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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1339138
異議申立番号 異議2017-700460  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-05-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-05-11 
確定日 2018-02-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6032359号発明「熱伝導性複合シート及び放熱構造体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6032359号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。 特許第6032359号の請求項1?12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6032359号(以下「本件特許」という。)の請求項1?12に係る特許についての出願は、平成26年5月20日(優先権主張平成25年6月7日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成28年11月4日にその特許権の設定登録がされたものであり、その特許について、特許異議申立人柏木里実(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において平成29年8月9日付けで取消理由を通知し、その指定期間内である平成29年10月12日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされ、平成29年11月7日に申立人より、本件訂正請求について意見書が提出されたものである。

第2 訂正の請求について
1.訂正の内容
本件訂正請求は、「特許第6032359号の明細書、特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1?12について訂正する」ことを求めるものであり、その訂正の内容は、本件特許に係る願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)及び特許請求の範囲を、次のように訂正するものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「0.4W/mK以上」を「0.4?3W/mK」に訂正する。
(請求項1を引用する請求項2?12についても、同様に訂正する。)

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1の末尾に「硬化物である請求項1又は2記載の熱伝導性複合シート」とあるのを「硬化物」に訂正する。
(請求項1を引用する請求項2?12についても、同様に訂正する。)

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2の「0.4W/mK以上」を「0.4?3W/mK」に訂正する。
(請求項2を引用する請求項3?12についても、同様に訂正する。)

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3の
「(I)(a)下記平均組成式(1)
R_(a)SiO_((4-a)/2) (1)
(式中、Rは独立に炭素原子数1?10の非置換又は置換の1価炭化水素基であり、aは1.8?2.2の正数である。)
で示されるケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(b)熱伝導性充填剤:200?4,000質量部、
(c)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(a)成分中のアルケニル基に対する(c)成分中のケイ素原子に直接結合した水素原子のモル比が0.5?5.0となる量、
(d)白金族金属系触媒:白金族金属系元素量で(a)成分の0.1?1,000ppm、
(f)R^(1)_(3)SiO_(1/2)単位(R^(1)は非置換又は置換の1価炭化水素基を示す)(M単位)とSiO_(4/2)単位(Q単位)との共重合体であって、M単位とQ単位との比(M/Q)がモル比として0.5?1.5であり、脂肪族不飽和基を含有しないシリコーン樹脂:50?500質量部
を含有してなるシリコーン熱伝導性組成物の硬化物である」を
「上記(I)である」に訂正する。
(請求項3を引用する請求項4、7?12についても、同様に訂正する。)

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5の
「(II)(b)熱伝導性充填剤:100?3,000質量部、
(f)R^(1)_(3)SiO_(1/2)単位(R^(1)は非置換又は置換の1価炭化水素基を示す)(M単位)とSiO_(4/2)単位(Q単位)との共重合体であって、M単位とQ単位との比(M/Q)がモル比として0.5?1.5であり、脂肪族不飽和基を含有しないシリコーン樹脂:100質量部、
(g)有機過酸化物系化合物:有機過酸化物換算で0.1?2質量部
を含有してなるシリコーン熱伝導性組成物の硬化物である」を
「上記(II)である」に訂正する。
(請求項5を引用する請求項6?12についても、同様に訂正する。)

(6)訂正事項6
本件特許明細書の【0009】の〔1〕に「0.4W/mK以上」とあるのを、「0.4?3W/mK」に訂正する。

(7)訂正事項7
本件特許明細書の【0009】の〔1〕の末尾に「硬化物である請求項1又は2記載の熱伝導性複合シート」とあるのを、「硬化物」に訂正する。

(8)訂正事項8
本件特許明細書の【0009】の〔2〕に「0.4W/mK以上」とあるのを、「0.4?3W/mK」に訂正する。

(9)訂正事項9
本件特許明細書の【0009】の〔3〕に
「(I)(a)下記平均組成式(1)
R_(a)SiO_((4-a)/2) (1)
(式中、Rは独立に炭素原子数1?10の非置換又は置換の1価炭化水素基であり、aは1.8?2.2の正数である。)
で示されるケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(b)熱伝導性充填剤:200?4,000質量部、
(c)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(a)成分中のアルケニル基に対する(c)成分中のケイ素原子に直接結合した水素原子のモル比が0.5?5.0となる量、
(d)白金族金属系触媒:白金族金属系元素量で(a)成分の0.1?1,000ppm、
(f)R^(1)_(3)SiO_(1/2)単位(R^(1)は非置換又は置換の1価炭化水素基を示す)(M単位)とSiO_(4/2)単位(Q単位)との共重合体であって、M単位とQ単位との比(M/Q)がモル比として0.5?1.5であり、脂肪族不飽和基を含有しないシリコーン樹脂:50?500質量部
を含有してなるシリコーン熱伝導性組成物の硬化物である」とあるのを
「上記(I)である」に訂正する。

(10)訂正事項10
本件特許明細書の【0009】の〔5〕に
「(II)(b)熱伝導性充填剤:100?3,000質量部、
(f)R^(1)_(3)SiO_(1/2)単位(R^(1)は非置換又は置換の1価炭化水素基を示す)(M単位)とSiO_(4/2)単位(Q単位)との共重合体であって、M単位とQ単位との比(M/Q)がモル比として0.5?1.5であり、脂肪族不飽和基を含有しないシリコーン樹脂:100質量部、
(g)有機過酸化物系化合物:有機過酸化物換算で0.1?2質量部
を含有してなるシリコーン熱伝導性組成物の硬化物である」とあるのを
「上記(II)である」に訂正する。

2.訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正前の請求項1では、熱伝導性粘着層の伝導率について、「0.4W/mK以上」と上限が特定されていなかったものを、「0.4?3W/mK」と上限を「3W/mK」に特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮しようとするものであり、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、本件特許明細書の【0017】に「本発明の熱伝導性複合シートにおいて、熱伝導性粘着層の熱伝導率は、0.4W/mK以上であり、好ましくは0.6W/mK以上である。その上限は特に制限されないが、通常5W/mK以下、特に3W/mK以下である。」とあり、上限を「3W/mK」以下とすることが記載されているから、訂正事項1は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものである。さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかであるから、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2について
訂正前の請求項1は、独立形式で記載される請求項にもかかわらず、「シリコーン熱伝導性組成物の硬化物である請求項1又は2記載の熱伝導性複合シート」と、他の請求項を引用して記載されており、明らかな誤記を含む記載である。
この点、願書に最初に添付した明細書(以下「当初明細書」という。)には、本発明の「熱伝導性複合シート」は「熱伝導層」に「熱伝導性粘着層」を積層したものであり(【0013】)、この「熱伝導性粘着層」は「シリコーン熱伝導性組成物を硬化させたものを例示することができる」(【0021】)とされ、そのような「シリコーン熱伝導性組成物」としては、「シリコーン熱伝導性組成物(I)」や「シリコーン熱伝導性組成物(II)」が挙げられている(【0022】)。また、「熱伝導性複合シート」は、「例えば上記シリコーン熱伝導性組成物を、熱伝導層上に上記厚さとなるようにコーティングし、硬化させて熱伝導性粘着層とすることにより得られる。」(【0064】)と記載され、「熱伝導性粘着層」は、「シリコーン熱伝導性組成物」の硬化物からなる。
そうすると、「熱伝導性粘着層」は、「シリコーン熱伝導性組成物の硬化物」からなるものであり、訂正事項2は、明らかな誤記を正しい記載に訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項2は、当初明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかであるから、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項2の「0.4W/mK以上」を「0.4?3W/mK」と上限を「3W/mK」に特定するものであり、上記(1)で述べた理由と同様に、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項3は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかであるから、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(4)訂正事項4について
訂正前の請求項3では、シリコーン熱伝導性組成物として引用する請求項1の「(I)」と同じ組成物が記載され、必ずしも明瞭な記載ではなかったものを、組成物「(I)」又は「(II)」のうち、「上記(I)である」と特定するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項4は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかであるから、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(5)訂正事項5について
訂正前の請求項5では、シリコーン熱伝導性組成物として引用する請求項1の「(II)」と同じ組成物が記載され、必ずしも明瞭な記載ではなかったものを、組成物「(I)」又は「(II)」のうち、「上記(II)である」と特定するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項5は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかであるから、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(6)訂正事項6?10について
訂正事項6?10は、いずれも訂正事項1?5に係る訂正に伴い、本件特許明細書の記載を整合させるための訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。また、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかである。そして、訂正事項6?10による訂正に係る請求項は、請求項1?12であるところ、それら全てについて訂正が請求されるものである。
よって、訂正事項6?10は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項から第6項の規定に適合するものである。

