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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02C
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02C
管理番号 1337678
審判番号 不服2016-18142  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-12-02 
確定日 2018-03-16 
事件の表示 特願2014-181252「トーリックレンズ」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 1月12日出願公開、特開2016- 4264、請求項の数(19)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年9月5日(パリ優先権主張2014年6月13日、米国)の出願であって、平成27年9月29日に拒絶理由が通知され、平成28年3月2日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、同年7月29日に拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、これに対して、同年12月2日に拒絶査定不服審判が請求され、当審において、平成29年10月26日に拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成30年1月26日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし19に係る発明は、平成30年1月26日になされた手続補正(以下「本件補正」という。)によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし19に記載の事項によりそれぞれ特定されるものと認められるところ、請求項1ないし19に係る発明(以下、本願の請求項1ないし19に係る発明をそれぞれ「本願発明1」ないし「本願発明19」という。)は、以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
対向に設置された第1の表面と第2の表面と、
それぞれ前記第1の表面にトーリックレンズの径方向に沿った第1の曲率を有し、且つ前記第1の曲率が前記トーリックレンズの円弧方向に沿って固定値となる2つの第1の扇形領域と、
前記第1の扇形領域と交互に配列され、それぞれ前記第1の表面に前記径方向に沿った第2の曲率を有し、且つ前記第2の曲率が前記円弧方向に沿って固定値となり、前記第1の曲率が前記第2の曲率よりも大きい2つの第2の扇形領域と、
互いに垂直である水平子午線および垂直子午線を更に含み、前記トーリックレンズの前記水平子午線に沿った最大厚さが前記トーリックレンズの前記垂直子午線に沿った最大厚さよりも大きいものである、前記水平子午線および垂直子午線と、
を含む、コンタクトレンズであるトーリックレンズ。
【請求項2】
複数の前記第1の扇形領域のそれぞれの中心角と、複数の前記第2の扇形領域のそれぞれの中心角の何れも90度である請求項1に記載のトーリックレンズ。
【請求項3】
複数の前記第1の扇形領域のそれぞれと、前記第1の扇形領域に隣接する前記第2の扇形領域の一方との間の境界は、前記水平子午線との夾角が45度である請求項2に記載のトーリックレンズ。
【請求項4】
前記水平子午線が、前記2つの第1の扇形領域を通過する請求項3に記載のトーリックレンズ。
【請求項5】
前記水平子午線が、前記2つの第2の扇形領域を通過する請求項3に記載のトーリックレンズ。
【請求項6】
複数の前記第1の扇形領域のそれぞれと、前記第1の扇形領域に隣接する前記第2の扇形領域の一方との間の境界が、前記水平子午線又は前記垂直子午線に位置する請求項2に記載のトーリックレンズ。
【請求項7】
前記第1の扇形領域が前記水平子午線から0度?90度の間に設置され、且つ前記第2の扇形領域が前記水平子午線から90度?180度の間に設置される請求項6に記載のトーリックレンズ。
【請求項8】
前記第2の扇形領域が前記水平子午線から0度?90度の間に設置され、且つ前記第1の扇形領域が前記水平子午線から90度?180度の間に設置される請求項6に記載のトーリックレンズ。
【請求項9】
前記第1の扇形領域と前記第2の扇形領域とをブリッジする4つの第3の扇形領域を更に含む請求項1に記載のトーリックレンズ。
【請求項10】
複数の前記第3の扇形領域のそれぞれが、前記第1の表面に前記径方向に沿った第3の曲率を有し、且つ前記第3の曲率が前記円弧方向に沿って前記第1の曲率から前記第2の曲率まで逓減する請求項9に記載のトーリックレンズ。
【請求項11】
複数の前記第3の扇形領域のそれぞれの中心角が10度よりも小さい請求項9に記載のトーリックレンズ。
【請求項12】
複数の前記第1の扇形領域のそれぞれの中心角が複数の前記第2の扇形領域のそれぞれの中心角の何れとも同じである請求項9に記載のトーリックレンズ。
【請求項13】
前記水平子午線が、前記第1の扇形領域を通過する請求項9に記載のトーリックレンズ。
【請求項14】
前記水平子午線が、前記第2の扇形領域を通過する請求項9に記載のトーリックレンズ。
【請求項15】
前記水平子午線が、前記第3の扇形領域を通過する請求項9に記載のトーリックレンズ。
【請求項16】
前記第1の表面は、コンタクトレンズのフロントカーブ面であり、且つ前記第2の表面は、前記コンタクトレンズのベースカーブ面である請求項1に記載のトーリックレンズ。
【請求項17】
前記第1の表面は、コンタクトレンズのベースカーブ面であり、且つ前記第2の表面は、前記コンタクトレンズのフロントカーブ面である請求項1に記載のトーリックレンズ。
【請求項18】
前記第1の表面が、凸面又は凹面である請求項1に記載のトーリックレンズ。
【請求項19】
前記第2の表面が、凸面又は凹面である請求項1に記載のトーリックレンズ。」

