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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
管理番号 1338155
異議申立番号 異議2018-700023  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-04-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-01-11 
確定日 2018-03-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6166828号発明「光透過性導電フィルム及びパターン状の導電層を有する光透過性導電フィルムの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6166828号の請求項1?4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6166828号の請求項1?4に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成28年9月29日に出願され、平成29年6月30日に特許権の設定登録がされ、同年7月19日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、平成30年1月11日に特許異議申立人 岩崎勇により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6166828号の請求項1?4の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1?4」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものである。

第3 申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として甲第1号証?甲第7号証を提出し、以下の理由により、請求項1?4に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

1 申立理由1
本件発明1?4は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?4に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

2 申立理由2
本件発明1、2は、甲第1号証?甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、2に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

3 申立理由3
本件発明3、4は、甲第1号証?甲第7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項3、4に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

[証拠方法]
甲第1号証:特開2000-111931号公報
甲第2号証:特開2010-269504号公報
甲第3号証:特開2014-208471号公報
甲第4号証:特開2014-203775号公報
甲第5号証:特開2014-104751号公報
甲第6号証:特開2016-157021号公報
甲第7号証:特開2016-6562号公報

第4 甲号証の記載事項
1 本件特許に係る出願日前に頒布された甲第1号証には、「ITO透明導電膜付き基板およびそれを用いた液晶表示素子」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている(なお、下線は当合議体が付加したものであり、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
(1a) 「【請求項1】 透明基板上にITO膜が成膜されたITO透明導電膜付き基板において、ITO透明導電膜の表面凹凸が10点平均粗さで表して15nm以上となるように、前記透明基板と前記ITO膜の間に凹凸形成層を設けたことを特徴とするITO透明導電膜付き基板。
【請求項2】 前記ITO透明導電膜の表面凹凸が、10点平均粗さで表して150nm以下であることを特徴とする請求項1に記載のITO透明導電膜付き基板。」

(1b) 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、透明基板上に比抵抗が小さく、かつ膜表面に凹凸を有するITO(錫含有酸化インジウム)多結晶の透明導電膜が成膜された基板に関し、とりわけカラーフィルタ上にITO透明導電膜が成膜された基板およびそれを用いた液晶表示素子に関する。」

(1c) 「【0007】ITO透明導電膜を液晶表示素子の透明電極として用いるとき、酸のエッチングによりITO透明導電膜の不要部分を除去する電極パターニングにより、所定形状の電極を形成する。微細形状の電極パターニングは、通常マスキングレジストを用いるフォトリソグラフ法により行われ、多くの場合ポジ型レジストが用いられる。ここでネガ型レジストに比べてポジ型レジストのITO膜に対する密着性は弱く、その密着性を向上させるために、表面の凹凸形状が10点平均粗さで表して15nm以上となるように、ITO膜と透明基板の間に下地層として凹凸形成層を設けるようにした。
【0008】これにより、後述するように、酸によるエッチングに際して、エッチング液によるいわゆるサイドエッチが抑制され、電極パターニングの寸法精度が向上する。」

(1d) 「【0010】表面が10点平均粗さで表して150nmより粗くなると、液晶表示素子を構成する液晶セル内の透明電極表面に液晶配向膜を均一の厚みに塗布することが難しくなり、液晶の配向不良により表示の乱れが生じるようになるからである。また、またポジ型レジストを均一に塗布することが難しくなり、電極パターニングの寸法にずれを生ずるからである。」

2 本件特許に係る出願日前に頒布された甲第2号証には、「透明導電性積層フィルム及び透明導電性積層シート並びにタッチパネル」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(2a) 「【請求項1】
透明プラスチックフィルムからなる基材の少なくとも片面に、硬化型樹脂を主たる構成成分とする硬化物層を設け、更にその上に透明導電性薄膜層を積層した透明導電性積層フィルムであって、JIS K7105(1999年版)によって規定される0.125mmの光学くしを使った場合の透過法の像鮮明度と2.0mmの光学くしを使った場合の透過法の像鮮明度の比が下記(1)式を満たすことを特徴とする透明導電性積層フィルム。
0.70≦0.125mm幅くしの値/2mm幅くしの値≦0.93 (1)
・・・
【請求項5】
前記透明導電性薄膜層の表面の表面張力が30?60dyne/cmであることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の透明導電性積層フィルム。」

(2b) 「【0016】
また、本発明において硬化物層を設ける際には、粒子の分散性を向上させるために、公知の添加剤、例えば、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などのレベリング剤を添加することが好ましい。しかしながらレベリング剤は透明導電性薄膜層を積層後に硬化物層/透明導電性薄膜層界面および、または透明導電性薄膜層表面にブリードアウトするため、透明導電性薄膜層の表面の表面張力を30dyne/cm以上60dyne/cm以下に制御することが重要である。透明導電性薄膜層の表面の表面張力が30dyne/cm未満の場合は透明導電性薄膜層と硬化物層との密着性が不十分となる。一方、透明導電性薄膜層の表面の表面張力が60dyne/cmを超えると透明導電性薄膜層の面の滑り性が低下し、ペン摺動耐久性が悪くなる。」

