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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01S
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01S
管理番号 1339144
異議申立番号 異議2017-700347  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-05-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-04-10 
確定日 2018-02-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6007237号発明「ファイバレーザ装置およびレーザ光照射位置の位置決め方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6007237号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-26〕、〔27-30〕について訂正することを認める。 特許第6007237号の請求項1ないし8、10ないし16、18ないし32に係る特許を維持する。 特許第6007237号の請求項9及び17に係る特許についての申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6007237号の請求項1-32に係る特許についての出願は、平成24年1月17日に出願した特願2012-553731号の一部を、平成26年12月26日に新たな特許出願として、出願したものであって、平成28年9月16日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人 畑中 悦子(以下、単に「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成29年6月7日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年8月10日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)があり、その訂正の請求に対して申立人から同年10月12日付けで意見書が提出されたものである。


第2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下の訂正事項1ないし12のとおりである。
訂正事項1 請求項1の「前記可視レーザ光源によって発生された前記可視レーザ光を前記増幅用光ファイバのコアに導入する導入部と、
加工対象に対する前記不可視レーザ光の照射位置の位置決めを行う場合に、前記可視レーザ光源を駆動し、前記可視レーザ光を前記出力用光ファイバのコアを介して出射させる駆動部と、」を、
「前記可視レーザ光源によって発生された前記可視レーザ光を前記増幅用光ファイバのコアに導入する導入部と、
前記増幅用光ファイバの後段において前記増幅用光ファイバのクラッドを伝播してきた光を減衰するクラッド光減衰部と、
加工対象に対する前記不可視レーザ光の照射位置の位置決めを行う場合に、前記可視レーザ光源を駆動し、前記可視レーザ光を前記出力用光ファイバのコアを介して出射させる駆動部と、」に訂正する。すなわち、請求項1に前記下線部とされる「クラッド光減衰部」を追加する。
訂正事項2 請求項8の「前記波長選択合分波素子は、前記光共振器の前段側に設けられていることを特徴とする請求項5または6に記載のファイバレーザ装置。」を、
「前記波長選択合分波素子は、前記光共振器の前段側に設けられていることを特徴とする請求項5に記載のファイバレーザ装置。」に訂正する。
訂正事項3 請求項9を削除する。
訂正事項4 請求項10の「前記可視レーザ光源と、前記波長選択合分波素子との間には、前記波長選択合分波素子から一方の前記入力端子に伝播される前記戻り光を減衰する、可視光を通過帯域としたフィルタが設けられていることを特徴とする請求項2、5乃至9のいずれか1項に記載のファイバレーザ装置。」を、
「前記可視レーザ光源と、前記波長選択合分波素子との間には、前記波長選択合分波素子から一方の前記入力端子に伝播される前記戻り光を減衰する、可視光を通過帯域としたフィルタが設けられていることを特徴とする請求項2、5乃至8のいずれか1項に記載のファイバレーザ装置。」に訂正する。
訂正事項5 請求項11の「前記導入部は、前記可視レーザ光源の出射部と前記増幅用光ファイバのコアとを接続する光ファイバを有していることを特徴とする、請求項1または2に記載のファイバレーザ装置。」を、
「前記導入部は、前記可視レーザ光源の出射部と前記増幅用光ファイバのコアとを接続する光ファイバを有していることを特徴とする、請求項1に記載のファイバレーザ装置。」に訂正する。
訂正事項6 請求項13の「前記光共振器は、前記増幅用光ファイバの両側にFBGを備えることを特徴とする請求項7乃至9、12のいずれか1項に記載のファイバレーザ装置。」を、
「前記光共振器は、前記増幅用光ファイバの両側にFBGを備えることを特徴とする請求項7、8、および12のいずれか1項に記載のファイバレーザ装置。」に訂正する。
訂正事項7 請求項17を削除する。
訂正事項8 請求項18の「前記複数の増幅用光ファイバから出力される不可視レーザ光を複数の入力端から入力して合波し、前記出力用光ファイバから出力する合波部と、」を、
「前記複数の増幅用光ファイバから出力される不可視レーザ光を複数の入力端から入力して合波し、前記出力用光ファイバのコアから出力する合波部と、」に訂正する。
訂正事項9 請求項26の「前記可視レーザ光の波長は赤色または緑色に対応する波長を有することを特徴とする請求項1乃至25のいずれか1項に記載のファイバレーザ装置。」を、
「前記可視レーザ光の波長は赤色または緑色に対応する波長を有することを特徴とする請求項1乃至8、10乃至16、および、18乃至25のいずれか1項に記載のファイバレーザ装置。」に訂正する。
訂正事項10 請求項27の「可視レーザ光を発生する可視レーザ光源によって発生された前記可視レーザ光を前記増幅用光ファイバのコアに導入し、
前記出力用光ファイバのコアを介して出射された前記可視レーザ光によって加工対象に対する前記不可視レーザ光の照射位置を決定する、ことを特徴とするファイバ光照射位置の位置決め方法。」を、
「可視レーザ光を発生する可視レーザ光源によって発生された前記可視レーザ光を前記増幅用光ファイバのコアに導入し、
前記増幅用光ファイバの後段において前記増幅用光ファイバのクラッドを伝播してきた光を減衰し、
前記出力用光ファイバのコアを介して出射された前記可視レーザ光によって加工対象に対する前記不可視レーザ光の照射位置を決定する、ことを特徴とするファイバ光照射位置の位置決め方法。」に訂正する。すなわち、請求項27に前記下線部とされる「クラッドを伝播してきた光を減衰」する工程を追加する。
訂正事項11 請求項28の「前記不可視レーザ光を発生中に前記コアを逆方向に伝播して前記可視レーザ光源に入射される戻り光を減衰することを特徴とする、」を、
「前記不可視レーザ光を発生中に前記増幅用光ファイバのコアを逆方向に伝播して前記可視レーザ光源に入射される戻り光を減衰することを特徴とする、」に訂正する。
訂正事項12 請求項29の「前記不可視レーザ光を発生中に前記コアを逆方向に伝播されて前記出力端子に入射される戻り光は他方の前記入力端子に伝播され、一方の前記入力端子に伝播される戻り光は減衰される、」を、
「前記不可視レーザ光を発生中に前記増幅用光ファイバのコアを逆方向に伝播されて前記出力端子に入射される戻り光は他方の前記入力端子に伝播され、一方の前記入力端子に伝播される戻り光は減衰される、」に訂正する。

(2)訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項3及び7の訂正は、請求項の削除を内容としているので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことが明らかである。
上記訂正事項1及び10の訂正は、各々訂正前の請求項1及び27に係る発明に対して、新たな発明特定事項を直列的に追加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、前述の追加された新たな発明特定事項である「前記増幅用光ファイバの後段において前記増幅用光ファイバのクラッドを伝播してきた光を減衰するクラッド光減衰部」及び「前記増幅用光ファイバの後段において前記増幅用光ファイバのクラッドを伝播してきた光を減衰」する事項は、いずれも訂正前の請求項17に記載された事項であり、これ以外にも明細書の【0027】、【0031】、【0040】、【0041】、【0044】、【0053】、【符号の説明】、図1、3-9、11-14に関連する記載がなされていることから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
上記訂正事項2、4?6、9の訂正は、引用する複数の請求項の一部を引用対象から除く訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことが明らかである。
上記訂正事項8の訂正は、訂正前の請求項18に係る発明で「前記出力用光ファイバから出力する」とした記載を、「前記出力用光ファイバのコアから出力する」と限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、合波部により入力された不可視レーザ光が、出力用ファイバのコアから出力されるとした事項は、明細書の【0076】に記載された事項の範囲内といえるから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
上記訂正事項11及び12の訂正は、各々訂正前の請求項28、29の「前記コア」の記載を、「前記増幅用ファイバのコア」に変更するものであって、訂正前の請求項28、29の「前記コア」とした記載が指すものを、前記した「増幅用光ファイバ」の「コア」を指すことを訂正により明らかとするものであるから、不明瞭な記載の釈明を目的とする訂正である。よって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

そして、これら訂正は一群の請求項に対して請求されたものである。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号または第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-26〕、〔27-30〕について訂正を認める。


