨウ化ヘキシル等を副生し、これらの有機ヨウ素化物は反応生成物中に混入してくる。従って、このような反応生成物を精製し、ヨウ素化物の混入のない高純度酢酸を得ようとすると、蒸留処理や吸着処理等の精製技術に要する設備コストが非常に高くなるという問題を生じる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、カルボニル化反応原料を、反応溶媒中においてカルボニル化反応用触媒、ヨウ化アルキル及び水の存在下で一酸化炭素と反応させる方法において、そのカルボニル化反応効率を特に低下させることなく、得られる反応生成液中の不純物含有量を減少させるとともに、ヨウ化水素含有量及び水含有量を同時に減少させる方法を提供することをその課題とする。」

(3b)「【0020】本発明で用いるカルボニル化反応における水素分圧は、0.1?5kg/cm^(2)、好ましくは1?3kg/cm^(2)である。反応原料として用いる一酸化炭素には、通常、0.5?5容量%、特に、約1?2容量%の水素が含まれており、また、カルボニル化反応器においても、副反応により水素が副生する。従って、カルボニル化反応器内の気相部には水素が存在する。本発明では、この水素分圧を5kg/cm^(2)以下、より好ましくは3kg/cm^(2)に規定する。この水素分圧の規定により、製品カルボン酸からの分離困難で、製品カルボン酸の品質を低下させるアセトアルデヒド、クロトンアルデヒド、2-エチルクロトンアルデヒド、プロピオン酸、酢酸エチル等のアルデヒド及びその誘導体、並びにヨウ化エチル、ヨウ化プロピル、ヨウ化ブチル、ヨウ化ペンチル、ヨウ化ヘキシル等のヨウ化物からなる不純物量を減少させることができる。水素分圧は、気相部のガスの一部を圧力調節弁を介して外部へパージすることによってコントロールし得る他、反応原料として使用する一酸化炭素に含まれる水素量を調節することによってコントロールすることができる。
【0021】カルボニル化反応工程で副生する不純物のうち、カルボン酸からの分離困難なものは、目的物であるカルボン酸に対応するアルデヒドの誘導体並びにヨウ化物誘導体、例えば、そのアルデヒド縮合物及びそのアルデヒドの水素化及びカルボニル化により生成するカルボン酸等である。アルデヒドの誘導体としては、例えば、目的物が酢酸である場合には、クロトンアルデヒド、2-エチルクロトンアルデヒド、プロピオン酸、酢酸エチル等である。特に、クロトンアルデヒド等のアルデヒド縮合物は不飽和結合を有し、還元性を有することから、製品カルボン酸の過マンガン酸タイムを悪化させる。なお、過マンガン酸タイムは、製品中の還元性物質の合計量の指標であり、カルボン酸製品の場合、少なくとも120分、好ましくは240分以上の過マンガン酸タイムが要望されている。カルボニル化反応工程からの反応生成液中のアルデヒド誘導体の含有量は、前記したように、カルボニル化反応工程における水素分圧により影響を受けるとともに、反応混合液中のヨウ化水素含有量によっても影響を受け、水素分圧及びヨウ化水素含有量が低くなる程、減少する。本発明によれば、反応生成液中のアルデヒド誘導体の含有量は、3000重量ppm以下、好ましくは1500重量ppm以下にコントロールされる。
【0022】副生するヨウ素化物誘導体は、例えば、ヨウ化エチル、ヨウ化プロピル、ヨウ化ブチル、ヨウ化ペンチル、ヨウ化ヘキシル等があり、これらは、カルボニル化工程の水素分圧及びヨウ化水素含有量やLiIやNaI等のヨウ素のアルカリ金属塩含有量により影響を受ける。水素分圧及びヨウ化水素含有量、ヨウ素のアルカリ金属塩量が低いほど副生量は減少する。本発明によれば、ヨウ化水素の含有量を100wtppm以下、好ましくは50wtppm以下にコントロールされる。
【0023】アルデヒド誘導体、ヨウ素化物の生成反応ルートは以下のごとく考えられる。
1. CH_(3)COOH+H_(2) → CH_(3)CHO+H_(2)O
2. CH_(3)CHO+H_(2) → CH_(3)CH_(2)OH
3. CH_(3)CH_(2)OH+HI → CH_(3)CH_(2)I+H_(2)O
4. CH_(3)CH_(2)I+CO → CH_(3)CH_(2)COI
5. CH_(3)CH_(2)COI+H_(2)O → CH_(3)CH_(2)COOH+HI
6. 2CH_(3)CHO → CH_(3)CH=CHCHO+H_(2)O
(クロトンアルデヒド)
7. CH_(3)CH=CHCHO+CH_(3)CHO → CH_(3)CH=C(C_(2)H_(5))CHO+H_(2)O
(2-エチルクロトンアルデヒド)
8. CH_(3)CH_(2)OH+CH_(3)COOH → CH_(2)COOCH_(2)CH_(3)+H_(2)O
9. CH_(3)CH=CHCHO+2H_(2 )→ CH_(3)CH_(2)CH_(2)CH_(2)OH
10. CH_(3)CH_(2)CH_(2)CH_(2)OH+HI → CH_(3)CH_(2)CH_(2)CH_(2)I+H_(2)O」

(3c)「【0040】図2にカルボニル化反応生成液を1つの蒸留装置を用いて蒸留処理する場合のフローシートを示す。図2において、フラッシャー1から気相で抜出された成分はライン13を通って蒸留塔2へ供給され、塔頂から、ヨウ化メチル、酢酸メチル、水、酢酸などを含む軽質留分がライン21を通って抜出され、ライン101を通じて反応器Aに循環される。必要に応じ、蒸留塔2へはライン14を通ってメタノール、ライン32を通ってKOH水溶液などのアルカリが導入され、ヨウ化水素がCH3Iに転換されることにより、及びKIに転換されることにより除去される。塔底からは重質留分であるプロピオン酸、酢酸等を含む重質留分がライン17を通って外部へ抜出される。精製された高純度酢酸はライン31を通じて抜出される。このようにして得られた高純度酢酸において、その水分は0.3wt%以下、好ましく0.1wt%以下、プロピオン酸は500wtppm以下、好ましくは100wtppm以下、過マンガン酸タイムは120分以上、好ましくは240分以上でヨウ素は100wtppb以下、好ましくは20wtppb以下である。この酢酸は、更に必要に応じ、銀イオン交換型のマクロポーラス強酸性イオン交換樹脂で処理することにより、ヨウ素を実質的に完全に除去することができる。」

