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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
異議2017701054 審決 特許
異議2016700780 審決 特許
異議2017700456 審決 特許
異議2017700366 審決 特許
異議2018700579 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07C
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07C
管理番号 1338517
審判番号 不服2016-1032  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-01-25 
確定日 2018-03-14 
事件の表示 特願2013-540249「オレフィンおよびアミンを含有する炭化水素流の精製方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年5月31日国際公開、WO2012/069104、平成26年1月16日国内公表、特表2014-500881〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

この出願は、2011年9月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2010年11月23日(EP)欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成27年5月18日付けで拒絶理由が通知され、同年8月26日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年9月14日付けで拒絶査定がされ、平成28年1月25日に拒絶査定不服審判が請求され、平成29年1月30日付けで当審から拒絶理由が通知され、同年7月31日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 特許請求の範囲の記載

この出願の特許請求の範囲の請求項1?9の記載は、平成29年7月31日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載されるとおりのものであり、その請求項1(以下「本願請求項」という。)の記載は以下のとおりである。
「直鎖アルファオレフィン、その異性体および少なくとも1種類の有機アミンを含有する炭化水素流の精製方法であって、前記直鎖アルファオレフィン、前記異性体および前記アミンは、大気圧下で多くとも5℃しか違わない沸点を有するものであり、該方法は、蒸留によって前記炭化水素流からより多い量の有機アミンを除去する工程を有してなり、該炭化水素流中の前記異性体の総量に基づいて、5%と95%の間の異性体が、前記アミンと共にアミン/異性体の豊富な留分中へと該炭化水素流から除去されるように蒸留が行われる方法。」

第3 当審が通知した拒絶の理由

平成29年1月30日付けで当審が通知した拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)は、理由1?3からなり、その理由1及び3は以下のとおりである。

1 理由1について

当審拒絶理由の理由1は、
「この出願は、特許請求の範囲の記載が以下の点で特許法第36条第6項第2号に適合しないから、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。」
としたものであり、請求項1については、概略以下のとおり指摘したものである。

請求項1の「前記直鎖アルファオレフィン、前記異性体および前記アミンは、大気圧下で多くとも5℃しか違わない沸点を有する」という記載は、「5℃しか違わない沸点」の基準が直鎖アルファオレフィンの沸点でもなく、異性体の沸点でもなく、アミンの沸点でもないことが明らかな記載であるから、「前記直鎖アルファオレフィン、前記異性体及び前記アミンの大気圧下での沸点が5℃の範囲内にある」という意味であるというほかはない。
そうすると、炭化水素流中に、直鎖アルファオレフィン、沸点が直鎖アルファオレフィンの沸点より沸点差5℃以下で高いアミン、沸点がアミンの沸点より高く、かつ、直鎖アルファオレフィンより沸点差5℃以下で高い異性体、沸点が直鎖アルファオレフィンの沸点より低く、かつ、アミンの沸点より沸点差5℃以下で低い異性体が存在する場合であって、これらの異性体同士の沸点差が5℃より大きいとき、これらの異性体のうちどちらの異性体が「炭化水素流中の前記異性体の総量」に含まれどちらの異性体が含まれないのかを特定することができない。
したがって、請求項1は「炭化水素流中の前記異性体の総量」を必ずしも特定できないものであるから、明確でない。

2 理由3について

当審拒絶理由の理由1で述べたように、請求項1?9に係る発明は、「炭化水素流中の前記異性体の総量」を必ずしも特定できないものであるから明確でないが、「総量」に対する「蒸留」による「除去」の、発明特定事項を充足することになる割合が「5%と95%の間」と極めて広範であるうえ、一般的に「蒸留」条件の調整により不純物等の「総量」に対する「除去」の割合を調整できることはごく当たり前の技術常識である。
以上のことから、当審拒絶理由の理由3は、この明確でない点については厳密な対比、判断を行う必要がないとして、請求項1について、
「この出願の請求項1に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物1に記載された発明並びに刊行物1?3の記載及び技術常識(刊行物5?8)に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許をすることができない。
刊行物1:国際公開第2009/095147号
刊行物2:白木安司,α-オレフィン製造触媒の開発および工業化に関す る研究,神戸大学博士論文,2001年1月,1頁,75頁? 76頁,89頁?90頁
刊行物3:特表平8-507553号公報
刊行物5:小竹無二雄 監修,大有機化学2巻 脂肪族化合物I,1965 年11月30日,第5版,41頁
刊行物6:化学大辞典編集委員会 編,化学大辞典5縮刷版,1989年 8月15日,第32刷,282頁,315頁?317頁
刊行物7:化学大辞典編集委員会 編,化学大辞典2縮刷版,1989年 8月15日,第32刷,728頁?729頁
刊行物8:社団法人日本化学会 編,化学便覧応用編改訂2版,1975 年6月10日,第2刷,627頁?637頁」
としたものを含むものである。

3 当審拒絶理由の対象となった請求項1と本願請求項との対応

本願請求項の記載は、当審拒絶理由の理由1及び3の対象となった、平成27年8月26日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載と同じである。

第4 当審の判断

当審は、当審拒絶理由の理由1及び3のとおり、
[理由1]
この出願は、本願請求項についての特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合しないから、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。
[理由3]
この出願の本願請求項に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された上記刊行物1に記載された発明並びに上記刊行物1?3の記載及び技術常識に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
と判断する。
それらの理由は以下のとおりである。

1 理由1について

(1)本願請求項の「直鎖アルファオレフィン」、「その異性体」、「前記異性体」及び「前記直鎖アルファオレフィン、前記異性体および前記アミンは、大気圧下で多くとも5℃しか違わない沸点を有する」の解釈

本願請求項の「該炭化水素流中の前記異性体の総量」という発明特定事項が明確であるか否かを検討するために、まず、本願請求項の「直鎖アルファオレフィン、その異性体および少なくとも1種類の有機アミンを含有する炭化水素流の精製方法であって、前記直鎖アルファオレフィン、前記異性体および前記アミンは、大気圧下で多くとも5℃しか違わない沸点を有するものであり」という発明特定事項における、炭化水素流中に含有される「直鎖アルファオレフィン」及び「その異性体」、特定の沸点差を有する「前記異性体」並びに「前記直鎖アルファオレフィン、前記異性体および前記アミンは、大気圧下で多くとも5℃しか違わない沸点を有する」の技術的意味を検討する。

ア 炭化水素流中に含有される「直鎖アルファオレフィン」について

本願請求項の「直鎖アルファオレフィン」について、まず、発明の詳細な説明には「直鎖アルファオレフィン」の定義はない。そこで技術常識を参酌するに、「オレフィン」とは、一般的には「一般式C_(n)H_(2n)をもつ脂肪族不飽和炭化水素の総称」(化学大辞典編集委員会 編,化学大辞典1縮刷版,1989年8月15日,第32刷,920頁)であって、炭素数(上記一般式におけるn)は必ずしも特定されないものであるといえる。
しかし、そもそも、本願請求項では、直鎖オレフィンとその異性体と有機アミンとの沸点が大気圧下で多くとも5℃しか違わないという特定がなされていることから、直鎖アルファオレフィンの炭素数を定めて直鎖アルファオレフィンを特定の炭素数の直鎖アルファオレフィンと解さないと、直鎖アルファオレフィンの沸点が定まらないから、上記の沸点に関する特定が技術的に意味をなさなくなる。
また、発明の詳細な説明には、「背景技術」の項に、「化学工業において、炭化水素およびアミンを含む出口流生成物を生じるか、または炭化水素およびアミンを含むプロセスユニットへの供給流を使用するプロセスがよく行われている。その例には、エチレンのオリゴマー化によって直鎖アルファオレフィンを調製するために利用される反応器からの出口流がある。次いで、生成された直鎖アルファオレフィンは、別の用途または市場のために異なる留分に分離される。・・・」(【0002】)、「多くの場合、アミノおよび炭化水素流、特にその留分の沸点は非常に近いので、蒸留によって、炭化水素流またはその留分から有機アミンを除去することは難しい。例えば、n-ドデシルアミン(DDA)は、たいてい、オリゴマー化プロセス中に加えられ、これは最終的に、生成物の分別蒸留後、C_(14)-LAO-生成物留分になる。・・・」(【0003】)と、従来技術として、エチレンのオリゴマー化により合成される直鎖アルファオレフィンを含む炭化水素流及びその別の用途又は市場のための分留について記載されているところ(審決注:下線は強調のため当審にて付した。)、直鎖アルファオレフィンの主たる用途はその炭素数により異なることが技術常識である(後掲摘記(2a))から、上記従来技術において、炭化水素流が分留により特定の炭素数の直鎖アルファオレフィンごとの留分とされることは明らかである。
さらに、発明の詳細な説明には、「発明が解決しようとする課題」の項に、「背景技術」の項に記載された上記従来技術が有する課題が記載されるとともに(【0012】)、「課題を解決するための手段」の項に、炭化水素流が、主成分として、直鎖C_(10)アルファオレフィンとその異性体及び/又は直鎖C_(14)アルファオレフィンとその異性体を含むことが好ましいことが記載されている(【0019】)。
加えて、発明の詳細な説明には、実施例として、「オリゴマー化反応器からのLAO生成物の第1の分別蒸留工程後、主生成物としての1-デセン、有機アミンおよび内部デセンや分岐デセンなどの数多くのデセン異性体を含む粗製C_(10)留分が得られる。・・・次いで、組成C_(10)留分を、大気圧で動作している、70の理論段を有する蒸留塔に送る。」(【0035】)、「・・・C_(10)異性体のある部分をアミンと共に塔頂留出物中に除去できるように、安定な定常条件で蒸留が行われる。」(【0036】)と、オリゴマー化反応器からの直鎖アルファオレフィン生成物を分別蒸留して得た粗製C_(10)留分からC_(10)異性体及びアミンを蒸留により除去したことが記載されている。
したがって、発明の詳細な説明の記載及び技術常識を総合的に勘案すると、本願請求項の「直鎖アルファオレフィン」は、特定の炭素数の直鎖アルファオレフィンであると解することが自然であるといえる。

イ 炭化水素流に含有される「その異性体」について

本願請求項の「直鎖アルファオレフィン、その異性体および少なくとも1種類の有機アミンを含有する炭化水素流」という発明特定事項における「その異性体」について、「その異性体」が上記アで認定した「直鎖アルファオレフィン」の異性体、すなわち特定の炭素数の直鎖アルファオレフィンの異性体であることは明らかである。
そして、そもそも、直鎖アルファオレフィンの異性体には、炭素-炭素二重結合が分子の末端ではなく内部に存在する異性体(内部オレフィン)や、側鎖に炭化水素基を有する異性体(分岐オレフィン)など複数種類の異性体が存在することは技術常識である(後掲摘記(5a))ところ、本願請求項では異性体の種類の数については特定されていないから、上記「その異性体」は、内部オレフィンや分岐オレフィンなど1種類以上の異性体であるといえる。
また、発明の詳細な説明に「オリゴマー化反応器からのLAO生成物の第1の分別蒸留工程後、主生成物としての1-デセン、有機アミンおよび内部デセンや分岐デセンなどの数多くのデセン異性体を含む粗製C_(10)留分が得られる。」(【0035】)と記載されていることからも、上記「その異性体」は、内部オレフィンや分岐オレフィンなど1種類以上の異性体であるといえる。
したがって、発明の詳細な説明の記載及び技術常識を総合的に勘案すると、上記「その異性体」は、「特定の炭素数の直鎖アルファオレフィンの1種類以上の異性体」であるといえる。

ウ 特定の沸点差を有する「前記異性体」について

本願請求項の「前記直鎖アルファオレフィン、前記異性体および前記アミンは、大気圧下で多くとも5℃しか違わない沸点を有する」という発明特定事項における「前記異性体」について、この「異性体」という用語が「前記」という用語を冠する点で、上記「前記異性体」がこの用語の前に記載された「異性体」すなわち上記イで検討した「その異性体」そのものを指すことは明らかである。また、発明の詳細な説明にはこのような理解を妨げる記載はない。
そして、上記イで述べたとおり、上記「その異性体」は「特定の炭素数の直鎖アルファオレフィンの1種類以上の異性体」であるから、上記「前記異性体」も、「特定の炭素数の直鎖アルファオレフィンの1種類以上の異性体」である。

