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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E21D
管理番号 1338832
審判番号 無効2016-800122  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-05-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-10-21 
確定日 2018-03-26 
事件の表示 上記当事者間の特許第5063863号発明「気泡シールド工法で発生する建設排泥の処理方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5063863号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、平成17年3月23日に特許出願され、平成24年8月17日に特許権の設定登録がなされたものであり、これに対して、請求人テクニカ合同株式会社から平成28年10月21日付けで請求項1?3に係る発明の特許について無効審判の請求がなされたものである。
そして、無効審判請求以後の手続の経緯は以下のとおりである。

(1)平成28年10月21日 審判請求書の提出
(2)平成29年 1月 6日 審判事件答弁書の提出(被請求人)
(3)平成29年 2月10日 口頭審理陳述要領書の提出(請求人)
(4)平成29年 2月13日 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人)
(5)平成29年 2月17日 口頭審理の実施

第2 本件発明
本件特許の請求項1?3に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明2」、「本件発明3」という。)は、特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
気泡シールド工法で発生する建設排泥に、カチオン性高分子凝集剤を添加することなく、アニオン性高分子凝集剤を添加混合し、造粒した後、無機系固化材を添加混合して固化することを特徴とする気泡シールド工法で発生する建設排泥の処理方法。
【請求項2】
請求項1において、無機系固化材がカルシウムまたはマグネシウムの酸化物を含む粉末である気泡シールド工法で発生する建設排泥の処理方法。
【請求項3】
請求項1において、無機系固化材が石膏を含む粉末である気泡シールド工法で発生する建設排泥の処理方法。」

第3 当事者の主張の概要
1 請求人の主張の概要
請求人は、本件発明1?3についての特許を無効とする、審判費用は被請求人が負担するとの審決を求め、無効とすべき理由を次のように主張するとともに、証拠方法として甲第1号証?甲第12号証を提出している。
なお、甲第7号証?甲第12号証は、口頭審理陳述要領書の提出時に、周知技術として追加したものである。

(無効理由)
本件発明1は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証?甲第3号証に記載された発明及び周知技術(甲第7号証?甲第12号証)に基づいて、また、本件発明2?3は、甲第1号証?甲第3号証に記載された発明及び周知技術(甲第4号証?甲第12号証)に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(証拠方法)
甲第1号証 特公平7-53280号公報
甲第2号証 特開平6-193382号公報
甲第3号証 特開2002-336671号公報
甲第4号証 特開2003-117532号公報
甲第5号証 特開2002-282894号公報
甲第6号証 特開2004-181302号公報
甲第7号証 池田弘,「高分子凝集剤について その種類と使い方」,実務表面技術,一般社団法人表面技術協会,1973年12月,Vol.20,No.12,p.588-594(写し)
甲第8号証 野田道宏,「高分子凝集剤の種類と作用機構」,高分子,公益社団法人高分子学会,1968年5月,Vol.17,No.5,p.404-412(写し)
甲第9号証 特開2004-8850号公報
甲第10号証 高分子凝集剤環境協会編,「高分子凝集剤の安全性について(アニオン・ノニオン編)」,2003年4月,p.12-20
甲第11号証 高分子凝集剤環境協会編,「高分子凝集剤の安全性について(カチオン編)」,2003年4月,p.13-22
甲第12号証 シールド工法技術協会編,「気泡シールド工法 技術資料」,平成23年8月(写し)

なお、甲第1号証?甲第11号証は、本件特許出願前に公知の刊行物であるが、甲第12号証は、本件特許出願後に公知になったものである。

2 被請求人の主張の概要
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、請求人が主張する無効理由に根拠がない旨主張するとともに、証拠方法として、口頭審理陳述要領書の提出時に乙第1号証?乙第4号証を提出している。

(証拠方法)
乙第1号証 「気泡シールド工法用耐塩型特殊消泡剤」と題するホームページ(http://www.tac-co.com/company/technical_information/a013001/)の打ち出し(写し)
乙第2号証 「シールド掘削技術 気泡シールド工法」と題するホームページ(https://www.obayashi.co.jp/service_and_technology/related/tech_d050)の打ち出し(写し)
乙第3号証 平成19年(行ケ)第10095号判決(写し)
乙第4号証 平成28年(ネ)第10039号判決(写し)

第4 甲各号証に記載された事項
1 甲第1号証
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(特公平7-53280号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下、同様。)。

(1-ア)
「(産業上の利用分野)
本発明は土木工事において気泡を注入しながら掘削する気泡シールド工法や気泡試錐工法より発生する気泡混入掘削ずりの処理法に関する。」(第1欄第11?14行)

(1-イ)
「(発明の課題)
本発明は、短時間で気泡混入掘削ずりを固化し、運搬を容易にし埋土として使用可能な改質土を得る事ができる。簡便な処理方法を提供する事を目的とする。
また、本発明は気泡混入掘削ずりを改質固化するにあたり、都市部の狭い敷地からなる施工現場においても、保管、供給、混合等が容易な薬品及び薬注法を提供する事を目的とする。
(課題を解決する為の手段)
本発明は気泡混入掘削ずりに、カチオン当量値が2meq/g以上であるカチオン性有機高分子凝集剤を添加混練する事により構成される。」(第3欄第9?20行)

(1-ウ)
「本発明に用いるカチオン性有機高分子凝集剤は、電荷の中和を主たる作用機作とする為、そのカチオン当量値の高い事が望まれ、少なくとも2meq/g以上のカチオ当量値を有するものが良好な効果を発揮する。カチオン当量値の測定方法は通常PH4.0におけるコロイド滴定により求められる。本発明の実施においては、カチオン性有機高分子凝集剤の架橋吸着作用も効果に寄与するため、カチオン当量値が同等であれば、高分子量の凝集剤の法が少ない添加量で効果を発揮する。気泡混入掘削ずりとカチオン製有機高分子凝集剤の混練法は特に限定されるものではなく、連続ミキサー、強制撹拌ミキサー等の混練機を使用する他、パワーショベル、バックホウ、スクリューコンベア等の土木機械を用いて混練する事もできる。特にシールド機のスクリューコンベア部に注入する工法は、既設の装置を利用する為、新規の処理用敷地等を必要とせず都市部における実施は容易となる。」(第3欄第33?48行)

