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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 C22C
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C22C
管理番号 1337387
審判番号 不服2017-3659  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-03-10 
確定日 2018-02-27 
事件の表示 特願2013- 23791「耐溶融亜鉛腐食性および耐亜鉛割れ性に優れた溶融亜鉛浴設備用鋼板」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月 9日出願公開、特開2013-177682、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年2月8日の出願(優先権主張平成24年2月8日)であって、平成28年9月7日付けで拒絶理由通知がされ、平成28年11月14日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成28年12月20日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成29年3月10日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、平成29年12月1日付けで当審より拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由通知」という。)がされ、平成29年12月15日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願請求項1-5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明5」という。)は、平成29年12月15日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-5に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
質量%で
C : 0.12超?0.30%、
Si: 0.05%以下、
Mn: 0.2?2.0%
を含有し、
P : 0.015%以下、
S : 0.030%以下、
Al: 0.070%以下
に制限し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
圧延方向に平行、且つ、板面に垂直な板厚断面において、板厚(t)方向で板面からt/4部までの表層の金属組織が、フェライト相および、パーライト相からなる混合組織であり、且つ、前記フェライト相の結晶粒の平均アスペクト比が2以上であることを特徴とする耐溶融亜鉛腐食性および耐亜鉛割れ性に優れた溶融亜鉛浴設備用鋼板。」

なお、本願発明2-5の概要は以下のとおりである。

本願発明2-5は、本願発明1の構成を全て引用する発明である。

第3 拒絶理由について
1.当審拒絶理由(特許法第36条第6項第1号)について
当審では、請求項1は、発明の詳細な説明に記載されていないとの拒絶の理由を通知しているが、平成29年12月15日付けの補正において、「C :0.12超?0.30%」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。

2. 原査定の概要(特許法第29条第2項について)
(1) 原査定は、請求項1-4について引用文献1-6に基づいて、また、請求項5について引用文献1-7に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

<引用文献>
引用文献1:特開2003-231942号公報
引用文献2:特開昭50-67216号公報
引用文献3:特開昭60-116746号公報
引用文献4:特開昭54-99031号公報
引用文献5:特開2002-241888号公報
引用文献6:特開平9-87802号公報
引用文献7:特開平5-125485号公報

(2)引用文献の記載事項及び引用発明
(2-1)引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、次の事項が記載されている。

ア. 「【請求項1】 質量%で、C:0.05?0.12%、Si:0.03%以下、Mn:0.5%以下、P:0.015%以下、S:0.015%以下、sol.Al:0.01?0.1%以下を含有し、残部が実質的にFeからなり、かつ、下記(1)式で示されるCEZ指数:0.17以下、下記(2)式で示されるSLM指数:42以上であること特徴とする耐溶融亜鉛腐食性及び耐溶融亜鉛脆化に優れた鋼材。
CEZ=C+Mn/12+Si/27……(1)
SLM=93-8800C(C-0.1)-63Si-38Mn……(2)
但し、(1)式及び(2)式の元素記号は各含有元素の質量%を示す。」(特許請求の範囲)

イ. 「【発明の実施の形態】
上記のように従来の高C鋼材(C>0.15%)を溶融亜鉛めっき釜用鋼材として使用した場合、溶接部近傍に亀裂が発生する問題がある。本発明者らは溶融亜鉛脆化による亀裂発生について研究と検討を重ねた結果、溶融亜鉛中での腐食量に与える鋼材成分の影響に加えて、溶融亜鉛中の割れ感受性と大気中及び溶融亜鉛中の高温強度を考慮して成分設計を行うことで亀裂の発生を防ぐことができることを見出し、本発明を完成した。」(【0012】)

ウ. 「溶接性試験は斜め溶接割れ試験を、JIS Z 3158の方法で行った。試験片の初期温度を0、25、50℃と変化させたが、表面割れ率、断面割れ率、ルート割れ率のいずれの割れ率も0%であった。」(【0039】)