第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1ないし30を含む、特許請求の範囲の請求項1ないし32に係る発明(以下、各々「本件発明1」等という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし32に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。(ただし、請求項9及び17は訂正により削除されたため、それらの記載は省略した。)
本件発明 1「基本モードと低次モードとを伝播するコアを有する増幅用光ファイバを用いて不可視レーザ光を発生し、出力用光ファイバを介して出力するファイバレーザ装置において、
可視レーザ光を発生する可視レーザ光源と、
前記可視レーザ光源によって発生された前記可視レーザ光を前記増幅用光ファイバのコアに導入する導入部と、
前記増幅用光ファイバの後段において前記増幅用光ファイバのクラッドを伝播してきた光を減衰するクラッド光減衰部と、
加工対象に対する前記不可視レーザ光の照射位置の位置決めを行う場合に、前記可視レーザ光源を駆動し、前記可視レーザ光を前記出力用光ファイバのコアを介して出射させる駆動部と、
を有することを特徴とするファイバレーザ装置。」
本件発明 2「基本モードと低次モードとを伝播するコアを有する増幅用光ファイバを用いて不可視レーザ光を発生し、出力用光ファイバを介して出力するファイバレーザ装置において、
可視レーザ光を発生する可視レーザ光源と、
前記可視レーザ光源によって発生された前記可視レーザ光を前記出力用光ファイバのコアに導入する導入部と、
加工対象に対する前記不可視レーザ光の照射位置の位置決めを行う場合に、前記可視レーザ光源を駆動し、前記可視レーザ光を前記出力用光ファイバのコアを介して出射させる駆動部と、を有し、
前記導入部は、前記不可視レーザ光を発生中に前記コアを逆方向に伝播して前記可視レーザ光源に入射される戻り光を減衰し、
前記導入部は2の入力端子と1の出力端子を少なくとも有する波長選択合分波素子を有し、
一方の前記入力端子には前記可視レーザ光源からの可視レーザ光が入射され、前記出力端子から出射されるレーザ光は前記出力用光ファイバのコアに導入され、
前記不可視レーザ光を発生中に前記コアを逆方向に伝播されて前記出力端子に入射される戻り光は他方の前記入力端子に伝播され、一方の前記入力端子に伝播される戻り光は減衰されることを特徴とするファイバレーザ装置。」
本件発明 3「前記導入部は、前記可視レーザ光源によって発生された前記可視レーザ光を前記増幅用光ファイバのコアに導入するとともに、前記不可視レーザ光を発生中に前記コアを逆方向に伝播して前記可視レーザ光源に入射される戻り光を減衰することを特徴とする請求項1記載のファイバレーザ装置。」
本件発明 4「前記戻り光は、不可視レーザ光波長を有するとともに、前記不可視レーザ光によってその長波側に発生するラマン散乱光または前記不可視レーザ光波長に近接して発生するブリユアン散乱光のうち少なくとも1つを含む不可視光からなることを特徴とする、請求項2または3に記載のファイバレーザ装置。」
本件発明 5「前記導入部は2の入力端子と1の出力端子を少なくとも有する波長選択合分波素子を有し、
一方の前記入力端子には前記可視レーザ光源からの可視レーザ光が入射され、前記出力端子から出射されるレーザ光は前記増幅用光ファイバのコアに導入され、
前記不可視レーザ光を発生中に前記コアを逆方向に伝播されて前記出力端子に入射される戻り光は他方の前記入力端子に伝播され、一方の前記入力端子に伝播される戻り光は減衰される、
ことを特徴とする請求項1記載のファイバレーザ装置。」
本件発明 6「前記波長選択合分波素子は、ファイバ溶融型または研磨型であることを特徴とする請求項2または5に記載のファイバレーザ装置。」
本件発明 7「前記不可視レーザ光を発生する光共振器を有し、
前記波長選択合分波素子は、前記光共振器の出力側に設けられていることを特徴とする請求項2記載のファイバレーザ装置。」
本件発明 8「前記不可視レーザ光を発生する光共振器を有し、
前記波長選択合分波素子は、前記光共振器の前段側に設けられていることを特徴とする請求項5に記載のファイバレーザ装置。」
本件発明10「前記可視レーザ光源と、前記波長選択合分波素子との間には、前記波長選択合分波素子から一方の前記入力端子に伝播される前記戻り光を減衰する、可視光を通過帯域としたフィルタが設けられていることを特徴とする請求項2、5乃至8のいずれか1項に記載のファイバレーザ装置。」
本件発明11「前記導入部は、前記可視レーザ光源の出射部と前記増幅用光ファイバのコアとを接続する光ファイバを有していることを特徴とする、請求項1に記載のファイバレーザ装置。」
本件発明12「前記不可視レーザ光を発生する光共振器を有することを特徴とする請求項11記載のファイバレーザ装置。」
本件発明13「前記光共振器は、前記増幅用光ファイバの両側にFBGを備えることを特徴とする請求項7、8、および12のいずれか1項に記載のファイバレーザ装置。」
本件発明14「前記導入部は、前記可視レーザ光源の出射部と前記増幅用光ファイバのクラッドとを接続する励起光合波器を有していることを特徴とする請求項1記載のファイバレーザ装置。」
本件発明15「前記可視レーザ光源と前記導入部との間にコア光を減衰するコア光減衰部が配置されていることを特徴とする請求項10乃至13のいずれか1項に記載のファイバレーザ装置。」
本件発明16「前記可視レーザ光源と前記導入部との間に前記可視レーザ光を透過し、前記不可視レーザ光を減衰させる光学フィルタが配置されていることを特徴とする請求項10乃至13のいずれか1項に記載のファイバレーザ装置。」
本件発明18「増幅用光ファイバを用いて不可視レーザ光を発生し、出力用光ファイバを介して出力するファイバレーザ装置において、
前記不可視レーザ光を発生する複数の前記増幅用光ファイバと、
前記複数の増幅用光ファイバから出力される不可視レーザ光を複数の入力端から入力して合波し、前記出力用光ファイバのコアから出力する合波部と、
可視レーザ光源によって発生された可視レーザ光を導入する導入部と、
加工対象に対する前記不可視レーザ光の照射位置の位置決めを行う場合に、前記可視レーザ光を前記出力用光ファイバのコアを介して出射させる駆動部と、
を有し、
前記導入部は、前記合波部の複数の入力端のいずれかに前記可視レーザ光を導入することを特徴とするファイバレーザ装置。」
本件発明19「前記増幅用光ファイバは、基本モードと低次モードとを伝播するコアを有することを特徴とする、請求項18記載のファイバレーザ装置。」
本件発明20「前記増幅用光ファイバは、シングルモードコアを有することを特徴とする、請求項18記載のファイバレーザ装置。」
本件発明21「前記導入部は、前記合波部の複数の入力端のうち、前記増幅用光ファイバからの不可視レーザ光が入力されていない入力端に前記可視レーザ光を導入することを特徴とする、請求項18記載のファイバレーザ装置。」
本件発明22「前記導入部は、前記増幅用光ファイバからの不可視レーザ光が入力されている入力端に前記可視レーザ光を導入することを特徴とする、請求項18記載のファイバレーザ装置。」
本件発明23「前記導入部は、前記不可視レーザ光を発生中に前記コアを逆方向に伝播して前記可視レーザ光源に入射される戻り光を減衰することを特徴とする、請求項18記載のファイバレーザ装置。」
本件発明24「前記導入部は、2の入力端子と1の出力端子を少なくとも有する波長選択合分波素子を有し、
一方の前記入力端子には前記可視レーザ光源からの可視レーザ光が入力され、前記出力端子から出射される可視レーザ光は、前記合波部の前記不可視レーザ光が入力されていない入力端に入力されることを特徴とする請求項18または23に記載のファイバレーザ装置。」
本件発明25「前記波長選択合分波素子は、ファイバ溶融型または研磨型であることを特徴とする請求項24記載のファイバレーザ装置。」
本件発明26「前記可視レーザ光の波長は赤色または緑色に対応する波長を有することを特徴とする請求項1乃至8、10乃至16、および、18乃至25のいずれか1項に記載のファイバレーザ装置。」
本件発明27「基本モードと低次モードとを伝播するコアを有する増幅用光ファイバを用いて不可視レーザ光を発生し、出力用光ファイバを介して出力するレーザ光照射位置の位置決め方法において、
可視レーザ光を発生する可視レーザ光源によって発生された前記可視レーザ光を前記増幅用光ファイバのコアに導入し、
前記増幅用光ファイバの後段において前記増幅用光ファイバのクラッドを伝播してきた光を減衰し、
前記出力用光ファイバのコアを介して出射された前記可視レーザ光によって加工対象に対する前記不可視レーザ光の照射位置を決定する、ことを特徴とするファイバ光照射位置の位置決め方法。」
本件発明28「前記不可視レーザ光を発生中に前記増幅用光ファイバのコアを逆方向に伝播して前記可視レーザ光源に入射される戻り光を減衰することを特徴とする、請求項27記載のファイバ光照射位置の位置決め方法。」
本件発明29「前記可視レーザ光を前記増幅用光ファイバのコアに導入する位置に、2の入力端子と1の出力端子を少なくとも有する波長選択合分波素子を設け、
一方の前記入力端子には前記可視レーザ光源からの可視レーザ光が入射され、前記出力端子から出射されるレーザ光は前記増幅用光ファイバのコアに導入され、
前記不可視レーザ光を発生中に前記増幅用光ファイバのコアを逆方向に伝播されて前記出力端子に入射される戻り光は他方の前記入力端子に伝播され、一方の前記入力端子に伝播される戻り光は減衰される、
ことを特徴とする、請求項28記載のファイバ光照射位置の位置決め方法。」
本件発明30「前記波長選択合分波素子は、ファイバ溶融型または研磨型であることを特徴とする請求項29記載のファイバ光照射位置の位置決め方法。」
本件発明31「基本モードと低次モードとを伝播するコアを有する増幅用光ファイバを用いて不可視レーザ光を発生し、出力用光ファイバを介して出力するレーザ光照射位置の位置決め方法において、
可視レーザ光を発生する可視レーザ光源によって発生された前記可視レーザ光を前記出力用光ファイバのコアに導入し、
前記不可視レーザ光を発生中に前記コアを逆方向に伝播して前記可視レーザ光源に入射される戻り光を減衰し、
前記可視レーザ光を前記出力用光ファイバのコアに導入する位置に、2の入力端子と1の出力端子を少なくとも有する波長選択合分波素子を設け、
一方の前記入力端子には前記可視レーザ光源からの可視レーザ光が入射され、前記出力端子から出射されるレーザ光は前記出力用光ファイバのコアに導入され、
前記不可視レーザ光を発生中に前記コアを逆方向に伝播されて前記出力端子に入射される戻り光は他方の前記入力端子に伝播され、一方の前記入力端子に伝播される戻り光は減衰され、
前記出力用光ファイバのコアを介して出射された前記可視レーザ光によって加工対象に対する前記不可視レーザ光の照射位置を決定する、ことを特徴とするファイバ光照射位置の位置決め方法。」
本件発明32「前記波長選択合分波素子は、ファイバ溶融型または研磨型であることを特徴とする請求項31記載のファイバ光照射位置の位置決め方法。」

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし32に係る特許に対して平成29年6月7日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

【取消理由1】特許法第29条第2項
甲第 1号証:特開2003-285189号公報
甲第 2号証:特開2003-8114号公報
甲第 3号証:特表2009-512208号公報
甲第 4号証:特開2010-1193号公報
甲第 5号証:特開2010-129886号公報
甲第 6号証:特開2009-69492号公報
甲第 7号証:特開2007-123594号公報
甲第 8号証:特開2010-167433号公報
甲第 9号証:特開2008-276233号公報
甲第10号証:特開2009-16804号公報
甲第11号証:特開2007-81076号公報
甲第12号証:特開2007-173346号公報
甲第13号証:特開2007-42981号公報
甲第14号証:特開2009-212441号公報
甲第15号証:特開2010-147108号公報
甲第16号証:特開2010-232650号公報
甲第17号証:特開2009-178720号公報
甲第18号証:特開2010-171322号公報
甲第19号証:特開2008-147389号公報
甲第20号証:特開2008-187100号公報
甲第21号証:特開昭61-200503号公報
甲第22号証:国際公開第2008/123609号
甲第23号証:特開2008-268747号公報
甲第24号証:特開2007-240258号公報
甲第25号証:特開2000-126886号公報

