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審決分類 |
審判 判定 判示事項別分類コード:なし 属さない(申立て成立) A44B |
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管理番号 | 1338188 |
判定請求番号 | 判定2017-600032 |
総通号数 | 220 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許判定公報 |
発行日 | 2018-04-27 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2017-08-10 |
確定日 | 2018-03-09 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第5213523号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | イ号説明書に示す製品名「アクアガード」5CNT8の製造方法は、特許第5213523号発明の技術的範囲に属しない。 |
理由 |
第1 請求の趣旨 本件判定の請求の趣旨は、判定請求書及び平成29年8月31日付けの回答書によれば、イ号説明書に示す製品名「アクアガード」5CNT8の製造方法(以下、「イ号方法」という。)は、特許第5213523号発明(以下、「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属しない、との判定を求めるものである。 本件に係る手続の経緯は、以下のとおりである。 平成11年 9月24日 原出願(特願2000-571795) 平成20年 5月26日 本件出願(特願2008-136701、優先権 主張 平成10年9月25日 米国)平成25年 2月20日 特許査定 平成25年 3月 8日 設定登録(特許第5213523号) 平成28年 7月29日 無効審判請求(無効2016-800090号) 平成29年 8月10日 本件判定請求 平成29年 8月24日 審尋 平成29年 8月31日 回答書 平成29年10月20日 上申書(請求人) 平成29年11月10日 判定請求答弁書 平成30年 1月15日 審決(無効2016-800090号) 平成30年 1月15日 判定請求答弁書 第2 本件発明 1 本件発明 上記手続の経緯にあるとおり、特許第5213523号(以下、「本件特許」という。)は無効審判(無効2016-800090号)が請求され、その審決は、本件特許の特許請求の範囲の訂正を認めた上で、特許を維持するというものであった。しかしながら、当該審決は未確定であるため、本件判定は、当該訂正前の、本件特許の設定登録時の特許請求の範囲に基いて判定するものである。設定登録時の特許請求の範囲の記載は、次のとおりである(以下、請求項1に係る発明を「本件発明」という。)。 「【請求項1】 耐水性のスライドファスナーを作成するための方法であって、 前記耐水性のスライドファスナーが、第1および第2の対向する面をそれぞれ有すると共に前記第1の面の端部に沿って配置された一連の把持部材構成要素をそれぞれ有する一対のストリンガテープであってストリンガテープ間に第1の分割線を有する一対のストリンガテープと、前記第2の面上の耐水性の層とを有してなり、前記一対のストリンガテープが平行に配置されると共に前記一連の把持部材構成要素に隣接する内側端部を有している、方法であって、 前記スライドファスナーは、 前記一対のストリンガテープの把持部材構成要素が係合している間に、前記内側端部および前記把持部材構成要素を覆うように前記第2の面上に固体シートとして前記耐水性の層を接着、積層、転写コーティング、または転写して積層すること、 前記耐水性の層を前記ストリンガテープに対して少なくとも約6lb/in(0.107kg/mm)の接着力で接着すること、および 前記第1の分割線と平行に配置され且つ一致する第2の分割線を前記固体シートに切断すること の順で生成される、方法。 【請求項2】 前記耐水性の層が、ストリンガテープに対して、少なくとも10lb/in(0.178kg/mm)の接着力で接着される、請求項1記載の方法。 【請求項3】 前記耐水性の層が、ストリンガテープに対して、少なくとも25lb/in(0.446kg/mm)の接着力で接着される、請求項1記載の方法。 