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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1337311
審判番号 不服2017-4137  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-03-22 
確定日 2018-02-05 
事件の表示 特願2016- 50983「粘着剤層付偏光フィルムセット、液晶パネルおよび液晶表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月 1日出願公開、特開2016-200806〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成28年3月15日(優先権主張平成27年4月10日)の出願であって、同年4月28日付けで手続補正がなされ、同年6月24日付けで拒絶の理由が通知され、同年10月25日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、同年12月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成29年3月22日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。
なお、請求人は、平成29年7月13日に上申書を提出し、審査官が同年5月19日に作成した、特許法第164条第3項に定める報告(前置報告)の内容に対して反論している。

2 補正の適否について
平成29年3月22日になされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、本件補正前の平成28年10月25日付け手続補正で補正された特許請求の範囲について補正しようとするものであるところ、請求項1についてした本件補正は、補正前の請求項1を削除するとともに、請求項2の記載を引用して記載された請求項9を請求項1とする補正であるから、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的としたものということができる。

3 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「IPSモードの液晶セルの視認側に配置される第1の粘着剤層付偏光フィルム、および、前記液晶セルの背面側に配置される第2の粘着剤層付偏光フィルムを有する粘着剤層付偏光フィルムセットであって、
前記第1の粘着剤層付偏光フィルムは、第1粘着剤層および第1偏光フィルムを有するものであって、前記第1偏光フィルムは、厚み25μm以下の第1偏光子の片側に湿度膨張係数が1.0×10^(-6)/%RH以下の第1透明保護フィルム(b11)を有し、他の片側に第2透明保護フィルム(b12)を介して、または介することなく表面処理層を有し、前記表面処理層付き第2透明保護フィルム(b12)または第2透明保護フィルム(b12)を介さない場合の表面処理層の透湿度が500g/m^(2)・24h以下であり、かつ、前記第1透明保護フィルム(b11)の側が前記第1粘着剤層を介して前記液晶セル側になるように配置されるものであり、
前記第2の粘着剤層付偏光フィルムは、第2粘着剤層および第2偏光フィルムを有するものであって、前記第2偏光フィルムは、厚み10μm以下の第2偏光子の少なくとも片側に第1透明保護フィルム(b21)を有しており、前記第2偏光フィルムにおいて第2粘着剤層を設けていない側には第3粘着剤層を介して透湿度が5?80g/m^(2)・24hの輝度向上フィルムが貼り合されており、かつ、前記第2粘着剤層を介して前記液晶セル側になるように配置されるものである、ことを特徴とする粘着剤層付偏光フィルムセット。」

4 拒絶査定の拒絶の理由の概要
(1)(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(2)(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

(3)(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その優先日前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



・理由(1)(特許法第36条第6項第1号)について
・本件補正前の請求項1?11
請求項1において、「表面処理層」、「輝度向上フィルム」には、バリア層としての機能は認められず、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
請求項2を引用する請求項9以外の部分についても同様である。

・理由(2)(特許法第29条第1項第3号)、理由(3)(特許法第29条第2項)について
・本件補正前の請求項1?11
・引用文献1?4
引用文献1の【0199】、【0200】には、実施例2の視認側偏光板と、実施例3の背面側偏光板をセットとすることが記載されており、ガラスの代わりに、【0171】の示唆に従い、IPS型の液晶セルを使用することは、引用文献1に記載されているに等しい事項である。

<引用文献等一覧>
1.特開2014-35393号公報
2.国際公開第2013/089046号
3.特開2003-327718号公報
4.特開2008-224758号公報

5 引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2014-35393号公報(以下「引用例」という。)には、次の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。
(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、厚さが1?10μm と薄肉化された偏光子に透明保護フィルムが貼合されている偏光板、及びその偏光板を液晶セルに貼着した液晶表示パネルに関するものである。」

(2)「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これらの特許文献1?5に開示される技術によれば、厚さが10μm 以下という薄肉化された偏光子を製造することができる。本発明者は、このように薄肉化された偏光子を有する偏光板を液晶セルに貼着して液晶パネルとする技術について、さらに研究を重ねてきた。その結果、例えば、基材フィルム上で一軸延伸され、薄肉の状態で作製された偏光子の基材フィルムとは反対側に透明保護フィルムを貼って得られる偏光板、その基材フィルムを剥がして得られる偏光板、あるいは基材フィルムを剥がした後の偏光子面に別の透明保護フィルムを貼って得られる偏光板を、液晶セルに貼着した場合、得られる液晶パネルは、その後高温環境にさらされたり、高温高湿環境にさらされたりすると、反りが大きくなりやすい傾向にあることが明らかになってきた。
【0011】
そこで、本発明の課題の一つは、厚さが10μm 以下と薄肉化された偏光子に透明保護フィルムが貼合された偏光板であって、その偏光板を液晶セルに貼着して液晶パネルとした場合に、高温環境や高温高湿環境にさらされても反りを小さくすることができる偏光板を提供することにある。本発明のもう一つの課題は、その偏光板を液晶セルに貼着して、高温環境や高温高湿環境にさらされても反りが小さい液晶パネルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
研究の結果、一軸延伸されて厚さが1?10μm となった偏光子に、延伸されたアクリル系樹脂フィルムを両者の延伸軸が直交するように貼合することが、液晶パネルの反り防止に有効であることを見出し、さらに種々の検討を加えて本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明によれば、一軸延伸されて1?10μm の厚さを有し、二色性物質が吸着配向しているポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子と、延伸されたアクリル系樹脂フィルムとが、両者の延伸軸が直交するように貼合されている偏光板が提供される。
【0014】
この偏光板を構成する偏光子は、縦一軸延伸又は横一軸延伸によって製造することができ、アクリル系樹脂フィルムは、縦方向が延伸軸となる一軸若しくは二軸延伸又は横方向が延伸軸となる一軸若しくは二軸延伸によって製造することができるが、両者の延伸軸が直交するように貼合することが肝要である。とりわけ、縦一軸延伸によって製造された偏光子と、横一軸延伸によって製造されたアクリル系樹脂フィルムとが、ロール・トゥ・ロール(Roll to Roll)で貼合され、両者の延伸軸を直交させた形態が、偏光性能の面からも生産性の面からも有利である。
【0015】
アクリル系樹脂フィルムは、アクリル系のベース樹脂にゴム粒子を10?50重量%含有するアクリル系樹脂組成物から形成し、これを延伸したもので構成することができる。延伸されたアクリル系樹脂フィルムは、15?60μm の厚さを有するものであることが好ましい。また、延伸されたアクリル系樹脂フィルムは、その延伸軸方向及びそれと直交する方向の長さがそれぞれ100mmの正方形に裁断し、温度80℃の乾燥下で24時間加熱した後の延伸軸方向の収縮率が1.5%以上、とりわけ1.5?5%の範囲にあるものであることが好ましい。
【0016】
これらの偏光板において、アクリル系樹脂フィルムに貼合されている面と反対側の偏光子面には、光学フィルムを貼合することができる。アクリル系樹脂フィルムと偏光子は、紫外線硬化型接着剤により貼合されていることが好ましい。偏光子のアクリル系樹脂フィルムが貼合されている面と反対側に光学フィルムを貼合する場合、その光学フィルムと偏光子も、紫外線硬化型接着剤により貼合されていることが好ましい。
【0017】
また、本発明によれば、上記いずれかの偏光板と、液晶セルとを備え、偏光板は、そのアクリル系樹脂フィルムに貼合されている面と反対側の偏光子面が液晶セル側となるように、両者が貼着されている液晶表示パネルも提供される。
【0018】
この液晶表示パネルは、液晶セルの片面に、上記した本発明の偏光板が貼着され、液晶セルの他面には、本発明の偏光板とは異なる第二の偏光板が貼着されている形態をとることができる。また、液晶セルの両面に、それぞれ本発明の偏光板が貼着されている形態をとることもできる。いずれの場合も、偏光板は、粘着剤層を介して液晶セルへ貼着するのが好ましい。いずれの場合も、本発明の偏光板は、上記したアクリル系樹脂フィルムに貼合されている面と反対側の偏光子面に光学フィルムが貼合されている形態のものとし、その光学フィルム側が、粘着剤層を介して液晶セルに貼合されるようにするのが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の偏光板は、液晶セルに貼着して液晶パネルとしたとき、高温環境や高温高湿環境にさらされても反りの小さいものとなる。したがって、本発明の液晶パネルも同様に、高温環境や高温高湿環境にさらされたときに反りの小さいものとなる。」

