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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08K 審判 全部申し立て 2項進歩性 C08K 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08K 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C08K |
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管理番号 | 1337084 |
異議申立番号 | 異議2017-701108 |
総通号数 | 219 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-03-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-11-24 |
確定日 | 2018-02-13 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6134671号発明「発光素子が実装されるプリント配線板用白色硬化性樹脂組成物、その硬化物、その硬化物を有するプリント配線板、及びその硬化物からなる発光素子用反射板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6134671号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6134671号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、平成20年12月1日(優先権主張 平成19年11月30日)を出願日とする特許出願(特願2008-306241号)の一部を平成22年8月25日に新たな特許出願(特願2010-188617号)とし、さらにその一部を平成26年3月10日に新たな特許出願(特願2014-46896号)としたものであって、平成29年4月28日にその特許権の設定登録(設定登録時の請求項数7)がされ、その後、その特許に対し、同年11月24日付け(受理日:同年11月27日)で特許異議申立人 津崎 愛美(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」ないし「本件特許発明7」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 (A)塩素法により製造されたルチル型酸化チタン、及び(B-1)熱硬化性樹脂を含有する白色ソルダーレジスト組成物(但し、活性エネルギー線硬化性樹脂を含有しない)であって、発光素子が実装されたプリント配線板においてエレクトロルミネセンス又は発光ダイオード用反射板として用いられる白色ソルダーレジスト組成物。 【請求項2】 (A)塩素法により製造されたルチル型酸化チタンの配合率が、(B-1)熱硬化性樹脂100質量部に対して、30?600質量部である、請求項1に記載の白色ソルダーレジスト組成物。 【請求項3】 (B-1)熱硬化性樹脂が、エポキシ化合物、及び/又はオキセタン化合物である、請求項1又は2に記載の白色ソルダーレジスト組成物。 【請求項4】 (D-1)硬化剤、及び/又は(D-2)硬化触媒を含有する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の白色ソルダーレジスト組成物。 【請求項5】 請求項1乃至4のいずれか1項に記載の白色ソルダーレジスト組成物の硬化物からなるエレクトロルミネセンス又は発光ダイオード用反射板を有するプリント配線板。 【請求項6】 請求項1乃至4のいずれか1項に記載の白色ソルダーレジスト組成物の硬化物からなるエレクトロルミネセンス用反射板。 【請求項7】 請求項1乃至4のいずれか1項に記載の白色ソルダーレジスト組成物の硬化物からなる発光ダイオード用反射板。」 第3 特許異議申立理由の概要 特許異議申立人は、証拠方法として、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものである以下の甲第1ないし6号証を提出し、おおむね次の取消理由(以下、順に「取消理由1」ないし「取消理由5」という。)を主張している。 1 取消理由1(新規性) 本件特許発明1ないし5及び7は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものである甲第1号証に記載された発明であるから、本件特許発明1ないし5及び7は特許法第29条第1項第3号に該当するものであり、本件特許の請求項1ないし5及び7に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 2 取消理由2(進歩性) 本件特許発明1ないし7は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものである甲第1ないし4号証に記載された発明(甲第1号証が主引用例である。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 3 取消理由3(サポート要件) 甲第5及び6号証に記載されているように、シリコーン樹脂はそもそも酸化チタンのような薬品に対しても安定である。したがって、熱硬化性樹脂が熱や光に極めて安定なシリコーン樹脂である場合には、塩素法と硫酸法とによるルチル型酸化チタンの比較において、熱や光に対する硬化物の安定性の差は、エポキシ樹脂を用いた耐熱性及び耐光性よりも、極僅かである。 よって、本件特許発明1、その従属項又は引用項である本件特許発明2ないし7は、本件公報の実施例のように黄変し易いエポキシ化合物のような熱硬化性樹脂の例示があるのみで、エポキシ化合物を含む熱硬化性樹脂のみが硫酸法による酸化チタンよりも塩素法による酸化チタンの方が樹脂の劣化の抑制効果に優れるという本件公報の段落番号0018の効果を実証できているに過ぎず、熱硬化性のシリコーン樹脂のように熱や光に対する極めて安定で耐薬品性に優れた硬化物の耐熱性・耐光性が明細書によってサポートされていないから、エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂について、エポキシ樹脂と同等かそれ以上の効果を示すことが発明の詳細な説明に記載されていない。 