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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B64D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B64D
管理番号 1337369
審判番号 不服2016-18425  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-12-08 
確定日 2018-02-07 
事件の表示 特願2013-531940号「燃料貯蔵システム」拒絶査定不服審判事件〔平成24年4月5日国際公開、WO2012/045035、平成25年11月28日国内公表、特表2013-542874号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年(平成23年)9月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年6月17日 米国 2010年9月30日 米国 2011年6月17日 米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成25年3月25日 :翻訳文提出
平成27年8月24日付け:拒絶理由の通知
平成28年2月29日 :意見書、手続補正書の提出
平成28年7月29日付け:拒絶査定(以下、「原査定」という。)
平成28年12月8日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 平成28年12月8日にされた手続補正についての却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成28年12月8日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正個所である。)。
「極低温液体燃料(12)を貯蔵することができる貯蔵ボリューム(24)を形成する第1の壁(23)を有する極低温燃料タンク(22)と、
前記極低温液体燃料(12)を前記貯蔵ボリューム(24)内に流すことができる流入システム(32)と、
前記極低温液体燃料(12)を前記極低温燃料貯蔵システム(10)から供給するように構成された流出システム(30)と、
前記貯蔵ボリューム(24)内の前記極低温液体燃料(12)から形成された気体燃料(19)の少なくとも一部を除去することができる排気システム(40)と、
前記極低温燃料タンク(22)から高圧ガスを排気するように構成された安全放出システム(45)と、
未使用の気体燃料(19)の少なくとも一部(29)を前記極低温燃料タンク(22)内に戻すように構成されたリサイクルシステム(34)と
を備え、
前記リサイクルシステム(34)は、未使用の気体燃料(19)の前記一部(29)を、極低温燃料タンク(22)に戻す前に冷却する低温クーラ(42)を備え、
前記安全放出システム(45)は、前記第1の壁(23)の一部を形成する破裂板(46)を備え、
前記極低温燃料タンク(22)は、前記第1の壁(23)を実質的に取り囲む第2の壁(25)をさらに備え、その結果、前記第1の壁(23)及び前記第2の壁(25)間にギャップ(26)が存在し、
前記第1の壁(23)及び前記第2の壁(25)間の前記ギャップ(26)内には真空が存在する、航空機用極低温燃料貯蔵システム(10)。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、平成28年2月29日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「極低温液体燃料(12)を貯蔵することができる貯蔵ボリューム(24)を形成する第1の壁(23)を有する極低温燃料タンク(22)と、
前記極低温液体燃料(12)を前記貯蔵ボリューム(24)内に流すことができる流入システム(32)と、
前記極低温液体燃料(12)を前記極低温燃料貯蔵システム(10)から供給するように構成された流出システム(30)と、
前記貯蔵ボリューム(24)内の前記極低温液体燃料(12)から形成された気体燃料(19)の少なくとも一部を除去することができる排気システム(40)と、
前記極低温燃料タンク(22)から高圧ガスを排気するように構成された安全放出システム(45)と
を備える、航空機用極低温燃料貯蔵システム(10)。」
2 補正の適否
