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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04N |
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管理番号 | 1339036 |
審判番号 | 不服2015-19586 |
総通号数 | 221 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-05-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-10-30 |
確定日 | 2018-04-05 |
事件の表示 | 特願2013-129003「ビデオ符号化のための方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月17日出願公開、特開2013-214994〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2006年(平成18年)3月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年4月13日、米国、2005年7月20日、米国)を国際出願日とする出願である特願2008-506467号の一部を平成25年6月19日に新たな特許出願としたものであって、平成25年7月19日付けで手続補正がなされ、平成26年6月26日付けで拒絶の理由が通知された。そして、その拒絶理由通知に応答して平成27年1月8日に意見書が提出されたが、平成27年6月19日付けで拒絶査定がなされた。 これに対し、平成27年10月30日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされたが、その後当審において、平成28年12月16日付けで最初の拒絶理由が通知され、それに応答して平成29年6月16日付けで手続補正がなされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項に係る発明は、平成29年6月16日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された事項により特定されるものであると認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は次のとおりである。 なお、本願発明の各構成の符号は、説明のために当審において付与したものであり、以下、構成(A)、構成(B)などと称する。 (本願発明) (A)画像ブロックのためのビデオ信号データを符号化するための装置であって、 (B)前記装置は、前記ビデオ信号データの色成分のすべてに対して残差色変換を適用せずに前記ビデオ信号データの色成分を符号化するための符号器を含み、 (C)前記符号器は、共通の色成分予測器を使用して前記ビデオ信号データの色成分のすべてを符号化し、 (D)前記ビデオ信号データのサンプリングは、国際電気通信連合電気通信標準化部門のH.264規格の4:4:4フォーマットに対応する、 (A)前記装置。 第3 当審の判断 1.引用文献の記載 当審における、平成28年12月16日付けの拒絶理由に引用された引用文献1である特表2003-524904号公報には、「階層MPEGエンコーダ」(発明の名称)に関し、図面と共に次に掲げる事項が記載されている。 なお、下線は強調のために当審で付したものである。 (1)「【0002】 【発明の属する技術分野】 本発明は、通信システムに関し、特に、情報の品質と安全性を強化した、MPEG類似の情報配信システムに関する。 【0003】 【従来の技術】 いくつかの通信システムでは、データを圧縮して伝送し、利用可能な帯域幅を効率的に使用している。例えば、カラー動画符号標準化作業グループ(MPEG)では、デジタル・データ配信システムに関するいくつかの規格を公表している。一つ目はMPEG-1として知られており、ISO/IEC規格11172に関するもので、これは参考文献として本願に含めている。二つ目はMPEG-2として知られており、ISO/IEC規格13818に関するもので、これは参考文献として本願に含めている。圧縮デジタル・ビデオ・システムについてはATSCデジタル・テレビジョン規格文書A/53で説明されており、これは参考文献として本願に含めている。 【0004】 前記規格では、固定長又は可変長デジタル通信システムを使用したビデオ、音声、その他の情報の圧縮及び送信に最適なデータ処理及び操作技術が説明されている。