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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01B
管理番号 1337829
審判番号 不服2017-4066  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-03-21 
確定日 2018-03-20 
事件の表示 特願2013-121689「直流ケーブル及び電気絶縁組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月18日出願公開、特開2014-238996、請求項の数(17)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年6月10日の出願であって、平成28年8月24日付けで拒絶理由通知がされ、同年10月28日付けで手続補正がされ、同年12月13日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成29年3月21日に拒絶査定不服審判の請求がされ、同年4月24日に理由の補充がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成28年12月13日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1-17に係る発明は、以下の引用文献1-4に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1 特開2010-121056号公報
引用文献2 特開平11-86636号公報
引用文献3 米国特許出願公開第2012/694号明細書
引用文献4 特開昭62-105920号公報

第3 本願発明
本願請求項1-17に係る発明は、平成28年10月28日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-17に記載された事項により特定される発明(以下、「本願発明1」-「本願発明17」という。)であるところ、その請求項1、9に係る発明は次のとおりである。

「【請求項1】
導電部と、
前記導電部の外周を覆う絶縁層と、を備え、
前記絶縁層は、
少なくとも一部が架橋されたポリエチレンを含むベース樹脂と、
前記ベース樹脂を100重量部として、気相法により形成される酸化マグネシウムを0.1重量部以上5重量部以下含む無機充填剤と、
を含む電気絶縁組成物を主成分とし、
前記無機充填剤中のCaOの濃度およびFe_(2)O_(3)の濃度は、それぞれ、前記無機充填剤の全質量に対して、0.01質量%未満であり、
温度90℃、直流印加電界80kV/mmの条件下で測定したときの前記電気絶縁組成物の体積抵抗率は、4×10^(15)Ω・cm以上である
ことを特徴とする直流ケーブル。」

「【請求項9】
少なくとも一部が架橋されたポリエチレンを含むベース樹脂と、
前記ベース樹脂を100重量部として、気相法により形成される酸化マグネシウムを0.1重量部以上5重量部以下含む無機充填剤と、
を含み、
前記無機充填剤中のCaOの濃度およびFe_(2)O_(3)の濃度は、それぞれ、前記無機充填剤の全質量に対して、0.01質量%未満であり、
温度90℃、直流印加電界80kV/mmの条件下で測定したときの前記電気絶縁組成物の体積抵抗率は、4×10^(15)Ω・cm以上である
ことを特徴とする電気絶縁組成物。」

なお、本願発明2-8は、本願発明1を減縮した発明であり、本願発明10-17は、本願発明9を減縮した発明である。

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【請求項1】
直流特性を改善させる無機充填剤が添加され、直流電力ケーブルの絶縁層に用いられる架橋ポリエチレン組成物であって、
アミド系滑剤またはウレア系滑剤を0.01?0.5重量%含有することを特徴とする架橋ポリエチレン組成物。
【請求項2】
前記アミド系滑剤はオレイン酸アミドまたはステアリン酸アミドであることを特徴とする請求項1に記載の架橋ポリエチレン組成物。
【請求項3】
前記ウレア系滑剤はN・N’ジオクタデシルウレアであることを特徴とする請求項1に記載の架橋ポリエチレン組成物。
【請求項4】
前記無機充填剤の添加量は0.1?5重量%であり、下記(1)または(2)のいずれかであることを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載の架橋ポリエチレン組成物。
(1)BET法で測定した比表面積(m^(2)/g)に対する鉱物油の吸油量(cc/100g)の比が0.7以上、3.5以下であり、かつ、炭素含有率が97重量%以上であり、かつ、平均一次粒径が10?100nm、粒径が300nm以上の粗粒カーボンブラックの存在割合が1重量%以下であるカーボンブラック。
(2)平均一次粒径が10?100nmであり、かつ、純度95重量%以上の人工合成された酸化マグネシウム。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか一項に記載の架橋ポリエチレン組成物を絶縁層として用いることを特徴とする直流電力ケーブル。」