(3)「【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、適宜図面も参照しながら、本発明を詳細に説明する。本発明では、一軸延伸されて1?10μm の厚さを有し、二色性物質が吸着配向しているポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子と、延伸されたアクリル系樹脂フィルムとを、両者の延伸軸が直交するように貼合して、偏光板を構成する。
【0022】
本発明に係る偏光板の層構成の例を図1及び図2に断面模式図で示した。図1は、本発明の偏光板を液晶パネルの視認側に配置する場合の好適な層構成例を、液晶セルとともに示している。図1の(A)では、偏光子11の一方の面に、延伸されたアクリル系樹脂フィルム12が貼合され、偏光子11の他方の面には光学フィルム14が貼合されて、視認側偏光板10が構成されている。その光学フィルム14の外側に設けられた粘着剤層18によって、液晶セル30に貼り合わされる。
【0023】
図1の(B)では、偏光子11の一方の面に、延伸されたアクリル系樹脂フィルム12が貼合され、偏光子11の他方の面には光学フィルム14が貼合され、さらにその光学フィルム14の外側に層間粘着剤層17を介して第二の光学フィルム15が貼合されて、視認側偏光板10が構成されている。第二の光学フィルム15の外側に設けられた粘着剤層18によって、液晶セル30に貼り合わされる。
【0024】
図2は、本発明の偏光板を液晶パネルの背面側に配置する場合の好適な層構成例を、液晶セルとともに示している。図2の(A)では、偏光子21の一方の面に、延伸されたアクリル系樹脂フィルム22が貼合され、偏光子21の他方の面には光学フィルム24が貼合されて、背面側偏光板20が構成されている。その光学フィルム24の外側に設けられた粘着剤層28によって、液晶セル30に貼り合わされる。
【0025】
図2の(B)では、偏光子21の一方の面に、延伸されたアクリル系樹脂フィルム22が貼合され、これら2層で背面側偏光板20が構成されている。偏光子21のアクリル系樹脂フィルム22が貼合される面と反対側には、直接粘着剤層28が設けられ、その粘着剤層28によって、液晶セル30に貼り合わされる。
【0026】
いずれの例においても、偏光子11とアクリル系樹脂フィルム12、また偏光子11と光学フィルム14、さらには偏光子21とアクリル系樹脂フィルム22、また偏光子21と光学フィルム24とは、接着剤によって貼合されるのが通例であるが、接着剤層は図示を省略している。後述する図3?図8においても同様である。粘着剤層18,28の外側には、液晶セル30に貼り合わせる直前までその表面を仮着保護するセパレートフィルムが設けられるが、このセパレートフィルムも図示を省略している。
【0027】
また本発明では、偏光子11,21と、延伸されたアクリル系樹脂フィルム12,22とを、両者の延伸軸が直交するように貼合する。このように、偏光子とアクリル系樹脂フィルムの延伸軸が直交するように貼合することで、それを液晶セルに貼って液晶パネルとしたときの反りを抑え、延いては表示品位の低下を抑制することができる。」

(4)「【0034】
[偏光子]
偏光子11,21は、一軸延伸され、二色性物質が吸着配向しているポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる。ポリビニルアルコール系樹脂は、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化することにより得られる。ポリ酢酸ビニル系樹脂は、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニルとそれに共重合可能な他の単量体との共重合体であってもよい。酢酸ビニルに共重合可能な他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類、アンモニウム基を有するアクリルアミド類などが挙げられる。
【0035】
かかるポリビニルアルコール系樹脂を製膜したものが、偏光子11,21の原反フィルムとなる。ポリビニルアルコール系樹脂を製膜する方法は特に限定されず、公知の方法で製膜することができるが、本発明で規定する薄肉の偏光子を得るためには、ポリビニルアルコール系樹脂の溶液を基材フィルム上に塗布して製膜する方法が好ましく採用される。
【0036】
偏光子11,21は、薄肉化の観点から、その厚さを10μm 以下とするが、好ましくは7μm 以下である。偏光子の厚さを10μm 以下とすることにより、薄型の偏光板、さらには液晶表示パネルとすることができる。偏光子11,21は、延伸されて配向し、そこに二色性物質が吸着していることにより、偏光子としての機能、すなわち自然光から直線偏光を取り出す機能を発現する。その延伸倍率は、好ましくは5倍超、さらに好ましくは5倍を超え17倍以下である。」

(5)「【0042】
[アクリル系樹脂フィルム]
本発明では、以上説明した偏光子11,21に、アクリル系樹脂フィルム12,22を貼合して、偏光板10,20とする。アクリル系樹脂フィルム12,22は、延伸されており、その延伸軸が偏光子11,21の延伸軸と直交するように貼合される。
・・・略・・・
【0082】
アクリル系樹脂フィルムには、ハードコート層、防眩層、及び低屈折率層の如き、光学フィルムに一般的に採用される機能層を付与することができる。
【0083】
ハードコート層は、フィルムの表面硬度を高める機能を有する層であり、 JIS K 5600-5-4:1999「塗料一般試験方法-第5部:塗膜の機械的性質-第4節:引っかき硬度(鉛筆法)」に従って行われる鉛筆硬度試験(試験板はガラス板を用いる)で、H又はそれより硬い値を示すことが好ましい。ハードコート層が設けられたフィルムは、その鉛筆硬度が4H又はそれより硬い値を示すものであることがより好ましい。ハードコート層を形成する材料(ハードコート材料)は、熱や光で硬化するものであることが好ましく、例えば、有機シリコーン系、メラミン系、エポキシ系、アクリル系、及びウレタンアクリレート系の如き有機ハードコート材料;二酸化ケイ素の如き無機ハードコート材料などを挙げることができる。これらの中でも、接着力が良好であり、生産性に優れるという観点から、ウレタンアクリレート系及び多官能アクリレート系のハードコート材料が好ましい。ハードコート層は、所望により、屈折率の調整、曲げ弾性率の向上、及び/又は体積収縮率の安定化を図り、また耐熱性、帯電防止性、防眩性などの向上を図る目的で、各種のフィラーを含有することができる。さらにハードコート層は、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、レベリング剤、消泡剤などの添加剤を含有することもできる。
・・・略・・・
【0125】
さらに、機能層は、上述した以外に、防汚層、ガスバリア層、透明帯電防止層、プライマー層、電磁波遮蔽層、下塗り層等、光学フィルムに採用される一般的なその他の層であってもよい。」

(6)「【0126】
[光学フィルム]
図1及び図2を参照して説明したとおり、アクリル系樹脂フィルム12,22が貼合された偏光子11,21の反対面には、光学フィルム14,15,24を貼合することができる。また、図2には示していないが、液晶セル30の背面側に配置される偏光板20においては、液晶セル30から遠い側に位置するアクリル系樹脂フィルム22の外側に、光学フィルムを貼合することもできる。偏光子11,21と液晶セル30との間に位置する光学フィルム14,15,24は、樹脂の延伸フィルムで構成される位相差フィルムとも呼ばれるもの、光学異方性物質の塗布・配向によって形成される光学補償フィルムとも呼ばれるもの、その他一般に保護フィルムとも呼ばれるものなどで構成することができる。また、背面側偏光板20において、アクリル系樹脂フィルム22の外側に配置することができる光学フィルムの例として、輝度向上フィルムを挙げることができる。
【0127】
樹脂フィルムの延伸によって形成される位相差フィルムは、ポリカーボネート系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、トリアセチルセルロースを代表例とするアセチルセルロース系樹脂などで構成することができる。これらの樹脂は、一軸延伸又は二軸延伸によって、適度の面内位相差Re及び厚み方向位相差Rthを発現する。二軸性の指標は、Nz係数で表される。複屈折性フィルムの面内遅相軸方向の屈折率をnx 、面内で遅相軸と直交する方向、すなわち進相軸方向の屈折率をny、厚み方向の屈折率をnz、そしてフィルムの厚さをdとするとき、面内位相差Re、厚み方向位相差Rth、及びNz係数は、それぞれ以下の式(1)、(2)及び(3)で定義される。
【0128】
Re=(n_(x)-n_(y))×d (1)
Rth=〔(n_(x)+n_(y))/2-n_(z)〕×d (2)
Nz=(n_(x)-n_(z))/(n_(x)-n_(y)) (3)
【0129】
これらの面内位相差Re、厚み方向位相差Rth、及びNz係数は、市販されている位相差測定装置を用いて、測定することができる。市販の位相差測定装置の例を挙げると、王子計測機器(株)から販売されている“KOBRA”シリーズ、例えば、“KOBRA-21ADH”や、“KOBRA WR”などがある。
【0130】
上に例示した樹脂からなる位相差フィルムは、それぞれの樹脂メーカーから各種の光学特性を有するものが市販されている。シクロオレフィン系樹脂からなる位相差フィルムに相当する市販品の例を商品名で挙げると、JSR(株)から販売されている“アートンフィルム”、積水化学工業(株)から販売されている“エスシーナ位相差フィルム”、日本ゼオン(株)から販売されている“ゼオノアフィルム”などがある。
【0131】
光学異方性物質の塗布・配向によって形成される光学補償フィルムは、基材フィルムの表面に、液晶性化合物などの光学異方性物質が塗布され、配向され、その配向が固定されているものである。このような光学補償フィルムに相当する市販品の例を商品名で挙げると、富士フイルム(株)から販売されている“WVフィルム”、JX日鉱日石エネルギー(株)から販売されている“NHフィルム”及び“NVフィルム”などがある。
【0132】
その他、偏光子の保護フィルムとして用いられるものには、トリアセチルセルロースを代表例とするアセチルセルロース系樹脂フィルム、シクロオレフィン系樹脂フィルムなどがある。
【0133】
また、背面側偏光板の液晶セルから遠い側(バックライト側)に配置される輝度向上フィルムは、例えば、ある種の偏光光を透過し、それと逆の性質を示す偏光光を反射する反射型偏光板などであることができる。一方の直線偏光を透過し、それと直交する直線偏光を反射する反射型偏光板に相当する市販品の例を商品名で挙げると、3M社で製造販売されており、日本では住友スリーエム(株)から入手できる“DBEF”がある。」

