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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B63H
管理番号 1339033
審判番号 不服2016-18855  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-12-15 
確定日 2018-04-04 
事件の表示 特願2013-546729号「推進システム」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 7月 5日国際公開、WO2012/089846、平成26年 3月 6日国内公表、特表2014-505621号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年1月2日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2010年12月31日 (EP)欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成27年12月17日付けで拒絶理由が通知され、平成28年3月18日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月17日付けで拒絶査定がされ、同年12月15日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?13に係る発明は、平成28年3月18日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「回転式動力ユニット(2)によって駆動される第1のプロペラ(6)と、
交流モータ(8)によって駆動される第2のプロペラ(12)とを具備し、
これにより、前記第2のプロペラ(12)は、前記第1のプロペラ(6)と反対方向に回転され、
交流発電機(4)が、前記回転式動力ユニット(2)によって駆動され、
前記交流発電機(4)は、前記交流モータ(8)に電気的に接続されている、船舶の逆回転プロペラ(CRP)推進システムに推進力を供給する構成体において、
前記第2のプロペラ(12)の回転速度は、前記第1のプロペラ(6)の回転速度の95%ないし150%にあり、
前記交流モータ(8)と前記交流発電機(4)とは、同じ電気的周波数を有し、
前記交流発電機(4)の極数が、2ないし40であり、前記交流モータ(8)の極数が、2ないし40であり、これにより、前記交流モータ(8)と前記交流発電機(4)の極数の比が、0.05ないし20であることとを特徴とする構成体。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、平成27年12月17日付けの拒絶理由通知における拒絶の理由2であり、その概要は、この出願の請求項1に係る発明は、その優先日前に頒布された刊行物である引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものであって、以下の引用文献1及び2が示されている。
引用文献1:特開平6-56082号公報
引用文献2:特表2007-504045号公報

第4 当審の判断
当審は、原査定の拒絶の理由のとおり、本願発明は、引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。
その理由は、以下のとおりである。

1 引用文献の記載事項
(1)引用文献1
引用文献1には、次の記載がある(下線は当審で付した。以下同様。)。
(1a)「【請求項1】 相対峙した駆動軸で互いに反対方向に回転する前プロペラと後プロペラとを並設してなる二重反転プロペラであって、後プロペラをスターンフレームの上部から吊設されたポッドプロペラで構成するとともに、後プロペラの回転中心を前プロペラの回転中心から外れた前プロペラによる旋回流のほぼ中心位置に置いたことを特徴とする舶用二重反転プロペラ。
【請求項2】 前プロペラは主機に機械的に連結し、後プロペラであるポッドプロペラは該主機により駆動される動力源によって運転するようにしたことを特徴とする請求項1記載の舶用二重反転プロペラ。」
(1b)「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、船首側に配置したプロペラ(以下「前プロペラ」という)によって発生する旋回流の中心位置に、船尾側に配置した反転プロペラ(以下「後プロペラ」という)の回転中心を置き、当該後プロペラをポッドプロペラで構成して二重反転プロペラによる利得を最大限引き出すようにした舶用二重反転プロペラに関する。」
(1c)「【0016】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面を参照しながら説明する。図1?図11は本発明の第1実施例?第11実施例を示す船尾部の模式図である。
〔図1の第1実施例〕船尾の船体H内に主機Eが設けられており、主機Eの駆動(出力)軸1によって運転される軸発電機Gが配備され、更に駆動軸1に機械的連結された前プロペラ2がスターンフレーム5端に設けられている。前プロペラ2の後方に前プロペラ2の軸心線(回転中心)2aから少し下方に軸心線(回転中心)3aを有する後プロペラ3が、その駆動軸4を前プロペラ2の駆動軸1と相対峙させた形で並設されている。後プロペラ3は、スターンフレーム5の上部から垂下したストラット6の下端に卵(紡錘)形のポッド7を有し、ポッド7の先端にプロペラを装着して成るいわゆるポッドプロペラで構成されている。後プロペラ3の回転方向は前プロペラ2のそれとは逆の方向に回転する反転プロペラであって、前プロペラ2と対になって二重反転プロペラを形成している。この実施例では前プロペラ2および後プロペラ3はともに固定ピッチプロペラである。図中、9はポッドプロペラ3の後方に設けた平衡舵を示す。
【0017】ポッドプロペラ3のポッド7内には電動モータMが内蔵されている。この電動モータMは同期電動機の類で主機Eに機械的に連結されることなく前記軸発電機Gを動力源として、これに連れ回りするよう電線10を介して電気的に該軸発電機Gに接続されている。つまり、主機Eが作動中、軸発電機Gが運転され発電するとポッドプロペラ3の電動モータMもこれに同期・連動するようになっている。この場合軸発電機Gとポッドプロペラ3の極数が同じであれば前後プロペラ2、3の回転数が同じとなる。前後プロペラ2、3の回転数を変える場合は両者の極数を変えればよい。この構成では特にスタータ等が不要となり、それに伴いメンテナンスや運転トラブルも減少し装置コストも低下する。なお、ポッド7内のモータは、電動モータの他に油圧モータ又は空圧モータの場合もあり得る。この場合には主機駆動で油圧ポンプ又はコンプレッサを運転して圧油又は圧縮空気で油圧モータ又は空圧モータを駆動するようにする。」
(1d)引用文献1には、以下の図が示されている。