(1)請求項1、3?6、8、10?17、26に係る発明は、特許異議申立書第58ページ第11行から第74ページ第13行までの「(4-3)・・・特許を受けることができない。」という理由により、上記甲第1号証?甲第23号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、請求項1、3?6、8、10?17、26に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)請求項27?30に係る発明は、特許異議申立書第76ページ第14行から第79ページ第18行までの「(5-3)・・・特許を受けることができない。」という理由により、上記甲第1号証?甲第16号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、請求項27?30に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)請求項2、4、6、7、9、10、13、15?17、26に係る発明は、特許異議申立書第85ページ第9行から第95ページ第11行までの「(6-3)・・・特許を受けることができない。」という理由により、上記甲第2号証?甲第16号証、甲第18号証?甲第20号証、及び、甲第22号証?甲第24号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、請求項2、4、6、7、9、10、13、15?17、26に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(4)請求項31、32に係る発明は、特許異議申立書第97ページ第8行から第99ページ第4行までの「(7-3)・・・特許を受けることができない。」という理由により、上記甲第2号証?甲第16号証、甲第24号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、請求項31、32に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(5)請求項18?26に係る発明は、特許異議申立書第104ページ第11行から第113ページ第10行までの「(8-3)・・・特許を受けることができない。」という理由により、上記甲第2号証?甲第16号証、甲第19号証、甲第22号証、甲第24号証、甲第25号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、請求項18?26に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

【取消理由2】特許法第36条第6項第2号
甲第26号証:山下真司著、「イラスト・図解 光ファイバ通信のしくみがわかる本」、初版、株式会社技術評論社、平成14年4月25日発行、p.80-83
甲第27号証:末松安晴、伊賀健一著、「光ファイバ通信入門」、改訂4版、株式会社オーム社、平成18年3月20日発行、p.18-27

(1)請求項1、2、19、27、31の「低次モード」は不明確である。その理由は特許異議申立書第113ページ下から第12行から第115ページ第15行までに記載のとおりである。
よって、請求項1、2、19、27、31、及び、これに従属する請求項3?17、26、28?30、32に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)請求項8の「・・・前記波長選択合分波素子は、前記光共振器の前段側に設けられている・・・」は不明確である。その理由は特許異議申立書第115ページ下から第4行から第119ページ下から第5行までに記載のとおりである。
よって、請求項8、及び、これに従属する請求項10、13、15?17、26に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(3)請求項9の「・・・前記波長選択合分波素子は、前記光共振器と前記光増幅器の間に設けられている・・・」は不明確である。その理由は特許異議申立書第120ページ第4行から第122ページ第14行までに記載のとおりである。
よって、請求項9、及び、これに従属する請求項10、13、15?17、26に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(4)請求項11の「前記導入部は、前記可視レーザ光源の出射部と前記増幅用光ファイバのコアとを接続する光ファイバを有している・・・」は不明確である。その理由は特許異議申立書第122ページ下から第7行から第123ページ第16行までに記載のとおりである。
よって、請求項11、及び、これに従属する請求項12、13、15?17、26に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

3 訂正請求に起因した新たな取消理由の有無について
上記「第1 手続の経緯」に記したとおり、申立人は本件訂正請求に応じて、平成29年10月12日付けで意見書を提出すると共に追加で甲第28号証?第35号証の証拠を挙げて意見を述べているため、訂正請求に起因した新たな取消理由の申立がなされたか否かについて、前記意見書を検討したが、「(7)むすび」に記されているとおり、当初の特許異議申立書で申し立てた理由以外の新たな理由は追加されていない。

4 甲号証の記載
上記「2 取消理由の概要」に示したとおり、取消理由1は複数の異なる証拠と、取消対象とされる複数の請求項との組み合わせにより、(1)?(5)の5つに分かれている。
ここでは、5つの取消理由にて主たる発明が記載された証拠について、以下に示すこととし、従たる証拠の記載事項については、検討の中で示すこととする。

取消理由1の(1)及び(2)にて主たる発明が記載された証拠である、甲第1号証(特開2003-285189号公報)には、レーザ加工装置と題して、コア径25μm、先端をレーザ光出力端面13とし、後端が反射端面14とされた能動光ファイバ12に、励起装置である半導体レーザ発振器16から励起レーザ光を照射することにより、該能動光ファイバ12で波長が約1.06μmであるファイバレーザ光を発振させるファイバレーザ発振装置11を前記加工装置が備え、前記ファイバレーザ発振装置11のレーザ光出力端面13には、加工ヘッド20が受動光ファイバ(パワー伝送用光ファイバ)を介して接続され、該加工ヘッド20は、先端部に加工ノズル26を有すると共に第1集光光学系24を備えるものであり、前記ファイバレーザ発振装置11の反射端面14には、第2集光光学系34と波長0.633μmの可視光であるHeNeレーザ発振装置32とからなる加工開始前に集光点の位置決めを行う集光点位置決め装置30が接続されていることが記載されている。以上の記載によれば、甲第1号証には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲1発明)
「レーザ加工装置であって、
前記レーザ加工装置は、
コア径25μm、先端をレーザ光出力端面13とし、後端が反射端面14とされた能動光ファイバ12に、励起装置である半導体レーザ発振器16から励起レーザ光を照射することにより、該能動光ファイバ12で波長が約1.06μmである不可視のファイバレーザ光を発振させるファイバレーザ発振装置11と、
前記ファイバレーザ発振装置11のレーザ光出力端面13に接続された、受動光ファイバと、
前記受動光ファイバの先に接続された加工ヘッド20と、
前記ファイバレーザ発振装置11の反射端面14に接続された、第2集光光学系34と波長0.633μmの可視光であるHeNeレーザ発振装置32とからなる加工開始前に集光点の位置決めを行う集光点位置決め装置30と、
からなり、
該加工ヘッド20は、先端部に加工ノズル26を有すると共に第1集光光学系24を備えるものとされる、
レーザ加工装置。」

取消理由1の(3)及び(4)にて主たる発明が記載された証拠である、甲第24号証(特開2007-240258号公報)には、レーザ光LBを出力するレーザ光源であるファイバレーザ1と、可視光であるガイド光の光源3と、該ガイド光源3からの可視光をデリバリファイバ2内のコアに導入する導入タップ4及び該デリバリファイバ2のコアを介して反射される反射ガイド光RGLを取り出すための取出タップ6とを備えるデリバリファイバ2と、該デリバリファイバ2の出力端2a近傍に配置され、デリバリファイバ2から出射される可視光であるガイド光の一部を反射ガイド光RGLとして反射してデリバリファイバ2のコアに返すとともにレーザ光LBは反射することなく通過させる反射体5と、該取出タップ6からの反射ガイド光RGLが入射されその強度を検出する検出部7とを有するレーザ加工装置であって、デリバリファイバ2の破断を、前記検出部7の強度が低下あるいはゼロとなることで検知できること、及び、可視光である照射されたガイド光GLの位置から、操作者がレーザ光LBの位置を視認し把握できることが記載されている。以上の記載によれば、甲第24号証には以下の発明(以下、「甲24発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲24発明)
「加工用レーザを出力して材料の加工を行うレーザ加工装置に付設され、レーザ加工装置が有するデリバリファイバ2の破断を検知する検知システムであって、
前記レーザ加工装置は、
レーザ光LBを出力するレーザ光源であるファイバレーザ1と、
ファイバレーザ1の出力端に接続されるデリバリファイバ2と、
可視光であるガイド光の光源3と、
該デリバリファイバ2に接続されかつ該ガイド光源3からの可視光を当該デリバリファイバ2内のコアに導入する導入タップ4と、からなり、
前記検知システムは、
該デリバリファイバ2の出力端2a近傍に配置され、デリバリファイバ2から出射される可視光であるガイド光の一部を反射ガイド光RGLとして反射してデリバリファイバ2のコアに返すとともにレーザ光LBは反射することなく通過させる反射体5と、
該デリバリファイバ2のコアを介して反射される反射ガイド光RGLを取り出すために該デリバリファイバ2に設けられる取出タップ6と、
該取出タップ6からの反射ガイド光RGLが入射されその強度を検出する検出部7と、からなり、
前記デリバリファイバ2の破断は、前記検出部7に入力される反射ガイド光RGLの強度が低下あるいはゼロとなることで検知可能であり、
前記ガイド光源3によって照射されるガイド光GLの位置から、操作者がレーザ光LBの位置を視認し把握できる
検知システム。」

取消理由1の(5)にて主たる発明が記載された証拠である、甲第25号証(特開2000-126886号公報)には、複数の非可視レーザ光発振器2?7から出射されるレーザ光が各々集光レンズ16?21を介して入射される単芯光ファイバ23?28を有するとともに、レーザ光照射装置1のアライメント作業時の参照光とされる可視レーザ光発振器14から出射されるレーザ光が集光レンズ22を介して入射される単芯光ファイバ29とを有するレーザ光照射装置1であって、単芯光ファイバ23?29は、可視レーザ参照光が伝送される単芯光ファイバ29を中心軸の位置にして、他の非可視レーザ光を伝送する複数の単芯光ファイバ23?28が均等に集合位置するよう一体化されたバンドルファイバ31に構成されており、該バンドルファイバ31の端部から出射される複数のレーザ光はコリメートレンズ35により平行な光束36とされ、試料に照射されることが記載されている。以上の記載によれば、甲第25号証には以下の発明(以下、「甲25発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲25発明)
「複数の非可視レーザ光発振器2?7から出射されるレーザ光8?13が各々集光レンズ16?21を介して入射される単芯光ファイバ23?28を有するとともに、レーザ光照射装置1のアライメント作業時の参照光とされる可視レーザ光発振器14から出射されるレーザ光15が集光レンズ22を介して入射される単芯光ファイバ29とを有するレーザ光照射装置1であって、
前記単芯光ファイバ23?29は、可視レーザ参照光が伝送される前記単芯光ファイバ29を中心軸の位置にして、他の非可視レーザ光を伝送する複数の単芯光ファイバ23?28が均等に集合位置するよう一体化されたバンドルファイバ31に構成されており、
該バンドルファイバ31の端部から出射される複数のレーザ光はコリメートレンズ35により平行な光束36とされ、試料に照射される
レーザ光照射装置。」

5 判断
(1) 取消理由通知に記載した取消理由について
ア 取消理由1(特許法第29条第2項)について
上記「2 取消理由の概要」に示したとおり、当該取消理由1は複数の異なる証拠と、取消対象とされる複数の請求項との組み合わせにより、(1)?(5)の5つに分かれている。以下、これら(1)?(5)を順に検討する。

