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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N
管理番号 1337897
審判番号 不服2015-17549  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-28 
確定日 2018-02-28 
事件の表示 特願2010-154432「肌理のある面の光学的検査のための方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 2月10日出願公開、特開2011- 27734〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成22年7月7日(パリ条約による優先権主張 2009年7月15日 ドイツ)の出願であって、平成25年12月10日付けで拒絶理由が通知され、平成26年3月17日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成26年9月22日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年12月22日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成27年5月14日付けで平成26年12月22日付けの手続補正についての補正の却下の決定がなされ、同日付けで拒絶査定されたところ、平成27年9月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。
その後、当審において平成28年9月27日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由1」という。)が通知され、同年12月27日付けで意見書(以下、「意見書1」という。)が提出され、平成29年4月25日に面接審理が行われ、さらに、当審において同年5月1日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由2」という。)が通知され、同年8月2日付けで意見書(以下、「意見書2」という。)及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明

本願の請求項1ないし12に係る発明(以下、「本願発明1」等という。)は、平成27年9月28日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された、
「【請求項1】
被検査面(10)上に放射線を照射する工程と、
前記面(10)上に照射され、前記面(10)で反射した放射線の少なくとも一部による画像を受ける工程と、
記録された前記画像の位置分解評価および前記画像を特徴付ける少なくとも1つの特徴値(K)の決定を行う工程と
を含む、肌理のある面(10)の光学的検査のための方法であって、
前記面を特徴付けるパラメータ(G)は、前記特徴値(K)を使用し、かつ、前記面の既知または決定された少なくとも1つのさらなる特性(E)を使用して決定され、
前記特性(E)は、前記特徴値(K)に依存しておらず、前記特徴値(K)から独立して取得され、かつ、前記特徴値(K)が得られる特定の測定値からは得られず、
前記パラメータ(G)は、経験に基づく値を使用して前記画像を評価することによる間接的な方法で求められた前記面(10)の凹凸に基づいて決定されることを特徴とする方法。
【請求項2】
記録画像の評価結果が基準データと比較されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記面(10)の定性的検査を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記放射線の照射と前記画像の記録の少なくとも一方は、少なくとも2つの異なる角度で行うことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
標準光が前記面(10)に照射されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記面(10)の材料、前記面(10)の反射性、前記面の色特性、前記面の肌理特性、前記面の輝度コントラスト、これらの組み合わせを含む特性群から前記面(10)のさらなる特性が選択されることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
分散放射線が前記面上に照射されることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記特徴値(K)は統計的な量であることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
位置分解画像の複数の個別値を評価することによって前記特徴値が決定されることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
パルス放射を使用することを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
人間の目による画像評価方法をシミュレートすることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
放射線を所定角度で被検査面上に照射する少なくとも1つの放射装置(2)と、
前記放射装置(2)によって前記面(10)上に照射され、前記面(10)で反射される前記放射線の少なくとも一部を記録し、位置分解画像を記録するのに適した少なくとも1つの画像記録装置(4)と、
前記画像を特徴付ける少なくとも1つの値を決定する処理装置(8)とを備える肌理のある面(10)の光学的検査のための装置であって、
前記処理装置(8)は、特徴値(K)を使用し、かつ、前記面(10)の既知または決定された少なくとも1つのさらなる特性(E)を使用して、前記面(10)を特徴付けるパラメータ(G)を決定するように設計されており、
前記特性(E)は、前記特徴値(K)に依存しておらず、前記特徴値(K)から独立して取得され、かつ、前記特徴値(K)が得られる特定の測定値からは得られず、
前記パラメータ(G)は、経験に基づく値を使用して前記画像を評価することによる間接的な方法で求められた前記面(10)の凹凸に基づいて決定されることを特徴とする装置。
【請求項13】
前記装置(1)が、少なくとも1つの特徴値、または、既知または決定された前記特性を特徴付ける値を格納する記憶装置(24)を備えることを特徴とする請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記装置(1)は少なくとも1つのさらなる放射装置(12)または少なくとも1つのさらなる画像記録装置を備えることを特徴とする請求項12または13に記載の装置。
【請求項15】
前記画像記録装置(4)は前記面(10)に対して90°の角度に配置されることを特徴とする請求項12から14のいずれか一項に記載の装置。
【請求項16】
前記装置は、検出された特徴値の少なくとも1つを基準値と比較する比較器(18)を備えることを特徴とする請求項12から15のいずれか一項に記載の装置。
【請求項17】
前記パラメータ(G)は、前記被検査面が基準面に対して許容範囲内にまだあるかどうかを示す値であることを特徴とする請求項1に記載の方法。」
が、さらに、平成29年8月2日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載の事項により特定される、下記のとおりの発明であると認める。

