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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08G
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08G
審判 全部申し立て 発明同一  C08G
管理番号 1338137
異議申立番号 異議2015-700324  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-04-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-12-17 
確定日 2018-02-22 
異議申立件数
事件の表示 特許第5739965号発明「ポリアルキルシルセスキオキサン粒子」に関する特許異議の申立てについてされた平成28年11月16日付け決定(以下、「一次決定」という。)に対し,知的財産高等裁判所において取り消す旨の判決(平成29年(行ケ)第10072号,平成29年12月21日)があったので,さらに審理のうえ,次のとおり決定する。 
結論 特許第5739965号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
1 特許第5739965号(請求項の数4。以下,「本件特許」という。)に係る出願は,平成20年5月20日(パリ条約による優先権主張:平成19年5月28日,同年11月12日(KR)韓国)を国際出願日とする特許出願(特願2010-510202号)の一部を平成25年10月3日に新たな特許出願としたものであって,平成27年5月1日に設定登録されたものである。

2 その後,本件特許の請求項1?4に係る発明についての特許に対して,特許異議申立人(以下,「申立人」という。)である信越化学工業株式会社により特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立てにおける一次決定までの手続の経緯は,以下のとおりである。

平成27年12月17日付け 特許異議申立書
平成28年 2月15日付け 取消理由通知書
5月18日付け 意見書
6月 2日付け 上申書
7月13日付け 取消理由通知書(決定の予告)
10月18日付け 意見書
11月 1日付け 上申書
11月16日付け 一次決定

上記一次決定の結論は,以下のとおりである。
「特許第5739965号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。」

3 特許権者は,平成29年3月24日,知的財産高等裁判所に,一次決定の取消しを求める訴えを提起した(平成29年(行ケ)第10072号)。同裁判所は,同年12月21日,以下のとおりの判決(以下,「本件取消判決」という。)を言渡し,この判決はその後確定した。
「1 特許庁が異議2015-700324号事件について平成28年11月16日にした決定を取り消す。
2 訴訟費用は,被告の負担とする。」

4 その後,本件特許異議の申立ての審理が再開された。


第2 本件発明

本件特許の請求項1?4に係る発明は,願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,それぞれ「本件発明1」?「本件発明4」という。また,本件特許の明細書を「本件明細書」という。)。

【請求項1】
シラノール基を1.3%以下の量で有する球状粒子であり、水及び10%(v/v)メタノール水溶液に対して300rpmで1分間攪拌後において、粒子が分散しない程度の撥水性を備えることを特徴とするポリアルキルシルセスキオキサン粒子。
【請求項2】
前記シラノール基が、前記球状粒子の表面にあることを特徴とする、
請求項1に記載のポリアルキルシルセスキオキサン粒子。
【請求項3】
前記ポリアルキルシルセスキオキサン粒子の平均粒径が10?30μmであることを特徴とする、
請求項1または2に記載のポリアルキルシルセスキオキサン粒子。
【請求項4】
400℃での熱重量変化率が2.7%以下であることを特徴とする、
請求項1?3の何れか1項に記載のポリアルキルシルセスキオキサン粒子。


第3 特許異議の申立ての概要

1 特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由
申立人は,証拠方法として,下記のとおり甲第1号証?甲第5号証(以下,単に「甲1」等という。)を提出した。
・甲1 特開平1-185367号公報
・甲2 特開2003-183395号公報
・甲3 特開2007-277408号公報
・甲4 実験成績証明書
・甲5 特開昭60-13813号公報

そして,申立人は,本件発明1?4は,下記(1)?(4)のとおりの取消理由があるから,本件特許の請求項1?4に係る発明についての特許は,特許法113条2号及び4号に該当し,取り消されるべきものであると主張している。
(1)取消理由1(明確性)
本件発明1?4は,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に適合するものではない。
(2)取消理由2(新規性)
本件発明1?4は,甲1に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものである。
(3)取消理由3(進歩性)
本件発明3は,甲1に記載された発明及び甲2記載事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
(4)取消理由4(拡大先願)
本件発明1,2及び4は,本件特許の優先日前に出願され,本件特許の優先日のうちの一つより後に出願公開がされた甲3に係る特許出願(以下,「先願」という。)の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,「先願明細書」という。)に記載された発明と同一であり,しかも,本件特許の出願の発明者が先願に係る上記の発明をした者と同一ではなく,また本件特許の優先日の時において,その出願人が上記先願の出願人と同一でもないので,特許法29条の2の規定により,特許を受けることができないものである。

