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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B41J
管理番号 1338615
審判番号 不服2017-2400  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-02-20 
確定日 2018-04-03 
事件の表示 特願2011-279449「液体噴射ヘッド及び液体噴射装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 7月 4日出願公開、特開2013-129100、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成23年12月21日の出願であって、平成27年9月16日付けで拒絶理由が通知され、同年11月19日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成28年4月22日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年6月23日付けで意見書が提出され、同年11月14日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ(同査定の謄本の送達(発送)日 同年同月22日)、これに対し、平成29年2月20日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がされ、その後、当審において同年12月20日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成30年2月20日付けで手続補正がされたものである。

第2 本願発明

本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成30年2月20日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものと認められる。本願の請求項1ないし4に係る発明(以下、順に「本願発明1」ないし「本願発明4」という。)は以下のとおりである。

「【請求項1】
第1電極と第2電極とに挟まれた、鉛、ジルコニウム及びチタンを含むペロブスカイト型構造を有する複合酸化物からなる結晶が(100)面に優先配向している圧電体薄膜層、を有する圧電素子を備えた前記圧電素子の駆動に伴う圧力変動によりノズルから液滴を噴射する液体噴射ヘッドであって、
前記圧電素子の駆動を制御する駆動制御手段と、
前記第2電極上に設けられた発熱体により前記圧電素子を加熱する加熱手段と、を備え、
該駆動制御手段は、前記圧電体薄膜層の温度を60℃以上70℃以下に保持し、この状態で前記圧電素子を駆動させ、前記圧電素子はシリコン単結晶からなる保護基板と流路形成基板との間にあることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射ヘッドにおいて、
前記圧電素子を複数備え、前記発熱体が並設された前記圧電素子間に設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液体噴射ヘッドにおいて、
前記発熱体が、ニッケル及びクロムを含む合金、鉄及びクロムを含む合金、タングステン、白金又はモリブデンの何れかの材料で形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項4】
請求項1?3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドを備えていることを特徴とする液体噴射装置。」

第3 原査定の理由について

1.原査定の理由の概要
原査定は、平成28年4月22日付けの拒絶理由によるものであって、その概要は以下のとおりである。

「(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



・請求項 1ないし5
・引用文献等
1.特開平5-57886号公報
2.特開2006-173646号公報
3.特開2007-1265号公報
4.特開2010-69756号公報
5.特開2011-224800号公報
6.特開2011-167964号公報」

2.原査定の理由の判断
(1)刊行物
ア.刊行物1
原査定に係る拒絶理由で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開平5-57886号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。

(ア)「【0016】図1は、本発明によるホットメルトインクジェット記録装置の一実施例を説明するための構成図で、図2はその部分分解図である。図中、1は基板、2は駆動用回路プリント板(PCB)、3はノズル、4はノズルプレート、5は圧電素子(PZT)、6はワイヤーボンディング、7は電極保護板、8は平行液室、9は振動板、10は共通液室、11は流路、12は流路板、13は平行液室側壁、14は蓋板、15はヒータ、16は圧力伝達用小孔、17はインク供給口、20は循環用チューブ、21はポンプである。なお、循環用チューブ20中の矢印は流体の流れを示す。
【0017】本発明のホットメルトインクジェットヘッドは、基板1と該基板上に設けられた駆動部である圧電素子5、さらに、平行液室8を形成するための平行液室側壁13と、蓋板14上に流路11を形成するための流路板12と、流路11の上部壁及びホットメルトインクの吐出口となるノズル3を形成するためのノズルプレート4、さらに、圧電素子5に電気的信号を印加するための駆動用回路プリント板(PCB)、ホットメルトインクを加熱溶融するためのヒータ15よりなる。」

(イ)「【0030】図5(a),(b)は、インク滴吐出のための駆動信号を説明するための図である。画像情報に応じて(審決注:「追じて」は「応じて」の誤記であることが明らかであるので、訂正して摘記した。)圧電素子の駆動信号を印加する。駆動信号としては、図5(a)に示すように、通常、圧電素子が変化しないような電圧(0V)の状態であり、駆動時に変位させるいわゆる押し打ち方式の駆動信号と、図5(b)に示すように、通常、圧電素子を変位させておき、駆動時に信号をOFFし、変位させない状態とし、その後、再び変位させる状態に保ついわゆる引き打ち方式の駆動信号とが考えられるが、本発明のヘッドにおいては、どちらを使用しても良い。以下、押し打ち方式の場合で説明する。」