「【請求項1】
被検査面(10)上に放射線を照射する工程と、
前記面(10)上に照射され、前記面(10)で反射した放射線の少なくとも一部による画像を受ける工程と、
記録された複数の前記画像の個別値を評価することによって得られる位置分解評価および前記画像を特徴付ける少なくとも1つの特徴値(K)の決定を行う工程と
を含む、肌理のある面(10)の光学的検査のための方法であって、
前記面を特徴付けるパラメータ(G)は、前記特徴値(K)を使用し、かつ、前記面の既知または決定された少なくとも1つのさらなる特性(E)を使用して決定され、
前記特性(E)は、前記特徴値(K)に依存しておらず、前記特徴値(K)から独立して取得され、かつ、前記特徴値(K)が得られる特定の測定値からは得られず、前記面(10)の材料、前記面(10)の反射性、前記面の色特性、前記面の肌理特性、前記面の輝度コントラスト、これらの組み合わせを含む特性群から選択され、
前記パラメータ(G)は、経験に基づく値前記特性(E)を使用して前記画像を基準データと比較されて評価することによる間接的な方法で求められた前記面(10)の凹凸に基づいて決定されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記面(10)の定性的検査を行うことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記放射線の照射と前記画像の記録の少なくとも一方は、少なくとも2つの異なる角度で行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
標準光が前記面(10)に照射されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
分散放射線が前記面上に照射されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記特徴値(K)は統計的な量であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
パルス放射を使用することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
放射線を所定角度で被検査面上に照射する少なくとも1つの放射装置(2)と、
前記放射装置(2)によって前記面(10)上に照射され、前記面(10)で反射される前記放射線の少なくとも一部の画像を記録し、複数の前記画像の個別値を評価することによって得られる位置分解画像を記録するのに適した少なくとも1つの画像記録装置(4)と、
前記画像を特徴付ける少なくとも1つの値を決定する処理装置(8)とを備える肌理のある面(10)の光学的検査のための装置であって、
前記処理装置(8)は、特徴値(K)を使用し、かつ、前記面(10)の既知または決定された少なくとも1つのさらなる特性(E)を使用して、前記面(10)を特徴付けるパラメータ(G)を決定するように設計されており、
前記特性(E)は、前記特徴値(K)に依存しておらず、前記特徴値(K)から独立して取得され、かつ、前記特徴値(K)が得られる特定の測定値からは得られず、前記面(10)の材料、前記面(10)の反射性、前記面の色特性、前記面の肌理特性、前記面の輝度コントラスト、これらの組み合わせを含む特性群から選択され、
前記パラメータ(G)は、経験に基づく値前記特性(E)を使用して前記画像を評価することによる間接的な方法で求められた前記面(10)の凹凸に基づいて決定され、
検出された特徴値の少なくとも1つを基準値と比較する比較器(18)を備えることを特徴とする装置。
【請求項9】
前記装置(1)が、少なくとも1つの特徴値、または、既知または決定された前記特性を特徴付ける値を格納する記憶装置(24)を備えることを特徴とする請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記装置(1)は少なくとも1つのさらなる放射装置(12)または少なくとも1つのさらなる画像記録装置を備えることを特徴とする請求項8または9に記載の装置。
【請求項11】
前記画像記録装置(4)は前記面(10)に対して90°の角度に配置されることを特徴とする請求項8から10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
前記パラメータ(G)は、前記被検査面が基準面に対して許容範囲内にまだあるかどうかを示す値であることを特徴とする請求項1に記載の方法。」

