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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
管理番号 1338148
異議申立番号 異議2017-701115  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-04-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-11-28 
確定日 2018-03-02 
異議申立件数
事件の表示 特許第6135582号発明「透明性積層体およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6135582号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6135582号の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、平成26年3月31日に特許出願され、平成29年5月12日にその特許権の設定登録がなされ、同年5月31日に特許公報への掲載がなされたものであり、その後、その請求項1ないし9に係る特許に対し、特許異議申立人 宮本邦彦(以下、「申立人」という。)により同年11月28日(受理日:同月29日)に特許異議の申立てがされたものである。


第2 本件発明
特許第6135582号の請求項1ないし9に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される次のとおりのものである (以下、順に、「本件特許発明1」等といい、これらの発明をまとめて「本件特許発明」ということもある。)。

「【請求項1】
板状の透明樹脂基材と、該透明樹脂基材の少なくとも一方の面上に設けられた透明性保護膜とを備えた透明積層体であって、
前記透明樹脂基材は、70℃以上の耐熱性を有し、
前記透明性保護膜は、コーティング組成物を塗装し硬化させることによって得られる、5μm以上150μm以下の厚さを有する保護膜であり、
前記コーティング組成物は、かご型シルセスキオキサン(a)および水酸基含有多官能モノマー(b)を含む硬化性樹脂、および10nm以上100nm以下の平均粒子径を有する無機酸化物微粒子、を含有し、
前記かご型シルセスキオキサンの量は、前記コーティング組成物に含まれる硬化性樹脂100重量部に対して9重量部以上であり、
前記水酸基含有多官能モノマーの量は、前記コーティング組成物に含まれる硬化性樹脂100重量部に対して10?85重量部であり、
前記コーティング組成物中に含まれる前記無機酸化物微粒子の量は、前記コーティング組成物に含まれる樹脂成分100重量部に対して5重量部以上400重量部以下である、
透明積層体。
【請求項2】
前記透明樹脂基材は、ポリカーボネート樹脂またはアクリル樹脂を含み、かつ、1mm以上の略均一な厚さ、並びに室温下で1GPa以上の弾性率および10kgf/mm^(2)以上のビッカース硬度を有し、
前記透明性保護膜の厚さは、10μm以上80μm以下であり、
前記無機酸化物微粒子は、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化スズ、酸化ジルコン、酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化アンチモンおよびこれらの複酸化物からなる群から選択される少なくとも1種の無機酸化物微粒子であり、
前記無機酸化物微粒子は、シラン化合物で表面処理されており、
前記シラン化合物の量は、前記無機酸化物微粒子100重量部に対して0.1?80重量部である、
請求項1記載の透明積層体。
【請求項3】
前記透明樹脂基材と透明性保護膜との間に介在する透明プライマ層をさらに備え、
前記透明プライマ層は、(メタ)アクリレート化合物を含むプライマ組成物を塗装し硬化させることによって得られる層であって、前記透明プライマ層は5μm以上の厚さを有し、
前記透明性保護膜は、5μm以上80μm以下の厚さを有し、
前記無機酸化物微粒子は、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化スズ、酸化ジルコン、酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化アンチモンおよびこれらの複酸化物からなる群から選択される少なくとも1種の無機酸化物微粒子であり、
前記無機酸化物微粒子は、シラン化合物で表面処理されており、
前記シラン化合物の量は、前記無機酸化物微粒子100重量部に対して0.1?80重量部である、
請求項1記載の透明積層体。
【請求項4】
前記透明樹脂基材は、ポリカーボネート樹脂またはアクリル樹脂を含み、かつ、1mm以上の略均一な厚さ、並びに室温下で1GPa以上の弾性率および10kgf/mm^(2)以上のビッカース硬度を有する、請求項3記載の透明積層体。
【請求項5】
移動体のウインド材であることを特徴とする、請求項1?4のいずれか1項に記載の透明積層体。
【請求項6】
70℃以上の耐熱性、1mm以上の略均一な厚さ、および、室温下で1GPa以上の弾性率を有する板状の透明樹脂基材を準備する準備工程と、
コーティング組成物を、前記透明樹脂基材の少なくとも一方の面上に塗装し、次いで硬化させて、前記透明樹脂基材上に、5μm以上150μm以下の厚さを有する透明性保護膜を設ける、透明性保護膜形成工程と、
を包含する、透明積層体の製造方法であって、
前記コーティング組成物は、かご型シルセスキオキサン(a)および水酸基含有多官能モノマー(b)を含む硬化性樹脂、および10nm以上100nm以下の平均粒子径を有する無機酸化物微粒子、を含有し、
前記かご型シルセスキオキサンの量は、前記コーティング組成物に含まれる硬化性樹脂100重量部に対して9重量部以上であり、
前記水酸基含有多官能モノマーの量は、前記コーティング組成物に含まれる硬化性樹脂100重量部に対して10?85重量部であり、
前記無機酸化物微粒子の量は、前記コーティング組成物に含まれる硬化性樹脂100重量部に対して5重量部以上400重量部以下である、
透明積層体の製造方法。
【請求項7】
70℃以上の耐熱性、1mm以上の略均一な厚さ、並びに室温下で、1GPa以上の弾性率および10kgf/mm^(2)以上のビッカース硬度を有する板状の透明樹脂基材を準備する準備工程と、
(メタ)アクリレート化合物を含むプライマ組成物を前記透明樹脂基材の少なくとも一方の面上に塗装して、厚さ5μm以上のプライマ層を設ける、プライマ層形成工程と、
コーティング組成物を用いて、前記プライマ層上にコーティング組成物からなる膜部を形成し、次いで硬化させて、前記プライマ層上に、5μm以上80μm以下の透明性保護膜を設ける、透明性保護膜形成工程と、
を包含する、透明積層体の製造方法であって、
前記コーティング組成物は、かご型シルセスキオキサン(a)および水酸基含有多官能モノマー(b)を含む硬化性樹脂、および10nm以上100nm以下の平均粒子径を有する無機酸化物微粒子、を含有し、
前記かご型シルセスキオキサンの量は、前記コーティング組成物に含まれる硬化性樹脂100重量部に対して9重量部以上であり、
前記水酸基含有多官能モノマーの量は、前記コーティング組成物に含まれる硬化性樹脂100重量部に対して10?85重量部であり、
前記無機酸化物微粒子の量は、前記コーティング組成物に含まれる硬化性樹脂100重量部に対して5重量部以上400重量部以下である、
透明積層体の製造方法。
【請求項8】
前記透明性保護膜形成工程における硬化手段が、前記透明樹脂基材の耐熱温度未満の雰囲気温度で、200nm以上400nm以下の波長域の光を、照度が1×10^(-2)mW/cm^(2)以上1×10^(4)mW/cm^(2)以下、および波長域での積算光量が5×10^(2)mJ/cm^(2)以上3×10^(4)mJ/cm^(2)以下の条件で照射して光硬化させる手段である、
請求項6または7記載の透明積層体の製造方法。
【請求項9】
前記無機酸化物微粒子は、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化スズ、酸化ジルコン、酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化アンチモンおよびこれらの複酸化物からなる群から選択される少なくとも1種の無機酸化物微粒子であり、
前記無機酸化物微粒子は、シラン化合物で表面処理されており、
前記シラン化合物の量は、前記無機酸化物微粒子100重量部に対して0.1?80重量部である、
請求項6?8いずれかに記載の透明積層体の製造方法。」


第3 申立理由の概要及び提出した証拠
1 申立理由の概要
申立人は、甲第1ないし3号証を提出し、下記の申立理由を挙げ、本件特許発明1ないし9に係る特許は、取り消すべきものである旨主張している。
(1) 申立理由1 特許法第29条第1項第3号(同法第113条第2号)
本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(2) 申立理由2 特許法第29条第2項(同法第113条第2号)
本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、甲第1号証に記載された発明および甲第2号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(3) 申立理由3 特許法第36条第6項第1号(同条第113条第4号)
本件特許の請求項1、6及び7に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(4) 申立理由4 特許法第36条第6項2号(同条第113条第4号)
本件特許の請求項1ないし9に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである

2 証拠方法
(1) 甲第1号証:国際公開第2014/020919号
(2) 甲第2号証:国際公開第2006/035646号
(以下、「甲1」等という。)


第4 当審の判断
当審は、申立人の特許異議申立ての申立理由1ないし4について、いずれについても理由がないものと判断する。
以下、詳述する。

1 申立理由1(特許法第29条第1項第3号)及び申立理由2(同法第29条第2項)について

(1)甲号証の記載事項及び甲1に記載された発明
ア 甲1に記載された事項
(甲1ア)
「[0001] 本発明は、ウインドガラス代替品等として用いられる透明積層体に関する。具体的には、所要の強度と透明性とを備えた透明積層体、及びかかる透明積層体の製造方法に関する。」

(甲1イ)
「[0015] そこで、本発明は、ガラス代替用の樹脂製ウインド材等として用いられる透明積層体として、優れた耐摩耗性と耐傷付性とを共に有する透明積層体、及びかかる透明積層体の製造方法を提供することを課題とする。」

(甲1ウ)
「[0024] まず、本願の第1の発明によれば、耐熱性を所定の範囲内に設定することにより、割れにくい透明性保護膜を備えた透明積層体が得られる。また、主成分であるシリコーン樹脂組成物中のかご型シルセスキオキサンの割合(9重量%以上)を考慮しつつ厚さを所定の範囲内とした透明性保護膜を透明樹脂基材上に設けることで、優れた耐傷付性を確保しつつ、割れにくい透明性保護膜を備えた透明積層体が得られる。
[0025] 特に本発明によれば、透明性保護膜がシラン化合物で表面処理されたガラス微粒子又は金属酸化物微粒子からなる微粒子を含むため、透明性保護膜に対するせん断応力を硬度が大きい微粒子によって分散させることができ、それゆえ透明積層体の耐摩耗性が向上する。また、シラン化合物の微粒子に対する重量比等を所定の範囲に設定することで、クラックが生じることによる透明性保護膜の微細破壊、即ち傷つきを防止することができる。従って、優れた耐摩耗性と耐傷付性とを共に有する透明積層体が実現されることとなる。
[0026] そして、透明性保護膜の耐摩耗性及び耐傷付性が向上することにより、透明積層体全体の耐摩耗性及び耐傷付性が向上することとなる。」

(甲1エ)
「[0034] (第1実施形態による透明積層体)
図1は、本発明の第1実施形態による透明積層体1の模式図であり、図2は図1の透明性保護膜3部分の拡大図である。本発明による透明積層体1は、板状の透明樹脂基材2と、該透明樹脂基材2上に設けられた透明性保護膜3とを備える。透明樹脂基材2は、実際に光が透過する可視光透過部と、可視光非透過部とで構成される。図1,図2では、透明樹脂基材2上の片面上にのみ透明性保護膜3が設けられた透明積層体1を示しているが、透明性保護膜3が両面に設けられていてもよい。」

(甲1オ)
「[0044] さらに、シリコーン樹脂組成物は、シルセスキオキサンの他に不飽和化合物を含んでもよい。かご型シルセスキオキサンとしては、これらに限定されず、他の構造を持つものを用いることができ、それぞれ単独で使用しても、2種類以上を混合して使用してもよい。
[0045] 具体的に述べると、前記の不飽和化合物として、ビスフェノールAジグリシジルエーテルジアクリレート、・・・、ペンタエリスリトールトリアクリレート、・・・又は、他の反応性オリゴマー、モノマーを用いることができる。また、これらの反応性オリゴマーやモノマーは、それぞれ単独で使用してもよく、或いは2種類以上を混合して使用してもよい。」

(甲1カ)
「[0063] 本実施形態では、後述する耐摩耗性試験及び耐傷付性試験において、透明性保護膜3がガラス微粒子又は金属酸化物微粒子からなる微粒子4を所定条件で含むことにより、優れた耐摩耗性と耐傷付性の両方を同時に確保できることを見出した。所定条件とは、即ち、微粒子4の粒子径が10nm以上100nm以下であること、微粒子4の重量比がシリコーン樹脂組成物に対して5重量部以上400重量部以下であること、シラン化合物の微粒子4に対する重量比が15%重量%以上80重量%以下であること、である。これにより、JIS規格(JISR3212)等で採用されているテーバ摩耗性の規格を充分に満たす透明積層体1が得られる。
[0064] また、本実施形態では、ガラス微粒子又は金属酸化物微粒子からなる微粒子4が所定範囲の粒子径を有し、所定範囲の重量比を有するシラン化合物で表面処理されているため、微粒子4を透明性保護膜3に好適に分散させることができ、かつ、微粒子4と透明性保護膜3中のシリコーン樹脂組成物を共有結合させることができ、従って微粒子4による透明積層体1の耐摩耗性向上及び耐傷付性向上の効果を高めることができる。また、シラン化合物の組成によっては、微粒子4に表面処理されたシラン化合物と透明性保護膜のシリコーン樹脂組成物との間に、水素結合、π結合等による分子間力を働かせることができ、この場合、さらに微粒子4による透明積層体1の耐摩耗性向上及び耐傷付性向上の効果を高めることができる。
[0065] (第1実施形態による透明積層体の製造方法)
本発明の第1実施形態による透明積層体1の製造方法は、前記の透明樹脂基材2を準備する準備工程と、透明性保護膜3を構成する塗料組成物を透明樹脂基材2の少なくとも一方の面上に塗布する塗布工程と、透明樹脂基材2の耐熱温度未満の雰囲気温度で光を照射して塗料組成物を光硬化させ、透明樹脂基材2上に透明性保護膜3を設ける光硬化工程とを含む。」

(甲1キ)
「[0072] 光硬化工程では、例えば水銀ランプを用いて、200nm以上400nm以下の波長域の照度が1×10^(-2)mW/cm^(2) 以上1×10^(4) mW/cm^(2) 以下、該波長域の積算光量が5×10^(2) mJ/cm^(2) 以上3×10^(4) mJ/cm^(2) 以下、の条件で光を照射する。」

(甲1ク)
「[0076] (第2実施形態による透明積層体)
図8は、本発明の第2実施形態による透明積層体51の模式図を示し、図9は図8の透明性保護膜53部分の拡大図である。本発明による透明積層体51は、板状の透明樹脂基材52と、該透明樹脂基材52上に設けられた透明性保護膜53と、透明樹脂基材52と透明性保護膜53との間に介在する透明プライマ層55とを備える。図8では、透明樹脂基材52上の片面上にのみ透明性保護膜53が設けられた透明積層体51を示しているが、透明性保護膜53が両面に設けられていてもよい。
[0077] 本実施形態による透明積層体51は、透明プライマ層55を備える。また、透明性保護膜53は、シリコーン樹脂組成物がかご型シルセスキオキサンを9重量%以上含む場合、優れた耐傷付性を確保するために、透明樹脂基材2の可視光透過部上で5μm以上の厚さを有することが好ましい。つまり、透明性保護膜53は、かかるかご型シルセスキオキサンの割合の下、優れた耐傷付性を確保し且つ割れを防止するために、5μm以上80μm以下の厚さを有することが好ましい。これらの点で第1実施形態の透明積層体1と異なる。その他の構成は第1実施形態と同様であり、以下、説明を省略する。」