(7)一群の請求項について
訂正前の請求項2?12は、訂正前の請求項1を、直接又は間接に引用するものであって、訂正事項1、2によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定する、一群の請求項ごとにされたものである。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号、第2号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?12〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1.請求項1?12に係る発明
上記のとおり、本件訂正請求が認められるから、本件特許の請求項1?12に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるものであり、そのうち本件発明1は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
面方向の熱伝導率が20?2,000W/mKであり、アルミニウム箔、グラファイトシート及び銅箔から選ばれる熱伝導層の少なくとも片面に、0.4?3W/mKの熱伝導率を有する熱伝導性粘着層を積層させてなる熱伝導性複合シートであって、熱伝導性粘着層が下記(I)又は(II)である熱伝導性複合シート。
(I)
(a)下記平均組成式(1)
R_(a)SiO_((4-a)/2) (1)
(式中、Rは独立に炭素原子数1?10の非置換又は置換の1価炭化水素基であり、aは1.8?2.2の正数である。)
で示されるケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(b)熱伝導性充填剤:200?4,000質量部、
(c)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(a)成分中のアルケニル基に対する(c)成分中のケイ素原子に直接結合した水素原子のモル比が0.5?5.0となる量、
(d)白金族金属系触媒:白金族金属系元素量で(a)成分の0.1?1,000ppm、
(f)R^(1)_(3)SiO_(1/2)単位(R^(1)は非置換又は置換の1価炭化水素基を示す)(M単位)とSiO_(4/2)単位(Q単位)との共重合体であって、M単位とQ単位との比(M/Q)がモル比として0.5?1.5であり、脂肪族不飽和基を含有しないシリコーン樹脂:50?500質量部
を含有してなるシリコーン熱伝導性組成物の硬化物
(II)
(b)熱伝導性充填剤:100?3,000質量部、
(f)R^(1)_(3)SiO_(1/2)単位(R^(1)は非置換又は置換の1価炭化水素基を示す)(M単位)とSiO_(4/2)単位(Q単位)との共重合体であって、M単位とQ単位との比(M/Q)がモル比として0.5?1.5であり、脂肪族不飽和基を含有しないシリコーン樹脂:100質量部、
(g)有機過酸化物系化合物:有機過酸化物換算で0.1?2質量部
を含有してなるシリコーン熱伝導性組成物の硬化物」

2.取消理由の概要
本件発明1?12に対して、特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。

理由1)本件発明1?12は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
理由2)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

[理由1]
《引用刊行物》
1:特公平3-51302号公報(審査段階の平成28年1月29日付け拒絶理由通知で引用された引用文献2)
2:特開2010-219290号公報(甲1)
3:特開2009-234112号公報(甲2)
4:特開2004-99842号公報(甲3)
5:特開2004-311577号公報(甲4)
6:国際公開第2006/134858号(甲5)

刊行物1には、以下の発明(「刊行物1発明」という。)が記載されている。
「金、銀、銅、アルミニウムなどの金属板、酸化ベリリウム、窒化ほう素、アルミナなどの酸化物、化合物あるいは黒鉛からなる放熱シート1の片面あるいは両面に、シリコーンゴム層6を設けた、電気部品用熱伝導性シート」

本件発明1は、刊行物1発明及び刊行物2?6に記載される事項に基き、当業者が容易に発明をすることができたものである。

[理由2]
請求項1の末尾に「請求項1又は2記載の熱伝導性複合シート。」と記載され、独立請求項である請求項1が、「請求項1又は2」を引用する形式となっており、何を特定しようとしているのか明確でない。
また、請求項3及び5は、請求項1の(I)、(II)と重複しており、請求項1を引用する請求項3が、また、請求項1を引用する請求項5が、それぞれ何を特定しようとしているのか明確でない。

3.当審の判断
(1)理由2(特許法第36条)に係る取消理由についての判断
まず、理由2について検討する。
本件訂正請求により、請求項1の末尾の「請求項1又は2記載の熱伝導性複合シート。」との記載は削除され、請求項1は他の請求項の記載を引用しない記載となり、また、請求項3及び5についても、それぞれ、請求項1の組成物「(I)」、「(II)」であることが明確となったため、本件特許の特許請求の範囲の記載は明確である。
よって、本件発明1?12は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反するものではないから、本件発明1?12に係る特許は、特許法第113条第4号に該当しない。

(2)理由1(特許法第29条第2項)に係る取消理由についての判断
ア.本件発明1と上記刊行物1発明を対比すると、
本件発明1が、「面方向の熱伝導率が20?2,000W/mKであり、アルミニウム箔、グラファイトシート及び銅箔から選ばれる熱伝導層の少なくとも片面に、0.4?3W/mKの熱伝導率を有する熱伝導性粘着層を積層」させた「熱伝導性複合シート」であるのに対し、
刊行物1発明は、「金、銀、銅、アルミニウムなどの金属板、酸化ベリリウム、窒化ほう素、アルミナなどの酸化物、化合物あるいは黒鉛からなる放熱シート1の片面あるいは両面に、シリコーンゴム層6を設けた」電気部品用熱伝導性シートではあるものの、「放熱シート1」及び「シリコーンゴム層6」の面方向の熱伝導率について特定されていない点で、少なくとも相違する。
イ.本件発明1は、特定の面方向の熱伝導率(20?2,000W/mK)を有する熱伝導層と、特定の面方向の熱伝導率(0.4?3W/mK)を有する熱伝導性粘着層を組み合わせて積層させることにより、「ICチップなどから発生する熱を熱伝導性粘着層と接触させることでスムーズに熱伝導層に伝え、熱伝導層が直ちに面内方向に熱を拡散させることができる」(本件特許明細書の【0010】)ものである。
この点、熱伝導層と熱伝導性粘着層の面方向の熱伝導率について、刊行物2には、熱伝導層の熱伝導率が20?2,000W/mK、複合シート全体の熱伝導率が7.4?9.6W/mK(実施例1?4)である熱伝導性複合シートが記載されているが、粘着性を有する熱軟化性熱伝導性シート層自体の熱伝導率については記載されておらず、しかも、刊行物2の熱伝導性複合シートは、粘着性を有する熱軟化性熱伝導性シート層が、熱伝導層と金属シートに挟まれた構造からなり、粘着性を有する熱軟化性熱伝導性シート層は、発熱源に粘着されるものではないから、刊行物2の記載は、刊行物1発明のトランジスタ等の発熱源に粘着される「シリコーンゴム層6」の面方向の熱伝導率を示唆するものではない。
また、刊行物3?6にも、熱伝導層と熱伝導性粘着層の面方向の熱伝導率の組み合わせについて、記載も示唆もない。
よって、本件発明1は、刊行物1発明及び刊行物2?6に記載される事項に基き、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ.本件発明2?12は、本件発明1の全ての発明特定事項を有しており、上記のように、本件発明1は、刊行物1発明及び刊行物2?6に記載される事項に基き、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2?12についても、刊行物1発明及び刊行物2?6に記載される事項に基き、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ.申立人は、意見書において、刊行物2?5の熱伝導性粘着剤の熱伝導性充填剤の配合率は、本件発明1の熱伝導性充填剤の配合率と同程度であることからすると、刊行物2?5の熱伝導性粘着剤の熱伝導率も、本件発明1の熱伝導性粘着剤の「0.4?3W/mK」と同じになる旨主張する。
しかし、上記イ.で述べたように、本件発明1のように、特定の面方向の熱伝導率(20?2,000W/mK)を有する熱伝導層と、特定の面方向の熱伝導率(0.4?3W/mK)を有する熱伝導性粘着層を組み合わせて積層させることが、刊行物2?5には記載されておらず、仮に刊行物2?5の熱伝導性粘着剤の熱伝導率が、本件発明1の熱伝導性粘着剤の「0.4?3W/mK」と同じになるとしても、刊行物1発明の「放熱シート1」及び「シリコーンゴム層6」の面方向の熱伝導率について、本件発明1のような熱伝導率の組み合わせとすることが記載されていないから、申立人の上記主張は採用できない。
オ.よって、本件発明1?12は、特許法第29条第2項の規定に違反するものではないから、本件発明1?12に係る特許は、特許法第113条第2号に該当しない。

(3)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人は、本件発明1?12は、甲1(刊行物2)に記載された発明及び甲2(刊行物3)?甲5(刊行物6)に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、同法第113条第2号の規定により、本件発明1?12に係る特許を取り消すべき旨を主張する。
しかし、上記(2)イ.で述べたように、甲1(刊行物2)の熱伝導性複合シートは、粘着性を有する熱軟化性熱伝導性シート層が、熱伝導層と金属シートに挟まれた構造からなり、金属シートをリワーク性のために設けた甲1において、この金属シートを省いて、本件発明1のように熱伝導層と熱軟化性熱伝導性シート層のみからなるものとする動機があるとはいえない。
よって、申立人の上記申立理由を採用することはできない。

