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審決分類 審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 G21C
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G21C
審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない。 G21C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G21C
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G21C
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 G21C
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G21C
管理番号 1337310
審判番号 不服2017-2528  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-02-06 
確定日 2018-02-05 
事件の表示 特願2013-207684「原子炉の冷却装置。」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 3月23日出願公開、特開2015- 55621〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年9月13日の出願であって、平成28年3月29日付けで拒絶理由が通知され、同年5月18日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたが、同年10月27日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対し、平成29年2月6日に拒絶査定不服審判請求がされるとともに、同時に手続補正がされたものである

第2 平成29年2月6日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は、補正前(平成28年5月18日付け手続補正によるもの)の特許請求の範囲の請求項1につき、
「主としてメルトダウン後の原子力発電用原子炉の冷温停止工程に際し、または、通常運転時に、鉛、はんだ等の放射線を通し難く、熱伝達の良い金属を介して炉の熱を、伝導に依って、放射線が天然値に比して軽微の地点まで運び出し、其処で水冷、空冷、冷媒を使用する冷凍機の単独、又は複合で廃棄させる構造の冷却装置を有し、および、又は、冷却効率を向上させる為、炉側を低温とする熱電変換素子を挿入する場合も有る、原子力発電用原子炉の冷温停止装置。」
とあったものを、
「原子力発電装置は、炉内で核燃料の発する熱を、高温、高圧水に移して、炉外に出し、蒸気タービン、発電機、を介して発送電する物で、通常運転時は、炉の外壁から漏れる熱は損失と成る事が公知で有り、一方、事故の際は、炉の外壁に直接水を掛けて冷却する事が公知で有るが、地震に依る炉の亀裂等の際には、大量の汚染水が発生するので、主として冷温停止工程に際し、鉛、はんだ等の放射線を通し難く、熱伝達の良い金属11を炉の外壁2に融着等で接合し、伝導に依って、放射能を遮断する建屋8の外の放射線の軽微又は天然値の地点まで運び出し、其処で水冷、空冷等で熱を廃棄させ、更に炉と冷却機との間に、図示されない、炉側を低温とする熱電変換素子を挿入して、冷却効率を向上させる場合も有り、更に金属11は建屋の外に設けた鋳込み口12から流し込む場合も有る、原子力発電用原子炉の冷温停止装置。」
に補正するものである(下線は当審が付したもので、補正箇所を示すものである。)。

2 補正の目的
(1)平成29年2月6日の拒絶査定不服審判請求における、本件請求人の補正の目的に係る主張の概略
「3.立証の趣旨
明細書の記述内容を請求項に追記した手続補正書を提出。」
「●理由2 に付いて
「説明に記載された範囲を超える」とのご指摘に従い、
手続き補正書にて、明細書に無い文言を使わない様、請求項を訂正しました。」

(2)目的外補正
ア 本件補正の、本件補正前の請求項1の「主としてメルトダウン後の原子力発電用原子炉の冷温停止工程に際し、または、通常運転時に」との記載を「原子力発電装置は、炉内で核燃料の発する熱を、高温、高圧水に移して、炉外に出し、蒸気タービン、発電機、を介して発送電する物で、通常運転時は、炉の外壁から漏れる熱は損失と成る事が公知で有り、一方、事故の際は、炉の外壁に直接水を掛けて冷却する事が公知で有るが、地震に依る炉の亀裂等の際には、大量の汚染水が発生するので、主として冷温停止工程に際し」との記載に補正することは、補正前の「主としてメルトダウン後の原子力発電用原子炉の冷温停止工程に際し、または、通常運転時に」以外の「冷温停止工程に際」する場合も含むことになるから、発明特定事項を拡張する補正事項を含むといえる。
したがって、特許法第17条の2第5項に規定する、「特許請求の範囲の減縮」には、該当しない。
また、特許法第17条の2第5項に規定する、請求項の削除、誤記の訂正、さらには、明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)にいずれにも該当しない(下線は当審が付した。以下同じ。)。

