• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1337318
審判番号 不服2015-16056  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-08-31 
確定日 2018-02-09 
事件の表示 特願2013-223208「電子デバイス封止用樹脂シート及び電子デバイスパッケージの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年5月7日出願公開、特開2015- 88514〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成25年10月28日の出願であって、平成27年1月16日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年2月13日付けで手続補正がなされ、同年3月11日付けの拒絶理由通知に対する応答時、同年5月8日付けで手続補正がなされたが、同年6月2日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、同年8月31日付けで拒絶査定不服審判の請求及び手続補正がなされ、当審の平成29年3月6日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年4月26日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成29年4月26日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
カーボンブラックを含み、
直径25mmのプローブを用いて測定された25℃のプローブタックが5gf?500gfであり、
25℃における引張貯蔵弾性率が10^(-2)MPa?10^(3)MPaである、電子デバイスの封止用の樹脂シートであって、
前記電子デバイスがSAWフィルタである樹脂シート。」

3.引用例
(1)引用例1
当審の拒絶理由通知に引用した、特開2006-19714号公報(以下、「引用例1」という。)には、「電子部品の製造方法」について、図面とともに以下の各記載がある。なお、下線は当審で付与した。
ア.「【技術分野】【0001】本発明は、配線基板上に、配線基板との間に空隙を設けて対面載置した複数の配列された機能素子を、これら機能素子を覆うように配線基板上に配置されたゲル状硬化性樹脂シートを用いて、高い歩留りで、配線基板と機能素子との間を中空に保ちつつ一括樹脂封止する電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】【0002】近年、機能素子が配線基板上に中空モールドされた電子部品が、携帯電話をはじめとする各種電子機器に多数使用されている。このようなものとして典型的には、例えば、弾性表面波デバイス、水晶振動子、圧電振動子等がある。このような電子部品は、機能素子の活性面が樹脂で封止されないようにしなければならず、例えば、弾性表面波デバイスにおいては、弾性表面波チップ上に弾性表面波電極が形成されており、配線基板上に樹脂封止する際に封止樹脂や基板面と弾性表面波電極とが接触しては性能を発揮できないので、電極面上を中空に保ったまま樹脂封止しなければならない。一方、このような電子部品は小型化が進み、その製造も、基板上に多数の小さな機能素子チップ、例えば、弾性表面波チップ、をフリップチップ接合して配列した所謂MAP(モールドアレイパッケージ)形状において、基板上の多数の機能素子チップを一度に一括樹脂封止する方式が主流となりつつある。なお、本明細書では、配線基板と機能素子との間を中空に保ちつつ樹脂封止することを中空モールドという。また、基板上に配列した多数の素子を一度に樹脂封止することを一括樹脂封止という。なお、真空というときは、通常の大気圧より低い圧力の気体で満たされた空間の状態をいう。
(中略)
【発明が解決しようとする課題】【0005】上述の現状に鑑みて、本発明は、弾性表面波デバイス等の中空モールドをゲル状硬化性樹脂シートを用いて基板上で一括樹脂封止する際に、中空部の成形性に優れ、チップ抜け基板等の場合にもボイドの発生を低減でき、上述の問題を解決できる、信頼性と生産性に優れた製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】【0006】本発明者は上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、意外にも、真空下でゲル状硬化性樹脂シートを配置した後、熱ロールによる成形を組み合わせることにより、上記不良の発生を大幅に低減できることを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成した。
すなわち、本発明は、配線基板上に、上記配線基板との間に空隙を設けて対面載置した複数の配列された機能素子を、上記複数の配列された機能素子を覆うように上記配線基板上に配置されたゲル状硬化性樹脂シートを加熱硬化させて、上記配線基板と上記機能素子との間を中空に保ちつつ、一括樹脂封止する電子部品の製造方法であって、少なくとも、以下の工程(a)、(b)、(c)及び(d)を有する電子部品の製造方法である:
(a)配線基板上に上記配線基板との間に空隙を設けて対面載置した複数の配列された機能素子を覆うように、上記配線基板上にゲル状硬化性樹脂シートを配置する工程、
(b)上記複数の配列された機能素子がその内部に含まれている上記ゲル状硬化性樹脂シートと上記配線基板とで囲まれた閉空間領域を、真空にする工程、
(c)上記閉空間領域を真空に維持しつつ、熱ロールで上記ゲル状硬化性樹脂シートを硬化温度未満に加熱し流動させながら封止樹脂表面を平坦に成形する工程、及び、
(d)上記ゲル状硬化性樹脂シートを硬化温度に加熱して硬化させる工程。」

