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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H04M
管理番号 1337060
異議申立番号 異議2017-700573  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-06-07 
確定日 2018-01-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第6040127号発明「車両遠隔操作システム,車載中継機,及び携帯中継機」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6040127号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6040127号(以下,「本件特許」という。)の請求項1ないし6に係る特許についての出願は,平成25年8月30日に特許出願され,平成28年11月11日にその特許権の設定登録がされ,その後,その特許について,特許異議申立人 山本 美菜子により特許異議の申立てがされ,当審において平成29年9月13日付けで取消理由を通知し,特許権者より同年11月17日付けで意見書が提出され,特許異議申立人より同年12月28日付けで上申書が提出されたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1?6に係る発明(以下,それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明6」という。)は,特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。

「【請求項1】
車両制御装置と携帯機を相互に無線通信可能として構成された車両制御システムであって,前記車両制御装置から無線送信された応答要求信号に基づいて前記携帯機が応答信号を無線送信し,当該応答信号を受信したことを条件の少なくとも一つとして前記車両制御装置が車両の所定機器を制御する車両制御システム,を介して前記所定機器を遠隔操作する車両遠隔操作システムであって,
前記車両制御装置と通信可能な車載中継機と,
前記携帯機と通信可能な携帯中継機とを備え,
前記車載中継機は,
前記車両制御装置から送信された前記応答要求信号を受信して前記携帯中継機に無線送信すると共に,前記携帯中継機から無線送信された前記応答信号を受信して前記車両制御装置に送信する送受信手段を備え,
前記携帯中継機は,
前記車載中継機から無線送信された前記応答要求信号を受信して前記携帯機に送信すると共に,前記携帯機から前記応答要求信号に基づいて送信された前記応答信号を受信して前記車載中継機に無線送信する送受信手段を備え,
前記携帯中継機の前記送受信手段は,前記携帯機との間で無線通信を行う基本送受信手段と,前記車載中継機との間で無線通信を行う中継送受信手段とを備え,
前記携帯中継機の前記送受信手段における前記基本送受信手段は,前記車載中継機から送信された応答要求信号を前記携帯機に無線送信する応答要求信号送信回路と,前記携帯機から無線送信された応答信号を受信する応答信号受信回路とを備え,
前記携帯中継機の前記送受信手段は,前記携帯機からの応答信号の送信が開始されたものと判定した場合には,当該応答信号を全て受信し終えることを待つことなく,前記中継送受信手段に対して接続する回路を,前記応答要求信号送信回路から前記応答信号受信回路に切り替えることで,前記携帯中継機における前記車載中継機への信号の送受信状態を受信状態から送信状態に切り替える,
車両遠隔操作システム。
【請求項2】
前記携帯中継機の前記送受信手段は,前記携帯機から送信された前記応答信号の受信強度を検知し,当該検知した受信強度が所定強度以上になった時点で,前記中継送受信手段に対して接続する回路を,前記応答要求信号送信回路から前記応答信号受信回路に切り替える,
請求項1に記載の車両遠隔操作システム。
【請求項3】
前記携帯中継機の前記送受信手段は,前記携帯機から送信された前記応答信号を全て受信し終えることを待つことなく,当該応答信号の前記車載中継機への無線送信を行うためのキャリアセンスを開始する,
請求項1又は2に記載の車両遠隔操作システム。
【請求項4】
車両制御装置と携帯機を相互に無線通信可能として構成された車両制御システムであって,前記車両制御装置から無線送信された応答要求信号に基づいて前記携帯機が応答信号を無線送信し,当該応答信号を受信したことを条件の少なくとも一つとして前記車両制御装置が車両の所定機器を制御する車両制御システム,を介して前記所定機器を遠隔操作する車両遠隔操作システム,を構成するための携帯中継機であって,
前記携帯機と通信可能に構成され,
当該携帯中継機と共に前記車両遠隔操作システムを構成する車載中継機であって,前記車両制御装置と通信可能な車載中継機と通信可能に構成され,
前記車載中継機から無線送信された前記応答要求信号を受信して前記携帯機に送信すると共に,前記携帯機から前記応答要求信号に基づいて送信された前記応答信号を受信して前記車載中継機に無線送信する送受信手段を備え,
前記送受信手段は,前記携帯機との間で無線通信を行う基本送受信手段と,前記車載中継機との間で無線通信を行う中継送受信手段とを備え,
前記送受信手段における前記基本送受信手段は,前記車載中継機から送信された応答要求信号を前記携帯機に無線送信する応答要求信号送信回路と,前記携帯機から無線送信された応答信号を受信する応答信号受信回路とを備え,
前記送受信手段は,前記携帯機からの応答信号の送信が開始されたものと判定した場合には,当該応答信号を全て受信し終えることを待つことなく,前記中継送受信手段に対して接続する回路を,前記応答要求信号送信回路から前記応答信号受信回路に切り替えることで,前記携帯中継機における前記車載中継機への信号の送受信状態を受信状態から送信状態に切り替える,
車両遠隔操作システムの携帯中継機。
【請求項5】
前記送受信手段は,前記携帯機から送信された前記応答信号の受信強度を検知し,当該検知した受信強度が所定強度以上になった時点で,前記中継送受信手段に対して接続する回路を,前記応答要求信号送信回路から前記応答信号受信回路に切り替える,
請求項4に記載の車両遠隔操作システムの携帯中継機。
【請求項6】
前記送受信手段は,前記携帯機から送信された前記応答信号を全て受信し終えることを待つことなく,当該応答信号の前記車載中継機への無線送信を行うためのキャリアセンスを開始する,
請求項4又は5に記載の車両遠隔操作システムの携帯中継機。」

