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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1337366
審判番号 不服2016-17977  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-12-01 
確定日 2018-02-07 
事件の表示 特願2015-526482「リチウム二次電池用負極活物質及びそれを含むリチウム二次電池」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 6月 5日国際公開、WO2014/084678、平成27年 8月27日国内公表、特表2015-524988〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年11月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年11月30日 韓国(KR)、2013年11月29日 韓国(KR))を国際出願日とする出願であって、平成27年12月 3日付けの拒絶理由通知に対して、平成28年 3月14日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年 7月28日付けで拒絶査定がなされた。
そして、同年12月 1日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成28年12月 1日に提出された手続補正書による手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
平成28年12月 1日に提出された手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)は、平成28年 3月14日に提出された手続補正書により補正された本件補正前の特許請求の範囲の請求項1?9を補正して、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1?8とするものであり、そのうち、本件補正前の請求項1及び本件補正後の請求項1については、以下のとおりである。

(本件補正前)
「【請求項1】
ケイ素、ケイ素酸化物、及びケイ素合金のうち少なくとも一つのケイ素系粒子を含んでなり、
前記ケイ素系粒子は外部形状が多面体であり、
前記多面体が、凸多面体又は凹多面体である、負極活物質。」

(本件補正後)
「【請求項1】
ケイ素合金によるケイ素系粒子を含んでなり、
前記ケイ素合金が、Si-Al-Fe合金であり、
前記ケイ素系粒子は外部形状が多面体であり、
前記多面体が、凸多面体又は凹多面体である、負極活物質。」

2 補正事項の整理
本件補正後の請求項1に係る補正事項を整理すると、次のとおりである。

〈補正事項a〉
本件補正前の請求項1において、「ケイ素、ケイ素酸化物、及びケイ素合金のうち少なくとも一つのケイ素系粒子」を、本件補正後の請求項1に記載された「ケイ素合金によるケイ素系粒子」と補正し、さらに「ケイ素系合金が、Si-Al-Fe合金であ」ると補正する。

3 新規事項の追加の有無、シフト補正の有無及び補正の目的の適否についての検討
新規事項の追加の有無及びシフト補正の有無について
本願の願書に最初に添付した明細書(以下「当初明細書」という。また、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面を「当初明細書等」という。)の段落【0035】には、以下の記載がある。
「【0035】
実施例1(外部形状が多面体であるケイ素系粒子を含む負極活物質)
Si/Al/Fe=75/15/10の原子%で混合及び加熱して溶融Si合金を製造した。該溶融Si合金を図5のように、真空状態で回転する銅ホイール上にアルゴンガスの圧力を利用して噴射して、薄い板状のSi‐Al‐Fe合金を製造した。それを粉砕及び粉級してD_(50)=5μmになるようにした。前記負極活物質のSEM写真は、図3の通りである。」

すると、「ケイ素系粒子」が、「ケイ素合金によるケイ素系粒子」であり、さらに「ケイ素系合金が、Si-Al-Fe合金であ」ること、すなわち、補正事項aは、当初明細書の段落【0035】に記載されており、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって、補正事項aは、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしている。

また、補正事項aは、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たすものである。

イ 補正の目的について
補正事項aは、「ケイ素系粒子」について、本件補正前の請求項1では、「ケイ素、ケイ素酸化物、及びケイ素合金のうち少なくとも一つ」と特定していたものを、本件補正後の請求項1で、「ケイ素合金によるケイ素系粒子」と補正し、さらに「ケイ素系合金が、Si-Al-Fe合金であ」ると補正することによって、「ケイ素系粒子」を「Si-Al-Fe合金」に限定するものであり、また、補正の前後で産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
したがって、補正事項aは特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たしている。

新規事項の追加の有無、シフト補正の有無及び補正の目的の適否についての検討のむすび
以上検討したとおり、上記補正事項aは、特許法第17条の2第3項、第4項及び第5項に規定する要件を満たしている。
そして、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであるから、本件補正による補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件を満たすか)否かを、更に検討する。