3 本件特許に係る出願日前に頒布された甲第3号証には、「積層フィルム及びそのフィルムロール、並びにそれから得られうる光透過性導電性フィルム及びそれを利用したタッチパネル」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(3a) 「【請求項1】
(A)光透過性導電性フィルム;及び
(B)保護フィルム
を含有する積層フィルムであって、
前記光透過性導電性フィルム(A)が、
(A-1)光透過性支持層;及び
(A-2)光透過性導電層;
をそれぞれ一以上含有し、かつ
少なくとも一方の最外層が一の光透過性導電層(A-2)である光透過性導電性フィルムであって、
前記光透過性導電性フィルム(A)の最外層の前記光透過性導電層(A-2)の少なくとも一が、前記積層フィルムの一方の表面に配置され、
保護フィルム(B)が、前記積層フィルムの他方の表面に配置されており、
前記光透過性導電層(A-2)側の前記表面の平均表面粗さRaが0.4nm?2nmであり、かつ
前記保護フィルム(B)側の前記表面が、レーザー顕微鏡観察において280μm×200μmの領域内に高さ0.3μm以上の突起が2?10個観察されるものであることを特徴とする、積層フィルム。
【請求項2】
前記光透過性導電層(A-2)側の表面の十点平均粗さR_(zjis)が、4nm?7nmである、請求項1に記載の積層フィルム。」

(3b) 「【0028】
光透過性導電層(A-2)は、特に限定されないが、結晶体若しくは非晶質体、又はそれらの混合体であってもよい。」

(3c) 「【0110】
【表1】



4 本件特許に係る出願日前に頒布された甲第4号証には、「透明導電性フィルム」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(4a) 「【請求項1】
透明性及び可撓性を有する基材と、
該基材の少なくとも一方の面に導電性樹脂を積層して形成した導電層とを備えた透明導電性フィルムであって、
前記導電層の表面を、
中心線平均粗さ(Ra_(75))が0.002μm以上0.02μm以下、
最大高さ(Rz)が0.03μm以上0.10μm以下、かつ
十点平均粗さ(Rz_(JIS94))が0.02μm以上0.05μm以下とした
透明導電性フィルム。」

(4b) 「【0051】
【表1】



5 本件特許に係る出願日前に頒布された甲第5号証には、「積層体」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(5a) 「【請求項1】
金属層(A)、樹脂フイルム(B)、透明接着層(C)、樹脂フイルム(D)、金属層(E)を、この順に積層してなる積層体であり、金属層(A)および金属層(E)はパターン加工されており、積層体の全光線透過率が70%以上であることを特徴とする、積層体。
・・・
【請求項6】
前記金属層(A)および金属層(E)の平均表面粗さ(Ra)が2?20nmであることを特徴とする、請求項1?5のいずれかに記載の積層体。」

(5b) 「【0015】
金属層(A)および金属層(E)は一種類の金属であっても、更に細かく積層されていても、合金であってもよいが、導電性があることが必要である。・・・」

(5c) 「【0032】
[本発明の用途]
本発明の積層体は両面に導電性をもった透明電極に好適である。特に、本積層体を用いた透明電極はタッチパネルに好適である。特に静電容量式タッチパネルに用いた場合は両面から電極の取り出しが可能であり、構造的にシンプルでかつ、低コストなタッチパネルが得られるので好ましい。特にフォトリソ-エッチング法でパターンを形成する場合、両面に形成されるパターンのズレが生じないので好ましい。」

6 本件特許に係る出願日前に頒布された甲第6号証には、「電界駆動型調光素子用透明導電性フィルム、調光フィルム、および電界駆動型調光素子」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(6a) 「【請求項1】
一対の電極基板間に調光層を備える電界駆動型調光素子の電極基板として用いられる、電界駆動型調光素子用透明導電性フィルムであって、
透明フィルム基材の少なくとも一方の面に、非晶質の透明導電層を備え、
前記透明導電層は、膜厚が30nm?100nmであり、かつ比抵抗が6×10^(-4)Ω・cm以下である、電界駆動型調光素子用透明導電性フィルム。
・・・
【請求項11】
前記透明導電層の算術平均粗さが0.8?5.5nmである、請求項1?10のいずれか1項に記載の透明導電性フィルム。」