なお、意見書2の(1)の主張によれば、請求項1及び請求項8の「経験に基づく値前記特性(E)」の記載における「経験に基づく値」は、削除するべきものを、錯誤により削除されなかったものと思われる。

第3 当審による拒絶理由2について

1 当審拒絶理由2

当審拒絶理由2を抜粋すると、以下のとおりである。

「 本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


(1)・・・(略)・・・

(2)請求項1の記載において、「前記画像の位置分解評価」とあるが、これが何を表現しているのか不明であり、請求項1に係る発明が明確に把握できない。
請求項1の記載を引用する請求項2ないし11及び17に係る発明も、同様である。
よって、請求項1ないし11及び17に係る発明は明確でない。

(3)請求項1の記載において、「経験に基づく値」とあるが、ここにおける「経験」が、誰の、どのような経験に基づく値であるのか不明であり、そもそも「経験」は、客観的に規定されるものではないことから、「経験に基づく値」がどのようなものであるのか明確でなく、請求項1に係る発明が明確でない。
請求項1の記載を引用する請求項2ないし11及び17に係る発明も、同様である。
よって、請求項1ないし11及び17に係る発明は明確でない。

(4)請求項1の記載において、特性(E)と「経験に基づく値」との関係が不明であり、請求項1に係る発明が明確に把握できない。
請求項1の記載を引用する請求項2ないし11及び17に係る発明も、同様である。
よって、請求項1ないし11及び17に係る発明は明確でない。

(5)・・・(略)・・・

(6)請求項3の記載において、「前記面(10)の定性的検査」とあるが、この定性的検査が特徴値(K)を求めるための検査であるのか、パラメータ(G)を求めるための検査であるのか不明であり、請求項3に係る発明が明確に把握できない。
請求項3の記載を引用する請求項4ないし11に係る発明についても同様である。
よって、請求項3ないし11に係る発明は明確でない。

(7)請求項9の記載において、「位置分解画像」とあるが、これがどのような画像であるのか不明であり、また、「位置分解画像の複数の個別値を評価することによって前記特徴値が決定される」とは、どのようなことを規定しているのか不明である。
請求項9の記載を引用する請求項10及び11に係る発明についても同様である。
よって、請求項9ないし11に係る発明は明確でない。

(8)・・・(略)・・・

(9)請求項12の記載において、「位置分解画像」とあるが、これがどのような画像であるのか不明であり、請求項12に係る発明が明確に把握できない。
請求項12の記載を引用する請求項13ないし16に係る発明についても同様である。
よって、請求項12ないし16に係る発明は明確でない。

(10)請求項12の記載において、「経験に基づく値」とあるが、ここにおける「経験」が、誰の、どのような経験に基づく値であるのか不明であり、そもそも「経験」は、客観的に規定されるものではないことから、「経験に基づく値」がどのようなものであるのか明確でなく、請求項12に係る発明が明確に把握できない。
請求項12の記載を引用する13ないし16に係る発明も、同様である。
よって、請求項12ないし16に係る発明は明確でない。

(11)請求項12の記載において、特性(E)と「経験に基づく値」との関係が不明であり、請求項12に係る発明が明確に把握できない。
請求項12の記載を引用する13ないし16に係る発明も、同様である。
よって、請求項12ないし16に係る発明は明確でない。」

以下、上記した(1)ないし(11)の項目を、「拒絶理由(1)」ないし「拒絶理由(11)」という。

2 請求人の主張

当審拒絶理由2に対し、請求人は、意見書2において、以下の主張を行っている。

「特許法36条6項2号に関する拒絶理由通知に対して、本意見書と同日付けの手続補正書によって、特許請求の範囲を補正しました。
補正の内容は以下の通りです。
(1)請求項1及び8(旧請求項12)から「経験」という用語を削除し、旧請求項6の表現を用いて明確にしました。
(2)請求項1及び8(旧請求項12)「位置分解評価」という用語を、旧請求項9を使って明確にしました。
(3)請求項1及び8(旧請求項12)の「面を特徴付けるパラメータ(G)」という用語を、旧請求項2及び旧請求項16の表現を用いて明確にしました。
(4)上記(1)乃至(3)に伴い、旧請求項2,6,9,16を削除しました。
(5)不明確とされた請求項11を削除しました。