第3 引用例、引用発明等
1 引用例1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に頒布された刊行物である米国特許第5173723号(以下「引用例1」という。)には、次の事項が図とともに記載されている(下線は合議体が付した。以下同じ。)。
(1)「TECHNICAL FIELD
The present invention relates to an aspheric ophthalmic lens configuration and specifically to an improved aspheric intraocular or contact lens designed to provide correction of the refractive error of the eye while simultaneously providing an accommodative effect simulating that of the phakic non-presbyopic eye, resulting in clear central vision for the aphakic or presbyopic patient over a full range of distances, regardless of the size of the pupillary aperture. The ophthalmic lens design is characterized as having at least one surface rotationally non-symmetrical about the optical axis of the lens, with defined angular zones of distinct or varying curvature responsible for near, intermediate, or distance vision or combinations thereof.」(1欄6行ないし20行(審決注:公報の行数の表記に従って行数を示した。以下同じ。))
(日本語訳)
「技術分野
本発明は、眼科用非球面レンズの構造に関するものである。特に、非老眼性有水晶体眼の調整効果をシミュレートすると同時に眼の屈折異常を補正する非球面眼内レンズまたはコンタクトレンズに関連する。これによって、有水晶体眼または老眼の患者に、瞳孔開口部の大きさに関わらず、対象物までの全距離範囲にわたる明瞭な中心視力がもたらされる。眼用レンズの設計は、レンズの光軸に関して回転非対称な面を少なくとも1つの表面に持ち、近距離、中間距離及び遠距離またはそれらの組み合わせに対する、明確なまたは変化する曲率の規定された角度領域を有することを特徴とする。」

