• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  D02G
管理番号 1338171
異議申立番号 異議2017-700835  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-04-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-09-04 
確定日 2018-03-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第6092937号発明「モール糸からなるパイルを備えたパイルマットの飾り糸離脱防止方法及びパイルマット」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6092937号の請求項1及び7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6092937号(以下「本件特許」という。)の請求項1?12に係る特許についての出願は、平成27年5月28日に特許出願され、平成29年2月17日にその特許権の設定登録がされ、その後、その請求項1及び7に係る特許について、平成29年9月4日に特許異議申立人日高照夫(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において平成29年10月19日付けで取消理由を通知し、平成29年12月22日付けで意見書が提出されたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1及び7に係る発明(以下「本件発明1及び7」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1及び7に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
基体と多数のパイルを備えてなり、
前記パイルは、芯糸に対し、互いに撚り合わさっていない状態の多数の飾り糸を、その飾り糸の中間部において、前記芯糸に対し横方向状をなすように保持したモール糸からなり、前記飾り糸が単繊維であり、
前記パイルの基部が前記基体に結合された状態でパイルが基体上に配設されてなるパイルマットについて、飾り糸の離脱を防止する方法であって、
前記飾り糸として、外周に凹凸を有する横断面形状の0.03乃至3デニールの単繊維を用い、
前記パイルを、複数条の前記モール糸が、各条のモール糸の芯糸を中心として撚り合わさることにより、その撚り合わさった部分を1本のモール糸状となしたモール状糸体からなるものを用い、そのモール糸状の前記撚り合わさった部分において、前記飾り糸としての単繊維が、前記芯糸を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように周方向に密設されて内方に向かうほど高密度状態となり且つ軸線方向に密設された状態をなすものとすることにより、
モール糸からなるパイルからの、飾り糸である単繊維の離脱を防止することを特徴とするモール糸からなるパイルを備えたパイルマットの飾り糸離脱防止方法。
【請求項7】
基体と多数のパイルを備えてなり、
前記パイルは、芯糸に対し、互いに撚り合わさっていない状態の多数の飾り糸を、その飾り糸の中間部において、前記芯糸に対し横方向状をなすように保持したモール糸からなり、前記飾り糸が単繊維であり、
前記パイルの基部が前記基体に結合された状態でパイルが基体上に配設されてなるパイルマットであって、
前記飾り糸が、外周に凹凸を有する横断面形状の0.03乃至3デニールの単繊維であり、
前記パイルが、複数条の前記モール糸が、各条のモール糸の芯糸を中心として撚り合わさることにより、その撚り合わさった部分を1本のモール糸状となしたモール状糸体からなるものであり、そのモール糸状の前記撚り合わさった部分において、前記飾り糸としての単繊維が、前記芯糸を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように周方向に密設されて内方に向かうほど高密度状態となり且つ軸線方向に密設された状態をなすものであることにより、
モール糸からなるパイルからの、飾り糸である単繊維の離脱が防止されるものであることを特徴とするパイルマット。」

第3 取消理由の概要
平成29年10月19日付け取消理由通知の概要は、以下のとおりである。
なお、上記取消理由通知において、特許異議申立てされたすべての申立て理由を通知した。
以下、甲第1号証等を、「甲1」等という。
また、甲1に記載された発明、甲2に記載された事項を、以下それぞれ、「甲1発明」、「甲2記載事項」という。