イ 引用文献2
引用文献2には、次の記載がある。
(2a)「【0001】
本発明は、請求項1の導入部分に示すような、船及び他の可動海洋構造物の推進(推進及びポジショニング)のための推進システムに関する。
・・・
【0019】
図1は、プロペラ12を作動させるための推進モータ11を示し、プロペラは、モータに直結されているか、おそらくは、挿入された中間シャフトを介してモータに接続されている。推進モータ11は、発電機14からの三相接続13から給電される。この三相接続13から、電流は周波数コンバータ16を介して消費ネットワーク15に分岐している。消費ネットワーク15は、船における通常の電気消費設備、たとえば補給船又はトロール母船の運行で使用される設備を含むことができる。周波数コンバータ16は、パワーエレクトロニクスを用いるモータ/発電機のセットであることができる。
【0020】
発電機14は、ガスタービン又はディーゼル機関といったあらゆる速度調節可能な燃焼機関であることができる駆動機17によって動かされる。
【0021】
発電機14は、永久磁石を用いる同期機である。発電機は、比較的高い回転速度及び少ない極を有することができる。これは、ダンパ巻線を作る可能性を提供する。このような発電機は、その最適な作動点で、フィールド巻線を用いる同期機よりも高い効率を有する。
【0022】
このような永久磁石型発電機は、たとえば、6個の極を有することができる。その場合、1000rpmで50Hzを発する。
【0023】
この例では、推進モータ11は、駆動機17の回転速度のための減速ギヤ系が達成されるよう、より多数の極、たとえば24個の極を有するように構築されている。このようなディメンジョニングにより、機関回転は無損失で4:1減速される。発電機14及び推進モータ11は、概ね同じ作動特性を有している。」
(2b)引用文献2には以下の図が示されている。

2 引用文献1に記載された発明
(1)引用文献1には、「舶用二重反転プロペラ」に関する技術について開示されているところ(摘示(1b))、その特許請求の範囲の請求項1及び2には、
「【請求項1】 相対峙した駆動軸で互いに反対方向に回転する前プロペラと後プロペラとを並設してなる二重反転プロペラであって、後プロペラをスターンフレームの上部から吊設されたポッドプロペラで構成するとともに、後プロペラの回転中心を前プロペラの回転中心から外れた前プロペラによる旋回流のほぼ中心位置に置いたことを特徴とする舶用二重反転プロペラ。
【請求項2】 前プロペラは主機に機械的に連結し、後プロペラであるポッドプロペラは該主機により駆動される動力源によって運転するようにしたことを特徴とする請求項1記載の舶用二重反転プロペラ。」と記載されている(摘示(1a))。
(2)また、上記摘示(1c)によれば、上記「舶用二重反転プロペラ」の実施例について、
ア 主機Eの駆動軸1によって運転される軸発電機Gが配備され、更に駆動軸1に機械的連結された前プロペラ2がスターンフレーム5端に設けられること(段落【0016】)、
イ 後プロペラ3は、スターンフレーム5の上部から垂下したストラット6の下端にポッド7を有し、ポッド7の先端にプロペラを装着していること(段落【0016】)、
ウ 後プロペラ3の回転方向は前プロペラ2のそれとは逆の方向に回転する反転プロペラであって、前プロペラ2と対になって二重反転プロペラを形成していること(段落【0016】)、
エ ポッドプロペラ3のポッド7内には電動モータMが内蔵され、この電動モータMは同期電動機の類で主機Eに機械的に連結されることなく前記軸発電機Gを動力源として、これに連れ回りするよう電線10を介して電気的に該軸発電機Gに接続され、主機Eが作動中、軸発電機Gが運転され発電するとポッドプロペラ3の電動モータMもこれに同期・連動するようになっていること(段落【0017】)、が明らかである。
(3)したがって、引用文献1には、
「相対峙した駆動軸で互いに反対方向に回転する前プロペラ2と後プロペラ3とを並設してなる二重反転プロペラであって、後プロペラ3をスターンフレーム5の上部から吊設されたポッドプロペラ3で構成するとともに、後プロペラ3の回転中心を前プロペラ2の回転中心から外れた前プロペラ2による旋回流のほぼ中心位置に置き、
前プロペラ2は主機Eに機械的に連結し、後プロペラ3であるポッドプロペラ3は該主機Eにより駆動される動力源によって運転するようにし、
主機Eの駆動軸1によって運転される軸発電機Gが配備され、更に駆動軸1に機械的連結された前プロペラ2がスターンフレーム5端に設けられ、
後プロペラ3は、スターンフレーム5の上部から垂下したストラット6の下端にポッド7を有し、ポッド7の先端にプロペラを装着し、
後プロペラ3の回転方向は前プロペラ2のそれとは逆の方向に回転する反転プロペラであって、前プロペラ2と対になって二重反転プロペラを形成し、
ポッドプロペラ3のポッド7内には電動モータMが内蔵され、この電動モータMは同期電動機の類で主機Eに機械的に連結されることなく前記軸発電機Gを動力源として、これに連れ回りするよう電線10を介して電気的に該軸発電機Gに接続され、主機Eが作動中、軸発電機Gが運転され発電するとポッドプロペラ3の電動モータMもこれに同期・連動するようになっている、二重反転プロペラ。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