〔理由1-(1)〕甲1発明を主たる発明とすることで、本件発明1、3?6、8、10?17、26は容易想到であるか否かについて
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「能動光ファイバ12に、励起装置である半導体レーザ発振器16から励起レーザ光を照射することにより、該能動光ファイバ12で波長が約1.06μmである不可視のファイバレーザ光を発振させるファイバレーザ発振装置11」は、本件発明1の「不可視レーザ光を発生」する「光ファイバ」に相当し、同じく甲1発明の「前記ファイバレーザ発振装置11のレーザ光出力端面13に接続された、受動光ファイバ」は、本件発明1の「出力用光ファイバ」に相当する。
また、甲1発明の「波長0.633μmの可視光であるHeNeレーザ発振装置32」は、本件発明1の「可視レーザ光を発生する可視レーザ光源」に相当し、甲1発明の「前記ファイバレーザ発振装置11の反射端面14に接続された」とする「第2集光光学系34」は、本件発明1の「前記可視レーザ光源によって発生された前記可視レーザ光を前記増幅用光ファイバ」に「導入する導入部」に相当する。
以上のことから本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点で一致し、かつ相違点で相違する。
(一致点)
光ファイバを用いて不可視レーザ光を発生し、出力用光ファイバを介して出力するファイバレーザ装置において、
可視レーザ光を発生する可視レーザ光源と、
前記可視レーザ光源によって発生された前記可視レーザ光を前記増幅用光ファイバに導入する導入部とを有するファイバレーザ装置。

(相違点)
1.「増幅用光ファイバ」に関し、本件発明1では「基本モードと低次モードとを伝播するコアを有する」ことされ、また「増幅用」と特定しているのに対して、甲1発明の対応する「能動光ファイバ12」は、コアがどのような特性・仕様とされているのかについて明らかでなく、また、当該能動光ファイバ12が「増幅用」とされておらず、発振とのみされている点。
2.「導入部」に関し、本件発明1では「増幅用光ファイバのコアに導入する」と特定されているのに対して、甲1発明では単に「ファイバレーザ発振装置11の反射端面14に接続された」としている点。
3.本件発明1では「前記増幅用光ファイバの後段において前記増幅用光ファイバのクラッドを伝播してきた光を減衰するクラッド光減衰部」をファイバレーザ装置が有するとしているのに対して、甲1発明は該クラッド光減衰部に相当する事項を有しない点。
4.本件発明1のファイバレーザ装置は、「加工対象に対する前記不可視レーザ光の位置決めを行う場合に、前記可視レーザ光源を駆動し、前記可視レーザ光を前記出力用光ファイバのコアを介して出射させる駆動部」を有すると特定されているのに対して、甲1発明のレーザ加工装置は、可視レーザ光源に対応するHeNeレーザ発振装置32を駆動する部材に関する直接の事項を備えていない点。

そこで、上記相違点について検討する。
事案に鑑み、まず相違点3について検討する。
当該相違点に係る本件発明1のクラッド光減衰部とは、増幅用光ファイバの後段、すなわち増幅用光ファイバを含まない箇所である接続部や出力用光ファイバの部分で、クラッド領域を伝播してきた可視レーザ光の一部を除去する機能・作用を持たせるとした技術的意義を有するものである(本件明細書【0041】及び特許権者の意見書6ページ7-13行「かくして、・・・作用効果を得ることができる。」)ところ、係る技術的事項が公知ないし周知であるとする証拠は、甲第2号証ないし甲第23号証のいずれにも見いだせない。
ちなみに、相違点3に係る本件発明1の発明特定事項は、訂正前の請求項17にあったものであり、取消理由通知の理由1.(1)でも訂正前の請求項17を第4の周知技術であるとの趣旨で容易想到と扱ったものであるが、第4の周知技術とされる甲第18号証、甲第20号証、甲第22号証、及び、甲第23号証に記載の「クラッド光減衰部」は、いずれも本件発明1のクラッド光減衰部の技術的意義と合致しない。
個々に詳述すると、甲第18号証に記載の励起光除去樹脂は、レーザ光源がシングルパス構成の場合に余剰の励起光による伝搬用光ファイバ及び接続部の被覆樹脂の燃焼を防止するためにレーザ光源と伝搬用光ファイバとの接続部に設けられる部材とされ、甲1発明と組み合わせる動機がない。たとえ機械的に組み合わせたとしても、励起光除去樹脂はその名称のとおり、励起光を光ファイバの外部に逃すような屈折率が選ばれるのであるから、波長が異なる甲1発明の可視レーザ光を結果として減衰できるかは定かではないともいえる。また、甲第20号証に記載の残留光除去構造も、不可視レーザ光を生成するために光増幅システムの希土類添加光ファイバのクラッドに入射される励起光の除去を図るべく残留光透過物質を希土類添加光ファイバの出射端に設けるとした事項を記載したものであるから、甲第18号証で述べた理由と同様、甲1発明と組み合わせる動機がない。さらに甲第22号証に記載の光伝送部とされる光ファイバ14の一部に設けた除去部30は、コアを伝播するメインビームの一部が不可避的にクラッドに漏れ出し、メインビーム周辺の弱いレーザ光として加工物に照射されることによる切断加工品質の低下を防ぐ目的で設けられるとされており、同様に甲1発明と組み合わせる動機がない。甲第23号証に記載の技術は、光ファイバ通信システムにおける光ファイバ同士の接続に起因する漏洩光処理に関するものとされ、甲1発明及び本件発明が属するレーザ加工技術とは分野が異なる。よって、甲1発明と組み合わせる動機がそもそもない。
また、申立人は本件訂正請求後に提出した意見書にて、依然として当該取消理由により本件発明1、3?6、8、10?17、26は容易想到であると主張し、漏洩光対策及びビーム品質向上並びに焼損対策は当然の課題である(意見書(イ)?(エ))と述べているが、漏洩する光を可視光であるとした記載は伴っておらず、ビーム品質の向上で対象とされた光の種類も異なり、焼損の原因も異なる関係にあることが明らかであるため、前述の結論を左右するものではない。

そうすると、上記相違点1ないし4に関し、少なくとも相違点3に係る構成を当業者が容易想到とする理由が成り立たないのであるから、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は当業者にとり甲第1号証ないし甲第23号証に基づいて容易想到であるとはいえない。
また、本件発明3?6、8、10?17、26についても、上記検討した相違点3は請求項1を引用する関係において同様に相違を形成するものであるから、同じく容易想到とはいえない。

〔理由1-(2)〕甲1発明を主たる発明とすることで、本件発明27?30は容易想到であるか否かについて
本件発明27と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「能動光ファイバ12に、励起装置である半導体レーザ発振器16から励起レーザ光を照射することにより、該能動光ファイバ12で波長が約1.06μmである不可視のファイバレーザ光を発振させるファイバレーザ発振装置11」は、本件発明27の「不可視レーザ光を発生」する「光ファイバ」に相当し、同じく甲1発明の「前記ファイバレーザ発振装置11のレーザ光出力端面13に接続された、受動光ファイバ」は、本件発明27の「出力用光ファイバ」に相当する。
また、甲1発明の「波長0.633μmの可視光であるHeNeレーザ発振装置32」は、本件発明27の「可視レーザ光を発生する可視レーザ光源」に相当し、甲1発明の「前記ファイバレーザ発振装置11の反射端面14に接続された」とする「第2集光光学系34」による可視光の受動光ファイバへの導入は、本件発明27の「前記可視レーザ光源によって発生された前記可視レーザ光を前記増幅用光ファイバ」に「導入」することに相当し、甲1発明の「加工開始前に集光点の位置決めを行う」は、本件発明27の「レーザ光照射位置の位置決め」に相当する。
以上のことから本件発明27と甲1発明とは、以下の一致点で一致し、かつ相違点で相違する。
(一致点)
光ファイバを用いて不可視レーザ光を発生し、出力用光ファイバを介して出力するレーザ光照射位置の位置決め方法において、
可視レーザ光を発生する可視レーザ光源によって発生された前記可視レーザ光を前記光ファイバに導入することを含むファイバ光照射位置の位置決め方法。

(相違点)
1.「増幅用光ファイバ」に関し、本件発明27では「基本モードと低次モードとを伝播するコアを有する」こと及び「増幅用」と特定しているのに対して、甲1発明の対応する「能動光ファイバ12」は、コアがどのような特性・仕様とされているのかについて明らかでなく、また、「増幅用」とされておらず、発振とのみされている点。
2.「可視レーザ光」の「導入」に関し、本件発明27では「増幅用光ファイバのコアに導入する」と特定されているのに対して、甲1発明では単に「ファイバレーザ発振装置11の反射端面14に接続された」としている点。
3.本件発明27では「前記増幅用光ファイバの後段において前記増幅用光ファイバのクラッドを伝播してきた光を減衰し」と特定しているのに対して、甲1発明には該クラッドを伝播してきた光を減衰する処理に相当する事項を有しない点。

そこで、上記相違点について検討する。
事案に鑑み、まず相違点3について検討する。
本件発明27は、本件発明1との関係において、方法の発明としたものであるか、装置という物の発明であるかという違いでしかなく、上記対比で示すとおり、駆動部を備える要件を除き両者に大きな違いは無い。そして、主たる引用発明である甲1発明との対比の結果生じる一致点及び相違点の全体を見渡しても、さしたる差は無いことが明らかである。
そうすると、容易想到であるとの理由を構成する従たる公知技術として甲第2号証ないし甲第16号証を見渡しても、上記〔理由1-(1)〕の相違点3に対する判断の結果、甲第2号証ないし甲第23号証のいずれにも見いだせなかったのであるから、それよりも対象とされる従たる証拠の範囲が狭い、甲第2号証ないし甲第16号証の中にも見いだせないということが明らかであるから、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明27は、本件発明1での判断結果と同様、当業者にとり甲第1号証ないし甲第16号証に基づいて容易想到であるとはいえない。
また、本件発明28?30についても、上記検討した相違点3は請求項27を引用する関係において同様に相違を形成するものであるから、同じく容易想到とはいえない。

〔理由1-(3)〕甲24発明を主たる発明とすることで、本件発明2、4、6、7、9、10、13、15?17、26は容易想到であるか否かについて
本件発明2と甲24発明とを対比する。
甲24発明の「レーザ光LBを出力するレーザ光源であるファイバレーザ1」は、本件発明2の「不可視レーザ光を発生」する「光ファイバ」に相当し、同じく甲24発明の「デリバリファイバ2」は、本件発明2の「出力用光ファイバ」に相当し、甲24発明の「可視光であるガイド光の光源3」は、本件発明2の「可視レーザ光を発生する可視レーザ光源」に相当し、甲24発明の「該デリバリファイバ2に接続されかつ該ガイド光源3からの可視光を当該デリバリファイバ2内のコアに導入する導入タップ4」は、本件発明2の「前記可視レーザ光源によって発生された前記可視レーザ光を前記出力用光ファイバのコアに導入する導入部」に相当する。
以上のことから本件発明2と甲24発明とは、以下の一致点で一致し、かつ相違点で相違する。
(一致点)
光ファイバを用いて不可視レーザ光を発生し、出力用光ファイバを介して出力するファイバレーザ装置において、
可視レーザ光を発生する可視レーザ光源と、
前記可視レーザ光源によって発生された前記可視レーザ光を前記出力用光ファイバのコアに導入する導入部とを有する、
ファイバレーザ装置。

