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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E04B
管理番号 1337338
審判番号 不服2016-12654  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-08-23 
確定日 2018-02-08 
事件の表示 特願2014- 70946「家屋構造」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月 2日出願公開、特開2015-190305〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年3月31日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年 1月28日:拒絶理由通知(起案日)
平成28年 4月 6日:意見書、手続補正書
平成28年 5月18日:拒絶査定(起案日)
平成28年 8月23日:審判請求書、手続補正書
平成29年 9月 8日:補正の却下の決定(起案日)
平成29年 9月 8日:拒絶理由通知(起案日)
平成29年11月 9日:意見書、手続補正書


第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成29年11月9日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明は次のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。

「 【請求項1】
部屋の内部の空気を循環させながら浄化する家屋構造において、
部屋の内部の空気を強制的に床下空間を介して循環させるための循環流路を形成し、循環流路の途中の床下空間に空気を浄化するための吸着性を有する空気浄化剤を配置するとともに、循環流路の途中の床下空間に強制的に空気を循環させるための空調機器を配置し、空調機器で温められた空気や冷やされた空気を床下空間で空気浄化剤によって浄化させるとともに床下空間から部屋の内部に送風し、空調機器は、暖房運転時に部屋の内部の空気の湿度が所定値以下の場合に床下空間を介して循環させる空気を加湿するとともに冷房運転時に部屋の内部の空気の湿度が所定値以上の場合に床下空間を介して循環させる空気を除湿することを特徴とする家屋構造。」


第3 引用例の記載事項
1 刊行物1
当審からの平成29年9月8日付け拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である登録実用新案第3038324号公報(以下「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている(下線は当審で付与。以下同様。)。

(1) 「【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 屋根と天井との間、周壁内部、および床下敷地面に断熱層1が形成され、かつ、これらの断熱層1に囲われる内部空間には複数の部屋R・R・・・・を包含せる建物Bであって、これらの部屋R・R・・・・を囲う室内壁と天井と床部は互いに連通せるエア通路2を内蔵しており、このエア通路2には空調機3が介設されて当該空調機3の作動によって生成される暖気または冷気を、前記エア通路2内に圧送することによって暖冷房可能であることを特徴とした空気循環式建物。
・・・
【請求項5】 エア通路2には少なくとも1つの浄化層7が配設されている請求項1?4の何れか一つに記載の、空気循環式建物。」

(2) 「【0007】【考案の実施の形態】以下、本考案を添附図面に示す実施形態に基いて更に詳しく説明する。なお、図1は本考案の実施形態である空気循環式建物の内部における暖気の流れの一例を示した全体説明図である。
・・・
【0009】符号2で指示するものは、前記部屋R・R・・・・を囲うように配設されたエア通路であり、各部屋Rの室内壁と天井と床部は互いに連通状態に構成してある。このエア通路2には、後述の空調機にて生成される温調空気が循環する。
【0010】符号3で指示するものは、前記エア通路2の所定位置(本実施形態では、床下の蓄熱層1′の上)に介設された空調機である。この空調機3の作動によって暖気または冷気を生成し、生成された暖気または冷気をエア通路2内に圧送して強制循環させることにより、建物B内の部屋R・R・・・・の暖冷房を行っている。この暖冷房では、各部屋Rの室内壁と天井と床部の壁面を介して部屋Rの全方向から間接的に各部屋Rを暖房または冷房している。また、空調機3では、所望温度の暖気または冷気を生成するだけでなく、所望湿度の調湿空気を生成したり、臭気の脱臭や塵埃の除去等の処理がされた浄化空気を生成したりすることも可能である。
【0011】 符号4で指示するものは、部屋Rの上方に配設された上部通気口であり、符号5で指示するものは、部屋Rの下方に配設された下部通気口である。これら上部通気口4および下部通気口5は開閉操作可能に形成されており、前記空調機3にてエア通路2内を強制循環する温調空気を各通気口4・5から取り入れ可能となっている。これにより、暖房時には下部通気口5を開放して其処からエア通路2内の暖気を取り入れると、図1の矢印で示すように、当該暖気が部屋Rの下部通気口5から上方へ向けて自然対流により上昇して部屋R内を直接効率よく暖房することができる。一方、冷房時には上部通気口4を開放して其処からエア通路2内の冷気を取り入れると、当該冷気が部屋Rの上部通気口4から下方へ向けて自然対流により下降して(図示せず)、部屋R内を冷房することができる。・・・
【0013】符号7で指示するものは、エア通路2の所定位置に配設された浄化層であり、木炭や活性炭等の吸着性に秀れた物質から成る。この浄化層7により、エア通路2内を循環する空気を浄化することができ、例えば建物Bの壁材に含有している有害な化学物質(ホルマリン等)がその壁材から出てきたとしても、その有害物質を効果的に除去することができる。・・・
【0014】上記の如く構成された空気循環式建物Bにより、各部屋Rを囲むエア通路2内を強制循環する冷気または暖気にて部屋R全体を間接的に四方から万遍なく人工的に冷暖房することができると同時に、部屋Rの上部通気口4および下部通気口5から取り入れた冷気または暖気の自然対流にて各部屋Rごとに直接柔軟な冷暖房を行うことができる。また、空調機3にて湿度や塵埃除去等の処理がされ、さらに浄化層7にて浄化されたクリーンな空気を各部屋Rに直接取り入れることができるため、部屋Rの最適な空調を行うことも可能である。」

