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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F02D
管理番号 1337942
審判番号 不服2017-10516  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-07-14 
確定日 2018-03-30 
事件の表示 特願2012-260161「アイドルストップ&スタート車両」拒絶査定不服審判事件〔平成26年6月9日出願公開、特開2014-105659、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年11月28日に出願されたものであって、平成28年9月8日付けで拒絶理由が通知され、平成29年2月14日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成29年3月13日付けで拒絶査定がされ、それに対して平成29年7月14日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正書が提出され、平成29年8月15日に前置報告がされ、平成29年10月11日に上申書が提出されたものである。

第2 原査定の理由の概要
原査定の理由の概要は次のとおりである。

●理由(特許法第29条第2項)について
・請求項 1
・引用文献等 1及び2
引用文献1には、所定の停止条件が成立した時に車両の走行用動力源であるエンジンを自動停止させ、その後、所定の始動条件が成立した時に、エンジンを自動始動させるアイドルストップ&スタート制御手段を備えたアイドルストップ&スタート車両において、車両が搭載している変速機の変速段が中立位置で、車両のブレーキペダルをON操作して、エンジンを自動停止させた後に、ブレーキペダルをOFF操作してもエンジンの停止を維持するエンジン自動停止保持手段と、エンジン自動停止保持手段によって保持されているエンジンの停止保持を保持解除操作によって解除して、エンジンを再始動させるエンジン自動停止保持解除手段とを備えている、アイドルストップ&スタート車両が開示若しくは示唆されている(図4、請求項1及び段落【0032】ないし【0061】等参照)。また引用文献1には、保持解除操作がブレーキペダルを再度ON操作することであることも開示若しくは示唆されている(請求項1参照)。
上記引用文献1に記載の発明は、「エンジン自動停止保持解除手段は、前記エンジン自動停止保持手段によって前記エンジンが停止保持されている間に、前記車両のパーキングブレーキがONされた場合には、前記パーキングブレーキがOFFされることを条件に前記保持解除操作を行い、前記パーキングブレーキがONされなかった場合には、前記車両のブレーキペダルがONされることを条件に前記保持解除操作を行う」としているのか不明である。
しかしながら引用文献2の段落【0020】には、「再始動を行う場合は、パーキングブレーキの解除で制御開始、フットブレーキの踏む→離す→踏むによって制御開始、シフトレバーの「P/N」→それ以外に移動→再度「P/N」に戻すによって制御開始、等の開始タイミングを、本考案装置のフットブレーキ端子にフットブレーキが動作しているときと同じ信号を出す」と記載されている。
この記載から、引用文献2には、「エンジン自動停止保持解除手段は、前記エンジン自動停止保持手段によって前記エンジンが停止保持されている間に、前記車両のパーキングブレーキがONされた場合には、前記パーキングブレーキがOFFされることを条件に前記保持解除操作を行い」とすることは開示若しくは示唆されているといえる。
また、引用文献2には、上記のようにパーキングブレーキのON、OFFに拘わらず、フットブレーキの踏む→離す→踏むによって再始動の制御が開始することが開示若しくは示唆されているので、「パーキングブレーキがONされなかった場合には、前記車両のブレーキペダルがONされることを条件に前記保持解除操作を行」い得ることも開示若しくは示唆されているといえる。
そして、引用文献1及び2に記載のものは、アイドルストップ&スタート車両という同一の技術分野に属し、エンジン自動停止保持解除手段を備える点で共通するものであるから、引用文献1に記載のアイドルストップ&スタート車両において、引用文献2に記載の技術を参照して、「エンジン自動停止保持解除手段は、前記エンジン自動停止保持手段によって前記エンジンが停止保持されている間に、前記車両のパーキングブレーキがONされた場合には、前記パーキングブレーキがOFFされることを条件に前記保持解除操作を行い、前記パーキングブレーキがONされなかった場合には、前記車両のブレーキペダルがONされることを条件に前記保持解除操作を行う」とすることに格別の困難性があるとは認められない。
よって、請求項1に係る発明は、引用文献1及び2に記載の技術から当業者が容易になし得たものであるといわざるを得ない。

・請求項 2
・引用文献等 1ないし3
引用文献1及び2の認定については、上記記載を参照のこと。
引用文献3には、保持解除操作が、変速機の変速段位置を、中立位置から走行位置、又は後退位置に操作することであることが開示若しくは示唆されている(段落【0046】参照)。このように保持解除操作が、変速機の変速段位置を、中立位置から走行位置、又は後退位置に操作することであるから、これらの保持解除操作は、ブレーキペダル及びパーキングブレーキの操作状態に関わらず実行されるものであるといえる。
よって、請求項2に係る発明は、引用文献1ないし3に記載の技術から当業者が容易になし得たものであるといわざるを得ない。