したがって、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 4 取消理由4(明確性) 本件特許発明1の白色ソルダーレジスト組成物は、効果の有無に関わらずあらゆる熱硬化性樹脂を含有するものであって、エポキシ樹脂以外の如何なる熱硬化性樹脂か特定されていないため、極めて黄変性の高い硬化膜となる白色ソルダーレジスト組成物や、塩素法または硫酸法ルチル型酸化チタンの共存に関わらず熱や光に対しもともと安定なシリコーン樹脂含有の白色ソルダーレジスト組成物を含み得るものである。 したがって、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 5 取消理由5(実施可能要件) 発明の詳細な説明に、極限られた種類のエポキシ樹脂である熱硬化性樹脂の硬化物だけが、硫酸法ではなく塩素法によるルチル型酸化チタンで、熱や光に対し安定性である旨、実証されているに過ぎず、広範な熱硬化性樹脂の内でエポキシ樹脂以外の如何なる樹脂がその効果を奏するか、過度な試行錯誤を行わなければならないから、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。 したがって、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 甲第1号証:特開2007-131842号公報 甲第2号証:特開2000-169557号公報 甲第3号証:特開2007-23185号公報 甲第4号証:再公表特許第2004/076585号公報 甲第5号証:実用プラスチック事典(株式会社産業調査会 事典出版センター、1993年9月20日初版第2刷発行)第286ないし287ページ及び第297ページ 甲第6号証:岩波 理化学辞典第4版(株式会社岩波書店、1989年12月15日第4版第4刷発行)第622ページ 第4 特許異議申立理由についての判断 1 甲第1ないし6号証に記載された事項及び甲第1号証に記載された発明 (1)甲第1号証に記載された事項及び甲第1号証に記載された発明 ア 甲第1号証に記載された事項 甲第1号証には、次の記載がある。 ・「【特許請求の範囲】 【請求項1】 シアン酸エステル化合物、ノボラック型エポキシ樹脂、二酸化チタンを含有する樹脂組成物と基材からなるプリプレグ。」 ・・・ 【請求項4】 請求項1?3の何れかに記載のプリプレグと銅箔とを組み合わせ、加熱硬化してなる銅張積層板。」 ・「【0001】 本発明は、発光ダイオード(LED)実装用プリント配線板に用いられるプリプレグ並びに銅張積層板に関するものである。本発明で得られる銅張石像板を用いた、LED実装用プリント配線板は、耐熱性に優れ、紫外光領域並びに可視光領域において光反射率が高く、また、加熱処理や光照射処理による光反射率の低下が少ない特徴を有する。」 ・「【0004】 本発明の目的は、上述したような課題を解決する。耐熱性が高く、紫外光領域並びに可視光領域において光反射率が高く、また、加熱処理や光照射処理による光反射率の低下が少ない、LED実装用プリント配線板に用いるプリプレグ並びに銅張積層板を提供することにある。」 ・「【0005】 本発明者らは、かかる問題点の解決のため種々検討した結果、熱硬化性樹脂としてシアン酸エステル化合物を使用し、特定のエポキシ樹脂と二酸化チタンを組み合わせた樹脂組成物を使用したプリプレグを用いることにより、耐熱性が高く、紫外光領域並びに可視光領域において光反射率が高く、また、加熱処理や光照射処理による光反射率の低下が少ない、LED実装用プリント配線板が得られることを見出し、本発明に到達した。すなわち本発明は、シアン酸エステル化合物(A)、ノボラック型エポキシ樹脂(B)、二酸化チタン(C)を含有する樹脂組成物と基材からなるプリプレグであり、好ましくは、ノボラック型エポキシ樹脂(B)が、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂であるプリプレグであり、より好ましくは、樹脂組成物が、更にポリジメチルシロキサン系界面活性剤(D)を含有する樹脂組成物であるプリプレグであり、これらプリプレグと銅箔とを組み合わせ、加熱硬化してなる銅張積層板である。」 ・「【0006】 本発明で得られる銅張積層板は、耐熱性が高く、紫外光領域並びに可視光領域において光反射率が高く、また、加熱処理や光照射処理による光反射率の低下が少ないことから、LED実装用プリント配線板等に好適に使用される。」 ・「【0008】 本発明で使用される、ノボラック型エポキシ樹脂(B)としては、公知のノボラック樹脂から得られるエポキシ樹脂であれば特に限定されない。」 ・「【0009】 本発明で使用される樹脂組成物には、必要に応じて、ノボラック型エポキシ樹脂(B)以外のエポキシ樹脂を併用することも可能である。これらのエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、・・・などが例示される。」 ・「【0010】 本発明で使用される二酸化チタン(C)としては、結晶構造が、ルチル型、アナターゼ型の二酸化チタン(C)が用いられる。」 ・「【0012】 本発明で使用される樹脂組成物には、必要に応じ、硬化速度を適宜調節するために硬化促進剤を併用することも可能である。」 ・「【0017】 本発明のプリプレグの製造方法は、シアン酸エステル化合物(A)、ノボラック型エポキシ樹脂(B)、二酸化チタン(C)を含有する樹脂組成物と基材とを含有するプリプレグが得られる方法であれば、特に限定されない。例えば、上記ガラス織布に、上記樹脂組成物を含浸または塗布させた後、100?200℃の乾燥機中で、1?30分加熱させる方法などにより半硬化させ、プリプレグを製造する方法などが例示される。プリプレグにおけるガラス織布含有量は、25?75重量%の範囲が好ましい。」 ・「【0019】 上記の手法により得られた銅張積層板は、例えば、「プリント回路ハンドブック」(出版:近代科学社、C.F.クームズJr.編、プリント回路学会監訳)等の公知のプリント配線板の製法に関する文献、書籍に提示されている方法に準じて、プリント配線板に加工される。具体的には、メカニカルドリル加工やレーザー加工等による孔あけ工程、無電解銅メッキ工程、電解銅メッキ工程、サブトラクティブ工法やセミアディティブ工法或いはアディティブ工法等によるパターン形成工程、ソルダーレジスト工程、外形加工工程、洗浄工程等を経て、プリント配線板に加工される。更に、こうして得られたプリント配線板は、公知の方法により、LEDが実装される。具体的には、プラズマ等での洗浄、LED素子の搭載、搭載用樹脂の硬化、ワイヤボンディング接合、フリップチップ接合等によるLED素子とプリント配線板との電気的接続、LED素子と電気的接続部の樹脂による保護(封止)、保護した樹脂の硬化、ダイシング加工による個片化等の工程を経てチップLEDとも呼ばれる発光素子に加工される。