エ. したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

<引用発明1>
「質量%で、C:0.05?0.12%、Si:0.03%以下、Mn:0.5%以下、P:0.015%以下、S:0.015%以下、sol.Al:0.01?0.1%以下を含有し、残部が実質的にFeからなり、かつ、下記(1)式で示されるCEZ指数:0.17以下、下記(2)式で示されるSLM指数:42以上であること特徴とする耐溶融亜鉛腐食性及び耐溶融亜鉛脆化に優れた鋼材であって、斜め溶接割れ試験をJIS Z 3158の方法で行い、試験片の初期温度を0、25、50℃と変化させても、表面割れ率、断面割れ率、ルート割れ率のいずれの割れ率も0%である鋼材。
CEZ=C+Mn/12+Si/27……(1)
SLM=93-8800C(C-0.1)-63Si-38Mn……(2)
但し、(1)式及び(2)式の元素記号は各含有元素の質量%を示す。」

(2-2)引用文献2?6について
ア. 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、次の事項が記載されている。

(ア) 「N 0.0085?0.05%を含み、残部鉄および不純物である耐溶融亜鉛用鋼。」(特許請求の範囲)

(イ) 「本発明は、耐溶融亜鉛用鋼に関し、特に、溶融亜鉛メッキにおけるメッキ槽用鋼板として溶融亜鉛に対して優れた耐侵蝕性を有する鋼に関するものである。」(第1頁左下欄第7行から第10行)

(ウ) 「本発明は、上記説明したような従来技術の欠点、問題点を解消したものであり、即ち、N 0.0085?0.05%を含み、残部鉄および不純物である耐溶融亜鉛用鋼である。
本発明はこのような構成を有しているものであるから、溶融亜鉛メッキ槽用の鋼板として用いた場合に、溶融亜鉛の温度が500℃付近において亜鉛による侵蝕が激減すると共に、他の温度域においてもすぐれた耐蝕性を有し、極めて簡単に製造することができるものである。」(第2頁右上欄第8行から第17行)

(エ) 「次に本発明を具体的に説明する。
次表に、本発明に係る鋼と比較鋼との化学成分を示す。
本発明はA、B、C,比較鋼はD、E、F、Gである。

」(第2頁左下欄第9行から第13行)

(オ) 上記引用文献2の摘記(エ)において、記号Cで示される実施例に注目すると、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「質量%で、C:0.15%、Si:0.04%、Mn:0.95%、P :0.009%、S :0.011%、N:0.045%、Al:0.07%を含み、残部鉄および不純物である、
溶融亜鉛メッキにおけるメッキ槽用鋼板として、溶融亜鉛に対して優れた耐侵蝕性を有する耐溶融亜鉛用鋼。」

イ. 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、次の事項が記載されている。

(ア) 「C:0.16?0.50%、Si:0.05%以下、Mn:0.3?1.5%、P:0.015%以下、S:0.030%以下、Nb:0.005?0.040%、SolAl:0.015?0.070%、T.N:0.003?0.008%、残部鉄及び不可避不純物からなる溶融亜鉛メッキ釜用鋼材。」(特許請求の範囲)

(イ) 「この発明は溶融亜鉛メッキ釜用鋼材に関し、耐溶食性に優れると共に、高い高温強度を有する鋼材を提供しようとするものである。」(第1頁左下欄第11行から第14行)

(ウ) 「しかしながら従来より使用されてきた低炭素系鋼材の場合、リニア・アタック型の溶食が著しく、また高温強度も十分でない欠点があった。
本発明は上記した点に鑑みてなされたもので、耐溶食性に優れしかも高温度強度に優れた溶融亜鉛メッキ釜用鋼材を提供しようとするものである。」(第2頁左上欄第18行から右上欄第5行)