エ 「前記直鎖アルファオレフィン、前記異性体および前記アミンは、大気圧下で多くとも5℃しか違わない沸点を有する」について

本願請求項の「前記直鎖アルファオレフィン、前記異性体および前記アミンは、大気圧下で多くとも5℃しか違わない沸点を有する」という発明特定事項は「直鎖アルファオレフィン」、「異性体」及び「アミン」を並列に掲げるものであるから、この発明特定事項における「5℃しか違わない沸点」が直鎖アルファオレフィンの沸点を基準とするものでもなければ、異性体の沸点を基準とするものでもなく、アミンの沸点を基準とするものでもないことは明らかである。また、発明の詳細な説明にはこのような理解を妨げる記載はない。
そうすると、この発明特定事項は、いずれの化合物の沸点を基準とするものか明らかでない「前記直鎖アルファオレフィン、前記異性体及び前記アミンの大気圧下での沸点が5℃の範囲内にある」という意味であるといえる。

(2)本願請求項の明確性について

ア (1)イ及びウで述べた「その異性体」及び「前記異性体」が複数種類の異性体であることについて

上記(1)アで指摘した段落を含め、発明の詳細な説明には本願請求項の「その異性体」及び「前記異性体」が1種類の異性体を意味する旨の記載は存在しないこと、並びにエチレンのオリゴマー化により種々の偶数炭素数の直鎖アルファオレフィン及びそれらの種々の異性体が合成されるという技術常識(後掲摘記(2a)、(2c)、(2d)、(2g))を総合的に勘案して、本願請求項の「その異性体」及び「前記異性体」が特定の炭素数の直鎖アルファオレフィンの複数種類の異性体であるとして、本願請求項の「該炭化水素流の前記異性体の総量」という発明特定事項が明確であるか否かを検討する。

イ 本願請求項の「該炭化水素流中の前記異性体の総量」という発明特定事項の明確性について

まず、上記(1)ア及び上記アで述べたとおり、本願請求項の「前記直鎖アルファオレフィン、前記異性体および前記アミンは、大気圧下で多くとも5℃しか違わない沸点を有するものであり」という発明特定事項における「直鎖アルファオレフィン」及び「前記異性体」は、「特定の炭素数の直鎖アルファオレフィン」及び「特定の炭素数の直鎖アルファオレフィンの複数種類の異性体」という意味であり、また、この発明特定事項自体は、上記(1)エで述べたとおり、いずれの化合物の沸点を基準とするものか明らかでない「前記直鎖アルファオレフィン、前記異性体及び前記アミンの大気圧下での沸点が5℃の範囲内にある」という意味である。

そこで、以上の解釈を踏まえ、「前記直鎖アルファオレフィン、前記異性体及び前記アミンの大気圧下での沸点が5℃の範囲内にある」場合としてどのような場合があるか、また、その場合に本願請求項の「炭化水素流中の前記異性体の総量」が一義的に特定されるか否かについて、以下例を挙げて検討する。

炭化水素流中に特定の炭素数の直鎖アルファオレフィン、特定の炭素数の直鎖アルファオレフィンの複数種類の異性体A?C及び有機アミンが含まれ、沸点が低い順に
異性体A<有機アミン<直鎖アルファオレフィン<異性体B<異性体C
であり、異性体A、有機アミン、直鎖アルファオレフィン及び異性体Bの沸点は5℃の範囲内にあり、有機アミン、直鎖アルファオレフィン、異性体B及び異性体Cの沸点も5℃の範囲内にあるが、異性体Aと異性体Cの沸点は5℃の範囲内にない場合を仮定する。
このような場合の具体例としては、直鎖アルファオレフィンが1-ヘキセンであって、
異性体A:2-メチル-1-ペンテン(沸点62.2)
有機アミン:1-メチルプロピルアミン(沸点約63℃)
直鎖アルファオレフィン:1-ヘキセン(沸点63.55℃)
異性体B:2-メチル-2-ペンテン(沸点67.2℃)
異性体C:cis-3-ヘキセン(沸点67.6℃)
である場合が挙げられる(1-メチルプロピルアミンの沸点については、(±)-1-メチルプロピルアミンに関する製品データシート(Siyaku.com),和光純薬工業株式会社,2017年8月23日検索、それ以外の物質の沸点については後掲摘記(5a))。

この仮定の場合、「前記直鎖アルファオレフィン、前記異性体および前記アミンは、大気圧下で多くとも5℃しか違わない沸点を有する」という発明特定事項を充足するのは、いずれの化合物の沸点を基準とするものかが明らかでないから、異性体A、有機アミン、直鎖アルファオレフィン及び異性体Bであるともいえるし、有機アミン、直鎖アルファオレフィン、異性体B及び異性体Cであるともいえる。すなわち、上記具体例でいうと、2-メチル-1-ペンテン、1-メチルプロピルアミン、1-ヘキセン及び2-メチル-2-ペンテンであるともいえるし、1-メチルプロピルアミン、1-ヘキセン、2-メチル-2-ペンテン及びcis-3-ヘキセンであるともいえる。
そうすると、本願請求項の「炭化水素流中の前記異性体の総量」という発明特定事項に該当するのは、異性体Aと異性体Bの総量であるともいえるし、異性体Bと異性体Cの総量であるともいえる。すなわち、上記具体例でいうと、2-メチル-1-ペンテンと2-メチル-2-ペンテンの総量であるともいえるし、2-メチル-2-ペンテンとcis-3-ヘキセンの総量であるともいえる。

以上のとおり、本願請求項の「前記直鎖アルファオレフィン、前記異性体および前記アミンは、大気圧下で多くとも5℃しか違わない沸点を有する」という発明特定事項における「前記異性体」は、炭化水素流中に含有される複数種類の異性体のうちどの異性体が該当し、どの異性体が該当しないかを必ずしも一義的に特定できないものであり、ひいては本願請求項の「炭化水素流中の前記異性体の総量」という発明特定事項の「前記異性体」も、炭化水素流中に含有される複数種類の異性体のうちどの異性体が該当し、どの異性体が該当しないかを必ずしも一義的に特定できないものである。
そうすると、結局のところ本願請求項の「炭化水素流中の前記異性体の総量」も一義的に特定できないといえる。
したがって、本願請求項の「炭化水素流中の前記異性体の総量」という発明特定事項は明確でない。

また、本願請求項の「炭化水素流中の前記異性体の総量」という発明特定事項は明確でないため、炭化水素流から蒸留により除去される「異性体」の量が「前記異性体の総量に基づいて5%と95%の間」であることも明確であるということができないことは明らかである。
したがって、本願請求項の「前記異性体の総量に基づいて5%と95%の間」という発明特定事項も明確でない。

ウ 本願請求項の明確性についてのまとめ

以上から、本願請求項の「該炭化水素流中の前記異性体の総量」が明確であるとはいえず、この結果炭化水素流から蒸留により除去される「異性体」の量が「前記異性体の総量に基づいて5%と95%の間」であることも明確でない。
よって、本願請求項に係る発明は、明確でない。

(3)請求人の主張について

請求人は、平成29年7月31日付け意見書(以下単に「意見書」という。)の2)(1)において「請求項1の「前記直鎖アルファオレフィン、前記異性体および前記アミンは、大気圧下で多くとも5℃しか違わない沸点を有する」なる記載は、炭化水素流が、(i)直鎖アルファオレフィン、(ii)直鎖アルファオレフィンとの沸点の差が5℃以下である有機アミン、および(iii)直鎖アルファオレフィンおよび有機アミンとの沸点の差がいずれも5℃以下である、直鎖アルファオレフィンの異性体を含み、(iii)の異性体について、その総量に基づき5?95%の異性体が、蒸留によって炭化水素流から除去されることを記載したもの」であると主張する。

しかし、まず本願請求項には、有機アミンについては直鎖アルファオレフィンの沸点を基準とし、異性体については直鎖アルファオレフィンの沸点及び有機アミンの沸点を基準とする旨は記載されていない。
また、発明の詳細な説明は、本願請求項に記載された直鎖アルファオレフィン、その異性体及び有機アミンの沸点差について、有機アミンについては直鎖アルファオレフィンの沸点を基準とし、異性体については直鎖アルファオレフィンの沸点及び有機アミンの沸点を基準とすると解釈できるような記載はない。
そして、一般的に直鎖アルファオレフィン、その異性体及び有機アミンを含む炭化水素流中の各成分の沸点差について、有機アミンについては直鎖アルファオレフィンの沸点を基準とし、異性体については直鎖アルファオレフィンの沸点及び有機アミンの沸点を基準とするという技術常識も存在しない。
さらに、意見書には、本願請求項に記載された直鎖アルファオレフィン、その異性体及び有機アミンの沸点差について、有機アミンについては直鎖アルファオレフィンの沸点を基準とし、異性体については直鎖アルファオレフィンの沸点及び有機アミンの沸点を基準とする理由は示されていない。
したがって、請求人の上記主張は根拠がないから採用できない。

(4)理由1についてのまとめ

以上のとおりであるから、本願請求項についての特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合しない。

2 理由3について

(1)明確でない発明特定事項の解釈

上記1で述べたとおり、本願請求項に係る発明は明確でないが、上記1で述べたように以下のように解釈して理由3を検討する。

まず、本願請求項の「直鎖アルファオレフィン」は上記1(1)アで述べたとおり「特定の炭素数の直鎖アルファオレフィン」と解釈し、本願請求項の「その異性体」及び「前記異性体」は上記1(1)イ及びウで述べたとおり「特定の炭素数の直鎖アルファオレフィンの1種類以上の異性体」であると解釈し、本願請求項の「前記直鎖アルファオレフィン、前記異性体および前記アミンは、大気圧下で多くとも5℃しか違わない沸点を有する」は上記1(1)エで述べたとおり、いずれの化合物の沸点を基準とするものか明らかでない「前記直鎖アルファオレフィン、前記異性体及び前記アミンの大気圧下での沸点が5℃の範囲内にある」と解釈する。
また、本願請求項の「前記直鎖アルファオレフィン、前記異性体および前記アミンは、大気圧下で多くとも5℃しか違わない沸点を有する」という発明特定事項における「前記異性体」は、上記1(2)イ(ア)の具体例における異性体A?異性体Cのような直鎖アルファオレフィン及びアミンのいずれとも沸点差が5℃以下である異性体は全て「前記異性体」に該当すると解釈し、本願請求項の「該炭化水素流中の前記異性体の総量に基づいて、5%と95%の間の異性体が・・・該炭化水素流から除去される」という発明特定事項もこの「前記異性体」の解釈に基づいて解釈して、本願請求項に係る発明が当業者に容易に発明をすることができたものであるか否かを以下に検討する。

(2)刊行物

刊行物1:国際公開第2009/095147号
刊行物2:白木安司,α-オレフィン製造触媒の開発および工業化に関す る研究,神戸大学博士論文,2001年1月,1頁,75頁? 76頁,89頁?90頁
刊行物3:特表平8-507553号公報
刊行物5:小竹無二雄 監修,大有機化学2巻 脂肪族化合物I,1965 年11月30日,第5版,41頁
刊行物6:化学大辞典編集委員会 編,化学大辞典5縮刷版,1989年 8月15日,第32刷,282頁,315頁?317頁
刊行物7:化学大辞典編集委員会 編,化学大辞典2縮刷版,1989年 8月15日,第32刷,728頁?729頁
刊行物8:社団法人日本化学会 編,化学便覧応用編改訂2版,1975 年6月10日,第2刷,627頁?637頁」
刊行物9:社団法人日本化学会 編,第5版 実験化学講座 13,200 4年2月20日,427頁
刊行物10:2-エチルヘキシルアミンに関する製品データシート(Siyaku .com),和光純薬工業株式会社,2017年8月14日検索
刊行物11:1-デセンに関する製品データシート(Siyaku.com),和光純 薬工業株式会社,2017年8月14日検索