3 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「前プロペラ2」及び「主機E」は、その機能・構造からみて、本願発明の「第1のプロペラ(6)」及び「回転式動力ユニット(2)」にそれぞれ相当する。
そして、上記「前プロペラ2」は「主機Eに機械的に連結」されて駆動されることが技術的に明らかであるから(摘示(1c)(1d))、引用発明における「主機Eに機械的に連結」される「前プロペラ2」は、本願発明の「回転式動力ユニット(2)によって駆動される第1のプロペラ(6)」に相当するものといえる。
イ 引用発明の「後プロペラ3であるポッドプロペラ3」は、「スターンフレーム5の上部から垂下したストラット6の下端にポッド7を有し、ポッド7の先端にプロペラを装着し」て構成されるものであるところ、上記「ポッド7の先端に」「装着」された「プロペラ」は、その機能・構造からみて、本願発明の「第2のプロペラ(12)」に相当する。
また、引用発明の「電動モータM」は、「同期電動機の類」であるから、本願発明の「交流モータ(8)」に相当する。
そして、引用発明は、「ポッドプロペラ3のポッド7内には電動モータMが内蔵され」、「主機Eが作動中、軸発電機Gが運転され発電するとポッドプロペラ3の電動モータMもこれに同期・連動する」ものであるところ、上記「電動モータM」によって、「ポッド7の先端に」「装着」された「プロペラ」が駆動されることは技術的に明らかであるから(摘示(1c)(1d))、かかる「プロペラ」は、本願発明の「交流モータ(8)によって駆動される第2のプロペラ(12)」に相当するものといえる。
ウ 引用発明において、「後プロペラ3の回転方向は前プロペラ2のそれとは逆の方向に回転する」という構成は、上記ア及びイをも踏まえると、本願発明の「前記第2のプロペラ(12)は、前記第1のプロペラ(6)と反対方向に回転され」るという構成に相当するものといえる。
エ 引用発明の「動力源」としての「軸発電機G」は、その機能・構造からみて、本願発明の「交流発電機(4)」に相当する。
そして、上記「軸発電機G」は、「主機Eの駆動軸1によって運転される」ものであり、主機Eによって駆動されることが明らかであるから、かかる駆動の構成は、本願発明の「交流発電機(4)が、前記回転式動力ユニット(2)によって駆動され」という構成に相当するものといえる。
オ 引用発明の「電動モータM」は、「同期電動機の類で主機Eに機械的に連結されることなく前記軸発電機Gを動力源として、これに連れ回りするよう電線10を介して電気的に該軸発電機Gに接続され」るものであるところ、上記「電動モータM」と「軸発電機G」との「電気的」な「接続」構成は、上記イ及びエをも踏まえると、本願発明の「前記交流発電機(4)は、前記交流モータ(8)に電気的に接続されている」という構成に相当するものといえる。
カ 本願発明の「船舶の逆回転プロペラ(CRP)推進システムに推進力を供給する構成体」は、「回転式動力ユニット(2)によって駆動される第1のプロペラ(6)と、交流モータ(8)によって駆動される第2のプロペラ(12)とを具備し、これにより、前記第2のプロペラ(12)は、前記第1のプロペラ(6)と反対方向に回転され、交流発電機(4)が、前記回転式動力ユニット(2)によって駆動され」るものとして特定されるものである(以下「特定事項A」という。)。
また、本願明細書の段落【0009】にも、上記特定事項Aによって、「船舶の逆回転プロペラ(CRP)推進システムに推進力を供給する構成体」が構成されることが記載されているから、本願発明の「船舶の逆回転プロペラ(CRP)推進システムに推進力を供給する構成体」とは、少なくとも上記特定事項Aを具備する構成を意味するものと解すれば足りる。
そして、引用発明の「二重反転プロペラ」は、上記ア?オで述べたとおり、上記特定事項Aを具備した構成といえるから、本願発明の「船舶の逆回転プロペラ(CRP)推進システムに推進力を供給する構成体」に相当するものといえる。

