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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61M
管理番号 1337367
審判番号 不服2016-18107  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-12-02 
確定日 2018-02-07 
事件の表示 特願2011-262090「使い捨て可能な活性化部分を持つ、部分的に統合され、機械化されたカニューレの挿入を有するインスリン・ポンプ皮膚注入セット」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 6月21日出願公開、特開2012-115674〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本件出願は、平成23年11月30日(パリ条約に基づく優先権主張 2010年11月30日(US)アメリカ合衆国 2010年12月13日(US)アメリカ合衆国)の出願であって、平成27年10月26日付けで拒絶の理由が通知され、平成28年2月4日に意見書とともに手続補正書が提出され特許請求の範囲について補正がなされたが、同年7月25日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされた。

これに対し、平成28年12月2日に該査定の取消を求めて本件審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、特許請求の範囲についてさらに補正がなされたものである。その後、平成29年4月21日に上申書が提出されている。

第2 平成28年12月2日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成28年12月2日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1 補正の内容の概要

平成28年12月2日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、平成28年2月4日付けで補正された特許請求の範囲をさらに補正するものであって、特許請求の範囲の請求項1に関する以下の補正を含んでいる。なお、下線部は補正箇所を示す。

(1)<補正前>

「【請求項1】
皮膚表面の上部3mmに薬剤を送出する深さまで、制御された速度で針を挿入することができる部分的に統合された挿入器を備えた注入装置であって、
注入装置用ベースであって、この注入装置用ベースを皮膚表面に解放可能に固定する少なくとも1つの接着剤層を備えた注入装置用ベースと、
この注入装置用ベースに解放可能に固定され、かつ作動完了時に少なくとも使用者用接触要素および駆動バネを前記注入装置用ベースから解放して作動完了時に前記注入装置用ベースに少なくとも針とカニューレ保持器とプランジャ固定要素とを残すように構成される作動サブアセンブリを備えた前記挿入器と
を備えていることを特徴とする注入装置。」

(2)<補正後>

「【請求項1】
皮膚表面の上部3mmに薬剤を送出する深さまで、制御された速度で針を挿入することができる部分的に統合された挿入器を備えた注入装置であって、
注入装置用ベースであって、この注入装置用ベースを皮膚表面に解放可能に固定する少なくとも1つの接着剤層を備えた注入装置用ベースと、
前記注入装置用ベースに解放可能に固定され、かつ作動完了時に少なくとも使用者用接触要素および駆動バネを前記注入装置用ベースから解放して作動完了後に前記注入装置用ベースから少なくとも針とカニューレ保持器とプランジャ固定要素以外を解放するように構成される作動サブアセンブリを備えた前記挿入器と
を備えていることを特徴とする注入装置。」

2 補正の適否

本件補正のうち特許請求の範囲の請求項1についてする補正は、補正前の請求項1の「作動完了時に前記注入装置用ベースに少なくとも針とカニューレ保持器とプランジャ固定要素とを残すように構成される」を「作動完了後に前記注入装置用ベースから少なくとも針とカニューレ保持器とプランジャ固定要素以外を解放するように構成される」(すなわち「注入装置用ベース」に残されるのは「針とカニューレ保持器とプランジャ固定要素」となる。)と補正しようとするものであって、特許請求の範囲の限定的減縮(特許法第17条の2第5項第2号)を目的とするものに該当する。そして、本件補正は、同法同条第3項及び第4項の規定に違反するものではない。

そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定される独立特許要件に適合するか否かについて検討する。

(1)補正発明

補正発明は、特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、上記1(2)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの「注入装置」であると認める。

(2)刊行物

これに対して、原審の平成27年10月26日付け拒絶の理由に引用された、本件の優先日前に頒布された刊行物である特表2010-533525号公報(以下「刊行物1」という。)には、以下の発明が記載されていると認める。

ア 刊行物1に記載された事項

刊行物1には、「加速度が制御された挿入器デバイス」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線部は当審で付したものである。

(ア)請求項1(第2ページ)
「【請求項1】
穿刺部材(105、243)を患者の皮下領域又は筋肉内領域に挿入するための挿入器デバイス(200、500)であって、前記穿刺部材(105、243)、回転部材(204、300、400、512)、及び回転軸線を中心として前記回転部材(204、300、400、512)を回転するための駆動手段(203、561)を取り囲むハウジング(201、221、251;501、502、503)を含み、前記回転部材(204、300、400、512)は、回転移動を、挿入方向での前記穿刺部材(105、243)の長さ方向移動に変換するための変換手段(216、246、521)を含む、挿入器デバイスにおいて、
前記変換手段(216、246、521)は、前記穿刺部材(105、243)の挿入方向での速度を制御下で変化する制御手段を含む、ことを特徴とする挿入器デバイス。」

(イ)「【0001】
本発明は、医療デバイスを患者の皮下領域又は筋肉内領域に挿入するための挿入器デバイスに関する。更に詳細には、本発明は、穿刺部材を制御下で所定の通りに加速及び減速するための手段を持つ挿入器デバイスに関する。」