(4)むすび
以上のとおりであるから、上記取消理由によっては、本件発明1?12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
熱伝導性複合シート及び放熱構造体
【技術分野】
【0001】
本発明は、広くは、電子部品の冷却のために、発熱性電子部品の熱境界面とヒートシンク又は回路基板などの発熱部材との界面に介在し得る、例えば電子機器内の発熱部品と放熱部品の間に設置され放熱に用いられる熱伝達材料として好適な熱伝導性複合シートに関する。
特に、本発明は、広くは携帯可能な電子端末の電子部材から発生した熱を拡散させるために端末背面の裏側に貼り付けられ、電子部材とある一定のエアーギャップを設けて介在する、例えば携帯可能な電子端末の電子部材と端末背面との間に設置され、熱拡散に用いられる熱伝導性複合シート、及び該熱伝導性複合シートを用いた放熱構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピュータなどの電子端末は、近年、小型化、薄型化、軽量化が進み、スマートフォンやタブレットPC、ウルトラブックと呼ばれるタッチパネルが搭載された携帯可能な電子端末に急速に移り変わっている。小型化、薄型化、軽量化に伴い、実装される電子部材であるCPUやドライバIC、バッテリーなどが駆動することで発生する熱に関して、これまでとは違う対策が必要になっている。これまでは、電子部材から発生した熱は、熱伝導性樹脂材料を介在させてヒートシンクに伝えられ、更にはファンやラジエーターにより放熱及び冷却されていたが、携帯可能な電子端末は、あくまで携帯することを目的としているため、大きさ、重量の観点からヒートシンクやファンなどの冷却部材を搭載することができない。更に携帯可能な電子端末は、使用時に使用者の手や膝など肌に接触しているという点においても、これまでとは使用環境が大きく異なっている。例えば、スマートフォンは手の平の上で操作するし、通話時には端末本体が頬や耳に直接触れることになる。タブレットPCやウルトラブックにおいても、腕や膝の上に乗せて操作する場面がある。このような場合、これまでと同様に電子部材から発生した熱を、熱伝導樹脂材料を介して放熱すると、端末背面のある一部分が高温になり温度分布に偏りが生まれる。これは所謂ヒートスポットと呼ばれるもので、直接肌に触れる機会の多い、スマートフォンやタブレットPCにおいては端末使用者の低温やけどの原因や不快感の点において問題となり、ヒートスポットはできるだけ作りたくない。ヒートスポットを無くしたい場合に、電子部材と端末背面の間にグラファイトシートに代表されるような、面内方向の熱伝導に優れたシートを介在させることで、発熱体から発生した熱を素早く拡散させる手法がとられている。具体的には、グラファイトシートの片面に粘着層を積層させて、粘着層の面を端末背面の裏側に貼り付ける。また電子部材とグラファイトシートは接触させた方がより効率的に電子部材の熱を放熱することができるが、端末背面の温度が上昇しやすくなってしまうため、一般的には端末背面に熱をできるだけ伝えたくないために、発熱部材とグラファイトシートの間にはエアーギャップ(空隙)が設けられている。更にスマートフォンやタブレットPCは携帯することが想定されているため、使用中に落下や衝撃が端末に掛かることが予想される。その際にグラファイトシートが剥がれ落ちないために、グラファイトシートと端末背面は粘着剤を介して密着している。
【0003】
面内方向に高い熱伝導率を有する熱伝導層と粘着層もしくは、面内方向に高い熱伝導率を有する熱伝導層と熱伝導性樹脂層の複合シートがこれまでに多く発明されている(特開平06-291226号公報、特開2003-158393号公報、特開2007-001038号公報、特開2007-261087号公報、特開2010-219290号公報:特許文献1?5参照)が、熱伝導層と熱伝導性粘着層を積層させてなる熱伝導性複合シートに関する記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06-291226号公報
【特許文献2】特開2003-158393号公報
【特許文献3】特開2007-001038号公報
【特許文献4】特開2007-261087号公報
【特許文献5】特開2010-219290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、実装の際にICチップによく接着し、かつICチップから発生する熱を素早く熱伝導層に伝えることができ、熱伝導層によりその熱を拡散させることができる熱伝導性複合シートを提供することを目的とする。
また、本発明は、スマートフォンやタブレットPC、ウルトラブックと呼ばれる携帯可能な電子端末の電子部材から発生した熱を拡散させるために端末背面の裏側に貼り付けられ、電子部材とある一定のエアーギャップを設けて介在する、熱伝導層と熱伝導性粘着層を積層させてなる熱伝導性複合シート、及び該熱伝導性複合シートを用いた放熱構造体を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、面方向の熱伝導率が20?2,000W/mKである熱伝導層の少なくとも片面に、0.4W/mK以上の熱伝導率を有する熱伝導性粘着層を積層させてなる熱伝導性複合シートが、実装の際にICチップによく接着し、かつICチップから発生する熱を素早く熱伝導層に伝えることができ、熱伝導層によりその熱を拡散させることができることを知見した。
即ち、上記面内の熱伝導性に優れた熱伝導層の少なくとも片面に熱伝導性粘着層を有する熱伝導性複合シートをICチップと熱伝導性粘着層が接するように実装すれば、ICチップから発生した熱が熱伝導性粘着層を介し、素早く熱伝導層に伝わり、該熱伝導層は面内方向に高い熱伝導性を有しているため、直ちに熱を拡散させ、また熱伝導性粘着層がICチップとよく密着するため、実使用を考えた際の衝撃や落下でも熱伝導性複合シートがICチップから脱離する可能性が低いことを見出した。
【0007】
また、スマートフォンやタブレットPCの端末背面のヒートスポットを生じさせないためには、粘着層の熱伝導性は低い方が端末背面に熱を伝えにくいと考えられており、現在一般的にこの用途に用いられている複合シートは、熱伝導層と熱伝導性を持たない粘着層の組み合わせである。また熱伝導性を持たない粘着層の厚みが厚い方が、ケースに熱を伝えにくいためにヒートスポットを生じさせないためには有利であると考えられていたが、本発明者らは、更なる検討を行った結果、熱伝導性複合シートの熱伝導層と熱伝導性粘着層の厚みの比率を最適化することにより、上記用途に使用し得ることを知見した。
即ち、粘着層は熱伝導性があった方が、ヒートスポットが生じにくく、また複合シートの総厚が同じ場合、熱伝導層の厚みが厚い方が、ヒートスポットを生じにくいことを見出した。これらは予想に反する結果であった。
熱伝導性粘着層を積層させた場合、熱伝導性粘着層に伝わった熱が垂直方向、更には面内方向にも拡散していくのに対して、熱伝導性のない粘着層の場合、粘着層に伝わった熱は拡散しづらく、留まってしまい、ヒートスポットを生じさせてしまうのではないかと考えられる。
また、熱伝導層と熱伝導性粘着層の面内の熱伝導性を比べたときに、圧倒的に熱伝導層の方が優れている。そのため熱伝導層の厚みが熱伝導性粘着層よりも厚い方が、熱拡散性が有利になり、ヒートスポットを生じにくいのではないかと考えられる。
【0008】
更に、熱伝導性複合シートの熱伝導層として、面方向の熱伝導率が20?2,000W/mKのもの、特にコストが安く、強度が高いアルミニウム箔を用い、熱伝導層と熱伝導性粘着層の厚みの比率を最適化することで、これまで用いられてきたようなグラファイトシートと熱伝導性を持たない粘着層との複合シートと同等の効果を与えることができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
従って、本発明は、下記の熱伝導性複合シート及び放熱構造体を提供する。
〔1〕
面方向の熱伝導率が20?2,000W/mKであり、アルミニウム箔、グラファイトシート及び銅箔から選ばれる熱伝導層の少なくとも片面に、0.4?3W/mKの熱伝導率を有する熱伝導性粘着層を積層させてなる熱伝導性複合シートであって、熱伝導性粘着層が下記(I)又は(II)である熱伝導性複合シート。
(I)
(a)下記平均組成式(1)
R_(a)SiO_((4-a)/2) (1)
(式中、Rは独立に炭素原子数1?10の非置換又は置換の1価炭化水素基であり、aは1.8?2.2の正数である。)
で示されるケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(b)熱伝導性充填剤:200?4,000質量部、
(c)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(a)成分中のアルケニル基に対する(c)成分中のケイ素原子に直接結合した水素原子のモル比が0.5?5.0となる量、
(d)白金族金属系触媒:白金族金属系元素量で(a)成分の0.1?1,000ppm、
(f)R^(1)_(3)SiO_(1/2)単位(R^(1)は非置換又は置換の1価炭化水素基を示す)(M単位)とSiO_(4/2)単位(Q単位)との共重合体であって、M単位とQ単位との比(M/Q)がモル比として0.5?1.5であり、脂肪族不飽和基を含有しないシリコーン樹脂:50?500質量部
を含有してなるシリコーン熱伝導性組成物の硬化物
(II)
(b)熱伝導性充填剤:100?3,000質量部、
(f)R^(1)_(3)SiO_(1/2)単位(R^(1)は非置換又は置換の1価炭化水素基を示す)(M単位)とSiO_(4/2)単位(Q単位)との共重合体であって、M単位とQ単位との比(M/Q)がモル比として0.5?1.5であり、脂肪族不飽和基を含有しないシリコーン樹脂:100質量部、
(g)有機過酸化物系化合物:有機過酸化物換算で0.1?2質量部
を含有してなるシリコーン熱伝導性組成物の硬化物
〔2〕
面方向の熱伝導率が20?2,000W/mKである熱伝導層の片面に、0.4?3W/mKの熱伝導率を有する熱伝導性粘着層を積層させてなる、熱伝導性複合シートであって、該熱伝導層の厚みが0.01?2.0mmであり、該熱伝導性粘着層の厚みが0.005?0.3mmであり、かつ熱伝導層の厚みを1としたときの熱伝導性粘着層の厚みが1.1以下である〔1〕記載の熱伝導性複合シート。
〔3〕
熱伝導性粘着層が、上記(I)である〔1〕又は〔2〕記載の熱伝導性複合シート。
〔4〕
シリコーン熱伝導性組成物が、更に
(h-1):下記一般式(2)で表されるアルコキシシラン化合物
R^(2)_(b)R^(3)_(c)Si(OR^(4))_(4-b-c) (2)
(式中、R^(2)は独立に炭素原子数6?15のアルキル基、R^(3)は独立に非置換又は置換の炭素原子数1?8の1価炭化水素基、R^(4)は独立に炭素原子数1?6のアルキル基であり、bは1?3の整数、cは0,1又は2であり、b+cは1?3の整数である。)
及び
(h-2):下記一般式(3)で表される分子鎖片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン
【化1】