(1-エ)
「・・・また、本発明におけるカチオン性有機高分子凝集剤の使用法は単独添加に限定されるものではなく、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム等の無機凝集剤との併用添加あるいはカチオン性有機高分子凝集剤添加混練後に高級水性樹脂、アニオン系有機高分子凝集剤あるいは石灰やセメント等の無機系固化剤を添加混練する事もできる。」(第4欄第10?16行)

(1-オ)
「(作用)
本発明は、カチオン性有機高分子凝集剤を気泡混入掘削ずりに添加混練する事により、粘度粒子等の負電荷を中和し、凝集させ流動性を除去する事を基本とする。
気泡周囲の泥膜が(電荷の中和により親水性を失い、凝集する事によって)破れると、気泡は混練によって容易に集合し、ずりから放出される。気泡を失い、凝集した改質土は流動性が無く、運搬や埋土が容易となる。
この様な作用は泥中にCMC等のアニオン性増粘剤が存在する場合でも有効であり、カチオン性有機高分子凝集剤はこれらアニオン性高分子とイオコンプレックスをつくり、水不溶性とする事により、増粘作用を消失させる。
この様な効果は従来の消泡剤には全く期待する事のできないものであり、本発明の優位性を立証するものである。」(第4欄第17?31行)

上記(1-ア)?(1-オ)の記載事項を総合すると、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「気泡シールド工法より発生する気泡混入掘削ずりに、カチオン性有機高分子凝集剤を添加混練し、カチオン性有機高分子凝集剤添加混練後に石灰やセメント等の無機系固化剤を添加混練する、気泡シールド工法より発生する気泡混入掘削ずりの処理法。」

2 甲第2号証
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第2号証(特開平6-193382号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(2-ア)
「【0007】
【発明が解決しようとする課題】この発明の目的は、上記の課題を解決することであり、透水係数が10^(0) ?10^(-3)cm/secの高透水性地層であっても、該土砂を凝集させて泥土とし、該泥土を容易に取り扱えるようにすることができる凝集剤を泥土圧シールド機のチャンバ内などへ注入し、カッタで掘削したチャンバ内の掘削土砂と混練して搬出に良好な流動性を確保し、スクリューコンベヤでベルトコンベヤへスムースに移送でき、更に泥土をベルトコンベヤ上に多量に載置でき、それによって泥土の坑外への搬出が効率良く且つ大量に搬出でき、しかも、この凝集剤が植物の生育阻害物質や有害物質を含んでおらず、且つ生成された泥土が通気性、保水性を有することにより、残土処理性を良好にし、例えば、園芸用土壌等に利用できることを特徴とする泥土圧シールド工法を提供することである。」

(2-イ)
「【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記問題に鑑み鋭意研究した結果、ある種のアクリル系有機高分子凝集剤分散液を使用することにより上記課題を解決することができることを見いだし本発明を成すに到った。本発明の請求項1の発明は、地層を掘削するにあたり切羽を前面に設けた隔壁の後方に形成したチャンバーまたは掘削土排出装置内にアクリル系有機高分子凝集剤分散液を注入し、生成した掘削土を前記チャンバー外へ排出移送することを特徴とする泥土圧シールド工法である。本発明の請求項2の発明は、分子量が100万以上であり、かつアニオン化率5?50モル%のアクリルアミド系有機高分子凝集剤分散液を使用することを特徴とする請求項1に記載の泥土圧シールド工法である。本発明の請求項3の発明は、JIS A1218(土の透水試験方法)による透水係数が10^(0)?10^(-3)cm/secの地層を掘削することを特徴とする請求項1に記載の泥土圧シールド工法である。」

(2-ウ)
「【0009】
【作用】掘削する地層中に含まれる粘土が微量であり、その地層の透水係数が約10^(0)?10^(-3)cm/secであると、掘削土の流動性が高くスクリュウコンベアから噴出する。アクリル系有機高分子凝集剤分散液(以下、凝集剤と略す)を添加剤として上記地層から掘削した含水土砂に混合することによって、該土砂は適度な流動性を有する凝集状態の泥土に生成される。即ち、上記凝集剤は該土砂との凝集物である泥土を形成し、該泥土が適度な流動性、止水性、残土処理性を有するようになる。上記凝集作用は、セルロース誘導体の如き分散剤では期待できないものであり、アクリル系有機高分子凝集剤に特有の性質である。また、凝集剤は安定であるので該土砂との混練場所へ圧送する注入配管等で閉塞等は発生することがない。この発明による泥土圧シールド工法は、アクリル系有機高分子凝集剤を泥土圧シールド機のチャンバ(スクリューコンベヤ等のハウジングを含む)内に注入したので、該掘削土砂は適度な流動性を有する凝集状態の泥土に生成される。それ故に、この泥土圧シールド機のカッタによって掘削された切羽面の掘削土砂に対する安定保持が得られると共に、掘削土砂が凝集状態の泥土を形成するので、スクリューコンベヤによるスムースな排出が行われ、残土の取り扱いが容易となる。」

上記(2-ア)?(2-ウ)の記載事項を総合すると、甲第2号証には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

「アニオン化率5?50モル%のアクリル系有機高分子凝集剤分散液を添加剤として、泥土圧シールド機のスクリューコンベヤのハウジング内に注入し、地層から掘削した含水土砂に混合することによって、該土砂を適度な流動性を有する凝集状態の泥土に生成する、泥土圧シールド工法。」

