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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02F
管理番号 1338748
審判番号 不服2016-12833  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-08-25 
確定日 2018-03-22 
事件の表示 特願2015-549893「液晶の貯蔵又は運搬のための容器」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月22日国際公開、WO2015/159678〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年3月26日(優先権主張 平成26年4月14日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成27年12月17日付けで拒絶理由が通知され、平成28年2月24日に意見書及び手続補正書が提出され、平成28年5月23日付けで拒絶査定がなされ、平成28年8月25日に本件拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成28年8月25日付け手続補正書による補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成28年8月25日付け手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、平成28年2月24日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲をさらに補正するもので、請求項1についての補正を含むところ、本件補正前後の請求項1の記載は、補正箇所に下線を付して示すと、以下のとおりである。
(1)補正前
「比抵抗値1.0×10^(13)Ω・cm以上であり、一般式(III-A)?一般式(III-J)
【化1】

(式中、R^(5)及びR^(6)はそれぞれ独立して炭素数1?15のアルキル基を表し、該アルキル基中の1つ又は2つ以上の-CH_(2)-は、酸素原子が直接隣接しないように、-O-、-CH=CH-、-CO-、-OCO-、-COO-、-CF_(2)O-又は-OCF_(2)-で置換されてよく、該アルキル基中の1つ又は2つ以上の水素原子は任意にハロゲンで置換されていてもよい。)で表される化合物の群より選ばれる化合物を含有する液晶材料との接触面がチタンを主成分とする素材である、剛直で水及び酸素に対する気密性を有する貯蔵又は運搬のための容器。」
(2)補正後
「比抵抗値1.0×10^(13)Ω・cm以上であり、一般式(III-A)?一般式(III-J)
【化1】

(式中、R^(5)及びR^(6)はそれぞれ独立して炭素数1?15のアルキル基を表し、該アルキル基中の1つ又は2つ以上の-CH_(2)-は、酸素原子が直接隣接しないように、-O-、-CH=CH-、-CO-、-OCO-、-COO-、-CF_(2)O-又は-OCF_(2)-で置換されてよく、該アルキル基中の1つ又は2つ以上の水素原子は任意にハロゲンで置換されていてもよい。)で表される化合物の群より選ばれる化合物を含有する液晶材料のための容器であって、容器全体がチタンを主成分とする素材である、剛直で水及び酸素に対する気密性を有する貯蔵又は運搬のための容器。」

2 補正の目的についての検討
本件補正は、補正前の請求項1に係る発明を特定する事項である「比抵抗値1.0×10^(13)Ω・cm以上であり、一般式(III-A)?一般式(III-J)
【化1】

(式中、R^(5)及びR^(6)はそれぞれ独立して炭素数1?15のアルキル基を表し、該アルキル基中の1つ又は2つ以上の-CH_(2)-は、酸素原子が直接隣接しないように、-O-、-CH=CH-、-CO-、-OCO-、-COO-、-CF_(2)O-又は-OCF_(2)-で置換されてよく、該アルキル基中の1つ又は2つ以上の水素原子は任意にハロゲンで置換されていてもよい。)で表される化合物の群より選ばれる化合物を含有する液晶材料との接触面」がある「容器」について、その用途を、「比抵抗値1.0×10^(13)Ω・cm以上であり、一般式(III-A)?一般式(III-J)
【化1】

(式中、R^(5)及びR^(6)はそれぞれ独立して炭素数1?15のアルキル基を表し、該アルキル基中の1つ又は2つ以上の-CH_(2)-は、酸素原子が直接隣接しないように、-O-、-CH=CH-、-CO-、-OCO-、-COO-、-CF_(2)O-又は-OCF_(2)-で置換されてよく、該アルキル基中の1つ又は2つ以上の水素原子は任意にハロゲンで置換されていてもよい。)で表される化合物の群より選ばれる化合物を含有する液晶材料のための容器」に限定し、さらに、当該容器の素材を、「液晶材料との接触面がチタンを主成分とする素材である」ことから「容器全体がチタンを主成分とする素材である」ことに限定するものである。そして、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について検討する。

3 独立特許要件
(1)本願補正発明
本願補正発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、上記第2の1(2)のとおりのものであると認められる。

(2)引用文献
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された本願優先日前に頒布された刊行物である特開2005-157361号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。

