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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01L
管理番号 1337881
審判番号 不服2017-6134  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-04-27 
確定日 2018-03-20 
事件の表示 特願2015-548942「ボルト、ナット、および歪測定システム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 5月28日国際公開、WO2015/075823、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
特許出願: 平成25年11月22日(国際出願)
拒絶査定: 平成29年2月3日(送達日:同年同月7日)
拒絶査定不服審判の請求: 平成29年4月27日
手続補正: 平成29年4月27日
拒絶理由通知: 平成29年11月22日
(以下、「当審拒絶理由」という。発送日:同年同月28日)
手続補正: 平成30年1月25日(以下、「本件補正」という。)
意見書: 平成30年1月25日


第2 原査定の概要
原査定(平成29年2月3日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

この出願の請求項1-4,7,8に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物A-Gに記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



・請求項 1
・引用文献等 A、E、F

・請求項 2
・引用文献等 B、C、G

・請求項 3、4、7、8
・引用文献等 A、D-F または B-D、G

<引用文献等一覧>

A.特開2002-236064号公報
B.特開平06-033926号公報
C.特開2003-106318号公報
D.特開2010-053927号公報(周知技術を示す文献)
E.特開2013-124946号公報(周知技術を示す文献)
F.特開平11-223507号公報(周知技術を示す文献)
G.特開2009-222218号公報(周知技術を示す文献)


第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

本願請求項1-3,6に係る発明は、以下の引用文献1-4に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2002-236064号公報(拒絶査定時の引用文献A、以下「引用文献1」という。)
2.特開平11-118637号公報(当審において新たに引用した文献、以下「引用文献2」という。)
3.特開2013-124946号公報(拒絶査定時の引用文献E、以下「引用文献3」という。)
4.特開2010-053927号公報(拒絶査定時の引用文献D、以下「引用文献4」という。)



・請求項1
・引用文献1-3

・請求項2,3,6
・引用文献1-4


第4 本願発明
本願請求項1-6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明6」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-6に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願発明1-6は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
シャンクと、
前記シャンクの一端に設けられたヘッドであって、前記ヘッドの他の部分よりも、前記シャンクの軸方向における厚みが小さい若しくはヤング率が小さい部分であって、前記シャンクの軸力によって前記他の部分よりも大きく歪む歪部を有する前記ヘッドと、
前記シャンクの軸力に応じた前記歪部の歪を検出する検出部と、を備え、
前記歪部は、前記シャンクの軸方向における前記ヘッドの最大厚みより薄い厚みを有する薄肉部を備え、
前記ヘッドは、前記薄肉部である底板を有する凹状部を備え、前記底板は、前記シャンクの軸上に位置し、
前記凹状部には、底面を有する凹部が形成され、前記凹部は、前記底面側から開口側に向かって径が拡大するように構成され、
前記検出部は、前記シャンクの軸上に位置し、一方の面の全面が前記底板に貼り付けられ、前記底板の歪を検出するボルト。
【請求項2】
前記検出部は、
測定器から与えられる磁束に応じて電力を発生させる受電部と、
前記歪に応じて電気的特性を変化させる歪検出素子と、
前記受電部から供給される電力により動作し、前記電気的特性に応じた信号を生成し、前記信号を前記測定器へ無線送信する送信部と、を備える請求項1に記載のボルト。
【請求項3】
前記歪検出素子は、抵抗歪ゲージであり、
前記信号は、前記抵抗歪ゲージの抵抗に応じた周波数を有する請求項2に記載のボルト。
【請求項4】
前記検出部は、温度を測定する温度測定部を更に備え、
前記送信部は、前記抵抗歪ゲージと前記温度測定部とを切り替えることにより、前記抵抗歪ゲージの抵抗と前記温度とを示す前記信号を生成する請求項3に記載のボルト。
【請求項5】
前記検出部は、前記ボルトの識別情報を記憶する識別情報記憶部を更に備え、
前記送信部は、前記抵抗歪ゲージと前記温度測定部と前記識別情報記憶部とを切り替えることにより、前記抵抗歪ゲージの抵抗と前記温度と前記識別情報とを示す前記信号を生成する請求項4に記載のボルト。
【請求項6】
請求項1に記載のボルトと、
磁束を発生させると共に無線信号を受信する測定器と、を備え、
前記検出部は、
前記磁束に応じて電力を発生させる受電部と、
前記歪に応じて電気的特性を変化させる歪検出素子と、
前記電力により動作し、前記電気的特性に応じた信号を生成し、前記信号を前記測定器へ無線送信する送信部と、を備え、
前記測定器は、
前記磁束を変動させることにより前記受電部へ送電する送電部と、
前記送信部から前記信号を無線受信する受信部と、を備える歪測定システム。」


第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
当審拒絶理由に引用された引用文献1には、次の事項が記載されている。

