【重要】サービス終了について

  • ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G21F
管理番号 1338810
審判番号 不服2017-2469  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-02-21 
確定日 2018-03-23 
事件の表示 特願2012-225919「陽イオン吸着剤粒子およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月 1日出願公開、特開2014- 77720〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年10月11日の出願(特願2012-225919号)であって、平成28年5月24日付けで拒絶理由が通知され、同年7月26日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされ、同年11月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成29年2月21日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。
その後、当審において、同年8月25日付けで請求人から上申書が提出され、同年12月18日に面接審査が行われ、同年12月22日付けで請求人から上申書が提出されたものである。

第2 本願の請求項6に係る発明
本願の請求項6に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成29年2月21日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、上記の平成29年2月21日付けの手続補正により、請求項6に対しての補正はなされていない。

「下記式(A)
A_(p)Fe[Fe(CN)_(6)]_(y)・zH_(2)O・・・(A)
式中、
Aは陽イオンに由来する原子であり、pは0?2の数であり、yは0.6以上1.5以下の数であり、zは0.5以上10以下の数である、
で表されるプルシアンブルーのナノ粒子を担体内に担持、複合化してなる、陽イオン吸着剤粒子。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項6に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は又は外国において、頒布された、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった柿の引用文献1及び2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2001-164326号公報
引用文献2:特開2011-200856号公報

第4 引用文献の記載事項及び引用発明
1 引用文献1には、次の事項が記載されている。(下線は、当審で付したものである。)

