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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 発明同一  C08L
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
管理番号 1338113
異議申立番号 異議2017-700434  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-04-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-04-28 
確定日 2018-01-29 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6020334号発明「ゴム改質材、ゴムラテックス分散液及びゴム組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6020334号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6020334号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6020334号(以下、「本件特許」という。)に係る出願(特願2013-91451号)は、平成24年4月25日提出の特願2012-100098号を優先基礎出願とする優先権主張を伴って、出願人三菱化学株式会社によりなされた、平成25年4月24日を出願日とする特許出願であり、平成28年10月14日に特許権の設定登録(請求項の数5)がなされた。本件特許に対し、平成29年4月28日(受理日:5月1日)に特許異議申立人安西清一(以下、「申立人」という。)により、請求項1?5に係る本件特許について、甲第1?9号証を証拠方法として、特許法第29条の2、同第29条第1項第3号、同第29条第2項、同第36条第6項第1号及び同第36条第6項第2号に基づく取消理由を主張する特許異議の申立てがされた。その後、平成29年8月8日付けで取消理由及び審尋が通知され、その指定期間内である同年10月6日(受理日:10月10日)に意見書及び回答書の提出並びに訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされた。そして、申立人に対して特許法第120条の5第5項に基づく通知をしたが、申立人から意見書の提出はなかった。

第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下の訂正事項1のとおりである。
<訂正事項1>
特許請求の範囲の請求項1に、「該セルロース繊維の少なくとも一部として、セルロース繊維を構成するセルロースの水酸基の一部が他の基で置換された変性セルロース繊維を含み、」とあるのを、「該セルロース繊維の少なくとも一部として、セルロース繊維を構成するセルロースの水酸基の一部が、リン酸由来の基で置換され、リン酸由来の基が導入されるか、または、2以上のカルボキシ基を分子内に有する化合物由来の基で置換され、カルボン酸由来の基が導入された変性セルロース繊維を含み、」に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2?5についても同様に訂正する。)

2.訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1に関連する記載として、本件特許明細書の【0054】には、「(リン酸セルロース繊維) 以下に、本発明で用いる変性セルロース繊維として好適な、セルロース繊維を構成するセルロースの水酸基の一部がリン酸由来の基で置換され、リン酸由来の基が導入されたセルロース繊維(以下「リン酸セルロース繊維」と称す場合がある。)について説明する。」と記載され、また、【0061】には、「(カルボン酸セルロース繊維) 次に、本発明で用いる変性セルロース繊維として好適な、セルロース繊維を構成するセルロースの水酸基の一部がカルボン酸由来の基で置換され、カルボン酸由来の基が導入されたセルロース繊維(以下「カルボン酸セルロース繊維」と称す場合がある。)について説明する。」との記載があり、【0066】に、「セルロースへのカルボン酸由来の基の導入に用いられる、カルボン酸系化合物とは、カルボキシ基を有する化合物であって、好ましくは2以上のカルボキシ基を分子内に有する化合物が挙げられる。・・・」と記載されている(下線は、合議体が付した。)。
また、セルロース繊維を構成するセルロースの水酸基の一部が、リン酸由来の基で置換され、リン酸由来の基が導入された変性セルロース繊維の具体例として、【0117】?【0119】の製造例1及び【0126】?【0130】の実施例1に、リン酸セルロース繊維の製造例及び使用例が記載されているし、2以上のカルボキシ基を分子内に有する化合物由来の基で置換され、カルボン酸由来の基が導入された変性セルロース繊維の具体例として、【0122】?【0123】の製造例3及び【0131】の実施例2にコハク酸セルロース繊維が記載されている。
よって、訂正事項1は、本件特許明細書(願書に添付した明細書)に記載されていた範囲内のものであって、新規事項の追加に該当しない。

(2)訂正事項1は、セルロースの水酸基の一部が他の基で置換された変性セルロース繊維について、願書に添付した明細書の記載に基づいて、「セルロース繊維を構成するセルロースの水酸基の一部が他の基で置換されたセルロース繊維」と特定されていたのを、「セルロース繊維を構成するセルロースの水酸基の一部が、リン酸由来の基で置換され、リン酸由来の基が導入されるか、または、2以上のカルボキシ基を分子内に有する化合物由来の基で置換され、カルボン酸由来の基が導入された変性セルロース繊維」と訂正するものであって、セルロースの水酸基に置換され、導入される置換基を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるし、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正前の請求項1?5について、請求項2?5はそれぞれ、訂正請求の対象である請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。
よって、訂正事項1についての本件訂正請求は、一群の請求項ごとにされたものである。