イ 本件補正の、本件補正前の請求項1の「其処で水冷、空冷、冷媒を使用する冷凍機の単独、又は複合で廃棄させる構造の冷却装置を有し、および、又は、冷却効率を向上させる為、炉側を低温とする熱電変換素子を挿入する場合も有る」との記載を「其処で水冷、空冷等で熱を廃棄させ、更に炉と冷却機との間に、図示されない、炉側を低温とする熱電変換素子を挿入して、冷却効率を向上させる場合も有り、更に金属11は建屋の外に設けた鋳込み口12から流し込む場合も有る」との記載に補正することは、「其処で水冷、空冷、冷媒を使用する冷凍機の単独、又は複合で廃棄させる構造の冷却装置を有」すること及び、「冷却効率を向上させる為、炉側を低温とする熱電変換素子を挿入する場合も有る」こと」を特定するために必要な事項を限定するものとはいえない。
したがって、特許法第17条の2第5項に規定する、「特許請求の範囲の減縮」には、該当しない。
また、「図示されない」、「場合も有り」及び「場合も有る」との発明特定事項を曖昧にする記載を含むものであって、発明が明りょうとなったとはいえず、特許法第17条の2第5項に規定する、明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)にも該当しない。
さらに、特許法第17条の2第5項に規定する、請求項の削除及び誤記の訂正にも該当しない。

ウ よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項に掲げられたいずれの事項も目的としない補正を含むものである。

エ また、本件補正が特許法第17条の2第5項に規定する、「特許請求の範囲の減縮」に該当するものであったとしても、上記イで検討したとおり、本件補正後の請求項1は「図示されない」、「場合も有り」及び「場合も有る」との発明特定事項を曖昧にする記載を含むものであって、発明が不明確であるから、本件補正は特許法第36条第6項第2号に規定する「特許を受けようとする発明が明確であること」に該当するとはいえず、特許法第36条第6項第2号の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 補正却下の決定についてのむすび
以上2での検討によれば、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
また、本件補正が特許法第17条の2第5項に該当するものであったとしても、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
上記のとおり、本件補正は却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成28年5月18日に補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2」[理由]「1 補正の内容」において、本件補正前のものとして示したとおりのものである。

2 原査定の拒絶理由
原査定の理由における理由1ないし理由3は次のとおりである。
「理由1(特許法第36条第6項第2号)について
(1)請求項1に『熱伝達の良い金属を介して炉の熱を、伝導に依って、放射線が天然値に比して軽微の地点まで運び出し』と記載されているものの、該『炉』とは原子炉のどこの部分のことであるのか明確でなく、炉のどこの熱が運び出されるのか依然として明確でない。
平成28年5月18日意見書において出願人は『図1では、本装置は炉の外壁から、熱を搬出しますが、特にクールダウンの段階では、核燃料から炉の外壁までの熱伝導に、特に障害は無いと思われるので、文書では特定して居ません』と主張されているものの、『熱伝達の良い金属』を介して炉の熱を運び出す起点としては原子炉格納容器の外壁が記載されているのみであり、原子炉格納容器の外壁以外ではどのような場所が他にあり得るのかは明細書において記載されていないため、本願の『冷温停止装置。』という物の発明において、原子炉格納容器の外壁以外ではどのような構造となるのか不明であるため、該主張は採用できない。
(2)請求項1に『放射線が天然値に比して軽微の地点まで運び出し』と記載されているものの、『放射線の軽微』とはどの程度か不明(どの程度の放射線の地点が該『放射線の軽微』な地点に含まれ、また、どの程度であると『放射線の軽微』な地点には含まれないのか不明)な表現であり、該『地点』にはどのような地点が含まれるのか依然として明確でない。
平成28年5月18日意見書において出願人は『明細書の0004に記した『放射線の軽微』とは、『宇宙線のバラつきの範囲内、又は其れ以下』と云う意味です』と主張されているものの、当初明細書には『放射線の軽微』について『宇宙線のバラつきの範囲内、又は其れ以下』とする規定は記載されていないため該主張は採用できない。