イ.「【0009】工程(a)
本工程では配線基板上に上記配線基板との間に空隙を設けて対面載置した複数の配列された機能素子を覆うように、上記配線基板上にゲル状硬化性樹脂シートを配置する。機能素子と配線基板との間の上記空隙は、例えば、粒子状、平面状等のスペーサーを挿入したり、フリップチップ接合のためのフリップチップバンプの高さで確保する等の方法を採用することができる。機能素子は基板上に、通常は複数がアレイ状に配列されているが、任意の配列でよく、必ずしも規則配列である必要はない。また、基板上を幾つかの領域に分けてその各領域に一定数のチップを配列した一群のチップ群を配置し、基板上にはそのようなチップ群が複数配列されていてもよい。なお、単独のチップへの本発明の適用を排除するものではない。上記ゲル状硬化性樹脂シートは、上記複数の配列された機能素子をその内部に含むように、上記配線基板とで囲まれた閉空間領域を形成するように、例えば、配列された一群のチップ群全体を覆いつつ、しかも、その1群のチップ群全体の周囲の基板部分もまた覆うように、配置する。
【0010】上記ゲル状硬化性樹脂シートは、たとえば液状または固状の硬化性組成物とゲル化剤として作用する熱可塑性樹脂パウダーとの混合物をシート化することにより製造することができる。なお、固状の硬化性組成物に対するゲル化剤というのは、加熱し、溶融する条件にした場合にもゲル状にすることができるようにするためのものである。
【0011】上記液状または固状の硬化性組成物の具体例としては、たとえばエポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、グアナミン樹脂、ポリイミド樹脂、ビニルエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、キシレン樹脂、ケイ素樹脂などの熱硬化性樹脂を樹脂成分として含有する硬化性組成物などがあげられる。これらは1種で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらのうちでは、エポキシ樹脂組成物が、低粘度で、フィラー充填など他の機能を付与するのに適する点から好ましい。
【0012】上記エポキシ樹脂組成物は、一般に、エポキシ樹脂、硬化剤および(または)潜在性硬化促進剤、必要により使用されるシリカ、アルミナなどのフィラー、その他の添加剤(ゲル化剤を除く)などを含有する組成物である。
(中略)
【0028】硬化性組成物の熱可塑性樹脂パウダーへの吸収または硬化性組成物と熱可塑性樹脂パウダーとの相溶を促進させるために、加熱するのが好ましい。このとき、硬化性組成物を、たとえばロールコーターにより塗工し、そののちゲル化させるために加熱するのが好ましい。この場合の加熱温度は、熱可塑性樹脂パウダーのガラス転移温度以上、好ましくは軟化温度以上で、熱可塑性樹脂パウダーの溶融開始温度未満、使用する硬化剤および(または)潜在性硬化促進剤の活性温度以下の温度であるのが好ましい。通常は、熱可塑性樹脂パウダーの軟化温度よりも5?50℃、さらには10?30℃高い温度が好ましく、使用する硬化剤および(または)潜在性硬化促進剤の活性温度以下の温度であるのが好ましい。加熱時間は、硬化性組成物が熱可塑性樹脂パウダーに吸収、または硬化性組成物と熱可塑性樹脂パウダーとが相溶し、ゲル化した硬化性組成物が得られるのに充分な時間であればよい。上記加熱温度は、通常、60?150℃、さらには80?120℃であり、加熱時間は、0.5?30分、さらには1?10分であるのが、硬化性組成物が実質的に硬化しない(そののち行なわれる熱ロールによりゲル状硬化性樹脂シートから形成された保護層で弾性表面波チップを保護することができる)点から好ましい。
【0029】このようにして得られたゲル状硬化性組成物は、たとえば加熱成形のような通常の方法により、シート状にすることができる。また、ゲル状硬化性組成物になる前の液状または固状の硬化性組成物および熱可塑性樹脂パウダーを配合し、必要により加熱して液状にしたものを、ロールコーターなどにより膜厚を制御した塗工物とし、60?150℃で0.5?30分、さらには80?120℃で1?10分乾燥させることによりシート状にすることができる。これらの方法でシートを形成すると、無溶剤系のためたとえば50μm程度の厚さから1000μmという厚いシートまで製造することができる。溶剤系のものを使用すると、100μm程度の厚さのものまでしか製造することができない。
【0030】形成された本発明に使用する上記ゲル状硬化性樹脂シートの厚さは、配線基板上にバンプで接続された機能素子、例えば、弾性表面波チップを覆い、熱ロールすることにより封止樹脂層を形成することができ、好ましくは該封止樹脂表面を平坦になるようにできる点から、上記配線基板と上記機能素子との間の間隔と上記機能素子の厚みとの和の1倍以上2倍以下の厚さ、さらには1.5倍以下であるのが、好ましい。実際の上記ゲル状硬化性樹脂シートの厚さとしては、弾性表面波チップの厚さが一般に200?400μm、バンプの高さが一般に20?80μmであるから、220?960μm、さらには220?720μmであるのが好ましい。
(中略)
【0037】上記ゲル状硬化性樹脂シートは、低ガラス転移温度、低線膨張率であることが、硬化物を低応力化(低ソリ化)することができるので好ましく、さらに、原料を高純度化したものであることが、不純物イオンが少なく、弾性表面波チップ表面の汚染を防ぐことができるので好ましく、さらに、ゲル状硬化性樹脂シートの弾性率(25℃)が10^(3)?10^(9)Pa、さらには10^(4)?10^(8)Paで、硬化時の溶融粘度が10?10^(5)Pa・s、さらには10^(3)?10^(4)Pa・sであることが、熱ロールすることにより、封止樹脂層形成前のデバイスに弾性表面波電極面と配線パターンが形成された面とがバンプの高さのぶん隔てられた部分が中空構造を保つように封止樹脂層を形成するうえで好ましい。また、軟化温度は、50℃以上、好ましくは60℃以上、より好ましくは80℃以上である。
【0038】上述のように、上記ゲル状硬化性樹脂シートにおいては、低ガラス転移温度であるか、及び/又は、低線膨張率であることが、硬化物を低応力化(低ソリ化)するうえで好ましい。低ガラス転移温度としては、ゲル状硬化性樹脂シートの硬化物のTgが100℃以下が好ましく、さらには60℃以下であることがより好ましい。また低ソリ化・流動性調整・電子部品の高信頼化等のために低熱膨張率を得るためには、ゲル状硬化性樹脂シートは無機フィラー(例えば溶融シリカなど)を好ましくは50重量%以上、より好ましくは75重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上含有している。フィラーを高充填したシートの場合は、熱膨張率が低くなり低ソリ化できるので、信頼性を考慮するとTgは高い方が好ましく、例えば100℃以上が好ましく、より好ましくは150℃以上であるが、これに限定されるものではなく、用途に応じて調整可能である。
【0039】上述の説明ではゲル状硬化性樹脂シートを1枚使用することを前提にしたのであるが、本発明においては、上記ゲル状硬化性樹脂シートを複数枚、例えば、2?20枚、使用してもよい。2枚以上積層したものを使用する場合、異なる厚さのチップに対しても、少ない種類のゲル状硬化性シートで対応することができる。また、チップに直接接する最内層のシートの軟化温度を他のシートより高くしておくと、熱ロールをかけたときに、チップ下に樹脂が入り込むのを防ぐ効果を高めることができる。複数枚使用するときのゲル状硬化性樹脂シートとしては、上記配線基板と上記機能素子との間の間隔と上記機能素子の厚みとの和の1/20倍以上1倍以下の厚さのシートを、上記和の2倍以下の厚みとなる複数枚を積層して使用することが好ましい。
【0040】なお、最内層のシートの軟化温度を他のシートより高くする場合、軟化温度は、最内層の軟化温度が5℃以上高いことが好ましく、より好ましくは10℃以上高いことが、製造方法上好ましい。ここで、軟化温度とは、シートを加熱軟化させながら電子部品を封止するという観点から、封止性を損なうことのない温度、すなわちシートの粘度が十分下がった温度を軟化点と定義し、例えば、弾性率G′の温度変化のグラフから外挿線の交点を求める方法で測定することができ、例えば、グラフにおいて、温度上昇とともにG′が下降する曲線の勾配が最大になる点で引いた接線とG′が充分低下した領域において引いた接線との交点の温度とすることができる。また上記ゲル状硬化性樹脂シートを複数枚積層する方法としては、ラミネート方法が好ましい。例えば、2枚以上積層する方法としては、加熱することが可能な2本のローラーを備えたラミネーターを用いて行うことができる。ラミネートする温度は、25?120℃が、シートの軟化点及び粘度の変化なく確実にラミネートできるので好ましい。
【0041】また、本発明においては、上記1枚又は複数枚のゲル状硬化性樹脂シートに加えて、上記ゲル状硬化性樹脂シート以外の追加の他の樹脂シートを、必要に応じて、積層することができる。上記他の樹脂シートは、例えば、低透湿性の熱可塑性樹脂系シート(例えば、ポリエステル系、ポリオレフィン系シート)、無機フィラーを配合して透湿性・流動性を抑えた硬化性樹脂シート(例えば、エポキシ樹脂系硬化性シート)、ポリイミド系樹脂シート等のように、所望の特別の機能を持つものを適用することができる。上記追加の他の樹脂シートは、熱ロールで硬化性樹脂を流動させるときに支障が生じないために、硬化性樹脂シートの下に積層することが好ましいが、必ずしもこれに限定されることはない。」