(2)「SUMMARY OF THE INVENTION
Based upon the foregoing, there is found to be a need to provide a multifocal lens configuration which provides an accommodative effect simulating that of the non-presbyopic phakic eye, thereby resulting in clear central vision over a continuous range of distances ranging from far to near. This optical effect should be achieved over the described full range of distances, regardless of the size of the pupillary aperture. It is therefore a main object of the present invention to provide a multifocal lens configuration which will provide the aphakic or presbyopic patient clear central vision over a continuous range of distances from far to near, regardless of the size of the pupillary aperture.
Another object of the invention is to provide a multifocal lens configuration wherein one or both surfaces of the lens is defined by semi-meridian sections which are aspheric or transitional in curvature acting to significantly reduce astigmatism, chromatic and especially spherical aberrations.
It is another object of the invention to provide a multifocal lens configuration for use as a contact lens, wherein one or both surfaces of the lens incorporates the novel surface design of the invention.
It is another object of the invention to provide a multifocal lens configuration for use in an intraocular lens, wherein one or both surfaces of the lens incorporates the novel surface design of the invention.
Another object of the invention is to provide the multifocal lens configuration having one or both surfaces thereon including variable power which is defined in angular rather than annular zones to give clear vision over a range of distances from six meters and beyond to as close as thirty centimeters as desired.
Yet another object of the invention is to provide a multifocal lens configuration wherein one or both surfaces of the lens incorporating the invention have defined angular zones wherein each of the defined angular zones has variable power which contribute to the correction of the refractive error of the eye for a particular distance range.
Yet another object the invention is to provide a multifocal lens configuration wherein one or both surfaces of the lens incorporating the invention have defined angular distance and near vision zones of constant power which contribute to the correction of the refractive error of the eye for a particular far or near distance.
Yet another object of the invention is to provide a constant edge thickness to the lens incorporating the invention or to provide constant semi-diameter to the surface incorporating the invention at a specified sagittal depth.
Yet another object of the invention is to produce a lens which will consistently provide the desired optical correction in the presbyopic or aphakic eye even if the lens decenters about the optical axis of the eye, especially with regard to the contact lens design of the invention.
These and other objects and advantages are accomplished by a multifocal lens configuration having a lens body with first and second surfaces, wherein at least one of the surfaces incorporates the invention and is defined three-dimensionally as being rotationally non-symmetric about the optical axis of the lens, and having what may be described in terms of polar coordinates as angular zones or sectors of differing curvature responsible for near, intermediate or distance vision or combinations thereof. The lens surface is by definition constructed of a plurality of individually defined semi-meridian sections radiating from the apical umbilical point on the lens surface at which the derivative of curvature vanishes. The plurality of defined semi-meridian sections form a continuous surface and each of the angular zones blend smoothly and without discontinuity into adjacent zones. Each of the curved semi-meridian sections may be differently and uniquely shaped, and is defined according to its shape and magnitude which may be constant within an angular zone or may vary within the angular zone in a continuous and regular manner.
The lens configuration will provide an accommodative effect simulating that of the non-presbyopic phakic eye over a full range of distances regardless of the size of the pupillary aperture. The lens configuration can be used in the design of an intraocular lens wherein one or both surfaces of the lens body may be provided with the novel surface of the invention such that the angular zones will contribute to the correction of the refractive error of the eye while also providing the desired accommodative effect. Similarly, the novel lens surface design may be incorporated into a contact lens, with the posterior surface of the contact lens conforming generally to the shape of the corneal surface of the eye. The particular angular extent of each of the angular zones of the lens surface design may vary to a great extent, thus giving a great amount of flexibility in the design of the multifocal lens for a particular patient.」(2欄36行ないし3欄68行)
(日本語訳)
「発明の概要
上記の記述に基づき、非老眼性有水晶体眼の構造をシミュレートする調節効果を提供する多焦点レンズ構成を規定する必要があることが判明した。それによって、遠距離から近距離の連続距離範囲にわたって明確な中心視力がもたらされる。この光学効果は、瞳孔開口部の大きさに関係なく、上述の全距離範囲にわたって達成されなければならない。従って本発明の主な目的は、有水晶体又は老眼患者に、瞳孔の大きさにかかわらず、遠方から近距離の連続的な距離にわたって明確な中心視力を提供する多焦点レンズ構成を提供することである。
本発明のもう一つの目的は、非点収差、色収差及び特に球面収差を大幅に低減するように作用する非球面又は曲率の遷移である半子午線部分によって、レンズの一方又は両方の面が規定される多焦点レンズの構成を提供することである。
本発明のもう一つの目的は、コンタクトレンズとして使用するための多焦点レンズ構成を提供することである。この中で、レンズの片面または両面が本発明の新規な表面設計を組み込んでいる。
本発明のさらにもう一つの目的は、眼内レンズに使用するための多焦点レンズ構成を提供することである。この中で、レンズの片方または両方の表面が本発明の新規な表面設計を組み込んでいる。
本発明のさらにもう一つの目的は、6メートル以上から30センチメートル未満までの任意の距離範囲にわたって明確な視野を与えるために、環状領域ではなく角度領域で規定される可変屈折力を含む多焦点レンズ構成を提供することである。
本発明のさらにもう一つの目的は、本発明を組み込んだレンズの片面または両面が規定された角度範囲を有する多焦点レンズ構成を提供することである。そのレンズでは、規定された各角度範囲が、眼の屈折異常の補正に特定の距離範囲で寄与する可変屈折力を持っている。
本発明のさらにもう一つの目的は、本発明を組み込んだレンズの片面または両面が、規定された角度距離を持ち、特定の遠用の眼の屈折誤差の補正に寄与する一定の屈折力の近距離視野領域を規定する多焦点レンズ構成を提供することである。
本発明のさらにもう一つの目的は、本発明を組み込んだレンズに一定のエッジ厚さを提供すること、または特定の球欠深さで本発明を組み込んだ表面に一定の半径を提供することである。
本発明のさらにもう一つの目的は、例え本発明のコンタクトレンズの設計に対してレンズが眼の光軸を中心として偏心したとしても、老眼または有水晶体眼で希望する光学的補正を一貫して提供するレンズを生み出すことである。
その他の及びこれらの目的および利点は、第1、第2の表面を持つレンズ本体を有する多焦点レンズ構成によって達成される。この中で、その表面の少なくとも1つは本発明を組込み、3次元的に光軸に関して回転非対称であると定義される。また、近距離、中間距離及び遠距離またはそれらの組み合わせ距離に対する異なる曲率の角度領域または扇形部分として極座標で記述され得るものを有する。レンズ表面は、曲率の導関数が消失するレンズ表面上の頂点臍点から放射状に個別に規定された複数の半子午線断面から構成されている。複数の規定された半子午線部は連続的な表面を形成し、各角度領域は滑らかかつ不連続な部分を持たないように隣接する領域混合される。湾曲した各半子午線部分は、異なる形で一意的に形成されてもよく、その形状及び大きさに従って規定さる。それらはある角度領域内で一定であっても、角度領域内で連続的かつ規則的に変化してもよい。
レンズの構成は、瞳孔の大きさにかかわらず、全範囲の距離にわたる非老眼性有水晶体眼の構成をシミュレートする調節効果を提供する。レンズの構成は、眼内レンズの設計に使用することができる。その中で、レンズ本体の片面または両面に本発明の新規な表面を設け、それによって角度領域が眼の屈折異常の補正に寄与する、任意の調節効果をも提供する。同様に、新規なレンズ表面設計はコンタクトレンズに組み込まれる可能性があり、コンタクトレンズの後面は一般に眼の角膜表面の形状に適合する。レンズ表面設計の各角度領域の特定の角度範囲は、大幅に変化させることができ、そのため、特定の患者の多焦点レンズの設計において多大な柔軟性を与える。」