審判請求人は、審判請求書において、「請求項1乃至5、7乃至9を削除する補正を行った」と主張している。しかしながら、本件補正前の請求項6と本件補正後の請求項1を比較すると、本件補正後の請求項1に係る発明は、本件補正前の請求項6に係る発明のうち、本件補正前の請求項1?5に係る発明の発明特定事項を全て含むものであり、しかも、本件補正前の請求項4および5は、それぞれそれより前の請求項(請求項4においては請求項1?3、請求項5においては請求項1?4)の発明特定事項を必ずしも全て含むものではないことから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第1号の請求項の削除を目的とするものとはいえない。
そして、本件補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「極低温燃料タンク」の壁の構造に関し上記のとおり限定を付加するとともに、「極低温燃料タンク」が上記のリサイクルシステムを備えることを限定する事項を付加し、さらに、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「安全放出システム」について、上記のとおり限定を付加するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、同法同項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するといえる。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)について以下検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
(2)引用例の記載事項および発明
ア 引用例1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である、特表2008-546956号公報(以下「引用例1」という。)には、図面とともに次の記載がある(下線は当審で付した。)。
(i)「【0001】
本発明は、特に液体水素をはじめとする深冷媒体用の貯蔵容器であって、気相状態の深冷媒体を受け入れるための少なくとも一つの凝縮管路を備えた形式の貯蔵容器に関するものである。」
(ii)「【0003】
本発明に関する以下の説明において、「深冷媒体」とは原則として所謂深冷状態にある液体、特に液体水素、液化天然ガス、液体窒素、液体酸素及びその他の液化ガスを意味する。」
(iii)「【0007】
今日、特に水素はエネルギー需要の増大と環境意識の高揚によってエネルギー媒体としてますます重要とされつつある。既にトラックやバス、或いは乗用車は水素エンジンや燃料電池で駆動されるものが実用化されている。更に、水素燃料で作動するエンジンを搭載した航空機についても初期段階の実験が行われている。」
(iv)「【0010】
従来の液体水素用の貯蔵容器は、液体水素が気化して気体水素の損失を生じるに至るまでに2?3日の有効寿命を保証可能である。特に乗用車の場合、エネルギー媒体としての水素の補給は、就中、乗用車の有効稼働期間にも影響を与える。燃料補給後、2?3日後には水素が気化して失われてしまうことは決してユーザーにが受け入れられないことである。」
(v)「【0020】
図1は本発明による貯蔵容器Sの好適な実施形態の構成を示す模式断面図である。図1において、貯蔵容器Sは簡略化して示されており、例えば内側容器と外側容器は別段区別して示されてはおらず、またその一貫として通常は内側容器と外側容器との間に設けられている断熱体も図示が省略されている。
【0021】
図示の貯蔵容器Sは例えば液体水素の貯蔵用のものであり、内部に貯蔵されている液体水素で形成された液室Fの自由表面上の空間Gは気化水素で形成されたクッション空間である。
【0022】
貯蔵容器Sには、図示しない水素供給源から補給管路1を介して液相及び/又は気相状態の水素が供給される。
【0023】
貯蔵容器Sからは、取出管路4を介して液体水素及び/又は気体水素が図示しない負荷装置へ取り出される。
【0024】
基本的に了解すべきことは、補給管路1と取出管路4、更には後述するベント管路2及び凝縮管路3の管路機能は、単一の導入導出兼用管路で実現できる点である。
【0025】
貯蔵容器Sの内部で気化した水素は、貯蔵容器の最大許容内部圧力を超えると、通常は貯蔵容器Sのクッション空間Gからベント管路2を介してからガス抜きされ、例えば大気中に放出される。
【0026】
本発明によれば、貯蔵容器S内で気化した気相状態の深冷水素はクッション空間から凝縮管路3を介して同じ貯蔵容器Sの液室Fに導入されるが、この導入に先立って液室F内における凝縮管路内の熱交換器Wで液室F内の液体水素との熱交換により過冷され、次いで熱交換器Wの下流側で同じく液室F内の凝縮管路に設けられた圧力解放装置Eにより断熱膨張されて凝縮流として液室F中に導入される。このプロセスは、そのときに支配的な貯蔵容器内部圧力に実質的に影響されることなく進行する。この場合も、クッション空間Gの圧力が貯蔵容器の最大許容内部圧力を超えると、気体水素は既に述べたようにベント管路2を介して貯蔵容器Sの外部へ導出される。