なお、刊行物1?3及び5?8は、上記第3の2で述べたとおり、当審拒絶理由の理由3において、請求項1に係る発明に対して提示されたものである。また、刊行物2の一部及び刊行物5?11は、発明の意義を明らかにするため又はこの出願の優先日当時の技術水準を示すためのものである。

(3)刊行物の記載

ア 刊行物1の記載

刊行物1には、以下のとおりの記載がある(訳文で示す。)。

(1a)
「本発明は、直鎖アルファオレフィン(LAO)を合成する方法に関する。」(1頁2行)

(1b)
「均一系触媒を利用したエチレンのオリゴマー化工程は広く知られている。」(1頁3行?4行)

(1c)
「従来技術の短所のひとつは、触媒失活及び触媒除去工程の最中に、LAOの望ましくない異性化を触媒するであろうHClが形成されることである。」(1頁13行?14行)

(1d)
「驚くべきことに、本発明の方法を利用することにより、すなわち、オリゴマー化反応容器及び/又は反応容器出口配管系に有機アミンを加えることによって、従来技術の欠点を克服できることが見いだされた。
詳しくは、触媒失活及び触媒除去工程の最中にHClの形成がみられなかった。」(4頁8行?12行)

(1e)
「アミンは、直鎖アルファオレフィンを分画するLAOプラントの分画ユニットを通じて、分画留分、最終的には1又はそれ以上の生成物、に送給され、例えば、蒸留、抽出又は吸着により生成物から除去される。
」(6頁14行?16行)

(1f)
「望ましくは、アミンは何らかの手段(例えば、蒸留又は抽出)により回収され、オリゴマー化反応容器又は反応容器出口配管系へリサイクルされる。」(6頁21行?22行)

(1g)
「より詳細な例において、LAOプラントの分画部からリサイクルされた3-エチル-ヘプチル-アミンとLAOの混合物がLAO反応容器出口ラインに供給される。その供給量は、アミン濃度が1000wtppmとなるように調整される。
アミンは、C_(10)とC_(12)LAO生成物の間の沸点を有するので、LAOプラントの分画部に全LAO留分とともに送給される。
分画部において、アミンは従来の蒸留によりLAO生成物から除去される。C_(10)及びC_(12)生成物中の残余の痕跡アミンは、要求される生成物の仕様に応じて、適切な吸着剤によって除去される。アミンはLAO反応容器へリサイクルされる、すなわち、リサイクル流は3-エチル-ヘプチル-アミンとC_(10)及びC_(12)LAOの混合物であるので、純粋なアミン留分は必要ではない。」(6頁23行?7頁7行)

(1h)
「溶媒及び均一系触媒の存在下でのエチレンのオリゴマー化により直鎖アルファオレフィン(LAO)を合成する方法であって、
(vi) オリゴマー化反応容器にエチレン、溶媒及び触媒を供給し、
(vii) 反応容器内でエチレンをオリゴマー化し、
(viii) 反応容器出口配管系を通じて、反応容器から溶媒、直鎖アルファオレフィン、エチレン及び触媒を含む反応容器出口流を取り出し、
(ix) 反応容器出口流を触媒失活及び除去工程に移し、
(x) 触媒を失活させ反応容器出口流から除去する、
工程を含み、
少なくとも1種類の有機アミンがオリゴマー化反応容器及び/又は反応容器出口配管系に加えられることを特徴とする方法。」(請求項1(8頁2行?12行))

(1i)
「有機アミンが、蒸留、抽出又は吸着により、反応容器出口流又は1若しくはそれ以上の生成物から除去される、先行するいずれかの請求項による方法。」(請求項7(9頁7行?9行))

イ 刊行物2の記載

刊行物2には、以下のとおりの記載がある。

(2a)
「α-オレフィンとは末端に二重結合をもつ直鎖状オレフィンの総称である。
これまでのα-工業的製造法としてエチレンの低重合法(オリゴメリゼーション)とパラフィンワックス分解法が知られているが,後者は製品収率や,α-オレフィンの純度の面から漸次廃止されており,現在工業的に生産されている直鎖状α-オレフィンの製造法は,主にエチレンの低重合法である。このエチレンの低重合法によるα-オレフィンの合成では,Fig.1に示すように末端に二重結合を持つ偶数個の炭素数をもつα-オレフィンが合成されるが,エチレンの2量体である1-ブテンから9量体である1-オクタデセンまでが主製品である。
・・・
工業的なα-オレフィンの用途は、1-ブテン(C4)?1-オクテン(C8)はポリオレフィンのコモノマー用として,1-デセン(C10)は合成潤滑油の原料として,1-ドデセン(C12)と1-テトラデセン(C14)は可塑剤や界面活性剤の原料として,1-ヘキサデセン(C16)と1-オクタデセン(C18)は界面活性剤やAlpha olefin sulfonate(AOS)の原料,および石油掘削剤に使用されている^(1))。」(1頁2行?17行)

(2b)
「α-オレフィンの製造プロセスは製品の分離工程(蒸留工程)を除くと,Fig.2の工程からなる。」(7頁4行?5行))

(2c)
「α-オレフィン中には種々の異性体等の副生成物が含まれるので,同定が難しい。」(8頁27行)

(2d)
「エチレンのオリゴメリーぜーションでは,偶数個の炭素数をもつα-オレフィンが生成するが,各炭素数毎のα-オレフィン中に主生成物の直鎖状α-オレフィンの他,分岐オレフィン等の副生成物が含まれる。
α-オレフィン純度とはある炭素数の留分中の直鎖状α-オレフィン濃度のことで,たとえばC_(6)α-オレフィン純度とは(1-ヘキセン/C_(6)留分)の重量分率(wt%)のことをいう。」(16頁下から6行?下から1行)

(2e)
「α-オレフィンは工業的にはエチレンのオリゴメリゼーションで製造されており,主製品はC_(4)?C_(18)(1-ブテン?1-オクタデセン)である。特に近年のポリオレフィン用メタロセン触媒の開発により,α-オレフィンはそのコモノマーとしての需要が急速に伸びてきている。これらの用途では高純度のα-オレフィンが要求されており,いかに製造過程で純度をあげるかが課題である。製品純度を上げることにより,製品の品質向上につながるばかりでなく,反応条件のマイルド化や生産性向上につながり,僅かな純度向上でも工業的なインパクトは非常に大きい。」(75頁4行?10行)

(2f)
「4.2.1.試薬
α-オレフィンの挿入反応,異性化反応及び水素化反応の実験に使用したα-オレフィンのうち1-ブテン,1-ヘプテン,1-ノネン,1-ウンデセンは市販品(東京化成工業社製)を使用し,その他のα-オレフィンは全て反応生成液から精密蒸留分離し,MS-3Aで脱水・乾燥したものを使用した。
なお、使用した直鎖状α-オレフィンの純度は以下の通りである。
1-ブテン(99.5%),1-ヘキセン(99.0%),1-ヘプテン(97.8%),1-オクテン(98.3%)1-ノネン(97.3%),1-デセン(97.2%),1-ウンデセン(96.4%),1-ドデセン(95.8%)1-テトラデセン(94.1%),1-ヘキサデセン(92.1%),1-オクタデセン(90.4%)」(75頁25行?76頁4行)

(2g)
「以上の同定結果から,C_(12)α-オレフィン,およびC_(14)α-オレフィン中の分岐型及びビニリデン型オレフィンとその水素化反応生成物中の分岐型パラフィン種をまとめるとTable 4-3のようになる。
・・・
このC_(12)α-オレフィン中に含まれる分岐型及びビニリデン型オレフィン種の同定法と同様な方法を用いてC_(6)?C_(18)α-オレフィンについても直鎖状α-オレフィン中に含まれる副生成物を同定することができた。
一方,Fig.4-2,Table 4-2から,α-オレフィン中には微量の内部オレフィンやn-パラフィンが含まれる。
・・・
これら内部オレフィンのピークは水素化反応後全て消滅しn-パラフィンになっていることからも,内部オレフィンは全て直鎖状の内部オレフィンであることが確認された。」(89頁6行?90頁4行)

(2h)
「本研究成果を基に,出光石油化学(株)では,平成元年にFig.7-1に示す生産量5万トン/年の装置を建設し,運転当初から順調に稼働している。

・・・フラッシャーからの生成液は,アンモニア水で失活され,その後触媒金属を除去(脱灰)した後,蒸留系に送られ,α-オレフィンは各留分に分留される。」(149頁1行?8行)

ウ 刊行物3の記載

刊行物3には、以下のとおりの記載がある。

(3a)
「本発明の対象は、チーグラー(Ziegler)型の特別な(例えば1992年7月9日付のフランス特許出願番号92/08658に記載されているような)触媒を用いるエチレンのオリゴマー化、ついで得られた流出物のアミン注入後の気化での前記触媒の破壊による、改良された純度を有する軽質アルファオレフィンの製造方法である。」(4頁4行?8行)

(3b)
「従って、本発明は、ジルコニウム化合物と、アセタールまたはケタールと、塩化ヒドロカルビルアルミニウムとの混合物から構成されるエチレンのオリゴマー化用の三成分触媒の破壊および分離の特別な方法に関する。オリゴマー化の粗流出物が全体の分別の前に、下記の処理に順次付される場合には、所望でない反応、特に生成されたアルファオレフィンの塩素化反応は、ほとんど全体的に削除されうることが見出された:
1)オリゴマー化反応器の流出物中への少なくとも一つのアミンの導入。
2)アミンによって処理された流出物を、温度の上昇、あるいは圧力の低下、あるいは温度および圧力の同時作用によって気化することによる、気化された留分中のアルファオレフィンの回収。」(6頁10行?19行)

(3c)
「本発明による使用可能なアミンは、好ましくは、一般式R_(1)R_(2)NH(式中、R_(1)は水素または炭化水素基であり、R_(2)は炭化水素基である)第一アミンまたは第二アミンである。・・・より特別には、シクロヘキシルアミン、2-エチル-ヘキシルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、アニリン、N-メチルアニリン、ジブチルアミン、ジデシルアミンおよび例えば獣脂、パーム油または椰子油のような天然脂肪物質から出発して得られるアミン混合物が挙げられる。」(6頁20行?7頁5行)

(3d)
「次の実施例は、本発明を例証するものであるが、その範囲を限定するものではない。
[実施例1]
・・・
この場合、オートクレープ内に・・・2-エチル-ヘキシルアミン・・・を・・・注入した。・・・
・・・
[実施例2 (比較例)]
・・・
[実施例3 (比較例)]
・・・
[実施例4 (比較例)]
・・・
[実施例5]
・・・
反応器の排出口において・・・ラウリルアミン・・・を・・・注入した。・・・
・・・
[実施例6 (比較例)]
・・・」(8頁3行?12頁9行)

エ 刊行物5の記載

刊行物5には、以下のとおりの記載がある。

(5a)


」(41頁)

オ 刊行物6の記載

刊行物6には、以下のとおりの記載がある。

(6a)
「せいりゅう 精留[^(英)rictification・・・] 蒸留カンより立ち上がる蒸気が分縮^(*)をしてから外部に取り出され,分縮した液が蒸留カンにもどるようになっている場合の蒸留^(*)を精留という.・・・精留は石油化学工業をはじめあらゆる化学工業において,あらゆる物質の分離精製に利用されている.石油化学工業においては,精留はしばしば蒸留による各製品の分割の意味に用いられることもあるが・・・,それ以上にいっそう精密な分留によって単一炭化水素もしくは限定された沸点範囲の留分を分離する操作・・・をいう.特に石油化学原料としての炭化水素の分離には高度の精留が必要である.たとえば・・・キシレン混合物からのエチルベンゼンおよびo-キシレンなどの分離がその例である.・・・精留による分離可能性にはおのずから一定の限界がある・・・」(282頁左欄下から18行?右欄28行)

