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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 F04C |
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管理番号 | 1338157 |
異議申立番号 | 異議2017-701126 |
総通号数 | 220 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-04-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-11-30 |
確定日 | 2018-03-07 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6134903号発明「容積型圧縮機」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6134903号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第6134903号の請求項1に係る特許についての出願は、平成25年2月13日に特許出願され、平成29年5月12日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成29年11月30日に特許異議申立人伊藤裕美より特許異議の申立てがされたものである。 2.本件特許発明 特許第6134903号の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された下記の事項によって特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 密閉容器内に設けられた電動要素と、 前記電動要素によって回転駆動される回転軸と、 前記電動要素の上方に設置され前記回転軸を介して駆動される圧縮要素と、 前記電動要素と前記圧縮要素の間に設置され前記密閉容器内に固着されて回転軸を回転支持する第1支持フレームと、 前記密閉容器内に固着されて前記回転軸の下方端部を回転支持する第2支持フレームと、前記密閉容器の底部に潤滑油の貯油部と、を備え、 前記回転軸の下方端面から前記回転軸を貫通して設けられた給油縦孔を介して前記潤滑油を各摺動部に送る容積型圧縮機であって、 前記第2支持フレームは、前記回転軸のラジアル力を受けるジャーナル軸受と、スラスト力を受けるスラスト軸受と、から構成され、 前記回転軸の外周に設けられ、前記回転軸の軸方向に伸びたジャーナル給油通路と、前記スラスト軸受に設けられ、前記回転軸の半径方向に伸びたスラスト給油通路と、を有し、前記スラスト給油通路は、前記回転軸と前記スラスト軸受の摺動面に開口し、油排出通路を介して前記貯油部と連通しており、 前記貯油部の潤滑油は、前記給油縦孔から前記回転軸に設けられた半径方向の給油横孔を経て、前記ジャーナル軸受の摺動面に供給され、さらに、前記ジャーナル軸受の摺動面に供給された前記潤滑油は、前記ジャーナル給油通路を経て、前記スラスト軸受周辺の油溜空間に供給され、さらに、前記油溜空間に供給された前記潤滑油は、前記回転軸の半径方向に伸びたスラスト給油通路によって、前記回転軸と前記スラスト軸受の摺動面に供給されることを特徴とする容積型圧縮機。」 3.申立理由の概要 特許異議申立人伊藤裕美は、主たる証拠として特開平11-182473号公報(以下、「引用例1」という。)を、並びに従たる証拠として特開2006-342673号公報(以下、「引用例2」という。)、特開2008-138578号公報(以下、「引用例3」という。)及び特開平3-175186号公報(以下、「引用例4」という。)を提出し、請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1に係る特許は、取り消されるべきものである旨主張している。 4.引用例の記載 (1)引用例1 ア.引用例1には、図面とともに、以下の記載がある。 (ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 密閉容器内に設けられた電動要素と、この電動要素によって駆動されるスクロール圧縮要素と、前記密閉容器内に固着されて回転軸を軸支する支持フレームと、前記回転軸の端部を軸支する副支持フレームとを備え、前記回転軸の端部から前記回転軸中に設けられた油通路を経て潤滑油を各摺動部に送るスクロール型圧縮機であって、前記副支持フレームは、前記回転軸のスラスト力を受けるためのスラストプレートを備えるとともに、前記副支持フレームに供給される潤滑油を逃すための穴および/または溝を前記スラストプレートに設けたことを特徴とするスクロール型圧縮機。 【請求項2】 密閉容器内に設けられた電動要素と、この電動要素によって駆動されるスクロール圧縮要素と、前記密閉容器内に固着されて回転軸を軸支する支持フレームと、前記回転軸の端部を軸支する副支持フレームとを備え、前記回転軸の端部から前記回転軸中に設けられた油通路を経て潤滑油を各摺動部に送るスクロール型圧縮機であって、前記副支持フレームは、前記回転軸のスラスト力を受けるためのスラストプレートを備えるとともに、前記副支持フレームに供給される潤滑油を逃すための穴および/または溝を前記副支持フレームに設けたことを特徴とするスクロール型圧縮機。」 (イ)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、例えば空調・冷凍機等に搭載されるスクロール型圧縮機に関するものであり、さらに詳しくは、摺動部における潤滑油の停滞をなくし信頼性を向上したスクロール型圧縮機に関するものである。」 (ウ)「【0002】 【従来の技術】従来、空気調和装置等の冷凍サイクルに使用されるスクロール型コンプレッサ1Aは、例えば図5に示される構成になっている。両端が閉鎖された筒状の密閉容器1の内側には電動要素2とスクロール圧縮要素3とが内蔵されている。上記電動要素2は上記密閉容器1の内壁面側に固定されたステータ4と、このステータ4の内側に回転自在に支持されたロータ5とからなり、このロータ5には回転軸6が貫通状態に結合されている。この回転軸6の一端は上記スクロール圧縮要素3の一部を構成する支持フレーム7に回転自在に支持されている。上記回転軸6の他端側は上記ロータ5から突出されており、この先端部は給油部8が接続されている。そして、上記回転軸6の端部9は上記密閉容器1内に収容された潤滑油bに没するように下方に延長されている。前記給油部8には、密閉容器1内に装着されて回転軸6の他端を軸支する副軸受10およびスラストプレートAを備えた副支持フレーム11が備えられている。また、上記回転軸6には、潤滑油bを吸入して供給する油通路12が軸方向に穿設されており、潤滑油がこの油通路12を経て副軸受10や支持フレーム7などの各摺動部に供給された後、再循環されるようになっている。 【0003】そして、上記支持フレーム7に貫通する状態に支持された上記回転軸6の一端部はその中心が上記回転軸6の軸心と偏心して設けたピン部(クランク部)13として形成されており、このピン部13には揺動スクロール14が連接されている。この揺動スクロール14は円盤状に形成されており一側面の中央部に上記ピン部13が接続されるボス穴部15が形成されている。この揺動スクロール14の他側面には渦巻き形状のラップ16が一体に形成されている。また、上記支持フレーム7には、固定スクロール17が結合されている。この固定スクロール17には上記揺動スクロール14に対面する部分に渦巻き形状のラップ18が形成されており、上記ラップ16との間に複数の圧縮室19を形成している。これらの圧縮室19は吸入管20を経て外周部で冷媒ガスを吸込み、漸次中心に移動していくことで容積を縮小して冷媒ガスを圧縮し、圧縮された冷媒ガスは固定スクロール17の他側面の中央部に設けた吐出ポート21から密閉容器1の高圧空間内に吐出され、この空間で同伴した潤滑油が分離され、脈動が低減され、吐出管22から吐出される。」 (エ)「【0004】図6に給油部8近傍を拡大して示すように、油通路12から副軸受10の摺動部へ潤滑油を供給するための油供給路23が回転軸6に穿設されており、矢印で示したように油通路12から油供給路23を経て副軸受10の摺動部へ供給された潤滑油は、副軸受10の内壁に設けられた給油溝24を通って上方に流れて摺動部を潤滑して吐出されるようになっている。