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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 C09J
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C09J
管理番号 1339104
審判番号 不服2016-8541  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-06-08 
確定日 2018-04-24 
事件の表示 特願2011-224131「異方導電性フィルム、これに含まれる異方導電性フィルム組成物およびこれを含む装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 7月26日出願公開、特開2012-140589、請求項の数(14)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年10月11日(パリ条約による優先権主張 平成22年12月29日、(KR)韓国)の出願であって、平成27年5月15日付けで拒絶理由が通知され、同年8月17日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成28年2月2日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年6月8日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同時に手続補正がされ、平成29年2月17日付けで、当審より拒絶理由が通知され(以下、「当審拒絶理由1」という。)、同年6月20日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年10月11日付けで、当審より拒絶理由が通知され(以下、「当審拒絶理由2」という。)、平成30年1月17日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の拒絶理由の概要
原査定(平成28年2月2日付け拒絶査定)の拒絶理由の概要は次のとおりである。
「(進歩性)本願発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



引用例A1:米国特許出願公開第2010/0148130号明細書
引用例A2:特開平4-314391号公報
引用例A3:特開2007-9176号公報
引用例A4:特開平8-253745号公報
引用例A5:特開2003-332385号公報
引用例A6:特開平9-199207号公報
引用例A7:特開2002-335080号公報
引用例A8:特開2005-187637号公報
引用例A9:特開2005-322938号公報
引用例A10:特開2001-131527号公報」

第3 当審拒絶理由1、2の概要
当審拒絶理由1、2の概要は次のとおりである。
1.当審拒絶理由1
「(進歩性)(1)本願発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



引用例B1:特開2005-307210号公報
引用例B2:特開2005-126658号公報
引用例B3:特開平9-199207号公報(引用例A6)
引用例B4:特開2005-187637号公報(引用例A8)

(明確性要件)(2)本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



請求項1に記載された「電気伝導度」は、一般的には抵抗率の逆数を指すところ、本願発明においては、抵抗率の逆数ではなく、「異方導電性フィルム0.4gを20gの脱イオン水(D.I.W)に入れた後、100℃で10時間沸騰し、水に溶け出たイオンを伝導度メーター(Conductivity Meter)を使用して測定」(【0019】)した値であるので、請求項1において、「電気伝導度」がどのように測定され、定義されるのか、明確にする必要があると認められる。

また、(補正後の)請求項13において、「異方導電性フィルム組成物」とは、「異方導電性フィルム用の(硬化前の)組成物」なのか、「異方導電性フィルムの(硬化後の)組成物」なのか曖昧であるから、そのどちらであるか明確にする必要があると認められる。」

2.当審拒絶理由2
「(進歩性)本願発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



引用例C1:特開2009-110913号公報」

第4 本願発明
本願発明は、平成30年1月17日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、それぞれ、「本願発明1」?「本願発明14」といい、まとめて「本願発明」という。)。
「【請求項1】
バインダー、硬化剤、開始剤および導電性粒子を含み、前記バインダーがニトリルブタジエンゴム系樹脂およびウレタン系樹脂からなる群から選択される1種以上を含み、イオン含有量が0超100質量ppm以下であり、電気伝導度が0超100μS/cm以下であり、
前記開始剤が、ラジカル開始剤である、異方導電性フィルムであって、
前記電気伝導度が、前記異方導電性フィルム0.4gを20gの脱イオン水(D.I.W)に入れた後、100℃で10時間沸騰し、水に溶け出たイオンを伝導度メーター(Conductivity Meter)を使用して測定した値であり、
前記ニトリルブタジエンゴム系樹脂のイオン含有量が0超100質量ppm以下であり、
前記ウレタン系樹脂のイオン含有量が0超100質量ppm以下であり、
前記バインダーが、アクリル系樹脂をさらに含み、
前記アクリル系樹脂は、質量平均分子量が50,000?2,000,000g/molである、異方導電性フィルム。
【請求項2】
前記イオン含有量が0超50質量ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載の異方導電性フィルム。
【請求項3】
前記バインダーが、前記アクリル系樹脂を20?80質量%で含み、イオン含有量が0超100質量ppm以下の前記ニトリルブタジエンゴム系樹脂を20?80質量%で含むことを特徴とする請求項1に記載の異方導電性フィルム。
【請求項4】
前記バインダーが、前記アクリル系樹脂を20?80質量%で含み、イオン含有量が0超100質量ppm以下の前記ウレタン系樹脂を20?80質量%で含むことを特徴とする請求項1に記載の異方導電性フィルム。
【請求項5】
前記バインダーが、前記アクリル系樹脂を20?90質量%で含み、イオン含有量が0超100質量ppm以下の前記ニトリルブタジエンゴム系樹脂を5?55質量%で含み、イオン含有量が0超100質量ppm以下の前記ウレタン系樹脂を5?40質量%で含むことを特徴とする請求項1に記載の異方導電性フィルム。
【請求項6】
前記バインダーが、アクリロニトリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、オレフィン系樹脂およびシリコン系樹脂からなる群から選択される1種以上の熱可塑性樹脂をさらに含むことを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の異方導電性フィルム。
【請求項7】
前記硬化剤が、ウレタン(メタ)アクリレートおよび(メタ)アクリレート単量体からなる群から選択される1種以上を含むことを特徴とする請求項1?6のいずれか1項に記載の異方導電性フィルム。
【請求項8】
固形分基準で前記バインダー20?78質量%、前記硬化剤20?50質量%、前記ラジカル開始剤1?10質量%および前記導電性粒子1?20質量%を含むことを特徴とする請求項1?7のいずれか1項に記載の異方導電性フィルム。
【請求項9】
ポリウレタンビーズをさらに含むことを特徴とする請求項1?8のいずれか1項に記載の異方導電性フィルム。
【請求項10】
前記ポリウレタンビーズは、イオン交換処理されたものであることを特徴とする請求項9に記載の異方導電性フィルム。
【請求項11】
前記ポリウレタンビーズのイオン含有量が、0超10質量ppm以下であることを特徴とする請求項9または10に記載の異方導電性フィルム。
【請求項12】
前記ポリウレタンビーズが、固形分基準で前記異方導電性フィルム100質量部に対して1?10質量部で含まれることを特徴とする請求項9?11のいずれか1項に記載の異方導電性フィルム。
【請求項13】
バインダー、硬化剤、開始剤および導電性粒子を含み、前記バインダーがニトリルブタジエンゴム系樹脂およびウレタン系樹脂からなる群から選択される1種以上を含む、異方導電性フィルム用の硬化前である異方導電性フィルム組成物であって、
前記異方導電性フィルム組成物から製造された異方導電性フィルムのイオン含有量が0超100質量ppm以下であり、
前記異方導電性フィルム組成物から製造された異方導電性フィルムの電気伝導度が0超100μS/cm以下であり、前記電気伝導度が、前記異方導電性フィルム0.4gを20gの脱イオン水(D.I.W)に入れた後、100℃で10時間沸騰し、水に溶け出たイオンを伝導度メーター(Conductivity Meter)を使用して測定した値であり、
前記ニトリルブタジエンゴム系樹脂のイオン含有量が0超100質量ppm以下であり、
前記ウレタン系樹脂のイオン含有量が0超100質量ppm以下であり、
前記バインダーが、アクリル系樹脂をさらに含み、
前記アクリル系樹脂は、質量平均分子量が50,000?2,000,000g/molであり、
前記開始剤が、ラジカル開始剤であることを特徴とする異方導電性フィルム組成物。
【請求項14】
請求項1?12のいずれか1項に記載の異方導電性フィルムまたは請求項13に記載の異方導電性フィルム組成物から製造された異方導電性フィルムのいずれか1種以上を含む装置。」