第3 異議申立の理由の概要
・請求項1,請求項2および請求項3について
本件特許発明1,2,3は,甲1発明,甲2-1発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
・請求項4,請求項5および請求項6について
本件特許発明4,5,6は,甲2-2発明,甲1発明および周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。本件特許発明4,5,6は,甲1発明,甲2-1発明および周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(以上,特許異議申立書(40頁)の「3.申立ての理由」の項中の「(5) むすび」の項)

甲第1号証:特開平11-241539号公報
甲第2号証:特開2013-136875号公報
甲第3号証:特開2010-74207号公報
甲第4号証:特開2009-33409号公報
甲第5号証:特開平6-132861号公報
甲第6号証:特開2009-60362号公報
甲第7号証:特開2012-234442号公報
甲第8号証:特開2001-102981号公報
(以上,特許異議申立書(40-41頁)の「5.証拠方法」の項)

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1.取消理由の概要
本件特許の請求項1,2,4,5に係る発明は,本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された引用文献(甲第2号証:特開2013-136875号公報)に基づいて,周知例1(甲第3号証:特開2010-74207号公報),周知例2(甲第4号証:特開2009-33409号公報),周知例3(甲第5号証:特開平6-132861号公報)及び周知例4(甲第6号証:特開2009-60362号公報)に記載された周知事項を勘案することで,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その発明に係る特許は取り消すべきものである。

2.取消理由の判断
(1)本件特許発明1について
ア 引用文献の記載事項
引用文献には,図1ないし図3とともに以下の事項が記載されている。(下線は当審で付与した。)

