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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G05D
管理番号 1337620
審判番号 不服2016-12318  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-08-15 
確定日 2018-02-22 
事件の表示 特願2012-72891「位置対応値のチェック方法及び位置対応値のチェックのための監視ユニット」拒絶査定不服審判事件〔平成24年10月25日出願公開、特開2012-208935〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本件審判請求に係る出願(以下、「本願」という。)は、平成24年3月28日(パリ条約による優先権主張、2011年3月29日、ドイツ連邦共和国)の出願であって、
平成26年11月4日に審査請求がなされ、
平成27年9月29日付けで拒絶理由通知(同年10月7日発送)がなされ、
これに対して平成28年1月5日に意見書が提出されると共に手続補正がなされ、
同年5月20日付けで拒絶査定がなされた(謄本送達同年同月25日)。

これに対して、「原査定を取り消す、本願は特許をすべきであるとの審決を求める」ことを請求の趣旨として平成28年8月15日に審判請求がなされたものである。


2.本願発明について

本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成28年1月5日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりに特定される次のものである。
(本願発明)
「動作確認時間差(Δt)の時間間隔において位置測定装置(20)からの位置対応値(ψi-2,ψi-1,ψi)が供給される監視ユニット(200)により前記位置対応値(ψi-2,ψi-1,ψi)をチェックする方法であって、
- 移動量対応値(ω)を少なくとも2つの前記位置対応値(ψi-2,ψi-1)及びこれらの入力時間差により算出するステップと、
- 前記少なくとも2つの位置対応値(ψi-2,ψi-1)に続くチェックすべき位置対応値(ψi)に対する期待値(ψE)を、前記移動量対応値(ω)及び前記チェックすべき位置対応値(ψi)の入力までの時間から得られる位置変化量と、前記少なくとも2つの最も最新の位置対応値(ψi-2,ψi-1)とを合計して算出するステップと、
- 前記期待値(ψE)と最大位置差(Δψ)から位置期待値差(ΔψE)を決定するステップと、
- 前記チェックすべき位置対応値(ψi)を前記位置期待値差(ΔψE)と比較するステップと、
- 該比較の結果を示す信号(S)を出力するステップ
とを行い、前記位置期待値差(ΔψE)の決定を前記チェックすべき位置対応値(ψi)の入力前に行うことを特徴とする方法。」


3.引用文献及び引用発明

本願の優先日前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となり、平成27年9月29日付け拒絶理由において引用された、特開平1-296109号公報(以下、「引用文献」という。)には、図面と共に以下の技術的事項が記載されている(摘記中の下線は理解を助けるため、当審にて付与した。)。

A「2.特許請求の範囲
・・・(中略)・・・
(2)エンコーダより出力される周期性を有したアナログの出力信号に基づいて、1周期ごとに増減する主出力値と、上記出力信号の1周期内の各位置に対応した補間値とを求め、上記主出力値と補間値とで特定される位置の過去の複数個の前値に基づいて予測値を求め、現在値と予測値との差が所定の誤差以内のときに現在値を出力値とし、それ以外のときに上記予測値を出力値とすることを特徴とするエンコーダを用いた位置検出方式。」(第1ページ左欄4行-右欄2行)

B「[産業上の利用分野]
本発明は、X-Yテーブル等を位置決めする際の位置検出、移動量検出、速度検出等に使用するエンコーダを用いた位置検出方式に関するものである。」(第1ページ右欄4行-8行)

C「・・・主出力値と補間値とで特定される位置の現在値(第9図(c)では主出力値と補間値との和で示している)に不連続点が生じることになる。
このような不連続点が発生すると、エンコーダの実際の位置と位置の現在値とが対応しなくなり、大きな誤差が発生することになり、実際の位置が判別できないという問題が生じるのである。
本発明は上述の問題点を解決することを目的とするものであり、主出力値と補間値とで特定される位置の現在値に不連続点が発生するのを防止して誤差の発生を抑制したエンコーダの位置検出方式を提供しようとするものである。」(第2ページ左下欄下から7行-右下欄6行)

