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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H05B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H05B
管理番号 1337098
異議申立番号 異議2017-700748  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-07-31 
確定日 2018-02-16 
異議申立件数
事件の表示 特許第6074457号発明「電磁調理器用汚れ防止マット」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6074457号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許に係る出願は、平成23年3月28日に出願した特願2011-69264号の一部を平成27年5月22日に新たな特許出願としたものであって、平成29年1月13日に特許権の設定登録がなされたところ、平成29年7月31日に特許異議申立人横山佳孝より特許異議の申立てがなされた。そして、平成29年9月28日付けで取消理由が通知され、それに対し、特許権者より平成29年12月1日付けで意見書が提出された。

第2 特許異議の申立てについて
1.本件発明
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される次のとおりである(以下、それぞれ「本件発明1」などという。)。
【請求項1】
電磁調理器のトッププレートと前記電磁調理器によって加熱される鍋の底面との間に挟んで使用される電磁調理器用汚れ防止マットであって、
磁力線の透過性を有する耐熱性のガラス繊維シートと、
前記ガラス繊維シートの一方面を被覆する、硬化した第1の耐熱性コート材とを備え、
前記ガラス繊維シートは、一般ガラス繊維よりなる繊維織物を水流処理にてその通気度を低下させた繊維織物より構成され、
前記ガラス繊維シートの目付は50g/m^(2)以上、電磁調理器による加熱時に温度センサが適切に作動し得る300g/m^(2)以下であり、且つ、通気度は8.5cc/(cm^(2)・s)以下であり、
更に、前記ガラス繊維シートの他方面を被覆する、硬化した第2の耐熱性コート材を備え、
前記第1の耐熱性コート材及び前記第2の耐熱性コート材は、非透水性を有する、電磁調理器用汚れ防止マット。
【請求項2】
電磁調理器のトッププレートと前記電磁調理器によって加熱される鍋の底面との間に挟んで使用される電磁調理器用汚れ防止マットであって、
磁力線の透過性を有する耐熱性のガラス繊維シートと、
前記ガラス繊維シートの一方面を被覆する、硬化した第1の耐熱性コート材とを備え、
前記ガラス繊維シートは、一般ガラス繊維よりなる繊維織物を水流処理にてその通気度を低下させた繊維織物より構成され、
前記ガラス繊維シートの目付は50g/m^(2)以上300g/m^(2)以下であり、且つ、通気度は8.5cc/(cm^(2)・s)以下であって、
更に、前記ガラス繊維シートの他方面を被覆する、硬化した第2の耐熱性コート材を備え、
前記第1の耐熱性コート材及び前記第2の耐熱性コート材は、非透水性を有し、
鍋とトッププレートとの間にセットし、鍋にサラダ油200ccを入れて、油温22℃の状態から加熱したときに、温度センサが作動し、かつ加熱開始から2分経過後に強制的に加熱が停止し、油温度が200℃を超えない、電磁調理器用汚れ防止マット。
【請求項3】
前記第1の耐熱性コート材及び前記第2の耐熱性コート材はシリコーンコート材を含む、請求項1又は請求項2記載の電磁調理器用汚れ防止マット。

2.取消理由の概要
本件特許に対し通知した取消理由は、概ね、次のとおりである。
本件発明1ないし3に係る特許は、下記の理由で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
理由1
本件発明1の「電磁調理器による加熱時に温度センサが適切に作動し得る」は、温度センサがどのように作動することによって適切と判断するのか明確でない。
理由2
本件発明2の「鍋とトッププレートとの間にセットし、鍋にサラダ油200ccを入れて、油温22℃の状態から加熱したときに、温度センサが作動し、かつ加熱開始から2分経過後に強制的に加熱が停止し、油温度が200℃を超えない、電磁調理器用汚れ防止マット。」は、 電磁調理器及び鍋の仕様等が特定されていないため明確でない。
理由3
本件発明1及び2は物の発明であるが、その「ガラス繊維シートは、一般ガラス繊維よりなる繊維織物を水流処理にてその通気度を低下させた繊維織物より構成され、」は、ガラス繊維シートの製造方法が特定されているため、本件発明1及び2は明確でない。
理由4
上記理由1ないし理由3により、本件発明1及び2を引用する本件発明3は明確でない。