本件発明1及び7は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

甲2:特許第5317303号公報
甲1:特許第5397392号公報

本件発明1及び7は、甲2発明及び甲1記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 取消理由についての判断
1 甲各号証の記載事項
(1)甲2記載事項及び甲2発明
甲2には、以下の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布と多数のパイルを備えてなり、前記各パイルの基部が基布に結合された状態で、前記多数のパイルが基布上に配設されているパイルマットであって、
前記各パイルは、略円柱形状をなし、0.05乃至0.8デニールの非吸水性のフィラメントが、パイルの軸線を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように密設され且つ軸線方向に密設されてなり、
前記パイルの略円柱形状外周面は、前記各フィラメントの先端部により形成され、
前記パイルは、略円柱形状をなすパイルの各円形状横断面において、放射状をなす前記非吸水性のフィラメントが内方に向かうほど更に高密度状態となって毛管現象により内方に向かう吸水力が作用するよう構成されていることを特徴とするパイルマット。
【請求項2】
上記パイルが、パイルを構成する放射状に配された非吸水性のフィラメントの先端部により形成された略凸曲面状をなす先端部を有し、
前記パイルは、略円柱形状をなすパイルの各円形状横断面において、放射状をなす前記非吸水性のフィラメントが内方に向かうほど更に高密度状態となって毛管現象により内方に向かって吸水力が作用し、内方に吸水した状態において、前記非吸水性のフィラメントの先端部により形成された略円柱形状外周面部は毛管現象により水分含有率が低い状態となると共に、
前記略凸曲面状をなす先端部において、放射状に略凸曲面状を形成する前記非吸水性のフィラメントが内方に向かうほど更に高密度状態となって毛管現象により内方に向かう吸水力が作用し、内方に吸水した状態において前記非吸水性のフィラメントの先端部により形成された略凸曲面状先端部の外周面部は毛管現象により水分含有率が低い状態となるよう構成されている請求項1記載のパイルマット。
【請求項3】
上記パイルが、0.05乃至0.8デニールの非吸水性のフィラメントを飾り糸とするモール糸によるループ部が、そのモール糸の芯糸を中心として撚り合わさることにより略円柱形状を形成したものである請求項1又は2記載のパイルマット。」
「【0001】
本発明は、高い吸水性と乾燥性を有するパイルを備え、足拭き用マットやトイレ用マット等として使用することができる高吸水高乾燥性パイルマットに関する。」
「発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来技術に存した上記のような課題に鑑み行われたものであって、その目的とするところは、湯上りの濡れた足等の水分を迅速に吸水し得、而もべとつき感が生じにくい高吸水高乾燥性パイルマットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明の高吸水高乾燥性パイルマットは、基布と多数のパイルを備えてなり、前記各パイルの基部が基布に結合された状態で、前記多数のパイルが基布上に配設されているパイルマットであって、前記各パイルは、略円柱形状をなし、0.05乃至0.8デニールの非吸水性のフィラメントが、パイルの軸線を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように密設され且つ軸線方向に密設されてなり、前記パイルの略円柱形状外周面は、前記各フィラメントの先端部により形成されていることを特徴とする。
【0008】
基布上に多数配設されているパイルは、0.05乃至0.8デニールの極めて細い非吸水性のフィラメントが、パイルの軸線を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように密設され且つ軸線方向に密設されてなるものであるため、略円柱形状をなすパイルの各円形状横断面において、内方に向かうほど更に前記フィラメントが高密度状態となる。
【0009】
そのため、毛管現象により、パイルの内方に向かって強い吸水力が作用するので、各パイルは、比較的多量の水を各円形状横断面の内方に向かって迅速に吸水し得る。
【0010】
逆に、吸水したパイルにおける各円形状横断面の外方部である略円柱形状外周部は、毛管現象により、水分含有率が低い状態となる。而も、略円柱形状をなすパイルの略円柱形状外周面部は、非吸水性のフィラメントの先端部により形成されているので、繊維が占める面積が比較的小さく、且つ繊維自体が非湿潤状態を維持する。そのため、水分を吸収した状態のパイルの略円柱形状外周部は比較的乾燥した状態を維持し易く、べとつき感が生じにくい。
【0011】
従って、このパイルマットは、湯上りの濡れた足等の水分を迅速に吸水し得、而もべとつき感が生じにくい高吸水高乾燥性を実現し得る。而も、このパイルマットは、各パイルを構成するフィラメントが非吸水性であるという材質と、そのフィラメントがパイルの軸線を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように密設され且つ軸線方向に密設され、パイルの略円柱形状外周面は各フィラメントの先端部により形成されているという構造との両者よりして、遠心脱水性又はその他の脱水性及び脱水後の乾燥性に優れる。
【0012】
上記高吸水高乾燥性パイルマットは、マット上で上記パイルにより吸水するためのものとして最適である。
【0013】
更に、上記高吸水高乾燥性パイルマットは、足拭用のものとして最適である。
【0014】
上記本発明の高吸水高乾燥性パイルマットは、パイルの先端部が、パイルを構成する放射状に配されたフィラメントの先端部により形成された略凸曲面状をなすものとすることができる。
【0015】
この場合、パイルの先端部が、0.05乃至0.8デニールの非吸水性のフィラメントが放射状に配されたフィラメントの先端部により形成された略凸曲面状をなすので、略凸曲面状先端部の内方に向かうほど更に前記フィラメントが高密度状態となる。そのため、毛管現象により、パイルの内方に向かって強い吸水力が作用するので、各パイルの先端部は内方に向かって迅速に吸水し得る。逆に、吸水したパイルの先端部は、毛管現象により、水分含有率が低い状態となる。而も、略凸曲面状先端部は非吸水性のフィラメントの先端部により形成されているので、繊維が占める面積が比較的小さく、且つ繊維自体が非湿潤状態を維持する。そのため、水分を吸収した状態のパイルの先端部は比較的乾燥した状態を維持し易く、べとつき感が生じにくい。
【0016】
また、上記高吸水高乾燥性パイルマットにおけるパイルは、0.05乃至0.8デニールの非吸水性のフィラメントを飾り糸とするモール糸によるループ部が、そのモール糸の芯糸を中心として撚り合わさることにより略円柱形状を形成したものとすることができる。
【0017】
この場合のパイルは、モール糸によるループ部が、そのモール糸の芯糸を中心として撚り合わさることにより、すなわち、ループ部を構成するモール糸のうち、ループ部の一方の基部から端部を構成する部分と他方の基部から端部を構成する部分が、両部分の芯糸を中心として撚り合わさることにより、略円柱形状を形成したものである。」
「【発明の効果】
【0018】
本発明の高吸水高乾燥性パイルマットは、0.05乃至0.8デニールの極めて細い非吸水性のフィラメントがパイルの軸線を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように密設され且つ軸線方向に密設されてなるパイルが基布上に多数配設されたものであるため、各パイルが比較的多量の水を各円形状横断面の内方に向かって迅速に吸水し得、水分を吸収した状態のパイルの略円柱形状外周部は比較的乾燥した状態を維持し易く、べとつき感が生じにくい。また、遠心脱水性又はその他の脱水性及び脱水後の乾燥性に優れる。従って、このパイルマットは、マット上でパイルにより吸水するためのマットとして、特に、足拭用のマット等として最適である。」
「【0029】
芯糸Cは、吸水性糸および/または非吸水性糸とすることができる。芯糸Cの一部若しくは全部として熱融着糸を用いて飾り糸としてのフィラメントFを融着したモール糸Mの場合、フィラメントFの脱落を確実性高く防ぐことができる。」
図1?図3には、パイルの飾り糸としてのフィラメントが、芯糸を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように周方向に密設されて内方に向かうほど高密度状態となり且つ軸線方向に密設された状態をなす点が示されている。

