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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1338044
審判番号 不服2017-1366  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-01-31 
確定日 2018-03-06 
事件の表示 特願2014-515112「マイクロエレクトロニクスデバイスのためのワイヤボンディング可能な表面」拒絶査定不服審判事件〔平成24年12月20日国際公開,WO2012/171727,平成26年 7月17日国内公表,特表2014-517540〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は,2012年5月9日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年6月14日,欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって,平成26年4月25日に手続補正書が提出され,平成27年5月7日付けで審査請求がなされ,平成28年1月5日付けの拒絶理由の通知に対して,同年4月11日に意見書と手続補正書が提出され,同年9月29日付けで拒絶査定され,平成29年1月31日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
そして,その請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は,平成28年4月11日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される次のとおりのものと認める。

「【請求項1】
金属ワイヤボンディング可能な表面を製造するための少なくとも1つの金属層配列を含む半導体基材の製造方法であって,該層配列が,
(i)接触面,
(ii)Co-M-B合金,Co-M-P合金及びCo-M-B-P合金から選択されるバリア層,ここで,Mは,Mn,Zr,Re,Mo,Ta及びWからなる群から選択され,かつ該バリア層の厚さは,0.03?0.3μmの範囲であり,並びに
(iii)0.05?0.3μmの範囲の厚さを有し,かつ99.0質量%より多いパラジウム含有率を有する,第一結合層としてパラジウム層
の順に存在し,
前記パラジウム層が,パラジウム塩,1つ以上の窒素化錯化剤,及びギ酸又はギ酸誘導体を含むが,次亜リン酸塩又はアミンボラン化合物を含まず,かつ4より高いpH値を有する化学メッキ組成物から得られる,前記半導体基材の製造方法。」

2 引用例の記載と引用発明
(1)原査定の拒絶理由で引用した,本願の優先権の主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2001-267356号公報(以下「引用文献1」という。)には,「電気接続用導電パッドを準備する方法および形成された導電パッド」(発明の名称)に関して,図1,2とともに,以下の記載がある。(下線は当審において付加した。以下同じ。)

(1a)「【請求項1】電気接続用銅パッド表面を準備する方法であって,
銅パッド表面を用意する段階と,
リンまたはホウ素含有金属合金の保護層を前記銅パッド表面上に選択的に付着させる段階と,
貴金属の接着層を前記保護層上に選択的に付着させる段階を含む方法。
<途中省略>
【請求項8】電気接続用銅パッド表面を準備する請求項1に記載の方法であって,前記接着層が,Au,Pt,PdおよびAgから成るグループから選択された金属から形成される方法。
<途中省略>
【請求項10】電気接続用銅パッド表面を準備する請求項1に記載の方法であって,前記接着層が,貴金属から約500Å?約4000Åの厚さに形成される方法。
【請求項11】電気接続用銅パッド表面を準備する請求項1に記載の方法であって,前記リンまたはホウ素含有金属合金が,Ni-P,Co-P,Co-W-P,Co-Sn-P,Ni-W-P,Co-B,Ni-B,Co-Sn-B,Co-W-BおよびNi-W-Bから成るグループから選択される方法。
【請求項12】電気接続用銅パッド表面を準備する請求項1に記載の方法であって,前記保護層が,リンまたはホウ素含有金属合金から約1000Å?約10000Åの厚さに形成される方法。
<途中省略>
【請求項19】電気接続用銅パッド表面を準備する請求項1に記載の方法であって,前記銅パッド表面が,シリコン・ウェーハ,シリコン・ゲルマニウム・ウェーハおよびシリコン・オン・インシュレータ・ウェーハから成るグループから選択された基板上に提供される方法。
【請求項20】電気接続用銅パッド表面を準備する請求項1に記載の方法であって,
前記銅パッド表面が載ったウェーハを個々のICチップにダイシングする段階と,
前記銅パッド表面上へのワイヤボンドを形成する段階をさらに含む方法。」