(甲1ケ)
「[0090] (第2実施形態による透明積層体の製造方法)
本発明の第2実施形態による透明積層体51の製造方法は、前記の透明樹脂基材52を準備する準備工程と、透明プライマ層55を構成する塗料組成物を透明樹脂基材52の少なくとも一方の面上に塗布する第1塗布工程と、透明性保護膜53を構成する塗料組成物を、前記透明プライマ層55を構成する塗料組成物上に塗布する第2塗布工程と、透明樹脂基材52の耐熱温度未満の雰囲気温度で光を照射して塗料組成物を光硬化させ、透明樹脂基材52上に透明プライマ層55及び透明性保護膜53を設ける光硬化工程とを含む」

(甲1コ)
「実施例
[0095] 以下、本発明による透明積層体及び透明積層体の製造方法を、実施例及び比較例を挙げて説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。尚、実施例において、部及び%は、重量部及び重量%を意味する。また、以下の実施例では、ガラス微粒子としてシリカ微粒子を用いる。
[0096] (シリコーン樹脂組成物の合成例)
[合成例1]
撹拌機、滴下ロート及び温度計を備えた反応容器に、溶媒として2-プロパノール(IPA)40ml、及び塩基性触媒として5%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液(TMAH水溶液)を加えた。滴下ロートに、IPA15mlと3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製:SZ-6030)12.69gを加えた。続いて反応容器を撹拌しながら、室温で3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランのIPA溶液を30分かけて滴下した。滴下終了後、非加熱環境で2時間撹拌した。続いて減圧下で溶媒を除去し、トルエン50mlで溶解させた。反応溶液を飽和食塩水で中性になるまで水洗し、無水硫酸マグネシウムで脱水した。続いて無水硫酸マグネシウムをろ別し、濃縮させた。これにより、8.6gの加水分解生成物(シルセスキオキサン)が得られた。かかるシルセスキオキサンは、種々の有機溶剤に可溶な無色の粘性液体であった。次に、撹拌機、ディンスターク及び冷却管を備えた反応容器に、得られたシルセスキオキサン20.65g、トルエン82ml及び10%TMAH水溶液3.0gを入れ、徐々に加熱し水を留去した。続いてこれを130℃まで加熱し、トルエンを還流温度で再縮合反応を行った。このときの反応溶液の温度は108℃であった。トルエン還流後2時間撹拌し、反応を終了させた。反応溶液を飽和食塩水で中性になるまで水洗し、無水硫酸マグネシウムで脱水した。続いて無水硫酸マグネシウムをろ別し、濃縮させた。これにより、目的物であるかご型シルセスキオキサン(混合物)が18.77g得られた。得られたかご型シルセスキオキサンは、種々の有機溶剤に可溶な無色の粘性液体であった。再縮合反応後の反応物の液体クロマトグラフィー分離後の重量分析を行い、かご型シルセスキオキサンを約60%含むシリコーン樹脂組成物であることを確認した。」

(甲1サ)
「[0098] (シリカ微粒子の作成例)
撹拌機、温度計及び冷却管を備えた反応容器に、シリカ微粒子としてイソプロパノール分散コロイダルシリカゾル(粒子径70?100nm、固形分30重量%、日産化学工業(株)製:IPA-ST)を100重量部(シリカ固形分30重量部)と、シラン化合物として3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製:SZ-6030)7重量部とを装入した。続いて、撹拌しながら徐々に加熱し、反応溶液の温度が68℃に到達後、さらに5時間加熱して表面処理を行い、シリカ微粒子を作成した。尚、上記7重量部は、後述する表1の実施例1の場合であり、その他の実施例、比較例ではシリカ固形分の100重量部に対するシラン化合物の重量部は、後述する表1,2に従うものとする。
[0099] 微粒子の固形分100重量部に対してシリコーン樹脂組成物100重量部を混合し、減圧下で揮発溶媒分を徐々に加熱しながら除去した。このとき最終的な温度は80℃とした。続いて、光重合開始剤として1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2.5重量部を混合し、透明なシリカ微粒子含有シリコーン樹脂組成物を得た。」

(甲1シ)
「[0102] ジルコニア微粒子:撹拌機、温度計及び冷却管を備えた反応容器に、金属酸化物微粒子として2-プロパノール分散ジルコニア(固形分30重量%、日産化学工業(株):ZR-30AL)を100重量部(ジルコニア固形分30重量部)と、シラン化合物として3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製:SZ-6030)7重量部とを装入した。続いて、撹拌しながら徐々に加熱し、反応溶液の温度が82℃に到達後、さらに5時間加熱して表面処理を行い、ジルコニア微粒子を作成した。
[0103] セリア微粒子:撹拌機、温度計及び冷却管を備えた反応容器に、金属酸化物微粒子として2-プロパノール分散セリア(固形分30重量%、日産化学工業(株):CE-20A)を100重量部(セリア固形分30重量部)と、シラン化合物として3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製:SZ-6030)7重量部とを装入した。続いて、撹拌しながら徐々に加熱し、反応溶液の温度が82℃に到達後、さらに5時間加熱して表面処理を行い、セリア微粒子を作成した。 亜鉛酸化物微粒子:撹拌機、温度計及び冷却管を備えた反応容器に、金属酸化物微粒子として2-プロパノール分散酸化亜鉛(固形分30重量%、ハクスイテック(株)製:F-2)を100重量部(酸化亜鉛固形分30重量部)と、シラン化合物として3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製:SZ-6030)7重量部とを装入した。続いて、撹拌しながら徐々に加熱し、反応溶液の温度が82℃に到達後、さらに5時間加熱して表面処理を行い、亜鉛酸化物微粒子を作成した。
・・・
[0105] 尚、金属酸化物固形分の100重量部に対するシラン化合物の重量部は、後述する表1,2に従うものとする。
[0106] (金属酸化物微粒子含有シリコーン樹脂組成物の作成例)
前記のシラン化合物で表面処理した金属酸化物微粒子の固形分100重量部に対してシリコーン樹脂組成物100重量部を混合し、減圧下で揮発溶媒分を徐々に加熱しながら除去した。このとき最終的な温度は80℃とした。続いて、光重合開始剤として1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2.5重量部を混合し、透明な金属酸化物微粒子含有シリコーン樹脂組成物を得た。
[0107] (透明積層体の作成例)
透明樹脂基材として、ポリカーボネート(帝人化成(株)製:L-1250)又はポリメチルメタクリレート((株)カネカ製)を用いた。まず、3mmの略均一な厚さを有する透明樹脂基材上に、透明性保護膜が所定の厚みになるようスペーサを接着した。続いて、光重合開始剤として1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2.5部を混合した、透明性保護膜を構成する塗料組成物を流延し、80℃で3分間加熱を行った。続いて、PETフィルムで押さえつけ余分な塗料組成物を除去した。その後、PETフィルムでカバーした状態で200nm以上400nm以下の波長域の照度が505mW/cm^(2) の条件で、水銀ランプを用いて照射し、8400mJ/cm^(2) の積算露光量で硬化させ、透明性保護膜を設けた。
[0108] (透明プライマ層を含む透明積層体の作成例)
透明樹脂基材として、ポリカーボネート(帝人化成(株)製:L-1250)を用いた。まず、光重合開始剤として1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2.5部を混合した、透明性保護膜を構成する塗料組成物をPETフィルム上に流延し、ブレードで余分な第2塗料組成物を除去した。続いて、透明樹脂基材上に、透明プライマ層が所定の厚みになるようスペーサを接着し、透明プライマ層を構成する塗料組成物を流延し、80℃で3分間加熱を行った。続いて、透明性保護膜を構成する塗料組成物が付着した状態のPETフィルムを用いて、透明プライマ層を構成する塗料組成物が付着した状態の透明樹脂基材を押さえつけ、余分な透明プライマ層となる塗料組成物を除去した。次に、PETフィルムでカバーした状態で200nm以上400nm以下の波長域の照度が505mW/cm^(2) の条件で、水銀ランプを用いて照射し、8400mJ/cm^(2) の積算露光量で硬化させ、透明プライマ層及び透明性保護膜を設け、これにより透明積層体を作成した。
[0109] 下記の表1は、透明プライマ層を備えない透明積層体について、各実施例、比較例において使用した透明樹脂基材の材料、透明性保護膜の組成及び厚さを示す。
[0110]
[表1]