第5 当審の判断
1.引用例の記載事項
(1)引用例A1:米国特許出願公開第2010/0148130号明細書
引用例A1には、「COMPOSITION FOR CIRCUIT CONNECTION FILM AND CIRCUIT CONNECTION FILM USING THE SAME(当審仮訳(以下、括弧内は当審仮訳):回路接続フィルム用組成物及びそれを用いた回路接続フィルム)」(発明の名称)について、次の記載がある。
「[0008] It is a feature of an embodiment to provide a composition for a circuit connection film that permits easy control of fluidity and curability, thereby preventing a decrease in resin exclusion from a space between upper and lower electrodes even in a fine terminal.
(本発明の特徴は、流動性、硬化性について容易に制御できる回路接続フィルム用組成物を提供することであり、それによって、微細な端子であっても、上部電極と下部電極との間の空間から樹脂が排出されることによる量の減少を防止できる。)
[0009] It is another feature of an embodiment to provide a composition for a circuit connection film which has improved curability and is applicable to a low-temperature connection process.
(本発明の別の特徴は、硬化性を向上し、低温の接続処理にも適用することができる回路接続フィルム用組成物を提供することにある。)」
「Example 1(E1)
[0079] A composition for a circuit connection film was obtained by mixing 100 parts by weight of a binder resin with 11.2 parts by weight of isocyanuric acid ethylene oxide modified diacrylate having a DSC heating peak of 85 to 95℃., 15.4 parts by weight of bisphenol A propyleneoxide modified diacrylate (weight-average molecular weight: 1,000), 1.4 parts by weight of acid phosphoxyethyl methacrylate, 1.4 parts by weight of solid lauroylperoxide dissolved in toluene (10%), 0.7 parts by weight of solid benzoylperoxide dissolved in toluene (10%), and 9.8 parts by weight of nickel powder having an average particle size of 5 to 6 μm. The binder resin contains: 35 wt. % polyurethane acrylate (weight-average molecular weight: 25,000), synthesized by polyaddition of polyol (content: 60%), hydroxymethacrylate and isocyanate (mole ratio of hydroxymethacrylate to isocyanate: 0.5) with methyl ethyl ketone (50 vol. %) as a solvent at 90℃. and a pressure of 1 atm. for 5 hours in the presence of dibutyltin dilaurate as a catalyst; 40.5 wt. % polyurethane acrylate (weight-average molecular weight: 28,000), synthesized by polyaddition of polyol (content: 60%), hydroxymethacrylate and isocyanate (mole ratio of hydroxymethacrylate to isocyanate: 1) with methyl ethyl ketone (50 vol. %) as a solvent at 90℃. and a pressure of 1 atm. for 5 hours in the presence of dibutyltin dilaurate as a catalyst; 10.5 wt. % carboxyl modified acrylonitrile butadiene rubber (weight-average molecular weight: 240,000, Nipol NBR, Jeon Chemicals); and 14 wt. % of an acrylic copolymer (weight-average molecular weight: 120,000, Tg: 90℃., acid value: 1 to 4 mg KOH/g, AOF7001, Aekyung Chemical Co., Ltd.).
(実施例1(E1)
バインダ樹脂100重量部と、85?95℃のDSC発熱ピークを有するイソシアヌル酸エチレンオキシド変性ジアクリレート11.2重量部と、ビスフェノールAプロピレンオキサイド変性ジアクリレート(重量平均分子量:1,000)15.4重量部と、アシッド・ホスホキシ・エチルメタクリレート1.4重量部と、トルエン(10%)に溶かした過酸化ラウロイル1.4重量部と、トルエン(10%)に溶かした過酸化ベンゾイルの0.7重量部と、平均粒径5?6μmのニッケル粉末9.8重量部とを混合して、回路接続フィルム用組成物が得られた。このバインダ樹脂は、35重量%のポリウレタンアクリレート(重量平均分子量:25,000)と、40.5重量%のポリウレタンアクリレート(重量平均分子量28,000)と、10.5重量%のカルボキシル変性アクリロニトリルブタジエンゴム(重量平均分子量:240,000、Nipol NBR、Jeon Chemicals)と14重量%のアクリル系共重合体(重量平均分子量:120,000、Tg:90℃、酸価:1?4mgKOH/g、AOF7001、Aekyung Chemical Co.,Ltd.)とからなる。ポリウレタンアクリレート(重量平均分子量:25,000)は、90℃、圧力1atmで、触媒としてのジラウリン酸ジブチルスズの存在下で、溶剤としてのメチルエチルケトン(50体積%)とポリオール(含量:60%)とヒドロキシメタクリレートとイソシアネート(ヒドロキシメタクリレートに対するイソシアネートのモル比0.5)とを、5時間、付加重合することにより合成された。ポリウレタンアクリレート(重量平均分子量:28,000)は、90℃、圧力1atmで、触媒としてのジラウリン酸ジブチルスズの存在下で、溶剤としてのメチルエチルケトン(50体積%)とポリオール(含量:60%)とヒドロキシメタクリレートとイソシアネート(ヒドロキシメタクリレートに対するイソシアネートのモル比1)とを、5時間、付加重合することにより合成された。)」

(2)引用例A2:特開平4-314391号公報
引用例A2には、「アディティブ法プリント配線板用接着剤」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【0014】本発明に用いる高純度アクリロニトリルブタジエンゴムは、その製造工程において、これらのイオン性物質を極力使用しない製造法とした。その結果、K+、Na+、Ma+、SO_(4)^(2-)、 Cl^(-)、などの各イオン総量を50ppm以下とすることができる。」
「【0040】本発明はアクリロニトリルブタジエンゴムに、メタクリル酸グリシジルを付与し、さらに、イオン性の不純物を低減させると同時にエポキシ樹脂、フェノール樹脂、光開始剤を配合する構成とした。
【0041】その結果、紫外線によって低温、短時間で接着剤が硬化すると同時に耐電食性に優れたアディティブ法プリント配線板用接着剤を提供することができる。」

(3)引用例A3:特開2007-9176号公報
引用例A3には、「異方導電性接着フィルム」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【0025】
本発明で重要な要件は、該絶縁性接着剤の硬化後の吸水率であり、85℃、相対湿度85%、300時間の加湿試験で重量増加率が5%以下であることが好ましく、更に好ましくは4%以下、更に好ましくは3%以下で、この値は0に近く低いほど良い。
吸水率が5%を超えて高いと、長期接続安定性が保持できず好ましくない。
本発明のもう一つの重要な要件は、該絶縁性接着剤の全塩素量であって、該絶縁性接着剤中に含まれる有機塩素および無機塩素の総量のことであり、該絶縁性接着剤の樹脂(好ましくは前記エポキシ樹脂)に対する質量基準の値である。具体的には、試料1gを25mlのエチレングリコールモノブチルエーテルに溶解し、これに1規定水酸化カリウム/プロピレングリコール溶液25mlを加えて20分間煮沸した後、硝酸銀水溶液で滴定した値である。具体的数値としては、全塩素量は600ppm以下であり、好ましくは450ppm以下、さらに好ましくは300ppm以下で0に近い程良い。
全塩素量が600ppmを超えて多いと、長期接続安定性が保持できず好ましくない。
【0026】
全塩素量の低い樹脂を得る方法としては、もともと全塩素量の少ない樹脂を用いること以外に、樹脂を使用する前に精製する方法が一般的で、通常の有機合成で用いられる種々の精製方法を用いることができ、蒸留、再結晶、液液抽出、吸着などの方法が例示される。
該絶縁性接着剤は、接続に際して加熱されたり、樹脂と基板等の熱伝導率の差により、応力がかかったり、剥離が生じたりする場合があるため、上記吸水率や全塩素量以外にも、具備しておくことが好ましい物性がいくつか例示される。代表的な物性としては、例えば、該絶縁性接着剤が明瞭な融点を持つ場合には、該絶縁性接着剤の融点は一般的に25℃以上250℃以下が好ましく、JIS-K-6887記載の方法で測定した引張り強さは一般的に0.3kgf/mm^(2)以上10kgf/mm^(2)以下が好ましく、伸びは一般的に0%以上300%以下であることが好ましい。」

(4)引用例A4:特開平8-253745号公報
引用例A4には、「接着剤」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【0011】上記接着樹脂及び硬化剤からなる接着剤は、不純物イオン濃度が50ppm以下のものを使用することが、ショートを防止する観点から好ましい。なお、この不純物イオンに該当するものは、例えばナトリウム、カリウム等のアルカリ金属イオン、塩素等のハロゲンイオンである。(当審注:以下略)」

(5)引用例A5:特開2003-332385号公報
引用例A5には、「回路接続材料及びそれを用いた回路接続体の製造方法」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【0017】本発明は、接着剤が少なくとも一方の回路電極から他方の回路電極上にはみ出したはみ出部分を有し、はみ出部分の接着剤の塩化物イオン(Cl^(-))量が40ppm以下である回路接続材料である。塩化物イオン量を40ppm以下とするには、接着剤または接着剤成分の溶解溶液を作製し、イオン交換樹脂を用いて脱イオン化する方法や活性アルミナを添加して活性アルミナのイオン吸着量により塩化物イオン量を40ppm以下とする方法が挙げられる。用いる接着剤の塩化物イオン量を低減させることが簡便であり好ましい。この他に接着剤中にイオン補足剤を配合することも有効である。しかし、活性アルミナやイオン交換樹脂でイオンを補足することがその濃度を1/100程度までに低濃度化し、かつ、イオン吸着物質を分離しやすいので好適である。本発明の回路接続材料に含まれる塩化物イオン(Cl^(-))の量は、40ppm以下が好ましく、30ppm以下がより好ましく、20ppm以下がさらに好ましく、15ppm以下がもっとも好ましい。本発明の回路接続材料に含まれる塩化物イオン(Cl^(-))の量が40ppmを超えると、電触が発生する傾向がある。不純物イオン量は、たとえば、接続材料を蒸留水に分散し、120℃、16時間抽出した溶液のイオンクロマトグラフィにより測定することができる。そして、測定した回路接続材料の重量に対して塩化物イオンの量を求める。測定方法が体積で得られるものであっても塩化物イオン量は微量であるので重量基準とする。」

(6)引用例A6:特開平9-199207号公報
引用例A6には、「異方性導電接着フィルム」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【0003】一般に、異方性導電接着フィルムは、フィルム状の絶縁性接着剤樹脂中に導電粒子を含有しており、導電粒子としては、例えば、金属の粒子や樹脂粒子にめっきを施したもの等が用いられる。また、絶縁性接着剤樹脂中には、カップリング剤や硬化剤等が含まれている。その一方、異方性導電接着フィルムは、LCD等の精密機器の周辺の接続に使用されるため高い信頼性が要求されており、絶縁性接着剤樹脂としては、主にエポキシ系の熱硬化樹脂が用いられている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このような従来の異方性導電接着フィルムにおいては、次のような問題があった。すなわち、絶縁性接着剤樹脂中のエポキシ樹脂や硬化剤には、製造工程に起因する加水分解性の塩素、ナトリウム、カリウム等が残留しており、これらの塩素等が加湿及び加熱下のエージングによって遊離イオンとして抽出され、その結果、塩素イオン等が発生し、この塩素イオン等が接続部分の金属パターンを腐食させる原因となっていた。例えば、金属パターンがAl配線である場合には、以下のような化学反応によりパターンに腐食が発生し、最終的に断線を引き起こすこともあった。
【0005】
Al+3Cl^(-) → AlCl_(3)+3e^(-)
AlCl_(3)+3H_(2)O → Al(OH)_(3)+3HCl
Al(OH)_(3)+Cl^(-) → Al(OH)_(2)Cl+OH^(-)
【0006】本発明は、このような従来の技術の課題を解決するためになされたもので、エージング時に発生する塩素イオン等に起因する接続部分の金属パターンの腐食を防止しうる異方性導電接着フィルムを提供することを目的とするものである。」
「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、絶縁性接着剤中に導電粒子を含有する異方性導電接着フィルムにおいて、フィルム中の遊離イオン濃度が高い程金属パターンの腐食が発生しやすくなること、及びこの遊離イオン濃度を所定の値以下にすることにより、接続部分の金属パターンの腐食を防止しうる異方性導電接着フィルムが得られることを見い出した。
【0008】本発明はこのような知見に基づいて完成されたものであって、請求項1記載の発明は、絶縁性接着剤中に導電粒子を分散させた異方性導電接着フィルムにおいて、フィルム中の遊離イオン濃度が60ppm以下であることを特徴とする。」