a「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、資源回収及び廃水処理あるいは分析化学などの諸分野において種々の成分が共存する被処理溶液中から微量に溶存するセシウムを選択的かつ効率的に分離・回収するために使用されるバイオポリマー複合セシウム選択性イオン交換体及びその製造方法に関する。」
b「【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上記の複合化法はいずれも調製操作が繁雑、かつ生成複合体のイオン交換特性が再現性に欠けるという問題があり(Radiochimica Acta, 40, 49 (1986))、実用規模での利用は全くなされていない。このため、簡便かつ再現性に優れた当該無機イオン交換体の新しい賦形化法の開発が急務とされていた。
【0008】本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、特に、無機イオン交換体の新しい賦形化法、具体的には、各種溶液中からのセシウムの効率的な吸着・分離プロセスに応用可能な新規のバイオポリマー複合セシウム選択性イオン交換体及びその簡便かつ再現性に優れた製造法、の提供を目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記目的を達成するべく鋭意研究を重ねた結果、アルギン酸カルシウムゲル中にセシウム選択性の高い無機イオン交換体(但し、りんモリブデン酸アンモニウムを除く)を分散、担持したハンドリング性の良い複合イオン交換体を得、これを充填したカラムを用いて共存塩濃度の高い各種溶液中から微量セシウムの選択的吸着分離・回収が可能であることを見いだし、本発明を完成させた。
【0010】本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)アルギン酸カルシウムゲルを担体とし、これに無機イオン交換体(但し、りんモリブデン酸アンモニウムを除く)を担持して得られるセシウム選択性複合イオン交換体からなることを特徴とするセシウム分離・回収剤。
(2)無機イオン交換体が、タングストリン酸アンモニウム、ヘキサシアノ鉄(II)酸銅(II)カリウムから選択される1種である前記(1)記載のセシウム分離・回収剤。
(3)前記(1)記載の複合イオン交換体を製造する方法であって、無機イオン交換体の粉末を、アルギン酸ナトリウム溶液中に分散させて調製したスラリーをカルシウム塩溶液と接触させることによりアルギン酸カルシウムゲルの担体内に無機イオン交換体を分散、担持することを特徴とする製造方法。
(4)スラリーとカルシウム塩溶液との接触法として、前者を後者の溶液中に滴下して粒状の複合イオン交換体とすることを特徴とする前記(3)記載の製造方法。
(5)スラリーとカルシウム塩溶液との接触法として、前者を後者の溶液中に押出し成形して繊維状の複合イオン交換体とすることを特徴とする前記(3)記載の製造方法。
(6)スラリーを成膜化したのちカルシウム塩溶液と接触させて膜状の複合イオン交換体とすることを特徴とする前記(3)記載の製造方法。」
c「【0014】本発明のバイオポリマー複合セシウム選択性イオン交換体は、第1段階としてアルギン酸ナトリウムの溶液中に上記無機イオン交換体を添加、撹拌して両者のスラリーを得たのち、第2段階としてこのスラリーをカルシウム塩溶液と接触させてアルギン酸ナトリウム中の交換性のナトリウムイオンをカルシウムイオンでイオン交換してアルギン酸カルシウムゲルとし、その内部に当該無機イオン交換体を分散担持させて得られる有機-無機複合体である。
【0015】上記無機イオン交換体として、例えば、タングストリン酸アンモニウム(NH_(4 ))_(3) PO_(4) ・12(WO_(3) )・3H_(2) O、一般式K_(2-x) Cu_(x/2) 〔CuFe(CN)_(6) 〕・ nH_(2 )O(式中のnはモル数を表し、nはxの値により異なる)で表されるヘキサシアノ鉄(II)酸銅(II)カリウム、ハイドロタルサイト等の塩基性塩、リン酸ジルコニウム等の酸性塩、各種の水酸化物や含水酸化物が例示されるが、これらに限らず、他の適宜の無機イオン交換体(但し、りんモリブデン酸アンモニウムを除く)が使用される。また、カルシウム塩溶液として、硝酸カルシウムや塩化カルシウム溶液が挙げられるが、溶液中で解離してカルシウムイオンを放出する化合物であれば、有機化合物、無機化合物を問わずそれらの塩溶液が使用できる。」