[0111] また、下記の表2は、透明プライマ層を備えた透明積層体について、各実施例、比較例において使用した透明樹脂基材の材料、透明プライマ層の組成及び厚さ、並びに透明性保護膜の組成及び厚さを示す。
[0112][表2]

[0113] 表1,2において、各記号は以下のものを示す。
基材樹脂
S1:ポリカーボネート(PC)(帝人化成(株)製:L-1250)
S2:ポリメチルメタクリレート(PMMA)((株)カネカ製) シリコーン樹脂組成物(硬化性樹脂)
A:合成例1で得られた化合物(アクリロイル基)
B:合成例2で得られた化合物(ビニル基)
C:1,3,5-トリス(3-メルカプトブチルオキシエチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)トリオン(昭和電工(株)製:カレンズMT-NR1)
D:トリメチロールプロパントリアクリレート
E:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート
F:マレイン酸ジアリル
G:オクタキス[[3-(2,3-エポキシプロポキシ)プロピル)]-ジメチルシロキシ]オクタシルセスキオキサン(Mayaterials社製:Q-4)
H:1,4-シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル(新日本理化(株)製:リカレジンDME-100)
I:1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(東京化成工業(株)製)
紫外線吸収剤
UV1?UV3:ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤(BASFジャパン(株)製:TINUVIN400,TINUVIN477,TINUVIN479)
光安定剤
ヒンダートアミン系光安定剤(BASFジャパン(株)製:TINUVIN123)
シリカ微粒子
P1:イソプロパノール分散コロイダルシリカ(粒子径10?15nm、日産化学工業(株)製:IPA-ST)
P2:イソプロパノール分散コロイダルシリカ(粒子径70-100nm、日産化学工業(株)製:IPA-ST-ZL) 金属酸化物微粒子
P3:メタノール分散酸化チタン(平均粒子径13nm、日揮触媒化成(株)製:1120Z)
P4:2-プロパノール分散酸化スズ(粒子径5?20nm、日産化学工業(株)製:CX-S303IP)
P5:2-プロパノール分散ジルコニア(平均粒子径91nm、日産化学工業(株)製:ZR-30AL)
P6:2-プロパノール分散セリア(粒子径8?12nm、日産化学工業(株)製:CE-20A)
P7:2-プロパノール分散酸化亜鉛(平均粒子径65nm、ハクスイテック(株)製:F-2)
P8:2-プロパノール分散酸化アンチモン(平均粒子径15nm、日産化学工業(株)製:CX-Z210IP-F2) アクリル樹脂組成物(表2のみ)
PA:ジシクロペンタニルジアクリレート(共栄社化学(株)製:ライトアクリレートDCP-A)
PB:PEG400-ジアクリレート(共栄社化学(株)製:ライトアクリレート9EG-A)
PC:アクリルコポリマーC
[0114] 上記基材S1は、140℃の耐熱性(JISK7191B法)、並びに室温で2.2GPaの弾性率及び13kgf/mm^(2)のビッカース硬度を有する。同様に、基材S2は、100℃の耐熱性(JISK7191B法)、並びに室温で3.1GPaの弾性率及び20kgf/mm^(2)のビッカース硬度を有する。」

(甲1ス)
「[0117] また、表1,2中のシリコーン樹脂組成物A?Iのうち、合成例1,2で得られた化合物A,Bが、かご型シルセスキオキサンを含む。上述のように、化合物A,Bは、かご型シルセスキオキサンを約60%含む。表1,2中の「かご型シルセスキオキサンの割合(重量%)」では、これを考慮して、シリコーン樹脂組成物に占めるかご型シルセスキオキサンの割合を示している。
[0118] また、表1,2中の「シリカ微粒子 金属酸化物微粒子 (重量部)」は、透明積層体におけるシリカ固形分又は金属酸化物固形分の重量部を指し、括弧内の数字は、シリカ固形分又は金属酸化物固形分100重量部に対するシラン化合物の重量部を指す。
[0119] また、表1,2中で*(アスタリスク)を付した組成物の数値については、仕込み値を表すものとする。
[0120] また、表1,2には、実施例及び比較例によって得られた透明積層体に対して行った試験の評価結果を示している。
[0121] 各試験は、下記の方法により行った。
[0122] 初期外観:各試験を行う前の透明積層体1,51の外観を目視にて観察した。透明積層体1,51に割れや剥離が生じていない場合は○とした。
[0123] 耐傷付性試験:図10に示す耐傷付性の試験装置を用いて試験を行った。綿で覆われ、加重腕13に取り付けられた傷付子14を、試験片Gとの間にダストDが存在する状態で、矢印(ア)で示す方向に前後移動させた。加重腕13が印加する加重は2N、傷付子14の移動距離は120mm、往復速度は0.5回/sとし、雰囲気温度20℃で試験を行った。ダストDは、平均粒径300μm以下のシリカ粒子及びアルミナ粒子を含む粒子群とした。表1,2に示す耐傷付性の数値は、試験開始前の表面光沢値を100とした場合の所定の回数往復させた後の表面光沢値を示す。表面光沢値は、図11に示す測定装置によって、光源21から試験片Gに照射光を照射して、受光器22によって受光した反射光の強度に基づいて算出した。光沢保持率(=試験後の表面光沢値/試験前の表面光沢値)が70%を超えた場合に、優れた耐傷付性が確保されていると判断した。
[0124] 耐摩耗性試験:JISR3212に準拠してテーバ摩耗試験を実施し、摩耗輪が500回転した後の透明積層体の曇価(%)を測定した。表1の数値は、(試験後の曇価)-(試験前の曇価)を表す。試験前後での曇価変化が10%未満の場合に、優れた耐摩耗性が確保されていると判断した。
[0125] 耐候性試験:図12に示すように、キセノン光源31及び散水器32を備えた耐候性試験装置を使用して、1)ブラックパネル温度73℃、湿度35%の条件で、照度180W/m^(2)の光を60minの間照射した。続いて、2)ブラックパネル温度50℃、湿度95%の条件で、照度180W/m^(2)の光を80minの間照射した。1),2)を1サイクルとして、このサイクルを繰り返した。積算照射光量は、200MJ/m^(2)及び600MJ/m^(2)とした(表2)。透明積層体1,51の外観変化を目視にて観察した。割れや色変化がなければ○とした。」