今回の補正によって特許法36条6項2号に関する拒絶理由通知は解消されたものと思料致します。」

以下、上記(1)ないし(5)の項目を、「主張(1)」ないし「主張(5)」という。
なお、主張(2)の「請求項1及び8(旧請求項12)「位置分解評価」という用語」は、「請求項1の「位置分解評価」という用語及び請求項8の「位置分解画像」という用語」の誤記であると解する。

3 当審の判断

(1) 拒絶理由(2)について

本件補正前の請求項1における「前記画像の位置分解評価」が何を表現しているのか不明であるとした拒絶理由(2)に対して、本件補正後の請求項1では、「記録された複数の前記画像の個別値を評価することによって得られる位置分解評価」に補正された。
そして、請求人は、主張(2)において、「請求項1・・・「位置分解評価」という用語を、旧請求項9を使って明確にしました。」と主張している。
そこで、本件補正前の請求項9の記載を参照すると、「位置分解画像の複数の個別値を評価することによって前記特徴値が決定される」と記載されていることから、「位置分解画像の複数の個別値を評価すること」が行われているが、「位置分解画像の複数の個別値を評価することによって」得られるのは、特徴値であって、位置分解評価ではないから、本願発明1の位置分解評価は、依然として、どのような評価であるか不明である。
また、本願明細書の記載を参酌しても、位置分解評価に関しては、段落【0008】に「・・・さらなる工程では、記録された画像の位置分解評価を行い、この画像を特徴付ける少なくとも1つの値を決定する。」との記載があるのみであり、本願発明1の位置分解評価がどのような評価であるか理解できない。
したがって、本願発明1及び本願発明1を引用する本願発明2ないし7及び12は明確でなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(2) 拒絶理由(3)及び(10)について

請求人は、主張(1)において、「請求項1及び8(旧請求項12)から「経験」という用語を削除し、旧請求項6の表現を用いて明確にしました。」と主張している。
しかしながら、上記のように、錯誤により削除しなかったものであるとしても、本件補正後の請求項1及び請求項8には、「前記パラメータ(G)は、経験に基づく値前記特性(E)を使用して」との記載が存在する。
そして、意見書2の記載を参酌しても、本願発明1又は本願発明8の「経験」あるいは「経験に基づく値」について、何ら説明がなされておらず、本願明細書の記載を参酌しても理解できないことから、依然として拒絶理由(3)及び(10)は解消していない。
したがって、本願発明1、本願発明8、及び、それらを引用する本願発明2ないし7、9ないし12は、明確でなく、この出願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(3) 拒絶理由(4)及び(11)について

上記(2)において指摘したように、「経験に基づく値」が錯誤により削除しなかったものであるとしても、本件補正後の請求項1及び請求項8には、「前記パラメータ(G)は、経験に基づく値前記特性(E)を使用して」との記載が存在し、「経験に基づく値」と「特性(E)」の異同が不明であることから、依然として拒絶理由(4)及び(11)は解消していない。
したがって、本願発明1、本願発明8、及び、それらを引用する本願発明2ないし7、9ないし12は、明確でなく、この出願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(4) 拒絶理由(6)について

本件補正前の請求項3に記載された「前記面(10)の定性的検査を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の方法。」は、本件補正により、本願発明2である「前記面(10)の定性的検査を行うことを特徴とする請求項1に記載の方法。」に補正された。
そして、先に指摘した「請求項3の記載において、「前記面(10)の定性的検査」とあるが、この定性的検査が特徴値(K)を求めるための検査であるのか、パラメータ(G)を求めるための検査であるのか不明であ」るとした拒絶理由について、意見書2には、その拒絶理由の解消のための主張は何らなされておらず、また、本願発明2が引用する本願発明1が補正されたことによって上記の点が明確になり、上記拒絶理由が解消したとも認められないことから、依然として拒絶理由(6)は解消されていない。
したがって、本願発明2及び本願発明2を引用する本願発明3ないし7は、明確でなく、この出願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(5) 拒絶理由(9)について