(3) 「【0015】本考案の実施形態は概ね上記のとおりであるが、本考案は前述の実施形態に限定されるものでは決してなく、「実用新案登録請求の範囲」の記載内において種々の変更が可能であって、例えば、部屋Rの種類に応じて上部通気口4および下部通気口5の形態を変えたりその通気口の個数を増減したりすることも可能であり、また、複数の浄化層7・7・・・・をエア通路2の数箇所に配設して浄化機能を一層高めることも可能であり、これら何れの変更態様も本考案の技術的範囲に属することは言うまでもない。」

(4) 図1は次のものである。



(5) 上記(2)に摘記した刊行物1の段落【0010】、【0011】の記載を参酌すると、図1において、「部屋R」と「床下敷地面に形成された断熱層1」との間の空間は、建物の床下空間であることが看て取れ、そして「エア通路2」は当該床下空間を通っており、「空調機3」で生成される暖気または冷気は床下空間を通って「部屋R」内に送風されていることが看て取れる。
また図1より、部屋の内部の空気を含め建物の空気が循環されていることが看て取れる。なお上記(2)の摘記のとおり図1は「暖気の流れの一例」すなわち暖房時を例示したものであるが、上記(1)、(2)の摘記のとおり「空気循環式建物B」は冷暖房両方におけるものであり、冷房時も部屋の内部の空気を含め建物の空気が循環されることは明らかである。

(6) 上記(1)ないし(5)を総合して、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

「屋根と天井との間、周壁内部、および床下敷地面に断熱層1が形成され、かつ、これらの断熱層1に囲われる内部空間には複数の部屋R・R・・・・を包含せる建物Bであって、これらの部屋R・R・・・・を囲う室内壁と天井と床部は互いに連通せるエア通路2を内蔵しており、このエア通路2の床下位置には空調機3が介設されて当該空調機3の作動によって生成される暖気または冷気を、前記エア通路2内に圧送して強制循環させることによって部屋R・R・・・・を暖冷房可能であり、エア通路2には浄化層7が配設されている、
部屋の内部の空気を含め建物の空気が循環される、空気循環式建物Bであり、
エア通路2は床下空間を介して空気を循環し、
空調機3で生成される暖気または冷気は床下空間を通って部屋R・R・・・・内に送風され、
空調機3は、所望湿度の調湿空気を生成して、部屋R・R・・・・の最適な空調を行い、
浄化層7は、木炭や活性炭等の吸着性に秀れた物質から成り、エア通路2内を循環する空気を浄化し、建物Bの壁材に含有している有害な化学物質(ホルマリン等)がその壁材から出てきたとしても効果的に除去することができるものである、
空気循環式建物B。」