【請求項4】 前記耐水性の層が少なくとも約1ミル(25μm)の厚さで前記第2の面上に固体シートとして接着され、積層され、転写コーティングされ、あるいは転写され積層される、請求項1記載の方法。 【請求項5】 前記耐水性の層が少なくとも約2ミル(50μm)の厚さで前記第2の面上に固体シートとして接着され、積層され、転写コーティングされ、あるいは転写され積層される、請求項1記載の方法。 【請求項6】 前記耐水性の層が、前記ストリンガテープの全体の強度より大きな接着力で前記ストリンガテープに接着しており、これにより、前記ストリンガテープは前記耐水性の層が前記ストリンガテープから分離する前に折れる、請求項1記載の方法。 【請求項7】 前記耐水性の層が前記第2の面上にポリウレタンフィルムの形態の固体シートとして接着され、積層され、転写コーティングされ、あるいは転写され積層される、請求項1記載の方法。 【請求項8】 前記ポリウレタンフィルムが、前記ストリンガテープに対向して配置されると共に約82PTPU以下のショアA硬度を有する内側層を含む多層構造であって、約93PTPU以上のショアA硬度を有する外側層を有している多層構造を含むように構成されている、請求項7記載の方法。 【請求項9】 前記ストリンガテープに対向する前記ポリウレタンフィルムの1つの面が、ポリウレタン接着剤、結合剤ないしホットメルト接着剤からなる内側層によってコーティングされる、請求項7記載の方法。 【請求項10】 前記内側層が、前記ストリンガテープ内に埋め込まれている部分を有するように構成される、請求項8または9記載の方法。 【請求項11】 前記内側層および前記外側層が、それぞれ約1.5ミル(38μm)の厚さを有するように構成される、請求項8または9記載の方法。 【請求項12】 第1および第2の対向する面をそれぞれ有すると共に前記第1の面の端部に沿って配置された一連の把持部材構成要素をそれぞれ有する一対のストリンガテープであってストリンガテープ間に第1の分割線を有する一対のストリンガテープと、 前記第2の面上の耐水性の層とを有してなり、 前記一対のストリンガテープが平行に配置されると共に前記一連の把持部材構成要素に隣接する内側端部を有しており、および 前記耐水性の層が前記第2の面上に位置すると共に前記内側端部および前記把持部材構成要素を覆っている耐水性のスライドファスナーにおいて、 前記耐水性の層が前記ストリンガテープに対して少なくとも約6lb/in(0.107kg/mm)の接着力を有すると共に第2の分割線を有しており、 前記第2の分割線が前記第1の分割線と平行且つ一致するように配置されており、および 前記耐水性の層の前記第2の面に対向する面が前記第2の面と平行であると共に前記一対のストリンガテープの各把持部材構成要素が係合している、ことを特徴とする、請求項1?11のいずれか1項に記載の方法によって製造される、耐水性のスライドファスナー。 【請求項13】 前記耐水性の層が、ストリンガテープに対して、少なくとも10lb/in(0.178kg/mm)の接着力を有する、請求項12記載のスライドファスナー。 【請求項14】 前記耐水性の層が、ストリンガテープに対して、少なくとも25lb/in(0.446kg/mm)の接着力を有する、請求項12記載のスライドファスナー。 【請求項15】 前記耐水性の層が、孔あきなしに、少なくとも約200ストール摩耗サイクルに耐えることができる、請求項12記載のスライドファスナー。 【請求項16】 前記耐水性の層が、孔あきなしに、少なくとも約500ストール摩耗サイクルに耐えることができる、請求項12記載のスライドファスナー。 【請求項17】 前記耐水性の層が、孔あきなしに、少なくとも約1000ストール摩耗サイクルに耐えることができる、請求項12記載のスライドファスナー。 【請求項18】 前記耐水性の層が少なくとも約1ミル(25μm)の厚さを有する、請求項12記載のスライドファスナー。 【請求項19】 前記耐水性の層が少なくとも約2ミル(50μm)の厚さを有する、請求項12記載のスライドファスナー。 【請求項20】 前記耐水性の層が、前記ストリンガテープの全体の強度より大きな前記ストリンガテープに対する接着力を有しており、これにより、前記ストリンガテープは前記耐水性の層が前記ストリンガテープから分離する前に折れる、請求項12記載のスライドファスナー。 【請求項21】 前記耐水性の層がポリウレタンフィルムを含む、請求項12記載のスライドファスナー。 