「【0001】
この発明は,親機と子機との通信により,IDコードを照合して認証を実施し,施開錠を行う電子キー装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来,車両のドア施開錠やエンジン始動を行なう場合,使用者がキーを鍵穴に挿入し回転させて行なうものとは別に,いわゆるFOBキーのようにキーを使用者のポケットまたはバッグに入れたまま,一切キーに触れることなく車載機(親機)と携帯機(子機)との間で無線通信を行ない,携帯機からのIDコードを車載機が記憶しているコードと照合し,合致した場合,車両のドアノブに取り付けられたセンサに触れるだけで車載機がドアを施開錠し,運転席に取り付けられたボタンを押すだけでエンジン始動ができる車両用電子キー装置があった。
【0003】-【0006】(略)
【0007】
携帯機を所持した正規ユーザが車両から離れた場所にいるときでも,2台の中継器を用いることによって車載機と携帯機間の通信が可能となり,ドアの開錠やエンジン始動が可能となるいわゆるリレーアタックについて,図3を用いて説明しておく。
【0008】
一般的にスマートエントリによるドアの施開錠が可能となる領域は,車両から約2m以内であり,エンジン始動においては車内の領域のみである。そこで,LF信号の送信領域である車両から約2mの領域に,窃盗者(1)がa LF信号(aは単なる接頭辞,以下b?fも同じ)をb RF信号に変換すると同時に増幅する中継器(1)を近づけ,窃盗者(2)の中継器(2)まで通信距離を延長する。窃盗者(2)がb RF信号を受信し再度携帯機と通信が可能なc LF信号に変換する中継器(2)を正規ユーザに接近させることによって,通常車両から約2mの通信距離を数kmまで延長して中継することが可能となる。携帯機はc LF信号を自分の車両の車載機から送信された信号と認識してd RF信号を応答する。中継器(2)はそのd RF信号を増幅しe RF(RF増幅)信号として中継器(1)に中継する。中継器(1)はe RF(RF増幅)信号を受信してf RF信号として車両の車載機に中継することによって,通常通信可能な領域を大幅に超えて通信することを可能にすることにより,正規ユーザに気付かれずにドアの施開錠が実施されてしまう。また,同じ手法により,エンジン始動ボタンを押すことによってエンジン始動認証も中継され,エンジンが始動され,正規ユーザや周囲の人にも気付かれずに簡単に車両が盗難に遭う状態になる。
【0009】(略)
【0010】
この発明は,かかる問題を解決するためになされたものであり,制御機能の動作遅れを防止することが可能で,認証通信を中継するリレーアタックによる盗難を防止し,不正通信をユーザに報知することによって親機との不正通信を停止し,不本意な施開錠を阻止する簡単な構成の電子キー装置を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係る電子キー装置は,親機と,正規ユーザが所持する子機との間で通信することにより,親機は子機からの応答信号により子機のIDコードを認証した場合,施開錠等を司る制御機器を作動させる電子キー装置において,親機は,子機の認証を実施するために子機に対して要求信号を送信する第1の電波周波数送信手段と,子機から送信される応答信号を受信する,第1の電波周波数と干渉しない周波数である第2の電波周波数受信手段を備え,子機は,親機からの要求信号を受信する第1の電波周波数受信手段と,親機に対して応答信号を送信する第2の電波周波数送信手段を備え,子機は,親機からの第1の電波周波数の信号を受信中でも,親機への第2の電波周波数の信号を送信可能とし,子機の起動を判定するための第1の電波周波数のウェークアップ信号を受信した場合に,その後の第1の電波周波数信号の受信を継続している間に子機より第2の電波周波数信号を送信することにより,第2の電波周波数信号を,中継器による第1の電波周波数信号の通信距離を延長するための第2の電波周波数信号と衝突させる中継防止機能を働かせ,不正に親機と子機間の通信距離を中継器により延長することを防止するものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば,2つの中継器間における親機側の要求信号に対応するRF信号と子機側の応答信号に対応するRF信号の双方向のRF信号を衝突させる中継防止機能を働かせるようにしているため,制御機能の動作遅れを防止することが可能で,認証通信を中継するリレーアタックによる不正な施開錠を防止し,不正通信をユーザに報知するようにすれば,親機との不正通信を停止し,親機及び子機に新たにハードウェア等を追加することなくリレーアタックによる不正な施開錠を防止することができる。(略)
【0013】(略)
【0014】
実施の形態1.