【0027】
貯蔵容器Sに導入される気相状態の深冷水素は、貯蔵容器S自体に直接由来する場合はクッション室Gから凝縮管路3に通じる破線で示した還流管路5を介して導入されるが、この他に任意の水素源又はプロセスからの気相状態の深冷水素を凝縮管路3経由で貯蔵容器Sに導入しても良い。」
(イ)上記記載から、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「液体水素用の貯蔵容器Sであって、貯蔵容器Sは外側容器と内側容器と、これら外側容器と内側容器との間に断熱体が設けられ、
貯蔵容器Sには、水素供給源から補給管路1を介して液相及び/又は気相状態の水素が供給され、
貯蔵容器Sからは、取出管路4を介して液体水素及び/又は気体水素が負荷装置へ取り出され、
貯蔵容器Sの内部で気化した水素は、貯蔵容器の最大許容圧力を超えると、貯蔵容器Sのクッション空間Gからベント管路2を介してガス抜きされ、
貯蔵容器Sの内部で気化した水素は、クッション空間Gから凝縮管路3に通じる還流管路5を介して液室F中に導入され、
この導入に先立って液室F内における凝縮管路内の熱交換器Wで液室内の液体水素と熱交換により過冷し、次いで凝縮管路内に設けられた圧力解放装置Eにより断熱膨張する、
液体水素用貯蔵容器。」
(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「液体水素」は、本件補正発明の「極低温液体燃料(12)」に相当する。また、引用発明の「貯蔵容器S」の「内側容器」が水素を貯蔵する貯蔵ボリュームを形成する壁を有することは明らかである。したがって、引用発明の「貯蔵容器S」は、本件補正発明の「極低温燃料タンク」に相当し、本件補正発明の「極低温液体燃料(12)を貯蔵することができる貯蔵ボリューム(24)を形成する第1の壁(23)を有する」に相当する構成を具備しているといえる。
(イ)引用発明の「補給管路1」は、「水素供給源から補給管路1を介して液相及び/又は気相状態の水素」を「貯蔵容器S」に供給するものである。 したがって、引用発明の「補給管路1」は、本件補正発明の「前記極低温液体燃料(12)を前記貯蔵ボリューム(24)内に流すことができる流入システム(32)」に相当する。
(ウ)引用発明は、「貯蔵容器Sからは、取出管路4を介して液体水素及び/又は気体水素が負荷装置へ取り出され」るものである。したがって、引用発明の「取出管路4」は本件補正発明の「前記極低温液体燃料(12)を前記極低温燃料貯蔵システム(10)から供給するように構成された流出システム(30)」に相当する。
(エ)引用発明の「貯蔵容器S内で気化した水素」は、本件補正発明の「前記貯蔵ボリューム(24)内の前記極低温液体燃料(12)から形成された気体燃料(19)」に相当する。そして、引用発明では、「貯蔵容器Sの内部で気化した水素は、貯蔵容器の最大許容圧力を超えると、貯蔵容器Sのクッション空間Gからベント管路2を介してガス抜きされ」るから、貯蔵容器Sの内部で気化した水素の少なくとも一部をベント管路2を介して除去ないし排気しているといえる。したがって、引用発明の「ベント管路2」は、本件補正発明の「前記貯蔵ボリューム(24)内の前記極低温液体燃料(12)から形成された気体燃料(19)の少なくとも一部を除去することができる排気システム(40)」に相当する。
(オ)引用発明では、「貯蔵容器S内で気化した水素」を「クッション空間Gから凝縮管路3に通じる還流管路5を介して液室F中に導入」するものであり、この液室F中に導入される「貯蔵容器S内で気化した水素」は、どこにも使用されない、すなわち、未使用のものであるといえる。したがって、上記(エ)での対比をも踏まえると、引用発明の「還流管路5」は、本件補正発明の「未使用の気体燃料(19)の少なくとも一部(29)を前記極低温燃料タンク(22)内に戻すように構成されたリサイクルシステム(34)」に相当する。
また、引用発明の「熱交換器W」は、「還流管路5」に設けられていて、これによって「液室内の液体水素と熱交換により過冷」するものであり、「貯蔵容器S内で気化した水素」を、冷却するものといえるから、引用発明の「熱交換器W」は、本件補正発明の「未使用の気体燃料(19)の前記一部を」、「冷却する低温クーラ(42)」の限度で共通する。
