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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08J |
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管理番号 | 1337563 |
審判番号 | 不服2016-14133 |
総通号数 | 220 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-04-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-09-21 |
確定日 | 2018-02-15 |
事件の表示 | 特願2012-69130「液晶ポリエステル組成物の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月3日出願公開、特開2013-199598〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成24年3月26日の出願であって、平成27年11月27日付けで拒絶理由が通知され、平成28年1月26日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年6月14日付けで拒絶査定がされ、同年9月21日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年12月27日付けで前置報告がされ、当審において、平成29年8月1日付けで拒絶理由が通知され、同年9月4日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明について 本願の請求項1に係る発明は、平成29年9月4日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「【請求項1】 バレルの上部に開口部が形成され、この開口部の上側に連通するベントポート部を有するベント部が前記バレルの上側に設けられた押出機を用いて、液晶ポリエステル100質量部に、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル0.1?1質量部が含まれる液晶ポリエステル組成物を製造する方法であって、 前記ベントポート部は外部から加熱するためのヒーターを有しており、 該ヒーターによって前記ベントポート部を250℃以上に加熱した状態で、前記バレルの内部で前記液晶ポリエステルおよび前記ペンタエリスリトールの脂肪酸エステルを溶融混練し、 当該溶融混練により前記バレルの内部で発生する分解ガスを、前記ベントポート部を介して排出させるようになっており、 前記ヒーターは、前記ベントポート部を外部から加熱することにより、前記分解ガスが前記ベントポート部の内壁に凝縮して付着することを防止するように構成されていることを特徴とする液晶ポリエステル組成物の製造方法。」 第3 当審における拒絶理由の概要 当審において、平成29年8月1日付けで通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」ともいう。)の概要は、次のとおりである。 本件出願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 ・平成27年11月27日付け拒絶理由通知書における引用文献1であり、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2012-46742号公報(以下、「引用文献1」という。)。 ・平成27年11月27日付け拒絶理由通知書における引用文献2であり、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2008-36942号公報(以下、「引用文献2」という。)。 ・原審の前置報告書において新たに提示した引用文献2であり、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2007-290384号公報(以下、「引用文献3」という。)。 第4 当審拒絶理由の妥当性についての判断 1.引用文献の記載事項等 (1)引用文献1について ア 引用文献1の記載事項 当審拒絶理由において引用した引用文献1(特開2012-46742号公報)には、次の事項(以下、それぞれ「摘示(ア1)」?「摘示(エ1)」という。)が記載されている。 (ア1) 「【請求項1】 ベント部を有する押出機に、液晶ポリエステルと多価アルコール脂肪酸エステルとを供給し、前記ベント部の減圧度がゲージ圧で-0.06MPa以下の状態で、溶融混練する組成物の製造方法。 【請求項2】 前記多価アルコール脂肪酸エステルの供給量が、液晶ポリエステル100質量部に対して、0.1?1.0質量部である請求項1に記載の製造方法。」 (イ1) 「【0051】 実施例1?2、比較例1?3 〔液晶ポリエステル(1)〕 攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、p-ヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)、テレフタル酸299.0g(1.8モル)、イソフタル酸99.7g(0.6モル)及び無水酢酸1347.6g(13.2モル)を仕込み、反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で30分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して3時間還流させた。その後、1-メチルイミダゾールを2.4g添加し、留出する副生酢酸と未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められた時点で、内容物を取り出し、室温まで冷却した。得られた固形物を、粗粉砕機で粉砕し、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温した後、250℃から295℃まで5時間かけて昇温し、次いで295℃で3時間保持することにより、固相重合を行い、流動開始温度が320℃の液晶ポリエステル(1)を得た。 【0052】 〔液晶ポリエステル(2)〕 攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、p-ヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)、テレフタル酸239.2g(1.44モル)、イソフタル酸159.5g(0.96モル)及び無水酢酸1347.6g(13.2モル)を仕込み、反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で30分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して3時間還流させた。その後、1-メチルイミダゾールを2.4g添加し、留出する副生酢酸と未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められた時点で、内容物を取り出し、室温まで冷却した。得られた固形物を、粗粉砕機で粉砕し、窒素雰囲気下、室温から220℃まで1時間かけて昇温した後、220℃から240℃まで0.5時間かけて昇温し、次いで240℃で10時間保持することにより、固相重合を行い、流動開始温度が290℃の液晶ポリエステル(2)を得た。 【0053】 〔離型剤〕 離型剤として、次のものを用いた。 離型剤(1):コグニス・オレオケミカル・ジャパン(株)の「VPG2571」(ジペンタエリスリトールとステアリン酸とのフルエステル(ヘキサステアレート)及び部分エステルの混合物。5%重量減少温度260℃)。 離型剤(2):コグニス・オレオケミカル・ジャパン(株)の「VPG861」(ペンタエリスリトールとステアリン酸とのフルエステル(テトラステアレート)及び部分エステルの混合物。5%重量減少温度310℃)」 (ウ1) 「【0055】 〔液晶ポリエステル組成物〕 液晶ポリエステル、離型剤、チョップドガラス繊維(オーウェンスコーニング社の「CS03JAPX-1」)、タルク(日本タルク(株)の「X-50」)及びマイカ((株)ヤマグチマイカ「AB-25S」)を、表1に示す割合で、ベント部を設けた同方向2軸押出機(池貝鉄工(株)の「PCM-30」)に供給し、ベント部の減圧度を表1に示す値に保って、340℃で溶融混練してペレット化し、液晶ポリエステル組成物を得た。なお、液晶ポリエステル及び離型剤はメインフィード口から供給し、チョップドガラス繊維、タルク及びマイカはサイドフィード口から供給した。」 (エ1) 「【0058】 【表1】 」 イ 引用文献1に記載された発明 引用文献1には、摘示(ア1)?(エ1)、特に摘示(ア1)の請求項2、及び摘示(エ1)の実施例2の記載から、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。 