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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C04B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C04B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
管理番号 1338112
異議申立番号 異議2017-700605  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-04-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-06-14 
確定日 2018-01-29 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6045328号発明「セメントおよびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6045328号の明細書、及び、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、及び、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第6045328号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6045328号の請求項1?3に係る特許についての出願(特願2012-275980号)は、平成24年12月18日に出願したものであって、平成28年11月25日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人松永健太郎より請求項1?3に係る特許に対して異議の申立てがされたものである。
その後、平成29年8月17日付けで取消理由が通知され、平成29年10月20日付けで意見書の提出及び訂正請求がされ、平成29年11月27日付けで特許異議申立人松永健太郎から意見書が提出されたものである。

2 訂正の適否
(1) 訂正の内容
平成29年10月20日に提出された訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の内容は、以下訂正事項1?27のとおりである。

訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「水硬率(H.M.)が2.10?2.30」とあるのを、「水硬率(H.M.)が2.15?2.30」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?3も同様に訂正する)。

訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「ケイ酸率(S.M.)が1.80?2.48」とあるのを、「ケイ酸率(S.M.)が2.20?2.48」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?3も同様に訂正する)。

訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「ボーグ式による計算値で60.0?70.0質量%」とあるのを、「ボーグ式による計算値で66.1?70.0質量%」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?3も同様に訂正する)。

訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に「SO_(3)換算で1.2質量%以上であり」とあるのを、「SO_(3)換算で1.2?4質量%であり」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?3も同様に訂正する)。

訂正事項5
願書に添付した明細書の段落【0005】に「水硬率(H.M.)が2.10?2.30」とあるのを、「水硬率(H.M.)が2.15?2.30」に訂正する。

訂正事項6
願書に添付した明細書の段落【0005】に「ケイ酸率(S.M.)が1.80?2.48」とあるのを、「ケイ酸率(S.M.)が2.20?2.48」に訂正する。

訂正事項7
願書に添付した明細書の段落【0005】に「ボーグ式による計算値で60.0?70.0質量%」とあるのを、「ボーグ式による計算値で66.1?70.0質量%」に訂正する。

訂正事項8
願書に添付した明細書の段落【0005】に「石膏の割合が、SO_(3)換算で1.2質量%以上であり」とあるのを、「石膏の割合が、SO_(3)換算で1.2?4質量%であり」に訂正する。

訂正事項9
願書に添付した明細書の段落【0007】に「水硬率(H.M.)が2.10?2.30」とあるのを、「水硬率(H.M.)が2.15?2.30」に訂正する。

訂正事項10
願書に添付した明細書の段落【0007】に「ケイ酸率(S.M.)が1.80?2.48」とあるのを、「ケイ酸率(S.M.)が2.20?2.48」に訂正する。

訂正事項11
願書に添付した明細書の段落【0007】に「ボーグ式による計算値で70.0質量%以下である」とあるのを、「ボーグ式による計算値で66.1?70.0質量%である」に訂正する。

訂正事項12
願書に添付した明細書の段落【0007】に「石膏の割合が、SO_(3)換算で1.2質量%以上であり」とあるのを、「石膏の割合が、SO_(3)換算で1.2?4質量%であり」に訂正する。

訂正事項13
願書に添付した明細書の段落【0008】に「水硬率(H.M.)は、2.10?2.30」とあるのを、「水硬率(H.M.)は、2.15?2.30」に訂正する。

訂正事項14
願書に添付した明細書の段落【0008】に「ケイ酸率(S.M.)は、1.80?2.48、好ましくは2.00?2.47」とあるのを、「ケイ酸率(S.M.)は、2.20?2.48、好ましくは2.20?2.47」に訂正する。

訂正事項15
願書に添付した明細書の段落【0008】に「焼成物の鉄率(I.M.)は、1.3?2.6、好ましくは1.6?2.5、より好ましくは1.8?2.4である。」とあるのを、「焼成物の鉄率(I.M.)は、1.86?2.40である。」に訂正する。

訂正事項16
願書に添付した明細書の段落【0009】に「ボーグ式による計算値で70.0質量%以下、好ましくは50.0?70.0質量%、より好ましくは60.0?70.0質量%である。」とあるのを、「ボーグ式による計算値で66.1?70.0質量%である。」に訂正する。

訂正事項17
願書に添付した明細書の段落【0012】に「SO_(3)換算で1.2質量%以上、好ましくは1.3?5質量%、より好ましくは1.4?4質量%である。」とあるのを、「SO_(3)換算で1.2?4質量%、好ましくは1.3?4質量%、より好ましくは1.4?4質量%である。」に訂正する。

訂正事項18
願書に添付した明細書の段落【0019】に「[実施例1?7、比較例1?13]」とあるのを、「[実施例1?6、参考例1、比較例1?13]」に訂正する。

訂正事項19
願書に添付した明細書の段落【0022】の表3の「凝結時間」の欄に「凝結」とあるのを、「終結」に訂正する。

訂正事項20
願書に添付した明細書の段落【0022】の表3に「実施例7」とあるのを、「参考例1」に訂正する。

訂正事項21
願書に添付した明細書の段落【0023】の表4に「実施例7」とあるのを、「参考例1」に訂正する。

訂正事項22
願書に添付した明細書の段落【0024】に「[実施例8?13、比較例14?17]」とあるのを、「[実施例7?12、比較例14?17]」に訂正する。

訂正事項23
願書に添付した明細書の段落【0024】に「実施例8?13及び比較例14?17では」とあるのを、「実施例7?12及び比較例14?17では」に訂正する。

訂正事項24
願書に添付した明細書の段落【0024】に「ブレーン比表面積は実施例1?8及び比較例1?12よりもばらついているが」とあるのを、「ブレーン比表面積は実施例1?6、参考例1及び比較例1?13よりもばらついているが」に訂正する。

訂正事項25
願書に添付した明細書の段落【0024】に「実施例1?7及び比較例1?13と同様にして」とあるのを、「実施例1?6、参考例1及び比較例1?13と同様にして」に訂正する。

訂正事項26
願書に添付した明細書の段落【0025】の表5の「凝結時間」の欄に「凝結」とあるのを、「終結」に訂正する。

訂正事項27
願書に添付した明細書の段落【0025】の表5に「実施例8」、「実施例9」、「実施例10」、「実施例11」、「実施例12」、「実施例13」とあるのを、各々、「実施例7」、「実施例8」、「実施例9」、「実施例10」、「実施例11」、「実施例12」に訂正する。

(2) 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び、一群の請求項

ア 訂正の目的について
(ア) 訂正事項1?4
訂正事項1?4は、数値範囲の減縮であり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。

(イ) 訂正事項5?14、16?18、20?23、25、27
訂正事項5?14、16?18、20?23、25、27は、訂正事項1?4を受けて、発明の詳細な説明の記載を請求項の記載と整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。