以上の記載(特に、下線部)から、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

〈引用発明〉
「直流特性を改善させる無機充填剤が添加され、直流電力ケーブルの絶縁層に用いられる架橋ポリエチレン組成物であって、
アミド系滑剤またはウレア系滑剤を0.01?0.5重量%含有し、
前記無機充填剤は、添加量が0.1?5重量%、平均一次粒径が10?100nmであり、かつ、純度95重量%以上の人工合成された酸化マグネシウムである、架橋ポリエチレン組成物。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【請求項1】架橋ポリエチレンから成り有極性無機充填剤を含む絶縁層を有する直流用ケ-ブルにおいて、前記絶縁層に無水マレイン酸変性ポリエチレンを含有することを特徴とする直流用ケ-ブル。
【請求項2】前記有極性無機充填剤が酸化マグネシウムである、請求項1の直流用ケ-ブル。
【請求項3】前記無水マレイン酸変性ポリエチレンの変性量が0.1%以上ある、請求項1又は2の直流用ケ-ブル。
【請求項4】前記無水マレイン酸変性ポリエチレンの添加量が1phr以上10phr以下である、請求項1ないし3いずれかの直流用ケ-ブル。
【請求項5】前記有極性無機充填剤の添加量が0.5phr以上5phr以下である、請求項1ないし4いずれかの直流用ケ-ブル。」

「【0010】
優れた直流絶縁特性を得るために架橋PE絶縁層に加える有極性無機充填剤としては、酸化マグネシウム(MgO)が適しており、特に純度99%以上のMgOが好ましく(例えば、特公昭57-21805号公報、特開平7-21850号公報に記載されている)、少なくとも0.5phr加えることが好ましい。一方、製造過程において連続押し出し工程での樹脂圧の過度の上昇を避けるためには、この充填剤量を5phr以下とすることが好ましい。」

3.引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。

「An example of an insulation material composition includes 0.5 to 5 parts by weight of surface-modified nano-sized cubic magnesium oxide, per 100 parts by weight of a crosslinked low-density polyethylene base resin.」(段落[0026])
訳:(絶縁材料組成物の例は、表面修飾されたナノサイズの立方晶酸化マグネシウム0.5から5質量部、架橋低密度ポリエチレン系樹脂100重量部とを備えている。)

「The insulation material composition may further include 0.1 to 3 parts by weight of a dicumyl peroxide crosslinking agent, and 0.1 to 2 parts by weight of an additive, the additive including an antioxidant, an ion scavenger, or a combination thereof.」(段落[0027])
訳:(絶縁材料組成物は、ジクミル過酸化物架橋剤0.1から3質量部、添加剤を0.1から2重量部、添加剤の酸化防止剤を含有する、イオン捕捉剤、またはそれらの組合せを含むことができる。)

「The magnesium oxide may be surface-modified with vinyl silane, stearic acid, oleic acid, amonopolysiloxane, and so on to prevent low dispersion of the magnesium oxide in the polyethylene base resin, and deterioration of electrical properties. For example, a related magnesium oxide may be hydrophilic, i.e., having high surface energy, while a related polyethylene base resin may be hydrophobic, i.e., having low surface energy. As a result, dispersion of the related magnesium oxide in the related polyethylene base resin may be low, and electrical properties may be deteriorated.」(段落[0028])
訳:(マグネシウム酸化物は、ビニルシラン、ステアリン酸、オレイン酸、amonopolysiloxane等を表面修飾されたポリエチレン系樹脂に、酸化マグネシウム、および電気的特性の劣化のばらつきを防止することができる。例えば、マグネシウム酸化物は、親水性であってもよく、即ち、高表面エネルギーを有する、ポリエチレン系樹脂は、疎水性であってもよいが、低い表面エネルギーを有する。結果として、ポリエチレン系樹脂に関連する酸化マグネシウムの分散は低いことがあり、電気的特性が悪化することがある。)

