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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  F04B
管理番号 1337889
審判番号 無効2016-800077  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-06-27 
確定日 2018-03-13 
事件の表示 上記当事者間の特許第5695790号発明「大容量送水システム」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5695790号の請求項1?9に係る発明についての出願(以下,「本件出願」という。)は,平成26年10月16日の特許出願であって,平成27年 2月13日に特許権の設定登録(請求項の数9)がされたものである。
そして,平成28年 6月27日付けで請求人 日本ドライケミカル株式会社より本件特許無効審判の請求がなされ,平成28年 9月 1日付けで被請求人 帝国繊維株式会社より審判事件答弁書が提出され,平成28年 9月30日付けで審理事項通知書が通知され,平成28年10月21日付けで請求人,被請求人により口頭審理陳述要領書が提出され,平成28年11月 8日付けで被請求人より上申書が提出され,平成28年11月 9日付けで請求人より上申書が提出され,平成28年11月11日に口頭審理が行われた。

第2 本件特許発明
本件特許第5695790号の請求項1?9に係る発明は,願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された以下のとおりのものである。
「【請求項1】
(a)取水用水中ポンプ,油圧ホースを介して該取水用水中ポンプを駆動するディーゼルエンジン,該ディーゼルエンジンの燃料を貯蔵するタンクでありかつ該タンク内の燃料残量レベルを常時検知する燃料残量計センサーが付設された燃料タンク,および前記取水用水中ポンプにより取水した水を吐水する吐水機構を少なくとも積載した大容量送水車輌,
(b)該大容量送水車輌と別個に設けられた燃料備蓄タンク,
(c)該燃料備蓄タンクと前記大容量送水車輌の間に設けられ,かつ,前記燃料残量計センサーによって常時検知されて送られる燃料残量レベル信号に基づいて,前記燃料備蓄タンク内に備蓄されている燃料の前記燃料タンクへの供給と停止をオン・オフ制御により自動的に行う自動供給ポンプ機構,
を少なくとも有して構成されてなることを特徴とする大容量送水システム。
【請求項2】
前記大容量送水車輌に積載された燃料タンク内の燃料残量レベル信号が,予め設定されたレベルまでに燃料残量が減少したことを示したときに,前記燃料備蓄タンク内の燃料の該燃料タンクへの供給を開始するように設定されてなることを特徴とする請求項1記載の大容量送水システム。
【請求項3】
前記大容量送水車輌に積載された燃料タンク内の燃料残量レベル信号が,予め設定されたレベルまでに燃料残量が増加したことを示したときに,前記燃料備蓄タンク内の燃料の
該燃料タンクへの供給を停止するように設定されてなることを特徴とする請求項1または2記載の大容量送水システム。
【請求項4】
請求項2記載の燃料備蓄タンク内の燃料の前記燃料タンクへの供給開始方式と,請求項3記載の燃料備蓄タンク内の燃料の前記燃料タンクへの供給停止方式を採用するとともに,請求項2記載の燃料備蓄タンク内の燃料の前記燃料タンクへの供給開始からの累積燃料供給量を検知して,予め設定された累積燃料供給量に達したときに,前記燃料備蓄タンク内からの燃料供給を停止するように設定した第二の燃料供給停止方式を採用してなることを特徴とする請求項1記載の大容量送水システム。
【請求項5】
請求項4に記載の予め設定された累積燃料供給量が,前記大容量送水車輌に積載された燃料タンク容量の80%以上100%以下に相当して設定されたものであることを特徴とする請求項4記載の大容量送水システム。
【請求項6】
請求項1に記載の大容量送水システムを用いた大容量の送水方法であって,大容量送水車輌に積載された燃料タンク内の燃料残量レベル信号が,該燃料タンク容量100%に対して,残量15%?45%を含む特定範囲に対応して予め設定されたレベル以下にまで減少したことを示したときに,燃料備蓄タンクからの,該大容量送水車輌に積載された前記燃料タンクへの燃料供給を開始するように構成したことを特徴とする大容量送水方法。
【請求項7】
請求項1に記載の大容量送水システムを用いた大容量の送水方法であって,大容量送水車輌に積載された燃料タンク内の燃料残量レベル信号が,該燃料タンク容量100%に対して,残量80%?90%を含む特定範囲に対応して予め設定されたレベル以上にまで増加したことを示したときに,燃料備蓄タンクからの,該大容量送水車輌に積載された前記燃料タンクへの燃料供給を停止するように構成したことを特徴とする大容量送水方法。
【請求項8】
請求項6に記載された大容量送水車輌に積載された燃料タンクへの燃料供給開始方法と,請求項7に記載された大容量送水車輌に積載された燃料タンクへの燃料供給停止方法を採用してなることを特徴とする大容量送水方法。
【請求項9】
請求項6に記載された大容量送水車輌に積載された燃料タンクへの燃料供給開始方法と,請求項7に記載された大容量送水車輌に積載された燃料タンクへの燃料供給停止方法を採用し,かつ,請求項6に記載の燃料備蓄タンク内の燃料の燃料タンクへの供給開始を始めたときからの累積燃料供給量を検知して,予め設定された累積燃料供給量に達したときに,前記燃料備蓄タンク内からの燃料供給を停止する第二の燃料供給停止方法を併用してなることを特徴とする大容量送水方法。」(以下,本件特許の請求項1?9に係る発明をそれぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明9」という。)

第3 請求人及び被請求人の主張の概略
1.請求人の主張
(1)無効理由1
本件特許発明1ないし本件特許発明9は,甲第1号証に記載された発明,甲第2号証ないし甲第6号証に記載された周知技術,及び甲第9号証ないし甲第12号証に記載された周知事実に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。

証拠方法
甲第1号証 :特開2009-291289号公報
甲第2号証 :特開平10-141163号公報
甲第3号証 :特開2000-97039号公報
甲第4号証 :特開昭58-107868号公報
甲第5号証 :特開2006-248492号公報
甲第6号証 :特開2005-114374号公報
甲第9号証:ホームページ文書
「総務省消防庁」
「http://www.fdma.go.jp/ugoki/hl801/01.pdf」,
「http://www.fdma.go.jp/ugoki/hl801/05.pdf」
「消防の動き 平成18年1月号 No. 418」(写し)
甲第10号証:ホームページ文書
「総務省消防庁」
「http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/complex_kentoukai/index.pdf」,
「http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/complex_kentoukai/chapterO4.pdf」
「石油コンビナート等防災体制検討会 検討結果報告書」(写し)
甲第11号証:ホームページ文書
「総務省消防庁」
「http://www.fdma.go.jp/ugoki/h2103/2103_l-32-2.pdf」,
「http://www.fdma.go.ip/ugoki/h2103/2103_l-32-2-22.pdf」
「消防の動き 平成21年3月号 No.456」(写し)
甲第12号証:ホームページ文書
「朝日新聞DIGITAL」
「http://www.asahi.com/special/10005/TKY201103200060.html」
「連続放水13時間半,2400トン放つ 東京消防庁」 (写し)


甲第7号証 :ホームページ文書
「https://ja.wikipedia.
org/wiki/%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%82%BC%E3%83%AB%E3%82%B8%E3%83%B3」
「ディーゼルエンジンーW i k i p e d i a」(写し)
甲第8号証 :ホームページ文書
「https://ja. wikipedia.
org/wiki/E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E6%B6%88%E9%98%B2%E8%BB%8A」
「日本の消防車-W i k i p e d i a」(写し)
甲第13号証:「広辞苑 第三版」,昭和58年12月6日発行,岩波書店,表紙,1635?1636頁,奥付(写し)
甲第14号証:「マグローヒル科学技術用語大辞典 第2版」,昭和60年3月25日発行,株式会社日刊工業新聞社,表紙,1071頁,1471頁,奥付(写し)
甲第15号証:「JISハンドブック(25)石油」,2003年7月25日発行,日本規格協会,K2204,表紙,51頁,奥付(写し)
甲第16号証:「ランダムハウス英和大辞典 第2版」,1996年2月10日発行,株式会社小学館,表紙,388頁,奥付(写し)
甲第17号証:特開平7-185031号公報
甲第18号証:特開2008-93199号公報

2.被請求人の主張
本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とするとの審決を求める。

第4 当審の判断
1.甲第1号証乃至甲第6号証,甲第9号証乃至甲第12号証の記載事項
(1)甲第1号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(特開2009-291289号公報)には,「消防用ポンプ装置」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている(下線は,当審により付与した。以下同様)。
・「【請求項1】
車輌に搭載されたエンジンと,
このエンジンによって駆動されるメインポンプと,
前記車輌に搭載されるとともに,取り外して水中に投入可能な取水ポンプと,
車輌エンジンによって駆動される取水ポンプのための油圧駆動系と,
前記取水ポンプを車輌から降ろして水中に投入したり,水中から引き上げるためのクレーンアームと,
前記取水ポンプとメインポンプの間を接続するホース及び取水ポンプに使用する油圧ホースを巻回収納するホースリールとを備え,
前記メインポンプとホースで接続された取水ポンプを前記クレーンアームで水中に投入するとともに,前記油圧駆動系によって取水ポンプを駆動してメインポンプに給水することを特徴とする消防用ポンプ装置。」