【請求項22】 前記ポリウレタンフィルムが、前記ストリンガテープに対向して配置されると共に約82PTPU以下のショアA硬度を有する内側層を含む多層構造であって、約93PTPU以上のショアA硬度を有する外側層を有している多層構造を含む、請求項21記載のスライドファスナー。 【請求項23】 前記内側層の一部が前記ストリンガテープ内に埋め込まれている、請求項22記載のスライドファスナー。 【請求項24】 前記内側層および前記外側層がそれぞれ約1.5ミル(38μm)の厚さを有している、請求項22記載のスライドファスナー。 【請求項25】 前記スライドファスナーが約30cm以下のクラーク硬さを示すことを特徴とする、請求項12記載のスライドファスナー。 【請求項26】 請求項12から25のいずれかに記載の耐水性のスライドファスナーを有し、前記スライドファスナーの耐水性の層が外側を向いている、耐水性の物品。 【請求項27】 請求項12から25のいずれかに記載の耐水性のスライドファスナーを有し、前記スライドファスナーの耐水性の層が外側を向いている、耐水性の衣服。」 2 構成要件 本件発明を、構成要件に分説すると、次のとおりである。 A 耐水性のスライドファスナーを作成するための方法であって、 B 前記耐水性のスライドファスナーが、第1および第2の対向する面をそれぞれ有すると共に前記第1の面の端部に沿って配置された一連の把持部材構成要素をそれぞれ有する一対のストリンガテープであってストリンガテープ間に第1の分割線を有する一対のストリンガテープと、前記第2の面上の耐水性の層とを有してなり、前記一対のストリンガテープが平行に配置されると共に前記一連の把持部材構成要素に隣接する内側端部を有している、方法であって、 C 前記スライドファスナーは、 D 前記一対のストリンガテープの把持部材構成要素が係合している間に、前記内側端部および前記把持部材構成要素を覆うように前記第2の面上に固体シートとして前記耐水性の層を接着、積層、転写コーティング、または転写して積層すること、 E 前記耐水性の層を前記ストリンガテープに対して少なくとも約6lb/in(0.107kg/mm)の接着力で接着すること、および F 前記第1の分割線と平行に配置され且つ一致する第2の分割線を前記固体シートに切断すること G の順で生成される、方法。 第3 当事者の主張 1 請求人の主張 請求人は、判定請求書及び平成29年10月20日付け上申書において、概ね次の理由により、イ号方法は本件発明の技術的範囲に属しない旨を主張している。 (1)構成要件B、Fについて(判定請求書31頁7行?32頁3行) 構成要件B、Fの「第1の分割線」に関し、本件特許に係る無効審判事件(無効2016-800090号)において、被請求人は「第1の分割線は幅を有さず、ストリンガテープ間に空間は形成されない」と主張しているところ、イ号方法には「ストリンガテープの間にスリッターの先端が通過するための空間が形成されている」から、構成要件B、Fを充足しない。 (2)構成要件Dについて(判定請求書32頁4行?末行) 構成要件Dの「固体シート」に関し、上記無効審判事件において、被請求人は「第2の面上に耐水性の層が積層のために接するタイミングで、当該耐水性の層は、既に固体シートの形態である(液体状体ではない)。」、「射出成型法によって取り付けられるものとは異なる」と主張しているところ、イ号方法は、射出成型法によって作られるものよりも液体に近い直前ポリウレタンが積層されるから、構成要件Dを充足しない。 (3)構成要件Eについて(平成29年10月20日付け上申書4頁下から6行?5頁8行) 構成要件Eの「接着力」に関し、イ号方法の接着力は、平均値で0.031kg/mm以下(最大でも0.036kg/mm以下)であるから、構成要件Eを充足しない。 (4)均等論について(判定請求書33頁3行?45頁11行) 本件発明の「第1の分割線」及び「固体シート」に関して、少なくとも均等論の第1、第3、第5要件を満たさないから、イ号方法は本件発明に均等なものではない。 2 被請求人の主張 被請求人は、判定請求答弁書において、概ね次の理由により、イ号方法は本件発明の技術的範囲に属する旨を主張している。 (1)構成要件B、Fについて(平成30年1月15日付け判定請求答弁書14頁下から5行?17頁16行) イ号方法の350?450μmというストリンガテープ間の隙間は、「耐水性に影響を及ぼすような実質的な空間はないと評価される程度の大きさの空間」であり、「第1の分割線」に該当する。 