2 取消理由通知書に記載した取消理由
上記1の取消理由2(本件発明1,2及び4に対する新規性),取消理由3(進歩性)及び取消理由4(拡大先願)と同旨。


第4 当審の判断
以下に述べるように,取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?4に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
以下,事案に鑑み,取消理由通知書に記載した取消理由2(本件発明1,2及び4についての新規性),取消理由3(進歩性),取消理由4(拡大先願)の順で検討し,次いで取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立ての理由である取消理由1(明確性),取消理由2(本件発明3についての新規性)の順で検討する。

1 取消理由通知書に記載した取消理由2(本件発明1,2及び4についての新規性)
本件取消判決は,取消理由2について判示しており,その判示事項は,行政事件訴訟法33条1項の規定により,当審を拘束する。
以下,本件取消判決の判示事項を示しつつ,取消理由2について検討する。

(1)甲1に記載された発明
本件取消判決は,甲1の第1頁左下欄第5行?右下欄第3行(請求項(1)及び(2)),第1頁右下欄第11?15行(発明の技術分野),第2頁左下欄第7?10行(発明の目的),第2頁左下欄第11行?第3頁右上欄第10行(発明の構成),第3頁左下欄第18行?右下欄第2行(発明の効果),第3頁右下欄第3行?第4頁右上欄第1行(実施例),第4頁左下欄の表を摘示した上で,甲1には少なくとも次の発明が記載されていると認定している(本件取消判決第38?41頁)。

「温度計,還流器及び攪拌機のついた四つ口フラスコに,ヘキサメチルジシラザン1000部と,特開昭60-13813号公報(甲5文献)に記載の方法により得た平均粒子径5μmのポリメチルシルセスキオキサン粉末1000部を仕込み,25℃で攪拌し,15時間保持した後,処理物をろ紙で吸引ろ過後,200℃の乾燥器で乾燥させ,表面処理がされた,ポリメチルシルセスキオキサン粉末」(以下,「甲1発明」という。)

(2)本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると,両者は,少なくとも次の点で相違している。
・相違点1
本件発明1は,粒子が「シラノール基を1.3%以下の量で有する」のに対し,甲1発明は,粒子が有するシラノール基の量が不明である点。
・相違点2
粒子の撥水性について,本件発明1は「水及び10%(v/v)メタノール水溶液に対して300rpmで1分間攪拌後において,粒子が分散しない程度」であるのに対し,甲1発明は粒子の撥水性が「メタノールを60重量%含むメタノール水における沈降重量百分率が3%である」点。

(3)判断
甲1発明におけるポリメチルシルセスキオキサン粉末は,「甲5文献に記載の方法により得た平均粒子径5μm」のものであるところ,上記相違点1及び2を検討するに当たり,甲4の実験成績証明書における5.(1)「特開平1-185367号公報の実施例1の追試実験」(以下,「甲4実験」という。)が,甲1文献に記載された実施例1を追試した実験結果を示すものであるかどうかについて検討する必要がある。
本件取消判決は,まず甲5について,第1頁左下欄第4?8行(請求項(1)),第1頁右下欄第3?7行(発明の技術分野),第2頁左上欄第19行?右上欄第3行(発明の目的),第2頁右上欄第4行?第3頁左上欄第13行(発明の概要),第3頁左下欄第9行?第4頁左上欄第8行(発明の実施例)を摘示した上で,甲5に記載された発明について次のとおり認定している(本件取消判決第42?44頁)。
「イ 以上より,甲5文献記載の発明は,ポリメチルシルセスキオキサンの製造方法に関するものであり(・・・),塩素原子の含有量が少なく,アルカリ土類金属やアルカリ金属を含有せず,自由流動性の優れた粉末状のポリメチルシルセスキオキサンの製造方法を提供することを目的とし(・・・),アンモニアまたはアミン類を,原料であるメチルトリアルコキシシラン中に残存する塩素原子の中和剤,並びに,メチルトリアルコキシシランの加水分解及び縮合反応の触媒として用いるという製造方法を採用したものである(・・・)と認められる。」

