• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A01N
管理番号 1338910
審判番号 不服2017-2652  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-02-23 
確定日 2018-03-29 
事件の表示 特願2013- 5348「害虫駆除用エアゾール製品」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 7月28日出願公開、特開2014-136686〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成25年1月16日の出願であって、平成28年5月23日付けで拒絶理由が通知され、同年7月28日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月18日付けで拒絶理由が通知され、同年10月24日に意見書が提出され、同年12月2日付けで拒絶査定がされ、平成29年2月23日に拒絶査定不服審判が請求され、同年9月22日付けで当審から拒絶理由が通知され、同年11月27日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。
なお、平成28年2月25日に刊行物等提出書が提出されている。

第2 特許請求の範囲の記載
この出願の特許請求の範囲の記載は、平成29年11月27日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「害虫に付着して気化熱によって害虫を冷却して行動停止させる害虫行動阻害剤を収容したエアゾール缶と、該エアゾール缶の上部に固定されたヘッドキャップとを備えた害虫駆除用エアゾール製品において、
上記ヘッドキャップは、上記エアゾール缶から流出した上記害虫行動阻害剤が流通する流路と、該流路の下流端が連通する噴射口とを有し、
上記害虫行動阻害剤は、HFO-1234ze、ジメチルエーテル及び液化石油ガスのいずれか1つを含んでおり、
上記害虫行動阻害剤を上記エアゾール製品から噴射したとき、上記噴射口から直線距離で50cm離れた箇所で、該エアゾール製品からの噴射中心から1cm離れた部位における害虫行動阻害剤粒子の平均粒子径が700μm以上となるように、上記流路の内径及び長さが設定されていることを特徴とする害虫駆除用エアゾール製品。」

なお、本願発明は、平成28年7月28日付け手続補正により補正された請求項1に係る発明のうち害虫駆除用エアゾール製品について、「害虫行動阻害剤を収容したエアゾール缶と、該エアゾール缶の上部に固定されたヘッドキャップとを備えた害虫駆除用エアゾール製品」であって、「上記ヘッドキャップは、上記エアゾール缶から流出した上記害虫行動阻害剤が流通する流路と、該流路の下流端が連通する噴射口とを有」すると限定し、また、害虫行動阻害剤を、「HFO-1234ze、ジメチルエーテル及び液化石油ガスのいずれか1つを含」むと限定した発明である。
さらに、上記害虫行動阻害剤を上記エアゾール製品から噴射したとき、「該エアゾール製品の噴射口から直線距離で50cm離れた箇所で、平均粒子径700μm以上の害虫行動阻害剤粒子が、直径2cmの円で囲まれた範囲よりも広い範囲に分散する」という記載を、「上記噴射口から直線距離で50cm離れた箇所で、該エアゾール製品からの噴射中心から1cm離れた部位における害虫行動阻害剤粒子の平均粒子径が700μm以上となるように、上記流路の内径及び長さが設定されている」という記載に補正した発明である。

第3 当審が通知した拒絶理由の概要
平成29年9月22日付けで当審が通知した拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)は、以下の理由2を含むものである。

理由2:この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないので、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。
そして、概略下記の点を指摘した。

本願発明の課題は、エアゾールの噴射口と害虫との離間距離が長くなっても、害虫行動阻害剤を液体の状態で害虫に多く付着させて害虫の行動を停止させるエアゾール製品を提供することであると認められるところ、本願発明1(平成28年7月28日付け手続補正により補正された請求項1に係る発明。以下同じ。)の「上記害虫行動阻害剤を上記エアゾール製品から噴射したとき、該エアゾール製品の噴射口から直線距離で50cm離れた箇所で、平均粒子径700μm以上の害虫行動阻害剤粒子が、直径2cmの円で囲まれた範囲よりも広い範囲に分散する」という特性に特定されたエアゾール製品を満足する具体例として、【0047】?【0049】に記載されたストレートのノズル構造か、2段階のノズル構造を用い、そして、害虫構造阻害剤として、HFO-1234ze、ジメチルエーテル又は液化石油ガスを用いたエアゾール製品の場合だけが、上記した特性による特定を満足し、本願発明1の課題を解決できたことが記載されているだけである。
そして、ノズルの構造により、噴射剤の平均粒子径が異なり、冷却の程度が異なることは技術常識であり、また、使用する具体的な害虫行動阻害剤により蒸気圧や沸点が異なり、これらの値により冷却性能が大きく異なってくることは明らかであることからすると、本願の発明の詳細な説明に具体的に記載されたエアゾール製品以外について、発明の課題が解決できることが当業者に認識できるように記載されているとはいえず、また、本願出願時の技術常識に基づき発明の詳細な説明に記載や示唆がなくても当業者が認識できる範囲のものでもない。

