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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12M
管理番号 1337908
審判番号 不服2016-13338  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-09-06 
確定日 2018-02-28 
事件の表示 特願2013-215244「自動化診断用分析器および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 1月30日出願公開、特開2014- 14374〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成11(1999)年4月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 1998年5月1日 米国(US))を国際出願日とする特願2000-547476号の一部を、特許法第44条第1項の規定により平成20(2008)年6月27日に特願2008-169684号として分割し、さらに、同法同条同項の規定によりこの出願の一部を平成23(2011)年12月19日に特願2011-277356号として分割し、さらに、同法同条同項の規定によりこの出願の一部を平成25(2013)年10月16日に新たな特許出願として分割したものであって、主な経緯は以下のとおりである。

平成26年12月11日付け 拒絶理由通知書

平成27年 6月10日 意見書・手続補正書

平成27年10月29日付け 拒絶理由通知書

平成27年12月11日 意見書・手続補正書

平成28年 4月28日付け 拒絶査定

平成28年 9月 6日 審判請求書・手続補正書

平成28年10月14日 手続補正書(方式)

2.本願発明

本願の請求項1?17に係る発明は、平成28年9月6日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?17に記載された発明特定事項により特定されるものであるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものと認める。

「試料中の標的核酸の存在を検出するための方法であって、該方法は、自給型の独立した分析器のハウジング内において以下の自動化された工程:
a)該標的核酸と固体支持体とを含む複合体が形成されるように該試料と該固体支持体とを接触させる工程であって、該固体支持体は、磁気応答性粒子を含み、かつ、該複合体は、該試料の流体成分中に懸濁される、工程;
b)工程a)の後、該試料を磁場に供する工程;
c)該試料を該磁場に供しながら、少なくとも部分的に導電性である除去可能な接触制限チップレットを用いて、該複合体から該試料の該流体成分の少なくとも一部を吸引し、それにより該核酸を精製する工程;
d)該分析器のピペットにより混合物を形成する工程であって、該混合物は、精製された該核酸と核酸増幅を実行するのに必要とされる全ての試薬とを含む、工程;
e)該混合物において増幅産物を合成する工程であって、該増幅産物の各々は、該核酸またはその相補体に含まれるヌクレオチド配列を含む、工程;
f)該混合物において、工程e)で合成された該増幅産物のうちの1つである増幅産物を、検出可能な標識を有するプローブに曝露し、該増幅産物にハイブリダイズした該プローブを含むハイブリッドを形成させる工程;および
g)該混合物中において、該ハイブリッドの形成の指標となる該標的を検出する工程であって、該混合物中における該ハイブリッドの形成は、該試料中の該核酸の存在の指標となる、工程
を実施する工程を包含する、方法。」

3.引用刊行物の記載事項

これに対して、原査定において引用され、本願の優先日である平成10(1998)年5月1日より前に頒布されたことが明らかな刊行物(以下、それぞれを「引例1」?「引例4」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付与した。)。

引例1:特開平1-211500号公報
(1-1)
非標的ポリヌクレオチドを伴う試料中に含まれている可能性のある標的ポリヌクレオチド分子の増幅方法において、
a、前記試料を第1ポリヌクレオチドプローブと結合条件下で接触させること、ここで前記第1プローブは第1プローブ-標的複合体を形成できるように結合条件下で前記標的と特異的に結合することができる;
b、標的の存在下で第1プローブ-標的複合体を含む分離生成物を形成させるために、試料中の前記非標的ポリヌクレオチドから前記第1プローブを実質的に分離すること;および
c、その生成が標的の存在に依存している増幅生成物を形成させるために分離生成物に増幅処理を施すこと;
からなる上記方法。(特許請求の範囲の請求項13)

前記分離生成物及びもし前記増幅生成物が存在するならば該生成物を、前記増幅生成物と結合条件下で特異的に結合できる標識プローブと結合条件下で接触させる工程、及び前記増幅生成物を、標的分子の存在を示す標識プローブの存在について監視する工程を更に含む・・・。
(特許請求の範囲の請求項16)

非標的ポリヌクレオチドを伴う試料中に含まれている可能性のある標的ポリヌクレオチド分子を増幅し捕獲するためのキットであつて、
a、回収可能な支持体及び前記標的と結合条件下で結合することができる第1プローブ;
b、試料媒体中に実質的に均質分散でき、且つ試料中で標的の存在下で前記標的を含む分離生成物を形成するためにそこから分離することができる回収可能な支持体;及び
c、前記分離生成物に適用するのに適した増幅試薬;
からなる上記キット。(特許請求の範囲の請求項21)