したがって、本願発明と引用発明とは、
「回転式動力ユニットによって駆動される第1のプロペラと、
交流モータによって駆動される第2のプロペラとを具備し、
これにより、前記第2のプロペラは、前記第1のプロペラと反対方向に
回転され、
交流発電機が、前記回転式動力ユニットによって駆動され、
前記交流発電機は、前記交流モータに電気的に接続されている、船舶の逆回転プロペラ(CRP)推進システムに推進力を供給する構成体」の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
本願発明は、「前記第2のプロペラ(12)の回転速度は、前記第1のプロペラ(6)の回転速度の95%ないし150%にあり、前記交流モータ(8)と前記交流発電機(4)とは、同じ電気的周波数を有し、前記交流発電機(4)の極数が、2ないし40であり、前記交流モータ(8)の極数が、2ないし40であり、これにより、前記交流モータ(8)と前記交流発電機(4)の極数の比が、0.05ないし20である」のに対し、引用発明はそのように特定されていない点。

4 判断
上記相違点について検討する。
(1)本願明細書の「交流発電機4の極数と交流モータ8の極数とは、CPR構成体(審決注:「CRP構成体」の誤記と認める。)において最適な推進効果を達成するために選択された値を有する。」(段落【0025】)及び「交流発電機の極数及び交流モータの極数を選択することによって、交流モータと交流発電機との相互速度がこれらの極数によって規定されるので、船尾プロペラと船首プロペラとの所要の回転速度比が達成される。」(段落【0026】)との記載によれば、本願発明の「交流発電機(4)」及び「交流モータ(8)」のそれぞれの極数は、最適な推進効果を達成するために設定されること、より具体的には、「第1のプロペラ(6)」と「第2のプロペラ(12)」とを所要の回転速度比で回転させるように設定されることが明らかである。したがって、本願発明において、「交流発電機(4)の極数」及び「交流モータ(8)の極数」を設定することの意義は、少なくとも、第1のプロペラ(6)と第2のプロペラ(12)とを所要の回転速度比で回転させることと理解することができる。
ここで、交流発電機(4)と交流モータ(8)の同期速度は、「120f/P(ただし、fは周波数、Pは極数)」で表されることが技術常識であるから(必要ならば、特開2007-131081の段落【0036】など参照。)、「同じ電気的周波数を有」する「交流モータ(8)」と「交流発電機(4)」とを具備する本願発明において、第1のプロペラ(6)及び第2のプロペラ(12)に要求される所要の回転速度比が設定されれば、かかる回転速度比に応じた「交流モータ(8)」及び「交流発電機(4)」のそれぞれの極数が設定されることは自明であり、それは、本願明細書の段落【0027】に記載された本願発明の実施の一例、すなわち、回転式動力ユニットの回転速度(船首プロペラの回転速度)を100rpmとし、交流モータの回転速度(船尾プロペラ)の回転速度を120rpmとするために、交流発電機に対して12に等しい極数を選択し、交流モータに対して10に等しい極数を選択する例や、段落【0028】に記載された他の一例からも裏付けられる。
(2)他方、引用文献1には、「主機Eが作動中、軸発電機Gが運転され発電するとポッドプロペラ3の電動モータMもこれに同期・連動するようになっている。この場合軸発電機Gとポッドプロペラ3の極数が同じであれば前後プロペラ2、3の回転数が同じとなる。前後プロペラ2、3の回転数を変える場合は両者の極数を変えればよい。」(摘示(1c)段落【0017】)と記載されているとおり、引用発明においてもその実施にあたり、前プロペラ2と後プロペラ3の回転数を所要の回転数に設定し、かかる回転数に応じた軸発電機G及び電動モータMのそれぞれの極数が設定されることが明らかであるから、その点において、本願発明における「交流発電機(4)」及び「交流モータ(8)」の極数を設定することの意義と変わるものではない。
(3)また、引用発明の軸発電機Gと電動モータMの同期速度も、上記(1)で述べた「120f/P(ただし、fは周波数、Pは極数)」で表されるから、上記「軸発電機Gとポッドプロペラ3の極数が同じであれば前後プロペラ2、3の回転数が同じとなる」ということは、軸発電機Gと電動モータMとは同じ周波数を有することが明らかであり、さらに、前プロペラ2及び後プロペラ3を構成するプロペラの回転数を同じにするために、軸発電機Gと電動モータMの極数を同じ値に設定したことも理解することができる。