(ウ)「【0002】
インジェクタとも呼ばれる挿入デバイスは、一般的には、医療の分野で注入セット等の医療デバイスを半自動態様で患者の皮膚を通して挿入するために使用される。
患者によっては、特に子供たちは、注射針等の先が尖ったもの及び医療的治療及びセラピーで一般的に使用される他の穿刺デバイスを怖がるということが知られている。この恐怖は、多くの場合、不合理であり、適切な医療的治療を妨げてしまう。・・・」

(エ)「【0005】
一般的には、例えばカニューレやインジェクションニードルの挿入は不快感及び痛みをもたらす。本発明の目的は、不快感及び痛みを最小にすることである。
皮膚を医療デバイスで穿刺すると組織に損傷を与える。本発明の目的は、組織の損傷を減少することである。
医療デバイスは壊れやすい。かくして、本発明の目的は、壊れやすい医療デバイスを患者への挿入前及び挿入中に保護することである。
周知のデバイスは、挿入及び引っ込めの速度が定められておらず、制御されていなかった。また、患者に挿入されるべき穿刺部材の加速度及び減速度が定められておらず、制御されていなかった。
周知のデバイスには、上述の問題点及びこれらの問題点と関連した事項を解決したものはなく、挿入デバイスの技術分野において、上文中に論じた事項に対処し、穿刺部材を所定の加速度及び減速度で制御下で挿入することが明らかに必要とされている。」

(オ)「【0006】
本発明は、穿刺部材の加速及び減速が制御下で行われる挿入デバイスを提供する。・・・」

(カ)「【0017】
図1は、本発明に従って挿入できる医療デバイス100の様々な実施例を示す。図1Aに示す医療デバイスは、図1Aに示すように、カニューレ保持部分101と、本体102と、取り付けパッド103とを含む。
図1Bは、カニューレ保持部分101の一実施例を示す。カニューレ保持部分101は、上部分104及びカニューレ105を含む。上部分104は開口部106を有し、この開口部はシーリングデバイス107によって閉鎖されている。上部分104の下側には係止手段108が設けられている。上部分104内には内部チャンバ(図示せず)が形成されている。前記内部チャンバはカニューレ105に連結している。
【0018】
図1Aでわかるように、医療デバイス100の本体102は、カニューレ保持部分101の少なくとも一部を取り囲む開口部109を含む。同様に、取り付けパッド103には、少なくともカニューレ105又はカニューレ保持部分101と同幅であるか或いはこれよりも広幅の開口部110が設けられている。別の実施例では、インジェクションニードル、挿入器ニードル、又はカニューレ等の一つ又はそれ以上の穿刺部材を取り付けパッド103に刺す。前記取り付けパッドには開口部110が設けられていない。
多くの場合、取り付けパッド103は、医療デバイス100を患者の皮膚と確実に適切に接触するために使用される。この取り付けパッド103は、医療デバイス100の本体102の下側に取り付けられていてもよい。別の態様では、取り付けパッド103を患者の皮膚に取り付け、医療デバイス100を取り付けパッド103に又は取り付けパッド103の開口部110に挿入する。
【0019】
・・・
図1F及び図1Gは、医療デバイス100の側面図及び断面図を示す。図1Gには、係止手段108と本体102との間を連結する相互係止手段111が示してある。」

(キ)「【0020】
・・・
図2は、本発明の一実施例による挿入器デバイス200の主構成要素の分解図を示す。挿入器デバイスは、(i)上部分201と、(ii)コイルばね203及び回転部材204を含む回転手段202と、(iii)中央部分221と、(iv)長さ方向移動手段241と、(v)下部分251とを含む。前記部分201、221、及び251は、本質的に、挿入器デバイス200の外寸法並びに内部キャビティ(図示せず)を形成する。前記内部キャビティ内には、回転手段202並びに長さ方向移動手段241が設けられる。
図2から、様々な部分及び手段が、主として挿入器デバイスの中央軸線を中心として整合されており且つ配向されており、挿入軸線が、挿入器デバイスの中央軸線と本質的に同じであるということが明らかである。」

(ク)「【0025】
Ad(iv):長さ方向移動手段241は、ピストン242と、挿入ニードル243と、長さ方向案内手段244と、ピストンの上から下まで延びる内部キャビティ245とを含む。前記ピストン242は本質的に中空円筒形形状をなしている。ピストン242の内径は、回転部材204の本体部分212の外径よりも小さいが、回転部材204の上部分209の直径よりも小さくてもよい。ピストン242の高さは、本質的に、回転部材204の本体部分212の高さと同じであってもよいし、これよりも小さくてもよいし大きくてもよい。本体部分212の主部等の回転部材204の少なくとも主部が内部キャビティ245に嵌着する。ピストン242の内壁に取り付けられており且つここから突出した一つ又はそれ以上の変換手段(図示せず)が設けられていてもよい。前記変換手段は、溝216に嵌着し、かくして回転部材204の回転移動をピストン242の長さ方向移動に変換する。ピストン242の底部には、この底部の中央に又は中央からずらして挿入ニードル243が取り付け手段(図示せず)によって取り付けられる。挿入ニードル243は、ピストン243の底部に対して垂直に延び、挿入配向で整合する。図2に示す実施例では、挿入ニードル243は、少なくとも一部がカニューレ保持部分101に挿入してある。カニューレ保持部分101は、本体部分101及び軟質カニューレ105を含む。かくして、カニューレ保持部分101及びピストン242は挿入ニードル243を介して連結される。」