前記回収可能な支持体は少なくとも1個のビーズを含んでいる・・・。
(特許請求の範囲の請求項22)

前記ビーズが磁場と相互作用し得る・・・。
(特許請求の範囲の請求項23)

(1-2)
本方法の態様は、検定の感度を改善するために増幅生成物を生成させる増幅工程を伴つて実施することができる。ここで、第4、5及び6図に転ずると、各図面は捕獲プローブ及びビーズの形態をした回収可能な支持体の使用によつて標的を捕獲する工程1を含んでいる。ポリヌクレオチド標的はA^(1)、B^(1)及びC^(1)として規定される領域を含んでいる。ポリヌクレオチドプローブは標的の相補性の”A^(1)”と結合することのできる”A”領域を含んでいる。更に、プローブはビーズと結合している抗リガンドと結合できるリガンドを含んでいる。図示されているように、プローブのリガンド及びビーズの抗リガンドは相補的ホモポリマーである。
第4、5及び6図の工程2において、標的は無関係なポリヌクレオチド、不純物、細胞性物質及び試料処理で用いた可溶化剤から分離される。
第4、5及び6図の工程3においては、単離された標的は多数の増幅生成部を形成するために非特異的に増幅される。(14頁右下欄2行?15頁左上欄1行)

(1-3)
本発明の好適な態様は、試料媒体中に実質的に均質分散しうる能力により特徴づけられる磁性ビーズから成る回収可能な支持体を包含する。(11頁左上欄3行?5行)

(1-4)
自動分析用に設計された器械では、第7図に示した装置は多数の収納容器を受容する手段を含むであろう。例示目的のために、試料を含む収納容器は逐次分析される。こうして、収納容器は第1ステーシヨンへ、続いて検定法の種々の工程が行われる後続のステーシヨンへ搬送される。
各ステーシヨンは搬送手段により連結されている。搬送手段には回転可能なターンテーブル、コンベアーベルトなどが含まれる。臨床病院に設定する場合、搬送手段は手動移動を含みうる。・・・
さて第1ステーシヨンに戻ると、試料と可溶化剤を収納容器に入れ、その中の攪拌部材により試料と可溶化剤を完全に混合して細胞物質から核酸を放出させる。搬送手段によりその収納容器をステーシヨン2へ運び、そこで収納容器は試薬を受け取る。
試薬は第1ポリヌクレオチドプローブおよび第2ポリヌクレオチドプローブを含む。第1および第2プローブは標的ポリヌクレオチドと複合体を形成することができ、その際両プローブは標的の相互に排他的な部分と結合する。第1ブローブはまた結合条件下で回収可能な支持体と結合しうる。第2ポリヌクレオチドプローブは検出可能な標識成分を含む。試薬と核酸試料は加熱部材により変性され、その後ステーシヨン3に運ばれる。
ステーシヨン3において、収納容器は円により示される第1支持体を受け取る。第1支持体は適当な手段(攪拌部材を含む)により試料媒体中に均質分散される。適当な支持体の例にはポリスチレンビーズ、磁性ビーズおよび他の粒状またはフイラメント状物質が含まれるが、これらに限定されない。先に例示したように、第1支持体はデオキシチミジン(dT)のポリヌクレオチド抗リガンドを有する磁性ビーズでありうる。第1プローブは結合またはハイブリダイゼーシヨン条件下で第1支持体に結合しうるデオキシアデノシン(dA)の尾部を含む。
ステーシヨン4へ移動すると、そこでは冷却部材で冷却されることにより試料媒体にハイブリダイゼーシヨン条件が課せられる。・・・
ステーシヨン4からステーシヨン5へ収納容器は移動し、そこで回収可能な支持体が磁性部材を活性化することにより収納容器の壁に固定化される。・・・試料媒体は大部分の無関係のDNA、RNA、可溶化剤、細胞物質および不純物を保有し、廃棄される。固定化された回収可能支持体は無関係のDNA、RNA、可溶化剤、細胞物質および不純物をさらに除くために洗浄される。・・・
回収可能支持体は同一の収納容器か又は新たな収納容器中の第2媒体に添加される。第2媒体中に回収可能支持体を含む収納容器はステーシヨン6に送られる。
ステーシヨン6において、第2媒体は加熱部材を含む適当な手段で変性条件に至らせる。この変性工程は回収可能支持体の(dT)ホモポリマーから標的-第1および第2プローブ複合体を遊離させる。無関係のDNA、RNA、不純物および細胞物質を含む可能性のある第1支持体は第2媒体から除去する。もし必要ならば、増幅工程を、既に不純物、細胞破片、及び非標的ポリヌクレオチドを実質的に含んでいない標的に適用しても良い。増幅工程は、酵素、例えば、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、トランスクリプターゼまたはQβレプリカーゼのような酵素によつて増幅生成物を生産することを含んでいる。増幅生成物が、標的分子でない場合、第2プローブは、第1プローブの代わりをする第3プローブと同様に増幅生成物に向かつて行く。
その後バツクグラウンド支持体を第2媒体と接触せしめ、ステーシヨン7へ送る。
ステーシヨン7で第2媒体は冷却部材によりハイブリダイゼーシヨン温度にする。・・・
次に、第2媒体およびバツクグラウンド支持体を含む収納容器はステーシヨン8に搬送され、ここで標的-プローブ複合体に結合していない第2プローブ鎖を有するバツクグラウンド支持体が第2媒体から分離される。・・・
ステーシヨン10へ移ると、第3支持体は標的-第1および第2プローブ複合体を濃縮し、それにより第2プローブに担持された標識成分の検出が可能となる。(15頁右下欄9行?17頁右下欄8行)