「【0010】まず、発明の概要を説明する。本発明の歪みセンサ付きボルト1は、図1(a)に示すように、ボルト本体部11とボルト頭部12とから構成されていて、ボルト本体部11は、側面周囲にネジが切られており、一方、ボルト頭部12は、凹部13を有しており、そして、凹部13に形成した空隙14の上に歪みセンサ2が装着されている。そして、ボルト1が取付部材4に締付けて固定されている状態であるときは、図1(b)に示すように、軸方向上側からの応力P1が大きくなり、歪みゲージの変形量が大となってゲージ抵抗部21が縮むこととなる。一方、ボルト1の締付けが緩んだ状態のときは、図2(a)(b)に示すように、固定された状態に比べ、軸方向上側からの応力P2が小さくなり、歪みゲージの変形量が少なくなって、ゲージ抵抗部21が延びることとなる。そして、ゲージ抵抗部21の抵抗値は延び縮み量に応じて変わるため、ゲージ抵抗部21に入力電圧を印加すると、出力電圧が変化する。したがって、オフセット状態(ボルト固定時)における出力電圧と比較することにより、軸方向の応力Pが変化したことが分かり、ボルト1の締付け緩みを検出することが可能となる。」

「【0013】実施例を説明する。本実施例のボルト1は、図5に示すように、ボルト本体部11と、ボルト頭部12とからなり、ボルト本体部11は、周囲にネジが切られており、ボルト頭部12は、中心部を削って凹部13を形成し、凹部13底面に歪みゲージ2を接着する。歪みゲージ2の下部は空洞14となっている。歪みゲージ2から配線25が出されており、そして、凹部13は樹脂又はパテ等の封止材料3で封止されている。歪みゲージ2は、図6に示すように、Siウエハ22と、Siウエハ22に形成されたゲージ抵抗部21と、酸化膜23と、アルミパッド24と、配線25と、からなる。歪みゲージ2は、ボルト頭部12に形成した凹部13に装着しているため、軸方向の応力集中点からの距離を短くすることができ、感度良くとらえることが可能であり、また、ボルト切削加工次第で任意の深さに埋め込むことができ、また、歪みゲージ2は、空洞14の上に形成されているため、軸方向応力を受けると感度良く変形することができる。」


また、図1及び図5に示された配置・形状から、「ボルト頭部12」が「ボルト本体部11」の一端に設けられていること、「ボルト頭部12」に形成された「凹部13」の底面部が、ボルト頭部の他の部分よりも、ボルト本体部の軸方向における厚みが小さく、ボルト本体部の軸力によって前記他の部分よりも大きく歪む歪部となること、また、「歪みゲージ2」がボルト本体部11の軸力に応じた前記歪部の歪を検出するものであること、そして、前記歪部は、軸方向における前記ボルト頭部12の最大厚みより薄い厚みを有する薄肉部を備え、前記ボルト頭部12は、前記薄肉部である底板を有する凹状部(凹部13)を備え、前記底板は、ボルト本体部の軸上に位置し、歪みゲージ2は、前記軸上に位置し、前記底板の歪を検出する、ことはいずれも明らかといえる。
したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「ボルト本体部11と、
前記ボルト本体部11の一端に設けられたボルト頭部12であって、前記ボルト頭部の他の部分よりも、前記ボルト本体部の軸方向における厚みが小さい部分であって、前記ボルト本体部11の軸力によって前記他の部分よりも大きく歪む歪部を有する前記ボルト頭部12と、
前記ボルト本体部11の軸力に応じた前記歪部の歪を検出する歪みゲージ2と、を備え、
前記歪部は、軸方向における前記ボルト頭部12の最大厚みより薄い厚みを有する薄肉部を備え、
前記ボルト頭部12は、前記薄肉部である底板を有する凹状部(凹部13)を備え、前記底板は、ボルト本体部の軸上に位置し、
歪みゲージ2は、前記の軸上に位置し、凹部13底面に接着されて、前記底板の歪を検出するボルト。」

2.引用文献2-4について
当審拒絶理由に引用された引用文献2には、次の事項が記載されている。
「【0009】
【発明の実施の形態】以下、本発明に係るセンサーボルトの実施の形態を図面と共に説明する。図1は第1の実施の形態を示し、1はボルトにして、頭部11側から軸線に沿って長孔12を形成し、その長孔12の底部に歪みゲージ、水晶センサ、熱電対あるいは圧電素子等のセンサー2をモールド固着する。なお、前記ボルト1に前記センサー2を埋設する位置としては、ボルト長、太さに関係なく前記頭部11の下面から15mm程度の位置が望ましい結果が得られた。
【0010】前記頭部11の上面には凹部11aが形成されており、この凹部11a内に前記センサー2よりのリード21と接続されたバッテリーおよびタイマーを含む増幅器3が収容され、該増幅器3よりの出力はLED、液晶パネル、電磁式パネル、警報シューズ等の表示器4に接続されている。なお、前記タイマーはバッテリーの消費節減を図るため、センシング時間(例えば、1回/1日)を制限するためである。また、前記表示器4は凹部11aを覆うように取付けられたキャップ5に固定され、外部から表示内容が見えるようになっている。」


