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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63B
管理番号 1337849
審判番号 不服2015-1345  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-01-23 
確定日 2018-02-27 
事件の表示 特願2010-532582「ゴルフスイングを解析するための装置及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年5月14日国際公開、WO2009/060010、平成23年1月27日国内公表、特表2011-502602〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成20年11月5日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2007年11月5日 アイルランド)を国際出願日とする出願であって,これまでの手続は次のとおりである。
平成24年 5月25日 拒絶理由通知書
平成24年11月30日 意見書・手続補正書
平成25年 7月23日 拒絶理由通知書
平成26年 1月31日 意見書・手続補正書
平成26年 9月22日 補正却下(平成26年1月31日付け手続補正書を却下)
平成26年 9月22日 拒絶査定
平成27年 1月23日 審判請求書・手続補正書
平成28年 9月21日 拒絶理由通知書
平成29年 1月26日 意見書・手続補正書
平成29年 3月 3日 拒絶理由通知書
平成29年 7月 6日 意見書・手続補正書

第2 当審の判断
1 補正内容
本願の請求項に係る発明(以下「本願発明1」?「本願発明8」という。)は,平成29年7月6日付けで補正された特許請求の範囲における,請求項に記載された事項によって特定されるべきものであり,その記載は次のとおりである。
「【請求項1】
ゴルフスイングを解析する方法であって,
(A)ゴルフスイングが実行された時のクラブの遠位端に対する,身体の中で生じ前記身体の中のセグメントを通じて伝達されるエネルギの発生および伝達に関連するエネルギパラメータを決定するために使用される情報を,測定手段を用いて前記ゴルフスイングから測定する段階であって,
測定手段によって測定された情報が,前記ゴルフスイングから測定された情報を含み,
(B)前記ゴルフスイングのプロセスにおけるエネルギパラメータを,前記パラメータを判断するように動作する電子プロセッサを用いて前記測定手段により測定された前記情報に基づいて判断する段階であって,
(a)関節によって接続されたセグメントまたは部分セグメントに関連付けられた前記身体の筋肉において局所エネルギを生成する段階と,
(b)セグメントまたは部分セグメントで生成された前記局所エネルギを前記セグメントまたは部分セグメントから遠位セグメントまたは部分セグメントに伝達する段階と,
(c)前記局所エネルギとして発生したエネルギを,ラッチ伝達,開始伝達,振り投げ伝達,殻竿伝達,半径短縮伝達を含む複数の機構を通じて,前記セグメントまたは前記部分セグメントを介して前記ゴルフクラブの遠位端へと伝達する段階と
を含む,段階と
(C)前記電子プロセッサによってアクセス可能な,または提供される,上達したスイングの基準として提示した最適化規則として参照される所定の基準と前記エネルギパラメータとを前記電子プロセッサを用いて自動的に比較することにより前記ゴルフスイングを解析する段階と,
を含み,
(D)前記ゴルフスイングの解析が,最終的に前記クラブに連結される,連結された競技者のセグメントまたは部分セグメントの関節と前記クラブによる運動連鎖の過程で,セグメントまたは部分セグメントおよび近位側セグメントまたは部分セグメントとの間の関節に関係する筋肉によって発生するエネルギ,または,近位側セグメントまたは部分セグメントからセグメントまたは部分セグメントに伝達されるエネルギに関係して,自動的に行われ,前記運動連鎖のクラブヘッドの端部が前記遠位端で指定され,足と地面の接続部は連鎖の近位端と指定されており,