(甲1セ)
「[請求項1] 板状の透明樹脂基材と、該透明樹脂基材の少なくとも一方の面上に設けられた透明性保護膜とを備えた透明積層体であって、
前記透明樹脂基材は、70℃以上の耐熱性を有し、
前記透明性保護膜は、10μm以上80μm以下の厚さを有し、かつ、かご型シルセスキオキサンを9重量%以上含有するシリコーン樹脂組成物と、シラン化合物で表面処理され且つ10nm以上100nm以下の粒子径を有するガラス微粒子又は金属酸化物微粒子からなる微粒子とを含み、
前記微粒子は、前記シリコーン樹脂組成物100重量部に対して5重量部以上400重量部以下の重量比を有し、
前記シラン化合物は、微粒子に対して15%重量%以上80重量%以下の重量比を有することを特徴とする透明積層体。
[請求項2] 前記透明樹脂基材は、ポリカーボネート樹脂又はアクリル樹脂を含み、かつ、1mm以上の略均一な厚さ、並びに室温下で、1GPa以上の弾性率及び10kgf/mm^(2)以上のビッカース硬度を有することを特徴とする、請求項1に記載の透明積層体。
[請求項3] 板状の透明樹脂基材と、該透明樹脂基材の少なくとも一方の面上に設けられた透明プライマ層と、該透明プライマ層上に設けられた透明性保護膜とを備えた透明積層体であって、
前記透明樹脂基材は、70℃以上の耐熱性を有し、
前記透明性保護膜は、5μm以上80μm以下の厚さを有し、かつ、かご型シルセスキオキサンを9重量%以上含有するシリコーン樹脂組成物と、シラン化合物で表面処理され且つ10nm以上100nm以下の粒子径を有するガラス微粒子又は金属酸化物微粒子からなる微粒子とを含み、
前記微粒子は、前記シリコーン樹脂組成物100重量部に対して5重量部以上400重量部以下の重量比を有し、
前記シラン化合物は、微粒子に対して15%重量%以上80重量%以下の重量比を有し、
前記プライマ層は、アクリル樹脂を含み、かつ、5μm以上の厚さを有することを特徴とする透明積層体。
[請求項4] 前記透明樹脂基材は、ポリカーボネート樹脂又はアクリル樹脂を含み、かつ、1mm以上の略均一な厚さ、並びに室温下で、1GPa以上の弾性率及び10kgf/mm^(2)以上のビッカース硬度を有することを特徴とする、請求項3に記載の透明積層体。
[請求項5] 移動体のウインド材であることを特徴とする、請求項1?4のいずれか1項に記載の透明積層体。
[請求項6] 70℃以上の耐熱性、1mm以上の略均一な厚さ、及び、室温下で1GPa以上の弾性率を有する板状の透明樹脂基材を準備する準備工程と、
シリコーン樹脂組成物を含む塗料組成物を前記透明樹脂基材の少なくとも一方の面上に塗布する塗布工程と、
前記透明樹脂基材の耐熱温度未満の雰囲気温度で光を照射して塗料組成物を光硬化させ、前記透明樹脂基材上に透明性保護膜を設ける光硬化工程とを含み、
前記塗布工程で用いるシリコーン樹脂組成物は、シラン化合物で表面処理され且つ10nm以上100nm以下の粒子径を有するガラス微粒子又は金属酸化物微粒子からなる微粒子を含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の透明積層体の製造方法。
[請求項7] 70℃以上の耐熱性、1mm以上の略均一な厚さ、及び、室温下で1GPa以上の弾性率を有する板状の透明樹脂基材を準備する準備工程と、
アクリル樹脂を含む塗料組成物を前記透明樹脂基材の少なくとも一方の面上に塗布する第1塗布工程と、
シラン化合物で表面処理され且つ10nm以上100nm以下の粒子径を有するガラス微粒子又は金属酸化物微粒子からなる微粒子を含有するシリコーン樹脂組成物を含む塗料組成物を、前記アクリル樹脂を含む塗料組成物上に塗布する第2塗布工程と、
前記透明樹脂基材の耐熱温度未満の雰囲気温度で光を照射して前記塗料組成物を光硬化させ、前記透明樹脂基材上に透明プライマ層及び透明性保護膜を設ける光硬化工程とを含むことを特徴とする、請求項3又は4に記載の透明積層体の製造方法。」

イ 甲2に記載された事項
(甲2ア)
「[0001] 本発明は、シリカ含有シリコーン樹脂組成物及びその三次元架橋体である樹脂成形体に関するものである。」

(甲2イ)
「[0013] 本発明者らは、上記課題を達成するために検討を重ねた結果、ラジカル共重合が可能な不飽和化合物と籠型のシリコーン樹脂にシリカ微粒子を特定比率で配合することで低熱膨張性、透明性に優れた無機ガラスの代替用途に好適に用いられる透明なシリカ含有シリコーン樹脂成形体を与えることが可能であることを見出し、本発明を完成した。
[0014] 本発明は、一般式(1)、
[RSiO_(3/2)]_(n) (1)
(但し、Rは(メタ)アクリロイル基を有する有機官能基、nは8、10又は12である)
で表され、構造単位中に籠型構造を有するポリオルガノシルセスキオキサンを主たる成分とするシリコーン樹脂と、分子中に-R^(3)-CR^(4)=CH_(2)又は-CR^(4)=CH_(2)(但し、R^(3)はアルキレン基、アルキリデン基又は-OCO-基を示し、R^(4)は水素又はアルキル基を示す)で表される不飽和基を少なくとも1個含み、前記シリコーン樹脂とラジカル共重合が可能な不飽和化合物を、1:99?99:1の重量割合で配合したシリコーン樹脂組成物にシラン化合物で処理されたシリカ微粒子が1?70重量%配合されていることを特徴とする
シリカ含有シリコーン樹脂組成物である。
[0015] ここで用いられる、シリコーン樹脂は、一般式(3)、
RSiX_(3) (3)
(Rは(メタ)アクリロイル基を有する有機官能基であり、Xは加水分解性基を示す。)
で表されるケイ素化合物を極性溶媒及び塩基性触媒存在下で加水分解反応させると共に一部縮合させ、得られた加水分解生成物を更に非極性溶媒及び塩基性触媒存在下で再縮合させ製造されたものであることが好ましく、その分子中ケイ素原子数と(メタ)アクリル基数が等しく、且つ籠型構造を有するシリコーン樹脂であることがよい。
[0016] 上記シリコーン樹脂組成物に混合するラジカル共重合が可能な不飽和化合物は、 下記一般式 (4)


(但し、Rは (メタ)アタリロイル基を有する有機官能基であり、Xは水素、または (メタ) アタリロイル基を有する有機官能基、nは0または1の整数)で表せる水酸基を有した不飽和化合物を含むことが好ましい。
[0017] また、上記シリコーン樹脂組成物に添加されるシリカ微粒子は、シリカ微粒子の平均粒子径が1?100nmであり、シリカ微粒子に対し0.1?80重量%の下記一般式(5)
R_(m)SiA_(n)X_(4-m-n) (5)
(但し、Rは(メタ)アクリロイル基を有する有機官能基であり、Aはアルキル基、Xはアルコキシル基またはハロゲン原子、mおよびnはm+nが1?3の整数であることを満たし、mは0または1、nは0?3の整数)で表されるシラン化合物で処理されているされていることがよく、シリカ微粒子の配合量は、シリコーン樹脂組成物に対し1?70重量%であることが望ましい。」

(甲2イ)
「[0037] 本発明のシリカ含有シリコーン樹脂組成物は A)シリコーン樹脂脂及び B)不飽和基を有しシリコーン樹脂と共重合可能な不飽和化合物を主成分とする。その混合比率は、1 : 99?99 : 1の範囲であるが、シリコーン樹脂含有量をA、不飽和化合物含有量をBとした場合、好ましくは 10/90≦A/B≦80/20、より好ましくは 20/80≦A/B≦60/40である。シリコーン樹脂比率が 10%未満であると、硬化後の成形体の耐熱性、透明性、吸水性等の物性値が低下するため好ましくない。また、シリコーン樹脂比率が80%を超えると、組成物の粘度が増大するため、成形体の製造が困難となるのでやはり好ましくない。
[0038] この不飽和化合物は、上記一般式(4)で表されるような水酸基を有する不飽和化合物及び水酸基を有さない不飽和化合物に分類される。一般式(4)でRは(メタ)アクリロイル基を有する有機官能基であり、Xは水素又は(メタ)アクリロイル基を有する有機官能基である。nは0又は1の整数である。透明性の良好化な成形体を得るためには、水酸基含む不飽和化合物が好ましい。これは、水酸基がシリカ微粒子の表面に存在するシラノール基に作用してシリカ微粒子の凝集を抑え、樹脂中におけるシリカ微粒子の分散性を高めるからと考えられる。一方水酸基を有さない不飽和化合物ではシリカ微粒子を多量に配合すると、凝集により樹脂中に均一に分散されず透明性が悪化してしまう場合がある。更に、別の観点から不飽和化合物は、構造単位の繰り返し数が2?20程度の重合体である反応性オリゴマーと、低分子量、低粘度の反応性モノマーに大別される。また、不飽和基を1個有する単官能不飽和化合物と2個以上有する多官能不飽和化合物に大別される。更に多官能不飽和化合物は分子構造に脂環構造をもたない非脂環式不飽和化合物と脂環構造を有する脂環式不飽和化合物に分類される。良好な3次元架橋体を得るためには、多官能不飽和化合物を極少量(1%以下程度)含むことがよいが、共重合体の耐熱性、強度等を期待する場合には 1分子当たり平均1.1個以上、好ましくは1.5個以上、より好ましくは1.6?5個とすることがよい。このためには、単官能不飽和化合物と不飽和基を2?5個有する多官能不飽和化合物を混合使用して、平均の官能基数を調整することがよい。」