(3d)「【0044】実施例2
実施例1において、水素分圧を2?8kg/cm^(2)に変化させた以外は同様にして実験を行った。この場合のライン11を通る反応溶液の成分組成を表2及び表3に示す。」 と記載され、表2の実験No.2として、反応生成物中濃度として、水素分圧4.0kg/cm^(2)、ヨウ化水素32wtppm、アセトアルデヒド1730wtppm、プロピオン酸191wtppm、ヨウ化エチル380wtppmである例が示されている。

(2)刊行物1に記載された発明
上記摘記事項(1a)には、プロセスとして、触媒及び水の存在下、メタノールと一酸化炭素とを連続的に反応(メタノールのカルボニル化反応)させるための反応器(反応系)1と、反応混合物(反応液)をフラッシュ蒸留して、揮発相成分と低揮発相成分とに分離するためのフラッシャー又は蒸発槽(フラッシュ蒸発槽)2と、前記揮発相成分を蒸留して、塔頂からの第1のオーバーヘッドと塔底からの缶出流とサイドカット流(粗酢酸流)とに分離するための第1の蒸留塔(スプリッターカラム)3と、第1のオーバーヘッドをコンデンサC3で冷却して凝縮し、水相(上相又は軽質相)と有機相(下相又は重質相)とに分液するためのデカンタ4と、第1の蒸留塔3からのサイドカット流(粗酢酸流)を蒸留し、第2の蒸留塔(脱水塔又は精製塔)5で精製酢酸流を分離するものが記載され、上記摘記事項(1b)には、反応混合物(反応粗液)中には、酢酸、酢酸よりも沸点の低い揮発性成分[低沸成分(助触媒としてのヨウ化メチル、酢酸とメタノールとの反応生成物である酢酸メチル、メタノール、水、ジメチルエーテルなど)又は低沸不純物(ヨウ化水素、アセトアルデヒド、クロトンアルデヒド)など]、及び酢酸よりも沸点の高い低揮発性成分[金属触媒成分(ロジウム触媒、及び助触媒としてのヨウ化リチウム)又は高沸不純物(プロピオン酸、2-エチルクロトンアルデヒドなどのアルデヒド縮合物、ヨウ化ヘキシル、ヨウ化デシルなどのヨウ化C_(6-12)アルキルなどの副反応生成物など)など]が含まれること及び、フラッシュ蒸発槽2の塔頂部又は上段部からの揮発相成分(主に、生成した酢酸、メタノール、酢酸メチル、ヨウ化メチル、水、プロピオン酸、アセトアルデヒド、副生したヨウ化水素などを含む低沸点留分)と、低揮発相成分(主にロジウム触媒及びヨウ化リチウムなどの金属触媒成分(高沸成分)を含む高沸点留分)とに分離することが記載され、上記摘記事項(1c)には、第1の蒸留塔(スプリッターカラム)3の高さ方向の中央部よりも下部に供給され、第1の蒸留塔(スプリッターカラム)3で、供給された揮発相成分(又は揮発相)の一部を蒸留し、塔頂又は塔の上段部から留出する第1のオーバーヘッド(ヨウ化メチル、酢酸メチル、アセトアルデヒド、水などを含む第1の低沸点成分)と、側部(供給ライン22による供給部よりも上部)からのサイドカット流(主に、酢酸を含む第1の液状流分(粗酢酸流分))とに分離することが記載され、上記摘記事項(1i)(1k)には、有機相(重質相)及び/又は水相(軽質相)を反応器1へリサイクルしてもよいことが記載され、上記摘記事項(1k)には、反応器(反応系)1、フラッシャー又は蒸発槽(フラッシュ蒸発槽)2、第1の蒸留塔3、デカンタ4、第2の蒸留塔(脱水塔又は精製塔)5を用いる酢酸の連続製造プロセスにおいて、その具体例としての実施例4として、サイドカット流、塔頂流、塔底流、還流、上相(軽質相)流、下層(重質相)流に関して、サイドカット流のヨウ化メチル2.3重量部、酢酸メチル1.6重量部、水1.2重量部、ヨウ化水素5ppm、塔頂流の流量が62.2、ヨウ化メチル57.4重量部、酢酸メチル12.36重量部、水が20.9重量部、ヨウ化水素7ppm、酢酸9.4重量部、塔底流の水1.14重量部、酢酸97.7重量部、還流の流量が16.8、軽質相の流量が1.4、水69.1重量部、ヨウ化メチル5.1重量部、重質相の流量が44、水0.9重量部であることが示されている。
したがって、刊行物1には、「触媒及び水の存在下、メタノールと一酸化炭素とを連続的に反応(メタノールのカルボニル化反応)させるための反応器(反応系)1と、反応混合物(反応粗液)中には、酢酸、ヨウ化メチル、酢酸メチル、水、金属触媒成分、ヨウ化リチウム)が含まれ、反応混合物(反応液)をフラッシュ蒸留して、揮発相成分(主に、生成した酢酸、酢酸メチル、ヨウ化メチル、水、アセトアルデヒド、ヨウ化水素などを含む低沸点留分)と、低揮発相成分(主にロジウム触媒などの金属触媒成分(高沸成分)を含む高沸点留分)とに分離するためのフラッシャー又は蒸発槽(フラッシュ蒸発槽)2と、前記揮発相成分を蒸留して、塔頂からの第1のオーバーヘッドと塔底からの缶出流とサイドカット流(粗酢酸流)とに分離するための第1の蒸留塔(スプリッターカラム)3と、第1のオーバーヘッドをコンデンサC3で冷却して凝縮し、水相(上相又は軽質相)と有機相(下相又は重質相)とに分液するためのデカンタ4と、第1の蒸留塔3からのサイドカット流(粗酢酸流)を蒸留して精製酢酸流を分離する第2の蒸留塔(脱水塔又は精製塔)を用いたもので、前記水相(軽質相)及び/又は有機相(重質相)を反応器へリサイクルし、サイドカット流、塔頂流、塔底流、還流、上相(軽質相)流、下層(重質相)流に関して、サイドカット流のヨウ化メチル2.3重量部、酢酸メチル1.6重量部、水1.2重量部、ヨウ化水素5ppm、塔頂流の流量が62.2、ヨウ化メチル57.4重量部、酢酸メチル12.36重量部、水が20.9重量部、ヨウ化水素7ppm、酢酸9.4重量部、塔底流の水1.14重量部、酢酸97.7重量部、還流の流量が16.8、軽質相の流量1.4、水69.1重量部、ヨウ化メチル5.1重量部、重質相の流量が44、水0.9重量部である酢酸の連続製造プロセス」(以下、「刊行物1発明」という。)が開示されているといえる。