(式中、R^(5)は、独立に炭素原子数1?6のアルキル基である。また、dは5?100の整数である。)
からなる群から選択される表面処理剤の少なくとも1種を(a)成分100質量部に対して0.01?50質量部を配合した〔3〕記載の熱伝導性複合シート。
〔5〕
熱伝導性粘着層が、上記(II)である〔1〕又は〔2〕記載の熱伝導性複合シート。
〔6〕
シリコーン熱伝導性組成物が、更に
(h-1):下記一般式(2)で表されるアルコキシシラン化合物
R^(2)_(b)R^(3)_(c)Si(OR^(4))_(4-b-c) (2)
(式中、R^(2)は独立に炭素原子数6?15のアルキル基、R^(3)は独立に非置換又は置換の炭素原子数1?8の1価炭化水素基、R^(4)は独立に炭素原子数1?6のアルキル基であり、bは1?3の整数、cは0,1又は2であり、b+cは1?3の整数である。)
及び
(h-2):下記一般式(3)で表される分子鎖片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン
【化2】

(式中、R^(5)は、独立に炭素原子数1?6のアルキル基である。また、dは5?100の整数である。)
からなる群から選択される表面処理剤の少なくとも1種を(f)成分100質量部に対して0.01?50質量部を配合した〔5〕記載の熱伝導性複合シート。
〔7〕
熱伝導層の片面に熱伝導性粘着層を積層させてなる熱伝導性複合シートである〔1〕?〔6〕のいずれかに記載の熱伝導性複合シート。
〔8〕
熱伝導層が、アルミニウム箔及び銅箔から選ばれる〔1〕?〔7〕のいずれかに記載の熱伝導性複合シート。
〔9〕
室温下、25mm幅、厚み100μmの熱伝導性粘着層の片面をアルミニウム板に当て、質量2kgのゴムローラーで圧着して接着後10分間養生し、次いでアルミニウム板と接着されていない熱伝導性粘着層の他方の片面を基材に同様に接着させ、JIS Z 0237に準じて、熱伝導性粘着層の一端を前記アルミニウム板から引き剥がし、引き剥がした部分から引張り試験機を用い、引張り速度300mm/minにて180°方向に前記アルミニウム板から熱伝導性粘着層を引き剥がし、この引き剥がしに要した力(熱伝導性粘着層の剥離接着強度)が、2.0N/cm以上である〔1〕?〔8〕のいずれかに記載の熱伝導性複合シート。
〔10〕
携帯可能な電子端末用である〔1〕?〔9〕のいずれかに記載の熱伝導性複合シート。
〔11〕
発熱する電子部品とエアーギャップ(空隙)を設けて向かい合うように〔1〕?〔10〕のいずれかに記載の熱伝導性複合シートが配置され、電子部品から発生した熱がエアーギャップを介して熱伝導性複合シートに伝熱されて拡散することを特徴とする放熱構造体。
〔12〕
携帯可能な電子端末において、背面のケースの内側に〔1〕?〔10〕のいずれかに記載の熱伝導性複合シートをケースと熱伝導性粘着層が接触するように貼り付けられ、電子部品と該熱伝導性複合シートの熱伝導層とは接触することがないよう任意のエアーギャップを設けて向かい合うように配置され、背面のケース上に温度の偏りがないことを特徴とする放熱構造体。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱伝導性複合シートは、ICチップなどから発生する熱を熱伝導性粘着層と接触させることでスムーズに熱伝導層に伝え、熱伝導層が直ちに面内方向に熱を拡散させることができる。
また特に、本発明の熱伝導性複合シートは、スマートフォンやタブレットPC、ウルトラブックと呼ばれる携帯可能な電子端末の端末背面の裏側に貼り付けることで、電子部材から発生した熱を、エアーギャップを介して拡散し、端末背面上にヒートスポットを生じさせにくい効果がある。また端末背面とよく密着しているため、落下や振動が加わっても脱落や剥離し難い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例における熱伝導性複合シートの放熱評価方法を説明する断面図である。
【図2】本発明の熱伝導性複合シートの使用形態の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の熱伝導性複合シートは、面方向の熱伝導率が20?2,000W/mKであり、好ましくは厚みが0.01?2.0mmである熱伝導層の片面に、0.4W/mK以上の熱伝導率を有し、好ましくは厚みが0.005?0.3mmである熱伝導性粘着層を積層させてなると共に、更に熱伝導層の厚みを好ましくは1としたときの熱伝導性粘着層の厚みが1.1以下のものである。
【0013】
[熱伝導層]
本発明の熱伝導性複合シートにおいて、熱伝導層の面方向の熱伝導率は、20?2,000W/mKであり、好ましくは100?2,000W/mKであり、より好ましくは200?2,000W/mKである。熱伝導層の面方向の熱伝導率が低いと、熱拡散性が得られない。なお、熱伝導層の面方向の熱伝導率は、サーモウェーブアナライザーにより熱拡散率を測定し、熱拡散率から熱伝導率を算出することにより測定することができる。
【0014】
このような面方向の熱伝導率を有する熱伝導層としては、例えば、グラファイトシートやアルミニウム箔、銅箔などが挙げられる。
【0015】
グラファイトシートは、面内の熱伝導に非常に優れるため、数多く使用されているが、曲げや引っ張りに弱い。また、グラファイトシートは、熱伝導性に異方性をもち、面内の方向の熱伝導率が500W/mK以上あり、熱拡散性に有利であるが、非常に強度が低いため、折れや引っ張りに弱く、加工性に乏しい。更にグラファイトシートは、グラファイトを薄く圧延したものであるため、グラファイト粉が脱落しやすく、実装中にグラファイト粉が電子機器系内に混入するとショートする危険性がある。そのためできればグラファイトシートを用いずにできるだけ端末背面のヒートスポットを生じさせないようにしたい。更に、グラファイトシートはコストが高い。
銅箔は、熱伝導性に非常に優れるが、比重が大きく、電子端末が軽量化する流れの中では非常に不利である。
アルミニウム箔は、面内の熱伝導率がグラファイトシートや銅箔に比べると低いことが不利な点として挙げられるが、グラファイトシートと比べるとコストが低く、強度が高く、銅箔よりも比重が小さいため、熱伝導層として非常に魅力的といえる。本発明の熱伝導性複合シートは、熱伝導層としてアルミニウム箔を用いても、これまで用いられてきたようなグラファイトシートと熱伝導性を持たない粘着層との複合シートと同等の熱拡散性能が得られることから、熱伝導層としてアルミニウム箔を用いることが非常に有用であるといえる。
【0016】
熱伝導層の厚みは、0.01?2.0mmが好ましく、より好ましくは0.03?2.0mm、更に好ましくは0.03?1.0mmであり、特に好ましくは0.03?0.5mmである。熱伝導層の厚みが薄すぎると熱伝導性複合シートの剛性が乏しくなり、取り扱いが困難になる場合がある。また2.0mmより厚いと実装を考えた場合に不適である。
【0017】
[熱伝導性粘着層]
本発明の熱伝導性複合シートにおいて、熱伝導性粘着層の熱伝導率は、0.4W/mK以上であり、好ましくは0.6W/mK以上である。その上限は特に制限されないが、通常5W/mK以下、特に3W/mK以下である。熱伝導性粘着層の熱伝導率が低いと、熱拡散性が十分得られない。なお、熱伝導性粘着層の熱伝導率は、レーザーフラッシュ法を用いて測定することができる。
【0018】
熱伝導性粘着層の厚みは、0.005?0.3mmであり、好ましくは0.02?0.1mmであり、より好ましくは0.03?0.1mmである。熱伝導性粘着層が薄い方が熱伝導層を厚く設定することができ、熱拡散の観点からは有利であるが、厚みが薄くなりすぎると粘着力が低下してしまい、実装した際の落下や衝撃によって脱落や剥離の危険性が出てくる。
また、本発明の熱伝導性複合シートにおいて、熱伝導層の厚みを1としたときの熱伝導性粘着層の厚みは1.1以下であることが好ましく、より好ましくは1.0?0.02であり、更に好ましくは0.8?0.05である。熱伝導層の厚みを1としたときの熱伝導性粘着層の厚みが1.1を超えると熱拡散性能を得にくい。また熱伝導性複合シートの総厚みが同じであれば、熱伝導層の厚みが厚い方が、ヒートスポットが生じにくい。
【0019】
該熱伝導性複合シートにおける熱伝導性粘着層の厚みが100μmの時の剥離接着強度は、2.0N/cm以上であることが好ましく、より好ましくは3.0N/cm以上であり、更に好ましくは3.5N/cm以上である。その上限は特に制限されないが、通常100N/cm以下、特に50N/cm以下である。剥離接着強度が低いと、実装後に剥がれる可能性がある。特に、スマートフォンやタブレットPC、ウルトラブックに代表される携帯可能な電子端末は、使用者によって持ち運びされるもので、強い振動が加わったり、使用者が電子端末を落としたりすることが想定されるためである。
ここで、剥離接着強度は、室温(25℃)下、25mm幅で熱伝導性粘着層の片面をアルミニウム板に当て、質量2kgのゴムローラーで圧着して接着後10分間養生し、熱伝導性粘着層の反対側の面をPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムなどの基材に同様にして接着させ、JIS Z 0237に準じて、その一端の熱伝導性粘着層をアルミニウム板から引き剥がし、引き剥がした部分を引張り試験機を用い、引張り速度300mm/minにて180°方向に前記アルミニウム板から熱伝導性粘着層を引き剥がし、引き剥がしに要した力とする。
【0020】
[熱伝導性粘着層のポリマーマトリックス]
熱伝導性粘着層のポリマーマトリックスとしては、有機ゴム、ポリウレタンゴム、合成ゴム、天然ゴムなどのゴムや、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂、熱可塑性エラストマーから選ばれる。特にシリコーンは、耐熱性、耐寒性、耐候性、電気特性などの観点から、他のポリマーマトリックスよりも優れている。該熱伝導性複合シートが、電子部品の寿命や正確な作動を司る重要な部材であることを考えれば、シリコーン(ゴム又は樹脂)を用いることが好ましい。
ポリマーマトリックスは、1種類に限らず2種類以上を組み合わせてもよい。
【0021】
ポリマーマトリックスとしてシリコーンを用いた熱伝導性粘着層としては、シリコーン熱伝導性組成物を硬化させたものを例示することができる。ここで、シリコーン熱伝導性組成物の硬化方法は、白金化合物を用いるヒドロシリル化を経由した付加硬化でもよいし、過酸化物を用いた硬化方法でもよいし、これらに限らない。
【0022】
このようなシリコーン熱伝導性組成物として、具体的には、
(a)下記平均組成式(1)
R_(a)SiO_((4-a)/2) (1)
(式中、Rは独立に炭素原子数1?10の非置換又は置換の1価炭化水素基であり、aは1.8?2.2の正数である。)
で示されるケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(b)熱伝導性充填剤:200?4,000質量部、