また、発明の詳細な説明の段落【0045】の表1中の比較例は、噴霧中心から1cm離れた部位(すなわち、直径2cmの円で囲まれた範囲)における平均粒子径(D50)が1354.55μmであり、本願発明1の特定を満足する具体例であるといえるが、比較例の効力の測定結果を示した表3中の比較例の結果をみると、実施例1?15の結果と比較して、噴霧後のゴキブリの行動レベルのうち、レベル0の数値が高く、レベル2及びレベル3の数値が低く、本願発明1の課題が解決できていないことが明示されている。
よって、本願発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではないことは明らかである。

第4 当審の判断
当審は、当審が通知した拒絶理由のとおり、この出願は、特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないので、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないと判断する。
理由は以下のとおりである。

1 特許法第36条第6項第1号の考え方について
特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (参考:知財高判平17.11.11(平成17(行ケ)10042)大合議判決)
以下、この観点に立って検討する。

2 特許請求の範囲の記載
上記「第2」に記載したとおりである。

3 発明の詳細な説明の記載
本願の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。
(a)「【0003】
これに対し、例えば特許文献1に開示されているように、代替フロンを有効成分とした噴射作用兼冷却作用を持つ害虫行動阻害剤を内部に収容する害虫駆除用エアゾールが知られている。このエアゾールでは、噴射した害虫行動阻害剤を害虫に付着させて害虫を冷却して麻痺させたり、殺すことが可能になる。特許文献1のエアゾールでは、代替フロンが有効成分であることから、食品や食器、乳幼児に対して悪影響を与え難く安全である。」

(b)「【0005】
ところで、特許文献1の害虫駆除用エアゾールは、害虫行動阻害剤を害虫に付着させ、害虫行動阻害剤の気化熱を利用して害虫を冷却することにより効力を得るようにしているので、害虫行動阻害剤を液体の状態で、しかも、できるだけ多く害虫に付着させる必要がある。これができなければ、殺虫液を含有した一般のエアゾールに対する優位性がなくなってしまう。
【0006】
ところが、一般的に害虫は素早く動き回るものが多い。従って、使用者がエアゾールを持って狙いを定めてエアゾールのボタンを操作し、害虫行動阻害剤を噴射したとしても、ボタンを操作するまでに時間的な遅れが発生して害虫が噴射中心から離れてしまう。また、使用者は害虫を発見した際にあわてていることが多く、エアゾールを持って正確に狙いを定めること自体が困難な場合が多い。このような場合、害虫行動阻害剤の害虫への付着量が少なくなるので、十分な効力が得られなくなる。
【0007】
また、例えばゴキブリ等の場合、使用者によっては近づくことができずに、ある程度離れたところから害虫行動阻害剤を噴射することがある。この場合、エアゾールの噴射口と害虫との離間距離が長くなるので、噴射された害虫行動阻害剤が害虫に到達するまでに雰囲気中での蒸発量が多くなり、液体の状態で害虫に付着する量が減少する。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、害虫行動阻害剤の気化熱により害虫を冷却して駆除する場合に、害虫行動阻害剤を液体の状態で害虫に多く付着させることができるようにして効力を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明では、噴射された害虫行動阻害剤の粒子径を大きくし、かつ、広範囲に分散させることができるようにした。
【0010】
第1の発明は、害虫に付着して気化熱によって害虫を冷却して行動停止させる害虫行動阻害剤を収容した害虫駆除用エアゾール製品において、
上記害虫行動阻害剤を上記エアゾール製品から噴射したとき、該エアゾール製品の噴射口から直線距離で50cm離れた箇所で、平均粒子径700μm以上の害虫行動阻害剤粒子が、直径2cmの円で囲まれた範囲よりも広い範囲に分散することを特徴とするものである。
【0011】
この構成によれば、エアゾール製品の噴射口から噴射された害虫行動阻害剤粒子が、噴射口から50cm離れた箇所で、700μm以上の平均粒子径を持っているので、害虫にそれほど接近しなくても、粒子径の大きな害虫行動阻害剤粒子を液体の状態で害虫に付着させて害虫行動阻害剤粒子が完全に蒸発するまでに害虫から奪う熱量を大幅に増加させることが可能になる。
【0012】
そして、そのように大きな粒子径を持つ害虫行動阻害剤粒子が、噴射口から50cm離れた箇所で、直径2cmの円で囲まれた範囲よりも広い範囲に分散しているので、使用者の狙いが多少外れていたり、噴射までに時間的な遅れがあったとしても、害虫行動阻害剤を液体の状態で害虫に多く付着させることが可能になる。」