引例2:特開平7-107999号公報
(2-1)
この発明にかかる遺伝子診断装置においては、一体成型して作られた容器は多数の独立した孔が設けられており、多数の試料を一度に処理することができ、また分注機が設けられているから、試薬を定量的に概容器に分注することや、混合及び吸引除去が出来るため、DNA抽出工程におけるSDSや蛋白質分解酵素の注入、及びDNA増幅工程におけるオリゴヌクレオチドプライマー1及び2、4種のデオキシヌクレオチド三リン酸、DNA合成酵素、反応緩衝液の添加、及びハイブリダイゼイション工程におけるオリゴヌクレオチドプローブ5、及び精製工程における磁気ビーズ8等の添加、混合、オリゴヌクレオチドプローブ5の吸引除去を行うことが出来る。また保冷室が設けられているから、生体試料及び試薬の保存が出来る。また加温機が設けられているから、容易に容器内の液体を加温することが出来るので、DNA抽出工程における生体試料の加熱、蛋白質分解酵素の作用温度の保持、及びDNA増幅工程における、対象のゲノムDNAを90度以上の高温で1本鎖に解離させる温度、相補鎖が結合する温度、DNA合成酵素を活性させ、デオキシヌクレオチド三リン酸を取り込み鋳型伸長反応が行われる温度、及びハイブリダイゼイション工程における、二本鎖DNAを変性させ、一本鎖DNAに解離する温度、次いで一本鎖DNAとオリゴヌクレオチドプローブと相補鎖に結合させる温度に容易に保持することが出来る。また検出器が設けられているから、検出工程におけるハイブリダイゼイション工程で用いたオリゴヌクレオチドプローブの標識物である蛍光色素に、蛍光色素の励起波長を照射し、発光波長を光電子倍増素子によって容易に検出することが出来る。また、搬送機によって容器を上記分注機、上記保冷室、上記加温機、上記検出器間に搬送することが出来る。また上記分注機、上記保冷室、上記加温機、上記検出器、上記搬送機の作動空間を覆い、装置内部作業空間と装置外部空間を遮断する筐体が設けられているから、生体試料を閉じ込めた状態で処理することができるので、作業者や環境を汚染することなく遺伝子解析を行うことが出来る。
このように生体試料を解析するために必要な、試薬の分注、混合、遠心分離操作、加温の操作がコントローラによりプログラマブルに実行できるため、試料の調製を自動で行うことが出来る。そして検出器によって、調製された試料の調製結果を得ることが出来る。
(【0027】?【0028】)

(2-2)
・・・この分注機15は、使い捨てのチップ内に液体を保持し、試薬容器から試料容器へ、定量的に液体を注入したり、試料から不要な液体を吸引し除去したり、試料内にチップ先端を保持し、吸引及び吐出を繰り返すことで、液体と試料の混合を行うことが出来る。
(【0029】)