3.取消理由についての当審の判断
(1)理由1及び理由2について
本件特許明細書の段落【0054】ないし【0057】には、下記の事項が記載されている。
「2.温度センサの作動に対する実験
(1)測定条件
以下の機器等において、各試料を鍋とトッププレートとの間にセットし、鍋にサラダ油200ccを入れて、油温22℃の状態から「揚げ物機能」で加熱し、温度センサの作動の有無及び油温を測定する。
電磁調理器:クッキングヒーター(三菱電機製:CS-G3205BDS)
鍋:専用天ぷら鍋:鍋径22cm(ウルシヤマ金属工業製:CS-100667)
油:日清サラダ油(日清オイリオグループ)
油温測定器:赤外線放射温度計(佐藤計量器製:SK-8700II)
(2)測定基準
作動の適否は、本来の使用状態における温度センサの作動状況、及び、「揚げ物機能」の機能を基準に判断する。
【0055】
ここで、使用した電磁調理器にあっては、安全に使用できる油量が500cc以上とされている。したがって、今回の油量200ccは適切な使用量ではないことになる。この油量において、汚れ防止マットを使用しない状態、即ち電磁調理器の本来の使用状態と言える状態で加熱を行うと、2分経過後に強制的に加熱が停止する。これは、加熱後所定時間内における温度センサの検知温度の上昇度合いから、鍋に保有されている油の量が安全上少なく空焚きの虞があると判断されるためである。
【0056】
又、「揚げ物機能」とは、加熱された鍋の熱を、トッププレートを介して温度センサが検知し、この検知温度に基づいて加熱量を調整して油温をほぼ200℃に保つ機能を意味する。
【0057】
よって、本実験においては、加熱開始から2分経過後に強制的に加熱が停止するか否かと、油温が200℃を大幅に超えることがないか否かとを、作動の適否の基準とする。」
上記記載事項によれば、当該実験のための測定条件(電磁調理器や鍋の仕様等)及び測定基準が理解できるから「温度センサが適切に作動し得る」ことの技術的意味及び「電磁調理器及び鍋の仕様等」を把握できるといえる。

(2)理由3について
本件発明1及び本件発明2の上記ガラス繊維シートの製造方法に係る特定は、ガラス繊維シートについて、開繊によって得られる特定の通気度の構造を表していることは、本件特許明細書段落【0038】ないし【0040】及び出願時の技術常識を考慮すれば当業者にとって明らかである。

(3)理由4について
本件発明1及び2は、上記理由1ないし3で示したように明確でないとはいえないので、本件発明3についても明確でないとはいえない

(4)小括
よって、本件発明1ないし3は、上記理由1ないし4によって取り消されるべきものであるとすることはできない。

4.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由は、以下のとおりである(理由5ないし理由7という)。
a.理由5
本件発明1ないし本件発明3は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし5号証の記載に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

証拠方法
甲第1号証:特開2009-140887号公報
甲第2号証:特許第4647301号公報
甲第3号証:特開2005-60862号公報
甲第4号証:特開平8-18179号公報
甲第5号証:特開2000-6279号公報

b.理由6
本件発明1及び2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
すなわち、ガラス繊維シートの目付と通気度を特定するのみでは、電磁調理器用汚れ防止マットにおいて、トッププレートの温度を検知する温度センサに与える影響を少なくするという課題を解決することができないから、本件発明1ないし本件発明3が特定する事項では、課題を解決することはでない。

c.理由7
本件発明1及び2に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
ア.理由7-1
本件発明1及び本件発明2には、「硬化した第1の耐熱性コート材」、「硬化した第2の耐熱性コート材」を備えることが記載されているが、本件特許明細書には、硬化した耐熱性コート材が硬化前と硬化後とで比較可能な硬度等の記載がないから、構成が不明確である。

イ.理由7-2
本件発明1及び本件発明2には、「ガラス繊維シートは、一般ガラス繊維よりなる繊維織物を水流処理にてその通気度を低下させた繊維織物より構成され」ることが記載されているが、一般ガラス繊維シートがどのようなシートであるのか不明であり、また、どの程度の通気度の低下を有することをもって低下と判断するのか不明確である。