2 刊行物2
当審からの平成29年9月8日付け拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2003-147868号公報(以下「刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。

(1) 「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、建物の床下等に配設され湿気や臭気等の悪性成分を吸着するとともにマイナスイオンを発生する建物用吸着装置に関するとともに、このような吸着装置を配設した建物の床下構造に関する。」

(2) 「【0011】・・・図1,図4乃至図6に示すように、この建物1の床下構造は、建物1の外壁2に対応して地面に立設されるコンクリート製の枠状の外側基礎3を備え、この外側基礎3に床板4が設けられてその下側に床下空間Sを形成している。床下空間Sの地面には外側基礎3に連続するコンクリート製地盤20が形成され、コンクリート製地盤20と外側基礎3とで全体がプール状に形成されている。・・・」

(3) 「【0013】・・・また、床下空間Sには、木炭等の吸着材Kaが収納された実施の形態に係る上記の吸着装置Kが配設されている。吸着装置Kは、床板4に吊下されている。・・・」

(4) 「【0014】従って、この実施の形態に係る建物用吸着装置Kを用いた建物の床下構造によれば、以下のように作用をする。床下空間Sにおいては、空気が外壁2の連通路8を通って流通させられている。この状態において、建物用吸着装置Kにおいては、図2及び図3に示すように、空気が収納体10の開口12や多数の小孔13を通って木炭等の吸着材Kaに接触し、空気中の悪性成分が吸着材Kaに吸着され、調湿,防臭,除菌,防虫等の機能が発揮させられる。・・・
【0016】このように、建物用吸着装置Kにより、調湿,防臭,除菌,防虫等の機能が発揮されて改良され、更には、マイナスイオンの発生により改良された床下空間Sの雰囲気は、床下空間Sを流通して外壁2の連通路8から内部へ流入していく。・・・更に、床板4には多数の通孔28が形成されているので、この通孔28からも改善された雰囲気が内部に侵入でき、それだけ、充分に改善された雰囲気を取り込むことができるようになる。・・・」

(5) 図1は次のものである。



(6) 図1から、複数個の「吸着装置K」は、隣接する「吸着装置K」同士の間や、各「吸着装置K」と「コンクリート製地盤20」の上面との間に間隔を設けて、床下に吊り下げられていることが看て取れる。

(7) 上記(1)ないし(6)で摘記した事項からみて、刊行物2には、次の事項が記載されていると認められる(以下「刊行物2記載事項」という。)。

「地面に立設されるコンクリート製の枠状の外側基礎3を備え、この外側基礎3に床板4が設けられてその下側に床下空間Sを形成し、
空気が収納体10の開口12や多数の小孔13を通って木炭等の吸着材Kaに接触して空気中の悪性成分が吸着材Kaに吸着される、吸着材Kaが収納された複数個の吸着装置Kを、
隣接する吸着装置K同士の間や、各吸着装置Kとコンクリート製地盤20の上面との間に間隔を設けて床下に吊り下げて、床下空間Sに配設し、
吸着装置Kにより改善された雰囲気は、床下空間Sを流通し、連通路8あるいは通孔28から建物内部へ流入する、
建物の床下構造。」

3 刊行物3
当審からの平成29年9月8日付け拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2002-71186号公報(以下「刊行物3」という。)には、次の事項が記載されている。

(1) 「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、近年新築住宅で問題となっている所謂シックハウス症候群の発生原因を可及的に除去すると共に、異臭、湿気等も除去して快適な居住空間を確保できるようにした空気浄化式家屋に関する。」