(c)「【0022】
第1の発明によれば、エアゾール製品の噴射口から直線距離で50cm離れた箇所で、平均粒子径700μm以上の害虫行動阻害剤粒子が、直径2cmの円で囲まれた範囲よりも広い範囲に分散するので、害虫行動阻害剤を液体の状態で害虫に多く付着させることができ、効力を高めることができる。」

(d)「【0032】
エアゾール缶10の内部には、図2に示すように害虫行動阻害剤100が収容されている。害虫行動阻害剤100は、エアゾール缶10から噴射する噴射作用と、害虫に付着した際に害虫を冷却する冷却作用とを持つものである。害虫行動阻害剤100としては、例えば、HFO-1234ze(1,3,3,3-テトラフルオロプロペン)、ジメチルエーテル(DME)及び液化石油ガス(LPG)のいずれか1つ、または、これらのうち、少なくとも2つを混合してなるものである。
【0033】
HFO-1234zeの蒸気圧は、0.50MPa(25℃)であり、ジメチルエーテルの蒸気圧は、0.59MPa(25℃)であり、液化石油ガスの蒸気圧は、0.29?0.98MPa(25℃)である。また、HFO-1234zeの沸点は、-19.0℃であり、ジメチルエーテルの沸点は、-24.8℃であり、液化石油ガスの沸点は、-42.1℃?-0.5℃ある。つまり、害虫行動阻害剤100の蒸気圧は0.29MPa(25℃)以上0.98MPa(25℃)以下の範囲にあり、沸点は-50℃以上0℃以下の範囲にある。」

(e)「【0037】
突出部26の上下方向中間部には、ノズル30が一体成形されている。ノズル30は、前方へ向かって直線状に延びており、連通路27に対し略垂直である。ノズル30の先端部には略円形の噴射口31が形成されている。ノズル30の内部には、害虫行動阻害剤100が流通する流路32が直線状に形成されている。流路32は、害虫行動阻害剤100の流れ方向上流側の上流部32aと、下流側の下流部32bとで構成されている。上流部32a及び下流部32bの断面形状は共に円形である。上流部32aは、その上流端から下流端に亘って同じ断面形状であり、また、下流部23bも、その上流端から下流端に亘って同じ断面形状である。下流部32bの下流端が噴射口31に連通している。噴射口31の形状及び大きさは、下流部32bの下流端の断面形状と同じである。
【0038】
下流部32bの断面積が上流部32aに比べて大きく設定されている。これに対応するように、流路32の内面には、上流部32aと下流部32bとの境界部分に段部34が形成される。また、上流部32aの中心線と下流部32bの中心線とは一致している。
【0039】
この実施形態では、流路32の上流部32aの内径D1(図3に示す)が1.6mm以上2.6mm以下に設定されている。また、流路32の下流部32bの内径D2が2.2mm以上3.4mm以下に設定されている。また、流路32の上流部32aの内径D1と、流路32の下流部32bの内径D2との相対関係は、D2/D1が1.07以上1.63以下となっている。
【0040】
上記のように流路32の上流部32aの内径D1及び下流部32bの内径D2を設定することにより、流路32の上流側が絞られることになる一方、下流側は上流側に比べて開放されることになる。よって、流路32は断面積が途中で段階的に変化する2段階構造となる。
【0041】
さらに、流路32の上流部32aの長さL1は、5mm以上に設定されている。流路32の下流部32bの長さL2は10mm以上に設定されている。尚、L1/L2の値は、前述の条件を満たしていればよく、任意の値に設定できる。また、流路32の長さ(L1+L2)は20mm以上が好ましい。実用性を考慮すると、流路32の長さは、例えば200mm以下が好ましい。
・・・
【0043】
噴射口31から噴射される害虫行動阻害剤粒子は大きなものになるとともに、その大きな粒子が広い範囲に分散し、しかも、粒子の流速が速くなる。すなわち、ノズル30の流路32に流入した粒子は、上流部32aが絞られていることから、上流部32aを流通する間に流速が十分に高まる。その後、流路32内の段部34の形成箇所を経て下流部32bに達すると、断面積が急拡大するので、粒子の流速が低下して後方からの粒子が衝突しながら一体化して大きな粒子を形成する。さらに、一部の粒子の流速が低下することで下流部32bの内面に複数の粒子が付着して大きな粒子を形成する。」