(c)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(a)成分中のアルケニル基に対する(c)成分中のケイ素原子に直接結合した水素原子のモル比が0.5?5.0となる量、
(d)白金族金属系触媒:白金族金属系元素量で(a)成分の0.1?1,000ppm、
(f)シリコーン樹脂:50?500質量部
を含有してなるシリコーン熱伝導性組成物(I)や、
(b)熱伝導性充填剤:100?3,000質量部、
(f)シリコーン樹脂:100質量部、
(g)有機過酸化物系化合物:有機過酸化物換算で0.1?2質量部
を含有してなるシリコーン熱伝導性組成物(II)を挙げることができる。
【0023】
以下に、上記シリコーン熱伝導性組成物(I)の各成分について説明する。
[(a)オルガノポリシロキサン]
(a)成分であるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、下記平均組成式(1)
R_(a)SiO_((4-a)/2) (1)
(式中、Rは独立に炭素原子数1?10の非置換又は置換の1価炭化水素基であり、aは1.8?2.2、好ましくは1.95?2.05の正数である。)
で示されるケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上、好ましくは2?100個有するオルガノポリシロキサンであり、付加反応硬化型組成物における主剤(ベースポリマー)である。通常は主鎖部分が基本的にジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなるのが一般的であるが、これは分子構造の一部に分岐状の構造を含んだものであってもよく、また環状体であってもよいが、硬化物の機械的強度等、物性の点から直鎖状のジオルガノポリシロキサンが好ましい。
【0024】
上記式(1)中、Rは互いに同一又は異種の炭素原子数1?10の非置換又は置換の1価炭化水素基であり、ケイ素原子に結合するアルケニル基以外の官能基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基などのアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基、並びにこれらの基に炭素原子が結合している水素原子の一部又は全部が、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、シアノ基などで置換された基、例えば、クロロメチル基、2-ブロモエチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基、シアノエチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル基等が挙げられ、代表的なものは炭素原子数が1?12、特に代表的なものは炭素原子数が1?6のものであり、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、クロロメチル基、ブロモエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、シアノエチル基等の炭素原子数1?3の非置換又は置換のアルキル基及びフェニル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基等の非置換又は置換のフェニル基である。また、ケイ素原子に結合したアルケニル基以外の官能基は全てが同一であっても異なっていてもよい。
また、アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等の通常、炭素原子数2?8程度のものが挙げられ、中でもビニル基、アリル基等の低級アルケニル基が好ましく、特にビニル基が好ましい。
【0025】
このオルガノポリシロキサンの25℃における動粘度は、通常、10?100,000mm^(2)/s、特に好ましくは500?50,000mm^(2)/sの範囲である。前記動粘度が低すぎると、得られる組成物の保存安定性が悪くなる場合があり、また高すぎると得られる組成物の伸展性が悪くなる場合がある。なお、本発明において、動粘度はオストワルド粘度計により測定できる。
【0026】
この(a)成分のオルガノポリシロキサンは、1種単独でも、動粘度が異なる2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
[(b)熱伝導性充填剤]
(b)成分である熱伝導性充填剤としては、非磁性の銅やアルミニウム等の金属、アルミナ、シリカ、マグネシア、ベンガラ、ベリリア、チタニア、ジルコニア、亜鉛華等の金属酸化物、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化硼素等の金属窒化物、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、人工ダイヤモンドあるいは炭化ケイ素等一般に熱伝導性充填剤とされる物質を用いることができる。熱伝導性充填剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
熱伝導性充填剤の平均粒径は、0.1?200μmであることが好ましく、0.1?100μmであることがより好ましく、更に好ましくは0.5?50μmである。ここで述べる平均粒径は、マイクロトラック粒度分布測定装置MT3300EX(日機装株式会社)による体積基準の測定値である。
【0029】
熱伝導性充填剤の配合量としては、(a)成分100質量部に対して200?4,000質量部であることが好ましく、より好ましくは200?3,000質量部である。熱伝導性充填剤の配合量が少なすぎると、熱伝導性樹脂層の熱伝導率が十分得られない場合があり、配合量が多すぎると成形性が悪化し、粘着性が低下してしまう場合がある。
【0030】
[(c)オルガノハイドロジェンポリシロキサン]
(c)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、ケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)を1分子中に2個以上、好ましくは2?100個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、(a)成分に対する架橋剤として作用する成分である。即ち、後述する(d)成分である白金系化合物の存在下で、(c)成分中のケイ素原子に結合した水素原子が、ヒドロシリル化反応により(a)成分中のアルケニル基に付加し、架橋結合を有する三次元網状構造を有する架橋硬化物を生成する。
【0031】
(c)成分中のケイ素原子に結合した有機基としては、例えば、脂肪族不飽和結合を有しない非置換又は置換の1価炭化水素基等が挙げられる。具体的には、(a)成分で説明した脂肪族不飽和基以外のケイ素原子に結合する基として例示したものと同種の、非置換又は置換の1価炭化水素基が挙げられるが、それらの中でも、合成容易性及び経済性の観点から、メチル基が好ましい。
【0032】
本発明における(c)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの構造は特に限定されず、直鎖状、分岐状及び環状のいずれであってもよいが、好ましくは直鎖状である。
また、オルガノハイドロジェンポリシロキサンの重合度(ケイ素原子の数)は、2?100、特に2?50であることが好ましい。
【0033】
(c)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの好適な具体例としては、分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖されたメチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖されたジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖されたジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端がジメチルハイドロジェンシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端がジメチルハイドロジェンシロキシ基で封鎖されたジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端がジメチルハイドロジェンシロキシ基で封鎖されたジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端がジメチルハイドロジェンシロキシ基で封鎖されたメチルフェニルポリシロキサン等が挙げられる。なお、(c)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1種単独で使用しても2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0034】
(c)成分の配合量は、(c)成分中のSiH基が(a)成分中のアルケニル基1モルに対して0.5?5.0モルとなる量であることが好ましく、より好ましくは0.8?4.0モルとなる量である。(c)成分中のSiH基の量が(a)成分中のアルケニル基1モルに対して0.5モル未満では、組成物が硬化しなかったり、硬化物の強度が不十分であって、成形体、複合体として取り扱うことができない等の問題が発生する場合がある。一方、5.0モルを超える量を使用した場合には、硬化物表面の粘着性が不十分となるおそれがある。
【0035】
[(d)白金族金属系触媒]
(d)成分の白金族金属系触媒は、(a)成分中のアルケニル基と(c)成分中のケイ素原子に結合した水素原子との付加反応を促進させ、本発明の組成物を三次元網状構造の架橋硬化物に変換するために配合される触媒成分である。
【0036】
上記(d)成分は、通常のヒドロシリル化反応に用いられる公知の触媒の中から適宜選択して使用することができる。その具体例としては、例えば、白金(白金黒を含む)、ロジウム、パラジウム等の白金族金属単体、H_(2)PtCl_(4)・nH_(2)O、H_(2)PtCl_(6)・nH_(2)O、NaHPtCl_(6)・nH_(2)O、KHPtCl_(6)・nH_(2)O、Na_(2)PtCl_(6)・nH_(2)O、K_(2)PtCl_(4)・nH_(2)O、PtCl_(4)・nH_(2)O、PtCl_(2)、Na_(2)HPtCl_(4)・nH_(2)O(但し、式中のnは0?6の整数であり、好ましくは0又は6である。)等の塩化白金、塩化白金酸及び塩化白金酸塩、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸とオレフィンとのコンプレックス、白金黒、パラジウム等の白金族金属を、アルミナ、シリカ、カーボン等の担体に担持させたもの、ロジウム-オレフィンコンプレックス、クロロトリス(トリフェニルフォスフィン)ロジウム(ウィルキンソン触媒)、塩化白金、塩化白金酸又は塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサンとのコンプレックス等が挙げられる。これらの白金系化合物は、1種単独で使用しても2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0037】