3.小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正を認める。

第3 訂正後の本件発明
第2で記載のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるので、本件特許の請求項1?5に係る発明(それぞれ、「本件発明1」?「本件発明5」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、本件訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
セルロース繊維からなるゴム改質材であって、
該セルロース繊維の少なくとも一部として、セルロース繊維を構成するセルロースの水酸基の一部が、リン酸由来の基で置換され、リン酸由来の基が導入されるか、または、2以上のカルボキシ基を分子内に有する化合物由来の基で置換され、カルボン酸由来の基が導入された変性セルロース繊維を含み、
数平均繊維径が5?35nmであることを特徴とする、ゴム改質材。
【請求項2】
請求項1に記載のゴム改質材及び分散媒を含有することを特徴とする、ゴム改質材分散液。
【請求項3】
請求項1に記載のゴム改質材とゴムラテックスを含有することを特徴とする、ゴムラテックス分散液。
【請求項4】
請求項1に記載のゴム改質材とゴム成分とを含有することを特徴とする、ゴム組成物。
【請求項5】
請求項4に記載のゴム組成物を加硫して製造される、加硫ゴム組成物。」

第4 特許異議の申立てについて
1.取消理由の概要
訂正前の請求項1?5に係る特許に対して、当審が通知した取消理由の概要は以下のとおりである。

本件特許の訂正前の請求項1?5に係る発明は、その出願前(優先日前)日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものである。
よって、訂正前の請求項1?5に係る本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである

刊行物1:特表2002-524618号公報(申立人が提示した甲第2号証である。)

2.刊行物1に記載された事項及び引用発明
(1)刊行物1に記載された事項
刊行物1には、以下の記載がある。(下線は合議体が付した。)

「【請求項1】 ミクロフィブリルの表面に存在するヒドロキシル官能基が、当該ヒドロキシル官能基と反応することが可能な、少なくとも一つの有機化合物によりエーテル化されることにおいて、および表面置換度(DSS)が少なくとも0.05であることにおいて特徴付けられる変性表面を持つセルロースミクロフィブリル。
・・・
【請求項18】 熱可塑性プラスチック、熱硬化性材料、架橋または非架橋エラストマー、およびマスチックにおける強化充填剤としての、請求項1?14のいずれかに記載のミクロフィブリルの使用。」

「【0013】
本発明の別の目的は、有機媒体中に分散することが可能なミクロフィブリルを提供することである。」

「【0023】
ミクロフィブリルの起源が何であれ、それらは、有利に、15より大きく、有利には50より大きく、より詳細には100より大きく、好ましくは500より大きいL/D比、および10Å?500Å、有利には15Å?200Å、さらに詳細には15Å?70Å、好ましくは18Å?40Åの間の平均直径(D)を示す。Lはミクロフィブリルの長さを、Dはそれらの平均直径を示す。」

「【0061】
本発明の状況において、用語「エーテル化」は、広い意味で用いられ、ヒドロキシル官能基O-HがO-Yに変換されうる反応、特に、
-シリル化(silylation)反応(Y=-SiR_(1)R_(2)R_(3))、
-エーテル化反応(Y=-R_(4))、
-イソシアネートとの縮合(Y=-CO-NH-R_(5))、
-酸化アルキレンとの縮合または置換(Y=CH_(2)-CH(R_(6))-OH)、
-グリシジル化合物との縮合または置換(Y=-CH_(2)-CH(OH)-CH_(2)-R_(7))、
の反応を意味する。
【0062】
ミクロフィブリルの表面に見出されるヒドロキシル官能基と、反応することができる少なくとも一つの官能基を含む有機化合物も、評価の継続の中で、エーテル化を行う有機化合物またはエーテル化剤と呼ばれる。
【0063】
エーテル化剤は、シリル化剤、イソシアネート、ハロゲン化アルキル化剤、酸化アルキレンおよび/またはグリシジル化合物から有利に選択される。」

「【0108】
本発明の別の主題は、上述してきたような、または前述のプロセスにより得られたような変性表面を持つミクロフィブリルを含む組成物である。
【0109】
ミクロフィブリルに加えて、例えば、エラストマーの特定のケースにおける加硫成分、カップリング剤、可塑剤、安定剤、潤滑剤および顔料などの応用分野に従って、それらの使用に必要な通常の添加物をこれらの組成物に添加することは可能である。」