<引用文献等一覧>

1.特開2006-342777号公報
2.登録実用新案第3147951号公報
3.特開2008-121583号公報

第3 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成29年7月14日提出の手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、「本願発明1」という。)。

「【請求項1】
所定の停止条件が成立した時に車両の走行用動力源であるエンジンを自動停止させ、その後、所定の始動条件が成立した時に、前記エンジンを自動始動させるアイドルストップ&スタート制御手段を備えたアイドルストップ&スタート車両において、
前記車両が搭載している変速機の変速段が中立位置で、前記車両のブレーキペダルをON操作して、前記エンジンを自動停止させた後に、前記ブレーキペダルをOFF操作しても前記エンジンの停止を維持するエンジン自動停止保持手段と、
前記エンジン自動停止保持手段によって保持されている前記エンジンの停止保持を保持解除操作によって解除して、前記エンジンを再始動させるエンジン自動停止保持解除手段と
を備え、
前記エンジン自動停止保持解除手段は、前記エンジン自動停止保持手段によって前記エンジンが停止保持されている間に、前記車両のブレーキペダルがONされることを条件に前記保持解除操作を行い、前記車両のパーキングブレーキがONされた場合には、前記ブレーキペダルの操作状態に関わらず前記パーキングブレーキがOFFされることを条件に前記保持解除操作を行い、
前記パーキングブレーキがONされなかった場合には、前記車両のブレーキペダルがONされることを条件に前記保持解除操作を行うことを特徴とするアイドルストップ&スタート車両。」

第4 引用文献
1.引用文献1(特開2006-342777号公報)について
原査定の理由に引用され、本願の出願日前に頒布された上記引用文献1には、「車両制御装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。)。

(1)刊行物1の記載事項
1a)「【0005】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、自動停車機能とアイドリングストップ機能とを両立することができ、かつエンジン再始動からの発進遅れを低減して運転者の違和感を解消することが可能な車両制御装置を提供することを目的とする。」(段落【0005】)

1b)「【0031】
次に、図2、図3を参照して、車両制御装置1によるオートブレーキ制御について説明する。図2は、車両制御装置1によるオートブレーキ制御の処理手順を示すフローチャートである。図3は、オートブレーキ制御におけるブレーキ圧制御の処理手順を示すフローチャートである。オートブレーキ制御は、ECU20によって行われるものであり、ECU20の電源がオンされてからオフされるまでの間、所定のタイミングで繰り返し実行される。
【0032】
ステップS100では、運転者の操作によりオートブレーキスイッチ12がオンされたか否かについての判断が行われる。ここで、オートブレーキスイッチ12がオンされた場合には、ステップS102に処理が移行する。一方、オートブレーキスイッチがオンされていないときには、本ステップ100が繰り返し実行され、オートブレーキスイッチ12の操作状態が監視される。
【0033】
ステップS102では、オートブレーキ制御の実行開始条件が満足されているか否かについての判断が行われる。具体的には、車輪速センサ13により検出された車輪速、ストロークセンサ10により検出されたブレーキペダル8の踏み込み量、マスタシリンダ圧センサ11により検出されたマスタシリンダ圧、アクセル開度センサ15により検出されたアクセル開度、およびシフトポジションセンサ14により検出されたシフトポジションに基づいて、車両が停止しており、かつブレーキペダル8が踏み込まれており、かつアクセルペダルが踏み込まれておらず、かつシフトポジションがドライブポジションまたはニュートラルポジションであるか否かについての判断が行われる。ここで、すべての条件が満足された場合には、オートブレーキ制御の実行開始条件が満足されていると判断され、ステップS106に処理が移行する。一方、いずれかの条件が満足されなかった場合には、オートブレーキ制御の実行開始条件が満足されていない判断され、ステップS104に処理が移行する。
【0034】
ステップS102が否定された場合、運転者の操作によりオートブレーキスイッチ12がオンされたが、オートブレーキ制御の実行開始条件が満足されておらずオートブレーキ制御を実行できないため、ステップS104において、その旨を運転者に提示すための警告信号が出力される。その後、ステップS100に処理が移行し、オートブレーキ制御の実行開始条件が満足されるまで、ステップS100,S102が繰り返して実行される。」(段落【0031】ないし【0034】)