特に、上記【0029】に「芯糸Cは、吸水性糸および/または非吸水性糸とすることができる。芯糸Cの一部若しくは全部として熱融着糸を用いて飾り糸としてのフィラメントFを融着したモール糸Mの場合、フィラメントFの脱落を確実性高く防ぐことができる。」とあり、甲2には、パイルマットについて、飾り糸としてのフィラメントの脱落を防ぐ点が記載されている。
よって、甲2には、
「基体と多数のパイルを備えてなり、
前記パイルは、芯糸に対し、互いに撚り合わさっていない状態の多数の飾り糸を、その飾り糸の中間部において、前記芯糸に対し横方向状をなすように保持したモール糸からなり、前記飾り糸がフィラメントであり、
前記パイルの基部が前記基体に結合された状態でパイルが基体上に配設されてなるパイルマットについて、飾り糸としてのフィラメントの脱落を防ぐ方法であって、
前記飾り糸として、0.05乃至0.8デニールのフィラメントを用い、
前記パイルを、複数条の前記モール糸が、各条のモール糸の芯糸を中心として撚り合わさることにより、その撚り合わさった部分を1本のモール糸状となしたモール状糸体からなるものを用い、そのモール糸状の前記撚り合わさった部分において、前記飾り糸としてのフィラメントが、前記芯糸を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように周方向に密設されて内方に向かうほど高密度状態となり且つ軸線方向に密設された状態をなすものとし、
芯糸の一部若しくは全部として熱融着糸を用いて飾り糸としてのフィラメントを融着したモール糸であることにより、飾り糸としてのフィラメントの脱落を防ぐことができる、モール糸からなるパイルを備えたパイルマットの飾り糸としてのフィラメントの脱落を防ぐ方法。」の発明(以下「甲2発明A」という。)が記載されている。
また、甲2には、
「基体と多数のパイルを備えてなり、
前記パイルは、芯糸に対し、互いに撚り合わさっていない状態の多数の飾り糸を、その飾り糸の中間部において、前記芯糸に対し横方向状をなすように保持したモール糸からなり、前記飾り糸がフィラメントであり、
前記パイルの基部が前記基体に結合された状態でパイルが基体上に配設されてなるパイルマットであって、
前記飾り糸が、0.05乃至0.8デニールのフィラメントであり、
前記パイルが、複数条の前記モール糸が、各条のモール糸の芯糸を中心として撚り合わさることにより、その撚り合わさった部分を1本のモール糸状となしたモール状糸体からなるものであり、そのモール糸状の前記撚り合わさった部分において、前記飾り糸としてのフィラメントが、前記芯糸を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように周方向に密設されて内方に向かうほど高密度状態となり且つ軸線方向に密設された状態をなすものであり、芯糸の一部若しくは全部として熱融着糸を用いて飾り糸としてのフィラメントを融着したモール糸であることにより、フィラメントの脱落を確実性高く防ぐことができる、パイルマット。」の発明(以下「甲2発明B」という。)が記載されている。