「【0130】
・・・
実施例3:クロロジメチルイソプロピルシランによるミクロフィブリルのエーテル化
約5リットルのアセトンを1リットルのセルロースミクロフィブリル実質(2.3%に等しい濃度の)の水性懸濁液に添加する。続いて、大部分の溶媒を除去するために、セルロースミクロフィブリルの凝集物をもたらすことになるこの混合物を濾過する。操作を繰り返す。3回はアセトン、1回はアセトン/トルエン(50/50 v/v)混合物、2回はトルエン、最後の1回は無水トルエンである。媒体を各々の交換後に均質化する。
【0131】
続いて、最終ケークを回収し、1.5リットルの無水トルエン中に懸濁する
・・・
【0133】
その後、懸濁液を反応器の中に入れ、表面無水グルコース1基当たり1.74モルのシランを有するように、必要量の反応物を添加する。
【0134】
次いで、27mlのクロロジメチルイソプロピルシラン(0.172モル)および16gのイミダゾールを添加する。
【0135】
その後、混合物を、密閉反応器の中において、室温で16時間にわたり攪拌する。
【0136】
反応後、イミダゾールとの間の反応により形成される塩、および反応の間に出される塩酸を溶解し、且つ残留クロロシランを破壊するために、2リットルのメタノールを導入する。
【0137】
・・・濾過ケークを・・・洗浄する。
【0138】
ケークを水中に入れ、残留アセトンを回転式蒸発器により除去し、凍結乾燥を行う。
【0139】
シリコン含有量の分析によると9%が示され、DSSで1の結果となる。
【0140】
顕微鏡観察によると、生産物はなおミクロフィブリルの形態を取って存在することが示されている。
【0141】
こうして変性されたミクロフィブリルは、室温で粉末と液体との混合により直接得られる濃度0.05重量%の分散液を形成して、その後2分間超音波浴中で処理される。この分散液は以下の溶媒中においては凝集しない。
・トルエン
・ジエチルエーテル
・酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソブチル、酢酸ブチルおよび酢酸ペンチル
・クロロホルム、ジクロロメタン
・テトラヒドロフラン
・1-ブタノール、1-ヘキサノール、1-オクタノール
・ブチルアルデヒドおよびイソホロン
・ナタネ油およびミリスチン酸イソプロピル
・シリコンオイル48V750」

「実施例8:架橋(加硫)エラストマーにおける使用
この実施例の目的は、実施例3から得られる変性ミクロフィブリルを含む加硫エラストマー(組成B)の特性を、変性ミクロフィブリルを含まないエラストマー(組成A)のそれと比較して評価することである。
【0171】
以下の二つのエラストマー組成物を製造する:
【表2】

【0172】
量は組成物の全体重量に対する重量%として表す。
(*)27.3%のオイルを含む溶液中において合成されたスチレン-ブタジエンコポリマー(SBR Buna VSL 5525-1/Bayer)。
(**)抗酸化剤:N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン。
(***)サルフェンアミド(Sulphenamide):N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールサルフェンアミド。
【0173】
・・・ブラベンダー密閉式混合機の中で、100℃の温度が段階の終わりに達成されるまで、熱機械仕事をかけること、続いての加速の段階および外部混合機を用いる最終段階により、各組成物を製造する。各配合物の加硫動力学に合わせて、組成物の加硫を調整する。
【0174】
配合物の物理的特性を以下の表IIに記す。
【表3】

【0175】
測定を以下の方法により行う。
張力:NF基準T46002により、加硫ゴムについて弾性率を測定する。ゴム同族体における10%、100%または300%弾性率は、それぞれ10%、100%または300%の引張り伸び率で測定される応力に照合されることは、留意されるべきである。
ショアーA15s硬度:ショアーA15s硬度をASTM基準D2240により測定する。対象となる値は、力をかけて後15秒と測定された。
【0176】
表IIから、表面変性ミクロフィブリルを含む組成物(組成物B)は、基準組成物(組成物A)と比較して、著しく、より高い機械応力および硬度を生じる結果になっていることが見出される。
【0177】
本発明のミクロフィブリルを含む組成物の弾性率の増大が、加硫組成物の破壊点での引張り応力および伸び率を損なうことなく、行われることを見出すことは、注目に値する。反対に、ミクロフィブリルの存在において、破壊点での伸び率の著しい増大が見られる。
【0178】
この実施例は、変性表面を持つミクロフィブリルが、エラストマー中で均質に分散されたことを明確に示す。この理由により、それらは、基準に比較して、機械的特性の面で著しい改善をもたらす。」

(2)刊行物1に記載された発明
上記(1)の請求項1、18の記載及び請求項18の「架橋または非架橋エラストマーにおける強化充填剤としてのミクロフィブリルの使用」の具体例に相当する、実施例8の、実施例3から得られる変性ミクロフィブリルを含む加硫エラストマー組成物(B)の記載(【0171】の表2)によれば、刊行物1には、次の発明が記載されていると認められる。

「ミクロフィブリルの表面に存在するヒドロキシル官能基が、当該ヒドロキシル官能基と反応することが可能な、少なくとも一つの有機化合物によりエーテル化され、および表面置換度(DSS)が少なくとも0.05である変性表面を持つ、架橋または非架橋エラストマーにおける強化充填剤として使用するためのセルロースミクロフィブリル。」(以下、「引用発明」という。)