「ベント部を有する押出機に、液晶ポリエステル(1)及び液晶ポリエステル(2)と、離型剤(2)であるペンタエリスリトールとステアリン酸とのフルエステル(テトラステアレート)及び部分エステルの混合物とを供給し、前記ベント部の減圧度がゲージ圧で-0.07MPaの状態で、溶融混練する組成物の製造方法であって、ペンタエリスリトールとステアリン酸とのフルエステル(テトラステアレート)及び部分エステルの混合物の供給量が、液晶ポリエステル(1)36質量部及び液晶ポリエステル(2)29質量部に対して、0.3質量部である製造方法。」 (2)引用文献2について 当審拒絶理由において引用した引用文献2(特開2008-36942号公報)には、次の事項(以下、それぞれ「摘示(ア2)」?「摘示(エ2)」という。)が記載されている。なお、下線は当審において付した。 (ア2) 「【請求項1】 ベント機構を有する押出機を用いて、ベント部を使用しながら、熱可塑性樹脂と添加剤、又は熱可塑性樹脂と無機充填材と添加剤とを溶融混練してダイスから吐出する熱可塑性樹脂組成物ペレットの製造方法において、押出機のベント部に不活性ガスを流通し、ベント部より排気口に向かって常時随伴気流を発生させることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物ペレットの製造方法。」 (イ2) 「【0001】 本発明は、押出機を用いて熱可塑性樹脂と添加剤、又は熱可塑性樹脂と無機強化材と添加剤とからなる熱可塑性樹脂組成物のペレットを製造する方法に関する。さらに詳しくは、押出機のベント部の脱揮成分による汚れを抑制し、酸化劣化と異物混入を極小化した品質に優れた熱可塑性樹脂組成物ペレットを製造する方法に関する。」 (ウ2) 「【0004】 押出機を用いて熱可塑性樹脂などを溶融混練する際には、ダイスからの樹脂組成物の吐出の安定化、加水分解抑制目的で水分子、あるいは物性や外観の改良目的で低分子量化合物を脱揮するために、ベント機構を備えた押出機を使用することが多い。押出機のベント部の目的は低分子量成分の脱揮であるが、樹脂組成物から脱揮された成分がベント部で結露あるいは昇華するため、ベント部は非常に汚れやすい環境にある。 【0005】 このような押出機のベント部は樹脂が直接濡れないため、汚れても常時クリーニングされることがなく、作為的に掃除をしなくてはならないが、ベント部を真空減圧しながらの連続生産中の掃除はほぼ不可能である。そのため、結露あるいは昇華した物質は長時間ベント部に留まって、酸化あるいは熱劣化により変色し、それが樹脂中に滴下するなどして、樹脂組成物の色調を悪化する現象が発生する。これらの現象は、熱可塑性樹脂に含まれる揮発成分のみならず、改質を目的として配合される添加剤自体、あるいはその分解物も脱揮される場合があり、特に有機リン系化合物を用いる場合は、熱劣化によって黒化しやすいため、ベント部の汚れが著しくなることが多い。」 (エ2) 「【0015】 まず、本発明において使用する熱可塑性樹脂とは、溶融押出機によってペレット化することのできる熱可塑性樹脂であり、例えばポリカーボネート、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66等)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、液晶ポリマ等)、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリアセタール、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、アクリロニトリル/スチレン/ブタジエン系共重合体等が例示される。これらの熱可塑性樹脂は単独で用いてもよいし、機械的特性を損なわない範囲で複数のものの混合物であってもよい。熱可塑性樹脂の形状は、特に制限がなく、粉体状、ペレット状、フレーク状等、任意の形状のものを使用できる。」 (3)引用文献3について 当審拒絶理由において引用した引用文献3(特開2007-290384号公報)には、次の事項(以下、それぞれ「摘示(ア3)」?「摘示(キ3)」という。)が記載されている。なお、下線は当審において付した。 (ア3) 「【請求項1】 原料供給部(A)、溶融混練部(B)、揮発分除去部(C)及び吐出部からなる熱可塑性樹脂組成物溶融混練装置であって、揮発分除去部(C)に加熱装置が具備された熱可塑性組成物溶融混練装置。 ・・・(略)・・・ 【請求項7】 請求項1?6のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物溶融混練装置を用いて溶融混練する熱可塑性樹脂組成物の製造方法。」 (イ3) 「【0007】 本発明では、加熱されたベントポート内部温度下ではベントに接触する熱可塑性樹脂組成物の粘度が低下されるので、ベント開口部及びベント金物底部への熱可塑性樹脂組成物の固着を防止することができる。その結果、ベントアップが防止され、揮発分が途絶えることなく除去可能となり、押出機内で発生する分解ガス及び揮発成分が熱可塑性樹脂内から抜けるため空隙の少ない熱可塑性樹脂ペレット得ることができる。また、ベント部分に付着し、劣化・変色した揮発分の凝集物が押出機内に再度流入することで生じる色調異常ペレットの発生も防止できる。さらに、押出機のトラブルも減少できるので、連続生産性も大きく向上する。また、本発明の押出機を使用して製造したペレットを用いて成形した場合、内部ボイドが存在しない成形品を得ることができる。」 (ウ3) 「【0010】 図1に示すように、本発明で用いられている押出機は、バレル2内にスクリュー3を有する押出機である。押出機の基本構成については、従来の押出機と同様である。尚、図1では二軸式の押出機を用いているが、もちろん、これに限らず、一軸式のものや多軸式のものを用いても構わない。 【0011】 この押出機のバレル2の中途に、ベント装置4が装着されている。本発明で用いたベント装置4は、バレル2の内部と外部とを連通する開口部5aを有するベント金物5と、円筒状の排気管を有するベントポート6を基本構成としている。図1に示す例のベント部分の拡大図を図2に示す。また、溶融混練時にはベントポート6には従来と同様、真空装置(図示無し)が接続される。本発明のベント装置4の特徴は、ベント装置4の基本構成をなすベントポート6の外側面に、加熱装置7が具備されている点である。加熱装置7は、ベントポート外側面を加熱することができる、リボンヒーター、金属式バンドヒーター、ヒーティングケーブル及び埋め込み式カートリッジヒーター等、どんなものであってもよいが安全面を考慮すると、過昇温防止装置付のジャケットヒーターが好ましい(以後、加熱装置7をジャケットヒーター7と記載)。」 (エ3) 「【0017】 本発明の押出機および熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、熱可塑性樹脂として、ナイロン、ポリブチレンテレフタレート(以降PBTと記載)及びポリフェニレンサルファイド(以降PPSと記載)などを溶融混練する際に好適に用いることができる。例えば、ナイロンであればベント内部の温度を225±20℃、PBTの場合は、230±20℃、PPSの場合は、ベント金物上部表面5c温度は好ましくは230?330℃、更に好ましくは250?330℃、特に好ましくは270?330℃を維持するよう制御することが好ましい。」 (オ3) 「【0019】 本実施例は、ウェルナー社製ZSK-90 R240P押出機を用い、そのベント部分に市販のジャケットヒーター7(YAGAMI社製:型式GYG)を設置し、ガラス繊維及び炭酸カルシウム等のフィラー成分40?70重量部を含有する熱可塑性樹脂組成物を溶融混練させている状態でベント金物上部表面5c温度を測定し、ベントアップせず、脱気能力が向上する最適な温度範囲を検討したものである。 【0020】 PPSを用いた結果を例に挙げると、溶融混練させ押出機温度が安定した時点で真空ポンプを停止し、ベント装置の上蓋を開け、開けた直後に上部から表面温度計を用いてベント金物上部5c表面温度を測定した。結果、開口部5aでベントアップによる完全閉塞が確認されたのは実測値180?230℃の範囲であった。ただし、温度が高くなるにつれて開口部5aの樹脂が付着している面積は小さくなっていった。実測値230?330℃の範囲では、開口部5aの付近に付着する樹脂片は見られるが完全閉塞までには至らず30時間連続生産した後でもベントアップは発生せず、高い脱気能力を維持することができた。実測温度270?330℃においては、開口部5aにほとんど熱可塑性樹脂組成物の付着はなく48時間以上ベントアップの発生はなく、空隙がほとんどない熱可塑性樹脂ペレットを連続して製造することができた。 【0021】 本実施例のように、ジャケットヒーター7をベント金物5の外側面に設置し、金物底部の温度を230?330℃に維持すれば飛散ポリマーの発生抑制によりベントアップ、更には口金詰まりの発生を抑制し、空隙が少ない熱可塑性樹脂ペレット作成することができる。また、270?330℃の範囲では更に脱気能力を維持することが可能となった。同様に他の熱可塑性樹脂で実施した結果を以下表1に示す。」 (カ3) 「【0027】 【表1】 」 (キ3) 「【図1】 【図2】 」 2.