主張(2)によれば、本件補正前の請求項12における「位置分解画像」がどのような画像であるのか不明であるとした拒絶理由(9)に対して、本件補正後の請求項8では、「位置分解画像」について、本件補正前の請求項9の「位置分解画像の複数の個別値を評価することによって前記特徴値が決定される」の記載を使用して、「複数の前記画像の個別値を評価することによって得られる」ものである点が限定された。
しかしながら、本件補正前の請求項9の記載では、位置分解画像の複数の個別値を評価することによって前記特徴値が決定されるのであって、位置分解画像が得られるのではないから、本願発明8の位置分解画像は依然としてどのような画像であるか不明であり、また、本願明細書の記載を参酌しても、位置分解画像に関しては、段落【0023】に、「特徴値は、位置分解画像の多数の個別値の評価を通して決定されることが好ましい。これにより、例えば、異なる段階の輝度を表す複数の画素を使用することができる。」と記載されているだけであり、本願発明8の位置分解画像がどのような画像であるか理解できない。
したがって、拒絶理由(9)は解消していない。
よって、本願発明8、及び、本願発明8を引用する本願発明9ないし11は、明確でなく、この出願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(6) 本件補正の特許法第17条の2第3項の要件についての附言

上記(1)における検討のとおり、本件補正前の請求項1に本件補正前の請求項9に記載された事項を付加することによっては、本件補正後の請求項1に記載された構成を導き出すことはできず、また、(5)における検討のとおり、本件補正前の請求項12に本件補正前の請求項9に記載された事項を付加することによっては、本件補正後の請求項8に記載された構成を導き出すことはできない。
この点について、本願明細書の記載を参照すると、本願明細書において「位置分解評価」又は「位置分解画像」に関する記載は、段落【0008】、【0023】、及び、【0026】にのみ存在し、それらは、以下のとおりである(下線は当審で付与したものである。)。

「【0008】
本発明の肌理のある面の光学検査の方法における一つの工程では、被検査面上に放射線を照射する。さらなる方法の工程では、画像は、面上に照射され、面で反射される放射線の少なくとも一部から受信され、さらなる工程では、記録された画像の位置分解評価を行い、この画像を特徴付ける少なくとも1つの値を決定する。」
「【0023】
特徴値は、位置分解画像の多数の個別値の評価を通して決定されることが好ましい。これにより、例えば、異なる段階の輝度を表す複数の画素を使用することができる。」
「【0026】
本発明は、さらに、被検査面に対して所定の角度で放射線を照射する少なくとも1つの放射装置および当該放射装置によって面上に照射され面で反射された放射線の少なくとも一部を記録する少なくとも1つの画像記録装置を含む、肌理のある面の光学的検査のための装置に関する。この場合、画像記録装置は位置分解画像を記録するのに適しており、加えて、この画像を特徴付ける少なくとも1つの値を決定する処理装置が備えられている。」

そして、これらのいずれの記載からも、上記した本件補正後の請求項1、及び、請求項8に記載された構成は導き出せない。

したがって、本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない点に留意されたい。

(7) 小括

以上のとおりであるから、本願発明1ないし12は依然として明確でなく、本願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしてない。

第4 当審拒絶理由1について

1 当審拒絶理由1

当審拒絶理由1の概要は、以下のとおりである。

本願は、発明の詳細な説明が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(1)「特性(E)」がどのように特定されるものであるかについて検討すると、「特性(E)」は、「色特性などの面の光学的特性を示す値」である一方、「経験」を「考慮」した「特性」ということになるが、「色特性などの面の光学的特性を示す値」と、「経験」を「考慮」した「特性」とがどのように関連づけられるのか、あるいは、「色特性などの面の光学的特性を示す値」であるものが、何故に「経験」を「考慮」した「特性」といえるのか、そして、どのようにすれば、「経験」を「考慮」した「特性(E)」が特定されるのか、技術常識を参酌しても発明の詳細な説明の記載からは理解できず、「特性(E)」に関して、本願の発明の詳細な説明の記載は、請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