ウ.「【0042】工程(b)
本工程では、上記複数の配列された機能素子がその内部に含まれている上記ゲル状硬化性樹脂シートと上記配線基板とで囲まれた閉空間領域を真空にする。上記閉空間領域を真空にするためには、例えば、上記工程(a)を真空中で行って上記閉空間領域の真空を達成すればよい。上記工程(a)を真空中で行うには、例えば、真空プレス等の真空隔室を形成することができる装置を利用して真空下で予め樹脂シートを、タックが生じる程度の温度、例えば、50℃程度で、低圧プレスして樹脂シートを基板と素子に密着させる。なお、真空の程度は、通常、真空プレス等で達成される程度の真空度であってよく、例えば、1.0?0.01Toor、であってよい。真空隔室を形成するには、例えば、真空チェンバー、可動式真空枠等を利用することができる。
【0043】さらには、上記工程(a)を大気圧下で行った後であって上記工程(c)の前に、又は、上記工程(a)を大気圧下で行いつつ、上記ゲル状硬化性樹脂シートと上記配線基板とで囲われた上記閉空間領域から吸気することにより、真空ラミネートを行い、上記閉空間領域の真空を達成してもよい。上記真空ラミネートを行うには、例えば、ラミネーターを用いて隔壁ラバーシートを介して大気圧で均一加圧しつつ排気を行ってもよく、また、該当する場合は基板に設けた孔から排気して行ってもよい。
なお、本発明においては、上記閉空間領域の真空を達成する方法にはなんら限定はなく、いかなる可能を方法を採用することも可能であり、ここに記載した方法は例示に過ぎない。また、上記工程(a)と工程(b)は、上述のように、一体的に操作してもよく、または、個別的に操作してもよい。」

エ.「【0044】工程(c)
本工程では上記閉空間領域を真空に維持しつつ、熱ロールで上記ゲル状硬化性樹脂シートを硬化温度未満に加熱し流動させながら封止樹脂表面を平坦に成形する。これを実行するには、例えば、上記工程(a)を真空中で行った場合には、上記閉空間領域の真空を達成することにより上記工程(b)をも一体的に操作し、そして、そのまま、真空中で工程(c)を行うか、又は、上記工程(b)をも一体的に操作した後、一旦、系を真空から解放し、しかしながら、上記閉空間領域の真空を維持しつつ、工程(c)を行ってもよい。後者の場合、上記ゲル状硬化性樹脂シートのタック性を利用して閉空間領域の密閉を維持することができる。または、上記工程(a)と工程(b)とを別個に操作した後、本工程を行う。一般には、本工程を大気圧中で行う方法が、熱ロールをかける操作が容易であるので好ましい。
【0045】上記熱ロールは、ゲル状硬化性樹脂シートの軟化点以上、硬化温度未満の範囲で、好ましくは60?250℃、さらには60?180℃の温度で行なわれるのがより好ましく、80?120℃がさらに好ましい。熱ロール温度がゲル状硬化性樹脂シートの軟化点未満の場合、流動性が不足し、封止樹脂の未充填をおこしたり、チップが破損したりしやすくなり、250℃をこえる場合、封止樹脂が硬化の際に発泡をおこしやすくなる。」

オ.「【0048】工程(d)
本工程では上記ゲル状硬化性樹脂シートを硬化温度に加熱して硬化させる。上記加熱硬化方法としては特に限定されず、例えば、オーブン等で加熱して行うことができる。
【0049】配線パターンが形成された基板上に弾性表面波チップが実装され、上記基板の配線パターンが形成された面と上記弾性表面波チップの弾性表面波電極が形成された電極面とが対面して配置され、上記弾性表面波電極と上記配線パターンとがバンプで接続されており、かつ、弾性表面波電極面と配線パターンが形成された面とがバンプの高さのぶん隔てられており、上記弾性表面波チップの電極面と反対側の面から上記基板表面にかけてゲル状硬化性樹脂シートから形成された保護層で、弾性表面波電極面と配線パターンが形成された面とがバンプの高さのぶん隔てられた部分が中空構造を保つように覆われている弾性表面波デバイスを製造する場合は、本発明に従い、例えば、以下のように行うことができる。すなわち、まず、ゲル状硬化性樹脂シートを、上記弾性表面波チップが実装された基板に真空下にてゲル状硬化性樹脂シートで覆われた部分が真空を保つように貼付け、その後に、弾性表面波チップと基板の間を中空構造を保つように熱ロールを用いて樹脂を流動させることにより、保護層の表面が実質的にフラットになるように成形する。」