d「【0018】 本発明のバイオポリマー複合セシウム選択性イオン交換体は、アルギン酸カルシウムゲル担体内に無機イオン交換体を担持、複合化してなる任意の形状をとり得る新規複合無機イオン交換体であり、出発原料となるアルギン酸ナトリウム及び無機イオン交換体は、市販品が容易に入手でき、かつ利用可能である。当該複合セシウム選択性イオン交換体の化学組成は、用いるアルギン酸ナトリウムの組成及び無機イオン交換体の複合化率により異なるため一般式では表せないが、複合化試料の粉末X線回折測定により、無機イオン交換体に帰属される主要回折ピークが明瞭に認められることからその生成が、また、同一試料の赤外吸収スペクトル、X線マイクロアナライザーによるライン分析及びエネルギー分散スペクトル測定により、無機イオン交換体が担体ゲル内に均一に分散担持されていることが、それぞれ容易に確認される。」
e「【0021】1.粒状バイオポリマー複合セシウム選択性イオン交換体試料の作製
本発明のバイオポリマー複合セシウム選択性イオン交換体試料は、次のようにして作製される。即ち、市販のアルギン酸ナトリウム粉末の適量を蒸留水に溶解し適度の粘性を有する水溶液を得る。次に、このアルギン酸ナトリウム水溶液に市販WP、合成CuFC粉末の適量を添加、撹拌して均一なスラリーとする。このスラリーをカルシウム塩溶液中に滴下してアルギン酸ナトリウム中のナトリウムイオンをカルシウムイオンでイオン交換して上記無機イオン交換体を分散、担持した粒状のアルギン酸カルシウムゲルを得る。ここで得た粒状のアルギン酸カルシウムゲルを乾燥して、本発明の粒状バイオポリマー複合セシウム選択性イオン交換体が作製される。以下に、2種類の粒状バイオポリマー複合セシウム選択性イオン交換体の作製例について述べる。
【0022】1.1 方法
(1)アルギン酸カルシウム-タングストリン酸アンモニウム複合体の調製
アルギン酸ナトリウム粉末(小宗化学製)10gと市販のタングストリン酸アンモニウム((NH_(4) )_(3) PO_(4) ・12(WO_(3) )・3H_(2) O;和光純薬製)10gを1Lの蒸留水に添加後、それらを良く混練し、均一なスラリーを得た。一方、400mLの蒸留水に市販の塩化カルシウム(和光純薬製)28gを添加、撹拌して溶解させたのち、さらに全液量が500mLとなるように蒸留水を加えて0.5M(M=mol/L、以下、Mと略記)の塩化カルシウム水溶液を得た。
【0023】この0.5M塩化カルシウム水溶液500mLを撹拌機にて定速撹拌(200rpm)しながら、これに上記のスラリーを毎分2mLの流速で定量ポンプにて滴下した。生成ゲルの安定化を図るためスラリーの全量を滴下後、さらに30分間撹拌した。 次に、生成した粒状ゲルを0.5M塩化カルシウム水溶液中より分離し、蒸留水で洗浄した。洗浄後の粒状ゲルを50℃のドライオーブン中で12時間乾燥して本発明の粒状バイオポリマー複合セシウム選択性イオン交換体-3(以下、GC-3と略記する)を得た。
【0024】(2)アルギン酸カルシウム-ヘキサシアノ鉄(II)酸銅(II)カリウム複合体の調製
先ず、400mLの蒸留水に市販のアルギン酸ナトリウム粉末(小宗化学製)5gを撹拌しながら少量づつ添加、溶解し、さらに全液量が500mLとなるように蒸留水を添加、撹拌してアルギン酸ナトリウムの1wt%水溶液を得た。次に、この1wt%のアルギン酸ナトリウム水溶液100mLに、既存の方法(Separation Science and Technology, 34 (1), 17-28 (1999) )に準じて調製したヘキサシアノ鉄(II)カリウム(K_(2-x )Cu_(x/2 )〔CuFe(CN)_(6 )〕・ nH_(2) O)2gを添加し、両者を良く混練し、均一なスラリーを得た。このスラリーを上記(1)と同様にして0.5M塩化カルシウム水溶液に滴下して得られた粒状ゲルを水洗、乾燥して本発明の粒状バイオポリマー複合セシウム選択性イオン交換体-4(以下、GC-4と略記する)を得た。」

