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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 C01B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 C01B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C01B
管理番号 1337578
審判番号 不服2016-14362  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-09-26 
確定日 2018-03-06 
事件の表示 特願2014-538117号「化粧料用高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末およびその製造方法ならびに化粧料」拒絶査定不服審判事件〔平成26年4月3日国際公開、WO2014/049956、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成25年8月27日(優先権主張平成24年9月28日)を国際出願日とする出願であって、平成28年3月4日付けの拒絶理由を通知したところ、同年5月13日に意見書及び手続補正書が提出され、同年6月20日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年9月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出され、同年12月6日付けで刊行物等提出書が提出され、その後、平成29年7月21日付けの当審の拒絶理由を通知したところ、同年9月22日に意見書及び手続補正書が提出され、さらに、同年10月30日付けで刊行物等提出書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願請求項1ないし6に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明6」といい、これらを纏めて「本願発明」という。)は、平成28年9月26日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される以下のものである。
「 【請求項1】
扁平形状をなすBNの一次粒子および該一次粒子の凝集体からなり、水の浸透速度が1mm^(2)/s未満で、かつ吸油量が100ml/100g?500ml/100gであることを特徴とする高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末であって、
前記BNの一次粒子が、平均長径:2?20μm、厚み:0.05?0.5μmであり、
前記高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末の比表面積が1?10m^(2)/g、酸素含有量が1.5質量%以下である、化粧料用高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末。
【請求項2】
可溶性ホウ素量が100ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載の化粧料用高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末。
【請求項3】
請求項1または2に記載の化粧料用高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末の製造方法であって、
ホウ酸および/またはその脱水物と尿素および/またはその化合物と炭化ホウ素とを、
不活性雰囲気中で加熱して乱層構造の窒化ホウ素粉末とし、ついで得られた窒化ホウ素粉末に対し、不活性雰囲気中にて1500?2300℃の温度で加熱処理を施したのち、粉砕し、洗浄処理によってホウ酸を除去したのち、300℃以上1000℃以下の温度で、かつ炉内圧が0.01MPa以下の非酸化性の減圧雰囲気中にて加熱処理することを特徴とする化粧料用高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の窒化ホウ素粉末を含有する化粧料。
【請求項5】
前記化粧料における前記窒化ホウ素粉末の含有量が0.1?70質量%であることを特徴とする請求項4に記載の化粧料。
【請求項6】
化粧料がパウダーファンデーションであることを特徴とする請求項4または5に記載の化粧料。」

第3 原査定の拒絶理由について
原査定の拒絶理由は、以下のものである。
本願出願日(優先日)前に頒布された刊行物の「1.特開2012-176910号公報、2.特開平04-164805号公報」(以下、「引用例1」、「引用例2」という。)を引用し、(平成28年5月13日付け手続補正書により補正された)特許請求の範囲の請求項1ないし6に係る発明は、これらの刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 当審の拒絶理由について
当審の拒絶理由は、以下のものである。
●理由1(特許法第36条第4項第1号)について
本願の発明の詳細な説明は、請求項1記載の「浸透速度」について、本願発明1ないし6を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものではなく、特許を受けることができない。

●理由2(特許法第36条第4項第1号)
本願発明1ないし6は、請求項1記載の「浸透速度」について、発明を明確に記載するものではないので、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものではなく、特許を受けることができない。

第5 刊行物等提出書について
第5-1 平成28年12月6日付けの刊行物等提出書(以下、「刊行物等提出書1」という。)における主張は、以下のものである。
(1)本願発明1ないし6は、刊行物1.特開2011-98882号公報、刊行物2.窒化ホウ素微粒子製品データカタログ 型番 MK-PC-1111101(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社、公開日:2011年11月)、刊行物3.特表2010-540435号公報、刊行物4.粉体湿潤浸透解析装置PW-500製品カタログ、刊行物5.ASTM D1483-95(2002年改訂版)(以下、「引用例3」ないし「引用例7」という。)に記載された発明から当業者が容易に想到できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。(刊行物等提出書1の1頁の2頁5行?同23頁下から6行)(以下、「刊行物等提出書1の理由(1)という。)

(2)本願の発明の詳細な説明は、請求項1記載の「浸透速度」について、当業者が本願発明1ならびにこれを引用する本願発明2ないし6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載するものではないので、本願発明1ないし6は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものではなく、特許を受けることができない。(刊行物等提出書1の23頁下から5行?同25頁22行)(以下、「刊行物等提出書1の理由(2)という。)