しかし、給油溝24の下方の回転軸6と副軸受10と間のクリアランス25に潤滑油の一部が少量流れ込み、この少量の潤滑油はスクロール型圧縮機1Aの運転中、クリアランス25内に停滞して外に吐出されることがないので、回転軸6の回転による摩擦熱の影響を受けて発熱して劣化し、その結果、スラストプレートAの付近の摩耗が発生し、スクロール型圧縮機1Aの信頼性を低下させる問題があった。」 (オ)「【0005】 【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、給油溝24の下方の回転軸6と副軸受10と間のクリアランス25に流れ込んだ少量の潤滑油を停滞させずに、外部に逃して循環して使用できるようにした、信頼性の高いスクロール型圧縮機を提供することである。」 (カ)「【0009】図1に示すように、スラストプレートAには、クリアランス25に流れ込んだ少量の潤滑油を外部に逃すための穴26がクリアランス25に連通して設けられている。給油溝24の下方の回転軸6と副軸受10と間のクリアランス25に流れ込んだ少量の潤滑油は穴26を経て外部に逃すことができ、外部にでた潤滑油は循環使用されるので、潤滑油の停滞や劣化を防止できる。この実施例の本発明のスクロール型圧縮機はスラストプレートAに潤滑油を外部に逃すための穴26をクリアランス25に連通して設けた以外は、図5に示したスクロール型圧縮機と同様になっている。」 (キ)「【0010】図2に示すように、スラストプレートAには、クリアランス25に流れ込んだ少量の潤滑油を外部に逃すための溝27がクリアランス25に連通して設けられている。給油溝24の下方の回転軸6と副軸受10と間のクリアランス25に流れ込んだ少量の潤滑油は溝27を経て外部に逃すことができ、外部にでた潤滑油は循環使用されるので、潤滑油の停滞や劣化を防止できる。この実施例の本発明のスクロール型圧縮機はスラストプレートAに潤滑油を外部に逃すための溝27をクリアランス25に連通して設けた以外は、図5に示したスクロール型圧縮機と同様になっている。」 (ク)「【0011】図3に示すように、副支持フレーム11の副軸受10には、クリアランス25に流れ込んだ少量の潤滑油を外部に逃すための穴28がクリアランス25に連通して設けられている。給油溝24の下方の回転軸6と副軸受10と間のクリアランス25に流れ込んだ少量の潤滑油は穴28を経て外部に逃すことができ、外部にでた潤滑油は循環使用されるので、潤滑油の停滞や劣化を防止できる。この実施例の本発明のスクロール型圧縮機は副軸受10に潤滑油を外部に逃すための穴28をクリアランス25に連通して設けた以外は、図5に示したスクロール型圧縮機と同様になっている。」 (ケ)「【0012】図4に示すように、副支持フレーム11の副軸受10には、クリアランス25に流れ込んだ少量の潤滑油を外部に逃すための溝29がクリアランス25に連通して設けられている。給油溝24の下方の回転軸6と副軸受10と間のクリアランス25に流れ込んだ少量の潤滑油は溝29を経て外部に逃すことができ、外部にでた潤滑油は循環使用されるので、潤滑油の停滞や劣化を防止できる。この実施例の本発明のスクロール型圧縮機は副軸受10に潤滑油を外部に逃すための溝29をクリアランス25に連通して設けた以外は、図5に示したスクロール型圧縮機と同様になっている。」 さらに、記載事項(ア)及び(ウ)並びに図5の記載からみて、以下の事項が理解できる。 (コ)回転軸6は、電動要素2によって回転駆動され、スクロール圧縮要素3は、回転軸6を介して電動要素2によって駆動される。 図5の記載からみて、以下の事項が理解できる。 (サ)スクロール圧縮要素3は、電動要素2の上方に設置され、支持フレーム7は、電動要素2とスクロール圧縮要素3の間に設置され、油通路12は、回転軸6を貫通して設けられている。 記載事項(ウ)及び図5の記載からみて、以下の事項が理解できる。 (シ)密閉容器1の底部に潤滑油bが溜まっている。 