(7)引用例A7:特開2002-335080号公報
引用例A7には、「多層配線板の製造法」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【0006】本発明に好適な接着剤層7について説明する。接着剤6としては、シート等に用いられる熱可塑性材料や、熱、光、電子線等のエネルギーによる硬化性材料が広く適用出来る。多層配線板の耐熱性や耐湿性に優れることから硬化性材料が好ましく、中でもエポキシ系接着剤やイミド系接着剤は、分子構造上接着性や耐熱性に優れることや硬化時間が広く設定出来ることから好ましい。エポキシ系接着剤は、例えば高分子量エポキシ、固形エポキシと液状エポキシ、ウレタンやポリエステル、NBR等で変性したエポキシを主成分とし、硬化剤や触媒、カップリング剤、充填剤等を添加してなるものが一般的である。これら材料は、抽出水のNaイオンやClイオンが20ppm以下の高純度品であると、多層配線板の耐電食性が向上することが好ましい。」

(8)引用例A8:特開2005-187637号公報
引用例A8には、「異方導電性接着剤、液晶表示素子用上下導通材料及び液晶表示素子」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、被覆導電性微粒子と硬化性樹脂組成物とからなる異方導電性接着剤であって、硬化前における抽出水イオン伝導度が50μS/cm以下である異方導電性接着剤である。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明の異方導電性接着剤は、液晶表示素子用上下導通材料として用いた場合に硬化前の状態で液晶と接触することもあることから、硬化前においても液晶への成分の混入をできる限り抑制することが重要である。
即ち、本発明の異方導電性接着剤は、硬化前における抽出水イオン伝導度が50μS/cm以下である。50μS/cmを超えると、本発明の異方導電性接着剤がイオン性の不純物を含有していることを意味し、本発明の異方導電性接着剤を液晶表示素子用上下導通材料として用いた場合にイオン性不純物が液晶中に溶出し、液晶駆動電圧に影響を与え、表示ムラの原因となる。好ましくは30μS/cm以下である。
なお、上記抽出水イオン伝導度は、本発明の異方導電性接着剤12.5gを溶媒12.5gに溶解させ、その溶液を純水50mLで抽出し、その純水の伝導率を導電率計(例えば、堀場製作所社製「ES-12」等)を用いて測定することにより得ることができる。」
「【0027】
上記金属表面粒子と絶縁粒子とからなる被覆導電性微粒子は、溶出試験後のイオン濃度が10ppm以下であることが好ましい。10ppmを超えると、液晶表示素子用上下導通材料として用いた場合に、被覆導電性微粒子に起因する液晶汚染が発生し、短絡等の原因となることがある。なお、本明細書において、上記溶出試験とは、被覆導電性微粒子1gと10mLの超純水とを石英管に封入し、120℃、24時間抽出したときに、超純水中に抽出されるイオンの濃度を測定する試験をいう。
【0028】
このような抽出されるイオンの濃度を達成する方法としては特に限定されないが、金属表面粒子と絶縁粒子とをイオン成分を全く含まない材料により造粒する方法;イオン成分を全く含まない原料を用い、重合等により金属表面粒子と絶縁粒子とを合成する方法;原料の一部にイオン性の原料を用い、重合によりイオン性官能基を有する金属表面粒子又は絶縁粒子となる樹脂微粒子を製造した後、置換、変成により上記樹脂微粒子表面及び/又は内部のイオン性官能基を除去する方法等が挙げられる。」
「【0081】
(4)液晶表示素子の作製
液晶表示素子として液晶パネルを以下のようにして作製した。
まず、TFT基板及びカラーフィルター基板の両基板をともに洗浄工程からラビング工程までの処理を行い、TFT基板に面内スペーサ(スペーサ径5μm)を散布した後、ディスペンサーにより異方導電性接着剤の塗布を行った。
次に、カラーフィルター基板に、硬化性樹脂組成物を長方形の枠を描くようにディスペンサーで塗布した。これと異方導電性接着剤を塗布済みのTFT基板とを貼り合わせ、2000J/cm^(2)の紫外線を照射し、更に120℃、1時間の条件で放置することにより硬化させ、空の液晶表示パネルを作製した。
次に、注入口より液晶(メルク社製、「ZLI-4792」)を注入し、注入口を硬化性樹脂組成物を用いて封止し、2000J/cm^(2)の紫外線を照射して硬化させ、液晶表示パネルを作製した。」
「【0089】
(硬化後の硬化性樹脂組成物の体積抵抗値)
クロム蒸着ガラス基板のクロム蒸着面上に硬化性樹脂組成物を薄く均一に塗布した後紫外線硬化して、大きさ85mm×85mm、厚さ3mの紫外線硬化物を形成し、この上にクロム蒸着面を紫外線硬化物側にしてクロム蒸着ガラス基板を載せて荷重をかけて、120℃のホットプレート上で1時間加熱圧着し、試験サンプルを作製した。この試験サンプルにおける硬化性樹脂組成物の面積(S(cm^(2)))、対向するクロム蒸着ガラス基板のクロム蒸着面間に定電圧発生装置(ケンウッド社製、PA36-2AレギュレーテッドDCパワーサプライ)を用いて一定の電圧(V(V))を印加し、膜に流れる電圧(A(A))を電流計(アドバンテスト社製、R644Cデジタルマルチメーター)にて測定した。
硬化性樹脂組成物の膜圧(T(cm))としたとき、下記式により体積抵抗率(Ω・cm)を求めた。
体積抵抗率(Ω・cm)=(V・S)/(A・T)
ただし、印加電圧は直流500V、導電時間は1分間とした。」

(9)引用例A9:特開2005-322938号公報
引用例A9には、「配線接続材料及びそれを用いた配線板製造方法」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【請求項1】
ポリウレタン樹脂2?75重量部と、ウレタンアクリレート30?60重量部と、加熱により遊離ラジカルを発生する硬化剤0.1?30重量部とを含む接着剤成分、及び前記接着剤成分に対して0.1?30体積%の導電粒子、を含有し、
接続端子を有する面が互いに対向するように配置された二以上の配線部材の間に介在され、加熱及び加圧により接続端子間が導通可能なように接続する配線接続用フィルム。」

(10)引用例A10:特開2001-131527号公報
引用例A10には、「導電接着剤、実装構造体、電気光学装置および電子機器」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【請求項1】 接着用樹脂と、前記接着用樹脂中に分散された導電粒子と、を含有する導電接着剤において、
固化した前記接着用樹脂よりも弾性係数の小さな微細粒子が含有されていることを特徴とする導電接着剤。
【請求項2】 前記微細粒子としてアクリル樹脂またはウレタン樹脂を含有する粒子を用いることを特徴とする請求項1に記載の導電接着剤。」

(11)引用例B1:特開2005-307210号公報
引用例B1には、「回路接続材料並びに回路端子の接続構造及び接続方法」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【請求項1】
相対峙する回路電極間に介在され、相対向する回路電極を加圧し加圧方向の電極間を電気的に接続するフィルム状異方導電性回路接続材料であって、下記(1)?(3)の成分を必須とするフィルム状異方導電性回路接続材料。
(1)加熱により遊離ラジカルを発生する硬化剤
(2)カルボキシル基含有エラストマー
(3)ラジカル重合性物質
【請求項2】(当審注:略)
【請求項3】
前記カルボキシル基含有エラストマーが分子末端又は分子鎖中にカルボキシル基を有するブタジエン-アクリロニトリル共重合体である請求項1又は2に記載の回路接続材料。
・・・(当審注:略)・・・」
「【0019】
硬化剤は、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシエステル、パーオキシケタール、ジアルキルパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、シリルパーオキサイドなどから選定できる。また、回路部材の接続端子の腐食を抑えるために、硬化剤中に含有される塩素イオンや有機酸は5000ppm以下であることが好ましく、更に、加熱分解後に発生する有機酸が少ないものがより好ましい。」
「【0067】
また、本発明の封止用成形材料を半導体等の電子部品装置用途に用いる場合、材料中のイオン性不純物をできるだけ低減することが好ましい。したがって、これらカルボキシル基含有エラストマーにおいても、ポリマー中のNa^(+)、K^(+)などのアルカリ金属イオンは、好ましくは10ppm以下、より好ましくは5ppm以下、Cl^(-)は、好ましくは400ppm以下、より好ましくは100ppm以下、更に好ましくは40ppm以下である。」
「【0085】
本発明の回路接続材料は導電性粒子がなくても、接続時に相対向する回路電極の直接接触により接続が得られるが、導電性粒子を含有した場合、より安定した接続が得られる。」
「【実施例】
【0108】
<参考例1>
フェノキシ樹脂(ユニオンカーバイド株式会社製、商品名PKHC、平均分子量45,000)50gを、重量比でトルエン(沸点110.6℃、SP値8.90)/酢酸エチル(沸点77.1℃、SP値9.10)=50/50の混合溶剤に溶解して、固形分40%の溶液とした。
【0109】
ラジカル重合性物質としてトリヒドロキシエチルグリコールジメタクリレート(共栄社油脂株式会社製、商品名80MFA)を用いた。
【0110】
遊離ラジカル発生剤としてt-ヘキシルパーオキシ2-エチルヘキサノネートの50重量%DOP溶液(日本油脂株式会社製、商品名パーキュアHO)を用いた。
【0111】
ポリスチレンを核とする粒子の表面に、厚み0.2μmのニッケル層を設け、このニッケル層の外側に、厚み0.04μmの金層を設け、平均粒径10μmの導電性粒子を作製した。
【0112】
固形重量比でフェノキシ樹脂50g、トリヒドロキシエチルグリコールジメタクリレート樹脂50g、t-ヘキシルパーオキシ2-エチルヘキサノネート5gとなるように配合し、更に導電性粒子を3体積部(樹脂成分100体積部に対し)配合分散させ、厚み80μmの片面を表面処理したPETフィルムに塗工装置を用いて塗布し、70℃、10分の熱風乾燥により、接着剤層の厚みが35μmの回路接続材料を得た。
【0113】
上述の回路接続材料を用いて、ライン幅50μm、ピッチ100μm、厚み18μmの銅回路を500本有するフレキシブル回路板(FPC)同士を160℃、3MPaで10秒間加熱加圧して幅2mmにわたり接続した。このとき、予め一方のFPC上に、回路接続材料の接着面を貼り付けた後、70℃、0.5MPaで5秒間加熱加圧して仮接続し、その後、PETフィルムを剥離してもう一方のFPCと接続することにより、回路を接続した。」
「【0119】
<実施例1>
平均分子量45,000のフェノキシ樹脂(PKHC)100gに末端カルボキシル基含有ブタジエン-アクリロニトリル共重合体(Hycar CTBNX1009-SP、宇部興産(株)製)25gを一般的方法で反応させて、カルボキシル基含有ブタジエン-アクリロニトリル共重合体で変性したフェノキシ樹脂を作製した。このフェノキシ樹脂を用い、フェノキシ樹脂/トリヒドロキシエチルグリコールジメタクリレート、リン酸エステル型アクリレートの固形重量比を60g/39g/1gとしたほかは参考例1と同様にして回路接続材料を得た。
【0120】
この回路接続材料を用いて、参考例1と同様にして回路を接続した。」