・「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,石油コンビナート等の大規模なタンク火災が発生した場合に,いち早く現場に駆けつけて,泡消火用の大量の水または海水を短時間に供給することのできる消防用ポンプ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日,石油コンビナートや化学コンビナートにおける大規模火災を想定して,大容量の消防用ポンプ装置が要望されております。
しかし,このような大容量の水源として,既存の消火栓等では不充分な場合が多く,多量の消火水の確保が困難であった。そこで,大量に存在する海水や湖水の利用が考慮されるが,消防用ポンプ装置の設置位置と取水面(海面)までの距離が長く,どうしても吸水高さが大きくなる場合が多かった。理論上,消防用ポンプの呼び水は真空ポンプにて呼び水をする場合に,吸水長が10m程度,吸水高さが7m程度を越えると呼び水が難しかった。
そこで,消防用ポンプを何段か直列に接続して中継運転する方法が提案されている(例えば,特許文献1)。これは,火災現場から水源までの距離が長い場合に効果的である。
【特許文献1】特開平9-154974号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし,このような構成の従来の消防ポンプを中継運転する方法にあっては,火災規模が小さい場合に効果的であるが,石油コンビナート等の大規模なタンク火災が発生した場合に,いち早く現場に駆けつけて,大量の水(例えば,2万L/min)を短時間に供給するには適していなかった。また,各消防ポンプを複数使用して中継,送水する時の各消防ポンプの圧力調整を問題無く緊急の火災現場で操作するのは,困難であった。更に,大容量の取水を行う場合,取水口の管理を適切に行わないと,空気を吸い込んだり,吸水管内でキャビテーションが発生してインペラー等を損傷させる虞れが存在した。
本発明は,上記実情に鑑み提案されたもので,取水口から確実に吸水できるとともに,吸水管内でキャビテーションを発生させることなく,大量の水を短時間に供給することのできる消防用ポンプ装置を提供することを目的とする。」

・「【0008】
請求項1に記載の発明では,車輌に搭載されたエンジンと,このエンジンによって駆動されるメインポンプと,前記車輌に搭載されるとともに,取り外して水中に投入可能な取水ポンプと,車輌エンジンによって駆動される取水ポンプのための油圧駆動系と,前記取水ポンプを車輌から降ろして水中に投入したり,水中から引き上げるためのクレーンアームと,前記取水ポンプとメインポンプの間を接続するホース及び取水ポンプに使用するホースを巻回収納する油圧ホースリールとを備え,前記メインポンプとホースで接続された取水ポンプを前記クレーンアームで水中に投入するとともに,前記油圧駆動系によって取水ポンプを駆動してメインポンプに給水するので,取水ポンプの取水口から確実に吸水できるとともに,吸水管内でキャビテーションを発生させることなく,大量の水を短時間にメインポンプから供給することができる。」。

・「【0011】
本発明は,車輌に搭載されたエンジンによって駆動されるメインポンプと,取り外して水中に投入可能な取水ポンプと,車輌エンジンによって駆動される取水ポンプのための油圧駆動系とを備え,前記メインポンプとホースで接続された取水ポンプを油圧駆動してメインポンプに給水するので,取水ポンプの取水口から確実に吸水できるとともに,吸水管内でキャビテーションを発生させることなく,大量の水を短時間に取水ポンプから供給することができる。」

・「【0012】
以下,一実施の形態を示す図面に基づいて本発明を詳細に説明する。図1は本発明に係る消防用ポンプ装置の一実施の形態を示す側面図,図2は本発明の消防用ポンプ装置の平面図である。ここで,消防用ポンプ装置10は,消防ポンプ車等の車輌に搭載されたエンジン11と,このエンジン11によって駆動されるメインポンプ12と,車輌に搭載されるとともに,取り外して水中に投入可能な取水ポンプ13と,車輌エンジン26によって駆動される取水ポンプ13のための油圧駆動系14と,車輌エンジン26を車輌から降ろして水中に投入したり,水中から引き上げるためのクレーンアーム15と,前記取水ポンプ13とメインポンプ12の間を接続するホース16及びメインポンプに使用するホース17を巻回収納するホースリール18とを備えている。
【0013】
消防ポンプ車等の車輌には,前端側面に取水ポンプ13,13が容易に取り出せる位置に収納されている。メインポンプ12は,エンジン11により駆動され大量の水を給送することができる。クレーンアーム15は,車輌の後端に取り付けられており,車輌エンジン26によって駆動される油圧機構に作動する。クレーンアーム15は,取水ポンプ13を車輌から降ろしたり,海中や水中に設置するために使用することができる。
【0014】
図3は,本発明の消防用ポンプ装置における主ポンプを示す正面図,図4は主ポンプを示す平面図である。エンジン11とメインポンプ12はカップリング20を介して接続されており,基台21の上に搭載されている。また,エンジン11には,排気音を消音するマフラー19が取り付けられている。
【0015】
図5は,本発明の消防用ポンプ装置における取水ポンプの正面図,図6は,取水ポンプの側面図である。取水ポンプ13は,水中に於いて自重を支えるとともに,取水ポンプ13の取水口22が所定の水面下に位置する浮き部材23を備えている。また,浮き部材23は,上端に向かって断面積の減少した一側面から見てほぼ台形に形成されている。取水口22は,ポンプ本体の下端部側面に配設されている。更に,取水ポンプ13には,ホースを取り付けるための取り付け口24が形成されている。また,取水ポンプ13の底面には,移動用のキャスター25が取り付けられている。そして,取水ポンプ13は,水中に投入した場合,Lの位置まで水没するように浮き部材23の浮力が調整されている。
【0016】
図7は,本発明の消防用ポンプ装置における取水ポンプの油圧系統図である。車輌エンジン26によって油圧ポンプ70が駆動され,オイルタンク71内の作動油を加圧して取水ポンプ13に配設された油圧モータ72へ給油する。油圧モータ72を回転駆動した作動油はフィルター73を介してオイルタンク71へ返還される。
【0017】
次に,以上のように構成された消防用ポンプ装置10の使用方法について説明する。先ず,図8に示すように取水ポンプ13の取り付け口24にホースリール18から取り外したホース16を接続しクレーンアーム15で海中に設置する。また,エンジン11及びメインポンプ12は,陸上に設置する。取水ポンプ13は,車輌エンジン26によって駆動される油圧駆動系によって駆動され,海水を多量に取水してホース16を介してメインポンプ12に供給する。メインポンプ12は,エンジン11に駆動されて大量の海水をホース17を介して給送することができる。このように,本発明の消防用ポンプ装置では,取水ポンプ13によって取水した後,メインポンプ12で給送するので,吸水のための揚程を必要とすることなく,大量の水を給送することができる。」

・甲第1号証には,消防ポンプ車に搭載された車輌エンジン26が記載されているが,この車輌エンジン26は車輌自体を駆動するものであるから,消防ポンプ車が車輌エンジンの駆動に必要な燃料を貯蔵した燃料タンクを搭載していることは技術常識である。したがって,消防ポンプ車が燃料タンクを備えることは甲第1号証に記載されているに等しい事項である。

・段落【0012】,【0017】の記載事項及び図1の図示内容からみて,消防ポンプ車が取水ポンプ13により取水した水を給送するメインポンプ12及びホース17を搭載していることが理解できる。

そうすると,甲第1号証には以下の発明が記載されていると認められる(以下,この発明を「引用発明」という。)。
「取り外して水中に投入可能な取水ポンプ13,油圧駆動系によって該取水ポンプ13を駆動する車輌エンジン26,該車輌エンジン26の燃料を貯蔵する燃料タンク,および前記取水ポンプ13により取水した水を給送するメインポンプ12およびホース17を搭載した,大量の水を給送することができる消防ポンプ車。」

(2)甲第2号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証(特開平10-141163号公報)には,「燃料の供給システムにおける異常検出装置」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。