(1b)「【0003】一般的なICチップでは,トランジスタ,抵抗などのアクティブ回路部品がチップの中央部,すなわちアクティブ領域に配置され,接合パッドは,後段のボンディング・プロセス中にアクティブ回路部品が損傷を受けないようアクティブ領域の周囲に配置される。ワイヤ・ボンディング・プロセスを実行するとき,このプロセスは,チップ上の接合パッドへの金またはアルミニウム線のボンディングを伴う。これは,超音波エネルギーを用いてパッドとワイヤを融合させることによって実施される。接合を形成させた後,ワイヤを接合パッドから外側に引っ張る。このワイヤ・プリング・プロセスはしばしば,接合パッド・リフトオフとして知られる不良の原因となる。接合パッド・リフトオフが起こるのは,接合パッドに金線を接続するプロセス中に接合パッドに高レベルの応力がかかる,すなわち,下位の層との接着が不十分である可能性がある層の上に比較的に大きく重いボンドが置かれるためである。
【0004】例えば,これらの層の間の接着に影響を及ぼす要因の1つに,後段の高温プロセス中に下位の導電層中へアルミニウムが拡散することを防ぐTiNから形成された拡散バリア層が一般的に使用されていることがある。利用される拡散バリア層,すなわちTiN,TiWまたはその他の適当な合金は,接合パッド中の下位の酸化物層と強く接着しない。これが,接合パッド・リフトオフ不良の原因の1つである。大きなボンディング応力,強い引張り力なども,リフトオフ問題の一因である。リフトオフの問題はほとんど,シリコン導電層と絶縁層(すなわちSiO_(2)層)の界面で起こる。
【0005】アルミニウム線または金線によって電気接続を形成するワイヤボンド・プロセスの他に,接合パッドから第2レベル・パッケージングまたは回路板への電子信号の伝達のためチップをパッケージに接続するはんだバンプ(または「C4」)プロセスも使用されている。はんだバンプ・プロセスはIBM社によってもっぱら使用され,IC業界の大部分はワイヤボンド技術を使用している。従来のワイヤボンド・プロセスではチップ表面の接合パッドが,高度に自動化された標準ツールによるアルミニウム線または金線の接続に適したアルミニウムから形成される。しかし,ICチップのバック・エンド・オブ・ライン(BEOL)の配線が全て銅配線である最近の銅技術の導入で,はんだバンプおよびアルミニウムまたは金ワイヤボンドはともに,銅接合パッド上への直接処理,または相互拡散を防ぐための適当な薄膜バリア金属をAlとCuの間に挟んでCuパッド上にパターニングされた適当なAlキャップの追加(すなわち,参照によって本明細書に組み込まれる1999年5月19日出願の「Robust Interconnect Structure」という名称のIBM特許出願整理番号FI999-078号)によって実行されるようになった。
【0006】アルミニウム線または金線によって純粋な銅の上に形成されたワイヤボンドは腐食,酸化および熱拡散の問題にさらされるため,銅パッド上への直接ワイヤボンドの実行は容易ではない。銅パッドへの直接ワイヤボンドは信頼性が低く,障害が起こりやすい。Alパッド・キャップ技法は,付着に加えてリソグラフィック・パターン(マスク)/エッチング・サイクルを追加するので,コストがかなり追加される。したがって,銅接合パッド,すなわち銅チップ上の接合パッドのワイヤボンドに対して,IC産業で使用することができるマスクレスの解決法を提供することの商業的意義は大きい。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】したがって本発明の目的は,電気接続用導電パッド表面を準備する方法であって,従来の方法の欠点または短所を持たない方法を提供することにある。」

(1c)「【0027】本発明は,電子チップ上の銅パッドの直接ワイヤボンディングを可能にするプロセスを,最初に複合金属バリア層を銅パッド上に付着させる選択的自己整合技法によって提供する。このバリア層は,拡散および腐食に対して銅表面を保護し,同時に,信頼性の高いワイヤボンディング能力を提供する。本明細書に開示したプロセスを使用して,銅ウェーハ上にバリア・メタラジを付着させることができる。このウェーハをダイシングし,ウェーハ即ち電子チップの上の銅パッドに対してワイヤボンディング品質を試験すると満足な結果が得られる。
【0028】本発明は,銅パッド表面の保護および高信頼ワイヤボンディング特性を同時に可能にするバリア・メタラジを銅表面上に逐次的かつ選択的(マスクレス)に付着させることによって,銅パッド上へのワイヤボンディングまたははんだバンピングを達成する。したがって本発明は,蒸着またはスパッタリングによって銅パッド上にアルミニウム層を付着させる通常なら必要なマスク可能の代替方法,すなわち費用のかかる代替方法を排除する。本発明のバリア層は,選択的かつ自己整合的な無電解めっき技法によって付着させることができる。したがって本発明は,フォトプロセッシング,選択的な(マスクの要らない)すなわちフォトリソグラフィック段階,費用のかかるマスク位置合せ手順,またはアルミニウムのRIEなどのやはり費用のかかる金属エッチング段階を一切必要としない。本発明の新規な方法によって提供される銅/バリア層のワイヤボンディングまたははんだバンピングは,プロセス上多数の利点を有する。これには,銅に対する優れた接着性,熱処理下でのバリア層を通した銅原子の拡散防止,腐食に対する銅表面の保護,および銅パッドに接続されたアルミニウム線または金線の優れた接着性および引張り強度を可能にする,バリア層の最上面への貴金属の付着が含まれる。」

(1d)「【0030】第1の拡散バリア層16を付着させた後,浸漬Au溶液を使用した浸漬付着技術によって,拡散バリア層16上に第2の層18を付着させる。第2の層18の適当な厚さは約500Å?約4000Åであり,約1000Å?約2000Åであることが好ましい。第1の拡散バリア層すなわち保護層16と第2の接着層18は,銅の保護および信頼性の高いワイヤボンド構造を提供する2重層20として付着される。あるいは,無電解Au付着技法によって第2の層18上に第3の層(図1には図示されていない)を適用して,最終的なAu層の厚さを約4000Å?約10000Å,好ましくは約4000Å?約6000Åに増大させてもよい。第3のAu層の目的は,より容易なワイヤボンディング・パラメータおよびより大きなワイヤボンド接着強度を可能にすることにある。
【0031】本発明の拡散バリア層16の形成例を以下に示す。
【0032】例A
この例では,Cu/Co-W-P(1000Å)/Ni-P(5000Å)/浸漬Au(2000Å)/無電解Au(3000Å?5000Å)から成る多層スタックを形成する。リンをホウ素で置き換えた対応する拡散バリア構造を形成することもできる。
【0033】例B
この例では,Cu/Ni-P(5000Å)/浸漬Au(1000?2000Å)で表される単一構造が利用され,Cu/Co-W-P(5000Å)/浸漬Au(2000Å)が提示される。リンをホウ素で置き換えた対応するワイヤボンド構造を形成することもできる。
【0034】例C
この例では,Cu/Ni-P(5000Å)/浸漬Au(1000?2000Å)/無電解Pdから成る多層スタックが提供される。リンをホウ素で置き換えた対応するワイヤボンド構造を利用することもできる。」

