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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02B 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B |
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管理番号 | 1337663 |
審判番号 | 不服2016-19265 |
総通号数 | 220 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-04-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-12-22 |
確定日 | 2018-03-16 |
事件の表示 | 特願2012- 81191「偏光素子,光学フィルムおよび画像表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月10日出願公開,特開2013-210512,請求項の数(9)〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特願2012-81191号は,平成24年3月30日の出願(以下,「本件出願」という。)であって,その手続の経緯は,概略,以下のとおりである。 平成27年 9月 4日付け:拒絶理由通知書 平成27年11月 5日差出:意見書,手続補正書 平成28年 4月11日付け:拒絶理由通知書 平成28年 5月25日差出:意見書 平成28年10月 5日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) 平成28年12月22日差出:審判請求書,手続補正書 平成29年10月30日付け:拒絶理由通知書(以下,この拒絶理由通知書による拒絶の理由を「当審拒絶理由」という。) 平成29年12月18日差出:意見書,手続補正書(以下「本件補正」という。) 第2 当審拒絶理由の概要 当審拒絶理由は,以下のとおりである。 (理由1)平成28年12月22日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1(以下「本件補正前請求項1」という。他の請求項についても同様。)に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものでない。本件補正前請求項2?本件補正前請求項6並びに本件補正前請求項8?本件補正前請求項12に係る発明についても同様である。 したがって,本件出願は,特許請求の範囲の記載が,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。 (理由2)本件補正前請求項6及び本件補正前請求項7は明確でない。 したがって,本件出願は,特許請求の範囲の記載が,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。 (理由3)本件補正前請求項1?本件補正前請求項6並びに本件補正前請求項8?本件補正前請求項12に係る発明は,以下の引用例1に記載された発明,並びに,引用例2?3に記載された周知の技術に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 引用例1.特開2009-37236号公報 引用例2.特開2009-145496号公報 引用例3.特開2004-287408号公報 第3 本願発明 本件出願の特許請求の範囲の請求項1?請求項9に係る発明は,平成29年12月18日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?請求項9に記載された事項により特定されるものと認められるところ,その請求項1に係る発明は,次のとおりである(以下「本願発明1」といい,同様に請求項2?請求項9に係る発明をそれぞれ「本願発明2」?「本願発明9」という。)。 「 偏光子の少なくとも一方の面に,偏光子の側から接着剤層および親水性層をこの順で介して,前記親水性層面に液晶性化合物の配向が固定された液晶層が設けられており, 前記接着剤層が,活性エネルギー線硬化型接着剤により形成された硬化物層であり, 前記活性エネルギー線硬化型接着剤が,N-置換アミド系モノマーを含有するラジカル重合性化合物を含有し, 前記液晶性化合物が,下記一般式(I)または一般式(II) 【化1】 【化2】 (上記一般式(I)及び(II)において,Y_(1)またはY_(2)の少なくとも一方はアクリレート基(CH_(2)=CHCO-)若しくはメタクリレート基(CH_(2)=C(CH_(3))CO-)である。Y_(1),Y_(2)のいずれか一方が,アクリレート基,メタクリレート基のどちらもない場合,Y_(1)またはY_(2)は,ビニル基,イソプロペニル基,4-ビニルフェニル基,1-クロロエテニル基,エポキシ基,シアネート基,イソシアネート基の重合性官能基であるか,あるいは,水素,ハロゲン,アルキル基,アルコキシ基,シアノ基,ニトロ基である。X_(1),X_(2)は,それぞれ独立に,共有結合,直鎖若しくは分枝のアルキレン基,エーテル基,カルボニル基,エステル基,カーボネート基,またはこれらの1つ以上を含む2価の基である。A,B及びCは置換基を表し,a,b及びcはそれぞれ対応するA,B及びCの置換基数(0?3までの整数)を表す。A,B及びCは,それぞれ独立して,ハロゲン,炭素数1?20の直鎖若しくは分枝のアルキル基,アルコキシ基,またはアルコキシカルボニル基,シアノ基,ニトロ基,ヒドロキシ基の1価の基である。