3 甲第3号証
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第3号証(特開2002-336671号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(3-ア)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、推進工事、シールド工事、基礎工事、浚渫工事のような建設工事等で発生する泥土を固化材と混合して固化する泥土固化処理装置に関する。」
・・・・・
【0006】本発明は、こうした従来の技術の問題点を解消してようとするものであって、その技術課題は、泥土を大量に造粒処理するのに適した泥土固化処理装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、こうした技術課題を達成するため、多数の独立した撹拌羽根を回転軸に対して傾斜させて固着した撹拌機を、泥土を凝集材と共に撹拌羽根で巻き込んで剪断破砕しながら凝集材と撹拌混合し得るように複数個並設して多軸撹拌機を構成し、この多軸撹拌機の後端側及び前端側にそれぞれ泥土供給口及び泥土排出口を設け、泥土供給口の前方から泥土排出口の後方へ向けて、吸水材を多軸撹拌機内に供給するための吸水材供給手段と、凝集材を多軸撹拌機内に供給するための少なくとも一つの凝集材供給手段とを順次設けて、泥土供給口から供給された泥土を多軸撹拌機により粒状化するように処理して泥土排出口へ排出できるように泥土造粒処理装置を構成した。」

(3-イ)
「【0024】ここで、多軸撹拌機70に供給する凝集材について言及する。凝集材は、泥土中の土粒子を集合させることを容易に行えるようにするのに役立つ薬剤である。この凝集材は、無機系凝集材と有機高分子凝集材とに大別することができる。このうち無機系凝集材の代表的なものとしては、硫酸第二鉄、塩化第二鉄、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、ポリ塩化第二鉄(PFC)、ポリ塩化アルミニウム(PAC)等の鉄又はアルミニウム化合物を挙げることができる。この無機系凝集材は、主として、凝集助剤や凝結助剤として有機高分子凝集材と併用する。
・・・・・
【0027】一般に、土粒子は、その外側を包囲する固定層と、更に外側を包囲して水素イオン濃度の高い拡散層(対イオン部)とからなる電気二重層をもつ。こうした電気二重層をもつた二つの土粒子が接近して双方の拡散層同士が重なると、重なり合った拡散層のイオン濃度が上昇し、これに起因して、土粒子が互いに反発し合って土粒子の集合を阻害する。そのため、多数の各土粒子は、分散して泥土状をなす。端的にいえば、泥土は、多数の微細土粒子とその土粒子間の自由水からなるが、一般に土粒子の表面は、マイナス帯電しているため、各土粒子は、互いに反発し合って安定した分散状態を保ち、その結果、固まらずにドロドロした泥土の状態を保っている。したがって、泥土中の土粒子の集合を容易に行えるようにするには、その集合の阻害要因となっている電気二重層の総電荷の抑制や電気二重層の圧縮(電気二重層を薄くすること)を行えばよく、こうした電気二重層の総電荷の抑制や圧縮によって泥土を凝集させることができる。
【0028】このうち電気二重層の総電荷の抑制を行うには、その総電荷の量をできるだけ減らすように電荷を中和するのが有効であるが、こうした働きをする凝集材は、アニオン性、カチオン性の合成高分子凝集材や無機系凝集材の中から選択することができる。また、電気二重層の圧縮に役立つ凝集材は、無機系凝集材の中から選択することができる。さらに、凝集機構には、以上の凝集機構とは原理の異なる架橋凝縮がある。この架橋凝縮は、高分子の官能基による土粒子への吸着架橋(イオン結合、水素結合)により土粒子を集合させるものであり、電気二重層の総電荷の抑制や圧縮による凝集を遥かに凌ぐ凝集力を発揮する。この架橋凝縮を行わせるための凝集材は、ノニオン性、アニオン性、カチオン性の凝集材の中から適当なものを選択する。
【0029】以上述べた凝集材は、主たる凝集材、補助の凝集材の何れに使用するかの凝集材の使用目的、更には、泥土が有機質か無機質かの泥土の種類、泥土が粘度、シルト、コロイド等の何れに該当するかの泥土の土粒子径、泥土の含水比等の泥土の性状に応じて適宜選択して使用する。例えば、通常の泥土は、アニオン性又はノニオン性の凝集材で凝集することが可能であるが、建設工事で発生する泥土の中には、工事中にベントナイトが添加されたものもあり、こうした泥土は、アニオン性又はノニオン性の凝集材だけでは、凝集させることができないので、主たる凝集材Bとしてアニオン性又はノニオン性のものを使用するほか、補助の凝集材Cとしてカチオン性のものを添加することにより、泥土を凝集させる。また、高分子凝集材の性能は、PHへの依存性が大きいので、泥土が酸性の場合はカチオン性やノニオン性のものを、アルカリ性の場合はアニオン性やノニオン性のものを、中性の場合はノニオン性ものを使用することも考える。」

上記(3-ア)?(3-イ)の記載事項を総合すると、上記(3-イ)の段落【0024】の「凝集材は、・・・薬剤である」との記載から、「凝集材」は「凝集剤」ということができるから、甲第3号証には次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。

「シールド工事で発生する泥土を、アニオン性、カチオン性の合成高分子凝集剤や無機系凝集剤の中から選択することができる凝集剤と撹拌混合し、粒状化するように処理する泥土造粒処理装置。」

4 甲第4号証
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第4号証(特開2003-117532号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(4-ア)
「【請求項1】 酸化マグネシウムを含んで成ることを特徴とする重金属溶出抑制固化材。」

(4-イ)
「【0012】なお、本発明の重金属溶出抑制固化材の処理対象は、重金属を含む廃液、重金属で汚染された土壌、ゴミ焼却灰や下水汚泥焼却灰のように重金属を含んだ各種の有害廃棄物等、不溶化処理を必要とする重金属で汚染された様々な対象物に使用することができ、さらには鉛や亜鉛等に代表される両性金属に汚染された対象物にも使用することが可能である。また、本発明の重金属溶出抑制固化材の使用にあたっては、処理対象物に粉体もしくは加水したスラリー状態で混合し該当重金属を不溶化処理し、併せて固化処理を行うものである。」

5 甲第5号証
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第5号証(特開2002-282894号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(5-ア)
「【請求項1】 水溶性高分子凝集剤及び無機系凝結材を必須の成分として含む泥土処理材Aと、石膏系凝結材、酸性中和剤、石膏系凝結材と酸性中和剤との混合物、石膏系凝結材と無水石膏との混合物、石膏系凝結材と無水石膏と酸性中和剤との混合物及び無水石膏と酸性中和剤との混合物の群から選ばれる1種を必須の成分として含む泥土処理材Bとを組み合わせてなることを特徴とする泥土固化材。」