(E)セグメントおよび部分セグメントが競技者の身体とクラブを含み,クラブセグメント,および,競技者の下半身,上半身,上部胴体,下部胴体,骨盤,右腕,右上部腕,右下部腕,右手,右足,左腕,左上部腕,左下部腕,左手,左足,腕,手および足セグメントを含み,
前記関節が,肩,肘,手首,右肩,右肘,右手首,左肩,左肘,左手首,上半身と下半身との間の関節,上部胴体と下部胴体との間の関節,胴体と骨盤との間の関節,下部胴体と骨盤との間の関節,骨盤と足との間の関節,および手とクラブとの間の関節を含み,
(F)エネルギパラメータが,
肩,肘,右肩,右肘,右手首,左肩,左肘および左手首の関節,上半身と下半身との間の関節,上部胴体と下部胴体との間の関節,胴体と骨盤との間の関節,下部胴体と骨盤との間の関節,骨盤と足との間の関節,および手とクラブとの間の関節に関連する筋肉によって発生するエネルギに関係し,
前記エネルギ伝達機構で伝達されるエネルギに関係し
運動エネルギの前記ラッチ伝達は,インスタントセグメントが,近位側セグメントで発生されるか又は存在しているエネルギにより近位側セグメントと共に加速されるように,前記近位側セグメントから前記インスタントセグメントへのエネルギの伝達として定義され,
運動エネルギの前記開始伝達は,前記近位側セグメントの局所エネルギがインスタントセグメントを開始するために使用されるとき,前記インスタントセグメントと前記近位側セグメントとの間で運動量,運動エネルギが伝達されることとして定義され,
運動エネルギの前記振り投げ伝達は,ターゲット側肩関節を前記近位側セグメントに対して平行移動又は回転させることで遠位側部分を加速する力による伝達として定義され,
前記殻竿伝達は,互いに接続された近位側セグメント及び遠位側セグメントが同一方向に回転及び平行移動しているときに,前記近位側セグメントの運動エネルギの前記遠位側セグメントへの伝達として定義され,
前記半径短縮伝達は,回転中の競技者が身体の有効回転半径を短縮することによって身体の回転慣性モーメントを低減し,より遠位側部分の加速度が引き起こされるものとして定義されている,ことを特徴とするゴルフスイングを解析する方法。
【請求項2】
ゴルフスイングを専門家の介入なしに解析する方法であって,ゴルフスイングを解析することは,前記ゴルフスイングを解析するために必要なエネルギパラメータを測定し,前記パラメータを熟達したスイングの基準レベルと比較することによって,最大ゴルフヘッドスピードを取得し,前記ゴルフスイングの正確性を促進し,前記ゴルフスイングの制御性を改善し,前記ゴルフスイングのエネルギ発生及び伝達成分の一貫性を改善すること,または前記スイングによる競技者の怪我の危険性を特定して,前記ゴルフスイングを改善することに関係している,請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記測定手段により測定された情報は,力プレートまたは圧力パッドを含む力測定手段により測定された前記ゴルフゴルフスイングからの地盤反力情報を含み,前記スイングに関する情報は,トレーニングされた神経回路網を用いて前記スイングのエネルギパラメータを計算する人工知能手段により前記測定手段から受信されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記測定手段により測定された情報は,運動捕捉手段により測定された前記ゴルフスイングからの情報を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】ゴルフスイングを解析するための装置であって,
(A)ゴルフスイングが実行された時のクラブの遠位端に対する,身体の中で生じ前記身体の中のセグメントを通じて伝達されるエネルギの発生および伝達に関連するエネルギパラメータを決定するために使用される情報を前記ゴルフスイングから測定するように動作可能な測定手段であって,測定手段によって測定された情報が,前記ゴルフスイングから測定された情報を含む,測定手段と,
(B)前記ゴルフスイングのプロセスにおけるエネルギパラメータを,前記パラメータを判断するように動作する電子プロセッサを用いて前記測定手段により測定された前記情報に基づいて判断するように動作可能な電子プロセッサであって,前記プロセスは,
(a)関節によって接続されたセグメントまたは部分セグメントに関連付けられた前記身体の筋肉において局所エネルギを生成する段階と,