上記(d)成分の白金族金属系触媒の配合量は、組成物を硬化させるために必要な有効量であればよいが、通常は、(a)成分に対する白金族金属元素の質量換算で、0.1?1,000ppm、好ましくは0.5?500ppmである。
【0038】
[(e)反応制御剤]
(e)成分の反応制御剤は、必要により配合される成分で、(d)成分の存在下で進行する(a)成分と(c)成分の付加反応であるヒドロシリル化反応の速度を調整するためのものである。このような(e)成分の反応制御剤は、通常の付加反応硬化型シリコーン組成物に用いられる公知の付加反応制御剤の中から適宜選択することができる。その具体例としては、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、3-ブチン-1-オール、エチニルメチリデンカルビノール等のアセチレン化合物、窒素化合物、有機りん化合物、硫黄化合物、オキシム化合物、有機クロロ化合物等が挙げられる。これらの付加反応制御剤は、1種単独で使用することも2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0039】
上記(e)成分の配合量は、(d)成分の使用量によっても異なるので一概に決定することはできない。ヒドロシリル化反応の進行を所望の反応速度に調整できる有効量であれば足りる。通常、(a)成分の質量に対して、10?50,000ppm程度とするのがよい。(e)成分の配合量が少なすぎると組成物の保存安定性が不十分となり、十分な使用可能時間を確保することができない場合があり、逆に多すぎると組成物の硬化性が低下する場合がある。
【0040】
[(f)シリコーン樹脂]
(f)成分のシリコーン樹脂は、シリコーン熱伝導性組成物を硬化させた硬化物表面に粘着性を付与する作用を有する。このような(f)成分の例としては、R^(1)_(3)SiO_(1/2)単位(M単位)とSiO_(4/2)単位(Q単位)との共重合体であって、M単位とQ単位の比(モル比)M/Qが0.5?1.5、好ましくは0.6?1.4、更に好ましくは0.7?1.3であるシリコーン樹脂が挙げられる。上記M/Qが上記範囲であると所望の粘着力が得られる。この場合、必要に応じ、R^(1)_(2)SiO_(2/2)単位(D単位)やR^(1)SiO_(3/2)単位(T単位)を含んでいてもよいが、これらD単位及びT単位の配合は15モル%以下、特に10モル%以下が好ましい。
【0041】
上記M単位等を表す一般式中のR^(1)は、非置換又は置換の1価の炭化水素基、好ましくは脂肪族不飽和結合を含有しない非置換又は置換の1価炭化水素基である。このようなR^(1)の例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基、並びにこれらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部又は全部が、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換された基、例えば、クロロメチル基、2-ブロモエチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基、シアノエチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル基等の、炭素原子数が1?12、好ましくは炭素原子数が1?6のものが挙げられる。
【0042】
R^(1)としては、これらの中でも、メチル基、エチル基、プロピル基、クロロメチル基、ブロモエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、シアノエチル基等の炭素原子数1?3の非置換又は置換のアルキル基、及びフェニル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基等の非置換又は置換のフェニル基が好ましい。また、R^(1)は全てが同一であっても異なっていてもよい。R^(1)は、耐溶剤性等の特殊な特性を要求されない限り、コスト、その入手のしやすさ、化学的安定性、環境負荷等の観点から、全てメチル基であることが好ましい。
【0043】
(f)成分の配合量は、(a)成分100質量部に対して50?500質量部であることが好ましく、より好ましくは60?350質量部であり、更に好ましくは70?250質量部である。(f)成分の配合量が、50質量部未満であるか500質量部を超える場合には、所望の粘着性が得られなくなる場合がある。
【0044】
なお、(f)成分そのものは室温で固体又は粘稠な液体であるが、溶剤に溶解した状態で使用することも可能である。その場合、組成物への添加量は、溶剤分を除いた量で決定される。
【0045】
次に、上記シリコーン熱伝導性組成物(II)の各成分について説明する。
[(b)熱伝導性充填剤]
(b)成分の熱伝導性充填剤としては、上述したシリコーン熱伝導性組成物(I)の熱伝導性充填剤と同様のものが例示できる。
【0046】
熱伝導性充填剤の配合量としては、(f)成分100質量部に対して100?3,000質量部であることが好ましく、より好ましくは200?2,500質量部である。熱伝導性充填剤の配合量が少なすぎると、熱伝導性樹脂層の熱伝導率が十分得られない場合があり、配合量が多すぎると成形性が悪化し、粘着性が低下してしまう場合がある。
【0047】
[(f)シリコーン樹脂]
(f)成分のシリコーン樹脂としては、上述したシリコーン熱伝導性組成物(I)のシリコーン樹脂と同様のものを例示することができる。
【0048】
[(g)有機過酸化物系化合物]
有機過酸化物によるシリコーン組成物の硬化反応は、分子鎖末端(片末端又は両末端)及び分子鎖側鎖のどちらか一方又はその両方にビニル基等のアルケニル基を有する直鎖状オルガノポリシロキサンを有機過酸化物系化合物存在下でラジカル重合させることにより起こる。(g)成分である有機過酸化物系化合物としては、ジアシルパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド等が挙げられる。有機過酸化物系化合物は、光や熱に弱く、不安定であること、固体の有機過酸化物系化合物を組成物に分散させるのが困難であることから、有機溶媒に希釈させたり、シリコーン成分に分散させた状態で用いられる場合が多い。
【0049】
有機過酸化物系化合物の配合量は、(f)シリコーン樹脂100質量部に対して有機過酸化物換算で0.1?2質量部が好ましく、0.1?1.6質量部がより好ましい。配合量が少なすぎると硬化反応が十分進行しない場合があり、多すぎると組成物の安定性に欠ける場合がある。
【0050】
[その他の成分]
熱伝導性粘着層を構成するシリコーン熱伝導性組成物には、必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で、上記成分以外の成分を添加することができる。
【0051】
シリコーン熱伝導性組成物には、組成物の調製時に(b)成分の熱伝導性充填剤を疎水化処理して組成物(I)における(a)成分のオルガノポリシロキサンあるいは組成物(II)における(f)成分のシリコーン樹脂との濡れ性を向上させ、該熱伝導性充填剤を(a)成分あるいは(f)成分からなるマトリックス中に均一に分散させることを目的として、表面処理剤(ウェッター)(h)を配合することができる。この(h)成分としては、特に下記の(h-1)及び(h-2)が好ましい。
【0052】
(h-1):下記一般式(2)で表されるアルコキシシラン化合物
R^(2)_(b)R^(3)_(c)Si(OR^(4))_(4-b-c) (2)
(式中、R^(2)は独立に炭素原子数6?15のアルキル基、R^(3)は独立に非置換又は置換の炭素原子数1?8の1価炭化水素基、R^(4)は独立に炭素原子数1?6のアルキル基であり、bは1?3の整数、cは0,1又は2であり、b+cは1?3の整数である。)
【0053】
上記一般式(1)におけるR^(2)で表されるアルキル基としては、例えば、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基等が挙げられる。このように、R^(2)で表されるアルキル基の炭素原子数が6?15の範囲であると、(b)成分の熱伝導性充填剤の濡れ性が十分に向上し、取り扱い作業性がよくなるので、組成物の低温特性が良好なものとなる。
【0054】
また、上記R^(3)で表される非置換又は置換の1価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;2-フェニルエチル基、2-メチル-2-フェニルエチル基等のアラルキル基;3,3,3-トリフルオロプロピル基、2-(ノナフルオロブチル)エチル基、2-(ヘプタデカフルオロオクチル)エチル基、p-クロロフェニル基等のハロゲン化炭化水素基等が挙げられる。本発明においては、これらの中でも、特にメチル基及びエチル基が好ましい。
【0055】
上記R^(4)で表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。本発明においては、これらの中でも、特にメチル基及びエチル基が好ましい。
【0056】
上記(h-1)成分の好適な具体例としては、下記のものを挙げることができる。
C_(6)H_(13)Si(OCH_(3))_(3)
C_(10)H_(21)Si(OCH_(3))_(3)
C_(12)H_(25)Si(OCH_(3))_(3)
C_(12)H_(25)Si(OC_(2)H_(5))_(3)
C_(10)H_(21)Si(CH_(3))(OCH_(3))_(2)
C_(10)H_(21)Si(C_(6)H_(5))(OCH_(3))_(2)
C_(10)H_(21)Si(CH_(3))(OC_(2)H_(5))_(2)
C_(10)H_(21)Si(CH=CH_(2))(OCH_(3))_(2)
C_(10)H_(21)Si(CH_(2)CH_(2)CF_(3))(OCH_(3))_(2)
【0057】
上記(h-1)成分は、1種単独で使用しても2種以上を組み合わせて使用してもよい。(h-1)成分の配合量は、後述する配合量を超えてもそれ以上ウェッター効果が増大することがないので不経済である。またこの成分は揮発性があるので、開放系で放置すると組成物及び硬化後の硬化物が徐々に硬くなるので、必要最低限の量に止めることが好ましい。
【0058】
(h-2):下記一般式(3)で表される分子鎖片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン
【化3】