第5-2 平成29年10月30日付けの刊行物等提出書(以下、「刊行物等提出書2」という。)における主張(以下、「刊行物等提出書2の理由という。)は、以下のものである。
本願の発明の詳細な説明は、請求項1記載の「浸透速度」について、本願発明1ならびにこれを引用する本願発明2ないし6を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものではなく、特許を受けることができない。(刊行物等提出書2の2頁1行?同5頁下から7行)
また、本願発明1ないし6は、請求項1記載の「浸透速度」について、発明を明確に記載するものではないので、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものではなく、特許を受けることができない。(刊行物等提出書2の5頁下から6?3行)

第6 当審の判断
第6-1 原査定の拒絶理由について
本願発明1ないし6は、「扁平形状をなすBNの一次粒子および該一次粒子の凝集体からなり、水の浸透速度が1mm^(2)/s未満で、かつ吸油量が100ml/100g?500ml/100gである」「高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末」を発明特定事項(以下、「本願特定事項」という。)にするものである。
ここで、該「高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末」(本願特定事項)の製造に関して、本願明細書には、
「【0031】
次に、本発明の製造方法について説明する。
本発明では、まず素材として、高純度で乱層構造のBN粉末を準備する。本発明において乱層構造とは、X線回折によりシャープな六方晶系のピークをとらず、ブロードで完全に結晶化していない構造をとるBN粉末を意味する。
かかるBN粉末は、ホウ酸及び/又はその脱水物と尿素及び/又はその化合物(ジシアンジアミド、メラミン等)と炭化ホウ素(B_(4)C)とを、均一に混合し、不活性ガス雰囲気中で加熱することによって得ることができる。
【0032】
ついで、得られたBN粉末に対し、不活性ガス雰囲気中にて1500?2300℃の温度で加熱処理を施し、粉砕後、洗浄処理によってホウ酸を除去したのち、300℃以上の温度で、かつ炉内圧が0.01MPa以下の非酸化性の減圧雰囲気中にて加熱処理することにより、効果的に粉体表面の官能基を低減して、高撥水性および高吸油性を発現させることができる。
【0033】
ここに、粉砕前の加熱処理における処理雰囲気を不活性ガス雰囲気としたのは、BNは容易に酸素と結びつくので、それを阻止するためである。
また、加熱温度を1500?2300℃としたのは、処理温度が1500℃に満たないと十分に結晶が成長した粉末が得られず、一方2300℃を超えると欠陥を生じ易くなって透明感が低下するからである。
【0034】
また、官能基除去のための加熱処理における加熱温度を300℃以上としたのは、有機系の分散剤を完全に除去するためには、300℃以上の温度を必要とするからである。なお、この加熱温度の上限は特に制限されることはないが、2300℃程度で十分である。
また、このときの雰囲気を、非酸化性雰囲気でかつ0.01MPa以下の減圧雰囲気としたのは、分離した官能基を効果的に系外に排除し、再酸化や吸着を防止するためである。
【0035】
かくして、扁平形状で滑りやすく、かつ高撥水性で吸油量が大きく、パウダーファンデーション用の体質顔料として理想的なBN粉末を得ることができる。」等の記載があり、これらからして、該「高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末」(本願特定事項)は、「ホウ酸及び/又はその脱水物と尿素及び/又はその化合物(ジシアンジアミド、メラミン等)と炭化ホウ素(B_(4)C)とを、均一に混合し、不活性ガス雰囲気中で加熱することにより高純度で乱層構造のBN粉末を準備し、このBN粉末に対して、不活性ガス雰囲気中にて1500?2300℃の温度で加熱処理を施し、粉砕後、洗浄処理によってホウ酸を除去したのち、300℃以上の温度で、かつ炉内圧が0.01MPa以下の非酸化性の減圧雰囲気中にて加熱処理する」こと(以下、「本願製造手段」という。)により、製造されるということができる。
ここで、引用例1には、
「平均長径が2?20μmで厚みが0.05?0.5μmの扁平形状をなす一次粒子が積層した板状の凝集体からなり、比表面積が1?10m^(2)/gで、かつ目開き45μm篩下の凝集体の含有率が50質量%以上で、さらに可溶性ホウ素量が100ppm以下であることを特徴とする化粧料用の窒化ホウ素粉末。」