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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  C08L
管理番号 1339147
異議申立番号 異議2017-700517  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-05-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-05-26 
確定日 2018-02-14 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6036673号発明「天然ゴムを含有するゴム組成物および天然ゴムの恒粘度化および臭気抑制方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6036673号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1,2〕について訂正することを認める。 特許第6036673号の請求項3ないし5に係る特許を維持する。 特許第6036673号の請求項1及び2に係る特許に対する本件特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯・本件異議申立の趣旨

1.本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第6036673号(以下、単に「本件特許」という。)に係る出願(特願2013-262017号、以下「本願」という。)は、平成25年12月19日に出願人横浜ゴム株式会社(以下「特許権者」ということがある。)によりされた特許出願であり、平成28年11月11日に特許権の設定登録(請求項の数5)がされたものである。

2.本件異議申立の趣旨
本件特許につき平成29年5月26日付けで特許異議申立人鈴木喜三郎(以下「申立人」という。)により「特許第6036673号の特許請求の範囲の請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5に記載された発明についての特許は取り消されるべきものである。」という趣旨の本件異議申立がなされた。

3.以降の経緯
以降の手続の経緯は以下のとおりである。

平成29年 8月31日付け 取消理由通知
平成29年11月 1日 意見書(特許権者)
平成29年11月30日付け 取消理由通知
平成30年 1月30日付け 意見書(特許権者)・訂正請求書
(受理日:平成30年1月31日)

第2 申立人が主張する取消理由
申立人は、本件特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、下記甲第1号証ないし甲第13号証を提示し、概略、以下の取消理由が存するとしている。

・取消理由:本件発明1ないし5は、いずれも、甲第1号証ないし甲第4号証のいずれかに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、それらの発明についての特許は、同法第29条に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。

・申立人提示の甲号証
甲第1号証:特開2007-238902号公報
甲第2号証:特開2009-215440号公報
甲第3号証:特開2008-210796号公報
甲第4号証:特開2002-226636号公報
甲第5号証:特開2008-143972号公報
甲第6号証:特開2008-274040号公報
甲第7号証:日本ゴム協会誌、第49巻、第2号(1976)第60?61頁
甲第8号証:特開昭63-27531号公報
甲第9号証:特開2007-204686号公報
甲第10号証:特開2007-204892号公報
甲第11号証:特開昭63-145250号公報
甲第12号証:特開2010-173343号公報
甲第13号証:特開2006-213754号公報
(以下、それぞれ「甲1」ないし「甲13」と略していう。)

第3 当審が通知した取消理由の概要
当審が、平成29年8月31日付け及び平成29年11月30日付けでそれぞれ通知した取消理由の概要は、いずれも以下のとおりである。
「第4 当審の判断
当審は、
申立人が主張する上記取消理由により、本件発明1及び2についての特許はいずれも取り消すべきもの、
と判断する。
・・(中略)・・
3.当審の判断のまとめ
以上のとおり、本件発明1及び2は、いずれも特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではないから、本件の請求項1及び2に係る発明についての特許は、特許法第29条に違反してされたものであって、いずれも同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。」

第4 平成30年1月30日付け訂正請求の適否

1.訂正請求の内容
上記平成30年1月30日付け訂正請求では、本件特許の特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1及び2について一群の請求項ごとに訂正することを求めるものであり、以下の訂正事項を含むものである。

・訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1および2を削除する。

2.検討
なお、以下の検討において、この訂正請求による訂正を「本件訂正」といい、本件訂正前の特許請求の範囲における請求項1ないし5を「旧請求項1」ないし「旧請求項5」、本件訂正後の特許請求の範囲における請求項1ないし5を「新請求項1」ないし「新請求項5」という。

(1)訂正の目的要件について
上記訂正事項による訂正の目的につき検討する。
上記訂正事項1に係る訂正は、旧請求項1及び2に係る記載事項を全て削除するものであるから、特許請求の範囲を減縮するものと認められる。
したがって、上記訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定の目的要件に適合するものである。