そして、引用発明では、「貯蔵容器S内で気化した水素」は、「還流管路5を介して液室F中に導入」することに「先立って液室F内における凝縮管路内の熱交換器Wで液室内の液体水素と熱交換により過冷し、次いで凝縮管路内に設けられた圧力解放装置Eにより断熱膨張する」ものであるから、引用発明において、「貯蔵容器S内で気化した水素」は、貯蔵容器Sに戻される際に冷却されているといえる。したがって、引用発明の「この導入に先立って液室F内における凝縮管路内の熱交換器Wで液室内の液体水素と熱交換により過冷し、次いで凝縮管路内に設けられた圧力解放装置Eにより断熱膨張する」は、本件補正発明の「未使用の気体燃料(19)の前記一部(29)を、極低温燃料タンクに戻す前に冷却する」との対比において、「未使用の気体燃料(19)の前記一部(29)を、極低温燃料タンクに戻す際に冷却する」との限度で共通し、引用発明は、本件補正発明の「前記リサイクルシステム(34)は、未使用の気体燃料(19)の前記一部(29)を、極低温燃料タンク(22)に戻す前に冷却する低温クーラ(42)を備え」ることとの対比において、「前記リサイクルシステム(34)は、未使用の気体燃料(19)の前記一部(29)を、極低温燃料タンク(22)に戻す際に冷却する低温クーラ(42)を備え」るの限度で共通する構成を具備するといえる。
(カ)引用発明の「貯蔵容器Sは外側容器と内側容器と、これら外側容器と内側容器との間に断熱体が設けられ」るものであり、その外側容器は内側容器を取り囲む壁を備えており、内側容器の壁と外側容器の壁との間にはギャップが存在しているといえる。したがって、引用発明の「貯蔵容器Sは外側容器と内側容器と、これら外側容器と内側容器との間に断熱体が設けられ」ることは、本件補正発明の「前記極低温燃料タンク(22)は、前記第1の壁(23)を実質的に取り囲む第2の壁(25)をさらに備え、その結果、前記第1の壁(23)及び前記第2の壁(25)間にギャップ(26)が存在」することに相当する。
(キ)引用発明の「液体水素用貯蔵容器」は、本件補正発明の「航空機用極低温燃料貯蔵システム」との対比において「極低温貯蔵システム」の限度で共通する。
イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点および相違点は次のとおりである。
<一致点>
「極低温液体燃料を貯蔵することができる貯蔵ボリュームを形成する第1の壁を有する極低温燃料タンクと、
前記極低温液体燃料を前記貯蔵ボリューム内に流すことができる流入システムと、
前記極低温液体燃料を前記極低温燃料貯蔵システムから供給するように構成された流出システムと、
前記貯蔵ボリューム内の前記極低温液体燃料から形成された気体燃料の少なくとも一部を除去することができる排気システムと、
未使用の気体燃料の少なくとも一部を前記極低温燃料タンク内に戻すように構成されたリサイクルシステムと
を備え、
前記リサイクルシステムは、未使用の気体燃料の前記一部を、極低温燃料タンクに戻す際に冷却する低温クーラを備え、
前記極低温燃料タンクは、前記第1の壁を実質的に取り囲む第2の壁をさらに備え、その結果、前記第1の壁及び前記第2の壁間にギャップが存在する、極低温燃料貯蔵システム。」
<相違点1>
本件補正発明の「極低温燃料システム」は「航空機用」であるのに対し、引用発明はそのように特定されていない点。
<相違点2>
本件補正発明は、「前記極低温燃料タンク(22)から高圧ガスを排気するように構成された安全放出システム(45)」「を備え」ており、「前記安全放出システム(45)は、前記第1の壁(23)の一部を形成する破裂板(46)を備え」ているのに対し、引用発明はそのような構成を備えていない点。
<相違点3>
極低温燃料タンクに戻す際に冷却する低温クーラに関し、本件補正発明の、「低温クーラ(42)」は「未使用の気体燃料(19)の前記一部(29)を、極低温燃料タンク(22)に戻す前に冷却する」ものであるのに対し、引用発明の「熱交換器W」は、「貯蔵容器Sの内部で気化した水素」を「液室F内における凝縮管路内の熱交換器Wで液室内の液体水素と熱交換により過冷」するものである点。
<相違点4>
本件補正発明では「前記第1の壁(23)及び前記第2の壁(25)間の前記ギャップ(26)内には真空が存在する」のに対し、引用発明では「外側容器と内側容器との間に断熱体が設けられ」ている点。
(4)判断
以下、各相違点について検討する。
ア 相違点1について
引用発明の「液体水素用貯蔵容器」も、水素燃料で作動するエンジンを搭載した航空機に対しての適用が記載ないし示唆されており(引用文献1の段落【0007】(上記(2)ア(iii))、参照。)、引用発明の「液体水素用貯蔵容器」は航空機用であるともいえる。したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。仮に実質的な相違点であったとしても、引用発明を航空機用の液体水素用貯蔵容器に用いることは、引用文献1の上記記載に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。
イ 相違点2について