(b)セグメントまたは部分セグメントで生成された前記局所エネルギを前記セグメントまたは部分セグメントから遠位セグメントまたは部分セグメントに伝達する段階と,
(c)前記局所エネルギとして発生したエネルギを,ラッチ伝達,開始伝達,振り投げ伝達,殻竿伝達,半径短縮伝達を含む複数の機構を通じて,前記セグメントまたは前記部分セグメントを介して前記ゴルフクラブの遠位端へと伝達する段階と
を含む,電子プロセッサと,
及び
(C)前記電子プロセッサによってアクセス可能な,または提供される,上達したスイングの基準として提示した最適化規則として参照される所定の基準と前記エネルギパラメータとを前記電子プロセッサを用いて自動的に比較することにより前記ゴルフスイングを解析するように動作可能な電子プロセッサと,
を含み,前記ゴルフスイングの解析が,最終的に前記クラブに連結される,連結された競技者のセグメントまたは部分セグメントの関節と前記クラブによる運動連鎖の過程で,セグメントまたは部分セグメントおよび近位側セグメントまたは部分セグメントとの間の関節に関係する筋肉によって発生するエネルギ,または,近位側セグメントまたは部分セグメントからセグメントまたは部分セグメントに伝達されるエネルギに関係して,自動的に行われ,前記運動連鎖のクラブヘッドの端部が前記遠位端で指定され,足と地面の接続部は連鎖の近位端と指定されており,
(E)セグメントおよび部分セグメントが競技者の身体とクラブを含み,クラブセグメント,および,競技者の下半身,上半身,上部胴体,下部胴体,骨盤,右腕,右上部腕,右下部腕,右手,右足,左腕,左上部腕,左下部腕,左手,左足,腕,手および足セグメントを含み,
前記関節が,肩,肘,手首,右肩,右肘,右手首,左肩,左肘,左手首,上半身と下半身との間の関節,上部胴体と下部胴体との間の関節,胴体と骨盤との間の関節,下部胴体と骨盤との間の関節,骨盤と足との間の関節,および手とクラブとの間の関節を含み,
(F)ゴルフスイングを解析する前記電子プロセッサが,肩,肘,右肩,右肘,右手首,左肩,左肘および左手首の関節,上半身と下半身との間の関節,上部胴体と下部胴体との間の関節,胴体と骨盤との間の関節,下部胴体と骨盤との間の関節,骨盤と足との間の関節,および手とクラブとの間の関節のうち任意の1つに関連する筋肉によって発生するエネルギ,
または,
前記エネルギ伝達機構に関係するエネルギ伝達であって,
運動エネルギの前記ラッチ伝達は,インスタントセグメントが,近位側セグメントで発生されるか又は存在しているエネルギにより近位側セグメントと共に加速されるように,前記近位側セグメントから前記インスタントセグメントへのエネルギの伝達として定義され,
運動エネルギの前記開始伝達は,前記近位側セグメントの局所エネルギがインスタントセグメントを開始するために使用されるとき,前記インスタントセグメントと前記近位側セグメントとの間で運動量,運動エネルギが伝達されることとして定義され,
運動エネルギの前記振り投げ伝達は,ターゲット側肩関節を前記近位側セグメントに対して平行移動又は回転させることで遠位側部分を加速する力による伝達として定義され,
前記殻竿伝達は,互いに接続された近位側セグメント及び遠位側セグメントが同一方向に回転及び平行移動しているときに,前記近位側セグメントの運動エネルギの前記遠位側セグメントへの伝達として定義され,
前記半径短縮伝達は,回転中の競技者が身体の有効回転半径を短縮することによって身体の回転慣性モーメントを低減し,より遠位側部分の加速度が引き起こされるものとして定義されている,
エネルギ伝達,
に関係するエネルギパラメータを自動的に評価することによって,スイングを解析するように動作するようになっていることを特徴とする装置。
【請求項6】
ゴルフスイングを専門家の介入なしに解析する方法であって,ゴルフスイングを解析することは,前記ゴルフスイングを解析するために必要なエネルギパラメータを測定し,前記パラメータを熟達したスイングの基準レベルと比較することによって,最大ゴルフヘッドスピードを取得し,前記ゴルフスイングの正確性を促進し,前記ゴルフスイングの制御性を改善し,前記ゴルフスイングのエネルギ発生及び伝達成分の一貫性を改善すること,または前記スイングによる競技者の怪我の危険性を特定して,前記ゴルフスイングを改善することに関係している,請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記測定手段により測定された情報は,力プレートまたは圧力パッドを含む力測定手段により測定された前記ゴルフゴルフスイングからの地盤反力情報を含み,前記スイングに関する情報は,トレーニングされた神経回路網を用いて前記スイングのエネルギパラメータを計算する人工知能手段により前記測定手段から受信されることを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項8】