なお,上記一般式(I)または(II)で表される化合物は,同一のベンゼン環上に複数の同一の置換基を有していてもよいし,異なる置換基を有していてもよい。)で表される重合性アクリルモノマーであることを特徴とする偏光素子。」 また,本願発明2?本願発明7は,本願発明1を減縮した発明である。 また,本願発明8及び本願発明9は,それぞれ,本願発明1の発明特定事項を全て有する,光学フィルム及び画像表示装置に関する発明である。 第4 引用例 1 引用例1の記載 本件出願の出願前に頒布され,当審拒絶理由において引用例1として引用された刊行物である特開2009-37236号公報(以下「引用例1」という。)には,以下の事項が記載されている。なお,下線は,当合議体が付したものであり,引用発明の認定に活用した箇所を示す。 (1)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 セルロース誘導体からなる基材,および,前記基材上に直接形成され,前記セルロース誘導体と屈折率異方性を示す棒状化合物とを含有する位相差層を有する位相差フィルムと, 前記位相差フィルムの前記位相差層上に接着され,ポリビニルアルコールからなる偏光子と, 前記偏光子上に接着された偏光板保護フィルムと,を有することを特徴とする,液晶表示装置用偏光板。 【請求項2】 前記位相差フィルムと,前記偏光子との間に親水性接着剤からなる接着剤層が形成されていることを特徴とする,請求項1に記載の液晶表示装置用偏光板。」 (2)「【技術分野】 【0001】 本発明は,主に液晶表示装置に用いられる偏光板,および,その製造方法に関するものである。 【背景技術】 【0002】 ・・・(略)・・・ 【0004】 一方,液晶表示装置はその特有の問題点として,液晶セルや偏光板の屈折率異方性に起因する視野角依存性の問題点がある。この視野角依存性の問題は,液晶表示装置を正面から見た場合と,斜め方向から見た場合とで視認される画像の色味やコントラストが変化してしまう問題である。このような視野角特性の問題は,近年の液晶表示装置の大画面化に伴って,さらにその問題の重大性を増している。 【0005】 このような視野角依存性の問題を改善するため,現在までに様々な技術が開発されている。その代表的な方法として位相差フィルムを用いる方法がある。 ・・・(略)・・・ 【0006】 従来,このような位相差フィルムとしては,図11に示すように任意の基材105上に配向層106を設け,さらに当該配向層106上に液晶分子を有する位相差層107を形成し,上記配向層の配向規制力により上記液晶分子を配向させて所望の屈折率異方性を発現させる構成を有するもの一般的であった。このような位相差フィルムとしては,例えば特許文献1または特許文献2に開示されているような,コレステリック規則性の分子構造を有する位相差層(複屈折性を示す位相差層)が配向層を有する基材上に形成されたものや,例えば特許文献3開示されているような,円盤状化合物からなる位相差層(複屈折性を示す位相差層)が配向層を有する基材上に形成されたものが知られている。 【0007】 しかしながら,このような構成を有する位相差フィルムは,液晶分子が用いられていることから位相差性の発現性に優れるという利点を有するものであったが,液晶表示装置に用いる場合に位相差性に変動が生じてしまうという問題点があった。すなわち,図11に示すような構成を有する位相差フィルムを液晶表示装置に用いる場合は,位相差フィルムを液晶セルおよび偏光板(あるいは偏光子)に接着剤を用いて接着することが必要になる。このため,液晶セルおよび偏光板(あるいは偏光子)と,位相差フィルムとを接着させるために粘着剤層を形成することが必須になるところ,液晶性材料等が含有される位相差層に粘着剤が付着すると,その影響で位相差層中の液晶分子の配列性が損なわれてしまい,位相差フィルムの光学特性が損なわれてしまうという問題点があった。」 (3)「【発明が解決しようとする課題】 【0009】 本発明は,このような状況に鑑みてなされたものであり,光学特性の発現性に優れ,かつ,光学特性が損なわれることなく液晶セルと接着させることが可能な液晶表示装置用偏光板を提供することを主目的とするものである。 【課題を解決するための手段】 【0010】 上記課題を解決するために本発明は,セルロース誘導体からなる基材,および,上記基材上に直接形成され,上記セルロース誘導体と屈折率異方性を示す棒状化合物とを含有する位相差層を有する位相差フィルムと,上記位相差フィルムの上記位相差層上に接着され,ポリビニルアルコールからなる偏光子と,上記偏光子上に接着された偏光板保護フィルムと,を有することを特徴とする液晶表示装置用偏光板を提供する。 【0011】 本発明によれば,上記位相差フィルムの位相差層側に上記偏光子が接着されていることにより,本発明の液晶表示装置用偏光板を液晶セルに接着する際には,上記基材側が液晶セルに接着されることになる。このため,液晶セルと本発明の液晶表示装置用偏光板とを接着する際に粘着剤が用いられたとしても,当該接着剤の影響によって上記位相差層の光学特性が損なわれることがない。 また,本発明の液晶表示装置用偏光板は,上記位相差層にセルロース誘導体が含有されていることから,例えば,上記位相差層の表面をアルカリけん化処理して親水化することにより,上記位相差層と上記ポリビニルアルコールからなる偏光子とを粘着剤を用いることなく接着させることが可能になる。このため,本発明の液晶表示装置用偏光板は,その製造過程においても上記位相差層の光学特性が損なわれることを防止することができる。 このようなことから,本発明によれば光学特性の発現性に優れ,かつ,光学特性が損なわれることなく液晶セルと接着させることが可能な液晶表示装置用偏光板を得ることができる。 