(3)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明の「触媒及び水の存在下、メタノールと一酸化炭素とを連続的に反応(メタノールのカルボニル化反応)させるための反応器(反応系)1と、・・・反応混合物(反応液)をフラッシュ蒸留して、揮発相成分・・・と、低揮発相成分・・・とに分離するためのフラッシャー又は蒸発槽(フラッシュ蒸発槽)2」「を用い」は、本件発明1の、「反応器内で形成した反応媒体をフラッシュ容器内で分離し」に相当し、刊行物1発明の「反応混合物(反応粗液)中には、酢酸、ヨウ化メチル、酢酸メチル、水、金属触媒成分、ヨウ化リチウム)が含まれ」ることは、本件発明1の「反応媒体は、0.1重量%から4.1重量%の水と、酢酸、酢酸メチル、金属触媒、ヨウ化物塩、及びヨウ化メチルとを含」むことと、水の濃度範囲を除いて相当する。
そして、刊行物1発明の「フラッシャー又は蒸発槽(フラッシュ蒸発槽)2」において、「反応混合物(反応液)をフラッシュ蒸留して、揮発相成分(主に、生成した酢酸、酢酸メチル、ヨウ化メチル、水、アセトアルデヒド、ヨウ化水素などを含む低沸点留分)と、低揮発相成分(主にロジウム触媒などの金属触媒成分(高沸成分)を含む高沸点留分)とに分離する」ことは、アセトアルデヒドは、本件特許発明における過マンガン酸還元化合物(PRC)であり、フラッシュ蒸留時の低揮発相成分に酢酸が含まれていることは自明である(摘記(1k)参照)ので、本件発明1の「反応媒体をフラッシュ容器内で分離し、酢酸、金属触媒、及び腐食性金属を含む液体リサイクルと、酢酸、ヨウ化メチル、酢酸メチル、水、ヨウ化水素、及び過マンガン酸還元性化合物を含む蒸気生成物流とを形成すること」に、液体リサイクル流に腐食性金属が含まれているとの特定を除いて相当している。
また、刊行物1発明の「第1の蒸留塔(スプリッターカラム)3」において、「前記揮発相成分を蒸留して、塔頂からの第1のオーバーヘッド(ヨウ化メチル、酢酸メチル、アセトアルデヒド、水などを含む第1の低沸点成分)と塔底からの缶出流とサイドカット流(粗酢酸流)とに分離する」及び「塔頂流の水が20.9重量部」「塔底流の水1.14重量部」「酢酸97.7重量部」であることは、本件発明1の「蒸気生成物流の一部を第1の塔で蒸溜し、酢酸を含む側流と、酢酸メチル、ヨウ化メチル、過マンガン酸還元性化合物、及び5重量%又はそれを超える量の水を含む低沸点オーバーヘッド蒸気流と、95重量%又はそれを超える量の酢酸及び5重量%又はそれを下回る量の水を含む残渣流とを得ること」に該当する。
さらに、刊行物1発明の「デカンタ4」において、「第1のオーバーヘッドをコンデンサC3で冷却して凝縮し、水相(上相又は軽質相)と有機相(下相又は重質相)とに分液する」ことは、本件発明1の「低沸点オーバーヘッド蒸気流を凝縮し、得られた凝縮流を二相に分離し、重質液相及び軽質液相を形成すること」に該当する。
そして、刊行物1発明の「第1の蒸留塔3からのサイドカット流(粗酢酸流)を、第2の蒸留塔5において蒸留し、精製酢酸流を分離する」ことは、本件発明1の「側流を第2の塔で蒸溜し、精製酢酸生成物を得ること」に相当する。
したがって、本件発明1と刊行物1発明とは、「反応器内で形成した反応媒体をフラッシュ容器内で分離し、酢酸、金属触媒を含む液体リサイクルと、酢酸、ヨウ化メチル、酢酸メチル、水、ヨウ化水素、及び過マンガン酸還元性化合物を含む蒸気生成物流とを形成すること、ここで、当該反応媒体は、水と、酢酸、酢酸メチル、金属触媒、ヨウ化物塩、及びヨウ化メチルとを含み、
該蒸気生成物流の一部を第1の塔で蒸溜し、酢酸を含む側流と、酢酸メチル、ヨウ化メチル、過マンガン酸還元性化合物、及び5重量%又はそれを超える量の水を含む低沸点オーバーヘッド蒸気流と、95重量%又はそれを超える量の酢酸及び5重量%又はそれを下回る量の水を含む残渣流とを得ること、
該低沸点オーバーヘッド蒸気流を凝縮し、得られた凝縮流を二相に分離し、重質液相及び40重量%から80重量%の水分を含む軽質液相を形成すること、
該側流を第2の塔で蒸溜し、精製酢酸生成物を得ることを含む、
酢酸の製造方法。」である点で一致し、以下の点で一応相違する。

相違点1:本件発明1は、反応器への軽質液相の一部分のリサイクル率を制御することにより、該側流の総重量に対して、該側流中の水濃度を1重量%から3重量%に維持し、該側流中のヨウ化水素濃度を50重量ppm又はそれを下回る量に維持することが特定されているのに対して、刊行物1発明は、軽質液相を反応系へのリサイクルしており、側流中の水濃度が1.2重量%で、側流中のヨウ化水素濃度が5ppmであるものの、軽質液相の一部分のリサイクル率を制御して側流中の水濃度、ヨウ化水素濃度を維持しているとの特定のない点
相違点2:本件発明1は、フラッシュ容器からの液体リサイクル流に腐食性金属が含まれることが特定されているのに対して、刊行物1発明は、腐食性金属が含まれるかどうか明らかでない点
相違点3:本件発明1は、反応媒体中の水の割合を0.1重量%から4.1重量%と特定しているのに対して、刊行物1発明では水の割合が不明である点
相違点4:本件発明1は、軽質液相のヨウ化メチル濃度が5重量%未満と特定されているのに対して、刊行物1発明では、5.1重量%と特定されている点
相違点5:本件発明1では、第1の塔が、0.05から0.4である、該軽質液相の還流比で稼働されると特定されているのに対して、刊行物1発明では、軽質液相の還流比の特定のない点

(イ)相違点の判断
以下、相違点について検討する。
a 相違点1の判断について
刊行物1発明では、軽質液相を反応系へ一部リサイクルしてはいるが、リサイクル率を制御して側流中の水濃度、ヨウ化水素濃度を維持しているとの直接の記載はない。