(6b)
「せきゆかがくこうぎょう 石油化学工業・・・
石油および天然ガスを原料として,燃料および潤滑油以外の用途に用いる化学製品,すなわち石油化学製品^(*)を製造する工業をいう.歴史・・・しかし本格的な石油成分の工業的利用は,・・・プロピレンからのイソプロピルアルコール合成法・・・を・・・工業化したのが最初である・・・.・・・1930年にはブチレンからのsec-ブタノールおよびエチルメチルケトンの製造を始めている.・・・オレフィン類の加工利用技術は・・・進歩し・・・今後は特に・・・ポリブテン・・・などの発展とその歩調を合わせるであろう.・・・石油化学工業においては,原料の石油および天然ガスはまず化学的加工に適する形に変換されねばならない.その方法は石油精製に利用される各種の炭化水素変換法がそのまま,もしくは多様変形して適用される.たとえば・・・重合(やや高分子量のオレフィン生成のため)・・・などが多く利用される.次にこれらのプロセスの生成物から目的とする炭化水素中間体・・・の分離が行われる.その方法としては蒸留,抽出,吸着,結晶化分離などが利用される.・・・」(315頁右欄1行?317頁左欄下から11行)

カ 刊行物7の記載

刊行物7には、以下のとおりの記載がある。

(7a)
「キシレン・・・分離法・・・各異性体を分離するには,o-キシレンを精密蒸留で分けたのち,-60?-70°における分別結晶化によってp-キシレンの大部分を分けとり,m-キシレンはスルホン化によって分ける.エチルベンゼンは初めに高度の精密蒸留によって分けることが可能である.・・・

・・・」(728頁右欄下から8行?729頁右欄4行)

キ 刊行物8の記載

刊行物8には、以下のとおりの記載がある。

(8a)
「(6) キシレンの異性化と分離: 石油系キシレンはo-,m-,p-キシレン及びエチルベンゼンの混合物として得られる・・・が,キシレン類を合成化学的に利用するためには各異性体を分離する必要がある.・・・上記のプロセスのうちの蒸留工程の設計を改めればo-キシレンおよびエチルベンゼンの生産も可能である.すなわち,C_(8)芳香族のうち,沸点がもっとも接近しているm-およびp-キシレンの分離が深冷結晶下法によって行えるならば,その他の沸点の順序はエチルベンゼン<m-キシレン<o-キシレンであって,それぞれ3?5℃の沸点差が存在する(表8.42参照)ので,200段の精密蒸留法によって分留が可能になる.・・・

・・・」(635頁左欄下から2行?637頁右欄下から6行)

ク 刊行物9の記載

刊行物9には、以下のとおりの記載がある。

(9a)
「(i)アルケンへの付加: ハロゲン化水素(HX:X=F,Cl,Br,I)は容易にC-C二重結合に付加する^(39?41)).・・・」(427頁7行?12行)

ケ 刊行物10の記載

刊行物10には、以下のとおりの記載がある。

(10a)
「・・・
2-エチルヘキシルアミン
・・・
製品情報
販売元 和光純薬工業(株)
・・・
・・・在庫
・・・10以上
・・・
物性情報
・・・
沸点 約169℃(引用文献:和光純薬情報)
・・・」

コ 刊行物11の記載

刊行物11には、以下のとおりの記載がある。

(11a)

「・・・
1-デセン
・・・
製品情報
販売元 和光純薬工業(株)
・・・
物性情報
・・・
沸点 約172℃(引用文献:和光純薬情報)
・・・」

(4)刊行物に記載された発明

刊行物1には、請求項1に係る発明として、
「溶媒及び均一系触媒の存在下でのエチレンのオリゴマー化により直鎖アルファオレフィン(LAO)を合成する方法であって、
(vi) オリゴマー化反応容器にエチレン、溶媒及び触媒を供給し、
(vii) 反応容器内でエチレンをオリゴマー化し、
(viii) 反応容器出口配管系を通じて、反応容器から溶媒、直鎖アルファオレフィン、エチレン及び触媒を含む反応容器出口流を取り出し、
(ix) 反応容器出口流を触媒失活及び除去工程に移し、
(x) 触媒を失活させ反応容器出口流から除去する、
工程を含み、
少なくとも1種類の有機アミンがオリゴマー化反応容器及び/又は反応容器出口配管系に加えられることを特徴とする方法。」
が記載されているといえる(摘記(1h))。

また、刊行物1には、請求項7に係る発明として、
「有機アミンが、蒸留、抽出又は吸着により、反応容器出口流又は1若しくはそれ以上の生成物から除去される、先行するいずれかの請求項による方法。」も記載されている(摘記(1i))ところ、ここでいう「先行するいずれかの請求項」が請求項1を含むことは明らかである。

さらに、刊行物1には、有機アミンの除去について、「アミンは、直鎖アルファオレフィンを分画するLAOプラントの分画ユニットを通じて、分画留分、最終的には1又はそれ以上の生成物、に送給され、例えば、蒸留、抽出又は吸着により生成物から除去される。」と記載されている(摘記(1e))ところ、この記載が、刊行物1の請求項7に係る発明における「有機アミンが、蒸留、抽出又は吸着により・・・1若しくはそれ以上の生成物から除去される」という事項に対応する一般的記載であることは明らかである。

したがって、刊行物1には、
「溶媒及び均一系触媒の存在下でのエチレンのオリゴマー化により直鎖アルファオレフィン(LAO)を合成する方法であって、
オリゴマー化反応容器にエチレン、溶媒及び触媒を供給し、
反応容器内でエチレンをオリゴマー化し、
反応容器出口配管系を通じて、反応容器から溶媒、直鎖アルファオレフィン、エチレン及び触媒を含む反応容器出口流を取り出し、
反応容器出口流を触媒失活及び除去工程に移し、
触媒を失活させ反応容器出口流から除去する、
工程を含み、
少なくとも1種類の有機アミンがオリゴマー化反応容器及び/又は反応容器出口配管系に加えられ、有機アミンは、直鎖アルファオレフィンを分画するLAOプラントの分画ユニットを通じて、分画留分、最終的には1又はそれ以上の生成物、に送給され、蒸留、抽出又は吸着により生成物から除去される、方法。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(5)本願請求項に係る発明と引用発明との対比及びそれに基づく判断

ア 対比

(ア)引用発明における「直鎖アルファオレフィンを分画するLAOプラントの分画ユニット」において複数の直鎖アルファオレフィン生成物が得られることについて

引用発明における「エチレンのオリゴマー化により直鎖アルファオレフィン(LAO)を合成する方法であって」、「反応容器から溶媒、直鎖アルファオレフィン、エチレン及び触媒を含む反応容器出口流を取り出し」、「直鎖アルファオレフィンを分画するLAOプラントの分画ユニット」という点に関し、エチレンのオリゴマー化により種々の偶数炭素数の直鎖アルファオレフィンが合成されること(摘記(2a)、(2d))、偶数炭素数の直鎖アルファオレフィンは炭素数が2異なることによる沸点差が数十℃以上程度であるとともに偶数炭素数のオレフィンはそれらの沸点に基づいて炭素数ごとに大まかに区分できること(摘記(5a)、(2h))、エチレンのオリゴマー化により合成される直鎖アルファオレフィンの主製品は炭素数4の1-ブテンから炭素数18の1-オクタデセンでありその主たる用途はその炭素数により異なること(摘記(2a))及びオレフィン類の加工利用などの石油化学工業において石油化学原料を蒸留により各製品に分割すること(摘記(6a)、(2b)、(2h))、は技術常識である(オレフィン類の加工利用が石油化学工業に属することについては摘記(6b))。
また、刊行物1には、引用発明における「分画留分、最終的には1又はそれ以上の生成物」の具体的な例として「C_(10)・・・LAO生成物」及び「C_(12)LAO生成物」という記載(摘記(1g))がある。
そうすると、上記技術常識及び引用発明に関する刊行物1の上記記載から、引用発明における「直鎖アルファオレフィンを分画するLAOプラントの分画ユニット」において、「反応容器出口流」が直鎖アルファオレフィンの炭素数ごとに蒸留により分割され、1-ブテンを主成分とする留分、1-ヘキセンを主成分とする留分、1-オクテンを主成分とする留分、1-デセンを主成分とする留分といった、特定の偶数炭素数の直鎖アルファオレフィンを主成分とする、複数の直鎖アルファオレフィン生成物が得られることは当業者に明らかである。

(イ)引用発明において、加えられた有機アミンがその有機アミンの沸点に近い沸点の直鎖アルファオレフィンを主成分とする直鎖アルファオレフィン生成物に含有されることについて

上記(ア)で述べたとおり、引用発明における「直鎖アルファオレフィンを分画するLAOプラントの分画ユニット」において、「反応容器出口流」が直鎖アルファオレフィンの炭素数ごとに蒸留により分割され、特定の偶数炭素数の直鎖アルファオレフィンを主成分とする複数の直鎖アルファオレフィン生成物が得られることは、当業者に明らかである。
また、引用発明における「直鎖アルファオレフィンを分画するLAOプラントの分画ユニット」という点に関し、刊行物1には、「アミンは・・・LAOプラントの分画部に全LAO留分とともに送給される」との記載(摘記(1g))がある。
したがって、引用発明において、「オリゴマー化反応容器及び/又は反応容器出口配管系に加えられ」た有機アミンが、「反応容器出口流」に含有されて「直鎖アルファオレフィンを分画するLAOプラントの分画ユニット」で蒸留に付され、その有機アミンの沸点に近い沸点の直鎖アルファオレフィンを主成分とする直鎖アルファオレフィン生成物(ただし、その直鎖アルファオレフィンの炭素数は特定されていない。)に含有されるとともに、その有機アミンの沸点から遠い沸点の直鎖アルファオレフィンを主成分とする直鎖アルファオレフィン生成物には含有されないこととなることもまた、上記(ア)で述べた技術常識を前提として刊行物1の上記記載に接する当業者に明らかである。

(ウ)引用発明における「生成物」が有機アミンを含有する直鎖アルファオレフィン生成物であることについて

引用発明の「分画留分、最終的には1又はそれ以上の生成物」における「生成物」が、刊行物1に具体的な例として記載された「C_(10)・・・LAO生成物」及び「C_(12)LAO生成物」(摘記(1g))といった、特定の偶数炭素数の直鎖アルファオレフィンを主成分とする直鎖アルファオレフィン生成物に対応することは、上記(ア)で述べた技術常識を前提とする当業者に明らかである。
また、上記(ア)及び(イ)で述べたとおり、引用発明における「直鎖アルファオレフィンを分画するLAOプラントの分画ユニット」において、「反応容器出口流」が直鎖アルファオレフィンの炭素数ごとに蒸留により分割され、複数の直鎖アルファオレフィン生成物が得られること、及び加えられた有機アミンがその有機アミンの沸点に近い沸点の直鎖アルファオレフィンを主成分とする直鎖アルファオレフィン生成物に含有されることも当業者に明らかである。
さらに、引用発明において「有機アミンは、分画留分、最終的には1又はそれ以上の生成物、に送給され、蒸留、抽出又は吸着により生成物から除去される」のであるから、引用発明の「分画留分、最終的には1又はそれ以上の生成物」における「生成物」が有機アミンを含有することも当業者に明らかである。
以上から、引用発明における「生成物」は有機アミンを含有する直鎖アルファオレフィン生成物であると解することが自然である。

(エ)一致点、相違点について

上記(ア)で述べたとおり、引用発明において直鎖アルファオレフィンを主成分とする直鎖アルファオレフィン生成物が得られることは当業者に明らかであるところ、この直鎖アルファオレフィン生成物は、直鎖アルファオレフィンを主成分とする点で本願請求項に係る発明における「炭化水素流」に対応するといえるし、引用発明における「生成物」は、上記(ウ)で述べたとおり、有機アミンを含有する直鎖アルファオレフィン生成物である。
したがって、引用発明における「生成物」は、本願請求項に係る発明における「直鎖アルファオレフィン、その異性体および少なくとも1種類の有機アミンを含有する炭化水素流」に対応し、「直鎖アルファオレフィン・・・および少なくとも1種類の有機アミンを含有する炭化水素流」という限度で一致する。