(3)「Turning now to FIGS.10 and 11, there is shown another embodiment of the invention which may be advantageously utilized in a contact lens configuration. In contact lens design, it is important to provide the aspects of wearability and comfort, while attempting to incorporate the variable power characteristics of the invention. In a contact lens, it may therefore be desirable to maintain a constant edge thickness or slope at the edge of the contact lens. Alternatively, or in conjunction with a constant edge thickness, it is desirable on the ocular surface to maintain a constant semi-diameter at a specified sagittal depth. To achieve these characteristics, aspheric arcs may be utilized to define at least some of the semi-meridian sections making up the lens surface. By utilizing aspherical arcs, a constant semi-diameter or Y-value may be realized at a specified final sagittal depth.
In FIGS.10 and 11, there is shown a lens surface having constant semi-diameter values in the plane containing bisectors 165 and 166, as seen in FIG.11, while also incorporating the plurality of angular zones have differing curvature and contributing to near, intermediate or distance vision. In the embodiment as shown in FIG.10, the lens surface 160 includes first and second opposing distance vision zones 162 and 164 which are symmetrical about plane 165 and share a common bisector 166. Each of the distance vision zones 162 and 164 is shown to have an angular extent of 60.degree., which may vary if desired. The lens surface 160 also includes first and second opposing near vision zones 168 and 170 having 60.degree. angular extents which are symmetrical about plane 166 and share common bisector 165. Each of the distance vision zones 162 and 164 and near vision zones 168 and 170 are bounded by adjacent intermediate distance vision zones 171-174. The distance vision zones and near vision zones may individually have generally constant refractive power. As an example, the distance vision zones 162 and 164 of a convex surface of a contact lens may comprise semi-meridian sections with apical radii of 7.7 mm while near vision zones 168 and 170 may be comprised of semi-meridian sections with apical radii of 7.4 mm. The intermediate distance vision zones 171-174 will preferably be angularly transitional in power and curvature, ranging from equal to the adjacent distance vision zone to equal the adjacent near vision zone as previously described.
The lens surface 160 as seen in FIG.11 comprises a contact lens surface represented as having all semi-meridian sections defining surface 160 as being transitional in curvature or aspheric. Primary semi-meridian sections lying along the bisecting plane 166 of the distance vision zones 162 and 164 as well as bisecting plane 165 of the near vision zones 168 and 170 are shown. Along bisecting plane 166 through the distance vision zones 162 and 164 are formed two semi-meridian sections 176 and 177 which originate at the axial polar center 178 of lens surface 160 as previously described. In the embodiment as shown in FIG. 10, the semi-meridian sections 176 and 177 are equivalent within the respective distance vision zones 162 and 164. As an example, each of the semi-meridian sections 176 and 177 may be defined utilizing the polynomial values for Equation 1 as follows:
r=7.7,
e=0.6092,
x=1.495,
A=0,
B=0,
C=0,
F=0,
G=0,
H=0
Based upon the foregoing polynomial values for the semi-meridian sections 176 and 177, the calculated value of Y is 4.65 mm relating to the distance indicated as A for semi-meridian section 176. Similarly, bisecting plane 165 of the near vision zones 168 and 170 forms two equivalent semi-meridian sections, one being referenced as 179. In order to maintain a constant edge thickness for a contact lens configuration, and based upon the example given above for the semi-meridian sections 176 and 177 in the distance vision zones 162 and 164, the polynomial values for the semi-meridian section 179 would be as follows:
r=7.4,
e=0.627,
x=1.495,
A=0.005,
B=0.008,
C=0.017,
F=1.6,
G=2.4,
H=3.2
Based upon the polynomial values, the calculated value of Y for the semi-meridian section 179 is also 4.65 mm as indicated by the equivalent distance A for semi-meridian section 179. Based upon the above example for the semi-meridian sections in each of the distance and near vision zones of the lens surface 160, a contact lens configuration would be formed having a diameter of 9.3 mm with a constant edge thickness or semi-diameter as desired.」(13欄28行ないし14欄61行)
(日本語訳)
「ここで、図10及び11を参照すると、コンタクトレンズ構成において有効に利用され得る本発明の別の実施形態が示されている。コンタクトレンズ設計において、本発明の可変出力特性を組み入れようと試みる一方で、着用性および快適性の側面を提供することが重要である。したがって、コンタクトレンズにおいては、その端部で一定のエッジの厚さまたは傾斜を維持することが望ましい可能性がある。あるいは、または一定のエッジの厚さと併せて、指定された球欠深さで一定の半直径を維持することが眼球表面上では望ましい。これらの特性を達成するために、非球面弧を使用して、レンズ表面を構成する半経線断面の少なくとも一部を規定することができる。非球面弧を利用することにより、指定された最終球欠深さで一定の半径またはY値を実現することができる可能性がある。
図10および11には、図11に見られるように、二等分線165および166を含む面内に一定の半径値を有するレンズ面が示されている。ここで、複数の角度領域を組み込むことは、異なる曲率を有し、近距離、中間距離または遠距離視野に寄与している。図10に示す実施形態では、レンズ表面160は第1および第2の対向する遠距離視野領域162および164を含む。これらの領域は平面165に関して対称であり、共通の二等分線166を共有する。各遠距離視野領域162及び164は、60°の角度範囲を有するように示されており、必要に応じて変化させることができる。レンズ表面160はまた、60°の角度範囲を有する第1および第2の対向する近距離視野領域168および170を含む。これらの領域は平面166に関して対称であり、共通の二等分線165を有する。遠距離視野領域162、164および近距離視野領域168、170はそれぞれ、隣接する中間距離視野領域171?174によって境界を定められている。遠距離視野領域および近距離視野領域は、それぞれ概ね一定の屈折力を有する可能性がある。一例として、コンタクトレンズの凸面の遠距離視野領域162および164は、頂点曲率半径7.7mmの半子午線断面を構成し、近距離視野領域168および170は、頂点曲率半径7.4mmの半子午線断面を構成する可能性がある。中間距離視野領域171?174は上記で説明したように、それらの屈折力および曲率は、隣接する遠距離視野領域に等しい値から、隣接する近距離視野領域に等しい値の範囲まで角度的に変化する。
図11に見られるようなレンズ面160は、その面を曲率または非球面的に変化するように定義するすべての半子午線断面を有するように表されたコンタクトレンズ面を構成する。遠距離視野領域162および164の二等分面166に沿って、第1の半子午線断面が示されている。この面はまた、近距離視野領域168および170の二等分面165にも沿って位置している。前述したように、遠距離視野領域162および164を通る二等分面166は、レンズ表面160の軸方向の中心178に由来する2つの半子午線部176および177を形成する。図10に示した実施形態のように、半子午線部176および177は、それぞれ遠距離視野領域162および164内で等価である。例として、各半子午線部176および177は、多項式1の各項の値を以下のように使用して定義することができる。
r=7.7,
e=0.6092,
x=1.495,
A=0,
B=0,
C=0,
F=0,
G=0,
H=0
半子午線部分176および177に関する前述の上記の多項式の値に基づき、半子午線部分176についてAとして示される距離に関するYの計算値は4.65mmである。同様に、近距離視野領域168および170の二等分面165は、2つの同等の半子午線断面を形成し、一方は179として参照される。コンタクトレンズ構成の一定のエッジ厚さを維持するために、遠距離視野領域162および164内の半子午線部分176および177について上記した例に基づき、半子午線部分179の多項式の各項の値は以下の様になる。:
r=7.4,
e=0.627,
x=1.495,
A=0.005,
B=0.008,
C=0.017,
F=1.6,
G=2.4,
H=3.2
各項の値に基づいた、半子午線部179に対するYの計算値もまた、半子午線部179の等価距離Aによって示されるように4.65mmである。レンズ表面160の遠距離および近距離視野領域のそれぞれの半子午線断面についての上記の例に基づき、任意の一定のエッジ厚さまたは半直径を有する、直径9.3mmのコンタクトレンズ構成が形成される。」