(f)「【0044】
次に、本実施形態に係る害虫駆除用エアゾール製品1から噴射された害虫行動阻害剤粒子の大きさを測定した結果について表1を参照しながら説明する。
【0045】
【表1】

【0046】
表1は、本発明の実施例1?15と比較例の平均粒子径を測定した結果を示している。表1中、害虫行動阻害剤の欄における「1234」とは、HFO-1234zeのことであり、「DME」とはジメチルエーテルのことであり、「LPG4.9k」とは20℃時の圧力が4.9kg/cm^(2)の液化石油ガスのことであり、「LPG4.0k」とは20℃時の圧力が4.0kg/cm^(2)の液化石油ガスのことである。実施例1、2の害虫行動阻害剤の全体積中、60%がHFO-1234zeであり、40%がDMEである。
【0047】
表1中、ノズル欄における「A」とは、図4及び図5に示す変形例に係る形状のノズルである。すなわち、流路32の断面積が途中で変化しないストレート構造のノズルである。流路32の内径Dは2.6mmであり、流路32の長さLは20mmである。
【0048】
ノズル欄における「B」とは、「A」と同様なストレート構造のノズルであり、流路32の内径Dは3.0mmであり、流路32の長さLは20mmである。
【0049】
ノズル欄における「C」とは、図2及び図3に示す形状のノズルであり、流路32の上流部32aの内径D1は2.4mmであり、流路32の下流部32bの内径D2は3.0mmであり、流路32の上流部32aの長さL1は10mmであり、流路32の下流部32bの長さL2は、10mmである。つまり、実施例1?15は、害虫行動阻害剤の種類とノズル構造、形状が異なっている。
【0050】
また、比較例の害虫行動阻害剤は、HFO-1234zeであり、ノズル構造は、2段階構造である。各部の寸法は、図3に対応させた場合、流路32の上流部32aの内径D1は3.0mmであり、流路32の下流部32bの内径D2は1.0mmであり、流路32の上流部32aの長さL1は33mmであり、流路32の下流部32bの長さL2は、5mmである。
【0051】
平均粒子径の測定は、図6及び図7に示すような方法で行った。平均粒子径の測定装置としては、レーザー光散乱方式の粒度分布測定装置(日機装株式会社製 型式:LDSA-SPR1500A)を用いた。粒度分布測定装置は、レーザー光Lを水平に照射するように配置されたレーザー発光部と、このレーザー発光部から発光されたレーザー光Lを受光するレーザー受光部と、マイクロコンピュータ等からなる処理装置とを備えている。処理装置は、レーザー受光部から出力された信号を自動的に演算し、解析してD50として出力するように構成されている。D50とは、体積積算値が50%を占める時の粒子径のことである。
【0052】
害虫駆除用エアゾール1の噴射口31と、レーザー光Lとの離間距離Xは50cmである。また、噴射口31の中心と、レーザー光Lとは同一高さとなるように配置する。雰囲気温度は25℃である。表1中、「中心部」とは、害虫行動阻害剤粒子の噴霧された範囲内における中心部(噴霧中心)のことであり、「1cm」、「2cm」、「3cm」、「4cm」とは、「中心部」からそれぞれ1cm、2cm、3cm、4cm離れた部位のことである。
【0053】
表1に示すように、実施例1?15の全てにおいて、噴霧中心から2cm離れた範囲内で、平均粒子径が700μm以上確保されている。従って、使用者が害虫駆除用エアゾール1の噴射口31を例えばゴキブリに向けて狙いを定めて害虫行動阻害剤100を噴射した場合、その噴霧中心から少なくとも2cmの範囲(噴霧中心を中心とする直径4cmの円で囲まれた範囲)には、平均粒子径が700μm以上、800μm以上、900μm以上の大きな粒子径の害虫行動阻害剤粒子が到達することになる。また、噴霧中心から1cmの範囲(噴霧中心を中心とする直径2cmの円で囲まれた範囲)には、平均粒子径がより大きな害虫行動阻害剤粒子が到達することになる。また、噴霧中心から4cmの範囲には、平均粒子径が260μm以上の害虫行動阻害剤粒子が到達することになり、また、噴霧中心から3cmの範囲には、平均粒子径が480μm以上の害虫行動阻害剤粒子が到達することになる。
【0054】
このため、例えばヘッドキャップ20の押圧部24を押すまでに時間的な遅れが生じて、その間にゴキブリが動いたとしても、そのゴキブリに対して大きな粒子径の害虫行動阻害剤粒子を付着させることが可能となる。また、使用者の狙いがゴキブリから多少ずれていたとしても、噴霧中心を中心とする直径2cm、または4cmの範囲にゴキブリが入っていれば、そのゴキブリに対して同様に害虫行動阻害剤粒子を付着させることが可能となる。これは、噴射口31からゴキブリまでの距離が50cm離れていても得ることができる効果であり、使用者がゴキブリに近づくことができなくても、大きな粒子径の害虫行動阻害剤粒子をゴキブリに付着させることができるということである。
【0055】
これに対し、比較例では、噴霧中心や、噴霧中心から1cm程度離れた部位では比較的大きな粒子径となっているものの、噴霧中心から2cm以上離れると、平均粒子径が700μm未満となるので、大きな粒子径の害虫行動阻害剤粒子を広い範囲に到達させることができない。従って、害虫行動阻害剤を噴射するまでに時間的な遅れがある場合や、使用者の狙いが多少ずれている場合には、大きな粒子径の害虫行動阻害剤粒子をゴキブリに付着させることができない。」