1c)「【0039】
図2に戻って説明を続ける。ステップS108では、駆動力遮断制御の実行が開始される。具体的には、エンジン24と自動変速機28との間に設けられたクラッチ26が開放され、エンジン24から自動変速機28への駆動力の伝達が遮断される。
【0040】
続いて、ステップS110では、ブレーキペダル8の踏み込みが解除されたか否かについての判断が行われる。ここで、ブレーキペダル8の踏み込みが解除された場合には、ステップS116に処理が移行する。一方、ブレーキペダル8の踏み込みが解除されていないときには、ステップS112に処理が移行する。
【0041】
ステップS112では、オートブレーキスイッチ12がオンされた後(または、オートブレーキ制御が開始された後)所定時間経過したか、またはアクセルペダルが踏み込まれたか、または車両制御装置1の機能失陥(フェイル)が発生したか、または車両が動き出したか否かについての判断が行われる。
【0042】
ここで、すべての条件が満足されない場合、すなわち所定時間経過しておらず、かつアクセルペダルが踏み込まれておらず、かつ車両制御装置1の機能失陥が発生しておらず、かつ車両が動き出していない場合には、ステップS110に処理が移行し、ブレーキペダル8の踏み込みが解除されるか、またはステップS112のいずれかの条件が満足されるまで、ステップS110,S112が繰り返して実行される。一方、いずれかの条件が満足された場合、すなわち所定時間経過したか、またはアクセルペダルが踏み込まれたか、または車両制御装置1の機能失陥が発生したか、または車両が動き出した場合には、ステップS114に処理が移行する。なお、上記所定時間は、誤ってオートブレーキスイッチ12をオンしたか否かを判定することができる適当な時間、例えば3?10秒程度に設定される。
【0043】
所定時間が経過してもブレーキペダル8の踏み込みが解放されないときには、自動的に車両を停止させたいという意思が運転者にないと推測される。また、アクセルペダルが踏み込まれたときには、車両を発進させたいという運転者の意思が推測される。また、機能失陥が発生した場合や車両が動き出した場合には、オードブレーキ制御を適切に継続して実行することができないおそれがあると判断される。したがって、ステップS112が肯定された場合には、ステップS114において、オートブレーキ制御を中止する旨を運転者に提示すための警告信号が出力される。その後、ステップS124に処理が移行する。
【0044】
ステップS110が肯定された場合、ステップS116において、オートブレーキ制御灯が点灯され、運転者に対してオートブレーキ制御が実行中であることが提示される。
【0045】
続いて、ステップS118では、エンジン24を自動停止することができるか否か、すなわちアイドリングストップ条件が満足されているか否かについての判断が行われる。ここで、例えば、車両が停止しており、かつ車両制御装置1の機能失陥が発生していないときには、エンジン24を自動停止することができると判断され、ステップS120においてエンジン24が自動停止される。その後、ステップS122に処理が移行する。一方、エンジン24を自動停止することができないと判断された場合には、エンジンを自動停止することなくステップS122に処理が移行する。
【0046】
ステップS122では、アクセルペダルが踏み込まれたか、またはドライブポジションとニュートラルポジションとの間でシフトポジションが切り替えられたか否かについての判断が行われる。ここで、すべての条件が満足されない場合、すなわちアクセルペダルが踏み込まれておらず、かつシフトポジションが切り替えられていない場合には、ステップS126に処理が移行する。一方、いずれかの条件が満足された場合、すなわちアクセルペダルが踏み込まれたか、またはシフトポジションが切り替えられた場合には、ステップS122において、運転者に対して警告が発せられる。その後、ステップS118に処理が移行し、上記条件をすべて満足しなくなるまで、運転者に対して警告が繰り返し提示される。
【0047】
ステップS122が否定された場合、ステップS126では、ブレーキペダル8が踏み込まれたか、またはシフトポジションがパーキングポジションまたはリバースポジションに切り替えられたか否かについての判断が行われる。ここで、すべての条件が満足されない場合、すなわちブレーキペダル8が踏み込まれておらず、かつシフトポジションが切り替えられていない場合には、ステップS118に処理が移行し、ステップS118?S126が繰り返し実行される。なお、オートブレーキ制御実行中にイグニッションスイッチ16がオフされた場合には、運転者に対して警告が発せられるとともに、自動変速機28のパーキングロック機構32および/またはパーキングブレーキ31が作動される。
【0048】
一方、いずれかの条件が満足された場合、すなわちブレーキペダル8が踏み込まれたか、またはシフトポジションが切り替えられた場合には、ステップS128に処理が移行する。
【0049】
ステップS128では、エンジン24が自動停止中であるか否か、すなわちアイドリングストップ中であるか否かについての判断が行われる。ここで、エンジン24が自動停止中である場合には、ステップS130において、スタータモータ33が駆動されてエンジンが再始動される。その後、ステップS132に処理が移行する。一方、エンジン24が自動停止されていないときには、ステップS132に処理が直接移行する。」(段落【0039】ないし【0049】)