しかしながら、軽質液相をリサイクルして反応器に戻している以上、何らかの量の調整がなければ、反応器内の反応成分のバランスが崩れ、反応を継続処理して行えないことになり、何らかのリサイクルする割合の調整が行われていることは明らかである。

一方、本件発明1では、上述のとおり、制御の内容が特定されておらず、明細書において、軽質液相の反応系へのリサイクルが行われた実施例1と、行われなかった比較例1が示されるのみで、リサイクルの有無でヨウ化水素の濃度に変化があったことが示されているだけである。

したがって、刊行物1発明では、軽質液相の反応系へのリサイクルは行われているのであるから、前述のとおり、本件発明1の意味での制御は行われているといえ、相違点1は、実質的相違点ではない。

b 相違点2の判断について
本件発明1では、腐食性金属の種類や量は何ら特定されていないところ、本件特許明細書の【0040】では、「ニッケル、鉄、クロム等」を「腐食性金属」として例示している。
そして、刊行物1発明では明らかではないが、刊行物1発明のプロセスを実行する第1蒸留塔の腐食テストに、テストピースとしてニッケル基合金、ステンレス鋼が用いられている(上記摘記(1k))ことから明らかなように、装置材料として鋼を用いているのであるから、ニッケル、鉄、クロム等の金属が、リサイクル流に微量混入することは明らかである。
したがって、相違点2は実質的相違点ではない。

c 相違点3の判断について
刊行物1発明では、反応媒体の水の割合が不明であるが、刊行物1には、反応系の水の好ましい範囲の例示として例えば、0.5?3重量%程度の記載があるから、(摘記(1g))、当業者であれば、刊行物1発明において、反応媒体の水の濃度を上記の好ましい範囲とすることは容易になし得ることである。

d 相違点4の判断について
刊行物1発明では、軽質液相のヨウ化メチルの含量は、認定の根拠となった実施例4において、5.1重量%と特定されており、もし他の実施例の値に変更する場合には、実施例4の仕込み、サイドカット、塔頂、塔底、還流、下相(重質相)の成分組成の変更も当然検討することになり、本件発明1との一致点、相違点の認定も変更されることになる。
よって、前記実施例4において、前記して示した他の箇所における成分組成は変更しないで、軽質液相のヨウ化メチルの含量のみだけを単純に5重量%未満に変更することはできない。
また、刊行物1には、どのようにすれば、ヨウ化メチル含量を5重量%未満にできるのかの手段も記載されているとはいえない。
その他、刊行物1発明において、ヨウ化メチルの濃度を変更する動機付けとなる記載は刊行物1には記載も示唆もなく、当業者が容易になしうるものとはいえない。

e 相違点5の判断について
引用発明において、塔頂流の流量が62.2で還流の流量が16.8であることから、全体としての還流比が一応計算できるものの、表1の還流流量の値のうち軽質相部分が明確であるとはいえない以上、軽質相の還流比は明らかであるとはいえない。
刊行物1には、本件発明1の第1の塔に相当する「第1の蒸留塔(スプリッターカラム)3」が、0.05から0.4である、「デカンタ4」で分離した軽質液相の還流比で稼働されることに関しては、記載も示唆もなく、該特定事項が本願優先日時点で技術常識であったともいえないので、相違点5の構成は当業者が容易になし得るものではない。

上記のとおり、本件発明1と刊行物1発明は、相違点3?5の実質的相違点を有し、刊行物1に記載された発明とはいえない。
また、刊行物1発明から相違点4,5に係る構成を当業者が容易になし得るものではないので、本件発明1は、当業者が容易になし得るものともいえないが、効果についても念のため検討しておく。
本件発明1は、軽質液相中のヨウ化メチルの量を5重量%未満と特定しつつ、第1の塔が、0.05から0.4である、該軽質液相の還流比で稼働されることを特定されることを前提として、軽質液相のリサイクル率の制御によって、第1の塔に追加成分を導入することなく(本件明細書【0039】)、側流中の水とヨウ化水素の濃度を特定の範囲に維持するとの効果を奏しているといえる。
一方、刊行物1には、第1の塔が特定の軽質液相の還流比で稼働されることを前提として、軽質液相のリサイクル率の制御によって、第1の塔に追加成分を導入することなく側流中の水とヨウ化水素の濃度を特定の範囲に維持できることの記載ないし示唆がないので、上記効果は、当業者の予測を超えた格別な効果を奏するものといえる。

(ウ) 小括
本件発明1は、刊行物1に記載された発明ではなく、かつ刊行物1発明から当業者が容易になし得たものとはいえない。

イ 本件発明2について
(ア) 対比
本件発明2は、本件発明1において、反応媒体の成分の割合を「0.5重量%から30重量%の酢酸メチル、200重量ppmから3000重量ppmの金属触媒、1重量%から25重量%のヨウ化物塩、及び1重量%から25重量%のヨウ化メチルを含む」ことをさらに限定した発明であり、本件発明2と刊行物1発明を対比すると、前記相違点1?5以外に、以下の相違点2-1が認定できる。

相違点2-1:本件発明2では、反応媒体は、0.5重量%から30重量%の酢酸メチル、200重量ppmから3000重量ppmの金属触媒、1重量%から25重量%のヨウ化物塩、及び1重量%から25重量%のヨウ化メチルを含むと特定されているのに対して、刊行物1発明では、反応媒体は、酢酸メチル、水、金属触媒、ヨウ化物塩、ヨウ化メチルを含むものの、その割合が特定されていない点

(イ) 相違点2-1の判断
刊行物1には、金属触媒の濃度は、200?3000ppm(例えば、500?1500ppm)程度であるとの記載、反応器の液相系(反応液)での助触媒(ヨウ化金属など)の濃度は、例えば、1?25重量%程度であるとの記載、反応器の液相系(反応液)でのヨウ化メチルの濃度は、液相全体に対して、例えば、1?20重量%程度であるとの記載、酢酸メチルの含有割合は、反応混合液全体に対して好ましくは0.5?10重量%(例えば、0.5?6重量%)程度であるとの記載があるものの(上記摘記(1g))、前記相違点4のヨウ化メチルの濃度変更の点および前記相違点5の第1の塔における軽質液相の還流比の点が容易であるとはいえないことは、本件発明1で、すでに検討のとおりである。