カ.「【0054】実施例1では、配合1で得られたシートをデバイスに真空ラミネーター(25℃、5秒間、シートタックを利用してシート外周部を基板に貼付け)で真空ラミネートした。実施例2では、配合1で得られたシートをのたせデバイスを、50℃、10秒間、0.1MPaで真空プレスしてプリフォームした。比較例では、いずれも、配合1で得られたシートをデバイスにのせたものをそのまま熱プレス又は熱ロールにかけた。実施例、比較例とも、熱ロールは、上ロール(100℃、ゴムロール)、下ロール(25℃、金属ロール)の間を0.77mmに設定し、0.3m/分の速度で行った。この後、それぞれのサンプルを、150℃、3時間、オーブン硬化した。また、比較例の熱プレスは、150℃で5分間、0.1MPaで行い、硬化させた。
【0055】実施例3?5では、配合2及び配合3(実施例3)、配合2及び配合4(実施例4)又は配合3及び配合4(実施例5)を、それぞれ、1枚ずつ2枚をラミネートした。上記実施例3?5でシートを2枚積層する方法としては、加熱することが可能な2本のローラーを備えたラミネーター(自社製)を用いて行った。ラミネートする温度は100℃で行った。」

・上記アの記載事項によれば、電子部品の製造方法において、配線基板上に、配線基板との間に空隙を設けて対面載置した複数の配列された弾性表面波デバイス等の機能素子を、複数の配列された機能素子を覆うように配線基板上に配置されたゲル状硬化性樹脂シートを用いて、配線基板と機能素子との間を中空に保ちつつ、一括樹脂封止する点が記載されている。
また、上記電子部品の製造方法における具体的な工程として、
(a)配線基板上に配線基板との間に空隙を設けて対面載置した複数の配列された機能素子を覆うように、配線基板上にゲル状硬化性樹脂シートを配置する工程、
(b)複数の配列された機能素子がその内部に含まれているゲル状硬化性樹脂シートと配線基板とで囲まれた閉空間領域を、真空にする工程、
(c)閉空間領域を真空に維持しつつ、熱ロールでゲル状硬化性樹脂シートを硬化温度未満に加熱し流動させながら封止樹脂表面を平坦に成形する工程、
(d)ゲル状硬化性樹脂シートを硬化温度に加熱して硬化させる工程、
とを有することが記載されている。

・上記イの記載事項によれば、工程(a)におけるゲル状硬化性樹脂シートの配置は、複数の配列された機能素子をその内部に含むように、配線基板とで囲まれた閉空間領域を形成するように、例えば、配列された一群のチップ群全体を覆いつつ、しかも、その1群のチップ群全体の周囲の基板部分もまた覆うように、配置するものである。ここで、ゲル状硬化性樹脂シートは、たとえば液状または固状の硬化性組成物とゲル化剤として作用する熱可塑性樹脂パウダーとの混合物をシート化することにより製造することができ、硬化性組成物の具体例としては、たとえばエポキシ樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂を樹脂成分として含有する硬化性組成物などがあげられ、これらは1種で使用しても2種以上を組み合わせて使用してもよい。そして、エポキシ樹脂組成物は、一般に、エポキシ樹脂、硬化剤および(または)潜在性硬化促進剤、必要により使用されるシリカ、アルミナなどのフィラー、その他の添加剤(ゲル化剤を除く)などを含有する組成物であることが記載されている。
また、ゲル状硬化性樹脂シートの厚さは、たとえば50μm程度の厚さから1000μmという厚いシートまで製造することができ、配線基板上にバンプで接続された機能素子、例えば、弾性表面波チップを覆い、熱ロールすることにより封止樹脂層を形成することができ、好ましくは該封止樹脂表面を平坦になるようにできる点から、配線基板と機能素子との間の間隔と機能素子の厚みとの和の1倍以上2倍以下の厚さ、さらには1.5倍以下であるのが、好ましいこと、さらに、ゲル状硬化性樹脂シートの弾性率(25℃)が10^(3)?10^(9)Paで、軟化温度は、50℃以上であることが記載されている。
さらに、ゲル状硬化性樹脂シートを複数枚積層する方法としては、ラミネート方法が好ましく、例えば、2枚以上積層する方法としては、加熱することが可能な2本のローラーを備えたラミネーターを用いて行うことができること、1枚又は複数枚のゲル状硬化性樹脂シートに加えて、ゲル状硬化性樹脂シート以外の追加の他の樹脂シートを、必要に応じて、積層することができ、他の樹脂シートは、例えば、ポリエステル系シート、ポリイミド系樹脂シート等のように、所望の特別の機能を持つものを適用することができることが記載されている。

・上記ウの記載事項によれば、工程(b)には、複数の配列された機能素子がその内部に含まれているゲル状硬化性樹脂シートと配線基板とで囲まれた閉空間領域を真空にすることが記載されている。閉空間領域を真空にする方法として、例えば、上記工程(a)を真空中で行って閉空間領域の真空を達成すること、より具体的には、真空プレス等の真空隔室を形成することができる装置を利用して真空下で予め樹脂シートを、タックが生じる程度の温度、例えば、50℃程度で、低圧プレスして樹脂シートを基板と素子に密着させる方法や、例えば、ゲル状硬化性樹脂シートと配線基板とで囲われた閉空間領域から吸気することにより、真空ラミネートを行うこと、より具体的には、ラミネーターを用いて隔壁ラバーシートを介して大気圧で均一加圧しつつ排気を行ってもよく、また、該当する場合は基板に設けた孔から排気して行ってもよいことが、さらには、閉空間領域の真空を達成する方法にはなんら限定はなく、いかなる方法を採用することも可能であり、ここに記載した方法は例示に過ぎないことが記載されている。

・上記エの記載事項によれば、工程(c)には、閉空間領域を真空に維持しつつ、熱ロールでゲル状硬化性樹脂シートを硬化温度未満に加熱し流動させながら封止樹脂表面を平坦に成形することが記載されている。具体的には、例えば、上記工程(a)を真空中で行った場合には、閉空間領域の真空を達成することにより上記工程(b)をも一体的に操作し、そして、そのまま、真空中で工程(c)を行うか、又は、上記工程(b)をも一体的に操作した後、一旦、系を真空から解放し、しかしながら、閉空間領域の真空を維持しつつ、工程(c)を行ってもよく、後者の場合、上記ゲル状硬化性樹脂シートのタック性を利用して閉空間領域の密閉を維持することができることが記載されている。そして、上記熱ロールは、ゲル状硬化性樹脂シートの軟化点以上、硬化温度未満の範囲で、60?250℃の温度で行なわれるのが好ましいことが記載されている。