こうして得られた発光素子は、常態、或いは、加熱・光照射などの負荷を与えられた後に、その表面の反射率の測定が行なわれ、その光学的な特性が評価される。尚、積層板としての光学特性評価としては、プリント配線板,チップLEDへの加工を経ずに、常態、或いは、加熱・光照射などの負荷を与えられた後に反射率の測定が行なわれる。 【実施例】 【0020】 以下に実施例、比較例で本発明を具体的に説明する。尚、『部』は重量部を表す。 (実施例1) 2,2-ビス(4-シアナトフェニル)プロパン 50部を、メチルエチルケトンとジメチルホルムアミドの混合溶剤に溶解し、これに、フェノールノボラック型エポキシ樹脂(商品名:エピクロンN-740、大日本インキ化学工業(株)製) 40部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂 (商品名:エピコート1001、ジャパンエポキシレジン(株)製) 10部を加え、均一に溶解混合した。更に、オクチル酸亜鉛 0.01部を加え、溶解混合後、二酸化チタン(商品名:CR-50、平均粒径0.25μm、石原産業(株)製) 50部を加え、均一攪拌混合してワニスを得た。このワニスを、厚さ24μm、重量27g/m^(2)の平織りEガラス織布(商品名:E03E-SK、ユニチカグラスファイバー(株)製)に含浸し、150℃で3分乾燥させ、ガラス布含有量が40重量%のプリプレグを作製した。このプリプレグを2枚重ね、その上下面に厚さ12μmの電解銅箔を配置し、200℃、20kgf/cm^(2)、30mmHg以下の真空下で2時間積層成形し、絶縁層厚み62μmの銅張積層板を得た。評価結果を表1に示す。」 ・「【0024】 (実施例5) 2、2-ビス(4-シアナトフェニル)プロパン 45部、ビス(4-マレイミドフェニル)メタン 5部を150℃に溶融させ、攪拌しながら4時間反応させ、プレポリマーを得た。これをメチルエチルケトンとジメチルホルムアミドの混合溶剤に溶解し、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(エピクロンN-680、大日本インキ化学工業(株)製) 50部を加え、均一に溶解混合した。更にオクチル酸亜鉛 0.01部、ポリジメチルシロキサン系界面活性剤(商品名:BYK-310、ビックケミー・ジャパン(株)製) 0.01部を加え、溶解混合後、二酸化チタン(商品名:CR-80、平均粒径0.25μm、石原産業(株)製) 90部を加え、均一攪拌混合してワニスを得た。このワニスを、厚さ46μm、重量48g/m^(2)の平織りEガラス織布(商品名:E06E-SK、ユニチカグラスファイバー(株)製)に含浸し、150℃で7分乾燥させ、ガラス布含有量が50重量%のプリプレグを作製した。このプリプレグを2枚重ね、その上下面に厚さ12μmの電解銅箔を配置し、実施例1と同様にして積層成形し、絶縁層厚み103μmの銅張積層板を得た。評価結果を表1に示す。」 ・「【0027】 (測定・評価方法) ・反射率:銅張積層板をダイシングソーでサイズ50x50mmに切断後、表面の銅箔をエッチングにより除去し、測定用サンプルを得た。この測定用サンプルを、JIS P-8152に基づき、分光白色度光度計(東京電色(株)製:ERP-80WX)を用いて、457nmでの反射率を測定した。(n=5の平均値) ・加熱後反射率:上記測定用サンプルを180℃の熱風乾燥機で1時間加熱処理した後、上記反射率の測定と同様にして反射率を測定した。(n=5の平均値) ・光照射後反射率:上記測定用サンプルを、420nm,15Wの青色光ランプで1000時間照射した後、上記反射率の測定と同様にして反射率を測定した。(n=5の平均値) ・ガラス転移温度:銅張積層板の表面の銅箔をエッチング後、ダイシングソーでサイズ15x40mmに切断後、DMA法によりガラス転移温度を測定した(n=5の平均値)」 イ 甲第1号証に記載された発明 甲第1号証に記載された事項、特に実施例1及び5に関する記載を整理すると、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明1」及び「甲1発明2」という。)が記載されていると認める。 <甲1発明1> 「2,2-ビス(4-シアナトフェニル)プロパン50部を、メチルエチルケトンとジメチルホルムアミドの混合溶剤に溶解し、これに、フェノールノボラック型エポキシ樹脂(商品名:エピクロンN-740、大日本インキ化学工業(株)製) 40部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂 (商品名:エピコート1001、ジャパンエポキシレジン(株)製) 10部を加え、均一に溶解混合し、更に、オクチル酸亜鉛 0.01部を加え、溶解混合後、二酸化チタン(商品名:CR-50、平均粒径0.25μm、石原産業(株)製) 50部を加え、均一攪拌混合して得たワニス。」 <甲1発明2> 「2、2-ビス(4-シアナトフェニル)プロパン 45部、ビス(4-マレイミドフェニル)メタン 5部を150℃に溶融させ、攪拌しながら4時間反応させ、これをメチルエチルケトンとジメチルホルムアミドの混合溶剤に溶解し、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(エピクロンN-680、大日本インキ化学工業(株)製) 50部を加え、均一に溶解混合し、更にオクチル酸亜鉛 0.01部、ポリジメチルシロキサン系界面活性剤(商品名:BYK-310、ビックケミー・ジャパン(株)製) 0.01部を加え、溶解混合後、二酸化チタン(商品名:CR-80、平均粒径0.25μm、石原産業(株)製) 90部を加え、均一攪拌混合して得たワニス。」 なお、特許異議申立人は、甲第1号証に記載された発明として、ソルダーレジスト組成物を認定しているが、甲第1号証(【0019】等)には、ガラス織布にワニスを含浸させて得た銅張積層版をソルダーレジスト工程等を経て、プリント配線板に加工することが記載されているだけで、ソルダーレジスト組成物は記載されていない。 (2)甲第2号証に記載された事項 甲第2号証には、次の記載がある。 ・「【0004】特に、オプトデバイスに使用される白色の合成樹脂組成物は、このほかに可視光領域を中心とした近紫外から近赤外領域の波長の光を反射しなければならず、硬化物が熱や光によって変色しないことが望ましい。」 ・「【0007】本発明の目的は、前述のような酸化チタン充填剤およびカチオン重合系エポキシ樹脂を使用するするにもかかわらず、熱硬化性に優れ、保存安定性にも優れ、充填性や作業性がよく、硬化物が熱や光によってあまり変化せず、かつ成形に適した熱硬化性樹脂組成物と半導体封止装置を提供しようとするものである。 