(甲2ウ)
「[0041] 反応性の非脂環式多官能モノマーとしては、トリプロピレングリコールジアクリレート、1, 6?へキサンジオールジアクリレート、ビスフエノールAジグリシジルエーテルジアクリレート、・・・等を例示することができる。反応性非環式多官能モノマーのなかでも一般式(4)で表される水酸基を有するモノマーとしては、ペンタエリスリトールトリアクリレート、グリセリンジメタクリレート、グリセロールアクリレートメタタリレート等を例示するこ とが出来る。これらは分子中に水酸基を有するためシリカ微粒子表面に存在する水酸基と相互作用することが可能であり、樹脂組成物中のシリカ微粒子を制御することが樹脂中への均一な多量の配合を可能にする。」

(甲2エ)
「[0074] 本発明によれば、高耐熱、高透明性で、高い寸法安定性を有する成形体を得ることができ、例えば、レンズ、光ディスク、光ファイバ一及びフラットパネルディスプレイ基板等の光学用途や各種輸送機械や住宅等の窓材など様々な用途に用いることができる。成形体は、軽量、高衝撃強度の透明部材であり、ガラス代替材料としてもその利用範囲は広範となり、産業上の利用価値も高い。」

ウ 甲1に記載された発明
摘記事項(甲1ア)ないし(甲1セ)、特に(甲1セ)の請求項1、3及び4の記載からみて、甲1には以下の2つの透明積層体に係る発明が記載されていると認められる。

「板状の透明樹脂基材と、該透明樹脂基材の少なくとも一方の面上に設けられた透明性保護膜とを備えた透明積層体であって、
前記透明樹脂基材は、70℃以上の耐熱性を有し、
前記透明性保護膜は、10μm以上80μm以下の厚さを有し、かつ、かご型シルセスキオキサンを9重量%以上含有するシリコーン樹脂組成物と、シラン化合物で表面処理され且つ10nm以上100nm以下の粒子径を有するガラス微粒子又は金属酸化物微粒子からなる微粒子とを含み、
前記微粒子は、前記シリコーン樹脂組成物100重量部に対して5重量部以上400重量部以下の重量比を有し、
前記シラン化合物は、微粒子に対して15%重量%以上80重量%以下の重量比を有することを特徴とする透明積層体。」(以下、「甲1発明1」という。)

「板状の透明樹脂基材と、該透明樹脂基材の少なくとも一方の面上に設けられた透明プライマ層と、該透明プライマ層上に設けられた透明性保護膜とを備えた透明積層体であって、
前記透明樹脂基材は、70℃以上の耐熱性を有し、
前記透明性保護膜は、5μm以上80μm以下の厚さを有し、かつ、かご型シルセスキオキサンを9重量%以上含有するシリコーン樹脂組成物と、シラン化合物で表面処理され且つ10nm以上100nm以下の粒子径を有するガラス微粒子又は金属酸化物微粒子からなる微粒子とを含み、
前記微粒子は、前記シリコーン樹脂組成物100重量部に対して5重量部以上400重量部以下の重量比を有し、
前記シラン化合物は、微粒子に対して15%重量%以上80重量%以下の重量比を有し、
前記プライマ層は、アクリル樹脂を含み、かつ、5μm以上の厚さを有することを特徴とし、
前記透明樹脂基材は、ポリカーボネート樹脂またはアクリル樹脂を含み、かつ、1mm以上の略均一な厚さ、並びに室温下で1GPa以上の弾性率および10kgf/mm^(2)以上のビッカース硬度を有する、透明積層体。」(以下、「甲1発明2」という。)

また、摘記事項(甲1セ)の請求項6、7の記載からみて、以下の2つの製造方法の発明も記載されていると認められる

「70℃以上の耐熱性、1mm以上の略均一な厚さ、及び、室温下で1GPa以上の弾性率を有する板状の透明樹脂基材を準備する準備工程と、
シリコーン樹脂組成物を含む塗料組成物を前記透明樹脂基材の少なくとも一方の面上に塗布する塗布工程と、
前記透明樹脂基材の耐熱温度未満の雰囲気温度で光を照射して塗料組成物を光硬化させ、前記透明樹脂基材上に透明性保護膜を設ける光硬化工程とを含み、
前記塗布工程で用いるシリコーン樹脂組成物は、シラン化合物で表面処理され且つ10nm以上100nm以下の粒子径を有するガラス微粒子又は金属酸化物微粒子からなる微粒子を含有することを特徴とする、甲1発明1の透明積層体の製造方法。」(以下、「甲1方法発明1」という。)

「70℃以上の耐熱性、1mm以上の略均一な厚さ、及び、室温下で1GPa以上の弾性率を有する板状の透明樹脂基材を準備する準備工程と、
アクリル樹脂を含む塗料組成物を前記透明樹脂基材の少なくとも一方の面上に塗布する第1塗布工程と、
シラン化合物で表面処理され且つ10nm以上100nm以下の粒子径を有するガラス微粒子又は金属酸化物微粒子からなる微粒子を含有するシリコーン樹脂組成物を含む塗料組成物を、前記アクリル樹脂を含む塗料組成物上に塗布する第2塗布工程と、
前記透明樹脂基材の耐熱温度未満の雰囲気温度で光を照射して前記塗料組成物を光硬化させ、前記透明樹脂基材上に透明プライマ層及び透明性保護膜を設ける光硬化工程とを含むことを特徴とする、甲1発明2の透明積層体の製造方法。」(以下、「甲1方法発明2」という。)

(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア) 対比
本件特許発明1と甲1発明1を対比する。
甲1発明1の「板状の透明樹脂基材」、「透明樹脂基材の少なくとも一方の面上に設けられた透明性保護膜」、「透明積層体」 、「かご型シルセスキオキサン」、「10nm以上100nm以下の粒子径を有するガラス微粒子又は金属酸化物微粒子からなる微粒子」は、本件特許発明1の「板状の透明樹脂基材」、「透明樹脂基材の少なくとも一方の面上に設けられた透明性保護膜」、「透明積層体」、「かご型シルセスキオキサン(a)」、「10nm以上100nm以下の平均粒子径を有する無機酸化物微粒子」にそれぞれ相当する。
また、甲1発明1の透明性保護膜に用いる「シリコーン樹脂組成物」は、本件特許発明1の透明性保護膜に用いる「コーティング組成物」に相当し、透明性保護膜として塗布され、硬化させるものであることは摘記事項(甲1セ)の請求項6等の記載から明らかであり、さらに、甲1発明1のシリコーン樹脂組成物に配合する微粒子の配合量は、本件特許発明1の無機酸化物微粒子の配合量と重複し、また、甲1発明1の透明性保護膜の厚さは、本件特許発明1の透明性保護膜の厚さと重複する。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明1とは、
「板状の透明樹脂基材と、該透明樹脂基材の少なくとも一方の面上に設けられた透明性保護膜とを備えた透明積層体であって、
前記透明樹脂基材は、70℃以上の耐熱性を有し、
前記透明性保護膜は、コーティング組成物を塗装し硬化させることによって得られる、
5μm以上150μm以下の厚さを有する保護膜であり、
前記コーティング組成物は、かご型シルセスキオキサン(a)および10nm以上100nm以下の平均粒子径を有する無機酸化物微粒子、を含有し、
前記コーティング組成物中に含まれる前記無機酸化物微粒子の量は、前記コーティング組成物に含まれる樹脂成分100重量部に対して5重量部以上400重量部以下である、
透明積層体。」
の発明である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本件特許発明1のコーティング組成物は、「水酸基含有多官能モノマー(b)を含む硬化性樹脂を含み、(b)成分は硬化性樹脂100重量部に対して10?85重量部の割合で含む」と特定されるのに対し、甲1発明1ではこのような特定がない点。