(4)「



(5)上記(1)ないし(4)から、引用例1には、図10及び図11に示した具体的な態様として次の発明が記載されているものと認められる。
「第1、第2の表面を持つレンズ本体を有し、その表面の少なくとも1つは3次元的に光軸に関して回転非対称である、コンタクトレンズとして使用するための多焦点レンズであって、
一方の表面であるレンズ表面160は、60°の角度範囲を有する第1および第2の対向する遠距離視野領域162、164と、60°の角度範囲を有する第1および第2の対向する近距離視野領域168、170とを含み、
遠距離視野領域162、164および近距離視野領域168、170は、それぞれ、隣接する中間距離視野領域171?174によって境界を定められ、
遠距離視野領域162、164および近距離視野領域168、170は、それぞれ概ね一定の屈折力を有し、遠距離視野領域162、164は、頂点曲率半径7.7mmの半子午線断面を構成し、近距離視野領域168、170は、頂点曲率半径7.4mmの半子午線断面を構成する、
コンタクトレンズとして使用するための多焦点レンズ。」(以下「引用発明」という。)

2 引用例2の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2014/013523号(以下「引用例2」という。)には、次の事項が図とともに記載されている。
(1)「技術分野
[0001] 本発明は、ソフトタイプおよびハードタイプを含むコンタクトレンズに係り、特に装用状態での周方向の位置決め機能を備えたコンタクトレンズの関連技術に関する。
背景技術
[0002] コンタクトレンズにおいては、乱視矯正用の光学部や、老視を矯正する遠近両用の光学部を有する場合など、装用時に周方向の位置決めが必要とされる場合がある。例えば乱視矯正に用いられるトーリックレンズは、眼球の乱視軸とレンズの円柱軸の相対位置に関して高度で且つ安定した合致性が要求される。また、例えば老視矯正に用いられる遠近両用の多焦点レンズ等において、光学中心回りの周方向のレンズ度数分布が一様でないレンズデザインが採用されているレンズ等も、周方向の位置決めが必要とされる。
[0003] ところで、コンタクトレンズを装用状態下で周方向に位置決めする手法としては、従来から、実開昭48-13048号公報(特許文献1)に記載の「トランケーション法」や、特開平11-258553号公報(特許文献2)に記載の「プリズムバラスト法」、特開平8-304745号公報(特許文献3)に記載の「ダブルシン法」が、良く知られている。更に、近年では、米国特許第5100225号明細書(特許文献4)において「ペリバラスト法」も、提案されている。」