・「【特許請求の範囲】
【請求項1】 地下に設けられ燃料を貯えるメインタンク,エンジン発電装置等の負荷に燃料を小出し供給する燃料小出槽,この燃料小出槽に上記メインタンクから燃料を供給又は補給する容積形の燃料移送ポンプ,
上記燃料小出槽の油面の少なくとも低位レベル(L),高位レベル(H)を検出する油面レベル検出器,この油面レベル検出器の出力とほかの条件に基づき制御指令を出す制御器及びブザーを備え,
上記制御器は油面レベル検出器から低位レベル検出信号を受けたときは,上記燃料移送ポンプの駆動指令を上記燃料移送ポンプに対して与え,油面レベル検出器から高位レベル検出信号を受けたときは,上記燃料移送ポンプの運転を停止し,上記燃料移送ポンプの運転時間が,同ポンプの駆動により燃料が所定量汲み上げられるための標準時間よりも多い時間に設定した所定の設定時間を超過したときは異常警報を出すようにしたことを特徴とする燃料の供給システムにおける異常検出装置。
【請求項2】 上記異常警報が出されるときは,上記燃料移送ポンプの運転を停止するようにした請求項1記載の燃料の供給システムにおける異常検出装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,例えばエンジン発電装置等の燃料として供給される燃料の供給システムにおける異常検出装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】図3は,従来の燃料の供給システムにおける異常検出装置の構成を示す系統図である。同図において,1は地下に設けられたメインタンクで,この中に燃料が保存されている。2は燃料移送ポンプ,3は燃料小出槽で,エンジンに燃料を供給し,燃料が低下したときには燃料移送ポンプ2によって補充されるようになっている。4は配管で,4aは燃料小出槽3側の配管4との連結口である。5は燃料小出槽3における油面,6,7,8及び9は夫々油面レベル検出器で,夫々燃料小出槽3の最高位レベル(HH),高位レベル(H),低位レベル(L)及び最低位レベル(LL)を検出するものである。10は制御器で,各油面レベル検出器6?9からの検出信号を受け,次の制御指令を燃料移送ポンプ2に出力する。なお,11はブザーである。即ち,油面レベル検出器8から検出信号が入力されるときは,燃料移送ポンプ2を作動し,検出器7から検出信号が入力されるときは,燃料移送ポンプ2の運転を停止させ,検出器9から検出信号が入力されるときは,ブザー11に出力を送り,警報を出すようになっている。なお,当初の状態では,所定量の燃料を有する地下のメインタンク1から一定量ずつの燃料が小出しされて燃料小出槽3に燃料が供給され,燃料小出槽3には燃料が略高位レベル(H)に満たされており,この状態において,燃料小出槽3からエンジン発電装置(図示せず)に対して,所要量の燃料が供給されている。燃料小出槽3からエンジン発電装置への燃料の供給の結果,燃料小出槽3の油面が低位レベル(L)まで低下すると油面レベル検出器8の検出信号が制御器10に入るから,制御器10からの指令により燃料移送ポンプ2は運転され,地下のメインタンク1から燃料を汲み上げて燃料小出槽3へ供給する。このような燃料の補充により,燃料小出槽3の油面が高位レベル(H)になると油面レベル検出器7からの検出信号により制御器10から燃料移送ポンプ2へ運転停止指令を与えて,ポンプ2の運転を停止する。なお,油面が最低位レベル(LL)まで低下すると油面レベル検出器9の検出信号に基づき制御器10からブザー11へ出力を与え,警報を出す。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで,従来の燃料の供給システムにおける異常検出装置では,次のような問題点があった。
燃料小出槽の油面が低位レベル(L)になって燃料移送ポンプが動作し,地下メインタンクに油がない場合であっても,燃料移送ポンプが動作をしている。
また,燃料移送の配管が破損等している場合には,燃料移送ポンプを駆動しても燃料小出槽中に燃料が満たされず,しかも,燃料が地面に漏洩した状態でポンプの駆動が継続するので,地下のメインタンクから大量の燃料を汲み上げてしまうと共に,漏洩した燃料に引火したときには大事故につながる恐れがあった。
このような点を考慮して,地下のメインタンクに油面検出スイッチを設けて,メインタンクの油面が所定レベル以下になったときに,これを検出し,警報を出すと共に,ポンプの運転を停止することも考えられている。しかし,このためには高価な油面検出手段をメインタンクに設けると共に,ポンプへ停止指令を与える手段も必要となり,装置が大がかりとなり高価となるので,もっと簡単な方法で対処することが求められていた。本発明は,従来のものの上記課題(問題点)を解決するようにした燃料の供給システムにおける異常検出装置を提供することを目的とした。」

・「【0005】
【発明の実施の形態】図1は,本発明の一実施の形態である燃料の供給システムにおける異常検出装置の構成を示す系統図である。同図において,従来例と同等の構成のものには図3と同一の符号を付して示し,その説明は省略する。2Aは燃料移送ポンプ(以下単にポンプとする)で,これは容積形のものを使用し,燃料汲み上げ量が時間に比例する特性をもっているものとする。12は制御器で,各油面レベル検出器6,7,8及び9からレベル検出信号が入力され,これらの入力信号に基いて次に述べる所要の制御信号を出し,ポンプ2Aの駆動制御を行うと共に,ブザー11に対する信号も出すようになっている。このために,制御器12はマイクロコンピュータ(以下CPUという)等を主体に構成され,CPUに内蔵する制御プログラムに基いて,次の動作を行うようになっている。
(1)油面レベル検出器8により燃料小出槽3の油面5のレベルが低位レベル(L)未満であることが検出されたときは,ポンプ2Aに対して駆動指令を出す。
(2)油面レベル検出器7により燃料小出槽3の油面5のレベルが高位レベル(H)に到達したことが検出されたときは,ポンプ2Aに停止指令を出す。
(3)上記(1)の駆動指令が出され,ポンプ2Aが駆動される時間をカウントし,この駆動時間が所定の設定時間Tsに達したときはブザー11に対し,警報指令を出す。この場合の設定時間Tsは,通常の状態でポンプ2Aを駆動して燃料の補給がなされた場合,燃料小出槽3の油面5のレベルが低位レベル(L)から高位レベル(H)に回復するに要する標準時間(例えば10分)よりも多い時間(例えば20分)に設定するものとする。
(4)警報指令が出されたときは,ポンプ2Aの停止指令も出すようにするのが望ましい。上述の符号1?9及び11?12で表わされる各構成により本発明の燃料の供給システムにおける異常検出装置が構成される。
【0006】次に,図1と図2に示すフローチャートを用いて,本装置の動作を説明する。先ず,当初の状態では所定量の燃料を有する地下のメインタンク1から一定量ずつ燃料が小出しされて燃料小出槽3に燃料が供給され,燃料小出槽3には所定のレベルの燃料が入っており,燃料小出槽3からエンジン発電装置(図示せず)に対して燃料が供給される点は,従来のものと同様である。燃料小出槽3からエンジン発電装置(図示せず)へ燃料が供給された結果,燃料小出槽3の油面5が低位レベル(L)まで低下すると,油面レベル検出器8がそのことを検出し(S2),検出信号を制御器12に送り,制御器12から駆動指令が出されてポンプ2Aが駆動され,地下のメインタンク1から燃料を汲み上げて燃料小出槽3へ補給される。この場合,ポンプ2Aは容積形のものであるため,その汲み上げ量が時間と比例関係にあり,次のように設定時間との関係で異常動作が検出される。即ち,通常の場合,低位レベル(L)から高位レベル(H)に回復するためのポンプの駆動時間を標準時間(例えば10分)とすると,この標準時間よりも多い所定の時間,例えば20分を設定時間とし,この設定時間を超過した場合には異常事態が発生したと推定して異常警報やポンプの運転を停止するような制御を行うものである。従って,通常の場合は,このような燃料の補給により燃料小出槽3の油面5は所定の標準時間(例えば10分)の前後に高位レベル(H)に回復されるから油面レベル検出器7は高位レベル(H)を検出し(S4のYES),この検出信号が制御器12に与えられ,制御器12はポンプ2Aに対し停止指令を与えて,ポンプ2Aの運転を停止する(S5)。ところで,ポンプ2Aが駆動されていても,配管4に破損箇所があって燃料が漏洩しているために燃料小出槽3に対する燃料の補給が十分行われない場合,又はメインタンク1内の燃料がなくなってしまった場合には,ポンプ2Aが駆動されていても所定の標準時間(10分)が経過しても燃料小出槽3の油面5のレベルは高位レベル(H)にならない(S4のNO)。そして,前者の場合には地面に漏れた油に引火して大事故となる恐れがあるし,後者の場合はポンプ2Aが無駄な運転をし,焼損する恐れもある。しかし,本発明では,このような事態に対処し,制御器12の制御機能としてステップS6?S8の機能を付加したから,前記のような事態が生じたときには次の制御がなされる。即ち,ポンプ2Aが駆動され,所定の設定時間Ts(例えば20分)が経過したにも拘わらず,燃料小出槽3の油面レベルが高位レベル(H)とならないときは(S6のYES),制御器12から警報指令が出され,ブザー11から警報が出される(S7)と共に,ポンプ2Aに停止指令が与えられ(S8),ポンプ2Aは運転が停止される。この場合,ブザー11の警報に基づき,保守要員が現場にかけつけ,燃料洩れに対して,又はメインタンク1の空状態に対して,夫々適切な対応を行うことができる。」

(3)甲第3号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証(特開2000-97039号公報)には,「エンジン作業機の燃料供給装置」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。