また、引用発明における「有機アミンは・・・蒸留、抽出又は吸着により生成物から除去される」は、生成物から有機アミンを除去している点で生成物の「精製」であるといえるから、本願請求項に係る発明における「炭化水素流の精製方法であって・・・該方法は、蒸留によって前記炭化水素流からより多い量の有機アミンを除去する工程を有してなり、該炭化水素流中の前記異性体の総量に基づいて、5%と95%の間の異性体が、前記アミンと共にアミン/異性体の豊富な留分中へと該炭化水素流から除去されるように蒸留が行われる」に対応し、「精製方法であって・・・該方法は・・・前記炭化水素流からより多い量の有機アミンを除去する工程」という限度で一致する。

したがって、本願請求項に係る発明と引用発明とを対比すると、両者は、
「直鎖アルファオレフィンおよび少なくとも1種類の有機アミンを含有する炭化水素流の精製方法であって、該方法は、前記炭化水素流からより多い量の有機アミンを除去する工程を有してなる方法」
という点で一致し、
(相違点1)前者は、「炭化水素流」が直鎖アルファオレフィンと沸点差が5℃以下の有機アミンを含有するものであるのに対し、後者は、「炭化水素流」である「生成物」が有機アミンを含有するものであるにとどまり、その炭化水素流における直鎖アルファオレフィンと有機アミンとの沸点差が明らかなものではない点。
(相違点2)前者は、「炭化水素流」が直鎖アルファオレフィン及び有機アミンとの沸点差がいずれも5℃以下である異性体を含有するものであるのに対し、後者は、「炭化水素流」である「生成物」がそのような沸点差を有する異性体を含有することが明らかなものではない点
(相違点3)前者は、「炭化水素流からより多い量の有機アミンを除去する工程」が、「該炭化水素流中の前記異性体の総量に基づいて、5%と95%の間の異性体が、前記アミンと共にアミン/異性体の豊富な留分中へと該炭化水素流から除去されるように蒸留が行われる」ものであるのに対し、後者は、「炭化水素流からより多い量の有機アミンを除去する工程」である「有機アミンは・・・蒸留、抽出又は吸着により生成物から除去される」工程が、そのような特定を有するものではない点
で相違する。

イ 相違点についての検討

(ア)相違点1について

a はじめに

本願請求項に係る発明は、炭化水素流に含有される「有機アミン」を具体的な化合物として特定するものではない。
この点、引用発明が属する技術分野であるエチレンのオリゴマー化によるアルファオレフィンの合成において、有機アミンとして、シクロヘキシルアミン、2-エチル-ヘキシルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、アニリン、N-メチルアニリン、ジブチルアミン、ジデシルアミンなどを使用することが公知であったといえる(摘記(3a)?(3c))。
そこで、有機アミンとして2-エチルヘキシルアミンに着目して、まず、引用発明において有機アミンとして2-エチルヘキシルアミンを使用することについて検討し、次いで、引用発明において2-エチルヘキシルアミンを使用することにより相違点1が構成されることについて検討する。

b 引用発明において有機アミンとして2-エチルヘキシルアミンを使用することについて

刊行物1には、刊行物1に記載された発明、すなわち引用発明における有機アミンの意義が、オリゴマー化反応装置及び/又は反応装置出口配管系に有機アミンを加えることによって、触媒失活工程及び触媒除去工程におけるHClの形成を抑制できることにあることが記載されている(摘記(1a)?(1d))。
また、一般的にHClがアルケン(オレフィンの別名である。)のC-C二重結合に容易に付加しアルケンを塩素化することは技術常識であって(摘記(9a))、刊行物3には、エチレンのオリゴマー化による軽質アルファオレフィンの合成に関するアルファオレフィンの塩素化反応について、1)オリゴマー化反応器の流出物中への少なくとも一つのアミンの導入、2)アミンによって処理された流出物を、温度の上昇、あるいは圧力の低下、あるいは温度および圧力の同時作用によって気化することによる、気化された留分中のアルファオレフィンの回収により、精製されたアルファオレフィンの塩素化反応を防止できること(摘記(3a)、(3b))、このために使用する好適なアミンの例として2-エチルヘキシルアミン及びラウリルアミンなどが挙げられること(摘記(3c))が記載されている。そして、刊行物3には、実施例(比較例とされているものを除く。)として、2-エチルヘキシルアミン又はラウリルアミンを使用した態様のみが記載されている(摘記(3d))。
そして、2-エチルヘキシルアミンが、特注品等ではなく市販品であるという点で特に高価ではなくかつ入手が容易な物質であることは技術常識である(摘記(10a))。

他方、引用発明における「有機アミンは・・・蒸留、抽出又は吸着により生成物から除去される」という点に関し、刊行物1には、より具体的に、アミンは従来の蒸留により直鎖アルファオレフィン生成物から除去されることが記載されている(摘記(1g))。
また、石油化学工業においてオレフィンなどの単一炭化水素の石油化学原料としての分離のためなどの高度の精留という課題がごく一般的なものであったこと(摘記(6a)、(6b)、(2f))及び200段程度の蒸留塔により沸点差2℃程度の構造異性体であるパラキシレンとエチルベンゼンとを分離する精密蒸留技術はこの出願の優先日当時既に工業的にも確立していたこと(摘記(7a)、(8a))に照らせば、石油化学工業において、精密蒸留は、沸点差が2℃程度の成分を分離する手段として一般的であったといえる。
そうすると、引用発明において、「オリゴマー化反応容器及び/又は反応出口配管系に加え」る具体的な有機アミンを選択して使用するにあたり、当業者は、その有機アミンが直鎖アルファオレフィンとの沸点差が2℃程度以上のものである場合には、その有機アミンを使用するにあたり、「蒸留」の一態様である精密蒸留により生成物から除去することを当然念頭において、何ら特別な考慮をしないといえる(精密蒸留が蒸留の一態様であることが技術常識であることにつき、摘記(6a))。
そして、上記ア(ア)で述べたとおり、引用発明において特定の偶数炭素数の直鎖アルファオレフィンを主成分とする複数の直鎖アルファオレフィン生成物が得られることは当業者に明らかであるところ、直鎖アルファオレフィンは炭素数が増えるにつれ沸点が高くなること及び2-エチルヘキシルアミン、1-デセン、1-オクテンの沸点がそれぞれ約169℃、約172℃、121.27℃であることが技術常識であること(摘記(5a)、(10a)、(11a))から2-エチルヘキシルアミンがいかなる偶数炭素数の直鎖アルファオレフィンとも沸点差2℃程度以上であることもまた当業者に明らかであるので、当業者は引用発明において2-エチルヘキシルアミンを使用するにあたり何ら特別な考慮をしないといえる。

以上から、引用発明において、刊行物1及び3の記載並びに技術常識に基づいて、触媒失活工程及び触媒除去工程におけるHClの形成を抑制するために「オリゴマー化反応容器及び/又は反応出口配管系に加え」る具体的な有機アミンとして2-エチルヘキシルアミンを使用することは、当業者が容易に想到できたことであるといえる。

c 引用発明において2-エチルヘキシルアミンを使用することにより相違点1が構成されることについて

上記ア(ア)で述べたとおり、引用発明における「直鎖アルファオレフィンを分画するLAOプラントの分画ユニット」において、「反応容器出口流」が直鎖アルファオレフィンの炭素数ごとに蒸留により分割され、特定の偶数炭素数の直鎖アルファオレフィンを主成分とする、複数の直鎖アルファオレフィン生成物が得られることは当業者に明らかであるし、上記ア(イ)で述べたとおり、引用発明において加えられた有機アミンがその有機アミンの沸点に近い沸点の直鎖アルファオレフィンを主成分とする直鎖アルファオレフィン生成物に含有されることも当業者に明らかである。
そして、上記bで述べたのと同様の理由(摘記(5a)、(10a)、(11a))から、偶数炭素数の直鎖アルファオレフィンのうち沸点が2-エチルヘキシルアミン(沸点:約169℃)に最も近いものは、沸点差が約3℃程度の1-デセン(沸点:約172℃)であることも当業者に明らかである。
そうすると、引用発明において有機アミンとして2-エチルヘキシルアミンを使用した場合には、使用した2-エチルヘキシルアミンが1-デセンを主成分とする生成物に含有されることは明らかである。
そして、上記ア(ウ)で述べたとおり、引用発明において得られる直鎖アルファオレフィン生成物は引用発明における「生成物」に対応するのだから、結局、引用発明において有機アミンとして2-エチルヘキシルアミンを使用することにより、1-デセンを主成分とする「生成物」が、直鎖アルファオレフィン(1-デセン)と沸点差が5℃以下(約3℃程度)の有機アミン(2-エチルヘキシルアミン)を含有することとなり、相違点1が構成されるといえる。

d 相違点1についてのまとめ

上記bで述べたとおり、引用発明において有機アミンとして2-エチルヘキシルアミンを使用することは当業者が容易に想到できたことであるし、上記cで述べたとおり、これにより相違点1が構成されるといえる。
したがって、引用発明において相違点1を構成することは、当業者が容易になし得たことであるといえる。

(イ)相違点2について

a はじめに

上記(ア)で述べた相違点1の判断において有機アミンとして2-エチルヘキシルアミンに着目して検討したので、ここでも2-エチルヘキシルアミンに着目することとし、まず2-エチルヘキシルアミンが含有されることとなる1-デセンを主成分とする生成物(上記(ア)参照。)が沸点が1-デセンのそれから-5℃の範囲内にある異性体と、沸点が1-デセンのそれから+5℃の範囲内にある異性体との双方を含有することについて検討したうえで、引用発明において上記(ア)で述べたとおり相違点1を構成することにより1-デセンを主成分とする生成物において自ずと相違点2が構成されることについて検討する。

b 1-デセンを主成分とする生成物が沸点が1-デセンのそれから-5℃の範囲内にある異性体と、沸点が1-デセンのそれから+5℃の範囲内にある異性体との双方を含有することについて

エチレンのオリゴマー化により種々の偶数炭素数の直鎖アルファオレフィン及びそれらの複数の異性体が合成されることは技術常識である(摘記(2a)、(2c)、(2d)、(2g))から、引用発明における「オリゴマー化反応容器」で種々の偶数炭素数の直鎖アルファオレフィンが生成するとともにそれらの直鎖アルファオレフィンに対応した複数の異性体が副生し、これらが「反応容器出口流」に含有されることは明らかである。
また、上記ア(ア)で述べたとおり、引用発明における「直鎖アルファオレフィンを分画するLAOプラントの分画ユニット」において、「反応容器出口流」が直鎖アルファオレフィンの炭素数ごとに蒸留により分割され、特定の偶数炭素数の直鎖アルファオレフィンを主成分とする、複数の直鎖アルファオレフィン生成物が得られることは当業者に明らかであるところ、特定の炭素数の直鎖アルファオレフィンの、その直鎖アルファオレフィンに対応した複数の異性体との沸点の差が、その特定の炭素数と2異なる炭素数の直鎖アルファオレフィンとの沸点の差と比較してかなり小さいことは技術常識である(摘記(5a))。
したがって、上記ア(イ)において有機アミンについて検討したのと同様に、引用発明において、副生した特定の炭素数の直鎖アルファオレフィンとの沸点の差が小さい異性体が、その特定の炭素数の直鎖アルファオレフィンを主成分とする直鎖アルファオレフィン生成物に含有されることも、当業者に明らかである。