本発明に係る電子キー装置を,車両のドア及びエンジン始動に適用した実施の形態1について説明する。図1は本発明に係る電子キー装置の構成を示すもので,車両の所定の個所に配置された車載機(一般的には親機)1と,この車載機1と交信する携帯機A(一般的には子機)100とを有する。なお,携帯機Aは以下単に携帯機と呼ぶ。車載機1は,RF信号受信アンテナ3を備えたRF信号受信器2,携帯機100にLF信号送信アンテナ4を介してa LF信号を送信して認証要求をする第1の電波周波数(LF)送信手段5,ドアの施開錠やエンジン始動を実施するための制御機器7,制御機器7を駆動するための駆動手段8,携帯機100から送信されたd RF信号をRF信号受信器2を介して受信する第2の電波周波数(RF)受信手段6,ドアの施開錠やエンジン始動を要求するため,車両の所定に位置に配置されたスイッチまたはセンサ9,及び第1の電波周波数送信手段5,第2の電波周波数受信手段6,駆動手段8,及びスイッチまたはセンサ9等を制御するCPU10を備えている。20はLF信号を中継するためのRF信号と,携帯機が応答するRF信号を衝突させる中継防止機能を象徴的に示している。
【0015】
正規のユーザであることを認証するために,正規のユーザが所持している携帯機100は,車載機1から認証要求するために送信される要求信号であるa LF信号をLF信号受信アンテナ105及びLF信号受信IC104を介して受信する第1の電波周波数受信手段101,車載機1からの認証要求に対してRF信号送信アンテナ102を介してd RF信号を送信する第2の電波周波数送信手段103,及び第1の電波周波数受信手段101,第2の電波周波数送信手段103等を制御するCPU110を備えている。なお,携帯機100の他に,これと同じ機能であり識別IDコードのみ異なる携帯機B200を備え,1台の車両に対して複数の携帯機を登録することが可能である。
【0016】
図1は,さらに,窃盗者が中継するために使用する中継器の構成の一例も示している。中継器は,中継器(1)50と中継器(2)70とからなる。中継器(1)50は,車載機1からの認証要求信号であるa LF信号を中継器(2)70と共同して中継し,通信距離を延長する役割を持つ。共通送受信アンテナであるRF信号送受信アンテナ51は,車載機1からのa LF信号を変換したb RF信号,及び中継器(2)70で増幅したe RF(RF増幅)信号を送受信するものであり,送信または受信のどちらか一方が機能している場合,機能していないもう一方は機能することができない。中継器(1)50は,車載機1からの認証要求信号であるa LF信号を中継して通信距離を延長するために,LF信号受信アンテナ55を介してLF信号受信器56で受信したLF信号を,RF信号変換器57にてb RF信号に変換し,RF信号送受信アンテナ51から送信する。また,中継器(1)50は,b RF信号を送信していない場合は,中継器(2)70から送信されるe RF(RF増幅)信号をRF信号送受信アンテナ51を介して受信し,RF信号変換器54にて車載機1が受信可能なf RF信号に変換してRF信号送信器53によりRF信号送信アンテナ52を介して車載機1に送信する。
【0017】
中継器(2)70は,中継器(1)50により送信された本来は車載機1からのa LF信号を,相当するb RF信号に変換し,このb RF信号を中継器(1)50と同様のRF信号送受信アンテナ71を介して受信し,LF信号変換器77にて携帯機100が受信可能なc LF信号に再変換し,LF信号送信器76及びLF信号送信アンテナ75を介してLF信号として送信する。携帯機100は,中継器(2)70から送信された,車載機1が送信したa LF信号と同等のc LF信号をLF信号受信アンテナ105を介してLF信号受信IC104で受信し,第1の電波周波数受信手段101及び第2の電波周波数送信手段103を通してRF送信アンテナ102からd RF信号として送信する。携帯機100より送信されたd RF信号は,中継器(2)70のRF信号受信アンテナ72を介してRF信号増幅器73で受信増幅処理され,RF信号送信器74及びRF信号送受信アンテナ71を介して中継器(1)50へe RF(RF増幅)信号として送信される。
【0018】
上記構成の電子キー装置において,正規ユーザが行なう通常の施開錠の動作を説明する。正規ユーザが車両のドアに備えられたスイッチまたはセンサ9を操作すると,車両の近くに登録された携帯機があるかどうかを確認するために,車載機1は携帯機100の認証を実施する。車載機1は認証要求のためのa LF信号を第1の電波周波数送信手段5によりLF信号送信アンテナ4を介して送信する。携帯機100では,LF信号受信アンテナ105で受信した認証要求のa LF信号を,LF信号受信IC104にて処理し,第1の電波周波数受信手段101に伝える。第1の電波周波数受信手段101よりa LF信号を受信した携帯機100は,受信した信号に対して第2の電波周波数送信手段103(RF信号送信手段)によりd RF信号を応答する。車載機1では,応答信号をRF信号受信アンテナ3を介してRF信号受信器2にて処理し,第2の電波周波数受信手段(RF信号受信手段)6により受信し,このRF信号を照合し,認証する。認証した結果が正しいと判断された場合は正規ユーザが操作したと判断し,駆動手段8及び制御機器7によりドアの開錠を実施する。
【0019】
次に,不正ユーザが通信信号を中継して車両の窃盗を実施する一例を図1により説明する。窃盗を実行するに際して,窃盗者(1)は中継器(1)50を車両から約2m以内に近づけると共に,窃盗者(2)は中継器(2)70を車両から離れている正規ユーザの約2m以内に近づける。
【0020】