4 独立特許要件を満たすか否かの検討
(1)本願補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明は、上記1において本件補正後の請求項1として記載された、次のとおりのものである(以下「本願補正発明」という。)。
「【請求項1】
ケイ素合金によるケイ素系粒子を含んでなり、
前記ケイ素合金が、Si-Al-Fe合金であり、
前記ケイ素系粒子は外部形状が多面体であり、
前記多面体が、凸多面体又は凹多面体である、負極活物質。」

(2)引用例の記載事項及び引用例に記載された発明
(2-1)引用例1の記載事項
本願の優先権主張日前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった、平成27年12月 3日付けの拒絶の理由において引用文献1として引用された刊行物である、特開2011-65983号公報(以下「引用例1」という。)には、「鱗片状薄膜微粉末分散液又は鱗片状薄膜微粉末、及びこれを用いたペースト、電池用電極、並びにリチウム二次電池」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている(下線は当審が付与した。)。

1ア
「【0029】
さらに本願発明にかかる鱗片状薄膜微粉末分散液又は鱗片状薄膜微粉末を得る手法として、単純に述べると、基材フィルム/剥離層/薄膜層という構成を有する積層体を用意し、次いでこの剥離層が溶解可能な溶剤を用いつつ積層体から薄膜層を剥離し、次いで溶剤中に存在する剥離された薄膜層を微粉砕することで、これを得られる、という方法を用いるので、本願発明にかかる鱗片状薄膜微粉末分散液を容易に得られると言える。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施例において作製した負極の一例を説明するための模式的断面図である。
【図2】(a)?(f)は本発明の負極微粉末の好適な一例を説明するための概念的模式図である。
【図3】本発明の実施例において作製したリチウム二次電池の一例を説明するための構成図である。」

1イ
「【0034】
まず本実施の形態にかかる分散液につき説明する。
本実施の形態にかかる分散液は、金属単体、合金、又は金属化合物の薄膜が微粉砕されてなる鱗片状薄膜微粉末(以下単に「微粉末」とも言う。)が溶剤中に含有されてなる、リチウム二次電池の電極に用いるための分散液である。そしてこの微粉末として用いられる金属単体、合金、又は金属化合物は、何れもリチウムを可逆的に吸蔵脱離可能とする物質である。
【0035】
まず鱗片状薄膜微粉末につき説明する。
この鱗片状薄膜微粉末は本実施の形態においては金属単体、合金、又は金属化合物の何れか1種類からなる薄膜が微粉砕されたものであるが、重要なことは上述の通り、これらの何れを選択しても、その物質はリチウムを吸蔵脱離可能とすることが可能な物質とすることである。そしてそのような物質は多種存在するが、例えば以下のようなものがあげられる。
【0036】
即ち、
(1)金属単体としては、シリコン、スズ、ゲルマニウム、アルミニウム、インジウム、マグネシウム、カルシウム、鉛、ヒ素、アンチモン、ビスマス、銀、金、亜鉛、カドミウム、等であり、
(2)合金としては、スズ-銅合金(Cu_(5)Sn_(5))、ケイ素-マグネシウム合金(Mg_(2)Si)、鉄-スズ合金(Sn_(2)Fe)、スズ-ニッケル合金(NixSn)、スズ-コバルト合金(CoxSn)、ケイ素-ニッケル合金(NiSi)、ケイ素-鉄合金(FeSi)、ニッケル-マグネシウム合金(MgxNi)、アンチモン-スズ合金(SnSb)、アンチモン-インジウム合金(InSb)、銀-スズ-アンチモン合金(AgSnSb)、等であり、
さらに
(3)金属化合物、として(1)で示した金属単体を主とする酸化物又は硫化物、又は遷移金属酸化物又は硫化物、等であるもの、
を用いることが考えられる。」