(相違点)
1.「光ファイバ」に関し、本件発明2では「増幅用」とし、かつ、その「コア」について「基本モードと低次モードとを伝播する」と特定しているのに対して、甲24発明の「ファイバレーザ1」は、増幅するか否かが明らかでなく、また、そのコアの伝播仕様についても明らかでない点。
2.本件発明2のファイバレーザ装置は、「加工対象に対する前記不可視レーザ光の照射位置の位置決めを行う場合に、前記可視レーザ光源を駆動し、前記可視レーザ光を前記出力用光ファイバのコアを介して出射させる駆動部」を有するとされているのに対して、甲24発明の検知システムは、前記ガイド光源3によって照射されるガイド光GLの位置から、操作者がレーザ光LBの位置を視認し把握できるとはされているものの、ガイド光の光源3を駆動する手段について明らかでない点。
3.「導入部」に関し、上記対比で相当関係は有するものの、本件発明2ではさらに当該導入部に対して
ア)「前記導入部は、前記不可視レーザ光を発生中に前記コアを逆方向に伝播して前記可視レーザ光源に入射される戻り光を減衰し」との更なる特定、
イ)「前記導入部は2の入力端子と1の出力端子を少なくとも有する波長選択合分波素子を有し」との更なる特定、
ウ)「一方の前記入力端子には前記可視レーザ光源からの可視レーザ光が入射され、前記出力端子から出射されるレーザ光は前記出力用光ファイバのコアに導入され、
前記不可視レーザ光を発生中に前記コアを逆方向に伝播されて前記出力端子に入射される戻り光は他方の前記入力端子に伝播され、一方の前記入力端子に伝播される戻り光は減衰されること」との更なる特定、
を有しているのに対して、甲24発明の対応する「導入タップ24」は、これらア)?ウ)の更なる特定事項に対応した事項を有しない点。

そこで、上記相違点について検討する。
事案に鑑み、まず相違点3について検討する。
可視レーザ光を出力用光ファイバのコアに導入するために本件発明2では、上記相違点3のイ)に示したとおり、「波長選択合分波素子」を用い、当該素子は上記相違点3のア)及びウ)の機能・作用を奏する関係にあるところ、この取消理由(iii)で従たる証拠とされた、甲第2号証?甲第16号証、甲第18号証?甲第20号証、及び甲第22号証?甲第23号証の中には、そもそも上記相違点3のイ)に示す「波長選択合分波素子」を用いるとした事実を記載した証拠はない。
申立人は、上記相違点3のイ)について、特許異議申立書にて、甲第12号証の「波長分割多重結合器(WDM)12」が、本件発明2の上記ア)?ウ)の特定事項を備えた「波長選択合分波素子」であると主張しているが、甲第12号証の図2に図示された12は、波長λ3の光を出力する16の線が出力端子であると認識できるため、上記イ)と照らし合わせると、入力端子数が1で出力端子数が2となる部材であり、かつ、上記ウ)の可視レーザ光の入射端子を備えるものでもないから、甲第12号証の波長分割多重結合器(WDM)12は、仕様及び機能の双方の点で、本件発明2の波長選択合分波素子と同等でないことが明らかである。
そうすると、当該相違点3を容易想到とすべき事情はもはや見当たらないのであるから、他の相違点1、2を検討するまでもなく、本件発明2は、甲24発明及び甲第2号証?甲第16号証、甲第18号証?甲第20号証、並びに甲第22号証?甲第23号証の記載事項によって、当業者が容易に想到できたものとはいえない。
また、本件発明2を引用する本件発明4、6、7、9、10、13、15?17、26も、同様の理由により、取消理由通知に示した証拠と理由によっては、これを当業者が容易に想到できたものとはいえない。

〔理由1-(4)〕甲24発明を主たる発明とすることで、本件発明31、32は容易想到であるか否かについて
本件発明31と甲24発明とを対比する。
甲24発明の「レーザ光LBを出力するレーザ光源であるファイバレーザ1」は、本件発明31の「不可視レーザ光を発生」する「光ファイバ」に相当し、同じく甲24発明の「デリバリファイバ2」は、本件発明31の「出力用光ファイバ」に相当し、甲24発明の「可視光であるガイド光の光源3」は、本件発明31の「可視レーザ光を発生する可視レーザ光源」に相当し、甲24発明の「導入タップ4」の「該デリバリファイバ2に接続されかつ該ガイド光源3からの可視光を当該デリバリファイバ2内のコアに導入する」は、本件発明31の「可視レーザ光源によって発生された前記可視レーザ光を前記出力用光ファイバのコアに導入し」に相当する。
また、甲24発明の「前記ガイド光源3によって照射されるガイド光GLの位置から、操作者がレーザ光LBの位置を視認し把握できる」と、本件発明31の「前記出力用光ファイバのコアを介して出射された前記可視レーザ光によって加工対象に対する前記不可視レーザ光の照射位置を決定する」とされる「レーザ光照射位置の位置決め方法」とは、加工用の不可視レーザ光の照射位置を可視レーザ光の照射位置により位置決めする点で内容上一致する。
以上のことから本件発明31と甲24発明とは、以下の一致点で一致し、かつ相違点で相違する。
(一致点)
光ファイバを用いて不可視レーザ光を発生し、出力用光ファイバを介して出力するレーザ光照射位置の位置決め方法において、
可視レーザ光を発生する可視レーザ光源によって発生された前記可視レーザ光を前記出力用光ファイバのコアに導入し、
前記出力用光ファイバのコアを介して出射された前記可視レーザ光によって加工対象に対する前記不可視レーザ光の照射位置を決定する
ファイバ光照射位置の位置決め方法。

(相違点)
1.「光ファイバ」に関し、本件発明31では「増幅用」とし、かつ、その「コア」について「基本モードと低次モードとを伝播する」と特定しているのに対して、甲24発明の「ファイバレーザ1」は、増幅するか否かが明らかでなく、また、そのコアの伝播仕様についても明らかでない点。
2.本件発明31のファイバ光照射位置の位置決め方法は、「前記可視レーザ光を前記出力用光ファイバのコアに導入する位置に、2の入力端子と1の出力端子を少なくとも有する波長選択合分波素子を設け」るとし、かつ「一方の前記入力端子には前記可視レーザ光源からの可視レーザ光が入射され、前記出力端子から出射されるレーザ光は前記出力用光ファイバのコアに導入され」るとし、これに関連して、「前記不可視レーザ光を発生中に前記コアを逆方向に伝播されて前記出力端子に入射される戻り光は他方の前記入力端子に伝播され、一方の前記入力端子に伝播される戻り光は減衰され」るとしているのに対して、甲24発明の検知システムでは、波長選択合分波素子は設けられておらず、その結果、「一方の前記入力端子には前記可視レーザ光源からの可視レーザ光が入射され、前記出力端子から出射されるレーザ光は前記出力用光ファイバのコアに導入され」ることも、「前記不可視レーザ光を発生中に前記コアを逆方向に伝播されて前記出力端子に入射される戻り光は他方の前記入力端子に伝播され、一方の前記入力端子に伝播される戻り光は減衰され」ることも有していない点。

そこで、上記相違点について検討する。
事案に鑑み、まず相違点2について検討する。
上記相違点2の「前記可視レーザ光を前記出力用光ファイバのコアに導入する位置に、2の入力端子と1の出力端子を少なくとも有する波長選択合分波素子を設け」るとした事項は、前記(iii)の判断で示したとおり、当該取消理由(iv)にて従たる証拠とされた、甲第2号証?甲第16号証の中には「波長選択合分波素子」を用いるとした事実を記載した証拠はなく、また申立人が示した主張も誤っている。
よって、当該相違点2を容易想到とすべき事情はもはや見当たらないのであるから、他の相違点1を検討するまでもなく、本件発明31は、甲24発明及び甲第2号証?甲第16号証の記載事項によって、当業者が容易に想到できたものとはいえない。
また、本件発明31を引用する本件発明32も、同様の理由により、取消理由通知に示した証拠と理由によっては、これを当業者が容易に想到できたものとはいえない。

〔理由1-(5)〕甲25発明を主たる発明とすることで、本件発明18?26は容易想到であるか否かについて
本件発明18と甲25発明とを対比する。
甲25発明の「複数の非可視レーザ光発振器2?7から出射されるレーザ光8?13が各々集光レンズ16?21を介して入射される単芯光ファイバ23?28」は、本件発明18の「不可視レーザ光を発生する複数」の「光ファイバ」に相当し、以下、同様に、
「レーザ光照射装置1のアライメント作業時の参照光とされる可視レーザ光発振器14から出射されるレーザ光15が集光レンズ22を介して入射される単芯光ファイバ29」は、「可視レーザ光源」に、
「該バンドルファイバ31の端部から出射される複数のレーザ光はコリメートレンズ35により平行な光束36とされ」ることは、「複数の増幅用光ファイバから出力される不可視レーザ光」が「合波部」で「合波」されることに、各々相当する。
そうすると、本件発明18と甲25発明とは、以下の点で一致し、かつ、相違する。
(一致点)
不可視レーザ光を発生する複数の光ファイバと、
前記複数の光ファイバから出力される不可視レーザ光を合波する合波部と、
可視レーザ光源と、
を有するファイバレーザ装置。

(相違点)
1.不可視レーザ光を発生する部材に関し、本件発明18は、「増幅用光ファイバ」であるとしているのに対して、甲25発明は、増幅の事項を有していない点。
2.「合波部」に関し、本件発明18は、「複数の増幅用光ファイバから出力される不可視レーザ光」を「入力」する「複数の入力端」を有することで、「出力用光ファイバのコア」から「合波」された不可視レーザ光が「出力する」と特定しているのに対して、甲25発明の対応する「コリメートレンズ35」は、出力光を「平行な光束36」の形で出力するものではあるものの、単に個々の非可視レーザ光を伝送する複数の単芯光ファイバ23?28の末端が、可視レーザ光を伝送する1本の単芯光ファイバ29を中心に置き、その周囲を均等に集合位置するよう束ねた形でコリメートレンズ35へ出力した出力光を平行な光束とした点。
3.本件発明18のファイバレーザ装置は、「可視レーザ光源によって発生された可視レーザ光を導入する導入部」であって、「前記合波部の複数の入力端のいずれかに前記可視レーザ光を導入する」とした事項を有するのに対して、甲25発明のレーザ光照射装置は、「可視レーザ光源」に対応するものとして「単芯光ファイバ29」は有するものの、単芯光ファイバ29を伝送する可視レーザ光は導入されないままコリメートレンズ35を介して出力されている点。
4.本件発明18のファイバレーザ装置は、「加工対象に対する前記不可視レーザ光の照射位置の位置決めを行う場合に、前記可視レーザ光を前記出力用光ファイバのコアを介して出射させる駆動部」を有するのに対して、甲25発明のレーザ光照射装置は、かかる駆動部相当の動作を司る部材が明らかでない点。