・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,エンジン作業機の燃料供給装置であって,特に,内部燃料タンクの構成,及び,該内部燃料タンクへの給油機構に関する。
【0002】
【従来の技術】従来から,エンジン作業機として,エンジン,及び,該エンジンにより駆動される発電機やポンプ等の作業機をカバーで被装して構成したものがあり,該エンジン作業機には,燃料油が貯留される内部燃料タンクが内蔵され,例えば,発電機等の作業機やエンジンの上方に配置されていた。そして,内部燃料タンクから燃料供給管を通じて燃料噴射ポンプに燃料油を供給して,該燃料噴射ポンプからエンジン内へ燃料油を噴射するとともに,該燃料噴射ポンプへ供給された余分な燃料油を,燃料戻し管を通じて内部燃料タンク内に戻すように構成していた。
【0003】また,エンジン作業機を連続して長時間運転する場合には,該エンジン作業機に内蔵された内部燃料タンクだけでは燃料油の容量が不十分であるので,エンジン作業機の外部に外部燃料タンクを設けて,エンジン作業機に内蔵された内部燃料タンク内の燃料油が一定量よりも少なくなると,給油ポンプを用いて該外部燃料タンクから燃料油を補給するように構成していた。この場合,エンジン作業機に内蔵された内部燃料タンク内には,上位レベル検出器及び下位レベル検出器を上下方向に配置して設け,下方の下位レベル検出器の設定油面よりも燃料油の油面が下降すれば給油ポンプを作動して外部燃料タンクから燃料油を補給し,補給を継続して,燃料油の油面が上位レベル検出器の設定油面よりも上昇すれば給油ポンプを停止するように構成していた。」

・「【0005】また,前述の如く,エンジン作業機に内蔵される内部燃料タンクに,外部燃料タンクから燃料油を補給する場合,例えば,上位レベル検出器が故障していると,燃料油の油面が上位レベル検出器の設定油面よりも上昇した状態となっても給油ポンプが停止せず,燃料油がオーバーフローしてしまう恐れがあった。さらに,燃料油の油面が下位レベル検出器の設定油面よりも下降して外部燃料タンクからの補給を行おうとした場合に,例えば,外部燃料タンク内の燃料油が空になっていたりすると,エンジン作業機に内蔵される内部燃料タンクの油面は上昇せず,給油ポンプが空運転を続けることとなって,該給油ポンプが破損する恐れがあった。」

・「【0008】また,請求項3においては,エンジン出力側に作業機を取り付けてなるエンジン作業機に内蔵される燃料タンクに,給油ポンプを用いて燃料油を給送可能に構成したエンジン作業機の燃料供給装置において,該燃料タンク内にて,燃料油の上位レベル検出器を上下に複数個配設し,該複数個の上位レベル検出器の下方に燃料油の下位レベル検出器を上下に複数個配設して,燃料油の油面が,各上位レベル検出器の設定油面よりも上位にある時,及び,下方側の下位レベル検出器の設定油面よりも下位にある時には該給油ポンプが停止し,該油面が上方側と下方側の下位レベル検出器の設定油面間に位置する時に,該給油ポンプが駆動を開始する構成とした。」

・「【0021】次に,エンジン作業機1の別実施例について,図9乃至図13より説明する。図9に示す如く,本実施例のエンジン作業機1は,その外装部品としてカバー2を設けており,該カバー2内には,エンジン3が設置され,該エンジン3の出力側には,エンジン3により駆動される作業機である発電機5が連結されている。本実施例では,該発電機5の上方に内部燃料タンク6が配置され,該内部燃料タンク6内に貯留された燃料油を,燃料ホース7及び燃料濾し器18を介して燃料噴射ポンプ8に供給し,該燃料噴射ポンプ8からエンジン3の各気筒内に噴射するように構成している。また,エンジン3の反発電機5側にはラジエータ10を配置している。エンジン3からの排気は排気管17及びマフラ13を通じて排気尾管19から外部へ排出するように構成しており,該排気管17はエンジン3の上方からラジエータ10の反エンジン3側に延設され,マフラ13及び排気尾管19を同じくラジエータ10の反エンジン3側に配置して,エンジン3の冷却ファンよりラジエータ10を通過して排風される冷却風により冷却されるようにしている。
【0022】エンジン作業機1において,カバー2の外部には,外部燃料タンク43を配置し,該外部燃料タンク43と内部燃料タンク6とを燃料補給用ホース44により連結して,給油ポンプ42を用いて,外部燃料タンク43から内部燃料タンク6へ燃料油を補給可能に構成している。さらに,内部燃料タンク6の側方には計器ボックス15を配置して,カバー2に設けた開口部にその計器面を嵌め込んで,該カバー2の外側より,該計器ボックス15にて,エンジン作業機の始動・停止,燃料油の補給等の操作を行うようにしている。図10に示すように,該計器ボックス15の計器盤には,エンジン3を起動するスタートスイッチ68,前記給油ポンプ42が運転されると点灯するポンプ電源表示ランプ64,及び,電流計・電圧計等の各種計器類が配置されている。また,計器ボックス15の側面には,外部燃料タンク43から内部燃料タンク6への燃料油の自動給油状態を切り換える,外部燃料タンク用ポンプ電源スイッチ63,及び,内部燃料タンク6内の燃料油を手動で満タンにする際に操作する補給スイッチ67が配置されている。
【0023】図11に示すように,内部燃料タンク6の内部には,貯留される燃料油の上限油面である上位レベルを検出するための上位レベル検出器として,複数の上位フロートスイッチFH1 ・FH2 ,及び,貯留される燃料油の下限油面である下位レベルを検出するための下位レベル検出器として,複数の下位フロートスイッチFL1 ・FL2 を設けている。該上位フロートスイッチFH1 ・FH2 は,上位フロートスイッチFH2 が上位フロートスイッチFH1 よりも上方に位置するように上下に配置され,下位フロートスイッチFL1 ・FL2 は,下位フロートスイッチFL2 が下位フロートスイッチFL1 よりも下方に位置するように上下に配置されている。なお,上位フロートスイッチFL1 は下位フロートスイッチFL1 よりも上方に位置する。
【0024】上位フロートスイッチFH1 ・FH2 及び下位フロートスイッチFL1 については,燃料油の油面が,これらの設定油面よりも上位である時にOFFされ,下位にある時にONされる。また,下位フロートスイッチFL2 は,燃料油の油面が,その設定油面よりも上位にある時にONされ,下位にある時にOFFされる。
【0025】これらの上位フロートスイッチFH1 ・FH2 と下位フロートスイッチFL1・FL2 は,図12に示す回路を構成して,燃料油の油面の高さに応じて給油ポンプ42の運転・停止を切り換え,外部燃料タンク43から内部燃料タンク6への燃料油の補給を自動的に行うように構成している。即ち,前記の外部燃料タンク用ポンプ電源スイッチ63をONした状態において,内部燃料タンク6内の燃料油の油面が下位フロートスイッチFL1 よりも低くなった場合には,上位フロートスイッチFH1 ・FH2 及び下位フロートスイッチFL1 ・FL2 が共にONされた状態となるので,リレー52がON側に作動して該リレー52の接点52a・52bが閉じ,給油ポンプ42が駆動されるとともに,ポンプ電源表示ランプ64が点灯して,外部燃料タンク43から内部燃料タンク6へ燃料油が補給される。内部燃料タンク6への給油が開始されて,油面が下位フロートスイッチFL1の設定油面よりも上昇すると該下位フロートスイッチFL1 はOFFされるが,リレー52の接点52a・52bは自己保持されているので,内部燃料タンク6への給油は継続される。そして,給油が継続されて満タンになり,油面が上位フロートスイッチFH1の設定油面よりも上昇すると,該上位フロートスイッチFH1 がOFFされ,リレー52がOFF側に作動し,自己保持状態が解除されて接点52a・52bが開き,給油ポンプ42が停止するとともに,ポンプ電源表示ランプ64が消灯して,内部燃料タンク6への給油が停止する。
【0026】その後,エンジン作業機1の運転を続けて油面が下降し,上位フロートスイッチFH1 と下位フロートスイッチFL1 との両設定油面間にある状態となった場合には,上位フロートスイッチFH1 ・FH2 及び下位フロートスイッチFL2はONされるが,下位フロートスイッチFL1 がOFF状態で,リレー52の接点52a・52bが開いたままであるので,給油ポンプ42は駆動されず内部燃料タンク6への給油は行われない。さらに油面が下降して,下位フロートスイッチFL1 の設定油面よりも下方に位置するようになると,下位フロートスイッチFL1 がON状態に切り換わり,リレー52の接点52a・52bが閉じて給油ポンプ42が駆動され,前述の如く内部燃料タンク6への給油が開始される。
【0027】また,内部燃料タンク6への給油時に,例えば,上位フロートスイッチFH1が故障して,油面が上位フロートスイッチFH1 よりも上昇したにもかかわらず該上位フロートスイッチFH1 がOFFされずに給油ポンプ42が停止しない場合には,該上位フロートスイッチFH1 の上方に配置されている上位フロートスイッチFH2 まで油面が達すると,該上位フロートスイッチFH2 がOFFされて,給油ポンプ42が停止するように構成している。これにより,油面が上限油面に達したにもかかわらず,給油ポンプ42が停止せずに燃料タンク6内への給油が続けられ,燃料油が内部燃料タンク6からオーバーフローしてしまうことを防止することができ,給油時の安全性の向上を図ることができる。
【0028】また,油面が下位フロートスイッチFL1 よりも低くなって,外部燃料タンク43からの給油が開始された場合,例えば,外部燃料タンク43内の燃料油が空になっていたり,外部燃料タンク43と内部燃料タンク6とを連結している燃料補給用ホース44に不具合があったりして,内部燃料タンク6へ燃料油が供給されないと,そのままでは,油面がさらに下降していくとともに,給油ポンプ42が空運転を続けることとなる。しかし,下位フロートスイッチFL1 の下方には下位フロートスイッチFL2を配置して,油面が下位フロートスイッチFL2 の設定油面よりも低くなると,該下位フロートスイッチFL2 がOFFされるように構成しているので,油面が下位フロートスイッチFL1 の設定油面よりも低くなって外部燃料タンク43からの給油が開始された後に,油面がさらに低下して下位フロートスイッチFL2の設定油面よりも低くなった場合には,リレー52の接点52a・52bを開いて給油ポンプ42を停止することができる。
【0029】これにより,内部燃料タンク6への自動給油時において,外部燃料タンク43内の燃料油が空になっていたり,外部燃料タンク43と内部燃料タンク6とを連結している燃料補給用ホース44に不具合があったりした場合に,給油ポンプ42が空運転されることを防止し,該給油ポンプ42の破損を防止することができる。尚,この場合,油面が下位フロートスイッチFL2 よりも下がった時点で,前記計器ボックス15の計器盤に警告灯を点灯させたり,警告音を鳴らす等,警報を発するように構成することもできる。」