(ウ) 小括
本件発明2は、刊行物1に記載された発明ではなく、かつ刊行物1発明から当業者が容易になし得たものとはいえない。

ウ 本件発明3について
(ア) 対比
本件発明3は、本件発明1において、「重質液相の一部分を処理し、アセトアルデヒド、アセトン、メチルエチルケトン、ブチルアルデヒド、クロトンアルデヒド、2-エチルクロトンアルデヒド、2-エチルブチルアルデヒド、及びこれらのアルドール縮合生成物からなる群より選択される少なくとも1種の過マンガン酸還元性化合物を除去する」ことをさらに限定した発明であり、本件発明3と刊行物1発明を対比すると、前記相違点1?5以外に、以下の相違点3-1が認定できる。

相違点3-1:本件発明3では、重質液相の一部分を処理し、アセトアルデヒド、アセトン、メチルエチルケトン、ブチルアルデヒド、クロトンアルデヒド、2-エチルクロトンアルデヒド、2-エチルブチルアルデヒド、及びこれらのアルドール縮合生成物からなる群より選択される少なくとも1種の過マンガン酸還元性化合物を除去することが特定されているのに対して、刊行物1発明では、そのような特定がされていない点

(イ) 相違点3-1の判断
刊行物1のオーバーヘッド流を凝縮した有機相(下相又は重質相)には、オーバーヘッド流に含まれた有機化合物の不純物であるアセトアルデヒド等の不純物が含まれていることが自明であり(摘記(1h))、「不純物の分離除去では、デカンタ4の凝縮液を分離除去系に供すればよく、凝縮液が二層(二相)に分液する場合には、水相(軽質相)及び/又は有機相(重質相)を分離除去系に供してもよい。」(摘記(1j))との記載もあるのであるから、当業者であれば、刊行物1発明において、重質液相の一部分を処理し、アセトアルデヒド等の過マンガン酸還元性化合物を除去する構成を追加することは容易になし得るものの、相違点4のヨウ化メチルの濃度変更の点および前記相違点5の第1の塔における軽質液相の還流比の点が容易であるとはいえないことはすでに検討のとおりである。

(ウ) 小括
本件発明3は、刊行物1に記載された発明ではなく、かつ刊行物1発明から当業者が容易になし得たものとはいえない。

エ 本件発明4?6について
(ア) 対比・判断
本件発明4?6は、本件発明1において、それぞれ、側流中の水濃度、側流中のヨウ化水素濃度、側流中の1種以上のヨウ化C_(1)?C_(14)アルキル、酢酸メチルをさらに限定した発明であるが、刊行物1発明のサイドカット流の濃度は、本件発明4?6の側流の各成分の濃度に該当するので、対比において新たな相違点を生じないものの、前記相違点4のヨウ化メチルの濃度変更の点および前記相違点5の第1の塔における軽質液相の還流比の点が容易であるとはいえないことはすでに検討のとおりである。

(イ) 小括
アにおいて、本件発明1に関して検討したのと同様に、本件発明4?6は、刊行物1に記載された発明ではなく、かつ刊行物1発明から当業者が容易になし得たものとはいえない。

オ 本件発明7について
(ア) 対比・判断
本件発明7は、本件発明1において、「ヨウ化C_(1)?C_(14)アルキル及び該酢酸メチルのそれぞれを該側流中の水濃度の±0.9重量%の量含む」ことをさらに限定した発明であり、刊行物1発明においては、ヨウ化メチル及び酢酸メチルはそれぞれ2.3重量部、1.6重量部であるから、側流中の水濃度(1.2重量部)に対して、+1.1重量部,+0.4重量部であることになる。
発明特定事項からみて、ヨウ化C_(1)?C_(14)アルキル及び該酢酸メチルのそれぞれを該側流中の水濃度の±0.9重量%の量含むとの特定は、二成分を水濃度と同程度にするというものであることは明らかであり、本願の唯一の実施例である実施例1においてもその条件を満たしておらず、その他のこの特定の技術的意義は本件明細書に一切記載がない。
したがって、刊行物1発明において、ヨウ化水素の発生を抑制するために、水の濃度をヨウ化メチル及び酢酸メチルと同程度に設定する程度のことは当業者であれば容易に想起でき、具体的濃度設定は設計事項である。
しかしながら、前記相違点4のヨウ化メチルの濃度変更の点および前記相違点5の第1の塔における軽質液相の還流比の点が容易であるとはいえないことはすでに検討のとおりである。

(イ) 小括
本件発明7は、刊行物1発明から当業者が容易になし得たものとはいえない。

カ 本件発明9,11?13について
(ア) 対比・判断
本件発明9,11?13は、本件発明1において、「該重質液相、該軽質液相、またはこれらの混合物を該第1の塔に還流させる」こと、「該重質液相が、1重量%又はそれを下回る量の水を含む」こと、「該精製酢酸生成物が、該第2の塔の底部またはその近傍から取り出される」こと、「水性オーバーヘッドが該第2の塔から取り出される」ことが、それぞれさらに限定されたものである。
本件発明9に関して、刊行物1には、「コンデンサC3で凝縮した凝縮液の一部は、リサイクルライン41を通じて反応器1にリサイクルし、凝縮液分の一部は、還流ライン42を通じて第1の蒸留塔3にリサイクルして還流している。」(摘記(1d))「有機相(重質相)を反応器1へリサイクルし、水相(軽質相)を第1の蒸留塔3にリサイクルして還流しているが、有機相(重質相)及び/又は水相(軽質相)を反応器1へリサイクルしてもよく、第1の蒸留塔3にリサイクルしてもよい。」(摘記(1i))との各態様の記載があるのであるから、刊行物1発明において、「該重質液相、該軽質液相、またはこれらの混合物を該第1の塔に還流させること」を特定することは、当業者が容易になし得る技術的事項である。
また、本件発明11に関して、刊行物1発明の重質相の水は0.9重量部であるので、新たな相違点を生じない。
本件発明12,13に関して、第2の塔は精製酢酸を生成するための乾燥塔であるから上部から水を除去し、底部付近から精製酢酸生成物を取り出す構成とすることは当業者が容易に想起できる技術的事項である。

しかしながら、前記アで述べたとおり、前記相違点4のヨウ化メチルの濃度変更の点および前記相違点5の第1の塔における軽質液相の還流比の点が容易であるとはいえないことはすでに検討のとおりである。