(2) 「【0017】23、23、・・・は一階天井裏空間13に配置した複数の浄化用吸着体を示す。該各浄化用吸着体23は、布袋等の通気性収納袋に竹炭、木炭、活性炭等の炭化物からなる多孔吸着物質を粒状に破砕して充填することにより構成してある。そして、各浄化用吸着体23は躯体3を構成する梁3C、3Cに吊下した状態で支持させてある。・・・」

(3) 「【0023】次に、図3に第2の実施の形態に係る空気浄化式家屋の要部を示す。なお、本実施の形態及び後述する他の実施の形態において、前述した第1の実施の形態の構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付して援用し、その説明を省略する。しかして、本実施の形態の特徴とするところは、床下空間11を浄化用吸着体23の収納室としたことにある。
【0024】・・・なお、床下空間11は一階居住空間12とは一階床部4に通気口18を形成することにより、また柱3Bと一階床部4との間に形成される施工上の隙間35、35を利用して通気路とすることにより連通している。上述の如く構成される床下空間11には、多数の浄化用吸着体23、23、・・・が配置してある。」

(4) 上記(1)ないし(3)で摘記した事項からみて、刊行物3には、次の事項が記載されていると認められる(以下「刊行物3記載事項」という。)。

「布袋等の通気性収納袋に竹炭、木炭、活性炭等の炭化物からなる多孔吸着物質を粒状に破砕して充填することにより構成した浄化用吸着体23の収容室を床下空間11とし、
床下空間11は一階居住空間12と通気口18、また施工上の隙間35、35を利用した通気路により連通している、
空気浄化式家屋。」

4 刊行物4
当審からの平成29年9月8日付け拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2002-250555号公報(以下「刊行物4」という。)には、次の事項が記載されている。

(1) 「【特許請求の範囲】【請求項1】吸込口から室内気を吸い込みかつ吹出口から吹き出すためのファンと、前記室内気と室外ユニットから供給された冷媒との間で熱交換を行う室内熱交換器と、各種電気回路素子及び多方向通信機能を具備してなる室内ユニット制御部と、室内の湿度を検出する湿度検出手段とを備え、該室内ユニット制御部に、前記湿度検出手段の検出値に応じて加湿器の運転制御を行う加湿器連動運転モードを設けたことを特徴とする室内ユニット。
【請求項2】 前記制御部は、前記湿度検出手段の検出値と予め設定された設定湿度とを比較し、前記検出値が前記設定湿度より所定値以上高い場合に前記加湿器をOFFとし、前記検出値が前記設定湿度と前記所定値とを加えた値に満たない場合に前記加湿器をONとすることを特徴とする請求項1に記載の室内ユニット。」

(2) 「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、暖房又は冷房により快適な室内環境を提供する室内ユニット及び空気調和機に係り、特に通信機能により利便性を高めた室内ユニット及び空気調和機に関する。」

(3) 「【0027】・・・この室内ユニット制御部15は、室内の空気の湿度を検出する湿度検出手段として湿度センサ18を備えている。湿度センサ18は、吸入する空気の湿度を検出するよう室内機ユニット10の適所に設置されており、室内ユニット制御部15とは電気的に接続されている。」

(4) 「【0030】さて、上述した図1の構成では、たとえば暖房運転時において以下のようにして空調運転と加湿運転とを連動させる。最初のステップ1(S1)では、リモートコントローラ30により暖房運転を選択すると共に、所望の設定湿度H1を入力する。なお、設定湿度H1の入力がなければ、前回までの設定値がそのまま生きることになる。次のステップ2(S2)で空気調和機のON/OFFスイッチを操作して空調運転を開始すると、続くステップ3(S3)では、湿度センサ18の検出値H2を検知する。」

(5) 「【0031】ステップ4(S4)では、設定湿度H1と湿度センサ18の検出値H2とを比較する加湿判断を実施する。この加湿判断では、検出値H2が設定湿度H1に所定値α(%)を加えた値(H1+α)以下と低くなった場合(H2≦H1+α)に湿度不足の状態にあると判断して加湿器40の運転をONとし、検出値H2が設定値H1に所定値αを加えた値より大きい場合(H2>H1+α)に十分な湿度があると判断して加湿器40の運転をOFFとする。なお、この場合に好適な所定値αは、5%程度である。」