(2)「発明が解決しようとする課題
[0012] 本発明は上述の如き事情を背景として為されたものであり、その解決課題とするところは、良好な装用感と、優れた周方向の位置決め効果とを、一層高度に両立して達成することの出来る、新規な構造のコンタクトレンズおよびコンタクトレンズの製造方法を提供することにある。
課題を解決するための手段
[0013] かかる課題を解決するためになされた、コンタクトレンズに関する本発明の特徴とするところは、凸状のレンズ前面と凹状のレンズ後面を有しており、中央部分の光学部の周りに周辺部が設けられたコンタクトレンズにおいて、前記周辺部には装用状態で周方向位置決め作用を発揮する厚肉部と薄肉部が周方向で互いに離れた位置に設けられており、該周辺部における該厚肉部と該薄肉部との間に設けられて厚さ寸法が周方向で変化せしめられた変化領域には、前記レンズ前面において該厚肉部から該薄肉部に向かって周方向で前記レンズ後面に近づく前面厚さ変化が付されていると共に、前記レンズ後面において該厚肉部から該薄肉部に向かって周方向で前記レンズ前面に近づく後面厚さ変化が付されているものである。
[0014] 本発明に従う構造とされたコンタクトレンズでは、コンタクトレンズの周辺部においてレンズ前面とレンズ後面とのそれぞれに対して厚さ変化が付されており、それら前後面の協働により、周辺部における薄肉部と厚肉部とが形成されている。これにより、レンズ前面とレンズ後面とのそれぞれに付すべき厚さ変化の勾配を小さく抑えつつ、レンズ厚さの変化率を大きくすることが可能になる。それ故、ツールバイトの加工表面への干渉を回避しつつ、充分に大きなレンズ厚さの変化率を設定して、優れた周方向位置決め性能を得ることが可能になる。しかも、一方の面だけに厚さ勾配を付した場合に比して、眼球側と眼瞼側とに圧力を分配することが可能になることから、装用感の向上も図られ得る。」

(3)「発明を実施するための形態
[0039] 以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
[0040] 先ず、図1乃至3に、本発明に従う構造とされたコンタクトレンズ10を示す。コンタクトレンズ10は、全体として部分的な略球殻形状を有しており、良く知られているように、眼球における角膜の表面に重ねて装用されることによって使用されるようになっている。なお、本発明は、ソフトタイプおよびハードタイプの何れのコンタクトレンズにも適用可能である。その材質も限定されるものでなく、例えばソフトタイプのコンタクトレンズとしては、従来から公知のPHEMA(ポリヒドロキシエチルメタクリレート)やPVP(ポリビニルピロリドン)等の含水性材料の他、アクリルゴムやシリコーン等の非含水性材料等も採用可能である。特に、PMMA(ポリメチルメタアクリレート)やSiMA/MMAポリマー等のガス透過性レンズ(RGPレンズ)などからなるハードコンタクトレンズへの適用も可能である。
[0041] より詳細には、本実施形態のコンタクトレンズ10は、レンズ外形の中心軸であるレンズ幾何中心軸12を通る一つの鉛直径方向線14に関して周辺部が線対称形状とされており、装用状態下で、この鉛直径方向線14が略鉛直方向となるようにされている。そして、レンズ幾何中心軸12を通り鉛直径方向線14と直交する径方向線である水平径方向線16が、装用状態下で、略水平方向となるようにされている。なお、径方向断面形状を示す図2および図3は、対称軸となる水平径方向線16上で、図1中の右方を基準(θ=0度)として、レンズ幾何中心軸12回りの周方向でθ=90度(図3)および180度(図2)の二つを示すものである。
[0042] さらに、本実施形態のコンタクトレンズ10は、図1に示された正面視において円形状とされており、図2?3に示されているように、略凸状球面とされたレンズ前面18と、略凹状球面とされたレンズ後面20を有している。
[0043] また、かかるコンタクトレンズ10は、構造上、中央部分において正面視で略円形に広がる光学部22と、光学部22の周囲を取り囲むようにして正面視で略円環形状に広がる周辺部24と、周辺部24の周囲でレンズ最外周縁部に位置してレンズ前後面を接続するエッジ部26とによって構成されている。
[0044] 光学部22は、要求される視力矯正機能等の光学特性として、例えば単一焦点や二以上の多焦点のレンズ度数を実現するように、レンズ前面18とレンズ後面20に対して適当な曲率半径の球面や非球面をベースとした光学面形状が与えられる。特に、本発明が有利に適用される乱視矯正用コンタクトレンズでは、要求される乱視矯正用の光学特性を光学部22に付与するために、光学部22のレンズ前面18とレンズ後面20の少なくとも一方において、適宜の円柱度数が、適宜の円柱軸角度をもって発現されるように、円柱レンズ面が組み合わされる。
・・・略・・・
[0052] 具体的には、周辺部24には、鉛直径方向線14上で対向位置する上側領域および下側領域に一対の薄肉部30,30が形成されていると共に、水平径方向線16上で対向位置する左側領域および右側領域に一対の厚肉部32,32が形成されている。一対の薄肉部30,30に対して、一対の厚肉部32,32は、相対的に厚肉形状とされている。また、レンズの左右に位置する一対の厚肉部32,32は互いに鉛直径方向線14を挟んで対称形状とされており、水平径方向線16を跨いで周方向の上下両側に延び出す所定寸法に亘って形成されている。」

