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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1337097
異議申立番号 異議2017-701111  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-11-24 
確定日 2018-02-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6140384号発明「研磨用組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6140384号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯

特許第6140384号の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、平成28年9月28日(優先権主張 2015年9月30日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成29年5月12日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人 豊田 英徳(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

2.本件特許発明

特許第6140384号の請求項1ないし7の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
酸素原子と、ケイ素原子と、を含む研磨対象物を研磨するために用いられる、研磨用組成物であって、
平均一次粒子径が3nm以上8nm以下である砥粒Aと、平均一次粒子径が8nmを超える砥粒Bと、分散媒と、を含み、
前記研磨用組成物中の砥粒Bの含有量は、前記研磨用組成物中の前記砥粒Aの含有量より多く、
前記砥粒Aおよび前記砥粒Bの平均シラノール基密度が2.0個/nm^(2)以下であり、
前記砥粒Bのアスペクト比が、1.3を超えて2.0以下である、研磨用組成物。
【請求項2】
pHが2.0以上6.0以下である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記研磨対象物がオルトケイ酸テトラエチルを含む、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記砥粒Aと前記砥粒Bとの質量比(砥粒A/砥粒B)が、0.01/99.99?20/80である、請求項1?3のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記砥粒Aと前記砥粒Bとの質量比(砥粒A/砥粒B)が、0.01/99.99?8/92である、請求項4に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記砥粒Aおよび前記砥粒Bの前記研磨用組成物中における含有量(砥粒濃度)が、2質量%以上である、請求項1?5のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
酸素原子と、ケイ素原子と、を含む研磨対象物を、請求項1?6のいずれか1項に記載の研磨用組成物を用いて研磨する、研磨方法。」
(以下「本件発明1」ないし「本件発明7」という。)

3.特許異議申立の理由の概要

特許異議申立人は、証拠として以下の甲第1号証及び甲第2号証を提出し、本件の請求項1ないし7に係る特許発明は、甲第1号証に記載された発明に、甲第2号証に記載の事項を適用することで、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1ないし7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2項の規定により取り消すべきものと主張している。

甲第1号証:国際公開第2014/007063号
甲第2号証:国際公開第2012/141111号

4.刊行物の記載

(1)各甲号証の記載事項
ア 甲第1号証
本件特許出願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能になった甲第1号証には、CMP用研磨液について、次の事項が記載されている。

(ア)「[0063]
(II-i.シラノール基密度)
実施形態に係るCMP用研磨液に使用するシリカ粒子は、シラノール基密度が1.0?2.0個/nm^(2)である。」

(イ)「[0069]
(II-ii.二軸平均一次粒子径)
実施形態に係るCMP用研磨液に使用するシリカ粒子としては、CMP用研磨液中での分散安定性が比較的良く、CMPにより発生する研磨傷の発生数が比較的少ない点で、二軸平均一次粒子径が20?80nmであることが好ましく、下限は25nm以上であることがより好ましく、上限は70nm以下であることがより好ましい。従って、実施形態に係るCMP用研磨液では、シリカ粒子の分散安定性と研磨傷の抑制性をより高いレベルで両立するためには、二軸平均一次粒子径を25?70nmとすることがより好ましく、同様の理由で、35?70nmとすることが更に好ましい。」

(ウ)「[0072]
(II-iii.アスペクト比)
本実施形態の研磨液に使用されるシリカ粒子は、好ましい二酸化珪素の研磨速度が得られる点で、粒子のアスペクト比が1.3以上であるが、同様の理由で、前記アスペクト比は1.4以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、1.6以上であることが更に好ましく、1.7以上であることが特に好ましく、1.8以上であることが最も好ましい。なお、シリカ粒子のアスペクト比の上限は、シリカ粒子の分散安定性を充分に確保する観点から3.0以下であることが好ましく、2.5以下であることがより好ましく、2.0以下であることが更に好ましい。」

(エ)「[0084]
(IV.媒体)
CMP用研磨液の媒体としては、シリカ粒子が分散できる液体であれば特に制限されないが、pH調整時の取り扱い性、安全性、被研磨面との反応性等の点から、本実施形態では水を主成分とするものである。このような水としては、より具体的には、脱イオン水、イオン交換水、超純水等が好ましい。」