・上記オの記載によれば、工程(d)には、ゲル状硬化性樹脂シートを硬化温度に加熱して硬化させることが記載されている。

・上記カの記載によれば、実施例1では、ゲル状エポキシ樹脂シートをデバイスに真空ラミネーター(25℃、5秒間、シートタックを利用してシート外周部を基板に貼付け)で真空ラミネートすることが記載されている。

したがって、上記記載事項によれば、引用例1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「フィラーなどを含み、
25℃における弾性率が10^(3)?10^(9)Paである、電子部品の封止用の樹脂シートであって、タック性を利用して樹脂シートを基板と機能素子に密着させるもので、
機能素子が弾性表面波チップであるゲル状硬化性樹脂シート。」

(2)引用例5
当審の拒絶理由通知に引用した、国際公開WO2011/62167号公報(以下、「引用例5」という。)には、「樹脂組成物」について、表1とともに以下の各記載がある。なお、下線は当審で付与した。
キ.「[0007]本発明が解決しようとする課題は、ワニス塗工が可能で、簡便にシート化することができ、封止工程前に予め硬化せしめることにより、封止工程以降では加熱硬化を必要とせず、有機EL素子の熱劣化を大幅に低減でき、良好な耐透湿性、接着強度、取り扱い性を併せ持ったシートを実現し得る樹脂組成物及びそれから得られる樹脂組成物シートを提供することにある。
(中略)
[0067]本発明の樹脂組成物の用途は、特に限定されないが、半導体、太陽電池、高輝度LED、LCD、有機EL等の各種デバイス用の封止材料に用いることができ、特に有機ELデバイスに好適に使用することができる。
[0068][樹脂組成物シート]本発明の樹脂組成物シートは、本発明の樹脂組成物自体をシート化したもの、及び、支持体上に本発明の樹脂組成物の層を形成したものの両方を含む。種々のデバイスへの適用にあっては、支持体上に本発明の樹脂組成物の層を形成した樹脂組成物シートを適用対象物の必要箇所にラミネートしてその樹脂組成物層を適用対象物へ転写するようにしてもよい。
(中略)
[0074]かかる硬化後の樹脂組成物シートの厚みは、3μm?200μmが好ましく、5μm?100μmがより好ましく、5μm?50μmが更に好ましい。」

ク.「[0080][有機ELデバイス製造方法]本発明の樹脂組成物シートを用いた有機EL素子の封止工程は、樹脂組成物シートを有機EL素子が形成された基板にラミネートして有機EL素子を樹脂組成物シートで被覆することで行うことができる。樹脂組成物シートが保護フィルムで保護されている場合はこれを剥離した後、樹脂組成物シートが該基板に直接接するように、樹脂組成物シートを該基板上にラミネートする。ラミネートの方法はバッチ式であってもロールでの連続式であってもよい。樹脂組成物シートの支持体が封止基材である場合は、樹脂組成物シートを有機EL素子の形成された基板上にラミネートした後、支持体を剥離せず、そのまま有機EL素子の封止工程が完了する。
(中略)
[0083]本発明における樹脂組成物シートは、基板に積層する封止工程前に予め硬化をさせていても、十分な接着性を有しており、封止工程以降では加熱硬化しなくてもよく、有機EL素子の封止工程以降では加熱硬化を必要とせず有機EL素子の熱劣化を大幅に低減させることが出来る。必要に応じて封止工程後に加熱硬化をしてもよいが、その場合は、有機EL素子の熱劣化を避けるために封止後の硬化加熱温度は、50?150℃が好ましく、60?100℃がより好ましく、60?80℃がさらに好ましい。封止工程以降では加熱硬化を必要とせず有機EL素子の熱劣化を大幅に低減できるという観点で、基板に積層する封止工程前に予め硬化せしめることが特に好ましい。」

ケ.「[0094]<取り扱い性の評価> テスター産業社製、恒温槽付きプローブタックテスター(TE-6002)にてタック力を測定した。25℃恒温槽内に静置した樹脂組成物シートに、SUS製5mmφ円柱状プローブを、コンタクト速度0.5cm/秒で接触させ、100g/cm^(2)の荷重下で、1秒間保持後に、プローブを0.5cm/秒で引き離すときの荷重を測定した。測定は一つのサンプルにつき3回行い、各測定におけるタック力の平均値を求めた。タック力が0.5N/cm^(2)未満を◎(良)、0.5N/cm^(2)以上12N/cm^(2)未満を○(可)、12N/cm^(2)以上を×(不可)とした。」
(中略)
[0113]表1(転記は省略)
(中略)
[0115]実施例1?11から、本発明の樹脂組成物により得られる樹脂組成物シートは、タック力が小さく、樹脂組成物シートを有機EL素子上にラミネートする際に優れた取り扱い性を有するものとなることが分かる。また、ラミネート時に加熱硬化を積極的に行う必要がなく、80℃という低温加熱で十分に高い接着力で接着し得、ラミネート後に高温高湿環境下に置かれた後も高い接着力を維持することができ、しかも、良好な耐透湿性を有する。(以下略)」

・上記キの記載事項によれば、引用例5の樹脂組成物及びそれから得られる樹脂組成物シートは、封止工程以降では加熱硬化を必要としないことで有機EL素子の熱劣化を大幅に低減でき、良好な耐透湿性、接着強度、取り扱い性を併せ持ったシートを実現し得るもので、その用途は、半導体、太陽電池、高輝度LED、LCD、有機EL等の各種デバイス用の封止材料に用いることができるものであること。また、引用例5の樹脂組成物シートは、樹脂組成物自体をシート化したもの、及び、支持体上に樹脂組成物の層を形成したものの両方を含み、種々のデバイスへの適用にあっては、支持体上に本発明の樹脂組成物の層を形成した樹脂組成物シートを適用対象物の必要箇所にラミネートしてその樹脂組成物層を適用対象物へ転写するようにしてもよいこと、樹脂組成物シートの厚みは、3μm?200μmが好ましいことが記載されている。