1ウ
「【0037】
そして以下の本実施の形態の説明においてはシリコン単体からなるシリコン薄膜を微粉砕したものを想定する。
【0038】
本実施の形態におけるシリコン薄膜を微粉砕した薄膜微粉末の形状は基本的に鱗片状であり、かかる微粉末を含有した分散液を得る手法については後述する。
【0039】
ここで鱗片状薄膜微粉末の形状の平均厚みと平均長径につき説明する。
本実施の形態にかかる微粉末は、文字通り鱗片状の外観を有している。つまりそれぞれは非常に微細な粉状となっているが、その個々を観察するとその殆ど何れもが鱗片状の外観を有している。これは薄膜を微粉砕することにより得られるものだからであり、当然、破砕された個々の物質は偏平なものとなっている。
【0040】
そして個々の鱗片状微粉末につきさらに観察すると、略平面視において、その端から端の長さは当然個々にあっては全く異なるが、その個々の有する長さのうち最長のものを定め、個の有する最大長の鱗片状微粉末における平均値、即ち端から端の長さの平均値である平均長径であって、本実施の形態において好適な値の範囲を考察すると、本実施の形態にかかる鱗片状薄膜微粉末では0.1μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0041】
また、この鱗片状の金属微粉の略側面視における厚みは、これも当然個々により厚みが違い、また単一の金属微粉であっても拡大して観察すれば完全に均一な厚みを有するものではないが、個々の厚みを平均した平均厚みは本実施の形態においては0.01μm以上3μm以下であることが好ましい。
【0042】
そして鱗片状薄膜微粉末のアスペクト比、即ち平均長径/平均厚みが5以上、より好ましくは10以上となるような鱗片状薄膜微粉末としておけば、その鱗片状薄膜微粉末の形状は本実施の形態において好ましい偏平形状を有したものであることを意味する。」

1エ
「【0058】
シリコンを積層するに際してシリコン薄膜層の厚みは0.01μm以上3μm以下であれば良い。これは後述するように、本実施例にかかる鱗片状薄膜微粉末分散液における薄膜微粉末は、この積層体製造工程において積層されるシリコン薄膜層が原料となるからである。即ち、このシリコン薄膜層が基材フィルムから剥離し、それを微粉末になるまでに微粉砕されることによって鱗片状薄膜微粉末が得られるのであり、得られた鱗片状薄膜微粉末分散液中の薄膜微粉末の厚みは0.01μm以上3μm以下であることが望まれるので、そもそも最初に積層する際の厚みを上記範囲内としておけば良いのである。」

1オ
「【実施例】
【0135】
本願発明にかかる鱗片状薄膜微粉末分散液を実際に用いてリチウム二次電池の負極を得た場合につき、さらに実施例を交えて以下説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0136】
また、以下の実施例及び比較例においては、対極としてリチウム箔を用いた試験用電池(ハーフセル)を用いることとするが、これは本願発明にかかる鱗片状薄膜微粉末分散系を用いたリチウム二次電池の負極特性のみを評価することを目的としたためである。そして対極のリチウム泊をコバルト三リチウムなどのリチウム遷移金属酸化物からなる正極に単純に置換すれば、実際のリチウム二次電池を得ることが出来ることを述べておく。
【0137】
(実施例1)
図1に示した概略断面構造の負極を用いて、コイン電池を作製した。
負極微粉末として図2(a)のような膜厚100nm、平均粒径4.44μmのシリコンの単層微粉を用い、導電助剤のケッチェンブラック、結着剤のカルボキシメチルセルロースナトリウムとそれぞれ重量比で75:15:10の割合でめのう乳鉢を用いて混合し、粘性を持つペーストを作製した。アセトンで約30分間超音波洗浄し、その後乾燥させた集電体の銅箔(Φ15×0.05mm)上に上記のペーストを、直径は約10mm、厚さ約50μmになるように塗布した。その後、80℃で12時間以上真空乾燥を行うことにより負極を作製した。」

1カ
「【図2】



(2-2)引用例1に記載された発明
上記(2-1)の摘記事項について検討する。

上記1オ、1カの実施例1に関する記載事項から、引用例1には以下に示す負極微粉末の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「鱗片状薄膜微粉末であって、膜厚100nm、平均粒径4.44μmのシリコンの単層微粉である負極微粉末。」