(オ)「[0117]
本実施形態のCMP用研磨液を使用した具体的な研磨方法としては、
low-k材料と、low-k材料の少なくとも一部を被覆する二酸化珪素材料とを有する基板の研磨方法であって、二酸化珪素材料を研磨してlow-k材料を露出させる研磨工程を含み、研磨工程で、前記CMP用研磨液を供給しながら研磨する、研磨方法を挙げることができる。」

上記摘記事項(ア)ないし(オ)からみて、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

<甲1発明>
「low-k材料と、low-k材料の少なくとも一部を被覆する二酸化珪素材料とを有する基板を研磨するために用いられる、CMP用研磨液であって、
二軸平均一次粒子径が20?80nmであるシリカ粒子と、媒体と、を含み、
前記シリカ粒子のシラノール基密度が1.0?2.0個/nm^(2)であり、
前記シリカ粒子のアスペクト比が、1.3以上3.0以下である、CMP用研磨液。」

イ 甲第2号証
本件特許出願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能になった甲第2号証には、研磨剤について、次の事項が記載されている。

(ア)「[0012]
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[研磨剤]
本発明に係る研磨剤は、研磨対象物の被研磨面を研磨するための研磨剤であって、平均一次粒子径が5?30nmの第1の酸化ケイ素微粒子と、平均一次粒子径が40?125nmの第2の酸化ケイ素微粒子と、水とを含み、かつ前記第1の酸化ケイ素微粒子と第2の酸化ケイ素微粒子の合計量に占める前記第1の酸化ケイ素微粒子の割合が0.7質量%以上60質量%未満である。」

(イ)「[0040]
(4)研磨対象物
本発明の研磨剤は、研磨対象物の被研磨面を研磨するための研磨剤であり、研磨対象物としては特に制限されない。具体的には、ガラス基板、シリコンウェハ、半導体デバイス配線基板、化合物単結晶基板等が挙げられる。これらのうちでも本発明の研磨剤は、化合物単結晶基板を研磨する際により大きな効果を上げることが可能であり、特に、修正モース硬度による硬度が10以上の単結晶基板に用いることで、高品質を維持しながらより高い水準での高速研磨研を可能とする効果がより大きく期待できる。」

(ウ)段落[0067]の[表1]の例11には、第1のコロイダルシリカの平均一次粒子径を5nm、第2のコロイダルシリカの平均一次粒子径を80nm、第1のコロイダルシリカの配合量を5質量%、第2のコロイダルシリカの配合量を95質量%とした研磨剤が記載されている。

上記摘記事項(ア)ないし(ウ)からみて、甲第2号証には、以下の技術的事項(以下、「甲2技術」という。)が記載されていると認められる。

<甲2技術>
「基板を研磨するための研磨剤における砥粒であるコロイダルシリカについて、第1のコロイダルシリカの平均一次粒子径を5nm、第2のコロイダルシリカの平均一次粒子径を80nm、第1のコロイダルシリカの配合量を5質量%、第2のコロイダルシリカの配合量を95質量%とする技術。」

5.判断

(1) 本件発明1について

本件発明1と甲1発明を対比する。

(ア)甲1発明における「low-k材料と、low-k材料の少なくとも一部を被覆する二酸化珪素材料とを有する基板」は、本件発明1における「酸素原子と、ケイ素原子と、を含む研磨対象物」に相当し、以下同様に、「CMP用研磨液」は、「研磨用組成物」に、「媒体」は「分散媒」に、「二軸平均一次粒子径が20?80nmであるシリカ粒子」は、本件発明1における「平均一次粒子径が8nmを超える砥粒B」に相当する。また、甲1発明の「前記シリカ粒子のシラノール基密度が1.0?2.0個/nm^(2)であ」る点は、本件発明1における「前記砥粒Bの平均シラノール基密度が2.0個/nm^(2)以下であ」る点に相当する。