・引用発明1
引用文献1の請求項1,請求項8,請求項10ないし12,請求項19,及び,請求項20の記載に照らして,引用文献1には,以下の発明(以下「引用発明1」という。)が開示されているといえる。

「銅パッド表面を用意する段階と,
リンまたはホウ素含有金属合金の保護層を前記銅パッド表面上に選択的に付着させる段階と,
貴金属の接着層を前記保護層上に選択的に付着させる段階を含む,電気接続用銅パッド表面を準備する方法であって,
前記記銅パッド表面が,シリコン・ウェーハ,シリコン・ゲルマニウム・ウェーハおよびシリコン・オン・インシュレータ・ウェーハから成るグループから選択された基板上に提供されるものであり,
前記リンまたはホウ素含有金属合金が,Ni-P,Co-P,Co-W-P,Co-Sn-P,Ni-W-P,Co-B,Ni-B,Co-Sn-B,Co-W-BおよびNi-W-Bから成るグループから選択され,かつ該リンまたはホウ素含有金属合金が,約1000Å?約10000Åの厚さに形成されるものであり,並びに
前記接着層が,Au,Pt,PdおよびAgから成るグループから選択された金属から形成され,かつ前記接着層が,約500Å?約4000Åの厚さに形成されるものであり,
さらに,前記銅パッド表面が載ったウェーハを個々のICチップにダイシングする段階と,
前記銅パッド表面上へのワイヤボンドを形成する段階を含む電気接続用銅パッド表面を準備する方法。」

(2)原査定の拒絶理由で引用した,本願の優先権の主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2000-277897号公報(以下「引用文献2」という。)には,「はんだボール接続用端子とその形成方法並びに半導体搭載用基板の製造方法」(発明の名称)に関して以下の記載がある。

(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】導体の端子上に,無電解ニッケルめっき皮膜,パラジウムの純度が99重量%以上の無電解パラジウムめっき皮膜,無電解金めっき皮膜が,その順に形成されていることを特徴とするはんだボール接続用端子。
【請求項2】無電解ニッケルめっき皮膜が,80重量%以上の純度のニッケルであることを特徴とする請求項1に記載のはんだボール接続用端子。
【請求項3】無電解ニッケルめっき皮膜の膜厚が,0.1μm?20μmであることを特徴とする請求項1または2に記載のはんだボール接続用端子。
【請求項4】無電解パラジウムめっき皮膜の膜厚が,0.01μm?5μmであることを特徴とする請求項1?3のうちいずれかに記載のはんだボール接続用端子。」

(2b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,はんだボール接続用端子とその形成方法並びに半導体搭載用基板の製造方法に関する。」

(2c)「【0012】無電解パラジウムめっきは,めっき液中のパラジウムイオンを還元剤の働きによってニッケル表面にパラジウムを析出させたものであり,還元剤に亜硫酸化合物を使用すると無電解パラジウムめっき皮膜の純度が99重量%以上になるので,接続の信頼性が高く好ましく,また,還元剤に燐含有化合物,ホウ素含有化合物を使用するとめっき皮膜がパラジウム-燐,パラジウム-ホウ素合金になり,パラジウムの純度が99重量%未満になり,はんだボール接続信頼性が低下するので好ましくない。さらには,このパラジウムの純度は99.5重量%であることがより好ましい。この無電解パラジウムめっき皮膜の膜厚は,0.01μm?5μmであることが好ましく,0.01μm未満では,めっきの効果がなく接続の信頼性が向上せず,1μmを越えると,効果がそれ以上に向上せず,経済的でないので好ましくない。さらに,この無電界パラジウムの厚さは,0.01?1μmの範囲であることがより好ましい。」

(2d)「【0015】
【実施例】実施例1
厚さ18μmの銅箔を両面に貼り合わせた,厚さ0.5mmの銅張りエポキシ積層板であるMCL-E-679(日立化成工業株式会社製,商品名)の銅箔の不要な箇所をエッチング除去し,エッチングレジストを剥離し,半田レジストを形成した,導体パターンの露出した銅のはんだボール接続用端子を有する半導体搭載用基板を作製した。その半導体搭載用基板を,脱脂液であるZ-200(株式会社ワールドメタル製,商品名)に,液温50℃で1分間浸漬し,室温で2分間水洗し,100g/リットルの過硫酸アンモニウム液に室温で1分間浸漬して,ソフトエッチングし,室温で2分間水洗し,10重量%の硫酸に,室温で1分間浸漬して,酸洗し,室温で2分間水洗し,無電解めっきの活性化を,SA-100(日立化成工業株式会社製,商品名)に室温で5分間浸漬し,室温で2分間浸漬し,無電解ニッケルめっき液であるNIPS-100(日立化成工業株式会社製,商品名)に,液温85℃で20分間浸漬して,,Ni-Pめっき(P含有量約7重量%)皮膜を形成し,室温で2分間水洗し,無電解パラジウムめっき液であるパラテクト(アトテックジャパン株式会社製,商品名)に,液温70℃で5分間浸漬し,純パラジウム(純度99.9重量%)の皮膜を形成し,室温で2分間水洗し,非シアン系の置換型無電解金めっき液であるHGS-100(日立化成工業株式会社製,商品名)に,液温85℃で10分間浸漬して,純金(純度99.9重量%))の皮膜を形成した。」

(3)原査定の拒絶理由で引用した,本願の優先権の主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特表平10-511738号公報(以下「引用文献3」という。)には,「パラジウム層析出方法」(発明の名称)に関して以下の記載がある。