(7)「【0168】
[液晶表示パネル及び液晶表示装置]
本発明の偏光板は、液晶表示装置を構成する液晶表示パネルに好適に用いられる。液晶表示パネルは、液晶セルの両面に、それぞれ視認側偏光板及び背面側偏光板を貼着して構成される。この視認側偏光板及び/又は背面側偏光板として、本発明の偏光板を用いることができる。そこで、本発明に係る液晶表示パネルは、上で説明した偏光板と、液晶セルとを備え、その偏光板は、アクリル系樹脂フィルムに貼合されている面と反対側の偏光子面が液晶セル側となるように、両者が貼着されているものである。
【0169】
図4?図8に、本発明に係る液晶表示パネルの層構成例を、それぞれ断面模式図で示した。図4は、視認側偏光板10を図1の(A)に示したもので構成し、背面側偏光板を図2の(A)に示したもので構成した例である。図5は、視認側偏光板10を図1の(B)に示したもので構成し、背面側偏光板を図2の(A)に示したもので構成した例である。図6は、視認側偏光板10を図1の(B)に示したもので構成し、背面側偏光板を図2の(B)に示したもので構成した例である。図7は、視認側偏光板50を、図1の(B)に示したものに類似するが、最表面の保護フィルム55が、延伸されたアクリル系樹脂フィルム以外の樹脂フィルムであるもので構成し、背面側偏光板20を図2の(A)に示したもので構成した例である。また図8は、視認側偏光板10を図1の(B)に示したもので構成し、背面側偏光板52を、図2の(A)に示したものに類似するが、最表面の保護フィルム57が、延伸されたアクリル系樹脂フィルム以外の樹脂フィルムであるもので構成した例である。各図において、液晶パネル60の背面側には、バックライトユニット70が描かれている。
【0170】
図7及び図8に示すように、液晶セルの片面に本発明の偏光板が貼着され、液晶セルの他面には本発明の規定を満たさない偏光板が貼着されている液晶表示パネルも、本発明の一つの形態となる。もちろん、図4及び図5に示すように、液晶セルの両面とも、偏光子のアクリル系樹脂フィルムが貼合されている面と反対側の面に光学フィルムが貼着されている本発明の偏光板とし、前面側の偏光板がその光学フィルム側で第一の粘着剤層18を介して液晶セル30に貼着され、背面側の偏光板もその光学フィルム側で第二の粘着剤層28を介して液晶セル30に貼着されている液晶表示パネルも、本発明の一つの形態となる。
【0171】
液晶表示パネル及び液晶表示装置の組立ては、従来公知の方法に従って行うことができる。すなわち液晶表示装置は、一般に、液晶セル、偏光板、及び必要に応じて照明システムなど、他の構成部材を適宜組み立て、さらに駆動回路を組むことにより形成される。そして、本発明の偏光板を視認側及び/又は背面側の偏光板として用いること以外は、従来に準じて、液晶表示パネル、さらには液晶表示装置を組み立てることができる。液晶セルは、TN型、VA型、IPS型など、任意のタイプのものが使用できる。これらの中でも特に、液晶セルが薄いVA型やIPS型に対して、本発明の偏光板は優れた効果を発現する。
【0172】
液晶セルの片側又は両側に偏光板を配置して液晶表示パネルを構成し、さらに照明システムにバックライト又は反射板を用いて、液晶表示装置を構成することができる。このような液晶表示装置において、液晶セルの片側又は両側に配置される偏光板の少なくとも一つは、本発明で規定する偏光板とする。液晶表示装置はさらに、例えば、拡散板、反射防止膜、保護板、プリズムアレイ、レンズアレイシートなどの適宜の要素を組み合わせて構成することができる。」