上記無効審判事件において被請求人は、「ストリンガテープ間に把持部材構成要素が存在するための空間を有するものでない」と主張したのであって、ミクロ的に見た場合に必然的に生じる微細な空間が存在する態様を排除したものではない。 (2)構成要件Dについて(上記判定請求答弁書21頁1行?23頁15行) 「固体シート」とは、定まった形をもつ状態のシートを意味する。 請求人は、「少なくとも内部が固まっていない部材」と言っており、ポリウレタンの外面については一切主張しておらず、少なくとも外面が一定の形状を有することは明らかである。 イ号方法では直前ポリウレタンがコンベア上を流れていくから、固体であることは明らかである。 請求人は、接着剤コートを塗る前の部材を「直前ポリウレタン」と称して構成要件Dの「固体シート」に対比させているが、本来対比すべきは、ストリンガテープの第2の面上に接着する時点での部材である。「直前ポリウレタン」は接着剤コート、乾燥処理を経て、ストリンガテープに接着されるから、接着するタイミングでは「固体シート」である。 よって、イ号方法の「直前ポリウレタン」は、本件発明の「固体シート」に該当する。 (3)構成要件Eについて(上記判定請求答弁書23頁下から6行?26頁5行) 請求人による接着力の測定(甲第25号証)は、測定機器、方法が不明で、証拠とするには不十分・不適切である。また、6回の測定のうち2回は、ポリウレタンの層が破断したとあるが、これは、接着が強度であり、接着箇所を剥がせなかったから破断したことが明らかだから、請求人の実験及び結果とした数値は不適当である。 イ号方法における真の「接着力」は、乙第7?10号証のとおり、7.9lb/inまたは8.1lb/inである。 第4 判断 1 請求人によるイ号方法の特定 請求人は、平成29年10月20日付け上申書の5頁11頁?6頁6行において、イ号方法を次のとおりに特定している。ただし、構成要件を示す「a」等は当審で付した。 a 止水性のスライドファスナーを作成するための方法であって、 b 止水性のスライドファスナーが、第1および第2の対向する面をそれぞれ有すると共に、前記第1の面に配置された一連のエレメントを有する一対のストリンガテープであって、ストリンガテープ間に空間を有する一対のストリンガテープと、前記第2の面上のポリウレタンフィルムとを有してなる、方法であって、 c スライドファスナーは、 d 一対のストリンガテープのエレメントが係合しているもののストリンガテープの間に空間が形成されている状態で、前記第2の面上に少なくとも内部が固まっていない部材である直前ポリウレタンを接着剤を介して積層し、 e 前記直前ポリウレタンを前記ストリンガテープに対して平均0.031kg/mm以下(最大でも0.036kg/mm以下)の接着力で接着し、 h 約45℃で約48時間の間保管してエージング処理を行うことで直前ポリウレタンを固体のポリウレタンフィルムとし、 i その後、撥水液内に芯紐、ポリウレタンフィルム及びストリンガテープを浸漬して、これらに対して撥水処理を行い、 f 一対のストリンガテープの間に設けられた空間内をスリッターの先端を通過させることで、固体のポリウレタンフィルムを切断すること g の順で生成される、方法。 2 当審によるイ号方法の特定 上記「第4 1」の請求人によるイ号方法の特定によっては不明確な構成について、請求人が提出した甲第15、16号証、被請求人が提出した乙第4号証を参照して、イ号方法の構成について以下の(1)及び(2)の点を明確にした。 (1)甲第16号証の2頁の写真、乙第4号証の2?6頁を参照して、一対のエレメントがそれぞれのストリンガテープの第1の面の端部に沿って配置されていること、一対のストリンガテープが平行に配置されること。 (2)甲第15号証の3頁の写真、甲第16号証の2頁の写真を参照して、一対のストリンガテープがエレメントに隣接する内側端部を有すること、ポリウレタンフィルムが内側端部およびエレメントを覆うように積層されていること。 よって、イ号方法を、次のとおり特定する(以下、それぞれの構成要件を「構成a」等という。)。 