1d)上記1c)の特に段落【0045】の記載から、引用文献1には、アイドリングストップ条件が満足した時にエンジン24を自動停止させることが記載されることが明らかである。

1e)上記1a)及び1c)の記載から、引用文献1には、アイドリングストップ機能及び再始動機能を備えた車両が記載されることが明らかである。

1f)上記1c)の特に段落【0033】、【0039】、【0040】及び【0045】の記載から、引用文献1には、車両が搭載している自動変速機26のシフトポジションがドライブポジションまたはニュートラルポジションで、車両のブレーキペダル8が踏み込まれてから、ブレーキペダル8の踏み込みが解除されて、エンジン24を停止保持させるエンジン自動停止保持手段が記載されることが明らかである。

1g)上記1c)の特に段落【0048】及び【0049】の記載から、引用文献1には、エンジン自動停止保持手段によって停止保持しているエンジン24の停止保持をブレーキペダル8が踏み込まれることによって解除して、エンジン24を再始動させるエンジン再始動手段が記載されることが明らかである。

1h)上記1c)の特に段落【0047】ないし【0049】の記載から、引用文献1には、エンジン再始動手段は、エンジン自動停止保持手段によってエンジン24が停止保持している間に、車両のブレーキペダル8が踏み込まれることを条件に前記エンジン24の再始動を行うが記載されることが明らかである。

(2)引用発明
上記(1)及び図面からみて、引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「アイドリングストップ条件が満足した時にエンジン24を自動停止させ、その後、ブレーキペダル8が踏み込まれたか、またはシフトポジションがパーキングポジションまたはリバースポジションに切り替えられたかの条件を満足した時に、前記エンジン24を再始動させるアイドリングストップ機能及び再始動機能を備えた車両において、
前記車両が搭載している自動変速機26のシフトポジションがドライブポジションまたはニュートラルポジションで、前記車両のブレーキペダル8が踏み込まれてから、ブレーキペダル8の踏み込みが解除されて、前記エンジン24を停止保持させるエンジン自動停止保持手段と、
前記エンジン自動停止保持手段によって停止保持している前記エンジン24の停止保持をブレーキペダル8が踏み込まれることによって解除して、前記エンジン24を再始動させるエンジン再始動手段と
を備え、
前記エンジン再始動手段は、前記エンジン自動停止保持手段によって前記エンジン24が停止保持している間に、前記車両のブレーキペダル8が踏み込まれることを条件に前記エンジン24の再始動を行うアイドリングストップ機能及び再始動機能を備えた車両。」

2.引用文献2(登録実用新案第3147951号公報)について
原査定の理由に引用され、本願の出願日前に頒布された上記引用文献2には、「アイドリングストップ・スタート装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)引用文献2の記載事項
「【0020】
次に、再始動を行う場合は、パーキングブレーキの解除で制御開始、フットブレーキの踏む→離す→踏むによって制御開始、シフトレバーの「P/N」→それ以外に移動→再度「P/N」に戻すによって制御開始、等の開始タイミングを、本考案装置のフットブレーキ端子にフットブレーキが動作しているときと同じ信号を出す(この時、実際にフットブレーキが踏まれていて信号が重なっても問題はない)。次にエンジンスイッチに対してエンジンスイッチが押されたのと同じ信号を出す(この時、実際にエンジンスイッチが押されて信号が重なっていても問題ない)。これをエンジンECUが認識すると、エンジンの再始動が可能となる。」(段落【0020】)

(2)引用文献2技術
上記(1)及び図面の記載からみて、引用文献2には以下の技術(以下、「引用文献2技術」という。)が記載されている。

「アイドリングストップ・スタート装置において、再始動を行う場合は、パーキングブレーキの解除、フットブレーキの踏む→離す→踏む、シフトレバーの「P/N」→それ以外に移動→再度「P/N」に戻す、等を行う技術。」