3.本件発明1について
(1)対比
引用発明の、「ミクロフィブリルの表面に存在するヒドロキシル官能基が、当該ヒドロキシル官能基と反応することが可能な、少なくとも一つの有機化合物によりエーテル化され、および表面置換度(DSS)が少なくとも0.05である変性表面を持つ」、「セルロースミクロフィブリル」は、セルロースミクロフィブリル(これは、セルロース繊維である。)を構成するセルロースの水酸基の一部が、エーテル化するための有機化合物由来の基で置換され、エーテル化するための有機化合物由来の置換基が導入された変性セルロース繊維であるといえるから、これは、本件発明1の「セルロース繊維の少なくとも一部として、セルロース繊維を構成するセルロースの水酸基の一部」が「置換され」、「置換基が導入された」変性セルロース繊維に相当する。また、本件発明1の「リン酸由来の基」及び「カルボン酸由来の基」は、「置換基」である。
さらに、引用発明の「エラストマー」とは、刊行物1の実施例8(【0172】)に、ゴムであることが周知の「合成スチレン-ブタジエンコポリマー(SBR)」が例示され、刊行物1の【0175】に、「加硫ゴム」との記載もあるとおり、「ゴム」を意図していることは明らかであるし、「強化」によりエラストマーは、「改質」されるから、引用発明の「架橋または非架橋エラストマーにおける強化充填剤」は、本件発明1の「ゴム改質材」に相当する。

したがって、本件発明1と引用発明とは、
「セルロース繊維からなるゴム改質材であって、
該セルロース繊維の少なくとも一部として、セルロース繊維を構成するセルロースの水酸基の一部が置換され、置換基が導入された変性セルロース繊維を含むゴム改質材。」
である点で一致し、次の点で相違している。

<相違点1>
本件発明1では、変性セルロース繊維について、セルロース繊維を構成するセルロースの水酸基の一部に置換される置換基が「リン酸由来の基」であり、セルロース繊維に「リン酸由来の基」が導入された変性セルロース繊維であるか、または、セルロース繊維を構成するセルロースの水酸基の一部に置換される置換基が「2以上のカルボキシ基を分子内に有する化合物由来の基」であり、セルロース繊維に「カルボン酸由来の基」が導入された変性セルロース繊維、と特定されているのに対して、引用発明では、セルロース繊維を構成するセルロースの水酸基の一部に置換される置換基が「エーテル化するための有機化合物由来の置換基」であり、セルロース繊維に「エーテル化するための有機化合物由来の置換基」が導入される点。

<相違点2>
本件発明1では、変性セルロース繊維について、「数平均繊維径が5?35nm」と特定されているのに対して、引用発明は、このような特定はされていない点。

(2)判断
相違点1及び2について検討する。
まず、相違点1に関しては、引用発明のセルロースミクロフィブリル(セルロース繊維)のヒドロキシル官能基(つまり、水酸基)に置換されてセルロース繊維に導入される置換基は、「エーテル化するための有機化合物」に由来する置換基といえるところ、刊行物1には、
「用語『エーテル化』は、広い意味で用いられ、ヒドロキシル官能基O-HがO-Yに変換されうる反応、特に、
-シリル化(silylation)反応(Y=-SiR_(1)R_(2)R_(3))、
-エーテル化反応(Y=-R_(4))、
-イソシアネートとの縮合(Y=-CO-NH-R_(5))、
-酸化アルキレンとの縮合または置換(Y=CH_(2)-CH(R_(6))-OH)、
-グリシジル化合物との縮合または置換(Y=-CH_(2)-CH(OH)-CH_(2)-R_(7))、
の反応を意味する。」(【0061】)
と、記載され、
「エーテル化剤は、シリル化剤、イソシアネート、ハロゲン化アルキル化剤、酸化アルキレンおよび/またはグリシジル化合物から有利に選択される。」(【0062】)
と記載されているのみで、
刊行物1の他の記載をあわせみても、刊行物1には、引用発明の「エーテル化するための有機化合物」として、本件発明1においてセルロースの水酸基に置換される置換基である、「リン酸由来の基」及び「2以上のカルボキシ基を分子内に有する化合物由来の基」を導入可能な化合物は記載されていない。
そうすると、引用発明のセルロースミクロフィブリルを、相違点1に係る本件発明1の構成を備えたものとすることは、当業者であっても容易に想到し得るとはいえない。