そして,本件取消判決は,甲4実験が,甲1文献に記載された実施例1を追試した実験結果を示すものであるかどうかについて次のとおり判示している(本件取消判決第44?47頁。なお,本件取消判決中の「引用発明」とは,この決定における「甲1発明」のことである。)。

「(2) 引用発明の粉末のシラノール基量及び撥水性を甲4実験に基づき認定した点について
ア 甲1文献の実施例1において用いたポリメチルシルセスキオキサン粉末は,「甲5文献記載の方法により得た平均粒子径5μm」のものである。決定は,甲4実験は,甲1文献の実施例1を追試したものであり,甲4実験のポリメチルシルセスキオキサン粒子は,シラノール基量が0.08%であること,及び,撥水性の程度が「水及び10%(v/v)メタノール水溶液に対して300rpmで1分間攪拌後において,粒子が分散しない程度」であることを示していると認定した上で,引用発明のポリメチルシルセスキオキサン粒子のシラノール基量及び撥水性を認定した。
しかし,甲1文献の実施例1にいう,甲5文献記載の方法によることが,甲5文献の実施例1によることで足りるとしても,以下のとおり,甲4実験は甲1文献の実施例1を再現したものとは認められない。
イ 甲5文献の実施例1を含む甲1文献の実施例1の方法と,甲4実験とを比較すると,少なくとも,(まる1)攪拌条件,及び,(まる2)原料メチルトリメトキシシランの塩素含有量において,甲4実験は,甲1文献の実施例1の方法を再現したとは認められない。
(ア) 攪拌条件について
真球状ポリメチルシルセスキオキサンの粒子径をコントロールするために,反応温度,攪拌速度,触媒量などの反応条件を選定すること(・・・),ポリアルキルシルセスキオキサン粒子の製造方法として,オルガノトリアルコキシシランを有機酸条件下で加水分解し,水/アルコール溶液,アルカリ性水溶液を添加した後,静止状態で縮合する方法において,弱攪拌又は攪拌せずに縮合反応させることによって,低濃度触媒量でも凝集物を生成しない粒子を得ることができるが,粒径が1μm以上の粒子を製造するのに不適切であることが本件発明の従来技術であったこと(本件明細書【0006】)からすると,ポリメチルシルセスキオキサン粒子の製造においては,攪拌条件により,粒子径の異なるものが得られるものといえる。
甲5文献の実施例1には,攪拌速度は記載されておらず,甲4実験においても,攪拌速度が明らかにされていない。したがって,実験条件から,得られたポリメチルシルセスキオキサン粒子の平均粒径を推測することはできない。加えて,甲4実験においては,甲5文献の実施例1で追試して得られたとするポリメチルシルセスキオキサン粒子の粒径は計測されていない。したがって,甲4実験において甲5文献の実施例1を追試して得られたとするポリメチルシルセスキオキサン粒子の平均粒子径が,甲1文献の実施例1で用いられたポリメチルシルセスキオキサン粉末と同じ5μmのものであると認めることはできない。
(イ) 原料メチルトリメトキシシランの塩素含有量について
甲5文献記載の発明は,前記(1)イのとおり,塩素原子の含有量が少ないポリメチルシルセスキオキサンの製造方法を提供するものであり,塩素原子を中和するためにアンモニア又はアミン類を用いるものである。そして,アンモニア及びアミン類の使用量は,アルコキシシラン又はその部分加水分解縮合物中に存在する塩素原子を中和するのに十分な量に触媒量を加えた量であるが,除去等の点で必要最小限にとどめるべきであり,アンモニア及びアミン類の使用量が少なすぎると,アルコキシシラン類の加水分解,さらには縮合反応が進行せず,目的物が得られない(・・・)。実施例1?5及び比較例1?3においては,原料に含まれる塩素原子濃度並びに使用したアンモニア水溶液の量及びアンモニア濃度が記載されている(・・・)。以上の点からすると,塩素原子の中和に必要な量でありかつ除去等の点で最小限である量のアンモニア及びアミン類を使用するために,塩素原子の量とアンモニア及びアミン類の量を確認する必要があり,そのために,甲5文献の実施例1においては,用いたメチルトリメトキシシランのメチルトリクロロシランの含有量が塩素原子換算で5ppmであることを示したものと理解される。
ところが,甲4実験で甲5文献の実施例1の追試のために原料として用いたメチルトリメトキシシランの塩素原子含有量は計測されていない。したがって,甲4実験で用いられたメチルトリメトキシシランに含有される塩素原子含有量と甲5文献の実施例1で用いられたメチルトリメトキシシランに含有される塩素原子含有量とが同一であると認めることはできない。そうすると,甲4実験において,甲5文献の実施例1と同様にアルコキシシラン類の加水分解,縮合反応が進行したと認めることはできず,その結果,得られたポリメチルシルセスキオキサン粒子が,甲5文献の実施例1で得られたものと同一と認めることはできない。
ウ 以上より,甲4実験で用いたポリメチルシルセスキオキサン粒子は,甲1文献の実施例1で用いられたものと同一とはいえないから,甲4実験で得られたポリメチルシルセスキオキサン粒子のシラノール基量及び撥水性を,甲1文献の実施例1のそれと同視して,引用発明の内容と認定することはできない。」