(2)新規事項の追加及び特許請求の範囲の実質的拡張・変更について
上記(1)に示したとおり、訂正事項1に係る訂正により、旧請求項1及び2に係る特許請求の範囲が全て削除されて減縮されていることが明らかであるから、上記訂正事項1による訂正は、いずれも新たな技術的事項を導入しないものであり、また、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものではないことが明らかである。
してみると、上記訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定を満たすものである。

(3)一群の請求項について
本件訂正前の旧請求項1及び2は、旧請求項2が旧請求項1を直接引用するものであるから、本件訂正前の請求項1及び2は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(4)訂正に係る検討のまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第5項並びに第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1,2〕について訂正を認める。

第5 本件特許に係る請求項に記載された事項
本件訂正後の本件特許に係る請求項1ないし5には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】
少なくとも天然ゴムラテックスの凝固物とアミノグアニジン化合物とを混合する工程を有し、
前記アミノグアニジン化合物が、アミノグアニジンの重炭酸塩または塩酸塩であることを特徴とする天然ゴムの恒粘度化および臭気抑制方法。
【請求項4】
前記天然ゴムラテックスの凝固物とアミノグアニジン化合物とを混合する工程よりも前に、前記天然ゴムラテックスの凝固物とクエン酸水溶液とを接触させる工程を有する請求項3に記載の天然ゴムの恒粘度化および臭気抑制方法。
【請求項5】
前記アミノグアニジン化合物の配合量が、前記天然ゴムラテックスの凝固物100質量部に対して0.01質量部以上であることを特徴とする請求項3または4に記載の天然ゴムの恒粘度化および臭気抑制方法。」
(以下、上記請求項3ないし5に係る各発明につき、項番に従い「本件発明3」ないし「本件発明5」といい、併せて「本件発明」と総称することがある。)

第6 当審の判断
当審は、
申立人が主張する上記取消理由につき理由がないから、本件発明3ないし5についての特許は取り消すことはできず、維持すべきものである、
本件の請求項1及び2に係る特許に対する本件特許異議の申立ては、訂正により各項の記載事項が全て削除されたことにより、申立ての対象を欠く不適法なものとなり、その補正ができないものであるから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである、
と判断する。以下、詳述する。

I.当審が通知した取消理由について
当審が通知した取消理由は、いずれも本件訂正前の旧請求項1及び2に係る発明についての特許に対するものであるから、上記のとおり適法に訂正されたことにより、両請求項の記載内容が全て削除され、解消されたものと認められる。

II.申立人が主張する取消理由について

1.甲号証に記載された事項及び記載された発明
以下、上記取消理由につき検討するにあたり、当該取消理由は特許法第29条に係るものであるから、上記甲1ないし4に記載された事項を確認・摘示するとともに、甲1に記載された発明の認定を行う。

(1)甲1

ア.甲1に記載された事項
甲1には、申立人が申立書第5頁第8行?第15行で主張するとおりの事項に加えて、以下の事項が記載されている。(なお、摘示の中の下線は、当審が付した。)

(a-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイドロタルサイトを有効成分とすることを特徴とする天然ゴム用消臭剤。
【請求項2】
天然ゴムにハイドロタルサイトを配合したことを特徴とする消臭天然ゴム組成物。
【請求項3】
ハイドロタルサイトの配合量が天然ゴム100質量部に対して、0.05?10.0質量部である請求項2に記載の消臭天然ゴム組成物。
【請求項4】
天然ゴムの製造工程において、乾燥工程後のドライプリブレイカーに、ハイドロタルサイトを投入することを特徴とする消臭天然ゴム組成物の製造方法。」

(a-2)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、天然ゴムの臭気発生を抑制する天然ゴム用消臭剤、消臭天然ゴム組成物、及びその製造方法に関する。」