(6) 上記(1)ないし(5)で摘記した事項からみて、刊行物4には、次の事項が記載されていると認められる(以下「刊行物4記載事項」という。)。

「室内の湿度を検出する湿度センサ18を備え、湿度センサ18の検出値H2に応じて加湿器40の運転制御を行い、
暖房運転時、湿度センサ18の検出値と予め設定された設定湿度H1とを比較し、検出値H2が設定湿度H1より所定値α以上高い場合に加湿器40をOFFとし、検出値H2が設定値H1と所定値αとを加えた値(H1+α)に満たない場合に加湿器40をONとする、
暖房又は冷房を行う空気調和機の室内ユニット。」

5 刊行物5
当審からの平成29年9月8日付け拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2011-133146号公報(以下「刊行物5」という。)には、次の事項が記載されている。

(1) 「【発明を実施するための形態】【0037】以上の発明を具体化したパッケイジ型の高効率空気調和装置の代表事例を図2に示す。・・・
【0038】この除湿運転は室内空気の温湿度が温湿度センサーによって検知され、湿度が高く運転すべきと判定された時のみ運転され、それ以外では除湿運転は行われない。
除湿運転作動有無にかかわらず、1000立方m/時間の風量の室内空気は室内ファン62を通して冷却装置室内機102に送られる。その室内空気は室内冷却用熱交換器1、2、3、を通過して冷却されてその75%が室内に吹き出させる。その他の25%である250立方m/時間の室内空気はUターンして室内水蒸発器4、5、6によって加湿加熱されて室外に放出される。この間に室内水蒸発器を冷却し、さらにその中心に配設されたヒートパイプチューブを冷却しその内面に水を凝縮させる。凝縮した水は重力によりヒートパイプ内を落下し冷却装置室内機に達し、そこで蒸発して該冷却装置室内機を冷却し、最終的に室内空気を冷却する。」

(2) 上記(1)で摘記した事項からみて、刊行物5には、次の事項が記載されていると認められる(以下「刊行物5記載事項」という。)。

「除湿運転は室内空気の温湿度が温湿度センサーによって検知され、湿度が高く運転すべきと判定された時のみ運転され、それ以外では除湿運転は行われず、
除湿運転作動有無にかかわらず、室内空気を冷却する、
空気調和装置。」

第4 対比・判断
1 対比
本願発明と刊行物1発明とを対比すると、

(1) 刊行物1発明の「屋根と天井との間、周壁内部、および床下敷地面に断熱層1が形成され、かつ、これらの断熱層1に囲われる内部空間には複数の部屋R・R・・・・を包含せる建物Bであって、これらの部屋R・R・・・・を囲う室内壁と天井と床部は互いに連通せるエア通路2を内蔵しており、このエア通路2の床下位置には空調機3が介設されて当該空調機3の作動によって生成される暖気または冷気を、前記エア通路2内に圧送して強制循環させることによって部屋R・R・・・・を暖冷房可能であり、」「部屋の内部の空気を含め建物の空気が循環される、空気循環式建物Bであり、」、「エア通路2は床下空間を介して空気を循環」する「空気循環式建物B。」は、本願発明の「部屋の内部の空気を循環させ」る「家屋構造において、部屋の内部の空気を強制的に床下空間を介して循環させるための循環流路を形成し、」「循環流路の途中の床下空間に強制的に空気を循環させるための空調機器を配置」した「家屋構造」に相当する。

(2) 刊行物1発明において「エア通路2には浄化層7が配設され、」「浄化層7は、木炭や活性炭等の吸着性に秀れた物質から成り、エア通路2内を循環する空気を浄化し、建物Bの壁材に含有している有害な化学物質(ホルマリン等)がその壁材から出てきたとしても効果的に除去することができるものであ」ることは、本願発明において「循環流路の途中」「に空気を浄化するための吸着性を有する空気浄化剤を配置」して「空気を循環させながら浄化」していることに相当する。