(2)当審の判断
a.理由5について
ア.甲第1号証について
甲第1号証には、以下の記載がある(下線は当審において付与。以下同様。)。
「【0001】
この発明は電磁調理器用汚れ防止マットに関し、特に加熱すべき鍋の底面の汚れや吹きこぼれ等を電磁調理器のトッププレートに付着させない電磁調理器用汚れ防止マットに関するものである。」
「【0012】
図4に戻って、トッププレート17の下方には温度センサ18が取付けられている。温度センサ18はトッププレート17の温度を監視し、空焚き等によって異常にトッププレート17の温度が上昇したような場合に、図示しない制御装置によって電力の供給を遮断して加熱を停止するものである。トッププレート17の温度は鍋19の温度が伝達されて変化するものであるため、それらの間に設置される汚れ防止マット51の熱抵抗によっては鍋19の温度に検知温度が十分追随しない虞がある。そのため、温度センサ18による制御に不具合が生じることにもなりかねない。
【0013】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、使用によって電磁調理器の温度センサの測定に影響を与える虞の少ない電磁調理器用汚れ防止マットを提供することを目的とする。」
「【0014】
上記の目的を達成するために、請求項1記載の発明は、電磁調理器のトッププレートと電磁調理器によって加熱される鍋の底面との間に挟んで使用される電磁調理器用汚れ防止マットにおいて、磁力線の透過性を有する耐熱性のシート体よりなり、シート体の熱抵抗が、2.05×10^(-3) (m^(2)・K)/W 以下であることを特徴とするものである。
【0015】
このように構成すると、トッププレートの温度を検知する温度センサに与える影響が少なくなる。」
「【0025】
図1はこの発明の第1の実施の形態による電磁調理器用汚れ防止マットの概略形状を示した拡大斜視図であり、図2は図1で示したII-IIラインの拡大断面図である。
【0026】
これらの図を参照して、汚れ防止マット9は、磁力線の透過性を有するガラス繊維よりなる織布23の両面に非透水性のシリコーンコート24a及び24bを全面に施したものを円形に切り出してシート体11としたものある。シート体11の外周端は全周にわたって、断面がコの字状となるような図示しないバイアステープ等によって縁取られているが、このような縁取りは必ずしもなくても良い。」
上記記載事項より、甲第1号証には以下の発明が記載されていると認める(以下、「甲1発明」という。)。
「電磁調理器のトッププレートと電磁調理器によって加熱される鍋の底面との間に挟んで使用される電磁調理器用汚れ防止マットにおいて、磁力線の透過性を有する耐熱性のシート体よりなり、シート体の熱抵抗が、トッププレートの温度を検知する温度センサに与える影響が少なくなるような熱抵抗であり、汚れ防止マットは、磁力線の透過性を有するガラス繊維よりなる織布23の両面に非透水性のシリコーンコート24a及び24bを全面に施したものを円形に切り出してシート体11とした電磁調理器用汚れ防止マット。」
イ.甲第2号証
甲第2号証には、以下の記載がある。
「【0013】
ガラスクロス基材を構成するガラス繊維としては、開繊加工による粘着剤の背面側への裏回りを防止する上で、マルチフィラメント型のガラス繊維が好ましい。ガラス繊維の太さとしては、10?40g/1000mが好ましい。
【0014】
織製方法としては、特に限定されるものではなく、例えば平織、綾織、斜文織、からみ織、朱子織、三軸織、横縞織等のいかなるものであっても良いが、平織が平易な織り方でありつつも、適度な引張強度とコシなどを持たせることが出来、粘着テープ用途としては好適である。ガラスクロス基材の糸密度は、開繊加工による粘着剤の裏回り防止効果を得る上で、縦糸・緯糸ともにある程度糸が詰まっている必要があるので、縦糸・緯糸の両方が40?80本/25mmであるのが好ましい。
【0015】
厚さが0.11mm以下のガラスクロス基材は、織ったそのままではバスケットホールが開いてしまうので、開繊加工を施す。開繊加工は、ガラスクロス基材を織った後に、外力によって繊維を押し広げることでバスケットホールを狭めて目止めをする加工方法である。
【0016】
開繊加工は、従来公知の方法など、どのような方法で行なっても良い。例えばコンプレッサーに、より加圧された水をノズルを通してガラスクロス基材に当てることによって開繊加工するウォータージェット(特公昭57-22692号公報)、水槽中にあるドラムが高速回転することにより水流を作り出し、その水流中をガラスクロス基材が通過することにより開繊加工を行うバイブロウォッシャー(特開平2-200861号公報)、超音波(特開昭63-165441号公報)等の処理によって開繊する方法が一般に知られている。」
上記記載事項より、甲第2号証には、以下の事項が記載されている(以下「甲2記載事項」という。)。
「加圧された水をノズルを通してガラスクロス基材に当てることによって開繊加工するウォータージェットにより開繊加工されたガラスクロス基材により、粘着剤の背面側への裏回りを防止する粘着テープ。」