「Thus, the surface of the magnesium oxide is modified, which may be able prevent low dispersion of the magnesium oxide in the polyethylene base resin and subsequent deterioration of electrical properties. Without surface modification of the magnesium oxide, a gap is generated between the magnesium oxide and the polyethylene base resin, which causes a reduction in mechanical properties, and electrical properties such as breakdown strength.」(段落[0029])
訳:(酸化マグネシウムの表面を改質し、ポリエチレン系樹脂に酸化マグネシウムおよび電気的特性の劣化のばらつきを防止することができる。マグネシウム酸化物の表面をそのまま、酸化マグネシウム、ポリエチレン系樹脂は、機械的特性の低下を招き、耐圧等の電気的特性との間に隙間が生じる。)

「For example, surface modification of magnesium oxide with vinyl silane may provide an excellent dispersion in the polyethylene base resin and improved electrical properties. Hydrolysable groups of vinyl silane are chemically bonded to the surface of the magnesium oxide by a condensation reaction, so that the magnesium oxide is surface-modified. Next, a silane group of the surface-modified magnesium oxide reacts with the polyethylene base resin, which may provide an excellent dispersion.」(段落[0030])
訳:(例えば、ビニルシランと酸化マグネシウムの表面改質は、ポリエチレン系樹脂で且つ改良された電気特性に優れた分散体を提供することができる。ビニルシランの加水分解性基が縮合反応させることにより酸化マグネシウムの表面に化学的に結合し、マグネシウム酸化物である表面改質されたようになっている。表面改質された酸化マグネシウムのシラン基は、ポリエチレン系樹脂と反応して、良好な分散を提供することができる。)

「For example, the magnesium oxide has a purity between 99.9% and 100% and an average particle size of 500 nm or less. Further, the magnesium oxide may have both monocrystalline and polycrystalline structures.」(段落[0031])
訳:(例えば、マグネシウム酸化物は、99.9%と100%の純度で、平均粒径が500nm以下である。酸化マグネシウム単結晶および多結晶性の両方の構成であってもよい。)

「The surface-modified nano-sized cubic magnesium oxide is included at an amount of 0.5 to 5 parts by weight. In a case where the content of the surface-modified nano-sized cubic magnesium oxide is less than 0.5 parts by weight, it has a space charge suppression effect, but exhibits a relatively low DC breakdown strength. In a case that the content of the surface-modified nano-sized cubic magnesium oxide exceeds 5 parts by weight, it reduces the mechanical performance and continuous extrudability.」(段落[0032])
訳:(表面修飾されたナノサイズの立方晶酸化マグネシウムは、0.5から5重量部の量で含まれる。表面修飾されたナノサイズの立方晶酸化マグネシウムの含有量が0.5重量部未満である場合には、空間帯電抑制効果を有するが、比較的低いDC絶縁破壊強度を示す。表面修飾されたナノサイズの立方晶酸化マグネシウムの含有量が5重量部を超える場合には、機械的性能および連続押出成形性を低下させる。)

4.引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献4には、図面とともに次の事項が記載されている。

「本発明は、気相酸化反応を利用した高純度酸化マグネシウム微粉末の製造方法に関するものである。」(第1頁右欄第3行-第5行)

第5 対比・判断
1.本願発明9について
(1)対比
本願発明9と引用発明とを対比する。

引用発明の「架橋ポリエチレン組成物」は、「無機充填剤が添加され」ているものであるが、添加される前の添加の対象となった部分は「ベース樹脂」といえるから、引用発明の「架橋ポリエチレン組成物」の上記部分は、本願発明9の「少なくとも一部が架橋されたポリエチレンを含むベース樹脂」に相当する。
また、引用発明の「架橋ポリエチレン組成物」は、「直流電力ケーブルの絶縁層に用いられる」ものであるから、本願発明9の「電気絶縁組成物」に相当する。
したがって、本願発明9と引用発明は、「少なくとも一部が架橋されたポリエチレンを含むベース樹脂」を含む「電気絶縁組成物」である点で一致する。