引例3:特開平8-35971号公報
(3-1)
血漿、血清の様な生体試料中の化学成分の定量を行う際に試料、試薬等の分注に使用されるピペットとピペットチップは従来種々提案されているが、微量の試料を正確量分注し、かつ試料、試薬間のクロスコンタミネーションを防止する目的でピペットチップは特開昭60-137443号公報等に開示されているようにピペットに着脱可能で、かつ、使い捨てになっているものが多い。(【0002】)

(3-2)
・・・ピペットチップとピペットの接続部の双方を導電性素材で構成することにより、・・・センサーと組み合わせてピペットチップをピペットに装着したときの静電容量の微少変化を測定することにより、ピペットチップの付け忘れや、ピペットからのピペットチップの落下を容易に検知することが可能となる。(【0012】)

引例4:特開平7-333230号公報
(4-1)
図6は本発明による、導電性のディスポーザブルプラスチックチップ141を用いた静電容量法による液体分注装置の一実施例を示す。本装置は上下動可能なアーム142と先端に導電性プラスチック製のディスポーザブルチップ141を利用したプロ-ブ143を有し、吐出目的容器147を設置する位置に静電容量検知用の電極144とセンサー148をプロ-ブに併せ持っている。プロ-ブ143は流路145を介してシリンジ146とつながっている。
まず、ディスポーザブルチップ141内に吐出液体149を吸引した状態のまま、既に液体150の入っている容器147内へとプロ-ブ143を下降させる。液面151にディスポーザブルチップの先端152が接触した時点でプロ-ブ143と電極144間の電圧が変化するので、それをセンサー(48)によって検知し、アーム142の下降を止めることにより、プロ-ブの先端152のみを液面(51)に接触させた状態を作る。その後液体149を吐出する。この際容器147内の液面はチップ141より吐出された液体149の量(d)だけ上昇し、初めの液面151よりも上の位置153に移動する。この液面の移動に伴い、プロ-ブ143の位置も、チップ先端を液面と実質的に接触させながら上昇させる。このプロ-ブの移動量(e)は液面の移動量(d)と一致する。液体149の吐出終了後、プロ-ブ143をもとの位置まで戻して分注動作を終了する。・・・
プラスチック製デスポ-ザブルチップ141は図6の実施例のみならず、図1及び4の実施例に対しても適用され得るものであることは当然である。(【0035】?【0038】)

4.対 比
引例1には、標的ポリヌクレオチド分子(以下、「標的分子」という。)を含む試料を、第1ポリヌクレオチドプローブ(以下、「第1プローブ」という。)と結合条件下で接触させて第1プローブ-標的複合体を形成し、試料中の非標的ポリヌクレオチドから前記第1プローブ-標的複合体を実質的に分離して、第1プローブ-標的複合体を含む分離生成物を形成し、分離生成物に増幅処理を施した後、増幅生成物と結合条件下で特異的に結合できる標識プローブを増幅生成物に結合条件下で接触させ、標的分子の存在を示す標識プローブの存在を監視する方法が記載され(摘記(1-1))、非標的ポリヌクレオチドから第1プローブ-標的複合体を分離する前に、標的分子、第1プローブ、回収可能な支持体(例えば、磁性ビーズ)を結合条件下で接触させること(摘記(1-2)、(1-4)、特に摘記(1-2)の図4)、上記分離に際して磁性部材(磁性ビーズ)を活性させる、つまり磁場をかけること(摘記(1-4))、増幅工程で、酵素を使用すること(摘記(1-4))、自動分析用に設計された器械で各種の工程を行うこと(摘記(1-4))が記載されている。
そして、引例1の結合条件に、「ハイブリダイゼーシヨン条件」が含まれることは摘記(1-4)から明らかである。

以上の引例1の記載事項からみて、引例1には、以下の発明が記載されていると認められる。

「標的分子の存在を示す方法であって、自動分析用に設計された器械で、以下の工程を行う方法:
1)標的分子を含む試料を、第1プローブ、磁性ビーズとハイブリダイゼーシヨン条件下で接触させて第1プローブ-標的複合体を形成する工程、
2)試料に磁場をかけ、試料中の非標的ポリヌクレオチドから第1プローブ-標的複合体を分離する工程
3)分離された第1プローブ-標的複合体に増幅工程で使用する酵素を含ませる工程
4)分離された第1プローブ-標的複合体を増幅する工程
5)分離し、増幅された第1プローブ-標的複合体に標識プローブをハイブリダイゼーシヨン条件下で接触させる工程
6)標的分子の存在を示す標識プローブの存在を監視する工程」
(以下、「引用発明」という。)