(【請求項1】)、「ホウ酸及び/又はその脱水物と尿素及び/又はその化合物と炭化ホウ素とを、窒素(N)/ホウ素(B)がモル比で1?5の割合でかつ炭化ホウ素を全量の0.01?5質量%の範囲で均一に混合し、不活性ガス雰囲気中で800℃から1200℃に加熱して、酸素(O):10?25質量%、炭素(C):0.1?10質量%でかつ酸素(O)/炭素(C)比がモル比で2.0以上の範囲を満足する酸素と炭素を含有する乱層構造の窒化ホウ素粉末とし、ついで得られた窒化ホウ素粉末に対し、不活性ガス雰囲気中にて、加圧力:0.1MPa以上、温度:1500?2300℃の条件下で加熱処理し、ついで粉砕・分級後、不純物を洗浄により除去する高純化処理を施すことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の化粧料用の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。」との記載があり、これらからして、引用例1には、上記「本願製造手段」の前段の事項に当たる「ホウ酸及び/又はその脱水物と尿素及び/又はその化合物と炭化ホウ素(B_(4)C)とを、均一に混合し、不活性ガス雰囲気中で加熱することにより(高純度で)乱層構造のBN粉末を準備し、このBN粉末に対して、不活性ガス雰囲気中にて1500?2300℃の温度で加熱処理を施し、粉砕後、洗浄処理によって不純物を除去する」こと(以下、「本願製造手段の前段事項」という。)に相当するものが示されているといえる。
次に、引用例2には、
「1 結晶質窒化硼素粉末を湿式あるいは乾式粉砕処理し、溶媒中に分散した後濾過及び乾燥して水可溶性硼素化合物を除去し、次いで加熱処理後の成品の目標平均粒径Yに対し、
Y=1.4X±0.3
Y:成品BNの平均粒径(μm)
X:加熱処理前の平均粒径(μm)
の関係式を用いて、粉砕処理を行い、該粉末を非酸化性雰囲気中1900?2200℃で加熱処理し、酸素0.5重量%以下、水可溶性硼素100ppm以下、水可溶性窒素100ppm以下の組成を有し、かつ平均粒径が1?10μmの任意の値を有する六方晶窒化硼素粉末を製造することを特徴とする高純度六方晶窒化硼素粉末の製造方法。」(請求項1)、「先ず、本発明に用いられる結晶質BNは、完全に六方晶構造を有した状態のものである。なお、BNは合成条件により結晶構造が異なるのは周知の通りであり、例えば、硼酸と尿素を原料としてN_(2)雰囲気中でBNを合成した場合を例にとると、800℃からBNは生成されるが、このBNは完全に六方晶構造にまでなりきっていないもので、結晶学上は乱層構造と呼ばれ、隣接する層が互いにランダムに位置した層状構造になっている。通常の結晶質のBNは黒鉛と同様に六方晶の層状構造をとり各層は完全に平行になっており、この点が乱層構造のBNと異なる点である。
さらに温度を上げていくと乱層構造から六方晶構造に徐々に変化し、それと同時に粒成長と不純物のB_(2)O_(3),硼酸アンモニウム、結晶中の酸素、炭素などが除去されて純度も向上していく。1600℃以上になると一次粒子径も1μm以上になる。さらに加熱を続け1800℃になると完全に六方晶構造で純度99%以上(Nの分析値から計算した値)のBNになる。
このような結晶質BN粉末は次の工程で、湿式法あるいは乾式法で粉砕される。」(公報第3頁右上欄下から5行?同左下欄下から5行)(当審注:下線は当審が付与した。)、「次に水可溶性硼素化合物を除去する工程について説明する。水可溶性硼素化合物の洗浄除去を効果的に進めるには、
イ)結晶質BNが洗浄水となじみ(濡れ性)がよく、分散性が良いこと、
ロ)洗浄水の水可溶性硼素化合物の除去効果が大であること、
が重要である。
上記イ)の濡れ性と分散性については結晶質BNが黒鉛と同様に単に水と混合するだけでは容易に分散しないことによる。このため操作も容易に進行しなくなる。そこで種々な界面活性剤と試薬を使用して分散効果を調べたところ、分子中の親水基と親油基の両者の釣合を示すHLB(Hydrophile-Lipophile Balance)値で10?16の範囲にあるアニオン系、ノニオン系、カチオン系いずれかの界面活性剤、あるいは水可溶性有機溶媒水溶液が適していることが判明した。」(公報第3頁右下欄下から2行?同4頁左上欄下から5行)との記載があることからして、一応、窒化硼素粉末を湿式あるいは乾式粉砕処理し、溶媒中に分散した(洗浄した)後濾過及び乾燥し、次いで粉砕処理を行い、該粉末を非酸化性雰囲気中1900?2200℃で加熱処理すること、更にいうと、洗浄後の窒化硼素粉末を非酸化性雰囲気中1900?2200℃で加熱処理すること(非酸化性雰囲気中で加熱処理するという点で「本願製造手段の後段事項」と軌を一にする事項)が示されているといえる。
しかしながら、引用例1、2には、これらの製造方法を組み合わせることや、その結果、「本願特定事項」を有する窒化硼素粉末が得られることについて記載も示唆もない。
したがって、上記「本願製造手段」により製造される上記「扁平形状をなすBNの一次粒子および該一次粒子の凝集体からなり、水の浸透速度が1mm^(2)/s未満で、かつ吸油量が100ml/100g?500ml/100gである」「高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末」(本願特定事項)は、本願優先日前の技術常識を考慮したとしても、引用例1、2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本願発明1ないし6は、原査定の理由により、拒絶されるものではない。