(式中、R^(5)は、独立に炭素原子数1?6のアルキル基であり、上記式(2)中のR^(4)で表されるアルキル基と同種のものである。また、dは5?100の整数である。)
【0059】
上記(h-2)成分の好適な具体例としては、下記のものを挙げることができる。
【化4】

【0060】
なお、(h-2)成分は1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。この(h-2)成分の配合量が後述する配合量を超えると、得られる硬化物の耐熱性や耐湿性が低下する傾向がある。
【0061】
本発明においては、(b)成分の表面処理剤として、前記(h-1)成分と(h-2)成分からなる群の中から選択した少なくとも1種を選択して使用することができる。この場合、組成物(I)において、全(h)成分の配合量は、(a)成分100質量部に対して0.01?50質量部であることが好ましく、特に0.1?30質量部であることが好ましい。また、組成物(II)において、全(h)成分の配合量は、(f)成分100質量部に対して0.01?50質量部であることが好ましく、特に0.1?30質量部であることが好ましい。
【0062】
本発明においては、その他の任意成分として、例えば、フッ素変性シリコーン界面活性剤、着色剤としてカーボンブラック、二酸化チタン等を添加してもよい。更に、熱伝導性充填剤の沈降防止や補強を目的として、沈降性シリカ又は焼成シリカ等の微粉末シリカ、チクソ性向上剤等を適宜添加することもできる。
【0063】
シリコーン熱伝導性組成物は、上記(a)?(f)成分又は(b)、(f)、(g)成分、及び必要に応じてその他の成分を常法に準じて混合することにより調製することができる。
なお、シリコーン熱伝導性組成物の硬化条件としては、公知の付加反応硬化型シリコーンゴム組成物や有機過酸化物硬化型シリコーンゴム組成物と同様でよい。
【0064】
[熱伝導性複合シートの製造方法]
本発明の熱伝導性複合シートは、例えば上記シリコーン熱伝導性組成物を、熱伝導層上に上記厚さとなるようにコーティングし、硬化させて熱伝導性粘着層とすることにより得られる。コーティング方法としては、バーコーター、ナイフコーター、コンマコーター、スピンコーター等を用いて、熱伝導層上に液状の組成物を薄膜状に塗布する方法が挙げられるが、本発明においてはこれらの方法に限定されるものではない。
【0065】
なお、本発明の熱伝導性複合シートは、熱伝導層の片面に熱伝導性粘着層を積層させることが必要であるが、熱伝導層のもう一方の片面には断熱、絶縁性を目的としてPETフィルムなどのプラスチックフィルムを積層させてもよい。
【0066】
本発明の上記熱伝導性複合シートは、発熱する電子部品とエアーギャップ(空隙)を設けて向かい合うように上記熱伝導性複合シートを配置した放熱構造体として用いることができ、この構造体は、電子部品から発生した熱を、エアーギャップを介して熱伝導性複合シートに伝熱して拡散させるものである。
【0067】
具体的には、スマートフォンやタブレットPC、ウルトラブックと呼ばれる携帯可能な電子端末において、図2に示すように、端末背面のケース11の内側に、上記熱伝導性複合シート12を端末背面のケース11と熱伝導性粘着層12aとが接触するように貼り付け、バッテリー13やモジュールに代表されるような電子部品等のパッケージ14などと熱伝導性複合シート12の熱伝導層12bとが接触することのないよう、任意の、具体的には0.01?2mm、特に0.1?1mmのエアーギャップ15を設けて向かい合うように配置した放熱構造体とすることが好ましく、この構造体とすることにより、端末背面のケース11上の温度の偏りをなくすことができる。なお、図2中、16はタッチパネルである。
【実施例】
【0068】
以下に、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0069】
実施例及び比較例を行うに当り、熱伝導性複合シートの成型方法を以下に記載する。
(熱伝導層)
アルミニウム箔:厚み50μm、面方向の熱伝導率237W/mK
アルミニウム箔:厚み70μm、面方向の熱伝導率237W/mK
アルミニウム箔:厚み200μm、面方向の熱伝導率237W/mK
銅箔:厚み30μm、面方向の熱伝導率398W/mK
黒鉛由来のグラファイトシート:厚み50μm、面方向の熱伝導率500W/mK
黒鉛由来のグラファイトシート:厚み100μm、面方向の熱伝導率600W/mK
【0070】
(熱伝導性粘着層)
下記に示す材料を用い、表1,2に示す組成で組成物i?iv及びv?viiiを得た。なお、材料の混練にはプラネタリーミキサーを用いた。
【0071】
(a)成分:
(a-1)25℃における動粘度が600mm^(2)/sであり、分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン
(a-2)25℃における動粘度が30,000mm^(2)/sであり、分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン
【0072】
(b)成分:
(b-1)平均粒径10μmの酸化アルミニウム粉末
(b-2)平均粒径1μmの酸化アルミニウム粉末
【0073】
(c)成分:
下記構造式で表されるメチルハイドロジェンポリシロキサン
【化5】

【0074】
(d)成分:
5質量%塩化白金酸2-エチルヘキサノール溶液
【0075】
(e)成分:
付加反応制御剤として、エチニルメチリデンカルビノール
【0076】
(f)成分:
(f-1)実質的に、Me_(3)SiO_(0.5)単位(M単位)とSiO_(2)単位(Q単位)のみからなるシリコーン樹脂(M/Qモル比は1.15)のトルエン溶液(不揮発分60%;25℃における動粘度30mm^(2)/s)
(f-2)実質的に、Me_(3)SiO_(0.5)単位(M単位)とSiO_(2)単位(Q単位)のみからなるシリコーン樹脂(M/Qモル比は0.85)のトルエン溶液(不揮発分70%;25℃における動粘度30mm^(2)/s)
(f-3)実質的に、Me_(3)SiO_(0.5)単位(M単位)とSiO_(2)単位(Q単位)のみからなるシリコーン樹脂(M/Qモル比は0.7)のトルオール溶液(不揮発分60%;25℃における動粘度8mm^(2)/s)
(f-4)KR-101-10(シリコーン樹脂粘着剤、信越化学工業(株)製)
【0077】
(g)成分:
ナイパーBMT-K40(ジベンゾイルパーオキサイドの40質量%キシレン溶液、日本油脂株式会社製)
【0078】
(h)成分:
下記構造式で表される分子鎖片末端がトリメトキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン
【化6】

【0079】
得られた組成物i?iv及びv?viiiについて、下記に示す方法により熱伝導率及び剥離接着強度を測定した。結果を表1,2に併記する。
【0080】
〔熱伝導率〕
レーザーフラッシュ法を用いて測定した。
【0081】
〔剥離接着強度〕
室温(25℃)下、120℃で10分間の条件で硬化させた25mm幅、厚み100μmの組成物i?iv及びv?viiiの硬化物層の片面を厚さ1mmのアルミニウム板に当て、質量2kgのゴムローラーで圧着して接着後10分間養生し、次いで上記アルミニウム板と接着されていない組成物i?iv及びv?viiiの硬化物層の他方の片面を厚さ0.1mmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムに同様に接着させ、JIS Z 0237に準じて、熱伝導性粘着層の一端を上記アルミニウム板から引き剥がし、引き剥がした部分から引張り試験機を用い、引張り速度300mm/minにて180°方向に前記アルミニウム板から組成物i?iv及びv?viiiの硬化物層を引き剥がし、この引き剥がしに要した力(熱伝導性粘着層の剥離接着強度)をそれぞれ測定した。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
[実施例1?6]
表3に示す材料を用いて熱伝導性複合シートを作製した。上記で得られた組成物i?ivに対して、トルエンを適量添加し、この溶液を熱伝導層上にスペーサーを用いてコーティングし、80℃,10分でトルエンを揮発させ、続いて120℃,10分で硬化させた。
熱伝導層の熱伝導性粘着層を積層させた側を表面とし、その反対の面を裏面とした。裏面に積層させる場合も同様に、コーティング成形を行った。実施例5の場合、組成物iをアルミニウム箔に塗工した後に、アルミニウム箔の裏面に粘着性を有さないPCS-CR-10(フェイズチェンジマテリアル、信越化学工業(株)製、熱伝導率2.0W/mK)をラミネートして得た。
【0085】
[比較例1?5]
表4に示す材料を用いて熱伝導性複合シートを作製した。比較例2は実施例と同様にして、比較例5は組成物i?ivに代えてPCS-CR-10(信越化学工業(株)製)を用いた以外は実施例と同様にして熱伝導性複合シートを作製した。
また、比較例3は熱伝導層のみであり、比較例4はTC-20CG(信越化学工業(株)製、熱伝導層を有さず、粘着性を持たない一般的な熱伝導性シート、厚さ0.2mm、熱伝導率1.7W/mK)を用い、比較例1は、組成物iにトルエンを適量添加し、フッ素処理PETフィルム上に塗工し、80℃で10分間乾燥した後に120℃で10分間加熱硬化させる方法により、厚み200μmの組成物iの硬化物層のみからなる熱伝導性シートを作製した。
【0086】
このようにして得られた実施例及び比較例の熱伝導性(複合)シートについて、下記に示す方法により、熱源から5mm離れた点の温度を測定した。これらの結果を表3,4に併記する。
【0087】
〔熱源から5mm離れた点の温度〕
得られた熱伝導性複合シートに対して、100℃一定になるように制御された15mm×15mm角の熱源を400g荷重を掛けて、熱伝導性粘着層に接触させた。接触させてから1分後の、熱源の端部から5mm離れた点の熱伝導性粘着層表面の温度を測定した。
【0088】
【表3】

【0089】
【表4】

【0090】
実施例1?6のように、0.4W/mK以上の熱伝導率を有し、かつ高い剥離接着強度を持つ熱伝導性粘着層を熱伝導層に積層させることで、実装の際にICチップによく接着し、かつICチップから発生する熱を素早く熱伝導層に伝えることができ、熱伝導層がその熱を拡散させることができる、熱伝導性複合シートを得た。
比較例1のように熱伝導層を持たないと、面方向の熱伝導性が著しく悪くなり、十分な熱拡散性が得られない。比較例2のように粘着層に十分な熱伝導性がないと、熱源からの熱を素早く熱伝導層に伝えることができず、十分な熱拡散性が得られない。比較例3のように、熱伝導性粘着層を持たないと熱源との接触が悪くなり、熱源からの熱が熱伝導層にスムーズに伝わらず、十分な熱拡散性が得られない。比較例4のように、熱伝導層を持たず、更に粘着性を有していないと、十分な熱拡散性が得られないし、すぐに熱源から剥がれてしまう。比較例5のように信越化学工業(株)製のPCS-CR-10(粘着性なし)の熱伝導層と積層させると、熱源との接触がよく、熱拡散性は得られるが、十分な接着強度が得られない。
【0091】
[実施例7?12、比較例6,7]
表5に示す材料を用いて熱伝導性複合シートを作製した。上記で得られた組成物v?viiiに対して、トルエンを適量添加し、この溶液を熱伝導層上にスペーサーを用いてコーティングし、80℃,10分でトルエンを揮発させ、続いて120℃,10分で硬化させた。また、表6に示す材料を用い、実施例と同様にして比較例6,7の熱伝導性複合シートを作製した。
【0092】
このようにして得られた実施例及び比較例の熱伝導性複合シートについて、下記に示す方法により、ポリカーボネート上の温度を測定した。なお、比較例6は熱伝導性複合シートを用いないものである。これらの結果を表5,6に併記する。
【0093】
[評価方法]
図1に示すように、得られた熱伝導性複合シート1の熱伝導性粘着層1a側をポリカーボネート製のプラスチックケース(100mm×100mm×2mmt)2に貼り合せたものを、15mm×15mmの熱源(80℃一定)3と0.5mmの距離を取るように設置し(熱源3と熱伝導層1bが向かい合わせになる)、熱源3を設置してから30分後に、ポリカーボネート2上の熱源3の中心に当たる温度測定点4部分の温度を測定した。なお、図1中、5は高さ10mmの金属枠、6は断熱素材である。
【0094】
【表5】