理由2(特許法第36条第6項第1号)、理由3(特許法第36条第4項第1号)について
請求項1には、『鉛、はんだ等の放射線を通し難く、熱伝達の良い金属を介して炉の熱を、伝導に依って、放射線が天然値に比して軽微の地点まで運び出し、其処で水冷、空冷、冷媒を使用する冷凍機の単独、又は複合で廃棄させる構造の冷却装置を有し、および、又は、冷却効率を向上させる為、炉側を低温とする熱電変換素子を挿入する場合も有る、原子力発電用原子炉の冷温停止装置』と記載されているものの、明細書中には、第【0017】段落に『図において1は原子炉圧力容器、2は原子炉格納容器、3は圧力抑制室で、4は圧力容器の底に解け落ちた燃料で、鉛5を流し込んで封じ込めて有る。6は格納容器の底に解け落ちた燃料で、鉛7を流し込んで封じ込めて有る。8は放射能を遮断する建屋で、9はマンホールで有る。10は鋳込み用ガイドで、11は放射能の遮断性能は高く、熱伝導性の良い部材で、12は其の鋳込み口、13は押し湯口で有る。14は耐熱ゴムパッキン、又は密封用電熱線とはんだのセットで有る。15空冷用フィン。16はモーター駆動のファン、17は水冷の熱交換機で、水は図示されない水ポンプで、ゴム管18より、ラジエーター19に入り、ゴム管20より戻る。ラジエーター19は図示されないファンで空冷される場合も有る。21は加圧式ラジエーターキャップである』なる記載は認められるものの、これ以外の構造については記載されていない。しかし、請求項1の記載は該第【0017】段落に記載される構造以外も含む内容の記載であるが、第【0017】段落に記載される構造以外の構造を理解することは困難であるということが出願時の技術常識であり、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化するための根拠も見出せない。
したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。
また、第【0017】段落に記載される構造以外の構造にどのような構造があり得るのか不明であることが出願時の技術常識である。しかしながら、発明の詳細な説明には、第【0017】段落に記載される構造以外の構造については記載されておらず、またこれが出願時の技術常識であるということもできない。よって、第【0017】段落に記載される構造以外の構造を構築するためには、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等が必要である。
したがって、発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。」

3 当審の判断
(1)原査定の「理由1」「(1)」について
ア 本願発明は、「主としてメルトダウン後の原子力発電用原子炉の冷温停止工程に際し、または、通常運転時に、鉛、はんだ等の放射線を通し難く、熱伝達の良い金属を介して炉の熱を、伝導に依って、放射線が天然値に比して軽微の地点まで運び出」す「原子力発電用原子炉の冷温停止装置」とされる。