ウ.甲第3号証
甲第3号証には、以下の記載がある。
「【0003】
ガラスクロスからのガラス糸条のホツレがなく、ガラスクロスと他の部材の成分との接着性、風合い(ガラスクロスの硬軟)、強度、弾性率等の物性に優れ、さらにガラスクロスの面とは反対側のガラスクロスの面に他の部材の成分が抜けず、アルデヒド類の発生が実質的になく、さらにコストダウンが可能な複合材料製造のためのガラスクロスを提供することを目的とする。」
「【0011】
また、上記のガラス糸を使用してガラスクロスを織製後またはヒートクリーニング後もしくはシランカップリング剤処理後に、所望により、例えば水流の圧力による開繊、液体を媒体とした高周波の振動による開繊、ロールによる加圧での加工処理等を施すことにより、ガラスクロスを構成する糸幅を拡げ、経糸および緯糸共に隣り合う糸同士が最適に配列された構造を形成し易くする。上記の処理により糸が扁平化し、糸自体の断面形状が楕円の形状から平板の形状に近づき、ガラスクロス中のガラス繊維の分布がより均一となる。」
「【0014】
上記のように、所望によりガラスクロスを開繊処理し、所望によりシランカップリング剤処理した後、公知の手段に従って、ガラスクロスを乾燥する。本発明で用いられるガラスクロスは、ガラスクロスが、ガラスクロスを構成する経糸間または緯糸間の空隙率Xが下式(イ)より得られ、得られた経糸間または緯糸間の空隙率Xが下式(ロ)で表される範囲を満たす。
X=b/a×100(%)・・・(イ)
X≦5・・・(ロ)
(式中、Xはクロスを構成する経糸間または緯糸間の空隙率(%)を、aは隣接する2本の経糸幅のそれぞれの中心から中心までの長さ(μm)または緯糸幅のそれぞれの中心から中心までの長さ(μm)を、bは隣接する2本の経糸または緯糸の隙間(μm)を表わす。)
ガラスクロスを構成する経糸間または緯糸間の空隙率Xが上式(ロ)で表される範囲を満たさない場合は、下記する他の部材(ゴムまたは樹脂等)の成分が他の部材と接しているガラスクロスの面とは反対側のガラスクロスの面に抜ける恐れがあるので、ガラスクロスと他の部材との接着後のガラスクロスと他の部材との積層物の取り扱い作業性が悪くなる。」
上記記載事項より、甲第3号証には、以下の事項が記載されている(以下「甲3記載事項」という。)。
「ガラスクロスの面とは反対側のガラスクロスの面に他の部材の成分が抜けないようにするために、ガラスクロスを水流の圧力により開繊処理したガラスクロス。」