ア「【0001】
本発明は、液晶(LC)または液晶混合物(LCM)を、空気および水蒸気不透過性容器中に、またはこれから詰め、回収するための方法に関する。本発明はさらに、LCおよびLCMの、再使用可能な容器中で、またはこれから詰め、輸送し、貯蔵し、回収するための循環方法に関する。本発明は、さらに、導入および回収デバイス並びにこのタイプの方法において用いるためのシステムおよび容器に関する。」

イ「【0004】
ガラスビンの使用は、現在最良の妥協であるが、多くの品質に関連する問題、例えば空気接触、光透過性またはガラスからのイオンの溶解を伴う。しかし、酸素、水分またはイオン性物質との接触により、LCMの品質、特にこれらの電気的および電気光学的特性、例えば比抵抗が顕著に損なわれ得る。
【0005】
さらに、ガラスビン中にLCMを詰めることは、品質に関して危険が大きい、労力を要する作業段階である。同一のことが、例えばこれらのLCMを用いるLCディスプレイの製造における、ビンの取り扱いおよびLCMの回収に該当する。
【0006】
従って、現在用いられているガラスビンは、破損し得、これらは、光を透過し、これらの密閉キャップは、酸素および水蒸気を透過し、残留空気を、ビンから除去することができない。…」

ウ「【0010】
現在までLC工業において用いられているガラスビンにまさる、高品質鋼鉄または同等の材料製の容器の品質上の利点は、特に、空気および水蒸気に対するこれらの不透過性並びに光に対する不透明性、LCMへのイオンの溶解がないこと、粒子の減少した生成、LCM使用者による容器の輸送中および取り扱い中の増大した安全性である。さらに、一層大きい容量を有する比較的大きい容器を用いると、導入されたLCの量と比較して、容器表面積が顕著に減少し、これは、LCおよびLCMの保存寿命および品質保証に対する有利な効果を有する。」

エ「【0013】

本発明は、液晶(LC)または液晶混合物(LCM)を詰め、随意に輸送および/または貯蔵するための方法であって、気密性(air-tight)および水密性(water-tight)または水蒸気不透過性容器を、少なくとも部分的にLCまたはLCMで満たし、存在する空気のすべての残りの容積を、保護ガスで置換し、容器を密閉することを特徴とする、前記方法に関する。
【0014】
本発明は、さらに、本明細書中に記載する容器、特に鋼鉄または同等の表面特性を有する材料製の内側壁を有する容器の、LCまたはLCMを詰め、輸送し、貯蔵し、回収するための使用に関する。
本発明は、さらに、LCおよびLCMを詰め、輸送し、貯蔵し、回収するための本明細書中に記載するシステムまたは容器であって、特に、該システムまたは容器が、詰め、随意に輸送し、および/または貯蔵し、回収する段階を含む全体のサイクルの間閉鎖されたままであって、LCまたはLCMの可能な汚染を防止するかまたは低減することを特徴とする、前記システムまたは容器に関する。」

オ「【0018】
本発明の容器およびシステムにおいて用いるためのLCまたはLCMは、例えば、個別の液晶物質または複数の個別の液晶物質の混合物、および個別の液晶物質と他の非液晶物質との混合物であり、ここで、これらの混合物は、好ましくは液晶性である。LCまたはLCMを、本発明の容器およびシステムにおいて、純粋な物質または純粋な物質の混合物として、しかしまた、例えば溶液、エマルジョン、分散体または懸濁液の形態で用いることができる。
【0019】
LCおよびLCMは、特に好ましくは、液体または低粘度状態において液晶性または等方性相で、好ましくは純粋な物質または純粋な物質の混合物として詰められ、貯蔵され、輸送され、および/または回収される。…」