(エ) 「〔実施例〕
下掲第1表に示す化学組成を有する鋼片を1150℃に加熱後、熱間圧延し鋼材を得た。これらの鋼材の常温の機械的性質、高温強度及び各試験条件下における溶食量を併記した。なお供試鋼の結晶粒度はASTM No2.8?8.5番の範囲内にあった。
No 1、5、11鋼はC量と溶食量の関係を把握するためのものであるが、C量の増加とともに500℃の亜鉛浴中における溶食量が減少していることがわかる。
またNo1?No4鋼まではSolAl量と溶食量、No11?No13鋼まではN量と溶食量の関係をみたものであるが、Cの場合と同様にSolAl量及びN量が増加すると共に、500℃の亜鉛浴中の溶食量が減少し、耐溶食性が向上している。

以上のような本発明の鋼材はリニア・アタックゾーンにおいて亜鉛による溶食が少ない。また他の温度域においても優れた耐溶食性を有しており、450?500℃における高温強度も25Kg/mm^(2)以上を有している。更に極めて容易に製造可能である等の利点がある。」(第3頁左上欄第2行から第4頁左上欄第7行)

(オ) 上記引用文献3の摘記(エ)において、試料番号7で示される実施例に注目すると、引用文献3には、次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。

<引用発明3>
「質量%で
C :0.16%、Si:0.02%、Mn:1.09%、P:0.004%、S:0.004%、Nb:0.031%、SolAl:0.028%、T.N:0.0068%、残部鉄及び不可避不純物からなる、
500℃の亜鉛浴中の溶食量が減少し、耐溶食性が向上した溶融亜鉛メッキ釜用鋼材。」

ウ. 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4には、次の事項が記載されている。

(ア) 「(1) C:0.12?0.30%、Mn:0.5?2.0%、Cr:0.10?0.28%、V:0.02?0.2%を含有し、且つCr、Vの関係を第1図のA(Cr:0.28%、V:0.02%)、B(Cr:0.2% V:0.02%)、C(Cr:0.1%、V:0.045%)、D(Cr:0.1%、V:0.2%)のABCDの範囲に保ち、さらにSi:0.05%以下、
P:0.015%以下に制限し、残余は鉄ならびに不純物からなる亜鉛メッキ釡用鋼材。」(特許請求の範囲)

(イ) 「本発明は鉄鋼材料の溶融亜鉛メッキを行なうためのメッキ釜或いはブツシュ、浸漬ロール等を構成するに好適な釜用鋼材の改良に係るものである。」(第1頁左下欄第15行から第17行)

(ウ) 「即ち従来は試験片を単純に溶融亜鉛浴に浸漬した場合の侵食度で耐食性を判断していたわけであるが、(尤もこの方法によっても傾向的には大きな間違いはなく、この耐食性に欠けるものは、この用途に適さない。)更に厳密に亜鉛メッキ用釜の寿命を判断しようとすると以上の他に或程度長時間使用した後の組繊変化(炭化物の分解等)、或いは溶融亜鉛の揺動又は温度変動による侵食度の加速を考慮しなくてはならないことを本発明者らは知見した。
これらの点を総合的に判断して従来の材料よりもさらに寿命のすぐれた新しい経済的な亜鉛メッキ釜用鋼材の開発に成功したものが本発明であり、その上従来の釜にくらベクリープ破断強度にもすぐれ、従って亜鉛の粒界侵入による亀裂の発生にも著しく抵抗が大きい優れた性質を持つものである。」(第2頁左上欄第10行から右上欄第6行)

(エ) 「実施例
第2表に供試鋼の化学組成と引張り特性500℃、520℃各24時間浸漬後の侵食量および480?520℃の間で温度変動を与えた場合の24時間浸漬後の侵食量550℃で30日間加熱保持した時効材の500℃24時間浸漬後の侵食量、亜鉛中クリープ破断強度(500℃、100hr)を示す。
第2表に示すもののうちNo8、10、13、14、18?22鋼は本発明の実施例鋼であり、その他は比較鋼である。・・・