【0012】 本発明においては,上記位相差フィルムと,上記偏光子との間に親水性接着剤からなる接着剤層が形成されていることが好ましい。これにより,上記位相差フィルムと上記偏光子とをより強固に接着させることがきるからである。また,親水性接着剤が用いられることにより,位相差フィルムの光学特性を損なうことなく,上記位相差フィルムと偏光子とを接着させることができるからである。 ・・・(略)・・・ 【発明の効果】 【0020】 本発明によれば,光学特性の発現性に優れ,かつ,光学特性が損なわれることなく液晶セルと接着させることが可能な液晶表示装置用偏光板を得ることができるという効果を奏する。」 (4)「【発明を実施するための最良の形態】 【0021】 本発明は,液晶表示装置に用いられる液晶表示装置用偏光板と,液晶表示装置用偏光板の製造方法と,液晶表示装置に関するものである。 以下,これらについて順に説明する。 ・・・(略)・・・ 【0027】 (1)位相差層 本発明に用いられる位相差層は,後述する基材上に直接形成され,当該基材を構成するセルロース誘導体および屈折率異方性を示す棒状化合物を含有するものである。 【0028】 a.棒状化合物 本発明に用いられる棒状化合物としては,屈折率異方性を有するものであり,位相差層において配列されることにより,位相差層に所望の光学特性を付与できるものであれば特に限定されるものではない。 ここで,上記「棒状化合物」とは,分子構造の主骨格が棒状となってものを意味するものとする。 【0029】 ここで,本発明における「棒状化合物」とは,分子構造の主骨格が棒状となってものを指し,このような棒状の主骨格を有する化合物としては,例えば,アゾメチン類,アゾキシ類,シアノビフェニル類,シアノフェニルエステル類,安息香酸エステル類,シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類,シアノフェニルシクロヘキサン類,シアノ置換フェニルピリミジン類,アルコキシ置換フェニルピリミジン類,フェニルジオキサン類,トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類を挙げることができる。また,以上のような低分子液晶性化合物だけではなく,高分子液晶性化合物も用いることができる。 【0030】 本発明においては,上記のいずれの分類に属する棒状化合物であっても好適に用いることができるが,なかでも2以上の複数のベンゼン環が結合された棒状の主骨格を有するものであることが好ましく,特に2以上の複数のベンゼン環が互いにエステル結合で結合された棒状の主骨格を有するものであることが好ましい。このような構造を有する棒状化合物は,分子内の屈折率異方性が大きいため,位相差層内で配列されることにより位相差層に,高い位相差性を付与することが可能になるからである。 【0031】 本発明に用いられる棒状化合物は,分子量が比較的小さい化合物が好ましい。より具体的には,分子量が200?1200の範囲内である化合物が好ましく,特に400?1000の範囲内である化合物が好適に用いられる。その理由は次の通りである。すなわち,本発明に用いられる位相差層は,上記棒状化合物と,後述する基材を構成するセルロース誘導体とを含有するものであるが,上記棒状化合物として分子量が比較的小さい化合物を用いることによって,上記位相差層において上記棒状化合物が上記セルロース誘導体と混合しやすくなるため,基材と位相差層との密着性を向上させることができるからである。 なお,上記棒状化合物として重合性官能基を有する材料を用いる場合,上記棒状化合物の分子量は,重合前のモノマーの分子量を示すものとする。 【0032】 また,本発明に用いられる棒状化合物は,液晶性を示す液晶性材料であることが好ましい。液晶性材料は規則的に配列する特性を備えるため,複屈折Δn(nx-ny)が大きく,位相差層に所望の位相差性を付与しやすいからである。 【0033】 上記液晶性材料としては,ネマチック相,コレステリック相,および,スメクチック相等のいずれの液晶相を示す材料であっても好適に用いることができる。なかでも本発明においては,ネマチック相を示す液晶性材料を用いることが好ましい。ネマチック相を示す液晶性材料は,他の液晶相を示す液晶性材料と比較して規則的に配列させることが容易であるからである。 【0034】 また,上記ネマチック相を示す液晶性材料としてはメソゲン両端にスペーサを有する材料を用いることが好ましい。メソゲン両端にスペーサを有する液晶性材料は柔軟性に優れるため,このような液晶性材料を用いることにより,本発明に用いられる位相差フィルムを透明性に優れたものにできるからである。 【0035】 さらに,本発明に用いられる棒状化合物は,分子内に重合性官能基を有するものが好適に用いられ,なかでも3次元架橋可能な重合性官能基を有するものがより好適に用いられる。上記棒状化合物が重合性官能基を有することにより,上記棒状化合物を重合して固定することが可能になるため,配列安定性に優れ,位相差性の経時変化が生じにくい位相差層を得ることができるからである。 また,本発明においては上記重合性官能基を有する棒状化合物と,上記重合性官能基を有さない棒状化合物とを混合して用いてもよい。 なお,上記「3次元架橋」とは,液晶性分子を互いに3次元に重合して,網目(ネットワーク)構造の状態にすることを意味する。 【0036】 上記重合性官能基としては,例えば,紫外線,電子線等の電離放射線,或いは熱の作用によって重合する重合性官能基を挙げることができる。これら重合性官能基の代表例としては,ラジカル重合性官能基,或いはカチオン重合性官能基等を挙げることができる。