・「【0034】また,請求項3記載の如く,エンジン出力側に作業機を取り付けてなるエンジン作業機に内蔵される燃料タンクに,給油ポンプを用いて燃料油を給送可能に構成したエンジン作業機の燃料供給装置において,該燃料タンク内にて,燃料油の上位レベル検出器を上下に複数個配設し,該複数個の上位レベル検出器の下方に燃料油の下位レベル検出器を上下に複数個配設して,燃料油の油面が,各上位レベル検出器の設定油面よりも上位にある時,及び,下方側の下位レベル検出器の設定油面よりも下位にある時には該給油ポンプが停止し,該油面が上方側と下方側の下位レベル検出器の設定油面間に位置する時に,該給油ポンプが駆動を開始する構成としたので,油面が上限油面に達したにもかかわらず,給油ポンプが停止せずに燃料タンク内への給油が続けられ,燃料油が燃料タンクからオーバーフローしてしまうことを防止することができ,給油時の安全性の向上を図ることができる。また,燃料タンクへの自動給油時において,該燃料タンクに燃料を補給するためのエンジン作業機外部の燃料タンク内の燃料油が空になっていたり,該外部の燃料タンクとエンジン作業機内部の燃料タンクとを連結している燃料補給用ホースに不具合があったりする等して,該内部の燃料タンク内に燃料油が補充されない状態でありながら給油ポンプが空運転されることを防止し,該給油ポンプの破損を防止することができる。」

(4)甲第4号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第4号証(特開昭58-107868号公報)には,「燃料自動補給装置」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。

・「この発明は車両の長時間連続運転試験を行うに際して車両の燃料タンクへ燃料を自動補給する装置に関するものである。
一般に台上試験で車両を用いて長時間連続運転を実施する場合,燃料を多量に必要とするため車両に設けられている燃料タンクでは燃料が不足するのが通常である。このため従来は車両に設けられている燃料タンクを使用せずに,エンジンルーム内のキャブレター,フィルタ,ポンプ等のメイン配管とリターン配管を外部の大容量タンクに接続して外部大容量タンクから直接的に燃料を供給するのが通常であった。しかしながらこの場合エンジンルーム内の狭い箇所での配管接続変更作業を必要とするため,試験準備作業の作業能率が極めて低い問題があり,また接続変更箇所での接続不良により燃料洩れの危険があり,そのため安全面からも問題があった。一方,運転を中断して携行缶等により燃料を車両の燃料タンクへ補給することも考えられるが,この場合には運転試験自体の能率が低下する問題があるばかりでなく,手作業で危険物燃料の運搬や注入補給を行うことは安全上重大な問題があり,実際に適用することは好ましくない。
この発明は以上の事情に鑑みてなされたもので,車両の長時間連続運転試験を行うにあたって,準備作業としてのエンジンルーム内での面倒な配管接続変更作業を不要にして作業能率を良好にするとともにそのエンジンルーム内での接続変更箇所における燃料洩れの危険を防止し,しかも運転を中断して車両の燃料タンクへ燃料を補給するという非能率かつ安全面で問題のある補給方式を採用する必要のない,新規な自動燃料補給装置を提供することを目的とするものである。
すなわちこの発明は,車両の燃料タンクには常にフュエルゲージが設けられていて,そのフュエルゲージから燃料タンク内の液位の変動を抵抗値変化等の電気信号変化として取出し得ることに着目してなされたものであり,そのフュエルゲージからの電気信号に応答して外部の大容量タンクから車両の燃料タンク注入口に燃料を自動補給して常に燃料タンク内の燃料をほぼ一定値に保つようにしたものである。」(公報第1ページ左欄15行?第2ページ左上欄16行)

・「第1図はこの発明の一実施例の燃料自動補給装置の全体構成を示すものであり,車両内に予め据え付けられている燃料タンクlの上部もしくは側部には,その燃料タンクl内の燃料2の液位を検知して電気信号例えば抵抗値に変換するフュエルゲージ3が設けられている。このフュエルゲージ3は燃料タンク1内の燃料液位に追従して上下動するフロート3Aと,そのフロート3Aの上下位置を検知して電気信号例えば抵抗値変化に変換する検知素子3Bとによって構成されており,その検知素子3Bはコネクタ4およびリード線5を介して後述する制御回路6に接続されている。一方前記燃料タンク1の燃料注入ロ7には,可撓性ホース等からなる補給管8の先端が接続治具9を介して着脱可能に連結されている。ここで接続治具9は中空筒状に作られるとともに,その側方に連結パイプ9Aが延出されてその連結パイプ9Aに前記補給管8の先端がクランプ10により取付けられ,かつまた下方へ延出する注入パイプ9Bが燃料タンク1の燃料注入ロ7に挿抜可能に挿入され,さらに上面がフュエルキャップ11により密閉されている。なおこのフュエルキャップ11は本来燃料タンク1の燃料注入ロ7を閉塞するためのものである。
前記補給管8は電磁ポンプ12の吐出口側から連続するものであり,この電磁ポンプ12の吸入口側には外部の大容量タンク13が管路14,15およびチェックバルブ16を介して接続されている。そして電磁ポンプ12およびチェックバルブ16には,前述の制御回路6がリード線17を介して接続されている。なお制御回路6には電源として例えば車両搭載バッテリー18がイグニッションキースイッチ19を介して接続されている。
前記制御回路6はフュエルゲージ3の検知素子3Bからの電気信号に応答して前記電磁ポンプ12およびチェックバルブ16を制御するためのものであり,その具体的構成の一例を第2図に示す。但し第2図の回路は,フュエルゲージ3の検知素子3Bとして,フロート3Aが下降した時に抵抗値が増大する型式の抵抗変化素子を用いた例を示す。
第2図において,前記バッテリー18の電圧がイグニッションキースイッチ19を介して加えられる電源電圧入力端子20は,ダイオード21を介して電圧調整器22の入力端子22aに接続されている。この電圧調整器22は,安定化されかつ可変抵抗器23によって調整された電圧が出力端子22bにあらわれるものであり,その出力端子22bの電圧は,抵抗24および可変抵抗器25によって分圧され,その分圧された電圧が第1の電圧比較器26の負側入力端子に基準電圧として加えられる。この第1の電圧比較器26の正側入力端子には,前記電圧調整器22の出力電圧を抵抗27と前記フュエルゲージ3の抵抗変化素子3Bとによって分圧した電圧が,抵抗28およびコンデンサ29からなる積分型遅延回路30を介して加えられる。そしてこの第1の電圧比較器26の出力端子は,リレー31のソレノイドコイル31aに直列に接続されたトランジスタ32のベースに接続されている。このリレー31は前述の電磁ポンプ12およびチェックバルブ16への電流を開閉するためのものである。また前記第1の電圧比較器26の出力端子は,ダイオード33を介して第2の比較器34の出力端子にも接続されている。この第2の比較器34の正側入力端子には前記電圧調整器22の出力電圧を抵抗35および可変抵抗器36によって分圧した電圧が基準電圧として加えられ,またその比較器34の負側入力端子には前記抵抗27およびフュエルゲージ3の抵抗変化素子3Bによって分圧した電圧が加えられる。なお第2の比較器34の出力端子には,発光ダイオード37が電圧調整器22の出力側から抵抗38を介して接続されている。
以上の実施例において,イグニッションキースイッチ19をオン動作させれば,電圧調整器22から可変抵抗器23により調整された電圧が出力され,これに伴って第1の電圧比較器26の負側入力端子にその調整電圧を抵抗24および可変抵抗器25によって分圧した電圧が基準電圧として加わる。ここで燃料タンク1内の燃料が減少してフロート3Aの位置が下がれば抵抗変化素子3Bの抵抗値が大きくなり,第1の電圧比較器26の正側入力端子の電圧が上昇する。そしてこの電圧が負側入力端子の前記基準電圧よりも高くなれば電圧比較器26の出力端子に正の電圧が生じ,その電圧によりトランジスタ32のベース電流が流れてトランジスタ32がオン動作し,リレー31のソレノイドコイル31aに電流が流れてリレースイッチ31bが閉じられ,電磁ポンプ12およびチェックバルブ16に電流が供給されてこれらが動作し,これによって外部の大容量タンク13から燃料が管路14,15および補給管8,接続治具9を通って燃料タンク1内に補給されて,燃料タンク1内の燃料の液位が上昇する。これによりフロート3Aの位置が上昇して前述と逆に第1の電圧比較器26の正側入力端子の電圧が下降し,燃料タンク1内の燃料レベルがある一定レベルを越えればその電圧が負側入力端子の基準電圧よりも低くなり,その結果第1の電圧比較器26の出力電圧が零となってトランジスタ32がオフ状態となり,リレー31もオフ状態となって電磁ポンプ12およびチェックバルブ16が解除される。このような動作を繰返すことによって燃料タンク1内の燃料をほぼ一定量に保持することができる。なお第1の電圧比較器26の基準電圧は可変抵抗器25によって調整でき,したがってこれを調整することによって燃料タンク1内の燃料の保持したいレベルを調整することができる。」(公報第2ページ右上欄9行?第3ページ左下欄17行)