前記測定手段により測定された情報は,運動捕捉手段により測定された前記ゴルフスイングからの情報を含む,ことを特徴とする請求項5に記載の装置。」

2 当審の拒絶理由
当審において,平成29年3月3日付けで通知した拒絶理由(以下,「当審拒絶理由」という。)の概要は次のとおりである。
「本件出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第4項第1号,第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。」とした上で,具体的には,
請求項1には,不明瞭な記載があり,技術的に不明な点もあるため,ゴルフスイングの何をどのように測定して,測定した情報をどのように加工して,評価につなげているのかが,当業者が容易に実施できる程度に記載されていないため,請求項1に記載された発明特定事項が全体として,どのようにして「ゴルフスイングを解析」することができるのか理解できない。また,発明のカテゴリーが異なるだけで,実質的に同様の記載の請求項6も同様である。
請求項2には,技術的に不明な点があるため,本請求項が引用する請求項1において,「最大ゴルフヘッドスピードの取得」,「正確性」,「ゴルフスイングの制御性」,「ゴルフスイングの一貫性」,「スイングによる競技者の怪我の危険性」について,ゴルフスイングの何をどのように測定して,測定した情報をどのように加工すれば,上記の各情報を得ることができるのかについて何ら記載されておらず,本請求項についても記載されていないから,請求項2に記載された発明特定事項が全体として,どのようにして「ゴルフスイングを改善することに関係」しているのか理解できない。。また,発明のカテゴリーが異なるだけで,実質的に同様の記載の請求項7も同様である。
請求項3には,不明瞭な記載があり,技術的に不明な点もあるため,どのようにして「ゴルフスイングを解析」することができるのか理解できない。また,発明のカテゴリーが異なるだけで,実質的に同様の記載の請求項8も同様である。
請求項4には,技術的に不明な点があるため,どのようにして「ゴルフスイングを解析」することができるのか理解できない。また,発明のカテゴリーが異なるだけで,実質的に同様の記載の請求項9も同様である。
請求項5には,技術的に不明な点があるため,どのようにして「ゴルフスイングを解析」することができるのか理解できない。また,発明のカテゴリーが異なるだけで,実質的に同様の記載の請求項10も同様である。

なお,上記の当審拒絶理由は,平成29年1月26日付け手続補正書に対するものであって,本願の特許請求の範囲は,「第2 当審の判断,1 補正内容」の項に記載されたとおりに補正された。
そして,特許請求の範囲の請求項の構造に係る補正の概要は,平成29年1月26日付け手続補正書の請求項3及び8を削除し,請求項5乃至7の項番を1つずつ繰り上げ,請求項9及び10の項番を2つずつ繰り上げるというものである。
したがって,平成29年1月26日付け手続補正書における請求項(以下,「旧請求項」という。)と平成29年7月6日付け手続補正書における請求項(以下,「新請求項」という。)の対応関係は以下のとおりである。
旧請求項の請求項1は,新請求項の請求項1(そのまま)。
旧請求項の請求項2は,新請求項の請求項2(そのまま)。
旧請求項の請求項4は,新請求項の請求項3。
旧請求項の請求項5は,新請求項の請求項4。
旧請求項の請求項6は,新請求項の請求項5。
旧請求項の請求項7は,新請求項の請求項6。
旧請求項の請求項9は,新請求項の請求項7。
旧請求項の請求項10は,新請求項の請求項8。

3 特許法第36条第4項第1号について(請求項の項番は新請求項)