(3a)「【特許請求の範囲】
1.パラジウム塩,一又は複数種の窒素含有錯化剤及び蟻酸又は蟻酸誘導体を含有しホルムアルデヒドの存在しない4以上のpH値の化学的浴剤から金属表面上にパラジウム層を析出する方法。
<途中省略>
7.銅,銀,ニッケル及びコバルト並びにそれら相互の及び/又は燐乃至ホウ素との合金からなる金属表面を特徴とする請求項1に記載の方法。
<途中省略>
13.導体プレート,電子構成要素,腐食保護層,鑞付け保護層及び/又はマイクロ電極配列の製造のために請求項1?7のいずれか一項の方法を使用する法。」(【特許請求の範囲】)

(3b)「腐食保護層が鑞付け及び接着可能な最終層としても用いられるべき使用目的のために,相当の貴金属が腐食保護層として用いられる。パラジウムはその比較的低い貴金属費用のために好まれる。パラジウム層の化学的析出のために,多数の異なった浴剤が公知である」(第4ページ第19-22行)

(3c)「本発明は,従来技術の欠点を回避し金属表面上に優れて付着し光沢を持ち孔の少ないパラジウム層を析出する適当な方法を見いだす課題を基礎とする。パラジウム化された表面上では更に280℃までの温度で数時間の滞留時間で酸化化合物は生ぜず,少なくとも2?4週間の間,空気中に置かれた後,なお申し分なく鑞付けが可能である。
当該課題は請求項1,8及び13によって解決する。本発明の好ましい実施形態は従属請求項に述べられる。」(第5ページ第22-28行)

(3d)「始めに言及した特性を有する技術的に有効な層は,5分だけの長さの浸漬時間でホルムアルデヒドの存在しない化学的浴剤中で析出される。析出された層の厚みはこの場合,約0.2μmになる。
当該浴剤は主としてパラジウム塩,一乃至複数の窒素含有錯化剤及び蟻酸乃至蟻酸誘導体を含有する。当該溶液のpH値は4より上,好ましくは5?6の範囲である。」(第7ページ第14-19行)

(3e)「例2:
銅薄板が普通通りにガルヴァーニ作用による無光沢のニッケル層で覆われ,その後,乾燥された。乾燥された薄板は次の組成の浴剤中でパラジウムで覆われた:
硫酸パラジウム 0.01モル/リットル
エチレンジアミン 0.2 モル/リットル
蟻酸ナトリウム 0.3 モル/リットル
燐酸二水素カリウム 0.2 モル/リットル
蟻酸での5.8へのpH調整
温度:63℃
1時間の露出時間(Expositionszeit)後,パラジウム層の厚みは3.8μmになった。孔は塩飛散試験で検出されなかった。」(第10ページ第13-24行)

(3f)「例20
銀薄板が次の組成の置換法に係る酸性パラジウム浴剤で活性化された:
硝酸パラジウム 0.3g/リットル
硝酸 濃縮 6.0g/リットル
当該薄板は,2分後活性化され,洗浄プロセス後に15分の間,パラジウム浴剤中で,例2に従い,1.2μmのパラジウムで覆われた。
パラジウム皮膜は穴がなく,銀の移動を阻止した。」(第17ページ第2-8行)

3 当審の判断
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「銅パッド表面」は,本願発明1の「接触面」に相当する。

イ 引用文献1の上記摘記(1c)の「本発明は,電子チップ上の銅パッドの直接ワイヤボンディングを可能にするプロセスを,最初に複合金属バリア層を銅パッド上に付着させる選択的自己整合技法によって提供する。このバリア層は,拡散および腐食に対して銅表面を保護し,同時に,信頼性の高いワイヤボンディング能力を提供する。」との記載に照らして,引用発明1の「保護層」は,本願発明1の「バリア層」に相当する。

ウ 引用文献1の上記摘記(1c)の「本発明の新規な方法によって提供される銅/バリア層のワイヤボンディングまたははんだバンピングは,プロセス上多数の利点を有する。これには,銅に対する優れた接着性,熱処理下でのバリア層を通した銅原子の拡散防止,腐食に対する銅表面の保護,および銅パッドに接続されたアルミニウム線または金線の優れた接着性および引張り強度を可能にする,バリア層の最上面への貴金属の付着が含まれる。」との記載に照らして,引用発明1の貴金属の「接着層」は,「銅パッド」と「アルミニウム線または金線」との結合に資する層であると理解されるから,引用発明1の「接着層」は,本願発明1の「結合層」に相当する。

エ 引用発明1の「銅パッド表面を用意する段階と,リンまたはホウ素含有金属合金の保護層を前記銅パッド表面上に選択的に付着させる段階と,貴金属の接着層を前記保護層上に選択的に付着させる段階を含む,電気接続用銅パッド表面を準備する方法であって,前記記銅パッド表面が,シリコン・ウェーハ,シリコン・ゲルマニウム・ウェーハおよびシリコン・オン・インシュレータ・ウェーハから成るグループから選択された基板上に提供されるものであり,前記リンまたはホウ素含有金属合金が,Ni-P,Co-P,Co-W-P,Co-Sn-P,Ni-W-P,Co-B,Ni-B,Co-Sn-B,Co-W-BおよびNi-W-Bから成るグループから選択され,かつ該リンまたはホウ素含有金属合金が,約1000Å?約10000Åの厚さに形成されるものであり,並びに前記接着層が,Au,Pt,PdおよびAgから成るグループから選択された金属から形成され,かつ前記接着層が,約500Å?約4000Åの厚さに形成されるものであり」と,本願発明1の「(i)接触面,(ii)Co-M-B合金,Co-M-P合金及びCo-M-B-P合金から選択されるバリア層,ここで,Mは,Mn,Zr,Re,Mo,Ta及びWからなる群から選択され,かつ該バリア層の厚さは,0.03?0.3μmの範囲であり,並びに(iii)0.05?0.3μmの範囲の厚さを有し,かつ99.0質量%より多いパラジウム含有率を有する,第一結合層としてパラジウム層の順に存在し」とは,「(i)接触面,(ii)所定の厚さを有し,合金からなるバリア層,並びに(iii)所定の厚さを有し,貴金属からなる結合層の順に存在し」という点で一致する。