他方、一般的に、直鎖アルファオレフィンの異性体の種類は炭素数が増加するにつれて飛躍的に増加すること(例えば、炭素数が5?8の場合について検討すると、炭素数が1増加すると、異性体の数(直鎖アルファオレフィン自身も含む。)は、6、17、36、92と、2倍以上増加する。)は明らかであり、直鎖アルファオレフィンの異性体には沸点が直鎖アルファオレフィンのそれよりも高いものもあれば低いものもあること、それらの直鎖アルファオレフィンとの沸点の差は炭素数が大きくなるにつれて概ね小さくなる傾向にあること、は技術常識であるということができる(以上につき摘記(5a))。
そして、炭素数が6の場合であっても、直鎖アルファオレフィン(1-ヘキセン(沸点:63.55℃))よりも沸点が約1.4℃低いビニリデン型分岐オレフィン異性体(2-メチル-1-ペンテン(沸点:62.2℃))や沸点が約4.1℃高い直鎖状の内部オレフィン異性体(cis-3-ヘキセン(沸点:67.6℃))といった、沸点が直鎖アルファオレフィンのそれから-5℃の範囲内にある異性体と、沸点が直鎖アルファオレフィンのそれから+5℃の範囲内にある異性体との双方が存在することから、炭素数が6よりも大きい直鎖アルファオレフィンである1-デセンに、沸点が1-デセンのそれから-5℃の範囲内にある異性体と、沸点が1-デセンのそれから+5℃の範囲内にある異性体との双方が存在すると推認できる。

以上から、引用発明において得られる1-デセンを主成分とする生成物は、沸点が1-デセンのそれ(約172℃(摘記11a))から-5℃の範囲内(約167℃?約172℃)にある異性体と、沸点が1-デセンのそれから+5℃の範囲内(約172℃?約177℃)にある異性体との双方を含有するといえる。

c 引用発明において上記(ア)で述べたとおり相違点を構成することにより1-デセンを主成分とする生成物において自ずと相違点2が構成されることについて

上記(ア)で述べたとおり、引用発明において有機アミンとして2-エチルヘキシルアミンを使用した場合には、使用した2-エチルヘキシルアミン(沸点:約169℃(摘記10a))は沸点差が約3℃程度である1-デセンを主成分とする生成物に含有される。
そして、上記bで述べたとおり、引用発明において得られる1-デセンを主成分とする生成物は、沸点が1-デセンのそれ(約172℃)から-5℃の範囲内(約167℃?約172℃)にある異性体を含有するといえるから、2-エチルヘキシルアミンが1-デセンを主成分とする生成物に含有されると、その生成物は、沸点が約172℃の1-デセンと、沸点が約169℃の2-エチルヘキシルアミンと、沸点が約167℃?約172℃の範囲内にある異性体を含有することとなる。
したがって、結局、引用発明において有機アミンとして2-エチルヘキシルアミンを使用することにより、1-デセンを主成分とする「生成物」が、沸点が約172℃の直鎖アルファオレフィン(1-デセン)及び沸点が約169℃の有機アミン(2-エチルヘキシルアミン)との沸点差がいずれも5℃以下(沸点約167℃?約172℃)の異性体を含有することとなり、相違点2が構成されるといえる。

d 相違点2についてのまとめ

上記(ア)で述べたとおり、引用発明において有機アミンとして2-エチルヘキシルアミンを使用することは当業者が容易に想到できたことであることであるし、上記cで述べたとおり、これにより相違点2が構成されるといえる。
したがって、引用発明において相違点2を構成することは、当業者が容易になし得たことであるといえる。

(ウ)相違点3について

a はじめに

上記(ア)で述べた相違点1の判断において有機アミンとして2-エチルヘキシルアミンに着目して検討したので、ここでも2-エチルヘキシルアミンに着目することとし、まず2-エチルヘキシルアミンが含有された1-デセンを主成分とする生成物(上記(ア)参照。)から従来の精密蒸留により2-エチルヘキシルアミンを除去することについて検討し、次いで、1-デセンを主成分とする生成物から2-エチルヘキシルアミンを除去するような従来の精密蒸留により1-デセン及び2-エチルヘキシルアミンとの沸点差がいずれも5℃以下である異性体の5%?95%が除去されることについて検討する。

b 2-エチルヘキシルアミンが含有された1-デセンを主成分とする生成物から従来の精密蒸留により2-エチルヘキシルアミンを除去することについて

刊行物2には、エチレンのオリゴマー化により製造される直鎖アルファオレフィンについて高純度のものが要求されておりわずかな純度向上でも非常に大きな工業的なインパクトを有することが記載されている(摘記(2e))。
また、石油化学工業においてオレフィンなどの単一炭化水素の石油化学原料としての分離のためなどの高度の精留という課題がごく一般的なものであったこと(摘記(6a)、(6b)、(2f))及び200段程度の蒸留塔により沸点差2℃程度の異性体であるパラキシレンとエチルベンゼンとを分離する精密蒸留技術はこの出願の優先日当時既に工業的にも確立していたこと(摘記(7a)、(8a))に照らせば、石油化学工業において、精密蒸留は、沸点差が2℃程度の成分を分離する手段として一般的であったといえる。
さらに、引用発明における「有機アミンは・・・蒸留、抽出又は吸着により生成物から除去される」という点に関し、刊行物1には、より具体的に、アミンは従来の蒸留により直鎖アルファオレフィン生成物から除去されることが記載されている(摘記(1g))ところ、ここでいう「従来の蒸留」に上記従来の精密蒸留が含まれることは当業者に明らかである(摘記(6a))。
したがって、引用発明において、「生成物」が含有する有機アミンが、その生成物の主成分である直鎖アルファオレフィンとの沸点差が2℃程度以上のものである場合に、有機アミンを除去する手段として、その沸点差に応じて従来の精密蒸留を選択することは、当業者が容易に想到できたことであるといえる。
そして、2-エチルヘキシルアミン(沸点:約169℃(摘記(10a)))は1-デセン(沸点:約172℃(摘記(11a)))との沸点差が約3℃程度であるから、2-エチルヘキシルアミンが含有された1-デセンを主成分とする生成物から従来の精密蒸留により2-エチルヘキシルアミンが除去されることになるといえる。

c 1-デセンを主成分とする生成物から2-エチルヘキシルアミンを除去するような従来の精密蒸留により1-デセン及び2-エチルヘキシルアミンとの沸点差がいずれも5℃以下である異性体の5%?95%が除去されることについて

上記(イ)bで述べたとおり、引用発明において得られる1-デセンを主成分とする生成物は、沸点が1-デセンのそれから-5℃の範囲内にある異性体と、沸点が1-デセンのそれから+5℃の範囲内にある異性体との双方を含有するといえるし、200段程度の蒸留塔により沸点差2℃程度の異性体であるパラキシレンとエチルベンゼンとを分離する精密蒸留技術はこの出願の優先日当時既に工業的にも確立していたといえる(摘記(7a)、(8a))。
そうすると、引用発明において得られる1-デセンを主成分とする生成物を従来の精密蒸留に付す場合であって、塔頂流出物として有機アミンを除去するときには、1-デセンを主成分とする生成物に含有される複数の異性体のうち、1-デセンより沸点が低い異性体であって1-デセンと沸点差が2℃程度以上のものは有機アミンとともに1-デセンから実質的に完全に除去される一方、その余の異性体は塔底製品としての1-デセンに残留するといえるし、塔底流出物として有機アミンを除去するときには、1-デセンを主成分とする生成物に含有される複数の異性体のうち、1-デセンより沸点が高い異性体であって1-デセンと沸点差が2℃程度以上のものは有機アミンとともに1-デセンから実質的に完全に除去される一方、その余の異性体は塔頂製品としての1-デセンに残留するといえる。
したがって、1-デセン(沸点:172℃(摘記(11a)))を主成分とする生成物から2-エチルヘキシルアミン(沸点:169℃(摘記(10a)))を除去するような従来の精密蒸留により、1-デセン及び2-エチルヘキシルアミンとの沸点差がいずれも5℃以下の異性体、すなわち本願請求項における「前記異性体」のうち、2-エチルヘキシルアミンと同様1-デセンより沸点が低い異性体であって1-デセンと沸点差が2℃程度以上のものは、2-エチルヘキシルアミンとともに1-デセンから実質的に完全に除去され、その余の「前記異性体」は1-デセンに残留するといえる。

そして、上記第3の2で述べたとおり「総量」に対する「蒸留」による「除去」の、発明特定事項を充足することになる割合が「5%と95%の間」と極めて広範であることに照らせば、2-エチルヘキシルアミンとともに本願請求項における「前記異性体」のうち1-デセンより沸点が2℃程度以上低い異性体は実質的に完全に除去されその余の「前記異性体」は残留するものである上記従来の精密蒸留を行うことにより、引用発明における「有機アミンは・・・蒸留、抽出又は吸着により生成物から除去される」において、「前記異性体の総量に基づいて、5%と95%の間の異性体が、前記アミンと共にアミン/異性体の豊富な留分中へと該炭化水素流から除去される」こととなり、相違点3を構成するといえる。
また、仮にそうでないとしても、上記第3の2で述べたとおり「総量」に対する「蒸留」による「除去」の、発明特定事項を充足することになる割合が「5%と95%の間」と極めて広範であることに加えて、やはり上記第3の2で述べたとおり一般的に「蒸留」条件の調整により不純物等の「総量」に対する「除去」の割合を調整できることはごく当たり前の技術常識であること、並びに上記bで述べたとおり石油化学工業において単一炭化水素の分離という課題がごく一般的なものであったこと及び上記のとおり上記従来の精密蒸留によっても1-デセンに残留する「前記異性体」が存在することに照らせば、上記従来の精密蒸留を行うにあたり相違点3を構成するものとすることは、当業者が容易に想到できたことであるといえる。

d 相違点3についてのまとめ

上記(ア)で述べたとおり、引用発明において有機アミンとして2-エチルヘキシルアミンを使用することは当業者にとって容易になし得たことであり、これにより使用した2-エチルヘキシルアミンは1-デセンを主成分とする生成物に含有されるといえる。
そして、上記b及びcで述べたとおり、2-エチルヘキシルアミンが含有された1-デセンを主成分とする生成物から従来の精密蒸留により2-エチルヘキシルアミンを除去し相違点3を構成することは、当業者が容易に想到できたことである。

ウ 発明の効果について

(ア)発明の詳細な説明の記載

本願請求項に係る発明の効果について、発明の詳細な説明の【0025】には、「本発明の方法は、アミンの含有量のために、制限なく市場に出すことのできる直鎖アルファオレフィンの炭化水素生成物を提供する。さらに、本発明の方法により、炭化水素流からアミンを容易かつ十分に除去することができる。」との記載がある。また、発明の詳細な説明の【0033】?【0037】には、実施例として、第1の分別蒸留工程により得られた、主生成物としての1-デセン90質量%、2-エチルヘキシルアミン3質量%及び内部デセンや分岐デセンなどの数多くのデセン異性体7質量%からなる粗製C_(10)留分を、大気圧で動作している70の理論段を有する蒸留塔で蒸留し、1-デセン22質量%、2-エチルヘキシルアミン25質量及びデセン異性体53質量%からなる塔頂流出物並びに1-デセン97質量%、2-エチルヘキシルアミン1質量ppm及びデセン異性体残りの量からなる塔底製品を得たことが記載されている。