窃盗者は上記に説明した通常の動作で行われる認証に対して,車載機1からのa LF信号を中継器(1)50がLF信号受信アンテナ55及びLF信号受信器56を介して受信し,RF信号変換器57で長距離通信が可能なb RF信号に変換し,RF信号送受信アンテナ51から送信する。中継器(2)70は,このb RF信号をRF信号送受信アンテナ71を介して受信し,この信号をLF信号変換器77でLF信号に再変換し,c LF信号としてLF信号送信器76及びLF信号送信アンテナ75を介して携帯機100へ向けて送信する。LF信号送信アンテナ75から送信されるc LF信号は,a LF信号と同等の信号であるため,携帯機100はLF信号受信アンテナ105を介してLF信号受信IC104により出力される信号を第1の電波周波数受信手段101で受信し,近くにある車両の車載機1から送信されたa LF信号に対して応答するように,第2の電波周波数送信手段103からRF信号送信アンテナ102を介してd RF信号を応答する。
【0021】
中継器(2)70は,携帯機100からの上記d RF信号をRF信号受信アンテナ72を介して受信し,このd RF信号を長距離送信するためにRF信号増幅器73で増幅し,RF信号送信器74で増幅後のRF信号としてRF信号送受信アンテナ71からe RF(RF増幅)信号を送信する。中継器(2)70より送信されたe RF(RF増幅)信号を,中継器(1)50はRF信号送受信アンテナ51を介して受信し,RF信号変換器54で車載機1に対応するf RF信号に変換し,このf RF信号をRF信号送信アンテナ52を介してRF信号送信器53で車載機1に向けて送信する。車載機1は,車両の近くにある携帯機100が送信したd RF信号相当のf RF信号をRF信号受信アンテナ3を介し,RF信号受信器2を通して第2の電波周波数受信手段6にて受信し判断するため,認証がOKとなり,駆動手段8により制御機器7でドアの開錠を行う。
【0022】
このように,窃盗者は,駐車場等で正規ユーザがスマートキーレス制御によりドアをロックしたことを確認した場合,中継器(2)70を所持した窃盗者(2)がユーザの所持した携帯機100に近づき,正規ユーザが車両より十分離れてドアの開錠やアンサーバックブザーの聞こえない距離まで離れた時に,中継器(1)50を所持した窃盗者(1)がドアのスイッチまたはセンサ9を操作することによってまずドアを開錠し,その後ドアを開け車両に乗り込んだ状態でエンジンスタートボタンを押すことで同様に認証が成立し,エンジン始動が可能となり窃盗が実行される。そのとき正規ユーザは車両の近くにいないため,再び車に乗るために車両に戻るまで車両が窃盗されたことに気付かない。
【0023】
次に本発明による窃盗を防止する方法を図2及び図3を用いて説明する。図2において,Vは車載機1を搭載した車両である。図2の上側のチャートのように,車載機1から送信される要求信号であるa LF信号を全て受信後,携帯機100が応答信号であるd RF信号を送信する方法が一般的であるが,本発明では,図2の下側のチャートのように,信号の中継を防止するために,要求信号であるa LF信号を送信している間に,携帯機100がウェークアップ(Wake Up)した時点で応答信号であるd RF信号を送信するようにしている。
【0024】
通常動作時は,車載機1から送信されるa LF信号に対して,登録された携帯機100が応答するd RF信号の応答については認証する条件として応答までの許容可能な時間があるため,中継器(1)50及び中継器(2)70で中継される信号には応答性が要求され,a LF信号受信した場合そのまま逐次b RF信号に変換する必要がある。つまり中継器(1)50はa LF信号送信中,b RF信号を送信している必要がある。LF信号とRF信号は周波数が大きく異なるためこのようにLF信号送信中にRF信号を送信しても問題なく通信が可能であるが,中継器(1)50と中継器(2)70間で通信するRF信号は共通のRF信号の送受信であるため,同時には送信できない。図2は通常動作時のa LF信号とd RF信号の通信例であり,タイムチャートは車載機1から携帯機100の認証要求信号としてa LF信号を送信し,受信ICが登録されている携帯機100としてウェークアップした時点でa LF信号を受信している状態でd RF信号を送信する。
【0025】
図3において,Vは車載機1を搭載した車両である。図3は親機と子機間の通信が窃盗者に中継された場合のタイムチャートであり,車載機1からa LF信号が送信開始された直後に中継器(1)50から中継器(2)70へb RF信号が送信開始されており,車載機1からのa LF信号送信中に携帯機100からd RF信号送信を実施すると,中継器(1)50がb RF信号を送信している最中に中継器(2)70がe RF信号を送信するため,中継器(1)50は,b RF信号とe RF信号を衝突させるという中継防止機能20によりe RF信号を受信することができないため車載機1への応答ができなくなり,認証が不成立となる。このため,ドアの開錠もエンジン始動もできなくなる。
【0026】
このように,実施の形態1によれば,親機及び子機に新たに装備を追加しなくてもLF信号送信(RF信号中継)中にRF信号を送信することにより,簡単にリレーアタックに対する防止が可能となると同時に,通信プロトコルにいろいろな付加情報を必要としないため,認証時間が長くなることがないので応答性も損なわず,携帯機の電池の消費を増やすこともない。」