(a-3)
「【0004】
しかしながら、一般的に、天然ゴムは、合成ゴムと比較して分子量が大きいため、ゴム製品工場において各種配合剤を均一に混練りすることが難しいものである。従って、天然ゴムを少量の素練り促進剤と共に混練りし、ゴム分子量を適度な大きさに下げる操作などが必要となるものである。この操作等を、「素練り」という。
この素練り中にゴム温度が130?150℃程度に上昇するものである。この温度上昇(発熱)により、天然ゴムに含有されていた臭気成分が発散すると共に、非ゴム成分が更に酸化・分解し新たな臭気を発散することとなる。これら臭気が工場内外に漏れると環境問題になりかねないのである。
【0005】
上記天然ゴムの素練りにより発生する臭気を捕捉してGC-MSで分析すると、酢酸やプロピオン酸などの低級脂肪酸類、アルデヒド類、ピラジン類やピロール類等の窒素環状化合物、アンモニア等が検出される。
一般的に、高級脂肪酸が高温に晒されると、自動酸化を生じて低級脂肪酸とアルデヒド類を生成することが知られている。また、タンパク質とカルボニル化合物とが加熱されると、ストレッカー分解を生じて窒素環状化合物を、タンパク質が分解するとアンモニアを生成することも知られている。
他方、天然ゴムには、天然の高級脂肪酸やタンパク質などの非ゴム分が含まれることは上述の如く、良く知られている。従って、天然ゴムに含有される高級脂肪酸、タンパク質が、天然ゴム生産工程での燻製や熱乾燥、ゴム製品工場での素練りにおいても上記同様の反応を生じることは容易に推察される。
【0006】
この素練りゴムは、更に、カーボンブラックや各種配合薬品と共に混練りされるが、この工程では臭気がカーボンブラックなどに吸収されるため臭気問題は素練りほど大きくないが未だ特有の臭気を有するものである。
この臭気問題の対策のため、これまでに、混練り設備の排気ダクトに脱臭フィルターを設置したり、混練り設備周辺に香料を散布したり、様々な対応策を講じてきたが、それでも、対策が充分でない場合があり、更に、天然ゴムそのものの改善、すなわち、臭気が低減できる天然ゴムの出現が切望されているのが現状である。」

(a-4)
「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来の課題及び現状等に鑑み、これを解消しようとするものであり、天然ゴムに含まれる揮発性脂肪酸等の分解などによる特有の臭気成分の生成を簡易な手段等により抑制せしめて、臭気をより効果的に低減してなる天然ゴム用消臭剤、消臭天然ゴム組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。」

(a-5)
「【発明の効果】
【0012】
本発明の天然ゴム用消臭剤は、従来から工業薬品として用いられている化合物を消臭剤とするものであるので、安全に取り扱うことができると共に、天然ゴムの製造時に使用した場合には、天然ゴム中のゴム臭気の原因物質である揮発性脂肪酸等を選択的に吸着して、該物質起因のゴム臭気を長期間に亘って抑制することができる。
本発明の消臭天然ゴム組成物は、優れた消臭効果を発揮するので、原料製造後及び素練り時のゴム臭を著しく低減することができる。
本発明の消臭天然ゴム組成物の製造方法は、天然ゴム製造時に従来から工業薬品に用いられている化合物を消臭剤として天然ゴムに配合するだけであるので、従来の天然ゴム製造工程に格別の変更を必要とせず、低コストで製造することができる。」