そこで、本願発明(前者)と引用発明(後者)を対比する。
後者の「標的分子」、「磁性ビーズ」、「分離」、「増幅工程で使用する酵素」、「標識プローブ」は、前者の「標的核酸」、「磁気応答性粒子」、「精製」、「核酸増幅を実行するのに必要とされる・・・試薬」、「検出可能な標識を有するプローブ」にそれぞれ相当する。
そして、後者の1)の工程は、試料媒体中に均質分散された状態で行われるので(摘記(1-4))、前者のa)の工程の「試料の流体成分中に懸濁される」と一致し、後者の「分離し、増幅された第1プローブ-標的複合体」は、標的分子のヌクレオチド配列を含むので、前者の「増幅産物の各々は、該核酸またはその相補体に含まれるヌクレオチド配列を含む」の要件を満足する。

そうすると、両者は、
「試料中の標的核酸の存在を検出するための方法であって、該方法は、以下の工程:
a)該標的核酸と固体支持体とを含む複合体が形成されるように該試料と該固体支持体とを接触させる工程であって、該固体支持体は、磁気応答性粒子を含み、かつ、該複合体は、該試料の流体成分中に懸濁される、工程;
b)工程a)の後、該試料を磁場に供する工程;
c)該試料を該磁場に供しながら、該核酸を精製する工程;
d)混合物を形成する工程であって、該混合物は、精製された該核酸と核酸増幅を実行するのに必要とされる全ての試薬とを含む、工程;
e)該混合物において増幅産物を合成する工程であって、該増幅産物の各々は、該核酸またはその相補体に含まれるヌクレオチド配列を含む、工程;
f)該混合物において、工程e)で合成された該増幅産物のうちの1つである増幅産物を、検出可能な標識を有するプローブに曝露し、該増幅産物にハイブリダイズした該プローブを含むハイブリッドを形成させる工程;および
g)該混合物中において、該ハイブリッドの形成の指標となる該標的を検出する工程であって、該混合物中における該ハイブリッドの形成は、該試料中の該核酸の存在の指標となる、工程
を実施する工程を包含する、方法。」で一致し、以下の点で相違している。

(相違点1)
前者が、上記方法を、自給型の独立した分析器のハウジング内において自動化された工程で行い、d)の混合物の形成も上記分析器のピペットで行っているのに対して、後者では、自動分析用に設計された器械で各種の工程を行うことが記載されているものの、すべての工程を自給型の独立した分析器のハウジング内で自動化して行うこと、試薬の混合を上記分析器のピペットで行うことについて言及されていない点

(相違点2)
前者が、標的核酸の精製を、少なくとも部分的に導電性である除去可能な接触制限チップレットを用いて、複合体から試料の流体成分の少なくとも一部を吸引して行っているのに対して、後者では、試料中の非標的ポリヌクレオチドを分離する手段が特定されていない点

5.判 断

上記相違点1、2について検討する。

(1)相違点1について
引例2には、分注機により、試薬を定量的に分注したり、混合及び吸引除去が行え(磁気ビーズの添加、混合、オリゴヌクレオチドプローブの吸引除去を含む。)、搬送機により、容器を分注機、保冷室、加温機、検出器間に搬送でき、生体試料を解析するに必要な試薬の分注、混合、遠心分離操作、加温の操作がコントローラによりプログラマブルに実行できる遺伝子診断装置が記載され、装置内部作業空間と装置外部空間を遮断する筐体が設けられていることで、生体試料を閉じ込めた状態で処理でき、作業者や環境を汚染することなく遺伝子解析を行うことができること、及び当該装置を用いることで多数の試料を一度に処理できることが記載されている(摘記(2-1))。
引用発明の方法は、標的分子(標的ポリヌクレオチド分子)の検出を目的としたものであり、引例2に記載される遺伝子診断、遺伝子解析にも利用されるものである。また、本願明細書の【0014】に記載された「核酸に基づくアッセイの多様な処理工程を自動化する」、「使用者の間違いのリスク、病原曝露、汚染、および流出を多いに減少させる」等の本願発明の課題は、引例2に限らず、遺伝子診断、遺伝子解析に携わる当業者が通常抱いている技術課題といえ、引用発明も、自動分析用に設計された器械を念頭に置いている。
そうすると、引例2の記載に接した当業者であれば、引用発明に記載される工程を、外部空間と遮断した筐体(「自給型の独立した分析器のハウジング」に相当する。)内で行うとともに、分注、混合の操作を分注機(「ピペット」に相当する。)でプログラマブルに行う等の自動化を付加することは容易に想到し得えたものである。