イ 取消理由で認定した引用発明について
取消理由通知では,引用文献から以下の発明を認定した。

「車載機1と前記車載機1と交信する携帯機100を備えた電子キー装置であって,前記車載機1から認証要求するために送信される要求信号であるa LF信号に基づいて前記携帯機100が応答信号であるd RF信号を送信し,前記d RF信号を照合して認証し,認証した結果が正しいと判断された場合は,制御機器7によりエンジン始動を実施する電子キー装置,を介して前記制御機器7を遠隔操作するシステムであって,
前記車載機1と通信可能な車内に配置された中継器(1)50と,
前記携帯機100と通信可能な中継器(2)70とを備え,
前記中継器(1)50は,
前記車載機1から送信された前記要求信号であるa LF信号を受信して前記中継器(2)70に前記a LF信号を変換したb RF信号を送信するとともに,前記中継器(2)70から送信された前記e RF(RF増幅)信号を受信してf RF信号を前記車載機1に送信する送受信手段を備え,
前記中継器(2)70は,
前記中継器(1)50から送信された前記a LF信号を変換したb RF信号を受信し,受信した該b RF信号を前記c LF信号に変換して前記携帯機100に送信するとともに,前記携帯機100から前記c LF信号に基づいて送信された前記d RF信号を受信して前記e RF(RF増幅)信号として前記中継器(1)に送信する送受信手段を備え,
前記中継器(2)70の前記送受信手段は,前記携帯機100との間で無線通信を行う基本送受信手段と,前記中継器(1)50との間で無線通信を行う中継送受信手段とを備え,
前記中継器(2)70の前記基本送受信手段は,前記中継器(1)50から送信されたb RF信号を変換したc LF信号を前記携帯機100に送信するLF信号送信器76と,前記携帯機100から送信されたd RF信号を受信するRF信号増幅器73とを備え,
前記中継器(2)70の前記送受信手段は,前記携帯機100からの前記d RF信号の送信が開始されると,前記d RF信号を全て受信し終えることを待つことなく,携帯機100にc LF信号を送信するために前記LF信号変換器77と前記LF信号送信機76とのみが連携して機能する状態から,中継器(1)50にe RF(RF増幅)信号を送信するために前記RF信号送信器74と前記RF信号増幅器73とのみが連携して機能する状態へと変更して,前記中継器(2)70における前記中継器(1)50への信号の送受信状態を受信状態から送信状態に切り替える,
システム。」

ウ 取消理由についての当審の判断
引用発明のうち,
「前記中継器(2)70の前記送受信手段は,前記携帯機100からの前記d RF信号の送信が開始されると,前記d RF信号を全て受信し終えることを待つことなく,携帯機100にc LF信号を送信するために前記LF信号変換器77と前記LF信号送信機76とのみが連携して機能する状態から,中継器(1)50にe RF(RF増幅)信号を送信するために前記RF信号送信器74と前記RF信号増幅器73とのみが連携して機能する状態へと変更して,前記中継器(2)70における前記中継器(1)50への信号の送受信状態を受信状態から送信状態に切り替える」(以下,「構成A」という。)
についての認定の妥当性を,特に下線部の
「前記中継器(2)70は,中継器(1)50にe RF(RF増幅)信号を送信するために,前記中継器(2)70における前記中継器(1)50への信号の送受信状態を受信状態から送信状態に切り替える」(以下,「構成A’」という。)
について検討する。