以上要するに本発明鋼は溶融亜鉛メッキ用鋼板として亜鉛の侵食が少なく、また亜鉛中クリープによる亀裂の危険が少なく且つ長時間の使用後も耐浸食性に害を及ぼすような組繊変化をおこしにくい亜鉛メッキ釜として長い寿命が期待出来る実用価値の極めて高い鋼材である。

」(第3頁左下欄第11行から第5頁上欄)

(オ) 上記引用文献4の摘記(エ)において、No8で示される実施例に注目すると、引用文献4には、次の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。

<引用発明4>
「C:0.160%、Mn:0.83%、Cr:0.25%、V:0.03%、Si:0.02%、P:0.007%、S:0.015%を含有し、残余は鉄ならびに不純物からなる、
亜鉛の侵食が少なく、また亜鉛中クリープによる亀裂の危険か少なく且つ長時間の使用後も耐浸食性に害を及ぼすような組繊変化をおこしにくい亜鉛メッキ釡用鋼材。」

エ. 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5には、次の事項が記載されている。

(ア) 「【請求項1】 質量%で、
C :0.01?0.2%、
Si:0.05%以下、
Mn:0.01?2%、
P :0.02%以下、
S :0.02%以下、
Mo:0.1?2%を含有し、さらに、
Nb:0.005?0.03%、
V :0.005?0.05%の1種または2種を含有し、残部Fe及び不可避的不純物よりなることを特徴とする高温強度が高く且つ溶損が少ない溶融亜鉛釜用鋼。
【請求項2】 質量%で、さらに、
Ti:0.005?0.05%、
N :0.002?0.01%を含有することを特徴とする請求項1に記載の高温強度が高く且つ溶損が少ない溶融亜鉛釜用鋼。
【請求項3】 質量%で、さらに、
Al:0.0002?0.06%、
O :0.0002?0.01%を含有し、且つ、
Mg:0.0002?0.006%、
Ca:0.0002?0.006%、
REM:0.0002?0.006%の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の高温強度が高く且つ溶損が少ない溶融亜鉛釜用鋼。」(特許請求の範囲)

(イ) 「【発明の属する技術分野】本発明は、鋼構造部材あるいは鋼板の耐食性確保のために実施する溶融亜鉛メッキの際に使用する溶融亜鉛貯槽用の釜あるいは容器に用いる高温強度が高く且つ溶損が少ない溶融亜鉛釜用鋼に関するものである。」(【0001】段落)

(ウ) 「亜鉛釜の信頼性を向上させ、長期使用を可能とするためには、溶融亜鉛による溶損を少なくすることと、長期使用による変形を少なくすることを同時に達成する必要がある。本発明の目的は、上記問題を解決するために、溶融亜鉛による溶損が少なく、且つ、亜鉛釜の使用中変形を抑制するために高温強度を高め、さらに、大入熱溶接を適用してもHAZ靱性を確保することが可能な、溶融亜鉛釜用鋼を提供することにある。」(【0006】段落)

(エ) 「【実施例】(実施例1)
上記効果を確認するために以下に示す実験を実施した。表1に示す合金組成を有する鋼塊を実験室真空溶解炉により製造し、これを1200℃に加熱後、20mm厚さに熱間圧延して、鋼板を製造した。この鋼より短冊状の試験片を加工し、500℃の溶融亜鉛中に浸漬して溶損量を測定した。
一方、高温強度を測定するために、クリープ試験を実施した。試験片を500℃に保持した状態で150MPa の応力を負荷し、破断時間を測定した。
表2に、溶融亜鉛中における鋼の溶損量を示す。Siが本発明範囲外である鋼2では著しい溶損を示すが、それ以外の鋼の溶損量は少ない。Mo、Nb、Vを含有する鋼もSi量を本発明範囲内とすれば、溶損量は少ない。特に、Siが0.01%未満の鋼4と鋼6では溶損量が特に少ない。
表3に、クリープ試験結果を示す。Mo、Nb、Vのいずれも含有しない鋼1及び鋼2では破断時間が短い。一方、Moを含有する鋼3では破断時間が長くなる。Moに加えてNb、Vを含有する鋼4?6では、鋼3よりも破断時間がさらに長くなる。
【表1】