次に、相違点2に関しては、刊行物1には、引用発明のセルロースミクロフィブリルの繊維径について、「10Å?500Å(合議体注;1?50nmに相当する。)・・・好ましくは18Å?40Å(合議体注;1.8?4nmに相当する。)の間の平均直径(D)」(【0023】)と記載されているところ、繊維径を数平均繊維径で表記することは本件特許の優先日当時周知慣用の技術であった(例えば、申立人の提出した甲第4号証(特開2008-1728号公報)の特許請求の範囲等)ことから、刊行物1の【0023】に記載される繊維径が数平均繊維径であるとした場合、刊行物1には、引用発明のセルロースミクロフィブリルの繊維径を、本件発明1で特定される範囲を包含する1?50nmの範囲とすることについて一応の示唆があるとはいえるものの、刊行物1では、好ましい繊維径範囲は1.8?4nm(換算後)とされており、これは、本件発明1で特定される繊維径の下限値である5nmを下回っている。
一方、本件特許明細書には、数平均繊維径が5.4nmのリン酸セルロース繊維(セルロース繊維1)を含む実施例1の加硫ゴム組成物及び数平均繊維径が5.5nmのコハク酸セルロース繊維(セルロース繊維3)を含む実施例2の加硫ゴム組成物は、数平均繊維径が4.2nmのマレイン酸セルロース繊維(セルロース繊維2)を含む比較例2の加硫ゴム組成物よりも、M300の値(加硫ゴム組成物の300%伸長時の引張り応力を測定し、天然ゴムのみの比較例1の値を100とした指数で表示した値で、指数が大きいほど補強性に優れる(【0130】))が優れることが示されており、ゴム改質材を、相違点2に係る本件発明1の構成(数平均繊維径が5?35nm)を備えたセルロース繊維とすることで、繊維径が下限値を下回る点で本件発明1を満足しない変性セルロース繊維からなるゴム改質材よりも、ゴム補強効果が優れることが示されている。
そうすると、引用発明のセルロースミクロフィブリルを、相違点2に係る本件発明1の構成を備えたものとすることも当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

(3)小括
よって、本件発明1は、刊行物1に記載された発明(引用発明)に基いて当業者が容易に発明できたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものとはいえない。

4.本件発明2?5について
本件発明2?5は、請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する発明であるから、上記本件発明1について3.で説示したと同様の理由により、刊行物1に記載された発明(引用発明)に基いて当業者が容易に発明できたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものとはいえない。

5.まとめ
以上のとおりであるから、(訂正された発明である)本件発明1?5に係る本件特許について、取消理由通知書で通知した取消理由によって取り消すことはできない。


第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由等について
1.申立人の主張
(1)本件特許に係る出願の優先権主張の有効性について
本件特許は優先権主張を伴う出願についてのものであるところ、申立人は、当該優先権主張の基礎とされた出願(甲第6号証)を提示し、本件特許に係る出願の明細書の【0028】?【0046】(酸化処理と酵素処理)、【0106】4?11行目、【0111】、【0124】?【0125】(製造例4と5)、【0133】?【0135】(実施例4?6)は、優先権主張の基礎とされた出願(甲第6号証)にはなかった記載であるから、訂正前の請求項1?5に係る発明のうち、酸化処理及び/又は酵素処理されたセルロース繊維及びこれを用いたゴム組成物についての新規性進歩性の判断の基準日は、現実の出願日である平成25年4月24日となると主張する。

(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由
申立人は、(訂正前の特許請求の範囲の請求項1?5)に関し、特許異議申立書において概略、以下の取消理由を主張している。

ア 取消理由A(先願明細書(甲第1号証)に記載された発明)
訂正前の本件請求項1?5に係る発明は、後に出願公開された甲第1号証に係る出願の出願日における明細書又は特許請求の範囲に記載した発明と同一であり、その出願人又は発明者が同一ではないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであって、それらの発明についての特許は、同法第29条の2に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。

イ 取消理由B(甲第1号証に基づく新規性及び進歩性)
本件特許に係る出願の優先権主張の有効性主張は認められず、新規性進歩性の判断の基準日は、現実の出願日である平成25年4月24日となるから、甲第1号証は、新規性及び進歩性の判断資料となる。
そして、訂正前の本件請求項1?5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるし、また、訂正前の本件請求項1?5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、それらの発明についての本件特許は、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。

ウ 取消理由C(甲第2号証に基づく新規性)
訂正前の本件請求項1?5に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、それらの発明についての本件特許は、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。

エ 取消理由D(甲第2号証又は甲第5号証を主引例とし、甲第3号証又は甲第4号証(さらには、甲第7号証?甲第9号証)を副引例とする進歩性)
訂正前の本件請求項1?5に係る発明は、甲第2号証又は甲第5号証及び甲第3号証又は甲第4号証(さらには、甲第7号証?甲第9号証)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、それらの発明についての本件特許は、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。

オ 取消理由E(サポート要件)
訂正前の請求項1?5に係る本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。

カ 取消理由F(明確性)
訂正前の請求項1?5に係る本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。

(3)申立人が提示した各甲号証
甲第1号証:特開2013-18918号公報(特願2011-155179号)
甲第2号証:特表2002-524618号公報
甲第3号証:Biomacromolecules,Vo1.7,No.6,pp.1687-1691(2006)、及び、その部分訳
甲第4号証:特開2008-1728号公報
甲第5号証:特開2006-206864号公報
甲第6号証:特願2012-100098号の出願明細書
甲第7号証:Langmuir,Vo1.17,No.1,pp.21-27、及び、その部分訳
甲第8号証:特開2011-195738号公報
甲第9号証:特開2011-162608号公報