(ウ)「【0032】この駆動信号に応じて、選択されたアクチュエータ部が厚み方向に伸びる。その変位により、平行液室が容積変化をして振動板を押し上げる方向に圧力が生じる。一方、ヒータにより流路内のホットメルトインクは、加熱溶融されて液体状態になる。その状態で駆動信号が印加され、振動板に流路の容積を小さくする方向に変形が生じると、その容積変化にともなう圧力作用により、振動板と対向する位置にあるノズルよりホットメルトインクが柱状に成長する。その後、駆動パルスがOFFされ、アクチュエータや振動板が定常状態にもどるのに応じてインク柱にくびれが生じる。このくびれが生じる時間は、駆動パルスがOFFされる時間からやや遅れた時間である。その後、インク柱は切断され、インク液滴となって2?15m/sの速度で記録紙方向に飛翔する。」

(エ)「【0034】具体例1のヘッドで、ノズル0.5/mm隔てて、位置した記録紙(Xerox社製、4024紙)に、印写を試みた結果、駆動信号に応じたドットを記録紙上に作製することができた。そのドットの100個の平均ドット径は、121μm、そのバラツキは標準偏差で、1.76μmであり、300dpi相当の画素を安定して作ることができた。したがって、このヘッドを、図6に示すように、走査方向に対して斜めに傾けて配置し、64ノズルから噴射を行ったところ、ベタ印写を行うことができた。また、具体例1で使用した圧電素子(東北金属社製PZT:N-10)を単体で加熱し、温度と変位の関係を調べたところ、図7のように、PZT温度が110℃以上のとき、急激に変位量が減少し、180℃以上では、ほとんど変位しなかった。すなわち、PZT温度が100℃以上になると、効率の良い駆動を行うことができなくなるばかりか、その温度によって、変位量がバラツクことがわかる。その結果として、インク吐出量にバラツキが生じ、吐出量自体も100℃以下に比べ小さくなることが考えられる。
【0035】具体例1のヘッドの圧電素子の温度を測定したところ、流路板で115℃と高温であるにもかかわらず、圧電素子の表面の温度は68℃であり、十分な変位が得られていることがわかる。さらに、このヘッドを使用し、1万回の吐出実験を行ったが、最初の100個のドットと最後の100個のドットの大きさ(ドット径)はほとんど変化なく、安定した信頼性のある吐出が行われたことがわかる。また、図8は、圧力伝達用小孔の位置を工夫し、ヘッドを傾けることなく、ベタ印写を可能にした例である。このようにすることにより、ヘッド走査方向に占める長さを短くでき、小型の記録装置を得ることができる。さらに、図9は、吐出方向を流路と平行な方向としたヘッドの例である。このようにすることにより、インク供給口の位置に自由度がでること、ヘッドをキャリッジ上に立てて配置できるので、さらに、小型にできること等の長所がある。」

(オ)上記(ア)の記載を踏まえると、図2からは圧電素子(PZT)5の一端側にワイヤーボンディング6が設けられ、他端側に電極保護板7が設けられた点、及び、圧電素子(PZT)5は基板1と流路板12との間にある点を看取することができる。

上記の記載事項を総合すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「基板と該基板上に設けられた駆動部である圧電素子(PZT)、平行液室を形成するための平行液室側壁と、蓋板上に流路を形成するための流路板と、流路の上部壁及びホットメルトインクの吐出口となるノズルを形成するためのノズルプレート、圧電素子に電気的信号を印加するための駆動用回路プリント板(PCB)、ホットメルトインクを加熱溶融するためのヒータよりなり、
圧電素子(PZT)の一端側にワイヤーボンディングが設けられ、他端側に電極保護板が設けられ、
画像情報に応じて圧電素子の駆動信号を印加し、
駆動信号が印加され、振動板に流路の容積を小さくする方向に変形が生じると、その容積変化にともなう圧力作用により、振動板と対向する位置にあるノズルよりホットメルトインクが柱状に成長し、その後、インク柱は切断され、インク液滴となって記録紙方向に飛翔し、
圧電素子は基板と流路板との間にあるホットメルトインクジェットヘッド。」