(5-イ)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えばトンネル工事、掘削工事、造成工事、建築工事等の現場で発生する建設泥土、湖沼、河川、港湾等の浚渫泥土などに代表される泥土の固化材及びその固化方法に関する。」

6 甲第6号証
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第6号証(特開2004-181302号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(6-ア)
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、含水汚泥を短時間で減容、固化処理でき、かつ処理土の強度を保つことができる含水汚泥安定処理用固化助剤、含水汚泥安定処理用固化材、及び含水汚泥安定処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、ボーリング工事、構造物基礎工事や地下トンネル掘削工事等の土木工事で発生する排土や、水中泥状堆積物(ヘドロ)等の含水汚泥を除去するため、トラック等で廃棄場所まで搬出する方法が用いられているが、これらの含水汚泥は流動性が高いことから、搬送に制約があり困難であった。これらの含水汚泥はを標準仕様ダンプトラック等で搬送するためには、一般的に、処理土のコーン指数が200kN/m^(2)以上であることが要求されている。なお、コーン指数とは、粘性土の変形・強度特性を求めるために利用される指数である。」

(6-イ)
「【0024】
本発明に用いられる水硬性物質としては、従来の含水汚泥安定処理用固化材の水硬性物質として使用されているものであれば特に限定されず、セメント、消石灰、生石灰、石膏等が挙げられ、処理後の含水汚泥のpH値を中性に保つことが必要な場合、半水石膏を用いることがより好ましい。」

7 甲第7号証
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第7号証(高分子凝集剤について その種類と使い方)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

「“凝結”の方はコロイド粒子以下の粒子が,その粒子結合阻害因子を取り除くことにより,粒子相互のファンデルワールス引力による結合を促進させるものである.これに対して“凝集”の方は,細粒懸濁液以上の粒子についていわれる.
先ほども述べたように,粒子が大きくなるとファンデルワールス力はあまり結合力としての意味がなくなってしまい,結合阻害因子を取り除いても結合する能力はない.そこで,ここに粒子相互を接着剤で結合するという考えが生まれる.すなわち粒子相互にファンデルワールス力しか働かず,その結合力が弱いのであるから,粒子との結合エネルギーの高いイオン結合や共有結合,水素結合を生ずる接着剤(凝集剤)をその間に入れてやればよい.これを架橋結合という.
(1)凝集剤
架橋結合の場合,結合阻害因子は取り除いても取り除かなくて凝集性にはそう大差はない(ファンデルワールス結合にくらべてそのほかの結合力がはるかに大きいのだから).したがって負に帯電した粒子を負の凝集剤でも凝集させることができる.
一般に,凝集剤というとアニオン性(負)またはノニオン性(中性)のものが多いが,最近カチオン性(正)のものも作られてきており,これによると粒子との間にファンデルワールス力や水素結合のほかにイオン結合も加わり一層有効である.・・・」(第590頁左欄第29行?右欄第28行)

8 甲第8号証
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第8号証(高分子凝集剤の種類と作用機構)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

第408頁の第5表には、粒度と凝結剤・凝集剤の特性として、
懸濁物粒度が「粗粒」の場合、高分子・低度重合体・反対イオンでは「△」(部分的凝結または凝結しても沈降促進効力は小さい)、高分子・低度重合体・非イオン(同イオン)では「△」、高分子・高度重合体・反対イオンでは「○」(有効)、高分子・高度重合体・非イオン(同イオン)では「○」、
懸濁物粒度が「細粒」の場合、高分子・低度重合体・反対イオンでは「○」、高分子・低度重合体・非イオン(同イオン)では「○」、高分子・高度重合体・反対イオンでは「○」、高分子・高度重合体・非イオン(同イオン)では「○」、
懸濁物粒度が「コロイド」の場合、高分子・低度重合体・反対イオンでは「○」、高分子・低度重合体・非イオン(同イオン)では「×」(無効)、高分子・高度重合体・反対イオンでは「○」、高分子・高度重合体・非イオン(同イオン)では「×△」、
であることが示されている。

9 甲第9号証
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第9号証(特開2004-8850号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

「【0022】
前記カチオン性凝集剤を用いると、前記の静電引力の作用などにより、纏った凝集フロックが形成されやすいため、固液分離の取り扱いが容易となる。しかし、このカチオン性の高分子凝集剤は、アニオン性やノニオン性の高分子凝集剤に比べて、使用量が多い場合などにやや毒性の高い傾向を示すものが多いため、一般には、アニオン性高分子凝集剤が使用される場合が多い。」

10 甲第10号証
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第10号証(高分子凝集剤の安全性について(アニオン・ノニオン編))には、以下の事項が記載されている。

「通常の高分子凝集剤使用量や使用条件では吸着率や水域への拡散を考えると、現実的には水産生物に数ppmの高濃度で長時間接する可能性はまずないであろうと思われる。上記の結果から高分子凝集剤は、ノニオン性およびアニオン性とも極めて毒性は弱いといえる。」(第14頁第5?7行)

11 甲第11号証
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第11号証(高分子凝集剤の安全性について(カチオン編))には、図面とともに以下の事項が記載されている。

「ノニオン及びアニオン性高分子凝集剤の魚毒性は弱いが、カチオン性のものは淡水で比較的強い魚毒性を示すとの報告が種々なされている。」(第16頁第7?8行)

12 甲第12号証
本件特許出願後に頒布された刊行物である甲第12号証(気泡シールド工法 技術資料)には、以下の事項が記載されている。

目次の前の頁には、「気泡シールド工法の位置付け」を示すツリー図において、土圧式シールド工法に土圧シールド工法及び泥土圧シールド工法が含まれ、泥土圧シールド工法に泥土加圧シールド工法、気泡シールド工法及びケミカルプラグシールド工法が含まれることが図示されている。