(ケ)「【0026】
Ad(v):挿入器デバイス200の下部分251は、下部分252及びリング状部分253を含む。下部分252は、本質的にディスク状に形成されており、リング状部分253よりも大径である。図示の実施例(図2参照)では、下部分252は、実際には、医療デバイス100の取り付けパッド103によって形成できる(詳細にはついては図1を参照されたい)。かくして、下部分252は、使い捨てライナ及びフラップ105を含んでいてもよい。図示のように、及び適当であれば、医療デバイス100の本体102が下部分252に載止し、適当な位置に、例えば医療デバイス100の本体102の中央キャビティがカニューレ保持部分101及び挿入ニードル243と整合するように保持される。リング状部分253の外径は、中央部分221の下開口部225の内径と同じであるか或いはこれよりも小さく、リング状部分253が中央部分221の本体部分223に嵌着する。本発明の変形例では、リング状部分253を省略し、中央部分221の下開口部225を、挿入されるべき医療デバイス100の取り付けパッド103によってシールする。
一般的には、取り付けパッドの接着剤の強さは、医療デバイスが挿入後に患者の皮膚上に止まり、医療デバイス100の残りの部分が所定の場所に残った状態でカニューレ105を通して挿入ニードル243だけを取り外すのに十分に強い。本発明の変形例では、医療デバイス100を別の医療デバイスを通して挿入する。」

(コ)「【0027】
図3は、本発明の変形例の分解図を示す。説明については、図2を参照されたい。図3に示す関連した構成要素及び特徴に付した参照番号は、図2におけるのと同じである。
挿入器デバイス200を反時計廻り方向に約90°回転することによって、幾つかの追加の及び/又は異なる特徴が明らかになる。
(i)挿入器デバイス200は、部分201の上部分209の中心からずらして配置された作動手段261を含む。作動手段は、ボタン262と、上部分209を横切って形成された一つ又はそれ以上の穴263、264と、シャフト208の上端に回転エレメント204の中心から僅かにずらして配置されたノッチ269とを含む。
(ii)コイルばね203の内端205を回転部材204のシャフト208に取り付けるためのアタッチメント手段219の一実施例を示す。
(iii)回転部材204の本体部分212の一実施例を示す。この図には溝216の一実施例が示してあり、溝216の第1の1/4及び最後の1/4を示す。溝216は連続していないということがわかる。
(iv)中央部分221の中央キャビティ内に設けられた内案内手段226の一実施例を示す。この実施例では、案内手段は、本質的に上部分222から本体部分223(図示せず)まで延びる長さ方向溝を形成する。案内手段226の高さは、下開口部225の直径と上開口部224の直径との差の約半分と等しい。」

(サ)「【0028】
Ad(i):本発明の一実施例によれば、挿入器デバイス200の作動は、ボタンを作動することによって行われる。これは、回転部材204がその回転軸線を中心として回転しないようにする位置1から、回転部材204がその回転軸線を中心として回転できる位置2まで押すことによって及び/又は摺動させることによって、及び/又は回転することによって、及び/又は枢動することによって行われる。図示の実施例によれば、ボタン262(これは、ロッド状形状を備えている)が、位置1にあるシャフト208のノッチ269に嵌着し、これによって、回転部材204が回転しないようにする。このボタンが本質的に穴263内にある位置から、ボタン262が本質的に穴264内にある位置に向かってボタン262を外方に摺動したり押したりすることによってボタン262を作動したとき、エネルギを蓄えた状態のコイルばね203が、エネルギが余り蓄えられていない比較的弛緩した状態に達し、そのとき、回転部材204の回転移動が提供される。」

(シ)「【0035】
図6A、図6B、及び図6Cに示す実施例では、回転部材204に設けられた夫々の溝216の様々な位置が提供される。本発明による挿入器デバイスは、溝216の位置及びトラックで決まる、一回転中のピストン241の長さ方向移動の様々な速度及び方向を明らかにする。これらの速度差は加速度の差(正又は負)で表現することもできる。一般的には、負の加速度は減速とも言う。
回転部材204が反時計廻り方向に回転するとき、図6Bに示すのと同様の回転部材204を持つ挿入器デバイスのピストン241は、最初の90°の回転内で、図6Cに示すのと同様の回転部材204を持つ挿入器デバイスよりも、比較的高い加速度及び比較的高い挿入速度を示す。これは、溝216のトラックの傾斜(図6B参照)が、図6Cに示すトラックの傾斜と比較して急であるためである。・・・」