特に前記規格及びその他の「MPEGに類似する」規格及び技術では、例えば、フレーム内符号化技術(ラン・レングス符号化、ハフマン符号化など)やフレーム間符号化技術(順方向又は逆方向予測符号化、動画補正など)を使用してビデオを圧縮する。具体的には、ビデオ処理システムの場合、MPEG及びMPEGに類似するビデオ処理システムの特徴は、フレーム内及びフレーム間のどちらか一方又は両方での動画補正符号化を使用する又は使用しない予測に基づいたビデオ・フレームの圧縮符号化である。」 (2)「【0007】 【課題を解決するための手段】 本発明は、ビデオ情報の忠実度を十分に維持する形で、高品質ビデオ情報の圧縮、多重化、更に選択可能な実施形態においては、暗号化、転送、解読、伸長、提示を行う低コストの方法及び付随する装置を提供する。加えて、本発明での使用に適した高品質圧縮装置などを実施する方法として標準品質回路が使用されている。選択可能な実施形態においては、本発明で利用する標準的な圧縮、転送、伸長システムの見かけのダイナミック・レンジを拡張するために前処理技術を使用している。 (中略) 【0009】 本発明の別の実施形態では、3つの標準YUVタイプMPEGエンコーダ(例、4:2:0又は4:2:2)それぞれを使い、その輝度符号化部のみを利用して、3つの成分のビデオ信号のそれぞれを符号化する。標準転送システムは3つの符号化済み成分ビデオ信号を、3つの標準YUVタイプMPEGデコーダ(例えば、4:2:0又は4:2:2)に送信し、このデコーダを使い、その輝度復号部を利用して、それぞれの符号化済み成分ビデオ信号を復号化する。」 (3)「【0017】 十分な映像の忠実度を提供するために、図1のシステム及び方法の実施形態の一つでは、カラー差分レベル(つまり、YUV)ではなくコンポーネント・レベル(RGB)での圧縮符号化を利用している。この実施形態については、図2に関係して、後で詳細に説明する。簡潔に言えば、図2の実施形態では、MPEGシステムで通常使用される4:2:0解像度映像ではなく、4:4:4解像度映像を維持する圧縮符号化を提供する。」 (4)「【0041】 図2は、本発明に従い、図1の視聴覚情報配信システムでの使用に適した、ビデオ圧縮ユニット21及びビデオ伸長ユニット43の詳細ブロック図を表している。具体的には、図2に示したビデオ圧縮ユニット21は、3つの標準MPEGエンコーダ218R、218G、218B及びマルチプレクサ219を備えている。同様に、図2に示したビデオ伸長ユニット43は、デマルチプレクサ431及び3つの標準MPEGデコーダ432R、432G、432Bを備えている。 【0042】 次にビデオ圧縮ユニット21では、フル濃度(つまりフルダイナミック・レンジ)を有する赤S1R入力信号が第1の標準MPEGエンコーダ218Rの輝度入力と結合し、フル濃度を有する緑S1G入力信号が第2の標準MPEGエンコーダ218Bの輝度入力と結合し、フル濃度を有する緑S1G入力信号が第3の標準MPEGエンコーダ218Gの輝度入力と結合する。 【0043】 各標準MPEGエンコーダ218R、218G、218Bは、フル濃度を有する圧縮出力信号S218R、S218G、S218Bをそれぞれ生成し、これはマルチプレクサ219と結合する。マルチプレクサ219は、符号化された、フル濃度を有する圧縮ビデオ出力信号S218R、S218G、S218Bを多重化し、圧縮ビットストリームS21を形成する。 【0044】 注意点として、標準MPEGエンコーダ218R、218G、218Bは、通常、4:2:0解像度を有するYUV空間ビデオを符号化するのに使用される。つまり、このエンコーダは、通常、輝度チャンネルをフル解像度で符号化し、クロミナンス・チャンネルを少ない解像度で符号化するのに使用される。したがって、MPEGエンコーダ218R、218G、218Bの輝度部分のみを利用することで、図2のビデオ圧縮ユニット21は、輝度情報及びクロミナンス情報のフル濃度での(RGB空間における)符号化を提供する。更に注意点として、符号化入力ストリームを受けてRGB出力信号を供給する既存のMPEGデコーダは存在する。しかし通常、こうしたデコーダはコストが高く、解像度は十分ではない。」 2.引用文献に記載される発明 引用文献1に記載された発明を以下に認定する。 