D「[実施例1]
エンコーダは、第8図に示すように、位相が90°ずれた正弦波形を有する一対の出力信号を出力する二相出力型のエンコーダであるものとする。第1図に示すように、エンコーダEの出力信号は、それぞれピッチ信号処理部10と補間信号処理部20とに入力される。
ピッチ信号処理部10では、エンコーダEの各出力信号をコンパレータ11a,11bを通して波形整形し、パルス状のピッチ信号を出力する。コンパレータ11a,11bのしきい値は、ピッチ信号のデューティ比が略1:1となるように設定される。ここで、一方のコンパレータ11aの出力波形のパルスエッジに対する他方のコンパレータ11bの出力信号のレベルを検出すれば、エンコーダEの移動方向の正負が識別できるのであり、移動方向判別部12では、エンコーダEの移動方向に応じてエンコーダEの出力信号の1周期ごとに、正方向ならば1個のアップパルス、負方向ならば1個のダウンパルスを発生する。アップパルスおよびダウンパルスは、アップダウンカウンタよりなるカウンタ13に入力され、エンコーダEの出力信号の1周期ごとに移動方向に応じて出力値が1ずつ上下する。カウンタ13の出力値は16ビットで表わされ、主出力値となる。
補間信号処理部20では、アナログ信号であるエンコーダEの各出力信号をそれぞれA/D変換部21a,21bでデジタル信号に変換し、補間値割当部22でエンコーダEの出力信号の1周期を256区間に分割して各区間にそれぞれ異なる値を割り当てる。すなわち、「従来の技術」の項で説明したように(第8図参照)、両出力信号の交差点に対応する一対のしきい値T_(1),T_(2)を設定すれば、各出力信号の信号レベルが、それぞれ両しきい値T_(1),T_(2)の外側になる4つの領域(1)?(4)を考えることができるのであって、各領域(1)?(4)をそれぞれ64区間に分割すれば、4つの領域(1)?(4)の合計で256区間に分割することができるのである。こうして256点の値を持つ補間値が補間値割当部22の出力値として得られ、この補間値は、エンコーダEの出力信号の1周期を256区間に分割したそれぞれの位置に1対1に対応することになる。ここで、補間値を得る周期は、たとえばA/D変換部21a,21bのサンプリング周期に同期させるようにするとよい。
以上のようにして主出力値nと補間値mとが求められると、主出力値と補間値とを組み合わせることで、主出力値と補間値との対(n,m)として現在の位置を特定することができる。ここで、主出力値のステップ幅と補間値の最大値とを一致させておけば(たとえば、主出力値のステップ幅と補間値の最大値とをともに1にすれば)、主出力値と補間値との和で位置の現在値を得ることができる(主出力値のステップ幅を1とすれば、n+m/256となる)。」(第3ページ左上欄9行-右下欄3行)

E「[実施例2]
本実施例では、補正処理部30の記憶部32が一つ前の前値A_(i)に加えて二つ前の前値A_(i-1)を記憶するようになっており、また、補正処理部30には、第5図のように、予測値P_(i)(=A_(i)+(A_(i)-A_(i-1)))を与える予測値演算部33が設けられている。比較判定部32では、第6図に示すように、予測値演算部33で求められた予測値P_(i)に対して、許容範囲の上限値S(=P_(i)+α)と下限値I(=P_(i)-α)とを求め、現在値A_(i+1)が上限値Sと下限値Iとの間に存在すれば現在値A_(i+1)を出力値とし、それ以外のときには予測値P_(i)を出力値とするようになっている。
第7図は上記構成による各値の変化を視覚的に表わした図であって、第7図(a)のような補間値と、第7図(b)のような主出力値とにより、第7図(c)のような現在値(=主出力値+補間値としている)が得られる。現在値は、各サンプリング点で、現在値A_(i+1)に対する上限値Sと下限値Iとの間に予測値P_(i)が存在しているかどうかの判定がなされ、予測値P_(i)と現在値A_(i+1)との差が許容誤差αよりも大きい点では、予測値P_(i)が出力値となるのである。」(第4ページ左上欄末行-左下欄2行)


以上のことから、引用文献には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(引用発明)
「エンコーダからの出力信号を受け主出力値を出力するピッチ信号処理部10と、当該出力信号を受け補間値をサンプリング周期ごとに出力する補間信号処理部20と、該主出力値と該補間値とをサンプリング周期ごとに和をとり位置の値(A_(i-1)、A_(i)、A_(i+1))としつつ、過去二回の位置の値(A_(i)、A_(i-1))を記憶し、当該記憶値から演算して得られる予測値P_(i)と位置の現在値A_(i+1)とを比較して判定する補正処理部30とを用いて、位置の現在値A_(i+1)に不連続点が発生するのを判定する方法であって、
- 一つ前の位置の値A_(i)及び二つ前の値A_(i-1)を記憶し、当該二つの値の差を演算してD_(i)を算出(D_(i)=A_(i)-A_(i-1))するステップと、
- 前記2つの位置の値A_(i)、A_(i-1)から、これに続く判定すべき位置の現在値A_(i+1)に対応する予測値P_(i)を、前記D_(i)及び一つ前の位置の値A_(i)とを合計して算出(P_(i)=A_(i)+D_(i))するステップと、
- 前記判定すべき現在値A_(i+1)を取得した後、前記予測値P_(i)に対して、許容誤差αを足した上限値S(=P_(i)+α)と、前記予測値P_(i)に対して、許容誤差αを減じた下限値I(=P_(i)-α)を求めるステップと、
- 前記判定すべき現在値A_(i+1)を、前記上限値S及び下限値Iと比較するステップと、
- 現在値A_(i+1)が上限値Sと下限値Iとの間に存在すれば現在値A_(i+1)を出力値とし、それ以外のときには予測値P_(i)を出力値とする
方法。」