(ウ) 訂正事項15
訂正事項15は、発明の詳細な説明の記載を請求項の記載と整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。

(エ) 訂正事項19、26
本件特許明細書の【0020】の記載(ただし、「/」は、改行を表す。また、下線は、当審による強調。以下同じ。)「2)凝結性状の評価/各セメントの凝結時間について、「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)」に準拠して測定を行った。結果を表3に示す。/凝結性状の評価は、比較例4のセメント(市販品と同等の焼成物11を使用)の凝結始発時間及び終結時間を基準とし、凝結始発時間が100分間以上であり、かつ、凝結終結時間が150分間以上であるものを「○」と評価した。結果を表4に示す。」、及び、【0024】の「5)凝結性状の評価/各セメントの凝結時間について、「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)」に準拠して測定を行った。結果を表5に示す。/凝結性状の評価は、比較例4のセメント(市販品と同等の焼成物11を使用)の凝結始発時間及び終結時間を基準とし、凝結始発時間が100分間以上であり、かつ、凝結終結時間が150分以上であるものを「○」と評価した。結果を表5に示す。」との記載事項からみて、【表3】、【表5】の「凝結時間」の欄に「始発」の語と共に記載されている「凝結」は、「終結」の誤記であり、訂正事項19、26は、誤記の訂正を目的とするものである。

(オ) 訂正事項24
訂正事項24は、本件特許明細書の段落【0024】の記載「[実施例8?13、比較例14?17]/実施例8?13及び比較例14?17では、表2の焼成物6を焼成物(クリンカ)として使用した。」と整合しない誤記を正すものであり、また、訂正事項1?4を受けて、発明の詳細な説明の記載を請求項の記載と整合させるものであるから、誤記の訂正、及び、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。

イ 新規事項の有無について
(ア) 訂正事項1、5、9、13
本件特許明細書の【0008】に記載された「本発明のセメントに用いられる焼成物の水硬率(H.M.)は、2.10?2.30、好ましくは2.15?2.25、より好ましくは2.20?2.24である。」との事項からみて、訂正事項1、5、9、13は、新規事項の追加に該当しない。

(イ) 訂正事項2、6、10、14
本件特許明細書の【0008】に記載された「本発明のセメントに用いられる焼成物のケイ酸率(S.M.)は、1.80?2.48、好ましくは2.00?2.47、より好ましくは2.20?2.46、特に好ましくは2.30?2.45である。」との事項からみて、訂正事項2、6、10、14は、新規事項の追加に該当しない。

(ウ) 訂正事項3、7、11、16
本件特許明細書の【0022】の【表3】の実施例1?6に記載された、C_(3)S(質量%)の値である66.1(実施例1、5)?69.9(実施例4)との事項からみて、訂正事項3、7、11、16は、新規事項の追加に該当しない。

(エ) 訂正事項4、8、12、17
本件特許明細書の【0012】に記載された「本発明のセメントは、上記焼成物の粉砕物と、石膏を含むものである。セメント100質量%中の石膏の割合は、セメントをモルタル又はコンクリート等として使用した場合の流動性及び強度発現性等の観点から、SO_(3)換算で1.2質量%以上、好ましくは1.3?5質量%、より好ましくは1.4?4質量%である。」との事項からみて、訂正事項4、8、12、17は、新規事項の追加に該当しない。

(オ) 訂正事項15
本件特許明細書の【0023】の【表4】の実施例1?6に記載された、鉄率の値である1.86(実施例2、4?6)?2.40(実施例1、3)との事項からみて、訂正事項15は、新規事項の追加に該当しない。

(カ) 訂正事項18、20?23、25、27
訂正事項18、20?23、25、27は、実施例を参考例とする形式的な文言の変更、及び、実施例の番号の付替えであるから、新規事項の追加に該当しない。

(キ) 訂正事項19、26
上記ア(エ)の摘示個所の記載事項からみて、【表3】、【表5】の「凝結時間」の欄に「始発」の語と共に記載されている「凝結」は、「終結」の明らかな誤記であるから、訂正事項19、26は、新規事項の追加に該当しない。

(ク) 訂正事項24
訂正事項24は、上記ア(オ)の摘示個所の記載から明らかである誤記を正すものであり、また、上記(カ)と同様の実施例を参考例とする形式的な文言の変更、及び、実施例の番号の付替えであるから、新規事項の追加に該当しない。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1?27は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ 一群の請求項について
訂正前の請求項1を請求項2、3が直接又は間接的に引用するものであるから、特許請求の範囲に係る訂正事項1?4は一群の請求項〔1?3〕に対して請求されたものである。
また、明細書に係る訂正事項5?27は、この一群の請求項〔1?3〕の全てについて請求されたものである。

(3) 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号、第2号、及び、第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正を認める。

3 特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?3に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明3」という。)は、平成29年10月20日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?3に記載される以下の事項により特定されるとおりのものであると認める。

【請求項1】
水硬率(H.M.)が2.15?2.30、ケイ酸率(S.M.)が2.20?2.48、鉄率(I.M.)が1.86?2.40であり、かつ、焼成物100質量%中の3CaO・SiO_(2)の割合が、ボーグ式による計算値で66.1?70.0質量%である焼成物の粉砕物と、石膏を含むセメントであって、
該セメント100質量%中の石膏の割合が、SO_(3)換算で1.2?4質量%であり、かつ、該セメント中の二水石膏及び半水石膏の合計量に対する半水石膏の割合が、SO_(3)換算で30質量%以上であることを特徴とするセメント。
【請求項2】
請求項1に記載のセメントを製造するための方法であって、産業廃棄物、一般廃棄物及び建設発生土から選ばれる一種以上を原料として使用して、上記焼成物を得る、セメントの製造方法。
【請求項3】
上記焼成物が、焼成物1ton当たり、183?300kgの産業廃棄物、一般廃棄物及び建設発生土から選ばれる一種以上を原料として使用した焼成物である請求項2に記載のセメントの製造方法。

(2)証拠
特許異議申立人松永健太郎から提出された証拠は以下の甲第1号証?甲第13号証である。
なお、甲第10号証?甲第13号証は、平成29年11月27日付け意見書に添付されたものである。