オ 引用発明1の「電気接続用銅パッド表面」には,「ワイヤボンドを形成する」のであるから,引用発明1の「電気接続用銅パッド表面」は,本願発明1の「金属ワイヤボンディング可能な表面」に相当する。
そして,引用発明1の「電気接続用銅パッド表面」は,「銅パッド表面を用意する段階と,リンまたはホウ素含有金属合金の保護層を前記銅パッド表面上に選択的に付着させる段階と,貴金属の接着層を前記保護層上に選択的に付着させる段階を含む,電気接続用銅パッド表面を準備する方法であって,・・・前記銅パッド表面が載ったウェーハを個々のICチップにダイシングする段階と・・・前記銅パッド表面上へのワイヤボンドを形成する段階を含む」方法によって「準備」されるのであるから,引用発明1の「電気接続用銅パッド表面」は,「銅パッド」,「リンまたはホウ素含有金属合金の保護層」,及び,「貴金属の接着層」からなる金属層を,この順で配列した,「金属層配列」を含むものといえる。
さらに,引用発明1の「電気接続用銅パッド表面を準備する方法」は,「銅パッド表面が載ったウェーハを個々のICチップにダイシングする段階」を含み,ここで,前記「個々のICチップにダイシング」された「ウェーハ」は,「半導体基材」といえる。
そうすると,引用発明1の「電気接続用銅パッド表面を準備する方法」と,本願発明1の「金属ワイヤボンディング可能な表面を製造するための少なくとも1つの金属層配列を含む半導体基材の製造方法」とは,以下の相違点1,2を除き,「金属ワイヤボンディング可能な表面を製造するための少なくとも1つの金属層配列を含む半導体基材の製造方法」である点で一致する。

カ 以上をまとめると,本願発明1と引用発明1の一致点及び相違点は次のとおりである。

<一致点>
「金属ワイヤボンディング可能な表面を製造するための少なくとも1つの金属層配列を含む半導体基材の製造方法であって,該層配列が,
(i)接触面,
(ii)所定の厚さを有し,合金からなるバリア層,並びに
(iii)所定の厚さを有し,貴金属からなる結合層の順に存在する
前記半導体基材の製造方法。」

<相違点>
・相違点1:合金からなるバリア層が,本願発明1では,「Co-M-B合金,Co-M-P合金及びCo-M-B-P合金から選択されるバリア層,ここで,Mは,Mn,Zr,Re,Mo,Ta及びWからなる群から選択され,かつ該バリア層の厚さは,0.03?0.3μmの範囲」のものであるのに対して,引用発明1は,「Ni-P,Co-P,Co-W-P,Co-Sn-P,Ni-W-P,Co-B,Ni-B,Co-Sn-B,Co-W-BおよびNi-W-Bから成るグループから選択され,かつ該リンまたはホウ素含有金属合金が,約1000Å?約10000Åの厚さに形成されるもの」である点。

・相違点2:貴金属からなる結合層が,本願発明1では,「『0.05?0.3μmの範囲の厚さを有し,かつ99.0質量%より多いパラジウム含有率を有する,第一結合層としてパラジウム層』であって,『前記パラジウム層が,パラジウム塩,1つ以上の窒素化錯化剤,及びギ酸又はギ酸誘導体を含むが,次亜リン酸塩又はアミンボラン化合物を含まず,かつ4より高いpH値を有する化学メッキ組成物から得られる』」ものであるのに対して,引用発明1は,「Au,Pt,PdおよびAgから成るグループから選択された金属から形成され,かつ前記接着層が,約500Å?約4000Åの厚さに形成されるもの」である点。

(2)判断
・相違点1について
ア 本願発明1の,「Co-M-B合金,Co-M-P合金及びCo-M-B-P合金から選択されるバリア層,ここで,Mは,Mn,Zr,Re,Mo,Ta及びWからなる群から選択され,かつ該バリア層の厚さは,0.03?0.3μmの範囲」と,引用発明1の,「Ni-P,Co-P,Co-W-P,Co-Sn-P,Ni-W-P,Co-B,Ni-B,Co-Sn-B,Co-W-BおよびNi-W-Bから成るグループから選択され,かつ該リンまたはホウ素含有金属合金が,約1000Å?約10000Åの厚さに形成されるもの」とは,合金からなるバリア層の組成が,「Co-M-B合金,ここで,MはWからなる」もの,及び「Co-M-P合金,MはWからなる」ものについて重複し,また,厚さにおいても「0.1?0.3μm」の範囲において重複する。
そして,引用発明1において,バリア層の組成として,「Ni-P,Co-P,Co-W-P,Co-Sn-P,Ni-W-P,Co-B,Ni-B,Co-Sn-B,Co-W-BおよびNi-W-Bから成るグループ」の中から,「Co-M-B合金,ここで,MはWからなる」もの,あるいは,「Co-M-P合金,MはWからなる」ものを選択すること,及び,厚さとして,「約1000Å?約10000Å」の範囲の中から,「0.1?0.3μm」の範囲に含まれる値を選択することは,当業者が適宜なし得たことであり,このような選択をすることに困難は認められず,また,このような選択をしたことによる格別の効果も,本願の発明の詳細な説明の記載からは理解することができない。