当審拒絶理由に引用された引用文献3には、図面と共に次の事項が記載されている。
「【0052】
歪検出基板400は、上面および下面がXY平面に平行な面をなす正方形状の半導体基板であり、Z軸が中心軸となるように配置される。図4上段の上面図に示すとおり、検出用溝Gの花弁状の平面形状は、この正方形状をした歪検出基板400を収容するのに適した形状になっている。図4下段の側断面図に示すとおり、歪検出基板400は、検出用溝Gの底面(すなわち、ダイアフラム部110の上面)にダイアフラム部110の変形によって生じる応力が伝達されるように接合される(具体的には、歪検出基板400は、下面全面に接着剤を塗布して、ダイアフラム部110の上面に接着される)。」

当審拒絶理由に引用された引用文献4には、図面と共に次の事項が記載されている。
「【0015】
図1(1)の軸力検出システムS1においては、軸力検出装置10は、ボルトやナットの軸力変化に対応した歪み変化を、無線接続される読み取り装置16の電波を受けて、これをアンテナに生じる電流を駆動源として、歪みゲージ11によって検出したのち、読み取り装置16に発信できるように構成されている。
また、この読み取り装置16の周辺にはパソコン18を配置しておき、その検出結果を、無線または有線で発信できるようにする。
また、軸力検出装置10内のICタグa1は、歪みゲージで検出された締め付け装置の軸力値のみならず、締め付け箇所(測定部位)に関する固有の識別情報をも同時に発信することができる。」


第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
本願発明1の「シャンク」はボルト本体部の一部をなすものであるから、引用発明における「ボルト本体部11」と、本願発明における「シャンク」とは、「ボルト本体部」である点で共通するといえる。
また、引用発明における「ボルト頭部12」、「凹部13」、及び「歪みゲージ2」がそれぞれ本願発明1における「ヘッド」、「凹状部」、「検出部」に相当する。
したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「ボルト本体部と、
前記ボルト本体部の一端に設けられたヘッドであって、前記ヘッドの他の部分よりも、前記ボルト本体部の軸方向における厚みが小さい部分であって、前記ボルト本体部の軸力によって前記他の部分よりも大きく歪む歪部を有する前記ヘッドと、
前記ボルト本体部の軸力に応じた前記歪部の歪を検出する検出部と、を備え、
前記歪部は、前記ボルト本体部の軸方向における前記ヘッドの最大厚みより薄い厚みを有する薄肉部を備え、
前記ヘッドは、前記薄肉部である底板を有する凹状部を備え、前記底板は、前記ボルト本体部の軸上に位置し、
前記検出部は、前記ボルト本体部の軸上に位置し、前記底板の歪を検出するボルト。」

(相違点)
相違点1
本願発明1は、「シャンク」を備えているのに対し、引用発明はボルト本体部11に「シャンク」を有していない点。

相違点2
本願発明1においては、「前記凹状部には、底面を有する凹部が形成され、前記凹部は、前記底面側から開口側に向かって径が拡大するように構成され」ているのに対し、引用発明の「凹部13」は「前記底面側から開口側に向かって径が拡大するように構成され」てはいない点。

相違点3
本願発明1においては、検出部の「一方の面の全面が前記底板に貼り付けられ」るとされているのに対し、引用発明では「歪みゲージ2」が「凹部13底面に接着され」るとされているものの、引用文献1に「一方の面の全面」が底面に貼り付けられるとの明示は無い点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて、上記相違点2について先に検討すると、相違点2に係る本願発明1の、「前記凹状部には、底面を有する凹部が形成され、前記凹部は、前記底面側から開口側に向かって径が拡大するように構成され」るという構成は、上記引用文献2-4には記載されておらず、本願出願前において周知技術であるともいえない。
したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用文献1-4に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2-6について
本願発明2-6も、本願発明1の「前記凹状部には、底面を有する凹部が形成され、前記凹部は、前記底面側から開口側に向かって径が拡大するように構成され」ると同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用文献1-4に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第7 原査定についての判断
本件補正により、補正後の請求項1-3,6(原査定時の請求項1,3,4,8に対応する請求項。なお、原査定時の請求項2,7は削除された。)は、「前記凹状部には、底面を有する凹部が形成され、前記凹部は、前記底面側から開口側に向かって径が拡大するように構成され」るという技術的事項を有するものとなった。当該技術的事項は、原査定における引用文献A-Gには記載されておらず、本願出願前における周知技術でもないので、本願発明1-3,6は、当業者であっても、原査定における引用文献A-Gに基づいて容易に発明できたものではない。したがって、原査定を維持することはできない。


第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-03-05 
出願番号 特願2015-548942(P2015-548942)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 公文代 康祐  
特許庁審判長 清水 稔
特許庁審判官 中塚 直樹
須原 宏光
発明の名称 ボルト、ナット、および歪測定システム  
代理人 特許業務法人ウィルフォート国際特許事務所  

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