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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 A61B 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61B 審判 査定不服 6項4号請求の範囲の記載形式不備 取り消して特許、登録 A61B 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 A61B |
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管理番号 | 1337719 |
審判番号 | 不服2017-7748 |
総通号数 | 220 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-04-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-05-30 |
確定日 | 2018-03-13 |
事件の表示 | 特願2012-211424「磁気共鳴イメージング装置及び画像処理装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 4月17日出願公開、特開2014- 64703、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成24年9月25日の出願であって、平成28年6月30日付けで拒絶理由が通知され、同年9月5日に意見書及び手続補正書が提出され、平成29年2月20日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)されたところ、同年5月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。 その後当審において平成30年1月22日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年1月29日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 原査定の概要 原査定の概要は、以下のとおりである。 1 請求項1、2、7、8に係る発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。 2 請求項1、2、7、8に係る発明は引用文献1に基づいて、請求項4、5に係る発明は引用文献1-2に基づいて、それぞれ、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1 特開2010-201154号公報 2 特開2006-61472号公報 3 この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 すなわち、請求項3の「前記閾値以上の輝度値を有する画素が占める面積の各血流画像間におけるばらつき」「が大きいほど前記腫瘍の悪性度が高い」ことを直接裏付けるデータは、発明の詳細な説明には、開示されていない。 第3 本願発明 本願請求項1-6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明6」という。)は、平成30年1月29日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-6に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は当審にて分説し、以下のとおりA)-D)の見出しを付した。 「 【請求項1】 A)被検体の乳房における血流を識別可能にする反転回復パルスを印加してから反転時間が経過した後に磁気共鳴データの収集を開始するシーケンスを前記反転時間を異ならせて複数回実行するシーケンス制御部と、 B)前記シーケンスによって収集された磁気共鳴データに基づいて、前記反転時間が異なる複数の血流画像を生成する生成部と、 C)前記反転時間が異なる複数の血流画像それぞれについて、関心領域内の輝度値の代表値が所定の閾値以上となる血流画像の数を評価して、該当する血流画像の数が多いほど腫瘍の悪性度が高いと鑑別する鑑別部と D)を備えたことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。」 なお、本願発明2-6の概要は以下のとおりである。 本願発明2-4は、本願発明1を減縮した発明である。 本願発明5は、本願発明1の「乳房」を「所定の部位」とした発明である。 本願発明6は、本願発明1の「鑑別部」の構成C)をすべて備えた「画像処理装置」に関する発明である。 第4 引用文献、引用発明等 1 引用文献1について (1)引用文献1に記載された事項 原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である引用文献1(特開2010-201154号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審にて付した。以下同様。)。 (引1a)「【技術分野】 【0001】 本発明は、被検体の原子核スピンをラーモア周波数の高周波(RF: radio frequency)信号で磁気的に励起し、この励起に伴って発生する核磁気共鳴(NMR: nuclear magnetic resonance)信号から画像を再構成する磁気共鳴イメージング(MRI: Magnetic Resonance Imaging)装置に係り、特に、造影剤を用いずに血流像を得る非造影(non-contrast enhanced) MRA (Magnetic Resonance Angiography)を実施することが可能な磁気共鳴イメージング装置に関する。 ・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 しかしながら、従来のDCE画像に基づく胸部における腫瘍の鑑別方法では、十分なコントラストで血流像が得られる最初の時相が造影剤を注入してから約60秒以内のwash-in部分であるため、造影剤を注入してから約60秒以内において造影剤による最初の染まり点を造影効果として取得しないと十分なコントラストで血流像を得ることができない。このため、時間分解能に制約があるという問題がある。また、時間分解能が制限されることによって、高速撮像を行っても空間分解能が低下する。このため、従来法では、5mm以下の腫瘍の描出が困難となる。 【0007】 さらに、従来のDCE画像に基づく腫瘍の検査では、Gd系の造影剤の投与が必要であるが、近年、Gd系の造影剤と腎性全身性繊維症(NSF: Nephrogenic Systemic Fibrosis)との間に関連性があることが指摘されている。 【0008】 本発明はかかる従来の事情に対処するためになされたものであり、より安全かつ時間分解能および空間分解能の制限を受けることなく被検体内の腫瘍が良性であるか悪性であるのかを容易に鑑別するための血流情報を収集することが可能な磁気共鳴イメージング装置を提供することを目的とする。 【0009】 また、本発明の他の目的は、被検体の胸部において、より安全かつ時間分解能の制限を受けることなく微小な腫瘍であっても良好に描出することが可能な磁気共鳴イメージング装置を提供することである。」 (引1b)「【0032】 図2は、図1に示すコンピュータ32の機能ブロック図である。 【0033】 コンピュータ32は、プログラムにより撮像条件設定部40、シーケンスコントローラ制御部41、k空間データベース42、画像再構成部43、画像データベース44および血流情報作成部45として機能する。撮像条件設定部40は、血流像取得シーケンス設定部40AおよびTIME-SLIP (t-SLIP: time-Spatial Labeling Inversion Pulse)シーケンス設定部40Bを有し、TIME-SLIPシーケンス設定部40Bは、TAG領域設定部40CおよびBBTI設定部40Dを有する。また、血流情報生成部45は、血流像作成部45A、信号強度変化取得部45Bおよび腫瘍鑑別部45Cを有する。 【0034】 撮像条件設定部40は、入力装置33からの指示情報に基づいてパルスシーケンスを含む撮像条件を設定し、設定した撮像条件をシーケンスコントローラ制御部42に与える機能を有する。 ・・・ 【0042】 TIME-SLIP法は、撮像領域に流入する血液のラベリング(タグ付けまたは標識化ともいう)または識別を行うためのスピンラベリングパルスをプレパルスとしてFBIシーケンスやSSFPシーケンス等のイメージング用のシーケンスに先立って印加することによって画像のコントラストを制御する手法である。尚、血液のスピンラベリングを行うためのスピンラベリングパルスは、ASL (Arterial spin labeling)パルスと呼ばれる。TIME-SLIP法では、複数のASLパルスで構成されるTIME-SLIPパルスが印加される。 【0043】 図3は、図2に示す撮像条件設定部40において設定されるTIME-SLIP法によるパルスシーケンスの一例を示す図である。 【0044】 図3において、ECGはECG信号を、RFは、RF送信パルスを、Gssはスライス選択(slice selection)用の傾斜磁場パルスを、Groは読出し(RO: readout)用の傾斜磁場パルスを、Gpeは位相エンコード(PE: phase encode)用の傾斜磁場パルスを、Δfは、RF送信パルスとともに印加される調整用の傾斜磁場パルス、ECHOは受信エコー信号を、それぞれ示す。 【0045】 図3に示すようにTIME-SLIPシーケンスでは、イメージング用のFBI法によるFASEシーケンスまたはTrueSSFPシーケンス等のSSFPシーケンスに先立って撮影領域に流入する血液をラベリングまたは識別するためのTIME-SLIPパルスが印加される。すなわちTIME-SLIPシーケンスは、撮像領域に流入するタグ付けされた血液を選択的に描出或いはタグ付けされた撮像領域に外部から流入する血液が識別できるように血液信号を抑制するシーケンスである。 【0046】 TIME-SLIPパルスは、ECG信号のR波から一定の遅延時間(delay)経過後に印加され、TIME-SLIPパルスの印加タイミングから反転時間(TI: inversion time)に相当するBBTI (Black Blood Traveling Time)経過後にRF励起パルスが印加される。