(以下、甲第1号証?甲第9号証を、それぞれ、「甲1」?「甲9」ともいう。

2 当審の判断
(1)本件特許に係る出願の優先権主張の有効性について
(訂正後の)請求項1?5には、セルロール繊維が「酸化処理」や「酵素処理」の前処理をされることは特定されていないが、本件特許明細書の【0027】に「前処理を行ってもよい。前処理としては、セルロースの酸化処理、酵素処理などが挙げられる。」と記載されていることから、本件発明1?5の、「セルロース繊維を構成するセルロースの水酸基の一部が、リン酸由来の基で置換され、リン酸由来の基が導入されるか、または、2以上のカルボキシ基を分子内に有する化合物由来の基で置換され、カルボン酸由来の基が導入された変性セルロース繊維」自体は、かかる前処理が行われたものであってもよいと解されるので、その場合の本件発明1?5について、優先権主張の効果が及ぶかについて検討する。

本件特許に係る出願の優先権主張の基礎とされた出願(甲6)の【0027】には、「<セルロース繊維の前処理>」という項目の下に、「前処理としては、セルロースの酸化処理、酵素処理などが挙げられる。」と記載されている。そして、訂正後の請求項1等で特定される「セルロース繊維からなるゴム改質材であって、該セルロース繊維の少なくとも一部として、セルロース繊維を構成するセルロースの水酸基の一部が、リン酸由来の基で置換され、リン酸由来の基が導入されるか、または、2以上のカルボキシ基を分子内に有する化合物由来の基で置換され、カルボン酸由来の基が導入された変性セルロース繊維を含み、数平均繊維径が5?35nmであることを特徴とする、ゴム改質材。」が、本件特許に係る出願の優先権主張の基礎とされた出願(甲6)に記載されていたことも、甲6の特許請求の範囲の記載及び【0035】?【0047】等の記載から明らかである。
そうすると、本件発明1?5の、「セルロース繊維を構成するセルロースの水酸基の一部が、リン酸由来の基で置換され、リン酸由来の基が導入されるか、または、2以上のカルボキシ基を分子内に有する化合物由来の基で置換され、カルボン酸由来の基が導入された変性セルロース繊維」が、これらの基が導入されたセルロース繊維自体が「酸化処理」や「酵素処理」の前処理をされた場合の発明についても、本件特許に係る出願の優先権主張の基礎とされた出願に記載されていたといえるから、これらの場合の発明については、優先権主張の効果が及ぶものと判断される。
したがって、優先権主張の効果により、本件特許の請求項1?5に係る発明は、優先日(平成24年4月25日)に出願されたものとして、新規性等の判断がされることとなる。

(2)取消理由Aについて
申立人の主張する取消理由Aは、本件発明1?5は、先願明細書(甲1)に記載された発明であるというものである。

そこで検討すると、甲1の請求項1の「ゴムにセルロース繊維を配合してなるゴム組成物であって、該セルロース繊維の平均繊維径が1?200nmであり、該セルロース繊維を構成するセルロースがカルボキシ基を有するものである、ゴム組成物。」なる記載によれば、甲1には、「平均繊維径が1?200nmであり、セルロース繊維を構成するセルロースがカルボキシ基を有するセルロース繊維からなるゴム配合材」の発明が記載されているといえるところ、甲1の請求項3に「セルロース繊維が天然セルロースに・・・酸化反応させて得られるものである、請求項1・・・に記載のゴム組成物」と記載され、また、【0014】?【0023】にセルロース繊維の製造工程が記載されるとおり、甲1のカルボキシ基を有するセルロース繊維は、天然セルロース繊維の水酸基を酸化してカルボキシ基とすることで製造されるものである。
そして、甲1の【0024】?【0025】には、「(セルロース繊維の変性処理)」として、セルロース繊維を、水酸基をアシル基を有する酸等と反応させて変性を行うことも記載されているが、アシル基の例として、本件発明で特定されている「2以上のカルボキシ基を分子内に有する化合物由来の基」は記載されていないし、セルロース繊維の水酸基を「リン酸由来の基」で置換することは全く記載されていない。
また、甲1に具体的な実施例として記載されているものはいずれも酸化セルロース繊維であって、セルロース繊維の水酸基に特定の置換基が置換されて変性されたものではないし、平均繊維径は3.3nmであり(【0041】)、本件発明の繊維径の下限値である5nmを下回っているところ、第4 3.(2)で記載したとおり、本件特許明細書には、本件発明の、特定の置換基が導入されたセルロース繊維は、数平均繊維径を5?35nmとすることで、繊維径が下限値を下回る場合よりも、ゴム補強効果が優れることが示されている。
そうすると、本件発明1?5が、先願明細書(甲1)に記載された発明であるということはできない。