4.対比

本願発明と引用発明とを対比する。

引用発明の「エンコーダからの出力信号を受け主出力値を出力するピッチ信号処理部10」、「当該出力信号を受け補間値をサンプリング周期ごとに出力する補間信号処理部20」、及び「該主出力値と該補間値とをサンプリング周期ごとに和をとり位置の値(A_(i-1)、A_(i)、A_(i+1))と」する「補正処理部30」の機能の一部は、引用発明における位置の値(A_(i-1)、A_(i)、A_(i+1))がサンプリング周期ごとに得られることになるため、本願発明の「動作確認時間差(Δt)の時間間隔」にて「位置対応値(ψi-2,ψi-1,ψi)」が得られる「位置測定装置(20)」に相当する。
また、引用発明の「過去二回の位置の値(A_(i)、A_(i-1))を記憶し、当該記憶値から演算して得られる予測値P_(i)と位置の現在値A_(i+1)とを比較して判定する補正処理部30」は、引用発明の「補正処理部30」で求められる入力が、「一つ前の位置の値A_(i)及び二つ前の値A_(i-1)」と、「判定すべき現在値A_(i+1)」の三者であることから見て、本願発明の「位置測定装置(20)からの位置対応値(ψi-2,ψi-1,ψi)が供給される監視ユニット(200)」に相当する。
さらに、引用発明の「位置の現在値A_(i+1)に不連続点が発生するのを判定する方法」は、取り扱う対象を「位置の値」とし、取扱いの内容を「判定」としているため、本願発明の取扱い対象と一致しつつその取扱い内容とされる「チェックする」と内容上同義と判断されるので、本願発明の「前記位置対応値(ψi-2,ψi-1,ψi)をチェックする方法」に相当する。
続いて、引用発明の「2つの位置の値A_(i)、A_(i-1)」「に続く判定すべき位置の現在値A_(i+1)に対応する予測値P_(i)」は、本願発明の「前記少なくとも2つの位置対応値(ψi-2,ψi-1)に続くチェックすべき位置対応値(ψi)に対する期待値(ψE)」に相当し、引用発明が「予測値P_(i)」「を算出するステップ」を有する点は、その算出が如何にしてなされるかを除いて、本願発明が「期待値(ψE)」を「算出するステップ」を有する点で共通する。
また、引用発明の「前記予測値P_(i)に対して、許容誤差αを足した上限値S(=P_(i)+α)と、前記予測値P_(i)に対して、許容誤差αを減じた下限値I(=P_(i)-α)を求めるステップ」及び「前記判定すべき値A_(i+1)を、前記上限値S及び下限値Iと比較するステップ」は、本願発明の「前記期待値(ψE)と最大位置差(Δψ)から位置期待値差(ΔψE)を決定するステップ」及び「前記チェックすべき位置対応値(ψi)を前記位置期待値差(ΔψE)と比較するステップ」に相当する。

以上から、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。

(一致点)
「動作確認時間差(Δt)の時間間隔において位置測定装置(20)からの位置対応値(ψi-2,ψi-1,ψi)が供給される監視ユニット(200)により前記位置対応値(ψi-2,ψi-1,ψi)をチェックする方法であって、
- 前記少なくとも2つの位置対応値(ψi-2,ψi-1)に続くチェックすべき位置対応値(ψi)に対する期待値(ψE)を、算出するステップと、
- 前記期待値(ψE)と最大位置差(Δψ)から位置期待値差(ΔψE)を決定するステップと、
- 前記チェックすべき位置対応値(ψi)を前記位置期待値差(ΔψE)と比較するステップと、
を行う方法。」