<相違点2>
本件特許発明1のかご型シルセスキオキサンの量は、「前記コーティング組成物に含まれる硬化性樹脂100重量部に対して9重量部以上である」と特定されるのに対し、甲1発明1では「シリコーン樹脂組成物において9重量%以上含有される」と特定される点。

<相違点3>
本件特許発明1の無機酸化物微粒子の量は、「前記コーティング組成物に含まれる硬化性樹脂100重量部に対して5重量部以上400重量部以下である、」と特定されるのに対し、甲1発明1では、「シリコーン樹脂組成物100重量部に対して5重量部以上400重量部以下である、」と特定される点。

(イ) 判断
相違点1について検討する。
本件特許発明1は、本件特許明細書の段落【0015】に記載のあるとおり、優れた耐摩耗性と耐傷付性とを共に有する透明積層体を得ることを目的としており、【0018】ないし【0019】に記載のとおり、硬化性樹脂中のかご型シルセスキオキサン(a)の割合と保護膜としての厚さを特定の範囲とすることで耐傷付性を確保しつつ、割れにくい透明性保護膜を備えた透明性積層体が得られ、硬度の高い無機酸化物微粒子が硬化性樹脂に分散されることで耐摩耗性が付与され、さらに、硬化性樹脂が水酸基含有多官能モノマー(b)とかご型シルセスキオキサン(a)を含むこと、および無機酸化物微粒子と水酸基含有多官能モノマー(b)の水酸基との間で水素結合を生じることにより、耐擦傷性が発揮され、結果として、優れた耐摩耗性と耐傷付性に優れた保護膜が得られるものである。
一方、甲1には、摘記事項(甲1オ)に、シリコーン樹脂組成物(コーティング組成物に相当)に不飽和化合物を配合できることが記載され、例示された化合物の中に、水酸基含有多官能モノマーが2つ列挙されているが、不飽和化合物として、この水酸基含有多官能モノマーを特に耐傷付性のために採用することについての記載はない。
また、甲2には、摘記事項(甲2ア)ないし(甲2エ)の記載からみて、ガラスの代替材料としても用いることが可能な、高耐熱、高透明性を有する成形体を得ることができるシリコーン樹脂組成物が記載されており、該組成物は、シリカ微粒子と籠型シリコーン樹脂と不飽和化合物を配合することが記載され、不飽和化合物として、水酸基を有する不飽和化合物を用いることにより、シリカ微粒子を凝集させずに均一に分散させ、透明性を悪化させないことが指摘されているが、透明積層体に用いる保護膜に関する記載や、水酸基を有する不飽和化合物を用いることによって耐傷付性が付与されることに関する記載はない。
そうすると、相違点1について、甲1、甲2の記載をみても、甲1発明1に係る透明積層体の保護膜のシリコーン樹脂組成物(コーティング組成物)において、耐傷付性付与のために水酸基含有多官能性モノマーを採用する動機付けがないから、甲1発明1並びに甲1及び甲2に記載された事項に基いて、相違点1に係る事項を当業者が容易になし得たとすることはできない。
そして、本件特許発明1の効果について検討するに、本件特許明細書の実施例6と比較例4の結果をみれば、水酸基含有多官能モノマーを用いることにより、甲1及び甲2の記載からは予測できない格別顕著な効果が奏されることが理解できる。

なお、申立人は、本件特許発明1の効果について、特許異議申立書において、甲1の実施例と本件特許発明の実施例を対比し、水酸基多官能性モノマーを配合しない本件比較例4(甲1の実施例に相当)は、本件実施例6との関係において耐傷付性及び耐摩耗性において劣る結果となっているが、その他の甲1の実施例と本件特許発明の実施例との間では耐傷付性及び耐摩耗性で明確な差異はない旨の主張をし、本件特許発明1において、水酸基を有する不飽和化合物を選択的に用いたことによる格別な効果は認められない旨の主張をしている。
しかしながら、特許異議申立書の第46頁の表において対比した甲1の実施例と、本件特許発明の実施例および比較例4とは、同じ成分を示す記号で表記されているものの、使用している硬化性樹脂のモノマーの種類が異なるものであり(甲1の実施例 B(D)成分:トリメチロールプロパントリアクリレート 65重量部、(E)成分:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 10重量部、本件特許明細書の実施例および比較例4 B(D)成分:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 65重量部、比較例4 (E)成分:トリシクロデカンジアクリレート 10重量部)、評価の結果の数値により直接対比することはできないから、これらの比較により甲1の実施例と本件実施例との間で効果に明確な差異はないと判断することはできない。
そして、本件特許発明1に係る比較例4および実施例6との比較をすれば、本件特許発明1は格別顕著な効果を奏することが理解できるので、仮に、甲1発明1の実施例の構成に水酸基含有多官能モノマーを付加すれば、本件特許発明1と同様に、さらに耐傷付性及び耐摩耗性が向上することが推認できるものである。
よって、上記申立人の主張は採用できない。

(ウ) 小括
よって、本件特許発明1は、甲1発明1との間で相違点が存在し、すなわち甲1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許を受けることができないものではない。
また、本件特許発明1は、相違点2及び3について検討するまでもなく、相違点1において、甲1発明1並びに甲1及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

イ 本件特許発明2ないし5について
本件特許発明2ないし5は、請求項1を直接または間接的に引用するものであり、甲1発明1に対して、本件特許発明1と同様に相違点1を有しているから、上記アで述べたように、同じ判断がされる。
よって、本件特許発明2ないし5は、甲1発明1との間で相違点が存在し、すなわち甲1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許を受けることができないものではない。
また、本件特許発明2ないし5は、相違点2及び3について検討するまでもなく、相違点1において、甲1発明1並びに甲1及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

ウ 本件特許発明6について
(ア) 対比
本件特許発明6と甲1方法発明1を比較する。
甲1方法発明1は、甲1発明1の透明積層体の製造方法であり、一方、本件特許発明6はその構成からみて本件特許発明1の透明積層体の製造方法に対応するものであることを考慮すれば、各構成における相当関係は、上記ア(ア)のとおりであり、両発明は
「70℃以上の耐熱性、1mm以上の略均一な厚さ、および、室温下で1GPa以上の弾性率を有する板状の透明樹脂基材を準備する準備工程と、
コーティング組成物を、前記透明樹脂基材の少なくとも一方の面上に塗装し、次いで硬化させて、前記透明樹脂基材上に、5μm以上150μm以下の厚さを有する透明性保護膜を設ける、透明性保護膜形成工程と、
を包含する、透明積層体の製造方法であって、
前記コーティング組成物は、かご型シルセスキオキサン(a)および10nm以上100nm以下の平均粒子径を有する無機酸化物微粒子、を含有する、
透明積層体の製造方法。」
の発明である点で一致し、一方、以下の点で相違している。