(g)「【0062】
次に、本実施形態に係る害虫駆除用エアゾール製品1の効力の測定結果について表3を参照しながら説明する。
【0063】
【表3】

【0064】
表3は、本発明の実施例1?15と比較例の効力の測定結果を示している。表3の実施例1?15及び比較例は、表1と同じである。効力の測定時には、上記冷却性能の測定時に用いた自動噴霧装置50を水平面にから上方に離して設ける。害虫駆除用エアゾール製品1の噴射口31の直下方の水平面上に、図10に示す内径が約7cmのガラス製円筒部材60を上方に開口するように載置する。符号Yは噴霧中心であり、円筒部材60の中心と一致させている。円筒部材60の内部に供試虫として、クロゴキブリ成虫の雌を入れた。
【0065】
そして、供試虫が図10の斜線で示す範囲、即ち、噴霧中心から2cm以上離れた範囲に定着した後、自動噴霧装置50により害虫駆除用エアゾール製品1から害虫行動阻害剤を噴射した。つまり、使用者による狙いがずれている場合や、狙いを定めてから害虫駆除用エアゾール製品1の押圧部24を押すまでにゴキブリが噴霧中心から移動した場合を想定した測定条件としている。噴霧時間は1秒である。雰囲気温度は25℃である。ゴキブリは10匹用意し、1匹づつ効力を見た。
【0066】
表3中、「噴霧後のゴキブリの行動レベル」の欄では、噴霧後に正常歩行している場合を「レベル0」とし、異常歩行(動きが鈍い)を「レベル1」とし、仰天(腹を上に向けてひっくりかえった状態)を「レベル2」とし、完全行動停止(冷却効果により動きが完全に停止した状態)を「レベル3」とし、各レベルに当てはまるゴキブリの数を記載している。
【0067】
各実施例では、レベル1の異常歩行を示すゴキブリや、レベル2の仰天状態となるゴキブリの割合が多いのに対し、比較例では、レベル0の正常歩行するゴキブリの割合が最も多い。また、実施例の場合、レベル3の完全行動停止に至るゴキブリがいるのに対し、比較例ではレベル3に至るゴキブリはいなかった。
【0068】
表3の測定結果より、実施例のものでは、大きな粒子径の害虫行動阻害剤粒子を広い範囲に分散させているので、噴霧中心から離れたゴキブリに対して大きな粒子径の害虫行動阻害剤粒子を付着させ、その粒子の蒸発時にゴキブリから多くの熱を奪っていることが分かる。」