よって、申立人の主張する取消理由Aには理由がない。

(3)取消理由Bについて
申立人の主張する取消理由Bは、本件発明1?5には本件特許に係る出願の優先権主張の効果が及ばないことを前提として、本件発明1?5は甲1に基づき新規性及び進歩性を有しないというものである。

しかしながら、(1)で説示したとおり、本件発明1?5については優先権主張の効果が及ぶから、取消理由Bについての検討における新規性及び進歩性の判断の基準日は、優先日(平成24年4月25日)となる。
そして、甲1は、優先日より後の平成25年1月31日に出願公開されたものであるから、新規性及び進歩性を否定するための引用文献にはなり得ない。

よって、甲1に基づいて、本件発明1?5の新規性及び進歩性を否定することはできず、申立人の主張する取消理由Bにも理由がない。

(4)取消理由Cについて
申立人の主張する取消理由Cは、本件発明1?5は、甲2に記載された発明であって新規性を有しないというものである。
しかしながら、甲2は、第4 1.に記載した刊行物1であり、第4 2.(2)に記載したとおりの発明(引用発明)が記載されているところ、本件発明1?5と甲2に記載された発明とは、第4 3.(1)で記載したとおりの相違点1及び2を少なくとも有しているから、本件発明1?5は、甲2に記載された発明ではない。
よって、申立人の主張する取消理由Cには理由がない。

(5)取消理由Dについて
申立人の主張する取消理由Dは、訂正前の本件請求項1?5に係る発明は、甲2又は甲5に記載の発明に、甲3又は甲4(さらには、甲7?9)に記載の技術的事項を組み合わせることで当業者が容易に発明をすることができたものであって進歩性を有しないというものであり、より具体的には、甲2に記載の、エラストマーの強化充填材として用いられる変性表面を持つセルロースミクロフィブリル(これは、セルロース繊維である。)の発明(請求項1及び18等)、及び、甲5に記載の、ゴム補強性と耐疲労性のバランスが取れたゴム組成物を得るためのセルロース短繊維の発明(請求項1、3及び【0011】等)と、訂正前の本件請求項1?5に係る発明とを対比した場合、甲2発明及び甲5発明のセルロース繊維は、「セルロース繊維の少なくとも一部が、セルロース繊維を構成するセルロースの水酸基の一部が他の基で置換された変性セルロース繊維を含」むものではない点で相違するが、この相違点は甲3及び甲4(さらには甲7?9)に記載の技術的事項を組み合わせることで当業者が容易に想到し得たものであるというものである。(なお、甲2及び甲5発明のセルロース繊維は、訂正前の本件請求項1に特定される「セルロース繊維からなるゴム改質材」に相当する。)

しかしながら、甲3及び甲4には、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)を触媒として用いて酸化されたセルロースミクロフィブリル(セルロース繊維)が開示されている(甲3のAbstract等、甲4の(請求項1、【0009】、実施例1等)等。)のみで、訂正前の請求項1に記載の「セルロース繊維を構成するセルロースの水酸基の一部が他の基で置換された変性セルロース繊維」は記載されていないし、ましてや、(訂正後の)本件発明1?5における変性セルロース繊維つまり、「セルロース繊維を構成するセルロースの水酸基の一部が、リン酸由来の基で置換され、リン酸由来の基が導入されるか、または、2以上のカルボキシ基を分子内に有する化合物由来の基で置換され、カルボン酸由来の基が導入された変性セルロース繊維」については記載されていない。
また、甲7には、セルロース繊維の水酸基が酸化されて生成するカルボキシル基を更にアミド化してPEG鎖を導入する技術(22ページ、scheme1及び左欄下から4?1行目)が、甲8には、セルロース繊維の水酸基を-O-(CH_(2))_(n)-COORに変性する技術(請求項2、【0041】?【0042】等)が、甲9には、セルロース繊維の水酸基を四級アンモニウム基を有するカチオン化剤と反応させて四級アンモニウム基を導入する技術(請求項1、【0028】?【0029】等)が開示されているのみで、やはり、「セルロース繊維を構成するセルロースの水酸基の一部が、リン酸由来の基で置換され、リン酸由来の基が導入されるか、または、2以上のカルボキシ基を分子内に有する化合物由来の基で置換され、カルボン酸由来の基が導入された変性セルロース繊維」については記載されていない。。
そうすると、甲2又は甲5に記載の発明に、甲3又は甲4(さらには、甲7?9)に記載の技術的事項を組み合わせたとしても、本件発明1?5に特定される発明特定事項である「セルロース繊維を構成するセルロースの水酸基の一部が、リン酸由来の基で置換され、リン酸由来の基が導入されるか、または、2以上のカルボキシ基を分子内に有する化合物由来の基で置換され、カルボン酸由来の基が導入された変性セルロース繊維」(訂正後の請求項1)を備えるものとする点が、いずれの各甲号証からも導き出せないのであるから、本件発明1?5について、甲2又は甲5に記載の発明に、甲3又は甲4(さらには、甲7?9)に記載の技術的事項を組み合わせることで当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