(8)「【実施例】
【0173】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。例中、含有量ないし使用量を表す%及び部は、特記ないかぎり重量基準である。
【0174】
[参考例1]アクリル系樹脂原反フィルムの作製
メタクリル酸メチル/アクリル酸メチルの重量比96/4の共重合体からなるアクリル系母相樹脂70部に、アクリル系ゴム粒子が30部の割合で配合されたアクリル系樹脂組成物のペレットを用いた。このアクリル系ゴム粒子は、最内層がメタクリル酸メチルに少量のメタクリル酸アリルが共重合された硬質の重合体、中間層がアクリル酸ブチルを主成分とし、それにスチレン及び少量のメタクリル酸アリルが共重合された軟質の弾性体、最外層がメタクリル酸メチルに少量のアクリル酸エチルが共重合された硬質の重合体からなる3層構造のゴム弾性体粒子であって、中間層である弾性体までの平均粒径が240nmのものである。このアクリル系樹脂組成物のビカット軟化温度を測定したところ、102℃であった。また、ガラス転位温度(Tg)を測定したところ、105℃であった。
【0175】
上記のペレットを65mmφの一軸押出機に投入し、温度275℃に設定されたT型ダイを介して押し出し、押し出されたフィルム状溶融樹脂の両面を、45℃に温度設定された鏡面を有する2本のポリシングロールで挟み込んで冷却し、80μm の厚さを有するアクリル系樹脂の原反フィルムを作製した。これを「80μm 厚原反フィルム」とする。
【0176】
また、上と同様の方法であるが、T型ダイのスリット間隔を変更することにより、40μm の厚さを有するアクリル系樹脂の原反フィルムを作製した。これを「40μm 厚原反フィルム」とする。
【0177】
[参考例2]アクリル系樹脂原反フィルムの延伸
テンター横延伸機を用い、参考例1で作製した80μm 厚原反フィルムを温度100℃で横一軸に2倍延伸して、40μm の厚さを有する延伸アクリル系樹脂フィルムを作製した。これを「40μm 厚延伸フィルム」とする。
【0178】
[参考例3]フィルムの収縮率測定
参考例2で作製した40μm 厚延伸フィルムについて、延伸軸方向の収縮率測定を行った。まず、このフィルムから、延伸軸方向(幅方向、TD)及びそれと直交する方向(長手方向、MD)の長さがそれぞれ100mmの正方形サンプルを裁断し、その延伸軸方向の長さを精確に求めた。次に、このサンプルを80℃のオーブンに入れて24時間加熱状態を維持した後、オーブンから取り出し、温度23℃、相対湿度50%で1分間静置し、再び延伸軸方向の長さを求めた。そして、初期長さと加熱後長さから、以下の式により、収縮率を求めた。
収縮率(%)=〔(初期長さ-加熱後長さ)/初期長さ〕×100
【0179】
参考例1で作製した40μm 厚原反フィルムについても同様に、幅方向(TD)及び長手方向(MD)の長さがそれぞれ100mmの正方形サンプルを裁断し、80℃で24時間加熱したときの加熱前後の長さから、幅方向(TD)の収縮率を求めた。
【0180】
また比較のため、いずれも市販品である以下のフィルムについても、100mm×100mmの正方形サンプルを裁断し、80℃で24時間加熱して、加熱前後の長さから幅方向の収縮率を求めた。結果は、上のアクリル系樹脂フィルムの結果とともに表1に示した。
【0181】
シクロオレフィン系樹脂フィルム:
厚さ25μm の位相差フィルム(面内位相差90nm、厚み方向位相差79nm)、
厚さ23μm の未延伸フィルム。
トリアセチルセルロースフィルム:
厚さ40μm のフィルム。
【0182】
【表1】・・・略・・・
【0183】
[参考例4]偏光性積層フィルムの作製
(a)基材フィルム
まず、基材フィルム上にポリビニルアルコール水溶液を塗布し、乾燥して、偏光子製造用の原反となる積層フィルムを作製した。ここでは、厚さ110μm で融点163℃のポリプロピレンフィルムを基材フィルムとした。
【0184】
(b)プライマー層の形成
日本合成化学工業(株)から入手した平均重合度1,100でケン化度99.5モル%のアセトアセチル基変性ポリビニルアルコール粉末(商品名“ゴーセファイマー Z-200”)を、95℃の熱水に溶解し、3%濃度の水溶液を調製した。この水溶液に架橋剤として、田岡化学工業(株)から入手した水溶性ポリアミドエポキシ樹脂(商品名“スミレーズレジン 650”、固形分濃度30%の水溶液)を、ポリビニルアルコールの固形分6部あたり5部の割合で混合し、プライマー用塗工液とした。
【0185】
先のポリプロピレンからなる基材フィルムにコロナ処理を施した後、そのコロナ処理面に、上のプライマー用塗工液をマイクログラビアコーターで塗工し、80℃で10分間乾燥して、厚さ0.2μmのプライマー層を形成した。
【0186】
(c)ポリビニルアルコール層の形成
(株)クラレから入手した平均重合度 2,400でケン化度98.0?99.0モル%のポリビニルアルコール粉末(商品名“PVA124”)を、95℃の熱水に溶解し、8%濃度のポリビニルアルコール水溶液を調製した。得られた水溶液を、上記基材フィルムのプライマー層上にリップコーターを用いて室温で塗工し、80℃で20分間乾燥して、基材フィルム/プライマー層/ポリビニルアルコール層からなる積層フィルムを作製した。ポリビニルアルコール層の厚さは10μm であった。
【0187】
(d)積層フィルムの延伸
得られた積層フィルムを、温度160℃で 5.8倍に自由端縦一軸延伸した。こうして得られた積層延伸フィルムの全体厚さは28.5μmであり、ポリビニルアルコール層の厚さは4.2μmであった。
【0188】
(e)ポリビニルアルコール層の染色
得られた積層延伸フィルムを、水/ヨウ素/ヨウ化カリウムの重量比 100/0.35/10の水溶液に26℃で90秒間浸漬して染色した後、10℃の純水で洗浄した。次にこの積層フィルムを、水/ホウ酸/ヨウ化カリウムの重量比 100/9.5/5の水溶液に76℃で300秒間浸漬して、ポリビニルアルコールを架橋させた。引き続き、10℃の純水で10秒間洗浄し、最後に80℃で200秒間の乾燥処理を行った。以上の操作により、ポリプロピレン基材フィルム上に、ヨウ素が吸着配向しているポリビニルアルコール層からなる偏光子が形成されている偏光性積層フィルムを作製した。
【0189】
[実施例1]視認側偏光板の作製
(a)偏光子へのアクリル系樹脂フィルムの貼合
参考例4で作製した偏光性積層フィルムの基材フィルムとは反対面(偏光子面)に、参考例2で作製したアクリル系樹脂からなる40μm 厚延伸フィルムを貼合した。まず、その40μm 厚延伸フィルムの片面にコロナ処理を施し、そのコロナ処理面に、エポキシ化合物と光カチオン重合開始剤を含む紫外線硬化型接着剤を塗工し、次にその接着剤塗工面を、参考例4で作製した偏光性積層フィルムの偏光子面に、ロール・トゥ・ロールで、すなわち40μm 厚延伸フィルムの延伸軸と偏光子の延伸軸とが直交するように、両側からニップロールで挟んで貼り合わせた。そして、偏光性積層フィルムの基材フィルム側から紫外線を照射し、接着剤を硬化させた。こうして、アクリル系樹脂からなる40μm 厚延伸フィルム/ポリビニルアルコール系偏光子/ポリプロピレン基材フィルムの層構成からなる第二積層フィルムを作製した。
【0190】
(b)偏光子他面への位相差フィルムの貼合
シクロオレフィン系樹脂からなる厚さ25μm の位相差フィルム(面内位相差90nm、厚み方向位相差79nm)を長尺ロール状で用意した。この位相差フィルムは、幅方向に遅相軸を有する。この位相差フィルムの片面にコロナ処理を施し、そのコロナ処理面に、上と同じ紫外線硬化型接着剤を塗工した。一方、上の(a)で作製した第二積層フィルムから、ポリプロピレン基材フィルムを剥がして巻き取り、その基材フィルムを剥がした後の偏光子面に、上記位相差フィルムの接着剤塗工面をロール・トゥ・ロールで重ねて、両側からニップロールで挟んで貼り合わせた。このとき、位相差フィルムの遅相軸と偏光子の吸収軸は直交している。そして位相差フィルム側から紫外線を照射し、接着剤を硬化させた。こうして、アクリル系樹脂からなる40μm 厚延伸フィルム/ポリビニルアルコール系偏光子/シクロオレフィン系位相差フィルムの層構成からなる偏光板を作製した。
【0191】
[実施例2]偏光板への第二の位相差フィルムの貼合と粘着剤層の形成
実施例1で作製した偏光板は、粘着剤を介してその位相差フィルム側を液晶セルに貼り合わせることができるが、ここでは、その位相差フィルム側にさらに第二の位相差フィルムを貼り合わせた。まず、第二の位相差フィルムとして、スチレン系樹脂をコア層とし、その両面をアクリルゴム入りのアクリル系樹脂層で挟んだ3層構造を有し、全体厚さ46μm、面内位相差60nm、Nz係数-1.0のものを長尺ロール状で用意した。この第二の位相差フィルムは、幅方向に遅相軸を有する。次に、実施例1で作製した偏光板のシクロオレフィン系位相差フィルム側に、厚さ20μm のアクリル系粘着剤層を介して第二の位相差フィルムをロール・トゥ・ロールで貼合した。次に、この第二の位相差フィルムの外側に、セパレートフィルム上に形成された厚さ20μm のアクリル系粘着剤層を設けた。こうして、アクリル系樹脂からなる40μm 厚延伸フィルム/ポリビニルアルコール系偏光子/シクロオレフィン系位相差フィルム/層間粘着剤層/3層構造の第二の位相差フィルム/粘着剤層/セパレートフィルムの層構成からなる粘着剤付き視認側偏光板を作製した。偏光子の吸収軸に対して、シクロオレフィン系位相差フィルムの遅相軸及び第二の位相差フィルムの遅相軸は、いずれも直交している。
【0192】
[実施例3]背面側偏光板の作製
(a)偏光板の作製
実施例1の(b)において、シクロオレフィン系樹脂からなる厚さ25μm の位相差フィルムを、未延伸で厚さ23μm のシクロオレフィン系樹脂フィルムに変更し、その他は実施例1に準じて、未延伸シクロオレフィン系樹脂フィルム/ポリビニルアルコール系偏光子/アクリル系樹脂からなる40μm 厚延伸フィルムの層構成からなる偏光板を作製した。
【0193】
(b)偏光板への光学フィルムの貼合と粘着剤層の形成
上で作製した偏光板のアクリル系樹脂からなる40μm 厚延伸フィルム側に、厚さ20μm のアクリル系粘着剤層を介して、住友スリーエム(株)から入手した輝度向上フィルム(商品名“DBEF”)を貼合した。また、未延伸シクロオレフィン系樹脂フィルム側には、セパレートフィルム上に形成された厚さ20μm のアクリル系粘着剤層を設けた。こうして、セパレートフィルム/粘着剤層/未延伸シクロオレフィン系樹脂フィルム/ポリビニルアルコール系偏光子/アクリル系樹脂からなる40μm 厚延伸フィルム/層間粘着剤/輝度向上フィルムの層構成からなる粘着剤付き背面側偏光板を作製した。
【0194】
[参考例5]アクリル系樹脂が貼合されていない視認側偏光板の作製
実施例1の(a)において、アクリル系樹脂からなる40μm 厚延伸フィルムの代わりに、コニカミノルタオプト(株)から入手した厚さ40μm のトリアセチルセルロースフィルムを用い、それとポリビニルアルコール系偏光子との貼合に3%ポリビニルアルコール水溶液からなる接着剤を用い、その接着剤を介して両者を貼合した後、加熱乾燥することにより両者を接着した以外は、実施例1に準じて、トリアセチルセルロースフィルム/ポリビニルアルコール系偏光子/シクロオレフィン系位相差フィルムの層構成からなる偏光板を作製した。
【0195】
さらにこの偏光板に対して、実施例2に準ずる操作を行って、トリアセチルセルロースフィルム/ポリビニルアルコール系偏光子/シクロオレフィン系位相差フィルム/層間粘着剤層/3層構造の第二の位相差フィルム/粘着剤層/セパレートフィルムの層構成からなる粘着剤付き視認側偏光板を作製した。
【0196】
[参考例6]アクリル系樹脂が貼合されていない背面側偏光板の作製
(a)偏光板の作製
実施例1の(a)において、アクリル系樹脂からなる40μm 厚延伸フィルムの代わりに、コニカミノルタオプト(株)から入手した厚さ40μm のトリアセチルセルロースフィルムを用い、それとポリビニルアルコール系偏光子との貼合に3%ポリビニルアルコール水溶液からなる接着剤を用い、その接着剤を介して両者を貼合した後、加熱乾燥することにより両者を接着し、トリアセチルセルロースフィルム/ポリビニルアルコール系偏光子/ポリプロピレン基材フィルムの層構成からなる積層フィルムを作製した。
【0197】
未延伸で厚さ23μm のシクロオレフィン系樹脂フィルムを長尺ロール状で用意し、その片面にコロナ処理を施し、そのコロナ処理面に、実施例1の(a)で用いたのと同じ紫外線硬化型接着剤を塗工した。一方、上の積層フィルムからポリプロピレン基材フィルムを剥がして巻き取り、その基材フィルムを剥がした後の偏光子面に、上記シクロオレフィン系樹脂フィルムの接着剤塗工面をロール・トゥ・ロールで重ねて、両側からニップロールで挟んで貼り合わせた。そして、シクロオレフィン系樹脂フィルム側から紫外線を照射し、その他は実施例1の(b)に準じて接着剤を硬化させた。こうして、未延伸シクロオレフィン系樹脂フィルム/ポリビニルアルコール系偏光子/トリアセチルセルロースフィルムの層構成からなる偏光板を作製した。
【0198】
(b)偏光板への光学フィルムの貼合と粘着剤層の形成
こうして得た偏光板に対し、実施例3の(b)に準ずる操作を行って、セパレートフィルム/粘着剤層/未延伸シクロオレフィン系樹脂フィルム/ポリビニルアルコール系偏光子/トリアセチルセルロースフィルム/層間粘着剤/輝度向上フィルムの層構成からなる粘着剤付き背面側偏光板を作製した。
【0199】
[実施例4]液晶パネル相当品の作製と反りの評価
実施例2で作製したアクリル系樹脂からなる40μm 厚延伸フィルムを最表面に有する粘着剤付き視認側偏光板を、その吸収軸が長辺となるよう200mm×150mmの大きさの長方形に裁断した。また、実施例3で作製したアクリル系樹脂からなる40μm 厚延伸フィルムの外側に輝度向上フィルムを貼った粘着剤付き背面側偏光板を、その吸収軸が短辺となるよう200mm×150mmの大きさの長方形に裁断した。
【0200】
そして、206mm×156mmの大きさの長方形で厚さが400μm のガラス板(コーニング社から入手した商品名“EAGLE XG”)に、上記の粘着剤付き視認側偏光板からセパレートフィルムを剥がしたものを、他面には上記の粘着剤付き背面側偏光板からセパレートフィルムを剥がしたものを、それぞれガラス板の四辺から約3mmの余白ができるように貼り合わせた。これをオートクレーブに入れ、温度50℃、圧力5MPa で20分間の加圧加熱処理を施し、その後、温度23℃、相対湿度55%の条件で24時間養生した。こうして、ガラス板の両面に偏光板がクロスニコルで貼り合わされた液晶パネル相当品を作製した。この液晶パネル相当品は、図7に示す層構成を有するが、図7における背面側偏光板20を構成する延伸されたアクリル系樹脂フィルム22の外側には、いずれも図示しない層間粘着剤層を介して輝度向上フィルムが貼合されている。
【0201】
この液晶パネル相当品60を、80℃のオーブンに入れて24時間加熱状態を保持した後、取り出し、温度23℃、相対湿度55%の雰囲気に1分間静置した。これを、(株)ニコン製の3次元測定器(商品名“VMR12072”)の試料台上に、視認側偏光板10が上になるよう設置し、反り量を測定した。反り量は、視認側偏光板10側で凹、背面側偏光板側20で凸となるときをプラス(+)、逆に視認側偏光板10側で凸、背面側偏光板20側で凹となるときをマイナス(-)とした。そして、図9に示すように、液晶パネル相当品60を構成する視認側偏光板10の四辺を含む長辺方向5列、短辺方向5列の計25箇所(図9中のP01?P25)につき、視認側偏光板最表面の高さ位置データを求めた。そのうえで、長辺方向の中央5点(図9中の P11、P12、P13、P14 及び P15)のデータの最大値と最小値の差をもって長辺方向の反り量とし、また短辺方向の中央5点(図9中の P03、P08、P13、P18 及び P23)のデータの最大値と最小値の差をもって短辺方向の反り量とした。その結果、長辺方向の反り量は+1,600μm、短辺方向の反り量は+113μm であった。
【0202】
この液晶パネル相当品60の反り状態を、模式的な斜視図で図10に示した。この図において、液晶パネル相当品60の上側が視認側偏光板10(図示せず)となっている。そして、基準面62上で、液晶パネル相当品60に全く反りが生じていないと仮定したときの視認側偏光板10の最表面位置が、一点鎖線で仮想の四角形ABCDに相当する仮想面63として表示されている。仮想面63における一つの角Aが、実際にはA1の位置にあり、同様に、仮想面63における角B,C,Dが、それぞれ実際にはB1,C1,D1の位置にある。図中の P03,P11,P13,P15 及び P23は、それぞれ図9に示した高さ位置データの測定位置に相当する。この例では、短辺中央の測定点 P11 及び P15 、また長辺中央の測定点 P03 及び P23 が、いずれも基準面62より浮き上がっている状態なので、長辺方向及び短辺方向とも反り量がプラスになっている。
【0203】
なおここでは、長辺方向5点及び短辺方向5点の測定データから、長辺方向及び短辺方向の反りを求めたが、図9及び図10における長辺方向中央の P11 から P15 に至るさらに多くの点、同じく短辺方向中央の P03 から P23 に至るさらに多くの点の高さ方向位置データを求め、それらから反り量を計算しても、概ね同じ結果が得られる。」