(3) 刊行物1発明においては、「空調機3の作動によって生成される暖気または冷気を、前記エア通路2内に圧送して強制循環」させているのであるから、「エア通路2内を循環する空気を浄化」する「浄化層7」は、「空調機3の作動によって生成される暖気または冷気」を浄化しているものである。
よって、刊行物1発明において「空調機3の作動によって生成される暖気または冷気を、前記エア通路2内に圧送して強制循環」させ、「浄化層7」が「エア通路2内を循環する空気を浄化」し、そして「空調機3で生成される暖気または冷気は床下空間を通って部屋R・R・・・・内に送風され」ることと、本願発明で「空調機器で温められた空気や冷やされた空気を床下空間で空気浄化剤によって浄化させるとともに床下空間から部屋の内部に送風し」ていることとを対比すると、「空調機器で温められた空気や冷やされた空気を空気浄化剤によって浄化させるとともに床下空間から部屋の内部に送風し」ていることで共通する。

(4) 刊行物1発明において「エア通路2は床下空間を介して空気を循環し、」「空調機3の作動によって生成される暖気または冷気を、前記エア通路2内に圧送して強制循環させることによって部屋R・R・・・・を暖冷房可能であり」、「空調機3は、所望湿度の調湿空気を生成して、部屋R・R・・・・の最適な空調を行」うことと、本願発明で「空調機器は、暖房運転時に部屋の空気の湿度が所定値以下の場合に床下空間を介して循環させる空気を加湿するとともに冷房運転時に部屋の内部の空気の湿度が所定値以上の場合に床下空間を介して循環させる空気を除湿する」こととは、「空調機器は、床下空間を介して循環させる空気を、暖房、冷房、加湿及び除湿する」ことで共通する。

以上(1)ないし(4)より、本願発明と、刊行物1発明とは、

「部屋の内部の空気を循環させながら浄化する家屋構造において、部屋の内部の空気を強制的に床下空間を介して循環させる循環流路を形成し、循環流路の途中に空気を浄化するための吸着性を有する空気浄化剤を配置するとともに、循環流路の途中の床下空間に強制的に空気を循環させるための空調機器を配置し、
空調機器で温められた空気や冷やされた空気を空気浄化剤によって浄化させるとともに床下空間から部屋の内部に送風し、
空調機器は、床下空間を介して循環させる空気を、暖房、冷房、加湿及び除湿する、家屋構造。」
で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
本願発明では、「空気浄化剤」を「循環流路の途中の床下空間」に配置し、「床下空間」において「空調機器で温められた空気や冷やされた空気を」「空気浄化剤によって浄化」させて「部屋の内部に送風」するのに対し、刊行物1発明では、「エア通路2」への「浄化層7」の配設について、「エア通路2」中の「床下空間」に配設されるとは特定がされていない点。

[相違点2]
「空調機器」における空気の「加湿」について、本願発明では、「暖房運転時に部屋の内部の空気の湿度が所定値以下の場合に」「加湿する」のに対し、刊行物1発明では、そのような特定がされていない点。

[相違点3]
「空調機器」における空気の「除湿」について、本願発明では、「冷房運転時に部屋の内部の空気の湿度が所定値以上の場合に」「除湿する」のに対し、刊行物1発明では、そのような特定がされていない点。