そして、RF励起パルスの印加から実効エコー時間(effective TE: effective echo time) TEeff経過後にk空間中心におけるエコー信号が収集される。このため、BBTI経過後に撮影領域に到達した血液のみの信号強度を強調または抑制することができる。 【0047】 TIME-SLIPパルスは、領域非選択反転回復(IR: inversion recovery)パルスおよび領域選択IRパルスで構成される。ただし、領域非選択IRパルスはON/OFFの切換が可能である。従って、TIME-SLIPパルスは、領域選択IRパルスのみで構成される場合と領域選択IRパルスおよび領域非選択IRパルスの双方で構成される場合がある。領域選択IRパルスは、撮影領域と独立に任意に設定することが可能である。領域非選択IRパルスをOFFにした状態で領域選択IRパルスで撮影領域内に設定されたタグ付け領域をラベリングして縦磁化を反転させると、TI後にタグ付け領域に流入するラベリングされていない(つまり縦磁化が反転していない)血液が到達した部分の信号強度が高くなる。このため血液の移動方向や距離を把握することができる。すなわち、TI後に撮影領域に到達した血液のみの信号強度を選択的に強調または抑制することができる。 ・・・ 【0049】 BBTI設定部40Dは、入力装置33からの操作情報に従ってTIME-SLIPシーケンスにおけるBBTIをTIME-SLIP法による撮像条件として設定する機能を有する。BBTIは、少なくとも2つ以上の複数の互に異なる値に設定されることが望ましい。 ・・・ 【0051】 画像再構成部43は、k空間データベース42からk空間データを取り込んでフーリエ変換(FT: Fourier transform)を含む画像再構成処理を施すことにより画像データを再構成する機能と、再構成して得られた画像データを画像データベース44に書き込む機能を有する。このため、画像データベース44には、画像再構成部43において再構成された画像データが保存される。従って、画像データベース44には、血流像取得シーケンス設定部40Aにより設定されたFBI法によるシーケンスまたはSSFPシーケンス等のパルスシーケンスに従って収集された画像データと、TIME-SLIPシーケンス設定部40Bにより設定されたTIME-SLIPパルスの印加を伴って単一または互に異なる複数のBBTIに対応する画像データとが保存される。 ・・・ 【0054】 信号強度変化取得部45Bは、TIME-SLIPシーケンスの単一または互に異なる複数のBBTIに対応する血流像データを血流像作成部45Aから取得して、特定の位置におけるBBTIの値またはBBTIの変化に対する信号強度の変化を血流情報として求める機能を有する。BBTIの変化に対する信号強度の変化は、数値として表すこともできるし、プロットすることによってカーブとして表すこともできる。また、信号強度の時間変化の特性を表す2次元データまたは3次元データの指標を作成することもできる。 ・・・ 【0057】 腫瘍鑑別部45Cは、信号強度変化取得部45Bにより求められた血流像データの信号強度の値または時間変化に基づいて、悪性の腫瘍が存在するか否か、または腫瘍部位が悪性であるか良性であるのかを鑑別し、鑑別結果を血流情報として作成する機能を有する。」 (引1c)「【0059】 (動作および作用) 次に磁気共鳴イメージング装置20の動作および作用について説明する。 【0060】 図4は、図1に示す磁気共鳴イメージング装置20により被検体Pの胸部におけるイメージングを行って腫瘍を含む血流像を描出し、描出した腫瘍が悪性であるか否かを鑑別するための血流情報を作成して表示する際の流れを示すフローチャートであり、図中Sに数字を付した符号はフローチャートの各ステップを示す。 ・・・ 【0068】 TIME-SLIPシーケンスのBBTIは、BBTI設定部40Dにおいて悪性腫瘍と良性腫瘍との鑑別を行うことが可能な単一または複数の値に設定される。一般に、腫瘍が悪性である場合には腫瘍が栄養血管からより早い速度で栄養される。このため、BBTI=1000 ms程度で収集された血流像およびBBTI=2000 ms程度で収集された血流像の双方において腫瘍が高信号部として描出されることが知られている。一方、腫瘍が良性である場合には腫瘍が悪性である場合に比べて遅い速度で腫瘍が栄養される。このため、BBTI=1000 ms程度で収集された血流像では腫瘍が高信号部として描出されないが、BBTI=2000 ms程度で収集された血流像では腫瘍が高信号部として描出されることが知られている。 【0069】 従って、少なくともBBTIを1300程度以下の値とする血流像データを収集すれば、FBI法による血流像上で描出された腫瘍が悪性であるか良性であるのかを判定することができる。そのため、BBTIは1300程度以下の値を少なくとも含むように設定される。ただし、腫瘍の鑑別の精度向上のためには、悪性腫瘍において信号強度の時間変化がピークとなる前後における複数のBBTIの値を設定することが望ましい。BBTIは、例えば1300前後の700, 1000, 1500, 2000, 2500に設定される。 ・・・ 【0080】 一方、複数のBBTI値に対応する血流像データが収集されている場合には、BBTIごとの腫瘍部分における信号値の変化を示す血流のパーフュージョンカーブや異なるBBTI間の複数の位置における信号値の変化の指標を示すマップデータを血流情報として信号強度変化取得部45Bにおいて作成することができる。特定の位置における信号値の変化は直線的とみなせるため、パーフュージョンカーブやマップデータを作成するためには、少なくとも2つの互に異なるBBTI値に対応する血流像データを収集する必要がある。 ・・・ 【0089】 パーフュージョンカーブや信号強度変化を表すマップデータ等の血流情報が得られると、腫瘍の鑑別を自動的に行うことも可能となる。 【0090】 その場合には、ステップS5において、腫瘍鑑別部45Cにより、腫瘍が悪性であるか否かの鑑別が実施され、鑑別結果が表示装置34に表示される。例えば、単一のBBTI値に対応する血流像データが得られている場合には、腫瘍鑑別部45Cは、腫瘍部分における信号強度または腫瘍部分における信号強度を非造影MRA法による血流像データの信号強度で正規化した値を予め設定した閾値と比較することにより腫瘍が悪性であるか良性であるかを鑑別することができる。また、複数のBBTI値に対応する血流像データに基づいてパーフュージョンカーブや信号強度変化を表すマップデータが得られている場合には、カーブの傾きやマップデータにおける特異点の有無を確認することにより腫瘍が悪性であるか良性であるのかを鑑別することができる。」 (引1d)図2は、以下のようなものである。 (引1e)図3は、以下のようなものである。 (引1f)図4は、以下のようなものである。 (2)引用文献1の記載から把握される事項 ア 【0043】段落の「TIME-SLIP法によるパルスシーケンス」と、【0045】、【0054】及び【0068】段落の「TIME-SLIPシーケンス」とが同一のパルスシーケンスを指していることは明らかであるから、「TIME-SLIPシーケンス」に用語を統一する。 イ 「TIME-SLIPシーケンスのBBTIは、悪性腫瘍と良性腫瘍との鑑別を行うことが可能な複数の値に設定され」(【0068】段落)、「互に異なる複数のBBTIに対応する画像データ」(【0051】段落)を取得するために、「シーケンスコントローラ制御部41」は、撮像条件設定部40において設定されたTIME-SLIPシーケンスをBBTIを異ならせて複数回実行するものであることは明らかである。 (3)引用文献1に記載された発明 上記(引1b)-(引1c)の下線部の事項に、上記(2)での検討を加えて整理すると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 なお、引用発明の認定の根拠となった対応する段落番号等を付記し、また、以下のとおりa1)-d)の見出しを付した。 「a1)撮像条件設定部40においてTIME-SLIPシーケンスが設定され(【0043】、上記(2)ア)、 a2)TIME-SLIPシーケンスでは、TIME-SLIPパルスが印加され(【0045】)、 a3)TIME-SLIPパルスは、領域非選択反転回復(IR: inversion recovery)パルスおよび領域選択IRパルスで構成され(【0047】)、 a4)TIME-SLIPパルスの印加タイミングから反転時間(TI: inversion time)に相当するBBTI (Black Blood Traveling Time)経過後にRF励起パルスが印加され、RF励起パルスの印加から実効エコー時間(effective TE: effective echo time) TEeff経過後にk空間中心におけるエコー信号が収集され(【0046】)、 a5)シーケンスコントローラ制御部41は、撮像条件設定部40において設定されたTIME-SLIPシーケンスをBBTIを異ならせて複数回実行し(上記(2)イ)、 b1)画像再構成部43は、k空間データベース42からk空間データを取り込んで画像再構成処理を施すことにより画像データを再構成する機能と、再構成して得られた画像データを画像データベース44に書き込む機能を有し(【0051】)、 b2)画像データベース44には、TIME-SLIPシーケンス設定部40Bにより設定されたTIME-SLIPパルスの印加を伴って互に異なる複数のBBTIに対応する画像データが保存され(【0051】)、 c1)信号強度変化取得部45Bは、TIME-SLIPシーケンスの互に異なる複数のBBTIに対応する血流像データを血流像作成部45Aから取得して、特定の位置におけるBBTIの値またはBBTIの変化に対する信号強度の変化を血流情報として求める機能を有し(【0054】)、 c2)腫瘍鑑別部45Cは、信号強度変化取得部45Bにより求められた血流像データの信号強度の値または時間変化に基づいて、悪性の腫瘍が存在するか否か、または腫瘍部位が悪性であるか良性であるのかを鑑別する機能を有する(【0057】)、 d)被検体Pの胸部におけるイメージングを行って腫瘍を含む血流像を描出し、描出した腫瘍が悪性であるか否かを鑑別する磁気共鳴イメージング装置20(【0060】)。」 