(9)「【図1】

【図2】

・・・略・・・
【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】



(10)上記(1)ないし(9)からみて、引用例には、図4?8に示されるような液晶表示パネルを構成することができる視認側偏光板及び背面側偏光板の具体例である、実施例1、2(【0189】ないし【0191】)の視認側偏光板及び実施例3(【0192】及び【0193】)の背面側偏光板として、次の発明が記載されている。
「粘着剤付き視認側偏光板及び粘着剤付き背面側偏光板であって、
粘着剤付き視認側偏光板は、アクリル系樹脂からなる40μm 厚延伸フィルム、染色前の厚さが4.2μmであるポリビニルアルコール系偏光子、シクロオレフィン系位相差フィルム、層間粘着剤層、3層構造の第二の位相差フィルム、粘着剤層、セパレートフィルムの層構成からなり、
粘着剤付き背面側偏光板は、セパレートフィルム、粘着剤層、未延伸シクロオレフィン系樹脂フィルム、染色前の厚さが4.2μmであるポリビニルアルコール系偏光子、アクリル系樹脂からなる40μm 厚延伸フィルム、層間粘着剤、住友スリーエム(株)から入手した輝度向上フィルム(商品名“DBEF”)の層構成からなる、
粘着剤付き視認側偏光板及び粘着剤付き背面側偏光板。」(以下「引用発明」という。)

6 周知の事項
(1)周知事項1
ア 拒絶査定の拒絶の理由に引用文献2として引用され、本願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2013/089046号には、次の事項が記載されている。
「[0064]
[実施例2] (ガスバリアーフィルムNo.22?26の作製)
実施例1のガスバリアーフィルムNo.7の基材(PEN;ポリエチレンナフタレート)を、下記の基材に変更した以外は実施例1と同様にして、表2に示すガスバリアーフィルムNo.22?26を作製した。
・・・略・・・
ガスバリアーフィルムNo.24の基材「2-3」は、ガラス転移温度が183℃、熱膨張係数が70ppm、湿度膨張係数が0.67ppm、厚みが200μmのノルボルネン系樹脂(JSR(株)製、商品名「アートン」)を用いた。
ガスバリアーフィルムNo.25の基材「2-4」は、ガラス転移温度が176℃、熱膨張係数が78ppm、湿度膨張係数が0.35ppm、厚みが200μmのシクロオレフィンポリマー(日本ゼオン(株)製、商品名「ゼオノア」)を用いた。
ガスバリアーフィルムNo.26の基材「2-5」は、ガラス転移温度が120℃、熱膨張係数が5ppm、湿度膨張係数が0.5ppm、厚みが200μmのポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂フィルム(帝人(株)製)を用いた。」

イ 拒絶査定の拒絶の理由に引用文献3として引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2003-327718号公報には、次の事項が記載されている。
「【0058】(実施例3)実施例1と同様にして、ただしフィルム基材としてガラス転移温度が183℃、熱膨張係数が70ppm、湿度膨張係数が0.67ppm、および厚みが200μmのノルボルネン系樹脂(JSR(株)製、商品名;「アートン」)のフィルムを使用したガスバリアフィルムを作成した。得られたガスバリア性フィルムの特性を評価した結果は次の通りである。
全光線透過率;90%
酸素透過率;0.2cc/m^(2)・day
水蒸気透過率;0.08g/m^(2)・day
表面平滑性;4.8nm
ガスバリア性は、実施例1のものと同等であった。また、得られたガスバリア性フィルム上に有機EL素子をコーティングし、180℃で6時間乾燥後のガスバリア性フィルムの特性を評価した結果は次の通りである。
全光線透過率;89%
酸素透過率;0.2cc/m^(2)・day
水蒸気透過率;0.05g/m^(2)・day
表面平滑性;5nm
【0059】(実施例4)実施例1と同様にして、ただしフィルム基材として、ガラス転移温度が176℃、熱膨張係数が78ppm、湿度膨張係数が0.35ppm、および厚みが200μmのシクロオレフィンポリマー(日本ゼオン(株)製、商品名;「ゼオノア」)のフィルムを使用したガスバリア性フィルムを作成した。得られたガスバリア性フィルムの特性を評価した結果は次の通りである。
全光線透過率;92%
酸素透過率;0.13cc/m^(2)・day
水蒸気透過率;0.04g/m^(2)・day
表面平滑性;3nm
ガスバリア性は、実施例1と同等であった。また、得られたガスバリア性フィルム上に有機EL素子をコーティングし、180℃で6時間乾燥後のガスバリア性フィルムの特性を評価した結果は次の通りである。
全光線透過率;89%
酸素透過率;0.2cc/m^(2)・day
水蒸気透過率;0.08g/m^(2)・day
表面平滑性;3.2nm」

ウ 上記ア及びイからみて、以下の事項が周知であると認められる。
「アートンの湿度膨張係数が0.67ppm、ゼオノアの湿度膨張係数が0.35ppmであること。」(以下「周知事項1」という。)