3.引用文献3(特開2008-121583号公報)について
原査定の理由に引用され、本願の出願日前に頒布された上記引用文献3には、「車両制御装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)引用文献3の記載事項
3a)「【0001】
この発明は、エコラン制御装置を搭載した車両に適用される車両制御装置に関し、更に詳しくは、エコラン制御によるエンジン停止中に他の車両に衝突される可能性を予測した場合において早期エンジンの始動により衝突回避の機会を増やすことができる車両制御装置に関する。」(段落【0001】)

3b)「【0043】
上記実施例1は、早期エンジンの始動によりドライバー自身の車両発進操作によって衝突を回避する機会を増やすものであったが、本実施例2は、ドライバーの意思によらずに自動的に車両停止状態の保持を解除するとともに、速やかに発進加速することで、後方からの衝突を回避する機会を増やすようにしたものである。
【0044】
図3は、この発明の実施例2に係る車両制御装置を示すブロック図、図4は、制御方法を示すフローチャートである。なお、以下の説明において、すでに説明した部材もしくはステップ番号と同一もしくは相当するものには、同一の符号を付して重複説明を省略または簡略化する。
【0045】
図3に示すように、車両の停止状態を保持する車両停止保持装置16は、公知のいわゆる電動パーキングブレーキ装置であり、ドライバーのスイッチ操作等による意図的な動作に加え、車両の状態を認識してブレーキ状態とブレーキ解除状態とを切り替えることができるように構成されている。
【0046】
この車両停止保持装置16は、たとえば、車両の停止状態が所定時間以上継続した場合に、自動的にパーキングブレーキをブレーキ状態にしたり、ECU20からの解除指令によって、あるいはシフトレバーが走行レンジ等に移行したことを検出することによって、自動的にパーキングブレーキを解除することができる。」(段落【0043】ないし【0046】)

(2)引用文献3技術
上記(1)及び図面の記載からみて、引用文献3には以下の技術(以下、「引用文献3技術」という。)が記載されている。

「エコラン制御装置を搭載した車両に適用される車両制御装置において、車両停止保持装置16は、シフトレバーが走行レンジ等に移行したことを検出することによって、自動的にパーキングブレーキを解除する技術。」

第5 対比・判断
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明における「アイドリングストップ条件が満足した時」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願発明1における「所定の停止条件が成立した時」に相当し、以下同様に、「エンジン24」は「車両の走行用動力源であるエンジン」あるいは「エンジン」に、「ブレーキペダル8が踏み込まれたか、またはシフトポジションがパーキングポジションまたはリバースポジションに切り替えられたかの条件を満足した時」は「所定の始動条件が成立した時」に、「再始動」は「自動始動」に、「アイドリングストップ機能及び再始動機能」は「アイドルストップ&スタート制御手段」に、「車両」は「アイドルストップ&スタート車両」あるいは「車両」に、「自動変速機26」は「変速機」に、「シフトポジション」は「変速段」に、「ニュートラルポジション」は「中立位置」に、「ブレーキペダル8」は「ブレーキペダル」に、「ブレーキペダルが踏み込まれること」は「保持解除操作」にそれぞれ相当する。
また、引用発明における「前記車両が搭載している自動変速機26のシフトポジションがドライブポジションまたはニュートラルポジションで、前記車両のブレーキペダル8が踏み込まれてから、ブレーキペダル8の踏み込みが解除されて、前記エンジン24を停止保持させるエンジン自動停止保持手段」と、本願発明1における「前記車両が搭載している変速機の変速段が中立位置で、前記車両のブレーキペダルをON操作して、前記エンジンを自動停止させた後に、前記ブレーキペダルをOFF操作しても前記エンジンの停止を維持するエンジン自動停止保持手段」とは、「車両が搭載している変速機の変速段が中立位置で、車両のブレーキペダルをON操作して、エンジンを自動的に停止させた後に、エンジンの停止を維持するエンジン自動停止保持手段」という限りにおいて一致し、また、引用発明における「前記エンジン自動停止保持手段によって停止保持している前記エンジン24の停止保持をブレーキペダル8が踏み込まれることによって解除して、前記エンジン24を再始動させるエンジン再始動手段」は、本願発明1における「前記エンジン自動停止保持手段によって保持されている前記エンジンの停止保持を保持解除操作によって解除して、前記エンジンを再始動させるエンジン自動停止保持解除手段」に相当する。
さらに、引用発明における「前記エンジン再始動手段は、前記エンジン自動停止保持手段によって前記エンジン24が停止保持している間に、前記車両のブレーキペダル8が踏み込まれることを条件に前記エンジン24の再始動を行う」ことと、本願発明1における「前記エンジン自動停止保持解除手段は、前記エンジン自動停止保持手段によって前記エンジンが停止保持されている間に、前記車両のブレーキペダルがONされることを条件に前記保持解除操作を行い、前記車両のパーキングブレーキがONされた場合には、前記ブレーキペダルの操作状態に関わらず前記パーキングブレーキがOFFされることを条件に前記保持解除操作を行い、前記パーキングブレーキがONされなかった場合には、前記車両のブレーキペダルがONされることを条件に前記保持解除操作を行うこと」とは、「エンジン自動停止保持解除手段は、エンジン自動停止保持手段によってエンジンが停止保持されている間に、車両のブレーキペダルがONされることを条件に保持解除操作を行う」ことという限りにおいて一致する。