イ なお,審判請求人は,審判請求書において,「本願発明1は,上述の構成を採用することにより,接触面間のブリッジングのリスクを減少し,かつ同時にワイヤボンディング中の接触面の真下のマイクロエレクトロニクスデバイスの感部についての十分な機械安定性を提供するワイヤボンディング可能な表面を有する金属層配列及び金属合金層配列を提供することができるという効果を奏します(段落番号0011)。このことは,本願明細書の実施例より明らかです。」と主張する。
そこで,本願明細書の実施例の記載に基づいて,審判請求人の主張を検討する。

ウ 本願の明細書には,実施例として,以下の事項が記載されている。
「【0045】
実施例
本発明を,次の限定的ではない実施例に関連して説明する。
【0046】
実施例1(比較例)
ニッケルリン合金を,銅から製造した接触パッド上に無電解メッキによって堆積させる。該ニッケルリン合金の厚さは,1.0μmであり,リン濃度は堆積後に12質量%であった。
【0047】
そして基材を8時間500℃でアニールした。
【0048】
ニッケルリン合金中への銅の拡散挙動(及びその逆)を,層の研磨と合わせてXPS測定を使用して測定した。
【0049】
銅含有率3?5%を,ニッケルリン合金層中でアニール工程後に観察した。
【0050】
したがって,薄いニッケルリン合金層は,高温で銅拡散を妨げない。
【0051】
実施例2
Co-W-P合金を,銅から製造した接触パッド上に電気メッキによって堆積させる。該Co-W-P合金の厚さは,0.2μmであり,リン濃度は堆積後に3質量%であった。
【0052】
熱アニール及びXPS測定を,実施例1に記載のように実施した。
【0053】
銅のごくわずかな量を,熱アニール後のCo-W-P合金層中で検出した。
【0054】
したがって,薄いCo-W-P合金層は,高温で銅拡散を妨げる。
【0055】
実施例3
Co-W-P合金を,銅から製造した接触パッド上に電気メッキによって堆積させる。該Co-W-P合金の厚さは,0.2μmであり,リン濃度は堆積後に3質量%であった。
【0056】
次に,純粋なパラジウムの中間層(厚さ:0.3μm),その後金の頂部層(厚さ:0.03μm)を,パラジウム層上に堆積させた。
【0057】
銅接触パッド,Co-W-P合金層,99質量%より多くのパラジウム含有率を有するパラジウム層,及び金層からなる最終の金属層配列及び金属合金層配列のワイヤボンディング特性を,DVS Standard No.2811を使用して測定した。
【0058】
TSボンダモデルDelvotec 5410及び金ワイヤAu-AH3(Hereaus社)及び結合パラメータUSパワー75%(目盛線(較正線でない),提供されたTSボンダのための特定のパラメータ);結合力25gf及び結合時間25msを使用した。測定を,パッドサイズごとに30個のスタッドバンプについて行った。
【0059】
次のパラメータを結合試験中に測定した:
平均値:65.8g
標準偏差:7.5g
最小値:55.4g
剪断リフトオフ:0%
剪断力>35cN:0%。
【0060】
全ての得られた値を,DVS Standard No.2811及びその要求の枠内であった。したがって,薄いCo-W-P合金は,純粋なパラジウム/金仕上げを使用するワイヤボンディング適用に適した拡散バリアである。」

エ そうすると,上記ウから,薄いニッケルリン合金層は,高温で銅拡散を妨げないが,リン濃度が堆積後に3質量%である,電気メッキによって堆積した,厚さが0.2μmであるCo-W-P合金は,高温で銅拡散を妨げること,及び,リン濃度が堆積後に3質量%である,電気メッキによって堆積した,厚さが0.2μmであるCo-W-P合金が,純粋なパラジウム/金仕上げを使用するワイヤボンディング適用に適した拡散バリアであることを,本願明細書の実施例の記載から理解することができる。

オ しかしながら,本願明細書の実施例には,接触面間のブリッジングのリスク,及び,ワイヤボンディング中の接触面の真下のマイクロエレクトロニクスデバイスの感部についての機械安定性について何ら記載されていない。
すなわち,審判請求人の前記主張は,明細書の記載に基づかない主張であって採用することはできない。
したがって,引用発明1において,相違点1について本願発明1の構成を採用することは,当業者が容易になし得たことである。

・相違点2について
ア 本願発明1の,「第一結合層としてパラジウム層」と,引用発明1の,「『Au,Pt,PdおよびAgから成るグループから選択された金属から形成され』る『接着層』」とは,貴金属からなる「結合層」が,「パラジウム層」であるものについて重複し,また,厚さにおいても「0.05?0.3μm」の範囲において重複する。