カ「【0022】
本発明の方法において用いるための容器は、好ましくは、鋼鉄または1種もしくは2種以上の他の材料からなるか、あるいは鋼鉄または1種もしくは2種以上の他の材料からなる内側壁を有し、ここで、これらの他の材料は、鋼鉄と同等であるか、または鋼鉄よりも良好な表面特性を有する。容器のために用いられる材料は、基本的には、非汚染性であり、摩耗を有せず、液晶および攻撃的物質に耐性であり、耐腐食性であり、または錆非含有であり、空気、酸素および水蒸気不透過性であり、並びに好ましくは光に対して不透明でなければならない。鋼鉄以外には、他の好適な、および好ましい材料は、例えば、ジルコニウムまたはこの合金、エナメル、セラミックス、酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素である。
【0023】
特に好ましいのは、1種または2種以上のこれらの好ましい材料からなる容器である。しかし、原則的に、内側壁が1種または2種以上のこれらの好ましい材料の被膜を有する他の材料製の容器、例えば二酸化ケイ素で被覆したプラスチック容器またはメタライズガラス容器もまた、好適である。このような容器はまた、透明な壁を有することができ、これにより、充填レベルの監視が単純になる。
【0024】
特に好ましいのは、耐腐食性材料またはステンレス鋼製の圧力容器である。好ましいのは、さらに、内側壁が、好適な方法により処理された、例えば電解研磨されたか、もしくは酸洗いされた内側壁または特定の被膜を設けられた内側壁を有する容器である。このような被膜の例は、例えば、チタンもしくはチタンを含む合金または、またLCディスプレイ素子における被膜(「上塗り」)として用いられている、蒸着、スパッタリングまたは他の方法により設けられた有機物質の被膜である。好ましい上塗り材料は、当業者に知られている。
【0025】
ガラスビンとは対照的に、本発明の容器は、LCまたはLCMを汚染し得る、粒子の生成に対する、および/またはイオンの溶解に対する低減化傾向を有する。
特に好ましいのは、電解研磨された、または対応して処理された内側壁を有する耐腐食性鋼鉄製の圧力容器である。」

キ 液晶(LC)または液晶混合物(LCM)を詰め、輸送し、貯蔵する容器が、液晶(LC)または液晶混合物(LCM)のための容器であることは明らかである。

ク 上記記載事項カによれば、ステンレス鋼または耐腐食性材料に代表される鋼鉄または同等の他の材料は酸素不透過性であるから、耐腐食性材料またはステンレス鋼製の容器の「気密性」が、「酸素に対する気密性」を含むことは明らかである。

キ 上記記載事項ア?カ及び認定事項キ、クを総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「液晶(LC)または液晶混合物(LCM)のための容器であって、酸素に対する気密性および水密性または水蒸気不透過性、並びに、容器の輸送中および取り扱い中の増大した安全性を備えた、ガラスビンにまさる利点を有する耐腐食性材料またはステンレス鋼製の容器であり、チタンの被膜を設けられた内側壁を有する、貯蔵又は輸送のための容器。」

(3)対比・判断
ア 本願補正発明と引用発明とを対比する。

引用発明の「液晶(LC)または液晶混合物(LCM)のための」「貯蔵又は輸送のための容器」と、本願補正発明の「比抵抗値1.0×10^(13)Ω・cm以上であり、一般式(III-A)?一般式(III-J)
【化1】

(式中、R^(5)及びR^(6)はそれぞれ独立して炭素数1?15のアルキル基を表し、該アルキル基中の1つ又は2つ以上の-CH_(2)-は、酸素原子が直接隣接しないように、-O-、-CH=CH-、-CO-、-OCO-、-COO-、-CF_(2)O-又は-OCF_(2)-で置換されてよく、該アルキル基中の1つ又は2つ以上の水素原子は任意にハロゲンで置換されていてもよい。)で表される化合物の群より選ばれる化合物を含有する液晶材料のための」「貯蔵又は運搬のための容器」とは、「液晶材料のための」「貯蔵又は運搬のための容器」という限りにおいて一致する。
また、本願明細書の【0004】「しかし、大容量のガラス瓶はコストがかかり、また、運搬時にガラス瓶を破損してしまう危険性もある。」、【0007】「本発明が解決しようする課題は、衝撃に対する破損等の問題が無く…」、【0012】「本発明の容器は、正圧や負圧に対して気密性を有し、衝撃に耐えうる剛直性を有する…」との記載を総合すると、本願発明における「剛直」とは、ガラスと比べて衝撃に耐えうることをいうと解されるところ、引用発明の「容器」が「容器の輸送中および取り扱い中の増大した安全性を備えた、ガラスビンにまさる利点を有する耐腐食性材料またはステンレス鋼製」であることは、ステンレス鋼または同等の耐腐食性材料がガラス(引用文献1【0006】「現在用いられているガラスビンは、破損し得」)より耐衝撃性の高い剛性材料であることを意味するのは当業者にとって明らかであるから、本願補正発明の「容器」が「剛直」であることに相当する。
また、引用発明の「容器」が「酸素に対する気密性および水密性または水蒸気不透過性」を備えることは、本願補正発明の「容器」が「水及び酸素に対する気密性を有する」ことに相当する。
さらに、引用発明の液晶(LC)または液晶混合物(LCM)のための「容器」が「チタンの被膜を設けられた内側壁を有する」「耐腐食性材料またはステンレス鋼製」であることと、本願補正発明の液晶材料のための「容器」が「容器全体がチタンを主成分とする素材である」こととは、「少なくとも液晶材料との接触面がチタンを主成分とする素材である」という限りにおいて一致する。