そこで、上記相違点について検討する。
事案に鑑み、まず相違点2からみてみると、従たる証拠とされた甲第2号証?甲第16号証、甲第19号証、甲第22号証、甲第24号証のいずれにも、複数の入力端を有し、不可視レーザ光と可視レーザ光とが導入され、これらを合波する部材を示すものはない。

ちなみに、申立人は、当該相違点2に係る相違に関し、以下の諸点を主張している。
ア)特許異議申立書の(8-3-1)では[18c]として、甲25発明のバンドルファイバ31及びコリメートレンズ35が相当し、一致すること。
イ)平成29年10月12日付け意見書の第11-13ページにおいて、甲第28号証(特開2017-98301号公報)、甲第29号証(特開2016-15415号公報)、甲第30号証(特開2008-218893号公報)を追加提出しつつ引用参照して、本件発明18の「合波部」がする「合波」には、一般的には、空間光学系を用いて複数の光束を合成することも含まれると主張して、両者の相当関係が成立すること。
ウ)同意見書の第13ページの(イ)にて、甲25発明の「バンドルファイバ31及びコリメートレンズ35」を甲第22号証の「ファイババンドル部62」に置換することが容易であることによる別の論理付けがあり得ること。
エ)更には、同意見書の第15ページの(カ)にて、提出済みの証拠の中で、主たる証拠として甲第22号証を、従たる証拠として甲第25号証、又は、甲第24号証を選択することにより、進歩性を否定できる別の論理付けがあり得ること。
しかしながら、上記対比を整理すると、甲25発明のバンドルファイバ31は「単芯光ファイバ23?28」及び「単芯光ファイバ29」の末端部分であることが明らかであり、これら単芯光ファイバ23?29の都合7個の出力光が入力される「コリメートレンズ35」を見たところ、複数の入力端で7個の出力光を入力している訳ではなく、単一の入射面で入力を果たしていると理解できることから考えると、本件発明18の「合波部」に対する発明特定事項である、「複数の入力端から入力して」を、甲25発明の「コリメートレンズ35」は充足しないため、当該相違点2は容易想到としがたい実質的な相違であると認められる。また、申立人が挙げた上述の(ア)?(エ)の主張には、甲第25号証の「コリメートレンズ35」以外に、複数の入力端を備えた合波可能なデバイスを示す主張は見当たらないのであるから、他に本件発明18を容易想到とする理由や主張はされていない。

よって、当該相違点2を容易想到とすべき事情は見当たらないのであるから、他の相違点1を検討するまでもなく、本件発明18は、甲25発明及び甲第2号証?甲第16号証、甲第19号証、甲第22号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。
また、本件発明18を引用する本件発明19?26も、同様の理由により、取消理由通知に示した証拠と理由によっては、これを当業者が容易に想到できたものとはいえない。

イ 取消理由2(特許法第36条第6項第2号)について
上記「2 取消理由の概要」に示したとおり、当該取消理由2は、取消対象とされる複数の請求項を互いに異ならせつつ、(1)?(4)の4つに分けて指摘したものである。以下、これら(1)?(4)を順に検討する。

〔理由2-(1)〕請求項1、2、19、27、31の「低次モード」の記載は明確であるか否かについて
取消理由の要点は、上記請求項に係る発明の記載中にある「低次モード」なる記載は、その相対的な表現の程度を把握することができない点で発明を不明瞭とするものであるとする趣旨であって、その証拠として甲第26号証、甲第27号証、特許実用新案審査基準が参照されたものである。
これに対し、特許権者は意見書の(9)の(ア)(33?39ページ)にて失当であると述べるとともに、その理由として(a)?(b)を説明し、本件発明における低次モードの用語は、本分野において通常に用いられている技術用語であって、その意味するところは、「基本モードに近い次数の低い数個程度の高次モード」であることは明らかであると主張し、その証拠として甲第10号証、甲第6号証、甲第9号証、意見書に添付して提出された乙第1号証(「ファイバレーザ特性限界を広げる特殊ファイバ技術」)、同じく乙第2号証(「D-3 大口径光ファイバ増幅器の高次伝搬モード抑圧に関する検討」)、及び甲第3号証を引用参照した説明を行っている。
そこで、前記取消理由の要点とした、「低次モード」の記載が、その相対的な表現の程度を把握することができないとする趣旨により当該記載は不明瞭であるか否かについて検討する。
当該取消理由である特許法第36条第6項第2号の法定要件は、第一義的に特許請求の範囲の記載を対象とするものであるため、焦点となる「低次モード」の記載が用いられている、「基本モードと低次モードとを伝播するコアを有する増幅用光ファイバ」とした請求項1、2、27及び31の記載と、「前記増幅用光ファイバは、基本モードと低次モードとを伝播するコアを有することを特徴とする」とした請求項19の記載の双方が、つまるところ、増幅用光ファイバのコアを特定する上で明確であるか否かを検討することにより決するべきと考える。また、申立人が示した証拠の内、特許実用新案審査基準の関係箇所にあるただし書き、
「ただし、例えば、増幅器に関して用いられる「高周波」のように、特定の技術分野においてその使用が広く認められ、その意味するところが明確である場合は、通常、発明の範囲は明確である。」
も本件の場合の検討に当たってはその趣旨を参酌する。
本件特許の請求項1、2、19、27、31に係る発明は、請求項1、2、19がファイバレーザ装置を対象とする発明であり、請求項27、31がファイバレーザ装置を用いたレーザ光照射位置の位置決め方法であるとされ、どちらもファイバレーザ装置を含む点で共通し、かつ、特許請求の範囲には「加工対象」との用語が用いられていること、及び、本件明細書の【背景技術】【0002】にも「レーザ光を用いて対象物を加工する場合」との記載がなされているとおり、不可視レーザ光を「加工対象」に「照射」することで加工を行う技術に属することが明確に理解できる。
そして、甲第10号証、甲第6号証、甲第9号証、乙第1号証、乙第2号証、及び甲第3号証にはそれぞれ、以下の記載事項がなされている。

甲第10号証:光源装置と題し、該装置は、【0001】に光増幅用導波路において増幅された光を出力する光源装置であること、【0002】に、係る光源装置はレーザ加工の分野に使用されていること、【0003】-【0004】に、光パルスとして高出力のものを必要とする場合、コア径の大きい光ファイバが用いられること、【0021】に、ハイパワーの場合には高次モードを励振しない条件で使用するLMA(Large-Mode-Area)ファイバが利用されることも多いことが記載されている。
甲第6号証:高出力の光を発生させる光源として、希土類添加ファイバを用いた光ファイバ増幅器及び発振器が提案されているとし(【0002】)、近年光ファイバや増幅器には、コア径の大きなLMA(Large Mode Area)が用いられている。
甲第9号証:光ファイバ中でのモードフィールドのサイズ変更と題して、【0001】には高出力装置であることが記載され、【0002】には高出力装置として用いられるファイバレーザ、および増幅器にはマルチモードのものが用いられること、【0005】には高出力の場合には大きなモード断面積(LMA)を有するファイバが使われていること、【0006】-【0007】にはLMAファイバを用いる場合、高次モードの発生、伝播が起こりえるが、高次モードの励起は不要、有害であること、が記載されている。
乙第1号証:ファイバーレーザの基本構成を示しつつ、光通信で使用する光ファイバは単一モードで出力は低く、加工機用として用いられるファイバーレーザは通信用と比べ10-1000倍の光出力レベルを要するため、そのコアは通信用単一モードファイバのコアの数倍から数十倍にする大モード径(LMA)ファイバ-である、ダブルクラッドのマルチモードファイバーを用いていること(「1.はじめに」参照)。数百Wを超える出力のファイバーレーザに関する技術動向として、大モード径(LMA)ファイバーは、2種類に分類でき、Fig.3にn-SMで示した第2種のLMAファイバーは、ファイバーレーザ波長λで決まる正規化周波数(Vナンバー)が、V?3.6程度とされ、数個の伝播モードを持ち、基本的には複数のモード動作となるものであること(「2.ファイバーレーザ要素技術」の159ページ左欄を参照)。1台のファイバーレーザから1kW出力を実現した例として、Fig.1(b)の増幅部をもつMOPA構成のLMAYbファイバーは、数個のモードを有すること(「3.高出力化を可能にする技術」参照)。
乙第2号証:大口径光ファイバ増幅器の高次伝搬モード抑圧に関する検討と題し、「1.はじめに」では高出力パルス光の送受信が求められるコヒーレントドップラライダ(CDL)に適した光ファイバ増幅器は、大口径のマルチモードファイバを利用することが考えられるが、送信光の空間伝搬モードがマルチモード化する問題があることが記載され、「2.各伝搬モードに対する曲げ損失の計算」ではコア径25μmの光ファイバを計算すると、波長1.55μmの信号光に対して、その導波モードは基本モードのLP_(01)の外にも、LP_(11)、LP_(12)、LP_(02)の3モード、都合4モードが伝搬可能であることが記載されている。
甲第3号証:光ファイバーレーザーと題し、当該ファイバーレーザーが具備するものとして、クラッドポンプファイバーレーザーオシレータが、シングルモードのものと、低次モードのものとを択一的に挙げ(請求項1を参照)、該文献が対象とするファイバーレーザーは、【0002】に切断、溶接、穿孔などの材料加工用途を前提としていること、また、【0021】-【0025】には、基本オシレータで発生したレーザー光を後段で増幅するパワー増幅器(図1(a)等を参照)がマルチモードコアの光ファイバーとされること、他の形態を示す実施例として、図13(a)を参照しつつ説明した【0038】には、クラッドポンプ第2段プリアンプリファイア36として、低次モードコアを有するクラッドポンプ光ファイバー37を具備することが記載されている。