さらにラジカル重合性官能基の代表例としては,少なくとも一つの付加重合可能なエチレン性不飽和二重結合を持つ官能基が挙げられ,具体例としては,置換基を有するもしくは有さないビニル基,アクリレート基(アクリロイル基,メタクリロイル基,アクリロイルオキシ基,メタクリロイルオキシ基を包含する総称)等が挙げられる。また,上記カチオン重合性官能基の具体例としては,エポキシ基等が挙げられる。その他,重合性官能基としては,例えば,イソシアネート基,不飽和3重結合等が挙げられる。これらの中でもプロセス上の点から,エチレン性不飽和二重結合を持つ官能基が好適に用いられる。 【0037】 さらにまた,本発明に用いられる棒状化合物は液晶性を示す液晶性材料であって,末端に上記重合性官能基を有するものが特に好ましい。このような液晶性材料を用いることにより,例えば,互いに3次元に重合して,網目(ネットワーク)構造の状態にすることができるため,配列安定性を備え,かつ,光学特性の発現性に優れた位相差層を形成することができるからである。 なお,本発明においては片末端に重合性官能基を有する液晶性材料を用いた場合であっても,他の分子と架橋して配列安定化することができる。 【0038】 本発明に用いられる棒状化合物の具体例としては,下記式(1)?(6)で表される化合物を例示することができる。 【0039】 【化1】 【0040】 ここで,化学式(1),(2),(5)および(6)で示される液晶性材料は,D.J.Broerら,Makromol.Chem.190,3201-3215(1989),またはD.J.Broerら,Makromol.Chem.190,2250(1989)に開示された方法に従い,あるいはそれに類似して調製することができる。また,化学式(3)および(4)で示される液晶性材料の調製は,DE195,04,224に開示されている。 【0041】 また,末端にアクリレート基を有するネマチック液晶性材料の具体例としては,下記化学式(7)?(17)に示すものも挙げられる。 【0042】 【化2】 【0043】 なお,本発明に用いられる液晶性材料は,1種類のみであってもよく,または,2種以上であってもよい。例えば,上記液晶性材料として,両末端に重合性官能基を1つ以上有する液晶性材料と,片末端に重合性官能基を1つ以上有する液晶性材料とを混合して用いると,両者の配合比の調整により重合密度(架橋密度)及び光学特性を任意に調整できる点から好ましい。 【0044】 b.棒状化合物の配列形態 次に,本発明における位相差層内において棒状化合物が配列している形態について説明する。上記棒状化合物が配列している形態としては,本発明に用いられる位相差フィルムに所望の光学特性を付与できる形態であれば特に限定されるものではない。このような配列形態としては,例えば,棒状化合物が一方向に規則的に配向した形態や,コレステリック配向,ハイブリッド配向,およびランダムホモジニアス配向等の形態を挙げることができる。なかでも本発明においては,上記棒状化合物がランダムホモジニアス配向を形成していることが好ましい。これにより,上記位相差層に白濁等が生じることを防止でき,透明性に優れた位相差フィルムを得ることができるからである。 以下,このようなランダムホモジニアス配向について説明する。 【0045】 上記ランダムホモジニアス配向は,少なくとも,位相差層において棒状化合物分子が形成するドメインの大きさが可視光領域の波長よりも小さいこと(以下,単に「分散性」と称する場合がある。),および,位相差層において棒状化合物分子が,該位相差層の表面に平行な平面に存在していること(以下,単に「面内配向性」と称する場合がある。),を特徴とするものである。 ・・・(略)・・・ 【0070】 c.セルロース誘導体 次に,位相差層に含有されるセルロース誘導体について説明する。位相差層に含有されるセルロース誘導体は,後述する基材を構成するセルロース誘導体である。本発明においては,位相差層にこのようなセルロース誘導体が含有されることにより,基材と位相差層との密着性に優れた位相差フィルムを得ることができる。 【0071】 本発明における位相差層中に含有されるセルロース誘導体の量としては,本発明に用いられる位相差フィルムにおいて,基材および位相差層,位相差層および偏光子の密着性を所望の範囲にすることができる範囲内であれば特に限定されるものではない。なかでも本発明においては,上記セルロース誘導体の含有量が,1質量%?50質量%の範囲内であることが好ましく,特に5質量%?30質量%の範囲内であることが好ましい。 ・・・(略)・・・ 【0090】 2.偏光子 次に,本発明に用いられる偏光子について説明する。本発明に用いられる偏光子は,本発明の液晶表示装置用偏光板に偏光特性を付与する機能を有するものである。 【0091】 本発明に用いられる偏光子は,所望の偏光特性を備えるものであれば特に限定されるものではなく,一般的に液晶表示装置の偏光板に用いられるものを特に制限なく用いることができる。本発明においては,このような偏光子として,通常,ポリビニルアルコールフィルムが延伸されてなり,ヨウ素を含有する偏光子が好適に用いられる。 ・・・(略)・・・ 【0102】 4.液晶表示装置用偏光板 本発明の液晶表示装置用偏光板には,必要に応じて上記位相差フィルム,偏光子,および,偏光板保護フィルム以外の他の構成が用いられていてもよい。本発明に用いられる他の構成は,本発明の液晶表意装置用偏光板の効果を損なわないものであれば特に限定されるものではなく,本発明の液晶表示装置用偏光板に所定の機能を付与できるものを任意に用いることができる。このような他の構成としては,例えば,上記位相差フィルムと,上記偏光子との間,および/または,上記偏光板保護フィルムと偏光子との間に形成され,親水性接着剤からなる接着剤層を挙げることができる。このような接着剤層が形成されていることにより,本発明の液晶表示装置用偏光板において,位相差フィルムと偏光子との接着性を向上させることができる。 