イ.刊行物2
原査定に係る拒絶理由で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2006-173646号公報(以下「刊行物2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)「【請求項13】
基板と該基板上に設けられたエピタキシャル強誘電体膜とを備えた圧電アクチュエーターにおいて、
前記エピタキシャル強誘電体膜が、
該エピタキシャル強誘電体膜の結晶面のうち、前記基板表面の結晶面に平行な結晶面をZ結晶面、該Z結晶面の面間隔をzとし、前記エピタキシャル強誘電体膜の構成材料のバルク状態でのZ結晶面の面間隔をz_(0)としたとき、z / z_(0) > 1.003であり、
前記Z結晶面に垂直な前記エピタキシャル強誘電体膜の結晶面の一つの結晶面をX結晶面、該X結晶面の面間間隔をxとし、前記エピタキシャル強誘電体膜の構成材料のバルク状態でのX結晶面の面間隔をx_(0)としたとき、0.997 ≦ x / x_(0) ≦ 1.003であることを特徴とする圧電アクチュエーター。
(中略)
【請求項25】
請求項13に記載の圧電アクチュエーターを用いて液体を吐出する液体吐出ヘッド。」

(イ)「【0030】
エピタキシャル強誘電体膜の構成材料は特には限定されず、強誘電性を有するものから適宜選択することができる。例えば、BaTiO_(3)、PbTiO_(3)、PbZrO_(3)、YMnO_(3)、Bi_(4)Ti_(3)O_(12)、SrBi_(2)Ta_(2)O_(9)、(Sr,Ba)NbO_(3)などを挙げることができる。常温で強誘電特性の大きな材料としては、一般にPZTに代表される鉛系のペロブスカイト型酸化物材料を挙げることができる。さらに上記主成分に、例えば、LaドープPZT[(Pb,La)(Zr,Ti,)O_(3)](PLZTと表すことがある)のように、Laなどの微量の元素をドーピングした組成物であっても良い。圧電アクチュエーターの場合、大きな圧電特性を有する材料としてニオブ酸亜鉛酸鉛-チタン酸鉛(PZN-PTと表すことがある)、ニオブ酸マグネシウム酸鉛-チタン酸鉛(PMN-PTと表すことがある)に代表される緩和型強誘電体(リラクサー)材料であってもよい。
【0031】
本発明の強誘電体薄膜素子、圧電アクチュエーターを作製するのに用いることのできる基板は、上層に強誘電体膜をエピタキシャルに成膜できる単結晶体であることが好ましい。好ましい基板として、例えば、MgO、SrTiO_(3)、(La,Sr)TiO_(3)、Al_(2)O_(3)、Pt、Siなどの単結晶基板を挙げることができる。特に、一般的に優れた強誘電体特性を示す鉛系のPZT等に格子定数の近い、SrTiO_(3)、(La,Sr)TiO_(3)、MgO、Pt等が好ましい。例えば、SrTiO_(3)、(La,Sr)TiO_(3)、Pt、 MgOの単結晶体は、立方晶系の結晶構造を有している。これらのバルク状態の結晶のa軸の格子定数は、室温で、それぞれ、3.905Å、3.907Å、3.923Å、4.211Åである。上記材料から(100)面が基板表面となるように作製した単結晶基板上に、正方晶系の結晶構造を有しPZT膜のZ結晶面が(001)面となるようにエピタキシャル強誘電体膜を形成する場合、強誘電体膜の構成材料としては、例えば、結晶系が正方晶系であり、バルク状態でのa軸の格子定数が室温において4.036ÅであるZr:Ti=52:48の組成を有するPZTが好ましい。」

(ウ)「【0091】
また、この圧電アクチュエーターについて印加電圧±20V、評価温度70℃、周波数1kHz、書き込み回数107回の条件で耐久試験を行った。その結果、膜の劣化や剥離などによる変位の減衰は見られなかった。得られた結果を纏め表2に示した。」