【表2】

【表3】

」(【0025】?【0029】段落)

(オ) 上記引用文献5の摘記(エ)において、番号3で示される実施例に注目すると、引用文献5には、次の発明(以下、「引用発明5」という。)が記載されていると認められる。

<引用発明5>
「質量で、C:0.14%、Si:0.017%、Mn:0.55%、P:0.010%、S:0.008%、Mo:0.48%、Nb:0.015%、N:0.004%、Al:0.029%、O:0.0011%を含有し、残部Fe及び不可避的不純物よりなる、高温強度が高く且つ溶損が少ない溶融亜鉛釜用鋼。」

オ. また、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献6の段落【0001】?【0007】、【0010】、【0011】段落からみて、引用文献6には、「パーライト組織体積率(P)が6%以下で、ベイナイト組織体積率(B)が15%以下であり、且つ2P+B<20%を満足と制限して、微細且つ針状のフェライトが主体の組織とすることにより、高張力鋼板の溶接熱影響部に耐めっき割れ性が大幅に優れた溶融亜鉛めっきが施された高張力鋼を得る。」という技術的事項が記載されていると認められる。


第4 対比・判断
1.本願発明1について
ア.引用発明1を主引用発明とする場合について
(ア) 本願発明1と引用発明1とを対比すると、次の相違点がある。

(相違点)
(相違点1-1)本願発明1は「C:0.12超?0.30%」という構成を備えるのに対し、引用発明1は「C:0.05?0.12%」である点。
(相違点1-2)本願発明1は「圧延方向に平行、且つ、板面に垂直な板厚断面において、板厚(t)方向で板面からt/4部までの表層の金属組織が、フェライト相および、パーライト相からなる混合組織であり、且つ、前記フェライト相の結晶粒の平均アスペクト比が2以上である」という構成を備えるのに対し、引用発明1はそのような構成を備えていない点。

(イ)相違点についての判断
(1) 上記相違点1-1について検討すると、引用文献1に記載の発明は、上記第3の1.イ.で摘記したように、「従来の高C鋼材(C>0.15%)を溶融亜鉛めっき釜用鋼材として使用した場合、溶接部近傍に亀裂が発生する問題がある」という認識、すなわち、Cの含有量が高いことで生じる問題をCの含有量を減少させた上で解決しようとする認識の下で、溶融亜鉛めっき釜用鋼材の各種組成割合を調整し、特に、Cについては、「C:0.05?0.12%」と特定するものである。よって、Cの含有量が高いことに起因する問題を解決しようとし、Cの含有量を減少させた引用文献1に記載された引用発明1において、Cの含有量を増加させ、上記相違点1に係る発明特定事項を備えることは、その動機付けがないばかりか、引用発明1の技術的意義を損なうことになると認められるから、相違点1-1に係る本願発明1の「0.12超?0.30%」という構成は、引用発明1に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではない。

(2) したがって、相違点1-2について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明1及び引用文献6に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

イ.引用発明2を主引用発明とする場合について
(ア) 本願発明1と引用発明2とを対比すると、次の相違点があるといえる。

(相違点)
(相違点2-1)本願発明1は「圧延方向に平行、且つ、板面に垂直な板厚断面において、板厚(t)方向で板面からt/4部までの表層の金属組織が、フェライト相および、パーライト相からなる混合組織であり、且つ、前記フェライト相の結晶粒の平均アスペクト比が2以上である」という構成を備えるのに対し、引用発明2はそのような構成を備えていない点。
(相違点2-2)本願発明1は「耐亜鉛割れ性に優れた」という構成を備えるのに対し、引用発明2はそのような構成を備えていない点。