イ よって、本願補正発明と引用発明とは、
「液晶材料のための容器であって、少なくとも液晶材料との接触面がチタンを主成分とする素材である、剛直で水及び酸素に対する気密性を有する貯蔵又は運搬のための容器。」
である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
容器を使用する液晶材料が、本願補正発明においては、比抵抗値1.0×10^(13)Ω・cm以上であり、一般式(III-A)?一般式(III-J)
【化1】

(式中、R^(5)及びR^(6)はそれぞれ独立して炭素数1?15のアルキル基を表し、該アルキル基中の1つ又は2つ以上の-CH_(2)-は、酸素原子が直接隣接しないように、-O-、-CH=CH-、-CO-、-OCO-、-COO-、-CF_(2)O-又は-OCF_(2)-で置換されてよく、該アルキル基中の1つ又は2つ以上の水素原子は任意にハロゲンで置換されていてもよい。)で表される化合物の群より選ばれる化合物を含有する液晶材料であるのに対して、引用発明においては、液晶(LC)または液晶混合物(LCM)が具体的にどのような材料であるのかは明らかでない点。

(相違点2)
容器の素材が、本願補正発明では容器全体がチタンを主成分とする素材であるのに対して、引用発明では容器の内側壁に設けられた被膜がチタンである点

ウ そこで、上記各相違点について検討する。
まず、上記相違点1について検討する。
上記相違点1に係る本願補正発明の液晶材料は、例えば次の文献に記載されるように、本願優先日前から周知である。

特開2004-231738号公報(【0051】?【0056】、【0059】?【0062】 特に、LC3(実施例1)、LC4(実施例1)、LC17(実施例3)、LC19(実施例4)、LC20(実施例4)を参照。)
特開2002-60752号公報(【0032】?【0049】 特に、混合物A、C?F、H、Iを参照。)
国際公開第2010/110049号([0065]、[0066] 特に、液晶組成物(2)を参照。)
特許第5327414号公報(【請求項1】、【0100】)

引用発明の容器を用いるLCまたはLCMについては、引用文献1の【0018】、【0019】に「本発明の容器およびシステムにおいて用いるためのLCまたはLCMは、例えば、個別の液晶物質または複数の個別の液晶物質の混合物、および個別の液晶物質と他の非液晶物質との混合物であり、ここで、これらの混合物は、好ましくは液晶性である。」、「LCおよびLCMは、特に好ましくは、液体または低粘度状態において液晶性または等方性相で、好ましくは純粋な物質または純粋な物質の混合物として詰められ、貯蔵され、輸送され、および/または回収される。」との記載があり、少なくとも上記相違点1における本願補正発明の構成に係る化学式の液晶材料を用いることができない旨の記載はないから、引用文献1に接した当業者であれば、引用発明の容器に詰める液晶材料として、上記周知のものを試みることに、格別の困難性は認められない。