イ ここで、「原子炉」及び「炉」に関して、本願の発明の詳細な説明には下記の記載がある。
(ア)「【0006】
加圧水型原子炉は、燃料に接触する1次冷却水の熱を、炉壁を介して2次冷却水に移すが、本装置を介して2次冷却水に移す場合も有る。
【0007】
原子炉の上蓋の外周の本体との合わせ面に電熱線を仕込み、蓋を閉めた際、通電してはんだを溶かして密封し、蓋を開く際は、再び通電してはんだを溶かしてから開く方式は先願特許にて公知で有る。本装置も同様の接着手段を取る場合も有る。
【0008】
メルトダウン時は室内の線量が高い場合が予想されるので、建屋の外壁に有人、又は無人リモコンでマンホールを開け、炉の外面にはんだが乗り易くする為の下地処理を行った後、マンホールからディビダーク工法の様に釣り込んで炉壁に接触させる場合も有る。」
(イ)「【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る原子炉の冷却装置の全体構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態を、図面に基づいて説明する。図1は本発明の実施形態に係る原子炉の冷却装置の全体構成を示す図である。
【0017】
図において1は原子炉圧力容器、2は原子炉格納容器、3は圧力抑制室で、4は圧力容器の底に解け落ちた燃料で、鉛5を流し込んで封じ込めて有る。6は格納容器の底に解け落ちた燃料で、鉛7を流し込んで封じ込めて有る。8は放射能を遮断する建屋で、9はマンホールで有る。10は鋳込み用ガイドで、11は放射能の遮断性能は高く、熱伝導性の良い部材で、12は其の鋳込み口、13は押し湯口で有る。14は耐熱ゴムパッキン、又は密封用電熱線とはんだのセットで有る。15空冷用フィン。16はモーター駆動のファン、17は水冷の熱交換機で、水は図示されない水ポンプで、ゴム管18より、ラジエーター19に入り、ゴム管20より戻る。ラジエーター19は図示されないファンで空冷される場合も有る。21は加圧式ラジエーターキャップである。」
(ウ)図1は次のとおりである。


ウ 上記イによれば、「炉」の具体的構成として、原子炉圧力容器1及び原子炉格納容器2が記載されていて、そのいずれを意味するかは明らかではない。
そこで、「炉」が原子炉圧力容器1を意味する場合と原子炉格納容器2を意味する場合について検討する。
(ア)上記アの「原子炉」及び「炉」が原子炉圧力容器1を意味する場合
「鉛、はんだ等の放射線を通し難く、熱伝達の良い金属」(放射能の遮断性能は高く、熱伝導性の良い部材11)をどのようにして原子炉圧力容器1や解(溶)け落ちた燃料4、6に達するのか、発明の詳細な説明に記載がない。
また、図1(上記「(1)」「イ」「(ウ)」)を参照しても、「鉛、はんだ等の放射線を通し難く、熱伝達の良い金属」(放射能の遮断性能は高く、熱伝導性の良い部材11)は、溶融状態にあるので原子炉格納容器2の壁に定着することもなく、原子炉圧力容器1や解(溶)け落ちた燃料4、6は、鋳込み用ガイド10内の「鉛、はんだ等の放射線を通し難く、熱伝達の良い金属」(放射能の遮断性能は高く、熱伝導性の良い部材11)と接続されない。
そうすると、「鉛、はんだ等の放射線を通し難く、熱伝達の良い金属」(放射能の遮断性能は高く、熱伝導性の良い部材11)は、「炉」において熱源となることが明らかである解(溶)け落ちた燃料4、6に達していないから、炉のどの場所の熱をどのように運び出すのか不明である

(イ)上記アの「原子力発電用原子炉」及び「炉」が原子炉格納容器2を意味する場合
「鉛、はんだ等の放射線を通し難く、熱伝達の良い金属」(放射能の遮断性能は高く、熱伝導性の良い部材11)は原子炉格納容器2の壁に達しているが、「炉」において熱源となることが明らかである解(溶)け落ちた燃料4、6には「鉛、はんだ等の放射線を通し難く、熱伝達の良い金属」(放射能の遮断性能は高く、熱伝導性の良い部材11)には達していない。
したがって、「鉛、はんだ等の放射線を通し難く、熱伝達の良い金属」(放射能の遮断性能は高く、熱伝導性の良い部材11)は、原子炉格納容器2の壁の熱を運び出すにとどまり、「炉」において熱源となることが明らかである解(溶)け落ちた燃料4、6の熱を運び出せないと認められる。
そうすると、「鉛、はんだ等の放射線を通し難く、熱伝達の良い金属」(放射能の遮断性能は高く、熱伝導性の良い部材11)は原子炉格納容器2の壁に達しているだけで、メルトダウン後の原子力発電用原子炉の冷温停止工程を実現できない。
メルトダウン後の原子力発電用原子炉の冷温停止工程を実現できるのであれば、「鉛、はんだ等の放射線を通し難く、熱伝達の良い金属」(放射能の遮断性能は高く、熱伝導性の良い部材11)が炉のどの場所の熱をどのように運び出すのか不明である