第5 無効理由の判断
1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「掘削ずり」、「添加混練」は、それぞれ本件発明1の「建設排泥」、「添加混合」に相当する。
また、甲1発明の「カチオン性有機高分子凝集剤」と、本件発明1の「アニオン性高分子凝集剤」とは、「高分子凝集剤」である点で共通するから、甲1発明の「カチオン性有機高分子凝集剤添加混練後」と、本件発明1の「カチオン性高分子凝集剤を添加することなく、アニオン性高分子凝集剤を添加混合し、造粒した後」とは、「高分子凝集剤を添加混合した後」である点で共通する。
そして、甲1発明において、気泡混入掘削ずりに石灰やセメント等の無機系固化剤を添加混練すれば、気泡混入掘削ずりが固化することは明らかである。

してみると、本件発明1と甲1発明とは、

(一致点)
「気泡シールド工法で発生する建設排泥に、高分子凝集剤を添加混合した後、無機系固化材を添加混合して固化する気泡シールド工法で発生する建設排泥の処理方法。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
本件発明1では、建設排泥に添加混合する高分子凝集剤として、カチオン性高分子凝集剤を用いずに、アニオン性高分子凝集剤を用い、高分子凝集剤を添加混合した建設排泥を造粒するのに対して、甲1発明では、建設排泥に添加混合する高分子凝集剤として、カチオン性高分子凝集剤を用い、高分子凝集剤を添加混合した建設排泥を造粒するか否か明らかでない点。

なお、請求人の主張する相違点は、建設排泥に添加混合する高分子凝集剤に関する相違点(a)と、造粒に関する相違点(b)とを分けるものとなっており、審理事項通知書における当審の暫定的見解としても、両相違点を分けるものとしていたが、本件特許明細書の段落【0021】には、「本発明の場合、アニオン性高分子凝集剤を使用することで、混合時に粒状となり、同時に造粒される。」と記載され、建設排泥に添加混合する高分子凝集剤として、アニオン性高分子凝集剤を用いれば、混合時に造粒されることが示されているから、請求人の主張する相違点(a)と相違点(b)を一つにまとめて、上記のとおりの相違点とした。
また、「無機系固化材を添加混合して固化する」タイミングについて、請求人は一致点とも相違点ともしていないが、上記のとおり、当該タイミングが「高分子凝集剤を添加混合した後」である点を一致点と判断した。

(2)相違点についての判断
(2-1)請求人の主張
本件発明1と甲1発明との相違点に関して、請求人は以下の主張をしている。

ア 請求人は、審判請求書において、請求人の主張する相違点(a)に関して、「甲第2号証に記載された発明は、泥土圧シールド工法に関する技術であるが、気泡シールド工法は、泥土圧シールド工法の範疇に入るものであること(当審注:口頭審理陳述要領書の提出時に周知例として甲第12号証を提出)、高分子凝集剤の好ましい添加箇所が、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明において、シールド機のスクリューコンベア部で共通していること・・・、そして、甲第3号証にも記載されているように、電荷を中和する働きをする凝集剤として、ノニオン性、アニオン性、カチオン性のどの高分子凝集剤を選択するかは、当業者が当然に行うべき設計上の事項であって、土粒子粘土やベントナイトを使用しない気泡シールド工法において、アニオン性高分子凝集剤を用いること(カチオン性高分子凝集剤を併用しないこと)は、技術常識にも合致していることから、甲第1号証に記載された高分子凝集剤に代えて、甲第2号証に記載されたアニオン性高分子凝集剤を、カチオン性高分子凝集剤を併用しないで用いることには、何らの阻害要因もなく、当業者が容易になし得ることと認められる。」(第15頁第6?22行)と主張している。

イ そして、請求人は、審判請求書において、請求人の主張する相違点(b)に関して、「高分子凝集剤を添加混合した建設排泥の処理に関し、甲第3号証には、造粒を行うことが記載されており、甲第1号証に記載された発明において、混練によって造粒を行うことは、当業者が容易になし得ることと認められる。」(第15頁第23?26行)と主張している。

ウ また、請求人は、口頭審理陳述要領書において、
「前項(1)の上記高分子凝集剤の凝集機構の知見(粒子が大きい場合は、高分子凝集剤の凝集機構としての架橋結合は、結合阻害因子(イオン基の電気的相互作用)の有無によっては凝集性に大きな影響を受けず、負に帯電した粒子を負の凝集剤であるアニオン性高分子凝集剤を用いて凝集させることができること)(当審注:周知例として甲第7号証?甲第8号証を提出)からすれば、アニオン性高分子凝集剤を用いた場合も、高分子凝集剤の凝集機構としての架橋結合によって、結合阻害因子(イオン基の電気的相互作用)によっては大きな影響を受けず、カチオン性高分子凝集剤と同等の凝集作用を発揮することができることは明白である。したがって、甲第1号証に記載の発明に甲第2号証に記載のアニオン性有機高分子凝集剤を適用することを阻害する事情があるとはいえない・・・」(第4頁第10?19行)、
「・・・例えば、生態毒性が問題となるような場合には、前項(2)の上記高分子凝集剤の生態毒性の知見(カチオン性高分子凝集剤は、生態毒性が高いこと)(当審注:周知例として甲第9号証?甲第11号証を提出)からすれば、甲第1号証に記載の発明に甲第2号証に記載のアニオン性有機高分子凝集剤を適用することの動機付けが存在するものといえる。」(第6頁第5?9行)、
と主張している。

(2-2)被請求人の主張
本件発明1と甲1発明との相違点に関して、被請求人は以下の主張をしている。

ア 被請求人は、審判事件答弁書において、
「・・・甲第1号証にとって、カチオン性高分子凝集剤は必須の成分であり、カチオン性高分子凝集剤を除外すると、甲第1号証における発明の課題を解決することができないため、当該カチオン性高分子凝集剤をアニオン性高分子凝集剤に代えることには、阻害要因がある。
また、甲第1号証では気泡シールド工法により掘削土に気泡を添加しているのに対して、甲第2号証及び甲第3号証では気泡シールド工法が適用されておらず掘削土に気泡を添加していないため、甲第1号証と甲第2号証及び甲第3号証とでは、技術分野及び課題が異なる。甲第1?3号証には、甲第1号証に甲第2?3号証を適用することの示唆がない。よって、甲第1?3号証には、甲第1号証に甲第2?3号証を適用することの動機付けがない。
さらに、本件発明1は、甲第1号証?甲第3号証には無い優れた効果を奏する。
よって、本件発明1は、甲第1号証?甲第3号証の記載に基づいて当業者が容易に発明することができたものではなく、本件発明1は進歩性を有する。」(第12頁第22行?第13頁第9行)、
と主張している。