甲第1号証
特開2012-229162号公報
甲第2号証
特開2011-225394号公報
甲第3号証
佐川孝広、「リートベルト法により定量したセメントクリンカーの鉱物組成とセメント品質との関係」、コンクリート工学年次論文集 第27巻 第1号(2005)、社団法人日本コンクリート工学協会、2005年6月25日発行、第43-48頁
甲第4号証
特開2012-201519号公報
甲第5号証
特開2011-132111号公報
甲第6号証
特開2012-246190号公報
甲第7号証
中西陽一郎、「高C_(3)A型セメントの基礎的物性 ?実製造機による試製品を用いた評価?」、セメント・コンクリート論文集 Cement Science and Concrete Technology No.62/2008、社団法人セメント協会、2009年2月20日発行、第95-100頁
甲第8号証
セメントの常識、社団法人セメント協会、2009年12月発行、第13-14頁
甲第9号証
後藤貴弘、「高アルミネート型セメントを用いたコンクリートの物性」、セメント・コンクリート論文集 Cement Science and Concrete Technology No.64/2010、社団法人セメント協会、2011年2月25日発行、第219-224頁
甲第10号証
JIS R 5210 ポルトランドセメント、財団法人日本規格協会、平成21年11月20日発行、第1-5頁
甲第11号証
H.F.W. Taylor、「Cement chemistry 2nd edition」、英国、Thomas Telford、1997年、第84頁
甲第12号証
赤津健、「“固相”組成および“液相”組成がクリンカーの被粉砕性におよぼす影響」、昭和44年 セメント技術年報 XXIII、社団法人セメント協会、昭和45年1月25日発行、第156-159頁
甲第13号証
高畑節郎、「クリンカーの被粉砕性について」、セメント技術年報 35 昭和56年(1981)、社団法人セメント協会、昭和56年12月10日発行、第34-37頁

(3)取消理由の概要
訂正前の請求項1?3に係る特許に対して、平成29年8月17日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

ア 請求項1、2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と甲第2?5号証に記載される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1、2に係る特許は取り消すべきものである。

イ 請求項3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と甲第2?6号証に記載される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項3に係る特許は取り消すべきものである。

ウ 請求項1?3に係る発明は、石膏の割合の上限が特定されておらず、発明の詳細な説明の記載により課題を解決することを認識できる発明であるとはいえないから、請求項1?3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでなく、本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願にされたものであり、取り消すべきものである。

(4)判断
ア 取消理由通知に記載した取消理由について
(ア)上記(3)ア、イについて
a 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証に、実施例1として、「化学組成が、TiO_(2):0.34質量%、CaO:66.36質量%、SiO_(2):21.64質量%、Al_(2)O_(3):5.91質量%、Fe_(2)O_(3):3.04質量%であり、鉱物組成が、水硬率HM:2.17、ケイ酸率SM:2.42、鉄率IM:1.94であるセメントクリンカに、SO_(3)含有量2.0?2.1質量%となるように石膏を添加し、ブレーン比表面積3450?3550cm^(2)/gとなるように粉砕したセメント」(以下、「甲1発明1」という。)が記載されている。
また、実施例2?4として、「化学組成が、TiO_(2):0.59質量%、CaO:66.07質量%、SiO_(2):21.64質量%、Al_(2)O_(3):5.91質量%、Fe_(2)O_(3):3.04質量%であり、鉱物組成が、水硬率HM:2.18、ケイ酸率SM:2.41、鉄率IM:1.94であるセメントクリンカに、SO_(3)含有量2.0?2.1質量%となるように石膏を添加し、ブレーン比表面積3450?3550cm^(2)/gとなるように粉砕したセメント」(以下、「甲1発明2」という。)、「化学組成が、TiO_(2):0.75質量%、CaO:66.03質量%、SiO_(2):21.52質量%、Al_(2)O_(3):5.82質量%、Fe_(2)O_(3):2.99質量%であり、鉱物組成が、水硬率HM:2.18、ケイ酸率SM:2.44、鉄率IM:1.95であるセメントクリンカに、SO_(3)含有量2.0?2.1質量%となるように石膏を添加し、ブレーン比表面積3450?3550cm^(2)/gとなるように粉砕したセメント」(以下、「甲1発明3」という。)、及び、「化学組成が、TiO_(2):0.97質量%、CaO:65.91質量%、SiO_(2):21.24質量%、Al_(2)O_(3):5.87質量%、Fe_(2)O_(3):3.01質量%であり、鉱物組成が、水硬率HM:2.19、ケイ酸率SM:2.39、鉄率IM:1.95であるセメントクリンカに、SO_(3)含有量2.0?2.1質量%となるように石膏を添加し、ブレーン比表面積3450?3550cm^(2)/gとなるように粉砕したセメント」(以下、「甲1発明4」という。)が記載されている。

b 対比
本件発明1と、甲1発明1?4とをそれぞれ対比すると、甲1発明1?4の「セメントクリンカ」は、1450℃で2時間焼成して得るものであるから、「焼成物」に相当する。
また、甲1発明1?4のセメントクリンカ(焼成物)中の3CaO・SiO_(2)(C_(3)S)の割合を本件特許明細書の【0009】に記載されたボーグ式で求めると、それぞれ、約61.6質量%、約60.4質量%、約61.8質量%、約63.1質量%であるから、本件特許発明1は、甲1発明1?4と、以下の一致点で一致し、以下の相違点1、2で相違する。

一致点:
水硬率(H.M.)が2.15?2.30、ケイ酸率(S.M.)が2.20?2.48、鉄率(I.M.)が1.86?2.40である焼成物の粉砕物と、石膏を含むセメントであって、
該セメント100質量%中の石膏の割合が、SO_(3)換算で1.2?4質量%であることを特徴とするセメント。

相違点1:
本件発明1は、「該セメント中の二水石膏及び半水石膏の合計量に対する半水石膏の割合が、SO_(3)換算で30質量%以上である」のに対し、甲1発明1?4は、用いる石膏の種類と内訳が不明である点。

相違点2:
本件発明1は、「焼成物100質量%中の3CaO・SiO_(2)の割合が、ボーグ式による計算値で66.1?70.0質量%である」のに対し、甲1発明1?4は、セメントクリンカ(焼成物)中の3CaO・SiO_(2)(C_(3)S)の割合が、それぞれ、約61.6質量%、約60.4質量%、約61.8質量%、約63.1質量%である点。

c 相違点の検討
相違点2について検討する。
甲第4号証の【0014】に「C_(3)S量が、65質量%を超えると相対的にC_(3)A量やC_(4)AF量が少なくなるので、原料としての廃棄物等の使用量が少なくなり、廃棄物の有効利用および再資源化の観点から好ましくない」と記載されるように、C_(3)S量を増やすと、廃棄物の使用量が少なくなることは、技術常識であると認められる。
してみると、甲1発明1?4は、甲第1号証の【0008】、【0009】に記載されるように、多量の廃棄物を原料とすることを解決しようとする課題とするものであるところ、焼成物100質量%中の3CaO・SiO_(2)の割合を高くすることには阻害要因があるといえるから、66.1?70.0質量%である焼成物100質量%中の3CaO・SiO_(2)の割合が、早強ポルトランドセメントとしてありふれたものであるとしても、甲1発明1?4において相違点2の解消は、当業者が容易になし得たものでない。