【0103】 本発明の液晶表示装置用偏光板に接着剤層が形成されている場合について図を参照しながら説明する。図5は本発明の液晶表示装置用偏光板に上述した接着剤層が形成されている場合の一例を示す概略断面図である。図5に例示するように,本発明の液晶表示装置用偏光板10’は,位相差フィルム2と,偏光子1との間,および,上記偏光板保護フィルム3と偏光子1との間に親水性接着剤からなる接着剤層4が形成されたものであってもよい。 【0104】 上記接着剤層に用いられる親水性接着剤としては,上記位相差フィルムの光学特性を害することなく,上記位相差フィルムと偏光子とを接着できるものであれば特に限定されるものではない。このような親水性接着剤としては,例えば,ポリビニルアルコール,ポリビニルピロリドン等を挙げることができる。本発明においてはこれらのいずれの親水性接着剤であっても好適に用いることができるが,なかでもポリビニルアルコールを用いることが好ましい。上述したように,本発明に用いられる偏光子はポリビニルアルコールからなるものであるため,上記親水性接着剤としてポリビニルアルコールを用いることにより,上記偏光子を上記位相差層と強固に接着させることができるからである。 【0105】 なお,本発明に用いられる親水性接着剤は,1種類のみであってもよく,あるいは,2種類以上であってもよい。 【0106】 本発明に用いられる接着剤層の厚みとしては,上記親水性接着剤の種類に応じて上記偏光子と位相差層とを所望の接着力で接着できる範囲内であれば特に限定されるものではない。なかでも本発明に用いられる接着剤層は,厚みが5μm?100μmの範囲内であることが好ましく,特に10μm?50μmの範囲内であることが好ましく,さらに15μm?30μmの範囲内であることが好ましい。」 (5)「【0114】 B.液晶表示装置用偏光板の製造方法 次に,本発明の液晶表示装置用偏光板の製造方法について説明する。上述したように本発明の液晶表示装置用偏光板の製造方法は,セルロース誘導体からなる基材を用い,上記基材上に屈折率異方性を示す棒状化合物を含有する位相差層形成用塗工液を直接塗工して位相差層を形成することにより,上記基材と,上記基材上に形成され,上記セルロース誘導体および上記棒状化合物を含有する位相差層とを有する位相差フィルムを作製する位相差フィルム作製工程と,上記位相差フィルムの位相差層の表面を親水化する親水化処理工程と,親水化された上記位相差層上にポリビニルアルコールからなる偏光子を接着させる偏光子接着工程と,を有することを特徴とするものである。 【0115】 このような本発明の液晶表示装置用偏光板の製造方法について図を参照しながら説明する。図7は本発明の液晶表示装置用偏光板の製造方法の一例を示す概略図である。図7に例示するように,本発明の液晶表示装置用偏光板の製造方法は,セルロース誘導体からなる基材2aを用い(図7(a)),上記基材2a上に屈折率異方性を示す棒状化合物を含有する位相差層形成用塗工液を直接塗工して位相差層2bを形成することにより,上記基材2aと,上記基材2a上に形成され,上記セルロース誘導体および上記棒状化合物を含有する位相差層2bとを有する位相差フィルム2を作製する位相差フィルム作製工程と(図7(b)),上記位相差フィルム2の位相差層2bの表面を親水化する親水化処理工程と(図7(c)),親水化された上記位相差層2b上にポリビニルアルコールからなる偏光子1を接着させる偏光子接着工程と(図7(d)),を有することを特徴とするものである。 【0116】 本発明によれば,上記親水化処理工程において上記位相差層を親水化させた後,上記偏光子接着工程において,上記親水化された位相差層上に偏光子を接着させることにより,上記位相差層の光学特性を損なうことなく,上記位相差層上に偏光子を接着させることができる。 ・・・(略)・・・ 【0117】 本発明の液晶表示装置用偏光板の製造方法は,少なくとも上記位相差フィルム作製工程と,親水化処理工程と,偏光子接着工程とを有するものであり,必要に応じて他の工程が用いられてもよいものである。 以下,本発明に用いられる各工程について順に説明する。 ・・・(略)・・・ 【0131】 2.親水化処理工程 次に,本発明に用いられる親水化処理工程について説明する。本工程は,上記位相差フィルム作製工程において作製された位相差フィルムの,位相差層の表面を親水化する工程である。 【0132】 本工程において,上記位相差層の表面が親水化される程度としては後述する偏光子接着工程において,偏光子と位相差層とを所望の接着力で接着できる程度であれば特に限定されるものではない。なかでも本工程において上記位相差層の表面が親水化させる程度としては,少なくとも水に対する接触角で50°以下であることが好ましく,さらに45°以下であることが好ましい。ここで,上記水に対する接触角は,接触角計(DM300:協和界面科学株式会社製)を用いて測定した結果から,θ/2法により算出し値を用いるものとする。 【0133】 本工程において,上記位相差層の表面を親水化する方法としては上記位相差層の光学特性を損なわない方法であれば特に限定されるものではない。このような方法としては,例えば,上記位相差層の表面をアルカリけん化する方法,コロナ処理する方法等を挙げることができる。本工程においてはこれらのいずれの方法であっても好適に用いることができるが,なかでも上記位相差層の表面をアルカリけん化する方法が用いられることが好ましい。すなわち,本工程において表面が親水化される位相差層には,屈折率異方性を有する棒状化合物と,基材を構成するセルロース誘導体とが含まれることから,本工程においては位相差層の表面をアルカリけん化し,上記セルロース誘導体を加水分解することによって,位相差層の表面を親水化する方法を用いることが好ましい。