(ス)「【0038】
・・・
図9Aでは、挿入器デバイス200は、力を蓄えた/エネルギを蓄えた/賦活された状態にあり、挿入の準備ができている。この図には、回転部材204を貫通した長さ方向チャンネル又はキャビティ又は開口部214の形状が示してある。回転部材204の下部分に配置された中央キャビティが明らかである。中央キャビティはシャフト218と連続して形成されており、直径がシャフトとほぼ同じである。
【0039】
図9Bは、回転部材204が約180°回転した後の挿入器デバイス200を示す。コイルばね203の直径が大きくなっており、カニューレ保持部分101が医療デバイスの本体102内の所定位置にあり、カニューレ105及び挿入ニードル243の先端が下平面及び下部分252から突出している。
図9Cは、医療デバイス100を挿入した後の挿入器デバイス200を示す。挿入ニードル243を引っ込め、挿入されたデバイスは患者からいつでも取り外すことができる。
【0040】
図10は、本発明による挿入器デバイス200の別の実施例を示す。図10Aは、下部分251を示し、この実施例では、剥離ライナが取り付けパッド103から取り外してあり、剥離ライナの底面が示してある。一般的には、この面は、取り付けパッド、医療デバイス、及びカニューレを所望の位置に保持するため、患者の皮膚に対して十分に接着するのに十分な接着強度を有する。適当である場合には、前記接着強度は、挿入器デバイスを安全に取り外すことができが、医療デバイスを所望の位置に保持し続けるのに十分である。
・・・」

イ 刊行物1発明

(セ)図9Aは、「挿入の準備ができている」状態(上記記載事項(ス))の挿入器デバイス(200)を図示したものであるところ、上記記載事項(ケ)も踏まえると、当該状態においては、挿入器デバイス(200)の下部分(251)は、挿入器デバイス(200)の中央部分(221)の本体部分(223)に嵌着されており、また、下部分(251)のリング状部分(253)が省略された変形例にあっては、中央部分(221)の開口が医療デバイス(100)の取り付けパッド(103)によってシールされているものと認められる。

(ソ)上記認定事項(セ)の「挿入の準備ができている」状態とは、挿入器デバイス(200)の作動手段(261)が作動される前の状態であることは、明らかである。

(タ)上記記載事項(ク)の「カニューレ保持部分101及びピストン242は挿入ニードル243を介して連結される」とは、図9Aの図示内容を踏まえると、上記認定事項(ソ)の「作動手段(261)が作動される前の状態」において実現されている態様を示したものと認められる。また、上記記載事項(カ)?(ケ)及び(ス)を踏まえると、当該状態においては、挿入器デバイス(200)は医療デバイス(100)に取り付けられている、ということができる。

(チ)図9Cは、「医療デバイス100を挿入した後の挿入器デバイス200」(上記記載事項(ス))を図示したものであるところ、上記記載事項(カ)及び図1Gの図示内容も踏まえると、「医療デバイス100を挿入した後」の状態においては、カニューレ保持部分(101)の係止手段(108)は、相互係止手段(111)によって、医療デバイス(100)の本体(102)と連結された状態にあるものと認められる。

(ツ)上記認定事項(チ)の「医療デバイス100を挿入した後」の状態とは、挿入器デバイス(200)の作動手段(261)が作動された後の状態であることは、明らかである。

(テ)上記記載事項(ケ)の「医療デバイスが挿入後に患者の皮膚上に止まり、医療デバイス100の残りの部分が所定の場所に残った状態でカニューレ105を通して挿入ニードル243だけを取り外す」とは、上記認定事項(チ)の「医療デバイス100を挿入した後」の状態において、挿入器デバイス(200)を医療デバイス(100)から取り外すことを示していることは、明らかである。

そして、上記記載事項(ア)ないし(ス)及び上記認定事項(セ)ないし(テ)を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえ補正発明に照らして整理すると、刊行物1には以下の発明が記載されていると認める。(以下「刊行物1発明」という。)

「穿刺部材(105、243)を患者の皮下領域又は筋肉内領域に挿入するための挿入器デバイス(200)を備えた注入セットであって、
前記穿刺部材たるカニューレ(105)を含むカニューレ保持部分(101)と、本体(102)と、前記本体(102)の下側に取り付けられ、患者の皮膚に接着する取り付けパッド(103)とを含む医療デバイス(100)と、
前記穿刺部材(105、243)、回転部材(204)、回転軸線を中心として前記回転部材(204)を回転するための駆動手段たるコイルばね(203)、及び長さ方向移動手段(241)を取り囲むハウジング(201、221、252)と作動手段(261)を含み、前記回転部材(204)は、回転移動を、挿入方向での前記穿刺部材(105、243)の長さ方向移動に変換するための変換手段(216、246)を含み、前記変換手段(216、246)は、前記穿刺部材(105、243)の挿入方向での速度を制御下で変化する制御手段を含み、前記長さ方向移動手段(241)は、ピストン(242)と、前記ピストン(242)の底部に取り付けられた、前記穿刺部材たる挿入ニードル(243)とを含む挿入器デバイス(200)と
を備えており、
前記作動手段(261)の作動前の状態においては、前記ハウジングの中央部分(221)の開口は、前記ハウジングの下部分(252)を形成する前記取り付けパッド(103)によってシールされ、前記長さ方向移動手段(241)の前記ピストン(242)は、前記挿入ニードル(243)の少なくとも一部が前記カニューレ保持部分(101)に挿入されることで、前記挿入ニードル(243)を介して前記カニューレ保持部分(101)と連結されており、もって、前記挿入器デバイス(200)は、前記医療デバイス(100)に取り付けられており、
前記作動手段(261)を作動して前記医療デバイス(100)を挿入した後の状態においては、前記カニューレ保持部分(101)の係止手段(108)と前記本体(102)が連結されており、挿入後に、前記取り付けパッド(103)の接着剤により、前記医療デバイス(100)が患者の皮膚上に止まった状態で、前記カニューレ(105)を通して前記挿入ニードル(243)だけが取り外されることで、前記挿入器デバイス(200)が前記医療デバイス(100)から取り外される、
注入セット。」