・上記クの記載事項によれば、引用例5の樹脂組成物シートを用いた有機EL素子の封止工程は、樹脂組成物シートを有機EL素子が形成された基板にラミネートして有機EL素子を樹脂組成物シートで被覆することで行うことができ、樹脂組成物シートが該基板に直接接するように、樹脂組成物シートを該基板上にラミネートするものであること。また、引用例5における樹脂組成物シートは、基板に積層する封止工程前に予め硬化をさせていても、十分な接着性を有しており、有機EL素子の封止においては、封止工程以降に加熱硬化しなくてもよいので、熱劣化を大幅に低減させることが出来ること。必要に応じて封止工程後に加熱硬化をしてもよいが、その場合は、有機EL素子の熱劣化を避けるために封止後の硬化加熱温度は、50?150℃が好ましいことが記載されている。

・上記ケの記載事項によれば、引用例5の樹脂組成物シートの取扱い性の評価は、テスター産業社製、恒温槽付きプローブタックテスター(TE-6002)にて、25℃恒温槽内に静置した樹脂組成物シートに、SUS製5mmφ円柱状プローブを用いてタック力を測定したもので、電子部品の封止樹脂に用いる樹脂組成物シートにおいて、良好な取り扱い性を確保するためには、シートのタック力を抑制して、タック力を0.5N/cm^(2)未満とするのが良い(◎良)ことが記載されている。また、表1の実施例1?11によると、有機EL素子の封止においては、ラミネート時に加熱硬化を積極的に行う必要がなく、80℃という低温加熱で十分に高い接着力で接着し得、ラミネート後に高温高湿環境下に置かれた後も高い接着力を維持できることが記載されている。

したがって、上記記載事項によると、引用例5には、
「半導体、太陽電池、高輝度LED、LCD、有機EL等の各種デバイス用の封止材料に用いることができる樹脂組成物シートにおいて、樹脂組成物シートを用いたデバイスの封止工程は、樹脂組成物シートをデバイスが形成された基板にラミネートしてデバイスを樹脂組成物シートで被覆することで行うことができるもので、樹脂組成物シートは、基板に積層する封止工程前に予め硬化をさせていても、十分な接着性を有していて、有機EL素子の封止においては、封止工程以降に加熱硬化しなくてもよいので、熱劣化を大幅に低減させることが出来ること、必要に応じて封止工程後に加熱硬化をしてもよいが、その場合は、有機EL素子の熱劣化を避けるために封止後の硬化加熱温度は、50?150℃が好ましいこと」が記載されており、
各種デバイスの封止材料に用いることができる樹脂組成物シートの良好な取り扱い性を確保するには、「シートのタック力を抑制して、タック力を0.5N/cm^(2)未満とするのが良い」との技術事項が記載されている。

(3)引用例6
当審の拒絶理由通知に引用した、特開2009-246302号公報(以下、「引用例6」という。)には、「ダイソートテープ」について、図表とともに以下の各記載がある。なお、下線は当審で付与した。
コ.「【背景技術】
【0002】半導体装置の製造工程の一つに、所要の前処理を経て回路が形成された半導体ウエハを複数個のチップに切断分離するダイシング工程がある。この工程では、リングフレームと呼ばれる円形または方形の枠に、半導体ウエハ固定用のダイシングシートを貼着し、このダイシングシートに半導体ウエハを貼付し、回路毎にダイシングし、半導体チップとする。その後、ボンディングマシンによるエキスパンド工程に続いて、たとえばエポキシ樹脂等のダイボンド用接着剤をチップ用基板のパッド部に塗布して半導体チップをチップ用基板に接着するダイボンディング工程が行われる。さらに、ワイヤボンディング工程や検査工程などを経て、最終的にモールディング工程で樹脂封止を行い、半導体装置が製造される。
(中略)
【発明が解決しようとする課題】
【0008】本発明は上記のような従来技術に伴う問題を解決しようとするものである。すなわち、本発明は、粘着剤層と各チップとの接着面にエアが混入したとしても、該チップを該粘着剤層からピックアップする際のピックアップ力を安定させ、ピックアップミスを少なくすることができ、チップを保管、搬送する際には該チップが脱落することのないダイソートテープを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】このような課題の解決を目的とした本発明の要旨は以下の通りである。
(1)基材フィルムと、その上に形成された粘着剤層と、前記粘着剤層の表面に仮着された剥離フィルムとからなり、
前記粘着剤層の23℃における貯蔵弾性率が1×10^(4)?1×10^(8)Paであり、
そのプローブタック値が50?3920mNであり、
前記剥離フィルムの粘着剤層側表面の表面粗さ(Ra)が10μm以下であるダイソートテープ。
(中略)
【発明の効果】
【0010】本発明によれば、ダイソートテープにおける粘着剤層の貯蔵弾性率、プローブタック値及び剥離フィルムの粘着剤層側表面の表面粗さを最適化することによって粘着剤層表面の形状を制御し、チップを貼付する際の粘着剤層とチップとの接着面積が略一定になる。その結果、チップを粘着剤層からピックアップする際のピックアップ力が安定し、ピックアップミスを少なくすることができ、また、チップを保管、搬送する際には該チップが脱落することのないダイソートテープが提供される。

サ.「【0019】プローブタック値が上記範囲より大きいと、粘着剤層とチップとの接着面に不均一な状態でエアが混入し、粘着剤層とチップとの接着面積が不均一となりピックアップ力が安定しない。プローブタック値が上記範囲より小さいと、貼付したチップとの密着性が悪く、チップを安定して保持できないという不具合を生じる。また、チップを貼付できたとしても搬送、保管中にチップが脱落するという不具合を生じる。
(中略)
【0063】チップを粘着剤層からピックアップする際に、ピックアップミスを少なくし、また、チップを保管、搬送、水洗浄する際には該チップが脱落することのないダイソートテープを得るためには、粘着剤層の貯蔵弾性率とプローブタック値、剥離フィルムの表面粗さのコントロールが重要である。
(中略)
【0074】[プローブタック値]
粘着剤層のプローブタック値は、JIS Z0237参考5のプローブタック試験方法に基づいて測定した。具体的には、試験片(幅=約25mm、長さ=約25mm)をプローブタック試験装置に取付け、実施例および比較例に記載した粘着剤層にプローブを一定荷重をかけながら一定時間接触させた後、プローブを粘着剤層から垂直方向に引き剥がすのに要する力を求め、これをプローブタック値とした。プローブとしては、ステンレスSUS304製の円柱プローブ(直径=5mm)を用い、接触速さ及び引き剥がし速さを毎秒10mmとし、接触荷重を0.98N/cm2とし、接触時間を1秒とした。
(中略)
【0138】【表1】(転記は省略)」