(a-6)
「【0015】
本発明の消臭剤において、消臭効果を得るためには、天然ゴム中にハイドロタルサイトを十分に分散させることが必要である。ハイドロタルサイトは、塩基性向きフィラーであり、粉散で投入してもゴム中に分散するが、充分に分散させるためには、好ましくは、水溶液で天然ゴム中に浸透分散させることが望ましい。
用いるハイドロタルサイトの平均粒径は、10?500nmであるものが望ましい。
また、用いるハイドロタルサイトの使用量は、天然ゴム100質量部に対して、全粉体濃度(全水溶液濃度)で消臭効果があり、好ましくは、0.05?10質量%(以下、単に「%」という)である。なお、水溶液で投入する場合、浸漬時間、ゴム原料の含水率等によりハイドロタルサイトの水溶液濃度の適値は上記範囲内で異なるものである。例えば、含水率約0.5%のUSSで、浸漬時間6日の条件でハイドロタルサイトの水溶液濃度は0.5?4.0%である。
これらの濃度が0.05%未満では分散に必要な量が不足すると共に、本願発明の効果を発揮することができず、一方、10%超過では過剰量となり、この量を越えると、天然ゴム製品性能に悪影響を与えることとなるので好ましくない。
【0016】
本発明の消臭天然ゴム組成物の製造方法は、天然ゴムの製造時に、すなわち、タッピング-天然ゴムラテックス-凝固-洗浄(水洗い)-脱水-乾燥-パッキングの順で生産されている天然ゴムの製造工程において、上記脱水後の乾燥工程前に、該天然ゴムを上記濃度範囲のハイドロタルサイト(粉体)を天然ゴムに添加後昆練、または、ハイドロタルサイトの水溶液に浸漬処理することにより天然ゴム中に十分に浸透させることにより、並びに、乾燥工程後のドライプリブレイカーのビスケットに、ハイドロタルサイトを配合することにより製造することができる。なお、乾燥工程後の「ドライプリブレイカー」とは、ゴムを混練する押出機を意味する。
上記昆練時間は、天然ゴムの種類、重量及び含水量等により変動するものであり、例えば、含水率0.5%のUSSの場合、少なくとも0.5分?1時間であり、また、浸漬処理の場合、浸漬時間としては、天然ゴムの種類、重量及び含水量等により変動するものであり、例えば、充分に乾燥処理した含水率1%以下のUSSで、少なくとも12時間?2日であり、上記ドライプリブレイカーでは、浸漬処理が必要でないため、効率的に生産が可能である。
好ましくは、更なる効率的な生産の点から、天然ゴムの乾燥工程後のドライプリブレイカーのビスケットに、ハイドロタルサイトを投入することが好ましい。
【0017】
本発明の消臭天然ゴム組成物では、天然ゴムに上記濃度範囲の消臭効果を有するハイドロタルサイトが配合されているので、天然ゴム中のゴム臭気の原因物質である揮発性脂肪酸等を選択的に吸着して、該物質起因の天然ゴムのゴム臭が抑制されることとなり、また、素練り時のゴム臭も低減されることとなる。上記濃度範囲の消臭効果を有するハイドロタルサイトを配合した消臭天然ゴム組成物では、各ゴム配合剤を添加して素練りした配合ゴムの加硫成型後における諸物性は、無添加物と同様であって変化はなく、添加による弊害はないものである。
天然ゴムの臭気発生原因は、天然ゴムに非ゴム成分として含まれるタンパク質の分解、脂肪酸の分解、若しくは成分間相互の反応等が挙げられている。しかし、明確な発生メカニズムは未だ解明されていないのが現状である。本発明者の検討によれば、天然ゴム製造工程における乾燥時に発生する臭気はハイドロタルサイトにより抑制できることが新規に判明したのである。
【0018】
本発明の消臭天然ゴム組成物では、天然ゴムに消臭効果を有するハイドロタルサイトが配合されているので、天然ゴムの臭気発生が抑制されることとなる。また、本発明の消臭天然ゴム組成物の製造方法では、天然ゴム製造工程において、乾燥前に、天然ゴムにハイドロタルサイトを分散混合処理、または、天然ゴムをハイドロタルサイトの水溶液に浸漬処理、若しくは、乾燥工程後のドライプリブレイカーに、ハイドロタルサイトを投入するだけで、天然ゴムの臭気発生が抑制される消臭天然ゴム組成物を製造することができることとなる。」

イ.甲1に記載された発明
上記ア.の記載事項(特に下線部)からみて、甲1には、
「天然ゴムラテックスの凝固物に消臭剤としてのハイドロタルサイトを配合する消臭天然ゴム組成物の製造方法であって、天然ゴム100質量部に対して0.05?10質量%のハイドロタルサイトを配合する天然ゴム組成物の製造方法。」
に係る発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものといえる。

(2)甲2に記載された事項
甲2には、申立人が申立書第5頁第17行?第6頁第3行で主張するとおりの事項に加えて、以下の事項が記載されている。(なお、摘示の中の下線は、当審が付した。)