このようなアルカリけん化は,アルカリ水溶液を用いて処理を行うことができるところ,一般的に水に難溶であるため,このような方法を用いることにより棒状化合物の配列状態を損なうくことなく位相差層の表面を親水化することができるため,上記位相差層の光学特性を損なうことなく,位相差層の表面を親水化することができるからである。 【0134】 本工程において,親水化方法としてアルカリけん化を用いる場合,アルカリけん化処理溶液としては,上記セルロース誘導体を加水分解できるものであれば特に限定されるものではない。このようなアルカリけん化処理溶液としては,水酸化ナトリウム水溶液,水酸化カリウム水溶液,水酸化カルシウム水溶液,水酸化マグネシウム水溶液等を挙げることができる。本工程においてはこれらのいずれのアルカリけん化処理溶液であっても好適に用いることができるが,なかでも水酸化ナトリウム水溶液を用いることが好ましい。 【0135】 上記アルカリけん化処理用液を用いて,位相差層の表面をアルカリけん化する方法としては,例えば,上記アルカリけん化処理用液を上記位相差層上に塗布した後,これを水洗する方法や,上記アルカリけん化処理溶液中に位相差フィルムを浸漬した後,これを引き揚げ,水洗する方法等を挙げることができる。 【0136】 3.偏光子接着工程 次に,本発明に用いられる偏光子接着工程について説明する。本工程は上記親水化処理工程において親水化された上記位相差層上に,ポリビニルアルコールからなる偏光子を接着させる工程である。 【0137】 本工程において,上記位相差層と偏光子とを接着させる方法としては,上記位相差層の光学特性を損なわない方法であれば特に限定されるものではない。このような方法としては,例えば,上記偏光子上に水を塗布した後,これを位相差層に密着させる方法や,上記偏光子を高湿下に置き,これを位相差層に密着させる方法,あるいは,上記偏光子と上記位相差層とを親水性接着剤を介して接着させる方法等を挙げることができる。なかでも本工程においては上記偏光子と上記位相差層とを親水性接着剤を介して接着させる方法を用いることが好ましい。このような方法によれば本工程において上記偏光子と,上記位相差層とを強固に接着することが可能になるからである。 なお,本工程において上記親水性接着剤を用いる方法が採用された場合,本発明によって製造される液晶表示装置用偏光板は,上記位相差層と偏光子との間に親水性接着剤からなる接着剤層を有するものとなる。 【0138】 本工程に用いられる親水性接着剤としては,上記位相差層の光学特性を損なうことなく,上記位相差層と上記偏光子とを接着できるものであれば特に限定されるものではない。このような,親水性接着剤としては,上記「A.液晶表示装置用偏光板」の項において,接着剤層に用いられる親水性接着剤として説明したものを用いることができる。 また,本工程においては2種類以上の親水性接着剤を用いることもできる。」 (6)「【実施例】 【0155】 [実施例1] 1.位相差フィルム作製 基材としてフィルム厚80μmのTACフィルム(富士フイルム株式会社製,商品名:TF80UL)上に,以下の組成を有する位相差層形成用塗工液を塗布し,次いで,40℃で2分間加熱して溶剤乾燥除去した。次に,塗工面に紫外線を照射することにより,重合性液晶材料を固定化して位相差フィルムを作製した。このとき,上記基材上に直接位相差層形成用塗工液を塗布することにより,形成された位相差層中は上記TACフィルムを構成するトリアセチルセルロースが含まれるものになった。 【0156】 <位相差層形成用塗工液(実施例1)の組成> ・重合性棒状液晶材料(下記式I) 15重量部 ・光重合開始剤 (Irg189,チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製) 4重量部 ・反応禁止剤(商品名 BHT,関東化学社製) 0.1重量部 ・シクロヘキサノン 85重量部 【0157】 【化3】 【0158】 2.ケン化処理 このようにして得られた位相差フィルムを,45℃の1.5mol/lの水酸化ナトリウム水溶液に2分間浸し,ケン化処理を行った。蒸留水で水洗処理後,100℃で1分間乾燥した。位相差層の水の接触角を測定したところ,35°であった。 【0159】 3.偏光板作製 フィルム厚80μmのTACフィルム(富士フイルム株式会社製,商品名:TF80UL)を偏光子保護フィルムとして用いた。偏光子保護フィルムを上記と同様の条件でケン化処理を行った。延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させて,偏光子を作製した。位相差フィルムの位相差層と偏光子の一方の面とを積層し,さらに偏光子の他方の面と偏光子保護フィルムとを積層した。得られた偏光板の位相差フィルム側に粘着層(日東電工社製,商品名:CS9621)を形成し,無アルカリガラス(セントラル硝子社製)に貼り合わせた。 ・・・(略)・・・ 【0171】 [実施例2] 1.位相差フィルム作製 基材としてフィルム厚40μmのTACフィルム(コニカミノルタ株式会社製,商品名:KC4UYW)上に,以下の組成を有する位相差層形成用塗工液を塗布し,次いで,40℃で2分間加熱して溶剤乾燥除去した。さらに,塗工面に窒素雰囲気下で100mJ/cm^(2)の紫外線を照射することにより,重合性液晶材料を固定化して位相差フィルムを作製した。 【0172】 <位相差層形成用塗工液(実施例2)の組成> ・重合性液晶材料(下記式III) 20重量部 ・光重合開始剤 (ルシリンTPO,BASFジャパン社製)4重量部 ・反応禁止剤(商品名 BHT,関東化学社製) 0.06重量部 ・シクロヘキサノン 80重量部 【0173】 【化5】 【0174】 2.ケン化処理 このようにして得られた位相差フィルムを,45℃の1.