また、多量の廃棄物を原料とすることを犠牲にして、初期強度発現性をより高めるために焼成物100質量%中の3CaO・SiO_(2)の割合を高くすることを検討しても、次のとおり、甲1発明1?4において相違点2の解消は、当業者が容易になし得たものでない。
鉱物組成である3CaO・SiO_(2)の割合は、化学組成である「CaO」、「SiO_(2)」、「Al_(2)O_(3)」、及び、「Fe_(2)O_(3)」から、「C_(3)S(%)=(4.07×CaO(%))-(7.60×SiO_(2)(%))-(6.72×Al_(2)O_(3)(%))-(1.43×Fe_(2)O_(3)(%))」とのボーグ式(本件特許明細書の【0009】)に基づいて算出される。
してみると、甲1発明1?4における、3CaO・SiO_(2)の割合の調整は、「CaO」、「SiO_(2)」、「Al_(2)O_(3)」、及び、「Fe_(2)O_(3)」の何れか2つ以上(増量ないし減量を他の成分で補うため)の変更を伴うことになる。
ここで、水硬率(H.M.)、ケイ酸率(S.M.)、鉄率(I.M.)は、特許異議申立書の第25頁に記載されるように、化学組成である「CaO」、「SiO_(2)」、「Al_(2)O_(3)」、及び、「Fe_(2)O_(3)」から、それぞれ、(CaO-(0.7×SO_(3)))/(SiO_(2)+Al_(2)O_(3)+Fe_(2)O_(3))、SiO_(2)/(Al_(2)O_(3)+Fe_(2)O_(3))、Al_(2)O_(3)/Fe_(2)O_(3)との計算式に基づいて算出される。
すると、甲1発明1?4における、3CaO・SiO_(2)の割合の調整は、水硬率(H.M.)、ケイ酸率(S.M.)、鉄率(I.M.)に影響することが明らかである。
してみると、当業者が相違点2の解消を容易になし得たというためには、「水硬率(H.M.)が2.15?2.30、ケイ酸率(S.M.)が2.20?2.48、鉄率(I.M.)が1.86?2.40」の範囲から外れることのないままに、「焼成物100質量%中の3CaO・SiO_(2)の割合が、ボーグ式による計算値で66.1?70.0質量%」に調整する必要がある。
しかしながら、甲第2?6、10?13号証のいずれにも、「水硬率(H.M.)が2.15?2.30、ケイ酸率(S.M.)が2.20?2.48、鉄率(I.M.)が1.86?2.40」を維持することについて、記載も示唆もない。
また、甲第1号証の【0031】に、早強ポルトランドセメントの製造が開示されるものの、その際の鉱物比率については、「水硬率(HM)やケイ酸率(SM)、鉄率(IM)等が所望の値になるように適宜設定すればよい」とされるものであるから、「水硬率(H.M.)が2.15?2.30、ケイ酸率(S.M.)が2.20?2.48、鉄率(I.M.)が1.86?2.40」を維持することについて、示唆されているといえない。
してみると、甲1発明1?4において、「水硬率(H.M.)が2.15?2.30、ケイ酸率(S.M.)が2.20?2.48、鉄率(I.M.)が1.86?2.40」の範囲から外れることのないままに、「焼成物100質量%中の3CaO・SiO_(2)の割合が、ボーグ式による計算値で66.1?70.0質量%」に調整することについての動機付けがない。

また、本件訂正請求を受けて、平成29年11月27日付けで特許異議申立人松永健太郎から提出された意見書に記載された主張、及び、甲第10?13号証を検討しても、上記のとおりであるから、甲1発明1?4において相違点2の解消は、当業者が容易になし得たものといえない。
したがって、甲1発明1?4において相違点1の解消が、取消理由通知に記載したとおり、当業者が容易になし得たとしても、甲1発明1?4において相違点2の解消は、当業者が容易になし得たものでないから、本件発明1、及び、本件発明1の発明特定事項を全て含む本件発明2?3は、甲第1号証に記載された発明と甲第2?6号証に記載される周知技術、また、甲第10?13号証に記載された技術的事項を合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ)上記(3)ウについて
本件訂正請求により、石膏の割合の上限が4質量%に特定された。そして、「該セメント100質量%中の石膏の割合が、SO_(3)換算で1.2?4質量%」であれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載、および、技術常識から、当業者が、本件発明の課題を解決することを認識できないといえない。
してみると、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たす。

イ 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(ア)甲第7号証を主引例とする進歩性欠如と甲第9号証を主引例とする進歩性欠如について
甲第7号証には、Table 1の、Cement Symbol 10.5-1.5として、
「水硬率(H.M.)が2.1、ケイ酸率(S.M.)が2.3、鉄率(I.M.)が1.9であり、かつ、焼成物100質量%中の3CaO・SiO_(2)の割合が、ボーグ式による計算値で55.4質量%である焼成物の粉砕物と、石膏を含むセメントであって、
該セメント100質量%中の石膏の割合が、SO_(3)換算で1.54質量%であり、かつ、該セメント中の二水石膏及び半水石膏の合計量に対する半水石膏の割合が、SO_(3)換算で83質量%であることを特徴とするセメント。」(以下、「甲7発明1」という。)が記載されていると認める。
また、甲第7号証には、Table 1の、Cement Symbol 11.0-1.5として、
「水硬率(H.M.)が2.1、ケイ酸率(S.M.)が2.1、鉄率(I.M.)が2.0であり、かつ、焼成物100質量%中の3CaO・SiO_(2)の割合が、ボーグ式による計算値で55.6質量%である焼成物の粉砕物と、石膏を含むセメントであって、
該セメント100質量%中の石膏の割合が、SO_(3)換算で1.58質量%であり、かつ、該セメント中の二水石膏及び半水石膏の合計量に対する半水石膏の割合が、SO_(3)換算で83質量%であることを特徴とするセメント。」(以下、「甲7発明2」という。)が記載されていると認める。
また、甲第9号証には、Table 1の、Symbol 12-1.3として、
「水硬率(H.M.)が2.1、ケイ酸率(S.M.)が2.0、鉄率(I.M.)が2.1であり、かつ、焼成物100質量%中の3CaO・SiO_(2)の割合が、ボーグ式による計算値で57.7質量%である焼成物の粉砕物と、石膏を含むセメントであって、
該セメント100質量%中の石膏の割合が、SO_(3)換算で1.26質量%であることを特徴とするセメント。」(以下、「甲9発明1」という。)が記載されていると認める。
さらに、甲第9号証には、Table 1の、Symbol 12-1.6として、
「水硬率(H.M.)が2.1、ケイ酸率(S.M.)が2.0、鉄率(I.M.)が2.1であり、かつ、焼成物100質量%中の3CaO・SiO_(2)の割合が、ボーグ式による計算値で57.3質量%である焼成物の粉砕物と、石膏を含むセメントであって、
該セメント100質量%中の石膏の割合が、SO_(3)換算で1.59質量%であることを特徴とするセメント。」(以下、「甲9発明2」という。)が記載されていると認める。