上記の記載事項を総合すると、刊行物2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。

「基板と該基板上に設けられたエピタキシャル強誘電体膜とを備えた圧電アクチュエーターを用いて液体を吐出する液体吐出ヘッドであって、
エピタキシャル強誘電体膜の構成材料は、PZTに代表される鉛系のペロブスカイト型酸化物材料であり、
Siの単結晶基板上に、正方晶系の結晶構造を有しPZT膜のZ結晶面が(001)面となるようにエピタキシャル強誘電体膜を形成する液体吐出ヘッド。」

ウ.刊行物3
原査定に係る拒絶理由で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2007-1265号公報(以下「刊行物3」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)「【0004】
圧電素子は、例えば、薄い板状に形成されたピエゾ(PZT)等の圧電体の両面を電極で挟んだものであり、両電極間に電圧を印加することにより、圧電体が変形するものである。このような圧電体の特性は温度によって変化することが知られている。一方、吐出するインクの粘度も温度によって大きく変化する。」

(イ)「【0091】
このとき圧電体に電界を印加した場合に、どれだけ変位するかを表す係数を、圧電d定数(あるいは単にd定数)と言う。圧電d定数は、温度によって変化する。図9は、2種類のインクの温度と粘度との関係を表したグラフI_(A)、I_(B)と、圧電体の温度とd定数との関係を表したグラフDとを一緒に表したものである。」

(ウ)「【0098】
具体的にこのような温度制御の方法としては、例えば、前述したフレキシブルヒータ59の部分にサーミスタを付けて、フレキシブルヒータ59を温度Tm以上の温度で制御するようにする。なお、サーミスタは、下限値、上限値のみをモニタし、フレキシブルヒータ59のオン、オフのみを行うようにすることが好ましい。」

(エ)「【0108】
図12に、本発明の第2実施形態に係る印字ヘッド(液体吐出ヘッド)の概略構成を断面図で示す。
【0109】
図12に示すように、第2実施形態の印字ヘッド150は、図6に示す第1実施形態の印字ヘッド50と同様に、圧力室ユニット154は、インクを吐出するノズル151と連通する圧力室152によって形成され、圧力室152には、供給口153を介してインクを供給する共通流路(図示省略)が連通するとともに、圧力室152の一面は振動板156で構成されている。
【0110】
振動板156の圧力室152に対応する部分の反対側の面には、圧電体158が形成され、その上には圧電体158を駆動する駆動電圧を印加するための個別電極157が形成されている。また、振動板156は、個別電極157に対応する共通電極を兼ねている。圧電体158は、この共通電極(振動板156)個別電極157で挟まれて圧電素子を構成し、共通電極(振動板156)と個別電極157との間に電圧が印加されると変形し、圧力室152内のインクに対して吐出圧力を付与する。
【0111】
本実施形態においては、圧電体158と圧電体158との間の圧力室152の隔壁152a上の振動板156上にフレキシブルヒータ159が設けられている。
【0112】
図13にフレキシブルヒータ159を平面図で示す。図13に示すように、フレキシブルヒータ159は、振動板156(図12参照)と同様に印字ヘッド150の全体を覆うように形成され、圧電体158の部分に対応する場所には孔159aが設けられており、圧電体158を避けるようになっている(図12参照)。
【0113】
このように、本実施形態のフレキシブルヒータ159は、振動板156、圧力室隔壁152aを加熱して印字ヘッド150の温度を圧電体158の、温度-d定数特性のピーク温度Tm(図9参照)よりも高温側に制御し、この温度範囲で圧電体158を駆動するようにする。」

上記の記載事項を総合すると、刊行物3には、次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されているものと認められる。