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に2分間浸し,ケン化処理を行った。蒸留水で水洗処理後,100℃で1分間乾燥した。位相差層の水の接触角を測定したところ,35°であった。 【0175】 3.偏光板作製 フィルム厚40μmのTACフィルム(コニカミノルタ株式会社製,商品名:KC4UYW)を偏光子保護フィルムとして用いた。偏光子保護フィルムを上記と同様の条件でケン化処理を行った。延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させて,偏光子を作製した。位相差フィルムの位相差層と偏光子の一方の面とを積層し,さらに偏光子の他方の面と偏光子保護フィルムとを積層した。得られた偏光板の位相差フィルム側に粘着層(日東電工社製,商品名:CS9621)を形成し,無アルカリガラス(セントラル硝子社製)に貼り合わせた。」 2 引用発明 引用例1には,請求項1の記載を引用して記載された請求項2に係る発明が記載されているところ,段落【0042】の【化2】には,棒状化合物の具体例として,式(15)で表される化合物(実施例2の化合物)が例示されている。 以上勘案すると,引用例1には,次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。 「 セルロース誘導体からなる基材,および,前記基材上に直接形成され,前記セルロース誘導体と屈折率異方性を示す棒状化合物とを含有する位相差層を有する位相差フィルムと, 前記位相差フィルムの前記位相差層上に接着され,ポリビニルアルコールからなる偏光子と, 前記偏光子上に接着された偏光板保護フィルムと,を有し, 前記位相差フィルムと,前記偏光子との間に親水性接着剤からなる接着剤層が形成され, 前記棒状化合物が,下記式(15)に示すものである, 液晶表示装置用偏光板。 」 第5 対比・判断 1 本願発明1について (1)本願発明1と引用発明とを対比すると,以下のとおりとなる。 ア 偏光子 引用発明の「ポリビニルアルコールからなる偏光子」は,その文言のとおり,偏光子であるから,本願発明1の「偏光子」に相当する。 イ 液晶層 引用発明の「位相差層」は,「前記セルロース誘導体と屈折率異方性を示す棒状化合物とを含有する」。そして,「前記棒状化合物が,下記式(15)に示すものである」(式(15)については,上記「第4」2を参照。)。ここで,式(15)で示される化合物は,液晶性化合物である(このことは,引用例1の段落【0041】の記載からも確認される事項である。)。そうしてみると,引用発明の「位相差層」は,液晶性化合物を含有しているから,本願発明1の「液晶層」に対応付けられるものである。更に,上記式(15)は,本願発明1の「液晶性化合物」を示す「一般式(II)」(一般式(II)については,上記「第3」を参照。)において,「Y_(1)」及び「Y_(2)」を「アクリレート基」,「X_(1)」及び「X_(2)」を「直鎖のアルキレン基とエーテル基が連結した基」,「A_(a)」及び「C_(c)」においてa=c=0,「B_(b)」においてb=1で「B」が「炭素数1のアルキル基」であるものに該当する。 ウ 接着剤層 引用発明の「接着剤層」は,「前記位相差フィルムと,前記偏光子との間に」形成されている。また,引用発明の「偏光子」は「前記位相差フィルムの前記位相差層上に接着され」る。そうしてみると,引用発明において,「接着剤層」は,「位相差層」と「偏光子」との間に存在しているものと解される。上記イで述べた対応関係を踏まえると,引用発明の「接着剤層」は本願発明1の「接着剤層」に相当するとともに,両者は,偏光子と液晶層との間に設けられる点で共通する。 エ 偏光素子 引用発明の「液晶表示装置用偏光板」は,偏光素子である。また,上記ウからみて,引用発明の「液晶表示用偏光板」においては,「偏光子」の少なくとも一方の面に,「偏光子」の側から「接着剤層」を介して,「位相差層」が設けられている。 (2)一致点及び相違点 ア 一致点 上記(1)を踏まえると,本願発明1と引用発明は,次の構成で一致する。 「 偏光子の少なくとも一方の面に,偏光子の側から接着剤層を介して,液晶性化合物を含む液晶層が設けられており, 前記液晶性化合物が,下記一般式(I)または一般式(II) 【化1】 【化2】 (上記一般式(I)及び(II)において,Y_(1)またはY_(2)の少なくとも一方はアクリレート基(CH_(2)=CHCO-)若しくはメタクリレート基(CH_(2)=C(CH_(3))CO-)である。Y_(1),Y_(2)のいずれか一方が,アクリレート基,メタクリレート基のどちらもない場合,Y_(1)またはY_(2)は,ビニル基,イソプロペニル基,4-ビニルフェニル基,1-クロロエテニル基,エポキシ基,シアネート基,イソシアネート基の重合性官能基であるか,あるいは,水素,ハロゲン,アルキル基,アルコキシ基,シアノ基,ニトロ基である。X_(1),X_(2)は,それぞれ独立に,共有結合,直鎖若しくは分枝のアルキレン基,エーテル基,カルボニル基,エステル基,カーボネート基,またはこれらの1つ以上を含む2価の基である。A,B及びCは置換基を表し,a,b及びcはそれぞれ対応するA,B及びCの置換基数(0?3までの整数)を表す。A,B及びCは,それぞれ独立して,ハロゲン,炭素数1?20の直鎖若しくは分枝のアルキル基,アルコキシ基,またはアルコキシカルボニル基,シアノ基,ニトロ基,ヒドロキシ基の1価の基である。なお,上記一般式(I)または(II)で表される化合物は,同一のベンゼン環上に複数の同一の置換基を有していてもよいし,異なる置換基を有していてもよい。)で表される重合性アクリルモノマーであることを特徴とする偏光素子。」 