(b-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
易酸化性熱可塑性樹脂、遷移金属触媒及び臭気吸収剤を含む酸素吸収性樹脂組成物であって、臭気吸収剤がヒドラジン誘導体を含むことを特徴とする酸素吸収性樹脂組成物。
【請求項2】
該ヒドラジン誘導体がアミノグアニジン誘導体、ヒドラジン複塩から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の酸素吸収性組成物。
【請求項3】
酸素吸収性樹脂組成物がさらに光増感剤を含有する請求項1または2記載の酸素吸収性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1?3のいずれかに記載の酸素吸収性樹脂組成物からなる脱酸素性のシートまたはフィルム。」

(b-2)
「【技術分野】
【0001】
本発明は酸素吸収性の樹脂組成物に関する。本発明の酸素吸収性の樹脂組成物は、脱酸素剤または酸素吸収性容器の全体もしくは一部に使用することができる。」

(b-3)
「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、酸化に伴い生成する臭気性成分の発生を抑制し、かつ実用上、充分な速度で酸素吸収が可能な酸素吸収性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、酸素吸収性樹脂組成物について研究を進めた結果、ヒドラジン誘導体を含む臭気抑制剤を酸素吸収性樹脂組成物中に分散させることにより、酸化に伴い生成する臭気性有機成分の発生を抑制し、かつ実用上、充分な速度で酸素吸収が可能な樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。」

(b-4)
「【0016】
本発明の酸素吸収性樹脂組成物に用いられる易酸化性熱可塑性樹脂には、炭素と炭素が二重結合で結合した部分を有する有機高分子化合物、第3級炭素原子に結合した水素原子を有する有機高分子化合物、ベンジル基を有する有機高分子化合物を用いることができる。炭素と炭素が二重結合で結合した部分を有する有機高分子化合物における炭素-炭素二重結合は高分子の主鎖にあっても良いし、側鎖にあっても良い。代表例として1,4-ポリブタジエン、1,2-ポリブタジエン、1,4-ポリイソプレン、3,4-ポリイソプレン、スチレンブタジエンゴム、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、エチレン/アクリル酸メチル/アクリル酸シクロヘキセニルメチル共重合体等が挙げられる。また、第3級炭素原子に結合した水素原子を有する有機高分子化合物として、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等が挙げられる。ベンジル基を有する有機高分子化合物として水添スチレンブタジエンゴム、水添スチレンイソプレンゴム等が挙げられる。これらのうち好ましくは、炭素と炭素が二重結合で結合した部分を有する有機高分子化合物、より好ましくは、1,2-ポリブタジエンである。」

(b-5)
「【0020】
臭気吸収剤は、易酸化性熱可塑性樹脂から発生する臭気性成分を化学的または物理的に固定する化合物である。本発明において用いられる臭気吸収剤は、ヒドラジン誘導体を必須成分とし、好ましくはヒドラジン誘導体を担体に担持させて用いられる。担体の種類は、特に限定されないが、ゼオライト、珪藻土、ケイ酸カルシウム類などを用いることができる。担体に担持させるヒドラジン誘導体の量は、0.001?30mmol/g-担体が好ましく、0.01?10mmol/g-担体が特に好ましい。
臭気吸収剤の配合割合は、易酸化性熱可塑性樹脂に対して、0.01?50wt%が好ましく、0.1?10wt%が特に好ましい。
【0021】
ヒドラジン誘導体とは、ヒドラジン、またはフェニルヒドラジンとそれらの誘導体、セミカルバジド、ヒドラジドとその誘導体などのN-NH2基を有する有機物である。具体的には、ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、硫酸アルミニウムヒドラジン複塩、カルバジン酸、ホルモヒドラジド、1,5-ジフェニルカルボノヒドラジド、イソプロピルヒドラジン硫酸塩、tert-ブチルヒドラジン塩酸塩、1-アミノピロリジン、硫酸アミノグアニジン、塩酸アミノグアニジン、重炭酸アミノグアニジン、ジアミノグアニジン塩酸塩、硝酸トリアミノグアニジン、グアニジン、尿素、チオ尿素、エチレン尿素、メラミン、アセトヒドラジド、ベンゾヒドラジド、ペンタノヒドラジド、シクロヘキサンカルボヒドラジド、ベンゼンスルホノヒドラジド、チオベンゾヒドラジド、ペンタンイミドヒドラジド、ベンゾヒドラゾノヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカンジオヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、プロピオン酸ヒドラジド、サリチル酸ヒドラジド、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジド、ベンゾフェノンヒドラゾン、アミノポリアクリルアミド、4,4-ジメチル-1-フェニルセミカルバジド、4-アミノ-1,2,4-トリアゾールが好ましい例として挙げられ、これらの中でも硫酸アルミニウムヒドラジン複塩、硫酸アミノグアニジン、塩酸アミノグアニジンが特に好ましい。
【0022】
アミノグアニジン誘導体とはグアニジン構造を有する下記構造式(1)で示されるヒドラジン誘導体またはその塩であり、硫酸アミノグアニジン、塩酸アミノグアニジンなどが、その例として挙げられる。
・・(中略)・・
【0026】
本発明の臭気吸収剤は、アルデヒド類の吸収に関して、特に顕著な効果を有する。
【0027】
本発明の酸素吸収性樹脂組成物は、易酸化性熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物、遷移金属触媒を含む樹脂組成物、及び、ヒドラジン誘導体を含む臭気吸収剤を配合した易酸化性熱可塑性樹脂を溶融状態で混合することによって、製造できる。あるいは、易酸化性熱可塑性樹脂および遷移金属触媒を含む樹脂組成物と、ヒドラジン誘導体を含む臭気吸収剤を配合した易酸化性熱可塑性樹脂を溶融状態で混合することによって、製造できる。」