(2)甲1記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は扁平多葉断面を有する異形断面ポリアミド繊維に関するものである。さらに詳しくは、吸水性を備えながらも高強度を有し、ソフトでサラッとした風合いと優雅な光沢を有した織編物を提供しうる異形断面ポリアミド繊維に関する。」
「【0008】
本発明の異形断面ポリアミド繊維は、単糸繊度が小さく、単糸繊維の断面形状が特定された異形度の扁平多葉断面糸であるために、吸水速乾性に優れ、ソフトでサラッとした風合いと優雅な光沢を有した織編物を提供することができる。」
「【0010】
本発明において、異形断面ポリアミド繊維の単糸繊度は生地を柔らかくし、衣料用素材として着用時の快適性を与えるという観点から、2.5dtex以下である。好ましくは、2.0dtex以下である。単糸繊度が細ければ細いほど生地は柔らかくなるが、強力も低下することから単糸繊度の下限を0.5dtex以上とすることが好ましい。」
「【0015】
本発明のポリアミド繊維は、単繊維断面における扁平多葉断面形状が以下に説明する内容になっていなければならない。図1に単繊維断面の概形例を示すが、この単繊維断面形状が下式を満足する単繊維からなる。
扁平度(a/b)=1.5?2.2
異形度(c/d)=1.0?8.0
【0016】
ここで、aは該扁平多葉形の凸部頂点のうち任意の2点を結ぶ最長の線分Aの長さである。bは、該線分Aに平行な線分とそれに対し直角な線分Bをその辺に含む外接四角形(隣合う辺で構成される角の角度は90°)の線分B長さをいう。cは該扁平多葉形のなす最も大きな凹凸で、隣り合う凸部の頂点間を結ぶ線分Cの長さをいう。dは該凸部に挟まれた凹部の底点から凸部の頂点間を結ぶ線分Cに下ろした垂線Dの長さをいう。」
「【0054】
【表1】