(4)「[0087][実施例]
本発明の実施例として、前記第一の実施形態の構造に従うコンタクトレンズを作製して、コンタクトレンズの装用感向上の効果および周方向安定性向上の効果を確認するための試験を行った。かかる実施例のコンタクトレンズは、変化領域34におけるレンズ前面18の周方向厚さ方向変化量(前面寄与)と、変化領域34におけるレンズ後面20の周方向厚さ方向変化量(後面寄与)とを等しくしたものである。
[0088] また、比較例として2種類のコンタクトレンズを用意した。かかる比較例のコンタクトレンズは、変化領域34における周方向厚さ方向変化量がレンズ前面18のみに設けられているもの(比較例1)と、変化領域34における周方向厚さ方向変化量がレンズ後面20のみに設けられているもの(比較例2)とした。
[0089] 実施例、比較例1、比較例2の各コンタクトレンズにおける各寸法は以下の通りである。曲率半径(BC)を8.60mm、レンズ外径(DIA)を14.5mm、中央厚さ(CT)を0.08mm、度数(Power)を-3.00D、加入度(ADD)を+2.50Dとした。また、一対の薄肉部30,30のレンズ幾何中心軸12回りの角度θa をそれぞれ40度、一対の厚肉部32,32のレンズ幾何中心軸12回りの角度θb をそれぞれ40度、各変化領域34のレンズ幾何中心軸12回りの角度θa-b をそれぞれ50度とした。さらに、一対の薄肉部30,30の厚さ寸法:Taの最大値をそれぞれ0.14mm、一対の厚肉部32,32の厚さ寸法:Tbの最大値をそれぞれ0.34mmとした。」

(5)「[図1]

[図2]

[図3]



(6)上記(1)ないし(5)からみて、引用例2には、以下の事項が記載されているものと認められる。
「装用状態での周方向の位置決め機能を備えたコンタクトレンズであって、
凸状のレンズ前面と凹状のレンズ後面を有しており、中央部分の光学部の周りに周辺部が設けられ、前記周辺部には装用状態で周方向位置決め作用を発揮する厚肉部と薄肉部が周方向で互いに離れた位置に設けられており、該周辺部における該厚肉部と該薄肉部との間に設けられて厚さ寸法が周方向で変化せしめられた変化領域には、前記レンズ前面において該厚肉部から該薄肉部に向かって周方向で前記レンズ後面に近づく前面厚さ変化が付されていると共に、前記レンズ後面において該厚肉部から該薄肉部に向かって周方向で前記レンズ前面に近づく後面厚さ変化が付されており、
これにより、レンズ前面とレンズ後面とのそれぞれに付すべき厚さ変化の勾配を小さく抑えつつ、レンズ厚さの変化率を大きくすることが可能になり、充分に大きなレンズ厚さの変化率を設定して、優れた周方向位置決め性能を得ることが可能にしたこと。」(以下「引用例2の記載事項」という。)

第4 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明は、第1、第2の表面を持つレンズ本体を有するものであるから、本願発明1の「対向に設置された第1の表面と第2の表面」との構成を備える。
イ 引用発明において、60°の角度範囲を有する第1および第2の対向する遠距離視野領域162、164と、60°の角度範囲を有する第1および第2の対向する近距離視野領域168、170の各領域が扇形領域といえ、各扇形領域が交互に配列されていることは明らかである。また、引用発明において、遠距離視野領域162、164および近距離視野領域168、170は、それぞれ概ね一定の屈折力を有し、遠距離視野領域162、164は、頂点曲率半径7.7mmの半子午線断面を構成し、近距離視野領域168、170は、頂点曲率半径7.4mmの半子午線断面を構成するものである。そうすると、引用発明において、各領域のレンズの径方向に沿った曲率は円弧方向に沿って固定値であるといえ、また、「遠距離視野領域162、164」の曲率より「近距離視野領域168、170」の曲率が大きいといえる。してみると、引用発明の「近距離視野領域168、170」及び「遠距離視野領域162、164」は、それぞれ本願発明1の「第1の扇形領域」及び「第2の扇形領域」に相当し、引用発明と、本願発明1とは、「それぞれ前記第1の表面にレンズの径方向に沿った第1の曲率を有し、且つ前記第1の曲率が前記レンズの円弧方向に沿って固定値となる2つの第1の扇形領域と、前記第1の扇形領域と交互に配列され、それぞれ前記第1の表面に前記径方向に沿った第2の曲率を有し、且つ前記第2の曲率が前記円弧方向に沿って固定値となり、前記第1の曲率が前記第2の曲率よりも大きい2つの第2の扇形領域と、」「を含む」点で一致する。
ウ 引用発明の両「半子午線」は、技術常識からみて互いに垂直であることは明らかであるから、引用発明の両「半子午線」と、本願発明1の「互いに垂直である水平子午線および垂直子午線」とは、「互いに垂直である2つの子午線」で一致する。
エ 引用発明の「コンタクトレンズとして使用するための多焦点レンズ」と、本願発明1の「コンタクトレンズであるトーリックレンズ」とは、「コンタクトレンズであるレンズ」である点で一致する。
オ 上記アないしエからみて、本願発明1と引用発明とは、
「対向に設置された第1の表面と第2の表面と、
それぞれ前記第1の表面にレンズの径方向に沿った第1の曲率を有し、且つ前記第1の曲率が前記レンズの円弧方向に沿って固定値となる2つの第1の扇形領域と、
前記第1の扇形領域と交互に配列され、それぞれ前記第1の表面に前記径方向に沿った第2の曲率を有し、且つ前記第2の曲率が前記円弧方向に沿って固定値となり、前記第1の曲率が前記第2の曲率よりも大きい2つの第2の扇形領域と、
互いに垂直である2つの子午線と、
を含む、コンタクトレンズであるレンズ。」である点で一致し、次の点で相違する。