これらの記載事項のうち、甲第9号証及び乙第2号証のファイバの用途がレーザ加工用であるとは必ずしもいえない事情をおくとしても、特に乙第1号証の記載事項には、加工機用とされるファイバーレーザの仕様として、コアを伝播するレーザ波長に関し、数個の伝播モードを備える大モード径(LMA)ファイバーであって、MOPA構成とした増幅用ファイバーとされた仕様が、レーザ加工の分野では公知であったこと、及び、伝播するレーザ波長は、VナンバーをV?3.6程度と設計することにより個数の最大値は自ずと定まることが理解できる。また、同じく甲第10号証記載のレーザ加工でも使用される光源装置がLMAファイバを用いるとした態様によれば、LMAファイバは高次モードを励振しない条件で使用されることも当業者に技術常識として知られていることが分かる。
そうすると、本件発明1、2、19、27、31の記載の「低次モード」は、レーザ加工の分野に携わる当業者にとり、本件の最先の優先日前に公知とされた技術常識として、低次モードの個数が数個程度であるとする事項は、技術常識であったと理解するに足りるといえるから、低次の程度も常識的な範囲に定まることとなり、必ずしも相対的な表現の程度を把握することができないということはできない。
また、レーザ加工の分野であって、使用する光ファイバのコアを示す表記として、かかる「低次モード」の表記を採用した事実も、甲第3号証の【0038】にて確認できるので、かような表記が一切行われていないとする事実も無い。
よって、取消理由2の(1)については、対象とする本件特許発明に係る記載を不明確とはいえない。

なお、申立人は平成29年10月12日付け意見書の第23ページ?30ページにかけて、「(6) 『取消理由2.(1)(特許法第36条第6項第2号:請求項1,2,19,27,31の「低次モード」)』について」にて、甲第32号証?甲第34号証、甲第35号証を引用参照しつつ、当該取消理由が有効である旨主張しているが、そもそもこの取消理由2(1)は本件訂正とは独立した取消理由であるため、訂正により新たな理由が生じる余地がないし、本件特許に係る出願の優先日時点での技術常識の水準を示すものでもない(甲第32号証ないし甲第35号証は、いずれも前記優先日より後に公開された書証である。)から、上述の判断及び結論を左右するものではない。

〔理由2-(2)〕請求項8の「・・・前記波長選択合分波素子は、前記光共振器の前段側に設けられている・・・」の記載は明確であるか否かについて
取消理由通知は、訂正前の請求項2と、請求項8とが矛盾する旨を指摘した趣旨のものであるが、この点について特許権者は訂正事項2とした訂正により、請求項8の引用先を請求項5のみとする訂正を行い、請求項2を引用先から削除した。その結果、訂正後の請求項2と請求項8とは矛盾することがなくなり、申立人も訂正請求に応じて提出した意見書では更なる反論を行っていない。
よって、取消理由2の(2)とされた理由は、訂正により解消された。

〔理由2-(3)〕請求項9の「・・・前記波長選択合分波素子は、前記光共振器と前記光増幅器の間に設けられている・・・」の記載は明確であるか否かについて
取消理由通知は、訂正前の請求項1と、請求項9とが矛盾する旨を指摘した趣旨のものであるが、この点について特許権者は訂正事項3とした訂正により、請求項9を削除する訂正を行った。その結果、当該取消理由の対象とされる請求項がなくなり、取消理由2の(3)とされた理由は、対象とされる請求項がなくなった。

〔理由2-(4)〕請求項11の「前記導入部は、前記可視レーザ光源の出射部と前記増幅用光ファイバのコアとを接続する光ファイバを有している・・・」の記載は明確であるか否かについて
取消理由通知は、訂正前の請求項2と、請求項11とが矛盾する旨を指摘した趣旨のものであるが、この点について特許権者は訂正事項5とした訂正により、請求項11の引用先を請求項1のみとする訂正を行い、請求項2を引用先から削除した。その結果、訂正後の請求項2と請求項11とは矛盾することがなくなり、申立人も訂正請求に応じて提出した意見書では更なる反論を行っていない。
よって、取消理由2の(4)とされた理由は、訂正により解消された。

ウ 申立人の意見について
申立人は、平成29年10月12日提出の意見書にて、訂正が適法であったとしてもなお以下に該当する本件発明は取り消されるべきものである旨主張している。
【取消理由1】特許法第29条第2項
(i)
本件発明1、5、10、15関係:甲第1号証には、HeNeレーザ光が能動光ファイバ12のコアに導入されることが記載されているに等しいこと。また、本件発明1の「クラッド光減衰部」に係る事項と、従の証拠とされた甲第18号証、甲第20号証、甲第22号証、および、甲第23号証に記載の事項とは、技術思想として何ら変わるところはないこと。さらに、本件発明1の作用効果は甲第22号証、甲第23号証から予測困難とは言えないこと。加えて、甲第18号証、甲第20号証からの別の動機づけによる容易想到性もあり得ること。
本件発明3、8関係:甲第1号証に記載の発明と甲第12号証に記載の技術には「光源保護」という課題が当然に内在しているので、課題の共通性という動機づけがある。また、甲第1号証の「第2集光光学系34」の機能と、甲第12号証の「WDM12」の機能は、「特定の導波路に光を結合させる」という点で機能が共通しているので、甲第1号証の「第2集光光学系34」を甲第12号証の「WDM12」に置換することは、当業者にとって容易に想到し得ること。
本件発明14関係:甲第21号証には、可視光が複合光ファイバの外周部を伝搬する点が記載されていること。
(ii)
本件発明27関係:(i)と同様
本件発明28、29関係:(i)と同様
(iii)
本件発明2関係:甲第24号証に記載の発明と、甲第12号証に記載の発明との間に課題の共通性はあること。甲第24号証に記載の発明には可視レーザ光源が存在するのであるから、甲第24号証の「導入タップ4」を甲第12号証の「WDM12」に置き換えた構成を得ることができること。
(iv)
本件発明31関係:(iii)と同様
(v)
本件発明18関係:甲第25号証に記載の発明における「合波」の解釈は、甲第28号証ないし甲第30号証に記載された事項を見れば、空間光学系を用いて複数の光束を合成することも含まれるのが技術常識である。また、「合波」について、甲第25号証の「バンドルファイバ31及びコリメートレンズ35」は、オールファイバ型(全ファイバ型)の設計思想に基づけば、甲第22号証の「ファイババンドル部62」に置き換え可能。本件発明18では「導入部が戻り光を減衰する」又は「波長選択合分波素子」が規定されていない以上、動機づけに無理があると言うことはできない。甲第25号証の「空間光学系素子37、41、43」を甲第22号証の「光ファイバ64」に置き換える動機づけは二つ(設計思想だけでなく、作用・機能の共通性もあると)考えられるため、論理飛躍はない。
また、甲第22号証を主たる発明とし、甲第25号証または甲第24号証を従たる証拠とすることでも進歩性を否定できる。

【取消理由2】特許法第36条第6項第2号
(い)「低次モード」という用語は、そもそも科学的に正確な用語ではない。また、「低次モード」という用語は、一般的な用語でもない。ファイバレーザの分野において、マルチモードのコアが伝搬可能な高次モードの数には、10以上のものも甲第32号証?甲第34号証に記載されているとおり存在し、「数個程度」に限られない。なお、甲第35号証にはレーザ加工の種類や加工対象物等に応じて、レーザのビーム品質を意図的に劣化させることが行われることが記載されており、マルチモードにおいてコアを伝搬可能な高次モードの数には、10以上のものも存在し、数個程度に限られない。
以上のことから「低次モード」なる用語は、モード次数がどの程度低ければ「低次モード」に属するのか明確にする必要がある。
(理由2の(2)?(4)について、更なる反論はなかった。)

そこで、各取消理由ごとに、判断等を示す。
【取消理由1】に対する(i)?(v)について
(i)については、上記「ア 取消理由1(特許法第29条第2項)について」の「〔理由1-(1)〕甲1発明を主たる発明とすることで、本件発明1、3?6、8、10?17、26は容易想到であるか否かについて」の判断中、「ちなみに」にて詳述したとおりであり、上記申立人の意見の(i)を加味しても結論を左右するものではない。
(ii)?(iv)については、各々、上記「ア 取消理由1(特許法第29条第2項)について」の、〔理由1-(2)〕?〔理由1-(4)〕にて説示したとおりであり、上記申立人の意見の(ii)?(iv)を加味しても結論を左右するものではない。
(v)については、上記「ア 取消理由1(特許法第29条第2項)について」の「〔理由1-(5)〕甲25発明を主たる発明とすることで、本件発明18?26は容易想到であるか否かについて」の後段の「ちなみに」にて詳述したとおり。

【取消理由2】に対する(い)について
上記「イ 取消理由2(特許法第36条第6項第2号)について」の「〔理由2-(1)〕請求項1、2、19、27、31の「低次モード」の記載は明確であるか否かについて」の後段なお書きにて詳述したとおり。

(2) 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由はない。

6 小括
以上纏めると、本件訂正請求により削除された本件発明9及び17を除く、本件発明1ないし8、10ないし16、18ないし32について、取消理由1の(1)-(5)に関して、これを取り消すべきとされたものはなく、また、取消理由2の(1)-(4)に関して、これを取り消すべきとされたものはない。