2 引用文献2について 原査定で引用された、本願出願前に頒布された刊行物である引用文献2(特開2006-61472号公報)には、その【0004】段落に記載されているとおり、「左右の乳房における正常構造は略同じであるため、それらを比較して診断に利用することができる」という技術的事項が記載されている。 第5 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 ア A)について (ア)引用発明のa3)における「領域非選択反転回復(IR: inversion recovery)パルスおよび領域選択IRパルスで構成され」る「TIME-SLIPパルス」は、引用発明がd)「被検体Pの胸部におけるイメージングを行って腫瘍を含む血流像を描出」するものであることから、本願発明1のA)における「被検体の乳房における血流を識別可能にする反転回復パルス」に相当する。 (イ)引用発明のa4)における「BBTI (Black Blood Traveling Time)」は、「反転時間(TI: inversion time)に相当する」ものであるから、本願発明1のA)における「反転時間」に相当する。 (ウ)引用発明のa4)における「RF励起パルスが印加され、RF励起パルスの印加から実効エコー時間(effective TE: effective echo time) TEeff経過後にk空間中心におけるエコー信号が収集され」ることは、本願発明1のA)における「磁気共鳴データの収集を開始する」ことに相当する。 (エ)したがって、引用発明のa3)「領域非選択反転回復(IR: inversion recovery)パルスおよび領域選択IRパルスで構成され」る「TIME-SLIPパルス」を印加するa2)「TIME-SLIPシーケンス」であって、a4)「TIME-SLIPパルスの印加タイミングから反転時間(TI: inversion time)に相当するBBTI (Black Blood Traveling Time)経過後にRF励起パルスが印加され、RF励起パルスの印加から実効エコー時間(effective TE: effective echo time) TEeff経過後にk空間中心におけるエコー信号が収集され」るように、a1)「撮像条件設定部40において」「設定」される「TIME-SLIPシーケンス」を、a5)「BBTIを異ならせて複数回実行」する「シーケンスコントローラ制御部41」は、本願発明1のA)「被検体の乳房における血流を識別可能にする反転回復パルスを印加してから反転時間が経過した後に磁気共鳴データの収集を開始するシーケンスを前記反転時間を異ならせて複数回実行するシーケンス制御部」に相当する。 イ B)について (ア)引用発明のb1)における「k空間データベース42からk空間データを取り込んで画像再構成処理を施すことにより画像データを再構成する」ことは、本願発明1のB)における「前記シーケンスによって収集された磁気共鳴データに基づいて、」「血流画像を生成する」ことに相当する。 (イ)引用発明のb1)における「再構成して得られた画像データ」であるb2)「TIME-SLIPシーケンス設定部40Bにより設定されたTIME-SLIPパルスの印加を伴って互に異なる複数のBBTIに対応する画像データ」は、本願発明1のB)における「前記反転時間が異なる複数の血流画像」に相当する。 (ウ)したがって、引用発明のb1)「k空間データベース42からk空間データを取り込んで画像再構成処理を施すことにより」、b2)「TIME-SLIPシーケンス設定部40Bにより設定されたTIME-SLIPパルスの印加を伴って互に異なる複数のBBTIに対応する」b1)「画像データを再構成する機能」を有する「画像再構成部43」は、本願発明1のB)「前記シーケンスによって収集された磁気共鳴データに基づいて、前記反転時間が異なる複数の血流画像を生成する生成部」に相当する。 ウ C)について (ア)引用発明のc1)における「信号強度変化取得部45B」が「血流像作成部45Aから取得」する「TIME-SLIPシーケンスの互に異なる複数のBBTIに対応する血流像データ」は、本願発明1のC)における「前記反転時間が異なる複数の血流画像」に相当する。 (イ)引用発明のc2)「信号強度変化取得部45Bにより求められた血流像データの信号強度の値または時間変化に基づいて、悪性の腫瘍が存在するか否か、または腫瘍部位が悪性であるか良性であるのかを鑑別する」ことは、c1)「信号強度変化取得部45B」が「血流像作成部45Aから取得」する「TIME-SLIPシーケンスの互に異なる複数のBBTIに対応する血流像データ」に基づいて、腫瘍の悪性度を2段階(悪性であるか良性であるか)で鑑別することであるといえる。 (ウ)したがって、引用発明のc2)「信号強度変化取得部45Bにより求められた血流像データの信号強度の値または時間変化に基づいて、悪性の腫瘍が存在するか否か、または腫瘍部位が悪性であるか良性であるのかを鑑別する機能を有する」「腫瘍鑑別部45C」と、本願発明1の構成C)「前記反転時間が異なる複数の血流画像それぞれについて、関心領域内の輝度値の代表値が所定の閾値以上となる血流画像の数を評価して、該当する血流画像の数が多いほど腫瘍の悪性度が高いと鑑別する鑑別部」とは、前記反転時間が異なる複数の血流画像に基づいて、腫瘍の悪性度を鑑別する鑑別部である点で共通する。 