(5)甲第5号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第5号証(特開2006-248492号公報)には,「燃料タンク」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。

・「【0004】
しかしながら,上記の如き従来の技術では,燃料タンク内の燃料の残量が少ない場合に燃料がタンク本体内で片寄せられると,サブタンクに燃料が流入しなくなり,燃料切れを生じ易い。このため,従来の燃料タンクでは,燃料切れを生じないことを保証する燃料タンク内の燃料の最小残量(所謂E点)が比較的大きく設定されており,タンクの有効容量が小さくなる問題があった。」

・「【0027】
セパレータ20は,燃料タンク10の水平でかつ加速度が作用しない支持状態(以下の説明では静的状態という)において,上記燃料ポンプによるサブタンク18内の燃料の吸い込み不良(燃料切れ)が生じないことを保証するタンク本体12内燃料の最小残量(設計上の残量)の液面高さに略一致して配置されている。この実施形態では,最小残量(すなわち下部空間12Aの容量)は,タンク本体12内に貯留可能な設計上の最大容量の略15%として設定されている。なお,図面(特に図3等)では,見易さのために下部空間12Aを大きめに図示している。」

(6)甲第6号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第6号証(特開2005-114374号公報)には,「車両用液面検出装置」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。

・「【0017】
本発明の請求項2に記載の車両用液面検出装置では,仕切り板の下面は,タンクの液体貯蔵量が最大時の90%時の液面位置近傍に設けられる構成としている。
【0018】
この場合,タンク内の液体貯蔵量が最大時の90%以上の時には,車両用液面検出装置の指示値は固定値,すなわち仕切り板位置となり,タンク内の液体貯蔵量が最大時の90%未満である時には,車両用液面検出装置は実際の液面を精度良く検出しそれを指示する。」

・「【0061】
一般に,燃料残量が満タン,つまり100%から90%くらいあるときには,運転者は,燃料補給等について考慮する必要がなく,したがって,表示部10の指示値が満タンで固定されていても何ら問題はない。」

(7)甲第9号証
甲第9号証には,以下の記載がある。

・「■改正の経緯
平成15年の十勝沖地震に伴い発生した浮き屋根式屋外貯蔵タンクの全面火災を踏まえ,自衛防災組織に配備すべき防災資機材等の機能強化を図るため泡放水砲を追加し,及び泡放水砲を特定事業者共同でより広域的な配備を可能とする広域共同防災組織を導入するため「消防法及び石油コンビナート等災害防止法の一部を改正する法律(平成16年法律第65号。以下「改正法」という。)」により石油コンビナート等災害防止法が改正されました。
今般,「消防法及び石油コンビナート等災害防止法の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令(平成17年政令第352号)」により,これらの改正の施行期日が平成17年12月1日とされ,また,改正法を受け「石油コンビナート等災害防止法施行令の一部を改正する政令(平成17年政令第353号)」及び「石油コンビナート等における特定防災施設等及び防災組織等に関する省令の一部を改正する省令(平成17年総務省令第159号)」が平成17年11月28日にそれぞれ公布され,平成17年12月1日から施行されました。その改正の概要は次のとおりです。」(第10頁左欄第1乃至19行)

・「(1)特定事業者は,その特定事業所の屋外タンク貯蔵所に直径34m以上の浮き屋根式屋外貯蔵タンクがある場合には,当該特定事業所に係る自衛防災組織に,その直径に応じた基準放水能力を満たす大容量泡放水砲(毎分1万l以上の放水能力を有する泡放水砲)を備え付けなければならないものとしました。省令において大容量泡放水砲の規格を定めています。(改正後の石油コンビナート等災害防止法施行令(以下「令」という。)第13条第1項・第2項,改正後の石油コンビナート等における特定防災施設等及び防災組織等に関する省令(以下「省令」という。)第19条の2第1項・第2項関係)
(2)特定事業者は,大容量泡放水砲を備え付けなければならない自衛防災組織に,必要な量の水を120分継続して供給することができる等の基準に従い,ポンプ,混合装置等の大容量泡放水砲用防災資機材等,一定の要件に該当する泡消火薬剤及び耐熱服等を備え付けなければならないものとしました。(令第13条第3項,第14条第5項,第15条,省令第19条の2第3項?第5項,第19条の4,第21条関係)」(第10頁左欄第22行乃至右欄第12行)

(8)甲第10号証
甲第10号証には,以下の記載がある。

・「第4章 大容量泡放射システムによる消防戦術
4.1 大容量泡放射システムに求められる基本性能と災害モデル
4.1.1 システムを構成する資機材に求められる性能等
・・・
(2)ポンプ・混合装置
○1(審決注:○の中に1)ポンプ
想定される自然水利等からの給水,送水,加圧等を行い,有効な泡放射を行うのに十分な流量,圧力を120分以上確保できるもの。この場合,摩擦損失等を考慮し,「砲」先端において必要な放射流量,圧力を満たす必要がある。」(第29頁第1乃至22行)

・「4.2. 1 防災活動のフロー
既存防災資機材及び大容量泡放射システムとの連携を検討するため,活動に係る時系列を次のフロー図のように整理して,検討することとする。」(第32頁第2乃至4行)

・「○3(審決注:○の中に3)防災資機材等の燃料供給ルートの設定
システム到着までの間,既存防災資機材は数時間に渡って活動していることが予想される。長時間ポンプ運用を行っていることから,燃料消費に備えて燃料の供給方法を検討する必要がある。
実際の火災現場で発生した出来事
活動が長時間となったため,3点セット等の燃料が足りなくなってしまった。燃料を給油するため,事業所のホースリール付き移動タンクを使用し燃料の給油を行った。」
(第36頁第33乃至40行)

(9)甲第11号証
甲第11号証には,以下の記載がある。

・「○3(審決注:○の中に3)燃料補給車」
「(軽油移動タンク車)機動力を生かして火災現場に出動」
「消防活動中のポンプ車等に給油する。」(第22頁下「緊急消防援助隊の後方支援体制の充実強化のイメージ図」中)

・「4.燃料補給車
緊急消防援助隊が活動するための燃料を確保することは大きな課題であり,大規模災害により甚大な被害を受けている被災地では,緊急消防援助隊が被災地に頼らない自己完結型の活動を行うために,当該部隊の燃料を自ら確保できる体制が必要です。
また,長期にわたり継続的に消火・人命救助活動を行うためには,現場を離れることなく給油をする必要があります。そこで,現場において活動中の車両に対し燃料補給を行う燃料補給車を配備します。
燃料補給車は,2tトラックシャシをベースに容量950lの軽油タンク(少量危険物)を積載したもので,4輪駆動,乗車定員3名の緊急車両です。」(第23頁右欄第27乃至41行)