引用発明の「ベント管路2」(本件補正発明の「前記貯蔵ボリューム(24)内の前記極低温液体燃料(12)から形成された気体燃料(19)の少なくとも一部を除去することができる排気システム」に相当する。)は、「貯蔵容器Sの内部で気化した水素」を、「貯蔵容器の最大許容圧力を超えると、貯蔵容器Sのクッション空間Gからベント管路2を介してガス抜き」するものであるから、本件補正発明の「安全放出システム」に相当する機能をも有するものと解されるところ、極低温液体燃料貯蔵容器において、安全手段の多重化の観点から、安全弁と破裂板を併用することは周知・慣用の技術といえ、航空機分野においても、いわゆるフェイルセーフの観点から航空用極低温液体燃料貯蔵容器を構成する装置について、多重化した安全手段を設けることは本願の優先日前に知られていた技術といえる(この点について、原査定の拒絶の理由で引用された引用例2(米国特許出願公開第2010/0187237号明細書)の段落[0070]、図9(リリーフ弁407と破裂板409とベント405を併用している点)、参照。)。一方、圧力容器、耐圧容器の壁に、容器内の圧力が上昇した際の安全手段として破裂板(ラプチャーディスク、バーストディスクともいわれる)を設けることも、本願の優先日前に周知・慣用の技術であるといえる(例、登録実用新案第3085200号公報、実願昭62-55447号(実開昭63-162200号)のマイクロフィルム、参照。)。
とするならば、航空機用としても用いることができる液体水素用貯蔵容器である引用発明の「液体水素用貯蔵容器」の「ベント管路2」によって、「貯蔵容器Sの内部で気化した水素」を、「貯蔵容器の最大許容圧力を超えると、貯蔵容器Sのクッション空間Gからベント管路2を介してガス抜き」することに加え、二重の安全のために、圧力容器、耐圧容器の壁に破裂板を設けるという上記周知・慣用の技術を適用することは当業者であれば容易に想到し得たものである。そして、その破裂板の適用は、破裂板の機能上、破裂板はタンク内の圧力が加わるような態様、場所に設ける必要があることからすれば、二重壁を有する引用発明においては少なくとも内側容器の壁(本件補正発明の第1の壁(23)に相当する。)の一部となるように形成することに格別の困難性は見いだせない。そして、この内側の壁の一部に形成された破裂板によって、本件補正発明の安全放出システムに相当する構成が具備されることとなる。
ところで、破裂板の圧力容器、耐圧容器への適用態様については、圧力容器、耐圧容器に容器内の内部の圧力を導入する導入配管を設け配管内に破裂板を配置する構成も本願の優先日前に一般的に採用されて周知といえるところ(例、特開2010-126417号公報の段落【0029】、特開平5-322100号公報の図8、参照。)、このような、導入配管内の破裂板も、実質的には、貯蔵ボリューム内の圧力を直接受ける部材という点で圧力容器、耐圧容器の貯蔵ボリュームを形成する壁の一部であるということができる(本件図面の図2に示されたものも、破裂板46は安全放出システム45の末端、すなわち導入配管内に設けられていると解される。)。
とするならば、この点からみても、引用発明に、上記圧力容器、耐圧容器に容器内の内部の圧力を導入する導入配管を設け配管内に破裂板を配置する周知の構成を適用し、もって、破裂板を二重壁の内側の壁の一部となすことは当業者であれば容易に想到し得たものである。
以上のとおりであるから、引用発明において、相違点2に係る本件補正発明の構成となすことは、当業者であれば周知・慣用の技術に基づいて容易に想到し得たものである。
ウ 相違点3について
本件補正発明の「低温クーラ(42)」が「未使用の気体燃料(19)の前記一部(29)を、極低温燃料タンク(22)に戻す前に冷却する」とは、機能的には、「低温クーラ(42)」によって未使用の気体燃料(19)の前記一部(29)を、極低温燃料タンク(22)の貯蔵ボリューム(24)に戻す前、すなわち貯蔵ボリューム(24)内の水素に合流する前に冷却することである。
一方、引用発明の「熱交換器W」は、「貯蔵容器Sの内部で気化した水素」を「液室F内における凝縮管路内の熱交換器Wで液室内の液体水素と熱交換により過冷」するものであるところ、これによって、貯蔵容器Sの内部で気化した水素は、貯蔵容器S内に貯蔵されている水素と合流する前に熱交換器Wで冷却されているといえ、本件補正発明において、「低温クーラ(42)」によって「未使用の気体燃料(19)の前記一部(29)を、極低温燃料タンク(22)の貯蔵ボリューム(24)に戻す前に冷却する」ことと実質的には変わらないといえる。
したがって、相違点3は実質的には相違点とはいえない。
仮に、本件補正発明において、「低温クーラ(42)」が「極低温燃料タンク(22)」の外部に存在するものであると解して、相違点2が実質的な相違点であるとしても、極低温燃料タンクにおいて、極低温液体燃料から形成された気体燃料を極低温燃料タンクの外部において低温クーラによって冷却して、その後、極低温燃料タンク内に戻すという技術は本願の優先日前に周知・慣用の技術であるから(例、特開2006-57787号公報の段落【0005】、特許第4626060号公報の段落【0012】、参照。)、相違点3に係る本件補正発明の構成となすことは当業者であれば周知・慣用の技術に基づいて容易に想到し得たものといえる。