2 判断
(1) 相違点1について
空気浄化剤を床下空間に配置し、そこで浄化された空気が部屋内に流入する構成は本願出願時において周知技術(刊行物2及び刊行物3記載事項参照。)であるから、この周知技術を採用して刊行物1発明における「浄化層7」(空気浄化剤)の配設位置として床下空間のエア通路を選択し、「床下空間」において空気を浄化し部屋内に送風することは、当業者が容易に想到し得ることである。加えて、刊行物1には、上記第3の1(3)で摘記したように「複数の浄化層7・7・・・・をエア通路2の数箇所に配設・・・も可能」と記載されており、「浄化層7」を他の位置にも配設し得ることが示唆されている。
よって、刊行物1発明に上記周知技術を適用して本願発明の相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(2) 相違点2について
刊行物4には、上記第3の4(6)で述べたように刊行物4記載事項が記載されており、この刊行物4記載事項の「空気調和機の室内ユニット」は、「暖房運転時」の加湿に関し、「湿度センサ18の検出値と予め設定された設定湿度とを比較し、・・・検出値H2が設定値H1と所定値αとを加えた値(H1+α)に満たない場合に加湿器40をON」するという構成を有するものであり、これは、相違点2に係る本願発明の「部屋の内部の空気の湿度が所定値以下の場合に」「加湿する」という構成に相当する。
そして、空調機の運転時に部屋の湿度が適切に保たれるべきであることは本願出願時において周知の課題であり、刊行物1発明にもそのような課題があるといえるから、刊行物1発明の「空調機3」において、刊行物4記載事項を採用して、相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
よって、刊行物1発明に刊行物4記載事項を適用して本願発明の相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(3) 相違点3について
刊行物5には、上記第3の5(2)で述べたように刊行物5記載事項が記載されており、この刊行物5記載事項の「空気調和装置」は、「室内空気を冷却」しているときの除湿に関し、「室内空気の温湿度が温湿度センサーによって検知され、湿度が高く運転すべきと判定された時・・・運転され」るという構成を有するものであり、これは、相違点3に係る本願発明の「部屋の内部の空気の湿度が所定値以上の場合に」「除湿する」という構成に相当する。
そして、空調機の運転時に部屋の湿度が適切に保たれるべきであることは本願出願時において周知の課題であり、刊行物1発明にもそのような課題があるといえるから、刊行物1発明の「空調機3」において、刊行物5記載事項を採用して、相違点3に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
よって、刊行物1発明に刊行物5記載事項を適用して本願発明の相違点3に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(4) 請求人の主張について
平成29年11月9日提出の意見書(「(3)本願発明と刊行物に記載の発明との対比」)において、以下の主張がなされている。

a 「本願発明は、吸着性を有する空気浄化剤で部屋の内部の空気を浄化させる場合に、一年間を通じて空気を良好に浄化してシックハウス症候群を解決することを課題としております。
そのために、本願発明では、部屋の内部の空気の温度や湿度を空調機器で調整することを主目的としているのではなく、吸着性を有する空気浄化剤による浄化効果が一年間を通じて維持できるように空調機器で空気の調整を行うことを主目的としております。
・・・
そこで、本願発明では、・・・暖房運転時には加湿により空気浄化剤の吸着性を抑制するとともに、冷房運転時には除湿により空気浄化剤の吸着性を促成し、暖房運転時と冷房運転時での浄化効果の差を緩和し、これにより、一年間を通じて空気を良好に(均等に)浄化することができ、シックハウス症候群の発生を防止することができます。
これに対して、・・・刊行物に記載の発明を組み合わせても、・・・一年間を通じて部屋の内部の空気を良好(均等)に浄化することができるといった効果を奏し得ません。」