(3)対比

補正発明と刊行物1発明とを対比すると以下のとおりである。

まず、刊行物1発明の「穿刺部材(105、243)」たる「カニューレ(105)」は、その構成及び機能並びに技術常識を踏まえれば、補正発明の「針」に相当し、以下同様に、「挿入器デバイス(200)」は「挿入器」に、「注入セット」は「注入装置」に、「カニューレ保持部分(101)」は「カニューレ保持器」に、「患者の皮膚に接着する取り付けパッド(103)」は「皮膚表面に解放可能に固定する少なくとも1つの接着剤層」に、「下側に」「患者の皮膚に接着する取り付けパッド(103)」が「取り付けられ」た「本体(102)」は「この注入装置用ベースを皮膚表面に解放可能に固定する少なくとも1つの接着剤層を備えた注入装置用ベース」に、「作動手段(261)」は「使用者用接触要素」に、「駆動手段たるコイルばね(203)」は「駆動バネ」に、それぞれ相当する。

また、刊行物1発明の「前記穿刺部材たるカニューレ(105)を含むカニューレ保持部分(101)と、本体(102)と、前記本体(102)の下側に取り付けられ、患者の皮膚に接着する取り付けパッド(103)とを含む医療デバイス(100)」は、その構成及び機能を踏まえれば、補正発明の「注入装置用ベース」及び「解放」されずに「注入装置用ベース」に残された「針とカニューレ保持器」に相当する。

次に、刊行物1発明の挿入器デバイス(200)は、「前記穿刺部材(105、243)、回転部材(204)、回転軸線を中心として前記回転部材(204)を回転するための駆動手段たるコイルばね(203)、及び長さ方向移動手段(241)を取り囲むハウジング(201、221、252)と作動手段(261)を含み、前記回転部材(204)は、回転移動を、挿入方向での前記穿刺部材(105、243)の長さ方向移動に変換するための変換手段(216、246)を含み、前記変換手段(216、246)は、前記穿刺部材(105、243)の挿入方向での速度を制御下で変化する制御手段を含み、前記長さ方向移動手段(241)は、ピストン(242)と、前記ピストン(242)の底部に取り付けられた、前記穿刺部材たる挿入ニードル(243)とを含む」という構成(以下「刊行物1挿入器構成」という。)及びその機能を踏まえれば、「制御された速度で穿刺部材を挿入することができる」ものであることは明らかである。
また、刊行物1挿入器構成は、挿入器デバイス(200)の制御機能を実現するために、穿刺部材、回転部材、コイルばね及び長さ方向移動手段等の各要素が連結ないし連動し、かかる要素がハウジングに取り囲まれたものであるから、「統合」ないし「アセンブリ」されたものであるといえる。
そして、刊行物1挿入器構成を備えた挿入器デバイス(200)は、医療デバイス(100)の挿入後に医療デバイス(100)から取り外されるから、「部分的に統合」ないし「サブアセンブリ」されたものであるともいえる。
そうすると、刊行物1発明の「穿刺部材(105、243)を」「挿入するための挿入器デバイス(200)」は、補正発明の「制御された速度で針を挿入することができる部分的に統合された挿入器」に相当し、また、補正発明の「作動サブアセンブリを備えた前記挿入器」にも相当する。