(12)引用例B2:特開2005-126658号公報
引用例B2には、「硬化性樹脂組成物、接着性エポキシ樹脂ペースト、接着性エポキシ樹脂シート、導電接続ペースト、導電接続シート及び電子部品接合体」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【0130】
本発明1及び本発明2の硬化性樹脂組成物の硬化物の溶出成分を110℃の熱水で抽出した際の抽出水の電気伝導度が100μS/cm以下であることが好ましい。100μS/cmを超えるということは特に湿潤条件下に置かれた場合に樹脂中の導電性が増すということを意味し、本発明1及び本発明2の硬化性樹脂組成物を用いて導電接続を行った場合に電極間でのリークや絶縁破壊が起こることがある。」
「【0264】
10.抽出水pH測定
接着性エポキシ樹脂シートを170℃のオーブン中で30分間加熱硬化した後、接着性エポキシ樹脂シートの硬化物を約1g秤り取った。次いで、この硬化物を細かく裁断してガラス製の試験管中に入れ、蒸留水を10g添加し、バーナーで試験管を封管して、110℃のオーブン中で時々振りながら12時間加熱抽出を行った後、pHメーターを用いて、抽出水のpHを測定した。
【0265】
11.イオン伝導度測定
上記抽出水をイオン伝導度測定機をもちいて、抽出水のイオン伝導度(μS/cm)を測定した。」
「【0272】
19.接合体TCT導通測定
上記の場合と同様の方法で導通接合体を作製し、これを冷熱サイクル試験機(-40℃⇔125℃、各10分間ずつ)にかけて冷熱サイクル試験(TCT)を行い、適宜サイクル数で取り出して導通抵抗値の変化を確認し、導通抵抗値が10%以上変化したサイクル数を測定した。
【0273】
【表3】(当審注:略)
表3から、実施例7?11で得られた接着性エポキシ樹脂シートでは、相分離構造を示さず、それによって高温時DMSO膨潤比が非常に低いことがわかる。一方、相分離構造を示した比較例4?6では、tanδのピーク値も2つ観測され、またDMSO膨潤比もかなり高いものとなった。これにより、PCT性能が実施例に比べて悪くなっていることがよくわかる。また抽出水pHが中性付近にない実施例12や比較例7で得られた接着性エポキシ樹脂シートではイオン伝導度が比較的高くなっており、これは遊離したイオンが溶出して来ているということである。このとき、電気絶縁性及び電極腐食に大きくかかわってくるといわれている塩素イオン不純物量が非常に多くなっていることがわかる。また、比較例7で得られた接着性エポキシ樹脂シートでは誘電率、誘電正接ともに高い値を示し、物性値として悪い結果となった.
溶融時の最低貯蔵弾性率については、比較例4で得られた接着性エポキシ樹脂シートが非常に低い値となっており、これにより、揮発分による発泡を押さえ込めずに接着樹脂相がボイドを噛んだ接合体となっている。また、実施例7で得られた接着性エポキシ樹脂シートと実施例8で得られた接着性エポキシ樹脂シートとを比べた際に、若干ではあるが、コアシェル型ゴム粒子を添加した実施例8で得られた接着性エポキシ樹脂シートの方がTCTサイクル性能向上が認められた。これはゴム粒子の応力緩和硬化によるものと思われる。」

(13)引用例C1:特開2009-110913号公報
引用例C1には、「半熱硬化性異方導電性フィルム組成物」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【0013】
以下、本発明についてより詳細に説明する。
本発明は、下記成分を含む異方導電性フィルム組成物を提供する。
(i)重量平均分子量150,000?600,000の熱可塑性樹脂;
(ii)重量平均分子量100?10,000のアクリレートまたはメタクリレート官能基を有する熱硬化性材料;
(iii)有機過酸化物;
(iv)シランカップリング剤;および
(v)導電性粒子
<熱可塑性樹脂>
本発明で用いられる熱可塑性樹脂(i)は、フィルム形成に必要なマトリクスとして働く。本発明で用いられる熱可塑性樹脂は、高分子量の熱可塑性樹脂であり、例えば、オレフィン樹脂、アクリルゴム、ブタジエン樹脂、アクリロニトリルブタジエン共重合体、カルボキシル化アクリロニトリルブタジエン共重合体、ポリビニルブチラール樹脂、フェノキシ樹脂、およびエポキシ樹脂などが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、一種単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。ただし、クロロプレンゴムは、工程中に遊離塩化イオンを発生させて回路素子を腐食させうるため、熱可塑性樹脂として適切ではない。」
「【0016】
<熱硬化性材料>
本発明で用いられる熱硬化性材料(ii)は、硬化反応が起こって回路素子間の接続力および接続信頼性を確保できる硬化系として働く。本発明の異方導電性フィルム組成物は、重量平均分子量100?10,000のアクリレートまたはメタクリレート官能基を有する熱硬化性材料である熱硬化性材料(ii)を含み、緻密な硬化構造を形成することができる。
【0017】
前記熱硬化性材料(ii)を含む硬化系によって回路接続工程を短時間に実行できるので、モジュール生産性の高い異方導電性フィルムを提供することができる。前記熱硬化性材料(ii)の重量平均分子量が100未満の場合には急速な反応性により不適切であり、一方、10,000を超える場合には加熱加圧により緻密な硬化構造が確保できないので長期接着性および接着信頼性が低下する場合がある。なお、この熱硬化性材料(ii)の重量平均分子量は、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。」
「【0018】
前記熱硬化性材料(ii)としては、ポリマー、オリゴマーおよびモノマーのいずれか一つを用いてもよく、これらの2種以上を混合して用いてもよい。
前記熱硬化性材料(ii)としては、特に制限されないが、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、イソブチルアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、2-ヒドロキシ-1,3-ジアクリロキシプロパン、2,2-ビス(4-(アクリロキシポリメトキシ)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(アクリロキシポリエトキシ)フェニル)プロパン、ジシクロペンテニルアクリレート、トリシクロデカニルアクリレートまたはトリス(アクリロイルオキシエチル)イソシアノレートなどの官能基を含む、モノマー、オリゴマーまたはポリマーを用いてもよい。これらの熱硬化性材料は、一種単独でまたは2種以上を混合して用いてもよい。また、接着力および常温安定性を向上させるために、2-メタクリロイルオキシエチルリン酸、2-アクリロイルオキシエチルリン酸などのリン酸エステル構造を有するアクリレートまたはメタクリルレートを用いてもよい。」
「【0020】
<有機過酸化物>
本発明で用いられる有機過酸化物(iii)は、熱硬化開始剤として作用する。本発明の有機過酸化物(iii)としては、通常有機過酸化物として一般に使用されているものを特に制限なく用いることができるが、例えば、ジアシルペルオキシド、ペルオキシジカーボネート、ペルオキシエステル、ペルオキシケタール、およびジアルキルペルオキシドからなる群より選択される少なくとも1種を用いることができる。
【0021】
前記有機過酸化物(iii)の例として、・・・(当審注:略)・・・、ベンゾイルペルオキシド、・・・(当審注:略)・・・などが挙げられる。」
「【0025】
<導電性粒子>
本発明において、導電性粒子(v)は、異方導電性フィルム組成物の導電性能を向上させるために用いられる。本発明の導電性粒子(v)としては、通常導電性粒子として一般に使用されているものを特に制限なく用いることができるが、Au、Ag、Ni、Cu、Sn又ははんだなどを含む金属粒子;カーボン粒子;ベンゾグアニン、PMMA、アクリル共重合体もしくはポリスチレンなどを含む樹脂又はその変性樹脂を、Au、Ag、Ni、Cu、Sn又ははんだなどを含む金属でコーティングした粒子;ならびにその上に絶縁粒子または絶縁膜をさらにコーティングして絶縁処理した導電性粒子からなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。」
「【0032】
前記有機溶媒として、トルエン、キシレン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ベンゼン、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアルデヒド、シクロヘキサノンからなる群より選択される少なくとも一種を用いることができるが、これに限定されることはない。」
「【実施例】
【0034】
以下、実施例を挙げてより詳しく本発明を説明するが、これらの実施例は、説明を目的としたものに過ぎず、本発明の保護範囲を制限するものと解釈してはならない。
実施例1
カルボキシル化アクリロニトリルブタジエン共重合体(1072CGX,Zeon Chemicals,重量平均分子量204,400)80gをトルエン/メチルエチルケトン混合溶媒(2/1重量部)に固形分24%で溶解させた。
【0035】
次に、ビスフェノールA型エポキシアクリレート樹脂(VR60,Showa Highpolymer Co.,LTD.,重量平均分子量7,500)75gをメチルエチルケトンに固形分60%で溶解させて加え、重量平均分子量2,500[下記化学式(1)]のアクリレート樹脂45gを加えた。
【0036】
三つのアクリレート官能基を有するペンタエリトリトールトリアクリレート(Pentaerythritol triacrylate、重量平均分子量298)13gと、2-アクリロイルオキシエチルホスフェート(2-acryloyloxyethyl phosphate,重量平均分子量196)4gとをそれぞれ加え、ベンゾイルペルオキシド4gをトルエンに固形分10%で溶解させて加えた。
【0037】
メタクリルオキシ基を有するシランカップリング剤(3-glycidoxypropyltriethoxysilane)1.7gと、ニッケル(Ni)粒子19gとを添加して異方導電性フィルム組成物を得た。
【0038】
【化1】