よって、申立人の主張する取消理由Dには理由がない。

(6)取消理由Eについて
取消理由Eとして申立人が主張している理由は、具体的には、訂正前の請求項1の「他の基」は、ほぼ無制限に広範囲の基を含むが、本件特許明細書の発明の詳細な説明で効果が確かめられているのは、「他の基」が「リン酸由来の基」と「カルボン酸由来の基」である場合のみであって、かかる発明の詳細な説明の開示内容を、「他の基」にまで拡張ないし一般化できるとはいえない点で、訂正前の請求項1?5に係る発明はサポート要件を満足しないというものである。

しかしながら、訂正後の請求項1では、セルロース繊維を構成するセルロースの水酸基の一部を置換する置換基が「リン酸由来の基」または「2以上のカルボキシ基を分子内に有する化合物由来の基」に限定された。

そして、(訂正後の)本件発明1?5が解決しようとする課題は、本件特許明細書の【0006】によれば、「分散液中で良好な分散性を示し、ゴム補強性などのゴム改質効果に優れたゴム改質材を提供すること及び、高い弾性率、高い破壊強度、低発熱性のゴム組成物及び加硫ゴム組成物を提供すること」であると認められるところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明(特に、【0126】?【0131】及び【0139】の【表1】の実施例1及び2)からは、セルロース繊維を構成するセルロースの水酸基の一部を置換する置換基が「リン酸由来の基」または「2以上のカルボキシ基を分子内に有する化合物由来の基」の場合には、これを所定の繊維径としてゴム改質材とした場合に、ゴムラテックス分散液中及びゴム組成物中で良好に分散し、ゴムの補強効果が高く、得られる加硫ゴム組成物が高い弾性率、高い破壊強度、低い発熱性を有することが理解できる。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明から、当業者は、本件発明1?5が解決しようとする課題が、本件発明1?5の構成により解決できることを理解できるのであるから、本件発明1?5は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものといえ、サポート要件を満足する。

よって、申立人の主張する取消理由Eには理由がない。

(7)取消理由Fについて(明確性)
取消理由Eとして申立人が主張している理由は、具体的には、本件特許明細書に実施例3?6として記載されている例は訂正前の請求項1?5に係る発明には含まれない例であるにもかかわらず、「実施例」と表記されているから、結果として、訂正前の請求項1?5に係る発明が不明確となっているというものである。
しかしながら、セルロース繊維を構成するセルロースの水酸基の一部が、他の置換基で置換されているとはいえない実施例3?6が、訂正前の請求項1?5に係る発明に含まれない参考例にあたる具体例であることは、訂正前の請求項1?5の記載から明らかであったし、その点は、訂正により置換基が、「リン酸由来の基」または「2以上のカルボキシ基を分子内に有する化合物由来の基」に限定されてより明確となった。

よって、申立人の主張する取消理由Fにも理由がない。

(8)まとめ
以上のとおり、申立人の本件特許異議の申立てにおける取消理由A?Fはいずれも理由がなく、取消理由A?Fによっては、本件請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維からなるゴム改質材であって、該セルロース繊維の少なくとも一部として、セルロース繊維を構成するセルロースの水酸基の一部が、リン酸由来の基で置換され、リン酸由来の基が導入されるか、または、2以上のカルボキシ基を分子内に有する化合物由来の基で置換され、カルボン酸由来の基が導入された変性セルロース繊維を含み、数平均繊維径が5?35nmであることを特徴とする、ゴム改質材。
【請求項2】
請求項1に記載のゴム改質材及び分散媒を含有することを特徴とする、ゴム改質材分散液。
【請求項3】
請求項1に記載のゴム改質材とゴムラテックスを含有することを特徴とする、ゴムラテックス分散液。
【請求項4】
請求項1に記載のゴム改質材とゴム成分とを含有することを特徴とする、ゴム組成物。
【請求項5】
請求項4に記載のゴム組成物を加硫して製造される、加硫ゴム組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-01-16 
出願番号 特願2013-91451(P2013-91451)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C08L)
P 1 651・ 161- YAA (C08L)
P 1 651・ 121- YAA (C08L)
P 1 651・ 537- YAA (C08L)
P 1 651・ 851- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 水野 明梨  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 堀 洋樹
渕野 留香
登録日 2016-10-14 
登録番号 特許第6020334号(P6020334)
権利者 三菱ケミカル株式会社
発明の名称 ゴム改質材、ゴムラテックス分散液及びゴム組成物  
代理人 寺本 光生  
代理人 寺本 光生  

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