また、刊行物1発明の医療デバイス(100)と挿入器デバイス(200)の構造的関係については、「作動手段(261)の作動前の状態」においては、「前記ハウジングの中央部分(221)の開口は、前記ハウジングの下部分(252)を形成する前記取り付けパッド(103)によってシールされ、前記長さ方向移動手段(241)の前記ピストン(242)は、前記挿入ニードル(243)の少なくとも一部が前記カニューレ保持部分(101)に挿入されることで、前記挿入ニードル(243)を介して前記カニューレ保持部分(101)と連結されており、もって、前記挿入器デバイス(200)は、前記医療デバイス(100)に取り付けられて」いる。
一方、「作動手段(261)を作動して前記医療デバイス(100)を挿入した後」に、「前記取り付けパッド(103)の接着剤により、前記医療デバイス(100)が患者の皮膚上に止まった状態で、前記カニューレ(105)を通して前記挿入ニードル(243)だけが取り外されることで、前記挿入器デバイス(200)が前記医療デバイス(100)から取り外される」とされている。
上記の構造的関係を踏まえると、挿入器デバイス(200)は、医療デバイス(100)に「解放可能に固定され」たものであることは明らかである。また、刊行物1挿入器構成からなる挿入器デバイス(200)は、医療デバイス(100)の挿入後に、医療デバイス(100)の本体(102)から、「作動手段(261)及びコイルばね(203)」を含む刊行物1挿入器構成「を解放して」、「穿刺部材たるカニューレ(105)を含むカニューレ保持部分(101)以外を解放するように構成され」たものであるともいえる。
また、上記「医療デバイス(100)の挿入後」とは、作動手段(261)の「作動完了時」ないしは「作動完了後」であるともいえる。
そうすると、上記の構造的関係を踏まえると、刊行物1発明の「挿入器デバイス(200)」は、補正発明の「前記注入装置用ベースに解放可能に固定され、かつ作動完了時に少なくとも使用者用接触要素および駆動バネを前記注入装置用ベースから解放して作動完了後に前記注入装置用ベースから少なくとも針とカニューレ保持器」「以外を解放するように構成される」「挿入器」に相当する。また、刊行物1発明の「医療デバイス(100)」と「挿入器デバイス(200)」とを備えた「注入セット」は、補正発明の「注入装置用ベース」と「挿入器」とを備えた「注入装置」に相当する。

さらに、刊行物1発明の「患者の皮下領域又は筋肉内領域に」は、「患者の皮膚に」の限りにおいて、補正発明の「皮膚表面の上部3mmに薬剤を送出する深さまで」と共通する。

そうすると、補正発明と刊行物1発明とは、少なくとも形式的には、以下の点で一致し、相違している。

<一致点>
「患者の皮膚に制御された速度で針を挿入することができる部分的に統合された挿入器を備えた注入装置であって、
注入装置用ベースであって、この注入装置用ベースを皮膚表面に解放可能に固定する少なくとも1つの接着剤層を備えた注入装置用ベースと、
前記注入装置用ベースに解放可能に固定され、かつ作動完了時に少なくとも使用者用接触要素および駆動バネを前記注入装置用ベースから解放して作動完了後に前記注入装置用ベースから少なくとも針とカニューレ保持器以外を解放するように構成される作動サブアセンブリを備えた前記挿入器と
を備えている注入装置。」

<相違点1>
補正発明の挿入器は、「皮膚表面の上部3mmに薬剤を送出する深さまで」挿入するものであるのに対して、刊行物1発明の挿入器デバイス(200)は、「患者の皮下領域又は筋肉内領域に」挿入するものである点。

<相違点2>
補正発明は、「少なくとも針とカニューレ保持器とプランジャ固定要素以外」を解放するよう構成されているのに対して、刊行物1発明は、「穿刺部材たるカニューレ(105)を含むカニューレ保持部分(101)以外」を解放するものであって、医療デバイス(100)を挿入した後の状態においては、カニューレ保持部分(101)の係止手段(108)と本体(102)が連結されている点。

(4)相違点の検討

ア 相違点1について
補正発明の「皮膚表面の上部3mmに薬剤を送出する深さ」とは、本願明細書(【0004】等参照)によれば「皮内層」の深さを意味するものであると認められるところ、一般的に、注射針を皮膚に挿入して薬剤を送出するに当たっては、より薬剤の吸収に優れている皮内層の深さに注射針を挿入することは、例えば、原査定の拒絶の理由に示した特表2007-503435号公報(【請求項8】【請求項20】【請求項21】【0047】【0064】を参照)、及び、国際公開第2010/080715号([00149][00154]FIG.14を参照)に示されているように、本件優先日前の周知技術にすぎない。

一方、刊行物1発明は、患者の皮下領域又は筋肉内領域に針を挿入するものであるところ、刊行物1における従来技術の問題点や解決しようとする課題等の記載(上記(2)ア記載事項(イ)ないし(オ)参照)にかんがみれば、刊行物1発明においても患者の皮内領域に針を挿入することを妨げるような事情は、見いだせない。

そうすると、刊行物1発明において、薬剤の吸収をより高めるため上記周知技術を採用し、皮内層に薬剤を送出できるよう単に針の長さを短くすることは、当業者ならば容易になし得たことである。よって、上記相違点1に係る補正発明の発明特定事項は、格別の困難を伴うものとはいえない。

なお、刊行物1発明において患者の皮内領域に針を挿入することに阻害要因がないことは、上記の国際公開第2010/080715号([00149][00154]FIG.14を参照)に、皮内層と皮下層との間で、薬剤の吸収速度が異なることを踏まえて、注射針の挿入部位につき皮内層又は皮下層のいずれかを選択することが示されていることからみても明らかである。

イ 相違点2について
(ア)「プランジャ固定要素」の技術的意義について
本件出願当初の明細書及び特許請求の範囲には、「プランジャ固定要素」についての明示的な記載はないが、以下のとおり、関連する記載がある。なお、下線部は当審で付したものである。