ここで、焼成物組成において、「水硬率(H.M.)」、「ケイ酸率(S.M.)」、「鉄率(I.M.)」、「焼成物100質量%中の3CaO・SiO_(2)の割合」は、相互に関連するものであるから、本件発明1において、「水硬率(H.M.)が2.15?2.30、ケイ酸率(S.M.)が2.20?2.48、鉄率(I.M.)が1.86?2.40であり、かつ、焼成物100質量%中の3CaO・SiO_(2)の割合が、ボーグ式による計算値で66.1?70.0質量%である」は、焼成物の組成として一体的に把握されるものである。
すると、本件発明1と、甲7発明1、2、甲9発明1、及び、2とをそれぞれ対比すれば、本件発明1は、焼成物が、「水硬率(H.M.)が2.15?2.30、ケイ酸率(S.M.)が2.20?2.48、鉄率(I.M.)が1.86?2.40であり、かつ、焼成物100質量%中の3CaO・SiO_(2)の割合が、ボーグ式による計算値で66.1?70.0質量%である」のに対し、甲7発明1、2、甲9発明1、及び、2は、そのような焼成物の組成を有していない点が、少なくとも相違している。
そして該相違点について検討すれば、「水硬率(H.M.)が2.15?2.30、ケイ酸率(S.M.)が2.20?2.48、鉄率(I.M.)が1.86?2.40であり、かつ、焼成物100質量%中の3CaO・SiO_(2)の割合が、ボーグ式による計算値で66.1?70.0質量%である」焼成物とすることについては、甲第1?6、8号証のいずれにも、記載も示唆もない。
してみると、本件発明1、及び、本件発明1の発明特定事項を全て含む本件発明2?3は、甲第7号証に記載された発明及び甲第1?6、8号証に記載された技術的事項から当業者が容易になし得るものではないし、また、甲第9号証に記載された発明及び甲第1?6、8号証に記載された技術的事項から当業者が容易になし得るものでもない。

(イ)実施可能要件違反について
特許異議申立人松永健太郎は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、焼成物を得るために必要な工程が記載されていないし、実施例で使用した原料である「石炭灰」、「R鉄原料」の化学組成についても一切記載されていないから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえないと主張する。
しかしながら、本件発明1は、物(セメント)の発明であり、その中に含まれる焼成物を得るための工程に特徴を有するものではないし、焼成物を得る工程は、記載を要しない技術常識であると認められる。
さらに、「石炭灰」、「R鉄原料」は、廃棄物であり、その化学組成が一定なものではないことからみて、実施例で使用した「石炭灰」、「R鉄原料」の化学組成の特定が必要であるといえない。
してみると、焼成物を得るために必要な工程、及び、「石炭灰」、「R鉄原料」の化学組成が記載されていなくても、当業者は過度の試行錯誤を要さず本件発明1を実施することができるといえるから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものである。

(ウ)明確性要件違反について
特許異議申立人松永健太郎は、下限だけを示す数値範囲限定(「石膏」の割合、「半水石膏」の割合)があり、請求項1?3に係る発明は不明確であると主張する。
しかしながら、「石膏」の割合の上限は、本件訂正請求により、「4質量%」となった。
また、「半水石膏」の割合の上限は、理論的限界値である100質量%であることが明らかである。
したがって、本件発明1?3は明確である。

(エ)サポート要件違反について
特許異議申立人松永健太郎は、下限だけを示す数値範囲限定(「半水石膏」の割合)があり、これが、100%であるときに課題を解決できることは本件特許明細書においてサポートされていないと主張する。
ここで、本件発明1?3の解決課題は、「原料として用いられる廃棄物の使用量を増加させることができるとともに、早強ポルトランドセメントと同等の物理特性(具体的には、凝結、強度、及び流動性)を有するセメントを提供すること」(【0004】)であると認める。
そこで検討するに、甲第3号証に示された次の図(第47頁の図-9)からみて、「半水石膏」の割合は100%に至るまで、優れた流動性を発揮することが、技術常識であるといえる。

また、「半水石膏」の高い割合が、凝結特性や強度特性を悪化させる証拠は提示されておらず、そのような技術常識が存在するともいえない。さらに、「半水石膏」の高い割合が、廃棄物の使用量を減らすものでもない。
してみると、本件発明1?3は、当業者が本件特許に係る出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。