(ウ)以上(ア)及び(イ)での検討によれば、上記アの「原子力発電用原子炉」及び「炉」が原子炉圧力容器1及び原子炉格納容器2のいずいを意味する場合であっても、本願発明は記載が不明確であるから、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する「特許を受けようとする発明が明確である」との規定に適合するものとは認められない。
よって、本願請求項1は特許を受けようとする発明が明確ではないから、本願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(2)原査定の「理由2」について、
ア 上記(1)で検討したとおり、本願発明は、「鉛、はんだ等の放射線を通し難く、熱伝達の良い金属」(放射能の遮断性能は高く、熱伝導性の良い部材11)が炉のどの場所の熱をどのように運び出すのか不明確であり、また、このような構成で、なぜ、メルトダウン後の原子力発電用原子炉の冷温停止工程を実現できるのか理解できない。

イ ここで、鉛の融点は一般に327.5℃であり、はんだ(鉛含有)の融点は一般に183℃、はんだ(鉛フリー)の融点は一般に220℃であり、いずれも融点が高温であるところ、本願発明における「鉛、はんだ等の放射線を通し難く、熱伝達の良い金属」の具体的な実施形態については、本願の発明の詳細な説明に下記のとおり記載されている。
「【0004】
鉛、はんだ等の様に、融点が低くて、溶かして炉の外壁に融着させ易く、放射線を通し難く、熱伝達の良い金属を介して炉の熱を、伝導に依って、放射線の軽微又は天然値の地点まで運び出し、其処で水冷、空冷等で熱を廃棄させる。」
「【0009】
はんだの様な熱伝達用の金属は、建屋の外からガイド鋳型に流し込み、押し湯を建屋の外に導いて、湯周りを確認する場合も有る。」
「【0017】
図において1は原子炉圧力容器、2は原子炉格納容器、3は圧力抑制室で、4は圧力容器の底に解け落ちた燃料で、鉛5を流し込んで封じ込めて有る。6は格納容器の底に解け落ちた燃料で、鉛7を流し込んで封じ込めて有る。8は放射能を遮断する建屋で、9はマンホールで有る。10は鋳込み用ガイドで、11は放射能の遮断性能は高く、熱伝導性の良い部材で、12は其の鋳込み口、13は押し湯口で有る。14は耐熱ゴムパッキン、又は密封用電熱線とはんだのセットで有る。15空冷用フィン。16はモーター駆動のファン、17は水冷の熱交換機で、水は図示されない水ポンプで、ゴム管18より、ラジエーター19に入り、ゴム管20より戻る。ラジエーター19は図示されないファンで空冷される場合も有る。21は加圧式ラジエーターキャップである。」

ウ 上記イによれば、本願発明の、「鉛、はんだ等の放射線を通し難く、熱伝達の良い金属」(放射能の遮断性能は高く、熱伝導性の良い部材11)は、「溶かして」、「流し込み」「湯」及び「鋳込み」と記載されていることに照らして、融点以上の温度で用いるものとされていると認められる。
そうすると、メルトダウン後の原子力発電用原子炉の冷温停止工程において、このような高温の金属を炉のいずれかの場所に達するところ、このような場合は、金属が炉に接する場所を金属の融点の温度まで高めることになることは明らかであり、なぜ原子力発電用原子炉の冷温停止工程を実現できるのか理解できない。
また、「鉛、はんだ等の放射線を通し難く、熱伝達の良い金属」(放射能の遮断性能は高く、熱伝導性の良い部材11)は、「放射線が天然値に比して軽微の地点」では「水冷、空冷、冷媒を使用する冷凍機の単独、又は複合で廃棄させる構造の冷却装置」で冷却される事に照らして、当該地点の側では前記金属の融点の温度以下に冷却されて固化するものと理解される。
そうすると、「鉛、はんだ等の放射線を通し難く、熱伝達の良い金属」(放射能の遮断性能は高く、熱伝導性の良い部材11)は、当初は溶融金属であったものが、その後固化されて固体の金属となると理解される。
このような固体の金属を炉から「放射線が天然値に比して軽微の地点」まで引き回して、「放射線が天然値に比して軽微の地点」で「水冷、空冷、冷媒を使用する冷凍機の単独、又は複合で廃棄させる構造の冷却装置」で冷却することは、熱を伝達する金属が移動を伴わないので、対流などを伴う熱伝達のように熱伝達媒体の移動による効率的な冷却効果を期待することはできない。
このように効果的な冷却効果を期待することができない固体金属の熱伝達による手段を用いる本願発明が、炉を冷却して原子力発電用原子炉の冷温停止工程をどの程度実現できるのか理解できない。