<相違点4>
本件特許発明6では、透明積層体の製造方法に用いる透明保護膜を形成するコーティング組成物において、「前記水酸基含有多官能モノマーの量は、前記コーティング組成物に含まれる硬化性樹脂100重量部に対して10?85重量部であり、」と特定するのに対し、甲1方法発明1ではこのような特定がない点。

<相違点5>
本件特許発明6のかご型シルセスキオキサンの量は、前記コーティング組成物に含まれる硬化性樹脂100重量部に対して9重量部以上であると特定されるのに対し、甲1方法発明1ではシリコーン樹脂組成物において9重量%以上含有されると特定される点。

<相違点6>
本件特許発明6の無機酸化物微粒子の量は、前記無機酸化物微粒子の量は、「前記コーティング組成物に含まれる硬化性樹脂100重量部に対して5重量部以上400重量部以下である、」と特定されるのに対し、甲1方法発明1では、シリコーン樹脂組成物100重量部に対して5重量部以上400重量部以下である、」と特定される点。

(イ) 判断
相違点4の「水酸基含有多官能性モノマー」について、上記ア(イ)で相違点1について検討したのと同様の理由により、甲1方法発明1並びに甲1及び甲2に記載された事項に基いて当業者が容易になし得たものではない。

(ウ) 小括
よって、本件特許発明6は、甲1方法発明1との間で相違点が存在し、すなわち甲1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許を受けることができないものではない。
また、本件特許発明6は、相違点5及び6について検討するまでもなく、相違点4において、甲1方法発明1、すなわち甲1に記載された発明並びに甲1及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

エ 本件特許発明7について
本件特許発明7と甲1方法発明2を比較すると、
「70℃以上の耐熱性、1mm以上の略均一な厚さ、並びに室温下で、1GPa以上の弾性率および10kgf/mm^(2)以上のビッカース硬度を有する板状の透明樹脂基材を準備する準備工程と、
(メタ)アクリレート化合物を含むプライマ組成物を前記透明樹脂基材の少なくとも一方の面上に塗装して、厚さ5μm以上のプライマ層を設ける、プライマ層形成工程と、
コーティング組成物を用いて、前記プライマ層上にコーティング組成物からなる膜部を形成し、次いで硬化させて、前記プライマ層上に、5μm以上80μm以下の透明性保護膜を設ける、透明性保護膜形成工程と、
を包含する、透明積層体の製造方法であって、
前記コーティング組成物は、かご型シルセスキオキサン(a)および10nm以上100nm以下の平均粒子径を有する無機酸化物微粒子、を含有する、透明積層体の製造方法。」
の発明である点で一致し、上記ウの相違点4ないし6と同じ点で相違する。
そして、相違点4については、上記ウ(イ)の判断と同じであって、上記ア(イ)で相違点1について検討したのと同様の理由により、甲1方法発明2、すなわち甲1に記載された発明並びに甲1及び甲2に記載された事項に基いて当業者が容易になし得たものではない。
よって、本件特許発明7は、甲1方法発明2との間で相違点が存在し、すなわち甲1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許を受けることができないものではない。
また、本件特許発明7は、相違点5及び6について検討するまでもなく、相違点4において、甲1方法発明2、すなわち甲1に記載された発明並びに甲1及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

オ 本件特許発明8ないし9について
本件特許発明8ないし9は、請求項6または7を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明6ないし7と同様に判断される。
よって、本件特許発明8ないし9は、甲1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許を受けることができないものではない。
また、本件特許発明8ないし9は、甲1に記載された発明並びに甲1及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

カ まとめ
本件特許発明1ないし9は、甲1に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許を受けることができないものではないから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、取り消すべきものではない。
本件特許発明1ないし9は、甲1に記載された発明並びに甲1及び甲2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることはできたものではなく、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではないから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、取り消すべきものではない。


2 申立理由3(特許法第36条第6項第1号(同法第113条第4号))について
(1) 申立人の主張
申立人は、請求項1、6及び7に係る発明の「10nm以上100nm以下の平均粒子径を有する無機酸化物微粒子」について、表面処理をされていない微粒子が含まれるが、実施例では、シラン化合物で表面処理されている例が示されているのみで表面処理のない例はなく、一方、無機微粒子の表面処理の有無により透明性保護膜の特性も異なってくることは技術常識であるから、実施例の結果を、表面処理されていない無機酸化物微粒子の範囲まで拡張ないし一般化できない旨の主張をしている。

(2) 判断
しかしながら、本件特許明細書の段落【0019】の記載にあるとおり、水酸基含有多官能モノマーと無機酸化物微粒子との関係において、水酸基含有多官能モノマーの水酸基と無機酸化物微粒子との間で水素結合が生じることにより、本件特許発明の課題である耐傷付性が解決するものである。そして、実施例において、少ない表面処理の量の場合(実施例6:シリカ微粒子100重量部に対して表面処理のシラン化合物0.1重量部)であっても、表面処理の量が多い場合(実施例2:シリカ微粒子100重量部に対してシラン化合物23重量部、実施例7:シリカ微粒子100重量部に対してシラン化合物80重量部)と同様に、耐傷付性及び耐摩耗性の効果に優れることが示されているから、無機酸化物微粒子の表面処理がない場合であっても、当業者が本件特許発明に係る課題を解決できないと認識するものではない。
したがって、上記申立人の主張は採用できず、本件の請求項1、6及び7に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、同法第113条第4項に該当せず、取り消すべきものではない。


3 申立理由4(特許法第36条第6項第2号(同法第113条第4号))について
(1) 申立人の主張
申立人は、請求項1、6及び7において、「かご型シルセスキオキサン(a)および水酸基含有多官能モノマー(b)を含む硬化性樹脂」と硬化性樹脂に(a)及び(b)成分が含まれるとしているところ、「前記水酸基含有多官能モノマーの量は、前記コーティング組成物に含まれる硬化性樹脂100重量部に対して10?85重量部であり」と規定し、硬化性樹脂に既に含まれる(b)成分を、さらに硬化性樹脂に対して規定する形式であるから、最終的に含まれる水酸基含有多官能モノマーの含有量が不明であり、請求項1、6、7に係る発明及びこれらを引用する発明の範囲が不明確であると主張している(以下、「主張1」という。)。
また、請求項1において、「前記コーティング組成物中に含まれる前記無機酸化物微粒子の量は、前記コーティング組成物に含まれる樹脂成分100重量部に対して5重量部以上400重量部以下である」との規定があるが、「樹脂成分」が何を指すのか不明であるとの主張もしている(以下、「主張2」という。)。

(2) 判断
主張1について検討するに、「前記水酸基含有多官能モノマーの量は、前記コーティング組成物に含まれる硬化性樹脂100重量部に対して10?85重量部であり」との規定は、(a)及び(b)成分を含めた硬化性樹脂100重量部を全体として、水酸基含有多官能モノマーの占める割合がそのうち5重量部以上85重量部であることを意味すると理解できるから、当該記載は明確である。
そして、主張2についても、「樹脂成分」との用語は、「硬化性樹脂成分」を意図していることが他の請求項の記載や本件特許明細書の記載から理解できるから、当該用語は明確である。
したがって、上記申立人の主張は採用できず、本件の請求項1ないし9に係る発明の特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、同法第113条第4項に該当せず、取り消すべきものではない。


第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由によっては、請求項1ないし9に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-02-19 
出願番号 特願2014-73385(P2014-73385)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C08J)
P 1 651・ 121- Y (C08J)
P 1 651・ 537- Y (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 増永 淳司  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 岡崎 美穂
渕野 留香
登録日 2017-05-12 
登録番号 特許第6135582号(P6135582)
権利者 マツダ株式会社
発明の名称 透明性積層体およびその製造方法  
代理人 田中 光雄  
代理人 佐藤 剛  
代理人 後藤 裕子  
代理人 山田 卓二  

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