7 本件特許に係る出願日前に頒布された甲第7号証には、「タッチパネル用導電性積層体およびタッチパネル用透明導電性フィルム」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(7a) 「【請求項1】
透明性プラスチックフィルム基材、膜厚1?50nmの淡色層、銅からなる導電層、及び乾燥膜厚0.5?5μmのポジ型感光層がこの順で積層されていることを特徴とするタッチパネル用導電性積層体。
・・・
【請求項4】
請求項1?3のいずれかに記載のタッチパネル用導電性積層体をパターン露光、現像、エッチング工程からなるフォトリソグラフィー法により、導電層を線幅1?10μmのメッシュ状電極配線に加工したことを特徴とするタッチパネル用透明導電性フィルム。」

(7b) 「【0023】
<感光層の形成>
フォトリソグラフィー法によるパターン形成で電極部を得るために、電極層上に感光層を形成することが必要である。感光層を得るにはアクリル樹脂などのポリマーと感光剤からなるアルカリ水溶液膨潤性のドライフィルムレジストを用いる方法と感光性塗工液を塗布する方法がある。ドライフィルムレジストは最も薄いものでも15μmの厚みがあり、線幅が5μm以下の配線を得ることは困難であり、細線化の観点から好ましくない。また、ドライフィルムレジストはアルカリ水溶液中で膨潤するが、溶解はしないため剥膜しづらい短所があり、薄膜が容易に得られ、アルカリ水溶液に溶解する感光性レジスト塗工液を用いる方法が好ましい。
【0024】
感光性レジストはネガ型とポジ型に分類されるが、ネガ型は酸素阻害を受けるためレジスト層を薄膜にすると感度が大きく低下する。また、細線を得るに必要な解像度が不足している。更にレジスト塗布後の製品の使用可能期限が短いという短所があり、ポジ型が好ましい。感光性レジストの乾燥膜厚は0.2?10μmが好ましく、0.5?3μmが更に好ましい。レジストの膜厚が0.2μm以下の場合、遮光が不十分となり、正確なパターンが得られない。膜厚が10μm以上の場合、大きな光量が必要となり処理時間が長くなるだけでなく、過剰露光による配線の薄肉化や断線が生ずるなどの問題が発生する。」

第5 当審の判断
1 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の前記(1a)の記載によれば、甲第1号証には、以下の発明が記載されていると認められる。
「透明基板上にITO膜が成膜されたITO透明導電膜付き基板において、ITO透明導電膜の表面凹凸が10点平均粗さで表して15nm以上150nm以下であるITO透明導電膜付き基板。」(以下、「甲1発明」という。)

2 本件発明1について
(1) 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は、少なくとも以下の2点で相違する。
相違点1:本件発明は、「前記導電層の前記基材側とは反対側の表面の表面張力が28dyn/cm以上、34dyn/cm以下であ」るのに対し、甲1発明は、そのような事項を備えているか不明である点。
相違点2:本件発明1は、「前記導電層の前記基材側とは反対側の表面の70μm×90μmの視野での算術平均高さSaが0.5nm以上、20nm以下であり、
前記導電層の前記基材側とは反対側の表面の1.0μm×1.0μmの範囲での算術平均粗さRaが2.0nm以上、15nm以下である」のに対し、甲1発明は、「ITO透明導電膜の表面凹凸が10点平均粗さで表して15nm以上150nm以下である」点。