(1)請求項1及び請求項1と発明のカテゴリーが異なるだけで,実質的に同様の記載の請求項5について
「(A)ゴルフスイングが実行された時のクラブの遠位端に対する,身体の中で生じ前記身体の中のセグメントを通じて伝達されるエネルギの発生および伝達に関連するエネルギパラメータを決定するために使用される情報を,測定手段を用いて前記ゴルフスイングから測定する段階であって,
測定手段によって測定された情報が,前記ゴルフスイングから測定された情報を含み,
(B)前記ゴルフスイングのプロセスにおけるエネルギパラメータを,前記パラメータを判断するように動作する電子プロセッサを用いて前記測定手段により測定された前記情報に基づいて判断する段階であって,」と記載され,
上記記載は,「ゴルフスイングが実行された時のクラブの遠位端に対する,身体の中で生じ前記身体の中のセグメントを通じて伝達されるエネルギの発生および伝達に関連するエネルギパラメータを決定するために使用される情報」は,「測定手段を用いて前記ゴルフスイングから測定」されたものであり,
「ゴルフスイングのプロセスにおけるエネルギパラメータ」は,「パラメータを判断するように動作する電子プロセッサを用いて前記測定手段により測定された前記情報に基づいて判断」されたものであることを意味している。
しかしながら,「ゴルフスイング」の何の情報を測定し,それをどのように処理することで「ゴルフスイングのプロセスにおけるエネルギパラメータ」を判断するものであるかについて,本願発明の発明の詳細な説明には,抽象的又は機能的な技術手段の記載しかなく,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
なお,本願の発明の詳細な説明には以下の記載がある。
A 「【0013】
身体を通じたエネルギ発生及び伝達,及び最終的にクラブヘッドに直接に関連する特定の重要なスイングパラメータは,説明しやすいように,「エネルギパラメータ」と呼ぶものとする。エネルギパラメータを判断又は計算するのに使用される情報又はパラメータも,「エネルギパラメータ」と呼ぶものとする。本発明の別の態様は,重要なエネルギパラメータの識別である。
スイングがどのようにエネルギパラメータにより影響されるかを明記する基準又は規則は,説明しやすいように,「最適化規則」と呼ぶものとする。これらの基準は様々な方法で示すことができるが,本明細書において一貫性が得られるように,可能な場合には,最適化規則は,スイング熟達化を表す基準として示すものとする。このような最適化規則に沿わない進行的不具合は,スイング熟達度不足及びスイング誤差に対応することになる。
【0014】
図2は,エネルギパラメータデータ及び最適化規則データを使用してスイングを解析するためにシステムが使用される順次的な段階を示すブロック図である。図中で使用する説明上の略語は,以下の簡単な説明においては括弧内に示している。エネルギパラメータの測定値又は判断を可能にするスイング(S)に関する情報は,測定手段(MM)によって得られる。エネルギパラメータデータ手段(EPDM)は,情報からエネルギパラメータを判断する。最適化規則データ手段(ORDM)はエネルギパラメータが判断される基準を供給し,解析手段は,スイングの解析結果(A)を発生させることができる。」
B 「【0062】
エネルギパラメータ,最適化規則,及び最適シーケンスの要約
以前の段落で説明したエネルギパラメータを以下のリストにおいて要約する。
-セグメント及び部分セグメント局所エネルギ/力の増強の開始及び完了時間。
-セグメント及び部分セグメント局所エネルギ/力の減衰の開始及び完了時間。
-平均値及びピーク値を含むセグメント及び部分セグメント局所エネルギ/力活性化のマグニチュード及び持続時間。
-接続セグメント間のラッチの時間及び移行特性。
-接続セグメント間のラッチ解除の時間及び移行特性。
-セグメントのピーク値の線形及び角運動エネルギレベル及び時間。
-局所筋肉群による変位によるピーク速度及び加速を含むスイングを通じた身体セグメント及びクラブセグメントとの角度位置,速度,及び加速度。
-局所筋肉群による変位によるピーク速度及び加速度を含むスイングを通じた身体セグメント及びクラブセグメントの線形位置,速度,及び加速度。
-ピーク速度及び加速度を含むスイングを通じた身体セグメント及びクラブセグメントとの絶対角度位置,速度,及び加速度。