2 引用文献1に記載された発明の認定
上記記載から、引用文献1には、
「第1段階としてアルギン酸ナトリウムの溶液中にセシウム選択性の高い無機イオン交換体を添加、撹拌して両者のスラリーを得たのち、第2段階としてこのスラリーをカルシウム塩溶液と接触させてアルギン酸ナトリウム中の交換性のナトリウムイオンをカルシウムイオンでイオン交換してアルギン酸カルシウムゲルとし、その内部に当該無機イオン交換体を分散担持させて得られる有機-無機複合体であるバイオポリマー複合セシウム選択性イオン交換体において、
前記のセシウム選択性の高い無機イオン交換体として、一般式K_(2-x) Cu_(x/2) 〔CuFe(CN)_(6) 〕・ nH_(2 )O(式中のnはモル数を表し、nはxの値により異なる)で表されるヘキサシアノ鉄(II)酸銅(II)カリウムが使用される
バイオポリマー複合セシウム選択性イオン交換体。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

3 引用文献2には、次の事項が記載されている。(下線は、当審で付したものである。)
a「【0001】
本発明は、プルシアンブルー型金属錯体のもつ陽イオン吸着性を利用した陽イオンの処理方法、これに用いられる複合材料、陽イオンの処理装置、及び陽イオン処理用分散液に関する。」
b「【0009】
以上の点に鑑み、
本発明の第一の目的は、陽イオン、特に所望のアルカリイオンを液体から吸着・除去し、その吸着した陽イオンを簡便に脱離させることができる陽イオンの処理方法、これに用いられる複合材料、陽イオンの処理装置の提供に関する。
本発明の第二の目的は、陽イオン、特に所望のアルカリイオンを液体から吸着・除去し、その吸着した陽イオンを有する材料を簡便に取り出すことができる陽イオンの処理方法及び陽イオン処理用分散液の提供に関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題は以下の手段により達成された。
(1)プルシアンブルー型金属錯体を導電体上に配設した複合材料に所定の陽イオンを含有する溶液を接触させて前記所定の陽イオンを前記プルシアンブルー型金属錯体に吸着させ、その後、前記溶液の外で前記複合材料の陽イオンを脱離させるに当たり、前記陽イオンの吸着の際及び/又は脱離の際に、前記複合材料に印加する電位を制御することを特徴とする陽イオンの処理方法。
(2)前記所定の陽イオンの吸着を、該イオンを含有する溶液に前記複合材料を浸漬することにより行うことを特徴とする(1)に記載の陽イオンの処理方法。
(3)前記所定の陽イオンの脱離を、該イオンを吸着した複合材料を回収液に浸漬して、その浸漬している間に該複合材料の電位を制御して行うことを特徴とする(1)又は(2)に記載の陽イオンの処理方法。
(4)前記プルシアンブルー型金属錯体として、下記金属原子M_(A)及び下記金属M_(B)の間をシアノ基CNが架橋してなるプルシアンブルー型金属錯体の結晶を用いることを特徴とする(1)?(3)のいずれか1項に記載の陽イオンの処理方法。
[金属原子M_(A)は、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。金属原子M_(B)は、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。]
(5)(a)前記金属原子M_(A)が銅(Cu)、前記金属原子M_(B)が鉄(Fe)である、(b)前記金属原子M_(A)が鉄(Fe)、前記金属原子M_(B)が鉄(Fe)である、あるいは(c)前記金属原子M_(A)がニッケル(Fe)、前記金属原子M_(B)が鉄(Fe)であることを特徴とした(1)?(4)のいずれか1項に記載の陽イオンの処理方法。
---以下、省略---
【0011】
本発明において「プルシアンブルー型金属錯体」とは下記金属原子M_(A)及び金属原子M_(B)の間をシアノ基CNが架橋してなる金属錯体と定義し、これをプルシアンブルー錯体類似体(PBA)ということがある。なお、プルシアンブルーと異なる結晶構造をとっていても、下記式(A)で表されるようにプルシアンブルーと同様の組成式で表され類似の結晶構造をもつ錯体を上記プルシアンブルー型金属錯体に含むものとする。
A_(x)M_(A)[M_(B)(CN)_(6)]_(y)・zH_(2)O ・・・ (A)
Aは陽イオンに由来する原子である。xは0?2の数である。yは1?0.3の数である。zは0?20の数である。M_(A),M_(B)は金属原子である。
また、本発明において「陽イオンの処理」とは、具体的には、陽イオンの吸着及び/又は脱離、回収及び/又は交換を意味する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の処理方法、これに用いられる複合材料、陽イオンの処理装置によれば、陽イオン、特に所望のアルカリイオンを液体から吸着・除去し、その吸着した陽イオンを簡便に脱離させることができる。
また、陽イオンの処理方法及び陽イオン処理用分散液によれば、陽イオン、特に所望のアルカリイオンを液体から吸着・除去し、その吸着した陽イオンを有する材料を簡便に取り出すことができる。
また、本発明を利用すると、必要により、一つの装置について、電気化学処理の印加電位を制御するなどにより、複数の機能を持たせることも可能となる。」
c「【0023】
また、本実施態様の複合材料においては、プルシアンブルー型金属錯体の水溶液中で安定であることが望ましい。水に分散する特性を持つナノ粒子を利用し、薄膜を設置する場合には、水中での安定性を向上させる方法を製膜後に行ってもよい。
製膜した後に水中安定化する方法は特に限定されないが、例えば、プルシアンブルー型金属錯体からなるナノ粒子を基材に配設して構造体をなすに当たり、下記a?dのいずれかの工程により安定化された構造体とすることが挙げられる。
(a:前記基材の前記ナノ粒子を配設する面が仕事関数4.5eV以上の原子MSで構成されたものとする工程。)
(b:前記ナノ粒子に電気化学的処理を施す工程。)
(c:前記ナノ粒子を金属もしくは金属錯体のイオンを含む剤で処理する工程。)
(d:前記ナノ粒子を加熱する工程。)
以下に、上記各手段(a)?(d)のそれぞれについて詳述する。なお、これらの手段については、さらに国際出願第PCT/JP2007/075265号明細書を参照することができる。このとき利用することができるプルシアンブルー型金属錯体超微粒子分散液の濃度は、特に限定されないが、製膜における塗布性を考慮して0.1?20質量%であることが好ましく、1?15質量%であることがより好ましい。」
d「【0038】
以下に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。
【0039】
<調製例1>
(水分散性のプルシアンブルーナノ粒子の調製)
フェロシアン化ナトリウム・10水和物14.5gを水60mLに溶解した水溶液に硝酸鉄・9水和物16.2gを水に溶解した水溶液30mLを混合し、5分間攪拌した。析出した青色のプルシアンブルー(PB)沈殿物を遠心分離し、これを水で3回、続いてメタノールで1回洗浄し、減圧下で乾燥(粉末1’)した。このときの収量は11.0gであり、収率はFe_(4)[Fe(CN)_(6)]_(3)・15H_(2)Oとして97.4%であった。
作製したプルシアンブルー錯体(沈殿物)を粉末X線回折装置で解析した結果を図5に示す。これは標準試料データベースから検索されるプルシアンブルー(Fe_(4)[Fe(CN)_(6)]_(3))のもの(図示せず)と一致した。また、FT-IR測定においても、2080cm^(-1)付近にFe-CN伸縮振動に起因するピークが現れており(図示せず)、この固形物がプルシアンブルーであることを示した。透過型電子顕微鏡で測定したところ、図6に示したように、このプルシアンブルーは10?20nmのナノ粒子の凝集体であった。
【0040】
上記プルシアンブルー(凝集体)0.40gを水8mLに懸濁させた。この懸濁液に、フェロシアン化ナトリウム・10水和物を180または80mgを加え、攪拌したところ青色透明分散液へと変化した。このようにして水分散性のプルシアンブルーのナノ粒子を得た(分散液1)。その青色透明分散液に安定に分散しているプルシアンブルーのナノ粒子の粒径を動的光散乱法によって測定した。図7に示したように、数平均粒度分布の結果より、プルシアンブルーのナノ粒子は水中に概ね21±6nmの範囲で分布していることが分かった。
【0041】
この青色透明分散液を乾燥させ、乾固させることにより、青色粉末状の水分散性プルシアンブルー型金属錯体ナノ粒子(粉末1)を得た。」