b 「なお、刊行物5に記載の発明は、除湿運転時の動作であり、冷房運転時に限定された動作とはなっておりません。」

これら主張について検討する。
まず上記aの主張について検討する。
上記第2に摘記したように、本願発明における、空調機器による空気の温度や湿度の調整についての構成は「空調機器で温められた空気や冷やされた空気」、また「空調機器は、暖房運転時に部屋の内部の空気の湿度が所定値以下の場合に床下空間を介して循環させる空気を加湿するとともに冷房運転時に部屋の内部の空気の湿度が所定値以上の場合に床下空間を介して循環させる空気を除湿する」というまでであって、しかも「部屋の内部の空気の湿度」を基準として加湿、除湿を行っていることからみても、「部屋の内部の空気の温度や湿度を空調機器で調整することを主目的」とした場合とは異なる空調を行うことは特定されておらず、刊行物1発明との間にその点で差異はないというべきである。
加えて、本願明細書の記載をみても、「部屋の内部の空気の温度や湿度を空調機器で調整することを主目的」とした場合とは異なる暖房・冷房・湿度の制御等とは記載されていない。具体的には、本願明細書の「【発明を実施するための形態】」の記載をみても、
「【0019】・・・空調機器14としては、空気の温度を下げる冷房と、空気の温度を上げる暖房とが行えるとともに、空気の湿度を下げる除湿と、空気の湿度を上げる加湿とが行えるものが用いられる。・・・
・・・
【0024】しかも、暖房運転時には、空調機器14で空気を加湿している。空調機器14で空気を加熱した場合には、空気の相対湿度が低下して空気浄化剤13で良好に物質を吸着することができないが、加湿することで空気浄化剤13による吸着を良好に行わせることができる。なお、部屋10の内部の空気の湿度が所定値以下の場合に同様の運転をさせてもよい。
・・・
【0026】しかも、冷房運転時には、空調機器14で空気を除湿している。空調機器14で空気を冷却した場合には、空気の相対湿度が増加して空気浄化剤13で良好に物質を吸着することができないが、除湿することで空気浄化剤13による吸着を良好に行わせることができる。なお、部屋10の内部の空気の湿度が所定値以上の場合に同様の運転をさせてもよい。
【0027】以上に説明したように、・・・空調機器14は、暖房運転時に循環させる空気を加湿する一方、冷房運転時に循環させる空気を除湿する構造となっている。
【0028】そのため、上記構造の家屋1では、冬場の乾燥した寒冷時期や夏場の湿潤した温暖時期であっても空気浄化剤13で部屋の内部の空気を良好に浄化させることができるので、一年間を通して空気を浄化させることができ、シックハウス症候群の発生を防止することができる。」
というもので、暖房/冷房については空気の温度を上げる/下げる、加湿・除湿については暖房/冷房運転時に部屋の内部の空気の湿度が(なお、”床下空間の空気の湿度が”という記載はない。)所定値以下/以上の場合に加湿/除湿するという程度にとどまり、上記(1)ないし(3)で検討した、刊行物1発明に刊行物4、5に記載された事項及び上記周知技術を適用して得られる構成のものと差異がみられない。よって、刊行物1発明に刊行物4、5に記載された事項及び上記周知技術を適用して得られる構成も、結果的に本願発明の目的を達するものと解される。
よって、意見書の主張を採用することはできない。

次に上記bの主張について検討する。上記第3の5(1)に摘記したように、刊行物5には、「【0038】この除湿運転は室内空気の温湿度が温湿度センサーによって検知され、湿度が高く運転すべきと判定された時のみ運転され、それ以外では除湿運転は行われない。 除湿運転作動有無にかかわらず、・・・室内空気は・・・冷却装置室内機102に送られる。その室内空気は室内冷却用熱交換器1、2、3、を通過して冷却されてその75%が室内に吹き出させる。その他の25%・・・の室内空気は・・て室外に放出される。この間に・・・最終的に室内空気を冷却する。」と、室内空気が冷却される状況下での除湿運転であることが明記されている。
よって、意見書の主張を採用することはできない。

(5) 小括
そして、以上の相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、刊行物1発明、刊行物4、5に記載された事項、及び上記周知技術から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
したがって、本願発明は、当業者が刊行物1発明、刊行物4、5に記載された事項、及び上記周知技術に基づいて容易に発明することができたものである。


第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が刊行物1発明、刊行物4、5に記載された事項、及び上記周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-11-30 
結審通知日 2017-12-05 
審決日 2017-12-19 
出願番号 特願2014-70946(P2014-70946)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (E04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 河内 悠  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 井上 博之
前川 慎喜
発明の名称 家屋構造  
代理人 内野 美洋  

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