・相違点1
本願発明1は、「トーリックレンズ」であるのに対し、
引用発明は、トーリックレンズといえるのかどうかが明らかでない点。

・相違点2
本願発明1では、「互いに垂直である水平子午線および垂直子午線を更に含み、前記トーリックレンズの前記水平子午線に沿った最大厚さが前記トーリックレンズの前記垂直子午線に沿った最大厚さよりも大きいものである」のに対し、
引用発明では、互いに垂直な2つの子午線がそれぞれ垂直子午線又は水平子午線といえるのか明らかでないとともに、一方の子午線に沿った最大厚さが他方の子午線に沿った最大厚さよりも大きいどうかも明らかでない点。

(2)判断
事案に鑑み、上記相違点2について検討する。
ア 引用発明は、引用例1の2欄44行ないし49行に記載されているように、瞳孔の大きさにかかわらず、遠方から近距離の連続的な距離にわたって明確な中心視力を提供することを主な目的とし、引用例1の3欄17行ないし21行に記載されているように、レンズが一定のエッジ厚さを有することを目的の一つとしているものである。また、引用例1の2欄55行には「astigmatism」と記載されているが、この用語は文脈からみて「乱視」ではなく、レンズの「非点収差」のことを意味するものであり、引用例1のその他の箇所にも、乱視矯正に関する記載はない。
イ 上記アからみて、引用発明のコンタクトレンズは、瞳孔の大きさの個人差に関わらず、遠距離から近距離の連続的な距離にわたって矯正力が維持されるものであり、レンズの軸周りの回転有無には関係なく、一定のエッジ厚さを有していてもよいものである。してみると、引用発明のコンタクトレンズは、回転防止する必要がないものであるから、引用例2の記載事項のような回転防止手段を適用する動機がなく、引用発明のコンタクトレンズは、一定のエッジ厚さを有することが好ましいのであるから、引用例2の記載事項を適用することに阻害要因があるともいえる。
ウ 以上のとおり、引用例2の記載事項を考慮しても、引用発明において、一方の子午線に沿った最大厚さが他方の子午線に沿った最大厚さよりも大きいものとなすことは当業者が容易に想到し得たものとはいえない。そして、本願の明細書の【0004】等に記載されているように、本願発明により、従来に比して、メーカの工程の簡単化、在庫コストの低減に加え、レンズの着用快適性及び目の健康の改善を達成できる、乱視矯正可能なレンズを提供できるというものであり、目的、課題及び効果の点で、本願発明1と引用発明とは異質のものである。
エ したがって、引用例1には、上記相違点2に係る事項が開示されてなく、しかも、当該事項が原査定で引用された他の引用文献から想到容易であるともいえないから、上記相違点1について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者が容易に発明することができたものではない。

2 本願発明2ないし19について
本願発明1が、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえないのであるから、本願発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加した本願発明2ないし19も同様に、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。

第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は、本件補正前の請求項1ないし19は、引用例1及び2に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。しかしながら、上記のとおり、本願発明1ないし19は、引用例1及び引用例2に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。したがって、原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
当審では、本件補正前の請求項1には「前記トーリックレンズの前記水平子午線に沿った最大厚さが前記トーリックレンズの前記垂直子午線に沿った最大厚さよりも大きいものである、・・・を含むトーリックレンズ。」と記載され、該「トーリックレンズ」はコンタクトレンズに限らず眼鏡レンズ等の任意のレンズを含むと解されるが、発明の詳細な説明には、「水平子午線に沿った最大厚さ」が「垂直子午線に沿った最大厚さよりも大きい」という過回転防止手段を備えたトーリックレンズが、コンタクトレンズ以外のレンズであることの具体的な記載はないから、本件補正前の請求項1ないし19に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものではないとの拒絶の理由(特許法第36条第6項第1号)を通知している。
しかしながら、本件補正によって、本件補正前の請求項1の「・・・を含む、トーリックレンズ。」は、本件補正後の請求項1において「・・・を含む、コンタクトレンズであるトーリックレンズ。」と補正されることにより、これらの拒絶の理由は解消した。
よって、本願発明1ないし19は、発明の詳細な説明に記載したものである。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-03-06 
出願番号 特願2014-181252(P2014-181252)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02C)
P 1 8・ 537- WY (G02C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 渡▲辺▼ 純也小西 隆山▲崎▼ 和子  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 鉄 豊郎
関根 洋之
発明の名称 トーリックレンズ  
代理人 葛和 清司  

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