「圧力室ユニットは、インクを吐出するノズルと連通する圧力室によって形成され、圧力室には、供給口を介してインクを供給する共通流路が連通するとともに、圧力室の一面は振動板で構成され、
振動板の圧力室に対応する部分の反対側の面には、圧電体が形成され、その上には圧電体を駆動する駆動電圧を印加するための個別電極が形成され、振動板は、個別電極に対応する共通電極を兼ねており、圧電体は、この共通電極(振動板)個別電極で挟まれて圧電素子を構成し、共通電極(振動板)と個別電極との間に電圧が印加されると変形し、圧力室内のインクに対して吐出圧力を付与し、
圧電素子は、薄い板状に形成されたピエゾ(PZT)等の圧電体の両面を電極で挟んだものであり、
圧電体と圧電体との間の圧力室の隔壁上の振動板上にフレキシブルヒータが設けられており、
フレキシブルヒータは印字ヘッドの全体を覆うように形成され、
圧電体に電界を印加した場合に、どれだけ変位するかを表す係数を、d定数と言い、
フレキシブルヒータは、振動板、圧力室隔壁を加熱して印字ヘッドの温度を圧電体の、温度-d定数特性のピーク温度よりも高温側に制御し、この温度範囲で圧電体を駆動し、
温度制御の方法としては、フレキシブルヒータの部分にサーミスタを付けて、サーミスタは、下限値、上限値のみをモニタし、フレキシブルヒータのオン、オフのみを行う印字ヘッド。」

エ.刊行物4
原査定に係る拒絶理由で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2010-69756号公報(以下「刊行物4」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)「【請求項1】
少なくともインクを吐出するノズルと、
該ノズルからインクを吐出する圧力を発生する圧力室と、
該圧力室に繋がり前記圧力室にインクを供給する共通流路と、
前記圧力室の前記ノズルとは反対側の開口部を覆うように形成された下部電極と、
該下部電極に積層された圧電体と、
前記下部電極および前記圧電体を挟んで前記圧力室に対向するように前記圧電体に積層された上部電極と、
前記共通流路を加熱するように前記上部電極と同一の層として同一の材料により設けられた加熱部と、を備えたことを特徴とするインクジェットヘッド。」

(イ)「【0101】
最後に共通流路114のおおむね上方で共通流路114長の中間近傍に温度検出用のサーミスタ6a、6b(図1に図示しているが図9には図示せず)を設ける。但し、加熱部103a、103bの材料として白金等の抵抗値が温度特性を持つ材料を用いた場合には加熱部103a、103bに印加する電圧と流れる電流を検出して抵抗値を算出することにより共通流路114近傍の温度を検出して温度制御を行うことができ、サーミスタ6a、6bを無くすことができる。」

上記の記載事項を総合すると、刊行物4には、次の発明(以下「引用発明4」という。)が記載されているものと認められる。

「インクを吐出するノズルと、
該ノズルからインクを吐出する圧力を発生する圧力室と、
該圧力室に繋がり前記圧力室にインクを供給する共通流路と、
前記圧力室の前記ノズルとは反対側の開口部を覆うように形成された下部電極と、
該下部電極に積層された圧電体と、
前記下部電極および前記圧電体を挟んで前記圧力室に対向するように前記圧電体に積層された上部電極と、
前記共通流路を加熱するように前記上部電極と同一の層として同一の材料により設けられた加熱部と、を備え、
加熱部の材料として白金等の抵抗値が温度特性を持つ材料を用いたインクジェットヘッド。」

オ.刊行物5
原査定に係る拒絶理由で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2011-224800号公報(以下「刊行物5」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)「【0025】
次に記録ヘッド3について説明する。図2は記録ヘッド3の断面図(縦断面)であり、図3は第1の実施形態の図2におけるA-A線断面図(横断面)、図4は第1の実施形態の記録ヘッド3の分解斜視図、図5は第1の実施形態の記録ヘッド3をノズルプレート20側から見た平面図である。なお、便宜上、各部材の積層方向を上下方向として説明する。本実施形態における記録ヘッド3は、ノズルプレート20、流路基板21、共通液室基板22、及び、コンプライアンス基板23から概略構成され、これらの部材を積層した状態でケース24に取り付けられている。」