上記本件取消判決が判示するとおり,甲4実験が,甲1文献に記載された実施例1を追試したものとはいえないのであるから,甲1発明におけるシラノール基量及び撥水性については,甲4実験の結果として記載されているシラノール基の量及び撥水性を有するものとはいえない。

(4)小活
以上によれば,上記相違点1及び2は,実質的な相違点であるから,本件発明1は甲1に記載された発明であるとはいえない。

(5)本件発明2及び4について
本件発明2は,本件発明1(請求項1)を引用するものであって,さらに,
「前記シラノール基が,前記球状粒子の表面にあることを特徴とする」
との発明特定事項を追加する発明である。
また,本件発明4は,本件発明1?3(請求項1?3)の何れかを引用するものであって,さらに,
「400℃での熱重量変化率が2.7%以下であることを特徴とする」
との発明特定事項を追加する発明である。
しかるところ,本件発明1は,甲1発明と対比して,少なくとも相違点1及び2において実質的に相違していることは,上記(3)(4)のとおりであるから,本件発明1に新たな発明特定事項を追加する本件発明2及び4についても,少なくとも相違点1及び2において実質的に相違していることは明らかである。したがって,本件発明2及び4は,甲1に記載された発明であるとはいえない。

(6)まとめ
以上のとおり,本件発明1,2及び4は,いずれも,甲1に記載された発明であるとはいえない。
よって,取消理由通知書に記載した取消理由2によっては,本件特許の請求項1,2及び4に係る発明についての特許を取り消すことはできない。

2 取消理由通知書に記載した取消理由3(進歩性)
(1) 本件発明3と甲1発明との対比
本件発明3は,本件発明1又は2(請求項1又は2)の何れかを引用するものであって,さらに,
「ポリアルキルシルセスキオキサン粒子の平均粒径が10?30μmであることを特徴とする」
との発明特定事項を追加する発明である。
そうすると,本件発明3と甲1発明とは,少なくとも以下の点で相違する。
・相違点1
本件発明3は,粒子が「シラノール基を1.3%以下の量で有する」のに対し,甲1発明は,粒子が有するシラノール基の量が不明である点。
・相違点2
粒子の撥水性について,本件発明3は「水及び10%(v/v)メタノール水溶液に対して300rpmで1分間攪拌後において,粒子が分散しない程度」であるのに対し,甲1発明は粒子の撥水性が「メタノールを60重量%含むメタノール水における沈降重量百分率が3%である」点。
・相違点3
本件発明3は,「ポリアルキルシルセスキオキサン粒子の平均粒径が10?30μmである」のに対し,甲1発明は,「ヘキサメチルジシラザンによる表面処理前のポリメチルシルセスキオキサン粉末の平均粒子径が5μmである」点。