【0055】
表1の結果から明らかなように本発明の実施例による原糸は、繊維断面形状が扁平多葉形であり繊維間空隙が生じることにより吸水性に優れた特性を有するとともに、繊維の表面積が大きいために拡散性に優れ速乾性を発現する。また、繊維概形を扁平形に保つことで高タフネスを兼ね備えていることがわかる。その優れたタフネスを有することから、例えば、インナーやスポーツウェアなど多様な用途の高次加工性に優れ、十分な強度を有した薄地織編物を提供することが可能となる。さらには、繊維概形が扁平形であり多数の葉部を有することから、ふくらみ感と柔らかな感触があり、きめ細やかで自然な光沢が感じられ、風合い・光沢感においても優れた特性を有している。
【0056】
比較例1の扁平八葉断面糸は単糸断面の凹凸が小さく繊維間の空隙が狭くなるために吸水性に劣る結果となった。また、風合い、光沢感についても十分なものではなかった。」
「図1



(3)本件発明1ついて
ア 本件発明1と甲2発明Aとを対比すると、甲2発明Aの「フィラメント」は、本件発明1の「単繊維」に相当する。
また、甲2発明Aの「飾り糸が、0.05乃至0.8デニールのフィラメントであ」ることは、本件発明1の「飾り糸が、0.03乃至3デニールの単繊維であ」ることと重複する。
したがって、両者は、以下の点で相違し、その余で一致する。
<相違点1>
本件発明1では、飾り糸が、外周に凹凸を有する横断面形状であり、それによりモール糸からなるパイルからの、飾り糸である単繊維の離脱が防止されるものであるのに対し、甲2発明Aでは、飾り糸が、外周に凹凸を有する横断面形状であるか不明な点。

イ 上記相違点1について検討する。
(ア)吸水性が要求される2.5dtex以下の単繊維について、外周に凹凸を有する横断面形状であるようにすることは、甲1に記載されている(特に段落【0001】、【0008】、【0010】、【0015】?【0016】、及び図1参照)。
吸水性に関し、甲1には、「表1の結果から明らかなように本発明の実施例による原糸は、繊維断面形状が扁平多葉形であり繊維間空隙が生じることにより吸水性に優れた特性を有するとともに、繊維の表面積が大きいために拡散性に優れ速乾性を発現する。・・・」(【0055】)及び「比較例1の扁平八葉断面糸は単糸断面の凹凸が小さく繊維間の空隙が狭くなるために吸水性に劣る結果となった。比較例1の扁平八葉断面糸は単糸断面の凹凸が小さく繊維間の空隙が狭くなるために吸水性に劣る結果となった。」(【0056】)とあり、実施例のような繊維断面形状が扁平多葉形であり繊維間空隙が生じる場合には吸水性に優れ、単糸断面の凹凸が小さく繊維間の空隙が狭い場合には吸水性に劣るとされている。
一方、吸水性に関し、甲2には、「基布上に多数配設されているパイルは、0.05乃至0.8デニールの極めて細い非吸水性のフィラメントが、パイルの軸線を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように密設され且つ軸線方向に密設されてなるものであるため、略円柱形状をなすパイルの各円形状横断面において、内方に向かうほど更に前記フィラメントが高密度状態となる。
そのため、毛管現象により、パイルの内方に向かって強い吸水力が作用するので、各パイルは、比較的多量の水を各円形状横断面の内方に向かって迅速に吸水し得る。
逆に、吸水したパイルにおける各円形状横断面の外方部である略円柱形状外周部は、毛管現象により、水分含有率が低い状態となる。而も、略円柱形状をなすパイルの略円柱形状外周面部は、非吸水性のフィラメントの先端部により形成されているので、繊維が占める面積が比較的小さく、且つ繊維自体が非湿潤状態を維持する。そのため、水分を吸収した状態のパイルの略円柱形状外周部は比較的乾燥した状態を維持し易く、べとつき感が生じにくい。」(【0008】?【0010】)とあり、吸水性は、毛管現象によるもので、フィラメントが高密度状態、すなわち、フィラメントの間隙が狭いほど吸水性が優れるとされている。
とすると、吸水性に関し、甲1記載事項の作用機序(繊維間空隙が生じることによる。空隙が狭い場合には、吸水性に劣る。)と甲2発明Aの作用機序(毛管現象による。フィラメントの間隙が狭いほど吸水性に優れる。)は全く異なるから、甲1記載事項を甲2発明Aに適用して、甲2発明Aにおいて飾り糸が外周に凹凸を有する横断面形状であるようにすることは、当業者にとって動機付けがない。