次に、上記相違点2について検討する。
引用文献1【0022】「本発明の方法において用いるための容器は、好ましくは、鋼鉄または1種もしくは2種以上の他の材料からなるか、あるいは鋼鉄または1種もしくは2種以上の他の材料からなる内側壁を有し、ここで、これらの他の材料は、鋼鉄と同等であるか、または鋼鉄よりも良好な表面特性を有する。」、【0023】「特に好ましいのは、1種または2種以上のこれらの好ましい材料からなる容器である。しかし、原則的に、内側壁が1種または2種以上のこれらの好ましい材料の被膜を有する他の材料製の容器、例えば二酸化ケイ素で被覆したプラスチック容器またはメタライズガラス容器もまた、好適である。」、【0024】「特に好ましいのは、耐腐食性材料またはステンレス鋼製の圧力容器である。好ましいのは、さらに、内側壁が、好適な方法により処理された、例えば電解研磨されたか、もしくは酸洗いされた内側壁または特定の被膜を設けられた内側壁を有する容器である。」との記載を総合すると、引用文献1には、容器を構成する素材に関して、容器全体が鋼鉄または鋼鉄と同等以上の耐腐食性材料である場合と、容器の内側壁に耐腐食性材料の被膜を設けた場合とが記載されている。したがって、容器全体を耐腐食性材料で構成することは、引用文献1に示唆されており、また、チタンは耐腐食性材料であると共にステンレス鋼と同様に高剛性であることが一般に知られている。
さらに、不純物の溶出が少ない容器全体の素材として、チタンを用いることは、例えば次の文献に記載されるように、本願優先日前から周知でもある。

特開平3-90525号公報(特許請求の範囲、1頁右下欄15?末行)
特開2004-131094号公報(【請求項1】、【0002】)
特開2004-131148号公報(【請求項1】、【0049】)
特開2004-99093号公報(【0021】)

そうすると、引用発明において、引用文献1の上記示唆や上記周知技術に基いて、容器全体を耐腐食性かつ高剛性材料であるチタンで構成するようにする程度のことは、当業者であれば容易になし得たことである。

エ 効果について
「LCMの品質、特にこれらの電気的および電気光学的特性、例えば比抵抗」を保証する引用発明において、所望の比抵抗値に調整されている上記周知の液晶材料を選択しても、比抵抗を保証し得る(すなわち高比抵抗値の液晶材料であれば高比抵抗値のまま保管し得る)ことは、当業者であれば予見し得たことである。
また、引用文献1に記載された、容器全体がステンレス鋼と同等以上の耐腐食性材料である場合や、容器全体の素材としてチタンを選択する上記周知技術において、被膜の剥がれによる悪影響がないことは自明である。
したがって、本願補正発明が奏する効果は、引用発明及び上記周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものであって、格別顕著なものとはいえない。

オ 請求人の主張に対する検討
(ア)請求人は、引用発明に対して、「文献1の発明は、従来のガラス容器では破損の問題と大容量化への限界から、容器を繰り返し使用することが実用上困難であったことに対応してなされた発明です。具体的には、鋼鉄又は同等の容器により、容器の安全性を向上させ、容器の内容量を大幅に増大させることで、ガラス容器では小容量で多数の数を使用することから洗浄による容器の再利用は煩雑でなされなかったものが、鋼鉄又は同等の素材により、大容量で輸送、貯蔵、運搬に使用し、更に容易にリサイクルして再使用することができるというものです。つまり、文献1に記載の発明は、破損しない等の容器機能としての品質確実性を改善するとともに大容量化により簡便にリサイクルできるというものです。上記の通り、文献1に記載の発明は、本願発明の課題である特定の液晶材料の品質性能を長期間変化させることを達成するための容器とは全く異なるものであり、また、使用すべき素材とその形態について具体的に技術的な示唆は与えておりません。」「加えて、本願発明の液晶材料の長期間の品質維持という課題とは文献1の発明の課題とは全く異なるものであるため、本願発明への動機付けも与えておりません。」と主張する(審判請求書3.(d))。しかし、引用文献1には「LCMの品質、特にこれらの電気的および電気光学的特性、例えば比抵抗が顕著に損なわれ得る」(【0004】)という課題に対して「LCおよびLCMの保存寿命および品質保証に対する有利な効果を有する」(【0010】)ことが記載されているから、引用発明と本願発明とは、液晶材料の品質性能を長期間変化させないという点で軌を一にするものである。また、使用すべき素材についても、引用文献1にはチタンが挙げられており、その形態として「容器全体がチタンを主成分とする素材である」ようにすることは上記ウに記載したとおり当業者が容易になし得たことである。