a 止水性のスライドファスナーを作成するための方法であって、 b 止水性のスライドファスナーが、第1および第2の対向する面をそれぞれ有すると共に前記第1の面の端部に沿って配置された一連のエレメントをそれぞれ有する一対のストリンガテープであってストリンガテープ間に空間を有する一対のストリンガテープと、前記第2の面上のポリウレタンフィルムとを有してなり、前記一対のストリンガテープが平行に配置されると共に前記一連のエレメントに隣接する内側端部を有している、方法であって、 c 前記スライドファスナーは、 d 前記一対のストリンガテープのエレメントが係合しているもののストリンガテープの間に空間が形成されている状態で、前記内側端部および前記エレメントを覆うように前記第2の面上に少なくとも内部が固まっていない部材である直前ポリウレタンを接着剤を介して積層すること、 e 前記直前ポリウレタンを前記ストリンガテープに対して平均0.031kg/mm以下(最大でも0.036kg/mm以下)の接着力で接着すること、 h 約45℃で約48時間の間保管してエージング処理を行うことで直前ポリウレタンを固体のポリウレタンフィルムとし、 i その後、撥水液内に芯紐、ポリウレタンフィルム及びストリンガテープを浸漬して、これらに対して撥水処理を行い、 f 前記一対のストリンガテープの間に設けられた空間内をスリッターの先端を通過させることで、固体のポリウレタンフィルムを切断すること g の順で生成される、方法。 3 構成要件充足性について (1)構成要件A、C、Gについて 本件発明の「耐水性」とはスライドファスナーを水が通過しないことであり(本件明細書の段落【0010】、【0011】)、イ号方法の「止水性」とはファスナを水が通らないことであるから(判定請求書25頁6行、甲第17号証の3頁、甲第18号証の1頁)、イ号方法の「止水性」は本件発明の「耐水性」に該当する。よって、イ号方法の構成a、c、gは、本件発明の構成要件A、C、Gを充足する。 (2)構成要件Dについて イ号方法の構成dにおける「前記一対のストリンガテープのエレメントが係合している」「状態で、前記内側端部および前記エレメントを覆うように前記第2の面上に」「接着剤を介して積層すること、」は、本件発明の構成要件Dの「前記一対のストリンガテープの把持部材構成要素が係合している間に、前記内側端部および前記把持部材構成要素を覆うように前記第2の面上に」「接着」「して積層すること、」に該当する。 次に、イ号方法の「少なくとも内部が固まっていない部材である直前ポリウレタン」を積層することが、本件発明の「固体シートとして前記耐水性の層」を積層することに該当するか検討する。 本件明細書の段落【0040】、【0043】には、耐水性の層の材料としてポリウレタンが挙げられているから、直前ポリウレタンは耐水性の層である。 また、甲第20号証の2頁には、ストリンガテープに張り合わせる直前のポリウレタン樹脂(直前ポリウレタン)のモジュラスを測定するために、試験片を15×60mmの短冊状に切断した旨が記載されている。そうすると、直前ポリウレタンは、所定の寸法の試験片に切断できる程度には、定まった形をもつ「固体」の状態であると解される。また、直前ポリウレタンは、イ号説明書の4頁2行?5頁5行に記載された5CNT8の製造工程によれば、「シート」の形態で圧着部に供給されていると認められる。したがって、直前ポリウレタンは固体シートであるといえる。 よって、イ号方法の「少なくとも内部が固まっていない部材である直前ポリウレタン」を積層することは、本件発明の「固体シートとして前記耐水性の層」を積層することに該当する。 したがって、イ号方法の構成dは、本件発明の構成要件Dを充足する。 なお、請求人は、判定請求書において、甲第20号証に基いて、直前ポリウレタンと「射出した直後」の射出成型品とのモジュラスやアセトンへの溶解性を比較して、直前ポリウレタンが少なくとも固体ではない旨主張している。しかし、測定対象とされた「射出した直後」の射出成型品は、所定の寸法の試験片に切断できていることから、射出成型のタイミングにおける、樹脂が定まった形を持っていない状態ではなく、射出成型後にある程度冷却されて固化した状態のものと解される。そのような固体の射出成型品と比較しても、直前ポリウレタンが固体でないということはできない。 (3)構成要件Eについて 本件特許の請求項1では、上記「第2 2」のとおり、構成要件Eはスライドファスナーの製造途中のステップとして記載され、また、「…の接着力で接着する」とも記載されているから、構成要件Eの接着力とは、最終製品の接着力ではなく、製造途中の接着時の接着力と解するのが相当である。 