(イ) また、飾り糸の離脱の防止に関して、本件特許明細書には、以下の記載がある。
「【背景技術】
【0002】
特許第4942437号公報には、0.3デニールの非吸水性のポリエステルフィラメントからなる単繊維を飾り糸とするモール糸を折り返した2条のモール糸が芯糸を中心として撚り合わさることにより形成されたモール状糸体からなる略円柱形状のパイルと、その略円柱形状のパイルが多数基布上に配設されてなるパイルマットが開示されている。これらの略円柱形状のパイルにおける飾り糸としてのポリエステルフィラメントからなる単繊維は、パイルの軸線を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように密設され且つ軸線方向に密設されてなり、パイルの略円柱形状外周面は、各単繊維の先端部により形成されている。
【0003】
このパイルマットは、吸水性及び乾燥性に優れ、足拭き用マット等として使用されるものであるが、使用により、飾り糸としての単繊維がパイルから離脱して繊維くずや埃等となり、食品や各種製品等の汚染源ともなるおそれがある。また、洗濯により飾り糸としての単繊維がパイルから離脱することも生じる。継続的な使用及び洗濯の繰り返しによりパイルからの前記単繊維の離脱が進むと、残りの単繊維は、より離脱し易くなるので、離脱は加速度的に進行することにもなり得、使用時に離脱して汚染源となり得る単繊維が急増することにも繋がる。」
「【0008】
複数条のモール糸が、各条のモール糸の芯糸を中心として撚り合わさることにより、その撚り合わさった部分が1本のモール糸状をなし、撚り合わさった部分において、飾り糸としての0.03乃至3デニールの単繊維が、前記芯糸を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように周方向に密設されて内方に向かうほど高密度状態となり且つ軸線方向に密設された状態をなすものとすると共に、前記飾り糸としての0.03乃至3デニールの単繊維を、外周に凹凸を有する横断面形状の単繊維とする。これにより、そのモール状糸体からなる多数のパイルを備えたパイルマットを継続的に使用したり、そのパイルマットに対し家庭用洗濯機による洗濯やその他の洗濯又はクリーニングを繰り返し施した場合において、そのパイルを構成するモール状糸体の前記撚り合わさった部分から飾り糸としての0.03乃至3デニールの単繊維が離脱することがより効果的に防止される。
【0009】
そのため、モール状糸体からなる多数のパイルを備えたパイルマットを使用している間にモール状糸体から飾り糸としての0.03乃至3デニールの単繊維が離脱して繊維くずや埃等となり、食品や各種製品等の汚染源ともなることが防がれ、そのパイルマットの耐久性、耐洗濯性を効果的に向上させ、そのパイルマットにおけるパイルの肌触りやクッション性又はその他の各種機能が継続使用や繰り返し洗濯に伴い低下することをより効果的に防ぐことができる。」
「【発明の効果】
【0027】
本発明のモール糸からなるパイルを備えたパイルマットの飾り糸離脱防止方法及びパイルマットによれば、モール状糸体又はそれを有する物品を様々な用途に継続的に使用したり、モール状糸体又はそれを有する物品に対し家庭用洗濯機による洗濯やその他の洗濯又はクリーニングを繰り返し施した場合において、そのモール状糸体から飾り糸としての0.03乃至3デニールの単繊維が離脱することが効果的に防止される。
【0028】
そのため、パイルマットを使用している間にモール状糸体から飾り糸としての0.03乃至3デニールの単繊維が離脱して繊維くずや埃等となり、食品や各種製品等の汚染源ともなることが防がれ、パイルマットの耐久性、耐洗濯性を効果的に向上させ、そのパイルマットにおけるパイルの肌触りやクッション性又はその他の各種機能が継続使用や繰り返し洗濯に伴い低下することを効果的に防ぐことができる。」
そうすると、本件発明1は、使用又は洗濯により、飾り糸としての単繊維がパイルから離脱することを課題とし、飾り糸として、外周に凹凸を有する横断面形状の0.03乃至3デニールの単繊維を用いることで、当該課題を解決するものである。
一方、甲2には、飾り糸の離脱の防止に関し、
「【0029】
芯糸Cは、吸水性糸および/または非吸水性糸とすることができる。芯糸Cの一部若しくは全部として熱融着糸を用いて飾り糸としてのフィラメントFを融着したモール糸Mの場合、フィラメントFの脱落を確実性高く防ぐことができる。」とあるだけで、飾り糸の離脱の防止のために、飾り糸としての単繊維を、0.03乃至3デニールで外周に凹凸を有する横断面形状の単繊維とする点は、記載されていないし、示唆する記載もない。また、甲1にも、その点は記載されていない。