第6-2 刊行物等提出書1の理由(1)について
引用例3には、【請求項1】、【請求項6】、【0027】ないし【0041】等の記載があり、これらからして、「炭化ホウ素を、窒素分圧:5kPa以上の窒素雰囲気中、温度:1800?2200℃の条件で窒化処理し、ついで得られた生成物に三酸化二ホウ素および/またはその前躯体を加えたのち、非酸化性雰囲気中にて、温度:1500?2200℃の条件で脱炭処理し、その後破砕、分級することによって六方晶窒化ホウ素粉末を製造するに際し、上記窒化処理中または上記脱炭処理後に、炉内圧を100kPa未満に保持する減圧処理を施する」こと(【請求項6】)が示されているものの、上記「第6-1」で示した、本願発明1ないし6の発明特定事項の「扁平形状をなすBNの一次粒子および該一次粒子の凝集体からなり、水の浸透速度が1mm^(2)/s未満で、かつ吸油量が100ml/100g?500ml/100gである」「高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末」(本願特定事項)、および、本願明細書に記載されている「ホウ酸及び/又はその脱水物と尿素及び/又はその化合物(ジシアンジアミド、メラミン等)と炭化ホウ素(B_(4)C)とを、均一に混合し、不活性ガス雰囲気中で加熱することにより高純度で乱層構造のBN粉末を準備し、このBN粉末に対して、不活性ガス雰囲気中にて1500?2300℃の温度で加熱処理を施し、粉砕後、洗浄処理によってホウ酸を除去したのち、300℃以上の温度で、かつ炉内圧が0.01MPa以下の非酸化性の減圧雰囲気中にて加熱処理する」(本願製造手段)について記載も示唆もない。
また、引用例3ないし7においても、上記「本願特定事項」および「本願製造手段」について記載も示唆もない。
したがって、刊行物等提出書1の理由(1)には、理由がない。
なお、「水の浸透速度が1mm^(2)/s未満で」あることについて、「測定基準が不定であるために任意に選択されてしまうパラメータであり、本願発明を定める用を為していない」(17頁下から4?3行)との主張がなされているが、これは、記載不備に関わるものであり、また、「刊行物等提出書1の理由(2)」における主張の内容(一部)でもあるので、以下の「第6-4」において検討することとし、上記においては、仮に、技術事項として特定できるもの(明確なもの)であるとした。

第6-4 当審の拒絶理由、刊行物等提出書1の理由(2)、刊行物等提出書2の理由について
当審の拒絶理由、刊行物等提出書1の理由(2)、刊行物等提出書2の理由それぞれをまとめて整理すると、以下のものになるということができる。
ア 本願における「浸透速度」を得る(測定する)「粉体湿潤浸透解析装置PW-500を使用した試験方法」が、「JIS A 6909(透水試験B法)」に準拠するものであるか否か不明である。

イ 本願における「浸透速度」を得る(測定する)「粉体湿潤浸透解析装置PW-500」が、「三ツワフロンテック製」であるか否か不明である。

ウ 本願における「浸透速度」を得る(測定する)「粉体湿潤浸透解析装置PW-500」(カタログ)の内容から「浸透速度」が得られるか否か不明である。

上記「ア」ないし「ウ」について検討する。
アについて
本願明細書の『(1) 撥水性
JIS A 6909(透水試験B法)に準拠した透水試験を行い、その時の水の浸透速度を測定した。
具体的には、粉体湿潤浸透解析装置PW-500(三ツワフロンテック製)を使用し、内径10mmのカラムに粉末1gを充填して、下部の接液面からの「ぬれ高さ」を経過時間毎に測定して、浸透速度を算出した。』(【0039】)との記載における『下部の接液面からの「ぬれ高さ」を・・測定』することが、JIS A 6909(透水試験B法)に準拠しないことは、本願優先日前、当業者において普通に知られたことであるといえることからして、【0024】【0039】における「JIS A 6909(透水試験B法)に準拠した」との文言は、明らかな誤記であるので、この文言は、平成29年9月22日付け手続補正書において、誤記の訂正を目的として削除され、この補正により、該「ア」の不備は解消した。