中継器(1)50と中継器(2)70との間の送受信に関し,中継器(1)50については,引用文献の【0016】に,「共通送受信アンテナであるRF信号送受信アンテナ51は,車載機1からのa LF信号を変換したb RF信号,及び中継器(2)70で増幅したe RF(RF増幅)信号を送受信するものであり,送信または受信のどちらか一方が機能している場合,機能していないもう一方は機能することができない。」及び「中継器(1)50は,b RF信号を送信していない場合は,中継器(2)70から送信されるe RF(RF増幅)信号をRF信号送受信アンテナ51を介して受信し」と記載されていることからすると,中継器(1)50は,「b RF信号の送信」と「e RF信号の受信」とが択一的に行われると解することができる。
他方,引用文献(【0025】)には図3の説明について,「図3は親機と子機間の通信が窃盗者に中継された場合のタイムチャートであり,車載機1からa LF信号が送信開始された直後に中継器(1)50から中継器(2)70へb RF信号が送信開始されており,車載機1からのa LF信号送信中に携帯機100からd RF信号送信を実施すると,中継器(1)50がb RF信号を送信している最中に中継器(2)70がe RF信号を送信するため,中継器(1)50は,b RF信号とe RF信号を衝突させるという中継防止機能20によりe RF信号を受信することができないため車載機1への応答ができなくなり,認証が不成立となる。」と記載されている。この記載によれば,中継器(1)50が,中継防止機能20を発揮させるためには,「b RF信号の送信」と「e RF信号の受信」とを同時に行うことが前提となっていると解され,また,引用文献の図3のタイミングチャートから,中継器(1)50が「b RF信号の送信」と「e RF信号の受信」とを同時に行っていることが読み取れるから,中継器(1)50は,「b RF信号の送信」と「e RF信号の受信」とを同時に行うものと解される。
してみると,中継器(1)50の動作について,引用文献には,「b RF信号の送信」と「e RF信号の受信」とが択一的に行われると解される記載と,「b RF信号の送信」と「e RF信号の受信」とが同時に行われると解される記載とが混在しており,両者は相互に矛盾するものであるため「中継器(1)50」の動作を一義的に特定することができない。

一方,中継器(2)70については,その説明である引用文献の【0017】を参照しても,送信,受信の具体的な動作については記載されていない。そして,上記記載した理由により中継器(1)50の動作も特定できないことから,中継器(1)50の動作に基づいて,引用文献には,「中継器(1)70は,e RF(RF増幅)信号を送信する場合は,中継器(2)70における中継器(1)50への信号の送受信状態を受信状態から送信状態に切り替えること」が記載されていると認定することはできない。

以上のとおりであるから,構成A’が引用文献に記載されているとはいえない。そうすると,構成A’を更に限定した構成Aは,構成A’についての検討における上記理由と同様の理由により,引用文献に記載されているとはいえない。

一方,本件特許発明1は,構成Aに対応する「前記携帯中継機の前記送受信手段は,前記携帯機からの応答信号の送信が開始されたものと判定した場合には,当該応答信号を全て受信し終えることを待つことなく,前記中継送受信手段に対して接続する回路を,前記応答要求信号送信回路から前記応答信号受信回路に切り替えることで,前記携帯中継機における前記車載中継機への信号の送受信状態を受信状態から送信状態に切り替える」(以下,「構成B」という。)という構成を備えており,さらに,構成Bは,周知例1ないし4に記載された周知事項により充足できないことは明らかである。
よって,本件特許発明1は,引用発明に基づいて,周知例1ないし4に記載された周知事項を勘案しても,当業者が容易に発明することができたとはいえない。

(2)本件特許発明2について
本件特許発明2は本件特許発明1を更に限定する発明であるから,本件特許発明1についての理由と同じ理由により,引用発明に基づいて,周知例1ないし4に記載された周知事項を勘案しても,容易に発明することができたとはいえない。

(3)本件特許発明4について
本件特許発明4は本件特許発明1のうちの「携帯中継器」に関する発明であり,本件特許発明4は,構成Bを備えるから,本件特許発明1についての理由と同じ理由により,引用発明に基づいて,周知例1ないし4に記載された周知事項を勘案しても,容易に発明することができたとはいえない。

(4)本件特許発明5について
本件特許発明5は本件特許発明4を更に限定する発明であるから,本件特許発明4についての理由,すなわち本件特許発明1についての理由と同じ理由により,引用発明に基づいて,周知例1ないし4に記載された周知事項を勘案しても,容易に発明することができたとはいえない。