(イ)「【0027】
流路基板21はシリコン単結晶基板からなる基板である。この流路基板21には、図2、図4に示すように、異方性エッチング処理によって複数の隔壁で区画された圧力室30が各ノズル28に対応して複数形成されており、本実施形態では、2列のノズル列29に対応して2列の圧力室30が並設されている。図2の例において、圧力室30は、流路基板21の板厚方向を貫通した状態で形成されているが、板厚方向の途中まで形成される場合もある。また、流路基板21における圧力室30の列の外側には、流路基板21長手方向に沿って細長なリザーバー32の一部を区画する連通空部33が、2本形成されている。この連通空部33は、圧力室30よりも幅狭に形成されたインク供給口31を介して各圧力室30と連通している。」

(ウ)「【0030】
上記圧電振動子35が形成された流路基板21上には、厚さ方向に貫通した長尺な貫通空部34を2本有する共通液室基板22(保護基板)が配置される。この共通液室基板22は、流路基板21と同様にシリコン単結晶基板を用いて作製されている。また、この共通液室基板22における貫通空部34は、流路基板21の連通空部33と連通してリザーバー32の一部を区画する。また、共通液室基板22には、圧電振動子35に対向する領域に当該圧電振動子35の駆動を阻害しない程度の大きさの圧電振動子収容空部38が形成されている。さらに、共通液室基板22において、隣り合う圧電振動子35列の間には、基板厚さ方向を貫通し基板長手方向に沿って細長な配線空部39が形成されている。そして、図4に示すように、共通液室基板22の長手方向両端部には、板厚方向に貫通した供給貫通路49が供給連通路48と連通可能に2つ開口している。」

上記の記載事項を総合すると、刊行物5には、次の発明(以下「引用発明5」という。)が記載されているものと認められる。

「ノズルプレート、流路基板、共通液室基板、及び、コンプライアンス基板から構成され、
流路基板はシリコン単結晶基板からなる基板であり、
圧電振動子が形成された流路基板上には、共通液室基板(保護基板)が配置される記録ヘッド。」

カ.刊行物6
原査定に係る拒絶理由で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2011-167964号公報(以下「刊行物6」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)「【0023】
図3は、ヘッドユニット16(記録ヘッド3よりも狭義の液体噴射ヘッド)の構成を示す分解斜視図であり、図4は、ヘッドユニット16の断面図である。なお、便宜上、各部材の積層方向を上下方向として説明する。
本実施形態におけるヘッドユニット16は、ノズルプレート22、流路基板23(本発明における流路形成基板に相当)、共通液室基板24、及び、コンプライアンス基板25から概略構成され、これらの部材を積層した状態でユニットケース26に取り付けられている。

「【0027】
上記圧電素子35が形成された流路基板23上には、厚さ方向に貫通した貫通空部36を有する共通液室基板24(保護基板)が配置される。この共通液室基板24は、流路基板23やノズルプレート22と同様にシリコン単結晶基板を用いて作製されている。また、この共通液室基板24における貫通空部36は、流路基板23の連通空部33と連通して共通液室32の一部を区画するようになっている。」

上記の記載事項を総合すると、刊行物6には、次の発明(以下「引用発明6」という。)が記載されているものと認められる。

「ノズルプレート、流路基板、共通液室基板、及び、コンプライアンス基板から構成され、
圧電素子が形成された流路基板上には、共通液室基板(保護基板)が配置され、
共通液室基板は、流路基板やノズルプレートと同様にシリコン単結晶基板を用いて作製されているヘッドユニット。」

(2)本願発明1について
ア.対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。

後者の「圧電素子(PZT)」は、その構造、機能、作用等からみて、前者の「圧電素子」に相当し、同様に「ノズル」は「ノズル」に、「ホットメルトインクジェットヘッド」は「液体噴射ヘッド」に、「ヒータ」は「加熱手段」に、「基板」は「保護基板」に、「流路板」は「流路形成基板」に、それぞれ相当する。

後者においては、「圧電素子(PZT)の一端側にワイヤーボンディングが設けられ、他端側に電極保護板が設けられ」るところ、「ワイヤーボンディング」は電極への配線に用いられ、「電極保護板」は電極を保護するものであることは明らかであるし、また、「圧電素子に電気的信号を印加する」際には通常2つの電極が接続されるから、後者の「圧電素子(PZT)」は2つの電極に接続されるといえるから、「圧電素子(PZT)」が「第1電極と第2電極とに挟まれた」といえる。