「【0050】
上記実施例および比較例の個々の組成物を、鋳造ナイフを用いてシリコーン処理したポリエステルフィルム上に塗布して溶媒乾燥(オーブン温度80℃で5分)させた後、厚さ30?50μmのフィルムを得た。このフィルムを幅1.5mmでスリットしてテストに使用した。」

2.引用例に記載された発明の認定
(1)引用例A1に記載された発明(引用発明A1)
引用例A1には、「実施例1」の「回路接続フィルム用組成物」を用いた「回路接続フィルム」として、
「35重量%のポリウレタンアクリレート(重量平均分子量:25,000)と、40.5重量%のポリウレタンアクリレート(重量平均分子量28,000)と、10.5重量%のカルボキシル変性アクリロニトリルブタジエンゴム(重量平均分子量:240,000、Nipol NBR、Jeon Chemicals)と14重量%のアクリル系共重合体(重量平均分子量:120,000、Tg:90℃)とからなるバインダ樹脂100重量部と、
85?95℃のDSC発熱ピークを有するイソシアヌル酸エチレンオキシド変性ジアクリレート11.2重量部と、ビスフェノールAプロピレンオキサイド変性ジアクリレート(重量平均分子量:1,000)15.4重量部と、アシッド・ホスホキシ・エチルメタクリレート1.4重量部と、トルエン(10%)に溶かした過酸化ラウロイル1.4重量部と、トルエン(10%)に溶かした過酸化ベンゾイルの0.7重量部と、
平均粒径5?6μmのニッケル粉末9.8重量部とを混合して得られた回路接続フィルム用組成物を用いた回路接続フィルム。」(以下、「引用発明A1」という。)が記載されていると認められる。

(2)引用例B1に記載された発明(引用発明B1)
引用例B1の請求項1、3の記載から、引用例B1には、
「相対峙する回路電極間に介在され、相対向する回路電極を加圧し加圧方向の電極間を電気的に接続するフィルム状異方導電性回路接続材料であって、下記(1)?(3)の成分を必須とするフィルム状異方導電性回路接続材料。
(1)加熱により遊離ラジカルを発生する硬化剤
(2)分子末端又は分子鎖中にカルボキシル基を有するブタジエン-アクリロニトリル共重合体であるカルボキシル基含有エラストマー
(3)ラジカル重合性物質」が記載されているといえる。

そして、引用例B1の【0085】には、導電性粒子を含有した場合、より安定した接続が得られることが記載され、請求項1を引用する請求項3に係る発明を具体化した、実施例1は、「ポリスチレンを核とする粒子の表面に、厚み0.2μmのニッケル層を設け、このニッケル層の外側に、厚み0.04μmの金層を設け、平均粒径10μmの導電性粒子」(以下、単に、「導電性粒子」という。)を備えたものであり、
「(1)加熱により遊離ラジカルを発生する硬化剤」、すなわち、「遊離ラジカル発生剤」として、「t-ヘキシルパーオキシ2-エチルヘキサノネートの50重量%DOP溶液(日本油脂株式会社製、商品名パーキュアHO)」を、
「(2)分子末端又は分子鎖中にカルボキシル基を有するブタジエン-アクリロニトリル共重合体であるカルボキシル基含有エラストマー」として、「平均分子量45,000のフェノキシ樹脂(PKHC)100gに末端カルボキシル基含有ブタジエン-アクリロニトリル共重合体(Hycar CTBNX1009-SP、宇部興産(株)製)25gを一般的方法で反応させて、カルボキシル基含有ブタジエン-アクリロニトリル共重合体で変性したフェノキシ樹脂」を、
「(3)ラジカル重合性物質」として、「トリヒドロキシエチルグリコールジメタクリレート(共栄社油脂株式会社製、商品名80MFA)」を用いたものである。

また、引用例B1の【0019】には、回路部材の接続単位の腐食を抑えるために、硬化剤に含有される塩素イオンや有機酸の量は低いことが好ましいことが記載されている。
そして、引用例B1の【0067】には、「本発明の封止用成形材料を半導体等の電子部品装置用途に用いる場合、材料中のイオン性不純物をできるだけ低減することが好ましい。」と記載されているところ、「封止用成形材料」という用語や「封止」という用語は、引用例B1の他の記載には見当たらないことから、該「封止用成形材料」は、「回路接続材料」の誤記と認められる。
また、上記「フィルム状異方導電性回路接続材料」は、半導体等の電子部品装置用途に用いられるものであることは明らかであるから、該【0067】から、「フィルム状異方導電性回路接続材料」に含まれるイオン性不純物は、できるだけ低減することが好ましいことが記載されているといえる。
したがって、上記「フィルム状異方導電性回路接続材料」は、イオン性不純物をできるだけ低減させた、回路部材の接続単位の腐食を防ぐような材料とすることが必要であることが理解できる。

そうすると、引用例B1の実施例1には、
「相対峙する回路電極間に介在され、相対向する回路電極を加圧し加圧方向の電極間を電気的に接続するフィルム状異方導電性回路接続材料であって、下記(a)?(d)の成分を有する、イオン性不純物をできるだけ低減させた、回路部材の接続単位の腐食を防ぐような、フィルム状異方導電性回路接続材料。
(a)加熱により遊離ラジカルを発生する硬化剤(遊離ラジカル発生剤)として、t-ヘキシルパーオキシ2-エチルヘキサノネートの50重量%DOP溶液(日本油脂株式会社製、商品名パーキュアHO)(以下、単に「遊離ラジカル発生剤」という。)
(b)分子末端又は分子鎖中にカルボキシル基を有するブタジエン-アクリロニトリル共重合体であるカルボキシル基含有エラストマーとして、平均分子量45,000のフェノキシ樹脂(PKHC)100gに末端カルボキシル基含有ブタジエン-アクリロニトリル共重合体(Hycar CTBNX1009-SP、宇部興産(株)製)25gを一般的方法で反応させて、カルボキシル基含有ブタジエン-アクリロニトリル共重合体で変性したフェノキシ樹脂(以下、単に「ブタジエン-アクリロニトリル共重合体」という。)
(c)ラジカル重合性物質として、トリヒドロキシエチルグリコールジメタクリレート(共栄社油脂株式会社製、商品名80MFA)(以下、単に「ラジカル重合性物質」という。)
(d)導電性粒子」(以下、「引用発明B1」という。)が記載されていると認められる。

(3)引用例B3(引用例A6)に記載された発明(引用発明B3)
引用例B3の【0008】から、引用例B3には「絶縁性接着剤中に導電粒子を分散させた異方性導電接着フィルムにおいて、フィルム中の遊離イオン濃度」を「60ppm以下」としたものが記載されているといえる。
そして、この「フィルム中の遊離イオン濃度」を「60ppm以下」とすることについて、引用例B3の【0004】には、「絶縁性接着剤樹脂中のエポキシ樹脂や硬化剤には、製造工程に起因する加水分解性の塩素、ナトリウム、カリウム等が残留しており、これらの塩素等が加湿及び加熱下のエージングによって遊離イオンとして抽出され、その結果、塩素イオン等が発生し、この塩素イオン等が接続部分の金属パターンを腐食させる原因となって」いることが記載され、【0007】には、「フィルム中の遊離イオン濃度が高い程金属パターンの腐食が発生しやすくなること」から、「この遊離イオン濃度を所定の値以下にすることにより、接続部分の金属パターンの腐食を防止しうる異方性導電接着フィルムが得られ」たことが記載されている。

そうすると、引用例B3には、
「導電粒子を分散させた、エポキシ系の熱硬化樹脂及び硬化剤を含む異方性導電接着フィルムにおいて、
塩素イオン等によって、接続部分の金属パターンを腐食させないようにするために、フィルム中の遊離イオン濃度を60ppm以下とした、異方性導電接着フィルム」(以下、「引用発明B3」という。)が記載されていると認められる。