-ピーク速度及び加速度を含むスイングを通じた身体セグメント及びクラブセグメントとの絶対線形位置,速度,及び加速度。
-クラブヘッド絶対速度を含む身体セグメント及びクラブセグメントの絶対速度。
-胴体セグメント及び腕セグメント間及びアームセグメント及びクラブセグメント間の角度位置,速度,及び加速度。
-身体セグメント及びクラブセグメントに関するバックスイングトップイベントの時間及び移行特性。
-バックスイングトップイベント時の様々な接続セグメント間の角度のマグニチュード。
-様々な接続セグメント間の最大筋肉伸張伸縮の時間。
-それらのセグメント間の筋肉伸張伸縮時間時の様々な接続セグメント間の角度のマグニチュード。
-連鎖に沿ったセグメント間の伝達として定められた運動エネルギラッチ伝達は,インスタントセグメントが近位側セグメントで発生されるか又は存在しているエネルギにより近位側セグメントと共に加速されるようにインスタントセグメントを加速中の近位側セグメントにラッチすることによるものである。
-インスタントセグメントの局所エネルギが近位側セグメントからインスタントセグメントを開始するために使用された時に運動量が交換され,運動エネルギが伝達される近位側セグメントからインスタントセグメントへの伝達として定められる運動エネルギのラッチ伝達。
-ターゲット側肩関節を平行移動又は回転させて遠位側部分を加速する弧を示して遠位側セグメントを振り投げる力による伝達として定められる振り投げ伝達。
-近位側セグメント及び遠位側セグメントの近位端がセグメントに作用する遠心力により減速される同じ方向に回転及び平行移動中である2つの接続セグメント内の既存の運動エネルギの最も遠位端への伝達として定められる殻竿伝達。
-回転中の競技者が有効回転半径を短縮することによって身体の回転慣性モーメントを低減し,より遠位側部分の加速度が引き起こされる運動エネルギの半径短縮伝達。
-バックスイング及び早期ダウンスイング時の位置重力エネルギの発生。
-ダウンスイング時の運動エネルギへの位置重力エネルギの変換。
-ダウンスイング時のクラブシャフト位置歪みエネルギの発生。
-ダウンスイング時の運動エネルギへのクラブシャフト位置歪みエネルギの変換。
-補助前部平面エネルギ発生及び伝達のカテゴリ。
-補助前部平面エネルギ発生及び伝達の特性。
-前部平面エネルギパラメータに関連する圧力中心位置,速度,加速度,及び移動範囲。」
C 「【0074】
好ましい方法及び装置
本発明の好ましい実施形態では,装置は,主として又は唯一測定地盤反力からスイングに対する情報を取得する。この実施形態の第1の変形においては,垂直力及び横力が測定され,装置は,双プラットフォーム力プレートを含む。第2の変形においては,垂直力だけが測定され,装置は双プラットフォーム力プレートを同じく含むが,両足を包含する高速圧力パッド構成も考慮することができる。第1の変形は,高精度化という相対的な利点を有する。第2の変形は,低コスト化の方法,構成簡素化,及び潜在的に軽量化及びより薄いという相対的な利点を有する。」
D 「【0077】
図3(なお,本願明細書においては「図4」と記載されているが,当審で誤記と認めて上記のとおり認定した。また,段落【0061】における「図3」なる記載は,「図4」の誤記であると認める。)は,人工知能手段を使用してスイングにおける情報を検出及び処理する際の順次的な段階を示すブロック図である。図中で使用する説明上の略語は,以下の簡単な説明においては括弧内に示している。スイング(S)の経過に伴う地盤反力は,検出手段(DM)により検出される。検出手段からの情報は,スイングをより良く特徴付けるデータに早期処理手段(EPM)により処理される。このデータは,スイングのエネルギパラメータを処理又は判断する人工知能手段(AIM)により受信される。これらのエネルギパラメータは,次に,スイングの解析結果(A)を出すために使用される。」
上記A乃至Dの記載を総合すると,以下の事項が記載されていると認められる。
・身体を通じたエネルギ発生及び伝達,及び最終的にクラブヘッドに直接に関連する特定の重要なスイングパラメータを,「エネルギパラメータ」と呼ぶ
・エネルギパラメータを判断又は計算するのに使用される情報又はパラメータも,「エネルギパラメータ」と呼ぶ。
・スイングがどのようにエネルギパラメータにより影響されるかを明記する基準又は規則を,「最適化規則」と呼ぶ。