4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
セメントおよびその製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントの原料として用いられる廃棄物の使用量を増加することができるセメントに関する。
【背景技術】
【0002】
わが国では、経済成長、人口の都市部への集中に伴い、産業廃棄物及び一般廃棄物等が急増している。従来、前記廃棄物の大半は、焼却によって十分の一程度に減容化した後、埋め立て処分されているが、最近では埋め立て処分場の残余容量が逼迫していることから、新しい廃棄物処理方法の確立が緊急課題になっている。この課題に対処するために、セメント産業では、産業廃棄物及び一般廃棄物等を、セメントの原料や、クリンカの焼成のためのエネルギーとして使用している。
例えば、特許文献1には、クリンカ1ton当たり、150kg以上350kg以下の石炭灰を原料として使用するセメントクリンカの製造にあたり、水硬率(H.M.)が1.8?2.3、ケイ酸率(S.M.)が1.3?2.3、鉄率(I.M.)が1.8?2.8となるように、石炭灰を含むセメント原料を配合し、得られたセメントクリンカに、総SO_(3)量が2.0?10.0%となるように石膏を混合して粉砕するか/又は互いに分離粉砕した後混合し、ブレーン比表面積3,000?4,500cm^(2)/gとしたセメント組成物の製造方法が記載されている。
しかし、ここ数年、廃棄物の使用量、特に原料代替廃棄物(例えば石炭灰)の使用量は頭打ちになってきている。そこで、廃棄物の使用量の更なる増量を進める方策の一つとして、廃棄物の使用対象を普通セメント以外のセメント品種に拡大することが挙げられる。ここで、原料代替廃棄物の多くはAl_(2)O_(3)に富む粘土代替廃棄物であるため、廃棄物の使用量が増加するとセメントクリンカの間隙相(3CaO・Al_(2)O_(3)(以下、「C_(3)A」ともいう。)、及び4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)(以下、「C_(4)AF」ともいう。))が増え、結果として水和熱が増大するという問題がある。しかし、早強ポルトランドセメントは、セメントの水和熱が大きな問題となる大型構造物の製造にはほとんど用いられないことから、廃棄物の使用量を増加することができる品種として好適である。
例えば、特許文献2には、早強型セメント系固化材や早強型セメントの母体となり、ボーグ式での鉱物組成の割合が3CaO・SiO_(2)(以下、「C_(3)S」ともいう。)>70%である高活性セメントクリンカであって、該高活性セメントクリンカにおける水硬率(H.M.)が2.2?2.3のときはケイ酸率(S.M.)が1.7?2.4かつ鉄率(I.M.)が1.0?2.1であり、水硬率(H.M.)が2.1?2.2未満のときはケイ酸率(S.M.)が1.5?2.0かつ鉄率(I.M.)が0.9?1.4である高活性セメントクリンカが記載されている。また、特許文献2には、該高活性セメントクリンカの主原料として、カルシウム分をCaO換算で20重量%以上含む産業廃棄物を利用することができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4157662号
【特許文献2】特開2012-197198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
早強ポルトランドセメントは、短期材齢における強度発現性が求められていることから、C_(3)S量、又は水硬率(H.M.)を一定のレベルに保つ必要がある。C_(3)S量、又は水硬率(H.M.)を一定のレベルに保つためには、クリンカの化学組成において、CaO量に制限(下限)が生じることになるため、CaO量を減少させる効果を有する廃棄物(特に粘土代替廃棄物)の使用量には限界があった。
そこで、本発明は、原料として用いられる廃棄物の使用量を増加させることができるとともに、早強ポルトランドセメントと同等の物理特性(具体的には、凝結、強度、及び流動性)を有するセメントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、水硬率、ケイ酸率、鉄率、及びC_(3)S量が特定の数値範囲内である焼成物の粉砕物と、特定の石膏を含むセメントによれば、前記の目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]?[3]を提供するものである。
[1] 水硬率(H.M.)が2.15?2.30、ケイ酸率(S.M.)が2.20?2.48、鉄率(I.M.)が1.86?2.40であり、かつ、焼成物100質量%中の3CaO・SiO_(2)の割合が、ボーグ式による計算値で66.1?70.0質量%である焼成物の粉砕物と、石膏を含むセメントであって、該セメント100質量%中の石膏の割合が、SO_(3)換算で1.2?4質量%であり、かつ、該セメント中の二水石膏及び半水石膏の合計量に対する半水石膏の割合が、SO_(3)換算で30質量%以上であることを特徴とするセメント。
[2] 前記[1]に記載のセメントを製造するための方法であって、産業廃棄物、一般廃棄物及び建設発生土から選ばれる一種以上を原料として使用して、上記焼成物を得る、セメントの製造方法。
[3] 上記焼成物が、焼成物1ton当たり、183?300kgの産業廃棄物、一般廃棄物及び建設発生土から選ばれる一種以上を原料として使用した焼成物である前記[2]に記載のセメントの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明のセメントは、早強ポルトランドセメントと同等の物理特性(具体的には、凝結、強度、及び流動性)を有する。
また、本発明のセメントは、原料として用いられる廃棄物(産業廃棄物、一般廃棄物、及び/又は建設発生土等)の使用量を増加させることができるので、廃棄物の有効利用をより促進させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のセメントは、水硬率(H.M.)が2.15?2.30、ケイ酸率(S.M.)が2.20?2.48、鉄率(I.M.)が1.86?2.40であり、かつ、焼成物100質量%中のC_(3)S量が、ボーグ式による計算値で66.1?70.0質量%である焼成物の粉砕物と、石膏を含むセメントであって、該セメント100質量%中の石膏の割合が、SO_(3)換算で1.2?4質量%であり、かつ、該セメント中の二水石膏及び半水石膏の合計量に対する半水石膏の割合がSO_(3)換算で30質量%以上のセメントである。
なお、上記焼成物(クリンカ)の各係数は、後述する原料を前記数値範囲内となるように混合することで調整することができる。
【0008】
本発明のセメントに用いられる焼成物の水硬率(H.M.)は、2.15?2.30、好ましくは2.15?2.25、より好ましくは2.20?2.24である。該水硬率が2.30を超えると、焼成物中のC_(3)Sの含有量が多くなり、セメントをモルタル又はコンクリート等として用いた場合、短期(材齢3日以内)の強度発現性が過大となる。また、長期(例えば材齢28日)の強度発現性が悪くなる。また、水和発熱量が過大となる。さらに、焼成物を製造する際の易焼成性が悪くなり、得られた焼成物中にフリーライム(CaO)が残りやすくなる。該水硬率が2.10未満であると、焼成物中のC_(3)S量が少なくなり、セメントをモルタル又はコンクリート等として用いた場合、短期の強度発現性が悪くなる。
本発明のセメントに用いられる焼成物のケイ酸率(S.M.)は、2.20?2.48、好ましくは2.20?2.47、より好ましくは2.20?2.46、特に好ましくは2.30?2.45である。該ケイ酸率が2.48を超えると、焼成物を製造する際の焼成が困難となり、得られた焼成物中にフリーライム(CaO)が残りやすくなる。また、廃棄物の使用量を増やすことができなくなる。該ケイ酸率が1.80未満であると、焼成物中のC_(3)A及びC_(4)AFの含有量が多くなり、長期(例えば材齢28日)の強度発現性が悪くなる。また、本発明のセメントを含むモルタル等の流動性及び作業性が悪くなる。また、石膏の必要添加量が増加するため、製造コストが高くなる。また、水和発熱量が過大となる。さらに、焼成物の被粉砕性が悪くなり、製造コストが高くなる。
本発明のセメントに用いられる焼成物の鉄率(I.M.)は、1.86?2.40である。該鉄率が2.6を超えると、焼成物中のC_(3)Aの含有量が多くなり、本発明のセメントを含むモルタル等の流動性及び作業性が悪くなる。また、石膏の必要添加量が増加するため、製造コストが高くなる。さらに、水和発熱量が過大となる。該鉄率が1.3未満であると、焼成物中のC_(3)AFの含有量が多くなり、焼成物の被粉砕性が悪くなるため、製造コストが高くなる。