イ また、被請求人は、口頭審理陳述要領書において、
「気泡混入掘削ずりにおいては、消泡が非常に重要であり、先ずは消泡の観点から薬剤(消泡剤)を選択する必要がある。しかし、泥土中には気泡が存在しないため、泥土の凝集の技術は、消泡に関しては参考にならない点に留意が必要である。」(第7頁第6?9行)、
「甲第1号証に記載の気泡混入掘削ずりの処理方法において、カチオン性有機高分子凝集剤(プラスイオン性高分子凝集剤)を用いることなくアニオン性高分子凝集剤(マイナスイオン性高分子凝集剤)を用いると、負電荷を中和させることにより流動性を除去するという甲第1号証の発明の目的に反するものとなる。よって、甲第1号証に記載の発明において、カチオン性高分子凝集剤をアニオン性高分子凝集剤に変更することには阻害要因が存在する。」(第9頁第7?12行)、
と主張している。

(2-3)当審の判断
以上の請求人及び被請求人の主張を踏まえて、上記相違点について以下に検討する。

ア 阻害要因の有無について
(ア)請求人は、電荷を中和する働きをする凝集剤として、ノニオン性、アニオン性、カチオン性のどの高分子凝集剤を選択するかは、当業者が当然に行うべき設計上の事項であることなどから、甲第1号証に記載された高分子凝集剤に代えて、甲第2号証に記載されたアニオン性高分子凝集剤を、カチオン性高分子凝集剤を併用しないで用いることには、何らの阻害要因もない旨を主張している(上記(2-1)アを参照。)。
そして、請求人の主張に関連する記載として、甲第3号証の段落【0028】には、「電気二重層の総電荷の抑制を行うには、その総電荷の量をできるだけ減らすように電荷を中和するのが有効であるが、こうした働きをする凝集材は、アニオン性、カチオン性の合成高分子凝集材や無機系凝集材の中から選択することができる。」と記載されている。
これに対して、被請求人は、甲1発明において、カチオン性高分子凝集剤をアニオン性高分子凝集剤に変更することには、負電荷を中和させることにより流動性を除去するという甲1発明の目的に反するものとなるから、阻害要因が存在する旨を主張している(上記(2-2)イを参照。)。
そこで、この点について検討すると、甲第1号証には、「本発明は、カチオン性有機高分子凝集剤を気泡混入掘削ずりに添加混練する事により、粘土粒子等の負電荷を中和し、凝集させ流動性を除去する事を基本とする。気泡周囲の泥膜が(電荷の中和により親水性を失い、凝集する事によって)破れると、気泡は混練によって容易に集合し、ずりから放出される。気泡を失い、凝集した改質土は流動性が無く、運搬や埋土が容易となる。」(第4欄第18?24行)と記載されている。
上記の甲第1号証の記載によれば、甲1発明は、カチオン性、すなわち、陽イオン性の有機高分子凝集剤を気泡混入掘削ずりに添加混練することにより、粘土粒子等の負電荷を中和するものであり、高分子凝集剤の陽イオンにより、粘土粒子等の負電荷を中和するものであるといえる。
そうすると、甲1発明において、アニオン性、すなわち、陰イオン性の高分子凝集剤を建設排泥(気泡混入掘削ずり)に添加混合した場合には、高分子凝集剤の陰イオンと粘土粒子等の負電荷は、いずれも負の電荷を有するから、電荷が中和されないことは明らかである。
したがって、甲1発明において、粘土粒子等の負電荷を中和する働きをする凝集剤はカチオン性の高分子凝集剤のみであり、他の種類の高分子凝集剤では当該電荷を中和することはできないから、甲第3号証の記載による示唆があったとしても、甲1発明が負電荷の中和を前提としている以上、アニオン性の高分子凝集剤を用いることは阻害要因となり得る。

(イ)また、請求人は、アニオン性高分子凝集剤を用いた場合も、高分子凝集剤の凝集機構としての架橋結合によって、カチオン性高分子凝集剤と同等の凝集作用を発揮することができることは明白であり、甲1発明に甲第2号証に記載のアニオン性有機高分子凝集剤を適用することを阻害する事情があるとはいえないことを主張している(上記(2-1)ウを参照。)。
請求人の上記主張について検討すると、確かに甲第3号証には、「この架橋凝縮を行わせるための凝集材は、ノニオン性、アニオン性、カチオン性の凝集材の中から適当なものを選択する。」(段落【0029】)と、甲第7号証には、「架橋結合の場合,・・・負に帯電した粒子を負の凝集剤でも凝集させることができる.」(第590頁右欄第17?22行)と記載され、甲第8号証の第5表には、懸濁物粒度が粗粒と細粒の場合には、高分子凝集剤が非イオン(同イオン)であっても、有効な場合があることが示されている。
しかしながら、甲第1号証に、「本発明は、カチオン性有機高分子凝集剤を気泡混入掘削ずりに添加混練する事により、粘土粒子等の負電荷を中和し、凝集させ流動性を除去する事を基本とする。気泡周囲の泥膜が(電荷の中和により親水性を失い、凝集する事によって)破れると、気泡は混練によって容易に集合し、ずりから放出される。」(第4欄第18?23行)と記載されているように、甲1発明は、粘土粒子等の負電荷の中和の作用を前提とするものである。そして、気泡シールド工法で発生する建設排泥に対して、電荷の中和とは異なる凝集機構である架橋結合の作用のみにより凝集を行った場合にも、消泡や造粒等について同等又はそれ以上の作用効果が得られるか否かは、いずれの甲号証をみても明らかでない。
また、甲第1号証には、「本発明に用いるカチオン性有機高分子凝集剤は、電荷の中和を主たる作用機作とする・・・本発明の実施においては、カチオン性有機高分子凝集剤の架橋吸着作用も効果に寄与するため、カチオン当量値が同等であれば、高分子量の凝集剤の法が少ない添加量で効果を発揮する。」(第3欄第33?41行)と記載され、架橋吸着作用についても言及されているが、あくまでも主たる作用は電荷の中和であって、架橋吸着作用は副次的なものである。
そうすると、甲1発明は、粘土粒子等の負電荷の中和の作用を前提とするものであるから、甲1発明に甲2発明又は甲3発明のアニオン性高分子凝集剤を適用することには阻害要因がないと断定することはできない。