エ 本願発明の解決しようとする課題として、本願の発明の詳細な説明には次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は原子炉の発熱を外部に搬出する際に、放射能を除去し、熱だけを搬出するもので、特にメルトダウン後の原子力発電用原子炉の冷温停止工程に有効で有るが、通常運転時にも利用する場合も有る。
【背景技術】
【0002】
現在、福島でメルトダウンした原子炉の長期間を要する冷温停止工程に於いて、メルトダウンした燃料に直接水を掛けて居る為、大量の汚染水が発生し、処理が難航して居る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
外周にプールを設けて、緊急時に海水を注入する方法は公知で有るが、地震に依る炉の亀裂や、メルトダウンした原子炉では、大量の汚染水が発生し、困難に成る。」
「【発明の効果】
【0014】
原子炉の発する放射能を有効に遮断する事が出来る。従ってメルトダウン時の他、通常運転時に利用しても、補機に必要なエネルギーの節減が可能で有る。」

オ 上記エによれば、本願発明の解決すべき課題が、原子炉の発熱を外部に搬出する際に、放射能を除去し、熱だけを搬出する(原子炉の発する放射能を有効に遮断する)ことで、メルトダウン後(通常運転時)の原子力発電用原子炉を冷温停止することにあると認められる。
しかしながら、上記ウで検討したとおりであって、本願発明は、本願発明が解決しようとする原子力発電用原子炉を冷温停止するという課題が解決できない、本願の発明の詳細な説明に記載されていない発明であると認められるから、特許法第36条第6項第1号に規定する「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである」とは認められない。

カ また、本願の発明の詳細な説明には、本願発明の構成として具体的には段落【0017】及び図1(上記「(1)」「イ」「(イ)」及び「(ウ)」参照)に記載されるにとどまり、当該構成では、上記ウで検討したとおり、本願発明が解決しようとする原子力発電用原子炉を冷温停止するという課題が解決できない。
また、本願の出願時の技術常識を踏まえても、発明の詳細な説明に記載された構成を、本願発明が解決しようとする原子力発電用原子炉を冷温停止するという課題が解決できる発明を実施することは困難である。
したがって、発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。
したがって、本願の発明の詳細な説明は、経済産業省令で定めるところにより、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとは認められない。 よって、本件出願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

4 むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第6項第2号、同法同条第6項第1号、及び、同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-11-20 
結審通知日 2017-11-28 
審決日 2017-12-11 
出願番号 特願2013-207684(P2013-207684)
審決分類 P 1 8・ 574- Z (G21C)
P 1 8・ 573- Z (G21C)
P 1 8・ 537- Z (G21C)
P 1 8・ 536- Z (G21C)
P 1 8・ 572- Z (G21C)
P 1 8・ 575- Z (G21C)
P 1 8・ 571- Z (G21C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 青木 洋平  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 松川 直樹
森林 克郎
発明の名称 原子炉の冷却装置。  

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