・エネルギパラメータの測定値又は判断を可能にするスイング(S)に関する情報は,測定手段(MM)によって得られ,エネルギパラメータデータ手段(EPDM)は,情報からエネルギパラメータを判断し,最適化規則データ手段(ORDM)はエネルギパラメータが判断される基準を供給し,解析手段は,スイングの解析結果(A)を発生させる。
・エネルギパラメータは,少なくとも28個の項目からなるリストに要約される。
好ましい方法及び装置
・装置は,主として又は唯一測定地盤反力からスイングに対する情報を取得する。
・スイング(S)の経過に伴う地盤反力は,検出手段(DM)により検出され,検出手段からの情報は,スイングをより良く特徴付けるデータに早期処理手段(EPM)により処理され,このデータは,スイングのエネルギパラメータを処理又は判断する人工知能手段(AIM)により受信され,これらのエネルギパラメータは,次に,スイングの解析結果(A)を出すために使用される。
しかしながら,地盤反力から,スイングに対する情報として,上記「B」に記載されるような少なくとも28個の項目からなるリストに要約されるエネルギパラメータをどのように得るかについての具体的な記載は何ら示されない。
さらに,図2,図3に示される実施例において,いわゆる希望的要件が記載されるのみであって,スイングからスイング解析に至る過程についての具体的な記載は何ら示されない。

(2)請求項2及び請求項2と発明のカテゴリーが異なるだけで,実質的に同様の記載の請求項6について
「前記ゴルフスイングを解析するために必要なエネルギパラメータを測定し,前記パラメータを熟達したスイングの基準レベルと比較する」と記載されているが,この発明特定事項のみ,つまり「比較する」ことのみによって,なぜ「最大ゴルフヘッドスピードを取得し,前記ゴルフスイングの正確性を促進し,前記ゴルフスイングの制御性を改善し,前記ゴルフスイングのエネルギ発生及び伝達成分の一貫性を改善すること,または前記スイングによる競技者の怪我の危険性を特定して,前記ゴルフスイングを改善することに関係」することになるのか,また「関係」とはどのようなことであるのかについて,本願発明の発明の詳細な説明には,抽象的又は機能的な技術手段の記載しかなく,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。

(3)請求項3及び請求項3と発明のカテゴリーが異なるだけで,実質的に同様の記載の請求項7について
「トレーニングされた神経回路網を用いて前記スイングのエネルギパラメータを計算する人工知能手段」と記載されているが,ここでの「神経回路網」が,明細書の段落【0078】に記載されるような「人工神経回路網システム」であるとしても,神経回路網がどのようにトレーニングされ,人工知能手段どのように計算するかについて,本願発明の発明の詳細な説明には,抽象的又は機能的な技術手段の記載しかなく,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。

(4)請求項4及び請求項4と発明のカテゴリーが異なるだけで,実質的に同様の記載の請求項8について
「運動捕捉手段により測定された前記ゴルフスイングからの情報」と記載されているが,ここでの「運動捕捉手段」について,本願発明の発明の詳細な説明には,具体的にどのような手段であるのか,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
本願の発明の詳細な説明の段落【0066】?【0069】には,「光学運動捕捉システム」,「電磁運動捕捉システム」が記載され,他の運動捕捉システムとして「加速度計又はジャイロを含むセンサ」が記載されているが,いずれも従来技術に関する記載にすぎない。

4 特許法第36条第6項第2号について(請求項の項番は新請求項)
(1)請求項3及び請求項3と発明のカテゴリーが異なるだけで,実質的に同様の記載の請求項7について
「前記スイングに関する情報」と記載されているが,この請求項3(請求項7)及びこの請求項3(請求項7)が引用する請求項1(請求項5)には,上記記載より前に「スイングに関する情報」なる記載はなく,不明瞭である。
ここで,仮に「前記」が「スイング」のみに係る言葉であるとした場合について,念のため検討する。