引用文献1の上記1(1)の記載によれば、引用文献1には、MPEG-1やMPEG-2などのMPEG規格に類似するMPEG類似の情報配信システムに関する発明が記載されており、さらに、上記1(2)ないし(4)の記載によれば、当該情報配信システムは、高品位ビデオ情報を圧縮するために、3つの標準YUVタイプMPEGエンコーダ(例、4:2:0又は4:2:2)それぞれを使い、その輝度符号化部のみを利用して、4:4:4解像度映像のコンポーネント・レベル(RGB)の3つの成分のビデオ信号のそれぞれを圧縮符号化し、符号化された圧縮ビデオ出力信号をマルチプレクサにより多重化し、圧縮ビットストリームを形成するビデオ圧縮ユニットを備えている。 ここで、標準YUVタイプMPEGエンコーダは、MPEG-1やMPEG-2などのMPEG規格における標準YUVタイプMPEGエンコーダであるといえ、そのことから、MPEG類似の情報配信システムは、MPEG-1やMPEG-2などのMPEG規格を利用する情報配信システムといえる。 これらのことから、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という)が記載されていると認められる。 (引用発明) MPEG-1やMPEG-2などのMPEG規格を利用する情報配信システムが備えたビデオ信号を圧縮符号化するビデオ圧縮ユニットであって、 4:4:4解像度映像のコンポーネント・レベル(RGB)の3つの成分のビデオ信号を、3つのMPEG-1やMPEG-2などのMPEG規格における標準YUVタイプMPEGエンコーダ(例、4:2:0又は4:2:2)の輝度符号化部のみを利用して圧縮符号化し、 符号化された圧縮ビデオ出力信号をマルチプレクサにより多重化し、圧縮ビットストリームを形成する、 ビデオ圧縮ユニット。 3.対比 本願発明と引用発明とを対比する。 (1)本願発明の構成(A)について 引用発明の「ビデオ信号を圧縮符号化するビデオ圧縮ユニット」は、MPEG-1やMPEG-2などのMPEG規格を利用する情報配信システムが備えた「ビデオ圧縮ユニット」であるから、ビデオ信号を画像ブロックに分割して符号化を行うものであることは明らかであり、『画像ブロックのためのビデオ信号データを符号化するもの』ということができる。 そして、「ビデオ圧縮ユニット」は、符号化を行う『装置』である。 よって、引用発明の「ビデオ信号を圧縮符号化するビデオ圧縮ユニット」は、本願発明の構成(A)の「画像ブロックのためのビデオ信号データを符号化するための装置」と相違しない。 (2)本願発明の構成(B)について 引用発明の「ビデオ圧縮ユニット」は、「コンポーネント・レベル(RGB)の3つの成分のビデオ信号を、3つのMPEG-1やMPEG-2などのMPEG規格における標準YUVタイプMPEGエンコーダ(例、4:2:0又は4:2:2)の輝度符号化部のみを利用して圧縮符号化し、符号化された圧縮ビデオ出力信号をマルチプレクサにより多重化し、圧縮ビットストリームを形成する」ものである。 ここで、MPEG-1やMPEG-2などのMPEG規格における標準YUVタイプMPEGエンコーダは、残差色変換、すなわち、予測後の3つの色成分の予測残差信号に対して色成分間の相関を除去する変換、を行う機構を有していないことは周知の事項である。 さらに、3つの標準YUVタイプMPEGエンコーダの輝度符号化部のみを利用して、3つの成分(RGB)のビデオ信号を圧縮符号化した圧縮ビデオ出力信号を、単にマルチプレクサにより多重化しているのみであるから、3つの成分(RGB)の圧縮ビデオ出力信号に対して、何らかの変換を実施していないことも明らかである。 したがって、引用発明の「ビデオ圧縮ユニット」は、ビデオ信号の3つの成分(RGB)に対して、残差色変換などの変換を実施しないでビデオ信号を圧縮符号化する3つのMPEGエンコーダを有しているものであり、「MPEGエンコーダ」は『符号器』であるから、本願発明の構成(B)の「前記装置は、前記ビデオ信号データの色成分のすべてに対して残差色変換を適用せずに前記ビデオ信号データの色成分を符号化するための符号器を含み」と相違しない。 (3)本願発明の構成(C)について 引用発明は、3つのMPEG-1やMPEG-2などのMPEG規格における標準YUVタイプMPEGエンコーダ(例、4:2:0又は4:2:2)の輝度符号化部のみを利用して、コンポーネント・レベル(RGB)の3つの成分のビデオ信号を圧縮符号化するものである。 すなわち、「MPEGエンコーダ」は、3つのMPEG-1やMPEG-2などのMPEG規格における標準YUVタイプMPEGエンコーダの輝度符号化部のみを利用して、ビデオ信号の3つの成分(RGB)を圧縮符号化するものである。 さらに、引用発明の「標準YUVタイプMPEGエンコーダの輝度符号化部」は、ビデオ信号の3つの成分(RGB)を圧縮符号化するのであるから、ここでは、色成分予測器として機能しているものといえる。 