(2-3)引用例2の記載事項
本願の優先権主張日前に、公知となった文献である、国際公開第2011/094126号(以下「引用例2」という。)には、次の記載がある(下線は当審が付与した。「・・・」は省略を表す。)。

2ア
「 What is claimed is:
1. A lithium-ion electrochemical cell comprising:
a composite positive electrode having a first cycle irreversible capacity that comprises a metal oxide active material;
a composite negative electrode having a first cycle irreversible capacity of 10 percent or higher that comprises an alloy active material; and
an electrolyte,
wherein the first cycle irreversible capacity of the composite positive electrode is within 40 percent of the first cycle irreversible capacity of the composite negative electrode.
・・・
10. A lithium-ion electrochemical cell according to claim 1, wherein the alloy active material comprises:
silicon, tin, or a combination thereof;
optionally, aluminum;
at least one transition metal;
optionally, yttrium, a lanthanide element, an actinide element, or combinations thereof; and
optionally, carbon.
・・・
13. A lithium-ion electrochemical cell according to claim 10, wherein the alloy active material is selected from a material having the following component elements,
SiAlFeTiSnMm, SiFeSn, SiAlFe, SnCoC, and combinations thereof wherein Mm is a mischmetal that comprises lanthanide elements.
・・・
14. A lithium-ion electrochemical cell according to claim 13, wherein the negative electrode comprises Si_(60)Al_(14)Fe_(8)TiSn_(7)Mm_(10),Si_(71)Fe_(25)Sn_(4),Si_(57)Al_(28)Fe_(15),Sn_(30)Co_(30)C_(40), or combinations thereof. 」
(当審訳:以下を請求する。
1.リチウムイオン電気化学セルであって、
金属酸化物活性材料を含む第1のサイクル不可逆容量を有する複合正極電極と、
合金活性材料を含む10パーセント以上の第1のサイクル不可逆容量を有する複合負極電極と、
電解質と、
を備え、
前記複合正極電極の前記第1のサイクル不可逆容量が、前記複合負極電極の前記第1のサイクル不可逆容量の40パーセント以内である、リチウムイオン電気化学セル。
・・・
10.前記合金活性材料が、
シリコン、スズ、又はこれらの組み合わせと、
任意に、アルミニウムと、
少なくとも1つの遷移金属と、
任意に、イットリウム、ランタニド元素、アクチニド元素、又はこれらの組み合わせと、
任意に、炭素と、
を含む、請求項1に記載のリチウムイオン電気化学セル。
・・・
13.前記合金活性材料が、以下の構成要素元素、SiAlFeTiSnMm、SiFeSn、SiAlFe、SnCoC、及びこれらの組み合わせを有する材料より選択され、Mmが、ランタニド元素を含むミッシュメタルである、請求項10に記載のリチウムイオン電気化学セル。
・・・
14.前記負極電極が、Si_(60)Al_(14)Fe_(8)TiSn_(7)Mm_(10)、Si_(71)Fe_(25)Sn_(4)、Si_(57)Al_(28)Fe_(15)、Sn_(30)Co_(30)C_(40)、又はこれらの組み合わせを含む、請求項13に記載のリチウムイオン電気化学セル。)

(2-4)引用例3の記載事項
本願の優先権主張日前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2012-4130号公報(以下「引用例3」という。)には、次の記載がある(下線は当審が付与した。)。

3ア
「【0011】
リチウムイオン電池用のアノードとして特に有用な電極組成物を記載する。この電極組成物は、元素状ケイ素を含む電気化学的に活性な相と、2種以上の金属元素および好ましくはケイ素を含む電気化学的に不活性な相、を特徴とする。適切な金属元素の例としては、鉄、アルミニウム、ニッケル、マンガン、コバルト、銅、銀、およびクロムが挙げられ、鉄、銅、およびアルミニウムが特に好ましい。2つの相は、上記課題を解決するための手段に記載されている微細構造を有する。」