この場合,請求項3(請求項7)においては「力プレートまたは圧力パッドを含む力測定手段により測定された前記ゴルフゴルフスイングからの地盤反力情報」,請求項1(請求項5)においては「ゴルフスイングから測定された情報」が,「スイングに関する情報」に相当することになると思われるが,これらの情報は,以下に記載されるとおり,人工知能手段により測定手段から受信されるものではないため,矛盾が生じる。
E 「【0077】
図3(なお,本願明細書においては「図4」と記載されているが,当審で誤記と認めて上記のとおり認定した。また,段落【0061】における「図3」なる記載は,「図4」の誤記であると認める。)は,人工知能手段を使用してスイングにおける情報を検出及び処理する際の順次的な段階を示すブロック図である。図中で使用する説明上の略語は,以下の簡単な説明においては括弧内に示している。スイング(S)の経過に伴う地盤反力は,検出手段(DM)により検出される。検出手段からの情報は,スイングをより良く特徴付けるデータに早期処理手段(EPM)により処理される。このデータは,スイングのエネルギパラメータを処理又は判断する人工知能手段(AIM)により受信される。これらのエネルギパラメータは,次に,スイングの解析結果(A)を出すために使用される。」
F 「【0117】
図5は,対話型トレーニングに関するスイングにおける情報フローを示すブロック図である。図中で使用する説明上の略語は,以下の簡単な説明において括弧内に示している。競技者(PLR)のスイング活動によって発生された地盤反力は,検出手段(DM)により検出される。検出手段からの情報は,スイングをより良く特徴付けるデータに早期処理手段(EPM)により処理される。このデータは,スイングのエネルギパラメータを処理又は判断する人工知能手段(AIM)により受信される。これらのエネルギパラメータは,最適化規則の適用を含む技法を使用して処理手段(PM)内で処理及び解析される。解析されたデータは,トレーニングデータ(TD)にアクセスするように作動可能である対話型トレーニング手段(ITM)により受信される。解析済み結果及びアクセスしたトレーニングデータに基づいて,対話型トレーニングにより,対話型トレーニング要素は,競技者に通信手段(CM)により伝達される。競技者は,通信手段を通じて対話型トレーニング手段と通信することによって対話型トレーニング要素に応答することができ,又は例えば別のスイングを実行するために対話型トレーニング要素内の指示に従うことができる。別のスイングが実行された場合,類似の処理ループが完了になり,対話型トレーニングは,対話型トレーニングシステムにより必要に応じて進行する。」
上記「E」及び「F」からは,検出手段からの情報は,まず早期処理手段(EPM)によりスイングをより良く特徴付けるデータに処理され,早期処理手段(EPM)から,該データを人工知能手段(AIM)により受信されることのみしか記載されない。
したがって,本願の請求項3及び請求項7の記載は,明確ではない。

第3 むすび
以上のとおり,この出願は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさず,また特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから,特許を受けることができないものである。
したがって,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-09-28 
結審通知日 2017-10-02 
審決日 2017-10-13 
出願番号 特願2010-532582(P2010-532582)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (A63B)
P 1 8・ 537- WZ (A63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 太田 恒明  
特許庁審判長 黒瀬 雅一
特許庁審判官 吉村 尚
畑井 順一
発明の名称 ゴルフスイングを解析するための装置及び方法  
代理人 実広 信哉  
代理人 村山 靖彦  
代理人 阿部 達彦  

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