エ.甲第4号証
甲第4号証には、以下の記載がある。
「【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明はかかる現状に鑑みなされたもので、より細い番手のガラスヤーンを用いて、より高密度に製織することにより、空隙率を低下させ、かつ開織処理により空隙率を低下させる事が可能なガラスクロスを補強材としたプリント回路基板を提供するものである。」
「【0018】25mm当たりの経糸と緯糸の打ち込み本数は、それぞれ65本?95本,65本?80本とする。薄板プリント回路基板用ガラスクロスである為に、質量は約40?60g/m^(2)が好ましい事、及び空隙率が未開織品で16%以下であり、開織品で2.2%以下である事を両立させる事よりこの打ち込み本数であることが必須となる。」
「【0021】空隙率を低下させる為にはヒートクリーニングする前にバイブロウオッシャー又はウォータジェットによる開織処理するのが好ましいが、ヒートクリーニング後のカップリング剤で表面処理前後に開織処理してもよい。」
上記記載事項より、甲第4号証には、以下の事項が記載されている(以下「甲4記載事項」という。)。
「25mm当たりの経糸と緯糸の打ち込み本数は、それぞれ65本?95本,65本?80本とし、ウォータジェットによる開織処理により空隙率を低下させたガラスクロスを補強材としたプリント回路基板。」

オ.甲第5号証
甲第5号証には、以下の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はハニカムコア用基材およびその製造方法、並びに該ハニカムコア用基材を用いて形成したハニカムコアに関する。本発明のハニカムコア用基材は、機械的特性、耐蝕性、耐水性、耐湿性、耐熱性などの特性に優れ且つ安価な原料を用いて形成でき、しかも適度に制御された樹脂浸透性を有しているため、ハニカムコア製造時に用いる接着剤のハニカムコア用基材の裏面への裏抜けが生じず良好な展張性でハニカム構造体を形成することができ、その一方でハニカム構造体のセル壁中への補強用樹脂の含浸が過不足なく適度に行われる。そのため、本発明のハニカムコア用基材を用いる場合は、軽量性、機械的特性、耐蝕性、耐水性、耐湿性、耐熱性などの特性に優れるハニカムコアを良好な作業性で且つ従来よりも低コストで製造することができる。それにより得られるハニカムコアは、航空機部材、列車部材、自動車部材、船舶部材、建材、スキー部材などの種々の構造用材料、紡糸筒の整流板、オープンショーケースの整流板、プレス機械の緩衝材などの非構造用材料などの広範な用途に極めて有効である。」
「【0010】そのため、ハニカムコア用基材における最も好ましい形態は、ハニカムコア用基材の一方の面に接着剤を条線状で塗工する際には接着剤の裏抜けを防止し得る密度を有し、その一方で展張して得られたハニカム構造体に熱硬化性樹脂を含浸させたときに、熱硬化性樹脂がハニカム構造体のセル壁の中心部まで完全に浸透せずにセル壁の表面から適度な深さの部分(主として外側の部分)に止まりながら浸透し、中心部は樹脂の含浸が無いか又は極めて少なくて外側部分に樹脂が含浸しているいわゆるサンドイッチ構造をなし得るような形態である。」
「【0020】さらに、本発明のハニカムコア用基材用の不織布は、その通気度が上記のように0.05?5.0cc/cm^(2)・秒の範囲内であることが必要であり、0.1?3.0cc/cm^(2)・秒であることが好ましい。ハニカムコア用基材を構成する不織布の通気度が0.05cc/cm^(2)・秒未満であると、ハニカム構造体への熱硬化性樹脂などの構造用樹脂の浸透が妨げられて、基材表面(ハニカムコアのセル壁表面)にとどまるため、複合材として期待される性能が発揮できなくなる。一方、ハニカムコア用基材用の不織布の通気度が5.0cc/cm^(2)・秒を超えると、ハニカムコア用基材の一方の面にハニカム構造形成用の接着剤を条線状に塗布した時に接着剤の裏抜けを生じて、ハニカムコア用基材のもう一方の面にまで接着剤が浸透してしまい、ハニカム構造体を形成するための展張が行えなくなる。また、展張が可能でハニカム構造体を形成できる場合であっても、ハニカム構造体に後の工程で熱硬化性樹脂などを含浸させた際に、樹脂がハニカム構造体のセル壁の中心部まで完全に浸透してしまってハニカムコアの重量が増し、軽量化を達成できなくなり、しかも耐衝撃性の著しい低下を生ずる。ここで、本明細書でいう不織布の通気度は、JIS L 1079(1966)に準拠して測定した値をいい、その詳細については以下の実施例の項に記載するとおりである。」
上記記載事項より、甲第5号証には、以下の事項が記載されている(以下「甲5記載事項」という。)。
「ハニカムコア用基材の一方の面にハニカム構造形成用の接着剤を条線状に塗布した時に接着剤の裏抜けを防止するために、ハニカムコア用基材用の不織布は、その通気度が0.1?3.0cc/cm^(2)・秒としたハニカムコア用基材。」