したがって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「所定の停止条件が成立した時に車両の走行用動力源であるエンジンを自動停止させ、その後、所定の始動条件が成立した時に、エンジンを自動始動させるアイドルストップ&スタート制御手段を備えたアイドルストップ&スタート車両において、
車両が搭載している変速機の変速段が中立位置で、車両のブレーキペダルをON操作して、エンジンを自動停止させた後に、エンジンの停止を維持するエンジン自動停止保持手段と、
エンジン自動停止保持手段によって保持されているエンジンの停止保持を保持解除操作によって解除して、エンジンを再始動させるエンジン自動停止保持解除手段と、
を備え、
エンジン自動停止保持解除手段は、エンジン自動停止保持手段によってエンジンが停止保持されている間に、車両のブレーキペダルがONされることを条件に保持解除操作を行うアイドルストップ&スタート車両」

[相違点1]
本願発明1においては、エンジンを自動停止させた後に、「前記ブレーキペダルをOFF操作しても」前記エンジンの停止を維持するのに対し、
引用発明においては、車両のブレーキペダル8が踏み込まれてから、ブレーキペダル8の踏み込みが解除されて、前記エンジン24を自動停止させる点。

[相違点2]
本願発明1においては、エンジン自動停止保持解除手段は、「前記車両のパーキングブレーキがONされた場合には、前記ブレーキペダルの操作状態に関わらず前記パーキングブレーキがOFFされることを条件に前記保持解除操作を行い、前記パーキングブレーキがONされなかった場合には、前記車両のブレーキペダルがONされることを条件に前記保持解除操作を行う」のに対し、
引用発明においては、かかる操作によって再始動を行うものではない点。

事案に鑑み、上記相違点2について検討する。
引用文献2技術は、アイドリングストップ・スタート装置において、再始動を行う場合は、パーキングブレーキの解除、フットブレーキの踏む→離す→踏む等の操作を行うものであるが、本願発明1のように、パーキングブレーキがONされた場合には、ブレーキペダルの操作状態に関わらずパーキングブレーキがOFFされることを条件に再始動を行い、パーキングブレーキがONされなかった場合には、ブレーキペダルがONされることを条件に再始動を行うものではない。
また、引用文献3においても、本願発明1の相違点2に係る発明特定事項は開示も示唆もない。

したがって、上記相違点1について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明、引用文献2技術及び引用文献3技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 原査定について
審判請求時の補正により、本願発明1は、「前記エンジン自動停止保持解除手段は、前記エンジン自動停止保持手段によって前記エンジンが停止保持されている間に、前記車両のブレーキペダルがONされることを条件に前記保持解除操作を行い、前記車両のパーキングブレーキがONされた場合には、前記ブレーキペダルの操作状態に関わらず前記パーキングブレーキがOFFされることを条件に前記保持解除操作を行い、
前記パーキングブレーキがONされなかった場合には、前記車両のブレーキペダルがONされることを条件に前記保持解除操作を行うこと」(下線は、審判請求時の補正において補正された部分を示す。)という事項を有するものとなったから、前記「第5」で検討したとおり、当業者であっても、原査定の理由において引用された引用発明、引用文献2技術及び引用文献3技術に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用発明、引用文献2技術及び引用文献3技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶をすることはできない。
また、他に本願を拒絶をすべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-03-20 
出願番号 特願2012-260161(P2012-260161)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F02D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山村 秀政  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 佐々木 芳枝
八木 誠
発明の名称 アイドルストップ&スタート車両  
代理人 誠真IP特許業務法人  

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