本願発明と引用発明との対比・判断 本願発明と引用発明とを対比する。 引用発明における「液晶ポリエステル(1)及び液晶ポリエステル(2)」は、本願発明における「液晶ポリエステル」に相当し、引用発明において、液晶ポリエステル(1)及び液晶ポリエステル(2)を含む「組成物」は、本願発明における「液晶ポリエステル組成物」に相当する。 引用発明における「ペンタエリスリトールとステアリン酸とのフルエステル(テトラステアレート)及び部分エステルの混合物」は、本願発明における「ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル」に相当する。 引用発明において、ペンタエリスリトールとステアリン酸とのフルエステル(テトラステアレート)及び部分エステルの混合物の供給量が、液晶ポリエステル(1)36質量部及び液晶ポリエステル(2)29質量部に対して0.3質量部、すなわち液晶ポリエステル(1)及び液晶ポリエステル(2)100質量部に対して約0.46(=100÷(36+29)×0.3)質量部であるから、ペンタエリスリトールとステアリン酸とのフルエステル(テトラステアレート)及び部分エステルの混合物の組成物中の配合割合は、本願発明において、「液晶ポリエステル100質量部に、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル0.1?1質量部が含まれる」という数値範囲を満たす。 引用発明における「ベント部を有する押出機」は、ベント部を有するという限りにおいて、本願発明における「ベント部が」「設けられた押出機」と一致する。なお、引用発明においては、ベント部の減圧度がゲージ圧で-0.07MPaの状態であるが、本願発明におけるベント部は、その実施の形態において真空引きできるように構成する、すなわち減圧にするものであり(本願明細書の段落【0012】)、所定の減圧度とする引用発明の形態を包含するものである。 引用発明においては、押出機で溶融混練して組成物を製造しているが、技術常識からみて、当該押出機には本願発明にいう「バレル」が存在し、また、当該溶融混練は、本願発明にいう「バレルの内部」に相当する部位で行われるものと認められる。 そうすると、両者は、 「ベント部が設けられた押出機を用いて、液晶ポリエステル100質量部に、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル0.1?1質量部が含まれる液晶ポリエステル組成物を製造する方法であって、 バレルの内部で前記液晶ポリエステルおよび前記ペンタエリスリトールの脂肪酸エステルを溶融混練することを特徴とする液晶ポリエステル組成物の製造方法。」 の点で一致し、以下の点で相違している。 <相違点1> 本願発明においては、押出機が、「バレルの上部に開口部が形成され、この開口部の上側に連通するベントポート部を有するベント部が前記バレルの上側に設けられ」、「溶融混練により前記バレルの内部で発生する分解ガスを、前記ベントポート部を介して排出させるようになって」いるとともに、「前記ベントポート部は外部から加熱するためのヒーターを有しており」、「前記ヒーターは、前記ベントポート部を外部から加熱することにより、前記分解ガスが前記ベントポート部の内壁に凝縮して付着することを防止するように構成されている」のに対して、引用発明においては、押出機が、そのような構造を備えることが特定されていない点。 <相違点2> 本願発明においては、「該ヒーターによって前記ベントポート部を250℃以上に加熱した状態で」溶融混練するのに対して、引用発明においては、そのような状態で溶融混練することが特定されていない点。 まず、相違点1について検討する。引用文献2に記載されているように、ベント部を有する押出機を用いて溶融混練して熱可塑性樹脂組成物を製造する際には、樹脂組成物から脱揮された成分がベント部で結露あるいは昇華して長時間ベント部に留まり、酸化あるいは熱劣化により変色し、それが樹脂中に滴下するなどして、樹脂組成物の色調を悪化する現象が発生することが知られており、引用発明における「液晶ポリエステル(1)及び液晶ポリエステル(2)」も、押出機のベント部の脱揮成分による汚れを抑制し、酸化劣化と異物混入を極小化することが望まれている熱可塑性樹脂である(摘示(ア2)?(エ2))。