イ 動機付けについて
(ア)請求人は、甲1発明に甲2発明のアニオン性高分子凝集剤を適用する動機付けとして、甲1発明の気泡シールド工法は、甲2発明の泥土圧シールド工法の範疇に入るものであること、及び、両発明の高分子凝集剤の好ましい添加箇所がシールド機のスクリューコンベア部で共通していることなどを主張している(上記(2-1)アを参照。)。
これに対して、被請求人は、気泡が存在しない泥土の凝集の技術は、消泡に関しては参考にならない旨を主張しており(上記(2-2)イを参照。)、技術分野の共通性に関する動機付けの判断について、両当事者間に争いがある。
そこで、この点について検討すると、甲1発明は、処理対象となる建設排泥が、気泡シールド工法で生じる気泡混入掘削ずりであることを前提とするものであり、気泡を混入させることにより流動性を生じさせるのに対して、甲2発明では、処理対象となる建設排泥が、泥土圧シールド工法で生じる、気泡を含まない泥土であって、泥土に含まれる水分により流動性が生じるものであり、気泡の有無や含水率等の相違により、その性状や流動性を生じさせる原因が異なっている。
そして、甲1発明の建設排泥の処理方法(気泡混入掘削ずりの処理法)は、建設排泥(掘削ずり)の流動性を除去するための処理方法であり、当該処理方法の検討にあたり、シールド工法の種類や高分子凝集剤の好ましい添加箇所よりも、処理対象となる建設排泥自体の性状や流動性を生じさせる原因の検討が、より重要となることは明らかである。
また、処理対象を気泡シールド工法で発生する建設排泥としなければ、消泡により建設排泥の流動性を消失させるという課題も生じないから、甲2発明は甲1発明の消泡に関する課題も有していない。
そうすると、甲1発明と甲2発明とは、気泡シールド工法を含む上位概念としての泥土圧シールド工法により発生する建設排泥をその処理対象とするものであり、高分子凝集剤の好ましい添加箇所としてシールド機のスクリューコンベア部が例示されている点で共通しているものの、処理対象となる建設排泥の性状や流動性を生じさせる原因などの前提が異なっており、それによりその課題も異なるものといえる。
したがって、上位概念化した技術分野の共通性等を動機付けとして、甲1発明の気泡シールド工法で発生する(気泡を含む)建設排泥の処理方法において、建設排泥に添加混合する高分子凝集剤として、甲2発明におけるアニオン性高分子凝集剤(アニオン化率5?50モル%のアクリル系有機高分子凝集剤分散液)を、カチオン性高分子凝集剤を併用しないで用いて造粒することは、当業者の通常の創作能力を超えるものであるといえる。
さらに、甲3発明も、甲2発明と同様に、気泡を含まない泥土をその処理対象とするものであるから、同様の理由により、上位概念化した技術分野の共通性等を動機付けとして、甲1発明の気泡シールド工法で発生する建設排泥の処理方法において、建設排泥に添加混合する高分子凝集剤として、甲3発明におけるアニオン性高分子凝集剤(アニオン性の合成高分子凝集剤)を、カチオン性高分子凝集剤を併用しないで用いて造粒することは、当業者の通常の創作能力を超えるものであるといえる。

(イ)また、請求人は、生態毒性が問題となるような場合には、カチオン性高分子凝集剤は生態毒性が高いとの知見からすれば、甲1発明に甲第2号証に記載のアニオン性有機高分子凝集剤を適用することの動機付けが存在することを主張している(上記(2-1)ウを参照。)。
しかしながら、気泡シールド工法で発生する建設排泥に対して、アニオン性高分子凝集剤を添加混合した場合に、消泡や造粒等についてカチオン性高分子凝集剤に比べて同等又はそれ以上の作用効果が得られるか否かは、いずれの甲号証をみても明らかでないから、アニオン性高分子凝集剤がカチオン性高分子凝集剤と置換可能な同等物といえるかは明らかでない。
したがって、カチオン性高分子凝集剤の生態毒性に関する動機付けを理由としても、甲1発明に甲2発明又は甲3発明のアニオン性高分子凝集剤を適用することは、当業者が容易に想到できたことということはできない。

ウ 作用効果の予測可能性について
(ア)被請求人は、本件発明1は甲第1号証?甲第3号証には無い優れた効果を奏する旨を主張しているから(上記(2-2)アを参照。)、まず本件発明1の作用効果について検討する。
本件特許明細書には、本件発明1の作用効果に関連して、以下の記載がある。

「【0008】
・・・特公平7-53280号公報には、特定のカチオン当量を有するカチオン性高分子凝集剤を気泡シールド工法から発生する排泥に混錬し、流動性を消失させる処理法が提案されている。・・・
・・・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来法においては、排泥の流動性は消失するものの、通常の土状態に戻るだけなので、固化処理を行っても、固化物が塊状となり、それを運搬するには、更に砕く工程を要する等の新たな課題が発生するうえ、得られた固化物を、例えば、都市等の舗装材料等の建設・土木資材として使用すると、排泥の処理に用いられた残留カチオン性高分子凝集剤が雨水等によって地下水等に溶出し、環境汚染を引き起こす可能性があった。」
「【発明の効果】
【0014】
本発明の気泡シールド工法で発生する建設排泥の処理方法によれば、建設排泥を施工性の優れた十分な強度を有する粒状固化物とすることができ、運搬性が格段に向上するうえ、かくして得られた該固化物を建設・土木資材として、都市等における舗装材料や埋立材料等に使用しても、環境を汚染する心配はなく、有効活用することが可能となる。」
「【0021】
本発明の場合、アニオン性高分子凝集剤を使用することで、混合時に粒状となり、同時に造粒される。」