3イ
「【0014】
実施例1
6.34gのアルミニウムショット、12.10gのケイ素フレーク、および6.56gの鉄フレーク(全て99.9%以上の純度)を秤量皿に秤量し、次いで、アーク炉内に置いた。この混合物を、Ar雰囲気中Tiプール酸素ゲッターの存在下に溶融し、組成Si_(55)Al_(30)Fe_(15)を有するインゴット25gを得た。ここで、全ての量は原子百分率である。
【0015】
インゴットを、直径15mm未満の片に破砕した。この材料の10gを、直径0.035ミル(0.89μm)のノズルで終る石英円管内に置いた。インゴットの溶融を開始させる高周波カップラとして薄い炭素スリーブも円管内に挿入した。円管は、ノズルオリフィスからホイール表面までの距離が10mmになるように、直径200mmの銅ホイールより上の溶融スピナーのチャンバの中に置いた。次いで、チャンバを80ミリトールに排気し、Heを用いて200トールまで充填し戻した。次いで、インゴットを高周波磁界中で溶融した。溶融物が1150℃に到達したとき、溶融液体を、35m/secの表面速度で回転する銅ホイール上に、80トールのHe超過圧力で射出し、溶融物を急冷して、リボン状断片を形成した。約9gのリボン状断片が集められた。
【0016】
遊星ミルの水性スラリ中、1時間ボールミリングによってリボン状断片を粉砕して、粉末を形成した。オーブン中で80℃での空気乾燥後、53ミクロン、32ミクロン、および20ミクロンの孔径を有する篩に通して篩分けすることによって粉末を分級した。32?53ミクロン間の画分をさらなる研究用に選び出した。銅の標的X線円管および回析ビームモノクロメータを備えたジーメンス・モデル・クリスタロフレックス(Siemens Model Kristalloflex)805 D500回折装置を使用して、そのX線回折パターンを集めた。結果を図1に示す。ピーク幅の分析から、元素状ケイ素相に対して494オングストローム、並びに、鉄およびアルミニウム含有相に対して415オングストロームの微結晶寸法が示された。
【0017】
図3は、分級された粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。図3に示すように、この粉末の微細構造は、ケイ素-アルミニウム-鉄三元合金の領域と相境界を共有する元素状ケイ素の離散的な領域を特徴とする。」

(3)対比
(3-1)次に、本願補正発明と引用発明とを対比する。

ア 引用例1の上記1イの【0035】、【0036】によれば、シリコンの微粉末は、リチウムを吸蔵脱利可能な物質であり、また、上記1オの【0137】によれば、導電助剤、結着剤と混合されてペーストとなり、当該ペーストは集電体に塗布されて、リチウム二次電池の負極となるので、引用発明の「負極微粉末」は、本願補正発明の「負極活物質」に相当する。

イ 引用発明の「シリコンの単層微粉」は、シリコンはケイ素系材料であり、単層微粉は粉、すなわち粒子の集合体といえるから、本願補正発明の「ケイ素系粒子」に相当する。

(3-2)そうすると、本願補正発明と引用発明の一致点と相違点は次のとおりとなる。
《一致点》
「ケイ素系粒子を含んでなる、負極活物質。」

《相違点》
《相違点1》
「ケイ素系粒子」の組成が、本願補正発明においては、「ケイ素合金」である「Si-Al-Fe合金」であるのに対し、引用発明においては、「シリコン」である点。

《相違点2》
「ケイ素系粒子」の外部形状が、本願補正発明においては、「多面体であり、前記多面体が、凸多面体又は凹多面体である」であるのに対して、引用発明においては、「膜厚100nm、平均粒径4.44μm」の「鱗片状」である点。

(4)当審の判断
(4-1)相違点1についての判断
ア 引用例1の上記1イの【0034】?【0036】には、引用例1の「鱗片状薄膜微粉末」として、リチウムを可逆的に吸蔵脱離可能とする物質であり、シリコン等の金属単体以外に、合金が用いられること、具体的にはケイ素-鉄合金等、様々な合金が用いられることが記載されている。