(2)周知事項2
ア 拒絶査定の拒絶の理由に引用文献4として引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2008-224758号公報には、次の事項が記載されている。
「【0024】
<<低透湿性を示す保護フィルム>>
本発明の液晶表示装置において液晶セルの両側に設置される第1の偏光板、及び第2の偏光板のうち、視認側の偏光板、即ち第2の偏光板の少なくとも一方の保護フィルムは、外気と接するため温湿度環境の影響を受けやすいので、耐久性の観点で透湿度が低い保護フィルム(以下、低透湿フィルムということがある。)が好ましい。具体的には、第2の偏光板の少なくとも一方の保護フィルムの60℃、95%相対湿度での透湿度が300g/m^(2)・日以下であることが好ましく、200g/m^(2)・日以下であることがより好ましく、100g/m^(2)・日以下であることが更に好ましい。
【0025】
<<透湿度の測定>>
ここで、本発明における透湿度の測定法は、「高分子の物性II」(高分子実験講座4 共立出版)の285頁?294頁:蒸気透過量の測定(質量法、温度計法、蒸気圧法、吸着量法)に記載の方法を適用することができ、本発明にかかるフィルム試料70mmφを60℃、95%RHでそれぞれ24時間調湿し、調湿前後の質量差より、JIS Z-0208に従って、単位面積あたりの水分量を算出(g/m^(2))した。
なお、本発明で用いる透湿度の値は、測定対象となる保護フィルムが、基材層と、当該保護フィルムの透湿度を制御するために前記基材層上に設けられた被覆層とを有する場合、前記基材層側からの透湿度の値を用いた。
【0026】
本発明において、第2の偏光板の少なくとも一方の保護フィルムは、低透湿保護フィルムとして、上記の透湿度の条件を満たし、透過率が80%以上であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ノルボルネン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、及びセルロースアシレート系樹脂のいずれかからなる基材層(透明基材フィルム)の少なくとも片面に低透湿性を有する被覆層が設けられた透明フィルムを用いることが好ましい。
【0027】
前記透明基材フィルムとしてセルロースアシレート系樹脂を選択した場合の前記被覆層としては、保護フィルムとして上記の透湿度の条件を満たせば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩素含有ビニル単量体から誘導される繰り返し単位を含む樹脂(以下、塩素含有樹脂ということがある。)を含む被覆層、ビニルアルコール系樹脂を含む被覆層、アルコキキシランからなる化合物と、水酸基又はアルコキシル基と反応する官能基を有する化合物、及びシランカップリング剤の少なくともいずれかを含む被覆層、ポリシラザンを含有する塗布組成物から形成されたシリカを主成分とする被覆層、疎水的な化合物を含有する被覆層、糖類とホルミル基含有化合物からなる樹脂を積層してなる被覆層、アミノ基含有高分子化合物とアミノ基反応性官能基含有かつシラノール基含有の有機シラン化合物からなる樹脂組成物を積層してなる被覆層、及び粒子半径が0.1?10μmの層状無機化合物を含有した被覆層の少なくともいずれかが挙げられる。これらの中でも塩素含有ビニル単量体から誘導される繰り返し単位を含む樹脂を含む被覆層、及びビニルアルコール系樹脂を含む被覆層の少なくともいずれかが好ましい。」

イ 本願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2015/008743号には、次の事項が記載されている。
「発明が解決しようとする課題
[0008]
ところで、偏光子に対して表面側(液晶層とは反対側)の保護フィルムの透湿度が高いと、空気中の水分が上記保護フィルムを透過して偏光子に到達し、偏光子が劣化する。その結果、偏光板の偏光機能が劣化し、液晶表示装置においては黒表示時に光漏れが生じて輝度ムラ(画像ムラ)が生ずる。このため、偏光子の表面側の保護フィルムの透湿度は低いことが望ましい。低透湿の保護フィルムは、例えばアクリル樹脂やPET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂を用いることで実現することができる。また、IPSモード型の液晶表示装置においては、偏光子の裏面側(液晶層側)の保護フィルムとして、表示性能の向上の観点から、上述した従来のゼロ位相差フィルムを用いることが望ましい。
・・・略・・・
課題を解決するための手段
[0012]
本発明の上記目的は以下の構成により達成される。
[0013]
本発明の一側面に係る偏光板は、第1の保護フィルムと、偏光子としての偏光フィルムと、第2の保護フィルムと、粘着剤層とをこの順で積層した偏光板であって、
前記第1の保護フィルムと前記偏光フィルムと前記第2の保護フィルムの厚さの合計が、90μm以下であり、
前記第1の保護フィルムの透湿度が、400g/m^(2)・24hr以下であり、
前記第2の保護フィルムが、セルロースエステルと、リタデーション低下剤とを含み、
・・・略・・・
[0252]
[光学フィルム13の作製]
メタクリル酸メチル/アクリル酸メチルの重量比98/2の共重合体にアクリル系ゴム粒子が45%配合されたペレット1と、同じくアクリル系ゴム粒子が15%配合されたペレット2の二種類を用意した。ペレット1とペレット2を0.5:0.5の比になるように押出し機に投入して混練し、Tダイから押出される溶融フィルムを45℃に設定された2本の冷却ロールに挟んで冷却しながら引き取って、厚さ40μmのアクリル系樹脂フィルムを作製した。このアクリル系樹脂フィルムを光学フィルム13とする。光学フィルム14の透湿度は、98g/m^(2)・24hrであった。」

ウ 上記ア及びイからみて、以下の事項が周知であると認められる。
「液晶セルの視認側の偏光板の保護フィルムは、外気と接するため温湿度環境の影響を受けやすいので、耐久性の観点で透湿度が低い保護フィルムが好ましく、具体的には300g/m^(2)・24hr以下であること。」(以下「周知事項2」という。)

(3)周知事項3
ア 本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2016-66074号公報には、次の事項が記載されている。
「【0058】
[実施例1]
・・・略・・・
<積層体II(粘着剤層/直線偏光分離フィルム)の製造>
冷却管、窒素導入管、温度計および撹拌装置を備えた反応容器に、アクリル酸ブチル100重量部、アクリル酸5重量部、アクリル酸ヒドロキシエチル0.075重量部、および、開始剤としてのAIBNをモノマー(固形分)100重量部に対して1重量部を、酢酸エチルと共に加えて窒素ガス気流下、60℃で7時間反応させた後、その反応液に酢酸エチルを加えて、重量平均分子量220万のアクリル系ポリマーを含有する溶液を得た(固形分濃度30重量%)。該溶液に、上記アクリル系ポリマー溶液の固形分100重量部あたり0.6重量部の架橋剤(トリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンとのアダクト体、日本ポリウレタン工業社製、商品名「コロネートL」)と、γ-グリシドキシプロピルメトキシシラン(信越化学工業社製、「KBM-403」)0.075重量部とを配合して、粘着剤溶液bを得た。
粘着剤溶液bを、シリコーン系剥離剤で処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム(セパレータ)の表面に、ファウンテンコータで均一に塗工し、155℃の空気循環式恒温オーブンで2分間乾燥し、セパレータの表面に厚さ5μmの粘着剤層(50μm換算透湿度:1400g/m^(2)/24h)を形成した。次いで、20μmの直線偏光分離フィルム(3M社製、商品名「DBEF」、透湿度:45g/m^(2)/24h)に、セパレータ付き粘着剤層を貼り合わせ、セパレータ付きの積層体II(粘着剤層/直線偏光分離フィルム)を得た。」

イ 上記アからみて、以下の事項が周知であると認められる。
「3M社製、商品名「DBEF」からなる20μmの直線偏光分離フィルムの透湿度:45g/m^(2)/24hであること。」(以下「周知事項3」という。)

7 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の粘着剤付き視認側偏光板における「ポリビニルアルコール系偏光子」は、染色前の厚さが4.2μmであり、技術常識からみて、染色して偏光板として形成された後の厚さも25μmを上回ることはないから、本願発明の「厚み25μm以下の第1偏光子」に相当する。
また、引用発明において、「ポリビニルアルコール系偏光子」の片側に「アクリル系樹脂からなる40μm 厚延伸フィルム」が配置され、前記「ポリビニルアルコール系偏光子」の他方の側に「シクロオレフィン系位相差フィルム」が配置され、両フィルムとも透明であることは自明であるから、引用発明の「アクリル系樹脂からなる40μm 厚延伸フィルム」及び「シクロオレフィン系位相差フィルム」は、それぞれ本願発明の「第2透明保護フィルム(b12)」及び「第1透明保護フィルム(b11)」に相当する。
また、引用発明の「粘着剤層」は、「シクロオレフィン系位相差フィルム」(本願発明の「第1透明保護フィルム(b11)」に相当。以下「」に続く()内の用語は、対応する本願発明の用語を表す。)の液晶セル側に設けられ、「粘着剤付き視認側偏光板10」を液晶セルに貼り合わせるためのものであるから、本願発明の「第1粘着剤層」に相当する。そして、引用発明の「粘着剤付き視認側偏光板」は、「粘着剤層」及び「視認側偏光板」を有するものであるところ、その「視認側偏光板」の形状は、技術的にみてフィルムということができ、また、その文言のとおり偏光板として機能するものであるから、本願発明の「第1偏光フィルム」に相当する。
以上のとおりであるから、引用発明の「粘着剤付き視認側偏光板」と、本願発明の「第1の粘着剤層付偏光フィルム」とは、「第1粘着剤層および第1偏光フィルムを有するものであって、前記第1偏光フィルムは、厚み25μm以下の第1偏光子の片側に」「第1透明保護フィルム(b11)を有し、他の片側に第2透明保護フィルム(b12)」「を有し、」「かつ、前記第1透明保護フィルム(b11)の側が前記第1粘着剤層を介して前記液晶セル側になるように配置されるものである」点で一致する。