(2) 相違点についての判断
ア まず、相違点2について検討する。
(ア) 相違点2について、特許異議申立人は、特許異議申立書12頁下から4行?13頁8行において、甲第3号証及び甲第4号証の記載を参照すれば、甲第1号証のITO透明導電膜の表面凹凸に関する10点平均粗さの15nm以上150nm以下の範囲は、本願請求項1に記載される算術平均粗さRaが2.0nm以上、15nm以下の範囲と重なりがある蓋然性があり、また、本件明細書において、算術平均高さSaと算術平均粗さRaは、各々別個に調節されるものではなく、算術平均粗さRaが2.0nm以上、15nm以下の範囲が出願時公知であれば、算術平均高さSaが0.5nm以上、20nm以下の範囲も同時に出願時公知である蓋然性がある(本件明細書の【0079】、各実施例及び比較例2参照。)から、甲第1号証には、相違点2に係る本件発明1の特定事項が実質的に記載されている旨主張している(以下、「主張1」という。)。
しかし、甲第3号証の前記(3a)には、「(A)光透過性導電性フィルム;及び(B)保護フィルムを含有する積層フィルムであって」、「前記光透過性導電性フィルム(A)の最外層の前記光透過性導電層(A-2)の少なくとも一が、前記積層フィルムの一方の表面に配置され」、「前記光透過性導電層(A-2)側の前記表面の平均表面粗さRaが0.4nm?2nmであり」、「前記光透過性導電層(A-2)側の表面の十点平均粗さR_(zjis)が、4nm?7nmである」ことが記載され、同(3c)には、ITO面の(Ra,R_(zjis))が(2.2nm,10nm)、(2.0nm,7nm)であることが記載されており、また、甲第4号証の前記(4a)には、「透明性及び可撓性を有する基材と、該基材の少なくとも一方の面に導電性樹脂を積層して形成した導電層とを備えた透明導電性フィルム」の「前記導電層の表面を、中心線平均粗さ(Ra_(75))が0.002μm以上0.02μm以下」、「かつ十点平均粗さ(Rz_(JIS94))が0.02μm以上0.05μm以下とした」ことが記載され、同(4b)には、導電層表面の(中心線平均粗さRa_(75)(μm),十点平均粗さRz_(JIS94)(μm))が、(0.015,0.05)、(0.006,0.003)、(0.019,0.05)、(0.020,0.02)、(0.007,0.02)であることが記載されているものの、甲第3号証及び甲第4号証のいずれにも10点平均粗さと算術平均粗さRaとの間に一義的な相関関係があること、及び、算術平均粗さRaと算術平均高さSaとの間に一義的な相関関係があることは記載されていないし、これらの点が本件特許の出願時において技術常識であったともいえないから、甲1発明において、「ITO透明導電膜の表面凹凸が10点平均粗さで表して15nm以上150nm以下である」からといって、上記「ITO透明導電膜の表面凹凸」の算術平均粗さRaが「2.0nm以上、15nm以下」の範囲と重なっており、かつ、算術平均高さSaが「0.5nm以上、20nm以下」の範囲になっているとは必ずしもいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張1は採用できず、甲第3号証及び甲第4号証の記載を参照しても、甲第1号証には、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項が実質的に記載されているとはいえない。

(イ)また、特許異議申立人は、特許異議申立書13頁9?12行において、甲第4号証及び甲第5号証を参照すれば、本件特許請求項1の構成要件の算術平均粗さRaが2.0nm以上、15nm以下の範囲、及び上述の理由により、算術平均高さSaが0.5nm以上、20nm以下の範囲自体には新規性がない旨主張している(以下、「主張2」という。)。
ここで、算術平均粗さRaについて、甲第5号証の前記(5a)及び甲第6号証の前記(6a)には記載があるものの、甲第4号証には何ら記載がないことからすると、特許異議申立人の上記主張の「甲第4号証及び甲第5号証」は、「甲第5号証及び甲第6号証」の誤記であると認められるところ、甲第5号証の前記(5a)には、金属層(A)、樹脂フイルム(B)、透明接着層(C)、樹脂フイルム(D)、金属層(E)を、この順に積層してなる積層体において、前記金属層(A)および金属層(E)の平均表面粗さ(Ra)が2?20nmであることが記載されており、甲第6号証の前記(6a)には、透明フィルム基材の少なくとも一方の面に、非晶質の透明導電層を備える電界駆動型調光素子用透明導電性フィルムにおいて、前記透明導電層の算術平均粗さが0.8?5.5nmであることが記載されている。
しかし、甲第5号証及び甲第6号証のいずれにも算術平均粗さRaと算術平均高さSaとの間に一義的な相関関係があることは記載されていないし、この点が本件特許の出願時において技術常識であったともいえないから、甲第5号証及び甲第6号証には、算術平均高さSaが0.5nm以上、20nm以下の導電層が記載されているとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張2も採用できず、甲第5号証及び甲第6号証には、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項が記載されているとはいえない。

(ウ) さらに、特許異議申立人が提出した甲第2号証、甲第7号証にも、相違点2に係る本件発明1の特定事項については、記載も示唆もされていない。

(エ) よって、甲第2号証?甲第7号証に記載されたいずれの事項を参酌しても、甲1発明には、相違点2に係る本件発明1の特定事項が実質的に記載されているとはいえないし、また、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の特定事項とすることは、当業者が容易になし得るものともいえない。

イ 以上のとおりであるから、その余の相違点について判断するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないし、また、甲第1号証?甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

3 本件発明2?4について
本件発明2?4は、いずれも本件発明1の全ての発明特定事項を有しているから、前記2で検討したのと同様の理由により、本件発明2?4は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないし、また、本件発明2は、甲第1号証?甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないし、本件発明3、4は、甲第1号証?甲第7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

第6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-03-01 
出願番号 特願2016-191672(P2016-191672)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 神野 将志  
特許庁審判長 千葉 輝久
特許庁審判官 河本 充雄
▲辻▼ 弘輔
登録日 2017-06-30 
登録番号 特許第6166828号(P6166828)
権利者 積水化学工業株式会社 積水ナノコートテクノロジー株式会社
発明の名称 光透過性導電フィルム及びパターン状の導電層を有する光透過性導電フィルムの製造方法  
代理人 特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所  
代理人 特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所  

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