一方、引用文献3には、溶融混練して熱可塑性樹脂組成物を製造するにあたり、バレルの上部に開口部が存在し、開口部の上側に連通するベントポートを有するベント装置がバレルの上側に存在し、溶融混練時にベントポートに真空装置が接続されるとともに、ベントポートの外側面に加熱装置が具備されているベント装置を有する押出機を用いることで、ベントアップが防止され、揮発分が途絶えることなく除去可能となり、押出機内で発生する分解ガス及び揮発成分が熱可塑性樹脂内から抜けるため空隙の少ない熱可塑性樹脂ペレットを得ることができ、また、ベント部分に付着し、劣化・変色した揮発分の凝集物が押出機内に再度流入することで生じる色調異常ペレットの発生も防止できることが記載されている(摘示(ア3)?(ウ3)、(キ3))。引用文献3に記載された当該押出機においては、溶融混練時にベントポートに接続される前記真空装置によって、溶融混練によりバレルの内部で発生する分解ガスを、ベントポートを介して排出させるようになっているものと認められる。さらに、引用文献3に記載された当該押出機においては、ベントポートの外側面に具備されている前記加熱装置によって、ベントアップが防止され、揮発分が途絶えることなく除去可能となり、押出機内で発生する分解ガス及び揮発成分が熱可塑性樹脂内から抜けるため空隙の少ない熱可塑性樹脂ペレットを得ることができ、また、ベント部分に付着し、劣化・変色した揮発分の凝集物が押出機内に再度流入することで生じる色調異常ペレットの発生も防止できることから、分解ガスがベントポートの内壁に凝縮して付着することを防止するように構成されているものと認められる。 引用文献1、3は、減圧されるベント部を有する押出機を用いて溶融混練する熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関するもので共通しており、また、ベント部を有する押出機において、樹脂組成物から脱揮されてベント部に留まり、酸化あるいは熱劣化により変色した成分が、樹脂中に滴下するなどして樹脂組成物の色調を悪化するという不都合が起こらないことが望ましいことは、当業者が当然に認識していることである。そうすると、引用発明において、例えば引用文献2に、押出機のベント部の脱揮成分による汚れを抑制し、酸化劣化と異物混入を極小化することが望まれている旨記載されている「液晶ポリエステル(1)及び液晶ポリエステル(2)」を溶融混練する際に、ベント部からの異物混入を防ぐために、押出機を、引用文献3に記載された、開口部及びベントポートを有するベント装置がバレルの上側に存在し、溶融混練時にベントポートに真空装置が接続されるとともに、ベントポートの外側面に加熱装置が具備されているベント装置を備えたものとして上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。また、液晶ポリエステル組成物への異物の混入を抑制することが可能となるという効果は、引用文献3の記載から当業者が予測し得るものである。 次に、相違点2について検討する。引用文献3には、260℃で溶融混練するナイロン、ポリブチレンテレフタレート(PBT)については、ベント内部の温度をそれぞれ225±20℃、230±20℃に維持するよう制御することが好ましく、300℃で溶融混練するポリフェニレンサルファイド(PPS)については、ベント金物上部表面を好ましくは230?330℃、特に好ましくは270?330℃に維持するよう制御することが好ましいことが記載されている(摘示(エ3)?(カ3))。当該ベント金物上部表面の温度は、それに隣接するベント内部の温度と同程度であると解される。また、引用文献3において、外側面に加熱装置が具備されたベントポートによってベント内部が加熱されるから、ベントポートの加熱温度はベント内部の温度と同程度に設定されると解される。このように、引用文献3には、樹脂に応じて溶融混練の温度及びベントポートの温度を設定すること、具体的には、溶融混練の温度が高い樹脂については、ベントポートの温度も、溶融混練の温度と同程度かその前後に設定することが記載されているといえる。そうすると、引用発明において、340℃で溶融混練することが記載されている液晶ポリエステル(1)及び液晶ポリエステル(2)に対して(摘示(ウ1))、相違点1についてすでに検討した、引用文献3に記載された押出機を適用するにあたり、ベントポートを340℃程度かその前後に設定して上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。また、そのことにより格別な効果があるともいえない。 以上のことから、本願発明は、引用発明、すなわち引用文献1に記載された発明及び引用文献2、3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 3.