(相違点1)
本願発明の「期待値(ψE)」の「算出」に関し、本願発明では「- 移動量対応値(ω)を少なくとも2つの前記位置対応値(ψi-2,ψi-1)及びこれらの入力時間差により算出するステップ」を実行した上で、「前記移動量対応値(ω)及び前記チェックすべき位置対応値(ψi)の入力までの時間から得られる位置変化量と、前記少なくとも2つの最も最新の位置対応値(ψi-2,ψi-1)とを合計」することで「期待値(ψE)」を「算出」しているのに対して、引用発明が相当する「予測値P_(i)」の「算出」は、「- 一つ前の位置の値A_(i)及び二つ前の値A_(i-1)を記憶し、当該二つの値の差を演算してD_(i)を算出するステップ」を実行した上で、「前記D_(i)及び一つ前の位置の値A_(i)とを合計」にて行うとしており、中間の算出値として「移動量対応値(ω)」を算出するとしていない点。
(相違点2)
本願発明では「前記位置期待値差(ΔψE)の決定を前記チェックすべき位置対応値(ψi)の入力前に行う」との特定がなされているのに対して、引用発明では「前記判定すべき現在値A_(i+1)を取得した後」に「上限値S」と「下限値I」とを「求める」としている点。
(相違点3)
本願発明では、比較するステップの後に「該比較の結果を示す信号(S)を出力するステップ」を行うこととしているのに対して、引用発明では「現在値A_(i+1)が上限値Sと下限値Iとの間に存在すれば現在値A_(i+1)を出力値とし、それ以外のときには予測値P_(i)を出力値とする」としている点。


5.当審の判断

上記相違点1ないし3について検討する。
(相違点1について)
引用発明で行っている演算は、一つ前の位置の値A_(i)及び二つ前の値A_(i-1)を記憶し、当該二つの値の差を演算してD_(i)を算出し、当該算出で得たD_(i)及び一つ前の位置の値A_(i)とを合計して予測値P_(i)を得ている。すなわちP_(i)=(A_(i)-A_(i-1))+A_(i)を最終的には演算したものである。
他方本願発明は中間の算出値として「移動量対応値(ω)」を算出し、当該移動量対応値(ω)及び時間から「位置変化量」を得て、最も最新の位置対応値と合計することにより「期待値(ψE)」を「算出」している。すなわち、移動量対応値の単位・次元は任意とされるものの、最終的には当該移動量対応値に時間を用いて「位置変化量」を算出して、最新の位置対応値と合算することで期待値を得るとしている。
ところで、引用発明におけるD_(i)は、一つ前の位置の値A_(i)及び二つ前の値A_(i-1)の差を演算するものであるから、本願発明の「位置変化量」に該当する関係にあることが明らかである。
そして、本願発明の「移動量対応値(ω)」については、特許請求の範囲の請求項2及び3にて「移動量対応値(ω)」を各々
「速度値、加速度値又は加速度の時間変化値である」:請求項2、
「最後に前記監視ユニット(200)に入力された2つの位置対応値(ψi-2,ψi-1)及び前記動作確認時間差(Δt)に基づく差分商を形成することにより形成される推定速度値である」:請求項3、
と特定した記載が見られることから、本願発明の「移動量対応値(ω)」は、少なくとも「速度値」とされる物理量であって、2つの位置対応値の差分を時間差で割り算することで求められる推定速度値の態様を含むことが理解できる。
つまり、移動量対応値が推定速度値である場合、本願発明で行う演算とは、
-位置対応値の差分を時間差で一旦割り算することで、推定速度値を中間値として得て、
-中間値を基に位置変化量を求めるために、推定速度値に時間差を乗算する演算を行い、
-位置変化量と最新の位置対応値とを合算する
一連の演算を実行することになる。
この演算は、2つの位置対応値の差分に対して、上述の1回目の演算と2回目の演算とで同一時間差となる値を割った後に掛けていることから、除算及び乗算として元の値への割り戻しを行ったこととなるのが明らかである。
そうすると、無用の除算及び乗算を行わない引用発明の演算と、除算と乗算を経て期待値を算出する本願発明とは、トータルの演算としてなんら異なるものではないといえる。また、当業者であれば必要な演算で無用に重複する途中の演算が含まれるときは、時に重複を排除して演算処理数を可能な限り最小化するようになしたり、さしたる支障が無い場合にはそのまま演算を実行したりすることは、適宜選択しえる事項でもある。
以上により、当該相違点1に係る事項は、当業者が引用発明に基づいて、容易になし得たものと認められる。
(相違点2について)
引用発明における「前記判定すべき現在値A_(i+1)」の取得と、「上限値Sと下限値Iとを求める」演算との順序関係について検討する。
演算の順番で後に実行される「上限値Sと下限値Iとを求める」演算は、上記3.の第6図に図示されているとおり、P_(i)とαを必要とする演算であり、P_(i)はA_(i)とD_(i)を用いることとされている。そして、D_(i)はA_(i)とA_(i-1)とを入手すれば求めることができる。
そうすると、「上限値Sと下限値Iとを求める」演算は、判定すべき現在値A_(i+1)の取得を必要とする演算ではないことが明らかであり、当該判定すべき現在値A_(i+1)の取得より後に行うことを余儀なくされる演算ではない。
そうすると、引用文献に接した当業者であれば、第6図のフローチャートを実行する段階で、適宜A_(i+1)の入力のタイミングと、当該入力タイミングに拘束されない「上限値Sと下限値Iとを求める」演算との順序を単純に入れ替えることができることに容易に気付くものと判断される。
そうすると、当該相違点2に係る相違は、たまたま実行の順序が異なったために生じた相違にすぎず、かつ、判定すべき現在値A_(i+1)の取得より前に「上限値Sと下限値Iとを求める」演算を実行することが十分に可能であることが明らかでもあるから、当業者が引用発明に基づいて、容易に想到できたと言うことができる。
(相違点3について)
引用発明で比較するステップの後に行っている上記事項は、「出力値」として比較結果が上限値Sと下限値Iとの間に現在値が存在する場合には現在値が選ばれ、そうでないときには予測値が選ばれるのであるから、「出力値」は比較の結果が反映されている、すなわち比較の結果を示す信号ということができる。
そうすると、当該相違点3は単に表現上の違いでしかなく、実質的に異なるものではない。