(2)相違点2について
本願明細書の【0222】、【0225】によれば、本願発明の「除去可能な接触制限チップレット」は、吸引操作中に、容器の内容物(試料)が吸引器チューブの側面と接触しないよう吸引器チューブの末端に備え付けられるものであり、使用後に捨てられるため、吸引器チューブによる相互汚染の機会を、最低限にとどめることができるものである。
同明細書の【0221】、【0226】には、このチップレットを導電性とすることで、容器内の容量性流体レベルやチップレットが吸引器チューブの末端と噛み合うことを感知できると記載されている。
一方、試薬の吸引除去、分注、混合で分注機(ピペット等)を用いること、試料、試薬間のクロスコンタミネーションを防止する目的で分注機の端部に使い捨てのチップを備えることは、例えば、引例2?4が示すように当業者に広く知られたものであり(摘記(2-2)、(3-1)、(4-1))、当該チップを導電性とすることも引例3、4に限らず当業者が各種行っているところである。また、導電性とすることで、チップの付け忘れ、ピペットからのチップの落下の検知(摘記(3-2))、容器の内容物の液面検知(摘記(4-1))が行えることも引例3、4に開示されている。
そうすると、審判請求人が指摘するように、引例1に、「少なくとも部分的に導電性である」「除去可能な接触制限チップレット」の特徴や利点に関する記載がなくても、試料間のクロスコンタミネーションの防止は、生体試料等の分析において一般に求められている技術課題といえるから、摘記(3-2)、摘記(4-1)に記載される導電性チップの使用により得られる効果を期待して、引用発明の方法の「試料中の非標的ポリヌクレオチド」の分離を、使い捨ての導電性チップ(本願発明の「チップレット」に相当する。)を端部に備えた分注機で吸引除去して行うことは、当業者が容易に想到し得たものである。

また、本願明細書に記載された効果である「医者が必要とする訓練の量を減少させ、そして大容量手作業適用に起因する肉体的損傷の原因を実質的に除去する」(本願明細書の【0014】)、「使用者の間違いのリスク、病原曝露、汚染、および流出を多いに減少させる」(同明細書の【0014】)、「手動のピペット取出、インキュベーションタイミング、温度制御、および手動で行われる複数アッセイに関連した他の限界は、回避され、それにより、信頼性、効率および出力が高まる」(同明細書の【0327】)は、引例2の「試薬の分注、混合、遠心分離操作、加温の操作がコントローラによりプログラマブルに実行できるため、試料の調製を自動で行うことが出来る。そして検出器によって、調製された試料の調製結果を得ることが出来る」(摘記(2-1))に対応し、「スループット容量のかなりの増加」(同明細書の【0014】)は、引例2の「多数の試料を一度に処理することができる」(摘記(2-1))に対応し、「病原曝露、汚染、および流出を多いに減少させる」(同明細書の【0014】)、「潜在的な感染の危険性は、大きく低下する」(同明細書の【0327】)は、引例2の筐体内で「生体試料を閉じ込めた状態で処理することができるので、作業者や環境を汚染することなく遺伝子解析を行うことが出来る」(摘記(2-1))に対応するから、上記のいずれの効果も、当業者が期待し、予測し得る範囲のものである。

6.むすび

以上の通り、本願発明は、引例1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-10-03 
結審通知日 2017-10-04 
審決日 2017-10-19 
出願番号 特願2013-215244(P2013-215244)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松浦 安紀子上村 直子  
特許庁審判長 大宅 郁治
特許庁審判官 高堀 栄二
福井 悟
発明の名称 自動化診断用分析器および方法  
代理人 森下 夏樹  
代理人 山本 秀策  

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