後者の「圧電素子(PZT)」において、「PZT」が一般にチタン酸ジルコン酸鉛を指すことは明らかであって、チタン酸ジルコン酸がペロブスカイト型構造を有する複合酸化物からなる結晶であることは広く知られていることである。そうすると、後者の「圧電素子(PZT)」と前者の「鉛、ジルコニウム及びチタンを含むペロブスカイト型構造を有する複合酸化物からなる結晶が(100)面に優先配向している圧電体薄膜層、を有する圧電素子」とは、「鉛、ジルコニウム及びチタンを含むペロブスカイト型構造を有する複合酸化物からなる結晶を有する圧電素子」との概念で共通する。

後者の「画像情報に応じて圧電素子の駆動信号を印加し、駆動信号が印加され、振動板に流路の容積を小さくする方向に変形が生じると、その容積変化にともなう圧力作用により、振動板と対向する位置にあるノズルよりホットメルトインクが柱状に成長し、その後、インク柱は切断され、インク液滴となって記録紙方向に飛翔し」は、前者の「圧電素子の駆動に伴う圧力変動によりノズルから液滴を噴射する」に相当する。

後者においては「画像情報に応じて圧電素子の駆動信号を印加し、駆動信号が印加され」るから、後者が画像情報に応じて圧電素子に駆動信号を印加する手段を有していることは明らかであって、当該手段は前者の「圧電素子の駆動を制御する駆動制御手段」に相当する。

後者の「ホットメルトインクを加熱溶融するためのヒータ」と、前者の「前記第2電極上に設けられた発熱体により前記圧電素子を加熱する加熱手段」とは、「加熱手段」との概念で共通する。

後者の「圧電素子は基板と流路板との間にある」と、前者の「圧電素子はシリコン単結晶からなる保護基板と流路形成基板との間にある」とは、「圧電素子は保護基板と流路形成基板との間にある」との概念で共通する。

したがって、両者は、
「第1電極と第2電極とに挟まれた、鉛、ジルコニウム及びチタンを含むペロブスカイト型構造を有する複合酸化物からなる結晶を有する圧電素子を備えた前記圧電素子の駆動に伴う圧力変動によりノズルから液滴を噴射する液体噴射ヘッドであって、
前記圧電素子の駆動を制御する駆動制御手段と、
加熱手段と、を備え、
前記圧電素子は保護基板と流路形成基板との間にある液体噴射ヘッド。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
前者の圧電素子が、「(100)面に優先配向している圧電体薄膜層」を有するのに対して、後者はその点につき明らかでない点。

[相違点2]
前者の加熱手段が、「第2電極上に設けられた発熱体により圧電素子を加熱する」のに対して、後者はそのようなものでない点。

[相違点3]
前者の駆動制御手段が、「圧電体薄膜層の温度を60℃以上70℃以下に保持し、この状態で圧電素子を駆動させる」のに対して、後者はそのようなものでない点。

[相違点4]
前者の保護基板が「シリコン単結晶からなる」のに対して、後者はその点につき明らかでない点。

イ.判断
上記相違点3について検討する。

引用文献1には「PZT温度が100℃以上になると、効率の良い駆動を行うことができなくなるばかりか、その温度によって、変位量がバラツクことがわかる。その結果として、インク吐出量にバラツキが生じ、吐出量自体も100℃以下に比べ小さくなることが考えられる。」(段落【0034】。上記ア.(エ)参照。)と記載され、具体例1において「圧電素子の表面の温度は68℃であ」る(段落【0035】。上記ア.(エ)参照。)ことが示されている。そうすると、引用文献1においてはPZT温度(すなわち圧電素子の温度)を100℃以下にすることが望ましいこと、及び、特定の条件下において圧電素子の表面の温度が68℃であることが記載されているといえる。
しかしながら、引用発明1は、「圧電体薄膜層の温度」を「60℃以上70℃以下に保持」するものではないし、このような温度範囲の保持を「駆動制御手段」によって行うものでもない。