4 本願発明の課題について
明細書全体の記載、特に、発明の詳細な説明の段落【0007】における、ゴキブリの場合には、ある程度離れたところから害虫行動阻害剤を噴射することがあるが、この場合、エアゾールの噴射口と害虫との離間距離が長くなるので、液体の状態で害虫に付着する量が減少する旨の記載、同【0008】における、本発明の目的は、害虫行動阻害剤の気化熱により害虫を冷却して駆除する場合に、害虫行動阻害剤を液体の状態で害虫に多く付着させることができるようにして効力を高める旨の記載及び本願発明が害虫行動阻害剤を収容したエアゾール製品であることからみて、本願発明の課題は、エアゾールの噴射口と害虫との離間距離が長くなっても、害虫行動阻害剤を液体の状態で害虫に多く付着させて害虫を冷却して駆除する効力を高めるエアゾール製品を提供することであると認める。

5 判断
発明の詳細な説明の段落【0045】の表1中の比較例は、噴霧中心から1cm離れた部位における平均粒子径(D50)が1354.55μmであり、本願発明の特定を満足する具体例であるといえる(摘記(f))。
しかしながら、効力の測定結果を示した表3中をみると、比較例は実施例1?15と比較して、噴霧後のゴキブリの行動レベルのうち、レベル0(正常歩行)の割合は10匹中6匹というように最も高く、レベル1(異常歩行(動きが鈍い))とレベル2(仰天(腹を上に向けてひっくりかえった状態))とを合わせた割合は10匹中4匹というように最も低く、レベル3(完全行動停止(冷却効果により動きが完全に停止した状態))に至るゴキブリはいなかったことが示されている(摘記(g))。
このように、発明の詳細な説明には、本願発明の具体例であっても、噴霧後のゴキブリの行動を阻害させる割合が低く、害虫を冷却して駆除する効力を高めることができない例が記載されており、本願発明の課題が解決できていないことが明示されている。
よって、本願発明は、発明の詳細な説明の記載により当該発明の課題を解決できると当業者が認識できない範囲のものを含む発明であることは明らかである。
したがって、特許請求の範囲に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。

また、本願発明のうちの、エアゾール製品の害虫行動阻害剤を収容したエアゾール缶の上部に固定されたヘッドキャップに有する流路の内径と長さは、HFO-1234ze、ジメチルエーテル及び液化石油ガスのいずれか1つを含む害虫行動阻害剤をエアゾール製品から噴射したとき、噴射口から直線距離で50cm離れた箇所で、該エアゾール製品からの噴射中心から1cm離れた部位における害虫行動阻害剤粒子の平均粒子径が700μm以上となるように流路の内径及び長さが設定されていると特定されているだけであり、上記した害虫行動阻害剤粒子の平均粒子径が700μm以上であれば、流路の内径及び長さがいかなる値であっても本願発明に含まれるといえるところ、本願の発明の詳細な説明に本願発明の課題を解決できたことがデータと共に具体的に記載されているのは、流路の内径、長さ及び形状について、その段落【0047】?【0049】に記載された値のストレートのノズル構造か2段階のノズル構造だけであるといえ、仮に、同【0039】?【0041】に記載された2段階のノズル構造の流路の内径及び長さについての一般的な値の範囲であっても本願発明の課題を解決できると認識できたとしても、流路の内径、長さ及び形状について、ごく一部の場合だけが本願発明の課題を解決できると認識できるのであって、流路の内径や長さによって噴射剤の平均粒子径が異なる大きさになるという技術常識や、同【0043】の、流路の断面積が急拡大することで粒子の流速が低下して粒子が衝突して一体化し大きな粒子を形成するという記載からすると、流路の形状によっても噴射剤の平均粒子径が異なる大きさになるといえることからみて、どのような寸法の流路の内径、長さ及び形状をも含む本願発明の範囲の全体にわたって本願発明の課題が解決できると認識できるとはいえず、本願発明が発明の詳細な説明に記載されているということはできない。

6 まとめ
以上のとおり、本願発明が発明の詳細な説明に記載したものであることとはいえないから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

第5 むすび
以上のとおり、この特許出願が、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないものであるから、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-01-25 
結審通知日 2018-01-30 
審決日 2018-02-13 
出願番号 特願2013-5348(P2013-5348)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福山 則明  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 榎本 佳予子
佐藤 健史
発明の名称 害虫駆除用エアゾール製品  
代理人 特許業務法人前田特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