(ウ) 上記(ア)で述べたように、甲2発明Aに甲1記載事項を適用して相違点1に係る本件発明1の構成とすることには動機付けがなく、また上記(イ)で述べたように、本件発明1は相違点1に係る構成により飾り糸の離脱の防止という格別な効果を奏するから、本件発明1は、甲2発明A及び甲1記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件発明7について
本件発明7と甲2発明Bとを対比すると、甲2発明Bの「フィラメント」は、本件発明7の「単繊維」に相当する。
また、甲2発明Bの「飾り糸が、0.05乃至0.8デニールのフィラメントであ」ることは、本件特許発明7の「飾り糸が、0.03乃至3デニールの単繊維であ」ることと重複する。
したがって、両者は、以下の点で相違し、その余で一致する。
<相違点2>
本件発明7では、飾り糸が、外周に凹凸を有する横断面形状であり、それによりモール糸からなるパイルからの、飾り糸である単繊維の離脱が防止されるものであるのに対し、甲2発明Bでは、飾り糸が、外周に凹凸を有する横断面形状であるか不明な点。

上記相違点2について検討する。
上記相違点2は、実質的に上記相違点1と同じであるから、上記(3)で、相違点1について述べたのと同様の理由により、本件発明7は、甲2発明B及び甲1記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5) 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲2発明A及び甲1記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないし、本件発明7は、甲2発明B及び甲1記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、本件発明1及び7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、特許法第113条第2号に該当せず、取り消されるべきものとすることはできない。

第5 むすび
したがって、上記取消理由によっては、本件発明1及び7に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件発明1及び7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-03-07 
出願番号 特願2015-109235(P2015-109235)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (D02G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 加賀 直人  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 小野田 達志
蓮井 雅之
登録日 2017-02-17 
登録番号 特許第6092937号(P6092937)
権利者 山崎産業株式会社
発明の名称 モール糸からなるパイルを備えたパイルマットの飾り糸離脱防止方法及びパイルマット  
代理人 高良 尚志  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