図2の記載からみれば、給油溝24が回転軸6の外周に設けられているといえるが、記載事項(エ)には「矢印で示したように油通路12から油供給路23を経て副軸受10の摺動部へ供給された潤滑油は、副軸受10の内壁に設けられた給油溝24を通って上方に流れて摺動部を潤滑して吐出される」とあり、記載事項(キ)には「この実施例の本発明のスクロール型圧縮機はスラストプレートAに潤滑油を外部に逃すための溝27をクリアランス25に連通して設けた以外は、図5に示したスクロール型圧縮機と同様になっている。」とあるから、記載事項(エ)及び(キ)並びに図2の記載からみて、以下の事項が理解できる。 (ス)油供給路23は回転軸6の半径方向に伸び、給油溝24は、副軸受10の内壁に設けられ、回転軸6の軸方向に伸びている。 記載事項(キ)及び図2の記載からみて、以下の事項が理解できる。 (セ)溝27は、スラストプレートAに設けられ、半径方向に伸びているが、回転軸6とスラストプレートAの摺動面に開口していない。 イ.以上のことから、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「密閉容器内に設けられた電動要素と、 前記電動要素によって回転駆動される回転軸と、 前記電動要素の上方に設置され、前記回転軸を介して前記電動要素によって駆動されるスクロール圧縮要素と、 前記電動要素と前記スクロール圧縮要素の間に設置され、前記密閉容器内に固着されて回転軸を軸支する支持フレームと、 前記密閉容器内に装着され、前記回転軸の端部を軸支する副支持フレームとを備え、 前記密閉容器の底部に潤滑油が溜まっており、 前記回転軸の端部から前記回転軸を貫通して設けられた油通路を経て潤滑油を各摺動部に送るスクロール型圧縮機であって、 前記副支持フレームは、副軸受および前記回転軸のスラスト力を受けるためのスラストプレートを備え、 回転軸の軸方向に伸びる給油溝が前記副軸受の内壁に設けられ、半径方向に伸びる溝が前記スラストプレートに設けられ、 前記溝は、前記回転軸と前記スラストプレートの摺動面に開口しておらず、 前記油通路から前記副軸受の摺動部へ潤滑油を供給するための前記回転軸の半径方向に伸びる油供給路が前記回転軸に穿設されており、前記油通路から前記油供給路を経て前記副軸受の摺動部へ供給された潤滑油の一部が前記給油溝の下方の前記回転軸と前記副軸受と間のクリアランスに少量流れ込み、前記クリアランスに流れ込んだ潤滑油は前記溝を経て外部に逃す、 スクロール型圧縮機。」 (2)引用例2 引用例2には、図面とともに、以下の記載がある。 (ソ)「【請求項1】 台板に渦巻き状のラップを有する旋回スクロールと固定スクロールとを互いに組み合わせてなる圧縮室と旋回スクロールに嵌合されたクランク軸と該クランク軸の径方向荷重を支持するフレームとを備えたスクロール圧縮機において、クランク軸の軸方向荷重を支持するスラスト受け部材を鋼鈑で構成し、該スラスト受け部材を前記フレームに固定し、クランク軸とスラスト受け部材の間にスラスト軸受を設けたことを特徴とするスクロール圧縮機。 【請求項2】 台板に渦巻き状のラップを有する旋回スクロールと固定スクロールとを互いに組み合わせてなる圧縮室と旋回スクロールに嵌合されたクランク軸と該クランク軸の径方向荷重を支持するフレームとを備えたスクロール圧縮機において、クランク軸の軸方向荷重を支持するスラスト受け部材を鋼鈑で構成し、該スラスト受け部材を前記フレームに固定し、スラスト受け部材の一部をクランク軸の摺動面にしたことを特徴とするスクロール圧縮機。 【請求項3】 請求項2においてスラスト受けのクランク軸との摺動面に油溝を設けたことを特徴とするスクロール圧縮機。」 (タ)「【0001】 本発明はスクロール圧縮機構を有するスクロール流体機械において、クランク軸に作用するスラスト荷重をフレームに固定したスラスト受け部材にて支持する構造で形成されたスクロール圧縮機に関する。」 (チ)「【0007】 (実施例1) 図1に本圧縮機構が実施されるスクロール圧縮機の構造を示す。 【0008】 スクロール圧縮機1は、密閉容器100内に圧縮機構2と電動機3、副軸受け部4と給油機構とを収納して構成されている。本実施形態では、圧縮機構2と電動機3とを上下に配置した縦型スクロール圧縮機である。 【0009】 圧縮機構2は旋回スクロール5と固定スクロール6とフレーム7とクランク軸8と旋回軸受け13と旋回機構9とを備えて構成されている。」 (ツ)「【0012】 フレーム7は、その外周部が密閉容器100に固定され、その中央部に主軸受63を支持している。またフレーム7は主軸受け63をスラスト受け部材84と供に覆っている。スラスト受け部材84は主軸受け63を下方から押さえるようにフレームに着脱可能に取付けられている。スラスト受け部材84とフレーム7の間にはスラスト軸受86が設けられており、クランク軸8の軸方向荷重はスラスト軸受86及びスラスト受け部材84にて支持されている。」 (テ)「【0019】 排油パイプ60は、主軸受63を潤滑した油を、電動機3のステータ外周の凹部18aを通して密閉容器100の油溜め82に案内するように設けられている。」 (ト)「【0022】 ・・・(中略)・・・ (実施例3) スラスト荷重が大きい場合や、クランクジク8を高速回転で使用する場合に、摺動面での潤滑性をさらに向上する必要がある場合には、請求項3に記載したように、摺動面に油溝を施せばよく、その一例を図5に示す。90hが油溝である。」 (3)引用例3 引用例3には、図面とともに、以下の記載がある。 (ナ)「【0001】 本発明は、・・・(中略)・・・スクロール圧縮機に関する。」 (ニ)「【0025】 旋回スクロール120を旋回運動させる駆動部3は、ステータ108及びロータ107と、クランク軸101と、フレーム160と、主軸受(「主軸受部」に相当)104、副軸受105とを備えている。クランク軸101は、主軸部101bと偏心ピン部101aとを一体に備えて構成されている。主軸受104及び副軸受105は、クランク軸101の主軸部101bを回転自在に支持する主軸支持部を構成している。クランク軸の主軸支持部である主軸受104及び副軸受105は、それぞれ、ステータ108及びロータ107から構成される電動機の圧縮室側と密閉容器100の下部に形成されている油溜り部131とにそれぞれ配置されている。圧縮室側近傍の主軸受104には、すべり軸受を用いることが望ましい。油溜り部131近傍の副軸受105には、図示のようなすべり軸受の他、使用条件に適応できる転がり軸受やその他の軸支持部材を用いても良い。」 (ヌ)「【0030】 旋回軸受103、主軸受104及び副軸受105への給油は、クランク軸101内に形成されている給油経路102,102a,102bと給油ポンプ106とで行われる。即ち、密閉容器100の下部空間に溜めた潤滑油131を給油ポンプ106で吸引して給油通路102,102a,102bを通して各部へ潤滑油を供給する。・・・(中略)・・・ 【0032】 給油経路102から分岐した給油経路102aを通じて供給される潤滑油は、主軸受104を潤滑した後にスラスト軸受204を潤滑し、主軸受104の外側位置において周方向に形成された環状溝167の排出経路を経由し、フレーム160に設けた排油路184から排油パイプ185を通じて油溜め131へ戻される。・・・(中略)・・・ 【0033】 ・・・(中略)・・・なお、図示していないが、スラスト軸受204を主軸受104より下端の副軸受105の上部あるいは下部に設けて、クランク軸101の鍔部101dを構成しなくてもよく、排出経路空間183を小さく構成しても良い。」 (ネ)「【0034】 図3、4を用いて、スラスト軸受204部の給油経路について説明する。図3はフレーム160の端面部164付近の上面図(図2のB部)、図4はスラスト軸受204の上面図である。スラスト軸受204は、フレーム160に設けたスラスト軸受支持面162とスラスト軸受204の径方向移動を制限するスラスト軸受押え部165とを備えている。給油経路102aを通じて供給される潤滑油の流れを妨げないために、フレーム160に形成された排油路184は、環状溝167を通じて排出経路空間183と連通されている。主軸受104からの潤滑油の排出経路を確保するために、クランク軸101の鍔部下面101eと摺接するスラスト軸受204の摺接面204a上には、径方向に延びる複数の油通路204bが形成されている。なお、スラスト軸受204とスラスト軸受押え部165との間には凹凸嵌合が設けられているので、スラスト軸受204の盲動回転が防止されている。」 (ノ)「【0036】 本実施形態の効果について説明する。