(イ)請求人は、本願補正発明について、「本願請求項1の発明は、高比抵抗値を有する液晶材料を長期間にわたり変化させることなく維持すると共に、大容量化に伴う容器の重量を低減し、また、使用後の洗浄等により再使用する場合においても、液晶材料の長期間の品質維持を達成するためのもので、容器全体がチタンを主成分とする素材とすることに特徴を有します。チタンやチタン合金は一般的に、高価であることや成型加工性に劣るため、文献1に記載されているように、別の素材の表面に被膜として形成させて使用されるものがあります。しかしながら、本願請求項1の発明は、高い信頼性を維持することが求められる液晶材料においては、被膜の剥がれにより露出した素地材料が与える悪影響や剥がれた被膜自体が微粒子として液晶材料に与える悪影響などの可能性も含めた液晶材料の信頼性低下を回避することができ、加えて、容器全体の重量の大幅な軽量化を図ることができるという効果が見いだされ、本発明に至ったものです。」と主張する(審判請求書3.(d))。しかし、本願の明細書には、そのような効果について何ら記載されていないし、本願補正発明にそのような効果を認めたとしても、上記第2の3(3)エのとおり、当業者が予測し得る範囲内のものであって、格別顕著なものとはいえない。

(ウ)また、請求人は、本願補正発明について、「更に、本願発明において貯蔵および運搬する液晶材料は、TFT駆動液晶表示素子の作製に用いられるもので、その構成する成分も特定のものであり、更にその比抵抗値も1.0×10^(13)Ω・cm以上という高い性能を示すという液晶材料としては極めて限られた材料領域群の液晶材料に対して、その品質を維持することができるという顕著な効果を奏するものです。」とも主張する(審判請求書3.(d))。しかし、本願補正発明の液晶材料は、上記第2の3(3)ウに記載したとおり本願優先日前から周知であり、極めて限られた材料というほど特異なものではなく、また、本願補正発明の効果も、上記第2の3(3)エのとおり、当業者が予測し得る範囲内のものであって、格別顕著なものとはいえない。

(エ)したがって、請求人の主張はいずれも採用できない。

(4)小括
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の1(1)に示したとおりの平成28年2月24日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。

2 原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1?5に係る発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1 特開2005-157361号公報

3 引用文献
原査定の拒絶理由に引用された引用文献1及びその記載事項並びに引用発明は、上記第2の3(2)に示したとおりのである。

4 対比・判断
本願発明は、本願補正発明から、容器について「比抵抗値1.0×10^(13)Ω・cm以上であり、一般式(III-A)?一般式(III-J)
【化1】

(式中、R^(5)及びR^(6)はそれぞれ独立して炭素数1?15のアルキル基を表し、該アルキル基中の1つ又は2つ以上の-CH_(2)-は、酸素原子が直接隣接しないように、-O-、-CH=CH-、-CO-、-OCO-、-COO-、-CF_(2)O-又は-OCF_(2)-で置換されてよく、該アルキル基中の1つ又は2つ以上の水素原子は任意にハロゲンで置換されていてもよい。)で表される化合物の群より選ばれる化合物を含有する液晶材料のための容器」との限定を省いて、「比抵抗値1.0×10^(13)Ω・cm以上であり、一般式(III-A)?一般式(III-J)
【化1】

(式中、R^(5)及びR^(6)はそれぞれ独立して炭素数1?15のアルキル基を表し、該アルキル基中の1つ又は2つ以上の-CH_(2)-は、酸素原子が直接隣接しないように、-O-、-CH=CH-、-CO-、-OCO-、-COO-、-CF_(2)O-又は-OCF_(2)-で置換されてよく、該アルキル基中の1つ又は2つ以上の水素原子は任意にハロゲンで置換されていてもよい。)で表される化合物の群より選ばれる化合物を含有する液晶材料との接触面」がある容器に広げ、また、容器の素材について「容器全体がチタンを主成分とする素材である」との限定を省いて「液晶材料との接触面がチタンを主成分とする素材である」ことに広げたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに限定された本願補正発明が、上記第2の3(3)に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様に、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-01-18 
結審通知日 2018-01-23 
審決日 2018-02-05 
出願番号 特願2015-549893(P2015-549893)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 種子島 貴裕  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 小野田 達志
久保 克彦
発明の名称 液晶の貯蔵又は運搬のための容器  
代理人 河野 通洋  

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