(10)甲第12号証
甲第12号証には,以下の記載がある。

・「東京電力福島第一原子力発電所3号機の冷却作業で,東京消防庁の緊急消防援助隊による本格的な放水が20日午前3時40分に終了した。19日午後2時すぎに始まり,約13時間半にわたって連続して行われた。2400トン以上の海水が放たれた計算だ。
福島第一原発の海際に設置した「スーパーポンパー」と呼ばれる送水車で海水をくみ上げてホースで送り,最大22メートルの高さから放水できる「屈折放水塔車」から連続的に水を放った。
毎分約3トンのペースで放水を続け,約13時間半で計約2430トンを放ったことになる。3号機の使用済み燃料貯蔵プールの容量は約1千トンなので,仮にプールが空でも,これを満たすことができる量を上回った計算だ。
屈折放水塔車は無人での稼働が可能で,13時間半のうち大半は無人による作業だったとみられる。この間,車両に給油する必要はあったという。
東京消防庁は19日,新たに車両14台と隊員102人を,先発した139人の交代要員として現地に追加派遣した。」(第1頁第1乃至16行)

2.本件特許発明1について
(1)発明の対比
本件特許発明1と引用発明とを対比すると,後者の「取り外して水中に投入可能な取水ポンプ13」は前者の「取水用水中ポンプ」に相当し,以下同様に,「水を給送する」態様は「水を吐水する」態様に,「メインポンプ12およびホース17」は「吐水機構」に,「搭載」は「積載」に,「大量の水を給送することができる消防ポンプ車」は「大容量送水車輌」に,それぞれ相当する。
また,引用発明の「油圧駆動系によって該取水ポンプ13を駆動する」態様と,本件特許発明1の「油圧ホースを介して該取水用水中ポンプを駆動する」態様とは,「油圧駆動系を介して取水用水中ポンプを駆動する」ことにおいて共通する。
さらに,引用発明の「車輌エンジン26」は,本件発明1の「ディーゼルエンジン」と,「エンジン」である点において共通する。
そうすると,本件特許発明1と引用発明との一致点,相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「取水用水中ポンプ,油圧駆動系を介して取水用水中ポンプを駆動するエンジン,該エンジンの燃料を貯蔵する燃料タンク,および前記取水用水中ポンプにより取水した水を吐水する吐水機構を積載した大容量送水車輌。」
<相違点1>
油圧駆動系を介して取水用水中ポンプを駆動することに関し,本件特許発明1が,「油圧ホース」を介して取水用水中ポンプを駆動するのに対して,引用発明では,「油圧ホース」を介するものであるか否か明らかでない点。
<相違点2>
本件特許発明1は,「ディーゼルエンジン」を備えるものであるが,引用発明は,車輌エンジンを備えるものの「ディーゼルエンジン」であるか否かは不明な点。
<相違点3>
本件特許発明1は,「該タンク内の燃料残量レベルを常時検知する燃料残量計センサーが付設された燃料タンク」,「該大容量送水車輌と別個に設けられた燃料備蓄タンク」及び「該燃料備蓄タンクと前記大容量送水車輌の間に設けられ,かつ,前記燃料残量計センサーによって常時検知されて送られる燃料残量レベル信号に基づいて,前記燃料備蓄タンク内に備蓄されている燃料の前記燃料タンクへの供給と停止をオン・オフ制御により自動的に行う自動供給ポンプ機構」を備えた「大容量送水システム」であるが,引用発明は,「燃料タンク」は備えるものの,それ以上の構成を備えたシステムではない点。

(2)相違点についての検討
ア.相違点1,2について
油圧駆動系を構成するために「油圧ホース」を利用すること,及び,車輌を駆動する車輌エンジンとして「ディーゼルエンジン」を採用することは,いずれも例示するまでもない周知技術であって,発明の具現化の際に当業者が適宜採用し得たものにすぎないから,相違点1,2に係る本件特許発明1の発明特定事項は,引用発明においても当業者が容易に想到し得たものである。
イ.相違点3について
イ-1.引用発明の課題について
(ア)引用発明を開示する刊行物1には,次のような記載がある。
・「本発明は,石油コンビナート等の大規模なタンク火災が発生した場合に,いち早く現場に駆けつけて,泡消火用の大量の水または海水を短時間に供給することのできる消防用ポンプ装置に関するものである。」(段落【0001】)
・「本発明は,上記実情に鑑み提案されたもので,取水口から確実に吸水できるとともに,吸水管内でキャビテーションを発生させることなく,大量の水を短時間に供給することのできる消防用ポンプ装置を提供することを目的とする。」(段落【0003】)
・「請求項1に記載の発明では,・・・(中略)・・・前記メインポンプとホースで接続された取水ポンプを前記クレーンアームで水中に投入するとともに,前記油圧駆動系によって取水ポンプを駆動してメインポンプに給水するので,取水ポンプの取水口から確実に吸水できるとともに,吸水管内でキャビテーションを発生させることなく,大量の水を短時間にメインポンプから供給することができる。」(段落【0008】)
・「本発明は,・・・(中略)・・・前記メインポンプとホースで接続された取水ポンプを油圧駆動してメインポンプに給水するので,取水ポンプの取水口から確実に吸水できるとともに,吸水管内でキャビテーションを発生させることなく,大量の水を短時間に取水ポンプから供給することができる。」(段落【0011】)
これらの記載事項をふまえれば,引用発明は,石油コンビナート等の大規模な火災が発生した場合に,大量の水を短時間に供給することを念頭においたものである。
(イ)そして,甲第10号証?甲第12号証に記載された事項からみて,石油コンビナート等の大規模災害現場などにおいて,長時間にわたり給水するために,ポンプ車等に燃料を給油することは,周知の課題であるといえる。
(ウ)そうすると,石油コンビナート等の大規模な火災を想定した引用発明において,大量の水を短時間に供給するだけでなく,長時間にわたり給水するために,ポンプ車等に燃料を給油することは,周知の課題である。

イ-2.請求人の主張
請求人は,甲第2号証乃至甲第4号証に記載されているように,ポンプや発電機等の原動力となるエンジンを運転させたままで,燃料タンクに自動補給する装置も周知であった(審判請求書第47頁第27?29行),当業者は甲1発明の「消防用ポンプ装置」の連続給水時間を可能な限り長時間とするために,甲第2乃至4号証の燃料自動供給装置の適用を試みるのは当然であり,本件特許発明の構成A乃至Fに極めて容易に想到することができる(審判請求書第48頁第1?4行)旨主張する。

イ-3.甲第2号証についての検討
(ア)甲第2号証には,
(ア1)地下メインタンクに油がなくなった場合や燃料移送の配管などが破損している場合の異常に対処する目的(段落【0003】)とともに,
(ア2)所定量の燃料を有する地下のメインタンク1から一定量ずつ燃料が小出しされて燃料小出槽3に燃料が供給され,燃料小出槽3には所定のレベルの燃料が入っており,燃料小出槽3からエンジン発電装置に対して燃料が供給される燃料供給システムにおける異常検出装置(段落【0001】,【0002】)であって,
(a)油面レベル検出器8により燃料小出槽3の油面5のレベルが低位レベル(L)未満であることが検出されたときは,ポンプ2Aに対して駆動指令を出す。(段落【0005】)
(b)油面レベル検出器7により燃料小出槽3の油面5のレベルが高位レベル(H)に到達したことが検出されたときは,ポンプ2Aに停止指令を出す。(段落【0005】)
(c)上記(a)の駆動指令が出され,ポンプ2Aが駆動される時間をカウントし,この駆動時間が所定の設定時間Tsに達したときはブザー11に対し,警報指令を出す。この場合の設定時間Tsは,通常の状態でポンプ2Aを駆動して燃料の補給がなされた場合,燃料小出槽3の油面5のレベルが低位レベル(L)から高位レベル(H)に回復するに要する標準時間(例えば10分)よりも多い時間(例えば20分)に設定するものとする。(段落【0005】)
(d)警報指令が出されたときは,ポンプ2Aの停止指令も出すようにする。(段落【0005】)
(e)油面が最低位レベル(LL)まで低下すると油面レベル検出器9の検出信号に基づき制御器10からブザー11へ出力を与え,警報を出す。(段落【0002】)
ものが記載されている。
(ア3)一方,上記イ-2.の「ポンプや発電機等の原動力となるエンジンを運転させたままで,燃料タンクに自動補給する」趣旨の記載は存在しない。
(イ)引用発明への甲第2号証に記載された事項の適用,及び,本件特許発明1の相違点3に係る構成の容易想到性
甲第2号証に記載されたものは「ポンプや発電機等の原動力となるエンジンを運転させたままで,燃料タンクに自動補給する」ものであるか明らかでない上に,甲第2号証のエンジン発電装置は,大容量送水車輌とは関係のないものであるから,石油コンビナート等の大規模な火災を想定した引用発明において,大量の水を短時間に供給するだけでなく,長時間わたり給水するために,ポンプ車等に燃料を給油することは,周知の課題だとしても,甲第2号証に記載された事項を引用発明に適用することが,当業者にとって容易とはいえない。