エ 相違点4について
極低温燃料タンクの二重壁の断熱手段として壁の間に真空を存在させたものは本願の優先日前に周知・慣用の技術である(例、米国特許出願公開2005/0224514号明細書の段落[0031]、特表2009-542502号公報の段落【0026】、特開2006-9949号公報の段落【0027】、【0028】、参照。)。そして、周知・慣用の断熱手段のうちどのような手段を採用するかは、当業者にとり単なる選択事項にすぎないといえる。したがって、引用発明において、相違点4に係る本件補正発明の構成となすことは当業者であれば周知・慣用の技術に基づいて容易に想到し得たものである。
エ そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明および周知・慣用の技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
オ したがって、本件補正発明は、引用発明および周知・慣用の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(5)本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成28年12月8日にされた手続補正は、上記「第2」のとおり却下されたので、本願の請求項1-15に係る発明は、平成28年2月29日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-15に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記「第2 [理由]1(2)」に記載のとおりのものである。
2 引用例の記載事項および発明
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である、特表2008-546956号公報(引用例1)の記載事項および発明は、上記「第2 [理由]2(2)」に記載したとおりである。
3 対比・判断
本願発明は、上記「第2 [理由]2」で検討した本件補正発明から、「極低温燃料タンク」の、壁の構造に係る限定である「前記極低温燃料タンク(22)は、前記第1の壁(23)を実質的に取り囲む第2の壁(25)をさらに備え、その結果、前記第1の壁(23)及び前記第2の壁(25)間にギャップ(26)が存在し、前記第1の壁(23)及び前記第2の壁(25)間の前記ギャップ(26)内には真空が存在する」という発明特定事項、およびリサイクルシステムに係る限定である「未使用の気体燃料(19)の少なくとも一部(29)を前記極低温燃料タンク(22)内に戻すように構成されたリサイクルシステム(34)とを備え、前記リサイクルシステム(34)は、未使用の気体燃料(19)の前記一部(29)を、極低温燃料タンク(22)に戻す前に冷却する低温クーラ(42)を備え」という発明特定事項を省き、また、「安全放出システム」に係る限定である「前記安全放出システム(45)は、前記第1の壁(23)の一部を形成する破裂板(46)を備え」という発明特定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記「第2 [理由]2」に記載したとおり、引用発明および周知・慣用の技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明および周知・慣用の技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。
4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-09-05 
結審通知日 2017-09-12 
審決日 2017-09-27 
出願番号 特願2013-531940(P2013-531940)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B64D)
P 1 8・ 575- Z (B64D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 志水 裕司  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 尾崎 和寛
出口 昌哉
発明の名称 燃料貯蔵システム  
代理人 黒川 俊久  
代理人 小倉 博  
代理人 田中 拓人  
代理人 荒川 聡志  

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