イ 一方、引用例2の上記2ア、引用例3の上記3ア、3イに示されるように、Si-Al-Fe合金は、リチウムを可逆的に吸蔵脱離可能とする物質として周知のものである。

ウ してみると、上記ア、イより、引用発明において、シリコンに代えて、引用例2、引用例3に例示されるような、周知のSi-Al-Fe合金とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

エ 以上から、引用発明において、引用例1と、引用例2、引用例3に記載されるような周知技術とに基づいて、相違点1に係る本願補正発明の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることである。

(4-2)相違点2についての判断

ア 引用例1の上記1ウの【0037】?【0042】には、「鱗片状薄膜微粉末」について、薄膜を微粉砕することにより得られる偏平なものであり、そのアスペクト比、即ち平均長径/平均厚みが5以上、より好ましくは10以上であることが記載されている。

イ また、引用例1の上記1エの【0058】には、厚み0.01μm以上3μm以下のシリコン薄膜層を微粉砕することにより、厚み0.01μm以上3μm以下の鱗片状薄膜微粉末が得られることが記載されている。そして、当該記載から、シリコン薄膜層の微粉砕によって、厚みは変わらず、シリコン薄膜層を分割する破断面が生じることによって、平面的な大きさが小さくなると考えられる。

ウ また、引用例1の上記1オの【0137】の実施例1には、負極微粉末の形状が、図2(a)のような膜厚100nm、平均粒径4.44μmの鱗片状であること、上記1オの図2(a)には、上記1アの【0030】によれば、鱗片状微粉末の概念的模式図として、直方体であることが記載されている。

エ 上記ア?ウから、引用発明の「ケイ素系粒子」の認定の基礎となった引用例1に実施例1として記載される「鱗片状薄膜微粉末」の形状は、薄膜層を微粉砕することで得られる、アスペクト比5以上の、偏平な鱗片状であって、模式的には直方体形状であると認められる。
また、上記イより、鱗片状薄膜微粉末の上記直方体形状は、少なくとも、シリコン薄膜層の上面、下面と、当該シリコン薄膜層を粉砕したことで側面に現れる、複数の破断面とを有する多面体であるといえる。
そして、多面体であれば、凸多面体又は凹多面体であることは、自明である。

オ 以上より、上記相違点2は、実質的な相違点とはいえない。

カ なお、引用例1には、上記1イの【0036】に、合金も材料として用いられることが記載されているから、上記(4-1)で検討したように引用発明のシリコンを、Si-Al-Fe合金材料に代えた場合においても、Si-Al-Fe合金材料の薄膜層が微粉砕されることによって、鱗片状薄膜微粉末、すなわち、多面体形状となるといえる。

キ 本願発明と引用発明の「ケイ素系粒子」の形状について、請求人は、審判請求書(3. (2-2) 2))において、
「引用文献1における「鱗片状薄膜微粉末」とは、鱗状(楕円状)であり、極めて扁平なもの(板状態)であることが明らかに理解されるのです。
つまり、引用文献1に開示された「鱗片状薄膜微粉末」は、本願発明固有の発明特定事項『前記多面体が、凸多面体又は凹多面体である』に該当するものではないことが明らかに理解されるのです。」と主張している。
しかしながら、請求人の、引用文献1における「鱗片状」が「鱗状(楕円状)」を意味するので、「鱗片状薄膜微粉末」は本願発明の「多面体」に該当しないとの上記主張は、次の理由で採用できない。
上記主張について、1)「鱗状(楕円状)」がいかなる立体形状を意味するかその詳細が不明であるので、「多面体」に該当しないとする理由が不明であり、2)引用文献1に記載された「鱗片状」が「鱗状(楕円状)」を意味するとする根拠も不明である。
そして、そもそも上記ア?エで検討したように、引用発明における「鱗片状」とは、図2(a)に模式図として示されるような偏平な直方体状の形状、すなわち、上面と下面と、破断面である側面で囲まれた多面体形状を意味するものであるといえる。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