請求人の主張の検討 請求人は、平成29年9月4日に提出された意見書において、引用文献3に記載された、ベントポートの外側面に具備されている加熱装置について、以下の主張をしている。 「すなわち、引用文献3におけるベントポートの外側面に具備された加熱装置は、バレルから飛散した樹脂がベント金物底部に付着して冷却固化して成長して開口部で閉塞を起こしてベントアップすることを防止するために設けられたものであり、分解ガスが凝集して再び押出機に流入することを防止する構成ではないものであります。引用文献3の段落〔0011〕と段落〔0012〕との比較や段落〔0016〕の記載によれば、「ベント部分に付着し、劣化・変色した揮発分の凝集物が押出機内に再度流入することで生じる色調異常ペレットの発生」を防止するのは、「ベントポートの天板蓋が円錐状の構造をなし、かつその開き角αが90?160°であること」「ベントポート内壁の排気口に向かって下降するように角度βが10?45°の範囲で傾斜付きの溝を具備すること」(段落〔0012〕)に依るものであります。段落〔0016〕の「特に図3,4に示した本発明の改良型装置では、上記効果のほかに、脱気能力が向上した分だけベントポートの天板で冷却され、凝集する揮発分が多くなるが天板の傾斜と、ベントポート内壁に設けた傾斜付きの溝の効果により、真空ポンプ(図なし)による吸引で系外に排出されるため、熱劣化し変色した揮発分が再び押出機内に流入し、溶融混練された熱可塑性樹脂と混ざることで生じる着色ペレットの発生がなくなる」という直接的な説明文が、この点をより明瞭に説明しております。 このような記載からすると、本願発明の構成(「天板の傾斜」や「ベントポート内壁に設けた傾斜付きの溝」を規定するものでない構成)が、「液晶ポリエステルとペンタエリスリトールの脂肪酸エステルとを含む液晶ポリエステル組成物を押出機で製造する際に、この液晶ポリエステル組成物への異物の混入を抑制することが可能になる(本願明細書の段落〔0008〕)」という効果を発現することは、当業者が容易に想到することができないものであります。よって、審判官が引用された引用文献1?3を組み合わせてみても、本願発明が奏する効果を容易に想到することはできないと言えるものであります。」 しかしながら、相違点1についての検討で述べたように、引用文献3に記載された、ベントポートの外側面に加熱装置が具備されている押出機は、ベント部分に付着し、劣化・変色した揮発分の凝集物が押出機内に再度流入することで生じる色調異常ペレットの発生も防止できることから、分解ガスがベントポートの内壁に凝縮して付着することを防止するように構成されているものと認められる。また、引用文献3の段落【0012】に「ただし、揮発分が多いものを押出する際には、図2のベント内壁6bを凝集した揮発分が伝って、押出機内部に再度流入し、色調異常ペレットの発生原因となってしまう恐れがある。これを防ぐために改良した発明を図3、4に示す。」と記載されているように、請求人が主張する図3、4の傾斜を備えた天板と溝は、揮発分が多いものを押出する際という特別な場合に生じる可能性がある恐れを防ぐためのものであって、当該特別な場合に限定されない引用文献3に記載された押出機においては、必ずしも上記天板と溝によらず、すなわち上記天板と溝がない状態の加熱装置によって、凝集物が押出機内に再度流入しないようになっているものと認められる。そして、本願発明ではベント部の天板や内壁構造の限定はなく、上記天板と溝を備えたものとする場合を含み得るし、仮に含まれないと解しても、引用発明において、引用文献3に記載されたようにベントポートの外側面に加熱装置を具備しても、凝集物が押出機内に再度流入することを防げないと解すべき事情も見当たらないから、前記第4 2.での判断に影響しない。 したがって、請求人の主張は採用できない。 第5 むすび 以上のとおり、当審において通知した拒絶理由は妥当なものであるから、本願は、この理由によって拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-12-05 |
結審通知日 | 2017-12-12 |
審決日 | 2017-12-25 |
出願番号 | 特願2012-69130(P2012-69130) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(C08J)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 平井 裕彰、久保田 葵 |
特許庁審判長 |
大島 祥吾 |
特許庁審判官 |
西山 義之 渕野 留香 |
発明の名称 | 液晶ポリエステル組成物の製造方法 |
代理人 | 佐野 弘 |