第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし8、10ないし16、18ないし32に係る特許を取り消すことはできない。
他に本件請求項1ないし8、10ないし16、18ないし32に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項9及び17に係る特許は、本件訂正により、削除されたため、本件特許の請求項9及び17に対して、申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本モードと低次モードとを伝播するコアを有する増幅用光ファイバを用いて不可視レーザ光を発生し、出力用光ファイバを介して出力するファイバレーザ装置において、
可視レーザ光を発生する可視レーザ光源と、
前記可視レーザ光源によって発生された前記可視レーザ光を前記増幅用光ファイバのコアに導入する導入部と、
前記増幅用光ファイバの後段において前記増幅用光ファイバのクラッドを伝播してきた光を減衰するクラッド光減衰部と、
加工対象に対する前記不可視レーザ光の照射位置の位置決めを行う場合に、前記可視レーザ光源を駆動し、前記可視レーザ光を前記出力用光ファイバのコアを介して出射させる駆動部と、
を有することを特徴とするファイバレーザ装置。
【請求項2】
基本モードと低次モードとを伝播するコアを有する増幅用光ファイバを用いて不可視レーザ光を発生し、出力用光ファイバを介して出力するファイバレーザ装置において、
可視レーザ光を発生する可視レーザ光源と、
前記可視レーザ光源によって発生された前記可視レーザ光を前記出力用光ファイバのコアに導入する導入部と、
加工対象に対する前記不可視レーザ光の照射位置の位置決めを行う場合に、前記可視レーザ光源を駆動し、前記可視レーザ光を前記出力用光ファイバのコアを介して出射させる駆動部と、を有し、
前記導入部は、前記不可視レーザ光を発生中に前記コアを逆方向に伝播して前記可視レーザ光源に入射される戻り光を減衰し、
前記導入部は2の入力端子と1の出力端子を少なくとも有する波長選択合分波素子を有し、
一方の前記入力端子には前記可視レーザ光源からの可視レーザ光が入射され、前記出力端子から出射されるレーザ光は前記出力用光ファイバのコアに導入され、
前記不可視レーザ光を発生中に前記コアを逆方向に伝播されて前記出力端子に入射される戻り光は他方の前記入力端子に伝播され、一方の前記入力端子に伝播される戻り光は減衰されることを特徴とするファイバレーザ装置。
【請求項3】
前記導入部は、前記可視レーザ光源によって発生された前記可視レーザ光を前記増幅用光ファイバのコアに導入するとともに、前記不可視レーザ光を発生中に前記コアを逆方向に伝播して前記可視レーザ光源に入射される戻り光を減衰することを特徴とする請求項1記載のファイバレーザ装置。
【請求項4】
前記戻り光は、不可視レーザ光波長を有するとともに、前記不可視レーザ光によってその長波側に発生するラマン散乱光または前記不可視レーザ光波長に近接して発生するブリユアン散乱光のうち少なくとも1つを含む不可視光からなることを特徴とする、請求項2または3に記載のファイバレーザ装置。
【請求項5】
前記導入部は2の入力端子と1の出力端子を少なくとも有する波長選択合分波素子を有し、
一方の前記入力端子には前記可視レーザ光源からの可視レーザ光が入射され、前記出力端子から出射されるレーザ光は前記増幅用光ファイバのコアに導入され、
前記不可視レーザ光を発生中に前記コアを逆方向に伝播されて前記出力端子に入射される戻り光は他方の前記入力端子に伝播され、一方の前記入力端子に伝播される戻り光は減衰される、
ことを特徴とする請求項1記載のファイバレーザ装置。
【請求項6】
前記波長選択合分波素子は、ファイバ溶融型または研磨型であることを特徴とする請求項2または5に記載のファイバレーザ装置。
【請求項7】
前記不可視レーザ光を発生する光共振器を有し、
前記波長選択合分波素子は、前記光共振器の出力側に設けられていることを特徴とする請求項2記載のファイバレーザ装置。
【請求項8】
前記不可視レーザ光を発生する光共振器を有し、
前記波長選択合分波素子は、前記光共振器の前段側に設けられていることを特徴とする請求項5に記載のファイバレーザ装置。
【請求項9】
(削除)
【請求項10】
前記可視レーザ光源と、前記波長選択合分波素子との間には、前記波長選択合分波素子から一方の前記入力端子に伝播される前記戻り光を減衰する、可視光を通過帯域としたフィルタが設けられていることを特徴とする請求項2、5乃至8のいずれか1項に記載のファイバレーザ装置。
【請求項11】
前記導入部は、前記可視レーザ光源の出射部と前記増幅用光ファイバのコアとを接続する光ファイバを有していることを特徴とする、請求項1に記載のファイバレーザ装置。
【請求項12】
前記不可視レーザ光を発生する光共振器を有することを特徴とする請求項11記載のファイバレーザ装置。
【請求項13】
前記光共振器は、前記増幅用光ファイバの両側にFBGを備えることを特徴とする請求項7、8、および12のいずれか1項に記載のファイバレーザ装置。
【請求項14】
前記導入部は、前記可視レーザ光源の出射部と前記増幅用光ファイバのクラッドとを接続する励起光合波器を有していることを特徴とする請求項1記載のファイバレーザ装置。
【請求項15】
前記可視レーザ光源と前記導入部との間にコア光を減衰するコア光減衰部が配置されていることを特徴とする請求項10乃至13のいずれか1項に記載のファイバレーザ装置。
【請求項16】
前記可視レーザ光源と前記導入部との間に前記可視レーザ光を透過し、前記不可視レーザ光を減衰させる光学フィルタが配置されていることを特徴とする請求項10乃至13のいずれか1項に記載のファイバレーザ装置。
【請求項17】
(削除)
【請求項18】
増幅用光ファイバを用いて不可視レーザ光を発生し、出力用光ファイバを介して出力するファイバレーザ装置において、
前記不可視レーザ光を発生する複数の前記増幅用光ファイバと、
前記複数の増幅用光ファイバから出力される不可視レーザ光を複数の入力端から入力して合波し、前記出力用光ファイバのコアから出力する合波部と、
可視レーザ光源によって発生された可視レーザ光を導入する導入部と、
加工対象に対する前記不可視レーザ光の照射位置の位置決めを行う場合に、前記可視レーザ光を前記出力用光ファイバのコアを介して出射させる駆動部と、
を有し、
前記導入部は、前記合波部の複数の入力端のいずれかに前記可視レーザ光を導入することを特徴とするファイバレーザ装置。
【請求項19】
前記増幅用光ファイバは、基本モードと低次モードとを伝播するコアを有することを特徴とする、請求項18記載のファイバレーザ装置。
【請求項20】
前記増幅用光ファイバは、シングルモードコアを有することを特徴とする、請求項18記載のファイバレーザ装置。
【請求項21】
前記導入部は、前記合波部の複数の入力端のうち、前記増幅用光ファイバからの不可視レーザ光が入力されていない入力端に前記可視レーザ光を導入することを特徴とする、請求項18記載のファイバレーザ装置。
【請求項22】
前記導入部は、前記増幅用光ファイバからの不可視レーザ光が入力されている入力端に前記可視レーザ光を導入することを特徴とする、請求項18記載のファイバレーザ装置。
【請求項23】
前記導入部は、前記不可視レーザ光を発生中に前記コアを逆方向に伝播して前記可視レーザ光源に入射される戻り光を減衰することを特徴とする、請求項18記載のファイバレーザ装置。
【請求項24】
前記導入部は、2の入力端子と1の出力端子を少なくとも有する波長選択合分波素子を有し、
一方の前記入力端子には前記可視レーザ光源からの可視レーザ光が入力され、前記出力端子から出射される可視レーザ光は、前記合波部の前記不可視レーザ光が入力されていない入力端に入力されることを特徴とする請求項18または23に記載のファイバレーザ装置。
【請求項25】
前記波長選択合分波素子は、ファイバ溶融型または研磨型であることを特徴とする請求項24記載のファイバレーザ装置。
【請求項26】
前記可視レーザ光の波長は赤色または緑色に対応する波長を有することを特徴とする請求項1乃至8、10乃至16、および、18乃至25のいずれか1項に記載のファイバレーザ装置。
【請求項27】
基本モードと低次モードとを伝播するコアを有する増幅用光ファイバを用いて不可視レーザ光を発生し、出力用光ファイバを介して出力するレーザ光照射位置の位置決め方法において、
可視レーザ光を発生する可視レーザ光源によって発生された前記可視レーザ光を前記増幅用光ファイバのコアに導入し、
前記増幅用光ファイバの後段において前記増幅用光ファイバのクラッドを伝播してきた光を減衰し、
前記出力用光ファイバのコアを介して出射された前記可視レーザ光によって加工対象に対する前記不可視レーザ光の照射位置を決定する、ことを特徴とするファイバ光照射位置の位置決め方法。
【請求項28】
前記不可視レーザ光を発生中に前記増幅用光ファイバのコアを逆方向に伝播して前記可視レーザ光源に入射される戻り光を減衰することを特徴とする、請求項27記載のファイバ光照射位置の位置決め方法。
【請求項29】
前記可視レーザ光を前記増幅用光ファイバのコアに導入する位置に、2の入力端子と1の出力端子を少なくとも有する波長選択合分波素子を設け、
一方の前記入力端子には前記可視レーザ光源からの可視レーザ光が入射され、前記出力端子から出射されるレーザ光は前記増幅用光ファイバのコアに導入され、
前記不可視レーザ光を発生中に前記増幅用光ファイバのコアを逆方向に伝播されて前記出力端子に入射される戻り光は他方の前記入力端子に伝播され、一方の前記入力端子に伝播される戻り光は減衰される、
ことを特徴とする、請求項28記載のファイバ光照射位置の位置決め方法。
【請求項30】
前記波長選択合分波素子は、ファイバ溶融型または研磨型であることを特徴とする請求項29記載のファイバ光照射位置の位置決め方法。
【請求項31】
基本モードと低次モードとを伝播するコアを有する増幅用光ファイバを用いて不可視レーザ光を発生し、出力用光ファイバを介して出力するレーザ光照射位置の位置決め方法において、
可視レーザ光を発生する可視レーザ光源によって発生された前記可視レーザ光を前記出力用光ファイバのコアに導入し、
前記不可視レーザ光を発生中に前記コアを逆方向に伝播して前記可視レーザ光源に入射される戻り光を減衰し、
前記可視レーザ光を前記出力用光ファイバのコアに導入する位置に、2の入力端子と1の出力端子を少なくとも有する波長選択合分波素子を設け、
一方の前記入力端子には前記可視レーザ光源からの可視レーザ光が入射され、前記出力端子から出射されるレーザ光は前記出力用光ファイバのコアに導入され、
前記不可視レーザ光を発生中に前記コアを逆方向に伝播されて前記出力端子に入射される戻り光は他方の前記入力端子に伝播され、一方の前記入力端子に伝播される戻り光は減衰され、
前記出力用光ファイバのコアを介して出射された前記可視レーザ光によって加工対象に対する前記不可視レーザ光の照射位置を決定する、ことを特徴とするファイバ光照射位置の位置決め方法。
【請求項32】
前記波長選択合分波素子は、ファイバ溶融型または研磨型であることを特徴とする請求項31記載のファイバ光照射位置の位置決め方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-02-06 
出願番号 特願2014-265067(P2014-265067)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (H01S)
P 1 651・ 121- YAA (H01S)
最終処分 維持  
前審関与審査官 青木 正博  
特許庁審判長 刈間 宏信
特許庁審判官 柏原 郁昭
西村 泰英
登録日 2016-09-16 
登録番号 特許第6007237号(P6007237)
権利者 古河電気工業株式会社
発明の名称 ファイバレーザ装置およびレーザ光照射位置の位置決め方法  
代理人 上島 類  
代理人 来間 清志  
代理人 上島 類  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
復代理人 佐尾山 和彦  
復代理人 笹田 健  
代理人 来間 清志  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
復代理人 佐尾山 和彦  
復代理人 笹田 健  

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