カ.本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比すると、少なくとも以下の点で相違する。
相違点
本件発明1は、「ガラス繊維シートの目付は50g/m^(2)以上、電磁調理器による加熱時に温度センサが適切に作動し得る300g/m^(2)以下であり、且つ、通気度は8.5cc/(cm^(2)・s)以下であ」るのに対して、甲1発明はガラス繊維シートの目付及び通気度が不明な点。
上記相違点について検討すると、甲第1号証には、電磁調理器の温度センサの測定に影響を与える虞の少ない電磁調理器用汚れ防止マットを提供するためにシート体の熱抵抗を適当な値とすることについての記載はあるものの、コート材の裏抜けについての課題に着目しシート体の目付を特定することについての記載はない。
そして、上記甲2ないし甲5記載事項はいずれも電磁調理器用汚れ防止用マットに係るものではなく、また、本件特許の出願時に、電磁調理用汚れマットにおいてコート材の裏抜けについての課題が周知であったともいえない。そうしてみると、甲1発明に甲第2記載事項ないし甲第5記載事項を適用する動機付けがあるとはいえない。
よって、本件発明1は、甲第1発明及び甲第2号証ないし5号証の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

キ.本件発明2について
本件発明2と甲1発明とを対比すると、両者は、少なくとも上記相違点で相違する。そして、上記本件発明1と同様の理由により、本件発明2は、甲第1発明及び甲第2号証ないし5号証の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

ク.本件発明3について
本件発明3は、本件発明1又は本件発明2の発明特定事項を含み、さらに減縮したものであるから、本件発明1又は本件発明2と同様の理由により、本件発明3は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし5号証の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

b.理由6について
本件特許明細書には、ガラスシートの目付と通気度を特定することによりコート材の裏抜けがなく、温度センサが適切に作動することが示されており(段落【0065】及び【0061】の表1等参照)、ガラス繊維シートの目付と通気度を特定することにより、電磁調理器用汚れ防止マットにおいて、トッププレートの温度を検知する温度センサに与える影響を少なくするという課題は解決されているから、本件発明1ないし本件発明3が特定する事項では、課題を解決することはできないということはできない。

c.理由7-1について
本件発明1及び本件発明2に記載された「硬化した第1の耐熱性コート材」、「硬化した第2の耐熱性コート材」は、耐熱性コート材の硬化が一般的な意味からして明確であるとともに、本件特許明細書における、本件特許発明の奏する効果として「更に、ガラス繊維シートの両面が硬化した耐熱性コート材で覆われるので意匠性が向上し、又、クッション性を有すると共に水分が内部に浸入しにくいので、電磁調理器のトッププレートや鍋を傷つけず、更に、衛生的な汚れ防止マットになる。」(【0028】)との記載を参酌すれば、本件発明1及び本件発明2に記載された「硬化した第1の耐熱性コート材」、「硬化した第2の耐熱性コート材」というのが、第1の耐熱性コート材及び第2のコート材がどの程度硬化したものを意味しているかは、当業者であれば理解できるものである。

d.理由7-2について
上記、理由3で示したとおり、理由7-2で明確でないと指摘されている特定事項は明確である。

5.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件発明1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に、本件発明1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-02-07 
出願番号 特願2015-104463(P2015-104463)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (H05B)
P 1 651・ 121- Y (H05B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 土屋 正志  
特許庁審判長 中村 則夫
特許庁審判官 莊司 英史
窪田 治彦
登録日 2017-01-13 
登録番号 特許第6074457号(P6074457)
権利者 東洋アルミエコープロダクツ株式会社
発明の名称 電磁調理器用汚れ防止マット  
代理人 山本 直樹  
代理人 葛西 さやか  
代理人 葛西 泰二  
代理人 山本 英明  

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