【0009】
また、上記焼成物中のC_(3)Sの量は、焼成物100質量%中の割合として、ボーグ式による計算値で66.1?70.0質量%である。C_(3)Sの割合が70.0質量%を超えると、凝結時間が短くなる。
なお、本明細書中、焼成物中のC_(3)S、C_(2)S、C_(3)A、C_(4)AFの各量は、焼成物100質量%中の割合(質量%)として、原料や焼成物の化学成分に基づき、下記のボーグの計算式を用いて算出される。
C_(3)S(%)=(4.07×CaO(%))-(7.60×SiO_(2)(%))-(6.72×Al_(2)O_(3)(%))-(1.43×Fe_(2)O_(3)(%))
C_(2)S(%)=(2.87×SiO_(2)(%))-(0.754×C_(3)S(%))
C_(3)A(%)=(2.65×Al_(2)O_(3)(%))-(1.69×Fe_(2)O_(3)(%))
C_(4)AF(%)=3.04×Fe_(2)O_(3)(%)
【0010】
焼成物(クリンカ)の原料としては、ポルトランドセメントクリンカの製造に用いられる一般的な原料を用いることができる。具体的には、石灰石、生石灰、消石灰等のCaO原料、珪石、粘土等のSiO_(2)原料、粘土等のAl_(2)O_(3)原料、鉄滓、鉄ケーキ等のFe_(2)O_(3)原料を使用することができる。さらに、前記原料に加えて、産業廃棄物、一般廃棄物、及び建設発生土から選ばれる一種以上を用いることができる。
具体的には、石炭灰、生コンスラッジ、各種汚泥(例えば、下水汚泥、浄水汚泥、建設汚泥、製鉄汚泥等)、ボーリング廃土、各種焼却灰、鋳物砂、ロックウール、廃ガラス、高炉二次灰、建築廃材、コンクリート廃材等の産業廃棄物;下水汚泥乾粉、都市ごみ焼却灰、貝殻等の一般廃棄物;建設現場または工事現場等から発生する土壌、残土、及び廃土壌等の建設発生土が挙げられる。
中でも、使用の容易性等の観点から、好ましくは石炭灰である。
上記廃棄物(産業廃棄物、一般廃棄物、及び建設発生土から選ばれる一種以上)の使用量は、廃棄物の有効利用を図り、かつ、セメントの品質を確保するという観点から、上記焼成物1ton当たり、好ましくは183kg以上、より好ましくは183?300kg、さらに好ましくは185?280kg、特に好ましくは190?260kgである。
【0011】
本発明で用いられる焼成物を製造する方法としては、上述した各原料を、所望の水硬率(H.M.)、ケイ酸率(S.M.)、鉄率(I.M.)となるように混合し、得られた混合物を、好ましくは1,200?1,600℃、より好ましくは1,350?1,500℃で焼成する方法が挙げられる。
各原料を混合する方法は、特に限定されるものではなく、エアブレンディングサイロ等の慣用の装置等で行えばよい。また、焼成に使用する装置も特に限定されるものではなく、例えば、ロータリーキルン等の慣用の装置を使用することができる。ロータリーキルンで焼成を行う場合には、燃料代替廃棄物、具体的には、木くず、廃油、廃タイヤ、廃プラスチック等を使用することができる。燃料代替廃棄物を用いることで、廃棄物の利用をさらに促進することができる。
【0012】
本発明のセメントは、上記焼成物の粉砕物と、石膏を含むものである。セメント100質量%中の石膏の割合は、セメントをモルタル又はコンクリート等として使用した場合の流動性及び強度発現性等の観点から、SO_(3)換算で1.2?4質量%、好ましくは1.3?4質量%、より好ましくは1.4?4質量%である。
石膏の量が1.2質量%未満の場合、本発明のセメントを含むモルタル等の流動性及び強度発現性が悪くなる。
石膏としては、二水石膏、α型又はβ型半水石膏、及び無水石膏等が挙げられる。これらは1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、セメント中のSO_(3)量の定量は、化学分析(JIS R 5202(セメントの化学分析方法))、又は、蛍光X線分析(JIS R 5204(セメントの蛍光X線分析方法))により行うことができる。二水石膏及び半水石膏の定量は、例えば、特開平6-242035号公報に記載される方法により行うことができる。
本発明のセメント中の二水石膏及び半水石膏の合計量(100質量%)に対する半水石膏の割合は、SO_(3)換算で30質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。該割合が30質量%以上であると、本発明のセメントを含むモルタル等の流動性を向上させることができる。
さらに、成因による石膏の種類は特に限定されず、例えば、天然石膏、排煙脱硫石膏、リン酸石膏、チタン石膏、フッ酸石膏、精錬石膏等が挙げられる。これらは1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0013】
本発明のセメントの製造方法としては、例えば、(i)焼成物(クリンカ)と石膏を同時に粉砕する方法、(ii)焼成物(クリンカ)を粉砕し、該粉砕物と石膏を混合する方法等が挙げられる。
上記(i)の方法の場合、焼成物と石膏を、ブレーン比表面積が好ましくは3,000?6,000cm^(2)/g、より好ましくは3,500?5,500cm^(2)/gとなるまで粉砕する。
上記(ii)の方法の場合、焼成物を、ブレーン比表面積が好ましくは3,000?5,500cm^(2)/g、より好ましくは3,500?5,000cm^(2)/gとなるまで粉砕する。また、上記(ii)の方法で用いられる石膏のブレーン比表面積は、好ましくは3,500?7,000cm^(2)/g、より好ましくは4,000?6,500cm^(2)/gである。
なお、ブレーン比表面積の測定は、「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)」によって測定することができる。
【0014】
本発明のセメントは、「JIS R 5210(ポルトランドセメント)」に準拠して、粉末状の他の材料(具体的には、高炉スラグ微粉末、シリカフューム、フライアッシュ、石灰石粉末等)をセメント100質量%中の割合として、5質量%以下の割合で含むことができる。
【0015】
本発明のセメントは、ペースト、モルタル又はコンクリートの状態で使用される。モルタル又はコンクリートの状態で使用する場合には、モルタル又はコンクリートの製造に通常使用されている細骨材、粗骨材(具体的には、川砂、陸砂、砕砂等や、川砂利、山砂利、砕石等)を使用することができる。
また、必要に応じて、支障のない範囲内で、リグニン系、ナフタレンスルホン酸系、メラミン系、及びポリカルボン酸系の減水剤(AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤も含む)、並びに、空気連行剤及び消泡剤等の混和剤、セメント混和材を使用することができる。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
1.焼成物の製造、及び評価
焼成物の原料として、従来、ポルトランドセメントクリンカの主原料として一般的に使用されている石灰石、粘土、珪石、鉄原料等を主体とし、さらに原料代替廃棄物を用いて、焼成物の水硬率(H.M.)、ケイ酸率(S.M.)、および鉄率(I.M.)が表2で示す値となるように原料を調合した。
ここで、焼成物11の原料として用いた原料代替廃棄物の、焼成物(クリンカ)1ton(表中「t」と表す。)当たりの配合量(kg)を表1に示す。該焼成物11は市販の早強ポルトランドセメントクリンカと同等の水硬率(H.M.)、ケイ酸率(S.M.)、および鉄率(I.M.)を有する焼成物である。
また、他の焼成物に用いられる原料代替廃棄物は、目的とする水硬率等を有する焼成物を得るために、表1で示される原料代替廃棄物のうち、石炭灰及びR鉄原料以外の廃棄物(R石灰石、R粘土、建設発生土、及びR珪石)の使用量を可能な限り固定して、石炭灰及びR鉄原料の使用量を調整したものである。
表2中、原料代替廃棄物の使用量は、焼成例11で用いられた原料代替廃棄物の使用量を基準として、増加した量を表している。
1)原料代替廃棄物の使用量の評価
各焼成物の製造に用いられる原料代替廃棄物の使用量が、焼成例11に用いられた原料代替廃棄物の使用量(165.0kg/ton)よりも20kg/ton以上増加した焼成物は、廃棄物の使用量が十分に増加したものとして評価を「○」とした。結果を表2に示す。
表2の結果から、焼成物のケイ酸率(S.M.)が2.48を超える場合、又はC_(3)S量が70.0質量%を超える場合、焼成物の原料代替廃棄物の使用量の評価が悪くなることがわかる。
【0017】
【表1】