引用文献2には、圧電アクチュエーターの耐久試験を評価温度70℃で行うこと(段落【0091】。上記イ.(ウ)参照。)が記載されている。
しかしながら、引用発明2は、「圧電体薄膜層の温度」を「60℃以上70℃以下に保持」するものではないし、このような温度範囲の保持を「駆動制御手段」によって行うものでもない。

引用発明3の「圧電体」は、「薄い板状に形成されたピエゾ(PZT)等の圧電体」であるから、本願発明1の「圧電体薄膜層」に相当する。
引用発明3は、「フレキシブルヒータは、振動板、圧力室隔壁を加熱して印字ヘッドの温度を圧電体の、温度-d定数特性のピーク温度よりも高温側に制御し、この温度範囲で圧電体を駆動し、温度制御の方法としては、フレキシブルヒータの部分にサーミスタを付けて、サーミスタは、下限値、上限値のみをモニタし、フレキシブルヒータのオン、オフのみを行う」ものであるから、サーミスタは圧電体を特定の温度範囲に温度制御するといえ、引用発明3のこの点と、本願発明1の「該駆動制御手段は、前記圧電体薄膜層の温度を60℃以上70℃以下に保持し」とは、「駆動制御手段は、圧電体薄膜層の温度を保持し」との概念で共通する。
しかしながら、引用発明3は、「印字ヘッドの温度を圧電体の、温度-d定数特性のピーク温度よりも高温側に制御」するとともに、「サーミスタは、下限値、上限値のみをモニタ」するものであって、「圧電体薄膜層の温度を60℃以上70℃以下に保持」するものではない。

そうすると、引用発明1ないし3は、上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項を備えるものではない。また、引用発明4ないし6も、上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項を備えるものではない。

そして、本願発明1は、上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項を具備することにより、本願明細書に記載の「このように圧電体層70を60℃以上70℃以下の温度に保持した状態で、圧電素子300を駆動させることで、圧電体層70の破壊を抑制しつつ圧電素子300の変位量を向上することができる。」(段落【0029】)という効果を奏するものである。

したがって、本願発明1は、引用発明1ないし6に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)本願発明2ないし4について
本願発明2ないし4は、本願発明1をさらに限定したものである。
すると、本願発明2ないし4は、本願発明1と同様に、引用発明1ないし6に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。

第4 当審拒絶理由について

1.当審拒絶理由の概要
当審において通知した拒絶理由の概要は以下の通りである。

「(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。



・請求項 1ないし5

本願発明の課題は、発明の詳細な説明の記載からみて、「圧電体層の破壊を抑制しつつ圧電素子の変位量を向上することができる液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供すること」(段落【0007】)であって、その解決手段は、「圧電体層70を加熱する手段」(段落【0033】)を備え、「駆動制御手段としての駆動回路120は、……圧電体層70を60℃以上70℃以下の温度に加熱保持」(段落【0027】)することであると認められる。
一方、請求項1には、「該駆動制御手段は、前記圧電体薄膜層の温度を60℃以上70℃以下とした状態で当該圧電素子を駆動させ」ることは記載されているものの、「圧電体層を加熱する手段」を備えることや、「駆動制御手段」が「圧電体層を60℃以上70℃以下の温度に加熱保持」することが規定されておらず、出願時の技術常識を考慮しても、本願発明の課題が解決できないことが明らかである。
したがって、請求項1には、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えることとなる。
よって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
また、請求項1を引用する請求項2ないし5に係る発明も同様に、発明の詳細な説明に記載したものでない。」
2.当審拒絶理由の判断
平成30年2月20日にされた手続補正により、本件補正前の請求項1ないし4は上記「第2 本願発明」において摘示した請求項1ないし4のとおりにそれぞれ補正された。

このことにより、請求項1ないし4に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものとなった。

よって、当審拒絶理由は解消した。

第5 むすび

以上のとおりであるから、原査定の理由及び当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-03-19 
出願番号 特願2011-279449(P2011-279449)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B41J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 島▲崎▼ 純一  
特許庁審判長 黒瀬 雅一
特許庁審判官 森次 顕
藤本 義仁
発明の名称 液体噴射ヘッド及び液体噴射装置  
代理人 仲井 智至  
代理人 西田 圭介  
代理人 渡辺 和昭  
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