以上のことから、上記相違点1ないし3はいずれも格別のものではなく、そして、本願発明の奏する作用効果は、上記引用発明の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

なお、上記相違点2について、本件拒絶査定で審査官が行った次の説示
「出願人は、平成28年 1月 5日付け意見書において、本願発明は、『前記位置期待値差(ΔψE)の決定を前記チェックすべき位置対応値(ψi)の入力前に行う』構成を備える点で、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された発明と相違するという旨、主張している。しかしながら、監視対象の値を閾値と比較するにおいて、監視対象の値と、閾値と、いずれを先に準備するかを決定する事項は、当業者が適宜決定し得る設計事項にすぎず、」
に対して、請求人は審判請求書にて、
「(2)本願発明と引用文献に記載の発明との対比
本願発明における「前記位置期待値差(ΔψE)の決定を前記チェックすべき位置対応値(ψi)の入力前に行うこと」という特徴について検討する。
引用文献1には、許容範囲の上限値S及び同下限値Iの決定が実際値Ai+1の入力後になされることが開示されており(図6参照)、上記「前記位置期待値差(ΔψE)の決定を前記チェックすべき位置対応値(ψi)の入力前に行うこと」という特徴に相当する事項は全く開示又は示唆されていない。
また、引用文献2?4にも上記「前記位置期待値差(ΔψE)の決定を前記チェックすべき位置対応値(ψi)の入力前に行うこと」という特徴に相当する事項は全く開示又は示唆されていない。
引用文献5には、変化幅警報設定値(XPR2)がチェックすべき値の入力前に決定されることが開示されている(図2)。
ところで、引用文献1には、現在値に不連続点が発生するのを防止するために、現在値と1つ前の位置の前値の差が所定の誤差範囲内にあれば現在値を出力値とし、そうでなければ前値を出力値とすることが開示されている。
したがって、引用文献5に記載の発明を引用文献1に記載された発明に適用し、上記「前記位置期待値差(ΔψE)の決定を前記チェックすべき位置対応値(ψi)の入力前に行うこと」という特徴を想到することは当業者にとって容易であるとはいえない。すなわち、請求項1における少なくとも上記「前記位置期待値差(ΔψE)の決定を前記チェックすべき位置対応値(ψi)の入力前に行うこと」という特徴が引用文献1?5に記載された発明に基づいて容易に想到し得るものではない以上、これら引用文献1?5は本願発明の進歩性を否定する根拠となり得るものではない。」(審判請求書)
と主張している。
請求人は、引用文献1の課題が現在値に不連続点が発生するのを防止することを根拠に、上記相違点2が容易に想到できないことを主張しているようであるが、上記のように演算の順序を変更しても、引用文献1の課題は解決されるから、当該主張は上記の当審の判断を覆すものではない。


6.むすび

以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-09-21 
結審通知日 2017-09-27 
審決日 2017-10-11 
出願番号 特願2012-72891(P2012-72891)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G05D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 青山 純  
特許庁審判長 刈間 宏信
特許庁審判官 西村 泰英
柏原 郁昭
発明の名称 位置対応値のチェック方法及び位置対応値のチェックのための監視ユニット  
代理人 清田 栄章  
代理人 鍛冶澤 實  
代理人 中村 真介  
代理人 江崎 光史  
代理人 篠原 淳司  

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