(4-3)本願補正発明の効果についての検討
ア 本願補正発明の効果は、本願明細書の【0015】に記載されているとおり、「ケイ素系粒子は、外部形状が多面体である負極活物質を用いることで、高容量でありながら、従来のケイ素系負極活物質の問題である寿命特性にも優れた電極活物質、及びリチウム二次電池を提供することができる」ことである。つまり、本願補正発明の効果は、(a)高容量、(b)寿命特性である。
そこで、引用例1の記載及び引用例2、引用例3に記載されるような周知技術に基づいて、上記(a)?(b)の効果が当業者にとって予測可能であるかについて検討する。

(a)高容量について
本願発明において、高容量との効果は、「ケイ素系」負極活物質を用いることにより奏される効果であることが読み取れるところ(【0007】等)、引用発明においても、負極活物質として「ケイ素系」負極活物質を用いているから、引用発明が、高容量であることは、当業者にとって明らかである。
また、本願発明において、「ケイ素系」負極活物質として、Si-Al-Fe合金を用いたことにより、引用例1に記載された事項及び引用例2、引用例3に記載されるような周知技術から予測される範囲を超えた格別な効果や異質な効果が奏されるともいえない。

(b)寿命特性について
本願発明について、寿命特性との効果は、ケイ素系粒子が、球状ではなく、多面体であることによって、活物質同士の接触を維持する部分がより多いことで奏される効果であることが読み取れるところ(【0019】等)、上記(4-2)の相違点2についての項で検討したように、引用発明においても、ケイ素系粒子は、多面体であって、球面状部分がないものであるといえるから、当然に奏される効果であるといえる。

(4-4)判断についてのまとめ
上記(4-1)?(4-3)を総合すると、本願補正発明は、引用発明と、引用例2、引用例3に記載されるような周知技術とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定によって、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)独立特許要件についてのまとめ
したがって、本件補正による補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しない。

5 補正の却下の決定のむすび
以上の次第で、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正(平成28年12月 1日に提出された手続補正書による手続補正)は却下されるので、本願の各請求項に係る発明は、平成28年 3月14日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明は、上記第2の1において本件補正前の請求項1として記載された、次のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。

「【請求項1】
ケイ素、ケイ素酸化物、及びケイ素合金のうち少なくとも一つのケイ素系粒子を含んでなり、
前記ケイ素系粒子は外部形状が多面体であり、
前記多面体が、凸多面体又は凹多面体である、負極活物質。」

2 引用例の記載及び引用発明
原査定の根拠となった拒絶の理由に引用された引用例1の記載事項と引用発明については、上記第2の4の(2)において、摘記及び認定したとおりである。

3 対比・判断
上記第2の2において検討したように、本願補正発明は、本願発明の「ケイ素、ケイ素酸化物、及びケイ素合金のうち少なくとも一つのケイ素系粒子」について、本件補正後の請求項1で「ケイ素合金によるケイ素系粒子」と補正し、さらに「ケイ素系合金が、Si-Al-Fe合金であ」ると補正することにより、「ケイ素系粒子」の材料を限定したものである。すなわち、本願発明は、本願補正発明から、上記の限定を省いたものである。
そして、上記第2の4の(3)、(4)の(4-2)における検討事項からすると、その本願発明と引用発明との間には、相違するところはないということができるから、結局、本願発明は引用例1に記載された発明である。

また、仮に、両者の間に相違するところがあるとしても、本願発明は、引用例1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないし、仮に、そうでないとしても、本願発明は、引用例1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

したがって、本願は、原査定の拒絶理由によって、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-09-05 
結審通知日 2017-09-12 
審決日 2017-09-25 
出願番号 特願2015-526482(P2015-526482)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (H01M)
P 1 8・ 55- Z (H01M)
P 1 8・ 121- Z (H01M)
P 1 8・ 575- Z (H01M)
P 1 8・ 572- Z (H01M)
P 1 8・ 16- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 瀧 恭子  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 結城 佐織
河本 充雄
発明の名称 リチウム二次電池用負極活物質及びそれを含むリチウム二次電池  
代理人 堅田 健史  
代理人 松野 知紘  

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