3.小活
よって,取消理由通知に記載した取消理由によっては,請求項1,2,4,5に係る特許を取り消すことはできない。

第5 異議申立の理由についての判断
1.本件特許発明1,2,3について
(1)甲第1号証(特開平11-241539号公報)に記載された発明
甲第1号証には,異議申立書(15-16頁)に記載されているとおり,以下の発明(以下,「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
「A 固定機21と携帯機1を相互に無線通信可能として構成されたキーレスエントリーシステムであって,固定機21から無線送信されたトリガ信号に基づいて携帯機1が識別コードを無線送信し,当該識別コードを受信したことを条件の少なくとも一つとして固定機21が車両のロック機構を制御するキーレスエントリーシステムを介してロック機構29を遠隔操作する車両遠隔操作システムであって,
B 固定機21と通信可能な中継装置11を備え,
D 中継装置11は,固定機21から送信されたトリガ信号を受信して携帯機1に無線送信すると共に,携帯機1から無線送信された識別コードを受信して固定機21に送信する送受信手段を備える,車両遠隔操作システム。」

(2)対比・判断
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると,甲1発明の「固定機21」,「中継装置11」及び「携帯機1」は,それぞれ本件特許発明1の「車両制御装置」,「車載中継器」及び「携帯機」に対応するものの,甲1発明には,本件特許発明1の「車載中継器」が無い点(以下,「相違点A」という。)で,両発明は少なくとも相違する。
ここで,甲1発明は,携帯機側に補助電源を用いることなく,固定機と携帯機との間の作動距離を増大させること(甲第1号証の段落【0005】-【0007】)を技術課題とし,該技術課題を解決するために,携帯機と固定機との間に識別コードを中継するための中継装置を設けるもの(同段落【0008】等)であり,前記携帯機は,前記中継装置から送信された誘導電磁波を受信して誘導起電力を生起し,この起電力を利用して動作するものである(同段落【0027】)。そうすると,甲1発明において,前記中継装置と前記携帯機との間に更に別の「中継器」を設けることの動機付けはない。
また,甲2-1発明の「中継器50」,「中継器70」は,窃盗者が中継するために使用することを目的としたものであることから,甲1発明に使用目的の異なる甲2-1発明の「中継器70」を適用する動機付けもない。
よって,本件特許発明1は,甲1発明と甲2-1発明に基づいて,甲第3号証ないし甲第8号証に記載した事項を勘案しても,当業者が容易に発明することができたとはいえない。

本件特許発明2,3は,本件特許発明1に更に限定を付したものであるから,本件特許発明1についての理由と同じ理由により,甲1発明と甲2-1発明に基づいて,甲第3号証ないし甲第8号証に記載した事項を勘案しても,当業者が容易に発明することができたとはいえない。

2.本件特許発明4,5,6について
(1)甲第1号証に記載された発明を主引例とする場合
甲第1号証に記載された発明は,上記「1.本件特許発明1,2,3について」の項中の「ア 甲第1号証(特開平11-241539号公報)に記載された発明」の項に記載した甲1発明のとおりである。
そして,本件特許発明4,5,6は,本件特許発明1,2,3のうちの「携帯中継器」に関する発明であるから,同「イ 対比・判断」の項中の「相違点A」に係る構成を備えている。そのため,同「イ 対比・判断」の項に記載した理由と同様の理由により,甲1発明と甲2-2発明(特許異議申立書21-22頁)に基づいて,甲第3号証ないし甲第8号証に記載した事項を勘案しても,当業者が容易に発明することができたとはいえない。

(2)甲第2号証に記載された発明を主引例とする場合
本件特許発明4,5,6は,構成Bを有するから,上記「第4 2.(1)本件特許発明1について」の項の理由と同様の理由により,引用発明(甲第2号証に記載された発明)及び周知例1(甲第3号証),周知例2(甲第4号証),周知例3(甲第5号証)及び周知例4(甲第6号証)に記載された周知事項を勘案することで,当業者が容易に発明することができたものではない。
また,構成Bは,特許異議申立人が提示した甲第1号証,甲第7号証及び甲第8号証からも充足しないことは明らかである。

3.小活
よって,異議申立の理由によっては,本件特許発明1ないし6は,甲第1号証ないし甲第8号証から,当業者が容易に発明することができたとはいえない。

第6 むすび
以上のとおりであるから,異議申立の理由によっては,請求項1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-01-22 
出願番号 特願2013-180227(P2013-180227)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H04M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 白川 瑞樹  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 中野 浩昌
吉田 隆之
登録日 2016-11-11 
登録番号 特許第6040127号(P6040127)
権利者 株式会社サーキットデザイン
発明の名称 車両遠隔操作システム、車載中継機、及び携帯中継機  
代理人 斉藤 達也  

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