エ D)について 引用発明のd)における「磁気共鳴イメージング装置20」は、本願発明1の「磁気共鳴イメージング装置」に相当する。 オ 上記ア-エから、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点がある。 (一致点) 「 被検体の乳房における血流を識別可能にする反転回復パルスを印加してから反転時間が経過した後に磁気共鳴データの収集を開始するシーケンスを前記反転時間を異ならせて複数回実行するシーケンス制御部と、 前記シーケンスによって収集された磁気共鳴データに基づいて、前記反転時間が異なる複数の血流画像を生成する生成部と、 前記反転時間が異なる複数の血流画像に基づいて、腫瘍の悪性度を鑑別する鑑別部とを有する 磁気共鳴イメージング装置。」 (相違点) 「鑑別部」における鑑別手法について、本願発明1は「前記反転時間が異なる複数の血流画像それぞれについて、関心領域内の輝度値の代表値が所定の閾値以上となる血流画像の数を評価して、該当する血流画像の数が多いほど腫瘍の悪性度が高いと鑑別する」のに対し、引用発明は「信号強度変化取得部45Bにより求められた血流像データの信号強度の値または時間変化に基づいて、悪性の腫瘍が存在するか否か、または腫瘍部位が悪性であるか良性であるのかを鑑別する」点。 (2)相違点についての判断 腫瘍の悪性度を識別する手法として、「前記反転時間が異なる複数の血流画像それぞれについて、関心領域内の輝度値の代表値が所定の閾値以上となる血流画像の数を評価して、該当する血流画像の数が多いほど腫瘍の悪性度が高いと鑑別する」ことは、引用文献1-2には記載も示唆もされていない。 したがって、本願発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用文献1-2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 2 本願発明2-6について 本願発明2-6も、本願発明1の「前記反転時間が異なる複数の血流画像それぞれについて、関心領域内の輝度値の代表値が所定の閾値以上となる血流画像の数を評価して、該当する血流画像の数が多いほど腫瘍の悪性度が高いと鑑別する」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献1-2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 第6 原査定についての判断 1 特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項について 上記「第3 本願発明」から「第5 対比・判断」に示したとおり、本願発明1-6は、拒絶査定において引用された引用文献1に記載された発明ではなく、また、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1-2に基づいて、容易に発明をすることができたものとはいえない。 2 特許法第36条第6項第1号について 平成29年5月30日付けの手続補正により解消された。 したがって、原査定の理由を維持することはできない。 第7 当審拒絶理由について 1 特許法第36条第6項第2号について 当審では、請求項1、6-7の「前記反転時間が異なる複数の血流画像それぞれを、血流画像の輝度値を閾値として評価」との記載、及び請求項2の「前記閾値以上の輝度値を含む血流画像」との記載が明確でないとの拒絶の理由を通知しているが、平成30年1月29日付けの補正によって、「前記反転時間が異なる複数の血流画像それぞれについて、関心領域内の輝度値の代表値が所定の閾値以上となる血流画像の数を評価して」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。 2 特許法第36条第6項第1号について 当審では、請求項1、6-7に係る発明は、発明の詳細な説明に開示がない「血流画像の数が多いほど腫瘍の悪性度が高いと鑑別」すること以外の評価方法を含むものであるとの拒絶の理由を通知しているが、平成30年1月29日付けの補正によって、「該当する血流画像の数が多いほど腫瘍の悪性度が高いと鑑別する」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。 第8 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2018-02-28 |
出願番号 | 特願2012-211424(P2012-211424) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
WY
(A61B)
P 1 8・ 537- WY (A61B) P 1 8・ 121- WY (A61B) P 1 8・ 538- WY (A61B) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 松本 隆彦 |
特許庁審判長 |
伊藤 昌哉 |
特許庁審判官 |
信田 昌男 松岡 智也 |
発明の名称 | 磁気共鳴イメージング装置及び画像処理装置 |
代理人 | 特許業務法人虎ノ門知的財産事務所 |