【0018】
【表2】

【0019】
2.セメントの製造、及び評価
[実施例1?6、参考例1、比較例1?13]
表2の各焼成物100質量部に対して、排脱二水石膏(住友金属社製)及び該排脱二水石膏を140℃で加熱して得られた半水石膏を、セメント100質量%中の割合として、石膏(二水石膏及び半水石膏)の割合がSO_(3)換算で2.7質量%となる量を添加し、バッチ式ボールミルでブレーン比表面積が4500±50cm^(2)/gとなるように同時粉砕して、セメントを調製した。なお、二水石膏及び半水石膏の合計量に対する半水石膏の割合は、全てのセメントにおいて、SO_(3)換算で50質量%とした。
【0020】
各セメントを用いて、以下の特性を評価した。
1)焼成物の被粉砕性の評価
各セメントのブレーン比表面積と、該ブレーン比表面積となるまでに要した時間を表3に示す。
被粉砕性の評価は、比較例4のセメント(市販品と同等の焼成物11を使用)を製造するのに要した時間を基準とし、該時間に1.1を乗じた時間(127分間)未満のセメントを「○」と評価した。結果を表4に示す。
2)凝結性状の評価
各セメントの凝結時間について、「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)」に準拠して測定を行った。結果を表3に示す。
凝結性状の評価は、比較例4のセメント(市販品と同等の焼成物11を使用)の凝結始発時間及び終結時間を基準とし、凝結始発時間が100分間以上であり、かつ、凝結終結時間が150分間以上であるものを「○」と評価した。結果を表4に示す。
【0021】
3)モルタル圧縮強さの評価
各セメントを含むモルタルのモルタル圧縮強さについて、「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)」に準拠して測定を行った。結果を表3に示す。
モルタル圧縮強さの評価は、比較例4のセメント(市販品と同等の焼成物11を使用)を含むモルタルのモルタル圧縮強度を基準とし、比較例4のセメントを含むモルタルの各材齢における圧縮強度に0.95を乗じた数値以上のモルタル圧縮強さを満足するもの(材齢1日:24.7N/mm^(2)以上、材齢3日:44.8N/mm^(2)以上、材齢7日:55.3N/mm^(2)以上、材齢28日:64.0N/mm^(2)以上)を「○」と評価した。結果を表4に示す。
4)流動性の評価
以下の配合のモルタルについて、混練直後及び混練後30分間静置したモルタルを、フローコーン(上面直径5cm、下面直径10cm、高さ15cm)に投入し、フローコーンを上方へ取り去った際のモルタルの広がりを測定し、フロー値を求めた。混練直後の数値(以下、「直後値」ともいう。)及び、下記評価式を用いて算出した経時変化量(以下、「ロス率」ともいう。)を用いて流動性の評価を行った。流動性の評価は、直後値が250mm以上であり、かつ、ロス率が30%以下であるものを「○」と評価した。結果を表3、及び4に示す。
[配合]
水/セメント(質量比):0.35
細骨材/セメント(質量比):2.0
減水剤(エヌエムビー社製「レオビルドSP8N」/セメント(質量比):0.0065
[経時変化量(ロス率)の評価式]
経時変化量(ロス率):(f_(1)-f_(2))/(f_(1)-100)×100(%)
(式中、f_(1)は混練直後のモルタルのフロー値(mm)を表し、f_(2)は混練後30分間静置したモルタルのフロー値(mm)を表す。)
【0022】
【表3】

【0023】
【表4】

【0024】
[実施例7?12、比較例14?17]
実施例7?12及び比較例14?17では、表2の焼成物6を焼成物(クリンカ)として使用した。
焼成物100質量部に対して、排脱二水石膏(住友金属社製)及び該排脱二水石膏を140℃で加熱して得られた半水石膏を、表5に示される割合で添加して、バッチ式ボールミルで118分間同時粉砕して、セメントを調製した。
なお、石膏の添加量による影響でブレーン比表面積は実施例1?6、参考例1及び比較例1?13よりもばらついているが、該ばらつきは市販品の通常のばらつきと同程度である。
5)凝結性状の評価
各セメントの凝結時間について、「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)」に準拠して測定を行った。結果を表5に示す。
凝結性状の評価は、比較例4のセメント(市販品と同等の焼成物11を使用)の凝結始発時間及び終結時間を基準とし、凝結始発時間が100分間以上であり、かつ、凝結終結時間が150分以上であるものを「○」と評価した。結果を表5に示す。
6)流動性の評価
実施例1?6、参考例1及び比較例1?13と同様にして、混練直後及び混練後30分間静置したモルタルのフロー値を測定した。混練直後の数値、及び上述した経時変化量(ロス率)の評価式を用いて流動性の評価を行った。流動性の評価は、直後値が250mm以上であり、かつ、ロス率が30%以下であるものを「○」と評価した。結果を表5に示す。
【0025】
【表5】

【0026】
表4及び5より、本発明のセメントによれば、原料代替廃棄物の使用量を増やすことができ、かつ、市販の早強ポルトランドセメントと同等レベルの品質を確保することができる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬率(H.M.)が2.15?2.30、ケイ酸率(S.M.)が2.20?2.48、鉄率(I.M.)が1.86?2.40であり、かつ、焼成物100質量%中の3CaO・SiO_(2)の割合が、ボーグ式による計算値で66.1?70.0質量%である焼成物の粉砕物と、石膏を含むセメントであって、
該セメント100質量%中の石膏の割合が、SO_(3)換算で1.2?4質量%であり、かつ、該セメント中の二水石膏及び半水石膏の合計量に対する半水石膏の割合が、SO_(3)換算で30質量%以上であることを特徴とするセメント。
【請求項2】
請求項1に記載のセメントを製造するための方法であって、産業廃棄物、一般廃棄物及び建設発生土から選ばれる一種以上を原料として使用して、上記焼成物を得る、セメントの製造方法。
【請求項3】
上記焼成物が、焼成物1ton当たり、183?300kgの産業廃棄物、一般廃棄物及び建設発生土から選ばれる一種以上を原料として使用した焼成物である請求項2に記載のセメントの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-01-17 
出願番号 特願2012-275980(P2012-275980)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C04B)
P 1 651・ 537- YAA (C04B)
P 1 651・ 536- YAA (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 宮崎 大輔粟野 正明佐溝 茂良  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 後藤 政博
瀧口 博史
登録日 2016-11-25 
登録番号 特許第6045328号(P6045328)
権利者 太平洋セメント株式会社
発明の名称 セメントおよびその製造方法  
代理人 衡田 直行  
代理人 衡田 直行  

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