(ア-1)「【請求項3】
前記作動サブアセンブリは、
前記針を備え、前記ターンキーにより解放され、前記駆動バネにより駆動されると、前記注入装置用ベースに摺動可能に入り込み、該注入装置用ベースに固定されるプランジャ、および
前記ターンキーに連結し、前記注入装置用ベースに解放可能に連結するように構成される作動用カラー、
をさらに備えていることを特徴とする請求項2に記載の注入装置。」

(ア-2)「【請求項6】
前記作動用サブアセンブリは、
前記針を備え、前記押圧可能なハンドルの前記押し動作により解放され、前記駆動バネにより駆動されると、前記注入装置用ベースに入り込み、該注入装置用ベースに固定されるプランジャ、および
引込位置において前記プランジャを固定するために、前記押圧可能なハンドルが押されるまで、前記押圧可能なハンドルに摺動可能に連結し、前記押圧可能なハンドルがさらに押されるまで、前記注入装置用ベースに解放可能に連結するように構成されている挿入器用ベース、
をさらに備えていることを特徴とする請求項5に記載の注入装置。」

(ア-3)「【0027】
最初の代表的な実施形態においては、作動サブアセンブリ12は、親指保持形ターンキー16、鋼製駆動バネ18、プランジャ式バヨネット(a plunger bayonet)20、隔壁22、カニューレ保持器24、カニューレ26および作動キー用カラー(an activation key collar)28を備えている。図1においては別々に示されているけれども、使用者は、作動用カラー28で固定され、ハブ・ベース・サブアセンブリ14に解放可能に固定され、いつでも使える状態にあるプランジャ30および圧縮された状態の駆動バネ18がその中に入っているターンキー16を有する組み立てられた装置10を与えられる。プランジャ式バヨネット20、隔壁22、カニューレ保持器24およびカニューレ26は、まとめて、隔壁/カニューレ・サブアセンブリ、すなわちプランジャ30を構成する。ハブ・ベース・サブアセンブリ14は、ベース32、接着剤34および接着剤用裏当て36を備えている。図2に示されるように、流体連結装置アセンブリ38は、管40、流体連結装置用滑走体42、隔壁突き刺し用カニューレ44および流体連結装置用カバー46を備えている。」

(ア-4)「【0031】
作動用カラー28には、また、プランジャ式バヨネット20を固定するために、1以上の戻り止め47が設けられ、プランジャ式バヨネット20、あるいは、より具体的には、プランジャ式バヨネット20の突出部21がカラー28から自由に押圧されることを可能とする位置へ回転する戻り止め47の開口部49が設けられる。ターンキー16の回転は、カラー28の戻り止め47の1以上の開口部49を、プランジャ式バヨネット20の突出部21およびベース32の胴部33内の開口と合わせ、捕捉されている駆動バネ18により付勢されているので、バヨネット20、隔壁22、保持器24およびカニューレ26の下方に向かっての移動を可能とする。すなわち、解放位置である所定位置に回転されると、駆動バネ18は、ベース32内に、またベース32が配置されている皮膚表面(不図示)内に、プランジャ30を付勢する。さらに、ターンキー16の回転は、作動用カラー28の留め金27をベースの留め金32から外し、取り外しのために、キー16、駆動バネ18およびカラー28をベース32から解放し、それにより、注入部位に接着している薄くなったセットを残す。」

(ア-5)「【0032】
図8の拡大図に示されるように、ベース32は、作動用カラー28およびプランジャ30に係合する、円形の本体から突出するいくつかの特徴を有する実質的に円形の本体を備えている。一段高い外側リング50が、作動用カラー28に係合するように設けられ、一段高い内側リング52が、プランジャ30に係合するように設けられている。ベース32の反対側に、接着剤層34および取り外し可能な裏当て36が設けられ得る。ベース32の一段高い外側リング50は、開口部39で終わるいくつかの窪んだ溝すなわち留め金31を備えている。一段高い外側リング50の上面は、少なくとも2つの傾斜面35を備え、戻り止めがより容易に留め金31に入ることを可能とする。隆起部分54が、また、流体連結装置42が係合する前に、流体連結装置用カバー46を適切な位置に整列させるように設けられる。ベース32の一段高い内側リング52は、ベース32の開口部29を取り囲み、ターンキー16により加俸されるとプランジャ30が駆動される胴部33を備えている。1以上のラッチ(latches)37が、胴部33に設けられ、ターンキー、駆動バネおよびカラーが取り外されると、胴部内で所定の位置にプランジャ30をしっかりと保持する。」

上記記載事項(ア-1)ないし(ア-5)によれば、「プランジャ固定要素」とは、作動前にプランジャ(針及びカニューレ保持器を含む。)を作動サブアセンブリに固定する要素(以下「プランジャ固定要素A」という。)、又は、作動後にプランジャを注入装置用ベースに固定する要素(以下「プランジャ固定要素B」という。)を意味するものと理解することができる。
プランジャ固定要素A及びBの両方において、さらに、上記1(2)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載された事項を踏まえると、「プランジャ固定要素」とは、「針及びカニューレ保持器」とともに、「注入装置用ベースから」「解放」されずに注入装置用ベースに残される要素でもあると認める。