(2)「パラメータ(G)」がどのように決定されるものであるのかについて検討すると、「パラメータ(G)」は、「特性(E)」を使用しながら決定されるものであるが、上記(1)において検討したように、「特性(E)」がどのように特定されるものであるのか、発明の詳細な説明の記載からは理解できないことから、同様に、「パラメータ(G)」がどのように決定されるかについても、発明の詳細な説明の記載からは理解できない。
また、「パラメータ(G)」は、光学検査を用いて間接的に、特に、経験に基づく値を使用することのみによって画像を評価することによって求められるものであるが、「経験に基づく値」とは、どのようなものであって、どのように求められるものであるのかも、発明の詳細な説明の記載からは理解できず、「パラメータ(G)」に関しても、本願の発明の詳細な説明の記載は、請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

よって、この出願の発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明における「特性(E)」、及び、「パラメータ(G)」に関して、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
同様のことは、請求項12に係る発明にもいえる。
また、請求項1の記載を引用する請求項2ないし11、17に係る発明、及び、請求項12の記載を引用する請求項13ないし16に係る発明についても同様である。

2 請求人の主張

当審拒絶理由1に対し、請求人は、意見書1において以下の主張を行っている。

(1) 理由(1)に対して

a 「本願発明は、段落[0001]に記載されていますように、例えば「車両ボディの表面」や「床面や家具」等の肌理のある面を検査する方法および装置に関するものです。また、段落[0011]にも「車体パーツまたは車内パーツを交換しなければならない車両において重要であ」ることが記載されています。このように検査する対象となる物の材料や塗装された色等に起因する光学的特性を経験により考慮するものが特性(E)です。すなわち、例えば、測定される面を構成する材料が金属であるのか樹脂であるのか木材であるのか、あるいは白色に塗装されているのか黒色に塗装されているのかといったことが分かれば、経験的に光学的特性を知ることができます。このようにして得られた特性(E)を使用してパラメータ(G)を決定することが本願発明です。このことは、実施形態である段落[0040]に「このようにして、例えば、色に関するデータや面の材料などの面10の既知の特徴データを格納する記憶装置24からさらなるデータEを取得することも可能である。」(下線は代理人が付加した。)と記載されていることからも理解できます。
したがって、「色特性などの面の光学的特性を示す値」と、「経験」を「考慮」した「特性」との関連性は、本願明細書から十分に明確であると思料致します。」

b 「例えば、測定される面が金属であるのか樹脂であるのか木材であるのかということが分かれば、測定される面の光学的特性は経験的に得ることができます。」

c 「測定される面が金属であるのか樹脂であるのか木材であるのかといったことが分かれば、経験により検査面の光学的特性が得られるので、特性(E)が特定されることになります。」

(2) 理由(2)に対して

「「経験に基づく値」は、特性(E)に相当します。このことは、平成28年3月28日付け上申書にて補正案として『前記特性(E)とされた経験に基づく値を使用して』と提案している通りです。そして、特性(E)は上述しましたように本願明細書から明らかなものです。」

3 当審の判断

(1) 理由(1)について

本件補正により、請求項1には、「前記特性(E)は、」「前記面(10)の材料、前記面(10)の反射性、前記面の色特性、前記面の肌理特性、前記面の輝度コントラスト、これらの組み合わせを含む特性群から選択され、」との記載が付加された。
また、請求人により、意見書1において、上記「(1) 理由(1)に対して」に記載した主張がなされた。