(4)引用例B4(引用例A8)に記載された発明(引用発明B4)
引用例B4の【0010】の「50μS/cmを超えると、本発明の異方導電性接着剤がイオン性の不純物を含有していることを意味し」という記載から、引用例4に記載された「異方導電性接着剤」は、イオン性の不純物を含有しないことが理解できる。
また、引用例B4の【0089】には、「クロム蒸着ガラス基板のクロム蒸着面上に硬化性樹脂組成物を薄く均一に塗布した後紫外線硬化して、大きさ85mm×85mm、厚さ3mの紫外線硬化物を形成し」と記載されているところ、紫外線硬化物の厚みが「3m」とは、一般的な異方導電性接着剤を使用する態様からはかけ離れた値である。
一方、引用例B4の【0081】の「液晶表示素子の作製」では、TFT基板にスペーサ径5μmの面内スペーサを散布して、異方導電性接着剤の塗布を行うことが記載されており、面内スペーサによって異方導電性接着剤の塗布される厚みが規定されることから、実施態様では、異方導電性接着剤を硬化させて得られた紫外線硬化物の厚みはせいぜい5μm程度であるといえる。
そうすると、同【0089】の「厚さ3m」は、「厚さ3μm」の誤記というべきであって、同【0089】には、クロム蒸着ガラス基板のクロム蒸着面上に硬化性樹脂組成物を薄く均一に塗布した後紫外線硬化して、大きさ85mm×85mm、厚さ3μmの紫外線硬化物を形成したことが記載されているということができ、厚さ3μmの紫外線硬化物はフィルムと呼べることから、引用例4には、異方導電性接着剤を硬化させたフィルムが記載されているといえる。

そうすると、引用例B4には、
「被覆導電性微粒子と硬化性樹脂組成物とからなる異方導電性接着剤であって、イオン性の不純物を含有せず、
硬化前における抽出水イオン伝導度が50μS/cm以下である異方導電性接着剤を硬化させたフィルム」(以下、「引用発明B4」という。)が記載されていると認められる。

(5)引用例C1に記載された発明(引用発明C1)
引用例C1には、
「(i)重量平均分子量150,000?600,000の熱可塑性樹脂;
(ii)重量平均分子量100?10,000のアクリレートまたはメタクリレート官能基を有する熱硬化性材料;
(iii)有機過酸化物;
(iv)シランカップリング剤;および
(v)導電性粒子を含む、異方導電性フィルム組成物」(【0013】)について、
【0034】?【0038】に記載された実施例1として、
熱可塑性樹脂(【0013】)として、カルボキシル化アクリロニトリルブタジエン共重合体を、
熱硬化性材料(【0018】)として、ペンタエリトリトールトリアクリレート及び2-アクリロイルオキシエチルホスフェートを、
有機過酸化物として、熱硬化開始剤(【0020】)である、ベンゾイルペルオキシドを、
そして、導電性粒子(【0025】)として、ニッケル(Ni)粒子を含む異方導電性フィルム組成物及び該異方導電性フィルム組成物から製造された異方導電性フィルム(【0050】)が記載されており、熱可塑性樹脂には、さらに、上記重量平均分子量2,500の化学式(1)のアクリレート樹脂を含むことが記載されていると認められる(【0038】の「化学式(1)」の記載は省略する。以下、同じ。)。

そうすると、引用例C1には、
「(i)カルボキシル化アクリロニトリルブタジエン共重合体を含む、重量平均分子量150,000?600,000の熱可塑性樹脂;
(ii)ペンタエリトリトールトリアクリレート及び2-アクリロイルオキシエチルホスフェートを含む、重量平均分子量100?10,000のアクリレートまたはメタクリレート官能基を有する熱硬化性材料;
(iii)ベンゾイルペルオキシドを含む、熱硬化開始剤である有機過酸化物;
(iv)シランカップリング剤;及び
(v)ニッケル粒子を含む、導電性粒子を含み、
さらに、熱可塑性樹脂には、上記重量平均分子量2,500の化学式(1)のアクリレート樹脂を含む、異方導電性フィルム組成物及び該異方導電性フィルム組成物から製造された異方導電性フィルム」(以下、「引用発明C1」という。)が記載されていると認められる。

3.原査定の拒絶理由についての判断
(1)本願発明1について
本願発明1と引用発明A1とを対比する。
引用発明A1の「バインダ樹脂」、「カルボキシル変性アクリロニトリルブタジエンゴム」及び「平均粒径5?6μmのニッケル粉末」は、本願発明1の「バインダー」、「ニトリルブタジエンゴム系樹脂」及び「導電性粒子」にそれぞれ相当する。
また、引用発明A1の「ポリウレタンアクリレート(重量平均分子量:25,000)」と「ポリウレタンアクリレート(重量平均分子量28,000)」は、いずれも本願発明1の「ウレタン系樹脂」に相当する。
また、引用発明A1の「85?95℃のDSC発熱ピークを有するイソシアヌル酸エチレンオキシド変性変性ジアクリレート」、「ビスフェノールAプロピレンオキサイド変性ジアクリレート」及び「アシッド・ホスホキシ・エチルメタクリレート」は、「過酸化ラウロイル」及び「過酸化ベンゾイル」によってラジカル重合して硬化するものといえるから、本願発明1の「硬化剤」に相当し、引用発明A1の「過酸化ラウロイル」及び「過酸化ベンゾイル」は、本願発明1の「ラジカル開始剤」に相当する。
そして、引用発明A1の「アクリル系共重合体(重量平均分子量:120,000、Tg:90℃)」は、本願発明1の「アクリル系樹脂」に相当するものであって、その「重量平均分子量:120,000」は、「質量分子量が120,000g/molである」ことと同意であるから、引用発明A1の「アクリル系共重合体(重量平均分子量:120,000、Tg:90℃)」は、本願発明1の「アクリル系樹脂は、質量平均分子量が50,000?2,000,000g/molである」構成に含まれる。
また、引用発明A1の「回路接続フィルム」は、「導電性粒子」を含み、回路接続に用いられるものであるから、異方導電性フィルムということができ、本願発明1の「異方導電性フィルム」に相当する。

そうすると、本願発明1と引用発明A1とは、
「バインダー、硬化剤、開始剤および導電性粒子を含み、前記バインダーがニトリルブタジエンゴム系樹脂およびウレタン系樹脂からなる群から選択される1種以上を含み、
前記開始剤が、ラジカル開始剤である、異方導電性フィルムであって、
前記バインダーが、アクリル系樹脂をさらに含み、
前記アクリル系樹脂は、質量平均分子量が50,000?2,000,000g/molである、異方導電性フィルム。」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点A1-1)
異方導電性フィルムのイオン含有量及び電気伝導度について、本願発明1は、「イオン含有量が0超100質量ppm以下であり、電気伝導度が0超100μS/cm以下であり、前記電気伝導度が、前記異方導電性フィルム0.4gを20gの脱イオン水(D.I.W)に入れた後、100℃で10時間沸騰し、水に溶け出たイオンを伝導度メーター(Conductivity Meter)を使用して測定した値であ」るのに対し、引用発明A1の「回路接続フィルム」のイオン含有量及び電気伝導度は不明な点。
(相違点A1-2)
ニトリルブタジエンゴム系樹脂のイオン含有量について、本願発明1は、「0超100質量ppm以下」であるのに対し、引用発明A1の「カルボキシル変性アクリロニトリルブタジエンゴム」のイオン含有量は不明な点。
(相違点A1-3)
ウレタン系樹脂のイオン含有量について、本願発明1は、「0超100質量ppm以下」であるのに対し、引用発明A1の「ポリウレタンアクリレート(重量平均分子量:25,000)」及び「ポリウレタンアクリレート(重量平均分子量28,000)」のいずれも、そのイオン含有量は不明な点。

ここで、相違点A1-1?3についてまとめて検討する。
本願の発明の詳細な説明には、次のような記載がある。
「【0018】
本発明の一実施形態において、異方導電性フィルムは、バインダー、硬化剤、開始剤および導電性粒子を含み、イオン含有量は0超100質量ppm以下である。好ましくは、イオン含有量は0超50質量ppm以下でありうる。この場合、金属電極の腐食の可能性が減り信頼性が向上する。」
「【0024】
本発明においてNBR系樹脂のイオン含有量は、0超100質量ppm以下でありうる。NBR系樹脂のイオン含有量が前記範囲の場合、製造された異方導電性フィルムの電気伝導度は低く、回路接続時に腐食は発生しない。前記NBR系樹脂のイオン含有量は、好ましくは0超20質量ppm以下でありうる。」
「【0028】
本発明においてウレタン系樹脂のイオン含有量は、0超100質量ppm以下でありうる。ウレタン系樹脂のイオン含有量が前記範囲の場合、製造された導電性フィルムの電気伝導度は低く、回路接続時の腐食は発生しない。好ましくは0超10質量ppm以下でありうる。」
なお、【0024】の「NBR系樹脂」は、本願発明1の「ニトリルブタジエンゴム系樹脂」を指すことは明らかである。

そうすると、本願の発明の詳細な説明から、本願発明1は、上記相違点A1-1に係る発明特定事項を備えることで、異方導電性フィルムにおいて、金属電極の腐食の可能性が減り信頼性が向上すること(【0018】)、上記相違点A1-2に係る発明特定事項を備えることで、異方導電性フィルムの電気伝導度は低く、回路接続時に腐食は発生しないものとなること(【0024】)、及び、上記相違点A1-3に係る発明特定事項を備えることで、異方導電性フィルムの電気伝導度は低く、回路接続時に腐食は発生しないものとなることものとなること(【0028】)が理解できる。

一方、引用発明A1は、流動性、硬化性について容易に制御できる回路接続フィルム用組成物を提供すること([0008])や、硬化性を向上し、低温の接続処理にも適用することができる回路接続フィルム用組成物を提供すること([0009])を、発明の課題とするものであって、引用例A1には、電気伝導度やイオン含有量や、金属電極の腐食や回路接続時の腐食についての記載は見当たらない。