イ 相違点 本願発明1と引用発明とは,以下の点で相違する。 (相違点1) 本願発明1は,偏光子の側から接着剤層「および親水性層をこの順」で介して,「前記親水性層面に」液晶層が設けられ,また「前記接着剤層が,活性エネルギー線硬化型接着剤により形成された硬化物層であり,前記活性エネルギー線硬化型接着剤が,N-置換アミド系モノマーを含有するラジカル重合性化合物を含有」するのに対して,引用発明は,親水性層が設けられてなく,液晶層に対応する「位相差層」は「接着剤層」と接しており,また「接着剤層」が「親水性接着剤からなる」点。 (相違点2) 本願発明1は,「液晶層」が,「液晶性化合物の配向が固定された」液晶層であるのに対して,引用発明は,「位相差層」が液晶性化合物を含むものの,「セルロース誘導体」も含有し,また,液晶性化合物の配向が固定されているか,不明である点。 (3)相違点についての判断 上記相違点1を判断する。 引用例1には,背景技術として,液晶分子を用いた位相差フィルムを,液晶セル及び偏光板に接着剤を用いて接着する技術が挙げられ,当該技術において,液晶性材料等が含有される位相差層に粘着剤が付着することにより光学特性が損なわれるという問題点が指摘されている(段落【0007】を参照。)。そして,当該問題点を解決するために,引用発明が提示され,位相差フィルムと偏光子との間に,親水性接着剤からなる接着剤層を設けることにより,光学特性を損なうことなく,強固に接着させることができる旨記載されている(段落【0012】を参照。)。そうしてみると,引用発明は,偏光子と位相差フィルム(液晶層)を接着するための課題解決手段として親水性接着剤を採用した発明である。一方,本願発明1は,偏光子と液晶層を接着するための課題解決手段として「N-置換アミド系モノマーを含有するラジカル重合性化合物を含有」する「活性エネルギー線硬化型接着剤」及び「親水性層」を採用したものである。よって,両者は課題解決手段を異にするものであるから,引用発明の構成から本願発明1の構成に至ることはない。 したがって,上記相違点2について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても引用発明,並びに,当審拒絶理由で引用した引用例2及び引用例3に記載された周知技術に基づいて,容易に発明できたものであるとはいえない。 2 本願発明2?本願発明9について 本願発明2?本願発明9は,本願発明1の構成を全て有するから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明,並びに,引用例2及び引用例3に記載された周知技術に基づいて,容易に発明できたものであるとはいえない。 第6 当審拒絶理由についての判断 1 理由1及び理由2について 本件補正により,当該拒絶理由は解消された。 2 理由3について 上記第5で述べたとおり,本願発明1?本願発明9は,当業者であっても,引用発明,並びに,引用例2及び引用例3に記載された周知技術に基づいて,容易に発明できたものであるとはいえない。 第7 原査定の概要及び原査定についての判断 1 原査定の概要 原査定は,平成27年11月5日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?請求項12に係る発明は,以下の引用文献1?引用文献4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 すなわち,引用文献4に記載された発明において,そのプライマー層(表面改質処理)として,引用文献1に記載された親水性層を用いることは,当業者が容易に想到し得た,というものである。 引用文献1.特開2009-145496号公報 引用文献2.特開2005-274909号公報 引用文献3.特開2012-42530号公報 引用文献4.特開2009-128793号公報 2 原査定についての判断 上記引用文献4には,傾斜配向位相差フィルムの基材を表面改質処理した上で,接着剤を塗布し,偏光子を接着させることが記載されている(段落【0093】,【0094】,【0099】を参照。)。そうしてみると,仮に,前記表面改質処理を親水性層とすることが,当業者に取って容易になし得たことであったとしても,当該親水性層に接するのは,位相差フィルムの基材であって,位相差フィルムの位相差層ではない。 また,引用文献1?引用文献4には,本願発明1に係る液晶性化合物からなる液晶層と,N-置換アミド系モノマーからなるラジカル重合性化合物を含有する活性エネルギー線硬化型接着材とを,組み合わせて用いることを示唆する記載もない。 したがって,本願発明1?本願発明9は,当業者であっても,引用文献4に記載された発明,並びに,引用文献1?引用文献3に記載された発明に基づいて,容易に発明できたものであるとはいえない。 第8 まとめ 以上のとおりであって,原査定の理由及び当審拒絶理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2018-03-06 |
出願番号 | 特願2012-81191(P2012-81191) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G02B)
P 1 8・ 537- WY (G02B) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 早川 貴之、渡▲辺▼ 純也、藤岡 善行 |
特許庁審判長 |
樋口 信宏 |
特許庁審判官 |
佐藤 秀樹 宮澤 浩 |
発明の名称 | 偏光素子、光学フィルムおよび画像表示装置 |
代理人 | 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所 |