(2)引用発明の「輝度向上フィルム」は、本願発明の「輝度向上フィルム」に相当する。引用発明の粘着剤付き背面側偏光板における「ポリビニルアルコール系偏光子」は、染色前の厚さが4.2μmであり、技術常識からみて、染色して偏光板として形成された後の厚さも10μmを上回ることはないから、本願発明の「厚み10μm以下の第2偏光子」に相当する。
また、引用発明において、「ポリビニルアルコール系偏光子」(第2偏光子)の片側に「アクリル系樹脂からなる40μm 厚延伸フィルム」が配置され、「粘着剤付き背面側偏光板」(第2の粘着剤層付偏光フィルム)の液晶セルから遠い側(バックライト側)に「輝度向上フィルム」(輝度向上フィルム)が配置され、該「輝度向上フィルム」は、具体的には、層間粘着剤を介してアクリル系樹脂からなる40μm 厚延伸フィルムの背面側に配置されている。そうすると、該「層間粘着剤」が、本願発明の「第3粘着剤層」に相当する。
また、引用発明の「未延伸シクロオレフィン系位相差フィルム」は、「ポリビニルアルコール系偏光子」の他方の側に配置されているから、本願発明の「第1透明保護フィルム(b21)」に相当する。また、引用発明の「粘着剤層」は、「粘着剤付き背面側偏光板」を液晶セルに貼り合わせるためのものであるから、本願発明の「第2粘着剤層」に相当する。そして、引用発明の「粘着剤付き背面側偏光板」は、「粘着剤層」及び「背面側偏光板」を有するものであるところ、その「背面側偏光板」の形状は、技術的にみてフィルムということができ、また、その文言のとおり偏光板として機能するものであるから、本願発明の「第2偏光フィルム」に相当する。
以上のとおりであるから、引用発明の「粘着剤付き背面側偏光板」と、本願発明の「第2の粘着剤層付偏光フィルム」とは、「第2粘着剤層および第2偏光フィルムを有するものであって、前記第2偏光フィルムは、厚み10μm以下の第2偏光子の少なくとも片側に第1透明保護フィルム(b21)を有しており、前記第2偏光フィルムにおいて第2粘着剤層を設けていない側には第3粘着剤層を介して」「輝度向上フィルムが貼り合されており、かつ、前記第2粘着剤層を介して前記液晶セル側になるように配置されるものである」点で一致する。

(3)引用発明の「粘着剤付き視認側偏光板」及び「粘着剤付き背面側偏光板」は、それぞれ液晶セルの両面に各粘着剤層を介してそれぞれ貼着されるものであり、引用発明における、「粘着剤付き視認側偏光板」と「粘着剤付き背面側偏光板」との組み合わせは、本願発明の「粘着剤層付偏光フィルムセット」と、「液晶セルの視認側に配置される第1の粘着剤層付偏光フィルム、および、前記液晶セルの背面側に配置される第2の粘着剤層付偏光フィルムを有する粘着剤層付偏光フィルムセット」である点で一致する。

(4)上記(1)ないし(3)から、本願発明と引用発明とは、
「液晶セルの視認側に配置される第1の粘着剤層付偏光フィルム、および、前記液晶セルの背面側に配置される第2の粘着剤層付偏光フィルムを有する粘着剤層付偏光フィルムセットであって、
前記第1の粘着剤層付偏光フィルムは、第1粘着剤層および第1偏光フィルムを有するものであって、前記第1偏光フィルムは、厚み25μm以下の第1偏光子の片側に第1透明保護フィルムを有し、他の片側に第2透明保護フィルムを有し、かつ、前記第1透明保護フィルムの側が前記第1粘着剤層を介して前記液晶セル側になるように配置されるものであり、
前記第2の粘着剤層付偏光フィルムは、第2粘着剤層および第2偏光フィルムを有するものであって、前記第2偏光フィルムは、厚み10μm以下の第2偏光子の少なくとも片側に第1透明保護フィルムを有しており、前記第2偏光フィルムにおいて第2粘着剤層を設けていない側には第3粘着剤層を介して輝度向上フィルムが貼り合されており、かつ、前記第2粘着剤層を介して前記液晶セル側になるように配置されるものである、粘着剤層付偏光フィルムセット。」である点で一致し、次の点で相違する。

・相違点1:
本願発明では、「第1の粘着剤層付偏光フィルム」が「IPSモードの液晶セルの視認側に配置され」、「第2の粘着剤層付偏光フィルム」が「IPSモードの液晶セルの背面側に配置され」るものであるのに対し、
引用発明では、粘着剤付き視認側偏光板及び粘着剤付き背面側偏光板は、一応、このような特定がない点。

・相違点2:
本願発明では、「第1透明保護フィルム(b11)」の「湿度膨張係数が1.0×10^(-6)/%RH以下」であるのに対し、
引用発明では、シクロオレフィン系位相差フィルムは、一応、このような特定がない点。

・相違点3:
本願発明では、第1偏光子の「他の片側に第2透明保護フィルム(b12)を介して、または介することなく表面処理層を有し、前記表面処理層付き第2透明保護フィルム(b12)または第2透明保護フィルム(b12)を介さない場合の表面処理層の透湿度が500g/m^(2)・24h以下」であるのに対し、
引用発明では、ポリビニルアルコール系偏光子の他の片側に、アクリル系樹脂からなる40μm 厚延伸フィルムを有するが、その余の特定はない点。

・相違点4:
本願発明では、「輝度向上フィルム」の「透湿度が5?80g/m^(2)・24h」であるのに対し、
引用発明では、輝度向上フィルム(商品名“DBEF”)は、一応、これが不明である点。

8 判断
(1)相違点1について
ア 引用例の【0171】には「液晶セルは、TN型、VA型、IPS型など、任意のタイプのものが使用できる。これらの中でも特に、液晶セルが薄いVA型やIPS型に対して、本発明の偏光板は優れた効果を発現する。」と記載されており、かかる示唆を考慮すると、引用発明の「粘着剤付き視認側偏光板」及び「粘着剤層付き背面側偏光板」は、それぞれ、「粘着剤層付き視認側偏光板」(第1の粘着剤層付偏光フィルム)がIPSモードの液晶セルの視認側に配置され、「粘着剤付き背面側偏光板」(第2の粘着剤層付偏光フィルム)がIPSモードの液晶セルの背面側に配置されるものとして適したものといえるから、相違点1は実質的な相違点であるとはいえない。
イ 仮に相違点1が実質的な相違点であったとしても、引用発明において、「粘着剤層付き視認側偏光板」(第1の粘着剤層付偏光フィルム)をIPSモードの液晶セルの視認側に配置し、「粘着剤付き背面側偏光板」(第2の粘着剤層付偏光フィルム)をIPSモードの液晶セルの背面側に配置するようになすことは、引用例の示唆する範囲内の事項にすぎない。

(2)相違点2について
ア 引用発明の「シクロオレフィン系位相差フィルム」に関して、引用例の【0130】には、「上に例示した樹脂からなる位相差フィルムは、それぞれの樹脂メーカーから各種の光学特性を有するものが市販されている。シクロオレフィン系樹脂からなる位相差フィルムに相当する市販品の例を商品名で挙げると、JSR(株)から販売されている“アートンフィルム”、積水化学工業(株)から販売されている“エスシーナ位相差フィルム”、日本ゼオン(株)から販売されている“ゼオノアフィルム”などがある。」と記載されている。かかる示唆を考慮すると、引用発明において、「シクロオレフィン系位相差フィルム」として、“アートンフィルム”、“ゼオノアフィルム”が適したものといえる。
イ 上記6(1)ウで周知事項1として示したように、アートンの湿度膨張係数が0.67ppmであり、ゼオノアの湿度膨張係数が0.35ppmであり、本願の明細書の【0076】で示された湿度膨張係数(α)(単位:/RH%)に換算すると、1.0×10^(-6)/%RHを下回るものであることは明らかである。
ウ 引用発明において、シクロオレフィン系位相差フィルムは、上記アからみて、湿度膨張係数は、1.0×10^(-6)/%RH以下であるといえるから、上記相違点2は実質的な相違点ではない。
エ 仮に相違点2が実質的な相違点であったとしても、引用発明は「高温環境や高温高湿環境にさらされても反りを小さくすることができる偏光板を提供すること」(引用例の【0011】)を発明が解決しようとする課題とするものであり、引用発明の「シクロオレフィン系位相差フィルム」として、湿度膨張係数が十分低いものを選択することは、引用発明の発明が解決しようとする課題に適うもの考えられるから、上記周知事項1の湿度膨張係数のものを採用すること、すなわち、上記相違点2に係る本願発明の構成となすことは当業者が適宜なし得たことである。