(イ)発明の詳細な説明における実施において除去された、アミン及び異性体についての検討

a 除去されたアミンについての検討

上記実施例において、蒸留前の粗製C_(10)留分における2-エチルヘキシルアミンの割合が3質量%であるのに対し、蒸留後に得られた塔底製品における2-エチルヘキシルアミンの割合が1質量ppmであることから、実施例における蒸留により、粗製C_(10)留分に含まれていた2-エチルヘキシルアミンの実質的に全量が粗製C_(10)留分の主成分である1-デセンから除去されたといえる。
しかし、石油化学工業においてオレフィンなどの単一炭化水素の石油化学原料としての分離のためなどの高度の精留という課題がごく一般的なものであったこと(摘記(6a)、(6b)、(2f))及び200段程度の蒸留塔により沸点差2℃程度の異性体であるパラキシレンとエチルベンゼンとを分離する精密蒸留技術はこの出願の優先日当時既に工業的にも確立していたこと(摘記(7a)、(8a))に照らせば、石油化学工業において、精密蒸留は、沸点差が2℃程度の成分を分離する手段として一般的であったといえるから、従来の精密蒸留により粗製物から沸点差2℃程度の不純物を実質的に完全に除去できることは当業者にとって当然であるといえる。
そして、2-エチルヘキシルアミン(沸点:約169℃(摘記(10a)))と1-デセン(沸点:約172℃(摘記(11a)))との沸点差は約3℃程度であるから、従来の精密蒸留により1-デセンから2-エチルヘキシルアミンを実質的に完全に除去できることは当業者にとって当然であって、実施例における蒸留により、粗製C_(10)留分に含まれていた2-エチルヘキシルアミンの実質的に全量が粗製C_(10)留分の主成分である1-デセンから除去されたことが、当業者の予測を超える顕著な効果であるということはできない。

b 除去された異性体についての検討

上記実施例における塔底製品の組成が1-デセン97質量%、2-エチルヘキシルアミン1質量ppm及びデセン異性体残りの量であることから、このデセン異性体についての「残りの量」とは約3質量%であるといえる。
そうすると、上記実施例において、蒸留前の粗製C_(10)留分における全デセン異性体の割合が7質量%であるのに対し、蒸留後に得られた塔底製品における全デセン異性体の割合が約3質量%であるといえるから、実施例における蒸留により、粗製C_(10)留分に含まれていた全デセン異性体の一定程度が粗製C_(10)留分の主成分である1-デセンから除去されたといえる。
しかし、上記aで述べたとおり、石油化学工業において、精密蒸留は、沸点差が2℃程度の成分を分離する手段として一般的であったといえるから、従来の精密蒸留により粗製物から沸点差2℃程度の不純物を実質的に完全に除去できることは当業者にとって当然であるといえる。
そして、上記イ(イ)bで述べたのと同様の理由により、当業者であれば上記実施例における蒸留前の粗製C_(10)留分が1-デセンよりも沸点の高い異性体と沸点の低い異性体との双方を含有すると認識できるから、塔頂流出物として除去対象物質を取り出し塔底製品として純度が向上した1-デセンを取り出すものである実施例における蒸留において、1-デセンよりも沸点が低い異性体が相当程度除去されることは当業者に明らかである。
以上から、実施例の結果は、70段の理論段を有する蒸留塔という従来技術に属する装置を用いた蒸留によって、単に粗製C_(10)留分から1-デセンよりも沸点が低い異性体がその量及び沸点に応じて除去されることが達成されたものに過ぎず、当業者が予測可能なものであったといえる。

また、念のため、除去された「前記異性体」の割合について検討するに、実施例における蒸留前の粗製C_(10)留分並びに蒸留後の塔頂流出物及び塔底製品に含有される複数のデセン異性体のそれぞれの沸点が不明であり、それぞれの量も明らかでない。これらのことからすると、発明の詳細な説明に記載された蒸留前後の異性体の含有割合の値のみから、除去された「前記異性体」の割合が当業者の予測を超える数値であるということはできない。
よって、実施例の結果が顕著ものであるということはできない。

以上から、実施例における蒸留により、粗製C_(10)留分に含まれていた全デセン異性体の一定程度が粗製C_(10)留分の主成分である1-デセンから除去されたことが、当業者の予測を超える顕著な効果であるということはできない。

(ウ)発明の効果についてのまとめ

以上のとおりであるから、本願請求項に係る発明が引用発明と比較した顕著な効果を有するとはいえない。

(6)請求人の主張について

ア 蒸留に関するこの出願の優先日当時の当業者の認識について

上記(5)イ(ア)b、上記(5)イ(ウ)b及び上記(5)ウ(イ)aで認定した、「石油化学工業においてオレフィンなどの単一炭化水素の石油化学原料としての分離のためなどの高度の精留という課題がごく一般的なものであったこと及び200段程度の蒸留塔により沸点差2℃程度の構造異性体であるパラキシレンとエチルベンゼンとを分離する精密蒸留技術はこの出願の優先日当時既に工業的にも確立していたことに照らせば、石油化学工業において、精密蒸留は、沸点差が2℃程度の成分を分離する手段として一般的であったといえる」との蒸留に関するこの出願の優先日当時の当業者の認識について、請求人は、意見書の4)(2)において、「本願発明前には、アミン、直鎖アルファオレフィンおよびその異性体を含むLAO生成物において、近い沸点を有するアミンを蒸留で除去することはできないと信じられており、LAO生成物からのアミンの蒸留による分離のためには、沸点における相当の違いが必要であると考えられていました。」と主張し、意見書の4)(1)において発明の詳細な説明の【0004】をその根拠として指摘し、同4)(2)において刊行物1の[0037]?[0039]の実例の記載(刊行物1の6頁23行?7頁12行の記載を指すと解される。)及び米国特許第5162597号明細書(以下「参考米国特許明細書」という。)の第1欄及び第2欄の記載をその根拠として指摘するので、以下検討する。

(ア)刊行物1の実例の記載について

刊行物1の6頁23行?7頁12行の記載は、概略「より詳細な例において、LAOプラントの分画部からリサイクルされた3-エチル-ヘプチル-アミンとLAOの混合物がLAO反応容器出口ラインに供給される。・・・アミンは、C_(10)とC_(12)LAO生成物の間の沸点を有するので、LAOプラントの分画部に全LAO留分とともに送給される。分画部においてアミンは従来の蒸留によりLAO生成物から除去される。・・・」というものである。
しかし、刊行物1の上記記載は、3-エチル-ヘプチル-アミンが「C_(10)とC_(12)LAO生成物の間の沸点を有する」ことにより、3-エチル-ヘプチル-アミンがLAOプラントの分画部に全LAO留分とともに送給され、従来の蒸留によりLAO生成物から除去できることを述べたものであると解するのが自然であって、請求人が主張するような、蒸留による3-エチル-ヘプチル-アミンのLAO生成物からの除去が不可能又は困難であることの記載又は示唆であると解することはできない。
また、仮に、C_(10)直鎖アルファオレフィンやC_(12)直鎖アルファオレフィンと3-エチル-ヘプチル-アミンとの沸点差が技術常識から当業者に明らかであり(C_(10)直鎖アルファオレフィンの沸点が技術常識であることにつき摘記(11a))、それらが請求人が意見書の4)(2)で主張するとおり14℃及び28℃であったとしても、刊行物1の上記記載は、直接的には沸点差が14℃程度であれば従来の蒸留により除去できることを示唆するに過ぎず、沸点差が14℃未満の場合には従来の蒸留により除去できないことを直接的に示唆するわけではない。

(イ)参考米国特許明細書の記載について

参考米国特許明細書について検討するに、その第1欄43行?49行の記載は、沸点が2.6℃異なるオレフィン(4-メチル-1-ペンテン(沸点53.9℃)と4-メチル-2-ペンテン(沸点56.3℃))を例示し、そのような沸点が非常に近似するオレフィンは「蒸留のような従来技術による分離は非常に困難であった。」という趣旨のものである。しかし、この記載は、「新規なオレフィンの分離方法」を開示する「特許明細書」における「背景技術を記述する箇所」に記載された「従来のオレフィンの分離方法」に関するものであって、蒸留に関するこの出願の優先日当時の当業者の認識を裏付ける根拠として必ずしも十分なものであるとはいえない。

(ウ)刊行物2及び6?8の記載について

他方、念のため上記認定の根拠とした刊行物2及び6?8について検討するに、辞典又は便覧の記載である刊行物6?8の記載は、蒸留に関するこの出願の優先日当時の当業者の認識を裏付ける根拠として十分なものであるといえるし、直鎖アルファオレフィンの反応生成液を精密蒸留分離して純度90.4%(1-オクタデセン)?99.0%(1-ヘキセン)の直鎖アルファオレフィンを得た旨の記載である刊行物2の記載(摘記(2f))は、刊行物6の「石油化学工業においては,精留はしばしば蒸留による各製品の分割の意味に用いられることもあるが・・・,それ以上にいっそう精密な分留によって単一炭化水素もしくは限定された沸点範囲の留分を分離する操作・・・をいう.特に石油化学原料としての炭化水素の分離には高度の精留が必要である.」という記載(摘記(6a))の具体例といえ、刊行物6の上記記載と共通し、出願の優先日当時の当業者の認識を裏付ける根拠であるといえる。

(エ)蒸留に関するこの出願の優先日当時の当業者の認識についてのまとめ

上記(ア)?(ウ)から、請求人が意見書において示す証拠及び主張は、沸点差が2℃程度以上の場合にまで、当業者に「アミン、直鎖アルファオレフィンおよびその異性体の沸点が近いために、これまで、アミンは蒸留によって除去できないと思われていた。」(発明の詳細な説明の【0004】)ことを裏付けるものであるとはいえないし、「石油化学工業においてオレフィンなどの単一炭化水素の石油化学原料としての分離のためなどの高度の精留という課題がごく一般的なものであったこと及び200段程度の蒸留塔により沸点差2℃程度の構造異性体であるパラキシレンとエチルベンゼンとを分離する精密蒸留技術はこの出願の優先日当時既に工業的にも確立していたことに照らせば、石油化学工業において、精密蒸留は、沸点差が2℃程度の成分を分離する手段として一般的であったといえる」との上記認定を左右するものでもない。

イ 相違点1に関する主張について

(ア)本願請求項に係る発明は、直鎖アルファオレフィンと有機アミンとの沸点差が小さいものであることに基づく主張について

請求人は、意見書の4)(2)において、「目的LAO生成物、その異性体およびアミンの大気圧での沸点が最大5℃までしか違わない場合に、特定の量(すなわち炭化水素流中の異性体の総量に基づき5と95質量%の間の量)の異性体の同時の除去によって、蒸留により所望のLAO画分から有機アミンを除去し得ることは、本願発明において初めて見出されたことであり、当業者といえども予測し得たことではありません。従って、刊行物3に、アルファオレフィンの塩素化反応を防止でするのに使用するアミンの例として2-エチルヘキシルアミン及びラウリルアミンが記載されているからといって、当業者は、アミン、LAOおよびその異性体の沸点が非常に近い場合、蒸留によってそのようなアミンをLAO生成物流からうまく分離できないと考えたはずであり、それらアミンを刊行物1の方法で用いることを考えたはずがありません。」と主張する。

しかし、引用発明における「有機アミンは・・・蒸留、抽出又は吸着により生成物から除去される」という点に関し、刊行物1には、より具体的に、アミンは従来の蒸留により直鎖アルファオレフィン生成物から除去されることが記載されているし、石油化学工業において、精密蒸留は沸点差が2℃程度の成分を分離する手段として一般的であったといえる。
また、2-エチルヘキシルアミンがいかなる偶数炭素数の直鎖アルファオレフィンとも沸点差2℃程度以上であることは当業者に明らかである。
したがって、引用発明において、当業者は、有機アミンとして2-エチルヘキシルアミンを使用するにあたり、精密蒸留により生成物から除去することを当然念頭において、何ら特別な考慮をしないといえる。以上は上記(5)イ(ア)bで述べたとおりである。
そうすると、確かに、従来、精密蒸留は、一般的には分離におのずと一定の限界があると考えられており(摘記(6a))、具体的には例えば、沸点差約0.8℃であるm-キシレンとp-キシレンを分離するための工業的手段としては必ずしも一般的であったとはいえない(摘記(7a)、(8a))ものの、引用発明において有機アミンとして2-エチルヘキシルアミンを使用する場合は、当業者が「うまく分離できないと考え」るほど「アミン、LAOおよびその異性体の沸点が非常に近い場合」であるとはいえず、したがって当業者が蒸留によって2-エチルヘキシルアミンをLAO生成物流からうまく分離できないと考えたとはいえない。