(2) 相違点1,2の検討
事案に鑑み,相違点1及び2について検討する。
本件取消判決が判示するとおり(上記1(3)及び(4))),甲4実験が,甲1文献に記載された実施例1を追試した実験結果を示すものであるとはいえないのであるから,甲1発明におけるシラノール基量及び撥水性については,甲4実験の結果として記載されているシラノール基の量及び撥水性を有するものとはいえない。
そして,甲1文献全体の記載をみても,「本発明で用いる上記式で示される有機ケイ素化合物は,ポリメチルシルセスキオキサン粉末表面のシラノール基を減少させ,さらにトリオルガノシリル基を結合させる作用をするものであり,これにより,ポリメチルシルセスキオキサン粉末の撥水性を向上させることができる。」(第2頁右下欄第10?15行)と記載されているにとどまり,ポリアルキルシルセスキオキサン粒子のシラノール基の量を「1.3%以下」とすることについては記載も示唆もされていないし,撥水性に関しても,「水及び10%(v/v)メタノール水溶液に対して300rpmで1分間攪拌後において,粒子が分散しない程度の撥水性を備える」ものとすることについても記載も示唆もされていない。
また,甲2及び甲5の記載をみても,ポリアルキルシルセスキオキサン粒子のシラノール基の量を「1.3%以下」とすること,及び,撥水性に関して,「水及び10%(v/v)メタノール水溶液に対して300rpmで1分間攪拌後において,粒子が分散しない程度の撥水性を備える」ものとすることについては,記載も示唆もされていない。
したがって,相違点1及び2に係る本件発明3の発明特定事項については,当業者が容易に想到できる事項とはいえない。

(3) 小括
以上のとおりであるから,他の相違点について検討するまでもなく,本件発明3は,甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって,取消理由3によっては,本件特許の請求項3に係る発明についての特許を取り消すことはできない。

3 取消理由通知書に記載した取消理由4(拡大先願)
(1)先願明細書に記載された発明
先願は,本件特許の優先日前である平成18年4月6日に出願され,本件特許の優先日後に公開されたものと認められるところ,先願明細書には,比較例2の記載からみて,以下の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。

甲3発明:
「5リットルのガラスフラスコにイオン交換水3662g及びアンモニア水(濃度28%)86gを仕込み,水温を20℃として,翼回転数150rpmの条件で錨型撹拌翼により撹拌を行い,メチルトリメトキシシラン743gを3時間かけて滴下し,この間液温を15?25℃に保った。滴下終了後15?25℃で15分間撹拌を行った後,トリメチルシラノール9g(トリメチルシラノールはポリメチルシルセスキオキサン系微粒子100重量部に対し2.5重量部となる量。)を投入し,さらに15?25℃に保ち1時間撹拌した後,55?60℃まで加熱し,引き続き1時間撹拌を行った後,得られた液を,加圧濾過器を用いて脱液しケーキ状物とし,このケーキ状物を熱風循環乾燥機中で105℃の温度で乾燥し,乾燥物をジェットミルで解砕して得られるポリメチルシルセスキオキサン系微粒子であって,
マルチサイザーII(粒度分布測定装置,ベックマン・コールター社製,商品名)を用いて測定したとき,平均粒径が2.2μmであり,
形状を光学顕微鏡にて観察したところ,球状であり,
メタノール水に全量分散し始めるときのメタノール濃度が38%である程度の撥水性を備える,
ポリメチルシルセスキオキサン系微粒子。」

(2)対比
本件発明1と甲3発明とを比較すると,両発明は,少なくとも以下の点で相違している。
・相違点4
本件発明1は,粒子が「シラノール基を1.3%以下の量で有する」のに対し,甲3発明は,粒子が有するシラノール基の量が不明である点。
・相違点5
粒子の撥水性について,本件発明1は「水及び10%(v/v)メタノール水溶液に対して300rpmで1分間攪拌後において,粒子が分散しない程度」であるのに対し,甲3発明は「メタノール水に全量分散し始めるときのメタノール濃度が38%である程度」である点。

(3) 相違点4及び5についての検討
申立人は,甲4の実験成績証明書の第2頁5.(2)「特開2007-277408号公報の比較例2の追試実験」(以下,「甲4実験2」という。)の結果に示されているとおり,甲3発明において得られたポリメチルシルセスキオキサン粒子は,シラノール基を0.09%で有する球状であり,水及び10%(v/v)メタノール水溶液に対して300rpmで1分間攪拌後において,粒子が分散しない程度の撥水性を備えたものである旨を主張するので以下検討する。
甲4実験2は,甲3の比較例2の追試実験を行ったとされているが,ここで得られたポリメチルシルセスキオキサン粒子の体積平均粒径は2.5μmであるのに対し,甲3発明のポリメチルシルセスキオキサン系微粒子は,平均粒径が2.2μmとなっているため,平均粒径が甲3発明と甲4実験2の結果との間で異なっている。
また,甲4実験2の実験方法の記載を詳細にみると,メチルトリメトキシシランを滴下する際の撹拌速度が記載されておらず,甲3発明における撹拌速度である「翼回転数150rpm」という条件と同じ条件で行われたものかどうか不明である。そして,本件取消判決(第45?46頁)でも判示されているとおり,撹拌速度は平均粒径に影響するものと認められる。
してみると,甲4実験2によって得られたポリメチルシルセスキオキサン粒子は,甲3発明のポリメチルシルセスキオキサン系微粒子と同一であるとはいえない。よって,甲3発明のポリメチルシルセスキオキサン系微粒子のシラノール基の量及び撥水性については,甲4実験2の結果に基づいて認定することができない。