(3)甲3に記載された事項
甲3には、申立人が申立書第6頁第5行?第8行で主張するとおりの、アミノグアニジン塩酸塩などのアミノグアニジン塩及び/又はヒドラジド化合物がアルデヒド系ガスの吸収剤として有用であることが記載されている。

(4)甲4に記載された事項
甲4には、申立人が申立書第6頁第10行?第12行で主張するとおりの、ゴムラテックスを分散させた水溶液に、クエン酸を含む水溶液を注入してゴムラテックスを凝集させる処理方法が記載されている。

3.検討

(1)本件発明3について

ア.対比
本件発明3と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「天然ゴムラテックスの凝固物に消臭剤・・を配合する」は、本件発明における「アミノグアニジン化合物」が、臭気抑制、すなわち消臭を目的とする剤として使用されていることが明らかであるから、本件発明3における「天然ゴムラテックスの凝固物と・・化合物とを混合する工程を有し」に相当すると共に、甲1発明における「消臭天然ゴム組成物の製造方法」は、実質的に天然ゴムの臭気を消す、すなわち臭気を抑制する方法であることは明らかであるから、本件発明3における「天然ゴムの・・臭気抑制方法」に相当する。
してみると、本件発明3と甲1発明とは、
「少なくとも天然ゴムラテックスの凝固物と化合物とを混合する工程を有する天然ゴムの臭気抑制方法。」
の点で一致し、下記の点で相違するものと認められる。

相違点1:「天然ゴムラテックスの凝固物」と共に使用する「化合物」につき、本件発明3では、「アミノグアニジン化合物」であり、「前記アミノグアニジン化合物が、アミノグアニジンの重炭酸塩または塩酸塩である」のに対して、甲1発明では、「消臭剤としてのハイドロタルサイト」である点
相違点2:本件発明3は、「天然ゴムの恒粘度化および臭気抑制方法」であるのに対して、甲1発明は、「消臭天然ゴム組成物の製造方法」であり、「恒粘度化(方法)」に係る特定がない点