そして、構成要件Eの接着時の接着力は「少なくとも約6lb/in(0.107kg/mm)」であるのに対して、構成eの接着時の接着力は「平均0.031kg/mm以下(最大でも0.036kg/mm以下)」と相違しており、イ号方法の構成eは、本件発明の構成要件Eを充足しない。 この「接着力」の点に関して、被請求人は、上記「第3 2(3)」のとおり、請求人による接着力の測定(甲第25号証)は不適当であり、イ号方法の接着力は乙第7?10号証のとおり7.9lb/inまたは8.1lb/inである旨を主張する。しかし、乙第7?10号証の接着力は、イ号方法により作成された最終製品のスライドファスナーについて測定した値であって、製造途中の接着時の値ではないと解されるから、このような測定対象の異なる乙第7?10号証の値をもって、イ号方法が本件発明の構成要件Eを充足するということはできない。 (4)構成要件B、Fについて 上記無効審判事件において被請求人が提出した口頭審理陳述要領書(3)(甲第9号証)の3頁下から4行?4頁7行には、構成要件B、Fの「第1の分割線」について、以下のように記載されている。 「本件発明では、段落0020、0044等に示されたように、接触した一対のストリンガテープの境界を第1の分割線として、この第1の分割線に平行で一致する第2の分割線をストリンガテープ上の固体シートにナイフ等で形成する。このように第2の分割線を容易に形成することができるのは、一対のストリンガテープを接触させて第1の分割線を形成し、この線に平行で一致するようにナイフ等を使用すればよいからである。一対のストリンガテープ間に空間があるならば、このようなプロセスで第2の分割線を形成することができない。図1及び図3等からも、一対のストリンガテープが互いに接していることは明らかである。 したがって、訂正するまでもなく、第1の分割線は、一対のストリンガテープが互いに接した境界線を指しており、また、請求人が主張するような幅を有する太い線ではないことも明らかである。」 ここで、本件発明の「耐水性」が、スライドファスナーを水が通過しないことを意味する(本件明細書の段落【0010】、【0011】)ことからすれば、この耐水性を実現する耐水性の層の、第2の分割線で切断された固体シート間には、水が通過するような空間がないことは明らかであり、そのような第2の分割線は、幅を有さないものと解される。そして、本件発明の第2の分割線は、第1の分割線と平行に配置され且つ一致するのだから、第1の分割線もまた幅を有さないもの、すなわち、図1から看取されるような一対のストリンガテープが互いに接した境界線と解される。 よって、被請求人の上記主張のとおり、第1の分割線は、一対のストリンガテープが互いに接した境界線を意味すると解するのが相当である。 一方、イ号方法の構成b、fでは、ストリンガテープ間に空間を有するから、ストリンガテープは互いに接していない。 この「第1の分割線」の点に関して、被請求人は、上記「第3 2(1)」のとおり、イ号方法の350?450μmというストリンガテープ間の隙間は、「耐水性に影響を及ぼすような実質的な空間はないと評価される程度の大きさの空間」であり、「第1の分割線」に該当すると主張する。しかし、ストリンガテープ間に350?450μmの隙間がある場合は、ストリンガテープが互いに接しているということはできないから、このような隙間が、一対のストリンガテープが互いに接した境界線、すなわち第1の分割線に該当するということはできない。 また、被請求人は、上記無効審判事件では「第1の分割線」は「ストリンガテープ間に把持部材構成要素が存在するための空間を有するものでない」と主張したのであって、ミクロ的に見た場合に必然的に生じる微細な空間が存在する態様を排除したものではないとも主張する。しかし、イ号方法におけるストリンガテープ間の隙間は、ポリウレタンフィルムの切断時にスリッターが当該隙間に位置するようにして、「ストリンガテープに傷が入るのを防止するため」(甲第15号証の3頁3?4行)に意図的に設けられたものであるから、ミクロ的に見た場合に必然的に生じる微細な空間であるとはいえない。 したがって、イ号方法の構成b、fには、一対のストリンガテープが互いに接した境界線、すなわち第1の分割線が存在せず、自ずと、第1の分割線と平行に配置され且つ一致する第2の分割線も存在しないから、イ号方法の構成b、fは、本件発明の構成要件B、Fを充足しない。 4 均等論について イ号方法が本件発明と均等なものと判断するには、以下の5要件を全て満たすことが必要である(ボールスプライン事件判決 平成6年(オ)第1083号 平成10年2月24日 最高裁判決)。 