(3)相違点3について
ア 上記6(2)ウで周知事項2として示したように、液晶セルの視認側の偏光板の保護フィルムは、外気と接するため温湿度環境の影響を受けやすいので、耐久性の観点で透湿度が低い保護フィルムが好ましく、例えば、上記引用文献4の【0024】には、「本発明の液晶表示装置において液晶セルの両側に設置される第1の偏光板、及び第2の偏光板のうち、視認側の偏光板、即ち第2の偏光板の少なくとも一方の保護フィルムは、外気と接するため温湿度環境の影響を受けやすいので、耐久性の観点で透湿度が低い保護フィルム(以下、低透湿フィルムということがある。)が好ましい。具体的には、第2の偏光板の少なくとも一方の保護フィルムの60℃、95%相対湿度での透湿度が300g/m^(2)・日以下であることが好ましく、200g/m^(2)・日以下であることがより好ましく、100g/m^(2)・日以下であることが更に好ましい。」と記載されている。
イ また、引用発明において、外気と接する保護フィルムは、「アクリル系樹脂からなる40μm 厚延伸フィルム」であるところ、引用例の【0082】には、「アクリル系樹脂フィルムには、ハードコート層、防眩層、及び低屈折率層の如き、光学フィルムに一般的に採用される機能層を付与することができる。」と記載されている。そして、引用例の【0083】には、ハードコート材料として「ウレタンアクリレート系及び多官能アクリレート系のハードコート材料が好ましい。」と記載され、また、同【0125】には、「機能層は、上述した以外に、防汚層、ガスバリア層、透明帯電防止層、プライマー層、電磁波遮蔽層、下塗り層等、光学フィルムに採用される一般的なその他の層であってもよい。」と記載されている。ここで、ウレタンアクリレート系及び多官能アクリレート系のハードコート材料からなるハードコート層や、ガスバリア層の透湿度が低いことは自明である。加えて、引用発明における第2透明保護フィルムは「アクリル系樹脂からなる40μm 厚延伸フィルム」からなるところ、当業者における技術常識に鑑みると、このフィルムの透湿度も低いといえる。例えば、上記国際公開第2015/008743号には、特にアクリル樹脂は透湿度が低いものとして知られ、厚さ40μmのアクリル系樹脂フィルムの透湿度が98g/m^(2)・24hrであることが記載されている。
ウ 引用発明は、ポリビニルアルコール系偏光子の視認側に、アクリル系樹脂からなる40μm 厚延伸フィルムが貼合され、該フィルムが透湿度が低いものであることは、上記ア及びイからみて明らかである。そして、引用発明のアクリル系樹脂からなるフィルムが40μm厚であることを考慮すれば、引用発明において、アクリル系樹脂からなる40μm 厚延伸フィルムに機能層を付与し、該機能層(表面処理層)付きの前記フィルムの透湿度を500g/m^(2)・24h以下となすことは、当業者が周知事項2に基づいて適宜なし得たことである。

(4)相違点4について
ア 上記6(3)イで周知事項3として示したように、20μm厚のDBEFの透湿度は45g/m^(2)/24hである。そして、20μm厚のDBEFは、DBEFのうち相当薄いものである。
イ 引用発明において、輝度向上フィルムとして用いられたDBEFの厚さは不明であるが、上記アからみて、厚さが10μm以下の偏光子を含む背面側偏光板に用いられるDBEFも周知事項3で示したDBEFと同程度の厚みものであると認められる。そうすると、引用発明のDBEFの透湿度は5?80g/m^(2)・24hの範囲にあることが明らかである。してみると、相違点4は実質的な相違点ではない。
ウ 仮に相違点4が実質的な相違点であったとしても、上記周知事項2のように、偏光板において、外気と接する可能性があるフィルムについては、温湿度環境の影響を受けやすいので、耐久性の観点で透湿度が低いフィルムとするものであり、引用発明におけるDBEFフィルムを選択するに際して、周知事項3と同等の透湿度のものを選択することは、周知事項2を考慮した当業者が適宜なし得たことである。

(5)効果について
本願発明が奏する、常温常湿における液晶パネルの反りが小さくなるという効果は、引用発明における高温高湿環境で液晶パネルの反りが小さくできるという効果及び周知事項1ないし3の奏する効果から、当業者が予測できた程度のものである。

9 審判請求人の主張について
(1)審判請求人は、特に上申書において、概略、以下のとおり主張している。
ア 新たに採用された引用文献5(上記国際公開第2015/008743号)及び引用文献6(上記特開2016-66074号公報)について
前置報告で新たに引用した引用文献5、6に関する周知性や、引用発明への技術の適用可能性の有無等についての反論の記載が与えられるべきである。
イ 引用文献1(引用例)について
(ア)引用文献1に記載の発明は、本願発明の「IPSモードの液晶セル」に適用される「液晶セルの視認側に配置される第1の粘着剤層付偏光フィルム:視認側に表面処理層を有するもの」、および、「液晶セルの背面側に配置される第2の粘着剤層付偏光フィルム:輝度向上フィルムが貼り合されているもの」を組み合わせた、「粘着剤層付偏光フィルムセット」を具体的に開示しているわけではない。
(イ)引用文献1の【0011】では「高温環境や高温高湿環境」での反りを小さくすることを課題としているが、本願の【0009】では「常温常湿」における反りを小さくすることを課題としている点で、引用文献1に記載の発明と本願発明とは発明が解決しようとする課題において相違する。
ウ IPSモードの液晶セルについて
引用文献1には、「IPSモード(IPS型)の液晶セル」に関する記載があるが、当該記載は、液晶セルの一例として、IPS型が例示されているに過ぎない。また、引用文献1【0200】の実施例4では、ガラス基板を用いた液晶パネル相当品を用いて、反りの評価が行われているに過ぎない。引用文献1では、液晶パネルの「反り」についての課題は記載されているが、当該課題がIPSモードの液晶セルを用いた液晶パネルに特有の課題であることまでの記載は開示されていない。
エ 第1の粘着剤層付偏光フィルム(視認側偏光板)について
引用文献1の実施例4に記載の視認側の偏光板は「機能層(表面保護層)」を有していないのであるから、引用文献1には本願発明の「第1の粘着剤層付偏光フィルム」は開示されているとは言えず、本願発明の「粘着剤層付偏光フィルムセット」が、引用文献1に開示されているとは到底言えない。
オ 第2の粘着剤層付偏光フィルム(背面側偏光板)について
引用文献1【0193】の実施例3に、本願発明と同様の第2の「粘着剤層付偏光フィルム(背面側偏光板)」が開示されていたとしても、引用文献1には、本願発明の「粘着剤層付偏光フィルムセット」の開示はなく、またその示唆もないので、本願発明が引用文献1に開示されているとは到底言えるものではない。

(2)審判請求人の主張について検討する。
ア 上記(1)アの主張について
引用文献5については、引用発明の「アクリル系樹脂フィルムからなる40μm厚延伸フィルム」の透湿度がどの程度のものかを見積もるための参考資料として引用したにすぎないから、原査定の拒絶の理由の範囲内の判断を示すものにすぎない。同様に、引用文献6については、引用発明の「輝度向上フィルム(商品名“DBEF”)」の透湿度がどの程度のものかを見積もるための参考資料として引用したにすぎないから、原査定の拒絶の理由の範囲内の判断を示すものにすぎない。してみると、あえて引用文献5、6に関して拒絶の理由を通知するまでもないものである。
イ 上記(1)イの主張について
(ア)引用例には、その【0168】に、液晶セルの両面に、それぞれ視認側偏光板及び背面側偏光板を貼着して構成される液晶表示パネルの記載があり、同【0199】ないし【0203】に、実施例4として、ガラス板の両面に引用発明の粘着剤付き視認側偏光板及び粘着剤付き背面側偏光板を貼り合わせて液晶パネル相当品を作成して、その反り量を評価していることが記載されている。このような示唆に基づけば、引用例は「粘着剤層付偏光フィルムセット」を実質的に開示しているといえる。
(イ)高温環境や高温高湿環境での反りを小さくできれば、常温常湿環境下での反りを小さくできることは技術常識であるから、引用文献1に記載の発明と本願発明とは発明が解決しようとする課題において全く相違するとまではいえない。
ウ 上記(1)ウの主張について
上記8(1)で示したように、引用例には、特に液晶セルが薄いVA型やIPS型に対して、引用発明の偏光板が優れた効果を発現することが記載されており、当該記載に照らせば、液晶パネルの「反り」についての課題は、IPSモード等の薄い液晶セルを用いた液晶パネルに特有の課題であるといえる。
エ 上記(1)エ及びオの主張について
上記8(3)で説示したように、引用例の【0082】には、「アクリル系樹脂フィルムには、ハードコート層、防眩層、及び低屈折率層の如き、光学フィルムに一般的に採用される機能層を付与することができる。」と記載されており、引用発明のアクリル系樹脂からなる40μm 厚延伸フィルム(第2透明保護フィルム(b12))の視認側に機能層(表面処理層)を有していることが示唆されている。そうすると、引用例には、本願発明の「第1の粘着剤層付偏光フィルム」は開示されているといえる。
また、上記イ(ア)で説示したとおり、引用例は「粘着剤層付きフィルムセット」を実質的に開示しているといえる。

10 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が引用例に記載された発明及び周知事項1ないし3に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-12-07 
結審通知日 2017-12-08 
審決日 2017-12-19 
出願番号 特願2016-50983(P2016-50983)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 亮治  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 鉄 豊郎
河原 正
発明の名称 粘着剤層付偏光フィルムセット、液晶パネルおよび液晶表示装置  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  

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