これらの記載から、本件発明1は、固化物を建設・土木資材として、都市等における舗装材料や埋立材料等に使用しても、環境を汚染する心配がないという効果の他に、気泡シールド工法で発生する建設排泥にカチオン性高分子凝集剤を混練すると、固化処理を行っても、固化物が塊状となり、それを運搬するには更に砕く工程を要するのに対して、気泡シールド工法で発生する建設排泥に対してアニオン性高分子凝集剤を用いることにより、混合時に造粒されて、運搬性が格段に向上するという効果(以下、「本件効果」という。)を奏するものであるといえる。

(イ)これに対して、甲1発明は、気泡シールド工法で発生する建設排泥(掘削ずり)にカチオン性高分子凝集剤を混練するものであり、「気泡を失い、凝集した改質土は流動性が無く、運搬や埋土が容易となる」(甲第1号証の第4欄第23?24行)としても、これは流動性があるものに比べて運搬等が容易となることを意味していると考えられるから、本件発明1のように造粒されるものではないし、その後固化処理を行っても固化物が塊状となってしまうものであるといえる。そして、甲第1号証には他に本件効果を示唆する記載もないから、本件効果は、甲1発明によっては奏されないものである。
また、甲第2号証にも本件効果を示唆する記載は一切なく、甲第3号証には、気泡を含まない泥土の造粒のために、ノニオン性、アニオン性、カチオン性の高分子凝集剤を用いることは記載されているけれども、気泡シールド工法で発生する建設排泥に対して、カチオン性高分子凝集剤を添加することなく、アニオン性高分子凝集剤を添加混合することにより、混合時に造粒されるという効果を示唆する記載はなされていない。
さらに、周知例として示された甲第7号証?甲第12号証のいずれにも、本件効果を示唆する記載はない。
そうすると、本件効果は、気泡シールド工法で発生する建設排泥に、カチオン性高分子凝集剤を添加することなく、アニオン性高分子凝集剤を添加混合することにより初めて奏される作用効果であって、甲第1号証?甲第3号証の記載及び周知技術から予測することが困難な顕著なものであるといえる。

(ウ)なお、請求人は審判請求書において、「本件第1発明によって、甲第1号証-甲第3号証に記載された発明を総合したものによって奏される効果以上のものを奏するものとは認められない。」(第16頁第2?3行)と主張しており、甲1発明に甲2発明又は甲3発明のアニオン性高分子凝集剤を適用することにより本件効果が得られる旨の主張をしていると考えられるが、前述のとおり、本件効果は甲1発明に甲2発明又は甲3発明のアニオン性高分子凝集剤を適用することにより初めて得られる作用効果であって、当該適用前に予測することは当業者にとって困難であるといえる。

(エ)したがって、本件発明1は予測困難な顕著な作用効果を奏するものであるから、甲1発明において、気泡シールド工法で発生する建設排泥に添加混合する高分子凝集剤として、甲2発明又は甲3発明におけるアニオン性高分子凝集剤を、カチオン性高分子凝集剤を併用しないで用いて造粒することは、本件出願前に当業者が容易に想到することができたものではない。

エ 相違点についての判断の結論
甲1発明において、気泡シールド工法で発生する建設排泥に添加混合する高分子凝集剤として、甲2発明又は甲3発明におけるアニオン性高分子凝集剤を、カチオン性高分子凝集剤を併用しないで用いて造粒することは、上記ウで検討したとおり、これにより甲第1号証?甲第3号証の記載及び周知技術からは予測困難な顕著な作用効果を生じさせるものであり、また、上記ア?イで検討したとおり、阻害要因の有無や動機付けの観点からも、当業者が容易に想到できたこととはいえない。
また、いずれの甲号証にも、気泡を含む建設排泥の凝集剤として、アニオン性高分子凝集剤を用いることは記載されておらず、甲1発明において、気泡シールド工法で発生する建設排泥に添加混合する高分子凝集剤として、アニオン性高分子凝集剤を、カチオン性高分子凝集剤を併用しないで用いて造粒することを示唆する記載もない。
したがって、上記相違点に係る本件発明1の構成は、上記甲各号証から当業者が容易に想到できたこととはいえない。

(3)まとめ
以上のとおり、本件発明1は、甲第1号証?甲第3号証に記載された発明及び周知技術(甲第7号証?甲第12号証)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 本件発明2、3について
本件発明2、3は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する発明である。
そして、審判請求書において本件発明2、3に対して引用された甲第4号証?甲第6号証は、無機系固化剤としてマグネシウムの酸化物又は石膏を用いることが周知技術であることを示すための周知例であって、本件発明1の進歩性の判断に影響するものでないことは明らかである。
したがって、本件発明2、3は、本件発明1について示した理由と同様の理由により、甲第1号証?甲第3号証に記載された発明及び周知技術(甲第4号証?甲第12号証)に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。

第6 むすび
以上のとおり、本件発明1?3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえないから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件発明1?3に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-03-02 
結審通知日 2017-03-06 
審決日 2017-03-22 
出願番号 特願2005-83412(P2005-83412)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (E21D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 住田 秀弘  
特許庁審判長 本郷 徹
特許庁審判官 石原 徹弥
小島 寛史
登録日 2012-08-17 
登録番号 特許第5063863号(P5063863)
発明の名称 気泡シールド工法で発生する建設排泥の処理方法  
代理人 菅 尋史  
代理人 大谷 保  
代理人 高久 浩一郎  
代理人 片岡 誠  
代理人 有永 俊  
代理人 宮内 知之  
代理人 井上 勉  

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