引用発明が、「直流特性を改善させる無機充填剤が添加され」、「前記無機充填剤は、添加量が0.1?5重量%、平均一次粒径が10?100nmであり、かつ、純度95重量%以上の人工合成された酸化マグネシウムである」ものであることと、本願発明9が、「前記ベース樹脂を100重量部として、気相法により形成される酸化マグネシウムを0.1重量部以上5重量部以下含む無機充填材と、を含」むものであることとを対応付けると、両者は、「前記ベース樹脂を100重量部として、酸化マグネシウムを0.1重量部以上5重量部以下含む無機充填剤と、を含む」ものである点では共通する。
もっとも、引用発明の「人工合成された酸化マグネシウム」が、本願発明9のような「気相法により形成される酸化マグネシウム」であるのか否か明らかではない点では相違する。

以上をまとめると、本願発明9と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「少なくとも一部が架橋されたポリエチレンを含むベース樹脂と、
前記ベース樹脂を100重量部として、酸化マグネシウムを0.1重量部以上5重量部以下含む無機充填剤と、
を含む、
ことを特徴とする電気絶縁組成物。」

(相違点1)
酸化マグネシウムが、本願発明9では、「気相法により形成される」ものであるのに対し、引用発明では、「人工合成された」ものではあるものの、「気相法により形成される」とは特定はされていない点。

(相違点2)
本願発明9では、「前記無機充填剤中のCaOの濃度およびFe_(2)O_(3)の濃度は、それぞれ、前記無機充填剤の全質量に対して、0.01質量%未満であり、
温度90℃、直流印加電界80kV/mmの条件下で測定したときの前記電気絶縁組成物の体積抵抗率は、4×10^(15)Ω・cm以上である」のに対し、引用発明では、そのような特定はされていない点。

(2)相違点についての検討・判断
上記相違点1、2について併せて検討する。
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2-4を参酌しても、本願発明9の発明特定事項である、「前記無機充填剤中のCaOの濃度およびFe_(2)O_(3)の濃度は、それぞれ、前記無機充填剤の全質量に対して、0.01質量%未満であり、
温度90℃、直流印加電界80kV/mmの条件下で測定したときの前記電気絶縁組成物の体積抵抗率は、4×10^(15)Ω・cm以上である」点は記載されておらず、この点が本願出願前に公知技術ないし周知技術であったといえる証拠はない。引用文献4には、高純度酸化マグネシウム微粉末を気相酸化反応を利用して製造する方法が記載されているものの、仮に、そのように製造した酸化マグネシウムを、引用発明の架橋ポリエチレン組成物における添加された無機充填剤として用いたとしても、無機充填剤中のCaOの濃度およびFe_(2)O_(3)の濃度が、それぞれ、前記無機充填剤の全質量に対して、0.01質量%未満であることや、無機充填剤を添加した架橋ポリエチレン組成物の体積抵抗率が4×10^(15)Ω・cm以上になることを直ちに導くことはできない。
したがって、本願発明9は、引用発明及び引用文献2-4に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

2.本願発明1について
本願発明1は、本願発明9の「電気絶縁組成物」を主成分とした「直流ケーブル」の発明であり、「前記無機充填剤中のCaOの濃度およびFe_(2)O_(3)の濃度は、それぞれ、前記無機充填剤の全質量に対して、0.01質量%未満であり、
温度90℃、直流印加電界80kV/mmの条件下で測定したときの前記電気絶縁組成物の体積抵抗率は、4×10^(15)Ω・cm以上である」という本願発明9と同じ発明特定事項を備えるものであるから、本願発明9と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2-4に記載の技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

3.本願発明2-8、及び、本願発明10-17について
本願発明2-8、及び、本願発明10-17は、それぞれ、本願発明1、9を引用し、減縮した発明であって、それぞれ、本願発明1、9と同じ上記発明特定事項を備えるものであるから、本願発明1、9と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2-4に記載の技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1-17は、当業者が引用発明及び引用文献2-4に記載の技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-03-05 
出願番号 特願2013-121689(P2013-121689)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 和田 財太  
特許庁審判長 和田 志郎
特許庁審判官 山澤 宏
千葉 輝久
発明の名称 直流ケーブル及び電気絶縁組成物  
代理人 福岡 昌浩  
代理人 白鳥 昌宏  
代理人 加藤 勇蔵  

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