イについて
三ツワフロンテックが「粉体湿潤浸透解析装置PW-500」を販売する代理店であり、協和界面化学株式会社がこの装置を製造する会社であることは、本願優先日前、当業者において普通に知られたことであるといえることからして、【0039】における「(三ツワフロンテック製)」との文言は、明らかな誤記であるので、この文言は、平成29年9月22日付け手続補正書において、誤記の訂正を目的として削除され、この補正により、該「ア」の不備は解消した。

ウについて
刊行物等提出書2における引用例6(カタログ)の「粉体湿潤浸透解析装置PW-500製品」から「浸透速度」を得ることができるかどうかについて、以下、検討する。
(i)まず、本願明細書に記載された「粉体湿潤浸透解析装置PW-500」と、引用例6(カタログ)の「粉体湿潤浸透解析装置PW-500」との同一性について検討する。
本願明細書に記載された「粉体湿潤浸透解析装置PW-500」が、引用例6(カタログ)の「粉体湿潤浸透解析装置PW-500」(2010年1月)からみて、一部改良されたものであるとしても、測定原理、装置の基本的な構造については同じである(大きな変更が加われば、別の型番になるというべきである)というべきであるので、本願明細書に記載された「粉体湿潤浸透解析装置PW-500」と、引用例6(カタログ)の「粉体湿潤浸透解析装置PW-500」とは、実質的に同等のものであるとみるのが妥当である。

(ii)次に、引用例6(カタログ)の内容から「浸透速度」を得ることができるかどうかについて検討する。
引用例6(カタログ)には、粉体への液体の浸透速度が、下記のWashburn式(以下、「式(1)という。)から求められることの記載がある。



l:液体の浸透高さ
t:時間
r:充填粉体の毛管半径
γ:液体の表面張力
θ:接触角
η:液体の粘度

ここで、左辺の単位は、「mm^(2)/s」であり、単位時間当たりの面積で表した「浸透速度」であり、一般的には「面積速度」とも称される値である。
そして、上記Washburn式(以下、「式(1)」という。)を、浸透高さ:lではなく重量:Wで表すと、次の式(重量換算Washburn式)(以下、「式(2)」という。)のようになることは、当業者であれば普通に理解できることである。



s:カラム内断面積
ε:空隙率
ρ:液体の密度

さらに、上記式(1)と同式(2)とから、次の式(以下、「式(3)」という。)が導かれることは明らかである。つまり、式(1)ないし式(3)は、相互に関連した式であり、式(1)をみた当業者であれば、式(2)(3)を想起し得るものというべきである。




ここで、W、tは実測値であり、カラム内断面積:sは装置が有する既知の値であり、また、液体(水)の密度:ρも既知であるか、極めて簡単な測定で求めることができ、空隙率:εについても、粉体の重量、充填された粉体の体積、および粉体の真密度から容易に求めることができるので、左辺の浸透速度(面積速度)も容易に求めることができるということができる。
つまり、上記式(1)の代わりに、式(3)を用いる場合、式(1)において必要な「r:充填粉体の毛管半径」、「γ:液体の表面張力」、「θ:接触角」を求める必要はなく、当業者であれば、式(3)に基いて浸透速度(面積速度)を容易に求めることができるということができる。
したがって、本願明細書に記載された「粉体湿潤浸透解析装置PW-500製品」によって「浸透速度」を得ることができるというべきである。

第6-5 まとめ
よって、本願発明1ないし6は、当審の拒絶理由により、拒絶されるものではないし、刊行物提出書1の理由(2)、刊行物提出書2の理由には、理由がない。

第7 結論
以上のとおり、本願については、原査定の拒絶理由及び当審の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-02-19 
出願番号 特願2014-538117(P2014-538117)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C01B)
P 1 8・ 536- WY (C01B)
P 1 8・ 537- WY (C01B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田中 則充佐溝 茂良  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 山本 雄一
豊永 茂弘
発明の名称 化粧料用高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末およびその製造方法ならびに化粧料  
代理人 杉村 憲司  

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