そうすると、両者は、
「酸素原子と、ケイ素原子と、を含む研磨対象物を研磨するために用いられる、研磨用組成物であって、
平均一次粒子径が8nmを超える砥粒Bと、分散媒と、を含み、
前記砥粒Bの平均シラノール基密度が2.0個/nm^(2)以下である、研磨用組成物。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>
本件発明1では、砥粒が、砥粒Bのみならず、「平均一次粒子径が3nm以上8nm以下である砥粒A」も含み、さらに、「研磨用組成物中の砥粒Bの含有量は、前記研磨用組成物中の前記砥粒Aの含有量より多」いのに対し、甲1発明では、砥粒が、砥粒Bのみからなる点。

<相違点2>
砥粒Bのアスペクト比について、本件発明1では、1.3を超えて2.0以下であるのに対し、甲1発明では、1.3以上3.0以下である点。

<相違点についての判断>
相違点1について検討する。
甲第1号証に記載のCMP用研磨液は、段落[0012]及び[0019]に記載されているように、配線部用金属、バリア材料および二酸化ケイ素の絶縁材料と、Low-k部材とからなる基板、具体的には、Low-k部材上に、配線部用金属、バリア材料および二酸化ケイ素の絶縁材料が積層された基板を研磨対象とし、配線部用金属、バリア材料および二酸化ケイ素の絶縁材料の研磨速度に優れる一方でLow-k部材の研磨速度を抑制する、という課題を解決するためのものである。
一方、甲第2号証に記載の研磨剤は、具体的には、ガラス基板、シリコンウェハ、半導体デバイス配線基板、サファイア基板や炭化ケイ素基板や窒化ガリウム基板等の化合物単結晶基板を研磨対象とするものであり、甲第1号証に挙げられた、Low-k材料上に、配線部用金属、バリア材料および二酸化ケイ素の絶縁材料が積層された基板を研磨対象とするものであるとは言えない。
また、甲第2号証に記載の研磨剤は、段落[0004]及び[0006]に記載されているように、単結晶基板の化学的機械的研磨の最終段階の研磨において、被研磨面の品質を高品質に維持しながら、効率よく研磨を行うことを課題とするものであり、甲第1号証に記載のCMP用研磨液が解決しようとする課題とは明らかに異なる。
このように、甲第1号証に記載のCMP用研磨液と甲第2号証に記載の研磨液とでは研磨対象も課題も異なるから、甲第2号証に記載の技術に接した当業者が、研磨対象や課題の観点で、甲第2号証に記載の甲2技術を、甲第1号証に記載のCMP用研磨液の粒子に適用しようとする動機付けは見出せない。
さらに、例えば、甲第2号証の段落[0021]に、粒子径が一種類の数値範囲の粒子のみからなる研磨液よりも、粒子径が二種類の数値範囲の粒子からなる研磨液の方が研磨速度を高くできる旨記載されていることを拠り所として、敢えて甲第2号証に記載の甲2技術を、甲第1号証に記載のCMP用研磨液の粒子に適用しようとした場合、一見、本件発明1のように構成されるようにも思われる。
しかしながら、そもそも、甲第1号証に記載のCMP用研磨液は、二軸平均一次粒子径を20nm?80nmという数値範囲で特定しようとするものであるから、それ以外の数値で選択しようとすること、すなわち、本件発明1のように、平均一次粒子径を3nm以上8nm以下という数値範囲に特定しようとすることについて、甲第1号証は阻害要因を有していると言える。
そうすると、相違点1に係る本件発明1の構成については、甲1発明と甲第2号証に記載の甲2技術とから、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明と甲第2号証に記載の甲2技術とから、当業者が容易に発明することができたものではない。

(2)本件発明2ないし7について
本件発明2ないし7は、いずれも本件発明1を引用しており、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに構成を限定するものであるから、本件発明1と同様の理由で、本件発明2ないし7は、甲1発明及び甲第2号証に記載された甲2技術から、当業者が容易になし得るものではない。

6.むすび

以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-02-01 
出願番号 特願2017-513820(P2017-513820)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 宮久保 博幸  
特許庁審判長 栗田 雅弘
特許庁審判官 柏原 郁昭
西村 泰英
登録日 2017-05-12 
登録番号 特許第6140384号(P6140384)
権利者 株式会社フジミインコーポレーテッド
発明の名称 研磨用組成物  
代理人 八田国際特許業務法人  

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