イ 小括
本件発明9,11?13は、刊行物1に記載された発明ではなく、かつ刊行物1発明から当業者が容易になし得たものとはいえない。

キ 本件発明14について
(ア) 対比・判断
本件発明14は、本件発明13おいて、「該水性オーバーヘッドが、該第2の塔に供給される側流中の水の90%又はそれを超える水を含む」ことを、さらに限定したものである。
前記のとおり、第2の塔は精製酢酸を生成するための乾燥塔であるから上部から水を除去し、底部付近から精製酢酸生成物を取り出すものであり、第2の塔に導入される側流中の水の大部分を水性オーバーヘッドから取り出す構成とすることは、当業者が容易に想起できる技術的事項である。

しかしながら、前記アで述べたとおり、前記相違点4のヨウ化メチルの濃度変更の点および前記相違点5の第1の塔における軽質液相の還流比の点が容易であるとはいえないことはすでに検討のとおりである。

(イ) 小括
本件発明14は、刊行物1発明から当業者が容易になし得たものとはいえない。

ク 本件発明15について
(ア)対比・判断
本件発明15は、本件発明13又は14において、「該水性オーバーヘッド又はその凝縮された一部を該反応器にリサイクルすることをさらに含み、該反応器への水性オーバーヘッドの質量流量に対する該反応器へリサイクルされる軽質液相の質量流量のリサイクル比が2であるか又はそれを下回る」ことを、さらに限定したものである。
刊行物1には、「有機相(重質相)を反応器1へリサイクルし、水相(軽質相)を第1の蒸留塔3にリサイクルして還流しているが、有機相(重質相)及び/又は水相(軽質相)を反応器1へリサイクルしてもよく」(摘記(1i))との記載や、「第2の蒸留塔5の塔頂又は上段部からのオーバーヘッドは、通常、コンデンサC4で凝縮され、凝縮液は、反応器1及び/又は第2の蒸留塔5に戻してもよく」(摘記(1j))との記載があり、第1及び第2の塔から水を反応器にリサイクルする場合に、第1の塔からの側流中の水の濃度を抑えて、ヨウ化水素の濃度を抑制するために、第2の塔からの水の反応器へのリサイクルが第1の塔からのリサイクルに比して大きくなりすぎないように(リサイクル比を2以下にする)設定すること自体は当業者が容易に想到する事項である。

しかしながら、前記アで述べたとおり、前記相違点4のヨウ化メチルの濃度変更の点および前記相違点5の第1の塔における軽質液相の還流比の点が容易であるとはいえないことはすでに検討のとおりである。

(イ)小括
本件発明15は、刊行物1発明から当業者が容易になし得たものとはいえない。

ケ 本件発明16について
(ア) 対比・判断
本件発明16は、本件発明1において、「該精製酢酸生成物の総ヨウ化物濃度が5重量ppm又はそれを下回る場合に該精製酢酸生成物をガード床に接触させる」ことをさらに限定した発明であり、本件発明16と刊行物1発明を対比すると、前記相違点1?5以外に、以下の相違点16-1が認定できる。

相違点16-1:本件発明16では、精製酢酸生成物の総ヨウ化物濃度が5重量ppm又はそれを下回る場合に該精製酢酸生成物をガード床に接触させると特定されているのに対して、刊行物1発明では、精製酢酸生成物の総ヨウ化物濃度が特定濃度以下の場合にガード床に接触させるとは特定されていない点

イ 相違点16-1の判断
本件発明16において、接触させるガード床は特定されていないが、本件明細書【0095】のガード床の説明によるとイオン交換樹脂組成物と接触させるものであるといえる。
刊行物1には、精製酢酸流に対して、さらなる精製工程を設けてよいこと記載されているところ、刊行物2には、摘記(2a)に「ロジウム触媒、ヨウ化物塩およびヨウ化メチルの存在下、連続的にメタノール、酢酸メチル、ジメチルエーテルの内少なくとも一成分と一酸化炭素を反応させて酢酸・・・を製造する方法において、反応液中のアセトアルデヒド濃度を400ppm以下に保ち、反応を行い、得られる液体酢酸・・・を、活性部位の少なくとも1%が銀および/または水銀形に交換されている強酸性カチオン交換樹脂と接触させる・・・高純度酢酸・・・の製造法。」、摘記(2b)に「カルボニル化反応液中のアセトアルデヒド濃度を400ppm以下に維持することで得られた液体酢酸・・・を、活性部位の少なくとも1%が銀および/または水銀形に交換されている強酸性カチオン交換樹脂と接触させる。強酸性カチオン交換樹脂と接触させる液は、酢酸および/または無水酢酸を主成分とする液であればどの様な液であってもかまわないが、樹脂の保護のためには可能な限り、ヨウ化メチル濃度の低いプロセス液を用いるのが好ましい。本発明においては、ライン17から蒸留など従来公知のプロセスを経て得た酢酸・・・を上記特定の強酸性カチオン交換樹脂40と接触させることで、そのまま蒸留など後工程を加えなくても高純度の酢酸および/または無水酢酸が得られる。」と記載されており、刊行物2の上記摘記(2a)には、ロジウム触媒、ヨウ化物塩およびヨウ化メチルの存在下、連続的にメタノールと一酸化炭素を反応させて酢酸を製造する方法において、得られる液体酢酸を強酸性カチオン交換樹脂と接触させる高純度酢酸の製造法が開示され、上記摘記(2b)には、強酸性カチオン交換樹脂と接触させる液は、樹脂の保護のためには可能な限り、ヨウ化メチル濃度の低いプロセス液を用いるのが好ましいとの記載があるといえる。
そうすると、刊行物1発明において、精製酢酸流のさらなる精製工程として、刊行物2の強酸性カチオン交換樹脂と接触させる手法を採用することは容易であり、その際、刊行物2に記載されるように樹脂の保護のためヨウ化物濃度をある程度低下させておくことは当業者にとって自明の事項であるとはいえる。

しかしながら、前記アで述べたとおり、前記相違点4のヨウ化メチルの濃度変更の点および前記相違点5の第1の塔における軽質液相の還流比の点が容易であるとはいえないことはすでに検討のとおりである。

(ウ)小括
本件発明16は、刊行物1発明から刊行物2の技術常識を考慮しても、当業者が容易になし得たものとはいえない。

コ 本件発明17,18について
(ア) 対比・判断
本件発明17,18は、本件発明1において、軽質液相のリサイクル率が、該低沸点オーバーヘッド蒸気流を凝縮して得た総軽質液相の、それぞれ、0から20%、0.1%から20%であることをさらに限定した発明である。