そこで、請求人の上記主張について検討すると、「特性(E)」を、面(10)の材料、面(10)の反射性、面の色特性、面の肌理特性、面の輝度コントラスト、これらの組み合わせを含む特性群から選択されたものとすることは、抽象的には理解できないものではない。
しかしながら、実際に「面を特徴付けるパラメータ(G)」を「既知または決定された少なくとも1つのさらなる特性(E)を使用して決定」するにあたっては、例えば、「特性(E)」が、面の材料や反射性、色特性、肌理特性等を、何らかの手法を用いて数値的に表現されるものであるのか、それらの面の特性に応じた閾値の値を表すものであるのか等、「特性(E)」の具体化が必要であることは明らかであるが、発明の詳細な説明には、その具体化に関して何ら記載されておらず、「特性(E)」の具体例も全く記載されていない。
さらに、請求項1に記載された「経験に基づく値」に関して、「経験」は、一般的に主観的なものであり、また、個人差があるものであるから、「誰の経験」であるのか、また、「どのような経験」であるのかによって、一義的に特定できるものではなく、「経験に基づく値」の特定には、何らかの方法を用いた「経験」の定量化が必要であることは明らかであるが、その「経験」の具体的な定量化に関して、あるいは、「経験に基づく値」の具体的な求め方に関しては、明細書中には何ら具体的に記載されていない。
したがって、本願発明1を実施し、本願明細書の段落【0006】に記載された「面の機械的な測定を行うことなく、面、特に肌理のある面を客観的に評価する方法と装置を提供する」という目的を実現するには、「特性(E)」を使用し「面を特徴付けるパラメータ(G)」を決定するにあたって、「特性(E)」の具体化において、当業者に過度の試行錯誤を強いるものであり、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
同様のことは本願発明8についてもいえる。
また、本願発明2ないし7、9ないし12についても同様である。

(2) 理由(2)について

請求人は、当審拒絶理由1における「「特性(E)」がどのように特定されるものであるのか、発明の詳細な説明の記載からは理解できないことから、同様に、「パラメータ(G)」がどのように決定されるかについても、発明の詳細な説明の記載からは理解できない」とした指摘に対して、 上記「(2) 理由(2)に対して」に記載した主張を行っているが、「前記特性(E)とされた経験に基づく値を使用して」の記載は、「平成28年3月28日付け上申書にて補正案として『前記特性(E)とされた経験に基づく値を使用して』と提案してい」たものであり、実際には、その提案に即した手続補正は行われておらず、請求人の主張は、請求項に記載された事項に基づくものではない。
また、本件補正後の請求項1には、「前記パラメータ(G)は、経験に基づく値前記特性(E)を使用して」の記載が存在し、該「経験」については、上記「(1) 理由(1)について」において検討したとおりである。
したがって、本願発明1を実施し、本願明細書の段落【0006】に記載された上記した目的を実現するにあたって、本願発明1における「パラメータ(G)」に関して、「経験に基づく値」を求めるためには、当業者に過度の試行錯誤を強いるものであり、この出願の発明の詳細な説明は、本願発明1における「パラメータ(G)」に関して、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
同様のことは本願発明8についてもいえる。
また、本願発明2ないし7、9ないし12についても同様である。

(3) 本件補正後の請求項1及び8における「経験に基づく値」が削除されたと仮定した場合についての附言

本件補正後の請求項1及び8には、依然として「経験に基づく値前記特性(E)」との記載はあるものの、該記載は削除すべきものを錯誤により削除されなかったと仮定し、該記載がなかったものとして検討した場合についても以下に示す。

本件補正により、請求項1には、「前記特性(E)は、」「前記面(10)の材料、前記面(10)の反射性、前記面の色特性、前記面の肌理特性、前記面の輝度コントラスト、これらの組み合わせを含む特性群から選択され、」との記載が付加された。
そして、請求人により、意見書1において、上記「(1) 理由(1)に対して」及び「(2) 理由(2)に対して」に記載した主張に記載した主張がなされた。

しかし、これらの主張については、上記(1)及び(2)で検討したとおりである。

よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明1ないし12を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

(4) 小括

よって、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明1ないし12を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしてない。

第5 結語

以上のとおりであるから、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、また、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしてない。

したがって、本願は、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-09-28 
結審通知日 2017-10-03 
審決日 2017-10-16 
出願番号 特願2010-154432(P2010-154432)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (G01N)
P 1 8・ 536- WZ (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 遠藤 孝徳南 宏輔  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 藤田 年彦
▲高▼橋 祐介
発明の名称 肌理のある面の光学的検査のための方法および装置  
代理人 藤田 考晴  
代理人 上田 邦生  
代理人 川上 美紀  

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