(イ)本願請求項に係る発明は、直鎖アルファオレフィンと有機アミンとの沸点差が小さいものであることに基づく主張を補充する主張について

上記(ア)で指摘した意見書の4)(2)における請求人の「刊行物3に、アルファオレフィンの塩素化反応を防止でするのに使用するアミンの例として2-エチルヘキシルアミン及びラウリルアミンが記載されているからといって、当業者は、アミン、LAOおよびその異性体の沸点が非常に近い場合、蒸留によってそのようなアミンをLAO生成物流からうまく分離できないと考えたはずであり、それらアミンを刊行物1の方法で用いることを考えたはずがありません。」との主張に関し、請求人はさらに刊行物1を指摘して、「このことは、刊行物1において、十分大きな沸点の差を有するアミンを用いていること、さらには、そのような沸点の違いが大きい条件下ですら、実質的に純粋なC_(10)およびC_(12)生成物を得るために、C_(10)およびC_(12)生成物中に残留する微量のアミンを吸着体により除去することを記載し(刊行物1の第7頁第2段落)、従来の蒸留以外の追加の手段によって微量アミンをさらに除去することの必要性を教示していることからも明らかであります。」とも主張する。

しかし、刊行物1の6頁23行?7頁12行の記載が蒸留による3-エチル-ヘプチル-アミンのLAO生成物からの除去が不可能又は困難であることの記載又は示唆であると解することはできないことは、上記ア(ア)で述べたとおりである。
また、刊行物1の「残余の痕跡アミンは要求される生成物の仕様に応じて、適切な吸着剤によって除去される」という請求人の指摘に係る記載(摘記(1g))は、要求される生成物の仕様に応じて除去される残余の「痕跡アミン」に関するものであることが当業者に明らかであるのみならず、痕跡アミンの除去が必須のものではないこともまた当業者に明らかである。
したがって、刊行物1の請求人が指摘する記載に基づく請求人の主張は採用できない。

(ウ)刊行物1及び3には沸点の差が小さい場合におけるLAO生成物からのアミン分離の課題についての記載がないことに基づく主張について

請求人は、意見書の4)(2)において、「刊行物1は、LAO生成物からそれと十分大きな沸点差を有するアミンを蒸留で除去する従来の方法を記載するのみであり、本願発明における、LAO生成物、その異性体およびアミンの大気圧下での沸点の違いが5℃以下であるような、沸点の差が小さい場合におけるLAO生成物からのアミン分離の課題について何ら教示しておらず、その課題に全く対処しておりません。」、「刊行物3も、本願発明における、LAO生成物、その異性体およびアミンの大気圧下での沸点の違いが5℃以下であるような、沸点の差が小さい場合におけるLAO生成物からのアミン分離の課題について何ら教示しておらず、またその課題に全く対処しておりません。」と主張する。

この点、まず、引用発明における「有機アミンは・・・蒸留、抽出又は吸着により生成物から除去される」という点に関し、刊行物1には、より具体的に、アミンは従来の蒸留により直鎖アルファオレフィン生成物から除去されることが記載されている(摘記(1g))から、引用発明にはアミンを蒸留で除去するという課題があったということができる。
また、上記(5)イ(ア)bで述べたとおり、石油化学工業においてオレフィンなどの単一炭化水素の石油化学原料としての分離のためなどの高度の精留という課題がごく一般的なものであったこと及び200段程度の蒸留塔により沸点差2℃程度の構造異性体であるパラキシレンとエチルベンゼンとを分離する精密蒸留技術はこの出願の優先日当時既に工業的にも確立していたことに照らせば、引用発明には直鎖アルファオレフィン生成物から従来の精密蒸留により直鎖アルファオレフィンとの沸点差が2℃程度以上の不純物を除去するという課題もあったということができる。
そうすると、確かに刊行物1にも刊行物3にも沸点の差が小さい場合におけるLAO生成物からのアミン分離の課題について記載はないものの、引用発明における「分画留分、最終的には1又はそれ以上の生成物」に直鎖アルファオレフィンと沸点差が2℃程度以上の有機アミンが含有される場合には、当業者は、これを従来の精密蒸留により除去するという課題を当然認識し、この課題を解決する手段として従来の精密蒸留を当然採用するといえる。
したがって、刊行物1にも刊行物3にも沸点の差が小さい場合におけるLAO生成物からのアミン分離の課題について記載がないことは、相違点1を容易であるとする上記(5)イ(ア)における判断を左右するものではない。

(エ)相違点1に関する主張についてのまとめ

以上から、相違点1に関する請求人の主張は採用できない。

ウ 相違点3に関する主張について

請求人は、意見書の4)(2)において、「刊行物1は、そのようなアミンと異性体との同時除去について全く開示も示唆もしておらず、大気圧下で多くとも5℃しか違わない沸点を有する直鎖アルファオレフィン(LAO)、異性体およびアミンを含む炭化水素流から、炭化水素流中の5%と95%の間の異性体がアミンと共にアミン/異性体の豊富な留分中へと除去されるように蒸留を行うことについて全く開示も示唆もしておりません。」、「刊行物3も、大気圧下で多くとも5℃しか違わない沸点を有する直鎖アルファオレフィン(LAO)、異性体およびアミンを含む炭化水素流から、炭化水素流中の5%と95%の間の異性体がアミンと共にアミン/異性体の豊富な留分中へと除去されるように蒸留を行うことについて全く開示も示唆もしておらず、上記刊行物1の不足を何ら補うものではありません。」と主張する。

しかし、上記(5)イ(ウ)bで述べたとおり、引用発明において、「生成物」が含有する有機アミンが、その生成物の主成分である直鎖アルファオレフィンとの沸点差が2℃程度以上のものである場合に、有機アミンを除去する手段として、その沸点差に応じて従来の精密蒸留を選択することは、その生成物の主成分が1-デセンであり有機アミンが2-エチルヘキシルアミンである場合も含めて、当業者が容易に想到できたことであるといえる。
また、上記(5)イ(ウ)cで述べたとおり、従来の精密蒸留により、1-デセンを主成分とする「生成物」から当然又は容易に「前記異性体の総量に基づいて、5%と95%の間の異性体が、前記アミンと共にアミン/異性体の豊富な留分中へと該炭化水素流から除去される」といえる。
そうすると、確かに刊行物1にも3にも請求人が主張する内容の蒸留は記載されていないものの、請求人の上記主張は、上記(5)イ(ウ)における相違点3についての判断を左右するものではない。

エ 発明の効果に関する主張について

(ア)蒸留により除去可能なアミンであることについて

請求人は、意見書の4)(1)及び(2)において、本願請求項に係る発明の効果について、「本願出願人は、LAO炭化水素流から近い沸点を有するアミンを除去する必要性に直面し、斯かる課題に対処する中で、驚くべきことに、特定量(すなわち、炭化水素流中の異性体の総量に基づき、5と95質量%の間の量)のオリゴマー化プロセスの間に製造された異性体を有機アミンと一緒に同時除去することにより、従来の蒸留により、LAO生成物と近い沸点を有するアミンを効果的に除去できることを初めて見出し、本願発明を達成するに至りました。本願明細書の実施例([0033]?[0038])では、特定の量の異性体の同時の除去による効果、ならびにそのような分離が、従来の蒸留カラムを用いて達成可能であることを示しています。従って、本願発明は、より簡便かつ低コストで不純物を除去して目的のLAO生成物の純度を高め得るとともに、除去したアミン等を回収および再利用して費用軽減することを可能にするという、顕著な作用効果を奏することができます。」等と主張する。

まず、請求人の上記主張のうち「特定の量の異性体の同時の除去による効果」について、これを「異性体を有機アミンと一緒に同時除去することにより・・・アミンを効果的に除去できること」であると解して検討する。
この点、上記(5)ウ(イ)bで述べたとおり、実施例における蒸留前の粗製C_(10)留分に具体的にどのようなデセン異性体が含有されているのかは明らかでないが、上記(5)イ(イ)bで述べたのと同様の理由により、この粗製C_(10)留分は1-デセンよりも沸点の高い異性体と沸点の低い異性体との双方を含有すると推認できる。
また、1-デセンの沸点は約172℃(摘記(11a))であり、実施例で使用されている2-エチル-ヘキシル-アミンの沸点がそれより約3℃程度低い約169℃であることは技術常識である(摘記(10a))。
そうすると、上記(5)イ(ウ)cで述べたのと同様の理由により、上記粗製C_(10)留分を精密蒸留に付した場合には、上記粗製C_(10)留分に含有される複数の異性体のうち、1-デセンより沸点が低い異性体であって1-デセンと沸点差が2℃程度以上のものは塔頂流出物として2-エチル-ヘキシル-アミンとともに1-デセンから実質的に完全に除去される一方、その余の異性体は塔底製品としての1-デセンに残留することは当業者に明らかである。
したがって、実施例の結果は、70段の理論段数を有する蒸留塔という従来技術に属する装置を用いた蒸留によって、単に1-デセンよりも沸点が低い有機アミン及び異性体がその量及び沸点に応じて除去されることが達成されたものに過ぎず、当業者が予測可能なものであったといえる。

また、請求人の上記主張のうち「そのような分離が、従来の蒸留カラムを用いて達成可能である」という点について検討するに、上記(5)ウ(イ)bで述べたとおり、従来の精密蒸留により粗製物から沸点差2℃程度の不純物を実質的に完全に除去できることは当業者にとって当然であるといえるところ、2-エチルヘキシルアミンと1-デセンとの沸点差は約3℃程度であるから、従来の精密蒸留により1-デセンから2-エチルヘキシルアミンが実質的に完全に除去できることは当業者にとって当然であって、従来の蒸留カラムにより粗製C_(10)留分に含まれていた2-エチルヘキシルアミンの実質的に全量が粗製C_(10)留分の主成分である1-デセンから除去されたことが、当業者の予測を超える顕著な効果であるということはできない。

以上から、発明の効果に関する請求人の上記主張は採用できない。

(イ)多様な利点を有するアミンであることについて

請求人は、意見書の4)(1)及び(2)において、「低コストで商業的量で世界中において利用可能であること」などの観点から、「LAO技術の商業的適用のための全ての利点と不都合を考慮して、2つのアミン、すなわち、n-ドデシルアミンおよび2-エチル-ヘキシル-アミンが最も望ましいことが分かりました」等と主張する。

しかし、本願請求項に係る発明は2-エチルヘキシルアミン又はラウリルアミンを発明特定事項とするものではないから、請求人の上記主張は本願請求項の記載に基づくものではない。
また、念のため、有機アミンとして2-エチルヘキシルアミンを使用した場合について検討すると、2-エチルヘキシルアミンが特注品等ではなく市販品であるという点で特に高価ではなくかつ入手が容易な物質であることは技術常識である(摘記(10a))から、2-エチルヘキシルアミンが「低コストで商業的量で世界中において利用可能であること」が顕著な効果であるとはいえないし、「水性媒体中の低い溶解性」などの「低コストで商業的量で世界中において利用可能であること」以外の請求人が意見書において主張する効果は、発明の詳細な説明に記載されているとも技術常識であるともいえないから、意見書における記載のみをもって顕著な効果であるとすることはできない。

(ウ)発明の効果に関する主張についてのまとめ

以上から、発明の効果に関する請求人の主張は採用できない。

(7)理由3についてのまとめ

以上のとおりであるから、本願請求項に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された上記刊行物1に記載された発明並びに上記刊行物1?3の記載及び技術常識に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本願請求項に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび

以上のとおり、この出願は、本願請求項についての特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合しないから、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていないものであり、また、この出願の本願請求項に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された上記刊行物1に記載された発明並びに上記刊行物1?3の記載及び技術常識に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余について検討するまでもなく、この出願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-10-10 
結審通知日 2017-10-17 
審決日 2017-10-30 
出願番号 特願2013-540249(P2013-540249)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C07C)
P 1 8・ 121- WZ (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中西 聡  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 齊藤 真由美
加藤 幹
発明の名称 オレフィンおよびアミンを含有する炭化水素流の精製方法  
代理人 佐久間 剛  
代理人 柳田 征史  
代理人 柳田 征史  
代理人 佐久間 剛  

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