そうすると、かかる設定の例は、軸発電機Gと電動モータMとを同じ周波数のものを前提とし、後プロペラ3を構成するプロペラの回転速度を前プロペラ2の回転速度の100%に設定するために、電動モータMと軸発電機Gの極数の比を1に設定したものといえ、したがって、引用発明は、上記相違点に係る本願発明の「前記第2のプロペラ(12)の回転速度は、前記第1のプロペラ(6)の回転速度の95%ないし150%にあり」、「前記交流モータ(8)と前記交流発電機(4)とは、同じ電気的周波数を有し」、及び「前記交流モータ(8)と前記交流発電機(4)の極数の比が、0.05ないし20である」という各構成のいずれをも充足した設計がなされ得ることが明らかである。
(4)さらに、引用文献1の上記「前後プロペラ2、3の回転数を変える場合は両者の極数を変えればよい。」との記載によれば、後プロペラ3を構成するプロペラの回転速度は、前プロペラ2の回転速度の100%と前後する比率においても設定可能であり、また、そのように設定するために、電動モータMと軸発電機Gの極数の比を1と前後する比において設定可能であることも明らかである。要するに、船舶設計上、船舶の速力や推進性等の条件が基本設計としてあらかじめ決定されることは技術常識であるから、引用発明の二重反転プロペラにおいても、その実施にあたり、要求される船舶の速力や推進性に応じて、前プロペラ2と後プロペラ3の回転速度比や、電動モータMと軸発電機Gの極数の比が適宜選択的に設計され得ることは明らかである。
(5)ここで、引用文献1には、軸発電機Gと電動モータMにおける極数の具体的な値について記載されるものではないが、上記(4)で述べたとおり、引用発明の二重反転プロペラにおいても、その実施にあたり、要求される船舶の速力や推進性に応じて前プロペラ2及び後プロペラ3の回転速度が設定され得るものであること、また、引用文献2には、プロペラ12を作動させる推進モータ11を発電機14より給電する船の例として、発電機14を、比較的高い回転速度及び少ない極を有する永久磁石を用いる同期機で構成し、たとえば6個の極を有するものとする場合には、1000rpmで50Hzを発すること、及び推進モータ11は、駆動機17の回転速度のための減速ギヤ系が達成されるよう、より多数の極、たとえば24個の極を有するように構築されることが記載されているから(摘示(2a)(2b))、かかる発電機14や推進モータ11の設置の例をも参考とすれば、引用発明の軸発電機G及び電動モータMのそれぞれの極数を2ないし40の極数に設定することは、当業者にとって想定の範囲ということもでき格別困難なことではない。
(6)ところで、請求人は、平成28年12月15日付けの審判請求書(「3.」の項)において、「引用文献1は、極数、回転速度、周波数について、それらの関係を含め、なんら開示していません。すなわち、引用文献1には、本発明のように、交流発電機(4)の極数として2ないし40を選択し、交流モータ(8)の極数として2ないし40を選択することで、交流モータ(8)と交流発電機(4)の極数の比を0.05ないし20とする思想については、記載も示唆もありません。」と主張する。
しかし、上記(2)?(5)で述べたとおり、引用発明においてもその実施にあたり、前プロペラ2と後プロペラ3の回転数を所要の回転数に設定し、かかる回転数に応じた軸発電機G及び電動モータMのそれぞれの極数が設定されることが明らかであり、また、軸発電機G及び電動モータMのそれぞれの極数を2ないし40の極数に設定することは当業者にとって想定の範囲ということもでき格別困難なことではないから、請求人の上記主張は採用できない。
(7)したがって、上記相違点に係る本願発明の構成は、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものといえる。
また、本願発明の作用効果も、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項から当業者が予測し得る範囲のものといえ、格別顕著なものということはできない。

5 まとめ
したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-10-31 
結審通知日 2017-11-07 
審決日 2017-11-21 
出願番号 特願2013-546729(P2013-546729)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B63H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 泰二郎  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 中田 善邦
氏原 康宏
発明の名称 推進システム  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 野河 信久  

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