【0008】 【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の目的を達成しようと鋭意研究を重ねた結果、エポキシ樹脂のカチオン重合系をバインダーとした場合、硫酸法によるものでなく塩素法により製造された酸化チタン充填剤との組合せが、優れた特性をもつことを知り、後述する組成のエポキシ樹脂組成物が上記の目的を達成できることを見いだし、本発明を完成したものである。 【0009】即ち、本発明は、(A)エポキシ樹脂、(B)芳香族スルホニウムカチオンを主成分とするカチオン重合開始剤、(C)塩素法により製造された酸化チタン充填剤および(D)無機質充填剤を必須成分とし、樹脂組成物全体に対して、(A)のエポキシ樹脂を5?50重量%、(B)のカチオン重合開始剤を0.01?5重量%、(C)の酸化チタン充填剤を5?70重量%、(D)の無機質充填剤を5?80重量%、それぞれ含有してなることを特徴とするエポキシ樹脂組成物である。また、このエポキシ樹脂組成物の硬化物によって、半導体チップが封止されてなることを特徴とする半導体封止装置である。」 ・「【0019】また、本発明の半導体封止装置は、上述の成形材料を用いてオプトデバイスなど半導体チップを封止することにより容易に製造することができる。封止を行う半導体チップとしては、例えば光源、検出、受動などオプトデバイスのほか、集積回路、大規模集積回路、トランジスタ、サイリスタ、ダイオード等で特に限定されるものではない。封止の最も一般的な方法としては、低圧トランスファー成形法があるが、射出成形、圧縮成形、注形等による封止も可能である。成形材料で封止後加熱して硬化させ、最終的にはこの硬化物によって封止された半導体封止装置が得られる。加熱による硬化は、150 ℃以上に加熱して硬化させることが望ましい。 【0020】 【作用】本発明においてエポキシ樹脂のカチオン重合系をバインダーとし、充填剤として、塩素法により製造された酸化チタン充填剤との組合せを採用し、前述のようにして充填剤および熱硬化性の樹脂を使用することにより、熱硬化性に優れ、かつ保存安定性に優れ、充填性や作業性がよく、硬化物が熱や光によってあまり変化せず、かつ成形に適したエポキシ樹脂組成物が得られたものである。この樹脂組成物を使用することにより、優れた電子部品、半導体装置が得られる。」 ・「【0024】実施例3?4 クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(樹脂A)、芳香族スルホニウムカチオンを主成分とするカチオン重合開始剤E、塩素法により製造された平均粒子径が0.2μmであるルチル型酸化チタン充填剤、および平均粒子径が25μmである溶融シリカ充填剤を、表1に示す割合で配合し、ロールミルにて混練後、冷却、粉砕し、実施例3,4のエポキシ樹脂組成物を得た。」 ・「【0031】 【発明の効果】本発明のエポキシ樹脂組成物を半導体等の電子部品の封止に用いることにより、充填性や作業性が優れ、硬化物が熱や光によって変色し難い、半導体等の電子部品を成形することができ、作業性、特性の両面で改善をはかることができる。」 (3)甲第3号証に記載された事項 甲第3号証には、次の記載がある。 ・「【0001】 本発明は、脂肪族ポリエステル系樹脂反射フィルムに関し、特に、液晶表示装置、照明器具、照明看板等の反射板等に使用される脂肪族ポリエステル系樹脂反射フィルムに関するものである。また、前記反射フィルムを有する反射板に関するものである。 【背景技術】 【0002】 近年、液晶表示装置用の反射板、投影用スクリーンや面状光源の部材、照明器具用反射板、照明看板用反射板等に反射フィルムが使用されている。例えば、液晶ディスプレイ用の反射板では装置の大画面化及び表示性能の高度化の要求から、少しでも多くの光を液晶に供給してバックライトユニットの性能を向上させるために、高い反射性能の反射フィルムが求められている。 【0003】 反射フィルムとしては、芳香族ポリエステル系樹脂に酸化チタンを添加して形成された白色シート(例えば特許文献1参照)が知られているが、要求されるような高い光反射性を有するものではなく、反射指向性が低いものでもなかった。また、フィルムを形成する芳香族ポリエステル系樹脂の分子鎖中に含まれる芳香環が紫外線を吸収するため、液晶表示装置等の光源から発せられる紫外線によってフィルムが劣化し、黄変して、反射フィルムの光反射性が低下するという欠点があった。」 ・「【0007】 そのため、これらの問題を生じずに安定して生産できる反射フィルムが求められていた。すなわち、本発明の目的は、優れた光反射性を有し、使用により経時的に黄変したり光反射性が低下することがない反射フィルムであって、製品外観が良好で、かつ、安定して生産することができる反射フィルムを提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明の脂肪族ポリエステル系樹脂反射フィルムは、脂肪族ポリエステル系樹脂、酸化チタン、および、炭化水素系ワックスを含有する樹脂組成物Aから形成されるA層を含むことを特徴とする。」 ・「【0020】 本発明に用いられる酸化チタンとしては、例えば、アナタース型及びルチル型のような結晶形の酸化チタンが挙げられる。ベース樹脂との屈折率差を大きくするという観点からは、屈折率が2.7以上の酸化チタンであることが好ましく、例えば、ルチル型の結晶形の酸化チタンを用いることが好ましい。 【0021】 得られるフィルムに高い光反射性を付与するためには、可視光に対する光吸収能が小さい酸化チタンを用いることが好ましい。酸化チタンの光吸収能を小さくするためには、この酸化チタンに含まれる着色元素の量が少ないことが好ましい。例えば、ニオブの含有量が500ppm以下の酸化チタンを用いることにより、高い反射性を有する反射フィルムを得ることができる。 【0022】 本発明に用いられる酸化チタンとしては、塩素法プロセスで製造されるものと硫酸法プロセスで製造されるものが挙げられる。そのうち、塩素法プロセスで製造される酸化チタンは純度が高く、例えばニオブの含有量を500ppm以下とすることができるので、本発明の反射フィルムには好適である。なお、塩素法プロセスでは、酸化チタンを主成分とするルチル鉱または合成ルチルを1,000℃程度の高温炉で塩素ガスと反応させて、まず、四塩化チタンを生成させ、次いで、この四塩化チタンを酸素で燃焼させることにより、純度の高い酸化チタンを得ることができる。」 (4)甲第4号証 甲第4号証には、次の記載がある。 ・「すなわち、本発明の第一は、 熱可塑性樹脂及び無機部材を必須成分として含むことを特徴とする遮光ペースト(請求の範囲第1項)であって、 熱硬化性樹脂及び無機部材を必須成分として含むことを特徴とする遮光ペースト(請求の範囲第2項)であって、 無機部材が酸化チタンであることを特徴とする請求の範囲第1又は2項記載の遮光ペースト(請求の範囲第3項)であって、 請求の範囲第3項記載の酸化チタンがルチル型であり、その平均粒子径が0.1?1.0μmであることを特徴とする遮光ペースト(請求の範囲第4項)であって、」(第9ページ第40ないし48行) ・「特に酸化チタンは、高い白色度、隠ぺい力、優れた耐久性の観点から遮光ペーストの無機部材として好適に用いることが出来る。遮光用樹脂の耐久性の観点からその結晶形はルチル型が好ましい。また、平均粒子径は、樹脂への分散性の点から1.0μm以下が好ましく、0.8μm以下がより好ましく、0.4μm以下がさらに好ましい。また、隠ぺい力の点からは、0.1μm以上が好ましく、0.2μm以上がより好ましい。そこで、分散性と隠ぺい力の両立の点からは、平均粒子径は、0.1μm以上1.0μm以下が好ましい。なお、酸化チタンの平均粒子径は、電子顕微鏡写真をもとに画像解析装置(ルーゼックスIIIU)にて測定する。酸化チタンは硫酸法及び塩素法どちらで製造されたものも好適に用いることが出来る。」(第18ページ第16ないし24行) (5)甲第5号証 甲第5号証には、次の記載がある。 ・「(3)シリコーンの市場 シリコーンの特徴は耐熱性、耐候性、耐酸化安定性、対候性・・・など他の材料にはない優位性を持っている。」(第286ないし287ページ) ・「(2)製品名と構造、性質 シリコーンレジン・・・は・・・フィラーを添加して耐熱性塗料、耐候性塗料としたり・・・変性レジンが電気絶縁ワニスとして用いられている。」(第297ページ) (6)甲第6号証 甲第6号証には、次の記載がある。 ・「シリコーン ・・・シリコーンの物性は・・・耐薬品性・・・にすぐれている.」(第622ページ) 2 取消理由1(新規性)及び取消理由2(進歩性)について (1)本件特許発明1について ア 甲1発明1との対比・判断 (ア)対比 本件特許発明1と甲1発明1を対比する。 甲1発明1における「二酸化チタン(商品名:CR-50、平均粒径0.25μm、石原産業(株)製) 」は、その機能、構成又は技術的意義並びに本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の記載(【0019】)からみて、本件特許発明1における「(A)塩素法により製造されたルチル型酸化チタン」に相当し、以下同様に、「フェノールノボラック型エポキシ樹脂(商品名:エピクロンN-740、大日本インキ化学工業(株)製) 」及び「ビスフェノールA型エポキシ樹脂 (商品名:エピコート1001、ジャパンエポキシレジン(株)製) 」は「(B-1)熱硬化性樹脂」に相当する。 また、甲1発明1における「ワニス」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件特許発明1における「白色ソルダーレジスト組成物(但し、活性エネルギー線硬化性樹脂を含有しない)」及び「発光素子が実装されたプリント配線板においてエレクトロルミネセンス又は発光ダイオード用反射板として用いられる白色ソルダーレジスト組成物」と、「組成物(但し、活性エネルギー線硬化性樹脂を含有しない)」という限りにおいて一致する。 したがって、両者は、次の点で一致する。 「(A)塩素法により製造されたルチル型酸化チタン、及び(B-1)熱硬化性樹脂を含有する組成物(但し、活性エネルギー線硬化性樹脂を含有しない)。」 そして、少なくとも次の点で相違又は一応相違する。 <相違点1> 「組成物(但し、活性エネルギー線硬化性樹脂を含有しない)」に関して、本件特許発明1においては、「白色ソルダーレジスト組成物」及び「発光素子が実装されたプリント配線板においてエレクトロルミネセンス又は発光ダイオード用反射板として用いられる白色ソルダーレジスト組成物」であるのに対し、甲1発明1においては、「ワニス」である点。 (イ)判断 本件特許明細書の【0003】の「その場合に、プリント配線板に保護膜として被覆形成される絶縁膜には、ソルダーレジスト膜に通常要求される耐溶剤性、硬度、はんだ耐熱性、電気絶縁性等の特性に加え、LEDの発光を有効に利用することができるよう、光の反射率に優れることが所望される。」及び【0013】の「本発明に係る白色硬化性樹脂組成物は、高反射率を長期間にわたり維持することができるため、LED等の発光素子が実装されるプリント配線板の絶縁層(ソルダーレジストや発光素子用反射板)として用いられた場合に、LED等の光を効率よく利用することができ、全体として照度を長期にわたり上げることが可能となる。本発明に係る白色硬化性樹脂組成物は、プリント配線板に限定されるものではなく、高反射率が要求される部品、例えばELやLED等の発光素子用反射板として広範囲にわたり用いることができる。」等の記載によると、「反射板」とは、「プリント配線板」に「絶縁膜」(又は「絶縁層」)として被覆形成される高反射率の「ソルダーレジスト膜」のことを意味するものである。 そして、甲第1号証に記載された事項からみて、甲1発明1は、「LED実装用プリント配線板」を製造するためのものであり、該「LED実装用プリント配線板」は、「反射」の機能を有しているものの、あくまでも「プリント配線板」であって、「プリント配線板」において用いられる「反射板」ではない。また、甲第1号証に記載された事項からみて、甲1発明1は、「ガラス織布」に含浸させる「ワニス」であって、「プリント配線板」の上に被覆する「ソルダーレジスト」ではない。 他方、本件特許発明1は、本件特許明細書の【0003】の「その場合に、プリント配線板に保護膜として被覆形成される絶縁膜には、ソルダーレジスト膜に通常要求される耐溶剤性、硬度、はんだ耐熱性、電気絶縁性等の特性に加え、LEDの発光を有効に利用することができるよう、光の反射率に優れることが所望される。」、【0004】の「しかしながら、従来より用いられている白色ソルダーレジスト組成物では、LEDより照射される光や発熱により樹脂の酸化が進んで黄変してしまい、反射率が経時により低下するという問題点があった。」、【0006】の「本発明の目的は、反射率が高く、且つ経時による反射率の低下並びに劣化による着色の抑制された白色硬化性樹脂組成物であって、LED等の発光素子が実装されるプリント配線板に絶縁層、特にソルダーレジストとして用いられた場合に、長期間にわたってLED等の光を効率よく利用することができる白色硬化性樹脂組成物を提供すること、並びに前記白色硬化性樹脂組成物からなり、高反射率で、且つ経時による反射率の低下、及び劣化による黄変などの着色の抑制されたLEDやEL等の発光素子用反射板を提供することである。」及び【0048】の「図4及び図5は、各々、以下の工程により形成された、ELやLED等の発光素子用反射板、及び該発光素子用反射板を具備するプリント配線板を表す。