(イ)相違点についての判断
(1) 事案に鑑みて、上記相違点2-2について先に検討すると、相違点2-2に係る本願発明1の「耐亜鉛割れ性に優れた」という構成、及び「耐亜鉛割れ性」に関連するような物性について、上記引用文献2に記載ないし示唆もされておらず、引用文献2に接した当業者が、「耐亜鉛割れ性」を改良しようとすることを課題として認識できるものとは認められない。したがって、引用発明2において、相違点2-2に係る発明特定事項を備えさせようとする動機付けは存在しない。また、「母材の耐溶融亜鉛メッキ割れ性を確保するためには、母材のミクロ組織をフェライト-パーライト組織のような不均質な組織ではなくベイナイトのように均質な組織にしておくことが重要である。」と説示する引用文献6は、「溶融亜鉛メッキが施された高張力鋼」に関するものであり、引用文献2に記載される引用発明2の「耐溶融亜鉛用鋼」とは、用途が異なるものであることからも、相違点2-2に係る本願発明1の「耐亜鉛割れ性に優れた」という構成は、引用発明2及び引用文献6に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に相当し得るものではない。

(2)したがって、相違点2-1について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明2及び引用文献6に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

ウ.引用発明3を主引用発明とする場合について
(ア) 本願発明1と引用発明3とを対比すると、次の相違点があるといえる。

(相違点)
(相違点3-1)本願発明1は「圧延方向に平行、且つ、板面に垂直な板厚断面において、板厚(t)方向で板面からt/4部までの表層の金属組織が、フェライト相および、パーライト相からなる混合組織であり、且つ、前記フェライト相の結晶粒の平均アスペクト比が2以上である」という構成を備えるのに対し、引用発明3はそのような構成を備えていない点。
(相違点3-2)本願発明1は「耐亜鉛割れ性に優れた」という構成を備えるのに対し、引用発明3はそのような構成を備えていない点。

(イ)相違点についての判断
(1) 事案に鑑みて、上記相違点3-2について先に検討すると、相違点3-2に係る本願発明1の「耐亜鉛割れ性に優れた」という構成、及び「耐亜鉛割れ性」に関連するような物性について、上記引用文献3に記載ないし示唆もされておらず、引用文献3に接した当業者が「耐亜鉛割れ性」を改良しようとすることを課題として認識できるものとは認められない。したがって、引用発明3において、相違点3-2に係る発明特定事項を備えさせようとする動機付けは存在しない。また、「母材の耐溶融亜鉛メッキ割れ性を確保するためには、母材のミクロ組織をフェライト-パーライト組織のような不均質な組織ではなくベイナイトのように均質な組織にしておくことが重要である。」と説示する引用文献6は、「溶融亜鉛メッキが施された高張力鋼」に関するものであり、引用文献3に記載される引用発明3の「溶融亜鉛メッキ釜用鋼材」とは、用途が異なるものであることからも、相違点3-2に係る本願発明1の「耐亜鉛割れ性に優れた」という構成は、引用発明3及び引用文献6に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に相当し得るものではない。

(2)したがって、相違点3-1について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明3及び引用文献6に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

エ.引用発明4を主引用発明とする場合について
(ア) 本願発明1と引用発明4とを対比すると、次の相違点があるといえる。

(相違点)
(相違点4-1)本願発明1は「質量%で、Al:0.070%以下に制限」するのに対し、引用発明4はそのような構成を備えていない点。
(相違点4-2)本願発明1は「圧延方向に平行、且つ、板面に垂直な板厚断面において、板厚(t)方向で板面からt/4部までの表層の金属組織が、フェライト相および、パーライト相からなる混合組織であり、且つ、前記フェライト相の結晶粒の平均アスペクト比が2以上である」という構成を備えるのに対し、引用発明4そのような構成を備えていない点。
(相違点4-3)本願発明1は「耐亜鉛割れ性に優れた」という構成を備えるのに対し、引用発明4はそのような構成を備えていない点。