そうすると、引用発明は、本願発明の構成(C)と「前記符号器は、色成分予測器を使用して前記ビデオ信号データの色成分を符号化し」というものである点で共通する。 ただし、本願発明の符号器は、「共通の」色成分予測器を使用して色成分「のすべて」を符号化するものであるのに対し、引用発明の符号器は、「3つの」色成分予測器を使用して色成分「の各々」を符号化するものである点で、両者は相違する。 (4)本願発明の構成(D)について 引用発明は、4:4:4解像度映像のコンポーネント・レベル(RGB)の3つの成分のビデオ信号を圧縮符号化するものであるから、3つの成分(RGB)のビデオ信号のサンプリングは、4:4:4フォーマットであるといえる。 そうすると、引用発明は、本願発明の構成(D)と「前記ビデオ信号データのサンプリングは、4:4:4フォーマットに対応する」というものである点で共通する。 ただし、4:4:4フォーマットに関して、本願発明では、「国際電気通信連合電気通信標準化部門のH.264規格の」4:4:4フォーマットであるのに対し、引用発明では、そのような4:4:4フォーマットの特定がない点で、両者は相違する。 (5)まとめ 上記(1)ないし(4)の対比結果を踏まえると、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は次の通りである。 [一致点] 画像ブロックのためのビデオ信号データを符号化するための装置であって、前記装置は、前記ビデオ信号データの色成分のすべてに対して残差色変換を適用せずに前記ビデオ信号データの色成分を符号化するための符号器を含み、前記符号器は、色成分予測器を使用して前記ビデオ信号データの色成分を符号化し、前記ビデオ信号データのサンプリングは、4:4:4フォーマットに対応する、前記装置。 [相違点1] 本願発明の符号器は、「共通の」色成分予測器を使用して色成分「のすべて」を符号化するものであるのに対し、引用発明の符号器は、「3つの」色成分予測器を使用して色成分「の各々」を符号化するものである点。 [相違点2] 4:4:4フォーマットに関して、本願発明では、「国際電気通信連合電気通信標準化部門のH.264規格の」4:4:4フォーマットであるのに対し、引用発明では、そのような4:4:4フォーマットの特定がない点。 4.相違点の判断 (1)相違点1について 装置が同じ処理を行う構成を重複して有している際に、可能であればそのような構成を共通化して装置を簡略化することは、一般的な技術の要請である。 よって、引用発明において、3つの色成分を3つの同じ色成分予測器を使用して各々符号化していたものを、1つの色成分予測器を共通に利用して、全ての色成分を共通の色成分予測器を使用して符号化する構成を採用し、符号器を、相違点1に係る「共通の色成分予測器を使用して色成分のすべてを符号化する」構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 (2)相違点2について 引用発明は、MPEG-1やMPEG-2などのMPEG規格を利用するものであるが、この時に画像信号のフォーマットとして利用されていた4:4:4フォーマットと「国際電気通信連合電気通信標準化部門のH.264規格の4:4:4フォーマット」は同じフォーマットであり、相違点2は実質的に相違しない。 5.効果等について 本願発明の構成は、上記のように当業者が容易に想到できたものであるところ、本願発明が奏する効果は、当業者が予測しうる範囲内のものであって、格別顕著なものがあるとは認められない。 6.まとめ 以上のとおりであるから、本願発明は引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のように、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-11-06 |
結審通知日 | 2017-11-08 |
審決日 | 2017-11-21 |
出願番号 | 特願2013-129003(P2013-129003) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H04N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 坂東 大五郎、長谷川 素直 |
特許庁審判長 |
篠原 功一 |
特許庁審判官 |
渡辺 努 清水 正一 |
発明の名称 | ビデオ符号化のための方法および装置 |
代理人 | 倉持 誠 |
代理人 | 吹田 礼子 |