刊行物1発明において、実施例4の還流流量16.8とリサイクルしている上相(軽質相)の流量1.40から全体としての還流に対するリサイクルしている上相(軽質相)の比が一応計算できるものの、表1の還流流量の値のうち軽質相部分が明確であるとはいえない以上、軽質相の還流とリサイクル流の和に対するリサイクル比は明らかであるとはいえず、当業者が容易になし得る技術的事項であるともいえない。

また、前記アで述べたとおり、前記相違点4のヨウ化メチルの濃度変更の点および前記相違点5の第1の塔における軽質液相の還流比の点が容易であるとはいえないことはすでに検討のとおりである。

(イ) 小括
本件発明17,18は、刊行物1に記載された発明ではなく、かつ刊行物1発明から、当業者が容易になし得たものとはいえない。

サ 本件発明19について
(ア) 対比・判断
本件発明19は、本件発明1において、「該反応媒体中のヨウ化エチル濃度を750重量ppm又はそれを下回る量に制御することをさらに含み、該精製酢酸生成物からプロピオン酸を直接除去せずに該精製酢酸生成物が250重量ppm未満のプロピオン酸を含む」ことをさらに限定した発明である。

刊行物3には、カルボニル化反応原料を一酸化炭素と反応させるカルボニル化反応工程を含む有機カルボン酸の製造方法に関するものとして、メタノールのカルボニル化反応では、副生物としてアセトアルデヒド及びその誘導体(クロトンアルデヒド、2-エチルクロトンアルデヒド、プロピオン酸等)が副生することが知られていること(摘記(3a))、カルボニル化反応原料を、反応溶媒中においてカルボニル化反応用触媒、ヨウ化アルキル及び水の存在下で一酸化炭素と反応させる方法において、水素分圧を特定範囲にすることで、そのカルボニル化反応効率を特に低下させることなく、得られる反応生成液中の不純物含有量を減少させるとともに、ヨウ化水素含有量及び水含有量を同時に減少させる方法に関して記載されている(摘記(3b))。

そして、表2の実験No.2として、水素分圧4.0kg/cm^(2)で反応させた反応生成物中濃度として、ヨウ化水素32wtppm、アセトアルデヒド1730wtppm、プロピオン酸191wtppm、ヨウ化エチル380wtppmである例が示されている(摘記(3d))ものの、アルデヒド誘導体、ヨウ化物の生成反応ルートは水素分圧とともに、互いに連関し影響を受けているといえる(摘記(3b))。

したがって、刊行物3にヨウ化エチル濃度と酢酸生成物中のプロピオン酸濃度との間に反応として関係のあることが知られているからといって、刊行物1発明において、水素分圧、ヨウ化水素、他の副生成物と互いに影響しあって生成反応ルートを形成している反応媒体中のヨウ化エチル濃度を750重量ppm又はそれを下回る量に制御することが容易できるとはいえないし、その制御によって、該精製酢酸生成物中のプロピオン酸を直接除去せずに250重量ppm未満のプロピオン酸にできるかどうかも不明である。
上記の点は、アセトアルデヒドを特定以下にした上で、強酸性カチオン交換樹脂と接触して副生物を低下した高純度酢酸を製造することに関する刊行物2にも記載も示唆もされていない。

また、前記アで述べたとおり、前記相違点4のヨウ化メチルの濃度変更の点および前記相違点5の第1の塔における軽質液相の還流比の点が容易であるとはいえないことはすでに検討のとおりである。

(イ)小括
本件発明19は、刊行物1発明から、刊行物2,3の技術常識を考慮しても、当業者が容易になし得たものとはいえない。

シ 本件発明20,21について
(ア) 対比・判断
本件発明20は、本件発明19おいて、「該反応媒体中のヨウ化エチル及び該精製酢酸生成物中のプロピオン酸が3:1から1:2の重量比で存在する」ことをさらに限定した発明であり、本件発明21は、本件発明19において、「アセトアルデヒド及びヨウ化エチルが該反応媒体中に2:1から20:1の重量比で存在する」ことをさらに限定した発明である。
本件発明19について検討したように、刊行物1発明において、水素分圧、ヨウ化水素、他の副生成物と互いに影響しあって生成反応ルートを形成している反応媒体中のヨウ化エチル濃度を750重量ppm又はそれを下回る量に制御することが容易できるとはいえないし、その制御によって、該精製酢酸生成物中のプロピオン酸を直接除去せずに250重量ppm未満のプロピオン酸にできるかどうかも不明であって、その構成を当業者が容易になし得ない以上、本件発明20において、該反応媒体中のヨウ化エチル及び該精製酢酸生成物中のプロピオン酸が3:1から1:2の重量比で存在することをさらに限定することや、本件発明21において、アセトアルデヒド及びヨウ化エチルが該反応媒体中に2:1から20:1の重量比で存在することをさらに限定することは、全体として容易になし得ることとはいえない。

また、前記アで述べたとおり、前記相違点4のヨウ化メチルの濃度変更の点および前記相違点5の第1の塔における軽質液相の還流比の点が容易であるとはいえないことはすでに検討のとおりである。

(イ)小括
本件発明20、21は、刊行物1発明から、刊行物2,3の技術常識を考慮しても、当業者が容易になし得たものとはいえない。

ス 刊行物1の表1の「還流」項目の「流量」の意味について
本件発明1と刊行物1発明との上記対比判断においては、刊行物1には、還流の流量が、上相(軽質相)のみの還流分の流量を示したものとの明記はないので、相違点5の第1の塔における軽質液相の還流比を計算することはできず、容易に想到するものとはいえないことはすでに述べたとおりであるが、表1の還流の流量が、図に基づいた上相(軽質相)のみの還流の流量を表しているとした場合には、相違点5の第1の塔における軽質液相の還流比は、軽質相の還流流量/塔頂流量=16.8/62.2=0.27との計算から、相違点5は、実質的な相違点とはいえないこととなる。
また、本件発明17、18に関しても、それに伴い軽質相のリサイクル率が軽質相の流量/(軽質相の流量+軽質相の還流流量)=1.40/(16.8+1.40)=0.07と計算され、その点は新たな相違点とはいえないこととなる。

しかしながら、いずれにしても、前記のとおり、相違点4のヨウ化メチルの濃度変更の点が容易であるとはいえないことはすでに検討のとおりであるため、本件発明1?7、9、11?21は、刊行物1発明から、刊行物2,3の技術常識を考慮しても、当業者が容易になし得たものとはいえない。