本実施形態の構成によれば、給油経路102aを通じて供給される潤滑油の流れを妨げないために、スラスト軸受204上の摺接面に油通路204bが形成され、スラスト軸受204の油通路204bから排出された潤滑油が主軸受104の外側の位置に形成された環状溝を通って排油路184へ排出する構成としたので、主軸受104及びスラスト軸受204への給油を的確に行うことができる。 以上より、旋回軸受103、主軸受104、スラスト軸受204への給油を的確に行うことから高い信頼性を確保するのに好適なスクロール流体機械(圧縮機)を実現できる。」 (4)引用例4 引用例4には、図面とともに、以下の記載がある。 (ハ)「〔産業上の利用分野〕 本発明は圧縮機、膨脹機あるいは液体ポンプなどに利用されるスクロール流体機械の給油装置に関する。」(第1ページ右下欄第2?5行) (ヒ)「駆動軸7は一端に軸受5cに支持されているクランクピン7aを有し、他端は、モータカバー10に設けたすべり軸受10aとの摺動面に、一端を駆動軸の端面側に開放し、他端は摺動面内にある給油溝7bを設け、駆動軸7内には、端面側はネジ7eで閉塞し、クランク部7aの端面側に開口する軸7の回転中心上に設けられた給油孔7cを有し、給油孔7cと給油溝7bとを連通ずる径方向の油穴7dを設けている。また給油孔7fを介して軸受8a、8a’に開口している(第2図および第3図参照)。」(第3ページ左上欄第6?16行) (フ)「これにより、旋回スクロールの軸受5cとフレームの軸受8a’の背圧室8c側端面は中間圧力に保たれるので、油溜り4の油は、サイドカバー10に設けた給油パイプ11.給油孔10cを経て、駆動軸のクランク部7a側の給油孔7cの端部まで吐出圧力と中間圧力の差圧によって導かれるため、駆動軸7の給油溝7b,油穴7d,給油孔7c内には油で満たされ、これによりすべり軸受10aに給油される。」(第3ページ右下欄第3?11行) 5.判断 本件特許発明と引用発明を対比すると、 本件特許発明は、前記回転軸の軸方向に伸びたジャーナル給油通路が、前記回転軸の外周に設けられ、前記スラスト給油通路が、前記回転軸と前記スラスト軸受の摺動面に開口し、油排出通路を介して前記貯油部と連通し、前記ジャーナル軸受の摺動面に供給された前記潤滑油が、前記ジャーナル給油通路を経て、前記スラスト軸受周辺の油溜空間に供給され、さらに、前記油溜空間に供給された前記潤滑油が、前記回転軸の半径方向に伸びたスラスト給油通路によって、前記回転軸と前記スラスト軸受の摺動面に供給されるのに対し、 引用発明は、前記給油溝が、前記副軸受の内壁に設けられ、前記溝が、前記回転軸と前記スラストプレートの摺動面に開口しておらず、前記副軸受の摺動部へ供給された潤滑油の一部が、前記給油溝の下方の前記回転軸と前記副軸受と間のクリアランスに流れ込み、前記クリアランスに流れ込んだ潤滑油が前記溝を経て外部に逃されている点で相違し、その余の点で一致している。 相違点について検討する。引用例1、特に図2の記載からみて、引用発明において、前記給油溝(本件特許発明の「ジャーナル給油通路」に相当)は、前記クリアランス(ジャーナル軸受の摺動面に供給された潤滑油の少なくとも一部が流れ込む、スラスト軸受周辺の空間である点において、本件特許発明の「油溜空間」と共通)に連通しておらず、当該給油溝は、前記副軸受(本件特許発明の「ジャーナル軸受」に相当)の摺動部へ供給された潤滑油を前記クリアランスに供給することを企図して設けられたものとはいえない。そして、記載事項(エ)及び(オ)の記載からみて、引用発明は、むしろ、前記副軸受の摺動部へ供給された潤滑油を前記給油溝を通して上方に流して前記摺動部を潤滑して吐出しようとするものであって、前記潤滑油を積極的に前記クリアランスに供給しようとするものではなく、不可避的に前記クリアランスに流れ込んだ少量の潤滑油も停滞させずに外部に逃し、もって当該潤滑油が前記回転軸の回転による摩擦熱の影響を受けて発熱して劣化し、その結果前記スラストプレートの付近の摩耗が発生することを防止するものである。