【0095】
【表6】

【0096】
実施例7?12のように、面方向の高い熱伝導率を有する熱伝導層の片面に0.4W/mK以上の熱伝導率を有する熱伝導性粘着層を積層させてなり、更に熱伝導層の厚みを1としたときに熱伝導性粘着層が1.1以下である熱伝導性複合シートは、熱源からの熱を効率的に拡散することができる。また、実施例7と実施例8を比べた場合、熱伝導性複合シートの総厚が同じでも熱伝導層の厚みを1としたときの熱伝導性粘着層の厚みの比率が低い方が、ポリカーボネート上の温度が上がっていない。
【0097】
比較例6では、熱伝導性複合シートを用いなかった。この場合、ポリカーボネート上の温度が60℃以上に達した。電子端末に実装したときを考えると、使用者の使用感が損なわれ、最悪の場合、低温やけどのおそれがある。比較例7は、実施例7と比べて熱伝導性粘着層の熱伝導率が0.1W/mKと低いために、熱伝導層を1とした時に熱伝導性粘着層の厚みが1.1以下であるにもかかわらずポリカーボネート上の温度が高くなっている。
【符号の説明】
【0098】
1 熱伝導性複合シート
1a 熱伝導性粘着層
1b 熱伝導層
2 ポリカーボネート
3 熱源
4 温度測定点
5 金属枠
6 断熱素材
11 端末背面ケース
12 熱伝導性複合シート
12a 熱伝導性粘着層
12b 熱伝導層
13 バッテリー
14 パッケージ
15 エアーギャップ
16 タッチパネル
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
面方向の熱伝導率が20?2,000W/mKであり、アルミニウム箔、グラファイトシート及び銅箔から選ばれる熱伝導層の少なくとも片面に、0.4?3W/mKの熱伝導率を有する熱伝導性粘着層を積層させてなる熱伝導性複合シートであって、熱伝導性粘着層が下記(I)又は(II)である熱伝導性複合シート。
(I)
(a)下記平均組成式(1)
R_(a)SiO_((4-a)/2) (1)
(式中、Rは独立に炭素原子数1?10の非置換又は置換の1価炭化水素基であり、aは1.8?2.2の正数である。)
で示されるケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(b)熱伝導性充填剤:200?4,000質量部、
(c)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(a)成分中のアルケニル基に対する(c)成分中のケイ素原子に直接結合した水素原子のモル比が0.5?5.0となる量、
(d)白金族金属系触媒:白金族金属系元素量で(a)成分の0.1?1,000ppm、
(f)R^(1)_(3)SiO_(1/2)単位(R^(1)は非置換又は置換の1価炭化水素基を示す)(M単位)とSiO_(4/2)単位(Q単位)との共重合体であって、M単位とQ単位との比(M/Q)がモル比として0.5?1.5であり、脂肪族不飽和基を含有しないシリコーン樹脂:50?500質量部
を含有してなるシリコーン熱伝導性組成物の硬化物
(II)
(b)熱伝導性充填剤:100?3,000質量部、
(f)R^(1)_(3)SiO_(1/2)単位(R^(1)は非置換又は置換の1価炭化水素基を示す)(M単位)とSiO_(4/2)単位(Q単位)との共重合体であって、M単位とQ単位との比(M/Q)がモル比として0.5?1.5であり、脂肪族不飽和基を含有しないシリコーン樹脂:100質量部、
(g)有機過酸化物系化合物:有機過酸化物換算で0.1?2質量部
を含有してなるシリコーン熱伝導性組成物の硬化物
【請求項2】
面方向の熱伝導率が20?2,000W/mKである熱伝導層の片面に、0.4?3W/mKの熱伝導率を有する熱伝導性粘着層を積層させてなる、熱伝導性複合シートであって、該熱伝導層の厚みが0.01?2.0mmであり、該熱伝導性粘着層の厚みが0.005?0.3mmであり、かつ熱伝導層の厚みを1としたときの熱伝導性粘着層の厚みが1.1以下である請求項1記載の熱伝導性複合シート。
【請求項3】
熱伝導性粘着層が、上記(I)である請求項1又は2記載の熱伝導性複合シート。
【請求項4】
シリコーン熱伝導性組成物が、更に
(h-1):下記一般式(2)で表されるアルコキシシラン化合物
R^(2)_(b)R^(3)_(c)Si(OR^(4))_(4-b-c) (2)
(式中、R^(2)は独立に炭素原子数6?15のアルキル基、R^(3)は独立に非置換又は置換の炭素原子数1?8の1価炭化水素基、R^(4)は独立に炭素原子数1?6のアルキル基であり、bは1?3の整数、cは0,1又は2であり、b+cは1?3の整数である。)
及び
(h-2):下記一般式(3)で表される分子鎖片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン
【化1】

(式中、R^(5)は、独立に炭素原子数1?6のアルキル基である。また、dは5?100の整数である。)
からなる群から選択される表面処理剤の少なくとも1種を(a)成分100質量部に対して0.01?50質量部を配合した請求項3記載の熱伝導性複合シート。
【請求項5】
熱伝導性粘着層が、上記(II)である請求項1又は2記載の熱伝導性複合シート。
【請求項6】
シリコーン熱伝導性組成物が、更に
(h-1):下記一般式(2)で表されるアルコキシシラン化合物
R^(2)_(b)R^(3)_(c)Si(OR^(4))_(4-b-c) (2)
(式中、R^(2)は独立に炭素原子数6?15のアルキル基、R^(3)は独立に非置換又は置換の炭素原子数1?8の1価炭化水素基、R^(4)は独立に炭素原子数1?6のアルキル基であり、bは1?3の整数、cは0,1又は2であり、b+cは1?3の整数である。)
及び
(h-2):下記一般式(3)で表される分子鎖片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン
【化2】

(式中、R^(5)は、独立に炭素原子数1?6のアルキル基である。また、dは5?100の整数である。)
からなる群から選択される表面処理剤の少なくとも1種を(f)成分100質量部に対して0.01?50質量部を配合した請求項5記載の熱伝導性複合シート。
【請求項7】
熱伝導層の片面に熱伝導性粘着層を積層させてなる熱伝導性複合シートである請求項1?6のいずれか1項に記載の熱伝導性複合シート。
【請求項8】
熱伝導層が、アルミニウム箔及び銅箔から選ばれる請求項1?7のいずれか1項に記載の熱伝導性複合シート。
【請求項9】
室温下、25mm幅、厚み100μmの熱伝導性粘着層の片面をアルミニウム板に当て、質量2kgのゴムローラーで圧着して接着後10分間養生し、次いでアルミニウム板と接着されていない熱伝導性粘着層の他方の片面を基材に同様に接着させ、JIS Z 0237に準じて、熱伝導性粘着層の一端を前記アルミニウム板から引き剥がし、引き剥がした部分から引張り試験機を用い、引張り速度300mm/minにて180°方向に前記アルミニウム板から熱伝導性粘着層を引き剥がし、この引き剥がしに要した力(熱伝導性粘着層の剥離接着強度)が、2.0N/cm以上である請求項1?8のいずれか1項に記載の熱伝導性複合シート。
【請求項10】
携帯可能な電子端末用である請求項1?9のいずれか1項に記載の熱伝導性複合シート。
【請求項11】
発熱する電子部品とエアーギャップ(空隙)を設けて向かい合うように請求項1?10のいずれか1項に記載の熱伝導性複合シートが配置され、電子部品から発生した熱がエアーギャップを介して熱伝導性複合シートに伝熱されて拡散することを特徴とする放熱構造体。
【請求項12】
携帯可能な電子端末において、背面のケースの内側に請求項1?10のいずれか1項に記載の熱伝導性複合シートをケースと熱伝導性粘着層が接触するように貼り付けられ、電子部品と該熱伝導性複合シートの熱伝導層とは接触することがないよう任意のエアーギャップを設けて向かい合うように配置され、背面のケース上に温度の偏りがないことを特徴とする放熱構造体。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-02-08 
出願番号 特願2015-521371(P2015-521371)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (B32B)
P 1 651・ 121- YAA (B32B)
最終処分 維持  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 蓮井 雅之
井上 茂夫
登録日 2016-11-04 
登録番号 特許第6032359号(P6032359)
権利者 信越化学工業株式会社
発明の名称 熱伝導性複合シート及び放熱構造体  
代理人 特許業務法人英明国際特許事務所  
代理人 特許業務法人英明国際特許事務所  

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