(イ)相違点についての判断
(1) 事案に鑑みて、上記相違点4-3について先に検討すると、相違点3に係る本願発明1の「耐亜鉛割れ性に優れた」という構成、及び「耐亜鉛割れ性」に関連するような物性について、上記引用文献4に記載ないし示唆もされておらず、引用文献4に接した当業者が「耐亜鉛割れ性」を改良しようとすることを課題として認識できるものとは認められない。したがって、引用発明4において、相違点4-3に係る発明特定事項を備えさせようとする動機付けは存在しない。また、「母材の耐溶融亜鉛メッキ割れ性を確保するためには、母材のミクロ組織をフェライト-パーライト組織のような不均質な組織ではなくベイナイトのように均質な組織にしておくことが重要である。」と説示する引用文献6は、「溶融亜鉛メッキが施された高張力鋼」に関するものであり、引用文献4に記載される引用発明4の「溶融亜鉛釜用鋼」とは、用途が異なるものであることからも、相違点4-3に係る本願発明1の「耐亜鉛割れ性に優れた」という構成は、引用発明4及び引用文献6に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に相当し得るものではない。

(2)したがって、相違点4-1及び4-2について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明4及び引用文献6に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

オ.引用発明5を主引用発明とする場合について
(ア) 本願発明1と引用発明5とを対比すると、次の相違点があるといえる。

(相違点)
(相違点5-1)本願発明1は「圧延方向に平行、且つ、板面に垂直な板厚断面において、板厚(t)方向で板面からt/4部までの表層の金属組織が、フェライト相および、パーライト相からなる混合組織であり、且つ、前記フェライト相の結晶粒の平均アスペクト比が2以上である」という構成を備えるのに対し、引用発明5はそのような構成を備えていない点。
(相違点5-2)本願発明1は「耐亜鉛割れ性に優れた」という構成を備えるのに対し、引用発明5はそのような構成を備えていない点。

(イ)相違点についての判断
(1) 事案に鑑みて、上記相違点5-2について先に検討すると、相違点5-2に係る本願発明1の「耐亜鉛割れ性に優れた」という構成、及び「耐亜鉛割れ性」に関連するような物性について、上記引用文献5に記載ないし示唆もされておらず、引用文献5に接した当業者が「耐亜鉛割れ性」を改良しようとすることを課題として認識できるものとは認められない。したがって、引用発明5において、相違点5-2に係る発明特定事項を備えさせようとする動機付けは存在しない。また、「母材の耐溶融亜鉛メッキ割れ性を確保するためには、母材のミクロ組織をフェライト-パーライト組織のような不均質な組織ではなくベイナイトのように均質な組織にしておくことが重要である。」と説示する引用文献6は、「溶融亜鉛メッキが施された高張力鋼」に関するものであり、引用文献5に記載される引用発明5の「溶融亜鉛釜用鋼」とは、用途が異なるものであることからも、相違点5-2に係る本願発明1の「耐亜鉛割れ性に優れた」という構成は、引用発明5及び引用文献6に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に相当し得るものではない。

(2)したがって、相違点5-1について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明5及び引用文献6に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2-5について
本願発明2-4も、本願発明1の「0.12超?0.30%」及び「耐亜鉛割れ性に優れた」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1-5及び引用文献6に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。また、同様に本願発明5も、本願発明1の「0.12超?0.30%」及び「耐亜鉛割れ性に優れた」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1-5及び引用文献6、7に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第5 むすび
以上のとおり、本願発明1-4は、当業者が引用発明1-5及び引用文献6に記載された技術的事項に基づいて、また、本願発明5は、当業者が引用発明1-5及び引用文献6、7に記載された技術的事項に基づいて、容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由及び当審から通知した拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-02-13 
出願番号 特願2013-23791(P2013-23791)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (C22C)
P 1 8・ 121- WY (C22C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鈴木 葉子  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 金 公彦
宮本 純
発明の名称 耐溶融亜鉛腐食性および耐亜鉛割れ性に優れた溶融亜鉛浴設備用鋼板  
代理人 山口 洋  
代理人 志賀 正武  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 寺本 光生  
代理人 勝俣 智夫  

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