即ち、まず図1及び図2に表す発光素子用反射板11(白色レジスト)を具備するプリント配線板13を形成する。そして、ガラスやポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどの透明な素材からなる基板21上に特定なパターンで本発明の白色硬化性樹脂組成物を塗布して発光素子用反射板11を作成する。発光素子用反射板11が形成された透明基板21を、上記発光素子用反射板11(白色レジスト)を具備するプリント配線板13に重ねる。」という記載からみて、「プリント配線板」の上に被覆により設ける「反射板」を製造するためのものである。また、本件特許発明1は、そのために「プリント配線板」の上に被覆する「ソルダーレジスト」である。 したがって、相違点1は、実質的な相違点であるから、本件特許発明1は、甲1発明1であるとはいえない。 また、甲第1号証には、甲1発明1における「ワニス」を、「プリント配線板」において用いられる「反射板」の製造に使用すること及び「ソルダーレジスト」として使用することは記載も示唆もされていない。 さらに、甲第2ないし4号証にも、甲1発明1における「ワニス」を、「プリント配線板」において用いられる「反射板」の製造に使用すること及び「ソルダーレジスト」として使用することは記載も示唆もされていない。 したがって、甲1発明1において、甲第2ないし4号証に記載された事項に基づいて、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえず、本件特許発明1は、甲1発明1及び甲第2ないし4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 イ 甲1発明2との対比・判断 (ア)対比 本件特許発明1と甲1発明2を対比する。 甲1発明2における「二酸化チタン(商品名:CR-80、平均粒径0.25μm、石原産業(株)製) 」は、その機能、構成又は技術的意義並びに本件特許明細書の記載(【0019】)からみて、本件特許発明1における「(A)塩素法により製造されたルチル型酸化チタン」に相当し、以下同様に、「クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(エピクロンN-680、大日本インキ化学工業(株)製) 」は「(B-1)熱硬化性樹脂」に相当する。 また、甲1発明2における「ワニス」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件特許発明1における「白色ソルダーレジスト組成物(但し、活性エネルギー線硬化性樹脂を含有しない)」及び「発光素子が実装されたプリント配線板においてエレクトロルミネセンス又は発光ダイオード用反射板として用いられる白色ソルダーレジスト組成物」と、「組成物(但し、活性エネルギー線硬化性樹脂を含有しない)」という限りにおいて一致する。 したがって、両者は、次の点で一致する。 「(A)塩素法により製造されたルチル型酸化チタン、及び(B-1)熱硬化性樹脂を含有する組成物(但し、活性エネルギー線硬化性樹脂を含有しない)。」 そして、少なくとも次の点で相違又は一応相違する。 <相違点2> 「組成物(但し、活性エネルギー線硬化性樹脂を含有しない)」に関して、本件特許発明1においては、「白色ソルダーレジスト組成物」及び「発光素子が実装されたプリント配線板においてエレクトロルミネセンス又は発光ダイオード用反射板として用いられる白色ソルダーレジスト組成物」であるのに対し、甲1発明2においては、「ワニス」である点。 (イ)判断 上記第4 2(1)ア(イ)のとおり、「反射板」とは、「プリント配線板」に「絶縁膜」(又は「絶縁層」)として被覆形成される高反射率の「ソルダーレジスト膜」のことを意味するものである。 そして、甲第1号証に記載された事項からみて、甲1発明2は、「LED実装用プリント配線板」を製造するためのものであり、該「LED実装用プリント配線板」は、「反射」の機能を有しているものの、あくまでも「プリント配線板」であって、「プリント配線板」において用いられる「反射板」でない。また、甲第1号証に記載された事項からみて、甲1発明2は、「ガラス織布」に含浸させる「ワニス」であって、「プリント配線板」の上に被覆する「ソルダーレジスト」ではない。 他方、本件特許発明1は、上記ア(イ)のとおり、「プリント配線板」の上に被覆により設ける「反射板」を製造するためのものである。また、本件特許発明1は、そのために「プリント配線板」の上に被覆する「ソルダーレジスト」である。 したがって、相違点2は、実質的な相違点であるから、本件特許発明1は、甲1発明2であるとはいえない。 また、甲第1号証には、「プリント配線板」において用いられる「反射板」の製造に使用すること及び「ソルダーレジスト」として使用することは記載も示唆もされていない。 さらに、甲第2ないし4号証にも、甲1発明2における「ワニス」を、「プリント配線板」において用いられる「反射板」の製造に使用すること及び「ソルダーレジスト」として使用することは記載も示唆もされていない。 したがって、甲1発明2において、甲第2ないし4号証に記載された事項に基づいて、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえず、本件特許発明1は、甲1発明2及び甲第2ないし4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ むすび したがって、本件特許発明1は、甲1発明1又は甲1発明2、すなわち甲第1号証に記載された発明ではないし、また、甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (2)本件特許発明2ないし7について 本件特許発明2ないし7は、請求項1を引用し、請求項1に記載された発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲第1号証に記載された発明ではないし、また、甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (3)取消理由1(新規性)及び取消理由2(進歩性)についてのむすび よって、取消理由1及び取消理由2は理由がない。 3 取消理由3(サポート要件) 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 そこで、検討する。 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある。 ・「【0006】 本発明の目的は、反射率が高く、且つ経時による反射率の低下並びに劣化による着色の抑制された白色硬化性樹脂組成物であって、LED等の発光素子が実装されるプリント配線板に絶縁層、特にソルダーレジストとして用いられた場合に、長期間にわたってLED等の光を効率よく利用することができる白色硬化性樹脂組成物を提供すること、並びに前記白色硬化性樹脂組成物からなり、高反射率で、且つ経時による反射率の低下、及び劣化による黄変などの着色の抑制されたLEDやEL等の発光素子用反射板を提供することである。 【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、白色顔料として塩素法により製造されたルチル型酸化チタンを使用することにより、同じルチル型酸化チタンでも硫酸法により製造されたルチル型酸化チタンを使用した場合に比し、特に熱による樹脂の劣化(黄変)の抑制効果が顕著となり、高反射率を長期間にわたり達成することができることを見出した。」 ・「【0015】 本発明の白色硬化性樹脂組成物は、(A)塩素法により製造されたルチル型酸化チタン、及び(B)硬化性樹脂を含有する。 【0016】 本発明では、白色顔料として、(A)塩素法により製造されたルチル型酸化チタンを用いることを特徴としている。同じ酸化チタンであるアナターゼ型酸化チタンは、ルチル型酸化チタンと比較して白色度が高く、白色顔料としてよく使用される。しかしながら、アナターゼ型酸化チタンは、光触媒活性を有するために、特にLEDから照射される光により、絶縁性樹脂組成物中の樹脂の変色を引き起こすことがある。これに対し、ルチル型酸化チタンは、白色度はアナターゼ型と比較して若干劣るものの、光活性を殆ど有さないために、酸化チタンの光活性に起因する光による樹脂の劣化(黄変)が顕著に抑制され、光に対して優れた安定性を示す。 【0017】 また、ELやLEDなどの発光素子用反射板として本発明の白色硬化性樹脂組成物を用いる場合、経時による反射率の低下、並びに劣化による着色が抑制され、長期にわたり高反射率を保持することができる。 【0018】 そして、同じルチル型酸化チタンでも、塩素法により製造されたルチル型酸化チタンは、硫酸法により製造されたルチル型酸化チタンに比し、特に熱による樹脂の劣化(黄変)の抑制効果に極めて優れており、本発明において白色顔料として用いられる。すなわち、ルチル型酸化チタンの製造法には、硫酸法と塩素法の2種類あり、硫酸法は、イルメナイト鉱石やチタンスラグを原料とし、これを濃硫酸に溶解して鉄分を硫酸鉄として分離し、溶液を加水分解することにより水酸化物の沈殿物を得、これを高温で焼成してルチル型酸化チタンを取り出す製法をいう。一方、塩素法は、合成ルチルや天然ルチルを原料とし、これを約1000℃の高温で塩素ガスとカーボンに反応させて四塩化チタンを合成し、これを酸化してルチル型酸化チタンを取り出す製法をいう。本発明者等による鋭意研究の結果、いずれの製造法により製造されたルチル型酸化チタンも、光及び熱に対し優れた安定性を示し、LED等が実装されたプリント配線板の絶縁層において高反射率を長期にわたり維持することができるが、特に塩素法により製造されたものは、硫酸法で製造されたものよりも更に熱による樹脂の劣化の抑制効果に優れ、本発明における白色顔料としてより好適であることが見出された。」 ・「【0050】 次に実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明が以下の実施例に限定されるものでないことはもとよりである。 表1-1及び表1-2に従って各成分を3本ロールミルで混練し、各硬化性樹脂組成物(組成物例1乃至12)を得た。尚、組成物例1乃至6は熱硬化性樹脂組成物であり、組成物例7乃至12は光硬化性樹脂組成物である。また、表中の数字は、質量部を表す。 【表1-1】 【0051】 【表1-2】 【0052】 性能評価: (塗膜特性評価基板の作製) [組成物例1?6] 硬化性樹脂組成物例1?6を、銅ベタのFR-4基板上にスクリーン印刷により乾燥塗膜が約20μmとなるようにパターン印刷し、これを150℃で60分間加熱し、硬化させて試験片を得た。 【0053】 [組成物例7?12] 硬化性樹脂組成物例7?12を、銅ベタのFR-4基板上にスクリーン印刷により乾燥塗膜が約20μmとなるようにパターン印刷し、メタルハライドランプにて350nmの波長で2J/cm2の積算光量を照射し、硬化させて試験片を得た。 得られた試験片に対して以下のように特性を評価した。 【0054】 (1)耐光性 各試験片について、ミノルタ製色彩色差計CR-400を用い、XYZ表色系のY値の初期値とL*a*b*表色系のL*、a*、b*の初期値を測定した。その後、各試験片をUVコンベア炉(出力150W/cm、メタルはライドランプ コールドミラー)で150J/cm^(2)の光を照射して加速劣化させ、再度、ミノルタ製色彩色差計CR-400で各数値を測定しY値の変化とΔE*abで評価した。その結果を、目視による変色の評価結果と共に表2-1及び表2-2に示す。 【0055】 (2)耐熱性 各試験片について、ミノルタ製色彩色差計CR-400を用い、XYZ表色系のY値の初期値とL*a*b*表色系のL*、a*、b*の初期値を測定した。その後、各試験片を150℃の熱風循環式乾燥炉に50時間放置して加速劣化させ、再度、ミノルタ製色彩色差計CR-400で各数値を測定しY値の変化とΔE*abで評価した。その結果を、目視による変色の評価結果と共に表2-1及び表2-2に示す。 【表2-1】 【0056】 【表2-2】 【0057】 Y値は、XYZ表色系のYの値であり、数値が大きいほど高い反射率を示す。ΔE*abは、L*a*b*表色系において初期値と加速劣化後の差を算出したもので、数値が大きいほど、変色が大きいことを示す。ΔE*abの計算式は以下の通りである。 【0058】 ΔE*ab=((L*2-L*1)2+(a*2-a*1)2+(b*2-b*1)2)0.5 式中、L*1、a*1、b*1は、各々L*、a*、b*の初期値を表し、L*2、a*2、b*2は、各々加速劣化後のL*、a*、b*の値を表す。 【0059】 目視評価の判定基準は以下の通りである。 ○:まったく変色がない。 △:少し変色がある。 ×:変色がある。」 ・「【0067】 表2-1、表2-2、表3-1、及び表3-2に示された結果から明らかなように、本発明の白色硬化性樹脂組成物は、プリント配線板用絶縁層に一般的に要求される諸特性を満たしつつ、光及び熱による加速劣化後も、高反射率を維持し、変色も抑制されていることがわかる。アナターゼ型酸化チタンを用いた場合に比べ、耐光性及び耐熱性において本発明が顕著に改善されているのは勿論のこと、特に、硫酸法によるルチル型酸化チタンを用いた場合に比し耐熱性が更に改善されている。」 