要件1 特許請求の範囲に記載された構成中のイ号と異なる部分が発明の本質的な部分ではない。 要件2 前記異なる部分をイ号のものと置き換えても特許発明の目的を達成することができ、同一の作用効果を奏する。 要件3 前記異なる部分をイ号のものと置き換えることが、イ号の実施の時点において当業者が容易に想到することができたものである。 要件4 イ号が特許発明の出願時における公知技術と同一又は当業者が公知技術から出願時に容易に推考できたものではない。 要件5 イ号が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外される等の特段の事情がない。 そこで、事案に鑑みて、構成要件B、Fが上記要件を全て満たすものであるか検討する。 (1)要件1について 本件発明は耐水性のスライドファスナー(構成要件A)に関するものであって、耐水性とはスライドファスナーを水が通過しないことを意味するところ(本件明細書の段落【0010】、【0011】)、そのような作用を奏するためには、第2の分割線で切断された固体シート間に水が通過するような空間を有さないことが必要といえる。 これに対して本件発明は、「第2の分割線」を、「一対のストリンガテープが互いに接した境界線」を意味する「第1の分割線」と平行且つ一致させることで、第2の分割線で切断された固体シートも互いに接し、その間に空間を有さないようにしているといえる。 そうすると、構成要件B、Fは、本件発明の本質的な部分であるから、上記要件1を満たさない。 (2)要件5について 上記無効審判事件において被請求人は、上記3(4)のとおり、「第1の分割線」が「一対のストリンガテープが互いに接した境界線」を意味することを明らかにし、本件発明の効果として「一対のストリンガテープを接触させて第1の分割線を形成し、この線に平行で一致するようにナイフ等を使用すればよいから」「第2の分割線を容易に形成することができる」ことを挙げ、「一対のストリンガテープ間に空間があるならば、このようなプロセスで第2の分割線を形成することができない。」としてストリンガテープ間に空間があるものを否定している。 そうすると、構成要件B、Fの「第1の分割線」を具備せず、ストリンガテープ間に空間があるイ号方法は、上記無効審判事件の手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものである。 したがって、上記要件5を満たさない。 (3)小括 以上のとおり、構成要件B、Fは、少なくとも上記要件1、5を満たさないから、他の要件について検討するまでもなく、イ号方法は本件発明と均等なものとはいえず、本件発明の技術的範囲に属するとはいえない。 5 請求項2?27に係る発明について 請求項2?11に係る発明は、本件発明にさらに限定を加えたものであるから、イ号方法は、請求項2?11に係る発明の技術的範囲に属するとはいえない。 請求項12に係る発明は、耐水性のスライドファスナーという物の発明であり、イ号方法は方法であって、両者はカテゴリーが異なるから、イ号方法は、請求項12に係る発明の技術的範囲に属するとはいえない。 請求項13?27に係る発明は、請求項12に係る発明にさらに限定を加えた物の発明であるから、イ号方法は、請求項13?27に係る発明の技術的範囲に属するとはいえない。 第5 むすび 以上のとおり、イ号方法は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。 よって、結論のとおり判定する。 |
判定日 | 2018-03-01 |
出願番号 | 特願2008-136701(P2008-136701) |
審決分類 |
P
1
2・
-
ZA
(A44B)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 久島 弘太郎、柿崎 拓 |
特許庁審判長 |
久保 克彦 |
特許庁審判官 |
小野田 達志 千壽 哲郎 |
登録日 | 2013-03-08 |
登録番号 | 特許第5213523号(P5213523) |
発明の名称 | 耐水性スライドファスナーおよびその作成方法 |
代理人 | 大野 浩之 |
代理人 | 阿部 豊隆 |
復代理人 | 森▲崎▼ 博之 |
代理人 | 小林 理人 |
代理人 | 澤井 光一 |
復代理人 | 津城 尚子 |
代理人 | 稲葉 良幸 |
代理人 | 佐藤 睦 |