イ 一方,引用文献1の上記摘記(1c)の「本発明の新規な方法によって提供される銅/バリア層のワイヤボンディングまたははんだバンピングは,プロセス上多数の利点を有する。これには,銅に対する優れた接着性,熱処理下でのバリア層を通した銅原子の拡散防止,腐食に対する銅表面の保護,および銅パッドに接続されたアルミニウム線または金線の優れた接着性および引張り強度を可能にする,バリア層の最上面への貴金属の付着が含まれる。」との記載から,引用発明1の接着層には,「銅に対する優れた接着性,熱処理下でのバリア層を通した銅原子の拡散防止,腐食に対する銅表面の保護,および銅パッドに接続されたアルミニウム線または金線の優れた接着性および引張り強度」を可能にするという機能が求められていると理解できる。
他方,引用文献3の上記摘記(3b)の「腐食保護層が鑞付け及び接着可能な最終層としても用いられるべき使用目的のために,相当の貴金属が腐食保護層として用いられる。パラジウムはその比較的低い貴金属費用のために好まれる。パラジウム層の化学的析出のために,多数の異なった浴剤が公知である」との記載から,貴金属からなる腐食保護層が,鑞付け及び接着可能な最終層として用いられる際に,パラジウムはその比較的低い貴金属費用のために好まれること,及び,パラジウム層の化学的析出のために,多数の異なった浴剤が公知であることが理解される。
そして,費用が低いことが好ましいことは,当業者において当然の要求といえる。
してみれば,引用発明1の「『Au,Pt,PdおよびAgから成るグループから選択された金属から形成され』る『接着層』」における当該選択において,その比較的低い貴金属費用のために,「パラジウム」を選択することには一定の動機を見いだすことができるから,引用発明1において,貴金属からなる結合層の組成として,「Au,Pt,PdおよびAgから成るグループ」の中から,「パラジウム層」を選択することは当業者が適宜なし得たことである。

ウ さらに,引用文献3の上記摘記(3a)ないし(3f)に照らして,引用文献3の上記摘記(3e)に「例2」として記載された,硫酸パラジウム,エチレンジアミン,蟻酸ナトリウム,及び,燐酸二水素カリウムからなる浴剤であって,蟻酸で,5.8へpH調整した浴剤,すなわち,本願発明1の「パラジウム塩,1つ以上の窒素化錯化剤,及びギ酸又はギ酸誘導体を含むが,次亜リン酸塩又はアミンボラン化合物を含まず,かつ4より高いpH値を有する化学メッキ組成物」に該当する浴剤を用いてパラジウム層を析出することで,「孔の少ないパラジウム層を析出」することができること,及び,当該「孔の少ないパラジウム層」は,上記摘記(3f)に示されるように,銀の移動を阻止する等の特性を有することが理解される。

エ そうすると,「熱処理下でのバリア層を通した銅原子の拡散防止」等を可能とするという機能が求められる引用発明1の接着層を,上記イに基づいて,「パラジウム層」で形成するに際して,「パラジウム層の化学的析出のため」の「浴剤」として,引用文献3に記載された,「パラジウム塩,1つ以上の窒素化錯化剤,及びギ酸又はギ酸誘導体を含むが,次亜リン酸塩又はアミンボラン化合物を含まず,かつ4より高いpH値を有する化学メッキ組成物」に該当する浴剤を用い,その結果として,「孔の少ないパラジウム層」を形成することで,引用発明1の「貴金属の接着層」に求められる特性の一つである,「熱処理下でのバリア層を通した銅原子の拡散防止」等の機能をさらに向上させることは,当業者が容易になし得たことである。
なお,引用文献3には,前記浴剤を用いて形成したパラジウム層のパラジウム含有率が,99.0質量%より多いとは記載されていないが,引用文献2の「無電解パラジウムめっき皮膜の純度が99重量%以上になるので,接続の信頼性が高く好ましく」等との記載に照らして,パラジウムめっき皮膜の純度が高い方が望ましいことは当業者が容易に思い至ることであり,さらに,引用文献2の上記摘記(2d)からも明らかなように,本願の優先権の主張の日前において,純パラジウム(純度99.9重量%)の皮膜を形成するための無電解パラジウムめっき液が,パラテクト(アトテックジャパン株式会社製,商品名)として市販されており,純パラジウム(純度99.9重量%)の皮膜の形成が格別のこととはいえず,しかも,本願の明細書の記載からは,前記「99.0質量%」という値に臨界的な意義を見いだすこともできないことから,引用発明1において,パラジウム層のパラジウム含有率を99.0質量%より多いものとすることは当業者が適宜なし得たことである。

オ そして,引用発明1において,貴金属からなる結合層の厚さとして,「約500Å?約4000Å」の範囲の中から,「0.05?0.3μm」の範囲に含まれる値を選択することは,設計事項であって,このような選択をすることに困難は認められず,また,このような選択をしたことによる格別の効果も,本願の発明の詳細な説明の記載からは理解することができない。