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、上記のとおりの記載があり、それによると、本件特許発明1の課題(以下、「発明の課題」という。)は、「反射率が高く、且つ経時による反射率の低下並びに劣化による着色の抑制された白色硬化性樹脂組成物であって、LED等の発光素子が実装されるプリント配線板に絶縁層、特にソルダーレジストとして用いられた場合に、長期間にわたってLED等の光を効率よく利用することができる白色硬化性樹脂組成物を提供すること」である(本件特許明細書の【0006】)。 そして、本件特許明細書の【0009】、【0016】ないし【0018】、【0050】ないし【0059】及び【0067】には、硬化性樹脂が熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂のいずれの場合であっても、「塩素法により製造されたルチル型酸化チタン」を含有させることによって、「アナターゼ型酸化チタン」や「硫酸法で製造された」「ルチル型酸化チタン」を含有させたものよりも、「反射率が高く、且つ経時による反射率の低下並びに劣化による着色の抑制された白色硬化性樹脂組成物」が得られることが、具体的な実施例によって示されている。 そうすると、発明の課題の解決には、「塩素法により製造されたルチル型酸化チタン」を含有させることに技術的意味があり、硬化性樹脂の種類の影響は少ない又は多少の影響があるとしても、硬化性樹脂であれば、その硬化性樹脂の種類に応じて、ある程度の効果を奏するものと、当業者は理解する。また、エポキシ化合物のような熱硬化性樹脂で効果がある場合に、それ以外の熱硬化性樹脂では全く効果がないという技術常識もない。 したがって、本件特許発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明により当業者が本件特許発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものであるというべきであり、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。 また、請求項1を引用する本件特許発明2ないし7についても同様である。 よって、取消理由3は理由がない。 4 取消理由4(明確性) 特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不等に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 そこで、検討する。 請求項1に記載された「(B-1)熱硬化性樹脂を含有する白色ソルダーレジスト組成物(但し、活性エネルギー線硬化性樹脂を含有しない)」という記載は、それ自体極めて明確である。 したがって、熱硬化性樹脂として、極めて黄変性の高い硬化膜となる白色ソルダーレジスト組成物や、塩素法または硫酸法ルチル型酸化チタンの共存に関わらず熱や光に対しもともと安定なシリコーン樹脂含有の白色ソルダーレジスト組成物を含み得るとしても、第三者の利益が不等に害されるほどに不明確であるとはいえない。 よって、本件特許発明1に関して、特許請求の範囲の記載は、明確性の要件に適合する。 また、請求項1を引用する本件特許発明2ないし7についても同様である。 よって、取消理由4は理由がない。 5 取消理由5(実施可能要件)について 物の発明について、実施可能要件を充足するためには、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識とに基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物の生産、使用をすることができる程度の記載を要する。 そこで、検討する。 上記第4 3の記載によると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明1の発明特定事項である「(A)塩素法により製造されたルチル型酸化チタン」、「(B-1)熱硬化性樹脂」、「発光素子」、「プリント配線板」、「エレクトロルミネセンス又は発光ダイオード用反射板」等について、それぞれ、どのようなものであり、また、「(A)塩素法により製造されたルチル型酸化チタン」及び「(B-1)熱硬化性樹脂」については、どの程度の量使用するか明確かつ十分に記載されているといえる。 そして、上記第4 3のとおり、発明の課題の解決には、「塩素法により製造されたルチル型酸化チタン」を含有させることに技術的意味があり、硬化性樹脂の種類の影響は少ない又は多少の影響があるとしても、硬化性樹脂であれば、その硬化性樹脂の種類に応じて、ある程度の効果を奏するものと、当業者は理解するものであり、本件特許明細書の実施例と同程度以上の効果を必ずしも要求されるものではないから、その実施に過度の試行錯誤が要するとはいえない。 したがって、本件特許発明1について、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識とに基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物の生産、使用をすることができる程度の記載があるといえ、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足する。 また、請求項1を引用する本件特許発明2ないし7についても同様である。 よって、取消理由5は理由がない。 第5 結語 したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2018-02-02 |
出願番号 | 特願2014-46896(P2014-46896) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(C08K)
P 1 651・ 537- Y (C08K) P 1 651・ 536- Y (C08K) P 1 651・ 121- Y (C08K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 河野 隆一朗、細井 龍史、新留 豊 |
特許庁審判長 |
岡崎 美穂 |
特許庁審判官 |
加藤 友也 井上 猛 |
登録日 | 2017-04-28 |
登録番号 | 特許第6134671号(P6134671) |
権利者 | 太陽ホールディングス株式会社 |
発明の名称 | 発光素子が実装されるプリント配線板用白色硬化性樹脂組成物、その硬化物、その硬化物を有するプリント配線板、及びその硬化物からなる発光素子用反射板 |
代理人 | 三橋 史生 |
代理人 | 伊東 秀明 |
代理人 | 三和 晴子 |
代理人 | 渡辺 望稔 |