また、引用例A2?A10のいずれにも、ニトリルブタジエンゴム系樹脂又はウレタン系樹脂を有するバインダー樹脂を用いて得られた異方導電性フィルムにおいて、金属電極の腐食や回路接続時の腐食が発生する可能性があることについては、記載も示唆も見当たらない。

さらに、引用例A2?A10のいずれにも、金属電極の腐食や回路接続時の腐食を抑制するために、異方導電性フィルムのイオン含有量を0超100質量ppm以下、電気伝導度を0超100μS/cm以下、並びに、ニトリルブタジエンゴム系樹脂及びウレタン系樹脂のイオン含有量を0超100質量ppm以下とすることについては、記載も示唆も見当たらない。

そうすると、引用発明A1において、上記相違点A1-1?3に係る発明特定事項を備えるようにする動機付けは見出すことができない。

また、仮に、引用例A2?A10から、導電性接着剤において、ショートを防ぐために、導電性接着剤のイオン含有量を0超100質量ppm以下とし、電気伝導度を0超100μS/cm以下とすることが本願優先日前に当業者にとって周知技術であると認定できたとしても、異方導電性フィルムのバインダー樹脂に用いられたニトリルブタジエンゴム系樹脂及びウレタン系樹脂のイオン含有量を0超100質量ppm以下とすることまでは周知技術であるとは認定できず、しかも、本願発明1は、異方導電性フィルムのバインダー樹脂に用いられたニトリルブタジエンゴム系樹脂及びウレタン系樹脂のイオン含有量を0超100質量ppm以下とすることによって、異方導電性フィルムにおいて、回路接続時に腐食は発生しないものとなるといった、引用発明A1からは当業者が予測し得ない、格別顕著な作用効果を奏するものといえることから、本願発明1は、引用発明A1及び引用例A2?A10の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。

(2)本願発明2?14について
本願発明13は、上記相違点A1-1?3に係る本願発明1の発明特定事項を備えるものであるから、本願発明1と同様に、引用発明A1及び引用例A2?A10の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。
また、本願発明2?12は本願発明1を直接的又は間接的に引用し、本願発明14は本願発明13を引用し、いずれも、さらに限定するものであるから、本願発明1と同様に、引用発明A1及び引用例A2?A10の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。

(3)まとめ
上記(1)?(2)で述べたように、本願発明1?14は、原査定における引用例A1?A10に基づいて容易に発明できたものではなく、原査定を維持することはできない。

4.当審拒絶理由1についての判断
(1)引用発明B1を主引用発明とした場合の進歩性について(29条2項)
ア 本願発明1について
本願発明1と引用発明B1とを対比する。
引用発明B1の「フィルム状異方導電性回路接続材料」、「ブタジエン-アクリロニトリル共重合体」及び「導電性粒子」は、本願発明1の「異方導電性フィルム」、「ニトリルブタジエンゴム系樹脂」からなる「バインダー」及び「導電性粒子」にそれぞれ相当する。
本願発明1の「硬化剤」について、本願明細書には、「本発明の異方導電性フィルムは、硬化剤として、ウレタン(メタ)アクリレート、および(メタ)アクリレート単量体からなる群から選択される1種以上を含みうる。」(【0043】)と記載されており、本願発明1の「硬化剤」とは、アクリレート単量体のような、重合によって硬化する材料であると解されるところ、引用発明B1の「トリヒドロキシエチルグリコールジメタクリレート」からなる「ラジカル重合性物質」は、重合によって硬化する材料であるから、本願発明1の「硬化剤」に相当する。
引用発明B1の「遊離ラジカル発生剤」は、本願発明1の「ラジカル開始剤」である「開始剤」に相当する。

そうすると、本願発明1と引用発明B1とは、
「バインダー、硬化剤、開始剤および導電性粒子を含み、前記バインダーがニトリルブタジエンゴム系樹脂およびウレタン系樹脂からなる群から選択される1種以上を含み、前記開始剤が、ラジカル開始剤である異方導電性フィルム。」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点B1-1)
異方導電性フィルムのイオン含有量及び電気伝導度について、本願発明1は、「イオン含有量が0超100質量ppm以下であり、電気伝導度が0超100μS/cm以下であり、前記電気伝導度が、前記異方導電性フィルム0.4gを20gの脱イオン水(D.I.W)に入れた後、100℃で10時間沸騰し、水に溶け出たイオンを伝導度メーター(Conductivity Meter)を使用して測定した値であ」るのに対し、引用発明B1の「フィルム状異方導電性回路接続材料」は、イオン性不純物をできるだけ低減させた、回路部材の接続単位の腐食を防ぐような材料であるものの、イオン含有量及び電気伝導度の値は不明な点。
(相違点B1-2)
ニトリルブタジエンゴム系樹脂のイオン含有量について、本願発明1は、「0超100質量ppm以下」であるのに対し、引用発明B1の「ブタジエン-アクリロニトリル共重合体」のイオン含有量は不明な点。
(相違点B1-3)
バインダーについて、本願発明1は、「アクリル系樹脂をさらに含み」、「前記アクリル系樹脂は、質量平均分子量が50,000?2,000,000g/molである」のに対し、引用発明B1は、このようなアクリル樹脂は含まない点。

ここで、相違点について検討する。
事案に鑑み、相違点B1-3について、まず検討する。
(相違点B1-3について)
本願の発明の詳細な説明には、本願発明1は、上記相違点B1-3に係るアクリル樹脂を含むことで、「タック(tack)特性が適切なためフィルム成形が満足に行われ、硬化剤に含まれる成分との相溶性が良く、前記アクリル系樹脂と硬化剤の相分離が起こらない」(【0034】)異方導電性フィルムとなることが記載されている。

一方、引用発明B1には、引用発明B1に、さらに、アクリル樹脂を含ませることについての記載は見当たらず、引用発明B1に係る「フィルム状異方導電性回路接続材料」に、さらにアクリル樹脂を含ませた場合に、どのような特性を有するものとなるかは、当業者にとって予測が困難である。

そうすると、引用発明B1において、上記相違点B1-3に係るアクリル樹脂を含ませるようにする動機付けは見出すことができない。

そして、本願発明1は、上記相違点B1-3に係るアクリル樹脂を含むことで、「タック(tack)特性が適切なためフィルム成形が満足に行われ、硬化剤に含まれる成分との相溶性が良く、前記アクリル系樹脂と硬化剤の相分離が起こらない」という、引用発明B1からは当業者が予測し得ない、格別顕著な作用効果を奏するものといえることから、相違点B1-1?2について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明B1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。

イ 本願発明2?14について
本願発明13は、上記相違点B1-1?3に係る本願発明1の発明特定事項を備えるものであるから、本願発明1と同様に、引用発明B1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。
また、本願発明2?12は本願発明1を直接的又は間接的に引用し、本願発明14は本願発明13を引用し、いずれも、さらに限定するものであるから、本願発明1と同様に、引用発明B1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。

(2)引用発明B3を主引用発明とした場合の進歩性について(29条2項)
ア 本願発明1について
引用発明B3の「エポキシ系の熱硬化樹脂」、「導電粒子」及び「異方性導電接着フィルム」は本願発明1の「バインダー」、「導電性粒子」及び「異方導電性フィルム」にそれぞれ相当するから、本願発明1と引用発明B3とは、
「バインダーおよび導電性粒子を含みイオン含有量が0超100質量ppm以下である異方導電性フィルム」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点B3-1)
異方導電性フィルムの電気伝導度について、本願発明1は、「電気伝導度が0超100μS/cm以下であり、前記電気伝導度が、前記異方導電性フィルム0.4gを20gの脱イオン水(D.I.W)に入れた後、100℃で10時間沸騰し、水に溶け出たイオンを伝導度メーター(Conductivity Meter)を使用して測定した値であ」るのに対し、引用発明B3の「異方性導電接着フィルム」の電気伝導度は不明な点。
(相違点B3-2)
バインダーについて、本願発明1は、「ニトリルブタジエンゴム系樹脂およびウレタン系樹脂からなる群から選択される1種以上を含み」、「前記バインダーが、アクリル系樹脂をさらに含み」、「前記アクリル系樹脂は、質量平均分子量が50,000?2,000,000g/molである」のに対し、引用発明B3は、バインダーがエポキシ系の熱硬化性樹脂である点。
(相違点B3-3)
硬化剤、開始剤について、本願発明1は、「硬化剤」及び「ラジカル開始剤」を含むのに対し、引用発明B3において、硬化剤、開始剤の添加の有無は不明な点。
(相違点B3-4)
ニトリルブタジエンゴム系樹脂のイオン含有量について、本願発明1は、「0超100質量ppm以下」であるのに対し、引用発明B3は、ニトリルブタジエンゴム系樹脂を含まない点。
(相違点B3-5)
ウレタン系樹脂のイオン含有量について、本願発明1は、「0超100質量ppm以下」であるのに対し、引用発明B3は、ウレタン系樹脂を含まない点。

ここで、相違点について検討する。
事案に鑑み、相違点B3-2について、まず検討する。
(相違点B3-2について)
本願の発明の詳細な説明には、本願発明1は、上記相違点B1-3に係るアクリル樹脂を含むことで、「タック(tack)特性が適切なためフィルム成形が満足に行われ、硬化剤に含まれる成分との相溶性が良く、前記アクリル系樹脂と硬化剤の相分離が起こらない」(【0034】)異方導電性フィルムとなることが記載されている。

一方、引用発明B3には、引用発明B3に、さらに、アクリル樹脂を含ませることについての記載は見当たらず、引用発明B3に係る「フィルム状異方導電性回路接続材料」に、さらにアクリル樹脂を含ませた場合に、どのような特性を有するものとなるかは、当業者にとって予測が困難である。