4 引用文献2に記載された技術事項
引用文献2には次の2つの技術事項が記載されていることが読み取れる
(1)上記「3」のa,bから、引用文献2には、
「下記式(A)の金属原子M_(A)及び下記金属M_(B)の間をシアノ基CNが架橋してなるプルシアンブルー型金属錯体が陽イオン吸着性を有すること。
なお、式(A):A_(x)M_(A)[M_(B)(CN)_(6)]_(y)・zH_(2)O
であり、ここで、Aは陽イオンに由来する原子であり、xは0?2の数であり、yは1?0.3の数であり、zは0?20の数であり、M_(A),M_(B)は金属原子であり、
また、金属原子M_(A)は、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子であり、金属原子M_(B)は、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子であり、
特に、(a)前記金属原子M_(A)が銅(Cu)、前記金属原子M_(B)が鉄(Fe)である、又は、(b)前記金属原子M_(A)が鉄(Fe)、前記金属原子M_(B)が鉄(Fe)であるものが挙げられる。」
(以下「引用文献2記載の技術事項1」という。)が記載されているといえる。
(2)上記「3」のc、dから、【0039】?【0041】の調製により「水分散性のプルシアンブルーのナノ粒子を得ることができること」、そして、「当該『水に分散する特性を持つナノ粒子』を利用して、水溶液中での安定性を向上させることができること。」
(以下「引用文献2記載の技術事項2」という。)が記載されているといえる。

第5 本願発明と引用発明の対比、及び、当審の判断
1 対比
(1)ここで、本願発明と引用発明を対比する。
引用発明の「一般式K_(2-x) Cu_(x/2) 〔CuFe(CN)_(6) 〕・ nH_(2 )O(式中のnはモル数を表し、nはxの値により異なる)で表されるヘキサシアノ鉄(II)酸銅(II)カリウムが使用される」「セシウム選択性の高い無機イオン交換体」と、
本願発明の「A_(p)Fe[Fe(CN)_(6)]_(y)・zH_(2)O・・・(A)式中、Aは陽イオンに由来する原子であり、pは0?2の数であり、yは0.6以上1.5以下の数であり、zは0.5以上10以下の数である、で表されるプルシアンブルー」とは、
「一種または二種以上の金属原子M_(A)及び一種または二種以上の金属原子M_(B)の間をシアノ基(CN)が架橋してなる金属錯体からなる無機イオン交換体」である点で一致する。

引用発明の「アルギン酸カルシウムゲル」の「内部に」「セシウム選択性の高い」「無機イオン交換体を分散担持させて得られる有機-無機複合体であるバイオポリマー複合セシウム選択性イオン交換体」と、本願発明の「無機イオン交換体のナノ粒子を担体内に担持、複合化してなる、陽イオン吸着剤粒子」とは、「無機イオン交換体の粒子を担体内に担持、複合化してなる、陽イオン吸着剤粒子」である点で一致する。