以下、「プランジャ固定要素」がプランジャ固定要素A、Bを意味する各場合において、相違点2について検討する。

(イ)プランジャ固定要素Aを意味する場合
刊行物1発明において、補正発明の「プランジャ」に相当するものは、「カニューレ(105)を含むカニューレ保持部分(101)」であると認められるところ、作動手段(261)の作動前の状態においては、カニューレ保持部分(101)は、挿入ニードル(243)の少なくとも一部がカニューレ保持部分(101)に挿入されることで、刊行物1挿入器構成に連結されている。
そうすると、カニューレ保持部分(101)のうち、挿入ニードル(243)の一部が挿入される部分(以下「部分A」という。)が、作動前にカニューレ保持部分(101)の全体を刊行物1挿入器構成に固定している要素であるといえる。そして、部分Aは、カニューレ保持部分(101)の一部であるから、挿入器デバイス(200)とともに解放されずに、医療デバイス(100)に残るものである。
したがって、「プランジャ固定要素」がプランジャ固定要素Aを意味する場合においては、刊行物1発明は、「少なくとも針とカニューレ保持器とプランジャ固定要素以外」を解放するものであるといえるから、上記相違点2は、実質的な相違点ではない。

(ウ)プランジャ固定要素Bを意味する場合
上記(イ)と同様に、刊行物1発明の「カニューレ(105)を含むカニューレ保持部分(101)」は補正発明の「プランジャ」に相当すると認められるところ、作動手段(261)を作動して医療デバイス(100)を挿入した後の状態においては、カニューレ保持部分(101)の係止手段(108)と本体(102)が連結されている。
そうすると、カニューレ保持部分(101)の係止手段(108)が、作動後にカニューレ保持部分(101)の全体を医療デバイス(100)の本体(102)に固定している要素であるといえる。そして、係止手段(108)は、カニューレ保持部分(101)の一部であるから、挿入器デバイス(200)とともに解放されずに、医療デバイス(100)に残るものである。
したがって、「プランジャ固定要素」がプランジャ固定要素Bを意味する場合においても、刊行物1発明は、「少なくとも針とカニューレ保持器とプランジャ固定要素以外」を解放するものであるといえるから、上記相違点2は、実質的な相違点ではない。

(5)小括

したがって、補正発明は、刊行物1発明及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび

以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記[補正却下の決定の結論]のとおり、決定する。

第3 本願発明について

1 本願発明

本件補正は、上記のとおり却下されたところ、本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、平成28年2月4日付けの手続補正書により補正された上記第2の1(1)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの「注入装置」であると認める。

2 刊行物

これに対して、原審の拒絶の理由に引用された刊行物は、上記第2の2(2)に示した刊行物1であり、その記載事項は上記第2の2(2)のとおりである。

3 対比・検討

本願発明は、上記第2の2で検討した補正発明の「作動完了後に前記注入装置用ベースから少なくとも針とカニューレ保持器とプランジャ固定要素以外を解放するように構成される」を「作動完了時に前記注入装置用ベースに少なくとも針とカニューレ保持器とプランジャ固定要素とを残すように構成される」に変更したものである。

そうすると、本願発明と刊行物1発明とは、上記第2の2(3)で示した一致点を有し、相違点1において相違するとともに、さらに、相違点2に代えて、以下の点において相違する。

<相違点3>
本願発明は、「作動完了時に前記注入装置用ベースに少なくとも針とカニューレ保持器とプランジャ固定要素とを残す」のに対して、刊行物1発明は、「穿刺部材たるカニューレ(105)を含むカニューレ保持部分(101)以外」を解放するものであって、医療デバイス(100)を挿入した後の状態においては、カニューレ保持部分(101)の係止手段(108)と本体(102)が連結されている点。

そして、相違点1については上記第2の2(4)アのとおりであり、相違点3については、上記第2の2(4)イ(イ)及び(ウ)の検討から明らかなとおり、プランジャ固定要素A及びBのいずれの場合であっても、少なくとも、刊行物1発明において「プランジャ固定要素」に相当するもの(部分A又は係止手段(108))は、カニューレ(105)及びカニューレ保持部分(101)とともに医療デバイス(100)に残ることになる。そうすると、相違点3についても、相違点2と同様に、実質的な相違点とはいえない。

したがって、本願発明は、刊行物1発明及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件出願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-09-11 
結審通知日 2017-09-12 
審決日 2017-09-26 
出願番号 特願2011-262090(P2011-262090)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61M)
P 1 8・ 121- Z (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金丸 治之久島 弘太郎  
特許庁審判長 内藤 真徳
特許庁審判官 二階堂 恭弘
平瀬 知明
発明の名称 使い捨て可能な活性化部分を持つ、部分的に統合され、機械化されたカニューレの挿入を有するインスリン・ポンプ皮膚注入セット  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  

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