・上記コ、サの記載によれば、プローブタック値として50?3920mN(直径5mmの円柱プローブを用いてJIS Z0237参考5のプローブタック試験方法に基づいて測定)が記載され、特に【表1】には、実施例6のプローブタック値が147mN、実施例7のプローブタック値が105mNであったことがそれぞれ記載されている。

したがって、上記記載事項によると、引用例6には、
チップのピックアップミスを少なくするためのプローブタック値として、「147mNと105mN(直径5mmの円柱プローブを用いてJIS Z0237参考5のプローブタック試験方法に基づいて測定)であったこと」が記載されている。

4.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、
引用発明の「フィラー」は、樹脂の充填材であるから、本願発明の配合剤に相当し、引用発明の「弾性表面波チップ」は、本願発明の「SAWフィルタ」に相当する。
引用発明の「ゲル状硬化性樹脂シート」は、「弾性表面波チップ」を樹脂封止するためのシートであって、複数の配列された機能素子をその内部に含むように、配線基板とで囲まれた閉空間領域を形成するように、例えば、配列された一群のチップ群全体を覆いつつ、しかも、その1群のチップ群全体の周囲の基板部分もまた覆うように、シートを配置し、閉空間領域を真空に維持しつつ、シートを硬化温度未満に加熱し流動させながら封止樹脂表面を平坦に成形した後、シートを硬化温度に加熱して硬化させるものであるから、本願発明の「電子デバイスの封止用の樹脂シート」に相当する。
引用発明の「ゲル状硬化性樹脂シート」の「弾性率」は、本願発明の「樹脂シート」の「引張貯蔵弾性率」に相当し、引用発明の「弾性率が10^(3)?10^(9)Pa」は、「10^(-3 )?10^(3 )MPa」であるから、本願発明の「弾性率が10^(-2 )MPa?10^(3 )MPa」の範囲に相当する。

以上を踏まえると、本願発明と引用発明とは、
「配合剤などを含み、
25℃における引張貯蔵弾性率が10^(-2 )MPa?10^(3 )MPaである、電子デバイスの封止用の樹脂シートであって、
前記電子デバイスがSAWフィルタである樹脂シート。」
である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
樹脂の配合剤について、本願発明では、「カーボンブラックを含む」のに対して、引用発明においては、そのような特定がなされていない点。
(相違点2)
本願発明ではプローブタックについて、「直径25mmのプローブを用いて測定された25℃のプローブタックが5gf?500gfであ」るのに対して、引用発明も本願と同様に「タック性」に注目して、樹脂シートのタック性を利用して樹脂シートで弾性表面波チップを覆いつつ、弾性表面波チップ群全体の周囲の基板も覆うように貼付けるものであるものの、引用発明においてはそのような特定がなされていない点。

5.判断
そこで、上記相違点について検討する。
(相違点1について)
当審の拒絶理由通知に引用した、特開2008-260845号公報(以下、「引用例2」という。)には、表面弾性波装置の封止に用いられる熱硬化型接着シートにおいて、エポキシ樹脂組成物に、必要に応じてカーボンブラックをはじめとする顔料等の添加剤を適宜配合すること(特に段落【0024】参照)、
同じく当審の拒絶理由通知に引用した、特開2008-98419号公報(以下、「引用例3」という。)には、SAWデバイスを簡便に得ることを可能とする封止フィルムにおいて、着色剤としてカーボンブラック等の顔料及び染料を用いることができること(特に段落【0051】参照)、
同じく当審の拒絶理由通知に引用した、特開2009-91389号公報(以下、「引用例4」という。)には、表面弾性波素子等の中空型デバイスの樹脂封止に用いられる樹脂組成物シートにおいて、エポキシ樹脂組成物には、必要に応じてカーボンブラックをはじめとする顔料等の添加剤を適宜配合すること(特に段落【0025】参照)が、
それぞれ記載されており、表面弾性波素子を封止する樹脂シートにおいて、必要に応じてカーボンブラックを配合することは周知の技術事項である。
したがって、引用発明において、弾性表面波デバイスを封止するゲル状硬化性樹脂シートの配合剤として、引用例2?4に記載の周知の技術事項を適用してカーボンブラックを含むように構成することは、当業者が容易になし得たことである。

(相違点2について)
上記「3.(2)」に既述したように、引用例5には、各種デバイスの封止材料に用いることができる樹脂組成物シートの良好な取り扱い性を確保するには、「シートのタック力を抑制して、タック力を0.5N/cm^(2)未満とするのが良い」との技術事項が記載されている。
そして、引用例5の段落[0094]には、タック力を5mm直径プローブで測定したことが、段落[0113]の表1には取り扱い性の評価結果として、実施例5,6が0.1N/cm^(2)、実施例7,8,11が0.2N/cm^(2)、実施例10が0.3N/cm^(2)であったことがそれぞれ記載されている。
ここで、9.8N=1kgf=1000gfなので、
・0.1N/cm^(2) は
0.1[N/cm^(2)]×1000/9.8[g/N]=10.2gf/cm^(2)
直径25mmのプローブでの測定に換算すると、面積は12.52×π≒490.625mm^(2)=4.90625cm^(2) で、10.2gf/cm^(2)×4.90625cm^(2) =50.04375gf
・0.3[N/cm^(2)]は、
0.1[N/cm^(2)]の3倍であるから、10.2gf×3=30.6gf/cm^(2)
直径25mmのプローブでの測定に換算すると、30.6gf/cm^(2)×4.90625cm^(2)=150.13125gf
よって、引用例5には、取り扱い性評価のタック力として、25mm直径プローブを用いて測定した場合に換算すると、50.04375gfと150.13125gfのプローブタックが開示されていると認められる。