仮に前記クリアランスに流れ込んだ潤滑油を前記回転軸と前記スラストプレートの摺動面に供給するようにすると、前記回転軸と前記スラストプレートの摺動に伴う摩擦熱の影響により前記潤滑油の劣化が促進されることは明らかであり、さらに、引用発明は、前記のとおり、前記スラストプレート(本件特許発明の「スラスト軸受」に相当)に設けられた溝が前記回転軸と前記スラストプレートの摺動面に開口するものではなく、当該引用発明以外の引用例1に記載された技術についてみても、いずれも、前記クリアランスに流れ込んだ潤滑油を外部に逃すために前記スラストプレートに設けられた穴または溝が前記回転軸と前記スラストプレートの摺動面に開口するものではない。そうすると、引用発明において、前記給油溝を前記クリアランスに連通するようにして、前記副軸受の摺動部へ供給された潤滑油を前記給油溝を経て前記クリアランスに供給するようにし、さらに前記クリアランスに供給された潤滑油をそのまま外部に逃がすことなく、前記回転軸と前記スラストプレートの摺動面に供給するようにすることには、阻害要因があるというべきである。 したがって、本件特許発明は、引用例1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 さらに、容積型圧縮機において、スラスト軸受に設けられ、回転軸の半径方向に伸びたスラスト給油通路を、前記回転軸と前記スラスト軸受の摺動面に開口させ、前記スラスト給油通路によって、前記回転軸と前記スラスト軸受の摺動面に潤滑油を供給することが引用例2及び3に記載されているとしても、先に検討したとおり、引用発明には前記阻害要因があるから、引用発明において前記相違点に係る本件特許発明を特定する事項を採用することが、引用例2又は3に記載された技術に基いて、当業者が容易に想到し得る事項であるということはできない。 したがって、本件特許発明は、引用例1に記載された発明並びに引用例2又は3に記載された技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 また、特許異議申立人は、特許異議申立書において、「潤滑油を給油溝(7b)を介して径方向内側(駆動軸(7)の中心軸側)に導くことは、甲第4号証に記載されているように周知である(第3頁左上欄6行目?15行目、同頁右下欄3行目?11行目、第1図、第2図)。また、上記の相違点(b)に関して、駆動軸(7)の外周面(すべり軸受(10a)との摺動面)に潤滑油を供給することは、甲第4号証に記載されているように周知である(第3頁左上欄6行目?15行目、同頁右下欄3行目?11行目、第1図、第2図)。」と主張し、引用例4に記載された周知技術を引用例1に記載された発明に適用することにより、本件特許発明は当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張している(特許異議申立書(4-3-4)(第14?15ページ)参照)。 しかしながら、先に検討したとおり、引用発明には前記阻害要因があるから、仮に異議申立人が主張する前記技術が周知技術であるとしても、引用発明において前記相違点に係る本件特許発明を特定する事項を採用することが、引用例4に記載されていると出願人が主張する周知技術に基いて、当業者が容易に想到し得る事項であるということはできない。 したがって、本件特許発明は、引用例1に記載された発明及び引用例4に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 6.むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。 また、ほかに請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2018-02-23 |
出願番号 | 特願2013-25189(P2013-25189) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(F04C)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 冨永 達朗 |
特許庁審判長 |
藤井 昇 |
特許庁審判官 |
久保 竜一 中川 真一 |
登録日 | 2017-05-12 |
登録番号 | 特許第6134903号(P6134903) |
権利者 | パナソニックIPマネジメント株式会社 |
発明の名称 | 容積型圧縮機 |
代理人 | 前田 浩夫 |
代理人 | 鎌田 健司 |