(4)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、平成29年7月14日付け意見書において、以下の主張をしている。
訂正後の請求項に係る発明と刊行物1発明には、軽質液相のヨウ化メチルの濃度がさらに相違点となるが、乙2号証に示されるように、酢酸製造装置の長期間の運転において、軽質液相中のヨウ化メチル濃度は5.1重量%から5重量%未満へ0.1重量%以上変動することは必然であるし、刊行物1発明の実施例4の値を実施例3のように低下させることには設計思想及び動機があり、サイドカットの水濃度及びヨウ化水素濃度をはじめとする他の濃度が訂正後の請求項1に係る発明の範囲内になるのは明らかである(10頁18行?11頁25行)。

(5)主張の検討
軽質液相のヨウ化メチルの濃度に、特定の装置稼働化において変動がある可能性が明らかになったとしても、刊行物1発明はヨウ化メチルの濃度が5.1重量%であることを前提としたものであって、他の成分も濃度が決定された発明であって、異議申立人の主張のように、表1の他の実施例の値の設定の考え方を理解する必然性もないし、推測のとおり値が変化する証拠もあげられてはいない。

第6 むすび
以上のとおり、本件請求項1?7,9,11?21に係る特許は、取消理由通知(予告)に記載した取消理由及び証拠によっては、取り消されるべきものとはいえない。
また、他に本件請求項1?7,9,11?21に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、訂正により請求項8,10は削除されたため、本件請求項8,10に係る特許に関する申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応器内で形成した反応媒体をフラッシュ容器内で分離し、酢酸、金属触媒、及び腐食性金属を含む液体リサイクルと、酢酸、ヨウ化メチル、酢酸メチル、水、ヨウ化水素、及び過マンガン酸還元性化合物を含む蒸気生成物流とを形成すること、ここで、当該反応媒体は、0.1重量%から4.1重量%の水と、酢酸、酢酸メチル、金属触媒、ヨウ化物塩、及びヨウ化メチルとを含み、
該蒸気生成物流の一部を第1の塔で蒸溜し、酢酸を含む側流と、酢酸メチル、ヨウ化メチル、過マンガン酸還元性化合物、及び5重量%又はそれを超える量の水を含む低沸点オーバーヘッド蒸気流と、95重量%又はそれを超える量の酢酸及び5重量%又はそれを下回る量の水を含む残渣流とを得ること、
該低沸点オーバーヘッド蒸気流を凝縮し、得られた凝縮流を二相に分離し、重質液相、及び40重量%から80重量%の水を含み5重量%未満のヨウ化メチルを含む軽質液相を形成すること、
該反応器への軽質液相の一部分のリサイクル率を制御することにより、該側流の総重量に対して、該側流中の水濃度を1重量%から3重量%に維持し、該側流中のヨウ化水素濃度を50重量ppm又はそれを下回る量に維持すること、及び
該側流を第2の塔で蒸溜し、精製酢酸生成物を得ることを含む、酢酸の製造方法であって、
該第1の塔が、0.05から0.4である、該軽質液相の還流比で稼動される、前記方法。
【請求項2】
該反応媒体が、0.5重量%から30重量%の酢酸メチル、200重量ppmから3000重量ppmの金属触媒、1重量%から25重量%のヨウ化物塩、及び1重量%から25重量%のヨウ化メチルを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該重質液相の一部分を処理し、アセトアルデヒド、アセトン、メチルエチルケトン、ブチルアルデヒド、クロトンアルデヒド、2-エチルクロトンアルデヒド、2-エチルブチルアルデヒド、及びこれらのアルドール縮合生成物からなる群より選択される少なくとも1種の過マンガン酸還元性化合物を除去する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
該側流中の水濃度が1.1重量%から2.5重量%に維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
該側流中のヨウ化水素濃度が0.1重量ppmから50重量ppmに維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
該側流がさらに、1種以上のヨウ化C_(1)?C_(14)アルキルを0.1重量%から6重量%の濃度で含み、さらに酢酸メチルを0.1重量%から6重量%の濃度で含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
該側流が、該1種以上のヨウ化C_(1)?C_(14)アルキル及び該酢酸メチルのそれぞれを該側流中の水濃度の±0.9重量%の量含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
該重質液相、該軽質液相、またはこれらの混合物を該第1の塔に還流させることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
(削除)
【請求項11】
該重質液相が、1重量%又はそれを下回る量の水を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
該精製酢酸生成物が、該第2の塔の底部またはその近傍から取り出される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
水性オーバーヘッドが該第2の塔から取り出される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
該水性オーバーヘッドが、該第2の塔に供給される側流中の水の90%又はそれを超える水を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
該水性オーバーヘッド又はその凝縮された一部を該反応器にリサイクルすることをさらに含み、該反応器への水性オーバーヘッドの質量流量に対する該反応器へリサイクルされる軽質液相の質量流量のリサイクル比が2であるか又はそれを下回る、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
該精製酢酸生成物の総ヨウ化物濃度が5重量ppm又はそれを下回る場合に該精製酢酸生成物をガード床に接触させることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
該軽質液相のリサイクル率が、該低沸点オーバーヘッド蒸気流を凝縮して得た総軽質液相の0%から20%である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
該軽質液相のリサイクル率が、該低沸点オーバーヘッド蒸気流を凝縮して得た総軽質液相の0.1%から20%である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
該反応媒体中のヨウ化エチル濃度を750重量ppm又はそれを下回る量に制御することをさらに含み、該精製酢酸生成物からプロピオン酸を直接除去せずに該精製酢酸生成物が250重量ppm未満のプロピオン酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
該反応媒体中のヨウ化エチル及び該精製酢酸生成物中のプロピオン酸が3:1から1:2の重量比で存在する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
アセトアルデヒド及びヨウ化エチルが該反応媒体中に2:1から20:1の重量比で存在する、請求項19に記載の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-12-19 
出願番号 特願2015-221223(P2015-221223)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C07C)
P 1 651・ 121- YAA (C07C)
P 1 651・ 536- YAA (C07C)
P 1 651・ 113- YAA (C07C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 土橋 敬介  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 冨永 保
瀬良 聡機
登録日 2016-06-17 
登録番号 特許第5952951号(P5952951)
権利者 セラニーズ・インターナショナル・コーポレーション
発明の名称 酢酸の製造方法  
代理人 梶田 剛  
代理人 特許業務法人後藤特許事務所  
代理人 山本 修  
代理人 梶田 剛  
代理人 竹内 茂雄  
代理人 竹内 茂雄  
代理人 小野 新次郎  
代理人 小林 泰  
代理人 小野 新次郎  
代理人 山本 修  
代理人 小林 泰  

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