イ-4.甲第3号証についての検討
(ア)甲第3号証には,
(ア1)エンジンにより駆動される発電機やポンプ等のエンジン作業機を連続して長時間運転する場合には,該エンジン作業機に内蔵された内部燃料タンクだけでは燃料油の容量が不十分であるので,エンジン作業機の外部に外部燃料タンクを設けて,エンジン作業機に内蔵された内部燃料タンク内の燃料油が一定量よりも少なくなると,給油ポンプを用いて該外部燃料タンクから燃料油を補給するように構成するものにおいて,上位レベルの検出器が故障した場合や,燃料タンクへの自動給油時において,該燃料タンクに燃料を補給するためのエンジン作業機外部の燃料タンク内の燃料油が空になっていたり,該外部の燃料タンクとエンジン作業機内部の燃料タンクとを連結している燃料補給用ホースに不具合があったりする等に対応することを目的として,
「エンジン出力側に発電機やポンプ等の作業機を取り付けてなるエンジン作業機に内蔵される燃料タンクに,給油ポンプを用いてエンジン作業機の外部に設けた外部燃料タンク(本件特許発明1の「燃料備蓄タンク」に構造上相当。)から燃料油を給送可能に構成したエンジン作業機の燃料供給装置において,該燃料タンク内にて,燃料油の上位レベル検出器(本件特許発明1の「タンク内の燃料レベルを常時検知する燃料残量計センサー」に相当。)を上下に複数個配設(本件特許発明1の「付設」に相当。)し,該複数個の上位レベル検出器の下方に燃料油の下位レベル検出器(本件特許発明1の「該タンク内の燃料レベルを常時検知する燃料残量計センサー」に相当。)を上下に複数個配設(本件特許発明1の「付設」に相当。)して,燃料油の油面が,各上位レベル検出器の設定油面よりも上位にある時,及び,下方側の下位レベル検出器の設定油面よりも下位にある時には該給油ポンプが停止し,該油面が上方側と下方側の下位レベル検出器の設定油面間に位置する時に,該給油ポンプが駆動を開始する構成(本件特許発明1の「前記燃料残量計センサーによって常時検知されて送られる燃料残量レベル信号に基づいて燃料タンクへの供給と停止をオン・オフ制御により自動的に行う自動供給ポンプ機構」に相当。)」が記載されている。
(ア2)そして,甲第3号証は,エンジンにより駆動される発電機やポンプ等のエンジン作業機を連続して長時間運転する場合には,該エンジン作業機に内蔵された内部燃料タンクだけでは燃料油の容量が不十分であるので,給油ポンプを用いて該外部燃料タンクから燃料油を補給するように構成するものであるから,ポンプや発電機等の原動力となるエンジンを運転させたままで,燃料タンクに自動補給する装置が記載されているといえる。
(イ)引用発明への甲第3号証に記載された事項の適用,及び,本件特許発明の相違点3に係る構成の容易想到性
(イ1)石油コンビナート等の大規模な火災を想定した引用発明において,前記イ-1.(ウ)に記載したように,大量の水を短時間に供給するだけでなく,長時間にわたり給水するために,ポンプ車等に燃料を給油することは,周知の課題であるから,引用発明に甲第3号証に記載された「ポンプや発電機等の原動力となるエンジンを運転させたままで,燃料タンクに自動補給する装置」を適用することは,当業者が容易になし得ることといえる。
(イ2)しかしながら,甲第3号証は,段落【0022】に「エンジン作業機1において,カバー2の外部に外部燃料タンク43を配設し,該外部燃料タンク43と内部燃料タンク6とを燃料補給用ホース44により連結し,給油ポンプ42を用いて外部燃料タンク43から内部燃料タンク6へ燃料油を補給可能に構成している。」と記載され,図9を参照すると,給油ポンプ42(本件特許発明1の「自動供給ポンプ機構」に相当。)がエンジン作業機1内部に設けられているから,給油ポンプ42は外部燃料タンク43(本件特許発明1の「燃料備蓄タンク」に構造上相当。)とエンジン作業機1の間に設けられるものではない。
すなわち,引用発明の「大量の水を給送することができる消防ポンプ車」(本件特許発明1の「大容量送水車輌」に相当。)に搭載された燃料タンク(本件特許発明1の「燃料タンク」に相当。)に相当する甲第3号証に記載された事項の内部燃料タンク6(本件特許発明1の「燃料タンク」に相当。)を対応させて,給油ポンプ42(本件特許発明1の「自動供給ポンプ機構」に相当。)と外部燃料タンク43(本件特許発明1の「燃料備蓄タンク」に構造上相当。)を適用した場合に,給油ポンプ42(本件特許発明1の「自動供給ポンプ機構」に相当。)はエンジン作業機1内部に設けられているから,給油ポンプ42を外部燃料タンク43(本件特許発明1の「燃料備蓄タンク」に構造上相当。)と大容量送水車輌の間に設けるという構成が導き出せない。
(イ3)また,引用発明に甲第3号証に記載された事項を適用する際に,甲第3号証のエンジン作業機1内に収容された給油ポンプ42を,あえて,エンジン作業機1の外部に設けて,外部燃料タンク43とエンジン作業機1の間に設ける積極的な動機付けもなく,また,当業者が適宜採用できる事項ともいえない
(イ4)そうすると,当業者が,引用発明へ甲第3号証に記載された事項を適用して,本件特許発明1の相違点3に係る構成が容易に想到することができるとはいえない。

イ-5.甲第4号証についての検討
(ア)甲第4号証には,
(ア1)「台上試験で車両を用いて長時間連続運転を実施する場合に,車両の燃料タンクにフュエルゲージが設けられていて,該フュエルゲージからの電気信号に応答して外部の大容量タンクから車両の燃料タンクに燃料を自動補給して燃料タンク内の燃料をほぼ一定に保つ燃料自動補給装置。」
が記載されている。
(ア2)しかしながら,甲第4号証は,台上試験で車両を用いて長時間連続運転を実施する装置において,台上試験車両の運転を中断することなく車両の燃料タンクに燃料を自動補給するものであり,長時間連続運転試験されるのは,試験車両を駆動するためのエンジンであって,ポンプや発電機の原動力となるエンジンではない。
そうすると,上記イ-2.の「ポンプや発電機等の原動力となるエンジンを運転させたままで,燃料タンクに自動補給する」ことは記載されていない。
(イ)引用発明への甲第4号証に記載された事項の適用,及び,本件特許発明1の相違点3に係る構成の容易想到性
甲第4号証は,台上試験で車両を用いて長時間連続運転を実施する装置において,台上試験車両の運転を中断することなく車両の燃料タンクに燃料を自動補給するものであり,長時間連続運転試験されるのは,試験車両を駆動するためのエンジンであって,ポンプや発電機の原動力となるエンジンではないから,石油コンビナート等の大規模な火災を想定した引用発明において,大量の水を短時間に供給するだけでなく,長時間にわたり給水するために,ポンプ車等に燃料を給油することは,周知の課題だとしても,甲第4号証に記載された事項を引用発明に適用することは,当業者にとって容易とはいえない。

イ-6.請求人の主張についての検討
(ア)上記イ-3?イ-5を総合すると,甲第3号証には,ポンプや発電機等の原動力となるエンジンを運転させたままで,燃料タンクに自動補給する装置(以下,「当該装置」という。)が記載されているといえるものの,甲第2号証及び甲第4号証には,当該装置が記載されているとはいえない。
これをふまえて検討すると,当該装置が出願時において周知であったとはいえない。
(イ)また,上記イ-4.で検討したように,甲第3号証に記載された事項からは,給油ポンプ42を外部燃料タンク43(本件特許発明1の「燃料備蓄タンク」に構造上相当。)と大容量送水車輌の間に設けるという構成が導き出せないものである。

イ-7.甲第5?6号証,甲第9?12号証についての検討
甲第5?6号証,甲第9?12号証には,引用発明を,本件特許発明1における上記相違点3に係る構成とすることについて,記載も示唆もされていない。
また,甲第1?6号証,甲第9?12号証記載の構成を,本件特許発明1の相違点3に係る構成となるように,都合良く組み合わせることが当業者が容易になし得たことともいえない。

(3)小活
そうすると,本件特許発明1は,引用発明,甲第2号証ないし甲第6号証に記載された事項,及び甲第9号証ないし甲第12号証に記載された周知事実に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
さらに,請求人が甲第7号証,甲第8号証の代替として提出した甲第13号証ないし甲第18号証を参照しても,上記結論に影響を及ぼすものではない。

3.本件特許発明2ないし本件特許発明9について
本件特許発明2ないし本件特許発明9は,本件特許発明1の発明特定事項を全て含み,さらに他の発明特定事項を付加したものであるから,本件特許発明1と同様に,引用発明,甲第2号証ないし甲第6号証に記載された事項,及び甲第9号証ないし甲第12号証に記載された周知事実に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第5 むすび
以上のとおりであるから,請求人の主張及び証拠方法によっては,本件発明の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-01-24 
結審通知日 2017-01-26 
審決日 2017-02-07 
出願番号 特願2014-211320(P2014-211320)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (F04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 所村 陽一  
特許庁審判長 中川 真一
特許庁審判官 藤井 昇
久保 竜一
登録日 2015-02-13 
登録番号 特許第5695790号(P5695790)
発明の名称 大容量送水システム  
代理人 清流国際特許業務法人  
代理人 特許業務法人 津国  

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