(4)小活
以上によれば,相違点4及び5は,実質的な相違点であるし,かつこれらの相違点は周知技術の付加・削除・転換等であって新たな効果を奏するものでないともいえないから,本件発明1は,先願明細書に記載された発明と同一であるとはいえない。

(5)本件発明2及び4について
本件発明1が,甲3発明と対比して,少なくとも上記相違点4及び5において実質的に相違していることは,上記(5)のとおりであるから,本件発明1に新たな発明特定事項を追加する本件発明2及び4についても,少なくとも相違点4及び5において実質的に相違していることは明らかであり,かつこれらの相違点は周知技術の付加・削除・転換等であって新たな効果を奏するものでないともいえない。
したがって,本件発明2及び4は,先願明細書に記載された発明と同一であるとはいえない。

(6)まとめ
以上のとおり,本件発明1,2及び4は,いずれも先願明細書に記載された発明と同一であるとはいえない。
よって,取消理由通知書に記載した取消理由4によっては,本件特許の請求項1,2及び4に係る発明についての特許を取り消すことはできない。

4 取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立ての理由
(1)取消理由1(明確性)
ア 申立人は,シラノール基の含有量の測定方法が本件発明に記載されていないため,どのような測定方法によって得られた値であるのかが不明であると主張している。
しかし,シラノール基の含有量は,当業者が通常用い得る方法によって測定されるものと理解できる。よって,本件発明1?4及び本件明細書にシラノール基の含有量の測定方法が記載されていないからといって,そのことのみで本件発明1?4が明確でないということはできない。
したがって,申立人の主張には理由がない。

イ また,申立人は,400℃での熱重量変化率の測定に際し,400℃までの昇温速度を記載していない点が,記載不備であると主張している。
しかし,400℃までの昇温速度については,当業者が通常設定し得る昇温速度であると理解できる。よって,本件発明4及び本件明細書に400℃までの昇温速度が記載されていないからといって,そのことのみで本件発明4が明確でないということはできない。
したがって,申立人の主張には理由がない。

ウ 上記ア及びイより,取消理由1によっては,本件特許の請求項1?4に係る発明についての特許を取り消すことはできない。

(2)取消理由2(本件発明3についての新規性)
本件発明3は,本件発明1又は2(請求項1又は2)を引用するものであって,さらに,
「前記ポリアルキルシルセスキオキサン粒子の平均粒径が10?30μmであることを特徴とする」
との発明特定事項を追加する発明である。
しかるところ,本件発明1は,甲1発明と対比して,少なくとも相違点1及び2において実質的に相違していることは,上記1(3)及び(4)のとおりであるから,本件発明1に新たな発明特定事項を追加する本件発明3についても,少なくとも相違点1及び2において実質的に相違していることは明らかである。したがって,本件発明3は,甲1に記載された発明であるとはいえない。
よって,取消理由2によっては,本件特許の請求項3に係る発明についての特許を取り消すことはできない。


第5 むすび

以上のとおり,取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?4に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許の請求項1?4に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-02-14 
出願番号 特願2013-208478(P2013-208478)
審決分類 P 1 651・ 161- Y (C08G)
P 1 651・ 113- Y (C08G)
P 1 651・ 537- Y (C08G)
P 1 651・ 121- Y (C08G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岡▲崎▼ 忠  
特許庁審判長 岡崎 美穂
特許庁審判官 佐久 敬
井上 猛
登録日 2015-05-01 
登録番号 特許第5739965号(P5739965)
権利者 コーロン インダストリーズ インク
発明の名称 ポリアルキルシルセスキオキサン粒子  
代理人 重松 沙織  
代理人 正木 克彦  
代理人 石川 武史  
代理人 小島 隆司  
代理人 小林 克成  
代理人 山下 託嗣  
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