そうすると、引用発明B3において、上記相違点B3-2に係るアクリル樹脂を含ませるようにする動機付けは見出すことができない。

そして、本願発明1は、上記相違点B3-2に係るアクリル樹脂を含むことで、「タック(tack)特性が適切なためフィルム成形が満足に行われ、硬化剤に含まれる成分との相溶性が良く、前記アクリル系樹脂と硬化剤の相分離が起こらない」という、引用発明B3からは当業者が予測し得ない、格別顕著な作用効果を奏するものといえることから、相違点B3-1、B3-3?5について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明B3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。

イ 本願発明2?14について
本願発明13は、上記相違点B3-1?5に係る本願発明1の発明特定事項を備えるものであるから、本願発明1と同様に、引用発明B3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。
また、本願発明2?12は本願発明1を直接的又は間接的に引用し、本願発明14は本願発明13を引用し、いずれも、さらに限定するものであるから、本願発明1と同様に、引用発明B3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。

(3)引用発明B4を主引用発明とした場合の進歩性について(29条2項)
ア 本願発明1について
引用発明B4の「硬化性樹脂組成物」、「被覆導電性微粒子」及び「フィルム」は、本願発明1の「バインダー」、「導電性粒子」及び「異方導電性フィルム」にそれぞれ相当し、引用発明B4の「イオン性の不純物を含有」しないことは、本願発明1の「イオン含有量が0超100質量ppm以下」であることに相当するから、本願発明1と引用発明B4とは、
「バインダーおよび導電性粒子を含み、イオン含有量が0超100質量ppm以下である異方導電性フィルム」である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点B4-1)
異方導電性フィルムの電気伝導度について、本願発明1は、「電気伝導度が0超100μS/cm以下であり、前記電気伝導度が、前記異方導電性フィルム0.4gを20gの脱イオン水(D.I.W)に入れた後、100℃で10時間沸騰し、水に溶け出たイオンを伝導度メーター(Conductivity Meter)を使用して測定した値であ」るのに対し、引用発明B4の「フィルム」の電気伝導度は不明な点。
(相違点B4-2)
バインダーについて、本願発明1は、「ニトリルブタジエンゴム系樹脂およびウレタン系樹脂からなる群から選択される1種以上を含み」、「前記バインダーが、アクリル系樹脂をさらに含み」、「前記アクリル系樹脂は、質量平均分子量が50,000?2,000,000g/molである」のに対し、引用発明B4の「硬化性樹脂組成物」組成は不明な点。
(相違点B4-3)
硬化剤、開始剤について、本願発明1は、「硬化剤」及び「ラジカル開始剤」を含むのに対し、引用発明B4において、硬化剤、開始剤の添加の有無は不明な点。
(相違点B4-4)
ニトリルブタジエンゴム系樹脂のイオン含有量について、本願発明1は、「0超100質量ppm以下」であるのに対し、引用発明B4は、ニトリルブタジエンゴム系樹脂を含むかどうか不明な点。
(相違点B4-5)
ウレタン系樹脂のイオン含有量について、本願発明1は、「0超100質量ppm以下」であるのに対し、引用発明B4は、ウレタン系樹脂を含むかどうか不明な点。

ここで、相違点について検討する。
事案に鑑み、相違点B4-2について、まず検討する。
(相違点B4-2について)
本願の発明の詳細な説明には、本願発明1は、上記相違点B1-3に係るアクリル樹脂を含むことで、「タック(tack)特性が適切なためフィルム成形が満足に行われ、硬化剤に含まれる成分との相溶性が良く、前記アクリル系樹脂と硬化剤の相分離が起こらない」(【0034】)異方導電性フィルムとなることが記載されている。

一方、引用発明B4には、引用発明B4に、さらに、アクリル樹脂を含ませることについての記載は見当たらず、引用発明B4に係る「フィルム状異方導電性回路接続材料」に、さらにアクリル樹脂を含ませた場合に、どのような特性を有するものとなるかは、当業者にとって予測が困難である。

そうすると、引用発明B4において、上記相違点B4-2に係るアクリル樹脂を含ませるようにする動機付けは見出すことができない。

そして、本願発明1は、上記相違点B4-2に係るアクリル樹脂を含むことで、「タック(tack)特性が適切なためフィルム成形が満足に行われ、硬化剤に含まれる成分との相溶性が良く、前記アクリル系樹脂と硬化剤の相分離が起こらない」という、引用発明B4からは当業者が予測し得ない、格別顕著な作用効果を奏するものといえることから、相違点B4-1、B4-3?5について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明B4に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。

イ 本願発明2?14について
本願発明13は、上記相違点B4-1?5に係る本願発明1の発明特定事項を備えるものであるから、本願発明1と同様に、引用発明B4に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。
また、本願発明2?12は本願発明1を直接的又は間接的に引用し、本願発明14は本願発明13を引用し、いずれも、さらに限定するものであるから、本願発明1と同様に、引用発明B4の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。

(4)明確性要件について(36条6項2号)
本願発明1において、「電気伝導度」についての定義は明確であり、本願発明13において、「異方導電性フィルム組成物」が硬化前のものであることは明確である。
したがって、本願の請求項1?14の記載が明確ではない、とすることはできない。

5.当審拒絶理由2についての判断
(1)本願発明1について
本願発明1と引用発明C1とを対比する。
引用発明C1の「熱可塑性樹脂」、「カルボキシル化アクリロニトリルブタジエン共重合体」、「熱硬化性材料」、「ベンゾイルペルオキシドを含む、熱硬化開始剤である有機過酸化物」及び「ニッケル粒子を含む、導電性粒子」は、本願発明1の「バインダー」、「ニトリルブタジエンゴム系樹脂」、「硬化剤」、「開始剤」及び「導電性粒子」に、それぞれ相当する。
また、引用発明C1の「重量平均分子量2,500の化学式(1)のアクリレート樹脂」は、重合基を有するとしても、分子量からみて「樹脂」ということができ、本願発明1の「アクリル系樹脂」と、「アクリル系樹脂」を含む点で共通する。
そして、引用発明C1の「ベンゾイルペルオキシド」は、ラジカル開始剤であることは明らかである。

そうすると、本願発明1と引用発明C1とは、
「バインダー、硬化剤、開始剤および導電性粒子を含み、前記バインダーがニトリルブタジエンゴム系樹脂およびウレタン系樹脂からなる群から選択される1種以上を含み、
前記開始剤が、ラジカル開始剤である、異方導電性フィルムであって、
前記バインダーが、アクリル系樹脂をさらに含む、異方導電性フィルム。」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点C1-1)
イオン含有量及び、異方導電性フィルム0.4gを20gの脱イオン水(D.I.W)に入れた後、100℃で10時間沸騰し、水に溶け出たイオンを伝導度メーター(Conductivity Meter)を使用して測定した値である電気伝導度について、本願発明は、イオン含有量が0超100質量ppm以下であり、電気伝導度が0超100μS/cm以下であるのに対し、引用発明C1のイオン含有量及び電気伝導度は、不明な点。
(相違点C1-2)
ニトリルブタジエンゴム系樹脂のイオン含有量について、本願発明1では、0超100質量ppm以下であるのに対し、引用発明C1の「カルボキシル化アクリロニトリルブタジエン共重合体」のイオン含有量は、不明な点。
(相違点C1-3)
アクリル系樹脂の質量平均分子量について、本願発明1は、「50,000?2,000,000g/mol」であるのに対し、引用発明C1の「アクリレート樹脂」の重量平均分子量は2,500であるから、その質量平均分子量は、2,500g/molである点。

ここで、相違点について検討する。
事案に鑑み、相違点C1-3について、まず検討する。
(相違点C1-3について)
引用例C1の【0016】?【0017】には、「アクリレートまたはメタクリレート官能基を有する熱硬化性材料」について、「重量平均分子量が100未満の場合には急速な反応性により不適切であり、一方、10,000を超える場合には加熱加圧により緻密な硬化構造が確保できないので長期接着性および接着信頼性が低下する場合がある。」という記載がある。
そして、引用発明C1の「重量平均分子量2,500の化学式(1)のアクリレート樹脂」は、重合基を有するものであって、上記「アクリレートまたはメタクリレート官能基を有する熱硬化性材料」に相当するものと解される。
そうすると、引用発明C1の「アクリレート樹脂」について、その質量平均分子量を10,000g/molより大きくし、相違点C1-3に係る構成のように、「50,000?2,000,000g/mol」の範囲のものとするには阻害要因があるというべきである。

さらに、本願の発明の詳細な説明には、本願発明1は、上記相違点C1-3に係るアクリル樹脂を含むことで、「タック(tack)特性が適切なためフィルム成形が満足に行われ、硬化剤に含まれる成分との相溶性が良く、前記アクリル系樹脂と硬化剤の相分離が起こらない」(【0034】)異方導電性フィルムとなることが記載されている。
そうすると、本願発明1は、上記相違点C1-3に係るアクリル樹脂を含むことで、「タック(tack)特性が適切なためフィルム成形が満足に行われ、硬化剤に含まれる成分との相溶性が良く、前記アクリル系樹脂と硬化剤の相分離が起こらない」という、引用発明C1からは当業者が予測し得ない、格別顕著な作用効果を奏するものといえる。

以上のことから、相違点C1-1?2について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明C1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。

イ 本願発明2?14について
本願発明13は、上記相違点C1-1?3に係る本願発明1の発明特定事項を備えるものであるから、本願発明1と同様に、引用発明C1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。
また、本願発明2?12は本願発明1を直接的又は間接的に引用し、本願発明14は本願発明13を引用し、いずれも、さらに限定するものであるから、本願発明1と同様に、引用発明C1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、原査定の拒絶理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-04-10 
出願番号 特願2011-224131(P2011-224131)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (C09J)
P 1 8・ 121- WY (C09J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 磯貝 香苗  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 川端 修
天野 宏樹
発明の名称 異方導電性フィルム、これに含まれる異方導電性フィルム組成物およびこれを含む装置  
代理人 八田国際特許業務法人  

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