イ.検討

(ア)相違点1について
上記相違点1につき検討すると、甲1にも記載されている(摘示(a-3)参照)とおり、当業界において、天然ゴム又はその凝固物につき素練りなどの工程に付す場合、酢酸やプロピオン酸などの低級脂肪酸類、アルデヒド類、ピラジン類やピロール類等の窒素環状化合物、アンモニア等の臭気物が発生することが周知であり、甲1発明は、天然ゴムの凝固物に対して、ハイドロタルサイトを消臭剤として添加し臭気の発生を抑制しようとするものであるところ、また、ハイドロタルサイトは、塩基性フィラーでもあり、使用量が大きすぎるとゴム製品物性に影響が出るものである(摘示(a-6)参照)。
一方、甲2にも記載されているとおり、塩酸アミノグアニジン等のアミノグアニジン誘導体を包含するヒドラジン誘導体である臭気吸収剤が、一般的に「ゴム」と呼称される「1,4-ポリイソプレン、3,4-ポリイソプレン等の炭素と炭素が二重結合で結合した部分を有する有機高分子化合物などの易酸化性熱可塑性樹脂」という天然ゴムと化学構造上も類似する樹脂が発する臭気物であるアルデヒド類に対して顕著な効果を奏するものであることが開示されており(摘示(b-5)【0026】)、当該化合物は、「ゴム」に対してフィラーとして機能するものでないことが当業者に自明であるから、甲1発明において、アルデヒド類などの臭気物を吸収し発生を抑制するとともに、フィラーとして機能することを防止するために、上記甲2に開示された技術に基づき、消臭剤としてのハイドロタルサイトに代えて塩酸アミノグアニジン等のアミノグアニジン誘導体を使用し、本件発明3の「天然ゴムの臭気抑制方法」を構成すること、すなわち相違点1は、当業者が適宜なし得ることである。

(イ)相違点2について
上記相違点2につき、甲1及び甲2ないし甲4の記載を検討しても、天然ゴム(凝固物)の経時的な粘度の変化を抑制すること、すなわち「恒粘度化」を図ることを想起し得る技術事項が記載ないし示唆されておらず、甲1発明において、甲1ないし甲4に記載された事項を組み合わせたとしても、「天然ゴムの恒粘度化方法」に至る動機が存するものとは認められない。
してみると、上記相違点2は、甲1発明において、当業者が適宜なし得ることということはできない。

ウ.小括
したがって、本件発明3は、甲1発明及び甲2ないし4に開示された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(2)本件発明4及び5について
本件発明3を引用する本件発明4及び5につき併せて検討すると、上記(1)で示したとおりの理由により、本件発明3が、甲1発明及び甲2ないし4に開示された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないのであるから、本件発明4及び5についても、甲1発明及び甲2ないし4に開示された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

4.当審の判断のまとめ
以上のとおり、本件発明3ないし5に対する申立人が主張する取消理由は、いずれも理由がない。
(よって、当審は、本件発明3ないし5に対しては、取消理由を通知しなかった。)

第7 むすび
以上のとおりであるから、本件の請求項3ないし5に係る発明についての特許につき、取り消すことはできない。
また、本件の請求項1及び2に係る発明についての特許に対する異議の申立ては、不適法なものであり、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】
少なくとも天然ゴムラテックスの凝固物とアミノグアニジン化合物とを混合する工程を有し、
前記アミノグアニジン化合物が、アミノグアニジンの重炭酸塩または塩酸塩であることを特徴とする天然ゴムの恒粘度化および臭気抑制方法。
【請求項4】
前記天然ゴムラテックスの凝固物とアミノグアニジン化合物とを混合する工程よりも前に、前記天然ゴムラテックスの凝固物とクエン酸水溶液とを接触させる工程を有する請求項3に記載の天然ゴムの恒粘度化および臭気抑制方法。
【請求項5】
前記アミノグアニジン化合物の配合量が、前記天然ゴムラテックスの凝固物100質量部に対して0.01質量部以上であることを特徴とする請求項3または4に記載の天然ゴムの恒粘度化および臭気抑制方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-02-02 
出願番号 特願2013-262017(P2013-262017)
審決分類 P 1 651・ 832- YAA (C08L)
P 1 651・ 121- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小森 勇  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 橋本 栄和
岡崎 美穂
登録日 2016-11-11 
登録番号 特許第6036673号(P6036673)
権利者 横浜ゴム株式会社
発明の名称 天然ゴムを含有するゴム組成物および天然ゴムの恒粘度化および臭気抑制方法  
代理人 野田 茂  
代理人 野田 茂  

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