また、上記「3.(3)」に既述したように、引用文献6には、プローブタック値として、実施例6が147mN、実施例7が105mN(直径5mmの円柱プローブを用いてJIS Z0237参考5のプローブタック試験方法に基づいて測定)であったことが記載されている。
ここで、100mN=10.20gfなので,
・実施例6の147mNは、
10.2gf×147/100=14.994gf
直径25mmのプローブを用いて測定した場合に換算すると、プローブの半径が5倍であるから14.994gf×5^(2)=374.85gf
・実施例7の105mNは、
10.2gf×105/100=10.71gf
直径25mmのプローブを用いて測定した場合に換算すると、プローブの半径が5倍であるから、10.71gf/cm^(2)×5^(2)=267.75gf
よって、引用文献6には、プローブタック値として、25mm直径プローブを用いて測定した場合に換算すると、374.85gfと267.75gfのプローブタックが開示されていると認められる。

したがって、引用発明のタック性を利用して樹脂シートを基板とデバイスに密着させるゲル状硬化性樹脂シートの「タック値」として、引用例5に記載の各種デバイスの封止材料に用いることができる樹脂組成物シートの良好な取り扱い性を確保するには「シートのタック力を抑制して、タック力を0.5N/cm^(2)未満とするのが良い(直径5mmの円柱状プローブで測定)」との技術事項や、引用例6に記載の半導体装置の製造工程において、チップとの密着性を考慮したダイソートテープにおけるプローブタック値である147mNと105mN(直径5mmの円柱プローブを用いてJIS Z0237参考5のプローブタック試験方法に基づいて測定)の技術事項を適用して、直径25mmのプローブを用いて測定した場合に換算したタック値である5gf?500gfとすることは、当業者が容易になし得たことである。

なお、審判請求人は、平成29年4月26日付け意見書において、
「(理由1)引用例1のゲル状硬化性樹脂シートのタック値として、引用例5における、120℃で30分間加熱硬化後のタック値を当業者が適用する動機はないこと。
(理由2)保護フィルムの剥離の際に引用例1のゲル状硬化性樹脂シートが大きく変形してしまうという課題は周知ではなく、引用例1のシートの厚みと引用例5のシートの厚みが異なるから、引用例1のゲル状硬化性樹脂シートのタック値として、引用例5のタック値を当業者が適用する動機はないこと。
の2つの理由から、引用例1のゲル状硬化性樹脂シートのタック値として、引用例5に記載の技術事項を適用することは当業者が容易になし得たことではない」旨、
また、「引用例1のゲル状硬化性樹脂シートにおいて、チップを保管、搬送するために使用すること、チップピックアップに使用することは予定されていないから、引用例1のゲル状硬化性樹脂シートのタック値として、引用例6のタック値を当業者が適用する動機はない」旨、主張している。
しかしながら、上記「3.(1)」に既述したように、引用発明は、「電子部品の封止用の樹脂シートであって、タック性を利用して樹脂シートを基板とデバイスに密着させるもの」であり、タック性を利用して樹脂シートを基板とデバイスに密着させる際のタック力として、如何なる値が適当であるかという点に対して、引用例5には、上記「3.(2)」に既述したように、電子部品の封止材料に用いる樹脂組成物シートにおいて、良好な取り扱い性を確保するためのタック力として如何なる値が適当であるかという技術事項が記載されているものであるから、引用発明のタック値として引用例5のタック値を適用して本願発明を構成することに特段の阻害要因は認められない。
また、引用例1のゲル状硬化性樹脂シートの厚みと引用例5の樹脂組成物シートの厚みについても、上記「3.(1)」に既述したように、引用例1のシートの厚みは、「たとえば50μm程度の厚さから1000μmという厚いシートまで製造することができる」もので、引用例5のシートの厚みは、「3μm?200μmが好まし」いことが記載されている。ここで、請求人が引用例1におけるゲル状硬化性樹脂シートの厚み範囲とする「220μm?960μm」は、引用例1の段落【0030】の記載に基づくものであるが、段落【0030】は、「ゲル状硬化性樹脂シートの厚さは、配線基板と機能素子との間の間隔と機能素子の厚みとの和の1倍以上2倍以下の厚さ、さらには1.5倍以下であるのが、好ましく、実際の厚さとしては、弾性表面波チップの厚さが一般に200?400μm、バンプの高さが一般に20?80μmであるから、220?960μm、さらには220?720μmであるのが好ましい」とするもので、シートの厚みは220?960μmの範囲しか取り得ないものではなく、弾性表面波チップの厚さに影響を受けるものである。つまりは、配線基板と機能素子との間の間隔と機能素子の厚みとの和の1倍以上2倍以下の厚さ、さらには1.5倍以下の厚さであれば、たとえば50μm程度の厚さから1000μmという厚いシートまで製造可能な範囲で対応可能なものであるから、引用例1のゲル状硬化性樹脂シートと引用例5の樹脂組成物シートには適用を阻害するような厚さの相違は認められない。
さらに、引用例6についても、引用発明のタック性を利用して樹脂シートを基板とデバイスに密着させる際のタック力として、いかなる値が適当であるかという点に対して、引用例6には、上記「3.(3)」に既述したように、ダイソートテープをチップに密着させる際のタック力が記載されているものであるから、引用例1のタック値として引用例6のタック値を適用して本願発明を構成することに特段の阻害要因は認められない。そして、引用例6は、引用発明のタック性を利用して樹脂シートを基板とデバイスに密着させる際のタック力の数値を技術事項として引用したものであって、引用発明の樹脂シートをチップピックアップに使用することを想定したものではない。よって請求人の主張は認められない。
なお、本願発明の樹脂シートにおけるタック力に係る構成要件は、「直径25mmのプローブを用いて測定された25℃のプローブタックが5gf?500gfであ」ることのみであり、請求人による「そのタック値を得るための過程」、「保護フィルム剥離の際の課題」、「シートの厚み」が相違しているとの主張は、本願発明の構成要件に基づくものではない。よって請求人の主張は認められない。

6.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用例1に記載された発明、引用例2ないし6に記載された技術事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-12-13 
結審通知日 2017-12-14 
審決日 2017-12-26 
出願番号 特願2013-223208(P2013-223208)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 原田 貴志木下 直哉  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 関谷 隆一
森川 幸俊
発明の名称 電子デバイス封止用樹脂シート及び電子デバイスパッケージの製造方法  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