(2)本願発明と引用発明の一致点
したがって、本願発明と引用発明とは、
「一種または二種以上の金属原子M_(A)及び一種または二種以上の金属原子M_(B)の間をシアノ基(CN)が架橋してなる金属錯体からなる無機イオン交換体の粒子を担体内に担持、複合化してなる、陽イオン吸着剤粒子。」
の発明である点で一致し、次の各点で相違する。

(3)本願発明と引用発明の相違点
ア 相違点1:
「一種または二種以上の金属原子M_(A)及び一種または二種以上の金属原子M_(B)の間をシアノ基(CN)が架橋してなる金属錯体からなる無機イオン交換体」が、本願発明においては、
「下記式(A)
A_(p)Fe[Fe(CN)_(6)]_(y)・zH_(2)O・・・(A)
式中、
Aは陽イオンに由来する原子であり、pは0?2の数であり、yは0.6以上1.5以下の数であり、zは0.5以上10以下の数である、
で表されるプルシアンブルー」(以下、単に「プルシアンブルー」という。)
であるのに対して、引用発明においては、
「一般式K_(2-x) Cu_(x/2) 〔CuFe(CN)_(6) 〕・ nH_(2 )O(式中のnはモル数を表し、nはxの値により異なる)で表されるヘキサシアノ鉄(II)酸銅(II)カリウム」
である点。

イ 相違点2:
粒子が、本願発明では「ナノ粒子」であるのに対して、引用発明ではそのような特定がない点。

2 当審の判断
(1)相違点の検討
ア 相違点1について
上記「第4」「4」(1)に記載の「引用文献2記載の技術事項1」から、「プルシアンブルー」(引用文献2に記載の技術事項1において、(b)の金属原子M_(A)が鉄(Fe)、金属原子M_(B)が鉄(Fe)であるもの)を含む「プルシアンブルー型金属錯体」は、陽イオン吸着性を有する。
そして、「引用文献2記載の技術事項1」から、引用発明における「無機イオン交換体」である「一般式K_(2-x) Cu_(x/2) 〔CuFe(CN)_(6) 〕・ nH_(2 )O(式中のnはモル数を表し、nはxの値により異なる)で表されるヘキサシアノ鉄(II)酸銅(II)カリウム」は、「プルシアンブルー型金属錯体」であるといえるところ、「プルシアンブルー型金属錯体」において具体的にどのような組成のものを選ぶか、すなわち、「引用文献2に記載の技術事項1」における金属原子M_(A)及び金属原子M_(B)として具体的にどのような金属原子を選択するかは、当業者が必要に応じて適宜設定し得る事項である。
その際に、上記の「引用文献2に記載の技術事項1」を参酌し、金属原子M_(A)が鉄(Fe)、金属原子M_(B)が鉄(Fe)であるもの、すなわち、「プルシアンブルー」を選択して、上記相違点1に係る本願発明の構成を得ることは当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について
引用発明は「アルギン酸カルシウムゲル」の「内部に当該無機イオン交換体を分散担持させて得られる有機-無機複合体」であり、引用文献1のd(【0018】)の記載からも、「無機イオン交換体」が担体ゲル内に「均一に分散担持」されていることが要請されるものと認められる。
引用文献2に接した当業者であれば、上記「ア」において、「プルシアンブルー」を選択した際に、上記「第4」「4」(2)に記載の「引用文献2記載の技術事項2」を参酌し、上記の要請に応じて、「無機イオン交換体」である「プルシアンブルー」を「水分散性のプルシアンブルーの『ナノ粒子』」とし、上記相違点2に係る本願発明の構成を得ることを容易に想到し得るものと認める。

(2)本願発明が奏する作用効果について
そして、本願発明によってもたらされる効果は、引用発明、並びに、引用文献2記載の技術事項1及び2から当業者が予測し得る程度のものである。

(3)まとめ
したがって、本願発明は、引用発明、並びに、引用文献2記載の技術事項1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、並びに、引用文献2記載の技術事項1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 結言
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-12-28 
結審通知日 2018-01-09 
審決日 2018-01-29 
出願番号 特願2012-225919(P2012-225919)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G21F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 孝平関根 裕  
特許庁審判長 小松 徹三
特許庁審判官 野村 伸雄
森林 克郎
発明の名称 陽イオン吸着剤粒子およびその製造方法  
復代理人 大栗 由美  
代理人 葛和 清司  
復代理人 大栗 由美  
代理人 葛和 清司  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