カ 審判請求人は,審判請求書において,「なお,文献1のようにPd膜を無電解メッキで行う場合,通常,無電解パラジウムめっき液には,還元剤として,次亜リン酸または次亜リン酸化合物が使用されます。すなわち,文献1に記載されたPd膜には,還元剤として次亜リン酸または次亜リン酸化合物が使用されるため,Pが混入し,Pd-P膜となります。本願発明1の特定の方法で得られたPd膜(サンプルa)と,例えば,文献1のPd-P膜(サンプルb)との特性の違いは以下の実施例により分かります。
(実施例)
第一結合層が形成された後,メッキされたワイヤボンディング部分が,銅パッド部分に,165℃でHereaus Maxsoft銅ワイヤ(0.8μm径)で結合された。ボンディングプロセスは,Microenviroment Copper Kitを備えたKulicke and Soffa Max Ultraワイヤボンダを使用して行われた。フォーミングガス(5%/95% H_(2)/N_(2))は,形成の間,フリーエアボールを保護した。ボンディングツールは,1.25milのチャンファー径(CD)および60°のチャンファー角(ICA)を有するKulicke and Soffa CuPRAplus キャピラリーである。ボンディングは,超音波(US)処理の存在下で行われた。引っ張りテストがDage4000T p プルテスターで行われた。サンプルaとサンプルbのパラジウム表面は,ボンディングの前に公知のプラズマエッチング法により洗浄された。10個のサンプルが,テストされ,平均は以下のとおりである。超音波による処理時間は,90?140秒の間である。引っ張り強度値(グラム引張力)は,以下の表のとおりである。引っ張り強度が高くなればなるほど,基材と銅ワイヤとの結合は優れたものとなる。・・・以上のとおり,全ての実施例において,本願発明1の特定の方法で得られたPd膜(サンプルa)が,文献1のPd-P膜(サンプルb)に比べて,優れた,高い引っ張り強度を有することが分かります。これに対して,文献1?3に記載された発明では,上述の本願発明1の効果については記載も示唆もされておりません。したがって,例え,当業者であっても,文献1?3に記載された発明からでは,上述の本願発明1の効果は予測できません。」と主張する。

キ 一方,本願明細書には,「【0011】発明の目的
したがって,本発明の目的は,接触面間のブリッジングのリスクを減少し,かつ同時にワイヤボンディング中の接触面の真下のマイクロエレクトロニクスデバイスの感部についての十分な機械安定性を提供するワイヤボンディング可能な表面を有する金属層配列及び金属合金層配列を提供することである。」,及び,「【0055】
実施例3
Co-W-P合金を,銅から製造した接触パッド上に電気メッキによって堆積させる。該Co-W-P合金の厚さは,0.2μmであり,リン濃度は堆積後に3質量%であった。
【0056】
次に,純粋なパラジウムの中間層(厚さ:0.3μm),その後金の頂部層(厚さ:0.03μm)を,パラジウム層上に堆積させた。
【0057】
銅接触パッド,Co-W-P合金層,99質量%より多くのパラジウム含有率を有するパラジウム層,及び金層からなる最終の金属層配列及び金属合金層配列のワイヤボンディング特性を,DVS Standard No.2811を使用して測定した。
【0058】
TSボンダモデルDelvotec 5410及び金ワイヤAu-AH3(Hereaus社)及び結合パラメータUSパワー75%(目盛線(較正線でない),提供されたTSボンダのための特定のパラメータ);結合力25gf及び結合時間25msを使用した。測定を,パッドサイズごとに30個のスタッドバンプについて行った。
【0059】
次のパラメータを結合試験中に測定した:
平均値:65.8g
標準偏差:7.5g
最小値:55.4g
剪断リフトオフ:0%
剪断力>35cN:0%。
【0060】
全ての得られた値を,DVS Standard No.2811及びその要求の枠内であった。したがって,薄いCo-W-P合金は,純粋なパラジウム/金仕上げを使用するワイヤボンディング適用に適した拡散バリアである。」
と記載されている。
そうすると,本願明細書の記載から,接触面間のブリッジングのリスクを減少し,かつ同時にワイヤボンディング中の接触面の真下のマイクロエレクトロニクスデバイスの感部についての十分な機械安定性を提供するワイヤボンディング可能な表面を有する金属層配列及び金属合金層配列を提供することという課題,及び,薄いCo-W-P合金は,純粋なパラジウム/金仕上げを使用するワイヤボンディング適用に適した拡散バリアであることを理解できるとしても,本願明細書に,Pd膜が,Pd-P膜に比べて,優れた,高い引っ張り強度を有するという知見が記載されているとは認められない。
そうすると,審判請求人の主張する効果の主張は,本願明細書に記載されていない新たな効果を主張するものであるから採用することはできない。

ク しかも,仮に,Pd膜が,Pd-P膜に比べて,優れた,高い引っ張り強度を有するとしても,本願発明1は,Pd膜に直接ワイヤボンディングをすることを発明特定事項としておらず,例えば,実施例3に記載されるように,「その後金の頂部層(厚さ:0.03μm)を,パラジウム層上に堆積させ」,当該金の頂部層に,「金ワイヤAu-AH3(Hereaus社)」でワイヤボンディングをする場合を含有するものである。
そして,このような構造を有する金属層配列(すなわち,銅接触パッド,Co-W-P合金層,パラジウム層,及び金層からなる最終の金属層配列)において,パラジウム層が,Pd膜であるか,Pd-P膜であるかによって,引っ張り強度が顕著に異なるとまでは,審判請求書に記載された「(実施例)」からは理解することができない。
したがって,この理由からも,審判請求人の前記主張は採用することはできない。

ケ したがって,引用発明1において,相違点2について本願発明1の構成を採用することは,引用文献2及び引用文献3に記載された事項に基づいて,当業者が容易になし得たことである。

(3)判断についてのまとめ
以上のとおりであるから,引用発明1において,上記相違点1及び2に係る本願発明1の構成を採用することは,引用文献2,引用文献3に記載された技術的事項に基づいて容易になし得たことである。
したがって,本願発明1は,引用文献1ないし引用文献3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって,本願発明1は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4 むすび
以上のとおりであるから,他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-10-04 
結審通知日 2017-10-10 
審決日 2017-10-23 
出願番号 特願2014-515112(P2014-515112)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 工藤 一光  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 加藤 浩一
小田 浩
発明の名称 マイクロエレクトロニクスデバイスのためのワイヤボンディング可能な表面  
代理人 上島 類  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 前川 純一  
代理人 二宮 浩康  

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